(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも一部がプーリと接触可能な伝動面を有し、かつポリマー成分及びポリビニルアルコール系樹脂粒子を含有するゴム組成物で形成された圧縮層を含む摩擦伝動ベルトであって、
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の平均アスペクト比が10以下である摩擦伝動ベルト。
さらに芯体とベルト背面を形成する伸張層とを含み、前記伸張層の一方の面に圧縮層が形成され、かつ前記伸張層と前記圧縮層との間にベルト長手方向に沿って前記芯体が埋設されている請求項1〜10のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【背景技術】
【0002】
ゴム工業分野のなかでも、特に自動車用部品においては高機能、高性能化が望まれている。このような自動車用部品に用いられるゴム製品の一つとして摩擦伝動ベルトがあり、この摩擦伝動ベルトは、例えば、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータなどの補機駆動の動力伝動に広く用いられている。この種のベルトとしては、リブをベルト長手方向に沿って設けたVリブドベルトが知られているが、Vリブドベルトには、省燃費性や耐摩耗性などのベルト性能に加えて、耐発音性が要求される。特に、被水時での走行では、スティック−スリップ音の発生が問題となっている。詳しくは、摩擦伝動面の濡れ性が低く、ベルトとプーリ間の水の進入状態が均一でないと、水が進入していない箇所(乾燥状態)では摩擦係数が高く、水が浸入した箇所(被水状態)では、部分的に摩擦係数が著しく低下して、摩擦状態が不安定になり、スティック−スリップ音が発生する。
【0003】
特開2008−185162号公報(特許文献1)には、少なくとも摩擦伝動面が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、界面活性剤を1〜25質量部配合したゴム組成物で構成された摩擦伝動ベルトが開示されている。この摩擦伝動ベルトは、界面活性剤を配合することで摩擦伝動面を形成するゴム(エチレン−α−オレフィンエラストマー)と水との親和性を高めることができ、スティック−スリップによる異音を低減して被水時の耐発音性を向上できる。
【0004】
しかし、このベルトでは、摩擦伝動面に滲出した界面活性剤がベルト−プーリ間の摩擦状態を安定化するものの、ゴム中の界面活性剤の挙動が不安定であるためか、内部損失(tanδ)が増加し、トルクロスが大きくなる上に、ゴム強度が低下し、耐磨耗性を維持できない虞がある。
【0005】
特開2006−118661号公報(特許文献2)には、心線のベルト底面側に圧縮ゴム層が配設された伝動ベルトにおいて、前記圧縮ゴム層に、RFL処理したゲル化可能なポリビニルアルコール繊維からなる短繊維が圧縮ゴム層表面に露出するように埋設された伝動ベルトが開示されている。この文献には、露出させたポリビニルアルコール短繊維が吸水してゲル化することにより、多量の水が入っても、水の膜が突き破られ、ベルトとプーリとの界面に発生した水層に起因するスリップによる伝動能力の低下と異音の発生を防止することが記載されている。さらに、実施例では、発音性能の評価として、2軸試験機でベルトを回転させて注水時の発音限界張力を測定している。
【0006】
しかし、この伝動ベルトに含まれる短繊維は、ゲル化可能なポリビニルアルコール繊維であるため、耐発音性を向上できない。すなわち、特許文献2の実施例では、注水時の2%スリップ時の負荷を測定しているが、比較例(ナイロン短繊維配合)に比べ、負荷が大きくなり、注水時の摩擦係数は大きくなっている。しかし、実車エンジンでは、回転変動があるため、注水時の摩擦係数が高いと、スティックスリップによる発音が生じ易くなる。そのため、摩擦伝動面を形成するゴムと水との親和性を高めて、均一な水膜を形成して、注水時の摩擦係数を下げ、かつ滑り速度に対する摩擦係数の変化を小さくする必要がある。しかし、特許文献2の短繊維では、吸水してゲル化した短繊維が摩擦伝動面で突出して水膜を突き破って除去するため、均一な水膜自体を形成できず、摩擦状態を安定化することができない。そのため、回転変動がある実車エンジンでは、耐発音性が十分ではない。
【0007】
また、ゲル化短繊維は吸水により軟化していると推定できるが、ベルト伝動時に突出した短繊維が摩滅するため、耐摩耗性も維持できない。
【0008】
さらに、短繊維は粒子に比べ圧縮ゴム層中へ分散し難く、加工性が低い。さらに、ゴム中に分散した短繊維は、ゴムとの接触面積が小さく、平滑な接触面となるため、ゴムとの接着性が低くなり、接着力向上のためレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)処理などの表面処理が必要となる。
【0009】
特開2008−157445号公報(特許文献3)には、少なくとも摩擦伝動面の一部が、ゴム100質量部に対して、融点又は軟化点が80℃以下の水溶性高分子を5〜50質量部含有するゴム組成物で構成された摩擦伝動ベルトが開示されている。この文献には、前記水溶性高分子としては、ポリエチレンオキサイドが記載されている。
【0010】
しかし、この水溶性高分子では、ベルトの加硫時に溶融するため、圧縮ゴム層全体に分散するものの、溶融した水溶性高分子がゴムの架橋を阻害するためか、内部損失(tanδ)増大してトルクロスが大きくなる。なお、特許文献3の実施例では、水溶性高分子としてポリビニルアルコールが配合されているが、注水時の発音限界張力が低い比較例として記載されている上に、その詳細も不明である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照して本発明の摩擦伝動ベルトの構造、及び本発明の摩擦伝動ベルトの製造方法について説明する。
【0020】
[摩擦伝動ベルトの構造]
