特許第6176009号(P6176009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6176009
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】ローパスフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/203 20060101AFI20170731BHJP
【FI】
   H01P1/203
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-186543(P2013-186543)
(22)【出願日】2013年9月9日
(65)【公開番号】特開2015-53649(P2015-53649A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100112715
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 桂子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−065007(JP,A)
【文献】 特開平11−008456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板に設けられ、信号を伝送するための信号伝送路と、
を備え、
前記信号伝送路は、
入力端子に接続される入力伝送路と、
出力端子に接続され、前記入力伝送路と接続されかつ交差する出力伝送路と、
を含む、ローパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のローパスフィルタであって、
前記入力伝送路は、前記出力伝送路と直交する、ローパスフィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のローパスフィルタであって、
前記入力伝送路の中点は、前記出力伝送路の中点と一致する、ローパスフィルタ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のローパスフィルタであって、さらに、
前記誘導体基板に設けられ、前記信号伝送路の隣に配置され、前記信号伝送路が伝送する信号と逆位相の信号を伝送するための反転信号伝送路を備え、
前記反転信号伝送路は、
前記入力端子に隣接する反転入力端子に接続される反転入力伝送路と、
前記出力端子に隣接する反転出力端子に接続され、前記反転入力伝送路と交差する反転出力伝送路と、
を含み、
前記反転入力伝送路と前記反転出力伝送路との交点は、前記信号伝送路と前記反転信号伝送路との間を通る直線に対して、前記入力伝送路と前記出力伝送路との交点と反対側に配置される、ローパスフィルタ。
【請求項5】
請求項4に記載のローパスフィルタであって、
前記反転入力伝送路は、前記反転出力伝送路と直交する、ローパスフィルタ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のローパスフィルタであって、
前記反転入力伝送路の中点は、前記反転出力伝送路の中点と一致する、ローパスフィルタ。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1項に記載のローパスフィルタであって、さらに、
前記誘電体基板に設けられ、前記信号伝送路及び前記反転信号伝送路の周りに設けられるグラウンドを備える、ローパスフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やスマートフォンを用いた移動通信システム、及び無線LAN等、電磁波を取り扱う通信技術が広く普及している。このような通信技術で使用される電子機器には、ローパスフィルタが用いられることがある。例えば、特許文献1には、単結晶基板上に、複数のストリップ導体がジグザグ状に配置されるとともに、複数のスタブ導体がストリップ導体とY字状をなすように配置されたローパスフィルタが開示されている。