特許第6175911号(P6175911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6175911-溶鉄へのチタン添加方法 図000007
  • 特許6175911-溶鉄へのチタン添加方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6175911
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】溶鉄へのチタン添加方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/04 20060101AFI20170731BHJP
【FI】
   C21C7/04 E
   C21C7/04 C
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-116114(P2013-116114)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-234532(P2014-234532A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】井本 健夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄司
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−040412(JP,A)
【文献】 特開2000−345234(JP,A)
【文献】 特開平06−192723(JP,A)
【文献】 特開平01−042516(JP,A)
【文献】 特表2008−506837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00−7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鉄中のAl濃度を0.005〜0.80質量%とし、次いで、チタンを35質量%以上含有するとともに、チタン酸化物と酸化カルシウムを下記(1)式を満足するように含有する副材を、溶鉄に添加することを特徴とする溶鉄へのチタン添加方法。
3≦(質量%Ti)/(質量%Ca)≦8 ・・・(1)
ただし、
(質量%Ti):副材中の、酸化物として含有されるTiの質量%
(質量%Ca):副材中の、酸化物として含有されるCaの質量%
【請求項2】
前記副材を、粉末で溶鉄に添加し、かつ、溶鉄中を通過させることを特徴とする請求項1に記載の溶鉄へのチタン添加方法。
【請求項3】
前記副材を、溶鉄表面上の初期スラグと遮断された溶鉄表面に添加して、副材と溶鉄の界面を撹拌することを特徴とする請求項1に記載の溶鉄へのチタン添加方法。
【請求項4】
前記副材と溶鉄中のアルミニウムの還元反応における反応サイトのアルミナ濃度が10質量%未満であることを特徴とする特徴とする請求項1、2、又は、3に記載の溶鉄へのチタン添加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程の主に二次精錬の取鍋内の溶鋼に、有価金属のチタンを、安価なチタン酸化物の還元反応によって添加する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼中のチタン成分は、IF鋼侵入型元素であるC、Nの固定無害化や、製品の肌焼き特性向上や、結晶粒微細化による硬度向上などを目的に添加される有用元素で、チタン含有鋼製品は、電気炉や転炉にて製造された溶鋼を、二次精錬の取鍋工程にて、スポンジチタン添加などにより成分調整した後に、鋳造、圧延工程を経由して製造される。
【0003】
そのために添加するスポンジチタンなどの金属チタンは、非常に高価であることから、安価なチタン酸化物のアルミニウム還元を、高い還元効率で実施できれば、コスト的に極めて有効である。
【0004】
特許文献1及び2には、溶鋼表面又はその上に存在するスラグにチタン酸化物を添加して、溶鋼にチタンを添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3752892号公報
【特許文献2】特開2001−040412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示の技術では、酸化チタンの添加は、精錬容器内にスラグと共存する溶鋼表面又はスラグに対して行うので、アルミニウムによる酸化チタンの還元を実施するためには、あらかじめ、精錬容器内のスラグ組成を限られた範囲に限定する必要がある他、撹拌条件を適正値に規定する必要があるなどの制約がある。
