特許第6175706号(P6175706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6175706
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】質量分析計用イオンデフレクター
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20170731BHJP
   H01J 49/22 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   G01N27/62 E
   H01J49/22
【請求項の数】20
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-500715(P2015-500715)
(86)(22)【出願日】2013年3月20日
(65)【公表番号】特表2015-512510(P2015-512510A)
(43)【公表日】2015年4月27日
(86)【国際出願番号】AU2013000276
(87)【国際公開番号】WO2013138852
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2015年6月3日
(31)【優先権主張番号】2012901118
(32)【優先日】2012年3月20日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】514225467
【氏名又は名称】ブルカー ケミカル アナリシス ベーフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149766
【弁理士】
【氏名又は名称】京村 順二
(74)【代理人】
【識別番号】100110799
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 温道
(72)【発明者】
【氏名】カリニチェンコ,イオウリ
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−525821(JP,A)
【文献】 特開平03−046747(JP,A)
【文献】 特開2008−192519(JP,A)
【文献】 特開2010−123561(JP,A)
【文献】 米国特許第6614021(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計におけるイオンビームの行路を変えるため、複数の静電場を確立するよう配置された電場誘導体を含み、これによって、実質的に第1の行路に沿って移動しているイオンを偏向させて、実質的に第2の行路に沿って移動させることができる、イオンデフレクターであって、
前記電場誘導体は、複数の帯電可能エレメントを含む帯電可能コンポーネントと、
前記第1の行路上に、もしくはその周りに位置するように設けられ、イオンが偏向される前に接地エレメントに向かうように配置された、前記接地エレメントとを含み、
前記接地エレメントは、場合により必要な/望ましいバイアス電圧電位を該接地エレメントに提供することができるように、電圧源と共に配置され、
前記帯電可能コンポーネントは、前記接地エレメントにほぼ相対するように配置されるとともに、前記第1の行路および第2の行路の両方から離れて配置され、
前記複数の帯電可能エレメントのそれぞれが、電圧源と共に配置され、これによりそれぞれが正又は負のバイアス電圧電位を呈し、イオンのビームが、前記接地エレメントと前記帯電可能コンポーネントとの間の空間に沿って、前記帯電可能コンポーネントの外周部分を流れる、イオンデフレクター。
【請求項2】
前記それぞれの帯電可能エレメントが、帯電可能コンポーネントのセグメントとなる、請求項1に記載のイオンデフレクター。
【請求項3】
前記帯電可能エレメントがバイアス電圧電位を備えて提供される場合、生成される前記電場は単極電場であり、ここにおいて電場線の方向は、印加されているバイアス電圧電位が正であるか又は負であるかに依存する、請求項1に記載のイオンデフレクター。
【請求項4】
前記電場誘導体が、複数の単極電場を確立するよう配置される、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
【請求項5】
前記帯電可能エレメントのそれぞれが、前記質量分析計に入る前記イオンの電位に対して実質的に負のバイアス電圧電位を備えて提供される、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
【請求項6】
イオンの前記第1の行路及び第2の行路が、同じ面内、又は同じ流れ面内にある、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
【請求項7】
前記帯電可能コンポーネントが、4つの帯電可能エレメントを含み、このそれぞれが、イオンのビームがそこから引き出されるイオン源で測定した電圧電位に対して実質的に負のバイアス電圧電位を備えて提供されるよう配置される、請求項2に記載のイオンデフレクター。
【請求項8】
前記帯電可能エレメントがペアになって動作可能に配置され、このペアの各半分が、他方に対して相対するよう構成されている、請求項7に記載のイオンデフレクター。
【請求項9】
構成する前記帯電可能エレメントにわたって印加されたバイアス差動電圧が、公称値又は所定の量で可変になるように、動作可能ペアの一方が配置され得る、請求項8に記載のイオンデフレクター。
【請求項10】
それぞれの前記帯電可能エレメントペアの前記帯電可能コンポーネントが、前記イオンビーム流に対して幾何学的配置が構成されるように、互いに対して配置され、これによって、差動電圧が印加されたときに、イオンビームの望ましい方向への操作に影響を与える、請求項9に記載のイオンデフレクター。
【請求項11】
前記帯電可能コンポーネントが円形であり、4つの等しい形状の帯電可能エレメントを含む、請求項7〜請求項10のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
【請求項12】
前記帯電可能コンポーネントが、実質的に円錐形状、又はその一部分の形状で提供される、請求項7〜請求項11のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
【請求項13】
前記帯電可能コンポーネントが、前記イオンビームに対して十分な間隔をあけて配置され、これにより、該イオンビームを所定の様相で偏向させることができる電場を形成する、請求項2に記載のイオンデフレクター。
【請求項14】
前記接地エレメントに印加されているバイアス電圧電位は、正又は負の値をとる、請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
【請求項15】
前記接地エレメントの外周形状が実質的にセグメント化されている、請求項14に記載のイオンデフレクター。
【請求項16】
前記接地エレメントが実質的に曲線状である、請求項14又は請求項15に記載のイオンデフレクター。
【請求項17】
