特許第6176103号(P6176103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6176103
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】ゼロ電流スイッチング電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20170731BHJP
   H02M 7/483 20070101ALI20170731BHJP
【FI】
   H02M7/48 A
   H02M7/483
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-266258(P2013-266258)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-122913(P2015-122913A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】チャン ヤンホン
(72)【発明者】
【氏名】小倉 和也
【審査官】 小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−201247(JP,A)
【文献】 特開2013−059248(JP,A)
【文献】 特開2011−078204(JP,A)
【文献】 特開平07−213076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/483
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の直流電源の直列回路と第1および第2のスイッチング素子の直列回路とを並列接続し、
前記第1および第2の直流電源の共通接続点と第1および第2のスイッチング素子の共通接続点との間に、互いに逆の耐圧方向に制御できる双方向スイッチング手段を接続し、
前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に、コンデンサおよびリアクトルを直列接続して成る共振回路の一端を接続し、
前記共振回路の他端と前記第1および第2の直流電源の共通接続点との間に第3のスイッチング素子を接続し、
前記第3のスイッチング素子および共振回路の共通接続点と前記第1の直流電源および第1のスイッチング素子の共通接続点との間にクランプダイオードを接続して構成されたゼロ電流スイッチング電力変換装置。
【請求項2】
第1および第2のスイッチング素子の直列回路と、コンデンサおよびリアクトルを直列接続した回路であって、一端が前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に接続された共振回路と、前記共振回路の他端に一端が接続された第3のスイッチング素子と、前記共振回路および第3のスイッチング素子の共通接続点に一端が接続されたクランプダイオードと、前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に一端が接続された、互いに逆の耐圧方向に制御できる双方向スイッチング手段とを有した電力変換器を3相分設け、
前記各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の直列回路を、第1および第2の直流電源の直列回路に各々並列に接続し、
前記各相の電力変換器の双方向スイッチング手段の他端および第3のスイッチング素子の他端を前記第1および第2の直流電源の共通接続点に各々接続し、
前記各相の電力変換器のクランプダイオードの他端を前記第1の直流電源の正極端に各々接続し、
前記各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を各相の出力端としたことを特徴とするゼロ電流スイッチング電力変換装置。
【請求項3】
第3の直流電源と、前記直流電源の正、負極端間に直列接続される第4および第5のスイッチング素子の直列回路を3相分設けた電力変換部とを有した主変換器と、
第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の直列回路と、前記直列回路に並列接続された第1および第2のスイッチング素子の直列回路と、前記第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点と第1および第2のスイッチング素子の共通接続点との間に接続され、互いに逆の耐圧方向に制御できる双方向スイッチング手段と、コンデンサおよびリアクトルを直列接続した回路であって、一端が前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に接続された共振回路と、前記共振回路の他端と前記第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点との間に接続された第3のスイッチング素子と、前記共振回路および第3のスイッチング素子の共通接続点と前記第1のDCキャパシタ又は直流電源および第1のスイッチング素子の共通接続点との間に接続されたクランプダイオードとを有した電力変換器を3相分設けて構成した補助変換器とを備え、
前記補助変換器の電力変換器は、各相毎に1個設けるか、又は各相毎にN個(Nは2以上の整数)の多重段数設け、
前記補助変換器の電力変換器を各相毎に1個設けた場合は、当該電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第4および第5のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、
前記補助変換器の電力変換器を各相毎にN個設けた場合は、初段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第4および第5のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、初段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点に各々接続し、次段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次々段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点へとN個分順次接続して構成したことを特徴とするゼロ電流スイッチング電力変換装置。
【請求項4】
第3の直流電源と、前記直流電源の正、負極端間に直列に接続された第1および第2のコンデンサと、前記直流電源の正、負極端間に第4および第5のスイッチング素子を直列に接続し、第4および第5のスイッチング素子の共通接続点と前記第1および第2のコンデンサの共通接続点の間に、互いに逆の耐圧方向に制御できる第1の双方向スイッチング手段を接続して成る電力変換器を3相分設けた電力変換部とを有した主変換器と、
第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の直列回路と、前記直列回路に並列接続された第1および第2のスイッチング素子の直列回路と、前記第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点と第1および第2のスイッチング素子の共通接続点との間に接続され、互いに逆の耐圧方向に制御できる第2の双方向スイッチング手段と、コンデンサおよびリアクトルを直列接続した回路であって、一端が前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に接続された共振回路と、前記共振回路の他端と前記第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点との間に接続された第3のスイッチング素子と、前記共振回路および第3のスイッチング素子の共通接続点と前記第1のDCキャパシタ又は直流電源および第1のスイッチング素子の共通接続点との間に接続されたクランプダイオードとを有した電力変換器を3相分設けて構成した補助変換器とを備え、
前記補助変換器の電力変換器は、各相毎に1個設けるか、又は各相毎にN個(Nは2以上の整数)の多重段数設け、