本発明の摩擦伝動ベルトは、通常、伸張層と、この伸張層の一方の面に形成された圧縮層と、前記伸張層と前記圧縮層との間にベルト長手方向に沿って埋設される芯体(心線)とを備えている。詳しくは、本発明の摩擦伝動ベルトは、外周面を形成する伸張層と、この伸張層の一方の面に形成され、内周面を形成する圧縮層と、前記伸張層と圧縮層との間に長手方向に延びて介在する芯体とを備えていてもよい。また、本発明の摩擦伝動ベルトは、伸張層と圧縮層との間に介在する接着ゴム層(接着層)をさらに有していてもよく、前記芯体は、前記接着ゴム層内に埋設してもよい。
【0021】
本発明の摩擦伝動ベルトの種類は特に限定されず、Vベルト[ローエッジベルト(断面V字形状などの形態のローエッジベルト)、ローエッジコグドベルト(ローエッジベルトの内周側又は内周側及び外周側の双方にコグが形成されたローエッジコグドベルト)]、Vリブドベルト、平ベルトなどが例示できる。これらのベルトのうち、伝動効率の高いVリブドベルトが好ましい。
【0022】
Vリブドベルトの形態は、特に制限されず、例えば、
図1に示す形態が例示される。
図1は本発明の摩擦伝動ベルトの一例を示す概略断面図である。
図1に示される摩擦伝動ベルトは、ベルト下面(内周面)からベルト上面(背面)に向かって順に、圧縮層2、ベルト長手方向に芯体1を埋設した接着層4、カバー帆布(織物、編物、不織布など)で構成された伸張層5を積層した形態を有している。圧縮層2には、ベルト長手方向に伸びる複数の断面V字状の溝が形成され、この溝の間には断面V字形(逆台形)の複数のリブ3(
図1に示す例では4個)が形成されおり、このリブ3の二つの傾斜面(表面)が摩擦伝動面を形成し、プーリと接して動力を伝達(摩擦伝動)する。
【0023】
本発明の摩擦伝動ベルトはこの形態に限定されず、少なくとも一部がプーリと接触可能な伝動面を有する圧縮層を備えていればよく、典型的には、伸張層と圧縮層と、その間にベルト長手方向に沿って埋設される芯体とを備えていればよい。本発明の摩擦伝動ベルトにおいて、例えば、伸張層5をゴム組成物で形成してもよく、接着層4を設けることなく伸張層5と圧縮層2との間に芯体1を埋設してもよい。さらに、接着層4を圧縮層2又は伸張層5のいずれか一方に設け、芯体1を接着層4(圧縮層2側)と伸張層5との間、もしくは接着層4(伸張層5側)と圧縮層2との間に埋設する形態であってもよい。また、リブ3の表面(特に、摩擦伝動面)にパウダー状繊維(例えば、綿、ナイロン、アラミドなど)を植毛した形態でもよく、潤滑剤などをスプレー塗布する形態であってもよい。
【0024】
なお、少なくとも前記圧縮層が以下に詳細に説明する前記ゴム組成物で形成されていればよく、前記伸張層及び接着層は、前記圧縮層と同一のゴム組成物で形成されていなくてもよい。なお、伸張層及び接着層を形成するゴム組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂粒子を含んでいる必要はない。
【0025】
芯体としては、特に限定されないが、通常、ベルト幅方向に所定間隔で配列した心線(撚りコード)を使用できる。心線は、高モジュラスな繊維、例えば、前記ポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、アラミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸、例えば、繊度2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度のマルチフィラメント糸であってもよい。
【0026】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線はベルトの長手方向に埋設され、単数又は複数の心線がベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設されていてもよい。
【0027】
ポリマー成分との接着性を改善するため、心線は、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などによる種々の接着処理を施した後に、伸張層と圧縮層との間(特に接着層)に埋設してもよい。
【0028】
さらに、伸張層は補強布、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)を有していてもよい。補強布は、必要であれば、前記接着処理を施し、伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0029】
[圧縮層]
本発明の摩擦伝動ベルトは、少なくとも一部がプーリと接触可能な伝動面を有する圧縮層を備えており、この圧縮層が、ポリマー成分及びポリビニルアルコール系樹脂粒子を含むゴム組成物で形成されている。
【0030】
(ポリマー成分)
ポリマー成分としては、公知のゴム成分及び/又はエラストマー、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)など]、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのポリマー成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。これらのポリマー成分のうち、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDMなど)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。
【0031】
(ポリビニルアルコール系樹脂粒子)
