(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0014】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0015】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことはいうまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0016】
以下、代表的な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0017】
さらに、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見やすくするためにハッチングを省略する場合もある。
【0018】
(実施の形態1)
<半導体装置の構造>
実施の形態1の半導体装置は、電界効果トランジスタを有する半導体装置であり、電界効果トランジスタとして高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)を有する半導体装置である。
【0019】
図1は、実施の形態1の半導体装置の要部断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態1の半導体装置は、電界効果トランジスタとしてのHEMTであるトランジスタTR1を備えている。トランジスタTR1は、基板SUBと、基板SUB上に形成されたバッファ層BUFと、バッファ層BUF上に形成された窒化物半導体層からなるチャネル層CHと、チャネル層CH上に形成された窒化物半導体層からなるバリア層BRとを有する。また、トランジスタTR1は、バリア層BR上に形成された窒化物半導体層からなる拡散防止層DB1を有する。
【0021】
さらに、トランジスタTR1は、拡散防止層DB1上に、互いに離れて形成されたソース電極SEおよびドレイン電極DEを有する。そして、トランジスタTR1は、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上に、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れて形成された、窒化物半導体層からなるキャップ層CPを有する。また、トランジスタTR1は、キャップ層CP上に形成されたゲート電極GEを有する。
【0022】
つまり、本実施の形態1の半導体装置では、バリア層BRとキャップ層CPとの間に、拡散防止層DB1が介在する。また、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのそれぞれと、バリア層BRとの間に、拡散防止層DB1が介在する。
【0023】
基板SUBは、例えばシリコン(Si)からなる半導体基板(単結晶シリコン基板)である。基板SUBの材質については、上層に形成される窒化物半導体層が、所望の特性を得るために必要な結晶性を有していればよく、特に限定されない。したがって、基板SUBとして、例えばサファイア基板、炭化シリコン(SiC)基板または窒化ガリウム(GaN)基板などを用いることができる。
【0024】
基板SUB上には、バッファ層BUFが形成されている。バッファ層BUFは、基板SUBとチャネル層CHとの格子定数差を緩和するために形成される。例えば、基板SUBを構成するシリコン(Si)とチャネル層CHを構成する窒化ガリウム(GaN)との格子定数差を、バッファ層BUFにより緩和することができる。
【0025】
シリコン(Si)からなる基板SUB上に、直接窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層CHを形成した場合には、チャネル層CHに多くのクラックが発生し、良好なエピタキシャル成長層が得られず、HEMTの作製が難しくなるおそれがある。このため、基板SUBとチャネル層CHとの間に、格子緩和を目的としたバッファ層BUFを挿入する。バッファ層BUFを形成したことにより、バッファ層BUF上に形成されるチャネル層CHに良好なエピタキシャル成長層が得られ、HEMTの作製が容易となる。
【0026】
バッファ層BUFの材質については、バッファ層BUFの上層に形成される窒化物半導体層であるチャネル層CH、バリア層BRおよび拡散防止層DB1が、所望の特性を得るために必要な結晶性を有していればよく、特に限定されない。したがって、バッファ層BUFとして、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)もしくは窒化アルミニウム(AlN)からなる窒化物半導体層、または、これらを積層した積層膜などを用いることができる。また、基板SUBが窒化ガリウム基板である場合には、バッファ層BUFを用いなくてもチャネル層CH、バリア層BRおよび拡散防止層DB1の結晶性が保たれるため、基板SUBとチャネル層CHとの間にバッファ層BUFが介在しなくてもよい。
【0027】
バッファ層BUF上には、チャネル層CHが形成されている。チャネル層CHは、窒化物半導体層からなり、好ましくは、窒化ガリウム(GaN)からなる。チャネル層CHを構成する窒化ガリウムは、好ましくは、アンドープの窒化ガリウム、すなわち、n型の導電性およびp型の導電性のいずれをも示さないイントリンシック状態の窒化ガリウム(i−GaN)である。つまり、チャネル層CHを構成する窒化ガリウムの導電型は、n型でもなく、p型でもない。あるいは、チャネル層CHを構成する窒化ガリウムは、n型の半導体でもなく、p型の半導体でもない。また、アンドープの窒化ガリウムには、例えば意図的にドーピングを施さずに成長した窒化ガリウムが含まれる。さらに他の形態として、窒化インジウムガリウム(InGaN)などの窒化物半導体層からなるチャネル層CHを用いることができる。
【0028】
ここで、「半導体がn型の導電性を示す」、「半導体の導電型がn型である」および「n型の半導体である」とは、その半導体における多数キャリアが電子であることを意味する。また、「半導体がp型の導電性を示す」、「半導体の導電型がp型である」および「p型の半導体である」とは、その半導体における多数キャリアが正孔であることを意味する。
【0029】
半導体中にキャリアとして電子と正孔との両者が存在する場合は、電子濃度と正孔濃度との差が、実効的なキャリア濃度となる。本願明細書中では、「多数キャリアが電子である」とは、電子濃度が正孔濃度よりも大きく、かつ、実効的なキャリア濃度が1×10
15cm
−3よりも大きい状態を意味するものとする。また、「多数キャリアが正孔である」とは、正孔濃度が電子濃度よりも大きく、かつ、実効的なキャリア濃度が1×10
15cm
−3よりも大きい状態を意味するものとする。
【0030】
一方、イントリンシック状態とは、電子濃度と正孔濃度がほぼ等しい状態、または、キャリアとしての電子または正孔が発生していない状態を示す。本願明細書中では、イントリンシック状態とは、実効的なキャリア濃度が1×10
15cm
−3以下の状態を意味するものとする。
【0031】
チャネル層CH上には、バリア層BRが形成されている。バリア層BRは、チャネル層CHを構成する窒化物半導体層とは異なる窒化物半導体層からなり、例えばチャネル層CHのバンドギャップと異なるバンドギャップを有する窒化物半導体層からなる。好適には、バリア層BRのバンドギャップは、チャネル層CHのバンドギャップよりも大きい。
【0032】
したがって、チャネル層CHとして窒化ガリウム(GaN)からなる窒化物半導体層を用いるときは、好適には、バリア層BRとして窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる窒化物半導体層を用いることができる。また、チャネル層CHとして窒化インジウムガリウム(InGaN)からなる窒化物半導体層を用いるときは、好適には、バリア層BRとして窒化ガリウムまたは窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層を用いることができる。
【0033】
バリア層BRは、チャネル層CH上に直接接して形成されており、チャネル層CHとバリア層BRとの間には、界面で伝導帯が不連続に変化するヘテロ接合が形成されている。バリア層BRは、電子供給層であり、キャリア発生領域として機能することができる。
【0034】
なお、バリア層BRには、例えばシリコン(Si)などのn型不純物が導入されていてもよい。
【0035】
バリア層BR上には、拡散防止層DB1が形成されている。拡散防止層DB1は、アルミニウム(Al)を含む窒化物半導体層であり、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる窒化物半導体層である。これにより、後述するように、キャップ層CPとしてマグネシウム(Mg)からなるp型不純物が導入された窒化物半導体層を用いるときに、キャップ層CPに導入されたp型不純物がバリア層BRまたはバリア層BRよりも下層に拡散することを抑制することができる。
【0036】
これは、例えば窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層である拡散防止層DB1におけるアルミニウムの組成比の増加に伴って、拡散防止層DB1を構成する窒化アルミニウムガリウムの格子定数が小さくなり、p型不純物であるマグネシウムが拡散しにくくなるためと考えられる。
【0037】
なお、窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層におけるアルミニウムの組成比とは、ガリウムおよびアルミニウムの全原子数に対するアルミニウムの原子数の比率を意味する。
【0038】
拡散防止層DB1にはn型不純物が導入されており、拡散防止層DB1はn型の導電性を示す。すなわち、拡散防止層DB1の導電型はn型であり、拡散防止層DB1は、n型の半導体層である。拡散防止層DB1が例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる場合、拡散防止層DB1には、n型不純物すなわちドナーとして、例えばシリコン(Si)を導入することができる。このような場合、後述するキャップ層CPにp型不純物すなわちアクセプタとしてマグネシウム(Mg)が導入されているときに、キャップ層CPに導入されたp型不純物がバリア層BRまたはバリア層BRよりも下層に拡散することを、さらに抑制することができる。
【0039】
これは、例えば、拡散防止層DB1のうちシリコンが導入された領域において水素が拡散しにくくなり、水素が拡散しにくくなることに伴って、マグネシウムが拡散しにくくなるためと考えられる。すなわち、拡散防止層DB1にn型不純物すなわちドナーが導入されていると、n型不純物が正の電荷を有するために、拡散防止層DB1に水素が入りにくくなり、水素と結合しやすいマグネシウムが水素とともに拡散防止層DB1中を拡散することが抑制されるためと考えられる。
【0040】
また、バリア層BRにn型不純物が導入されているとき、好適には、拡散防止層DB1におけるn型不純物の濃度は、バリア層BRにおけるn型不純物の濃度よりも大きい。これにより、拡散防止層DB1が形成されない場合と比べたときの、キャップ層CPに導入されたp型不純物の拡散を抑制する効果を、より高めることができる。
【0041】
さらに、拡散防止層DB1として窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層を用いることにより、