前記電場誘導体が、前記第1の行路軸と第2の行路軸とが互いに実質的に90度の角度で配置されているとき、該行路軸の間でイオンが偏向するように、配置され得る、請求項1〜請求項16のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
【請求項18】
前記電場誘導体は、前記第1の行路軸に沿っているイオンの流れを、意図される焦点の空間領域に向かって流れるように、複数の静電場を確立するよう配置され、これにより、下記(i),(ii)のいずれかの構成が実現されている、
請求項1〜請求項17のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
(i) 意図される焦点の空間領域を通って流れるイオンの空間的分布は、質量分析計に入るイオンに比べて、実質的に低減される。
(ii) 前記空間領域を通って流れるイオンのイオン束(ionic flux)は、質量分析計に入るイオンに比べて、実質的に大きい。
【請求項19】
前記電場誘導体が、複数の単極静電場を確立するよう配置され、この重ね合わせにより、イオンが必要に応じて3次元空間内で選択的に操舵され得る、請求項1〜請求項18のいずれか一項に記載のイオンデフレクター。
【請求項20】
質量分析計におけるイオンビームの行路を変えるための方法であって、電場誘導体を用いて、分光分析のために、実質的に第1の行路に沿って移動しているイオンを偏向させて、第2の行路に沿って移動させることが可能な、複数の静電場を確立する方法において、
前記電場誘導体に、複数の帯電可能エレメントを含む帯電可能コンポーネントを設ける工程と、
イオンが偏向される前に接地エレメントに向かうように、前記第1の行路上に、もしくはその周りに位置するように前記接地エレメントを設ける工程を含み、
前記接地エレメントは、場合により必要な/望ましいバイアス電圧電位を該接地エレメントに提供することができるように、電圧源と共に配置され、
前記帯電可能コンポーネントは、前記接地エレメントにほぼ相対するように配置されるとともに、前記第1の行路および第2の行路の両方から離れて配置され、
前記複数の帯電可能エレメントのそれぞれが、電圧源と共に配置され、これによりそれぞれが正又は負のバイアス電圧電位を呈し、イオンのビームが、前記接地エレメントと前記帯電可能コンポーネントとの間の空間に沿って、前記帯電可能コンポーネントの外周部分を流れるようにする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析法における、又は質量分析法に関連する改良に関するものである。より具体的には、一態様において、本発明は、質量分析装置を使用するためのイオンデフレクター配置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、既存知識の文書、行為又は項目が参照され又は検討される場合、その参照又は検討は、その既存知識の文書、行為若しくは項目又はそれらの組み合わせが、優先日時点で共通の一般的知識の一部であったことを認めるものではなく、また、本明細書が関心のある何らかの問題を解決する試みに関連していることが知られていることを認めるものでもない。
【0003】
質量分析計は、サンプル又は分子の元素組成又は分子組成を決定するため、荷電粒子の質量電荷比を測定又は分析するのに使用される専門家用装置である。
【0004】
この測定目的のため、数多くの様々な技法が使用される。質量分析計の1つの形態は、プラズマ生成のための誘導結合プラズマ (ICP) の使用を含む。この形態において、プラズマがサンプルを気化かつイオン化し、これにより、サンプルから生じたイオンが質量分析計に導入され、測定/分析 (分光測定分析) が行われる。
【0005】
質量分析計は動作するのに減圧を必要とし、プラズマからイオンを抽出及び移動させるには、プラズマにより形成されたイオンの一部を、サンプラーに提供される寸法約1 mmの開口部に通過させ、次にスキマーに提供される寸法約0.5 mmの開口部に通過させる (典型的に、それぞれサンプラーコーン及びスキマーコーンと呼ばれる)。
【0006】
質量分析計を通るイオンビームのガイダンスは通常、制御された電圧で動作する電極を適切に配置することによって得られる、成形された電場を介して制御される。この種の配置は通常、イオン光学系と呼ばれる。
【0007】
イオン光学系の一例は、特許文献1(Varian Australia Pty Ltd.) に記述されているものがある。同特許文献1に記述されている配置は適切に作動すると考えられるが、一部のイオンエネルギーレベルで測定感度に制限があると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,614,021号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、質量分析計に用いられるイオンデフレクターであって、イオンビームの行路を変えることができるイオンデフレクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主な一態様により、質量分析計におけるイオンビームの行路を変えるためのイオンデフレクターが提供される。このイオンデフレクターは、複数の静電場を確立するよう配置された電場誘導体を含み、これによって、実質的に第1の意図される行路に沿って移動しているイオンを偏向させて、実質的に第2の意図される行路に沿って移動させることができる。
【0011】
本発明の主な別の一態様により、質量分析計におけるイオンビームの行路を変えるためのイオンデフレクターが提供される。このイオンデフレクターは、複数の静電場を確立するよう配置された電場誘導体を含み、これによってイオンを、1つ以上の入射角から、所定の焦点に向かうよう偏向させることができる。
【0012】
本発明の主な別の一態様により、2つの異なる行路の間でイオン流を偏向させるための、質量分析計と共に使用するためのイオンデフレクターが提供される。このイオンデフレクターは、複数の静電場を確立するよう配置された電場誘導体を含み、これは、第1の行路軸に沿って移動しているイオン流を偏向させて、意図される焦点の空間領域に向かって集束させることができ、この焦点は実質的に別の行路軸に揃っている。
【0013】
電場誘導体は、複数 (又は数多くの)帯電可能エレメントを含む帯電可能コンポーネントを含み得る。この帯電可能エレメント又はこのそれぞれは、電圧源と共に配置することができ、これによりそれぞれが正又は負のバイアス電圧電位を呈する。
【0014】
一実施形態において、各帯電可能エレメントは、帯電可能コンポーネントのセグメントとなり得る。よって、帯電可能コンポーネントは、複数の帯電可能セグメントから構成され得る。
【0015】
帯電可能エレメント (又はセグメント) がバイアス電圧電位を備えて提供される場合、生成される電場は単極電場であり、ここにおいて電場線の方向は、印加されているバイアス電圧電位が正であるか (電場線が帯電可能エレメントから外向きに放射されている)、又は負であるか (電場線が帯電可能コンポーネントに向かって内向きに放射されている) に依存することが、理解されよう。
【0016】