本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂粒子を前記ポリマー成分に配合することにより、研磨された摩擦伝動面で前記粒子を略均一に分散して突出せずに露出できる。さらに、前記ポリビニルアルコール系樹脂は水溶性であり、圧縮層の摩擦伝動面の水に対する濡れ性(ゴムと水との親和性)を向上できる。そのため、走行時に水が侵入してもベルトとプーリ間に水膜が均一に拡がり、摩擦状態を安定化して自励振動による発音を抑制できる。特に、実車エンジンのような回転変動がある場合でも、滑り速度に対する摩擦係数の変化を小さくして、スティック−スリップによる異音を低減して被水時の耐発音性を向上できる。さらに、ポリビニルアルコール系樹脂粒子は、圧縮層を形成するゴム組成物中におけるポリマー成分に対する補強材の補強効果を阻害しないため、内部損失(tanδ)を低く保持できる。
【0032】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子を構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルアルコール単位を主単位として含んでいればよく、ビニルアルコール単位に加えて、他の共重合性単位をさらに含んでいてもよい。
【0033】
他の共重合性単位を構成する単量体としては、例えば、オレフィン類(エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセンなどのα−C
2−10オレフィンなど)、不飽和カルボン酸類[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C
1−6アルキルエステル、(無水)マレイン酸など]、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテルなどのC
1−6アルキルビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルなどのC
2−6アルカンジオール−ビニルエーテルなど)、不飽和スルホン酸類(エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸など)などが挙げられる。これらの単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、エチレンやプロピレンなどのα−C
2−4オレフィンが汎用される。
【0034】
他の共重合性単位の割合は、全単位に対して50モル%以下であってもよく、例えば、0〜30モル%、好ましくは0.1〜20モル%、さらに好ましくは1〜10モル%程度である。ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール単位単独で構成されたホモポリマーであってもよい。
【0035】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール単位が疎水基で変性されていてもよい。疎水基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基などのC
1−10アルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基などのアリール基などが挙げられる。これらの疎水基は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの疎水基のうち、エチル基やプロピル基などのC
2−4アルキル基が好ましい。
【0036】
本発明では、共重合性単位や疎水基の割合を調整することにより、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の水に対する溶解度などを調整でき、トルクロスを抑制できる。
【0037】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子のビニルアルコール単位のケン化度は85モル%以上であってもよく、例えば85〜99.7モル%、好ましくは86〜97モル%、さらに好ましくは86.5〜93モル%(特に86.5〜89.5モル%)程度である。本発明では、摩擦伝動面で均一な水膜を形成し易い点から、97モル%以下のケン化度が好ましく、部分ケン化物(86.5〜89.5モル%)が特に好ましい。完全ケン化物のケン化度は97.5モル%以上(特に98モル%以上)であってもよい。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の粘度平均重合度は、例えば300〜3500、好ましくは400〜3200、さらに好ましくは500〜3000程度である。重合度が大きすぎると、摩擦伝動面で均一な水膜を形成するのが困難となり、小さすぎると、粒子形状を維持するのが困難となる虞がある。なお、本発明では、粘度平均重合度は、JIS K6726(1994)に準じた方法などで測定できる。
【0039】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の融点は、ベルトの加硫温度よりも高ければよく、例えば、ベルトの加硫温度よりも10℃以上(特に50℃以上)高くてもよい。ポリビニルアルコール系樹脂の粒子の融点は180℃以上であってもよく、例えば180〜300℃、好ましくは200〜280℃、さらに好ましくは210〜250℃程度であってもよい。融点が低すぎると加硫により粒子が溶融し、ゴム組成物中に均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0040】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の20℃における水への溶解度は5質量%以上(特に10質量%以上であってもよく、例えば30質量%以上(特に50質量%以上)、好ましくは60質量%以上(例えば60〜99質量%)、さらに好ましくは80質量%以上(例えば80〜95質量%)程度であってもよい。ベルトが被水すると、走行時のベルト温度が低下するため、常温付近での溶解度が低すぎると、より低温域(例えば、常温付近)での摩擦伝動面の濡れ性が低下し、耐発音性が低下する虞がある。
