(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記の(A)〜(C)成分を含有し、その硬化物のJIS K6850に準拠して測定される銅板とアクリル板の重ね合わせ引張せん断強度が0.5MPa以上であることを特徴とする光硬化性組成物の硬化物により、端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部が覆われていることを特徴とする端子付き被覆電線。
(A)(メタ)アクリルモノマーおよび/または(メタ)アクリルオリゴマー
(B)水素引抜型光重合開始剤
(C)N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有する第3級アミン
前記端子金具の母材が銅または銅合金で構成され、前記被覆電線の電線導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成され、これらの電気接続部が異種金属接触部となることを特徴とする請求項1に記載の端子付き被覆電線。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動車等の車両の軽量化などを目的として、電線導体の材料にアルミニウムやアルミニウム合金を用いることが検討されている。一方、端子金具の材料には銅や銅合金が用いられることが多い。また、端子金具の表面にはスズめっきなどのめっきが施されることが多い。つまり、電線導体と端子金具の材質が異なる場合が生じる。電線導体と端子金具の材質が異なると、その電気接続部で異種金属接触による腐食が発生する。このため、電気接続部を確実に防食することが求められる。
【0005】
従来より使用されているグリースは、コネクタ内に密に注入しないと水の浸入を十分に防止することができない。防食効果を高めようとしてグリースの充填量を上げようとすると、本来防食の必要がない部分にまでグリースが塗布されてしまうことになる。さらに、過度の充填は、コネクタや電線のベタつきを招き、取り扱い性を低下させる。
【0006】
そこで、グリースに代わる防食剤として樹脂を用いることが考えられる。樹脂としてラジカル反応型の紫外線硬化性樹脂を用いた場合、大気に触れる被膜表面では酸素による反応阻害を受けやすく、被膜表面の樹脂が十分に硬化しないおそれがある。この状態のまま、電線導体に接続した端子金具をコネクタハウジングに挿入すると、十分に硬化していない被膜表面がコネクタハウジングの内面に接触する。そして、配索場所で発生する熱などの影響により被膜表面が乾燥し、被膜表面の硬化が進むと、被膜表面がコネクタハウジングの内面と接着する。そうすると、リペアなどで電線導体に接続した端子金具をコネクタハウジングから引き抜いた際に樹脂の被膜が電線導体と端子金具の電気接続部から剥がれ、その防食機能を失うおそれがある。非酸素下で紫外線硬化性樹脂の硬化反応を行うには、そのための設備の追加が必要であり、大気下でも酸素による反応阻害を受けにくく、被膜表面の樹脂も十分に硬化できる対策が求められる。
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、大気下でも酸素による反応阻害を受けにくく、被膜表面の樹脂も十分に硬化できるとともに防食性能にも優れる光硬化性組成物およびこれを用いた端子付き被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る光硬化性組成物は、下記の(A)〜(C)成分を含有し、その硬化物のJIS K6850に準拠して測定される銅板とアクリル板の重ね合わせ引張せん断強度が0.5MPa以上であることを要旨とするものである。
(A)(メタ)アクリルモノマーおよび/または(メタ)アクリルオリゴマー
(B)水素引抜型光重合開始剤
(C)N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有する第3級アミン
【0009】
前記(B)成分としては、ベンゾフェノン類またはチオキサントン類が挙げられる。また、前記(C)成分としては、N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有する第3級アルキルアミンが挙げられる。
【0010】
前記(C)成分の含有量は、前記(A)100質量部に対し、0.5〜6質量部の範囲内であることが好ましい。
【0011】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線は、上記の光硬化性組成物の硬化物により、端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部が覆われていることを要旨とするものである。
【0012】
