(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
動力源としてディーゼルエンジン(内燃機関)を搭載している車両は、その排気経路上に排気ガス中に含まれている粒子状物質であるPM(Particulate Matter)を捕集するためのDPF(Diesel Particulate Filter)と呼ばれる粒子捕集フィルタを備えている。DPFに所定量以上の粒子状物質が堆積された場合は、DPFの目詰まりによる排圧上昇の問題を回避するために、DPF内の粒子状物質を燃焼焼却する、いわゆる「再生処理」が行われる。なお、再生処理では、下記の(1)〜(3)を行うことで、DPF内に堆積しているPMを燃焼焼却する。
(1)DPF内に堆積しているPMの燃焼焼却用に必要な排気ガスの流量を確保するために、内燃機関の最低回転数の底上げ(アイドル回転数UP)を行う。
(2)内燃機関の排気ガスの温度を意図的に高くして、DPFの上流に設けられた酸化触媒を活性化させるために、普段の燃料の噴射に対して、噴射のタイミングの遅延や噴射量の増量等を行う、特殊な燃焼モードへと移行する。
(3)エンジンから排出される排気ガスの排気経路中に設けた添加弁(酸化触媒の上流に設けた添加弁)から燃料を噴射し、DPF上流の酸化触媒(上記(2)で活性化させた酸化触媒)でこの燃料を燃焼(酸化)させ、酸化触媒の反応熱で高温となった排気ガスをDPFに導入する。
【0003】
また「再生処理」には、主に2通りの処理がある。1つは「手動再生」と呼ばれる処理で、もう1つは「自動再生」と呼ばれる処理である。内燃機関が運転されてDPFへのPMの堆積量が増加していくと、やがてPM堆積量は自動再生堆積範囲に達し、さらにPM堆積量が増加すると、PM堆積量は自動再生堆積範囲を超える。
【0004】
手動再生は、DPF内のPM堆積量が自動再生堆積範囲を超えている場合において、作業者の意思による所定の操作によって実行が開始される処理である。手動再生では、内燃機関の通常の使用は禁止されてDPF内のPMの燃焼焼却のみが行われる(作業車両の場合、手動再生の実行中は作業を行うことができない)。例えば内燃機関の制御装置は、DPF内のPM堆積量が自動再生堆積範囲を超えていると判定した場合、手動再生の実行を督促する表示手段等を表示させ、手動再生の実行を作業者に促す。作業者は、手動再生の督促を確認すると、作業車両を安全な場所に移動し、内燃機関をアイドリング状態にして所定の操作(手動再生ボタンの操作等)を行って、手動再生を開始させる。制御装置は、作業者からの所定の操作を認識すると、上記(1)〜(3)の内燃機関のアイドル回転数UP、燃焼モードの移行、添加弁からの燃料の噴射を行い、DPF内に堆積しているPMを燃焼焼却させる。
【0005】
自動再生は、DPF内のPM堆積量が自動再生堆積範囲内にある場合において、作業者の意思にかかわらず、自動的に実行が開始される処理である。自動再生では、内燃機関の使用と並行して、DPF内に堆積しているPMの燃焼焼却を自動的に行う(作業車両の場合、自動再生の実行中、作業者は、「一部の作業」を除いて内燃機関を使用して作業を行うことができる)。例えば内燃機関の制御装置は、DPFへのPM堆積量が自動再生堆積範囲内にあるとき、自動再生の実行条件が満足した場合に、作業者の意思にかかわらず自動再生を開始し、上記(1)〜(3)の内燃機関のアイドル回転数UP、燃焼モードの移行、添加弁からの燃料の噴射を行い、DPF内に堆積しているPMを燃焼焼却させる。
【0006】
例えば、特許文献1には、DPFの再生処理を行う作業車両の排気ガス浄化システムが開示されている。この排気ガス浄化システムでは、DPFに堆積するPMの量が所定量以上となると表示手段などにより作業者にDPFの再生処理の実行を促す。排気ガス浄化システムは、作業者が手動再生開始スイッチ等を操作し、エンジンコントロールダイヤルをローアイドル指令となるように操作し、かつゲートロックレバーをリモコン弁による制御パイロット圧の生成を不能とするように操作したときに、DPFの再生処理を開始するようにしている。