図12を用いて後述するように、半導体層SLを例えばドライエッチングによりエッチングしてキャップ層CPを形成する際に、拡散防止層DB1の上面で選択性よくエッチングを停止することができる。これにより、ゲート電極GEとドレイン電極DEとの間の領域、および、ゲート電極GEとソース電極SEとの間の領域で、拡散防止層DB1の膜厚が減少することを防止または抑制することができる。そのため、ソース電極SEとゲート電極GEとの間のアクセス抵抗と、ドレイン電極DEとゲート電極GEとのアクセス抵抗が増加することを抑制することができる。
【0042】
好適には、バリア層BRとして窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層を用い、拡散防止層DB1として窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層を用いた場合、拡散防止層DB1におけるアルミニウムの組成比は、バリア層BRにおけるアルミニウムの組成比よりも大きい。あるいは、バリア層BRとして窒化ガリウムからなる窒化物半導体層を用い、拡散防止層DB1として窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層を用いた場合、バリア層BRにおけるアルミニウムの組成比は0となる。つまり、バリア層BRは、好適には、拡散防止層DB1におけるアルミニウムの組成比よりも小さい組成比のアルミニウムを含むか、または、アルミニウムを含まない。
【0043】
これにより、キャップ層CPにp型不純物としてマグネシウム(Mg)が導入されているときに、キャップ層CPに導入されたp型不純物がバリア層BRまたはバリア層BRよりも下層に拡散することをさらに確実に抑制することができる。
【0044】
拡散防止層DB1上には、ソース電極SEおよびドレイン電極DEが形成されている。ソース電極SEおよびドレイン電極DEは、いずれも導電体からなり、例えばチタン(Ti)膜と、チタン膜上に形成された金(Au)膜との積層膜などの金属膜MF2からなる。ソース電極SEおよびドレイン電極DEは、
図1の紙面に略垂直な方向に延在している。ソース電極SEとドレイン電極DEとは、拡散防止層DB1とオーミック接続されている。
【0045】
ソース電極SEとドレイン電極DEとは、互いに離れており、間にゲート電極GEを挟むようにして、それぞれ拡散防止層DB1上の一部の領域に形成されている。つまり、ゲート電極GEとソース電極SEとドレイン電極DEとは、平面視で、互いに離れている。なお、「平面視で」とは、基板SUBの上面に垂直な方向から見た場合を意味する。
【0046】
バリア層BR上に拡散防止層DB1が形成され、拡散防止層DB1上にソース電極SEとドレイン電極DEとが互いに離間して形成されているため、バリア層BR上に拡散防止層DB1を介してソース電極SEとドレイン電極DEとが形成された状態となっている。すなわち、バリア層BRとソース電極SEとの間には拡散防止層DB1が介在し、バリア層BRとドレイン電極DEとの間には拡散防止層DB1が介在する。
【0047】
ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上には、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れてキャップ層CPが形成されている。すなわち、バリア層BR上には、拡散防止層DB1を介してキャップ層CPが形成されており、バリア層BRとキャップ層CPとの間には、拡散防止層DB1が介在する。キャップ層CPの詳細については、後述する。
【0048】
キャップ層CP上には、ゲート電極GEが形成されている。ゲート電極GEは、導電体からなり、例えばニッケル(Ni)膜と、ニッケル膜上に形成された金(Au)膜との積層膜などの金属膜からなる。ゲート電極GEは、
図1の紙面に略垂直な方向に延在している。
【0049】
ゲート電極GEは、平面視で、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に位置している。すなわち、平面視で、ゲート電極GEは、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に挟まれている。つまり、互いに離間したソース電極SEとドレイン電極DEとが、バリア層BR上に拡散防止層DB1を介して形成されており、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれたバリア層BR上に、拡散防止層DB1およびキャップ層CPを介してゲート電極GEが形成されている。
【0050】
ゲート電極GEは、好適には、キャップ層CPとショットキー接続されている。これにより、ショットキー障壁を越えてゲート電極GEとキャップ層CPとの間で電流が流れにくくなるため、ゲートリーク電流を低減することができる。
【0051】
本実施の形態1では、キャップ層CPにはp型不純物が導入されており、キャップ層CPはp型の導電性を示す。すなわち、キャップ層CPの導電型はp型であり、キャップ層CPは、p型の半導体層である。キャップ層CPおよびバリア層BRのそれぞれの膜厚および不純物濃度を調整することによって、半導体装置を、ノーマリオフ型のHEMTすなわち電界効果トランジスタとして動作させることができる。
【0052】
好適には、キャップ層CPは、窒化ガリウム(GaN)からなるp型の窒化物半導体層であり、キャップ層CPには、p型不純物として、例えばマグネシウム(Mg)が導入されている。
【0053】
また、好適には、キャップ層CPは、アルミニウム(Al)を含むp型の窒化物半導体層であり、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる窒化物半導体層である。この場合も、キャップ層CPには、p型不純物として、例えばマグネシウム(Mg)が導入されている。窒化ガリウムからなるキャップ層CPがアルミニウム(Al)を含むことにより、拡散防止層DB1の場合と同様に格子定数が小さくなり、p型不純物であるマグネシウムが拡散しにくくなるため、熱処理の際にバリア層BRにp型不純物が拡散することを防止することができる。
【0054】
さらに好適には、アルミニウムを含むキャップ層CPにおけるアルミニウムの組成比が、キャップ層CPとゲート電極GEとの界面IF1からキャップ層CPと拡散防止層DB1との界面IF2に向かって増加している。これにより、キャップ層CPのうち、拡散防止層DB1すなわちバリア層BRに近い部分において、p型不純物としてのマグネシウムが拡散しにくくなるので、熱処理の際にバリア層BRにp型不純物が拡散することをより確実に防止することができる。
【0055】
<キャップ層の第1変形例>
図2は、実施の形態1の第1変形例における半導体装置の要部断面図である。
【0056】
本第1変形例の半導体装置は、p型不純物として例えばマグネシウム(Mg)が導入された、実施の形態1におけるキャップ層CPに代え、p型不純物として炭素(C)が導入されたキャップ層CP1を有する点で、
図1を用いて前述した実施の形態1の半導体装置と異なる。一方、キャップ層CP1以外の各部分については、実施の形態1の半導体装置における各部分と同様である。
【0057】
キャップ層CP1は、実施の形態1におけるキャップ層CPと同様に、例えば窒化ガリウム(GaN)または窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる窒化物半導体層であり、p型の半導体層である。そして、前述したように、キャップ層CP1には、p型不純物として炭素(C)が導入されている。
【0058】
窒化物半導体層中の炭素(C)の拡散係数(以下、単に炭素の拡散係数という)は、窒化物半導体層中のマグネシウム(Mg)の拡散係数(以下、単にマグネシウムの拡散係数ともいう)よりも小さい。そのため、p型不純物としてマグネシウムに代え炭素を用いることにより、熱処理の際にバリア層BRにp型不純物が拡散することをより確実に防止することができる。
【0059】
なお、本第1変形例では、マグネシウムの拡散係数よりも小さい拡散係数を有するp型不純物として、炭素を例示して説明した。しかし、このようなp型不純物としては、マグネシウムの拡散係数よりも小さい拡散係数を窒化物半導体層中で有し、キャップ層を構成する窒化物半導体層がp型の導電性を示すものであればよく、炭素に限定されない(後述する第2変形例および第3変形例においても同様)。
【0060】
<キャップ層の第2変形例>
図3は、実施の形態1の第2変形例における半導体装置の要部断面図である。
【0061】
本第2変形例の半導体装置は、実施の形態1におけるキャップ層CPに代え、キャップ層CP2が形成されている点で、
図1を用いて前述した実施の形態1の半導体装置と異なる。キャップ層CP2以外の各部分については、実施の形態1の半導体装置における各部分と同様である。
【0062】
キャップ層CP2は、キャップ層CP21およびキャップ層CP22を含む。キャップ層CP21は、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上に形成されている。キャップ層CP22は、キャップ層CP21上に形成されている。キャップ層CP22上には、ゲート電極GEが形成されている。つまり、キャップ層CP2は、下層としてのキャップ層CP21と、上層としてのキャップ層CP22との2層のキャップ層が積層されたものである。
【0063】
キャップ層CP21およびキャップ層CP22、すなわちキャップ層CP2は、実施の形態1におけるキャップ層CPと同様に、例えば窒化ガリウム(GaN)または窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる窒化物半導体層であり、p型の半導体層である。キャップ層CP21には、p型不純物として炭素(C)が導入されている。また、キャップ層CP22には、p型不純物として、マグネシウム(Mg)が導入されている。
【0064】
第1変形例において前述したように、炭素の拡散係数は、マグネシウムの拡散係数よりも小さい。そのため、マグネシウムの拡散係数よりも小さい拡散係数を有する炭素が導入されたキャップ層CP21を、キャップ層CP2のうち下層、すなわち、拡散防止層DB1に接するように配置することにより、熱処理の際にバリア層BRにp型不純物が拡散することをより確実に防止することができる。
【0065】
<キャップ層の第3変形例>
図4は、実施の形態1の第3変形例における半導体装置の要部断面図である。また、
図5は、キャップ層中における不純物の濃度の深さ方向の分布を模式的に示すグラフである。
図5の横軸は、界面IF1と界面IF2との間の深さ位置を示し、
図5の左の縦軸は、マグネシウム(Mg)の濃度を示し、
図5の右の縦軸は、炭素(C)の濃度を示す。
【0066】
本第3変形例の半導体装置は、実施の形態1におけるキャップ層CPに代え、キャップ層CP3が形成されている点で、
図1を用いて前述した実施の形態1の半導体装置と異なる。キャップ層CP3以外の各部分については、実施の形態1の半導体装置における各部分と同様である。
【0067】
キャップ層CP3は、実施の形態1におけるキャップ層CPと同様に、例えば窒化ガリウム(GaN)または窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる窒化物半導体層であり、p型の半導体層である。キャップ層CP3には、p型不純物としてマグネシウム(Mg)および炭素(C)が導入されている。
図5に示すように、キャップ層CP3におけるマグネシウム(Mg)の濃度が、キャップ層CP3とゲート電極GEとの界面IF1からキャップ層CP3と拡散防止層DB1との界面IF2に向かって減少している。また、キャップ層CP3における炭素(C)の濃度が、キャップ層CP3とゲート電極GEとの界面IF1からキャップ層CP3と拡散防止層DB1との界面IF2に向かって増加している。