【0041】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の個数平均粒径は、例えば10〜300μm、好ましくは15〜200μm、さらに好ましくは20〜100μm(例えば50〜100μm)程度である。また、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の個数平均粒径は、耐発音性(特に被水時の耐発音性)を向上でき、かつベルト走行中の粒子の脱落や粒子−ゴム間での亀裂の発生も抑制できる点から、比較的小粒径であってもよく、例えば10〜100μm、好ましくは20〜80μm、さらに好ましくは30〜50μm(特に35〜45μm)程度であってもよい。小粒径の粒子が耐発音性を向上できる理由は、均一な分散により水に対する濡れ性が向上し、ベルト走行中の粒子の脱落や粒子−ゴム間での亀裂の発生を抑制できるためであると推定できる。粒径が大きすぎると、圧縮層の機械的特性や耐久性が低下する虞がある。一方、粒径が小さすぎると、ゴム組成物中に均一に充填、分散させるのが困難となり、耐発音性が低下する虞がある。なお、本発明では、個数平均粒径は、粒子が異方形状である場合、長径と短径との平均値で示す。
【0042】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の最大粒径は500μm以下であってもよく、例えば400μm以下、好ましくは350μm以下(例えば300μm以下)、さらに好ましくは200μm以下(特に180μm以下)であってもよい。ポリビニルアルコール系樹脂粒子の最小粒径は1μm以上であってもよく、例えば3μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは8μm以上であってもよい。最大粒径が大きすぎると、耐発音性が低下する虞がある。
【0043】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の平均アスペクト比(短径に対する長径の比)は、10以下(例えば1〜10)であってもよく、例えば1〜5、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2(例えば1.2〜1.9)程度である。また、ポリビニルアルコール系樹脂粒子のアスペクト比は、被水時の耐発音性を向上できる点から、例えば1.5〜5、好ましくは1.6〜3、さらに好ましくは1.8〜2.5程度であってもよい。アスペクト比が大きすぎると、ゴム組成物の変形時に界面へ応力集中を生じ、ゴム組成物の破断伸びが低下する虞がある。
【0044】
なお、本発明では、個数平均粒径、平均アスペクト比は、50倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真を基に寸法を計測する方法などで測定できる。
【0045】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子は、このような形状を有しているため、ゴム組成物の変形時に、ゴムとポリビニルアルコールとの界面におけるせん断や引張りの応力集中が生じ難い。そのため、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液などの接着成分により接着処理をしなくても、ゴム組成物中に粒子を固定できる。また、ポリビニルアルコールは水酸基(親水基)の他に酢酸基(疎水基)が存在するため、界面活性能を有し、圧縮層を形成するポリマー成分へ容易に均一に分散できる。
【0046】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の割合は、ポリマー成分100質量部に対して、1質量部以上程度であればよく、例えば1〜50質量部、好ましくは3〜40質量部(例えば5〜30質量部)、さらに好ましくは5〜35質量部(特に10〜30質量部)程度である。また、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の割合は、被水時の耐発音性を向上できる点からは多い方が好ましく、ポリマー成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、例えば10〜50質量部、好ましくは15〜40質量部、さらに好ましくは20〜30質量部程度であってもよい。ポリビニルアルコール系樹脂粒子の割合が多すぎると、圧縮層の機械的特性が低下し、少なすぎると、耐発音性が低下する虞がある。
【0047】
(補強材)
ゴム組成物は、圧縮層の機械的強度を向上させるために、補強材を含んでいてもよい。補強材には、慣用の充填剤及び補強繊維などが含まれる。
【0048】
充填剤としては、例えば、炭素質材料(カーボンブラック、グラファイトなど)、金属化合物又は合成セラミックス(酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩、炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩など)、鉱物質材料(ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪成土、活性白土、アルミナ、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレーなど)などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。充填剤の形状は、粒状、板状、不定形状などである。充填剤の個数平均一次粒径は、種類に応じて、10nm〜10μm程度の範囲から適宜選択できる。これらの充填剤のうち、カーボンブラックなどの炭素質材料、シリカなどの鉱物質材料などが汎用され、カーボンブラックが好ましい。
【0049】
