【実施例】
【0032】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0033】
図1は、実施例のインクジェット記録装置を含む自動印字システムの一例の概略を示す図である。図示の自動印字システム1は、実施例のインクジェット記録装置2、ワーク検出センサ4、搬送速度センサ6及びディスプレイ装置8などで構成されている。
【0034】
インクジェット記録装置2は一般的に「インクジェットプリンタ」と呼ばれていることから、このインクジェットプリンタという用語を使って説明すると、インクジェットプリンタ2は、ワーク搬送ライン10に設置されてワーク搬送ライン10を流れるワークWに文字や図形を印字するのに用いられる。印字対象物であるワークWは、例えば電子部品、プラスチック袋などである。ワーク検出センサ4は、ワークWの有無を検出して印字を開始するトリガを出力し、このトリガ信号を受けてワークWに対する印字が開始される。
【0035】
インクジェットプリンタ2は、ワーク搬送ライン10の近傍に設置されるコントローラ本体200と、ワーク搬送ライン10に設置されるヘッド300とを有し、コントローラ本体200とヘッド300とは可撓性チューブアッセンブリ12によって連結されている。コントローラ本体200とヘッド300とは、これらの間で速乾性のインク液が循環され、そして、ヘッド300は、次々と搬送されてくるワークWに対してドット印字を実行する。
図1の矢印はワークWの搬送方向を示す。
【0036】
図2はヘッド300を斜め前方から見た図である。このヘッド300は、上から下に向けて順に配置された、キャノン(加圧器)306、ノズル302、帯電電極308、帯電検出センサ310、偏向電極312、ガター304を有している。キャノン306は、コントローラ本体200から供給されたインクを加圧するための機能を有している。ノズル302には、その吐出口から鉛直方向下向きに吐出されるインク液に上下振動を与えるためのデバイス(例えばピエゾ素子)が設けられ、この振動によりノズル302から吐出されるインク液が粒子化される。
【0037】
キャノン306はGNDに接地され、他方、帯電電極308には電位が印加される。この帯電電極308は、ノズル302から吐出されたインク液Inが粒子化するブレークポイントに対応して位置しており、このブレークポイントが帯電電極308の所定の位置になるようにインク液Inの粘度が調整される。
図2中、参照符号「Ip」は粒子化したインク粒を示す。
【0038】
制御されたパルス電位が帯電電極308に印加される。後に説明するインク粒の偏向量を大きくするために(偏向量が小さいときに比べて)帯電電極308に相対的に高い電位が印加される。すなわち、帯電電極308の印加電位(正電位)を高めることでインク粒Ipの帯電量(負電位)が大きくなり、後に説明する偏向電極312によるインク粒Ipの偏向量が大きくなる。帯電検出センサ310は、インク粒Ipの帯電状態を検出してインク粒Ipが適切に帯電しているか否かを監視する。
【0039】
偏向電極312は、インク粒Ipを帯電量に応じて偏向させるための一対の対向電極で構成されている。ここでは、数千ボルトの電圧が偏向電極312間に印加される。帯電状態のインク粒Ipは、偏向電極312間を通過する間に、インク粒Ipに作用する静電力によって進行方向が変化(偏向)し、そしてインク粒Ipの帯電量が高い程インク粒Ipの偏向量が大きくなる。ここにノズル302が吐出するインク液Inの吐出方向つまりこの実施例では鉛直方向下向きをx軸方向と呼び、このx軸を横断する横方向をy軸方向と呼ぶと、
図2に示すy軸方向とは逆方向にインク粒Ipが偏向される。
【0040】
インク粒Ipの偏向量を制御することによりワークWに対して印字が行われる。印字に関与しないインク粒Ipはガター304の中に落下して、このガター304によってインク粒Ipが捕捉される。
【0041】