したがって、本発明の上述の主な態様のため、及び後述の態様のため、この電場誘導体は好ましくは、複数の単極電場を確立するよう配置される。この点において、3次元空間のイオンのガイダンスは、少なくとも部分的に、確立された電場の結果として生じる影響、又は最終的な効果によって達成される。よって、一実施形態において、イオンビームの選択的操作 (又は操舵) 及び/又は選択的集束は、少なくとも部分的に、電場誘導体の帯電可能エレメント (又はセグメント) それぞれにより確立された電場の重ね合わせの活用により得られる。よって、電場誘導体10は複数の単極静電場を確立するよう配置することができ、この重ね合わせにより、イオンが必要に応じて3次元空間内で選択的に操舵され得る。
【0017】
好ましい一実施形態において、各帯電可能エレメントは、質量分析計に入るイオンの電位 (すなわち、イオン源の電位) に対して実質的に負のバイアス電圧電位を備えて提供される。
【0018】
好ましくは、イオンの意図される第1及び第2行路は、同じ面内、又は同じ流れ面内にある。しかしながら、本発明のデフレクターを配置及び採用することにより、質量分析計装置の具体的な配置 (例えば、イオン源に対する質量検出器の位置など) に応じて面外の偏向を生じさせることができることが理解されよう。
【0019】
一実施形態において、帯電可能コンポーネントは、4つの帯電可能エレメントを含み、それぞれが、イオン源で測定した電圧電位に対して実質的に負のバイアス電圧電位を備えて提供されるよう配置される。この配置において、電場誘導体は4つの単極電場を提供する。
【0020】
一実施形態において、帯電可能エレメントはペアになって動作可能に配置され、このペアの各半分 (構成要素である帯電可能エレメントを含む) が、他方に対して相対するよう構成されている。ペアを構成する帯電可能エレメントにわたってバイアス差動電圧を印加することにより、この静電場を使用して、イオンビームの方向及び/又は焦点を制御することができる。
【0021】
その構成する帯電可能エレメントにわたって印加されたバイアス差動電圧が、公称値又は所定の量で可変になるように、動作可能ペアの一方が配置され得る。このバイアス電圧電位における可変性が、ペア内の構成する帯電可能エレメント間の電圧電位の差動を提供し、これによって、イオンビームが操作又は「操舵」できるようになり、所定の空間領域に向かって適切に集束させることができる。それぞれの帯電可能エレメントペアの帯電可能コンポーネントは、イオンビーム流に対して幾何学的配置が構成されるように、互いに対して配置され、これによって、差動電圧が印加されたときに、イオンビームの望ましい方向への操作に影響を与える。
【0022】
一実施形態において、帯電可能コンポーネントは円形であり、4つの等しい形状の帯電可能エレメントを含む。よって、その実施形態における帯電可能コンポーネントは、2つの対称軸を含む。
【0023】
この実施形態の一配置において、帯電可能コンポーネントは、両方の対称軸がその流れ面に揃わないように、配置される。この配置において、相対する帯電可能エレメント (例えば、頂点対頂点で配置されるエレメント) は、それぞれのペアで動作可能に配置することができる。流れ面内に概ね存在する帯電可能エレメント (又はペア) 間に、バイアス差動電圧を印加することで、イオンビームはその面内で操作することができる。更に、流れ面の外に概ね存在する帯電可能エレメント (又はペア) 間に、バイアス差動電圧を印加することで、イオンビームはその面に対して実質的に直角に操作することができる。
【0024】
別の一配置において、1本の対称軸は、流れ面に実質的に揃っており、他方の対称軸は、流れ面に対して実質的に直交している。この配置において、流れ面内のイオンビームの操作は、流れ面に対して実質的に直交している対称軸を挟んで相対する1つ以上の帯電可能エレメントの間にバイアス差動電圧を確立することによって実施される。同様に、流れ面から外れるイオンビームの操作は、流れ面に実質的に揃っている対称軸を挟んで相対する1つ以上の帯電可能エレメントの間にバイアス差動電圧を確立することによって実施される。
【0025】
帯電可能コンポーネントは、実質的に円錐形状、又はその一部分の形状で提供され得る。この構成において、及び帯電可能コンポーネントが4つの帯電可能エレメントを含む場合、各帯電可能エレメントは円錐形の四半部分を呈する。この帯電可能コンポーネントは、他の幾何学的形状、又はその一部分の形状で提供され得ることが、当業者には理解されよう。
【0026】
帯電可能コンポーネントが複数の帯電可能エレメントを含む場合において、各帯電可能エレメントは、誘電性基材によって互いに電気的に分離され得る。そのような場合、誘電性材料又は類似の材料が、帯電可能エレメントの中間又はこれらに隣接して配置される。
【0027】
帯電可能コンポーネントは、イオンビームに対して十分な間隔をあけて配置され、これにより、イオンビームを所定の様相で偏向させることができる電場を形成する。一般に、イオンビームの意図された経路は、帯電可能コンポーネントの外周部分を中心に流れる。
【0028】
イオンデフレクターは更に、電気的に接地されるよう一般的に配置された接地エレメントを含み得る。いくつかの実施形態において、接地エレメントは、採用されている配置に応じて、わずかな電圧バイアスを有し得る。しかしながら、接地エレメントに印加されているバイアス電圧電位は、あったとしても、帯電可能エレメント又はそのそれぞれに印加されるものと同じ大きさにはならない。
【0029】
接地エレメントに印加されるバイアス電圧電位は、正又は負であり得る。ただし好ましくは、接地エレメントに印加されるどのバイアス電位も負である。
【0030】
接地エレメントの一部には、メッシュエレメントにより提供されるメッシュ又は類似の構造の領域が含まれ得る。メッシュエレメントは、場合により必要な/望ましいバイアス電圧電位を接地エレメントに提供することができるように、電圧源と共に配置され得る。
【0031】
接地エレメント及び/又はメッシュエレメントは、例えばニッケル又はステンレススチールなどの任意の好適な金属材料で製造することができる。更に、メッシュエレメントのメッシュ隙間の大きさは、例えば5 mm程度又はそれ以上であり得る。
【0032】
他の実施形態において、接地エレメントはその中に1つ以上の開口部を有し得る。例えば、そのような一実施形態において、接地エレメントは、第1又は第2の意図される行路の一方又は両方に実質的に同心状に配置され得る1つの開口部を含み得る。そのような開口部の形状は、例えば円形又は楕円形などの、任意の適切な形状であり得る。
【0033】
一実施形態において、接地エレメントは、幾何学的形状が円形又は楕円形であってよく、帯電可能コンポーネントに相対するような様相で位置及び/又は配置され得る。そのような構成において、接地エレメント及び帯電可能コンポーネントは、イオンビームがそれらの間を流れるように互いに対して配置される。帯電可能コンポーネントが概ね円錐形状である場合、接地エレメントと帯電可能コンポーネントは、円錐形の離れた端が接地エレメントに面するように構成することができる。
【0034】
接地エレメントは、例えば円形、楕円形などの任意の平面 (実質的に平坦) 形状の実質的に2次元であり得る。接地エレメントの外周形状は、実質的にセグメント化されていてよく (例えば複数のセグメントを有し、セグメントは実質的に直線であり得る)、又は実質的に曲線状であり得る。