また、特許文献1には、単結晶基板上に、複数のストリップ導体が直線状に配置されるとともに、複数のスタブ導体がストリップ導体と直交するように配置されたローパスフィルタも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−65492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したようなローパスフィルタは、所定の周波数(遮断周波数)以下の周波数の信号のみを通過させ、遮断周波数よりも大きい周波数の信号を完全に遮断するのが理想的であるとされている。しかしながら、このような理想的な周波数特性を有するローパスフィルタを作成するのは物理的に不可能であるため、ローパスフィルタの設計に際しては、遮断周波数以下の周波数帯域では信号の損失を極力少なくする一方、遮断周波数よりも大きい周波数帯域では信号の減衰量を極力大きくすることが求められる。
【0005】
また、特許文献1では、複数のスタブの共振を利用してのローパスフィルタを形成しており、スタブとスタブを結ぶ傾いた導体パターンは、伝送路としての役割しか果たしていない。本発明は、導体パターンを単なる伝送路としてのみ機能するものではなく、共振周波数を持つフィルタの共振子本体として機能させ、好ましい周波数特性を有するローパスフィルタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るローパスフィルタは、上記課題を解決するためのものであり、誘電体基板と、誘電体基板に設けられ、信号を伝送するための信号伝送路と、を備える。信号伝送路は、入力端子に接続される入力伝送路と、出力端子に接続され、入力伝送路と接続されかつ交差する出力伝送路と、を含む。
【0007】
上記ローパスフィルタでは、入力端子に入力される信号の周波数が所定の周波数よりも小さい間は、入力伝送路及び出力伝送路に電流及び電圧の定在波が生じず、入力伝送路及び出力伝送路は単純な導線として機能するため、入力信号はほとんど損失なく出力端子へと伝達される。入力信号の周波数が上記所定の周波数になると、入力伝送路及び出力伝送路に電流及び電圧の定在波が生じる。この電流及び電圧の定在波の振幅の積が最大となる点(電力の腹)付近に入力伝送路と出力伝送路との交点が配置されていれば、入力信号が出力端子へと伝達される。入力信号の周波数を上記所定の周波数よりも大きくしていくと、電流及び電圧の定在波の波長が徐々に短くなり、入力信号が出力端子に伝達されにくくなっていく。そして、電流及び電圧の定在波の振幅の積がゼロとなる点(電力の節)が入力伝送路と出力伝送路との交点と一致したとき、入力信号は出力端子へと伝達されなくなる。このように、上記ローパスフィルタは、信号伝送路を単なる伝送路としてだけでなく共振子本体として機能させ、所定の周波数よりも大きい周波数の信号をほとんど遮断する一方で、所定の周波数以下の周波数の信号をほとんど損失なく通過させるという、ローパスフィルタとして好ましい周波数特性を有する。
【0008】
上記ローパスフィルタにおいて、入力伝送路は、出力伝送路と直交していることが好ましい。この構成によれば、所定の周波数以下の周波数の信号の伝達効率が向上し、所定の周波数以上の周波数の信号をより確実に遮断することができる。
【0009】
上記ローパスフィルタにおいて、入力伝送路の中点は、出力伝送路の中点と一致していることが好ましい。
【0010】
上記ローパスフィルタは、さらに、誘導体基板に設けられ、信号伝送路の隣に配置され、信号伝送路が伝送する信号と逆位相の信号を伝送するための反転信号伝送路を備えていてもよい。反転信号伝送路は、入力端子に隣接する反転入力端子に接続される反転入力伝送路と、出力端子に隣接する反転出力端子に接続され、前記反転入力伝送路と交差する反転出力伝送路と、を含む。反転入力伝送路と反転出力伝送路との交点は、信号伝送路と反転信号伝送路との間を通る直線に対して、入力伝送路と出力伝送路との交点と反対側に配置されることが好ましい。このように構成することによって、信号伝送路及び反転信号伝送路を同時に信号が伝送する場合に、信号伝送路に発生する電界及び磁界と、反転信号伝送路に発生する電界及び磁界とが互いに干渉するのを軽減することができる。
【0011】