図3は、ヘッド300の洗浄に関連した要素を主に抽出した回路図である。コントローラ本体200は、従来と同様に、速乾性のインク液を収容したメインタンク202、回収したインク液や洗浄液(溶剤)を収容したコンディショニングタンク204、メインタンクに補充するためのインク液を収容したインクタンク206、溶剤(洗浄液:メチルエチルケトン(MEK))を収容した補充液タンク208とを有する。補充液タンク208の溶剤はメインタンク202のインク液の濃度調整つまり粘度調整に用いられる。
【0042】
メインタンク202のインク液Inは循環ポンプ210によってコントローラ本体200の中を常時循環されている。また、メインタンク202のインク液Inはインクポンプ212によってヘッド300に送られる。そして、ガター304で捕捉したインク粒Ipは、コントローラ本体200に設けられたガターポンプ214によって吸引され、このガターポンプ214からコンディショニングタンク204又はメインタンク202に送られる。すなわち、このインクジェットプリンタ2はコンティニュアス方式のプリンタである。
【0043】
インクジェットプリンタ2の動作を終了する前にシステムの立ち下がり処理が実行される。立ち下がり処理では、先ず、キャノン306からインク液を抜き取る処理が行われる。このインク液の抜き取りは循環ポンプ210の吸引によって行われる。
【0044】
次いで洗浄工程が実行される。具体的には、補充液タンク208によって補充液タンク208の洗浄液を電磁式の開閉弁216を経由してキャノン306に供給してキャノン306の洗浄が行われる。また、この洗浄液をガター304で受け取って、ガター304内の洗浄液をガターポンプ214で吸引することによりガター304とガターポンプ214の経路の洗浄が行われる。そして、洗浄液をキャノン306に送るのを停止した状態(開閉弁216をOFF)でガターポンプ214の動作を継続することによりガター304とガターポンプ214との間の経路に残っている洗浄液の回収及び経路の乾燥が行われる(回収乾燥工程)。なお、ここでいう「回収乾燥工程」は、経路を乾燥させる目的も含まれるが、本発明はこれに限られず、単に洗浄液を回収することを目的とする「回収工程」が行われてもよい。
【0045】
図3の参照符号218は、ガター304とガターポンプ214との間に介装された電磁式の開閉弁を示す。このガターポンプ214に関連した開閉弁218とガター304とは可撓性ガターチューブ220によって連結されている。
【0046】
可撓性ガターチューブ220は従来からPTFEチューブが採用されている。PTFEチューブは、高温時の耐圧性に優れている。最も好ましくは、ガターチューブ220は、従来から採用されているPTFEチューブと同じ内径のPFAチューブを採用するのがよい。このPFAチューブは高温時の耐圧性ではPTFEチューブよりも劣るが、このガターチューブ220が配設されている部分は高温に晒されることはなく且つ高圧下の環境ではないため、PFAチューブを採用しても実用上支障はない。
【0047】
PFAチューブは、製造法の相違に起因してPTFEチューブよりも表面が平滑であり撥水性に優れている。別の言い方をすれば、PFAチューブは、濡れ性が大きいといってもよいし、接触角が大きいといってもよい。ガターチューブ220に、PTFEチューブよりも濡れ性又は接触角が大きいPFAチューブを採用することにより、このガターチューブ220に残留する洗浄液の閉塞膜つまりチューブを横断する洗浄液塊MSができ易くなるという利点がある。
【0048】
実施例のインクジェットプリンタ2は、立ち下げ処理の乾燥工程で、ガターチューブ220内を流れる洗浄液の流量を制限する制御が行われる。この流量制限は、乾燥工程を一定時間行った後に流量制限を行うようにしてもよいし、洗浄液の回収速度が低下するという欠点があるが乾燥工程の最初から流量制限を行ってもよい。
【0049】
ここに流量制限とは、インクジェットプリンタ2が印字を実行する通常運転のときのガターチューブ220の流量との対比で、これよりも少ない流量(例えば50%、30%、25%)に抑えることを意味している。この流量制限の目的は、
