(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を含むサイジング剤を(A)/(B)の質量比30/70〜70/30の割合で炭素繊維に塗布したことを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維。
前記化合物(A)がグリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である、請求項1記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
前記極性基が、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、イソシアネート基、およびスルホ基から選ばれたものである、請求項1から3のいずれか一つに記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
前記炭素繊維のX線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が0.10以上である、請求項1〜5のいずれか一つに記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
炭素繊維に、少なくともエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を含むサイジング剤水溶液を塗布した後、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒熱処理する工程を含む、請求項1〜6のいずれか一つに記載のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、更に詳しく、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維について説明をする。
【0030】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、少なくとも、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を含むサイジング剤を(A)/(B)の質量比30/70〜70/30の割合で炭素繊維に塗布することを特徴とする。
【0031】
まず、本発明で使用するサイジング剤は、少なくとも、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を含むサイジング剤を含む。
【0032】
本発明において、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を併用した場合、より極性の高いエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)が偏在しやすいという現象が見られる。このサイジング層の傾斜構造の結果として、本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、サイジング層内側(炭素繊維側)にエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在し、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)には一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を多く存在する。サイジング層内側に多く存在するエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)は炭素繊維と強固に相互作用を行い、接着性を高める。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を炭素繊維強化複合材料に用いた場合には、サイジング層表層に多く存在する一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)がマトリックス樹脂とも強い相互作用を持つことが可能となる。
【0033】
サイジング剤が、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)のみからなり、一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を含まない場合、該サイジング剤を塗布した炭素繊維は、サイジング剤と炭素繊維の相互作用が高いことが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)は炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基との官能基と相互作用の高いエポキシ基を十分に持ち、柔軟な骨格および自由度が高い構造に由来して、炭素繊維表面の官能基とエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。本発明のサイジング剤は、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)のみからなる場合に比べて、マトリックス樹脂にビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂が使用される場合には、サイジング剤のエポキシ化合物がマトリックス樹脂と強い相互作用を形成でき、接着性が向上する。
【0034】
サイジング剤が、一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)からなり、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)を含まない場合、該サイジング剤を塗布した炭素繊維は、炭素繊維官能基とサイジング剤の極性基の親和性によって炭素繊維とサイジング剤の相互作用し、末端不飽和基がマトリックス樹脂中の不飽和基と共有結合等を形成できるため接着性が高くなる。しかしながら、この化合物(B)はコンポジット成形時の拡散を抑制するため、炭素繊維表面に皮膜化する必要があり、サイジング剤を炭素繊維表面に付与した後に、熱処理により高分子量化する必要がある。一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)の皮膜化に比べて、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と炭素繊維の相互作用が形成する温度が低いため、本発明のサイジング時は、低温から高い接着性を維持することができる。その結果、サイジング剤塗布炭素繊維が硬くなりにくいことから、取り扱い性が良好になる。
【0035】
なお、サイジング層表層には、一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)単独ではなく、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が所定の割合で存在することで、サイジング剤表層の不飽和基の密度を減らすことができ、一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)がマトリックス樹脂中に拡散するのを抑制することができることから、熱処理温度が低い温度から高い接着性が得られる。その結果、サイジング剤塗布炭素繊維が硬くなるのを抑制することができる。また、サイジング剤塗布炭素繊維を長期間保管したときにも、一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)に含まれる末端不飽和基の反応を抑制でき、サイジング剤塗布炭素繊維が硬くなるのを抑制できる。また、サイジング層の組成が、サイジング層内部から表層にかけて傾斜的に変化することで、炭素繊維とマトリックス樹脂の間の相互作用を高めることができる。
【0036】
