(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174910
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂薄肉押出成形体および共押出積層体
(51)【国際特許分類】
E04F 13/07 20060101AFI20170724BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20170724BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20170724BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20170724BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20170724BHJP
C08L 97/02 20060101ALI20170724BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20170724BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20170724BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20170724BHJP
B29C 47/06 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
E04F13/07 Z
C08J5/18CEV
C08K3/26
C08L57/00
C08L27/06
C08L97/02
B32B27/18 Z
B32B27/20 Z
B32B27/30 101
B29C47/06
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-113246(P2013-113246)
(22)【出願日】2013年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-231565(P2014-231565A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】矢野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】西村 昌敏
【審査官】
飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−231380(JP,A)
【文献】
特開2004−122390(JP,A)
【文献】
国際公開第00/060003(WO,A1)
【文献】
特開平07−011049(JP,A)
【文献】
特開昭50−105748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00−13/30
C08J 5/00−5/02
5/12/5/22
B32B 1/00−43/00
B29C 47/06
C08K 3/26
C08L 27/06
C08L 57/00
C08L 97/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均重合度が700〜1500の範囲にある塩化ビニル樹脂100質量部、
(B)平均粒径が1μm以下の炭酸カルシウム粉末15〜25質量部、および
(C)耐衝撃改良剤2〜4質量部
を含有してなる塩化ビニル樹脂組成物の押出成形体であって、
(C)耐衝撃改良剤が、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリル系ゴム、および塩素化ポリエチレンからなる群より選ばれた少なくとも一種の耐衝撃改良剤であり、
成形体の厚みが1mm以下で有り、且つ、シャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上である塩化ビニル樹脂薄肉押出成形体からなることを特徴とする薄肉内装下地材。
【請求項2】
(B)炭酸カルシウム粉末が、該粉末を基準にして1質量%以下の脂肪酸で処理されていることを特徴とする請求項1に記載の薄肉内装下地材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塩化ビニル樹脂薄肉押出成形体の表面に、化粧層が共押出成形で積層されてなる塩化ビニル樹脂共押出積層体であって、