【0007】
更に、特許文献1に開示の技術では、酸化チタンの添加による耐火物溶損防止のために、スラグ中のMgO濃度を5〜25質量%の高位に調整する必要があり、また、スラグ量が過大にならないように、CaO/Al23を2.5以下にする必要がある。
【0008】
結果として、スラグ中のAl23濃度については15〜55質量%の範囲が規定されているが、本発明者らの調査研究によると、チタン酸化物のアルミニウム還元には、このような高濃度のAl23はチタン還元歩留りを低下させることが認められており、この方法では、コスト面、反応効率確保の面で課題がある。
【0009】
特許文献2には、酸化チタンと酸化カルシウム(又は、水酸化カルシウム)含有物と、金属アルミニウムを同時に添加する手段が記載されている。このときの実施形態には、酸化チタンと酸化カルシウムに金属アルミを混合したブリケット添加が示されているが、ブリケット製造に特殊な工程を伴う上に、配合可能な金属アルミニウムのサイズなどの制約が大きいものである。
【0010】
このような制約がなく、酸化チタンと酸化カルシウム、金属アルミニウムを同時に添加する簡易な方法として、粉体による同時インジェクションなどが挙げられるが、金属アルミニウムの融点は660℃と溶鉄に比べて大幅に低いため、一般に、1500℃以上の高温の溶鉄表面や溶鉄中に搬送するためには、配管内でアルミ粒が溶融して、配管閉塞を招くような操業トラブルを引き起こすなどの重大な欠点がある。
【0011】
また、特許文献2には、チタン酸化物と酸化カルシウムのみの混合ブリケットを鋼中アルミにて還元した操業例(表1中:比較例3)が示されているが、還元効率は低位に留まっている。本発明者らの調査によると、このときの操業条件は、酸化チタンと酸化カルシウムの配合比率が不適正な範囲に属している。
【0012】
本発明は、従来技術の上記問題点を踏まえ、溶鋼に有価金属のチタンを効率に、かつ、経済的に添加することを課題とし、このための操業上の添加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。その結果、有価金属のチタンを、安価な酸化物原料の還元反応によって、効率よく経済的に溶鋼に添加できることを見いだした。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0015】
(1)溶鉄中のAl濃度を0.005〜0.80質量%とし、次いで、チタンを35質量%以上含有するとともに、チタン酸化物と酸化カルシウムを下記(1)式を満足するように含有する副材を、溶鉄に添加することを特徴とする溶鉄へのチタン添加方法。
3≦(質量%Ti)/(質量%Ca)≦8 ・・・(1)
ただし、
(質量%Ti):副材中の、酸化物として含有されるTiの質量%
(質量%Ca):副材中の、酸化物として含有されるCaの質量%
【0016】
(2)前記副材を、粉末で溶鉄に添加し、かつ、溶鉄中を通過させることを特徴とする前記(1)に記載の溶鉄へのチタン添加方法。
【0017】
(3)前記副材を、溶鉄表面上の初期スラグと遮断された溶鉄表面に添加して、副材と溶鉄の界面を撹拌することを特徴とする前記(1)に記載の溶鉄へのチタン添加方法。
【0018】
(4)前記副材と溶鉄中のアルミニウムの還元反応における反応サイトのアルミナ濃度が10質量%未満であることを特徴とする前記(1)、(2)、又は、(3)に記載の溶鉄へのチタン添加方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鉄鋼製品の特性向上に重要な有価元素のチタンを含有する鉄鋼製品を製造する際、溶鉄へ高価な金属チタンを添加することなく、安価なチタン酸化物の還元を、高効率、安定操業によって実施してチタンを添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】インジェクション方式による本発明の実施(副材の添加)を模式的に示す図である。
図2】CAS方式による本発明の実施(副材の添加)を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の溶鉄へのチタン添加方法(以下「本発明方法」ということがある。)は、溶鉄中のAl濃度を0.005〜0.80質量%とし、次いで、チタンを35質量%以上含有するとともに、チタン酸化物と酸化カルシウムを下記(1)式を満足するように含有する副材を、溶鉄に添加することを特徴とする。
3≦(質量%Ti)/(質量%Ca)≦8 ・・・(1)
ただし、
(質量%Ti):副材中の、酸化物として含有されるTiの質量%
(質量%Ca):副材中の、酸化物として含有されるCaの質量%
【0022】