上記ローパスフィルタにおいて、反転入力伝送路は、反転出力伝送路と直交していることが好ましい。この構成によれば、反転伝送路に関して、所定の周波数以下の周波数の信号の伝達効率が向上し、所定の周波数以上の周波数の信号をより確実に遮断することができる。
【0012】
上記ローパスフィルタであって、反転入力伝送路の中点は、反転出力伝送路の中点と一致していることが好ましい。
【0013】
上記ローパスフィルタは、さらに、誘電体基板に設けられ、信号伝送路及び反転信号伝送路の周りに設けられるグラウンドを備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るローパスフィルタの斜視図である。
図2図1のローパスフィルタの平面図である。
図3図1のローパスフィルタの底面図である。
図4A】電流及び電圧の定常波が生じた入力伝送路及び出力伝送路を示す図である。
図4B図4Aの入力伝送路と出力伝送路とを組み合わせた状態を示す図である。
図5A図4Aとは波長が異なる電流及び電圧の定常波が生じた入力伝送路及び出力伝送路を示す図である。
図5B図5Aの入力伝送路と出力伝送路とを組み合わせた状態を示す図である。
図6A】実施例1のローパスフィルタの信号伝送時の電流分布を示す図である。
図6B】実施例1のローパスフィルタの信号伝送時の電流分布を示す別の図である。
図6C】実施例1のローパスフィルタの周波数特性を示すグラフである。
図7A】実施例2の差動フィルタの概略平面図である。
図7B】実施例2の差動フィルタの周波数特性を示すグラフである。
図8A】比較例2の差動フィルタの概略平面図である。
図8B】比較例2の差動フィルタの周波数特性を示すグラフである。
図9A】実施例3のローパスフィルタの概略平面図である。
図9B】実施例3のローパスフィルタの周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。一度説明した構成と同一の構成及びこれに相当する構成については、同一の符号を付して同じ説明を繰り返さない。
【0016】
<ローパスフィルタの構成>
本実施形態に係るローパスフィルタ10は、図1図3に示すように、誘電体基板1と、信号伝送路2と、反転信号伝送路3と、グラウンド4,5と、を備えている。本実施形態のローパスフィルタ10は、いわゆる差動フィルタであり、信号伝送路2を信号が伝送する際、同時に、この信号と逆位相の信号が反転信号伝送路3を伝送する。
【0017】
誘電体基板1は、図1に示すように、矩形状をなす。図2に示すように、誘電体基板1の主面S1上には、入力端子61と、出力端子62と、反転入力端子63と、反転出力端子64と、が設けられている。入力端子61は、誘電体基板1の一方の長辺LS11の中点M11付近に設けられている。出力端子62は、誘電体基板1のもう一方の長辺LS12の中点M12付近に設けられている。反転入力端子63は、中点M11,M12を通る直線Lに対して入力端子61と反対側に配置され、且つ入力端子61に隣接して配置される。反転出力端子64は、直線Lに対して出力端子62と反対側に配置され、且つ出力端子62に隣接して配置される。
【0018】
信号伝送路2は、図1及び図2に示すように、誘電体基板1の主面S1上に設けられている。信号伝送路2は、入力伝送路21と、出力伝送路22と、を備える。
【0019】
入力伝送路21は、図2に示すように、線状をなし、その一方の端部E21が入力端子61に接続されている。出力伝送路22は、線状をなし、その一方の端部E22が出力端子62に接続されている。入力伝送路21は、出力伝送路22と交点P2で直交している。交点P2は、入力伝送路21及び出力伝送路22の各中点である。すなわち、入力伝送路21の中点は、出力伝送路22の中点と一致している。
【0020】
入力伝送路21及び出力伝送路22は、同一の共振周波数を有するモノポールアンテナであり、その長さは共に1/4λ(波長)である。入力伝送路21及び出力伝送路22は、例えば、銅箔等の金属箔で形成することができる。なお、以下で述べるλは、共振周波数における波長であって、誘電体等による波長短縮を加味した長さである。
【0021】