カーボンブラックは、圧縮層を形成するゴム組成物の内部発熱を低く抑えて省燃費性を向上させるため、粒子径の大きいカーボンブラック、特にヨウ素吸着量が40mg/g以下の大粒子径カーボンブラックを含むのが好ましい。大粒子径カーボンブラックとしては、FEF、GPF、APF、SRF−LM、SRF−HMなどが例示できる。これらのカーボンブラックは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。大粒子径カーボンブラックの個数平均一次粒径は、例えば、40〜200nm、好ましくは45〜150nm、さらに好ましくは50〜125nm程度であってもよい。
【0050】
大粒子径カーボンブラックは補強効果が小さく耐摩耗性に劣るため、粒子径が小さく補強効果の高い小粒子径カーボンブラック(ヨウ素吸着量が40mg/gより高い)を併用するのが好ましい。粒子径の異なる少なくとも2種のカーボンブラックを用いることで、省燃費性(大粒子径カーボンブラックによる効果)と耐摩耗性(小粒子径カーボンブラックによる効果)とを両立させることができる。小粒子径カーボンブラックとしては、SAF、ISAF−HM、ISAF−LM、HAF−LS、HAF、HAF−HSなどが例示できる。これらのカーボンブラックは単独又は二種以上組み合わせて使用できる。小粒子径カーボンブラックの個数平均一次粒径は、40nm未満、例えば、5〜38nm、好ましくは10〜35nm、さらに好ましくは15〜30nm程度であってもよい。
【0051】
なお、大粒子径カーボンブラックの平均粒子径と小粒子径カーボンブラックの平均粒子径との比率は、前者/後者=1.5/1〜3/1、好ましくは1.7/1〜2.7/1、さらに好ましくは1.8/1〜2.5/1程度であってもよい。
【0052】
また、大粒子径カーボンブラックと小粒子径カーボンブラックとの質量比率は、省燃費性と耐摩耗性とを両立可能な範囲、例えば、前者/後者=20/80〜55/45、好ましくは25/75〜50/50、さらに好ましくは30/70〜50/50程度であってもよい。なお、カーボンブラックのうち、小粒子径カーボンブラックの割合が多すぎると、ゴム組成物(圧縮層)の内部発熱(tanδ)が大きくなって省燃費性が低下し、大粒子径カーボンブラックが多すぎると、補強不足により耐摩耗性が低下する。
【0053】
補強繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC
2−4アルキレンC
6−14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が例示できる。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
これらの短繊維のうち、アラミド繊維などのポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維などから選択された少なくとも一種が好ましい。補強繊維はフィブリル化していてもよい。
【0055】
補強繊維は、通常、短繊維の形態で圧縮層に含有させてもよく、短繊維の平均長さは、例えば、0.1〜20mm、好ましくは0.5〜15mm、より好ましくは1〜10mmであり、1〜5mm(例えば、2〜4mm)程度であってもよい。補強繊維の平均繊維径は、例えば1〜100μm、好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜40μm(特に10〜30μm)程度である。
【0056】
補強材の割合は、ポリマー成分100質量部に対して40質量部以上であってもよく、例えば45〜100質量部、好ましくは50〜90質量部、さらに好ましくは55〜80質量部(特に60〜70質量部)程度である。本発明では、補強材の割合が多量でも、トルクロスを低減できる。
【0057】
充填剤の割合は、ポリマー成分100質量部に対して10質量部以上であってもよく、例えば20〜100質量部、好ましくは30〜90質量部、さらに好ましくは35〜80質量部(特に40〜70質量部)程度である。
【0058】
補強繊維の割合は、ポリマー成分100質量部に対して80質量部以下(例えば0〜80質量部)であってもよく、例えば60質量部以下(例えば1〜60質量部)、好ましくは50質量部以下(例えば5〜50質量部)、さらに好ましくは40質量部以下(例えば10〜40質量部)程度である。補強繊維の割合が多すぎると、トルクロスを低減できない虞がある。
【0059】
(他の添加剤又は配合剤)
ゴム組成物は、必要により、慣用の添加剤又は配合剤を含んでいてもよい。配合剤としては、例えば、加硫剤又は架橋剤[例えば、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)など]、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、可塑剤、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、接着性改善剤[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのメラミン樹脂、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などが例示できる。これらの配合剤は単独又は二種以上組み合わせて使用でき、ポリマー成分の種類や用途、性能に応じて適宜選択して用いられる。
【0060】
本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂粒子により、被水時の摩擦伝動面に均一な水膜を形成できる。そのため、トルクロスの低減効果の点から、圧縮層はポリビニルアルコール系樹脂以外の界面活性剤を実質的に含んでいないのが好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂以外の界面活性剤の割合は、圧縮層を形成するゴム組成物全体に対して10質量%以下(特に1質量%以下)であってもよく、実質的に(不可避的不純物を除き)ポリビニルアルコール系樹脂以外の界面活性剤を含まないのが特に好ましい。