図4を参照して、ガターチューブ220に残留している洗浄液塊MS(この洗浄液塊MSには洗浄液だけでなくインク液が混入している)つまりガターチューブ220を横断してガターチューブ220を閉塞した状態の洗浄液の膜を破壊させない(膜切れさせない)でこの洗浄液塊MSを移動させることにある。換言すれば、
図9を参照して前述した移動する洗浄液塊MSから千切れてチューブ220の壁面に残る洗浄液CSの発生を極力抑えた状態つまり洗浄液塊MSが極力そのままの形状を保った状態で、この洗浄液塊MSを移動させるのが理想である(
図4)。
【0050】
このメカニズムを単純化して理論的に説明すると、表面張力による洗浄液やインク液の凝集力と、ガターチューブ220の壁面とインク液又は洗浄液との間のせん断応力とのバランスによって洗浄液塊MSを理想的に吸引できるか否かが決まる。凝集力がせん断応力よりも大きい限り、洗浄液塊MSはその形状を維持しながら移動できる(凝集力>せん断応力)。このことから、チューブ220として、PTFEチューブよりも撥水性(接触角、濡れ性)に優れたチューブとしてPFAチューブを採用した方が洗浄液塊MSの形状を維持し易いと言える。
【0051】
上記凝集力よりも上記せん断応力の方が勝ると、洗浄液塊MSが移動する過程で、壁面との境界で洗浄液の分断が発生する。これによりチューブ220の壁面に洗浄液CSが残ってしまう。一般的に、せん断応力は、液体の粘度が一定であれば、液体の速度に比例することが知られている。したがって、洗浄液塊MSの移動速度が遅ければ上記せん断応力を小さな値に抑えることができる。そして、これにより洗浄液塊MSから分離して壁面に残る洗浄液CSが極力無い状態で洗浄液塊MSを回収できる。
【0052】
換言すれば、ガターチューブ220と接触しながら移動する洗浄液塊MSが、その移動過程でチューブ壁面と接触している外周部分が引き千切られるのを抑える目的で、洗浄液塊MSの移動速度を遅くする制御を行えばよい。洗浄液塊MSの移動速度が遅ければ、洗浄液塊MSの外周部分が引き千切られずに、この外周部分がチューブ壁面の表面張力による凝集力で洗浄液塊MSに戻る時間的な余裕を与えることができる。
【0053】
洗浄液塊MSの移動速度を抑制する手段として、ガター304からガターポンプ214に至る吸引経路にオリフィスを設けてもよい。この吸引経路のオリフィスをバイパスするバイパス経路を更に設け、印字を行う通常運転時にはバイパス経路を使い、洗浄工程や乾燥工程ではバイパス経路を閉じて、オリフィスを通じて洗浄液を回収するようにしてもよい。
【0054】
洗浄液塊MSの移動速度を抑制する手段として、典型的には、ガターポンプ214の吸引能力を低下させる制御を加えるのがよい。
【0055】
ガターポンプ214はダイアフラム式ポンプのように脈動を発生するポンプよりもギアポンプのように脈動が比較的小さいポンプの方が好ましいが、脈動を発生するポンプを採用するときには、その吸引流速を設定するのに瞬間的な最大流量に基づくのがよい。例えば平均速度でダイアフラム式ポンプの流量を設定したときには、瞬間的な大きな流量によって洗浄液塊MSを破壊してしまう可能性が大きくなる。
【0056】
ガターチューブ220と同じチューブを使って、25℃の環境下で試験的に流量と洗浄液の状態を観察した実測値を説明すると次のとおりであった。使用したガターチューブ220はPFAチューブであった。使用した液体はMEK(メチルエチルケトン)であった。
【0057】
(1)インクジェットプリンタ2が印字を実行する通常運転のときに必要とされる最小流量は70cc/min.であった。
(2)ガターチューブ220に洗浄液の残液を残すことなく吸いきれる最大流量は15cc/min.であった。
【0058】
(3)ガターチューブ220に洗浄液が残るか否かの境界の流量は17cc/min.であった。
(4)ガターチューブ220に洗浄液が残ってしまう流量は20cc/min.であった。
【0059】
勿論、上記の(1)〜(4)の数値は環境温度、使用する洗浄液の粘度、ガターチューブ220の曲がり方などによって変化するのは言うまでもない。ここに、上記(2)、(3)の流量は、例えばガターポンプ214としてダイアフラム式ポンプを採用したときには、その瞬間的な最大流量を意味する。勿論、上記(1)の通常運転のときに必要とされる最小流量は平均流量を意味している。