前記補助変換器の電力変換器を各相毎に1個設けた場合は、当該電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第4および第5のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、
前記補助変換器の電力変換器を各相毎にN個設けた場合は、初段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第4および第5のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、初段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点に各々接続し、次段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次々段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点へとN個分順次接続して構成したことを特徴とするゼロ電流スイッチング電力変換装置。
【請求項5】
主変換器として設けられた、請求項2に記載のゼロ電流スイッチング電力変換装置と、
請求項3に記載の補助変換器とを備え、
前記補助変換器の電力変換器は、各相毎に1個設けるか、又は各相毎にN個(Nは2以上の整数)の多重段数設け、
前記補助変換器の電力変換器を各相毎に1個設けた場合は、当該電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の電力変換器の各相の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、
前記補助変換器の電力変換器を各相毎にN個設けた場合は、初段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、初段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点に各々接続し、次段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次々段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点へとN個分順次接続して構成したことを特徴とするゼロ電流スイッチング電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼロ電流状態でスイッチング素子をスイッチング制御する技術を利用した電力変換装置に係り、特に電力損失を低減し、効率を高めることを目標としたゼロ電流スイッチング電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトスイッチング技術の1つとして、電力変換装置の主スイッチング素子がターンオフされる前に負荷電流を補助回路側に移行させる、ゼロ電流移行(Zero Current Transition;ZCT)方法がある。
【0003】
このZCT方法によれば、主スイッチング素子をゼロ電流状態でターンオフすることができる。特にIGBTなどの少数キャリアデバイスにおいては、その電流テール特性によって生じるターンオフ損失が大きいので、ZCT方法はターンオフ損失を低減する有効な方法である(非特許文献1、2、4参照)。
【0004】
以下に、ZCT技術を用いた既存のAC/DC又はDC/AC変換装置の回路構成を示す。図10は、従来の3つの補助スイッチを用いた3相2レベルAC/DC又はDC/AC変換装置の例(特許文献1、非特許文献1参照)を示している。
【0005】
図10において、直流電源Vdcの正、負極端間には、スイッチング素子S1,S2の直列回路およびS3,S4の直列回路およびS5,S6の直列回路を並列接続した主回路1と、補助回路2が並列に接続されている。
【0006】
補助回路2は、ダイオードD1,D2の直列回路およびD3,D4の直列回路およびD5,D6の直列回路を直流電源Vdcに並列に接続し、スイッチング素子S1およびS2の共通接続点Aと直流電源Vdcの負極端間にコンデンサCa、リアクトルLaおよび補助スイッチSxaを直列に接続し、スイッチング素子S3およびS4の共通接続点Bと直流電源Vdcの負極端間にコンデンサCb、リアクトルLbおよび補助スイッチSxbを直列に接続し、スイッチング素子S5およびS6の共通接続点Cと直流電源Vdcの負極端間にコンデンサCc、リアクトルLcおよび補助スイッチSxcを直列に接続し、リアクトルLaおよび補助スイッチSxaの共通接続点AxとダイオードD1およびD2の共通接続点を接続し、リアクトルLbおよび補助スイッチSxbの共通接続点BxとダイオードD3およびD4の共通接続点を接続し、リアクトルLcおよび補助スイッチSxcの共通接続点CxとダイオードD5およびD6の共通接続点を接続して構成されている。
【0007】
この図10において、主回路1のスイッチング素子S1〜S6のターンオフ時には、補助回路2側へ電流を移行させてからターンオフ制御を行うZCT(ゼロ電流移行)方法によるゼロ電流スイッチングが実行される。
【0008】
図11は、従来の6つの補助スイッチを用いた3相2レベルAC/DC又はDC/AC変換装置の例(非特許文献1、3参照)を示している。
【0009】
図11において、直流電源Eの正、負極端間には、スイッチング素子S1,S2の直列回路およびS3,S4の直列回路およびS5,S6の直列回路を並列接続した主回路3と、補助回路4が並列に接続されている。
【0010】
補助回路4は、直流電源Eの正、負極端間にコンデンサCF1およびCF2を直列に接続し、コンデンサCF1およびCF2の共通接続点とa相出力端の間に、補助スイッチS7、リアクトルL1、L2および補助スイッチ8を直列に接続し、補助スイッチS7およびリアクトルL1の直列体にコンデンサC1を並列に接続し、リアクトルL2および補助スイッチS8の直列体にコンデンサC2を並列に接続し、コンデンサCF1およびCF2の共通接続点とb相出力端の間に、補助スイッチS9、リアクトルL3、L4および補助スイッチ10を直列に接続し、補助スイッチS9およびリアクトルL3の直列体にコンデンサC3を並列に接続し、リアクトルL4および補助スイッチS10の直列体にコンデンサC4を並列に接続し、コンデンサCF1およびCF2の共通接続点とc相出力端の間に、補助スイッチS11、リアクトルL5、L6および補助スイッチ12を直列に接続し、補助スイッチS11およびリアクトルL5の直列体にコンデンサC5を並列に接続し、リアクトルL6および補助スイッチS12の直列体にコンデンサC6を並列に接続して構成されている。
【0011】
尚、主回路3のD1〜D6はスイッチング素子S1〜S6に各々接続されたフリーホイールダイオードである。
【0012】
この図11において、主回路3のスイッチング素子S1〜S6のターンオフ時には、補助回路4側へ電流を移行させてからターンオフ制御を行うZVZCT(ゼロ電圧ゼロ電流移行)方法によるゼロ電流スイッチングが実行される。
【0013】
図12は、従来の2つの補助スイッチを用い、ZVZCT方法を利用した3相2レベルAC/DC又はDC/AC変換装置の例(非特許文献2参照)を示している。
【0014】
図12において、直流電源VDCの正、負極端間には、スイッチング素子S1U,S2Uの直列回路およびS1V,S2Vの直列回路およびS1W,S2Wの直列回路を並列接続した主回路5と、補助回路6が並列に接続されている。D1U〜D1W、D2U〜D2Wは、スイッチング素子S1U〜S1W、S2U〜S2Wに各々逆並列接続されたフリーホイールダイオードである。
【0015】
補助回路6は、直流電源VDCの正、負極端間にコンデンサCdC1およびコンデンサCdC2を直列に接続し、直流電源VDCおよびコンデンサCdC1の共通接続点とスイッチング素子S1U〜S1Wの共通接続点の間に、補助スイッチScおよびフリーホイールダイオードDcを並列接続し、コンデンサCdc1およびCdc2の共通接続点と補助スイッチScおよびスイッチング素子S1Uの共通接続点の間に、リアクトルLr1、補助スイッチSa1、ダイオードDa2およびリアクトルLr2を直列に接続し、補助スイッチSa1にフリーホイールダイオードDa1を逆並列接続し、リアクトルLr1および補助スイッチSa1の直列体にコンデンサCr1を並列に接続し、ダイオードDa2およびリアクトルLr2の直列体にコンデンサCr2を並列に接続して構成されている。