化粧層の厚みが、0.15mm〜0.5mmであり、
化粧層が、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルーブタジエンースチレン樹脂(ABS樹脂)およびアクリロニトリルースチレンーアクリレート樹脂(ASA樹脂)からなる群より選ばれた少なくとも一種の化粧層樹脂を含有してなる化粧層樹脂組成物の共押出成形体からなる層であり、
共押出積層体のシャルピー衝撃強度が、10kJ/m2以上である共押出積層体からなことを特徴とする薄肉内装下地材。
【請求項4】
化粧層樹脂組成物が、更に、木粉、紙粉、および竹粉よりなる群より選ばれた少なくとも一種の有機充填材を含有することを特徴とする請求項3に記載の薄肉内装下地材。
【請求項5】
(A)平均重合度が700〜1500の範囲にある塩化ビニル樹脂100質量部、(B)平均粒径が1μm以下の炭酸カルシウム粉末15〜25質量部、および(C)メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリル系ゴム、および塩素化ポリエチレンからなる群より選ばれた少なくとも一種の耐衝撃改良剤2〜4質量部を含有してなる塩化ビニル樹脂組成物を押出成形したのち、孔明け加工することを特徴とする、厚みが1mm以下である孔明きクロス仕上げ用下地材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物を押出成形した塩化ビニル樹脂薄肉押出成形体および塩化ビニル樹脂共押出積層体に関するものであり、より詳細には耐衝撃性に優れた塩化ビニル樹脂薄肉押出成形体および該成形体上に化粧層を有する塩化ビニル樹脂共押出積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇を回避するために、石油由来成分の含有量が43質量%と比較的少ない塩化ビニル樹脂を使用した樹脂組成物の開発が行われてきた。
その初期には、塩化ビニル樹脂に石油由来成分ではない無機充填材を多量に添加する方法が一般的に行われたが、無機充填材を多量に配合すると、塩化ビニル樹脂組成物から得られる成形体は、耐衝撃性が低下してしまい、脆くなるという問題があり、無機充填材の配合により省資源性を高めるには限界があった。
本出願人は、当該耐衝撃性を低下させることなく、石油由来成分の比率が低減され、しかも、剛性が高く且つ線熱膨張率の低い成形品、特に押出成形品を得ることが可能な塩化ビニル樹脂組成物について鋭意研究し、特定性状の炭化カルシウム粉末と塩素化ポリエチレンとの併用、更に、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS)やアクリル系ゴムの配合により、無機充填材を高配合してもこれらを解決できることを見出し先に提案した(特許文献1)。
上記改良された塩化ビニル樹脂組成物は、その使用目的によっては、成形品の薄肉化を図ることが行われるが、無機充填材の高配合は、薄肉成形品においては耐衝撃性の低下をもたらし、その用途が制限されるという問題が生じた。特に塩化ビニル樹脂の押出成形品は、内装下地材や外装材などの建材として使用されているが、内装下地材では薄肉製品が多く、無機充填材が多量に配合された塩化ビニル樹脂組成物から得られる薄肉成形品を内装下地材として使用すると、製品へのパンチング等の孔明け加工や切断加工を行うと割れ欠けが生じ易く、加工性も悪くなってしまう。
従来、カチオン重合体によって表面処理された無機充填材と塩素化ポリエチレンなどの衝撃改質剤とを塩化ビニル樹脂に配合して、耐衝撃性を改良する技術が提案されている。しかしながら、カチオン重合体処理無機充填材と衝撃改良剤とを高配合して耐衝撃性を向上させているために、押出成形時に塩化ビニル樹脂の分解が促進されて塩素ガスが発生し、成形ができにくいと云う問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2010−100828号公報
【特許文献2】特開平11−246723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、省資源性と云う課題に逆行することがなく、上記塩化ビニル樹脂組成物の押出成形体における耐衝撃性の改良に取り組んだ。その結果、単に無機充填材の配合量を減少させる手段を採用するのではなく、特定の塩化ビニル樹脂成分組成においては、特定性状の炭酸カルシウムを無機充填材とした場合、その配合量が所定の範囲で際立った耐衝撃性発現効果があることを見出し、本願発明を想到するに至った。