反転信号伝送路3は、図1及び図2に示すように、誘電体基板1の主面S1上に設けられている。反転信号伝送路3は、反転入力伝送路31と、反転出力伝送路32と、を備える。
【0022】
反転入力伝送路31は、図2に示すように、線状をなし、その一方の端部E31が反転入力端子63に接続されている。反転出力伝送路32は、線状をなし、その一方の端部E32が反転出力端子64に接続されている。反転入力伝送路31は、反転出力伝送路32と交点P3で直交している。交点P3は、反転入力伝送路31及び反転出力伝送路32の各中点である。すなわち、反転入力伝送路31の中点は、反転出力伝送路32の中点と一致している。
【0023】
反転入力伝送路31及び反転出力伝送路32は、同一の共振周波数を有するモノポールアンテナであり、その長さは共に1/4λ(波長)である。反転入力伝送路31及び反転出力伝送路32は、例えば、銅箔等の金属箔で形成することができる。
【0024】
図2に示すように、反転入力伝送路31と反転出力伝送路32との交点P3は、信号伝送路2と反転信号伝送路3との間を通る直線Lに対して、入力伝送路21と出力伝送路と21の交点P2と反対側に配置される。本実施形態では、交点P2が直線Lに対して交点P3と対称となるように、信号伝送路2及び反転信号伝送路3が誘電体基板1の主面S1上に設けられている。
【0025】
グラウンド4は、図2に示すように、誘電体基板1の主面S1上で、信号伝送路2及び反転信号伝送路3の周りに設けられている。具体的には、グラウンド4は、主面S1の周縁に沿って設けられる環状部41を含み、環状部41の内側に信号伝送路2及び反転信号伝送路3が配置されている。グラウンド4は、さらに、環状部41の内側に突出する8つの突出部42a〜42hを含んでいる。
【0026】
突出部42aと突出部42bとの間には、入力端子61が配置されている。突出部42cと突出部42dとの間には、出力端子62が配置されている。突出部42eと突出部42fとの間には、反転入力端子63が配置されている。突出部42gと突出部42hとの間には、反転出力端子64が配置されている。
【0027】
グラウンド5は、図3に示すように、誘電体基板1の主面S1と反対側の面S2上に設けられる。グラウンド5は、グラウンド4と対応する位置に配置され、グラウンド4と同じ形状を有する。すなわち、グラウンド5は、環状部41と同形状の環状部51と、突出部42a〜42hと同形状の突出部52a〜52hと、を含む。
【0028】
<ローパスフィルタの動作原理>
次に、上記のように構成されたローパスフィルタ10の動作原理について説明する。ここでは、信号伝送路2が信号を伝送する原理について説明する。反転信号伝送路3は、信号伝送路2が伝送する信号と逆位相の信号を伝送するものであるが、その伝送原理は信号伝送路2の伝送原理と同じであるため、反転信号伝送路3が信号を伝送する原理については説明を省略する。
【0029】
ローパスフィルタ10の入力端子61から信号を入力すると、入力伝送路21に、その端部E21から給電がなされる。入力端子61に入力される信号を直流信号から徐々に周波数の高い交流信号に変化させていくと、下記式(1)を満たす周波数f1[1/s]の信号が入力されたときに、図4Aに示すように、入力伝送路21及び出力伝送路22に電流の定在波W及び電圧の定在波Wが生じ、入力伝送路21及び出力伝送路22が共振する。このときの周波数f1が、入力伝送路21及び出力伝送路22に最初に共振を発生させる共振周波数である。
【0030】
【数1】
【0031】
上記式(1)において、Cは信号の伝搬速度[m/s]、λは信号の波長[m]である。ただし、上記式(1)のλは、入力伝送路21及び出力伝送路22の長さλ/4におけるλと同一である。
【0032】
最初の共振周波数f1の信号が入力端子61に入力された場合、入力伝送路21及び出力伝送路22が共振し、これにより、入力端子61から、出力伝送路22の端部E22に接続された出力端子62へと信号が伝達される。詳述すると、図4Aに示すように、入力伝送路21では、電流の定在波Wの振幅と電圧の定在波Wの振幅との積がその中点で最大となる。また、出力伝送路21では、電流の定在波Wの振幅と電圧の定在波Wの振幅との積がその中点で最大となる。つまり、図4Bに示すように、入力伝送路21及び出力伝送路22の各中点である、入力伝送路21と出力伝送路22との交点P2に電力最大点(電力分布の腹)Pmaxが位置する。このように構成することによって、最初の共振周波数f1の信号が入力された場合における入力端子61から出力端子62への信号の伝達効率が最大となる。