【0016】
この図12において、主回路5のスイッチング素子S1U〜S1W、S2U〜S2Wのターンオフ時には、補助回路6側へ電流を移行させてからターンオフ制御を行うZVZCT(ゼロ電圧ゼロ電流移行)方法によるゼロ電流スイッチングが実行される。
【0017】
図13は、従来の6つの補助スイッチを用いたANPC3相AC/DC又はDC/AC変換装置の例(特許文献2参照)を示している。
【0018】
図13において、直流電源VDCの正、負極端間には、コンデンサC1およびC2が直列に接続されている。直流電源Vdcの正、負極端間には、さらに主回路として、A相のスイッチング素子QA1〜QA4の直列回路と、B相のスイッチング素子QB1〜QB4の直列回路と、C相のスイッチング素子Qc1〜Qc4の直列回路とが並列に接続されている。
【0019】
前記スイッチング素子QA1およびQA2の共通接続点とスイッチング素子QA3およびQA4の共通接続点の間にはスイッチング素子QA5およびQA6が直列に接続されている。
【0020】
前記スイッチング素子QB1およびQB2の共通接続点とスイッチング素子QB3およびQB4の共通接続点の間にはスイッチング素子QB5およびQB6が直列に接続されている。
【0021】
前記スイッチング素子QC1およびQC2の共通接続点とスイッチング素子QC3およびQC4の共通接続点の間にはスイッチング素子QC5およびQC6が直列に接続されている。
【0022】
前記スイッチング素子QA5およびQA6の共通接続点と、スイッチング素子QB5およびQB6の共通接続点と、スイッチング素子QC5およびQC6の共通接続点は、コンデンサC1およびC2の共通接続点(中性点)Oに接続されている。
【0023】
スイッチング素子QA2およびQA3の共通接続点はA相出力端とされ、スイッチング素子QB2およびQB3の共通接続点はB相出力端とされ、スイッチング素子QC2およびQC3の共通接続点はC相出力端とされている。
【0024】
A相の補助回路7Aとして、スイッチング素子QA1およびQA2の共通接続点とスイッチング素子QA3およびQA4の共通接続点の間に直列に接続した補助スイッチQAX1およびQAX2と、補助スイッチQAX1およびQAX2の共通接続点とスイッチング素子QA2およびQA3の共通接続点との間に直列に接続したコンデンサCAおよびリアクトルLAとが設けられている。
【0025】
B相の補助回路7Bとして、スイッチング素子QB1およびQB2の共通接続点とスイッチング素子QB3およびQB4の共通接続点の間に直列に接続した補助スイッチQBX1およびQBX2と、補助スイッチQBX1およびQBX2の共通接続点とスイッチング素子QB2およびQB3の共通接続点との間に直列に接続したコンデンサCBおよびリアクトルLBとが設けられている。
【0026】
C相の補助回路7Cとして、スイッチング素子QC1およびQC2の共通接続点とスイッチング素子QC3およびQC4の共通接続点の間に直列に接続した補助スイッチQCX1およびQCX2と、補助スイッチQCX1およびQCX2の共通接続点とスイッチング素子QC2およびQC3の共通接続点との間に直列に接続したコンデンサCCおよびリアクトルLCとが設けられている。
【0027】
この図13において、主回路のスイッチング素子QA1〜QA6、QB1〜QB6、QC1〜QC6のターンオフ時には、補助回路7A,7B,7C側へ電流を移行させてからターンオフ制御を行うZCT(ゼロ電流移行)方法によるゼロ電流スイッチングが実行される。
【0028】
図14は、従来のゼロ電流スイッチングを用いたグリッド接続単相インバータの例(非特許文献5参照)を示している。図14において、PV(太陽電池)アレイ10の正、負極端間にはコンデンサVsが接続されている。
【0029】
PVアレイ10の正極端には主回路を構成するスイッチング素子S1,S2の各一端が接続され、PVアレイ10の負極端には主回路を構成するスイッチング素子S3,S4の各一端が接続され、スイッチング素子S1の他端とS2の他端の間には、リアクトルLfおよび交流電源回路13が直列に接続されている。
【0030】
スイッチング素子S1,S3側の補助回路11は、スイッチング素子S1およびリアクトルLfの共通接続点とスイッチング素子S3の他端の間に接続されたリアクトルLr1と、スイッチング素子S1の両端間に直列に接続されたダイオードDa1および補助スイッチSa1と、ダイオードDa1および補助スイッチSa1の共通接続点とリアクトルLr1およびスイッチング素子S3の共通接続点との間に接続されたコンデンサCr1とを備えている。
【0031】
スイッチング素子S2,S4側の補助回路12は、スイッチング素子S2および交流電源回路13の共通接続点とスイッチング素子S4の他端の間に接続されたリアクトルLr2と、スイッチング素子S2の両端間に直列に接続されたダイオードDa2および補助スイッチSa2と、ダイオードDa2および補助スイッチSa2の共通接続点とリアクトルLr2およびスイッチング素子S4の共通接続点との間に接続されたコンデンサCr2とを備えている。
【0032】
この図14において、主回路のスイッチング素子S1〜S4のターンオフ時には、補助回路11,12側へ電流を移行させてからターンオフ制御を行うZCT(ゼロ電流移行)方法によるゼロ電流スイッチングが実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】US Patent,US6337801B2号公告公報(2002年1月8日公開)
【特許文献2】China Patent,CN101640497A号公開公報(2010年2月3日公開)
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】Yong Li,“Unified Zero−Current−Transition Techniques for High−Power Three−Phase PWM Inverters”,Ph.D thesis,2002
【非特許文献2】Eiji Hiraki,Toshihiko Tanaka,Mutsuo Nakaoka,“Zero−Voltage and Zero−Current Soft−Switching PWM Inverter”,EPE 2005,ISBN:90−75815−08−5
【非特許文献3】C.M.O.Stein,H.A.Grundling,J.R.Pinheiro and H.L.Hey,“Zero−Current and Zero−Voltage Soft−Transition Commutation Cell for PWM Inverters”,IEEE Trans.on Power Electronics,Vol.19,NO.2,pp.396−403,March 2004.
【非特許文献4】M.L.Martins,J.L.Russi and H.L.Hey,“Low Reactive Energy ZCZVTPWM Converter:Synthesis,Analysis and Comparison”,0−7803−9033−4/05 2005 IEEE
【非特許文献5】Hang−Seok Choi,Y.J.Cho,J.D.Kim and B.H.Cho,“Grid−Connected Photovoltaic Inverter with Zero−Current−Switching”,from internet:“http://pearlx.snu.ac.kr/Publication/ICPE0101.pdf”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
前記図10図12に示すZCT技術を利用した電力変換装置は2レベル変換器であり、一方、図13図14の電力変換装置は3レベル変換器である。3レベル変換器は2レベル変換器に比べて、出力する電圧や電流の高調波歪を抑制でき、変換器と負荷との間に出力フィルタを設ける場合、その出力フィルタを小型にできる等の利点を有する。
【0036】
しかしながら図13の3レベル変換器や図11の2レベル変換器では、6つの補助スイッチが必要である。すなわち、図13の3相3レベル変換器では24個のスイッチング素子、図11の3相2レベル変換器では12個のスイッチング素子が必要である。この必要とするスイッチング素子数が多いことが変換器のコストと小型化の面で問題であった。