【0035】
接地エレメントはまた、深さコンポーネントを有し得、よって本質的に3次元であり得る。この点に関して、この深さコンポーネントは、平面形状に関して、セグメント化又は曲線状であり得る (例えば凹面又は凸面を有し得る)。よって、接地エレメントは数多くの可能な3次元形状を含み得ることが理解されよう。
【0036】
非限定的な例としては、球形、放物線状、楕円形の2次元又は3次元形態を含み得る。接地エレメントは、数多くの2次元又は3次元形状の形態で提供され得ることが、当業者には理解されよう。
【0037】
本発明の上述の主な態様と、下記の態様に関して、意図される焦点の空間領域は、イオン流が集束または集中される空間領域 (すなわち焦点) を表わし、これにより、空間領域を実質的に通過するイオン流が強化され、イオンビームの空間的分配がその領域内で低減される。意図される焦点の空間領域はしばしば、後続の分光分析のためにイオンが導かれる入口領域の位置又はその近くに提供される。いくつかの実施形態において、この空間領域は、しばしば、質量分析計装置の全体の構成の一構成要素である質量分析器または衝突セル配置の入口位置またはその近くに提供される。
【0038】
好ましくは、イオン流は、任意のイオン熱運動化装置によって、イオンデフレクターに向かって集中または集束させることができ、これには例えばイオン漏斗、イオンガイド、または、残留圧力衝突冷却または衝突集束機能を採用したその他の装置が挙げられる。このようにして、イオン源から抽出されたイオンビームは、強化されたイオン流及び/又は低減されたエネルギー分布特性を有するイオンデフレクターに向かうよう、集束または集中させることができる。
【0039】
典型的に、意図される焦点の空間領域は、イオンデフレクターへの入口とは空間的に別個であり、ここにおいて、両者の間の位置関係は、電場誘導体配置の具体的な構成と相関関係にある。一実施形態において、この電場誘導体は、意図される焦点の空間領域がイオンデフレクターへの入口から十分に離れるよう配置され、これによりイオンが、行路の第1軸と第2軸との間で偏向される。
【0040】
好ましくは、この電場誘導体は、意図される焦点の空間領域の位置とこれによるイオン流の向きが所定通りになるよう配置される。
【0041】
行路の第1軸と第2軸の間の相対的角度は、望ましい質量分析計配置に応じて異なり得ることが理解されよう。例えば、イオンビームの偏向は、標的イオンのみを偏向することで、望ましくない粒子をイオンビーム流から除去することによって、質量分析計の測定感度が高まることが見出されている。したがって、そのような配置では、一般に衝突的雰囲気を提供することにより標的イオン密度を改善しようとする衝突または反応セルの必要を回避することが可能となる。加えて、イオンビームの操作または操舵の能力により、設計者が、よりコンパクトで、占めるベンチスペースがより小さい、あるいは機械的許容範囲が緩和された、質量分析計を開発することが可能になる。
【0042】
一実施形態において、電場誘導体は、第1行路軸と第2行路軸 (又は意図される第1行路及び第2行路) が互いに実質的に90度の角度で配置されているとき、これら行路軸の間でイオンが偏向するように、配置され得る。
【0043】
本発明の主な別の一態様により、2つの異なる行路の間でイオン流を導くための、質量分析計と共に使用するためのイオンデフレクターが提供され、このイオンデフレクターは、複数の静電場を確立するよう配置された電場誘導体を含み、これは、第1行路軸に沿っているイオンの流れを、意図される焦点の空間領域に向かって流れるようにすることができ、これにより、意図される焦点の空間領域を通って流れるイオンの空間的分布は、質量分析計に入るイオンの分布に比べて、実質的に低減されている。
【0044】
本発明の更なる主な一態様により、2つの異なる行路の間でイオン流を導くための、質量分析計と共に使用するためのイオンデフレクターが提供され、このイオンデフレクターは、複数の静電場を確立するよう配置された電場誘導体を含み、これは、第1行路軸に沿っているイオンの流れを、意図される焦点の空間領域に向かって流れるようにすることができ、これにより、空間領域を通って流れるイオン流は、質量分析計に入るイオンのイオン流に比べて、実質的により大きくなる。
【0045】
本発明の更なる主な一態様により、質量分析計装置と共に使用するためのサンプリングインタフェースが提供され、このサンプリングインタフェースは、分光分析のために、質量分析計内でイオンをサンプリングできるよう配置され、このサンプリングインタフェースは、イオン源から抽出された大量のイオンを受容して、第1行路軸に沿ってイオンビームを提供し、第2行路軸に沿って移動するイオンを受容するために配置されたイオン検出器に向けて意図された経路に沿って方向付けることができ、このサンプリングインタフェースは、第1行路軸と第2行路軸とにわたってイオンビームを偏向させるための、本発明の上述の主な態様の任意の実施形態にしたがって配置されたイオンデフレクターを含む。
【0046】
サンプリングインタフェースは、次の質量分析法装置のうち少なくとも1つに組み込み可能であるよう配置することができる: 大気圧プラズマイオン源 (低圧又は高圧プラズマイオン源も使用可能) の質量分析法で、例えば誘導結合プラズマ質量分析法 (ICP-MS)、マイクロ波プラズマ質量分析法 (MP-MS)、又はグロー放電質量分析法 (GD-MS) 若しくは光プラズマ質量分析法 (例えば、レーザー誘導プラズマ)、ガスクロマトグラフィー質量分析法 (GC-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析法 (LC-MS)、及びイオンクロマトグラフィー質量分析法 (IC-MS)。更に、その他のイオン源も含まれ得、これには、電子イオン化 (EI)、リアルタイム直接分析 (DART)、脱離エレクトロスプレー (DESI)、フロー大気圧アフターグロー (FAPA)、低温プラズマ (LTP)、誘電体バリア放電 (DBD)、ヘリウムプラズマイオン化源 (HPIS)、脱離大気圧光イオン化 (DAPPI)、及び大気圧又は周囲気圧脱離イオン化 (ADI) が挙げられるがこれらに限定されない。他の開発中分野の質量分析法にも本発明の原理が有益である可能性があるため、当業者には、後者のリストは網羅的なものではないことが理解されよう。
【0047】
本発明の更なる主な一態様により、本発明により配置された上述のイオンデフレクターの任意の実施形態を組み込んだ質量分析計が提供される。
【0048】
本発明の更なる主な別の一態様により、本発明により配置された上述のイオンデフレクターの任意の実施形態を組み込んだ誘導結合プラズマ質量分析計が提供される。
【0049】
本発明の更なる主な別の一態様により、本発明により配置された上述のイオンデフレクターの任意の実施形態を組み込んだ大気圧イオン源質量分析計が提供される。
【0050】
本発明の更なる主な一態様により、本発明により配置された上述のサンプリングインタフェースの任意の実施形態を組み込んだ質量分析計が提供される。
【0051】