本発明におけるサイジング剤には、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)の質量比(A)/(B)は、30/70〜70/30である。(A)/(B)を30/70以上とすることで、炭素繊維表面に十分なエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が存在し、炭素繊維とサイジング剤との相互作用が高くなる。その結果、得られた炭素繊維強化複合材料の引張強度などのコンポジット物性が高くなる。また、(A)/(B)を70/30以下とすることにより、サイジング剤表層にマトリックス樹脂との相互作用可能な末端不飽和基が多くなり、樹脂との接着性が向上する。(A)/(B)の質量比は40/60以上が好ましく、45/55以上がより好ましい。また、(A)/(B)の質量比は65/35以下が好ましく、60/30以下がより好ましい。
【0037】
本発明に係るサイジング剤は、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)を15質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことが好ましい。
【0038】
本発明において使用するエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)は、芳香環を含まないエポキシ化合物である。自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有することが可能である。その結果、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上する。また、一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)に比べても極性が高く炭素繊維側に多く偏在することができる。
【0039】
本発明において、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)は分子内に1個以上のエポキシ基を有する。そのことにより、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合を形成することができる。分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りのエポキシ基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性をさらに向上することができる。エポキシ基の数の上限は特にないが、接着性の観点からは10個で十分である。
【0040】
本発明において、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
【0041】
本発明において使用する脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は、360g/eq.以下である。より好ましくは270g/eq.以下であり、さらに好ましくは180g/eq.以下である。高密度で炭素繊維との相互作用が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上すること、極性を高めることで一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)に比べて炭素繊維側に多く偏在することができるため、脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は360g/eq.以下であることが必要である。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
【0042】
本発明において、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の二重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
【0043】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。たとえば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
【0044】
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
【0045】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
【0046】
分子内に複数の二重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
【0047】
本発明に使用するエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
【0048】
本発明にかかるエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)は、1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基とを有することが好ましい。エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が有する官能基の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
【0049】
エポキシ基に加えて水酸基を有するエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(登録商標)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0050】
エポキシ基に加えてアミド基を有するエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0051】
本発明で用いるエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)は、上述した中でも高い接着性の観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましい。
【0052】
本発明において、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)は、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物であることがさらに好ましく、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
【0053】
本発明に用いる化合物(B)は一分子内に末端不飽和基と極性基を有する。
【0054】
末端不飽和基とは、ビニル基、アクリレート基、およびメタクリレート基から選ばれたものであることが好ましい。また、極性基とは、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、イソシアネート基、およびスルホ基から選ばれたものであることが好ましい。
【0055】
一分子当たりの末端不飽和基の数は、2個以上が好ましい。2個以上であることで、サイジング剤塗布後の乾燥、熱処理工程において、末端不飽和基が縮合して高分子量化したときに、残った末端不飽和基が、マトリックス樹脂と反応することで接着性が高くなる。一分子当たりの末端不飽和基の数は3個以上が好ましく、4個以上がさらに好ましい。なお、8個以下でサイジング剤塗布炭素繊維を長期間保管した場合にも、硬化を抑制することができて好ましい。
【0056】
極性基は、炭素繊維表面上に皮膜化されたときに特定量の炭素繊維表面官能基との相互作用を確保するため、分子量当たりの極性基の数は1×10
−3以上とすることが好ましく、3×10
−3以上とするのがさらに好ましい。
【0057】
また、本発明における極性基と末端不飽和基を有する化合物としては、不飽和アルコール、不飽和カルボン酸とイソシアネート化合物を反応せしめた化合物が挙げられ、不飽和アルコールとしては、例えばアリルアルコール、不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸等、イソシアネート化合物としてはヘキサメチレンジシソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の公知の不飽和ポリウレタン化合物が挙げられる。
【0058】