【0060】
上記(1)〜(4)に挙げた数値は、あくまで試験的な実験結果に過ぎない。これを目安にインクジェットプリンタ2での流量制限の最適値を求めて、この最適値を設定すればよい。
【0061】
この最適値の設定において、ガターチューブ220に残留する洗浄液のゼロを目指してもよいが、残留する洗浄液の量を従来よりも少なくして実用上支障のない程度まで低減することを目指してもよい。例えば、ガターチューブ220の壁面に付着した洗浄液CSが集合しても閉塞膜を形成できない程度の残留を許容するのであれば、例えば、インクジェットプリンタ2が印字を実行する通常運転時のガターポンプ214の吸引能力(流量)の50%の値を実用上の最適値として設定してもよい。換言すれば、吸引能力を通常運転時の50%以下とすることが好ましい。
【0062】
図5は、ガターポンプ214の制御の一例を説明するためのフローチャートである。この制御はコントローラ本体200が具備する電子式の制御部によって行われる。この制御部は、プロセッサ及びメモリを有しており、ガターポンプ214に対して所定の制御信号を送信することにより、ガターポンプ214の吸引能力を制御することができる。
【0063】
このフローチャートの制御例は、ガターポンプ214としてギアポンプを採用したインクジェットプリンタ2に関する。
【0064】
インクジェットプリンタ2の運転を停止する前に行われる立ち下げ処理は、前述したように、補充液タンク208の洗浄液を電磁式の開閉弁216を経由してキャノン306に供給してキャノン306の洗浄が行われる。また、この洗浄液をガター304で受け取って、ガター304内の洗浄液をガターポンプ214で吸引することによりガター304とガターポンプ214の経路の洗浄が行われる。そして、電磁式の開閉弁216を閉弁して洗浄液をキャノン306に送るのを停止した状態でガターポンプ214の動作を継続することによりガター304とガターポンプ214との間の経路に残っている洗浄液の回収が行われる(回収乾燥工程)。
【0065】
図5のフローチャートは、電磁式開閉弁216をOFFにした後の回収乾燥工程の手順を開示している。実施例では、回収乾燥工程を第1〜第3の3つのステージに分けてガターポンプ214の回転数を変化させる制御が実行される。なお、この制御を適用したインクジェットプリンタ2のガターチューブ220はPFAチューブで構成されている。
【0066】
図5のフローチャートを参照して、ステップS1では、ポンプ回転数が比較的高速の4rpmに設定され、この第1ステージのポンプ回転数制御は30秒間継続される。このポンプ回転数4rpmは印字を実行する通常運転のときの回転数と同じである。ガターポンプ214の回転数を4rpmに設定することにより、ガターポンプ214は比較的高い吸引能力の下でガター304からガターポンプ214に至る吸引経路に位置している洗浄液のうち一定程度の量の洗浄液を手早く回収することができる。
【0067】
次のステップS2では、ポンプ回転数が比較的低速の1rpmに設定され、この第2ステージのポンプ回転数制御は60秒間継続される。ガターポンプ214の回転数を通常運転時の回転数(4rpm)の25%まで低下させることにより、ガターチューブ220内に部分的に残留する洗浄液塊MSを破壊しない状態で移動させてガターチューブ220内の洗浄液を回収することができる。
【0068】
次のステップS3では、ポンプ回転数が比較的高速の5rpmに設定され、この第3ステージのポンプ回転数制御は30秒間継続される。この第3ステージでは、ガター304を通じてエアが空のガターチューブ220に導入され、このエアによってガターチューブ220の壁面に付着している僅かな洗浄液CSを乾燥させることができる。この例では、第1ステージよりも高速に設定してあるが、第1ステージと同じ回転数に設定してもよい。
【0069】
図5のフローチャートの変形例として、ステップS3のエア乾燥工程の代わりに、ステップS2の60秒間の時間を延長するようにしてもよい。