(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
日本では、例年、台風の接近や上陸に伴って強風が発生し、この強風により建造物や樹木の倒壊などの被害が生じている。
しかし、台風による強風は、最大風速が60m/s以上となる場合があるものの、この程度の強風では、家屋や樹木の倒壊は生じても、倒壊した建造物の構造物(例えば鉄骨等)の重量物を飛散させるだけのエネルギーは無い。
このため、従来、日本における強風対策は、防風林等により建造物に吹き付ける風を弱めたり、建造物の強度を高くして風圧による倒壊を防止したりすることが主流であった。
【0003】
一方、竜巻が発生した場合、台風以上のエネルギーを有する場合があり、その風速が70m/s以上(F3以上の竜巻)となれば、倒壊した建造物の構造物や自動車が飛散する可能性がある。アメリカ等では、毎年、大型の竜巻が発生しており、大型の竜巻により飛散した建造物などによる大きな被害が発生している。
【0004】
日本でも竜巻の発生は見られるものの、これまで発生していた竜巻は比較的規模が小さいこともあり、竜巻に対する特別な対策は講じられていないのが実情である。
【0005】
しかし、近年、日本でも大型の竜巻が発生するようになり、竜巻による大きな被害が発生している。例えば、竜巻によって建造物の構造物(例えば屋根や壁材)や自動車等が巻き上げられ、その構造物や自動車等が建造物に衝突して建造物が倒壊したり損傷したりする災害が発生している。このため、日本でも、大型の竜巻が発生し建造物の構造物等が飛散した場合において、飛散した構造物等(以下飛来物という)が建造物などに衝突して建造物倒壊や破損等の被害を防止する対策が必要となってきている。
【0006】
かかる対策として、飛来物が建造物等に衝突することを防ぐことが考えられる。例えば、建造物等の周囲に落石防止用ネットなどを設けて、この落石防止用ネットによって飛来物を受け止めて、飛来物が建造物等に衝突することを防ぐ方法が考えられる。
【0007】
この方法の場合、飛来物が建造物等に衝突することを直接防止するので、建造物等を保護する効果が高いものの、落石防止用ネットが建造物等を使用する際の邪魔になる可能性がある。また、建造物等が重油タンク等であれば、消防法の規定から、建造物等の周囲に落石防止用ネットを設けることはできない。
【0008】
一方、建造物等に、飛来物が衝突した際の衝撃力を吸収する構造物を設ければ、建造物等に飛来物が衝突しても、建造物等の損傷を最小限に抑えることができると考える。
しかし、現状では、上述したような構造物、つまり、飛来物が衝突した際の衝撃力を吸収する構造物であって建造物等に設置される構造物は開発されていない。
【0009】
ところで、自動車などでは、衝突時の衝撃力を吸収する技術が多数開発されている(例えば、特許文献1〜4)。
特許文献1〜4などには、筒状の構造物に対して軸方向からの荷重を加えた場合、筒状の構造物が蛇腹状に変形する現象(非特許文献1参照)を利用して、衝突時の衝撃力を吸収する技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の保護構造物は、火力発電所や原子力発電所、製造プラントなどにおける建造物の壁面等に設置されるものであり、飛来物などが建造物の壁面等に衝突した際に、その衝撃を吸収して建造物の損傷を防ぐものである。
【0019】
なお、本発明の保護構造物が取り付けられる建造物等はとくに限定されない。例えば、鉄骨造建屋の鉄骨表面部や鉄筋コンクリート建屋壁面表面などを挙げることができる。とくに、重油などの可燃性燃料を収納するタンクなどのように、消防法の規定などにより、建造物等の周囲に落石防止用ネットなどの防護構造物を設けることできない建造物等に適している。
【0020】
以下では、本発明の保護構造物が取り付けられる建造物が重油タンクの場合を代表として説明する。
【0021】
(本実施形態の保護構造物1)
図3および
図4において、符号Tは、本実施形態の保護構造物1を設置した重油タンクを示している。この重油タンクTは、筒状の本体部TBと、本体部TBの両端に設けられた一対の鏡板TM,TMとから構成されている。
そして、
図3および