特に、不飽和ポリウレタン化合物の末端不飽和基がアクリレート基およびメタクリレート基である化合物が好ましく、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート化合物、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトリレンジイソシアネート化合物、ペンタエリスリトールアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート化合物、フェニルグリシジルエーテルトリアクリレートイソホロンジイソシアネート化合物、グリセリンジメタクリレートトリレンジイソシアネート化合物、グリセリンジメタクリレートイソホロンジイソシアネート化合物、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアネート化合物、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネート、トリアリルイソシアヌレート化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0059】
アミド結合と末端不飽和基を有する化合物としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等が挙げられる。スルホ基と末端不飽和基を有する化合物としてはビスフェノールS型ジグリシジルジアクリレート、ビスフェノールS型ジグリシジルジメタクリレート等が挙げられる。
【0060】
好ましいサイジング剤の構造としては、分子鎖が直線状で柔軟性を有する脂肪族化合物、特に末端不飽和基と極性基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物、すなわちポリエチレングリコール骨格およびポリアルキレン骨格であるポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0061】
また、かかる化合物の分子量は、樹脂粘度が高くなって集束剤としての取り扱い性が悪化するのを防ぐ観点から、300以上2000以下が好ましく、500以上1000以下がより好ましい。
【0062】
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、エポキシ当量が360g/eq.以上の脂肪族エポキシ化合物(A)と一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)以外の成分を1種類以上含んでも良い。サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与する材料を配合することで取扱い性をさらに高め、耐擦過性および耐毛羽性を高めることができて好ましい。
【0063】
本発明において、エポキシ当量が360g/eq.以上の脂肪族エポキシ化合物(A)以外のエポキシ化合物として、エポキシ当量が360g/eq.未満の脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物を用いることができる。
【0064】
芳香族エポキシ化合物は分子内に1つ以上のエポキシ基と芳香環を含む。芳香環とは、炭素のみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。芳香環の疎水性により、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)に比べて炭素繊維との相互作用が弱くなるため、炭素繊維との相互作用が低く、サイジング層外層に芳香族化合物が多く存在する結果となる。芳香族化合物を用いることで耐擦過性が良好になるため好ましい。
【0065】
本発明において、芳香族エポキシ化合物の具体例としては、例えば、芳香族ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有する芳香族アミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、芳香族ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の二重結合を有する芳香族化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
【0066】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
【0067】
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジンのほか、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。
【0068】
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
【0069】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
【0070】
本発明に使用する芳香族エポキシ化合物として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。
【0071】
本発明において、芳香族エポキシ化合物は、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基が好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
【0072】
エポキシ基に加えてアミド基を有する芳香族エポキシ化合物としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0073】
エポキシ基に加えてイミド基を有する芳香族エポキシ化合物としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的には“デナコール(登録商標)”EX−731(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0074】
エポキシ基に加えてウレタン基を有する芳香族エポキシ化合物としては、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
【0075】
エポキシ基に加えてウレア基を有する芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシはジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0076】
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
【0077】
エポキシ基に加えてスルホ基を有する芳香族エポキシ化合物としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
【0078】
本発明において、芳香族エポキシ化合物は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることが、接着性及び耐擦過性の観点から好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがより好ましい。
【0079】
上記以外にも、エステル化合物、ウレタン化合物が好ましく用いられる。
【0080】
エステル化合物は、芳香環を持たない脂肪族エステル化合物でも良いし、芳香環を分子内に1個以上有する芳香族エステル化合物でも良い。エステル化合物として芳香族エステル化合物を用いると、サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が向上するため好ましい。特に、芳香族エステル化合物は、炭素繊維との相互作用が弱いため、マトリックス樹脂の外層に存在することとなり、接着性の低下を抑制しながら、耐擦過性を高めることができる。また、芳香族エステル化合物は、エステル基以外にも、エポキシ基以外の官能基、たとえば、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、およびスルホ基を有していてもよい。芳香族エステル化合物として、具体的にはビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合物からなるエステル化合物を用いるのが好ましい。不飽和二塩基酸としては、酸無水物低級アルキルエステルを含み、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などが好ましく使用される。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物としてはビスフェノールのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物、ブチレンオキシド付加物などが好ましく使用される。上記縮合物のうち、好ましくはフマル酸またはマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキシドまたは/およびプロピレンオキシド付加物との縮合物が使用される。