図1に基づいて、本発明方法の実施形態について説明する。また、図2に基づいて、図1に示す実施形態とは異なる実施形態(望ましい実施形態の一つ)についても説明する。
【0023】
なお、本発明方法の実施形態は、図1及び図2に示す実施形態に限られるものではなく、本発明方法は、上記課題を解決するための手段の要旨を逸脱しない範囲において、適宜、他の実施形態を採用し得るものである。
【0024】
図1に、インジェクション方式による本発明の実施(副材の添加)を模式的に示す。
【0025】
図1に示す副材の添加では、溶鋼鍋1内の溶鋼7にインジェクションランス2が挿入されていて、酸化チタンホッパー3と生石灰ホッパー4から、それぞれ、酸化チタンと生石灰(いずれも粉体)が搬送配管5に送給され、搬送配管5中で混合された混合フラックス6(副材)が、インジェクションランス2から、溶鋼7の中に、キャリヤーガス(図示なし)とともに吹き込まれる。
【0026】
このとき、溶鋼7は、転炉や電気炉などで製造した溶鋼に、チタン酸化物の還元材として必要なAlを、予め、0.005〜0.80質量%含有させておく必要がある。溶鋼のAl濃度については後述する。
【0027】
なお、溶鋼が、他の成分として、ニオブ、クロム、ニッケル、シリコン、マンガンなどを含有していても、本発明方法の実施には差支えない。
【0028】
溶鋼に添加した混合フラックス中のチタン酸化物(粉体)は、溶鋼中のアルミニウムによって還元される。チタン酸化物は、遷移元素のチタンの価数によらず、TiO2、Ti23、Ti25などの粉体を使用し得る。
【0029】
酸化物として存在するイルメナイト鉱石や、各種の混合物も利用可能であるが、経済性や、反応効率の点から、天然のチタン鉱石などのチタン酸化物の含有量が80質量%以上のものが望ましい。
【0030】
また、混合フラックスを構成する酸化カルシウムとしては、生石灰(主成分はCaO)が、熱裕度の面で有利であるが、昇華反応によって酸化カルシウムに変化する消石灰(主成分は(Ca(OH)2)や、石灰石(主成分はCaCO3)でもよく、また、CaO含有量の高いスラグなどの酸化物混合体でもよい。酸化チタンと酸化カルシウムは、必ずしも添加前に混合して溶鉄に添加する必要はない。
【0031】
図2に、CAS方式による本発明の実施(副材の添加)を模式的に示す。
【0032】
図2に示す副材の添加の場合、溶鋼鍋8に、酸化チタンホッパー9と生石灰ホッパー10から、それぞれ、酸化チタンと生石灰(いずれも粉体)を混合容器11に送給して混合添加物11a(副材)を製造し、この混合添加物11aを、CASベル12内の溶鋼13表面のトップスラグ14と遮断した領域に添加する。
【0033】
そして、上記領域における副材と溶鋼界面を、溶鋼鍋8の底部8aに設置したポーラスプラグ15より撹拌ガス16を吹き込んで撹拌し、還元反応を促進させる。
【0034】
なお、酸化チタンと酸化カルシウムを溶鉄表面に順次添加して、溶鉄表面で実質的に混合物の添加と同じ作用効果が得られるように、酸化チタンと酸化カルシウムを溶鉄表面で混合する実施形態も、本発明方法の実施形態である。
【0035】
副材(例えば、混合フラックス、混合添加物)は、酸化物として含有する酸素なども考慮して、チタン含有率が35質量%以上で、チタン酸化物と酸化カルシウムの配合比が、下記(1)式を満たす必要がある。
3≦(質量%Ti)/(質量%Ca)≦8 ・・・(1)
ただし、
(質量%Ti):副材中の、酸化物として含有されるTiの質量%
(質量%Ca):副材中の、酸化物として含有されるCaの質量%
【0036】
副材中の、例えば、酸化物として存在するチタンが4価、即ち、TiO2である場合、TiO2は、溶鋼中のアルミニウムで、下記(2)式に従って還元されて、チタンが合金成分として溶鋼中に残留する。
【0037】
3TiO2+4Al→3Ti+2Al23 ・・・(2)
下線は、溶鋼中の合金元素を示す。
【0038】
ここで、副材の成分組成を上記(1)式で規定するのは、以下の2条件を満たす必要があるからである。
【0039】
条件1:主成分であるチタン酸化物は高融点であり、反応促進には不利であるが、酸化カルシウムを配合すると、融点低下などで、還元反応の物質移動促進作用が著しいことが判明し、その配合割合が(質量%Ti)/(質量%Ca)≦8である。
【0040】
条件2:十分な反応駆動力を維持するためには、酸化チタンの活量を高位に維持する組成にする必要があり、そのためには、チタン含有率が35質量%以上であり、かつ、3≦(質量%Ti)/(質量%Ca)である。
【0041】
以下、条件1及び条件2について説明する。
【0042】