【0037】
また、図12の回路の直流側では、補助スイッチが2つだけ使用されているとはいえ、新たに加えたバイパス用のスイッチScおよびフリーホイールダイオードDcの導通損の増加分が、他のスイッチング素子のゼロ電流スイッチングによってもたらされる変換器全体の損失低減効果を薄めている。
【0038】
また、用途が単相のみに限定されている、図14に示す回路構成では、特別なPWM方式により制御を行う必要がある。
【0039】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、ゼロ電流スイッチングを実現するうえで必要なスイッチング素子の個数を低減して装置全体の電力損失を低減し、装置の小型化および低コスト化を図ったゼロ電流スイッチング電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0040】
上記課題を解決するための請求項1に記載のゼロ電流スイッチング電力変換装置は、第1および第2の直流電源の直列回路と第1および第2のスイッチング素子の直列回路とを並列接続し、前記第1および第2の直流電源の共通接続点と第1および第2のスイッチング素子の共通接続点との間に、互いに逆の耐圧方向に制御できる双方向スイッチング手段を接続し、前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に、コンデンサおよびリアクトルを直列接続して成る共振回路の一端を接続し、前記共振回路の他端と前記第1および第2の直流電源の共通接続点との間に第3のスイッチング素子を接続し、前記第3のスイッチング素子および共振回路の共通接続点と前記第1の直流電源および第1のスイッチング素子の共通接続点との間にクランプダイオードを接続して構成されている。
【0041】
請求項2に記載のゼロ電流スイッチング電力変換装置は、第1および第2のスイッチング素子の直列回路と、コンデンサおよびリアクトルを直列接続した回路であって、一端が前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に接続された共振回路と、前記共振回路の他端に一端が接続された第3のスイッチング素子と、前記共振回路および第3のスイッチング素子の共通接続点に一端が接続されたクランプダイオードと、前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に一端が接続された、互いに逆の耐圧方向に制御できる双方向スイッチング手段とを有した電力変換器を3相分設け、前記各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の直列回路を、第1および第2の直流電源の直列回路に各々並列に接続し、前記各相の電力変換器の双方向スイッチング手段の他端および第3のスイッチング素子の他端を前記第1および第2の直流電源の共通接続点に各々接続し、前記各相の電力変換器のクランプダイオードの他端を前記第1の直流電源の正極端に各々接続し、前記各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を各相の出力端としたことを特徴としている。
【0042】
請求項3に記載のゼロ電流スイッチング電力変換装置は、第3の直流電源と、前記直流電源の正、負極端間に直列接続される第4および第5のスイッチング素子の直列回路を3相分設けた電力変換部とを有した主変換器と、第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の直列回路と、前記直列回路に並列接続された第1および第2のスイッチング素子の直列回路と、前記第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点と第1および第2のスイッチング素子の共通接続点との間に接続され、互いに逆の耐圧方向に制御できる双方向スイッチング手段と、コンデンサおよびリアクトルを直列接続した回路であって、一端が前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に接続された共振回路と、前記共振回路の他端と前記第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点との間に接続された第3のスイッチング素子と、前記共振回路および第3のスイッチング素子の共通接続点と前記第1のDCキャパシタ又は直流電源および第1のスイッチング素子の共通接続点との間に接続されたクランプダイオードとを有した電力変換器を3相分設けて構成した補助変換器とを備え、前記補助変換器の電力変換器は、各相毎に1個設けるか、又は各相毎にN個(Nは2以上の整数)の多重段数設け、前記補助変換器の電力変換器を各相毎に1個設けた場合は、当該電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第4および第5のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、前記補助変換器の電力変換器を各相毎にN個設けた場合は、初段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第4および第5のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、初段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点に各々接続し、次段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次々段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点へとN個分順次接続して構成したことを特徴としている。
【0043】
請求項4に記載のゼロ電流スイッチング電力変換装置は、第3の直流電源と、前記直流電源の正、負極端間に直列に接続された第1および第2のコンデンサと、前記直流電源の正、負極端間に第4および第5のスイッチング素子を直列に接続し、第4および第5のスイッチング素子の共通接続点と前記第1および第2のコンデンサの共通接続点の間に、互いに逆の耐圧方向に制御できる第1の双方向スイッチング手段を接続して成る電力変換器を3相分設けた電力変換部とを有した主変換器と、第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の直列回路と、前記直列回路に並列接続された第1および第2のスイッチング素子の直列回路と、前記第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点と第1および第2のスイッチング素子の共通接続点との間に接続され、互いに逆の耐圧方向に制御できる第2の双方向スイッチング手段と、コンデンサおよびリアクトルを直列接続した回路であって、一端が前記第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に接続された共振回路と、前記共振回路の他端と前記第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点との間に接続された第3のスイッチング素子と、前記共振回路および第3のスイッチング素子の共通接続点と前記第1のDCキャパシタ又は直流電源および第1のスイッチング素子の共通接続点との間に接続されたクランプダイオードとを有した電力変換器を3相分設けて構成した補助変換器とを備え、前記補助変換器の電力変換器は、各相毎に1個設けるか、又は各相毎にN個(Nは2以上の整数)の多重段数設け、前記補助変換器の電力変換器を各相毎に1個設けた場合は、当該電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第4および第5のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、前記補助変換器の電力変換器を各相毎にN個設けた場合は、初段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第4および第5のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、初段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点に各々接続し、次段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次々段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点へとN個分順次接続して構成したことを特徴としている。