この場合、前記端子金具の母材は銅または銅合金で構成され、前記被覆電線の電線導体はアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成され、これらの電気接続部が異種金属接触部となることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光硬化性組成物によれば、(A)(メタ)アクリルモノマーおよび/または(メタ)アクリルオリゴマーおよび(B)水素引抜型光重合開始剤を含有する光硬化性組成物において、さらに(C)N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有する第3級アミンを含有することにより、大気下でも酸素による反応阻害を受けにくく、被膜表面の樹脂も十分に硬化できる。そして、その硬化物のJIS K6850に準拠して測定される銅板とアクリル板の重ね合わせ引張せん断強度が0.5MPa以上であることにより、被着材への接着性に優れ、防食剤としての防食性能を十分に発揮することができ、防食性能にも優れる。
【0014】
この場合、(C)成分の含有量が(A)100質量部に対し0.5〜6質量部の範囲内であると、反応阻害を抑える効果に優れるとともに、被着材への接着性の低下も抑えて、防食剤としての防食性能を十分に発揮することができる。
【0015】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線によれば、上記の光硬化性組成物の硬化物により端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部が覆われており、被膜表面の樹脂も十分に硬化しているため、電線導体に接続した端子金具をコネクタハウジングに挿入した際の、被膜表面がコネクタハウジングの内面と接着する問題は起こらず、その後、リペアなどで電線導体に接続した端子金具をコネクタハウジングから引き抜いても、樹脂の被膜が電線導体と端子金具の電気接続部から剥がれるおそれがない。これにより、防食機能を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る光硬化性組成物は、下記の(A)〜(C)成分を含有する。
(A)(メタ)アクリルモノマーおよび/または(メタ)アクリルオリゴマー
(B)水素引抜型光重合開始剤
(C)N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有する第3級アミン
そして、本発明に係る光硬化性組成物は、その硬化物のJIS K6850に準拠して測定される銅板とアクリル板の重ね合わせ引張せん断強度が0.5MPa以上である。
【0019】
(A)成分は、(メタ)アクリルモノマーおよび/または(メタ)アクリルオリゴマーである。(A)成分は、(メタ)アクリル基を有するため、金属との密着性が高い。したがって、端子金具や電線導体との密着性に優れる。このため、端子金具や電線導体との密着性を確保することができる。
【0020】
(A)成分は、25℃で液状であることが好ましい。25℃で液状であると、電線導体の表面や絶縁被覆の表面、端子金具の表面に組成物を塗布しやすくする。また、電線導体の素線間や電線導体と端子金具の間、電線導体と絶縁被覆の間などに組成物を浸透しやすくする。このため、組成物の施工性、防食性を高めることができる。(A)成分は、25℃で液状であるため、室温で組成物を塗布可能にすることができる。このため、加熱することなく組成物を塗布することを可能にする。ただし、組成物は、加熱することなく塗布してもよいし、加熱して粘度を調整して塗布してもよいし、適度な溶媒に溶解させて塗布してもよい。
【0021】
また、(A)成分は、(メタ)アクリルモノマーまたは(メタ)アクリルオリゴマーであり、(B)成分と併用されるため、塗布後に組成物を硬化させることができる。このため、組成物の塗布性と形状安定性を両立することができる。
【0022】
(メタ)アクリルモノマーは、モノ(メタ)アクリレートであってもよいし、ポリ(メタ)アクリレートであってもよい。また、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0023】
モノ(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレートなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ポリ(メタ)アクリレートとしては、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンポリオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンポリオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのEO付加物又はPO付加物のポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラフルフリルアルコールオリゴ(メタ)アクリレート、エチルカルビトールオリゴ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンオリゴ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールオリゴ(メタ)アクリレート、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート、(ポリ)ブタジエン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(B)成分は、(A)成分の重合開始剤である。(B)成分は、紫外線等の光で(A)成分を硬化させる光重合開始剤である。光重合開始剤のなかでも、水素引抜型の光重合開始剤である。水素引抜型の光重合開始剤は、他の分子から水素を引き抜く形でラジカルを生成する光重合開始剤である。