溶鋼温度では溶融しない高融点の酸化チタンをアルミニウムで還元する際、細かな酸化チタンが、長時間、溶鋼中に分散して接触する状態を維持するような、特別な操業技術を用いない限り、酸化チタンの表面を還元して生成した酸化アルミニウムが介在して、酸化チタンが凝集状態になり、還元反応のために必要な、溶鋼と酸化チタンの十分な接触面積を確保することができない。
【0043】
そこで、条件1で規定する配合割合の酸化カルシウムで形成される低融点液相(酸化チタンと酸化カルシウムで形成される)と、酸化チタンの共存による反応速度論的(物質移動律速の緩和)な効果を確保した。
【0044】
また、条件2で規定する配合割合の酸化カルシウムと、高酸化チタン含有率(35%以上)により、高位の酸化チタンの活量を実現し、熱力学的(高い反応駆動力)な効果を確保した。
【0045】
即ち、本発明者らは、詳細な研究調査により、上記の反応速度論的な効果と熱力学的な効果の両方を得ることができる条件を見いだした。
【0046】
また、チタン酸化物と配合する物質については、酸化チタンの活量を高位に維持する目的で、酸化カルシウムを選定したが、その理由は以下のとおりである。
【0047】
酸化カルシウムと同じように、チタン酸化物と低融点液相を生成する化合物としては、いくつかの候補がある。しかし、酸化チタンよりも酸素との結合力の弱い物質は、Tiよりも優先的に還元されるので、本発明方法には適用不可である(例:MnOを配合した場合、アルミニウムによる還元はMnOの還元が優先されるので、効果がない)。
【0048】
酸素結合力の点から、本発明方法に適用し得る酸化物としては、いくつかの候補に絞られ、例えば、酸化ストロンチウムなども可能性がある。しかし、工業的利用にあたっては、コストが数十倍となるので、本発明方法で用いる配合物は酸化カルシウム主体のものに限定した。
【0049】
次に、還元材として必要な、溶鋼のアルミニウム濃度(0.005〜0.80質量%)について説明する。
【0050】
溶鋼のアルミニウム濃度が0.005質量%未満であると、酸化チタンの還元に必要な酸素活量が得られず、チタン酸化物の還元効率が不十分である。また、アルミニウム濃度が0.005質量%未満であると、実操業において、連続鋳造までの間で、空気や、耐火物中の酸化物の還元により、チタンの酸化ロスが生じて、鋼製品を安定的に製造することが難しくなる。
【0051】
鋼製品を安定的に製造するためには、再度、アルミニウムを投入して、還元反応によるチタン添加を行ない、チタンの酸化ロスを回復する必要がある。それ故、溶鋼のアルミニウム濃度は0.005質量%以上とする。好ましくは0.010質量%以上である。
【0052】
溶鋼のアルミニウム濃度が0.80質量%を超えると、チタンの還元反応を促進する作用が増加しない一方で、連続鋳造時に、アルミニウム濃度の増加に伴って鋳片割れが多発するので、鋳造工程で鋳造速度を大幅に下げる必要がある。
【0053】
通常、チタン含有極低炭素鋼製品に求められるアルミニウム濃度は、0.80質量%以下である。アルミニウム濃度が0.80質量%を超える溶鋼において、チタン酸化物の還元を行う場合、規定値を超えるアルミニウム合金を酸素OB処理で低減する必要がある。
【0054】
その結果、処理工程が複雑になり、かつ、アルミニウム合金が無駄に消費されることになる。それ故、溶鋼のアルミニウム濃度は0.80質量%以下とする。好ましくは0.50質量%以下である。
【0055】
図1に示すインジェクション方式による副材の添加では、副材を粉末で添加し、溶鉄中を通過させることができ、上記効果を発現させるために、副材体積当たりの還元反応比表面積を高位に確保できるトランジトリー反応を実現できるので、特に、好ましい操業形態である。
【0056】
なお、この好ましい操業形態には、RH方式などの真空脱ガス装置の真空槽内の溶鋼表面へ副材(粉末)を吹き付ける操業形態も含まれる。
【0057】
図2に示す操業形態においては、副材を、溶鋼鍋内の溶鉄表面の初期スラグと遮断した溶鉄表面に添加して、副材と溶鉄界面を撹拌する。
【0058】
この操業形態においては、還元特性を有利に発現させるために、トップスラグの反応部位への混入を効率よく簡便に抑制して、高い反応駆動力を維持しつつ、界面撹乱による比表面積の増大と、反応のための物質移動促進を実現できる。それ故、上記操業形態は、インジェクション方式とは異なるが、特に好ましい操業形態である。
【0059】
また、副材と溶鉄中のアルミニウムの還元反応における反応サイトで、上記(2)式を効率よく進行させるため、アルミナ活量の引き下げは、特に有効な操業条件である。本発明者らの実験調査の結果、反応サイトでのアルミナ濃度は10質量%未満が望ましいことが判明した。
【0060】