図4に示すように、重油タンクTには、本体部TBの表面(下部を除いた部分)および一対の鏡板TM,TMの表面に、本実施形態の保護構造物1が設けられている。以下では、本実施形態の保護構造物1が設けられる表面、つまり、本体部TBの表面および一対の鏡板TM,TMの表面を、単に設置面という。
【0022】
なお、
図3および
図4では、本体部TBの表面下部には本実施形態の保護構造物1が設けられていないが(
図3(B)参照)、もちろん、本体部TBの表面下部にも本実施形態の保護構造物1を設けてもよい。しかし、本体部TBの表面下部は、重油タンクTを土台Bに固定する脚BMが設けられるので保護構造物1を設置しにくく、また、その前面(外方)には、通常、鉄筋コンクリート製の防油堤が設けられており、飛散物が衝突する可能性が低いと考えられる。したがって、重油タンクTを設置する場所の立地条件などを考慮して、本体部TBの表面下部に、適宜、本実施形態の保護構造物1を取り付ければよい。
【0023】
(保護構造物1)
図3および
図4に示すように、本実施形態の保護構造物1は、基礎部材2と、外面部材3と、複数の筒状部10と、を備えている。
【0024】
(基礎部材2および外面部材3)
基礎部材2は設置面に固定される板状の部材であり、その形状が設置面と同じ形状となるように形成されている。同じ形状とは、設置面が上述した本体部TBの表面や一対の鏡板TM,TMの表面は曲面の場合、保護構造物1を設置面に設置したときに、基礎部材2の表面が設置面と略平行曲面となる形状を意味している。
【0025】
外面部材3も板状の部材であり、その形状は基礎部材2と同じ形状となるように形成されている。つまり、外面部材3は、その表面が基礎部材2の表面と平行曲面となるように形成されている。言い換えれば、外面部材3は、保護構造物1を設置面に設置したときに、その表面が設置面と平行曲面となる形状に形成されているのである。
【0026】
(筒状部10)
そして、基礎部材2と外面部材3との間には、複数の筒状部10が設けられている。この複数の筒状部10は、その軸方向の一端(基端)が基礎部材2の外面(設置面と対向する面と逆側の面)に連結されており、その軸方向の他端(先端)が外面部材3の内面(基礎部材2と対向する面)に連結されている。言い換えれば、基礎部材2と外面部材3は、複数の筒状部10によって互いに連結されているのである。
【0027】
図1に示すように、各筒状部10は、断面円形に形成された中空な外側筒状部材11と、断面円形に形成された中空な内側筒状部材12と、から構成されている。各筒状部10は、外側筒状部材11と内側筒状部材12が互いに入れ子状態となるように配設されている。具体的には、各筒状部10は、外側筒状部材11の中空な空間内に、内側筒状部材12が外側筒状部材11と同軸となるように配設されている。つまり、各筒状部10は、外側筒状部材11と内側筒状部材12によって、断面形状が同心円状となるように形成された二重管となっているのである。
【0028】
そして、各筒状部10は、その軸方向が基礎部材2の表面の法線方向(言い換えれば外面部材3内面の法線nv方向)と一致するように配設されており、しかも、隣接する筒状部10同士の間隔がほぼ同じ距離となるように配列されている。例えば、基礎部材2の表面の法線nv方向から見たときに、複数の筒状部10は、格子状や千鳥状に配列されているのである。
【0029】
本実施形態の保護構造物1は、以上のごとき構成を有しているので、保護構造物1を重油タンクTの設置面に設けておけば、飛来物が重油タンクTに向かって飛来してきても、以下の理由により、重油タンクTに加わる力を軽減でき、重油タンクTの損傷を防ぐことができる。
【0030】
まず、本実施形態の保護構造物1を重油タンクTの設置面に設ければ、重油タンクTの表面が保護構造物1によって覆われ、外面部材3が最外面に位置するようになる。この重油タンクTに向かって飛来物が飛来してきても、飛来物はまず保護構造物1の外面部材3に衝突する状況となる。飛来物が外面部材3に衝突すると、外面部材3には衝突エネルギーが加わり、外面部材3を変形させる力および外面部材3を重油タンクTに向かって移動させようとする力が発生する。
【0031】
一方、保護構造物1では、外面部材3の内側に複数の筒状部10が設けられているので、外面部材3に加わる上記力は、飛来物が外面部材3に衝突した位置近傍の筒状部10(以下被加圧筒状部10という)に加わることとなる。このとき、複数の筒状部10は、その軸方向が外面部材3内面の法線方向と一致するように設けられているので、上記力は、主として、被加圧筒状部10の軸方向から被加圧筒状部10を軸方向に沿って圧縮するように加わる。