なお、手動再生中であっても、作業者は、ゲートロックレバーを作業用の位置(第1位置)に操作することで、手動再生を強制的に終了させて作業を可能にすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようなDPFの再生処理(手動再生及び自動再生)は、再生処理が開始されてからDPFに堆積するPMが所定量以下となって再生処理が完了するまでに比較的長い時間を要す。特に、特許文献1のようにDPFの手動再生を行う場合には、その再生処理の実行中は作業車両による作業が全面的に禁止されるので、再生処理が終了するまでの待ち時間が、作業車両の運転者にとって大きな負担となる(作業効率が大きく低下する)。また、特許文献1に記載の排気ガス浄化システムでは、手動再生に対して作業を優先し、手動再生を中断させて作業を可能としているが、中断させた手動再生の処理は、作業の終了後、最初からやり直さなければならないので、作業車両の運転者にとって、負担が大きい。
【0009】
手動再生が必要となるまでDPF内にPMを堆積させてしまうと、手動再生によって作業効率が大きく低下してしまうので、これを回避できる自動再生は非常に有効な手段である。近年の内燃機関の制御装置には、上記の手動再生と自動再生の双方の機能が組み込まれており、自動再生をすることで手動再生の頻度を低下させて作業効率の低下を抑制している。しかし、自動再生が実行されると、作業者の意思にかかわらず自動的に内燃機関の最低回転数が底上げ(アイドル回転数UP)されるので、内燃機関の回転数を非常に低くしなければ実施できない作業(上記の「一部の作業」であり、以降では「低負荷作業」と記載する)を実行することができない。例えば作業車両がパワーショベルの場合、内燃機関の回転数を非常に低い回転数にして油圧の微調整を行いながら実行する先端刃具の交換作業等を行うことができない。自動再生が実行されると、作業者は、低負荷作業を除いた作業を行うことはできるが、低負荷作業については自動再生が終了するまで実行することができないので、作業効率が低下する場合がある。
【0010】
特許文献1のように、作業者の意思によって自動再生を中断する手段を用意することも考えられるが、作業者は低負荷作業が実行できない場合に、いちいち自動再生を中断させなければならないので、手間がかかる。そもそも、自動再生は作業者の意思で開始されていないので、作業者が低負荷作業を実行できない原因が自動再生であることに気付くことは困難である。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、内燃機関の排気ガス中の粒子状物質を捕集するDPFの自動再生の処理において、作業者が自動再生を意識することなく手間なく低負荷作業を実行することを可能として、作業者の意思によらないDPFの自動再生と、作業者の意思による作業と、を両立させ、作業効率の低下を抑制することができる、内燃機関のフィルタ再生制御システム及び内燃機関のフィルタ再生制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る内燃機関のフィルタ再生制御システム及び内燃機関のフィルタ再生制御方法は次の手段をとる。まず、本発明の第1の発明は、内燃機関と、前記内燃機関によって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油による油圧によって作動される作業機と、前記作業機を動作させるために操作される作業機操作部と、前記作業機操作部からの操作指示を有効とするか無効とするかを、切り替え可能な操作ロック部と、前記内燃機関からの排気ガス中に含まれている粒子状物質を捕集する粒子捕集フィルタと、前記粒子捕集フィルタに堆積する粒子状物質の堆積量を検知する堆積量検知部と、前記内燃機関から前記粒子捕集フィルタまでの排気経路に設けられた触媒と、前記内燃機関の目標回転数を指示する目標回転指示部と、前記粒子捕集フィルタに流入する前記排気ガスの温度を上昇させて前記粒子捕集フィルタに捕集された粒子状物質を燃焼焼却させるフィルタ再生処理を実行する再生処理実行部と、前記内燃機関及び前記再生処理実行部の動作を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置には、前記フィルタ再生処理の実行中における前記内燃機関の下限回転数として予め設定された再生用下限回転数が記憶されている。