【0068】
そのため、キャップ層CP3におけるマグネシウムの濃度は、キャップ層CP3とゲート電極GEとの界面IF1で最も大きくなり、キャップ層CP3と拡散防止層DB1との界面IF2で最も小さくなる。一方、キャップ層CP3における炭素の濃度は、キャップ層CP3とゲート電極GEとの界面IF1で最も小さくなり、キャップ層CP3と拡散防止層DB1との界面IF2で最も大きくなる。
【0069】
そして、キャップ層CP3におけるマグネシウムの濃度に対する炭素の濃度の比率は、キャップ層CP3とゲート電極GEとの界面IF1からキャップ層CP3と拡散防止層DB1との界面IF2に向かって増加する。すなわち、キャップ層CP3におけるマグネシウムの濃度に対する炭素の濃度の比率は、キャップ層CP3とゲート電極GEとの界面IF1で最も小さくなり、キャップ層CP3と拡散防止層DB1との界面IF2で最も大きくなる。
【0070】
また、好適には、
図5に示すように、キャップ層CP3のうち下層の部分であるキャップ層CP31では、炭素の濃度がマグネシウムの濃度よりも大きく、キャップ層CP3のうち上層の部分であるキャップ層CP32では、炭素の濃度がマグネシウムの濃度よりも小さい。このとき、キャップ層CP31は、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上に形成され、キャップ層CP32は、キャップ層CP31上に形成されていることになる。また、キャップ層CP32上には、ゲート電極GEが形成されていることになる。
【0071】
第1変形例において前述したように、炭素の拡散係数は、マグネシウムの拡散係数よりも小さい。そのため、キャップ層CP3のうち拡散防止層DB1に接する部分において、マグネシウムの拡散係数よりも小さい拡散係数を有する炭素の濃度を最も大きくすることにより、熱処理の際にバリア層BRにp型不純物が拡散することをより確実に防止することができる。
【0072】
<半導体装置の動作>
次に、本実施の形態1の半導体装置の動作について説明する。ここでは、キャップ層CPを形成することで、ノーマリオフ型デバイスとして動作する点について説明する。
【0073】
図1に示す、HEMTとしてのトランジスタTR1においては、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍に、2次元電子ガス2DEGが形成される。すなわち、チャネル層CHを構成する例えば窒化ガリウム(GaN)のバンドギャップと、バリア層BRを構成する例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)のバンドギャップとは、相違している。このため、バンドギャップの相違に基づく伝導帯オフセットと、バリア層BRに存在するピエゾ分極と自発分極の影響により、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍に、フェルミ準位よりも低いポテンシャル井戸が形成される。その結果、このポテンシャル井戸内に電子が蓄積され、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍に2次元電子ガス2DEGが形成されるのである。
【0074】
ソース電極SEとドレイン電極DEとは、それぞれ、2次元電子ガス2DEGに電気的に接続されている。なお、
図1において、2次元電子ガス2DEGは、破線で模式的に示してある。
【0075】
ここで、
図1に示されるHEMTとしてのトランジスタTR1では、p型のキャップ層CPがゲート電極GEの下に形成されているため、閾値電圧を正、つまりノーマリオフ型デバイスにすることができる。
【0076】
キャップ層CPがなくバリア層BRの上に直接接してゲート電極GEが形成された場合、閾値電圧が負、つまりノーマリオン型デバイスになる。しかしながら、電力制御用トランジスタなどでは、ノーマリオフ型デバイスであることが求められている。このため、p型のキャップ層CPがゲート電極GEの下に形成された構造を採用することで、ノーマリオフ型デバイスとすることが望ましい。
【0077】
チャネル層CHおよびバリア層BRとして窒化物半導体層を用いた場合、チャネル層CHとバリア層BRとの間の伝導帯の差すなわちオフセットに加え、窒化物半導体層を用いたことによるピエゾ分極と自発分極とにより、ポテンシャル井戸の底のエネルギーが下降する。したがって、キャップ層CPがゲート電極GEの下に形成されていない場合、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍に、底のエネルギーがフェルミ準位よりも低いポテンシャル井戸が形成される。そして、ゲート電極GEに電圧を印加していないときに、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍に2次元電子ガス2DEGが形成される。その結果、HEMTとしての半導体装置がノーマリオン型デバイスになってしまう。
【0078】
一方、
図1に示すように、p型のキャップ層CPがゲート電極GEの下に形成されている場合、チャネル層CHとバリア層BRとの界面に発生するピエゾ分極を、キャップ層CPと拡散防止層DB1との界面などに発生するピエゾ分極により相殺することができるため、キャップ層CPの下で、バリア層BRの伝導帯のエネルギーが上昇する。また、キャップ層CPにドープされたアクセプタ(p型不純物)により発生する負の空間電荷により、キャップ層CPの伝導帯のエネルギーが上昇し、それに引きずられてバリア層BRの伝導帯のエネルギーも上昇する。その結果、ゲート電極GEに電圧を印加していないときに、ゲート電極GEの下のチャネル層CHに、2次元電子ガス2DEGが形成されないようにすることができる。これにより、本実施の形態1の半導体装置であるトランジスタTR1を、ノーマリオフ型デバイスとすることができる。
【0079】
<半導体装置の製造方法>
次に、本実施の形態1の半導体装置の製造方法について説明する。
【0080】
図6〜
図14は、実施の形態1の半導体装置の製造工程中の要部断面図である。
【0081】
まず、
図6に示すように、例えば、(111)面が露出しているシリコンからなる半導体基板である基板SUB上に、例えば有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法により、複数の半導体層を積層する。
【0082】
まず、基板SUB上に、アンドープの窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層BUFを形成する。このバッファ層BUFの膜厚は、例えば1μm程度とすることができる。
【0083】
次に、バッファ層BUF上に、例えばアンドープの窒化ガリウム(GaN)からなる窒化物半導体層であるチャネル層CHを、エピタキシャル成長により形成する。このチャネル層CHの膜厚は、例えば1μm程度とすることができる。
【0084】
次に、チャネル層CH上に、例えばアンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる窒化物半導体層であるバリア層BRを、エピタキシャル成長により形成する。バリア層BRの膜厚は、例えば14.5nm程度とすることができる。
【0085】
次に、バリア層BR上に、例えばn型不純物が導入された窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる窒化物半導体層である拡散防止層DB1を、エピタキシャル成長により形成する。拡散防止層DB1の膜厚は、例えば3nm程度とすることができる。
【0086】
次に、拡散防止層DB1上に、例えばp型不純物が導入された窒化ガリウム(p型GaN)からなる窒化物半導体層である半導体層SLを形成する。半導体層SLは、キャップ層CP(
図1参照)となるものである。半導体層SLの膜厚は、例えば32nm程度とすることができる。また、p型不純物として、例えばマグネシウム(Mg)を用いることができ、この場合、例えばマグネシウムを含む原料ガスを用いたMOCVD法により半導体層SLを形成することができる。
【0087】
このようにして、基板SUB上に、バッファ層BUF、チャネル層CH、バリア層BR、拡散防止層DB1および半導体層SLからなる半導体層構造が形成される。この半導体層構造は、[0001]結晶軸(C軸)方向に積層するIII族面成長により形成される。
【0088】
上述した半導体層構造を構成する各半導体層には、自発分極とピエゾ分極とに基づいて、各半導体層の上下界面に分極電荷が発生している。分極電荷の極性は、III族面成長の場合、表面側が負極性であり、裏面側が正極性である。
【0089】
なお、
図7に示すように、拡散防止層DB1を形成した後、例えば炭素(C)を含む原料ガスを用いたMOCVD法によりp型不純物が導入された窒化ガリウム(p型GaN)からなる半導体層SL1を形成することができる。このような方法により、
図7に示すように、拡散防止層DB1上に、半導体層SL(
図6参照)に代え、実施の形態1の第1変形例における半導体装置のキャップ層CP1(
図2参照)となる半導体層SL1を形成することができる。
【0090】
また、
図8に示すように、拡散防止層DB1を形成した後、例えば炭素(C)を含む原料ガスを用いたMOCVD法によりp型GaNからなる半導体層SL21を形成し、次に、例えばマグネシウム(Mg)を含む原料ガスに切り替えてMOCVD法によりp型GaNからなる半導体層SL22を形成することができる。このような方法により、
図8に示すように、拡散防止層DB1上に、半導体層SL(
図6参照)に代え、実施の形態1の第2変形例における半導体装置のキャップ層CP2(
図3参照)となる半導体層SL2を形成することができる。半導体層SL2は、p型不純物として炭素が導入された半導体層SL21と、p型不純物としてマグネシウムが導入された半導体層SL22とからなる。半導体層SL22は、半導体層SL21上に形成される。
【0091】
さらに、
図9に示すように、拡散防止層DB1を形成した後、例えば炭素(C)を含む第1ガスとマグネシウム(Mg)を含む第2ガスとを混合した原料ガスを用いたMOCVD法によりp型GaNからなる半導体層SL3を形成することができる。そして、半導体層SL3の形成の開始時点から終了時点にかけて、第1ガスに対する第2ガスの混合比を増加させることができる。このような方法により、
図9に示すように、炭素の濃度がマグネシウムの濃度よりも大きく、実施の形態1の第3変形例における半導体装置のキャップ層CP31(
図4参照)となる半導体層SL31を、拡散防止層DB1上に形成することができる。また、炭素の濃度がマグネシウムの濃度よりも小さく、実施の形態1の第3変形例における半導体装置のキャップ層CP32(
図4参照)となる半導体層SL32を、半導体層SL31上に形成することができる。そして、半導体層SL31と、半導体層SL32とからなる半導体層SL3を形成することができる。
【0092】
次に、
図10に示すように、半導体層SL上に、金属膜MF1を形成する。金属膜MF1は、例えば、半導体層SL上に形成されたニッケル(Ni)膜と、ニッケル膜上に形成された金(Au)膜とを含む。金属膜MF1は、例えば、蒸着法により形成することができる。
【0093】
次に、金属膜MF1上にレジスト膜を塗布し、このレジスト膜に対して露光・現像処理を施すことにより、レジスト膜をパターニングする。レジスト膜のパターニングは、ゲート電極GE(
図1参照)を形成する領域にレジスト膜が残存するように行われる。そして、パターニングされたレジスト膜をマスクにして、金属膜MF1をエッチングした後、レジスト膜を除去する。