【0032】
すると、被加圧筒状部10の軸方向から加わる力の大きさが、被加圧筒状部10に軸圧潰を生じさせる力(座屈を生じさせる力)以上となると、筒状部10の外側筒状部材11および内側筒状部材12は軸圧潰を生じる(
図2(A)参照)。すると、外側筒状部材11と内側筒状部材12は座屈を繰り返しながら蛇腹状に折りたたまれて軸方向の長さが短くなるように変形する(
図1(C)、
図2(B)参照)。つまり、被加圧筒状部10に加わるエネルギーは、外側筒状部材11と内側筒状部材12が軸圧潰する際に被加圧筒状部10に吸収されるので、飛来物が外面部材3に衝突した際の衝突エネルギーは被加圧筒状部10によって吸収されることになる。
【0033】
以上のごとく、本実施形態の保護構造物1を設けた場合、飛来物が重油タンクTに向かって飛来してきても、保護構造物1の被加圧筒状部10の変形によって衝突エネルギーを吸収できるので、重油タンクTに加わる力を軽減でき、重油タンクTの損傷を防ぐことができるのである。
【0034】
しかも、本実施形態の保護構造物1は、筒状部10を複数の筒状部材(上記例では一対の筒状部材12,13)によって形成しているので、単に筒状部材を衝撃吸収材として使用した場合に比べて、衝撃吸収効果を改善することができる。例えば、一対の筒状部材12,13の合計板厚と同じ板厚の筒状部材(単管)を使用した場合に比べて、一対の筒状部材12,13からなる筒状部10を有する本実施形態の保護構造物1は、衝撃吸収効果を改善することができるのである。つまり、本実施形態の保護構造物1は、筒状部10を複数の筒状部材が入れ子状態となるように形成しただけであるが、単純に筒状部材(単管)を衝撃吸収材として使用する場合に比べて、衝撃吸収効果を改善することができるのである。
なお、本明細書において、合計板厚とは、筒状部10を構成する全ての筒状部材の板厚を足しあわせたものを意味している。
【0035】
例えば、約100kgの鉄骨材が風速100m/sクラスの竜巻の風によって飛来物として衝突する場合を考えると、この場合、飛来物が建造物等に衝突する際の衝突力は30G程度になる。
かかる場合に、外径80mmかつ板厚か5〜7mmのアルミ製のパイプ(単管、長さ170mm)を衝撃吸収部材として使用した場合には、重油タンクTに加わる衝撃力を2G以下に低減することはできない。
一方、被加圧筒状部10の内側筒状部材12として、アルミ製のパイプ(外径50mm、内径44〜46mm(板厚t=2〜3mm)、長さ170mm)のものを使用し、外側筒状部材11として、アルミ製のパイプ(外径80mm、内径72〜74mm(板厚t=3〜4mm)、長さ170mm)のものを使用する。すると、被加圧筒状部10の合計板厚は上記単管と同じであっても、衝突エネルギーを保護構造物1で吸収し、重油タンクTに加わる衝突力を2G以下程度まで低減することができる。
【0036】
そして、筒状部10を複数の筒状部材が入れ子状態となるように形成した場合、蛇腹状に軸圧潰する際に、筒状部材(単管)の場合に比べて、荷重変動の幅を小さくできる(
図9(B)参照)。上記のごとき筒状部10を設計する場合、筒状部10の変形(軸圧潰)の際の荷重変動(つまり吸収性能)を数値計算により確認するが、かかる数値計算では、通常、変形(軸圧潰)過程における荷重は一定値となるものとして仮定して数値計算が実施される。このため、軸圧潰の際の荷重変動の幅が小さくなれば(荷重変動がなめらかになれば)、実機と数値計算の結果(設計)との差を小さくできる。つまり、筒状部10を複数の筒状部材が入れ子状態となるように形成した場合、筒状部材(単管)の場合に比べて荷重変動の幅が小さくなるので、実機における筒状部10の性能を設計段階でより精度よく評価できる。言い換えれば、筒状部10を複数の筒状部材が入れ子状態となるように形成した場合には、筒状部10をより設計に近い性能のものとすることができるので、筒状部10に所望の性能を発揮させることができるという利点も得られる。
【0037】
(内側筒状部材12と外側筒状部材11の配置)