【0026】
水素引抜型の光重合開始剤としては、ベンゾフェノン類、チオキサントン類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0027】
ベンゾフェノン類の化合物としては、ベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4‘−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0028】
チオキサントン類の化合物としては、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0029】
水素引抜型の光重合開始剤としては、このほかにも、ベンジル、O−ベンゾイル安息香酸メチル、3−ケトクマリン、2−エチルアントラキノン、カンファーキノン、ミヒラーケトンなどが挙げられる。
【0030】
(B)成分の含有量は、特に限定されるものではないが、組成物の硬化性などの観点から、0.001〜10質量%の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.01〜10質量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜5質量%の範囲内である。
【0031】
(C)成分は、N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有する第3級アミンである。(B)成分である水素引抜型光重合開始剤はラジカルを生成する光重合開始剤であり、(A)成分はこれによりラジカル重合する。しかし、酸素の存在下でこの反応を行うと、(B)成分から発生した開始剤のラジカルに酸素が反応し、反応性の低い開始剤のパーオキシラジカルが発生する。そうすると、(A)成分のラジカル重合反応が阻害される。被膜表面は大気中において酸素に触れる部分であり、被膜表面において(A)成分のラジカル重合反応が阻害される。そうすると、被膜表面において硬化が不十分となる。
【0032】
しかし、(C)成分の第3級アミンは、N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有するため、紫外線などの光照射によりそのメチレン基またはメチン基の水素原子が引き抜かれる。これにより、(C)成分の第3級アミンのラジカルも発生する。つまり、光照射時には、(B)成分の開始剤のラジカルが発生するとともに(C)成分の第3級アミンのラジカルも発生する。この(C)成分の第3級アミンのラジカルに酸素が反応すると、(C)成分の第3級アミンのパーオキシラジカルが発生するが、(C)成分の第3級アミンのメチレン基またはメチン基の水素原子は非常に引き抜かれやすいため、この(C)成分の第3級アミンのパーオキシラジカルあるいは開始剤のパーオキシラジカルに引き抜かれ、反応性の高い(C)成分の第3級アミンのラジカルが発生し、これにより重合反応を促進する。これにより、大気下でも酸素による反応阻害を受けにくく、被膜表面の樹脂も十分に硬化できるものと推察される。
【0033】
(C)成分としては、N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有する第3級アミンであれば特に限定されるものではないが、N原子に結合するメチレン基またはメチン基を有する第3級アルキルアミンが好ましい。(C)成分としては、具体的には、ジメチルオクチルアミンなどが挙げられる。
【0034】
(C)成分の含有量は、反応阻害を抑える効果に優れるなどの観点から、(A)100質量部に対し0.5質量部以上であることが好ましい。また、例えば(A)成分による端子金具や電線導体などの金属への密着性、接着性を維持するなどの観点から、(C)成分の含有量は、(A)100質量部に対し6質量部以下であることが好ましい。(A)成分による端子金具や電線導体などの金属への密着性、接着性を維持することで、被着材への接着性の低下を抑えて、防食剤としての防食性能を十分に発揮することができる。
【0035】
なお、本発明に係る光硬化性組成物は、本発明を阻害しない範囲で、添加剤を含有していてもよい。
【0036】
本発明に係る光硬化性組成物は、酸素による重合阻害の影響を抑える用途において有効に用いることができる。そして、本発明に係る光硬化性組成物は、端子付き被覆電線の防食剤として好適に用いることができる。
【0037】
以下に、本発明に係る端子付き被覆電線について詳細に説明する。
【0038】
図1は本発明の端子付き被覆電線の一例を示す外観斜視図であり、
図2は
図1におけるA−A線縦断面図である。
図1および
図2に示すように、本発明の端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0039】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。