【0094】
これにより、
図11に示すように、半導体層SL上であって、ソース電極SE(
図1参照)を形成する予定の領域と、ドレイン電極DE(
図1参照)を形成する予定の領域との間に、金属膜MF1からなるゲート電極GEを形成する。
【0095】
なお、上記した方法に代え、
図13および
図14を用いて後述する工程と同様の工程を行って、リフトオフ法によりゲート電極GEを形成してもよい。
【0096】
次に、
図12に示すように、ゲート電極GEをマスクにして、半導体層SLをエッチングすることにより、ゲート電極GEの下に半導体層SLからなるp型のキャップ層CPを形成する。すなわち、ゲート電極GEの下方で、かつ、拡散防止層DB1上に、キャップ層CPを形成する。具体的には、半導体層SLのエッチングは、例えば塩素(Cl
2)ガスに酸素(O
2)ガスや六フッ化硫黄(SF
6)ガスを添加したエッチングガスを用いたドライエッチングにより行うことができる。
【0097】
上述のエッチングガスを用いた場合、窒化物半導体層におけるアルミニウムの組成比が大きいほど、その窒化物半導体層のエッチング速度は、小さくなる。本実施の形態1では、拡散防止層DB1におけるアルミニウムの組成比は、バリア層BRにおけるアルミニウムの組成比よりも大きいので、拡散防止層DB1のエッチング速度は、バリア層BRのエッチング速度よりも小さい。
【0098】
したがって、本実施の形態1では、拡散防止層DB1が形成されていない場合に比べ、例えば上述のエッチングガスを用いて半導体層SLをドライエッチングしてキャップ層CPを形成する際に、拡散防止層DB1の上面で選択性よくエッチングを停止することができる。これにより、ゲート電極GEとドレイン電極DEとの間の領域、および、ゲート電極GEとソース電極SEとの間の領域で、拡散防止層DB1の膜厚、および、バリア層BRの膜厚が減少することを防止または抑制することができる。そのため、ソース電極SEとゲート電極GEとの間のアクセス抵抗、およびドレイン電極DEとゲート電極GEとの間のアクセス抵抗が増加することを抑制することができる。
【0099】
次に、拡散防止層DB1上に、ソース電極SE(
図1参照)およびドレイン電極DE(
図1参照)を、例えばリフトオフ法により形成する。
【0100】
まず、ゲート電極GE上すなわちp型のキャップ層CP上を含めて拡散防止層DB1上にレジスト膜PR1(
図13参照)を塗布する。そして、このレジスト膜PR1に対して露光・現像処理を施すことにより、
図13に示すように、レジスト膜PR1をパターニングする。レジスト膜PR1のパターニングは、ソース電極SE(
図1参照)を形成する領域およびドレイン電極DE(
図1参照)を形成する領域で、拡散防止層DB1が露出するように行われる。
【0101】
その後、
図14に示すように、金属膜MF2を形成する。これにより、ソース電極SE(
図1参照)が形成される領域およびドレイン電極DE(
図1参照)が形成される領域においては、拡散防止層DB1上に、直接、金属膜MF2が形成される。一方、その他の領域では、レジスト膜PR1上に金属膜MF2が形成される。このとき、金属膜MF2は、例えば、チタン(Ti)膜と、チタン膜上に形成されたアルミニウム(Al)膜とを含む。この金属膜MF2は、例えば、蒸着法により形成することができる。
【0102】
次に、レジスト膜PR1をリフトオフする。例えば、有機溶剤などを用いて基板SUBの上面を洗浄することで、レジスト膜PR1と、レジスト膜PR1上に形成されている金属膜MF2が除去され、拡散防止層DB1上に直接接触するように形成されている金属膜MF2だけが残存する。これにより、
図1に示すように、拡散防止層DB1と直接接触する金属膜MF2からなるソース電極SEおよびドレイン電極DEを形成することができる。ソース電極SEとドレイン電極DEとは、拡散防止層DB1上に、互いに離れて形成され、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上に、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れてp型のキャップ層CPが形成されることになる。
【0103】
次に、基板SUBに対して、熱処理(アロイ処理)を施すことにより、ソース電極SEとチャネル層CHとを、オーミック接続させる。同様に、この熱処理を施すことにより、ドレイン電極DEとチャネル層CHとを、オーミック接続させる。
【0104】
その後、図示は省略するが、デバイス間の素子分離を図るため、窒素(N)などのイオン注入法により、素子分離領域を形成する。以上のようにして、
図1に示すように、本実施の形態1の半導体装置としてのトランジスタTR1を製造することができる。
【0105】
<拡散防止層が形成されていない場合のノーマリオフ特性について>
図15は、比較例1の半導体装置の要部断面図である。
【0106】
図15に示すように、比較例1の半導体装置も、実施の形態1の半導体装置と同様に、電界効果トランジスタとしてのHEMTであるトランジスタTR100を備えている。トランジスタTR100は、実施の形態1のトランジスタTR1と同様に、基板SUBと、基板SUB上に形成されたバッファ層BUFと、バッファ層BUF上に形成された窒化物半導体層からなるチャネル層CHと、チャネル層CH上に形成された窒化物半導体層からなるバリア層BR100とを有する。バリア層BR100は、実施の形態1におけるバリア層BRと同一である。
【0107】
しかし、トランジスタTR100は、実施の形態1のトランジスタTR1と異なり、バリア層BR100上に形成された窒化物半導体層からなる拡散防止層DB1(
図1参照)を有していない。
【0108】
また、トランジスタTR100は、実施の形態1のトランジスタTR1と異なり、バリア層BR100上に、互いに離れて形成されたソース電極SEおよびドレイン電極DEと、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれたバリア層BR100上に形成されたキャップ層CPとを有する。さらに、トランジスタTR100は、キャップ層CP上に形成されたゲート電極GEを有する。
【0109】
つまり、比較例1の半導体装置では、バリア層BR100とキャップ層CPとの間に、拡散防止層DB1(
図1参照)が介在しない。また、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのそれぞれと、バリア層BR100との間に、拡散防止層DB1(
図1参照)が介在しない。
【0110】
図16は、ゲート電極の下の伝導帯のエネルギー分布の計算結果を示す図である。
図16において、横軸はゲート電極GEからの深さxを示しており、縦軸は、フェルミ準位を0eVとしたときの伝導帯のエネルギーEcを示している。
図16の破線は、比較例1の半導体装置におけるゲート電極GEの下の伝導帯のエネルギー分布の計算結果を示す。また、
図16の実線は、実施の形態1の半導体装置の実施例を実施例1としたとき、実施例1の半導体装置におけるゲート電極GEの下の伝導帯のエネルギー分布の計算結果を示す。なお、
図16は、ゲート電極GEに電圧が印加されていない状態でのエネルギー分布の計算結果を示す。
【0111】
図16における比較例1のエネルギー分布において、深さxが0〜32nmの領域がキャップ層CPに対応し、深さxが32〜49.5nmの領域がバリア層BR100に対応し、深さxが49.5nm以上の領域が、チャネル層CHに対応している。すなわち、キャップ層CPの厚さを32nmとし、バリア層BR100の厚さを17.5nmとしている。また、チャネル層CHの厚さを1μmとしている。
【0112】
ここで、キャップ層CPを窒化ガリウムからなるp型の窒化物半導体層とし、キャップ層CPに導入されたp型不純物が拡散した結果、キャップ層CPにおけるp型不純物すなわちアクセプタの濃度が、拡散前の5×10
18cm
−3から拡散後の2×10
18cm
−3に減少したものと仮定している。また、バリア層BR100を窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層とし、その組成をAl
0.15Ga
0.85N、すなわちアルミニウムの組成比を0.15とし、バリア層BR100におけるn型不純物すなわちドナーの濃度を5×10
17cm
−3としている。さらに、チャネル層CHを窒化ガリウムからなる窒化物半導体層としている。
【0113】
図16に示すように、比較例1のエネルギー分布では、バリア層BR100とチャネル層CHとの界面において、チャネル層CHの伝導帯のエネルギーがフェルミ準位と略等しい0eV付近まで減少する。そのため、ゲート電極GEに電圧を印加していないときに、ゲート電極GEの下でバリア層BR100とチャネル層CHとの界面に2次元電子ガス2DEG(
図15参照)が形成されるおそれがある。すなわち、ソース電極SEとドレイン電極DEとを電気的に接続するチャネルが形成されるおそれがあり、ノーマリオフ特性が得られないおそれがある。
【0114】
これは、キャップ層CPに導入されていたp型不純物としてのマグネシウム(Mg)がキャップ層CPからバリア層BR100に拡散することによりキャップ層CPにおけるp型不純物の濃度が減少し、キャップ層CP内のp型不純物(アクセプタ)による負の空間電荷が減少してキャップ層CPの伝導帯のエネルギーが低下したことにより、バリア層BR100の伝導帯のエネルギーが下降したためと考えられる。
【0115】
電界効果トランジスタとしてのHEMTを備えた半導体装置の製造工程では、例えば、前述したソース電極SEおよびドレイン電極DEをオーミック接続させるためのアニール処理、または、p型不純物を導入した後、活性化するための熱処理など、製造工程中の半導体装置に熱処理が施されることがある。
【0116】
比較例1の半導体装置では、n型のバリア層BR100にp型のキャップ層CPが直接接触している。そのため、製造工程中の熱処理によって、バリア層BR100およびキャップ層CPの各層に導入されていた不純物が拡散して不純物の分布が変化し、所望の特性を得られなくなる場合がある。
【0117】
例えばキャップ層CPに導入されていたp型不純物が拡散すると、例えば窒化ガリウムからなるチャネル層CHと、n型の窒化アルミニウムガリウムからなるバリア層BR100との界面に発生するピエゾ分極を、バリア層BR100とキャップ層CPとの界面に発生するピエゾ分極で相殺できなくなる。さらに、キャップ層CP内のp型不純物による負の空間電荷が減少することでキャップ層CPの伝導帯のエネルギーが低下し、これに引きずられてバリア層BR100の伝導帯のエネルギーも低下する。これにより、キャップ層CPの下で、バリア層BR100の伝導帯のエネルギーが下降し、チャネル層CHとバリア層BR100との界面でのポテンシャル井戸の底のエネルギーがフェルミ準位よりも低くなる。そのため、ゲート電極GEに電圧を印加していないときに、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に電流が流れ、所望のノーマリオフ特性が得られなくなる。
【0118】
さらに、p型のキャップ層CPからバリア層BR100中に拡散してきたp型不純物で、バリア層BR100に導入されていたn型不純物の濃度が補償されることにより、バリア層BR100におけるn型不純物の濃度が減少する。あるいは、p型不純物が拡散するとともに、n型不純物が拡散することにより、バリア層BR100におけるn型不純物の濃度が減少する。これにより、例えばゲート電極GEとドレイン電極DEとの間、または、ゲート電極GEとソース電極SEとの間において、2次元電子ガスとしてのキャリア濃度が減少してオン抵抗が増加する。または、ゲート電極GEの下において、チャネル層CH中に不純物が拡散することによりキャリア移動度が低下する。