なお、内側筒状部材12および外側筒状部材11は、その外径(内径)や板厚はとくに限定されず、内側筒状部材12を外側筒状部材11内に配置したときに、両者間にある程度の隙間ができるように配設できればよい。両者間にある程度の隙間ができるとは、外側筒状部材11と内側筒状部材12が蛇腹状に変形できる程度の隙間を意味している。つまり、「両者間にある程度の隙間」が形成されている場合は、上述したように、内側筒状部材12と外側筒状部材11が同軸となるように配置され、内側筒状部材12の外面と外側筒状部材11の内面との間に均等な隙間が形成されるようになっている場合に限られない。
【0038】
例えば、内側筒状部材12の外面と外側筒状部材11の内面は接触していないが、周方向の位置によって隙間の大きさが異なる状態も、「両者間にある程度の隙間」が形成されている場合に該当する。また、内側筒状部材12の外面と外側筒状部材11の内面の一部が接触していても、両者が接触していない部分(隙間)が形成されており、内側筒状部材12が蛇腹状に変形できるのであれば、その状態も本明細書における「両者間にある程度の隙間」が形成されている場合に該当する(
図6(C)、(D)参照)。
【0039】
なお、内側筒状部材12と外側筒状部材11は、両者間の隙間が、内側筒状部材12および外側筒状部材11が軸圧潰したときに、両者が接触しない程度の隙間となるように配設されていることが望ましい。つまり、内側筒状部材12および外側筒状部材11が軸圧潰しても、内側筒状部材12の外面と外側筒状部材11の内面が非接触状態に保たれる程度の隙間となるように、外側筒状部材11内に内側筒状部材12が配設されていることが望ましい(
図1(C)、
図2(B)、(C)参照)。すると、内側筒状部材12と外側筒状部材11が軸圧潰した際に、両者ともスムースに変形させることができるので、衝突エネルギーを吸収する効率を高くすることができるという利点が得られる。
【0040】
また、内側筒状部材12と外側筒状部材11の相対的な位置を保っておくため、または、内側筒状部材12と外側筒状部材11の相対的な位置を正確に位置決めするために、内側筒状部材12と外側筒状部材11の間の隙間にスペーサーを設けてもよい。かかるスペーサーを設ければ、筒状部10を複数設けた場合に、どの筒状部10もほぼ
同じ状態とできるので、どの筒状部10もほぼ
同じ状況で軸圧潰させることができる。そして、スペーサーを設ければ、筒状部10を設置する際に、内側筒状部材12と外側筒状部材11の相対的な位置がズレることを防ぐことができるので、筒状部10の設置作業が行い易くなるという利点も得られる。かかるスペーサーの形状などはとくに限定されず、内側筒状部材12と外側筒状部材11が軸圧潰する邪魔とならなければよい。例えば、薄い波板を内側筒状部材12と外側筒状部材11の間に配置して、スペーサー15とすることができる(
図6(A)、(B)参照)。この場合、スペーサー15を設ける位置はとくに限定されず、
図6(A)、(B)に示すように、スペーサー15を3箇所設けてもよいし、上下方向の中間のスペーサー15bだけを設けたり、上下の二箇所のスペーサー15a,cだけを設けたりしてもよい。
【0041】
(筒状部10の材料について)
なお、筒状部10の内側筒状部材12および外側筒状部材11は、中空な円筒状の部材であって、軸方向から加圧された際に軸圧潰して蛇腹状に変形するものであればよく、とくに限定されない。例えば、上述したようなアルミ製のパイプや鋼管、ステンレス管を、内側筒状部材12および外側筒状部材11として使用することができる。
【0042】
とくに、内側筒状部材12や外側筒状部材11として、市販のアルミ製のパイプを使用すれば、安価かつ迅速に保護構造物1を重油タンクT等に設置できるという利点も得られる。例えば、重油タンクTに保護構造物1を設ける場合には、上述した性能(30Gの衝突力を2G程度以下に低減する性能)を維持するには、筒状部10を4万本程度設けなければならない。すると、市販品以外のもの(特注品など)を使用した場合、製品の納期が非常に長くなり、また、製品のコストも非常に高くなる。しかし、市販のアルミ製のパイプなどを使用すれば、入手が容易でありしかも安価に入手できるので、安価かつ迅速に保護構造物1を重油タンクT等に設置できる。
【0043】
また、上記例では、筒状部10の内側筒状部材12と外側筒状部材11は、内径以外は同じものを使用しているが、内径以外(例えば素材や板厚など)が異なるものを使用してもよい。
【0044】
(軸長変更)