【0040】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0041】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が防食剤7により覆われている。なお、
図1の電気接続部6は、防食剤7を透視した状態で示している。防食剤7は、絶縁被覆4から露出した電線導体3、端子金具5の露出した電線導体3に接触している部分、その接触部などに外部から塩水が浸入して金属部分が腐食するのを防止する。
【0042】
防食剤7は、本発明に係る光硬化性組成物の硬化物からなる。本発明に係る光硬化性組成物の硬化物は、表面の樹脂も十分に硬化している。このため、端子付き被覆電線1の端子金具5をコネクタハウジングに挿入した際の、被膜表面(防食剤7の表面)がコネクタハウジングの内面と接着する問題は起こらず、その後、リペアなどで端子付き被覆電線1の端子金具5をコネクタハウジングから引き抜いても、防食剤7が電線導体3と端子金具5の電気接続部6から剥がれるおそれがない。これにより、防食機能を維持することができる。
【0043】
防食剤7は、端子付き被覆電線1の軸方向については、絶縁被覆4から露出する電線導体3の先端より先の端子金具5の表面から、絶縁被覆4から露出する電線導体3より後の絶縁被覆4の表面を加締めているインシュレーションバレル53よりもさらに後の絶縁被覆4の表面までの範囲を連続して覆っている。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側にはみ出すように防食剤7で覆われている。端子金具5の後端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側にはみ出すように防食剤7で覆われている。そして、端子付き被覆電線1の周方向については、端子金具5の一方の側面5bから他方の側面5bまでワイヤバレル52およびインシュレーションバレル53の表面を含む範囲を連続して防食剤7が覆っている。また、インシュレーションバレル53の後端5a側の端部と隣接する絶縁被覆4の表面は全周にわたって防食剤7で覆われ、端子金具5の後端5a側の端面も露出しないようにされている。なお、端子金具5の裏面5cは防食剤7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。
【0044】
防食剤7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分(3方)と、絶縁被覆4の表面に接触する部分(1方)と、から構成される。防食剤7の周端の大部分は端子金具5の表面に接触している。防食剤7の周端のうち金属と接触する部分は、すべて端子金具5の表面に接触する部分となっている。防食剤7の周端を経由して浸入する塩水は、端子金具5の表面と防食剤7との間か、絶縁被覆4の表面と防食剤7との間を経由する。
【0045】
防食剤7は、端子金具5との接着性に優れることが好ましい。したがって、防食剤7は、JIS K6850に準拠して測定される銅板とアクリル板の重ね合わせ引張せん断強度が0.5MPa以上であることが好ましい。より好ましくは1.0MPa以上、さらに好ましくは1.5MPa以上である。なお、JIS K6850(「接着剤−剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法」)は、標準試験片を用いて、規定した調整及び試験条件下における、剛性被着材相互の接着接合物の重ね合わせ引張せん断強さを測定する方法について規定している。本願では、剛性被着材として銅板とアクリル板を用い、銅板とアクリル板に挟持される接着層として防食剤7を用い、試験片を作製することになる。
【0046】
防食剤7は、塗布後の被膜の厚みが0.01〜0.1mmの範囲となるように塗布するのが好ましい。防食剤7の厚みが厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入し難くなる恐れがある。また防食剤7の厚みが薄くなりすぎると防食性能が不十分となる恐れがある。
【0047】
防食剤7の塗布は、滴下法、塗布法、押し出し法等の公知の手段を用いることができる。また防食剤7の塗布の際、防食剤7を加熱、冷却等により温度調節してもよい。また、防食剤7の浸透性(塗布性)を高めるため、塗布する際には防食剤7を溶剤で希釈して液状にしてもよい。
【0048】
以下、端子付き被覆電線1の各部について説明する。
【0049】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0050】
上記電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。
【0051】
絶縁体4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁体4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0052】
端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0053】
端子金具5と電線導体3の組み合わせとしては、端子金具5の母材が銅または銅合金で構成され、電線導体3がアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されることが接続信頼性の観点で好ましい。この場合、これらの電気接続部6は、異種金属接触部となる。