【0061】
(圧縮層内部の損失正接)
本発明の圧縮層は、内部の損失正接又は誘電正接(tanδ)が低いことが好ましい。損失正接(tanδ)とは、損失弾性率(E”)を貯蔵弾性率(E’)で除したものであり、振動1サイクルの間に熱として散逸(ロス)されるエネルギーと貯蔵される最大エネルギーとの比として表され、エネルギー損失の尺度となる。すなわち、tanδにより、ゴム組成物に加えられる振動エネルギーが熱として散逸される指標を数値化して表すことができる。従って、tanδが小さいほど散逸される熱は小さい(すなわち、内部発熱が小さくなり省燃費性が向上する)。本発明の好ましい態様では、ベルトが通常走行する温度(例えば、40〜120℃の温度範囲)におけるtanδに着目し、このtanδを低く設定している。具体的には、例えば、40℃及び周波数10Hzでの圧縮層のtanδは、省燃費性を向上させるため、0.08〜0.17程度の範囲から選択でき、例えば0.09〜0.165、好ましくは0.095〜0.16、さらに好ましくは0.1〜0.15(特に0.1〜0.13)程度である。
【0062】
[ベルトの製造方法]
本発明の摩擦伝動ベルトの製造方法は特に制限されず、公知又は慣用の方法が採用できる。例えば、圧縮層と、芯体が埋設された接着層と、伸張層とを、それぞれ未加硫ゴム組成物で形成して積層し、この積層体を成形型で筒状に成形し、加硫してスリーブを成形し、この加硫スリーブを所定幅にカッティングすることにより形成できる。より詳細には、以下の方法でVリブドベルトを製造できる。
【0063】
(第1の製造方法)
先ず、表面が平滑な円筒状の成形モールドに伸張層用シートを巻きつけ、このシート上に芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、さらに接着層用シート、圧縮層用シートを順次巻き付けて成形体を作製する。その後、加硫用ジャケットを成形体の上から被せて金型(成形型)を加硫缶内に収容し、所定の加硫条件で加硫した後、成形モールドから脱型して筒状の加硫ゴムスリーブを得る。そして、この加硫ゴムスリーブの外表面(圧縮層)を研削ホイールにより研磨して複数のリブを形成した後、カッターを用いてこの加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。なお、カットしたベルトを反転させることにより、内周面にリブ部を有する圧縮層を備えたVリブドベルトが得られる。
【0064】
(第2の製造方法)
先ず、内型として外周面に可撓性ジャケットを装着した円筒状内型を用い、外周面の可撓性ジャケットに未加硫の伸張層用シートを巻きつけ、このシート上に芯体を形成する心線を螺旋状にスピニングし、さらに未加硫の圧縮層用シートを巻き付けて積層体を作製する。次に、前記内型に装着可能な外型として、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型を用い、この外型内に、前記積層体が巻き付けられた内型を、同心円状に設置する。その後、可撓性ジャケットを外型の内周面(リブ型)に向かって膨張させて積層体(圧縮層)をリブ型に圧入し、加硫する。そして、外型より内型を抜き取り、複数のリブを有する加硫ゴムスリーブを外型から脱型した後、カッターを用いて、加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。この第2の製造方法では、伸張層、芯体、圧縮層を備えた積層体を一度に膨張させて複数のリブを有するスリーブ(又はVリブドベルト)に仕上げることができる。
【0065】
(第3の製造方法)
第2の製造方法に関連して、例えば、特開2004−82702号公報に開示される方法(圧縮層のみを膨張させて予備成形体(半加硫状態)とし、次いで伸張層と芯体とを膨張させて前記予備成形体に圧着し、加硫一体化してVリブドベルトに仕上げる方法)を採用してもよい。
【0066】
これらの製造方法のうち、圧縮層を研磨して摩擦伝動面に短繊維を十分に突出可能な第1の製造方法が好ましい。なお、第2及び第3の製造方法では、圧縮層をリブ型に圧入してリブを形成するため、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の露出量が少なくなるが、これらの方法で形成された圧縮層の伝動面を研磨又は研削してポリビニルアルコール系樹脂粒子を露出させてもよい。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例でゴム組成物の成分の詳細と、測定した評価項目の評価方法を以下に示す。
【0068】
[ゴム組成物の成分]
EPDM:三井化学(株)製「EPT2060M」
PVA−A:ポリビニルアルコール完全ケン化品、ケン化度98.7〜99.7モル%、粘度平均重合度1700、電気化学工業(株)製「デンカポバールK−17C」
PVA−B:ポリビニルアルコール部分ケン化品、ケン化度86.5〜89.5モル%、粘度平均重合度600、電気化学工業(株)製「デンカポバールB−05S」
PVA−C:ポリビニルアルコール疎水基変性品、ケン化度93.0〜97.0モル%、粘度平均重合度1700、疎水基の種類:アルキル基、電気化学工業(株)製「デンカポバールF−300S」
PVA−D:ポリビニルアルコール完全ケン化品、ケン化度99モル%以上、粘度平均重合度1700、電気化学工業(株)製「デンカポバールK−177」
界面活性剤:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、日本乳化剤(株)製「ニューコール2308−LY」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」、平均粒径28nm
カーボンブラックGPF:東海カーボン(株)製「シーストV」、平均粒径62nm