また、重油タンクTに加わる衝突力を低減する上では、内側筒状部材12と外側筒状部材11の長さが異なるものとするほうが望ましい。
【0045】
飛来物が保護構造物1に衝突した際において、飛来物が保護構造物1に衝突した後、被加圧筒状部10が変形を開始する前(変形前期間)の期間は、被加圧筒状部10は剛体のように機能するので、保護構造物1に加わった力は、被加圧筒状部10を介してそのまま重油タンクTに加わる。そして、変形前期間は、飛来物から保護構造物1に加わる力が増加するので、重油タンクTに加わる力も増加する(
図9参照)。とくに、変形前期間の終了直前は、通常、変形前期間と被加圧筒状部10が蛇腹状に変形している期間(変形期間)を含めて最大の力が重油タンクTに加わる。したがって、飛来物が保護構造物1に衝突したのち、できるだけ低い荷重で被加圧筒状部10が変形を開始するようになっていることが望ましい。
【0046】
上述したように、内側筒状部材12と外側筒状部材11の長さを異なるものとすれば、飛来物が保護構造物1に衝突した際には、一方の筒状部材だけに力が加わる。すると、筒状部材の変形を低い荷重で開始させることができるので、変形前期間に重油タンクTに加わる力を小さくすることができ、この期間に重油タンクTが損傷することを防ぐことができる。
【0047】
例えば、
図5に示すように、外側筒状部材11を内側筒状部材12よりも長くする。この場合、飛来物が衝撃した際の力Fは、まず、外側筒状部材11にのみ加わる。すると、外側筒状部材11のみが力Fを受けるので、内側筒状部材12と外側筒状部材11の両方に力が加わる場合に比べて、小さい力で外側筒状部材11の軸圧潰が発生する(
図5(B))。したがって、変形前期間において重油タンクTに加わる力を小さくすることができる。
【0048】
なお、上記構成(外側筒状部材11が内側筒状部材12よりも長い)の場合、外側筒状部材11が小さい力で変形してしまうので、外側筒状部材11のみが変形している期間に吸収できる衝突エネルギーは小さい。しかし、外側筒状部材11が変形して内側筒状部材12と同じ長さになれば、それ以降は外側筒状部材11と内側筒状部材12の両方が変形し、両者の軸圧潰によって衝突エネルギーを吸収できる(
図5(C)参照)。したがって、外側筒状部材11を内側筒状部材12よりも長くしても、外側筒状部材11と内側筒状部材12とが同じ長さである場合と同等程度の大きさの衝突エネルギーを吸収することができる。
【0049】
また、上記例では、外側筒状部材11が内側筒状部材12よりも長い場合を説明したが、内側筒状部材12を外側筒状部材11よりも長くしても、同様の効果を得ることができる。
【0050】
(配列の他の例)
上記例では、複数の筒状部10が、保護構造物1の規則的に配列されている場合を説明したが、複数の筒状部10の配列方法はとくに限定されず、ランダムに配列してもよい。また、保護構造物1の場所によって配列方法や密度を変化させてもよい。この場合、構造物の強度や保護する部分の重要度に合わせて、その部分に適した保護構造物1を形成することができる。例えば、重要度の低い部分や強度の高い部分の表面に設置する保護構造物1では、複数の筒状部10を設置する密度を低くする(数を減らす)、また、複数の筒状部10の筒状部材の板厚を薄くする等にすれば、保護構造物1を軽量化できるし製造コストを低減することができる。
【0051】
(異なる筒状部10)
また、複数の筒状部10は、全て同じ構造の筒状部10を使用する必要はなく、異なる構造の筒状部10を使用してもよい。重要度の低い部分や強度の高い部分の表面に設置する保護構造物1では、初期荷重に対する変形性を低下させたものを使用してもよい。例えば、内側筒状部材12や外側筒状部材11の板厚を厚くすれば、衝突初期における筒状部10の変形性を低下させる(軸圧潰の開始を遅くする)ことができる。逆に、初期荷重に対する変形性を向上させるのであれば、内側筒状部材12や外側筒状部材11の板厚を薄くすれば、衝突初期から軸圧潰を迅速に進めることができる。
【0052】
(多重管)
また、上記例では、筒状部10が、内側筒状部材12と外側筒状部材11を有する二重管の場合を説明したが、筒状部10は、筒状部材を3本以上入れ子状態にした多重管としてもよい。この場合でも、筒状部材の本数を調整すれば、保護構造物1を設置する建造物等や想定される飛来物の種類に合わせて、保護構造物1に吸収させる衝突エネルギーを調整できる。また、上述した二重管の場合と同様に、長さの異なる筒状部材を設ければ、衝突初期から軸圧潰を迅速に進めることができる。さらに、各筒状部材の板厚などの組み合わせを調整すれば、保護構造物1を設置する建造物等や想定される飛来物の種類に合わせて、保護構造物1に吸収させる衝突エネルギーを調整できる。