本発明の目的は、石油由来成分の比率が低減された塩化ビニル樹脂組成物の押出成形品において、従来より、一層耐衝撃性を向上させ、しかも、剛性が高く且つ線熱膨張率の低い薄肉押出成形体、更には共押出積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、
(A)平均重合度が700〜1500の範囲にある塩化ビニル樹脂100質量部、
(B)平均粒径が1μm以下の炭酸カルシウム粉末15〜25質量部、および
(C)耐衝撃改良剤2〜4質量部
を含有してなる塩化ビニル樹脂組成物の押出成形体であって、
(C)耐衝撃改良剤が、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリル系ゴム、および塩素化ポリエチレンからなる群より選ばれた少なくとも一種の耐衝撃改良剤であり、
成形体の
厚みが1mm以下で有り、且つ、シャルピー衝撃強度が20kJ/m
2以上で
ある塩化ビニル樹脂薄肉押出成形体からなることを特徴とする
薄肉内装下地材が提供される。
上記
薄肉内装下地材の発明において、(B)炭酸カルシウム粉末が、該粉末を基準にして1質量%以下の脂肪酸で処理されていることが好適である。
【0006】
本発明によれば,また、上記塩化ビニル樹脂薄肉押出成形体の表面に、化粧層が共押出成形で積層されてなる塩化ビニル樹脂共押出積層体であって、
化粧層の厚みが、0.15mm〜0.5mmであり、
化粧層が、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルーブタジエンースチレン樹脂(ABS樹脂)およびアクリロニトリルースチレンーアクリレート樹脂(ASA樹脂)からなる群より選ばれた少なくとも一種の化粧層樹脂を含有してなる化粧層樹脂組成物の共押出成形体からなる層であり、
共押出積層体のシャルピー衝撃強度が、10kJ/m
2以上である
共押出積層体からなことを特徴とする
薄肉内装下地材が提供される。
上記
薄肉内装下地材の発明において、化粧層樹脂組成物が、更に、木粉、紙粉、および竹粉よりなる群より選ばれた少なくとも一種の有機充填材を含有することが好適である。
本発明によれば、更に、
(A)平均重合度が700〜1500の範囲にある塩化ビニル樹脂100質量部、(B)平均粒径が1μm以下の炭酸カルシウム粉末15〜25質量部、および(C)メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリル系ゴム、および塩素化ポリエチレンからなる群より選ばれた少なくとも一種の耐衝撃改良剤2〜4質量部を含有してなる塩化ビニル樹脂組成物を押出成形したのち、孔明け加工することを特徴とする、厚みが1mm以下である孔明きクロス仕上げ用下地材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塩化ビニル樹脂薄肉押出成形体は、石油由来成分の比率が低減された塩化ビニル樹脂を利用して省資源性と云う課題を満足しつつ、従来より、一層耐衝撃性を向上させ、しかも、剛性が高く且つ線熱膨張率の低い薄肉押出成形体、更には共押出積層体を提供する。
当該薄肉押出成形体及び共押出積層体は、クロス仕上げ用下地材、天井用見切縁材、天井・壁の点検口の枠材、サッシ枠材、浴室・脱衣室用壁パネル等の薄肉製品である内装下地材として有用であり、剛性を有し折れ曲がりなどが生じにくいので施行性がよい。また、パンチング等の孔明け加工や切断加工を行うことができ加工性に富む材料となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の押出成形に供される樹脂組成物は、省資源性の良好な(A)塩化ビニル樹脂を主成分とし、更に、(B)炭酸カルシウム及び特定の(C)耐衝撃改良剤を必須成分として含有する。
【0009】
<(A)塩化ビニル樹脂>
本発明において用いる塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルの単独重合体であり、石油由来成分含有量が他の樹脂に比して少ない。即ち、このような塩化ビニル樹脂を主成分として用いることにより、優れた省資源性を確保することができるのである。
かかる塩化ビニル樹脂としては、平均重合度が700〜1500のものが使用される。即ち、平均重合度がこの範囲外のものは、例えば押出成形が困難となったり、或いは成形体に所望の物性を確保することが困難となってしまう。