ナイロン短繊維:66ナイロン、平均繊維径27μm、平均繊維長3mm
綿短繊維:デニム、平均繊維径13μm、平均繊維長6mm
ビニロン短繊維:平均繊維径26μm、平均繊維長6mm
有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド
共架橋剤:ジベンゾイル・キノンジオキシム、大内新興化学工業(株)製「バルノックDMG」
老化防止剤A:ジフェニルアミン系老化防止剤(大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD」)
老化防止剤B:メルカプトベンゾイミダゾール系老化防止剤(大内新興化学工業(株)製「ノクラックMB」)。
【0069】
[ウイリアム摩耗量]
加硫ゴムシートを用いて、JIS K6264(1993)に準じて測定した。
【0070】
[粘弾性(tanδ)]
加硫ゴムシートから試験片を採取し、試験片とした。試験片は厚さ2.0mm、幅4.0mm、長さは40mmである。そして、粘弾性測定装置(上島製作所製「VR−7121」)のチャックに、チャック間距離15mmで試験片をチャックして固定し、初期歪(静的歪)2.0%を与え、周波数10Hz、動的歪1.0%(すなわち、前記初期歪2.0%を中心位置又は基準位置として長手方向に±1.0%の歪みを付与しつつ)、昇温速度1℃/分で25℃、40℃、100℃でのtanδ(損失正接)を求めた。
【0071】
[接触角]
加硫ゴムシートの表面と水との接触角θ(水滴の接線と表面とがなす角)は、
図2に示すように、表面に水を滴下した水滴の投影写真から、θ/2法を用いて以下の式より求めることができる。
θ=2θ
1 …(1)
tanθ
1=h/r → θ
1=tan
−1(h/r) …(2)
(式中、θ
1は、表面に対して、水滴の端点(
図2では左端点)と頂点とを結ぶ直線の角度であり、hは水滴の高さ、rは水滴の半径を示す。)
式(2)を式(1)に代入して、以下の式(3)が得られる。
θ=2tan
−1(h/r) …(3)
接触角の測定は、全自動接触角計(協和界面科学(株)製「CA−W型」)を用いて滴下した水滴の投影写真からrとhを測定し、式(3)を用いて算出した。測定は滴下直後(1秒後)及び60秒後の接触角を算出した。接触角θが小さいほど表面は水との親和性
に優れている。
【0072】
[摩擦係数]
加硫ゴムシートから直径8mm×厚さ2mmの円板状試験片を採取し、ピンオンディスク摩擦係数測定装置を用いて、摩擦力を測定し、摩擦係数を算出した。詳しくは、表面粗さRaが0.8μmである相手材(SUS304)により荷重2.192kgf/cm
2で試験片を押し付けて、30ml/分の水量で測定するときのみ試験片に水をかけて注水しながら、摩擦速度0〜2.0m/秒で摩擦力を測定し、摩擦速度(相手材に対する滑り速度)に対する摩擦係数の曲線の傾き(μ−V特性)を最小二乗法により算出した。なお、この傾きは、滑り速度に対する摩擦係数の変化を表す。
【0073】
[6%スリップ摩耗]
駆動プーリ(直径80mm)、従動プーリ(直径80mm)、テンションプーリ(直径120mm)を順に配置した試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、ベルトのテンションプーリへの巻き付け角度を90°とし、室温条件下で、駆動プーリの回転数を3000rpm、従動プーリのトルクを9.8N・m、ベルトスリップ率が6%となるようベルト張力を自動調整しながら24時間走行させた。そして、走行試験前後のベルト重量を測定し、ベルト重量減量(走行前ベルト重量−走行後ベルト重量)を走行前ベルト重量で除したものを、摩耗率として算出した。
【0074】
[トルクロス(伝達ロス)]
図3に示すように、直径55mmの駆動(Dr)プーリと、直径55mmの従動(Dn)プーリとで構成される2軸走行試験機にVリブドベルトを掛架し、500N/ベルト1本の張力でVリブドベルトに所定の初張力を付与し、従動プーリ無負荷で駆動プーリを2000rpmで回転させたときの駆動トルクと従動トルクとの差をトルクロスとして算出した。なお、この測定で求まるトルクロスは、Vリブドベルトに起因するトルクロス以外に、試験機の軸受けに起因するトルクロスも含まれている。そのため、ベルトとしてのトルクロスが実質0と考えられる金属ベルト(材質:マルエージング鋼)を予め走行させ、その駆動トルクと従動トルクとの差を軸受けに起因するトルクロス(軸受け損失)として求めた。そしてVリブドベルトを走行させて算出したトルクロス(ベルトと軸受けの二つに起因するトルクロス)から、軸受けに起因するトルクロス(軸受け損失)を差し引いた値を、ベルト単体に起因するトルクロスとして求めた。なお、上記トルクロス(軸受け損失)は所定の初張力で金属ベルトを走行させたときのトルクロス(例えば、初張力500N/ベルト1本でVリブドベルトを走行させた場合、この初張力で金属ベルトを走行させたときのトルクロスが軸受け損失となる)である。このVリブドベルトのトルクロスが小さいほど省燃費性に優れている。
【0075】
[発音限界角度試験:ミスアライメント発音試験]
ミスアライメント発音評価試験(発音限界角度)は、直径101mmの駆動プーリ(Dr.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL1)、直径120mmのミスアライメントプーリ(W/P)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL2)、直径61mmのテンションプーリ(Ten)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL3)を順に配置した
図4にレイアウトを示す試験機を用いて行った。アイドラープーリ(IDL1)とミスアライメントプーリの軸離(スパン長)を135mmに設定し、全てのプーリが同一平面上(ミスアライメントの角度0°)に位置するように調整した。
【0076】