【0053】
(保護部材1の設置例)
なお、上記例では設置面が曲面の場合を説明したが、設置面が平面の場合であれば、基礎部材2や外面部材3は、その表面が設置面と平行面となるように形成すればよい。
【0054】
また、基礎部材2や外面部材3は、必ずしもその表面が設置面と平行面や平行曲面となっていなくてもよく、設置対象の形状や周囲の状況に応じて適切な形状とすればよい。例えば、設置対象の近傍に障害物(木や他の構造物)がある場合には、その構造物と接触しないように基礎部材2や外面部材3の形状を調整すればよい。
しかし、基礎部材2や外面部材3の表面が設置面と平行面や平行曲面となるように形成されていれば、設置面への保護構造物1の設置が容易になるし、保護構造物1を設置面に安定した状態で固定することができる。また、衝撃荷重を均等に被保護設備に伝えるという点でも好ましい。
【0055】
さらに、保護部材1は、他の部材に設置せず、単独で使用してもよい。例えば、複数の保護部材1を、基礎部材2と外面部材3によって平面が形成されるように並べて板状や箱状の部材を形成すれば、複数の保護部材1からなる防護プレートを形成することができる。
【0056】
また、基礎部材2と外面部材3を設けずに、筒状部10を保護部材1として直接対象物の表面に取り付けてもよい。この場合には、基礎部材2や外面部材3を設ける場合に比べて保護部材1を軽量化できるので、保護部材1を設置する建造物等への負担を軽減できるという利点が得られる。
【0057】
さらに、
図7に示すように、中空な箱状の部材23の中に、保護部材1として筒状部10だけを収容して防護部材22を形成してもよい。具体的には、箱状の部材23の対向する2壁23a,23bの間に、2壁23a,23bの法線方向と筒状部10の軸方位が平行となるように、複数の筒状部10を並べて配置する。すると、防護部材22に対して、2壁23a,23bの法線方向から他の物体が衝突すると、複数の筒状部10が軸圧潰して、衝突エネルギーを吸収することができる。例えば、
図7に示すように、井桁状に形成された枠21を設け、この枠21に防護部材22を取り付ければ、複数の防護部材22を有する防護プレート20を形成することができる。かかる防護プレート20を保護したい壁面などの前に設置すれば、飛散物などの衝突から壁面などを保護することができる。
【0058】
さらに、筒状部10と基礎部材2だけ、または、筒状部10と外面部材3だけで、保護部材1を構成してもよい。筒状部10と基礎部材2だけで保護部材1を構成した場合には、保護部材1の設置を容易にしつつ軽量化が可能となるという利点が得られる。また、筒状部10と外面部材3だけで保護部材1を構成した場合には、軽量化しつつ筒状部10がむき出しの場合に比べてエネルギーを分散して複数の筒状部に吸収させることができるし外観を向上させることができるという利点が得られる。
【実施例】
【0059】
本発明の保護部材の衝突エネルギー吸収性能を確認するために、保護部材を構成する筒状部に軸方向から荷重を加えた場合における、筒状部の変形と荷重との関係を確認した。
【0060】
実験では、種々の筒状部を形成し、各筒状部を軸方向から荷重を加えて加圧圧縮して、筒状部の変形(圧縮量)と筒状部に加える荷重との関係を測定した(
図8参照)。
実験には、圧縮試験機(島津製作所製:油圧式RH竪型)に筒状部を取り付けて、圧縮荷重を加えた。圧縮試験中の圧縮量および荷重は、圧縮試験機に設けられているロードセル及びダイヤルゲージによって測定した。
【0061】
試験は、以下の4通りの試験を行った。
(1)2重管の挙動を確認する試験
(2)板厚の相違の影響を確認する試験
(3)軸長を変化させた場合の影響を確認する試験
(4)スペーサーの影響を確認する試験
【0062】
(1)2重管の挙動を確認する試験
筒状部として2重管を使用した場合において、軸方向から荷重を加えて加圧圧縮した場合における圧縮量および荷重の変化を比較した。
【0063】