【0119】
また、電界効果トランジスタとしてHEMTを備えた半導体装置の製造工程では、キャップ層CPをエッチングにより形成する。バリア層BR100のエッチング速度に対するキャップ層CPのエッチング速度の比、すなわちエッチングの選択比が十分に高い場合を除き、キャップ層CPをエッチングする際にバリア層BR100がエッチングされてバリア層BR100の膜厚が薄くなるおそれがある。このような場合、ソース電極SEまたはドレイン電極DEとゲート電極GEとの間のアクセス抵抗が増加し、半導体装置の性能が低下する。
【0120】
図17は、ドレイン電圧とドレイン電流との関係を示すグラフである。
図17において、横軸はドレイン電圧Vd、すなわち、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に印加される電圧を示しており、縦軸は、ドレイン電流Id、すなわち、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に流れる電流を示している。
図17の破線は、比較例1の半導体装置におけるドレイン電圧Vdとドレイン電流Idとの関係を示す。また、
図17の実線は、実施の形態1の半導体装置の実施例を実施例2としたとき、実施例2の半導体装置におけるドレイン電圧Vdとドレイン電流Idとの関係を示す。
【0121】
図17に示すように、オン状態では、比較例1におけるドレイン電流Idは、実施例2におけるドレイン電流Idよりも小さくなっている。すなわち、比較例1におけるオン抵抗は、実施例2におけるオン抵抗よりも大きくなっており、比較例1における飽和電流は、実施例2における飽和電流よりも小さくなっている。これは、前述したように、半導体層SLをエッチングしてキャップ層CPを形成する際に、バリア層BR100がエッチングされて膜厚が減少したためと考えられる。
【0122】
このように、電界効果トランジスタとしてHEMTを備えた半導体装置の性能を向上させるためには、半導体装置の製造工程において、熱処理によるp型不純物およびn型不純物の拡散を抑制すること、ならびに、エッチングによるバリア層BR100の膜厚の減少を抑制することが重要である。
【0123】
しかし、比較例1の半導体装置では、製造工程において、キャップ層CPとバリア層BR100との間のp型不純物およびn型不純物の拡散、および、バリア層BR100の膜厚の減少を抑制することができず、半導体装置の性能が低下する。
【0124】
<本実施の形態の主要な特徴と効果>
本実施の形態1の半導体装置では、バリア層BRとキャップ層CPとの間に、拡散防止層DB1が介在する。拡散防止層DB1は、アルミニウム(Al)を含有する窒化物半導体層からなる。これにより、製造工程において、キャップ層CPからバリア層BRへのp型不純物の拡散、および、バリア層BRの膜厚の減少を抑制することができる。また、p型不純物の拡散を抑制するとともに、n型不純物の拡散を抑制することができる。これにより、半導体装置の性能を向上させることができる。
【0125】
好適には、拡散防止層DB1は、n型の窒化物半導体層からなる。これにより、製造工程において、キャップ層CPからバリア層BRへのp型不純物の拡散、および、バリア層BRの膜厚の減少をより抑制することができるため、半導体装置の性能をより向上させることができる。
【0126】
さらに好適には、拡散防止層DB1におけるアルミニウムの組成比は、バリア層BRにおけるアルミニウムの組成比よりも大きい。アルミニウムの組成比が大きい場合、アルミニウムの組成比が小さい場合に比べて、キャップ層CPからバリア層BRへのp型不純物の拡散、および、バリア層BRの膜厚の減少を抑制することができるため、半導体装置の性能をさらに向上させることができる。
【0127】
図16における実施例1のエネルギー分布において、深さxが0〜32nmの領域がキャップ層CPに対応し、深さxが32〜35nmの領域が拡散防止層DB1に対応し、深さxが35〜49.5nmの領域がバリア層BRに相当し、深さが49.5nm程度以上の領域が、チャネル層CHに対応している。すなわち、キャップ層CPの厚さを32nmとし、拡散防止層DB1の厚さを3nmとし、バリア層BRの厚さを14.5nmとしている。また、チャネル層CHの厚さを1μmとしている。
【0128】
ここで、キャップ層CPを窒化ガリウム(GaN)からなるp型の窒化物半導体層とし、キャップ層CPにおけるp型不純物の濃度を5×10
18cm
−3としている。また、拡散防止層DB1を窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層とし、その組成をAl
0.20Ga
0.80N、すなわちアルミニウムの組成比を0.20とし、拡散防止層DB1におけるn型不純物すなわちドナーの濃度を5×10
17cm
−3としている。さらに、バリア層BRを窒化アルミニウムガリウムからなる窒化物半導体層とし、その組成をAl
0.15Ga
0.85N、すなわちアルミニウムの組成比を0.15とし、バリア層BRにおけるn型不純物すなわちドナーの濃度を5×10
17cm
−3としている。さらに、チャネル層CHを窒化ガリウムからなる窒化物半導体層としている。
【0129】
実施例1では、キャップ層CPとバリア層BRとの間に、拡散防止層DB1が介在する。そのため、キャップ層CPからのp型不純物であるマグネシウム(Mg)の拡散によりキャップ層CPの不純物濃度が減少することを抑制することができ、
図16に示すように、実施例1のエネルギー分布では、バリア層BRの伝導帯のエネルギーを上昇させることができる。したがって、バリア層BRとチャネル層CHとの界面において、チャネル層CHの伝導帯のエネルギーがフェルミ準位に対して負になることを防止することができる。そして、ゲート電極GEに電圧を印加していないときに、ゲート電極GEの下でバリア層BRとチャネル層CHとの界面に2次元電子ガス2DEG(
図15参照)が形成されることを防止することができる。すなわち、ソース電極SEとドレイン電極DEとを電気的に接続するチャネルが形成されることを防止することができ、ノーマリオフ特性を確実に得ることができ、半導体装置の性能を向上させることができる。
【0130】
なお、
図16において図示は省略するが、比較例1とは別に、キャップ層CP中で、キャップ層CPとゲート電極GEと界面IF1からキャップ層CPと拡散防止層DB1との界面IF2に向かってp型不純物の不純物濃度が段階的に減少していると仮定した計算も行った。例えば、32nmの厚さを有し、窒化ガリウム(GaN)からなるキャップ層CPのうち、界面IF1側の14nmの厚さを有する部分、すなわち深さxが0〜14nmの領域では、キャップ層CPにおけるp型不純物すなわちアクセプタの不純物濃度が2×10
18cm
−3に減少したものと仮定した。一方、32nmの厚さを有するキャップ層CPのうち、界面IF2側の18nmの厚さを有する部分、すなわち深さxが14〜32nmの領域では、キャップ層CPにおけるp型不純物すなわちアクセプタの不純物濃度が5×10
17cm
−3に減少したものと仮定した。キャップ層CP以外の部分については、比較例1と同一の条件とし、エネルギー分布の計算を行った。そして計算された結果を、実施例1の結果と比較した。
【0131】
上記のような計算の結果と比べても、実施例1において、バリア層BRの伝導帯のエネルギーは上昇した。したがって、本実施の形態1によれば、キャップ層CPのうちバリア層BR側の一部からバリア層BRに不純物が拡散する場合に比べても、閾値電圧を正にしてノーマリオフ特性を確実に得ることができ、半導体装置の性能を向上させることができる。
【0132】
本実施の形態1の半導体装置では、n型のバリア層BRにp型のキャップ層CPが直接接触していない。そのため、製造工程中の熱処理によって、バリア層BRおよびキャップ層CPの各層に導入された不純物が拡散して不純物の分布が変化し、所望の特性を得られなくなることを抑制することができる。そして、キャップ層CPのp型不純物が拡散しないので、例えば窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層CHと、n型の窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなるバリア層BRとの界面に発生するピエゾ分極を、キャップ層CPと拡散防止層DB1との界面などに発生するピエゾ分極で相殺することができる。また、キャップ層CPのp型不純物濃度が減少しないので、p型不純物による負の空間電荷が減少しないため、キャップ層CPの伝導帯のエネルギーが低下しない。そのため、キャップ層CPの伝導帯のエネルギーが低下して、それに引きずられてバリア層BRの伝導帯のエネルギーが低下するのを防ぐことができる。したがって、ゲート電極GEに電圧を印加していないときに、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に電流が流れることを防止し、所望のノーマリオフ特性を得ることができる。
【0133】
さらに、バリア層BRに導入されているn型不純物の濃度が、p型のキャップ層CPからバリア層BR中に拡散してきたp型不純物で補償されて減少することを抑制することができる。あるいは、p型不純物が拡散するとともに、n型不純物が拡散することにより、バリア層BRに導入されているn型不純物の濃度が減少することを抑制することができる。これにより、例えばゲート電極GEとドレイン電極DEとの間、または、ゲート電極GEとソース電極SEとの間において、2次元電子ガスとしてのキャリア濃度が減少してオン抵抗が増加することを防止または抑制することができる。また、ゲート電極GEの下において、チャネル層CH中に不純物が拡散することによりキャリア移動度が低下することを防止または抑制することができる。
【0134】
また、本実施の形態1では、半導体層SLをエッチングしてキャップ層CPを形成する際に、バリア層BRがエッチングされて膜厚が減少することを防止することができる。
図17を用いて前述したように、オン状態では、実施例2におけるドレイン電流Idは、比較例1におけるドレイン電流Idよりも大きくなる。すなわち、実施の形態1におけるオン抵抗を、比較例1におけるオン抵抗よりも小さくし、実施の形態1における飽和電流を、比較例1における飽和電流よりも大きくすることができるので、半導体装置の性能を向上させることができる。
【0135】
以上、本実施の形態1によれば、製造工程における熱処理によって、キャップ層CPのp型不純物が拡散することが抑制され、所望のノーマリオフ特性が得られる。また、半導体層SLをエッチングしてキャップ層CPを形成する工程で、バリア層BRの膜厚が減少することが抑制され、アクセス抵抗が増加することを抑制することができる。
【0136】
(実施の形態2)
実施の形態1の半導体装置では、ソース電極およびドレイン電極が、拡散防止層上に形成されていた。それに対して、実施の形態2の半導体装置では、拡散防止層が、ソース電極およびドレイン電極のいずれからも離れて形成されており、ソース電極およびドレイン電極は、バリア層上に直接形成されている。
【0137】
<半導体装置の構造および半導体装置の動作>
図18は、実施の形態2の半導体装置の要部断面図である。
【0138】
図18に示すように、本実施の形態2の半導体装置は、電界効果トランジスタとしてのHEMTであるトランジスタTR2を備えている。トランジスタTR2は、基板SUBと、基板SUB上に形成されたバッファ層BUFと、バッファ層BUF上に形成された窒化物半導体層からなるチャネル層CHと、チャネル層CH上に形成された窒化物半導体層からなるバリア層BRとを有する。