すなわち、試験機の各プーリにVリブドベルトを懸架し、室温条件下で、駆動プーリの回転数が1000rpm、ベルト張力が6kgf/Rib(リブ)となるように張力を付与し、駆動プーリの出口付近においてVリブドベルトの摩擦伝動面に定期的(約30秒間隔)に5ccの水を注水して、ミスアライメント(ミスアライメントプーリを各プーリに対し手前側にずらす)でベルトを走行させた時の発音(ミスアライメントプーリの入口付近)が発生するときの角度(発音限界角度)を求めた。発音限界角度が大きいほど静粛性に優れている。なお、通常、3°付近でベルトがプーリからはずれて(すなわち、リブずれとなり)正常に動力伝達しない状態になる。
【0077】
[ポリビニルアルコール粒子の形状]
走査型電子顕微鏡((株)キーエンス製「VE−7800」)を用いて、原料のポリビニルアルコール粒子を、倍率50倍にて撮影後、画像解析ソフトを使用して、ポリビニルアルコール粒子の粒径(長径及び短径)を測定し、ポリビニルアルコール粒子の平均粒径及びアスペクト比を算出した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
[比較例1〜2及び実施例1〜5]
表1に示すゴム組成物をバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未加硫圧延ゴムシートを作製した。得られたシートの所定寸法を採取した後、165℃及び30分間の加硫条件でプレス加硫し、加硫ゴムシートを作製した。
【0080】
得られた加硫ゴムシートについて、ウイリアム摩耗量及び粘弾性(tanδ)を測定した結果を表2に示す。また、水との接触角を測定した結果を表2及び
図5に示す。さらに、摩擦係数を測定した結果を表2及び
図6に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜6は比較例よりウイリアム摩耗量が減少した。
【0083】
また、実施例1〜6は、比較例1(界面活性剤配合)に比べ、tanδが小さくなった。なお、実施例4は他の実施例よりややtanδが大きかった。
【0084】
また、実施例1〜6は、界面活性剤を配合した比較例1よりも貯蔵弾性率が増加した。これは、ポリビニルアルコール(PVA)を配合しても強度が低下しないことを示し、摩耗試験の結果とも相関していた。
【0085】
また、表2及び
図5の結果から明らかなように、水との接触角も実施例4が最も小さく、濡れ性が良好であった。
【0086】
さらに、表2及び
図6の結果から明らかなように、被水時(WET)での摩擦係数変化(μ−V曲線の傾き)は実施例4が最も小さかった。すなわち、実施例4のシートは、被水時の摩擦状態が最も安定していた。
【0087】
また、実施例3と実施例6との比較から、ポリビニルアルコール完全ケン化品では、被水時(WET)での摩擦係数変化(μ−V曲線の傾き)は、小粒径の粒子を用いた実施例6の方が小さかった。
【0088】
[比較例3〜4及び実施例7〜15]
表3に示すゴム組成物をバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未加硫圧延ゴムシート(圧縮層用シート)を作製した。また、表3に示すゴム組成物において、短繊維、界面活性剤及びポリビニルアルコール(PVA)を含まないゴム組成物を用い、圧縮層用シートと同様の方法で接着層用シート及び伸張層用シートを作製した。
【0089】
次に、これらのシートを用いて、前述の第1の製造方法によりベルトを作製した。すなわち、先ず、表面が平滑な円筒状成形モールドに伸張層用シートを巻きつけ、この伸張層用シート上に処理ロープを螺旋状にスピニングし、接着層用シート、圧縮層用シートを順次巻き付けて成形体を形成した。その後、加硫用ジャケットを成形体の上から被せて金型を加硫缶に設置し、所定の加硫条件で加硫した後、成形モールドから脱型して筒状の加硫ゴムスリーブを得た。そして、この加硫ゴムスリーブの外面(圧縮層)を研削ホイールにより所定の間隔で研磨して複数のリブを形成した後、カッターを用いて、加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅でカットして、幅方向のリブ数が6個、周長が1100mmのVリブドベルトに仕上げた。
【0090】
さらに、圧縮層用シートから採取したゴム組成物から加硫ゴムシート及び試験片を作製し、6%スリップ摩耗、ベルトトルクロス及び粘弾性(tanδ)を測定した結果を表3に示す。また、ベルトの発音限界角度を測定した結果を表3及び
図7に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3の結果から明らかなように、実施例は比較例より6%スリップ摩耗量が減少した。
【0093】
また、実施例は、界面活性剤を配合した比較例3よりも伝達ロス(トルクロス)が小さく、PVAや界面活性剤を含まない比較例4と同等であった。
【0094】
また、表3及び
図7の結果から明らかなように、乾燥状態(DRY)及び被水状態(WET)の両方で、実施例7〜8及び11のベルトの発音限界角度が高く、耐発音性が良好であった。PVAの配合により親水性が向上し、摩擦状態が安定化したためと考えられる。さらに、WETの状態では、いずれの実施例も比較例4よりも耐発音性が良好であった。
【0095】
また、表3の結果から明らかなように、実施例のtanδは、比較例3より小さく、比較例4よりやや大きかった。すなわち、PVAを配合しても界面活性剤の配合ほどもtanδが増加しないことを示しており、伝達ロスの結果とも相関していた。
【0096】
さらに、表3の結果から明らかなように、実施例は、比較例3、4に比べ、貯蔵弾性率が増加した。すなわち、PVAを配合しても強度低下が起きていないことを示しており、摩耗試験の結果とも相関していた。
【0097】
また、実施例の結果から明らかなように、PVAの配合量が多い方が被水時の発音限界角度が大きくなり、耐発音性に優れていた。