【0033】
入力端子61に入力する信号の周波数を最初の共振周波数f1よりも大きくしていくと、入力伝送路21及び出力伝送路22に生じる電流の定在波W及び電圧の定在波Wが変化する。例えば、図5Aに示すように、共振周波数f1の2倍の周波数の信号を入力端子61に入力すると、電流の定在波W及び電圧の定在波Wの波長は、共振周波数f1の信号が入力端子61に入力された場合の波長の1/2となる。このとき、定在波Wの振幅と定在波Wの振幅との積は、入力伝送路21及び出力伝送路22の各中点で最大とならない。入力伝送路21及び出力伝送路22の各中点では、電流の定在波Wの振幅が最大となるが、電圧の定在波Wの振幅はゼロである。つまり、図5Bに示すように、入力伝送路21と出力伝送路22との交点P2には電力ゼロ点(電力分布の節)Pが位置する。したがって、この場合、入力端子61から入力された信号は、出力端子62へは伝達されない。
【0034】
直流信号、及び最初の共振周波数f1よりも周波数が小さい交流信号が入力端子61に入力された場合、入力伝送路21及び出力伝送路22には、電流の定在波W及び電圧の定在波Wが生じない。このため、直流信号及び共振周波数f1よりも小さい周波数の交流信号は、入力端子61から出力端子62へとほとんど損失なく伝達される。
【0035】
以上のように、本実施形態のローパスフィルタ10において、信号伝送路2は、入力伝送路21及び出力伝送路22の最初の共振周波数f1以下の周波数の信号をほとんど損失なく通過させる一方、共振周波数f1よりも大きい周波数の信号を遮断することができる。なお、共振周波数f1の倍の周波数は、再び信号が通過する周波数になり得る。しかしながら、遮断しようとしている周波数よりはるかに高い周波数となり、適用する機器での実用上の問題にはならない。また、反転信号伝送路3は、信号伝送路2と同様に構成されている。このため、反転信号伝送路3も、反転入力伝送路31及び反転出力伝送路32の最初の共振周波数f1以下の周波数の信号をほとんど損失なく通過させる一方、共振周波数f1よりも大きい周波数の信号を遮断することができる。このように、ローパスフィルタ10は、信号伝送路2ならびに反転信号伝送路3を単なる伝送路としてだけでなく共振子本体として機能させ、ローパスフィルタとして好ましい周波数特性を有する。
【0036】
また、ローパスフィルタ10では、反転入力伝送路31と反転出力伝送路32との交点P3は、主面S1上の直線Lに対して、入力伝送路21と出力伝送路22との交点P2と対称となるよう配置される。このため、入力伝送路21と反転入力伝送路31、出力伝送路22と反転出力伝送路32とが平行とならない。この結果として、信号伝送路2及び反転信号伝送路3を同時に信号が伝送する場合に、信号伝送路2に生じる電界及び磁界と反転信号伝送路3に生じる電界及び磁界とが干渉するのを防止することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、信号伝送路2及び反転信号伝送路3は、ともに誘電体基板1の主面S1上に配置されていたが、信号伝送路2及び反転信号伝送路3は、誘電体基板1上に配置されていなくてもよく、また、同一平面上に配置されていなくてもよい。例えば、信号伝送路2及び反転信号伝送路3の少なくとも一方が誘電体基板1内に配置されていてもよい。
【0039】
上記実施形態では、反転入力伝送路31と反転出力伝送路32との交点P3は、主面S1上の直線Lに対して、入力伝送路21と出力伝送路22との交点P2と対称となるよう配置されていたが、これに限定されるものではない。交点P3は、誘電体基板1上の直線Lに対して反対側に位置する交点P2と非対称に配置されていてもよい。
【0040】
上記実施形態では、入力伝送路21は出力伝送路22と直交していたが、入力伝送路21は出力伝送路22と直交していなくてもよい。同様に、反転入力伝送路31は反転出力伝送路32と直交していなくてもよい。