筒状部は、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚3mm、長さ170mm)内に、アルミ製のパイプ(外径50mm、板厚3mm、長さ170mm)を入れて2重管(合計板厚6mm)としたもの(実施例1)と、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚3mm、長さ170mm)内に、アルミ製のパイプ(外径50mm、板厚2mm、長さ170mm)を入れて2重管(合計板厚5mm)としたもの(実施例2)を使用した。
比較対象となる1重管には、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚5mm、長さ170mm、比較例1)のものと、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚4mm、長さ170mm、比較例2)のものを使用した。
【0064】
図9(A)に結果を示す。
なお、いずれの場合も圧縮量110mm以降に荷重が急激に増加しているのは、それ以上圧縮できない状況(
図1(C)の状態)となったからである。
【0065】
図9(A)に示すように、実施例1および比較例1、2とも、圧縮量の増加に伴って、荷重が波形に変動することが確認できる。そして、実施例1は、ピークの荷重が、比較例1、2の間の大きさとなるように変動している。
実施例1のパイプは、個々のパイプの厚さが比較例1,2よりも薄いが合計の厚さが比較例1,2よりも厚いことを考慮すれば、上記結果は、パイプの組み合わせを調整すれば、荷重に対する所望の挙動を示す筒状部を形成できる可能性があることを示していると考えられる。
【0066】
また、
図9(B)に示すように、実施例2の合計板厚と比較例1の板厚は同じであるが、その挙動は異なっている。
まず、最初のピークの荷重は、実施例2の方が若干小さくまた早期に座屈を開始している。つまり、合計板厚が同じであれば、単管パイプに比べて、多重管は、初期荷重に対する衝撃吸収性能が高いことが確認できる。
つぎに、最初のピーク後の挙動を比較すると、比較例1に比べて実施例2は変動周期が短い。しかも、各周期の山となる部分の荷重は、実施例2は、比較例1のピーク荷重に比べて20〜30%程度小さくなっている。しかも、比較例1では、各周期の山となる部分の荷重が最初のピークの荷重と同程度であるのに対し、実施例2では、各周期の山となる部分の荷重が最初のピークの荷重よりも30〜40%程度小さくなっている。このことから、座屈が生じた後、蛇腹状に変形していく過程において、合計板厚が同じであれば、単管パイプに比べて、多重管は、小さくかつなめらかな荷重変動で衝撃を吸収していることが確認できる。
そして、最終的な圧縮量では、比較例1に比べて実施例2は15mm以上大きく圧縮されている。つまり、合計板厚が同じであれば、多重管は、トータルでの衝撃吸収量が大きくなることが確認できる。
【0067】
以上のように、合計板厚と同じ板厚を有する単管パイプに比べて、多重管では、総合的に衝撃吸収性能が高いことが確認できる。
【0068】
(2)板厚の相違の影響を確認する試験
筒状部として2重管を使用した場合であって、各管の板厚が衝撃吸収に与える影響を確認した。実験では、2つの管の合計板厚を同じにして、各管の板厚を変化させて比較した。
【0069】
以下の実施例3、4では、合計板厚が6mmとなるように調整した。
筒状部(実施例3)は、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚3mm、長さ170mm)内に、アルミ製のパイプ(外径50mm、板厚3mm、長さ170mm)を入れて2重管としたものを使用した。
筒状部(実施例4)は、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚4mm、長さ170mm)内に、アルミ製のパイプ(外径50mm、板厚2mm、長さ170mm)を入れて2重管としたものを使用した。
【0070】
以下の実施例5、6では、合計板厚が7mmとなるように調整した。
筒状部(実施例5)は、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚4mm、長さ170mm)内に、アルミ製のパイプ(外径50mm、板厚3mm、長さ170mm)を入れて2重管としたものを使用した。