【0044】
請求項5に記載のゼロ電流スイッチング電力変換装置は、主変換器として設けられた、請求項2に記載のゼロ電流スイッチング電力変換装置と、請求項3に記載の補助変換器とを備え、前記補助変換器の電力変換器は、各相毎に1個設けるか、又は各相毎にN個(Nは2以上の整数)の多重段数設け、前記補助変換器の電力変換器を各相毎に1個設けた場合は、当該電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の電力変換器の各相の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、前記補助変換器の電力変換器を各相毎にN個設けた場合は、初段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点を、前記主変換器の各相の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点に各々接続し、初段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点に各々接続し、次段の各相の電力変換器の第1および第2のスイッチング素子の共通接続点を次々段の各相の電力変換器の第1および第2のDCキャパシタ又は直流電源の共通接続点へとN個分順次接続して構成したことを特徴としている。
【0045】
上記構成によれば、第1および第2のスイッチング素子のスイッチング時に、共振回路、第3のスイッチング素子およびクランプダイオードにより形成されるゼロ電流移行回路側に電流を流すことができるため、スイッチング素子のターンオフ損失およびターンオン損失を低減することができる。
【0046】
これによって、ゼロ電流スイッチングを実現するうえで必要なスイッチング素子の個数を低減して装置全体の電力損失を低減し、装置の小型化および低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0047】
(1)請求項1〜5に記載の発明によれば、ゼロ電流スイッチングを実現するうえで必要なスイッチング素子の個数を低減して装置全体の電力損失を低減し、装置の小型化および低コスト化を図ることができる。
(2)請求項1に記載の発明によれば、電力損失を低減し、小型化および低コスト化を図った3レベル電力変換器を得ることができる。
(3)請求項2に記載の発明によれば、電力損失を低減し、小型化および低コスト化を図った3相3レベル電力変換装置を得ることができる。
(4)請求項3に記載の発明によれば、電力損失を低減し、小型化および低コスト化を図った、3相で5レベル以上の多レベルの電力変換装置を得ることができる。
(5)請求項4、5に記載の発明によれば、電力損失を低減し、小型化および低コスト化を図った、3相で7レベル以上の多レベルの電力変換装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の実施形態例による3レベル電力変換器の回路構成図。
図2】本発明の実施例1による3相3レベル電力変換装置の回路図。
図3】本発明の実施例2による3相5レベル電力変換装置の回路図。
図4】本発明の実施例2の変形例によるハイブリッドマルチレベル電力変換装置の回路図。
図5】本発明の実施例3による3相7レベル電力変換装置の回路図。
図6】本発明の実施例4による3相7レベル電力変換装置の回路図。
図7図1の回路の動作を説明するための電圧、電流波形図。
図8図1の回路の動作時の電流経路を説明するための電圧、電流波形図。
図9】本発明の実施形態例によるZCT制御方法を説明する電圧、電流波形図。
図10】従来の3相2レベル電力変換回路の一例を示す回路図。
図11】従来の3相2レベル電力変換回路の他の例を示す回路図。
図12】従来の3相2レベル電力変換回路の他の例を示す回路図。形図。
図13】従来のANPC3相3レベル電力変換回路の一例を示す回路図。
図14】従来のグリッド接続単相インバータの一例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。まず、本発明をT型3レベル電力変換回路に適用した基本回路構成を図1に示す。
【0050】
図1のT型3レベル変換器は、直流電源21,22(第1および第2の直流電源)の直列回路とスイッチング素子S1,S2(第1および第2のスイッチング素子)の直列回路を並列接続し、前記直流電源21,22の共通接続点(中性点NP;neutral point)とスイッチング素子S1,S2の共通接続点との間に、互いに逆の方向に制御できるスイッチング素子S21,S22を逆方向に直列接続して構成されている。
【0051】
尚、スイッチング素子S21、S22の直列回路は、互いに逆の耐圧方向に制御できる双方向スイッチング手段の一例として構成されるものである。これに限らない構成でもよい。他の構成の一例が、スイッチング素子S21とS22を逆並列接続する構成である。
【0052】
スイッチング素子S1およびS2の共通接続点(OUT端子)には、コンデンサCおよびリアクトルLを直列接続して成る共振回路25の一端が接続されている。尚共振回路25のコンデンサCおよびリアクトルLの接続順は逆であってもよい。
【0053】
共振回路25の他端(この例ではリアクトルL)と直流電源21および22の共通接続点(NP端子)との間にはZCT制御用のスイッチング素子Sa(第3のスイッチング素子)が接続されている。
【0054】
スイッチング素子Saと共振回路25の共通接続点には電圧クランピング用のクランプダイオードDaのアノードが接続され、クランプダイオードDaのカソードは直流電源21の正極端(直流電源21およびスイッチング素子S1の共通接続点)に接続されている。
【0055】
前記共振回路25、スイッチング素子SaおよびクランプダイオードDaは、スイッチング素子S1,S2,S21,S22,Saのスイッチング時に負荷電流を移行させてゼロ電流スイッチングを実現する、本発明のゼロ電流移行(ZCT)回路を形成している。
【0056】
図1の構成によって、3レベルの相電圧を出力する電力変換器が得られる。
【0057】
図1の回路において、NP端子を基準点とし、OUT端子とNP端子間の電圧をVoとする。直流電源21,22の電源電圧を各々E/2とすると、スイッチング素子S1がON時にVo=E/2、スイッチング素子S21とスイッチング素子S22がON時にVo=0、スイッチング素子S2がON時にVo=−E/2、となるので、3レベルの電圧を出力できる。また、OUT端子から出力される電流をIoとする。その極性は、図1の矢印の向きを正とする。
【0058】
上記構成においては、スイッチング素子S1,S2,S21,S22のスイッチング時に、後述するZCT制御方法によりスイッチング素子SaをON/OFF制御することにより、負荷電流をゼロ電流移行回路側に移行させてゼロ電流スイッチングが実行される。
【0059】
尚、本発明の実施形態例における各スイッチング素子は、例えばIGBTによって構成されるものである。
【実施例1】
【0060】
図2は本実施例1による3相3レベル電力変換装置を示し、図1の電力変換器を3相分設けて構成されている。
【0061】
図2において、図1と同一部分は同一符号をもって示している。図2において、直流電源21および22の直列回路には、図1のように主回路のスイッチング素子S1,S2,S21,S22と、共振回路25、スイッチング素子SaおよびクランプダイオードDaから成るゼロ電流移行回路とを備えて構成された電力変換器30が3相分(30U,30V,30W)各々並列に接続されている。
【0062】
すなわち、3相の電力変換器30U,30V,30Wの各相の、スイッチング素子S1,S2の直列回路を直流電源21,22の直列回路に各々並列に接続し、スイッチング素子S21およびSaの共通接続点を直流電源21,22の共通接続点(NP)に各々接続し、クランプダイオードDaのカソードを直流電源21の正極端に各々接続し、スイッチング素子S1,S2の共通接続点を各相の出力端U,V,Wとしている。
