【実施例】
【0030】
また、純粋なトリグリセリドの動粘度も、次に示す因子に基づいて、数学モデルを用いて求めることができる。
1.トリグリセリド分子を構成する脂肪酸(FAME)のメチルエステルの動粘度。
2.FAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数。
【0031】
【数1】
式中、
η
TAG=トリグリセリドの粘度cP
η
FAME1=末端1位のトリグリセリド中に存在するFAMEの粘度cP
η
FAME2=中心2位のトリグリセリド中に存在するFAMEの粘度cP
η
FAME3=末端3位のトリグリセリド中に存在するFAMEの粘度cP
nCF
1=末端1位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
nCF
2=中心2位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
nCF
3=末端3位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
トリグリセリド混合物の粘度は、次式のように推定することができる。
【0032】
【数2】
η
mix=トリグリセリド混合物の粘度cP。
w
i=トリグリセリド混合物のトリグリセリド「i」の重量分率。
η
i=混合物のトリグリセリドiの粘度cP。
【0033】
また、純粋なトリグリセリドの融点も、次に示す因子に基づいて、数学モデルを用いて求めることができる。
1.トリグリセリド分子を構成するFAMEの融点。
2.FAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数。
3.末端脂肪酸鎖間の類似性を説明する記述子(Terminal
Equal)。
【0034】
【数3】
式中、
MP
FAME1=末端1位のトリグリセリド中に存在するFAMEの融点K
MP
FAME2=中心2位のトリグリセリド中に存在するFAMEの融点K
MP
FAME3=末端3位のトリグリセリド中に存在するFAMEの融点K
nCF
1=末端1位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
nCF
2=中心2位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
nCF
3=末端3位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数。
Terminal
Equal=2つの末端脂肪酸断片が同じ場合は1であるか、又は、2つの末端脂肪酸断片が異なる場合は0である。
トリグリセリド混合物の重量平均融点は、次式のように推定することができる。
【0035】
【数4】
MP
mix=トリグリセリド混合物の融点K。
w
i=トリグリセリド混合物のトリグリセリド「i」の重量分率。
MP
i=トリグリセリド混合物のトリグリセリド「i」の融点K。
すべての場合において、推定(若しくは予測)重量平均融点は、DSC測定によって測定されたものと同じか、又はこれよりもわずか10℃高いにすぎない。
平均融点モデルに対する更なる補正は、同型(ε)の程度を含めることによって行った。同型の程度は、融点低下を生じ得る、トリグリセリド混合物中に存在する構造非類似性を説明するものである。εの算出手順は、Wesdorp, L. H. Liquid−multiple solid−phase equilibria in fats. Ph.D. Thesis, University Delft, The Netherlands, 1990に記載されている。シス型不飽和脂肪酸断片について、重なり容積(overlapping volume)を、直鎖飽和断片におけるシス型不飽和断片の突出長さによって決定した。
異なるトリグリセリド対間のεを算出し、最低のε、min(ε)をモデル記述子として用いた。min(ε)は、トリグリセリド混合物中に存在する最大の非類似性の指標である。融点予測のためのイプシロンモデルは、次式のように示される。
【0036】
【数5】
すべての場合において、推定(若しくは予測)イプシロン融点は、DSC測定によって測定されたものと同じか、又はこれよりもわずか10℃高いにすぎない。
【0037】
また、トリグリセリド又はトリグリセリド混合物の引火点もそれぞれ、純粋なトリグリセリド又はトリグリセリド混合物の気化熱に基づいて、数学モデルを用いて求めることができる。
【0038】
【数6】
式中、
Flash point=トリグリセリドの引火点K
ΔH
vap=純粋なトリグリセリド又はトリグリセリド混合物の気化熱kJ/mol。
純粋なトリグリセリドの気化熱を予測する代表的な方法のうちの1つは、Chenらの文献、Fragment−Based Approach for Estimating Thermophysical Properties of Fats and Vegetable Oils for Modeling Biodiesel Production Processes”, Ind. Eng. Chem. Res. Vol.49, Pg. 876−886 (2010)に示されている。
トリグリセリド混合物の気化熱は、次に示す関係式を用いて決定することができる。
【0039】
【数7】
式中、
ΔH
vapmix=トリグリセリド混合物の気化熱kJ/mol
N
i=トリグリセリド混合物のトリグリセリドiのモル分率。