【0010】
<(B)炭酸カルシウム粉末>
後述する特定の(C)耐衝撃改良剤と上記(A)塩化ビニル樹脂を特定配合した混合系においては、下記性状の(B)炭酸カルシウム粉末は、特異的な挙動を示す。即ち、(B)炭酸カルシウム粉末の配合量と成形体の耐衝撃性とは必ずしも相関が無く、(A)塩化ビニル樹脂100質量部当り15〜25質量部の配合量において、際立った耐衝撃性の向上が認められる。15質量部より少ない場合、25質量部より多い場合の何れの場合であっても耐衝撃性が低下して、成形体のシャルピー衝撃強度が20kJ/m
2以上となることは無い。即ち、(B)炭酸カルシウム粉末の配合量を減少させても、必ずしも耐衝撃性は向上しないが、その原因は明らかではない。
【0011】
上記の(B)炭酸カルシウム粉末は、平均粒径が1μm以下の炭酸カルシウム粉末であることが必須である。即ち、平均粒径が1μm以下の炭酸カルシウム粉末を使用することにより、本発明の押出成形体中において当該炭酸カルシウム粉末がほぼ均一に微分散が可能となり、この結果、耐衝撃性の低下を有効に回避することができ、また剛性を高め、さらには線熱膨張係数を低下させることができる。
一方、平均粒径が上記範囲よりも大きい炭酸カルシウム粉末を用いた場合には、この炭酸カルシウム粉末を均一に微分散することができず、上記耐衝撃性の特異的挙動は認められない。
【0012】
本発明において、上記の炭酸カルシウム粉末としては、軽質炭酸カルシウムでも重質炭酸カルシウムの何れであってもよく、またその粒子形状は、球状等の定形、或いは不定形、ウィスカー状等の何れであってもよい。尚、本発明において、炭酸カルシウムの平均粒径は、後述する実施例に明記されているように、炭酸カルシウム粉末1gの比表面積から算出された計算値である。
【0013】
また、(B)炭酸カルシウム粉末は、脂肪酸で表面処理されたものであることが、分散性、耐衝撃性の向上の観点から好適である。
当該表面処理に用いる脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸などの脂肪酸が好適に使用され、これらは二種以上混合して用いてよい。なお、脂肪酸としては、脂肪酸のみならず、カルシウムなどのアルカリ金属との脂肪酸塩、更に脂肪酸エステルであっても良い。
【0014】
脂肪酸の表面処理量は、炭酸カルシウムに対して1質量%以下、特に0.1乃至0.5質量%の範囲とすることが好ましい。即ち、多量の脂肪酸で表面処理を行うと、押出成形などを行ったとき、スクリュー表面に炭酸カルシウムが付着してしまい、得られる押出成形体の組成が不均一となってしまい、各種物性の低下を生じてしまうおそれがある。
脂肪酸による表面処理方法は特に限定されず、通常は、溶媒に所定量の脂肪酸を溶解して脂肪酸溶液とし、当該溶液中に炭酸カルシウムの粉末を投入、混合し、次いで炭酸カルシウムを溶液から分離し乾燥する方法が採用される。
【0015】
<(C)耐衝撃改良剤>
本発明の押出成形体においては、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリル系ゴム、および塩素化ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも一種の(C)耐衝撃改良剤の配合が必須である。即ち、塩化ビニル樹脂にこれら特定の耐衝撃性改良剤を配合した場合、平均粒径が1μm以下の炭酸カルシウム粉末を用いた時に、耐衝撃性は、炭酸カルシウムの配合量の減少に比例して低下することなく、配合量が15〜25質量部(塩化ビニル樹脂100質量部基準)で特異的に高くなる。一方、上記耐衝撃性改良剤を使用しても、炭酸カルシウム粉末の平均粒径が1μmを超えると、例えば1.8μmの時、配合量の減少に比例して、徐々に耐衝撃強度が向上する。ただし、その絶対値は極めて低く、平均粒径が1μm以下の炭酸カルシウム粉末を用いた時の1/3〜1/2程度であり、満足すべき耐衝撃強度は得られない。
(C)耐衝撃改良剤の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して2〜4質量部である。配合量が2質量部未満である場合には、耐衝撃性を向上させることができず、また、4質量部よりも多量に使用したとしても、耐衝撃性の向上効果は増大しないばかりだけでなく、先に述べた、(B)炭酸カルシウム粉末の配合による特異的な耐衝撃性の向上が見られない。