【0063】
上記構成において、各相の電力変換器30U,30V,30Wの、スイッチング素子S1,S2,S21,S22のスイッチング時に、後述するZCT制御方法によりスイッチング素子SaをON/OFF制御することにより、負荷電流をゼロ電流移行回路側に移行させてゼロ電流スイッチングが実行される。
【0064】
図2の回路によれば、中性点NPと各相の出力端U,V,Wの間に、図1の場合と同様にE/2,0,−E/2の3レベルの電圧を各々出力することができる。
【実施例2】
【0065】
図3は本実施例2による3相5レベル電力変換装置(5レベルハイブリッドインバータ)を示し、3相2レベルの主変換器40と、ZCT制御が実施されるT型3レベル電力変換器を3相分設けた補助変換器50とを備えて構成されている。
【0066】
図3において図1と同一部分は同一符号をもって示している。
【0067】
主変換器40の直流電源23(第3の直流電源)の正、負極端間には、第1および第2のコンデンサC1,C2が直列に接続されている。直流電源23の正、負極端間にはさらに、スイッチング素子S4U,S5Uの直列回路と、スイッチング素子S4V,S5Vの直列回路と、スイッチング素子S4W,S5Wの直列回路とが並列に接続されている。
【0068】
前記第1および第2のコンデンサC1およびC2の共通接続点を中性点NPとしている。
【0069】
補助変換器50は、図1の電力変換器の直流電源21,22の直列回路を第1および第2のDCキャパシタCa1,Ca2の直列回路に置換えて構成した電力変換器を3相分(50U,50V,50W)備えており、主変換器40にカスケード接続されている。
【0070】
すなわち、補助変換器50のU相の電力変換器50UのDCキャパシタCa1,Ca2の共通接続点を主変換器40のスイッチング素子S4U,S5Uの共通接続点に接続し、V相の電力変換器50VのDCキャパシタCa1,Ca2の共通接続点を主変換器40のスイッチング素子S4V,S5Vの共通接続点に接続し、W相の電力変換器50WのDCキャパシタCa1,Ca2の共通接続点を主変換器40のスイッチング素子S4W,S5Wの共通接続点に接続して構成されている。
【0071】
補助変換器50の電力変換器50Uのスイッチング素子S1,S2の共通接続点をU相出力端aとし、電力変換器50Vのスイッチング素子S1,S2の共通接続点をV相出力端bとし、電力変換器50Wのスイッチング素子S1,S2の共通接続点をW相出力端cとしている。
【0072】
上記のように構成された装置において、コンデンサC1,C2,DCキャパシタCa1,Ca2は各々Vdc/2に制御される。
【0073】
主変換器40は、2レベル出力電圧−Vdc/2、+Vdc/2を生成し、一方、補助変換器50は、3レベル出力電圧−Vdc/2、0、+Vdc/2を生成する。従って、変換器全体の出力電圧は、主および補助変換器両方の出力の統合となり、中性点NPを基準に、Vdc、Vdc/2、0、−Vdc/2、−Vdcの5レベルの電圧となる。
【0074】
図3の装置では、補助変換器50だけが高スイッチング周波数で動作し、一方、主変換器40は、出力電圧の周波数と同じ周波数で動作するので、補助変換器50のスイッチング電力損を低減するためにスイッチング回数の多い補助変換器50にのみZCT制御方法を適用する。
【0075】
すなわち、各相の電力変換器50U,50V,50Wのスイッチング素子S1,S2,S21,S22のスイッチング時に、後述するZCT制御方法によりスイッチング素子Saを制御することにより、負荷電流をゼロ電流移行回路側に移行させてゼロ電流スイッチングが実行される。
【0076】
尚、前記補助変換器50の各相の電力変換器50U,50V,50Wは、各々図1の3レベル電力変換器を用いてもよい。すなわち、図3のDCキャパシタCa1,Ca2の代わりに図1の直流電源21,22を用いて構成してもよい。
【0077】
また、補助変換器50における各相の電力変換器50U,50V,50Wの直列数をN直列(N≧2)とすることで、変換器全体の出力電圧のレベル数を5レベルからさらに上げる3相直流交流変換器を実現できる。その構成を図4に示す。
【0078】
図4は本実施例による多レベルハイブリッドインバータを示し、主変換器40にカスケード接続される補助変換器60を、図1の回路構成の3レベル電力変換器を各相毎にN段多重に接続する構成とした。
【0079】
すなわち、主変換器40は図3と同一に構成し、主変換器40のU相出力端であるスイッチング素子S4U,S5Uの共通接続点には、図1の3レベル電力変換器と同一に構成された3レベル電力変換器60U1〜60Unが順次直列に接続されている。
【0080】
主変換器40のV相出力端であるスイッチング素子S4V,S5Vの共通接続点には、図1の3レベル電力変換器と同一に構成された3レベル電力変換器60V1〜60Vnが順次直列に接続されている。
【0081】
主変換器40のW相出力端であるスイッチング素子S4W,S5Wの共通接続点には、図1の3レベル電力変換器と同一に構成された3レベル電力変換器60W1〜60Wnが順次直列に接続されている。
【0082】
図4における、前記補助変換器60の3レベル電力変換器のN段多重の具体的接続状態は次のとおりである。
【0083】
すなわち、U相側であれば、初段の3レベル電力変換器60U1の直流電源21,22の共通接続点を、主変換器40のスイッチング素子S4U,S5Uの共通接続点に接続し、初段の3レベル電力変換器60U1のスイッチング素子S1,S2の共通接続点を次段の3レベル電力変換器60U2の直流電源21,22の共通接続点に接続し、次段の3レベル電力変換器60U2のスイッチング素子S1,S2の共通接続点を次々段の3レベル電力変換器60U3の直流電源21,22の共通接続点へとN個分順次接続し、最終段の3レベル電力変換器の60Unのスイッチング素子S1,S2の共通接続点をU相(a相)出力端としている。
【0084】
V相の3レベル電力変換器60V1〜60Vn、W相の3レベル電力変換器60W1〜60Wnも同様に接続されている。
【0085】
上記のように構成された多レベルハイブリッドインバータの各スイッチング素子をON/OFF制御することにより、中性点NPを基準として、5レベルよりも多レベルの電圧を出力することができる。
【0086】
例として、直列数N=2の構成のレベル数を説明する。a相(U相)について、主変換器40側の3レベル電力変換器60U1の直流電源21と22の電圧を共にVdc/2に制御し、a端子側の3レベル電力変換器60U2の直流電源21と22の電圧を共にVdc/2に制御すると、a端子とNP端子間の電圧レベルは、各スイッチング素子のON/OFF動作によって、3Vdc/2,Vdc,Vdc/2,0,−Vdc/2,−Vdc,−3Vdc/2の7レベルとなる。他のb相(V相)、c相(W相)も同様となる。
【0087】
尚、補助変換器60の各相の3レベル電力変換器60U1〜60Un、60V1〜60Vn、60W1〜60Wnは、図1の回路構成に代えて、図3の電力変換器50U,50V,50W(DCキャパシタCa1,Ca2を用いる回路)を用いて構成してもよい。
【実施例3】
【0088】
図5は本実施例3による3相7レベル電力変換装置(3相7レベルハイブリッド変換器)を示し、T型3レベル電力変換器を3相分設けた主変換器70と、ZCT制御が実施されるT型3レベル電力変換器を3相分設けた補助変換器80とを備えて構成されている。
【0089】
図5において図3と同一部分は同一符号をもって示している。
【0090】
主変換器70の直流電源23(第3の直流電源)の正、負極端間には、第1および第2のコンデンサC1,C2が直列に接続されている。直流電源23の正、負極端間にはさらに、スイッチング素子S4U,S5Uの直列回路と、スイッチング素子S4V,S5Vの直列回路と、スイッチング素子S4W,S5Wの直列回路とが並列に接続されている。
【0091】
前記第1および第2のコンデンサC1およびC2の共通接続点を中性点NPとしている。
【0092】
前記中性点NPとスイッチング素子S4UおよびS5Uの共通接続点との間には、互いに逆の方向に制御できるスイッチング素子S11,S12が逆方向に直列接続されている。
【0093】