なお、副材と溶鉄中のアルミニウムの還元反応における反応サイトのアルミナ濃度とは、溶鉄内部でのトランジトリー反応を利用する、図1に示すような実施形態では、副材中のアルミナ含有物の濃度をいい、また、トップスラグを遮断して撹拌を利用する、図2に示すような実施形態では、副材添加完了後の遮断物内(CASベル12内)の不可避的混入スラグ分も含めたアルミナ濃度をいう。
【0061】
本発明方法においては、図1及び図2で示す好ましい実施形態の他、真空脱ガス槽へ副材を添加する形態や、予め、溶鋼表面のスラグ量を除滓して副材を添加する形態を採用しても、本発明方法の効果を得ることができる。
【0062】
その場合、上記反応サイトのアルミナ濃度は、真空槽内の溶鋼表面に副材を添加する場合は、副材中のアルミナ濃度であり、CASベルなどの遮断物のない取鍋内の溶鋼表面に副材を添加する場合は、副材添加完了後のトップスラグの滓化スラグのアルミナ濃度である。
【0063】
本発明方法の経済的効果は、チタン鉱石の価格や品位、アルミ合金のコスト、必要還元濃度などにより適宜得ることができるが、後述の実施例で示す比較的純度の高いチタン鉱石と、金属アルミニウム、自動車用鋼板などに主に使用するTi添加極低炭素鋼(目標[Ti]が0.01〜0.10質量%程度)を前提とした場合、Ti還元率5割程度以上を確保することができれば、本発明方法は、安価合金代替技術として十分に活用できる。
【実施例】
【0064】
次に、本発明方法について実施例に基づいて説明するが、実施例での条件は、本発明方法の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明方法は、この一条件例に限定されるものではない。本発明方法は、本発明方法の要旨を逸脱せず、本発明方法の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0065】
(実施例)
実験操業を、容量150tの副材添加機能を有する溶鋼取鍋処理ステーションにて行った。
【0066】
転炉で製造した、約1650℃、[C]:0.05質量%、残部は不可避的不純物の溶鋼に、金属アルミニウムを0.15質量%添加して、(a)1mmアンダーのルチル鉱石(主成分TiO2:純度95%)と0.8mmアンダーの生石灰(主成分CaO:純度84.9%)を、インジェクション方式で混合添加する、又は、(b)事前混合後、上方添加(底吹アルゴン撹拌流量500Nl/min)する処理を行った。
【0067】
表1に、ルチル鉱石の総添加量を250kgの一定とし、生石灰添加量を変更した水準で行った処理の結果を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
インジェクション方式で、生石灰添加量が30〜70kgの実施例1、3、及び、4では、還元率70%以上の極めて良好な還元率が得られている。
【0070】
上方添加方式の実施例2は、図2に示すCAS方式で行った実施例である。トップスラグを遮断したCASベル内の溶鋼表面に、ルチル鉱石と生石灰の混合物を添加して、アルゴン撹拌を行い、還元反応を促進した。実施例2では、インジェクション方法と同等の還元率が得られている。
【0071】
一方、比較例1では、生石灰添加量が不足して、スラグの滓化が不十分となり、反応率が低下し、比較例2では、酸化チタンの配合率が低く、活量が低位が要因で反応率が低下し、ともに、還元率は40%未満の低位である。
【0072】
表2に、操業方法は実施例1と同じで、処理鋼種を変更した場合の操業試験の結果を示す。
【0073】
【表2】
【0074】
実施例5では高合金鋼(SUS430ステンレス)を対象にし、実施例6ではIF鋼(真空脱ガスによって、予め、[C]を20ppmにした極低炭素鋼)を対象にした。ともに、実施例1と同様に、高いチタン還元率が得られていて、本発明方法は、高合金鋼や、真空脱ガスが必須の鋼種などの鋼製品製造にも広く適用可能であることが確認できた。
【0075】
表3に、鋼の初期のアルミニウム濃度を変化させて実施した試験操業の結果を示す。
【0076】
【表3】
【0077】
酸化チタンの添加量を一定にした場合には、処理中に、還元反応で低下するアルミニウムの影響によって、本発明方法の効果を定量的に評価することができない。それ故、初期のアルミニウム濃度に対応させて、添加する酸化チタン量を変更した。
【0078】
即ち、マスバランスから計算して、ルチルの添加量は、全量還元された場合にも、鋼中にアルミニウムが残存して、還元能力が失われない条件とするように、鋼のアルミニウム還元可能量の60%を目標ルチル添加量として、そのルチルに対する生石灰配合率をほぼ一定となるように還元実験を行った。
【0079】
初期アルミニウム濃度を0.003質量%とした場合、チタン還元率は33%程度と低かった。これは、鋼中にアルミニウムは残存しているが、アルミニウム濃度が低いため、還元のための駆動力が不十分であったことが原因である。