【0081】
ビスフェノール類へのアルキレンオキシドの付加方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。上記の不飽和二塩基酸には、必要により、その一部に飽和二塩基酸や少量の一塩基酸を接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることができる。また、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物には、通常のグリコール、ポリエーテルグリコールおよび少量の多価アルコール、一価アルコールなどを、接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることもできる。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合法は、公知の方法を用いることができる。
【0082】
ウレタン化合物は、芳香環を持たない脂肪族ウレタン化合物でも良いし、芳香環を分子内に1個以上有する芳香族ウレタン化合物でも良い。ウレタン化合物として芳香族ウレタン化合物を用いると、サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が向上するため好ましい。特に、芳香族ウレタン化合物は、炭素繊維との相互作用が弱いため、マトリックス樹脂の外層に存在することとなり、高い接着性を維持しながら、耐擦過性を高めることができる。
【0083】
上記以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。界面活性剤として、フェノール類のアルキレンオキシド付加物を用いることがより好ましい。
【0084】
フェノールとしては、芳香環を1個有する単環フェノール、芳香環を2個以上有する多環フェノールを用いる。単環フェノールの具体例としては、フェノール、多環フェノールとしては、フェニルフェノール、クミルフェノール、ベンジルフェノール、ハイドロキノンモノフェニルエーテル、ナフトール、ビスフェノール、単環フェノールまたは多環フェノールのなどとスチレン類(スチレン、α−メチルスチレンなど)との反応生成物(スチレン化フェノール類という)から選ばれるフェノール類のアルキレンオキシド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド)付加物(2種以上のアルキレンオキシド付加物の場合はブロックまたはランダム付加物)などが使用される。これらのうちスチレン化フェノール類、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物またはプロピレンオキサイド付加物が好ましく使用される。かかるフェノール類へのアルキレンオキシドの付加方法は、通常の方法でよく、また、付加数としては、好ましくは1〜120、さらに好ましくは10〜90、特に好ましくは30〜80の付加物が好ましく使用される。
【0085】
次に、本発明で使用する炭素繊維について説明する。本発明で使用する炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0086】
本発明にかかる炭素繊維は、得られた炭素繊維束のストランド強度が、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPa以上である。また、得られた炭素繊維束のストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは240GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。
【0087】
また、本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/三フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
【0088】
本発明において用いられる炭素繊維は、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmであることが好ましい。より好ましくは15〜80nmであり、30〜60nmが好適である。表面粗さ(Ra)が6.0〜60nmである炭素繊維は、表面に高活性なエッジ部分を有するため、前述したサイジング剤のエポキシ基等との反応性が向上し、界面接着性を向上することができ好ましい。また、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmである炭素繊維は、表面に凹凸を有しているため、サイジング剤のアンカー効果によって界面接着性を向上することができ好ましい。
【0089】
炭素繊維表面の平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることにより測定することができる。例えば、炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測すればよい。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムなどが使用可能であり、以下の観測条件で観測することができる。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中
また、各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、平均粗さ(Ra)を算出し、単繊維5本について、平均粗さ(Ra)を求め、平均値を評価することが好ましい。
【0090】
本発明において炭素繊維の総繊度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本である。特に24000本以上が好ましい。フィラメント数が多い場合には、サイジング剤塗布炭素繊維束の柔軟性が失われると拡がり性が低下し、樹脂含浸性が低下する場合がある。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、柔軟性を保つことができるためフィラメント数が多い場合により好ましく適用される。さらに好ましくは36000本以上である。
【0091】
本発明において、炭素繊維の単繊維径は4.5〜7.5μmが好ましい。7.5μm以下であることで、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、好ましく用いられる。6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。4.5μm以上で工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
【0092】
本発明において、X線源としてAlKα
1,2を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度45°で測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.10以上の炭素繊維を用いることが重要である。より好ましくは0.18以上であり、さらに好ましくは0.2以上である。表面酸素濃度(O/C)が0.10以上であることで、炭素繊維の極性が高まり、炭素繊維表面とエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)の相互作用が高まる。その結果、サイジング層内側(炭素繊維側)にエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在させることができ、サイジング層が偏在化した構造を形成できる。炭素繊維表面とエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)の相互作用が高まることで、接着性を高く維持することが可能となる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができ、好ましい。0.30以下がより好ましい。