ΔH
vap,
i=トリグリセリド「i」のi=気化熱kJ/mol
【0040】
実施例1〜6
表2に報告されている組成物は、トリグリセリド及びトリグリセリド混合物の特性、粘度、引火点及び融点を予測するために構築されたモデルに基づいている。すべての実施例は、所望のバランスの、40℃における33cP以下及び10℃における120cP以下の粘度、260℃以上の引火点、並びに−8℃以下の融点を示す。予測融点範囲は、混合物の融点の上限及び下限を提供する。これは、組成物の個々の成分の最高及び最低予測融点に基づく。混合物の融点は、上述の方法によって決定される。トリグリセリド混合物は高度に相互作用しており、このため、重量平均は、組成物の融点の近似値である。実施例のデータは、予測融点が、DSCによって試験的に決定されたものに近いことを示している。同様に、実施例のデータは、40℃における予測粘度が、試験的に決定されたものに近いことを示している。さらに、測定された融点は、試験的に決定された流動点と適切に十分相関している。そして、引火点の予測値と測定値は、十分一致していた。
【0041】
【表2-1】
【0042】
【表2-2】
【0043】
【表2-3】
【0044】
本発明のすべての実施例は、変圧器液に有用な、次に示す所望の特性の組合せを示した。40℃における粘度33cP以下、10℃における粘度120cP以下、引火点260℃以上、発火点290℃以上、流動点−15℃以下、及び/又は融点−8℃以下。
【0045】
一シナリオにおいて、本発明は、40℃における粘度が33cP以下、10℃における粘度が120cP以下、引火点が260℃以上、発火点が290℃以上、流動点が−15℃以下、及び/又は融点が−8℃以下となるような特性のバランスを提供するように、HOCOと、C8及びC10脂肪酸のトリグリセリド55重量%以下をブレンドすることによって例示される。
【0046】
比較例1〜15
表3は、種々のNeobee油の組成について報告している。表4において、比較試料(CS)1〜CS 8は、高オレイン酸カノーラ油(HOCO)に添加された種々の量の希釈剤を含む、トリグリセリド組成物である。HOCOの組成は次のとおりである。
1.C18モノ不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=74%
2.C18ジ不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=14.5%
3.C18トリ不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=4.5%
4.C18飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=4%
5.C16飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=3%
【0047】
表4は、HOCOと、種々の量の希釈剤とを含むトリグリセリド組成物であるCS1〜CS8について報告している。SE 1185Dは、大豆脂肪酸メチルエステル(FAME)であり、NYCOBASE SEHは、セバシン酸ジオクチルであり、PAO 2.5は、ポリα‐オレフィンである。一シナリオにおいて、脂肪酸組成を有する比較試料は、所望の特性の組合せをもたらさなかった。特に、CS 2(HOCO:70%を超えるC18:1を有するトリグリセリド、14%を超えるC18:2を有するトリグリセリド、3%未満のC18:3を有するトリグリセリド)は、40℃において33cPを超える粘度(とともに、300℃を超える引火点)である。HOCOと希釈剤のこれらの組合せはいずれも、所望の特性の組合せをもたらさない。
【0048】
Neobee 1053(表3)の凝固点が、その融点(表4)に類似していることに留意すべきである。さらに、表3において、Neobee 1095とNeobee 895がともに、0℃よりも高い凝固点(融点に類似する。)であるが、56/40重量%のC8:0/C10:0(Neobee 1053)及び68/30/2重量%のC8:0/C10:0/C12:0を有する他の2つの生成物が、凝固点を相乗的に−5℃に低下させるのに留意することは興味深い。したがって、HOCOと、Neobee 1053と特定の混合物(比較例1〜4)は、本発明の所望のバランスの特性を提供することができるが、他のもの(CS1〜3)は、これを提供することができない。
【0049】
表5において、CS9〜CS15は、所望範囲の融点を提供しない、公知のトリグリセリド組成物である。特に、60%以上のC8又はC10を有するCS12及びCS13は、低い引火点である。CS14及びCS 15は、7%を超える高い量の飽和物質を含有する組成物について報告し、このため、粘度及び融点を含む所望のバランスの特性を提供しない。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4-1】
【0052】
【表4-2】
【0053】
【表4-3】
【0054】
【表4-4】
【0055】
【表5】
【0056】
本発明を、好ましい実施形態についての前述の説明により、特定の詳細とともに説明してきたが、この詳細は、説明が主な目的である。次に示す特許請求の範囲に記載されている本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者によって多くの変形及び変更をすることができる。