【0139】
本実施の形態2のトランジスタTR2のうち、基板SUB、バッファ層BUF、チャネル層CHおよびバリア層BRのそれぞれは、実施の形態1のトランジスタTR1における基板SUB、バッファ層BUF、チャネル層CHおよびバリア層BRのそれぞれと同一である。そのため、それらについての説明は省略する。
【0140】
また、トランジスタTR2は、バリア層BR上に、互いに離れて形成されたソース電極SEおよびドレイン電極DEと、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれたバリア層BR上に、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れて形成された、窒化物半導体層からなる拡散防止層DB2とを有する。また、トランジスタTR2は、拡散防止層DB2上に形成された窒化物半導体層からなるキャップ層CPと、キャップ層CP上に形成されたゲート電極GEとを有する。
【0141】
本実施の形態2のトランジスタTR2のうち、キャップ層CPおよびゲート電極GEのそれぞれについては、実施の形態1のトランジスタTR1におけるキャップ層CPおよびゲート電極GEのそれぞれと同一であるため、それらについての説明は省略する。また、本実施の形態2のトランジスタTR2のうち、拡散防止層DB2、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのそれぞれの材質については、実施の形態1のトランジスタTR1における拡散防止層DB1、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのそれぞれの材質と同一である。
【0142】
本実施の形態2のトランジスタTR2では、実施の形態1のトランジスタTR1と同様に、バリア層BRとキャップ層CPとの間に、拡散防止層DB2が介在する。拡散防止層DB2は、実施の形態1における拡散防止層DB1と同様に、アルミニウム(Al)を含有する窒化物半導体層からなり、好適には、n型の窒化物半導体層からなる。また、さらに好適には、実施の形態1における拡散防止層DB1と同様に、拡散防止層DB2におけるアルミニウムの組成比は、バリア層BRにおけるアルミニウムの組成比よりも大きい。つまり、バリア層BRは、好適には、拡散防止層DB2におけるアルミニウムの組成比よりも小さい組成比のアルミニウムを含むか、または、アルミニウムを含まない。
【0143】
しかし、本実施の形態2のトランジスタTR2では、実施の形態1のトランジスタTR1とは異なり、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのそれぞれと、バリア層BRとの間に、拡散防止層DB2が介在しない。
【0144】
本実施の形態2のトランジスタTR2では、拡散防止層DB2が、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れている。つまり、拡散防止層DB2は、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれとも接触していない。そのため、ソース電極SEおよびドレイン電極DEとの間に大きな電圧が印加されている場合でも、ゲート電極GEに電圧が印加されていないとき、すなわちトランジスタTR2がオフ状態のときに、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に拡散防止層DB2を介してリーク電流が流れることを防止することができる。したがって、トランジスタTR2の耐圧性を向上させることができる。
【0145】
図19は、実施の形態2の第1変形例における半導体装置の要部断面図である。
図20は、実施の形態2の第2変形例における半導体装置の要部断面図である。
図21は、実施の形態2の第3変形例における半導体装置の要部断面図である。
【0146】
本実施の形態2の第1変形例では、実施の形態1の第1変形例と同様に、半導体装置は、p型不純物として例えばマグネシウム(Mg)が導入されたキャップ層CP(
図18参照)に代え、
図19に示すように、p型不純物として炭素(C)が導入されたキャップ層CP1を有する。一方、キャップ層CP1以外の各部分については、実施の形態2の半導体装置における各部分と同様である。
【0147】
本実施の形態2の第2変形例では、実施の形態1の第2変形例と同様に、半導体装置は、キャップ層CP(
図18参照)に代え、
図20に示すように、キャップ層CP2を有する。キャップ層CP2は、キャップ層CP21およびキャップ層CP22を含む。キャップ層CP21は、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB2上に形成されている。キャップ層CP22は、キャップ層CP21上に形成されている。キャップ層CP22上には、ゲート電極GEが形成されている。キャップ層CP21およびキャップ層CP22の各々は、実施の形態1の第2変形例におけるキャップ層CP21およびキャップ層CP22のそれぞれと同様にすることができる。
【0148】
本実施の形態2の第3変形例では、実施の形態1の第3変形例と同様に、半導体装置は、キャップ層CP(
図18参照)に代え、
図21に示すように、キャップ層CP3を有する。実施の形態1の第3変形例と同様に、キャップ層CP3におけるマグネシウム(Mg)の濃度が、キャップ層CP3とゲート電極GEとの界面IF1からキャップ層CP3と拡散防止層DB2との界面IF2に向かって減少している。また、キャップ層CP3における炭素(C)の濃度が、キャップ層CP3とゲート電極GEとの界面IF1からキャップ層CP3と拡散防止層DB2との界面IF2に向かって増加している。また、実施の形態1の第3変形例と同様に、好適には、キャップ層CP3のうち下層の部分であるキャップ層CP31では、炭素の濃度がマグネシウムの濃度よりも大きく、キャップ層CP3のうち上層の部分であるキャップ層CP32では、炭素の濃度がマグネシウムの濃度よりも小さい。
【0149】
本実施の形態2の第1変形例〜本実施の形態2の第3変形例の各々は、実施の形態1の第1変形例〜実施の形態1の第3変形例のそれぞれと同様の効果を有し、熱処理の際にバリア層BRにp型不純物が拡散することをより確実に防止することができる。
【0150】
本実施の形態2のトランジスタTR2の動作についても、実施の形態1のトランジスタTR1の動作と同様の動作であり、その説明は省略する。しかし、前述したように、本実施の形態2のトランジスタTR2では、オフ状態のときに、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に、拡散防止層DB2を介してリーク電流が流れることを防止することができる。これにより、トランジスタTR2の耐圧性を向上させることができる。
【0151】
<半導体装置の製造方法>
次に、本実施の形態2の半導体装置の製造方法について説明する。
図22および
図23は、実施の形態2の半導体装置の製造工程中の要部断面図である。
【0152】
本実施の形態2の半導体装置の製造方法では、例えば、実施の形態1において
図6および
図10〜
図12を用いて説明した工程と同様の工程を行ってキャップ層CPを形成した後、拡散防止層DB1をパターニングする。なお、
図6を用いて説明した工程に代え、
図7〜
図9を用いて説明した工程を行うこともできる。
【0153】
具体的には、ゲート電極GE上を含めて拡散防止層DB1上に、レジスト膜PR2(
図22参照)を塗布する。そして、このレジスト膜PR2に対して露光・現像処理を施すことにより、
図22に示すように、レジスト膜PR2をパターニングする。レジスト膜PR2のパターニングは、ソース電極SE(
図18参照)を形成する予定の領域およびドレイン電極DE(
図18参照)を形成する予定の領域を含め、拡散防止層DB1を除去する領域が露出するように行われる。
【0154】
その後、パターニングされたレジスト膜PR2をマスクにして、拡散防止層DB1をエッチングして除去することにより、
図23に示すように、パターニングされた拡散防止層DB1からなる拡散防止層DB2を形成する。具体的には、拡散防止層DB1のエッチングは、例えば、塩素(Cl
2)ガスに酸素(O
2)ガスや六フッ化硫黄(SF
6)ガスを添加したエッチングガスを用いたドライエッチングにより行うことができる。その後、レジスト膜PR2を除去する。
【0155】
このとき、拡散防止層DB2が、ソース電極SE(
図18参照)が形成される予定の領域、および、ドレイン電極DE(
図18参照)が形成される予定の領域のいずれの領域からも離れて形成される。
【0156】
次に、バリア層BR上に、ソース電極SE(
図18参照)およびドレイン電極DE(
図18参照)を、例えばリフトオフ法により形成する。このリフトオフ法によりソース電極SEおよびドレイン電極DEを形成する工程として、実施の形態1において
図13および
図14を用いて説明した工程と同様の工程を行うことができる。以上のようにして、
図18に示すように、本実施の形態2のトランジスタTR2を製造することができる。
【0157】
<本実施の形態の主要な特徴と効果>
本実施の形態2の半導体装置では、実施の形態1の半導体装置と同様に、バリア層BRとキャップ層CPとの間に、拡散防止層DB2が介在する。拡散防止層DB2は、アルミニウム(Al)を含有する窒化物半導体層からなり、好適には、n型の窒化物半導体層からなり、さらに好適には、拡散防止層DB2におけるアルミニウムの組成比は、バリア層BRにおけるアルミニウムの組成比よりも大きい。これにより、実施の形態1と同様に、製造工程において、キャップ層CPからバリア層BRへのp型不純物の拡散、および、バリア層BRの膜厚の減少を抑制することができるため、半導体装置の性能を向上させることができる。
【0158】
一方、本実施の形態2の半導体装置では、拡散防止層DB2が、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れている。これにより、ソース電極SEおよびドレイン電極DEとの間に大きな電圧が印加されている場合でも、ゲート電極GEに電圧が印加されていないとき、ソース電極SEおよびドレイン電極DEとの間にリーク電流が流れることを防止することができる。したがって、半導体装置の耐圧性を向上させることができる。
【0159】
(実施の形態3)
実施の形態1の半導体装置では、キャップ層とソース電極との間、および、キャップ層とドレイン電極との間のいずれにも、半導体層が形成されていなかった。それに対して、実施の形態3の半導体装置では、キャップ層とソース電極との間、または、キャップ層とドレイン電極との間に、半導体層が形成されている。
【0160】
<半導体装置の構造および半導体装置の動作>
図24は、実施の形態3の半導体装置の要部断面図である。
【0161】
図24に示すように、本実施の形態3の半導体装置は、電界効果トランジスタとしてのHEMTであるトランジスタTR3を備えている。トランジスタTR3は、基板SUBと、基板SUB上に形成されたバッファ層BUFと、バッファ層BUF上に形成された窒化物半導体層からなるチャネル層CHと、チャネル層CH上に形成された窒化物半導体層からなるバリア層BRとを有する。また、トランジスタTR3は、バリア層BR上に形成された窒化物半導体層からなる拡散防止層DB1を有する。
【0162】
本実施の形態3のトランジスタTR3のうち、基板SUB、バッファ層BUF、チャネル層CH、バリア層BRおよび拡散防止層DB1のそれぞれは、実施の形態1のトランジスタTR1における基板SUB、バッファ層BUF、チャネル層CH、バリア層BRおよび拡散防止層DB1のそれぞれと同一である。そのため、それらについての説明は省略する。