【0093】
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα
1,2を用い、試料チャンバー中を1×10
−8Torrに保ち測定した。光電子脱出角度45°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC
1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C
1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O
1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度(O/C)は、上記O
1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
【0094】
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して、0.1〜10.0質量%の範囲であることが好ましい。サイジング剤の付着量が0.1質量%以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維をボビンから取り出す時に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、得られた炭素繊維強化複合材料の品位、物性が良好になる。一方、サイジング剤の付着量が10.0質量%以下であると、サイジング剤塗布炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる複合材料においてボイド生成が抑えられ、複合材料の品位が優れ、同時に機械物性が優れる。より好ましくは0.4〜3.0質量%の範囲である。0.8〜2.0質量%であることが好ましい。
【0095】
サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維を約2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定し、質量変化量を加熱処理前の質量で除した値(質量%)とする。
【0096】
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2.0〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな接着性向上効果が得られ、さらには、安定した高次加工性が得られる
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、フィラメント数24,000本、炭素繊維束の糸幅が75mmの時のドレープ値が3.0〜10.0cmであることが好ましい。
ドレープ値とは炭素繊維束の硬さを表す値であり、次の方法で測定する。具体的には
図1(a)に示すように、ボビンからテンションをかけずに引き出したサイジング剤塗布炭素繊維束1を40cmの長さにカットし、一端を止めテープ2で固定し、もう一端に100gの重り3を吊り下げ、撚りおよび曲がりを矯正した後、測定温度の雰囲気中に30分間放置する。その後、重りを取り外し、
図1(b)に示すように、角が90°の水平な長方形の台4からサイジング剤塗布炭素繊維束5が水平部分から25cmはみ出るように置き、40cmの炭素繊維束が折れないように支えながら台上の炭素繊維部分を止めテープ6で固定した後、台からはみ出た部分の支えを取り除いて垂れ下がらせ、2秒後に始点からの水平距離Lの長さを測定し、n数3回の平均をドレープ値とした。ドレープ値が大きいほど硬い特性を示す。
【0097】
ドレープ値が3.0cm以上では、ボビンから引き出した糸条を引き揃えることを目的としたコーム等のガイドで折れ曲がったり撚りが入るのを抑制することができる。折れ曲がりや撚りが入ったりするとその部分は開繊され難くなり、開繊ムラが生じやすくなるが抑制できて好ましい。またドレープ値が10.0cm以下で繊維束の硬くないことを示し、開繊しやすく好ましい。より好ましくは4.0cm以上、8.0cm以下である。さらに好ましくは、7.0cm以下である。
【0098】
また、サイジング剤塗布炭素繊維束をボビンに巻いた状態で1年間室温保管した後のサイジング剤塗布炭素繊維のドレープ値が3.0cm〜12.0cmであることが好ましい。
【0099】
本発明におけるサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法について説明する。
【0100】
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。特に乾湿式紡糸方法を用いることで、強度の高い炭素繊維を得ることができることから、より好ましい。
【0101】
炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維が好ましく、該表面粗さの炭素繊維を得るためには、湿式紡糸方法により前駆体繊維を紡糸することが好ましい。
【0102】
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
【0103】
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理ならびに炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
【0104】
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、これにより、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
【0105】
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが、接着性の観点からアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
【0106】
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
【0107】
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
【0108】
異なる電解液中で複数回の異なる電解液を用いて電解処理しても構わない。例えば、酸電解液中で電解処理を行った後に、アルカリ性電解液中で電解処理を行うことができるし、アルカリ性電解液中で電解処理後に、酸性電解液中で電解処理を行うこともできる。
【0109】
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0110】
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃未満であると、安全性の観点から有利になる。
【0111】
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
【0112】
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m
2当たり1.5〜1000アンペア/m
2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/m
2の範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m
2以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m
2以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0113】