筒状部(実施例6)は、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚5mm、長さ170mm)内に、アルミ製のパイプ(外径50mm、板厚2mm、長さ170mm)を入れて2重管としたものを使用した。
【0071】
図10(A)、(B)に結果を示す。
【0072】
図10(A)に示すように、実施例3、4は、変動周期や谷となる荷重に差は見られるものの、最初のピーク荷重以降は、ピーク荷重はほぼ同じであり、近似した挙動を示していることが確認できる。
【0073】
一方、
図10(B)に示すように、実施例5、6では、両者間においてピーク荷重に大きな差が生じており、板厚5mmのパイプを使用した実施例6では、実施例5に比べて、全てのピークでピーク荷重が大幅に大きくなっている。また、実施例6では、圧縮量が105mm程度となったときに荷重が急激に増加している。実施例5では、荷重が増加するタイミングが圧縮量110mm以降であることを考慮すると、実施例6では、圧縮できる量も少なくなっていることが確認できる。
【0074】
以上の結果を考慮すると、組わせるパイプの板厚が同程度であれば、合計板厚を同じにすれば、圧縮したときに近似した挙動を生じることが確認できた。
一方、板厚が厚いパイプ(つまり圧縮荷重に対する強度が高いパイプ)を使用すると、板厚が厚いパイプの性質の影響を強く受けるので、合計板厚が同じでも、圧縮したとき挙動が異なってくることが確認できた。
【0075】
参考までに、合計板厚が7mmとなるように、筒状部を3重管とした場合の結果を
図11(A)に示す。3重管としても、軸方向の荷重を加えれば荷重が波形に変動し、各パイプは蛇腹状に変形することが確認できる。
一方、合計板厚が同じでも、3重管では、ピーク荷重などが実施例5、6(2重管)と若干相違する。これは、合計板厚を同じにしても、筒状部を構成する管の本数や板厚を調整すれば、荷重に対する所望の挙動を示す筒状部を形成できる可能性があることを示していると考えられる。
【0076】
(3)軸長を変化させた場合の影響を確認する試験
筒状部として2重管を使用した場合であって、軸長の異なるパイプを使用した場合における衝撃吸収の状況を確認した。
【0077】
筒状部(実施例7)は、アルミ製のパイプ(外径80mm、板厚3mm、長さ170mm)内に、アルミ製のパイプ(外径50mm、板厚3mm、長さ165mm)を入れて2重管としたものを使用した。つまり、内側の管が短くなったものを使用した。
【0078】
図11(B)に結果を示す。
比較のために、実施例1の結果を同じグラフに記載している。
図11(B)に示すように、実施例7では、実施例1に比べて初期のピーク荷重が小さくなっており、パイプの変形が小さい荷重で早く始まっていることが確認できる。
一方、圧縮量が5mmを超えると、それ以降は実施例1と実施例6の挙動はほぼ同じ挙動を示している。
【0079】
以上の結果より、2重管の軸長を変化させると、荷重が加わった初期における衝撃吸収性能を高くすることができることが確認できた。
【0080】
(4)スペーサーの影響を確認する試験
2重管とした場合において、横断面における外側の管と内側の管の位置が衝撃吸収の状況に与える影響を確認した。
【0081】
実験では、実施例1と同じパイプを使用し、波板(板厚0.4mm)をスペーサーとして外側の管と内側の管の隙間に配置した場合(実施例8、9、
図6(A)、(B)参照)と、内側の管が外側の管に接触するように配置した場合(実施例10、
図6(C)、(D)参照)と、について、圧縮した場合の挙動を確認した。
なお、実施例8ではスペーサーはパイプの軸方向の中間に一枚だけ配置し、実施例9ではスペーサーはパイプの軸方向の上下に一枚ずつ(合計2枚)配置した。
【0082】
図12に結果を示す。
図12に示すように、実施例8〜10は、ほとんど同じ挙動を示していることが確認できる。また、実施例1の挙動(
図9(A)参照)と比較しても、ほとんど同じ挙動であることがわかる。
【0083】
以上の結果より、各管が蛇腹状に変形できるのであれば、外側の管と内側の管の位置やスペーサーは、衝撃吸収性能への影響を小さいことが確認できた。
ただし、実施例10では、圧縮量が100mm以降において、他の実施例に比べて荷重が高くなっているので、内側の管と外側の管が接触している場合には、若干、衝撃吸収性能に影響が生じると推察される。