そして、前記制御装置は、前記堆積量検知部が検知する粒子状物質の堆積量が再生開始閾値を超えたと判定した場合、自動再生の実行を開始し、前記自動再生の実行中は、前記内燃機関から排出される排気ガスの温度を上昇させるフィルタ再生用燃焼モードにて前記内燃機関を制御し、前記目標回転指示部から指示された指示目標回転数が前記再生用下限回転数以上である場合、前記内燃機関の回転数を当該指示目標回転数に制御し、前記指示目標回転数が前記再生用下限回転数未満である場合、前記内燃機関の回転数を、前記操作ロック部の状態に応じて、前記指示目標回転数あるいは前記再生用下限回転数のいずれかに切り替えて制御し、前記触媒の温度に応じて、前記フィルタ再生処理が実行されるように前記再生処理実行部を制御する、内燃機関のフィルタ再生制御システムである。
【0013】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関のフィルタ再生制御システムであって、前記制御装置は、前記自動再生の実行中において、前記指示目標回転数が前記再生用下限回転数未満である際は、前記操作ロック部が前記作業機操作部からの操作指示を無効とする状態である場合、前記内燃機関の下限回転数を前記再生用下限回転数とし、前記操作ロック部が前記作業機操作部からの操作指示を有効とする状態である場合、前記内燃機関の下限回転数を前記指示目標回転数とする、内燃機関のフィルタ再生制御システムである。
【0014】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る内燃機関のフィルタ再生制御システムであって、前記再生処理実行部は、前記内燃機関から前記触媒までの排気経路に設けられた燃料添加弁を有する。そして、前記制御装置は、前記自動再生の実行中において、前記触媒の温度が触媒活性化温度以上であることを検出した場合は、前記排気経路を流れる排気ガス中に燃料を噴射するように前記燃料添加弁を制御し、前記触媒の温度が前記触媒活性化温度未満であることを検出した場合は、燃料の噴射を停止するように前記燃料添加弁を制御する、内燃機関のフィルタ再生制御システムである。
【0015】
次に、本発明の第4の発明は、内燃機関のフィルタ再生制御方法であって、内燃機関と、前記内燃機関によって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油による油圧によって作動される作業機と、前記作業機を動作させるために操作される作業機操作部と、前記作業機操作部からの操作指示を有効とするか無効とするかを、切り替え可能な操作ロック部と、前記内燃機関からの排気ガス中に含まれている粒子状物質を捕集する粒子捕集フィルタと、前記粒子捕集フィルタに堆積する粒子状物質の堆積量を検知する堆積量検知部と、前記内燃機関から前記粒子捕集フィルタまでの排気経路に設けられた触媒と、前記内燃機関の目標回転数を指示する目標回転指示部と、前記粒子捕集フィルタに流入する前記排気ガスの温度を上昇させて前記粒子捕集フィルタに捕集された粒子状物質を燃焼焼却させるフィルタ再生処理を実行する再生処理実行部と、前記内燃機関及び前記再生処理実行部の動作を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置には、前記フィルタ再生処理の実行中における前記内燃機関の下限回転数として予め設定された再生用下限回転数が記憶されている。そして、前記堆積量検知部が検知する粒子状物質の堆積量が再生開始閾値を超えた場合に、前記制御装置を用いて、前記内燃機関から排出される排気ガスの温度を上昇させるフィルタ再生用燃焼モードにて前記内燃機関を制御する、燃焼モード変更ステップと、前記制御装置を用いて、前記目標回転指示部から指示された指示目標回転数が前記再生用下限回転数以上である場合、前記内燃機関の回転数を当該指示目標回転数に制御し、前記指示目標回転数が前記再生用下限回転数未満である場合、前記内燃機関の回転数を、前記操作ロック部の状態に応じて、前記指示目標回転数あるいは前記再生用下限回転数のいずれかに切り替えて制御する、回転数切り替えステップと、前記制御装置を用いて、前記触媒の温度に応じて、前記フィルタ再生処理が実行されるように前記再生処理実行部を制御する、粒子状物質燃焼焼却ステップと、を有する、内燃機関のフィルタ再生制御方法である。