【0041】
上記実施形態では、入力伝送路21の中点は、出力伝送路22の中点と一致していたが、各中点は一致していなくてもよい。また、反転入力伝送路31の中点は、反転出力伝送路32の中点と一致していなくてもよい。
【0042】
上記実施形態では、グラウンド4は、誘電体基板1の主面S1上に設けられていたが、グラウンド4の位置は特に限定されず、グラウンド4が誘電体基板1内に設けられていてもよい。グラウンド5は、主面S1と反対側の面S2上に設けられていたが、グラウンド5の位置は特に限定されず、グラウンド5が誘電体基板1内に設けられていてもよい。
【0043】
上記実施形態では、グラウンド4は、環状部41及び突出部42A〜42Hを含んでいたが、グラウンド4の形状は特に限定されない。また、グラウンド5は、グラウンド4と同じ形状を有していたが、グラウンド5の形状も特に限定されず、グラウンド5がグラウンド4と異なる形状を有していてもよい。
【0044】
上記実施形態のローパスフィルタ10は、グラウンド4,5を備えていたが、グラウンド4,5の一方又は双方を備えていなくてもよい。
【0045】
上記実施形態のローパスフィルタ10は、いわゆる差動フィルタであり、信号伝送路2及び反転信号伝送路3を備えていたが、反転信号伝送路3を備えていなくてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<ローパスフィルタの周波数特性>
(実施例1)
周波数が1GHz、2GHz、2.45GHz、3GHz、4.62GHz、及び6GHzの信号が入力された場合それぞれについて、ローパスフィルタ10の電流分布シミュレーションを行った。また、ローパスフィルタ10の周波数特性シミュレーションを行った。
【0048】
(シミュレーション結果)
図6A及び図6Bに、上述した各周波数の信号をローパスフィルタ10に入力した場合における入力伝送路2の電流分布を示す。図6Cは、ローパスフィルタ10の周波数特性を示すグラフである。ここで、図6Cにおいて、S11は、入力端子61の入力信号に対する入力端子61の出力信号の電圧比である。S21は、入力端子61の入力信号に対する出力端子62の出力信号の電圧比である。以後、S11を反射成分、S21を伝達成分という。
【0049】
図6Aを参照すると、周波数が11GHz、2GHz、及び2.45GHzの信号がローパスフィルタ10に入力された場合、出力伝送路22において交点P2よりも下の部分に電流が流れていることがわかる。よって、ローパスフィルタ10は、周波数が11GHz、2GHz、及び2.45GHzの信号を通過させることがわかる。
【0050】
一方、図6Bを参照すると、周波数が3GHzの信号が入力された場合、出力伝送路22において交点P2よりも下の部分に流れる電流が低減することがわかる。また、周波数が4.62GHz及び6GHzの信号がローパスフィルタ10に入力された場合、出力伝送路22において交点P2よりも下の部分には電流が流れていないことがわかる。よって、ローパスフィルタ10は、信号の周波数が3GHz以上になると、信号を徐々に通過させなくなることがわかる。
【0051】
図6Cを参照すると、信号の周波数が2.8GHz付近までは、伝達成分S21が0dBに近く、信号がほとんど損失なく伝達されることがわかる。なお、反射成分S11は、信号の周波数が2.5GHzを少し超えた辺りで非常に小さくなっている。一方、伝達成分S21は、信号の周波数が2.8GHzを超えた辺りから徐々に減衰し始め、減衰をし始めた時点の周波数のおよそ2倍の周波数で、最小(減衰量が最大)となっている。
【0052】
以上の結果から、ローパスフィルタ10は、約2.8GHzの周波数までの信号をほとんど損失なく通過させるが、信号の周波数が2.8GHzよりも大きくなるにつれて、徐々に信号を通過させなくなることがわかる。
【0053】
<差動信号間の漏れの確認>
(実施例2)
ローパスフィルタ(差動フィルタ)10(図7A)の周波数特性シミュレーションを行い、信号伝送路2と反転信号伝送路3との間の差動信号の漏れを確認した。誘電体基板1の主面S1の面積は、314.6mmである。
【0054】