当該(C)耐衝撃改良剤は、塩素化ポリエチレン、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、またはアクリル系ゴムであるが、耐衝撃性のみならず耐候性の向上にも寄与する点で、アクリル系ゴムが好適である。
【0016】
塩素化ポリエチレンとしては、特に塩素含量が30〜40質量%のものが好適に使用される。当該塩素化ポリエチレンとしては、エラスレン301Aや同351TA(昭和電工社製)、ダイソラックH−135(ダイソー社製)などの市販品が利用できる。塩素化ポリエチレンは、塩化ビニル樹脂との相溶性が良好であり、少量の配合により、耐衝撃性を向上させることができる。上記塩素含量の塩素化ポリエチレンには、非結晶性のものと結晶性のものとがあるが、耐衝撃性を向上させるためには非結晶性のものが好適であり、特にムーニー粘度MS
1+4(121℃)が80〜100の範囲にあるものが好適である。
【0017】
メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS)としては、メタブレンC−223(三菱レイヨン社製)、カネエースBシリーズ(カネカ社製)などの市販品が使用できる。
【0018】
アクリル系ゴムは、耐衝撃性を更に向上させることができるのみならず、耐候性も向上させ得る。当該アクリル系ゴムとしては、従来公知のアクリル系ゴムが使用され、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチルなどの各種アクリル酸アルキルエステルを基本構成成分とし、2-クロロエチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル、エチリデンノルボルネンなどの官能基を有する成分を共重合した共重合体、或いはアクリル酸メチル、エチレンおよびカルボキシル基を有する成分との三元共重合体などがあり、耐熱性や耐油性に優れた高分子体として知られている。また、このアクリル系ゴムとして、コアシェルゴムと称される、スチレンブタジエンやアクリルエステルからなるゴム状コアに、メチルメタアクリレート(MMA)やアクリル酸エステルをグラフトさせた多層構造のものも使用でき、カネエースFM(カネカ社製)、メタブレンW−300(三菱レイヨン社製)などとして市販されている。
【0019】
<その他の配合剤>
本発明においては、石油由来成分の含有比率を高めず、一定の範囲内に維持させ得ることを条件として、上記以外にも種々の添加剤を配合することができる。
【0020】
例えば、成形時における着色を防止するための熱安定剤を配合することができるが、このような熱安定剤としては、石油由来成分を含まない無機系の安定剤、例えばゼオライト、亜鉛等でイオン交換されるゼオライト、含水もしくは無水の非晶質ケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト類化合物、亜鉛型ハイドロタルサイト類化合物、過塩素酸型ハイドロタルサイト類化合物、リチウムアルミニウム複合水酸化物及び過塩素酸型のリチウムアルミニウム複合酸化物等が好適である。特に、カルシウム−亜鉛系の熱安定剤が、本願発明の樹脂系において好適である。
【0021】
さらには、ポリエチレンワックス、或いはグリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジアセトモノラウレート、ソルビタンラウレート、プロピレングリコールモノラウレート、ステアリルステアレートなどの高級脂肪酸等の滑剤や、その他、各種の酸化防止剤、光安定剤、顔料、帯電防止剤、防曇剤、プレートアウト防止剤、難燃剤等を、耐衝撃性や剛性等の各種特性が損なわれない範囲内で適宜配合することができる。
【0022】
<薄肉用樹脂組成物>
本発明の押出成形に供する薄肉用の塩化ビニル樹脂組成物(以下、薄肉用樹脂組成物とも云う)は、(A)〜(C)成分を前述した配合量の範囲内で、更に、適宜、他の成分を配合し、各成分を、例えば溶融混練して均一に混合することにより調製される。或いは、ブレンダーやヘンシェルミキサー等を用いて各配合成分をドライブレンドして当該組成物としても良い。
【0023】
<薄肉押出成形体>
調製された上記薄肉用樹脂組成物は、優れた省資源性を有しており、押出成形の成形手段に供して任意の形状の成形体として使用することができるが、特に耐衝撃性、剛性に優れることから、薄肉化しても高い剛性を示し、折れ曲がり難く、薄肉成形品、特に内装下地材としての用途に極めて好適に適用される。