本発明の更なる主な別の一態様により、本発明により配置された上述のサンプリングインタフェースの任意の実施形態を組み込んだ誘導結合プラズマ質量分析計が提供される。
【0052】
本発明の更なる主な別の一態様により、本発明により配置された上述のサンプリングインタフェースの任意の実施形態を組み込んだ大気圧イオン源質量分析計が提供される。
【0053】
本発明の更なる主な一態様により、質量分析計装置と共に使用するためのサンプリングインタフェースが提供され、このサンプリングインタフェースは:
イオン源から抽出されたイオンをイオンデフレクターに向かって集束させるように配置されたイオン集束装置と、イオン流を、意図される焦点の空間領域に向かって集束させることができる複数の電場を提供することができる電場誘導体を有するイオンデフレクターと、を含む。
【0054】
このイオンリフレクターは、本発明の上述の主な態様に関連して記述される任意の特徴を含み得る。
【0055】
このイオン集束装置は、例えばイオン漏斗、イオンガイド、または、残留圧力衝突冷却または衝突集束機能を採用したその他の装置などの、任意のイオン熱運動化装置を含み得る。そのような装置は、例えばオーストラリア特許仮出願第2011904560号に記述されているものなどの配置を組み込むことができ、この内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
本発明の別の主な一態様により、質量分析計におけるイオンビームの行路を変えるための方法が提供され、この方法には、分光分析のために、実質的に第1の意図される行路に沿って移動しているイオンを偏向させて、第2の意図される行路に沿って移動させることが可能な、複数の静電場を確立する工程が含まれる。
【0057】
本発明の別の主な一態様により、質量分析計におけるイオンビームの行路を変えるための方法が提供され、この方法は、イオンに対して複数の静電場を印加することによって、第1の意図される行路に実質的に沿って移動しているイオンを、意図される焦点の空間領域に向けて、偏向させる工程を含む。
【0058】
本発明の別の主な一態様により、質量分析計におけるイオンビームの行路を変えるための方法が提供され、この方法は、イオンに対して複数の静電場を印加することによって、1つ以上の入射角から、意図される焦点の空間領域に向けて、偏向させる工程を含む。
【0059】
本発明の主な別の一態様により、2本の異なる行路軸にわたってイオンビームのイオンを偏向させる方法が提供され、この方法は、2つの異なる行路軸の間でイオン流を偏向させることができる複数の静電場を確立するよう配置された電場誘導体を有するイオンデフレクターを提供する工程を含む。
【0060】
一実施形態において、イオンデフレクターは、上述の本発明の任意の主な態様に関連して記述される任意の実施形態に従って配置される。
【0061】
この方法は更に、イオン源から抽出されたイオン流の方向を変えて、このイオン流がイオンデフレクターへの入口に向かって集束または集中されるようにする工程を含み得る。この工程は、例えばイオン漏斗、イオンガイド、または、残留圧力衝突冷却または衝突集束機能を採用したその他の装置などの、任意のイオン熱運動化装置を使用することにより提供され得る。
【0062】
この方法は更に、質量分析器装置 (例えば四重極質量分析器配置) 又は衝突セル配置の入口位置又はその近くの、意図される焦点の空間領域に向かって、イオンビームを集中又は集束させるよう、イオンデフレクターを配置する工程を含む。
【0063】
この電場誘導体は、イオンデフレクターの入口領域でのイオンのエネルギー分布が、意図される焦点の空間領域でのものエネルギー分布と実質的に同じとなるように、適切に構成され得る。
【0064】
この電場誘導体は、本発明の上述の任意の主な態様により記述されている任意の実施形態を含み得る。
【0065】
本発明の実施形態は、任意の1つ以上の添付図を参照することにより、例としてのみ、更に説明され、具体的に示される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】コンピューターモデリングソフトウェアを使用して作成された本発明の一実施形態の概略斜視図を示す。
図2】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターにより偏向されたイオン流の2軸行路アライメントの、一実施形態の概略 (断面) 図を示す。
図3】本発明の別の一実施形態の概略図を示す。
図4図3に示す実施形態の斜視図を示す。
図5】本発明の別の一実施形態の概略図を示す。
図6図5に示す実施形態の斜視図を示す。
図7】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図8】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ別の質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図9】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ別の質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図10】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ更なる質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図11】本発明の一実施形態を組み込んだ更なる質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図12】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ更なる質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図13】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ更なる質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図14】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ更なる質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図15】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ更なる質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
図16】本発明の一実施形態により配置されたイオンデフレクターを組み込んだ更なる質量分析計配置の概略 (断面) 図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
簡潔にするために、本発明の数多くの実施形態は、大気圧質量分析法装置に関して具体的に記述される。しかしながら、記述される実施形態の内容は、任意の質量分析法装置に容易に適用することができ、これには、質量分析改変の目的で選択的イオン粒子フラグメント化、減衰、反応、衝突散乱、操作、及び再分配を行うために使用される、任意のタイプの衝突雰囲気 (多重極衝突又は反応セルが挙げられるがこれらに限定されない) 配置を有するものが含まれることが理解されよう。