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、制御装置は、粒子状物質の堆積量が再生開始閾値を超えると自動再生の実行を開始し、自動再生の実行中は、フィルタ再生用燃焼モードにて内燃機関を制御する。そして制御装置は、自動再生の実行中は、目標回転指示部から指示された指示目標回転数が、予め設定された再生用下限回転数未満である場合、内燃機関の回転数を、操作ロック部の状態に応じて、指示目標回転数あるいは再生用下限回転数のいずれかに切り替える。さらに制御装置は、自動再生の実行中は、触媒の温度に応じて再生処理実行部を制御する。従って、作業者は、自動再生の実行中に、内燃機関の回転数を、予め設定されている再生用下限回転数よりも低い回転数へと微調整することが可能であり、自動再生の実行中であっても、作業車両の先端刃具の交換作業等、油圧の微調整を必要とする作業(低負荷作業)を、適切に行うことが可能となる。また自動再生の実行中は、触媒の温度に応じて再生処理実行部を制御することで、粒子捕集フィルタ内に堆積している粒子状物質の燃焼焼却を、より適切に実行することができる。これにより、作業者が自動再生を意識することなく手間なく低負荷作業を実行することを可能として、作業者の意思によらないDPFの自動再生と、作業者の意思による作業と、を両立させ、作業効率の低下を抑制することができる。
【0017】
第2の発明では、自動再生の実行中において、指示目標回転数が再生用下限回転数未満である際は、操作ロック部の状態が作業機の操作指示を無効とする状態の場合では内燃機関の下限回転数を再生用下限回転数とする。また自動再生の実行中において、指示目標回転数が再生用下限回転数未満である際は、操作ロック部の状態が作業機の操作指示を有効とする状態の場合では内燃機関の下限回転数を指示目標回転数とする。従って、自動再生の実行中であっても、操作ロック部を作業機の操作指示を有効とする状態にすることで、内燃機関の下限回転数を、再生用下限回転数よりも低い指示目標回転数にすることが可能である。これにより、作業者は、自動再生を意識することなく手間なく低負荷作業を実行することが可能であり、作業者の意思によらないDPFの自動再生と、作業者の意思による作業と、を両立させることができる。
【0018】
第3の発明によれば、自動再生の実行中において、内燃機関の下限回転数を再生用下限回転数よりも低い回転数にしたことにより触媒の温度が下がって触媒が活性化されていない状況下では添加弁からの燃料の噴射を停止し、触媒が活性化された場合に添加弁から燃料を噴射する。従って、触媒の活性状態に応じて、適切にフィルタ内の粒子状物質の燃焼焼却(フィルタ再生処理)を行うことができる。
【0019】
第4の発明によれば、第1の発明と同様に、作業者が自動再生を意識することなく手間なく低負荷作業を実行することを可能として、作業者の意思によらないDPFの自動再生と、作業者の意思による作業と、を両立させ、作業効率の低下を抑制することができる、内燃機関のフィルタ再生制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
●[作業車両80の外観(
図1)]
以下、
図1に示すパワーショベルを作業車両(建設機械や産業車両を含む作業車両)の例として説明する。作業車両80は、クローラを有する下部走行体81、上部旋回体82、ブーム83、アーム84、バケット85等を有している。
【0022】
下部走行体81のクローラや上部旋回体82は、油圧モータ(図示省略)からの動力にて動作する。ブーム83は油圧シリンダ83Cにて動作し、アーム84は油圧シリンダ84Cにて動作し、バケット85は油圧シリンダ85Cにて動作する。作業者は、操縦席に設けられた作業機操作部を操作することで、下部走行体81のクローラを用いて走行したり、上部旋回体82を旋回させたり、ブーム83やアーム84やバケット85を動作させたりすることができる。なお、油圧によって作動する上記のクローラ、上部旋回体82、ブーム83、アーム84、バケット85は、作業機に相当している。