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法またはスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。一方、乾燥の効率を考慮すれば、乾燥温度は、110℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。
【0114】
次に、上述した方法で製造した炭素繊維にサイジング剤を塗布する方法について説明する。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法では、少なくともエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)および一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を含むサイジング剤を塗布し、さらに160〜260℃の温度範囲で30〜600秒熱処理する。
【0115】
本発明において、炭素繊維へのサイジング剤の塗布方法としては、溶媒に、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)および一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)、ならびにその他の成分を同時に溶解または分散したサイジング剤含有液を用いて、1回で塗布する方法や、各化合物(A)、(B)やその他の成分を任意に選択し個別に溶媒に溶解または分散したサイジング剤含有液を用い、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング剤含有液を、炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさからより好ましく用いられる。
【0116】
本発明にかかるサイジング剤は、サイジング剤成分を溶媒で希釈したサイジング剤含有液として用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、界面活性剤で乳化させた水分散液あるいは水溶液が好ましく用いられる。
【0117】
サイジング剤含有液は、一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を少なくとも含む成分を界面活性剤で乳化させることで水エマルジョン液を作成し、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)を少なくとも含む溶液を混合して調整することが好ましい。この時に、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)が水溶性の場合には、あらかじめ水に溶解して水溶液にしておき、一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)を少なくとも含む水エマルジョン液と混合する方法が、乳化安定性の点から好ましく用いられる。また、エポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)およびその他の成分を界面活性剤で乳化させた水分散剤を用いることが、サイジング剤の長期安定性の点から好ましく用いることができる。
【0118】
サイジング剤含有液におけるサイジング剤の濃度は、通常は0.2質量%〜20質量%の範囲が好ましい。
【0119】
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング剤含有液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング剤含有液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング剤含有液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング剤含有液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
【0120】
サイジング液を炭素繊維に塗布する際のサイジング剤含有液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため、10〜50℃の範囲であることが好ましい。また、サイジング剤含有液を付与した後に、余剰のサイジング剤含有液を絞り取る絞り量を調整することにより、サイジング剤の付着量の調整および炭素繊維内への均一付与ができる。
【0121】
炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましい。熱処理条件は、好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間であり、より好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。熱処理条件が、160℃未満および/または30秒未満であると、サイジング剤として用いているエポキシ当量が360g/eq.以下の脂肪族エポキシ化合物(A)と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となったり、溶媒を十分に乾燥除去できない場合がある。一方、熱処理条件が、260℃を超えるおよび/または600秒を超える場合、サイジング剤が硬化することで、サイジング剤塗布炭素繊維が固くなる場合がある。
【0122】
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。マイクロ波照射および/または赤外線照射によりサイジング剤塗布炭素繊維を加熱処理した場合、マイクロ波が炭素繊維内部に侵入し、吸収されることにより、短時間に被加熱物である炭素繊維を所望の温度に加熱できる。また、マイクロ波照射および/または赤外線照射により、炭素繊維内部の加熱も速やかに行うことができるため、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の接着ムラを小さくすることが可能となる。
【0123】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、一方向に引きそろえたシート状物、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド、単繊維あるいは束状で実質的に2次元配向等の形体で好適に用いられる。特に、一方向に引きそろえたシート状物、織物が好ましい。特に製織においては、通常、炭素繊維は擦過により毛羽立ちやすいが、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、硬化が抑制されており、毛羽立ちを抑えることが可能となっている。
【0124】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を一方向に引き揃えられたものとして、一方向にサイジング剤塗布炭素繊維を一定間隔で引き揃えたものが挙げられる。一方向にサイジング剤塗布炭素繊維を弾き揃え、その幅方向にさらに熱融着性繊維を緯糸として用いて固定した後に、熱融着させることが好ましい。また、サイジング剤塗布炭素繊維を弾き揃えたシート状物の片面に熱融着性のウェブ、ネットを配置し融着してもよい。
【0125】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、織物としても好ましく用いられる。織り組織は平織り、綾織り、朱子織りの他、これら原組織を変化させたものが良いが限定されない。また、縦糸、経糸ともに、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を用いても良いが、サイジング剤の異なる炭素繊維または炭素繊維以外の繊維と混繊しても良い。炭素繊維以外の繊維としては、無機繊維、有機繊維のいずれでもよく、無機繊維としてはガラス繊維、有機繊維としてはアラミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル、ポリイミド、ビニロンが挙げられる。