【0068】
したがって、次の質量分析法装置は、本発明の原理が有益である可能性がある: 大気圧プラズマイオン源 (低圧又は高圧プラズマイオン源も使用可能) の質量分析法で、例えば誘導結合プラズマ質量分析法 (ICP-MS)、マイクロ波プラズマ質量分析法 (MP-MS)、又はグロー放電質量分析法 (GD-MS) 若しくは光プラズマ質量分析法 (例えば、レーザー誘導プラズマ)、ガスクロマトグラフィー質量分析法 (GC-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析法 (LC-MS)、及びイオンクロマトグラフィー質量分析法 (IC-MS)。更に、その他のイオン源も含まれ得、これには、電子イオン化 (EI)、リアルタイム直接分析 (DART)、脱離エレクトロスプレー (DESI)、フロー大気圧アフターグロー (FAPA)、低温プラズマ (LTP)、誘電体バリア放電 (DBD)、ヘリウムプラズマイオン化源 (HPIS)、脱離大気圧光イオン化 (DAPPI)、及び大気圧又は周囲気圧脱離イオン化 (ADI) が挙げられるがこれらに限定されない。他の開発中分野の質量分析法にも本発明の原理が有益である可能性があるため、当業者には、後者のリストは網羅的なものではないことが理解されよう。
【0069】
多くの質量分析装置には、イオンの焦点を合わせて、既知の衝突または反応セルなどのイオンビームマニピュレーター (使用される場合) にイオンを移動させる、イオン光学配置が含まれる。この構成要素の目的は、特定の分光分析ニーズのために、物理的および/または化学的手段によってイオンビームを変えることである。例えば、ICP-MS分野において、「干渉」環境 (すなわちイオンビーム中に存在する既知の望ましくない粒子と意図的に干渉させる、特定の気体または環境を含む) を提供することにより、測定したい特定の種類の「標的」イオンの測定を向上させることができる。
【0070】
質量分析計はしばしば、複数の質量分析器を順に並べ、異なる種類のイオンビームマニピュレーターを用いることにより、利益が得られる。四重極型質量分析装置は、順に動作する。スペクトルが順に得られることで、一度に質量-m/z測定値が1つだけになり、よって、数多くの質量を測定する必要がある場合には時間がかかり得る。さらに、そのような順次手法を用いた精密な同位体比測定は、イオン源および/またはサンプル導入システムが振動または動揺を起こすと、後続の測定のイオンビームが (時間的に) 不安定になり、問題を生じることがある。
【0071】
図1および図2を参照して、質量分析計配置2 (これは大気圧プラズマ質量分析装置として構成されている) と共に使用するための、本発明により配置されたイオンデフレクター5の一実施形態が示されている。このイオンデフレクター5は、2本の異なる行路軸 (図2に示すAおよびB) にわたってイオン流を方向付けるよう配置され、(イオン源4から) 実質的に軸Aに沿って移動しているイオン流を、(概ね領域60内で) 偏向させる電場誘導体10を含み、これによってイオン流を、実質的に軸Bに沿って質量分析器48へと向かわせる。
【0072】
行路の第1軸Aと第2軸Bの間の相対的角度は、望ましい質量分析計配置に応じて異なり得ることが理解されよう。例えば、イオンビームの偏向は、標的イオンのみを偏向させることで、望ましくない粒子をイオンビーム流から除去することによって、質量分析計の測定感度が高まることが見出されている。したがって、そのような配置では、一般に衝突的雰囲気を提供することにより標的イオン密度を改善しようとする衝突または反応セルの必要を回避することが可能となる。加えて、イオンビームの操作または操舵の能力により、設計者が、よりコンパクトで、占めるベンチスペースがより小さい質量分析装置を開発することが可能になる。
【0073】
イオン源4には、特定のサンプルから分光分析用の一定量のイオンを供給するために配置された電極又はコイルが含まれる。イオンはイオン熱運動化配置8へと抽出され (6参照)、これには、プラズマからのイオンを集束させて、意図される経路 (通常は軸A) に沿って移動させるよう配置されたイオンクーラー又は集束装置68が含まれる。イオンクーラー又は集束装置68は、2つ以上の極を有するイオン漏斗又はイオンガイド (先細又はその他の形状) の利点を利用する配置を含み得る。任意のイオン熱運動化配置8が、一般に、ポンプポート64に含まれる。
【0074】
作動中、イオンサンプルが、イオン熱運動化配置8から、本体28内に保持されたイオン抽出配置27を介し、開口部76を通って質量分析計2へと抽出される。イオン抽出配置27には、抽出電極16及び20が含まれ、これらがイオンを抽出及び集束させてイオンビーム12を形成し、これが領域24を通ってイオンデフレクター5へと向かう。領域24は、1つ以上の代替のイオン光学レンズ配置を備えることが可能であることが理解されよう。イオンデフレクター5は更に、上流側にレンズ32を含み、イオンビーム84がここを通って、イオン抽出配置27からイオンデフレクター5へと入る。
【0075】
電場誘導体10は、帯電可能コンポーネント36を含み、これは数多くの帯電可能エレメント88を含み、これらのエレメントは、正又は負のバイアス電位を呈するように、電圧源と共に配置することができる。図示されている実施形態において、帯電可能エレメント88のそれぞれ (図示されている実施形態では4つ) は、質量分析計2に入るイオンの電位 (すなわち、領域4/6におけるイオンの電位) に対して実質的に負のバイアス電位を伴って提供される。これより多い又は少ない数の帯電可能エレメント88を採用可能であることが理解されよう。
【0076】
帯電可能エレメント88がバイアス電圧電位を備えて提供される場合、生成される電場は単極電場であり、ここにおいて電場線の方向は、印加されているバイアス電圧電位が正であるか (帯電可能エレメントから外向きに放射)、又は負であるか (帯電可能コンポーネントに向かって内向きに放射) に依存することが、当業者には理解されよう。
【0077】
電場誘導体10はよって、複数の単極電場を確立するよう配置される。この点において、3次元空間のイオンのガイダンスは、少なくとも部分的に、確立された電場の結果として生じる影響、又は最終的な効果によって達成される。よって、イオンビームの選択的操作 (又は操舵) 及び/又は選択的集束は、少なくとも部分的に、電場誘導体10の帯電可能エレメント (又はセグメント) それぞれにより確立された電場の重ね合わせの活用により得られる。よって、電場誘導体10は複数の単極静電場を確立するよう配置され、この重ね合わせにより、イオンが必要に応じて3次元空間内で選択的に操舵され得る。
【0078】
電場誘導体10により提供される単極電場の配置は、イオンが行路の第1軸Aと第2軸Bとの間で偏向するようになっている。電場誘導体10は、質量分析器48の上流の入口領域80位置またはその近くにある、意図される焦点42の空間領域に向かって、イオンが偏向されほぼ集束されるように配置される。入口領域80内にあるのは、入口レンズ集束電極52及び56であり、このそれぞれが、質量分析器48 (例えば、衝突セル又はその他のコンパートメント) へ向かうイオンビームを更に集束させるよう配置される。あるいは、例えば入口領域80は、質量分析器の手前にある衝突セル又は実際に任意の他の望ましいコンパートメントの上流に配置することができる。