このスイッチング素子S11,S12の直列回路は、互いに逆の耐圧方向に制御できる双方向スイッチング手段の一例として構成されるものである。これに限らない構成でもよい。他の構成の一例が、スイッチング素子S11とS12を逆並列接続する構成である。
【0094】
前記中性点NPとスイッチング素子S4VおよびS5Vの共通接続点との間、前記中性点NPとスイッチング素子S4WおよびS5Wの共通接続点との間にも、同様に互いに逆の方向に制御できるスイッチング素子S11,S12が逆方向に各々直列接続されている。
【0095】
前記スイッチング素子S4U,S5U,S11,S12によってU相の電力変換器70Uを構成し、スイッチング素子S4V,S5V,S11,S12によってV相の電力変換器70Vを構成し、スイッチング素子S4W,S5W,S11,S12によってW相の電力変換器70Wを構成している。尚、主変換器70のコンデンサC1,C2は各々Vdc/2に制御される。
【0096】
補助変換器80は、図3の補助変換器50の各電力変換器50U,50V,50Wと同様に構成された電力変換器80U,80V,80Wを備えているが、各電力変換器の第1および第2のDCキャパシタCa1,Ca2の電圧はVdc/4に各々制御されるものである。
【0097】
そして、各電力変換器80U,80V,80WのDCキャパシタCa1,Ca2の共通接続点は、主変換器70の電力変換器70U,70V,70Wの各スイッチング素子S4,S5の共通接続点に各々接続されている。
【0098】
この実施例3では、主および補助変換器両方が、T型3レベル回路構成であるが、異なる電圧レベルを有しており、例えば、3レベルの電圧は、主変換器70からは、vdc/2、0、−vdc/2であり、補助変換器80からは、vdc/4、0、−vdc/4である。これによって、変換器全体の出力電圧は、中性点NPを基準に、3vdc/4、vdc/2、vdc/4、0、−vdc/4、−vdc/2、−3vdc/4の7レベルの電圧となる。
【0099】
実施例2と同様に、補助変換器80が高スイッチング周波数で動作する際に、スイッチング電力損を低減するために補助変換器80にのみZCT制御方法を適用する。
【0100】
尚、前記補助変換器80の各相の電力変換器80U,80V,80WのDCキャパシタCa1,Ca2の代わりに、図1の直流電源21,22を用いて構成してもよい。
【0101】
また、3相各相の補助変換器80の直列数をN直列(N≧2)とすることで、変換器全体の出力電圧のレベル数を7レベルからさらに上げる3相直流交流変換器を実現できる。
【0102】
すなわち、主変換器70のU相出力端であるスイッチング素子S4U,S5Uの共通接続点に補助変換器80の電力変換器80Uを図4と同様にN個直列に接続し、V相出力端であるスイッチング素子S4V,S5Vの共通接続点に補助変換器80の電力変換器80Vを図4と同様にN個直列に接続し、W相出力端であるスイッチング素子S4W,S5Wの共通接続点に補助変換器80の電力変換器80Wを図4と同様にN個直列に接続して構成するものである。
【0103】
例として、直列数N=2の構成のレベル数を説明する。すべての補助変換器80のDCキャパシタCa1とCa2の電圧を共にVdc/4に制御すると、3相変換器の各相の出力端子(a,b,c)と中性点NP端子間の電圧レベルは、各スイッチング素子のON/OFF動作によって、Vdc,3Vdc/4,Vdc/2,Vdc/4,0,−Vdc/4,−Vdc/2,−3Vdc/4,−Vdcの9レベルとなる。
【実施例4】
【0104】
図6は本実施例4による3相7レベル電力変換装置を示し、図2の3相3レベル電力変換器と同様に構成された主変換器90と、図5と同一の補助変換器80とを備えている。
【0105】
主変換器90は、直流電源21,22と、図2の電力変換器30U,30V,30Wと同様であり且つ各スイッチング素子S21,S22を、同様の動作を行うスイッチング素子S31,S32に置換えて構成した電力変換器90U,90V,90Wとを備えている。
【0106】
主変換器90の、各相の電力変換器90U,90V,90Wのスイッチング素子S1およびS2の共通接続点は、補助変換器80の各相の電力変換器80U,80V,80WのDCキャパシタCa1およびCa2の共通接続点に各々接続されている。
【0107】
主変換器90の直流電源21,22はVdc/2に制御し、補助変換器80のDCキャパシタCa1,Ca2はVdc/4に制御する。
【0108】
この実施例4では、主および補助変換器両方が、T型3レベル回路構成であるが、異なる電圧レベルを有しており、例えば、3レベルの電圧は、主変換器90からは、vdc/2、0、−vdc/2であり、補助変換器80からは、vdc/4、0、−vdc/4である。これによって、変換器全体の出力電圧は、中性点NPを基準に、3vdc/4、vdc/2、vdc/4、0、−vdc/4、−vdc/2、−3vdc/4の7レベルの電圧となる。
【0109】
尚、前記補助変換器80の各相の電力変換器80U,80V,80WのDCキャパシタCa1,Ca2の代わりに、図1の直流電源21,22を用いて構成してもよい。
【0110】
また、3相各相の補助電力変換器80の直列数をN直列(N≧2)とすることで、変換器全体の出力電圧のレベル数を7レベルからさらに上げる3相直流交流変換器を実現できる。
【0111】
すなわち、主変換器90の電力変換器90Uのスイッチング素子S1,S2の共通接続点に補助変換器80の電力変換器80Uを図4と同様にN個直列に接続し、電力変換器90Vのスイッチング素子S1,S2の共通接続点に補助変換器80の電力変換器80Vを図4と同様にN個直列に接続し、電力変換器90Wのスイッチング素子S1,S2の共通接続点に補助変換器80の電力変換器80Wを図4と同様にN個直列に接続して構成するものである。
【0112】
このように補助変換器80の直列数をN直列とした場合のレベル数は実施例3と同様の関係となる。
【0113】
尚、実施例2、3、4における主変換器の構成は、図3図5図6の主変換器40、70、90に示す3相変換器以外の他の3相直流交流変換器を用いてもよい。
【0114】
<本実施形態例の動作・作用>
次に本実施形態例の動作および作用を説明する。ここでは、実施例1〜4の回路に共通して用いられているゼロ電流移行回路(共振回路25、スイッチング素子Sa、クランプダイオードDa)を有した図1の電力変換器を中心に説明する。
【0115】
図1の回路の動作時の、負荷電圧および負荷電流の方向に基づいて定義した4つのゾーン(Zone1〜4)における電圧、電流波形を図7に示す。
【0116】
・ゾーン1: 電圧が正サイクルにあり、電流が負サイクルにある。
【0117】
・ゾーン2: 電圧が正サイクルにあり、電流が正サイクルにある。
【0118】
・ゾーン3: 電圧が負サイクルにあり、電流が正サイクルにある。
【0119】
・ゾーン4: 電圧が負サイクルにあり、電流が負サイクルにある。
【0120】
尚、ここでの負荷電圧は、図1のVo、すなわちOUT−NP端子間電圧に相当する。図1のVoは3レベルのパルス状の波形であるが、図7では各ゾーンの説明を分かりやすくするために、正弦波状に変形している。また、ここでの負荷電流は図1のIo、すなわちOUT端子から出力される電流に相当する。
【0121】
図1の回路がT型3レベル動作原理に従って図7のゾーン4で動作するときの電流経路を図8に示し、ZCT制御方法による各スイッチング素子の制御指令と電圧、電流波形を図9に示す。
【0122】
図8図1の回路を示し、負荷電流Ioの経路が図示破線の矢印のように、スイッチング素子S2とスイッチング素子S22の両方に分岐している状態を表している。
【0123】
図9において、C2はスイッチング素子S2の制御指令、Caはスイッチング素子Saの制御指令、C22はスイッチング素子S22の制御指令を各々示している。
【0124】
Is2はスイッチング素子S2(素子内のIGBT部とフリーホイールダイオード部の両方を含む)に流れる電流、Is22はスイッチング素子S22(素子内のIGBT部とフリーホイール部の両方を含む)に流れる電流、iaは共振回路25に流れる共振電流、IdaはクランプダイオードDaに流れる電流、VLはリアクトルLの印加電圧、VCはコンデンサCの印加電圧を各々示している。各電流の極性は図8の破線の矢印の向きを正とする。VL,VCの極性は図8の向きを正とする。