【0163】
さらに、トランジスタTR3は、拡散防止層DB1上に、互いに離れて形成されたソース電極SEおよびドレイン電極DEを有する。そして、トランジスタTR3は、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上に、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れて形成された、窒化物半導体層からなるキャップ層CPを有する。また、トランジスタTR3は、キャップ層CP上に形成されたゲート電極GEを有する。
【0164】
本実施の形態3のトランジスタTR3のうち、ソース電極SE、ドレイン電極DE、キャップ層CPおよびゲート電極GEのそれぞれは、実施の形態1のトランジスタTR1におけるソース電極SE、ドレイン電極DE、キャップ層CPおよびゲート電極GEのそれぞれと同一である。そのため、それらについての説明は省略する。
【0165】
なお、本実施の形態3のトランジスタTR3でも、実施の形態1のトランジスタTR1と同様に、バリア層BRとキャップ層CPとの間に、拡散防止層DB1が介在する。また、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのそれぞれと、バリア層BRとの間に、拡散防止層DB1が介在する。
【0166】
一方、本実施の形態3のトランジスタTR3は、半導体層SL4を有する。半導体層SL4は、キャップ層CPとソース電極SEとで挟まれた拡散防止層DB1上、または、キャップ層CPとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上に形成されている。好適には、半導体層SL4は、キャップ層CP、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れて形成されている。しかし、半導体層SL4は、キャップ層CP、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれかに隣接していてもよい。
【0167】
半導体層SL4は、p型の窒化物半導体層であり、好ましくは窒化ガリウム(GaN)からなる。半導体層SL4は、p型の導電型を示す半導体層、すなわちp型の半導体層であり、半導体層SL4には、p型不純物として、例えばマグネシウム(Mg)が導入されている。
【0168】
半導体層SL4は、好適には、キャップ層CPを構成する半導体層SLと同層のp型の半導体層SLからなる。これにより、半導体層SLからなるキャップ層CPを形成する工程と、半導体層SLからなる半導体層SL4とを形成する工程とを、同一の工程とすることができ、工程数を削減することができる。
【0169】
半導体層SL4がバリア層BR上に形成されている場合、チャネル層CHとバリア層BRとの界面に発生するピエゾ分極を、半導体層SL4と拡散防止層DB1との界面などに発生するピエゾ分極によりある程度相殺することができるため、半導体層SL4の下で、バリア層BRの伝導帯のエネルギーがある程度上昇する。また、半導体層SL4内のp型不純物による負の空間電荷により半導体層SL4の伝導帯のエネルギーが上昇し、それにより、バリア層BRの伝導帯のエネルギーも引きずられて上昇する。その結果、ゲート電極GEに電圧を印加していないときに、半導体層SL4の下で、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍の部分IFPに形成される2次元電子ガス2DEG1を、キャップ層CPおよび半導体層SL4が形成されている領域以外の領域でチャネル層CHに形成される2次元電子ガス2DEGよりも減少させることができる。
【0170】
図24では、半導体層SL4の下で、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍の部分IFPに形成される2次元電子ガス2DEG1を、キャップ層CPおよび半導体層SL4が形成されている領域以外の領域でチャネル層CHに形成される2次元電子ガス2DEGを示す破線の太さよりも細い破線により示している。これにより、半導体層SL4の下で、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍の部分IFPに形成される2次元電子ガス2DEG1が、キャップ層CPおよび半導体層SL4が形成されている領域以外の領域でチャネル層CHに形成される2次元電子ガス2DEGよりも少ないことを示している。
【0171】
このような半導体層SL4が、キャップ層CPとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上に形成されている場合、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に、2次元電子ガス2DEGを介してリーク電流が流れることを抑制することができる。また、半導体層SL4が、キャップ層CPとソース電極SEとで挟まれた拡散防止層DB1上に形成されている場合、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に、2次元電子ガス2DEGを介してリーク電流が流れることを抑制することができる。そして、トランジスタTR3のゲート・ドレイン間耐圧を向上させることができる。
【0172】
半導体層SL4がキャップ層CPを構成する半導体層SLと同層のp型の半導体層SLからなる場合、キャップ層CPの厚さをTH1とし、半導体層SL4の厚さをTH2とするとき、好適には、半導体層SL4の厚さTH2は、キャップ層CPの厚さTH1よりも小さい。
【0173】
半導体層SL4の厚さTH2が、キャップ層CPの厚さTH1と等しいか、キャップ層CPの厚さTH1よりも大きい場合、トランジスタTR3がオン状態であるときも、半導体層SL4の下のチャネル層CHで2次元電子ガス2DEG1が少なくなるおそれがある。このような場合、トランジスタTR3がオン状態であるときのソース電極SEとドレイン電極DEとの間の抵抗すなわちオン抵抗が大きくなるおそれがある。
【0174】
一方、半導体層SL4の厚さTH2が、キャップ層CPの厚さTH1よりも小さい場合、トランジスタTR3がオン状態であるときに、半導体層SL4の下のチャネル層CHで形成される2次元電子ガス2DEG1が少なくならないように調整することができる。これにより、トランジスタTR3がオン状態であるときのソース電極SEとドレイン電極DEとの間の抵抗すなわちオン抵抗が大きくなることを抑制することができる。
【0175】
したがって、半導体層SL4の厚さTH2は、より好適には、ゲート電極GEに電圧を印加していないときでも、半導体層SL4の下のチャネル層CHで2次元電子ガス2DEG1が消滅しない程度に、キャップ層CPの厚さTH1よりも小さくすることができる。つまり、半導体層SL4の厚さTH2は、より好適には、ゲート電極GEに電圧を印加していないときに、半導体層SL4の下のチャネル層CHで2次元電子ガス2DEG1が消滅するような厚さよりも小さくすることができる。
【0176】
なお、トランジスタTR3が高周波用のトランジスタであるときは、
図24に示すように、半導体層SL4が、キャップ層CPとドレイン電極DEとの間に形成されていることが好ましい。これにより、半導体層SL4が、キャップ層CPとソース電極SEとの間に形成されている場合に比べ、トランジスタTR3の増幅率すなわちゲインを向上させることができる。
【0177】
本実施の形態3のトランジスタTR3の動作は、実施の形態1のトランジスタTR1の動作と同様の動作であり、その説明は省略する。しかし、前述したように、本実施の形態3のトランジスタTR3では、オフ状態のときに、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に、2次元電子ガス2DEGを介してリーク電流が流れることを抑制することができる。これにより、トランジスタTR3の耐圧性を向上させることができる。
【0178】
<半導体装置の製造方法>
次に、本実施の形態3の半導体装置の製造方法について説明する。
図25〜
図27は、実施の形態3の半導体装置の製造工程中の要部断面図である。
【0179】
本実施の形態3の半導体装置の製造方法では、例えば、実施の形態1において
図6、
図10および
図11を用いて説明した工程と同様の工程を行って、
図25に示すように、金属膜MF1からなるゲート電極GEを形成した後、半導体層SLをパターニングする。
【0180】
具体的には、ゲート電極GE上を含めて半導体層SL上にレジスト膜PR3(
図26参照)を塗布する。そして、このレジスト膜PR3に対して露光・現像処理を施すことにより、
図26に示すように、レジスト膜PR3をパターニングする。レジスト膜PR3のパターニングは、半導体層SL4(
図24参照)を形成する予定の領域以外の領域を露出させ、半導体層SL4を形成する予定の領域を露出させないように行われる。半導体層SL4を形成する予定の領域は、ソース電極SE(
図24参照)を形成する予定の領域とキャップ層CP(
図24参照)を形成する予定の領域との間、または、ドレイン電極DE(
図24参照)を形成する予定の領域とキャップ層CPを形成する予定の領域との間に位置する。
【0181】
次に、ゲート電極GEおよびパターニングされたレジスト膜PR3をマスクにして、半導体層SLをエッチングして除去する。これにより、
図27に示すように、ゲート電極GEの下に半導体層SLからなるキャップ層CPを形成し、レジスト膜PR3(
図26参照)の下に半導体層SLからなる半導体層SL4を形成する。具体的には、半導体層SLのエッチングは、実施の形態1と同様に、例えば、塩素(Cl
2)ガスに酸素(O
2)ガスや六フッ化硫黄(SF
6)ガスを添加したエッチングガスを用いたドライエッチングにより行うことができる。
【0182】
このとき、半導体層SLのエッチング速度に対するレジスト膜PR3のエッチング速度の比、すなわちエッチングの選択比、および、レジスト膜PR3の厚さを調整することで、半導体層SLのエッチングの途中でレジスト膜PR3が除去され、レジスト膜PR3に覆われていた半導体層SLが露出するようにする。このような方法により、半導体層SL4の厚さTH2を、キャップ層CPの厚さTH1よりも小さくすることができる。
【0183】
その結果、ゲート電極GEの下方で、かつ、拡散防止層DB1上に、キャップ層CPが形成される。また、拡散防止層DB1上であって、キャップ層CPが形成された領域とソース電極SE(
図24参照)が形成される予定の領域との間の領域、または、キャップ層CPが形成された領域とドレイン電極DE(
図24参照)が形成される予定の領域との間の領域に、半導体層SL4が形成される。
【0184】
次に、拡散防止層DB1上に、ソース電極SE(
図24参照)およびドレイン電極DE(
図24参照)を、例えばリフトオフ法により形成する。このリフトオフ法によりソース電極SEおよびドレイン電極DEを形成する工程として、実施の形態1において
図13および
図14を用いて説明した工程と同様の工程を行うことができる。以上のようにして、
図24に示すように、本実施の形態3のトランジスタTR3を製造することができる。
【0185】
<本実施の形態の主要な特徴と効果>
本実施の形態3の半導体装置では、実施の形態1の半導体装置と同様に、バリア層BRとキャップ層CPとの間に、拡散防止層DB1が介在する。拡散防止層DB1は、アルミニウム(Al)を含有する窒化物半導体層からなり、好適には、n型の窒化物半導体層からなり、さらに好適には、拡散防止層DB1におけるアルミニウムの組成比は、バリア層BRにおけるアルミニウムの組成比よりも大きい。これにより、実施の形態1と同様に、製造工程において、キャップ層CPからバリア層BRへのp型不純物の拡散、および、バリア層BRの膜厚の減少を抑制することができるため、半導体装置の性能を向上させることができる。