【0079】
電場誘導体10の一実施形態の概略が、図3及び図4に示されている。両方の図において、イオンビームは流れの面PF内を流れ、参照番号92で示される領域でイオンデフレクター5に入る。帯電可能コンポーネント36は、帯電可能エレメント88a〜dを含む。図示されている配置において、帯電可能エレメント88a〜dはペアとして動作可能に配置され、第1のペアは帯電可能エレメント88a及び88cを含み、第2のペアは帯電可能エレメント88b及び88dを含む。図示されているように、各ペアは、構成要素である帯電可能エレメントが互いに相対している (すなわち、ペアになっている向かい合う帯電可能エレメントが、頂点対頂点の構成で配置されている)。
【0080】
ペアを含む帯電可能エレメントにわたる印加されたバイアス差動電圧が所定量で可変になるよう、ペアのうち一方又は両方が配置される。バイアス電圧電位におけるこの可変性により、イオンビームの領域又は端 (一般に参照番号96で特定される) が選択的に操作又は「操舵」され、これにより領域96が、意図される空間領域 (すなわち、焦点) にほぼ向かって集束され得る。
【0081】
図3に示すように、帯電可能エレメント88b及び88dは、イオンビームの行路が、方向128/132の流れ面PFから外れる方向に操作又は「操舵」可能なように、配置される。これは、例えば、イオンデフレクター5を、意図される焦点 (一般に、質量分析器48の入口領域80位置にある) に向かってイオンビームを確実にほぼ集束させるように調節する際に、有用であり得る。同様に、帯電可能エレメント88a及び88cを含むペアは、イオンビームが、適切な場合、方向116又は112の流れ面PF内 (図4に示されている) で操作又は操舵可能になるように、作動可能に配置される。
【0082】
加えて、帯電可能エレメント88b、88d (これにより両方の帯電可能エレメントが単一の電極として効果的に動作する) と帯電可能エレメント88a、88c (これらも両方の帯電可能エレメントが単一の電極として効果的に動作する) との間に差動電圧を印加することにより、イオンビームの更なる操作が提供され得る。
【0083】
特定の予備的構成に拘束されるものではないが、帯電可能コンポーネント36が、動作中に、図3及び図4に示すように2つの帯電可能エレメントペアを含む場合、一方のペアは、構成要素である両方の帯電可能エレメント (例えば帯電可能エレメント88a及び88cを含むペア) に印加される-200 V程度のバイアス電圧電位を有するよう配置することができ、もう一方のペア (帯電可能エレメント88b及び88dを含むペア) は、約-200 Vプラスマイナス公称電圧電位10 Vのバイアス電圧電位を有するよう配置することができる (これにより、方向128又は132に操舵することが可能になる)。少なくとも部分的に、採用する帯電可能コンポーネント36 (及び/又はそれぞれの電極) の具体的な設計及び構成に依存して、任意のバイアス電圧電位 (又は範囲) を使用できることが理解されよう。
【0084】
帯電可能コンポーネント36の他の配置が図5及び図6に示されている。この構成において、帯電可能コンポーネント36は4つの帯電可能エレメント124a〜124dに等しく分割されている。この構成に示されているように、帯電可能コンポーネント36は、2本の対称軸を有し、第1対称軸S1は流れ面PFと実質的に揃っており、第2対称軸S2 は、その流れ面に対して実質的に直交している。この配置において、帯電可能エレメント124b及び124cは、それぞれ対称軸S1を挟んで帯電可能エレメント124a及び124dに相対しており、また帯電可能エレメント124a及び124bは、それぞれ対称軸S2 を挟んで帯電可能エレメント124d及び124cに相対している。帯電可能エレメント124a〜124dは、イオンビームの領域96が、方向128/132 (流れ面PFから外れる方向) 及び/又は116/112 (流れ面PF内) で選択的に操作又は操舵できるように、適切に作動可能に配置される。
【0085】
ビームが方向128又は132 (流れ面PFから外れる方向) に選択的に操舵される場合、バイアス差動電圧が、帯電可能エレメント124a及び124b (これは対称軸S1を挟んで互いに相対している) の間に配置され、これがイオンビームの領域96の方向128/132への動きを生成する。また、帯電可能エレメント124dと124cとの間に配置されたバイアス差動電圧によって、あるいは、帯電可能エレメント124a、124dが互いに連結されて帯電可能エレメント124b、124cと共に動作するようになっている場合に、同様の効果を確立することができることが理解されよう。よって、流れ面PFから外れる方向へのイオンビームの操作は、対称軸S1 を挟んで相対する1つ以上の帯電可能エレメントの間にバイアス差動電圧を印加することによって実施することができる。
【0086】
方向116/112 (流れ面PF内) でイオンビームを選択的に操舵するために、バイアス差動電圧が、帯電可能エレメント124aと124bとの間、及び帯電可能エレメント124cと124dとの間にそれぞれ印加される。この配置において、方向116/112のイオンビーム領域96の動きを生成するために、帯電可能エレメント124a、124bは単一の電極として作動し、帯電可能エレメント124c、124dも単一の電極として作動する。よって、流れ面PF内のイオンビームの操作は、対称軸S2 を挟んで相対する1つ以上の帯電可能エレメントの間にバイアス差動電圧を印加することによって実施することができる。この帯電可能コンポーネント36の実施形態は、4つより多い又は少ない数の帯電可能エレメントを含むよう好適に配置可能であることが理解されよう。同様に、帯電可能エレメントは、少なくとも部分的に、それぞれ固有の幾何学的構成に応じて互いに動作可能に配置することができ、イオンビームが適切に操作又は操舵できるように好適に配置することができる。
【0087】
図示されている実施形態において、帯電可能コンポーネント36は、実質的に円錐形態で提供され、ここにおいて帯電可能エレメント88/124はそれぞれ、帯電可能コンポーネント36の四分割 (又は四半くさび形) となる。更に、帯電可能コンポーネント36は、適切な他の幾何学的形状で提供され得ることが容易に理解されよう。帯電可能エレメント88/124は、誘電性基材 (図示なし) により互いに電気的に分離されている。この点に関して、帯電可能コンポーネント36は、帯電可能エレメント88/124が、それらの間に配置された誘電性材料によって互いに分離されるように配置され、これによって帯電可能エレメント88/124が互いに電気的に絶縁される。帯電可能エレメント88/124は、バイアス電圧電位を受け取ることができる任意の材料で製造可能であることが、当業者には容易に理解されよう。
【0088】