【0126】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、マトリックス樹脂と複合化され、一方向プリプレグ、クロスプリプレグ、トウプレグ、短繊維強化樹脂含浸シート、短繊維マット強化樹脂含浸シートなどの形態で、炭素繊維強化複合材料として用いられる。マトリックス樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等が挙げられる。なかでも、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等のラジカル重合系樹脂が好適に使用される
例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等が挙げられる。なかでも、不飽和ポリエステル樹脂等のラジカル重合系樹脂が好適に使用される。
【0127】
不飽和ポリエステル樹脂は不飽和多塩基酸又は場合により飽和多塩基酸を含む不飽和多塩基酸と多価アルコールから得ることができる。不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、クロロマレイン酸、ピロメリト酸等あるいはこれらの(ジ)アルキルエステルなどを挙げることができる。これらの不飽和多塩基酸は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。又、不飽和多塩基酸の一部を置き換える飽和多塩基酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘット酸等を挙げることができる。これらの飽和多塩基酸は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0128】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、グリセリンモノアリルエール、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、グリシジル化ビスフェノールA、グリシジル化ビスフェノールF、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等を挙げることができる。これらの多価アルコールは、1種を単独で用いても、あるいは2種以上組み合わせても良い。
【0129】
ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂が、サイジング層外層(マトリックス樹脂)に多く存在する一分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(B)との相互作用が大きく、接着性が高くなり、コンポジット物性が良好になるため好ましい。
【0130】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等に好適に用いられる。特に、橋梁、橋脚、建造物の柱等の補強用シート材、小型船舶、ボート、ヨット、漁船、浄化槽、各種タンク等に用いられる。
【実施例】
【0131】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
(1)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/三フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(2)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10
−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα
1,2 を用い、光電子脱出角度を45°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC
1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C
1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O
1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO
1sピーク面積とC
1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(3)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジング付着炭素繊維束を秤量(W1)(少数点第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm
3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数点第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(4)界面剪断強度(IFSS)の測定
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順で行った。
(イ)樹脂の調整
主剤としてリポキシR6540(昭和電工(株)製)100部、硬化剤として328E(化薬アクゾ(株)製)0.8部、促進剤としてコバルトN(昭和電工(株)製)0.3部を容器に入れて、室温で攪拌混合を行った後、室温で約10分間真空脱法を行った。
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行った。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmだった。
(ハ)樹脂注型から硬化まで
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込み、30℃のオーブンで24時間保持後、60℃のオーブンで6時間熱処理を行った後、脱型して試験片を得た。なお、測定は試験片を24時間以上室温で保管した後実施した。
(ニ)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定した。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算した。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSSを、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
・界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
IFSSの値が20MPa以上を○、10MPa以上20MPa未満を△、10MPa未満を×とした。○が本発明において好ましい範囲である。
(5)ドレープ値
図1(a)に示すように、ボビンからテンションをかけずに引き出したサイジング剤塗布炭素繊維束1を40cmの長さにカットし、一端を止めテープ2で固定し、もう一端に12gの重り3を吊るし、撚りおよび曲がりを矯正した後、測定温度の雰囲気中に30分間放置する。次に、重りを取り外し、
図1(b)に示すように、角が90°の水平な長方形の台4からサイジング剤塗布炭素繊維束5が25cmはみ出るように置き、40cmの炭素繊維束が折れないように支えながら台上の炭素繊維部分を止めテープ6で固定した後、台からはみ出た部分の支えを取り除いて垂れ下がらせ、2秒後に始点からの水平距離Lの長さを測定し、n数3回の平均をドレープ値とした。
【0132】
ドレープ値が8cm以下を○、10cm以下を△、10cmより大きい場合を×とした。○が本発明において好ましい範囲である。
【0133】
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
・(A)成分:A−1〜A−3
A−1:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/eq.、エポキシ基数:3以上、
A−2:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、エポキシ基数:4
A−3:A−1の加水分解物。
【0134】
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:300g/eq.