【0186】
一方、本実施の形態3の半導体装置では、実施の形態1の半導体装置と異なり、キャップ層CPとソース電極SEとで挟まれた拡散防止層DB1上、または、キャップ層CPとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB1上に形成された半導体層SL4を有する。これにより、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に、2次元電子ガスを介してリーク電流が流れることを抑制することができる。したがって、半導体装置の耐圧性を向上させることができる。
【0187】
(実施の形態4)
実施の形態3の半導体装置では、ソース電極およびドレイン電極が、拡散防止層上に形成されていた。それに対して、実施の形態4の半導体装置では、拡散防止層が、ソース電極およびドレイン電極のいずれからも離れて形成されており、ソース電極およびドレイン電極は、バリア層上に直接形成されている。すなわち、実施の形態3の半導体装置と実施の形態4の半導体装置との関係は、実施の形態1の半導体装置と実施の形態2の半導体装置との関係と同様である。
【0188】
<半導体装置の構造および半導体装置の動作について>
図28は、実施の形態4の半導体装置の要部断面図である。
【0189】
図28に示すように、本実施の形態4の半導体装置は、電界効果トランジスタとしてのHEMTであるトランジスタTR4を備えている。トランジスタTR4は、基板SUBと、基板SUB上に形成されたバッファ層BUFと、バッファ層BUF上に形成された窒化物半導体層からなるチャネル層CHと、チャネル層CH上に形成された窒化物半導体層からなるバリア層BRとを有する。
【0190】
本実施の形態4のトランジスタTR4のうち、基板SUB、バッファ層BUF、チャネル層CHおよびバリア層BRのそれぞれは、実施の形態3のトランジスタTR3における基板SUB、バッファ層BUF、チャネル層CHおよびバリア層BRのそれぞれと同一である。そのため、それらについての説明は省略する。
【0191】
また、トランジスタTR4は、バリア層BR上に、互いに離れて形成されたソース電極SEおよびドレイン電極DEと、ソース電極SEとドレイン電極DEとで挟まれたバリア層BR上に、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れて形成された拡散防止層DB2とを有する。また、トランジスタTR4は、拡散防止層DB2上に形成された、窒化物半導体層からなるキャップ層CPと、キャップ層CP上に形成されたゲート電極GEとを有する。
【0192】
本実施の形態4のトランジスタTR4のうち、キャップ層CPおよびゲート電極GEのそれぞれについては、実施の形態3のトランジスタTR3におけるキャップ層CPおよびゲート電極GEのそれぞれと同一であるため、それらについての説明は省略する。また、本実施の形態4のトランジスタTR4のうち、拡散防止層DB2、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのそれぞれの材質は、実施の形態2のトランジスタTR2における拡散防止層DB2、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのそれぞれと同一である。そのため、それらについての説明は省略する。
【0193】
また、本実施の形態4のトランジスタTR4は、実施の形態3のトランジスタTR3と同様に、半導体層SL4を有する。半導体層SL4は、キャップ層CPとソース電極SEとで挟まれた拡散防止層DB2上、または、キャップ層CPとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB2上に形成されている。好適には、半導体層SL4は、キャップ層CP、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れて形成されている。しかし、半導体層SL4は、キャップ層CPに隣接していてもよい。
【0194】
半導体層SL4の材質については、実施の形態3のトランジスタTR3における半導体層SL4の材質と同一であるため、その説明は省略する。また、半導体層SL4は、実施の形態3と同様に、好適には、キャップ層CPを構成する半導体層SLと同層のp型の半導体層SLからなり、これにより実施の形態3と同様に、工程数を削減することができる。
【0195】
本実施の形態4では、半導体層SL4が、キャップ層CPとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB2上、および、キャップ層CPとソース電極SEとで挟まれた拡散防止層DB2上のいずれに形成されている場合でも、実施の形態3と同様に、トランジスタTR4の耐圧性を向上させることができる。
【0196】
また、実施の形態3と同様に、半導体層SL4がキャップ層CPを構成する半導体層SLと同層のp型の半導体層SLからなる場合、好適には、半導体層SL4の厚さTH2は、キャップ層CPの厚さTH1よりも小さい。これにより、実施の形態3と同様に、トランジスタTR4がオン状態であるときのソース電極SEとドレイン電極DEとの間の抵抗すなわちオン抵抗が大きくなることを抑制することができる。
【0197】
図28では、
図24と同様に、半導体層SL4の下で、チャネル層CHのバリア層BRとの界面近傍の部分IFPに形成される2次元電子ガス2DEG1を、キャップ層CPおよび半導体層SL4が形成されている領域以外の領域でチャネル層CHに形成される2次元電子ガス2DEGを示す破線の太さよりも細い破線により示している。
【0198】
なお、トランジスタTR4が高周波用のトランジスタであるときは、実施の形態3と同様に、
図28に示すように、半導体層SL4が、キャップ層CPとドレイン電極DEとの間に形成されていることが好ましい。これにより、トランジスタTR4の増幅率すなわちゲインを向上させることができる。
【0199】
一方、本実施の形態4のトランジスタTR4では、実施の形態2のトランジスタTR2と同様に、拡散防止層DB2が、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れている。そのため、実施の形態2と同様に、ソース電極SEおよびドレイン電極DEとの間に大きな電圧が印加されている場合でも、ゲート電極GEに印加する電圧を0にしたときに、ソース電極SEおよびドレイン電極DEとの間にリーク電流が流れることを防止することができる。したがって、トランジスタTR4の耐圧性を向上させることができる。
【0200】
また、本実施の形態4のトランジスタTR4の動作は、実施の形態1のトランジスタTR1の動作と同様の動作であり、その説明は省略する。しかし、本実施の形態4のトランジスタTR4では、オフ状態のときに、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に、2次元電子ガス2DEGを介して、または、拡散防止層DB2を介してリーク電流が流れることを防止または抑制することができる。これにより、トランジスタTR4の耐圧性を向上させることができる。
【0201】
<半導体装置の製造方法>
次に、本実施の形態4の半導体装置の製造方法について説明する。
図29および
図30は、実施の形態4の半導体装置の製造工程中の要部断面図である。
【0202】
本実施の形態4の半導体装置の製造方法では、例えば、実施の形態1において
図6、
図10および
図11を用いて説明した工程と同様の工程を行って、実施の形態3において
図25を用いて説明したようにゲート電極GEを形成する。次に、実施の形態3において
図26および
図27を用いて説明した工程と同様の工程を行って、半導体層SLをパターニングし、キャップ層CPおよび半導体層SL4を形成する。次に、拡散防止層DB1をパターニングする。
【0203】
具体的には、ゲート電極GE上および半導体層SL4上を含めて拡散防止層DB1上に、レジスト膜PR4(
図29参照)を塗布する。そして、このレジスト膜PR4に対して露光・現像処理を施すことにより、
図29に示すように、レジスト膜PR4をパターニングする。レジスト膜PR4のパターニングは、ソース電極SE(
図28参照)を形成する予定の領域およびドレイン電極DE(
図28参照)を形成する予定の領域を含め、拡散防止層DB1を除去する領域が露出するように行われる。
【0204】
その後、パターニングされたレジスト膜PR4をマスクにして、拡散防止層DB1をエッチングして除去することにより、
図30に示すように、パターニングされた拡散防止層DB1からなる拡散防止層DB2を形成する。具体的には、拡散防止層DB1のエッチングは、例えば、塩素(Cl
2)ガスに酸素(O
2)ガスや六フッ化硫黄(SF
6)ガスを添加したエッチングガスを用いたドライエッチングにより行うことができる。その後、レジスト膜PR4を除去する。
【0205】
このとき、拡散防止層DB2が、ソース電極SE(
図28参照)が形成される予定の領域、および、ドレイン電極DE(
図28参照)が形成される予定の領域のいずれの領域からも離れて形成される。
【0206】
次に、バリア層BR上に、ソース電極SE(
図28参照)およびドレイン電極DE(
図28参照)を、例えばリフトオフ法により形成する。このリフトオフ法によりソース電極SEおよびドレイン電極DEを形成する工程として、実施の形態1において
図13および
図14を用いて説明した工程と同様の工程を行うことができる。以上のようにして、
図28に示すように、本実施の形態4のトランジスタTR4を製造することができる。
【0207】
<本実施の形態の主要な特徴と効果>
本実施の形態4の半導体装置では、実施の形態1の半導体装置と同様に、バリア層BRとキャップ層CPとの間に、拡散防止層DB2が介在する。拡散防止層DB2は、アルミニウム(Al)を含有する窒化物半導体層からなり、好適には、n型の窒化物半導体層からなり、さらに好適には、拡散防止層DB2におけるアルミニウムの組成比は、バリア層BRにおけるアルミニウムの組成比よりも大きい。これにより、実施の形態1と同様に、製造工程において、キャップ層CPからバリア層BRへのp型不純物の拡散、および、バリア層BRの膜厚の減少を抑制することができるため、半導体装置の性能を向上させることができる。
【0208】
また、本実施の形態4の半導体装置では、実施の形態2の半導体装置と同様に、拡散防止層DB2が、ソース電極SEおよびドレイン電極DEのいずれからも離れている。これにより、ソース電極SEおよびドレイン電極DEとの間に大きな電圧が印加されている場合でも、ゲート電極GEに電圧が印加されていないとき、ソース電極SEおよびドレイン電極DEとの間にリーク電流が流れることを防止することができる。したがって、半導体装置の耐圧性を向上させることができる。
【0209】
さらに、本実施の形態4の半導体装置では、実施の形態3の半導体装置と同様に、キャップ層CPとソース電極SEとで挟まれた拡散防止層DB2上、または、キャップ層CPとドレイン電極DEとで挟まれた拡散防止層DB2上に形成された半導体層SL4を有する。これにより、ソース電極SEとドレイン電極DEとの間に、2次元電子ガスを介してリーク電流が流れることを抑制することができる。したがって、半導体装置の耐圧性を向上させることができる。
【0210】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。