薄肉押出成形体の製造方法は、代表的には、押出成形機を用いて行う方法が採用される。即ち、各成分を予めドライブレンドして得られた混合物のホッパーへの投入、スクリューを内蔵するシリンダー部での加熱溶融と均一混合、それに続く金型(ダイ)への溶融した薄肉用樹脂組成物の供給と押出成形の連続操作で製造される。押出成形機としては、単軸或いは二軸のスクリューを備えたそれ自体公知の押出成形機が使用され、各成分の混練および押出が一台の押出機で行われ、操作が簡単であると共に生産性も高いという利点を有する。
加熱溶融温度や金型温度、加熱溶融時間や成形時間、その他の押出成形条件は、成形に供する薄肉用樹脂組成物の成分組成に応じて適宜決定される。
当該薄肉押出成形体の厚みは、薄肉の内装下地材とするために2mm以下であるが、前述のとおり、2mm以下の薄肉であっても、優れた耐衝撃強度を発現する。
【0024】
<塩化ビニル樹脂共押出積層体>
本発明において、上記方法で得られた薄肉押出成形体の表面に化粧層が直接積層される態様が好適に採用される。
当該化粧層は、厚みが、0.15mm〜0.50mmであり、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂およびASA樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種の化粧層樹脂を含有してなる化粧層組成物を、薄肉押出成形体の成形時に共押出して積層した層であって、装飾性を付与する層である。厚みが0.15mm未満の場合は隠蔽性が低く薄肉押出成形体表面が露出する恐れがあり、0.50mmを超えると、ベースの薄肉押出成形体に対し厚くなり過ぎて耐衝撃強度などが落ちるおそれがある。
共押出成形して薄肉押出成形体の表面に直接積層するため、両者の密着性は極めて高く、得られる塩化ビニル樹脂共押出積層体のシャルピー衝撃強度が、10kJ/m
2以上を達成することができる。
【0025】
<化粧層組成物>
化粧層組成物は、アクリル樹脂、ABS樹脂およびASA樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種の化粧層樹脂を含有し、共押出されて化粧層を構成する。
アクリル樹脂は、ポリメチルメタクリレートなどのそれ自体公知の樹脂が使用できる。
ABS樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエン、およびスチレンの共重合体であり、耐衝撃性、剛性、引っ張り強度及び光沢性に優れた樹脂である。その構造は、AS(アクリロニトリル・スチレン)樹脂などのマトリックスの中にポリブタジエンなどの弾性体が島状に分散した不均一の構造を持ち、正確には、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3つのモノマーの共重合体ではないと言われている。アクリロニトリルの含有量は一般に20〜35%であるが40%程度のものもある。ブタジエンは5〜30%程度である。上記三成分の一部を代え、光沢性、流動性、耐熱性などの特性を向上させた改良ABS樹脂も多数存在する。これらは、「テクノABS」(テクノポリマー社)、「UMGABS」(UMGABS社)、「デンカABS」(電気化学工業社)などとして市販されているので、目的に応じて選択し使用することができる。
ASA樹脂は、アクリロニトリル、スチレン、およびアクリル酸メチルの共重合体樹脂である。ABS樹脂のブタジエン成分に代替してアクリルゴム成分を有し耐衝撃性を維持しつつ耐候性に優れる樹脂であり、それ自体公知である。例えば、UMGABS社から「ダイヤラック」シリーズとして市販されている。
これらの樹脂の中で、耐衝撃性や剛性、耐候性の観点から、ABS樹脂、ASA樹脂、或いはこれらの混合樹脂が好適である。
【0026】
上記化粧層組成物には、装飾性を発現するための着色剤を含有させることができる。当該着色剤は、化粧層の色合いや装飾性の観点から適宜決定され含有され、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、カーボンブラックなどの無機顔料、更には、塩化ビニル樹脂および可塑剤に顔料を分散させた様々の色調の市販の着色剤が好適に使用される。
化粧層樹脂と着色剤の配合量は、特に限定されないが、通常、化粧層樹脂100質量部に対して、着色剤を0.1〜10質量部配合する。混合方法は、ブレンダーやヘンシェルミキサー等を用いてドライブレンドする方法が一般的である。