【0054】
なお、
図1に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【0055】
また、インシュレーションバレル53による絶縁被覆4との気密性、水密性が十分に確保されるのであれば、防食剤7で覆う範囲としては、端子金具5の後端5a側はインシュレーションバレル53の上までであってもよい。この場合には、防食剤7の周端はすべて端子金具5の表面に接することとなる。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0057】
(供試材料)
・イソボルニルアクリレート:共栄化学社製「ライトアクリレートIB−XA」
・ラウリルアクリレート:共栄化学社製「ライトアクリレートL−A」
・チオキサントン系光開始剤:2−イソプロピルチオキサントン
・ベンゾフェノン系光開始剤:4−メチルベンゾフェノン
・第3級アミン:花王社製「ファーミンO」(ジメチルオクチルアミン)
【0058】
(実施例1〜4、比較例2)
表1に記載の配合となるように(メタ)アクリレートモノマーと水素引抜型光重合開始剤としてのチオキサントン系光開始剤と特定の第3級アミンとを混合することにより光硬化性組成物を調製した。
【0059】
(比較例1)
特定の第3級アミンを配合しなかった以外は実施例1〜4と同様にして光硬化性組成物を調製した。
【0060】
(実施例5〜8、比較例4)
表1に記載の配合となるように(メタ)アクリレートモノマーと水素引抜型光重合開始剤としてのベンゾフェノン系光開始剤と特定の第3級アミンとを混合することにより光硬化性組成物を調製した。
【0061】
(比較例3)
特定の第3級アミンを配合しなかった以外は実施例5〜8と同様にして光硬化性組成物を調製した。
【0062】
(対コネクタ接着強度の測定)
図3(a)に示すように、25mm×100mm×2mmtのポリブチレンテレフタレート(PBT)のシート21の端に25mm×12.5mm×1mmtとなるように光硬化性組成物を塗布し、3J/cm
2のUV光(水銀キセノンランプ)を照射して硬化させた。このとき、硬化被膜の表面が平らになるように硬化させた。これにより、硬化被膜22を形成した。この硬化被膜22の上にPBTシート21と同じ寸法のPBTシート23を
図3(b)に示すように重ね、硬化被膜22の表面とPBTシート23が接触している部分に上から50gの荷重を載せ、120℃で120時間放置した。荷重を取り外し、室温まで冷ました後、PBTシート21とPBTシート23を反対方向に引っ張り、せん断接着試験を行い、接着強度を測定した。引張速度は1mm/分とした。PBTはコネクタハウジングの材料としてよく用いられる材料であり、端子金具と電線導体の電気接続部に塗布した防食剤がコネクタハウジングに張り付いても防食剤が電気接続部から剥離しないでコネクタハウジングから端子付き被覆電線の端子金具を抜き出せる目安として、上記の接着強度が0.1MPa以下であることとした。
【0063】
(対端子金具接着強度の測定)
JIS K6850に準拠し、剛性被着材相互の接着接合物の重ね合わせ引張せん断強さを測定した。一方の剛性被着材に銅板を用い、他方の剛性被着材にアクリル板を用いた。
図3(b)に示すような配置とし、銅板21とアクリル板23の間に光硬化性組成物を配置し、アクリル板23の上から3J/cm
2のUV光(水銀キセノンランプ)を照射して光硬化性組成物を硬化させた。その後、銅板21とアクリル板23を反対方向に引っ張り、せん断接着試験を行い、接着強度を測定した。引張速度は1mm/分とした。
【0064】
(防食性能の評価)
図4に示すように、25mm×25mm×0.64mmtのSnメッキ銅板11を用意し、銅板11の表面中央に10mm×10mmの範囲でアルミニウムを蒸着し、アルミニウムよりなる蒸着膜12を形成した。この蒸着膜12を覆うように、蒸着膜12および蒸着膜12が形成されている銅板11の表面に防食剤を塗布して被膜13を形成した(膜厚50μm)。各防食剤につき5サンプル作製した。作製したサンプルについて、JIS C0023に準拠して塩水噴霧試験を96時間実施した。5サンプルのすべてにおいて蒸着膜12のアルミニウムが変色していないものを合格「○」とし、サンプルの1つでも蒸着膜12のアルミニウムが変色しているものを不合格「×」とした。なお、アルミニウムの変色は目視にて調べた。
【0065】
【表1】
【0066】
特定の第3級アミンを配合していない比較例1,3では、硬化被膜22とPBTシート23の接着強度が高く、硬化被膜22の表面の硬化が不十分であることがわかる。そして、比較例2,4では、硬化被膜22と銅板21の接着強度が低く、防食性能に劣ることがわかる。一方、実施例1〜4、5〜8では、硬化被膜22とPBTシート23の接着強度が低く、硬化被膜22の表面の硬化が十分であることがわかる。また、実施例1〜4、5〜8では、硬化被膜22と銅板21の接着強度が高く、優れた防食機能を維持していることもわかる。そして、塩水噴霧試験によれば、これらの実施例において防食性能に優れることが確認できた。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。