(比較例2)
一般的な差動フィルタ10C(図8A)の周波数特性シミュレーションを行い、信号伝送路2Cと反転信号伝送路3Cとの間の作動信号の漏れを確認した。
【0055】
比較例2の差動フィルタ10Cは、図8Aに示すように、矩形状をなす誘電体基板1Cと、誘電体基板1C上に設けられた信号伝送路2Cと、誘電体基板1C上に設けられ信号伝送路2Cに平行な反転信号伝送路3Cと、を備えている。誘電体基板1Cの表面積は、313.24mmである。
【0056】
信号伝送路2Cは、入力端子61Cに接続された入力伝送路21Cと、出力端子62Cに接続された出力伝送路22Cと、入力伝送路21Cと出力伝送路22Cとの間に配置された共振素子23Cと、を備える。入力伝送路21C、出力伝送路22C、及び共振素子23Cは、誘電体基板1C上で互いに平行に配置されている。
【0057】
反転出力伝送路3Cは、反転入力端子63Cに接続された反転入力伝送路31Cと、反転出力端子64Cに接続された反転出力伝送路32Cと、反転入力伝送路31Cと反転出力伝送路32Cとの間に配置された共振素子33Cと、を備える。反転入力伝送路31C、反転出力伝送路32C、及び共振素子33Cは、誘電体基板1C上で互いに平行に配置されている。
【0058】
(シミュレーション結果)
図7Bは、実施例2の差動フィルタ10の周波数特性を示すグラフである。図8Bは、比較例2の差動フィルタ10Cの周波数特性を示すグラフである。ここで、図7B及び図8BにおけるS31は、入力端子61,61Cの入力信号に対する反転入力端子63,63Cの出力信号の電圧比である。S41は、入力端子61,61Cの入力信号に対する反転出力端子64,64Cの出力信号の電圧比である。以後、S31,S41をともに漏れ成分という。
【0059】
図7Bを参照すると、実施例2の差動フィルタ10では、漏れ成分S41の最悪値が−19dB程度であることがわかる。一方、図8Bを参照すると、比較例2の差動フィルタ10Cでは、漏れ成分S41の最悪値が−11dB程度であることがわかる。
【0060】
このように、実施例2の差動フィルタ10では、誘電体基板の面積が比較例2の差動フィルタ10Cとほぼ同一であるにもかかわらず、比較例2の差動フィルタ10Cよりも差動信号間の漏れを約8dB改善することができた。
【0061】
<入力伝送路と出力伝送路との間の角度の確認>
(実施例3)
図9Aに示すように、入力伝送路21と出力伝送路22とがなす角度θを45度として、周波数特性シミュレーションを行った。
【0062】
(シミュレーション結果)
図9Bに示すように、信号の周波数が2.8GHz付近までは、伝達成分S21が0dBに近く、信号がほとんど損失なく伝達されていることがわかる。一方、伝達成分S21は、信号の周波数が2.8GHzを超えた辺りから徐々に減衰し始め、実施例1のローパスフィルタ10と同様、減衰をし始めた時点の周波数のおよそ2倍の周波数で、最小(減衰量が最大)となっている。
【0063】
したがって、入力伝送路21と出力伝送路22とが直交していない場合であっても、ローパスフィルタとしての機能を果たすことがわかる。なお、反転入力伝送路31と反転出力伝送路32とが直交していない場合についてはシミュレーションを行っていないが、反転入力伝送路31及び反転出力伝送路32は入力伝送路21及び出力伝送路22と同様に構成されているので、反転入力伝送路31と反転出力伝送路32とが直交していない場合も、ローパスフィルタとしての機能を果たすことが容易に予測できる。ただし、図6C及び図9Bに示すように、実施例3のローパスフィルタは、入力伝送路21と出力伝送路22とが直交している実施例1のローパスフィルタ10よりも減衰量が小さく、ローパスフィルタとしての機能が実施例1のローパスフィルタ10よりも若干劣る。
【符号の説明】
【0064】
10 ローパスフィルタ
1 誘電体基板
2 信号伝送路
21 入力伝送路
22 出力伝送路
3 反転信号伝送路
31 反転入力伝送路
32 反転出力伝送路
4 グラウンド
61 入力端子
62 出力端子
63 反転入力端子
64 反転出力端子
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B