【0027】
上記化粧層組成物には、更に、熱安定剤の他、滑剤や、その他、各種の酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、プレートアウト防止剤、難燃剤等を、耐衝撃性や剛性等の各種特性が損なわれない範囲内で適宜配合することができる。特に、木目調の内装下地材とするために、木粉、紙粉、および竹粉よりなる群より選ばれた少なくとも一種の有機充填材を含有させることが好適である。
【0028】
<化粧層>
化粧層は、共押出成型機を使用して、薄肉押出成形体の押出成形時に上記化粧層組成物を共押出して、同時に形成され積層される。
具体的には、薄肉押出成形体に対応する第一の押出機と、化粧層に対応する第二の押出機とを使用し、薄肉用樹脂組成物を第一の押出機中で溶融混練し、化粧層組成物を第二の押出機中で溶融混練する。各組成物は、各成分を予めドライブレンドし、各押出機のホッパーにこれを供給する。押出機としては、単軸或いは二軸のスクリューを備えたそれ自体公知の押出機が使用される。第一の押出機からの薄肉押出成形体の樹脂流及び第二の押出機からの化粧層の樹脂流は、多層多重ダイ中で合流し、積層状態で空気中に押し出される。その後、積層体の表面を冷却して塩化ビニル樹脂共押出積層体が得られる。
【実施例】
【0029】
本発明を次の実施例で更に説明する。次の実施例は、説明のためのものであり、いかなる意味においても本発明はこれに限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0030】
以下の実施例及び比較例で用いた各種成分は、以下の通りである。
(A)塩化ビニル樹脂(PVC):
(A−1)「ZEST1000」(第一塩ビ社製) 平均重合度1000
(B)炭酸カルシウム:
(B−1)「カルシーズP」(神島化学社製)
脂肪酸処理、平均粒径 0.15μm
(B−2)「NITOREX30P」(日東粉化工業社製)
無処理 、平均粒径 0.7μm
(B−3)「NN200」(日東粉化工業社製)
無処理 、平均粒径 14.8μm
(B−4)「AFF−95」(ファイマテック社製)
カチオン処理 、平均粒径 0.9μm
(C)耐衝撃改良剤:
(C−1)「カネエースFM−53」(カネカ社製;アクリル系ゴム)
(C−2)「エラスレン351TA」(昭和電工社製;塩素化ポリエチレン)
(C−3)「カネエースB−564」(カネカ社製;MBS樹脂)
(D)着色剤
(D−1)酸化チタン粉、平均粒子径 0.25μm
(D−2)酸化鉄粉、平均粒子径 0.7μm
(E)化粧層樹脂:
(E−1)「ZEST1000」(第一塩ビ社製) 平均重合度1000
(E−2)「サンタックET70」(日本A&L社製;ABS樹脂)
(E−3)「アクリペットVH」(菱晃産業社製;アクリル樹脂)
(E−4)「ダイヤラックE610」(UMG ABS社製;ASA樹脂)
(F)その他添加剤:
(F−1)「Ca−Zn系熱安定剤」(堺化学社製)
(F−2)木粉、平均粒子径100μm
【0031】
実施例1〜5、比較例1〜4
表1に示す処方に従って、塩化ビニル樹脂(PVC)、炭酸カルシウム、耐衝撃改良剤その他の添加剤を予めドライブレンドで混合して薄肉用樹脂組成物とした。この組成物を押出機のホッパー中に投入し、155〜190℃のシリンダー温度で溶融混練して押出し、厚さが1mmのシート状の薄肉押出成形体を作製した。得られた成形体について、以下の方法で各種性状を測定し、その結果を表1に示した。
(1)シャルピー衝撃強度(23℃)
JIS K−7111付属書に準拠して測定した。
測定温度:23℃
試験片 :押出成形して得られた成形体をJIS K−7111付属書4に
規定される5号試験片に加工した
試験機 :JIS K−7111付属書2規定の試験機を使用した
【0032】
【表1】
【0033】
実施例と比較例との比較より、炭酸カルシウム粉末の配合量が15〜25質量部(PVC100質量部基準)の範囲にある場合に、特異的にシャルピー衝撃強度が高く、20kJ/m
2以上を満足する。また、配合量が上記範囲内にあっても、炭酸カルシウム粉末の平均粒径が大きい場合には、シャルピー衝撃強度が極端に低下する。
【0034】
実施例6〜10
表1に示す処方に従って、共押出成形機を用いて塩化ビニル樹脂積層体を作製した。下層の薄肉押出成形体の厚みは1mmであり、化粧層の厚みは0.3mmであった。薄肉押出成形体および化粧層用の各組成物の調製は、実施例1〜5と同様に実施した。結果を併せて表1に示す。