【0080】
なお、アルミニウム濃度が低い場合、例えば、ジルコニウムのような強還元元素を添加して還元率を高めることは可能であるが、このような金属は、アルミニウムよりも高価であり、更に、一般に、金属チタンよりも高価である。
【0081】
したがって、極めて特殊な鋼種を除けば、金属チタン添加の方が簡易で、経済的である。それ故、鋼のアルミニウム濃度が0.005質量%未満での還元処理は、本発明の範囲から除外している。
【0082】
初期アルミニウム濃度が0.005質量%以上の操業では、目標の50%以上の還元率が得られている。
【0083】
一方、初期アルミニウム濃度が0.8質量%を超える0.9質量%の比較例4では、処理後の溶鋼のアルミニウム濃度が高く、連続鋳造などの後工程による製品製造を行うためには、還元処理後にOB処理(酸素吹き付けによるアルミ燃焼低減)を行う必要が生じた。そのため、アルミニウム添加のコスト増、操業時間の延長、OB処理によるアルミナ生成の品質管理などの課題が生じた。
【0084】
更に、添加材(副材)のサイズ、種類の影響を評価するため、表1中の実施例2と同様の操業を基本条件とし、上方添加とAr撹拌で行った試験操業の結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
ルチル、生石灰のサイズを塊状添加(サイズ50mm程度)で行った場合(実施例11)、酸化チタンの種類を変更して、更に安価なイルメナイト(主成分FeTiO3)をルチルに3割混合して用いた場合(混合に伴いTi含有量は40.8質量%に変更:実施例12)、及び、酸化カルシウムの種類を変更して消石灰(主成分Ca(OH)2)、石灰石(主成分CaCO3)、転炉滓(主成分CaO−SiO2−酸化鉄)を用いた場合(実施例13、14、15)の全てで、良好な還元特性が得られることを確認できる。
【0087】
添加材中の酸化カルシウム源に造塊滓(主成分CaO−Al23)を用いた試験(副材中の(質量%Ti/質量%Ca)=約4)(実施例16)では、配合材中のアルミナが11質量%となった。還元率は53.7%であり、目標値の50%を超える結果が得られているが、他の水準より低位である。
【0088】
これは、添加材中のアルミナ濃度が比較的高かったことから、アルミナの活量が高く、上記(2)式の反応が停滞したと考えられる。
【0089】
本発明方法を上方添加方式で実施する際、CASベルなしで操業可能であることを確認するため、転炉出鋼時にスラグダーツを使用し、取鍋での排滓を実施して、予め、取鍋スラグ量による影響を、添加物成分の誤差範囲程度になるまで徹底して除滓を行った実施例17でも、良好なTi還元特性が得られている。
【0090】
この場合、CASベル設置の設備対策がなくても、本発明方法を実施できることを確認できるが、作業負荷が増え、除滓による処理時間の延長を伴うことから、製鉄所での製造製品にTi添加が要求される鋼種の比率が少ないことを除くと、CAS方式の方がランニングコストの上で有利である。
【0091】
更に、実施例15の条件をベースに添加剤に珪砂(SiO295%超品、2mmアンダー)を含有させて、Ti含有率を変化させた。その際、Ti(質量%)/Ca(質量%)は一定とした。結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
実施例18〜20(Ti含有率35質量%以上の範囲)では、目標であるTi還元率50%以上の結果が得られているが、珪砂を多く添加した条件(比較例5、6、Ti含有率35質量%未満の範囲)では、Ti還元率は著しく低下し、還元率50%を確保できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
前述したように、本発明によれば、特性向上に重要な有価元素のチタンを含有する溶鉄に添加して鉄鋼製品を製造する際、溶鉄に高価な金属チタンを添加することなく、安価なチタン酸化物の還元を、高効率、安定操業で実施してチタンを溶鉄に添加することができる。よって、チタン含有鉄鋼製品を経済的に製造することができ、操業的には容易で、コスト面において工業的価値が極めて大きく、鉄鋼産業において利用可能性が大きいものである。
【符号の説明】
【0095】
1 溶鋼鍋
2 インジェクションランス
3 酸化チタンホッパー
4 生石灰ホッパー
5 搬送配管
6 混合フラックス
7 溶鋼
8 溶鋼鍋
8a 底部
9 酸化チタンホッパー
10 生石灰ホッパー
11 混合容器
11a 混合添加物
12 CASベル
13 溶鋼
14 トップスラグ
15 ポーラスプラグ
16 撹拌ガス
図1
図2