【0125】
このゾーン4の期間では、負荷電圧Vo≦0、負荷電流Io≦0の領域であるため、スイッチング素子S1の制御指令(C1)は常時OFF指令とし、また、スイッチング素子S21の制御指令(C21)は常時ON指令とする。
【0126】
まず時刻t0ではスイッチング素子S2の制御指令C2はON信号であり、スイッチング素子S22の制御指令C22はOFF信号である。時刻t0において、スイッチング素子S2がターンオフされる前に、スイッチング素子SaへのON制御指令が供給される(CaがONとなる)。VC≦0であるため、共振電流iaが増加し始め、Is2が減少し始める(尚、負荷電流の1周期と比較して図9のt0〜t8の期間は極めて短いため、負荷電流Ioは、図9の期間では定電流と見なす)。
【0127】
時刻t0〜t1期間中で且つIs2<0の期間中に制御指令C2をON指令→OFF指令に変える。
【0128】
時刻t1において、ia=Io、Is2=0となる。負荷電流の通流はZCT移行回路側に移行するので、スイッチング素子S2は、この時、ゼロ電流状態でターンオフされる。
【0129】
時刻t1〜t2の間、スイッチング素子S2,S22はオフにされ、負荷電流は、コンデンサCを充電してVCを上昇させる。
【0130】
時刻t2において、VC=Vd(Vdは、スイッチング素子S22のフリーホイールダイオードの導通時のオン電圧である)となり、スイッチング素子S22のフリーホイールダイオードに電流が流れる。LC共振回路の特性により、VCは増加し、共振電流iaは減少し、やがてia=0となる。
【0131】
時刻t2〜t3の期間中で且つia<0の期間中に制御指令CaをON指令→OFF指令に変え、またCaのOFF後に制御指令C22をOFF指令→ON指令に変える。
【0132】
時刻t3において、ia=0となり、スイッチング素子Saはゼロ電流状態でターンオフされ、また、|Is22|=|Io|となり、電流Ioはスイッチング素子S22側へ通流経路が移行する。
【0133】
同様の状態がVCの電圧が低く、スイッチング素子S22のフリーホイールダイオードが導通しない時刻t4〜t8の期間で生じる。
【0134】
時刻t4では、制御指令C2とC22はOFF指令であり、CaがOFF指令→ON指令に切り替わる。
【0135】
時刻t5において、Is22=0、ia=Ioとなるため、スイッチング素子S22はゼロ電流状態でオフされ、一方、時刻t6〜t7期間中で且つia<0期間中に制御指令CaがON指令→OFF指令に変更されるため、時刻t7においてスイッチング素子Saもオフされる。
【0136】
このため、ZCT移行回路側のコンデンサCおよびスイッチング素子Saに電圧が印加されるが、しかし、例えば、時刻t7においてVc<−Eとなろうとしても、クランプダイオードDaが導通して電圧はVc>−Eにクランピングされる。それによって、コンデンサCおよびスイッチング素子Saの印加電圧を一定範囲内に抑制する。
【0137】
同じ動作原理によって、ZCT移行回路側のスイッチング素子Saが制御されると、他のゾーン(ゾーン1〜3)においてもゼロ電流ターンオフが実現可能である。従って、全てのスイッチング素子をゼロ電流スイッチオフとすることができる。
【0138】
また、負荷電流Ioは、主スイッチング素子S2,S22のON時には、ZCT移行回路側にも流れるため緩やかに増加させることができ、これによってターンオン損失も低減される。
【0139】
すなわち、正弦負荷電流Ioは、主スイッチング素子のON/OFF期間にZCT移行回路側へ流れ、ZCT移行回路のリアクトルLは、急な電流変化を制限し、ターンオンをするスイッチング素子の電流は、ゼロから緩やかに増加する。図9の例では、スイッチング素子S2の制御指令C2がローからハイに変化する時刻t6において、スイッチング素子S2の電流Is2がゼロから緩やかに増加することが示されている。
【0140】
<本実施形態例の効果と従来の回路との比較>
(1)補助構成要素の低減
図13に示す3相3レベルANPC変換器において提案されている既存のゼロ電流スイッチング方法に比較すると、本実施形態例では、図2に示すように3相3レベルシステムのために3つの補助スイッチ(スイッチング素子Sa)しか必要としない。
【0141】
従来方式の図13の3相3レベル変換器では24個のスイッチング素子が必要であるが、本発明の図2の3相3レベル変換器では15個のスイッチング素子でよい。このようにスイッチング素子数の低減は、それを駆動するためのゲートドライブ回路数の低減にもつながるため、変換器全体の小型化と低コストにおいて大きな効果がある。
【0142】
(2)損失の低減
本発明は、前述したとおり、
a.補助スイッチ(スイッチング素子Sa)を含むすべてのスイッチング素子を、ゼロ電流ターンオフとすることができ、
b.急激な電流上昇を抑制してターンオン損失を低減することができる
という動作・作用を有するため、ゼロ電流スイッチングを行わない変換器に対しては、図13図14と同様にスイッチング損失を低減できる効果を有する。
【0143】
また、スイッチング素子の導通数について、図13図2の回路を比較する。図13では、例えばa相にVdc/2を出力するときはQA1とQA2の2つのスイッチング素子を常時導通している。
【0144】
一方、図2では、例えばU相にE/2を出力するときは、常時導通するのは1個のスイッチング素子S1のみである。この導通スイッチング素子数の関係は、図13において−Vdc/2(図2では−E/2)を出力する場合も同様である。
【0145】
したがって、本発明の図2の回路は従来の図13の回路と比べて、E/2又は−E/2を出力するときのスイッチング素子の導通損失を低減させることができる。力率が高い負荷の場合は、出力がE/2又は−E/2のときに負荷電流Ioの瞬時値の絶対値が大きくなる傾向があるため、1スイッチング素子あたりの導通損失は大きくなる。したがって導通スイッチング素子数の少ない図2の構成は、変換器全体の導通損失の低減に大きな効果をもたらす。さらにこのことは、変換器全体の損失の低減(各スイッチング素子の導通損失とスイッチング損失の総和)、ひいては変換器の効率向上に寄与する。
【0146】
尚、2レベル変換器ではあるが従来の図12の回路も、U相にVdc/2を出力する時に、Sc(又はDc)とS1u(又はD1u)の2つのスイッチング素子の導通を必要とする。
【0147】
(3)主スイッチング素子用の特別なPWMスイッチングパターンを必要としない。
【0148】
図14に示す単相3レベルインバータのために提案されている既存のゼロ電流スイッチング方法と比較すると、本発明のZCT制御方法を実施する際は、主スイッチング素子(図1ではS1,S2,S21,S22)のPWMスイッチングパターンは、LC共振回路25やスイッチング素子Sa、クランプダイオードDaを具備しない従来のT型回路構成インバータのPWMスイッチングパターンをそのまま適用できる。そのため、制御構成は複雑でない。
【0149】
従って、本発明のZCT制御方法は、高効率の3レベルセルとしてT型回路構成を用いて作動でき、単相または3相システムにおいて適用される任意の他のカスケードマルチレベル変換器において容易に実施されることができる。この点が、特別なPWM方式により制御を行う必要がある図14に示す回路構成と比べて優位な点である。
【0150】
上述した(1)〜(3)の全ての効果を有する本発明は、複雑な制御方法を用いることなく、小型・低コストで且つ損失の低い3レベルのZCT3相電力変換装置を実現できる。
【0151】
また、図3図5のように補助変換器に図1の回路を適用することにより、出力相電圧レベルが5レベル以上の電力変換器にも応用できる。
【符号の説明】
【0152】
21、22、23…直流電源
25…共振回路
30U,30V,30W,50U,50V,50W,60U1〜60Un,60V1〜60Vn,60W1〜60Wn,70U,70V,70W,80U,80V,80W,90U,90V,90W…電力変換器
40,70,90…主変換器
50,60,80…補助変換器
C,C1,C2…コンデンサ
Ca1,Ca2…DCキャパシタ
Da…クランプダイオード
L…リアクトル
S1,S2,S4U〜S4W,S5U〜S5W,S11,S12,S21,S22,S31,S32,Sa…スイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14