イオンデフレクター5は更に、電気的に接地されるよう一般的に配置された接地エレメント40を含む。いくつかの実施形態において、接地エレメント40は、採用されている電場誘電体配置に応じて、わずかな電圧バイアスを有する。しかしながら、接地エレメント40に印加されているバイアス電圧電位は、あったとしても、帯電可能エレメント124に印加されるものと同じ大きさにはならない。接地エレメント40に印加されるバイアス電圧電位は、正又は負であり得る。好ましくは、接地エレメントに印加されるどのバイアス電圧電位も負である。
【0089】
接地エレメント40の一部には、メッシュエレメント30により提供されるメッシュ領域26が含まれ得る。メッシュエレメント30は、場合により必要な/望ましいバイアス電圧電位を接地エレメント40に提供することができるように、電圧源と共に配置される。
【0090】
接地エレメント40及び/又はメッシュエレメント30は、例えばニッケル又はステンレススチールなどの任意の金属材料で実質的に製造することができる。更に、メッシュエレメント30のメッシュの大きさは、例えば5 mm程度又はそれ以上であり得る。
【0091】
接地エレメント40は、幾何学的形状が円形又は楕円形であってよく、帯電可能コンポーネント36に相対するような様相で位置及び/又は配置され得る。この構成において、接地エレメント40及び帯電可能コンポーネント36は、イオンビームがそれらの間を流れるように互いに対して配置される。帯電可能コンポーネント36が概ね円錐形状である場合、接地エレメント40と帯電可能コンポーネント36は、円錐形の最も離れた端が接地エレメント40に面するように構成することができる。
【0092】
接地エレメント40は、例えば円形、楕円形などの任意の平面 (実質的に平坦) 形状の実質的に2次元であることが、当業者には容易に理解されよう。接地エレメントの外周形状は、セグメント化されていてよく (例えば複数のセグメントを有し、セグメントは実質的に直線であり得る)、又は曲線状であり得る。
【0093】
一実施形態において、接地エレメント40は、深さコンポーネントを有し得、よって本質的に3次元であり得る。この点に関して、この深さコンポーネントは、平面形状に関して、セグメント化又は曲線状であり得る (例えば凹面又は凸面を有し得る)。よって、接地エレメント40は数多くの可能な3次元形状を含み得ることが理解されよう。非限定的な例としては、球形、放物線状、楕円形の2次元又は3次元形態を含み得る。よって、接地エレメント40は、数多くの2次元又は3次元形状の形態で提供され得ることが、当業者には理解されよう。
【0094】
本発明に対する改変及び改良は、当業者には容易に明らかとなることが理解されよう。そのような改変及び改良は、本発明の範囲内であることが意図されている。イオンデフレクター5の上述の実施形態を組み込むよう構成可能なさまざまな異なる配置の実施例が、図7図16のぞれぞれに示されている。
【0095】
図7は、イオン源210を含む質量分析計配置を示し、このイオン源から出たイオンが入口215を通って抽出され、カーテン気体配置220を通過する。イオンは次に熱運動化装置 (例えばイオン漏斗、先細または削ぎ形状のイオンガイド) に入り、これは改変されたイオンガイド配置230を含んでおり、これがイオンビームを開口部240に向けて集束させる役割を果たし、これによりチャンバ250内に含まれる光学的配置に入る。熱運動化装置は、ポンピングポート235に接続されているチャンバ225内に収容される。チャンバ250内に保持されているイオン光学配置は、本発明に従って構成されたイオンデフレクター配置を含み、これによりイオン流を偏向し集束させて、質量分析器コンパートメント265の入口260へと向ける。イオンビーム流の方向は概ね、数字85として示されている。
【0096】
類似の質量分析計配置が図8に示されている。ただし、チャンバ225はチャンバ275および290に置き換えられ、これらはそれぞれ、イオンビームを精製するための熱運動化装置280を含む。イオンは、イオン源210からのイオン流を促進する役割をするイオンキャピラリまたはイオン送達装置270を介して、チャンバ275によって受容される。チャンバ275および290はそれぞれ、ポンピングポート285および295によって調節されている。
【0097】
更なる質量分析計配置が図9に示されており、これは図7に示すものと類似の構造を保持している。図示されている配置は単一の熱運動化装置305を採用し、これが、イオンキャピラリまたはイオン転送装置270を用いてイオンを受容する。図10に示す配置は、熱運動化装置305を保持しているが、ただし、気体カーテン配置220 (図7に示されている) の下流に構成されている。
【0098】
図11図14に示されている質量分析計配置はまた、熱運動化装置305とイオンデフレクター配置5との間に位置する衝突セルまたは反応セル330を組み込むよう改変することができる。その衝突セル、または各衝突セルは、プラズマから抽出されたイオンと反応させるための、例えばアンモニア、メタン、酸素、窒素、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン、ヘリウム又は水素、又はこれらの任意の2つ以上の混合物が挙げられるがこれらに限定されない、1つ以上の反応気体又は衝突気体を (気体入口ポート335を介して) 適合するよう改変することができる。後者の気体例は、いかなる意味でも網羅的なものではなく、その他の数多くの気体、又はそれらの組み合わせが、そのような衝突セルに使用するのに好適であり得ることが理解されよう。
【0099】
図12は、気体カーテン220を通過したイオンを受容した後、2つの熱運動化装置305が直列に配置されている質量分析計配置を示す。
【0100】
図13は、熱運動化配置が削ぎ形状または先細形状のガイドエレメント325、350を備えて構成されている、質量分析計配置を示す。図14は、そのような熱運動化装置が2つ直列配置で組み込まれた場合を示す。
【0101】
イオンデフレクター5により偏向された後、イオンビームを更に精製するために、追加の質量フィルター配置を使用できることが理解されよう。図15および図16はそれぞれ、気体カーテン220の下流に熱運動化装置を配置した前出のものを採用した、質量分析計配置を示す。ただしイオンビームは、3つの四重極質量分析器配置360の入口に向けて偏向される。この質量分析器配置360は、曲がったフリンジロッドのアセンブリを含むプレフィルター配置365を含み、これがイオンビームを第1四重極質量分析器370に向かうようガイドする。イオンビームは次に衝突セル375へと通り抜け、ここで第2四重極質量分析器380に入り、これが最終的にイオンビームをイオン検出装置385へとガイドする。
【0102】
当業者は、図7図16に示す配置が網羅的に挙げることを意図したものではなく、 単に、本発明のイオンデフレクターの原理がさまざまな質量分析計配置にいかに容易に採用され得るものであるかを示すものである。他の改変は、当業者には容易に明らかとなろう。
【0103】
本明細書及び請求項に使用される用語「含む」及び用語変化形「含んでいる」は、何らかの変異物又は付加物を除外するよう本発明を制限するものではない。
図1
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