・(A‘)成分:A−4、A−5
A−4:“デナコール(登録商標)”EX−841(ナガセケムテックス(株)製)
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル
エポキシ当量:372g/eq.、エポキシ基数:2
A−5:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:475g/eq.、エポキシ基数:2、
・(B)成分:B−1〜B−2
B−1:UA101H(共栄社化学製)
グリセリンジメタクリレートヘキサメチレンジイソシアネート
末端不飽和基数:4個
極性基密度:3.2×10
-3
B−2:AII500(共栄社化学製)
フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート化合物
末端不飽和基数:2個
極性基密度:3.4×10
-3
・(B‘)成分:B−3
B−3:A−TMPT(新中村化学工業製)
トリメチロールプロパントリアクリレート
末端不飽和基数:3個
極性基密度:なし
(参考例1)
原料となる炭素繊維は以下の通りに製造した。
【0135】
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度980テックス、比重1.8、ストランド引張強度6.3GPa、ストランド引張弾性率330GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.20であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は3.0nmだった。これを炭素繊維Aとした。
【0136】
(参考例2)
電解液として濃度0.05モル/lの硫酸水溶液を用い、電気量を炭素繊維1g当たり20クーロンで電解表面処理したこと以外は、参考例1と同様とした。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.13であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は2.9nmだった。これを炭素繊維Bとした。
【0137】
(実施例1)
(B)成分として(B−1)を45質量部、乳化剤5質量部からなる水分散エマルジョンを調整した後、(A)成分として(A−1)を50質量部混合してサイジング液を調整した。なお、乳化剤として、ポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノール(重量比90:10)を用いた。
【0138】
このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維Aに塗布した後、200℃の温度で90秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。また、炭素繊維束の糸幅は75mmだった。続いて、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)およびドレープ値を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、IFSSで測定した接着性も十分に高く、ドレープ値で示される炭素繊維の取り扱い性も良好だった。
【0139】
(実施例2)
(A)成分として(A−2)を用いた以外は実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表1に示した通り、接着性、炭素繊維の取り扱い性ともに良好だった。
【0140】
(実施例3)
(A)成分として(A−3)を用いた以外は実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。なお、(A−3)は(A−1)の水溶液を加熱攪拌することで、所定のエポキシ当量の化合物を得た。表1に示した通り、接着性、炭素繊維の取り扱い性ともに良好だった。
【0141】
(比較例1)
(A)成分を用いず、エポキシ当量が大きい脂肪族エポキシ化合物である(A−4)を用いた以外は実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表1に示した通り、炭素繊維の取り扱い性は良好だったが、接着性が低かった。
【0142】
(比較例2)
(A)成分を用いず、芳香族エポキシ化合物(A−5)を用いた以外は実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表1に示した通り、接着性が低く、ドレープ値も高く取り扱い性が劣る結果となった。
【0143】
(実施例4)
(B)成分として(B−2)を用いた以外は実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表1に示した通り、接着性、炭素繊維の取り扱い性ともに良好だった。
【0144】
(比較例3)
一分子内に末端不飽和基と極性基を持つ化合物(B)を用いず、末端不飽和基のみ持つ(B−3)を用いた以外は実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表1に示した通り、炭素繊維の取り扱い性は良好だったが、接着性が低い結果だった。
【0145】
【表1】
【0146】
(比較例4)
(A)成分を用いなかった点以外は、実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表2に示した通り、炭素繊維の取り扱い性ともに良好だったが、接着性が低かった。
【0147】
(比較例5)
熱処理温度を200℃から240℃に変更した以外は、比較例4の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表2に示した通り、接着性は高まるが、サイジング剤塗布炭素繊維が硬くなりドレープ値が大きくなった。
【0148】
(比較例6)
(B)成分を用いず、(A)成分として(A−1)のみ用いた以外は、実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表2に示した通り、炭素繊維の取り扱い性は良好だったが、接着性が低かった。
【0149】
(比較例7)
熱処理温度を200℃から240℃に変更した以外は、比較例6の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表2に示した通り、炭素繊維の取り扱い性は良好だったが、接着性が低かった。
【0150】
【表2】
【0151】
(実施例5、6、比較例8、9)
(A)成分の(A−1)、(B)成分の(B−1)の比率を変更した以外は、実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。結果を表3に示す。
【0152】
【表3】
【0153】
(実施例7)
サイジング剤付着量を1.2質量%にした以外は、実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表4に示す通り、接着性、炭素繊維の取り扱い性ともに良好だった。
【0154】
(実施例8)
炭素繊維として炭素繊維Bを用いた以外は、実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表4に示す通り、接着性、炭素繊維の取り扱い性ともに良好だった。
【0155】
(実施例9)
(B)成分として、(B−1)を45質量部、芳香族ポリエステル10質量部および乳化剤5質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−1)を45質量部混合してサイジング液を調合した。なお、ポリエステルはビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤は実施例1の化合物を用いた。サイジング剤の組成以外は実施例1の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、物性測定を行った。表4に示す通り、接着性、炭素繊維の取り扱い性ともに良好だった。
【0156】
【表4】