【0023】
●[作業車両制御システムの構成(
図2)]
図2は、
図1に示す作業車両80を制御している作業車両制御システムの構成を示している。当該作業車両制御システムには、本発明の内燃機関の制御方法が適用されている。なお、本実施の形態の説明では、ディーゼルエンジン11(内燃機関に相当)と電動モータ21とを用いて油圧ポンプ31を駆動するハイブリッド方式の作業車両制御システムを例として説明するが、電動モータを省略してディーゼルエンジン11のみにて油圧ポンプ31を駆動する方式の作業車両制御システムであってもよい。
【0024】
なお、本実施の形態の例では、ディーゼルエンジン11はエンジンコントローラ10(制御装置に相当)にて制御され、電動モータ21はモータコントローラ20(制御装置に相当)にて制御され、油圧ポンプ31は機体コントローラ30(制御装置に相当)にて制御される例を示す。この例では、3つの制御装置(エンジンコントローラ10とモータコントローラ20と機体コントローラ30)にて制御装置群を構成しているが、1つの制御装置で制御装置群を構成してもよいし、2つあるいは4つ以上の制御装置にて制御装置群を構成してもよい。また機体コントローラ30とエンジンコントローラ10は、通信線T13を介して種々の情報を送受信可能であり、機体コントローラ30とモータコントローラ20は、通信線T23を介して種々の情報を送受信可能である。
【0025】
図2に示す作業車両制御システムでは、ディーゼルエンジン11のクランクシャフト11Cに、電動モータ21のロータ21Cが接続されており、電動モータ21のロータ21Cに油圧ポンプ31のロータ31Cが接続されている。油圧ポンプ31は、ディーゼルエンジン11と電動モータ21の少なくとも一方を動力源として、配管33を介してタンク32内の作動油を吸引し、配管34へと作動油を吐出する。
【0026】
配管34には、作業機操作部50を介して、油圧モータ51(クローラや上部旋回体を駆動)や、油圧シリンダ83C、84C、85C等が接続されている。また、配管34には、リリーフバルブ36が接続されている。そしてリリーフバルブ36は配管37を介してタンク32に接続されている。リリーフバルブ36が閉鎖状態の場合は、配管34内の作動油は、作業機操作部50を介して油圧モータ51や油圧シリンダ83C、84C、85C等に供給される。リリーフバルブ36が開口状態の場合は、配管34内の作動油は、作業機操作部50を介することなくリリーフバルブ36と配管37を経由してタンク32に戻される。作業者は、操作ロック部41を操作することで、リリーフバルブ36の開口状態または閉鎖状態の切り替えを行うことができる。操作ロック部41は、作業者が作業機を操作する際に使用する作業機操作部50からの操作を有効とする(リリーフバルブ36を閉鎖状態とする)か、無効とする(リリーフバルブ36を開口状態とする)か、を切り替え可能である。
【0027】
ディーゼルエンジン11には、吸気配管11Aと吸気マニホルド11Bにて構成された吸気経路が接続されており、排気マニホルド11Eと排気配管11Fにて構成された排気経路が接続されている。吸気経路には、スロットル装置18が設けられている。エンジンコントローラ10は、スロットル装置18を制御して、ディーゼルエンジン11が吸入する空気の量を調節することができる。また、図示省略するが、可変ノズルを備えたターボチャージャや、排気ガスの一部をスロットル装置18の下流側に戻すEGR配管とEGRバルブ等も有している。エンジンコントローラ10は、ターボチャージャの可変ノズルを制御して吸気の過給圧を調整可能であり、EGRバルブを制御してEGR量を調整可能である。
【0028】
また、図示省略するが、ディーゼルエンジン11の各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが設けられている。インジェクタは、エンジンコントローラ10からの駆動信号に基づいて、適切なタイミングで、適切な燃料量を、各気筒に供給する。またディーゼルエンジン11には、クランクシャフト11Cの回転に応じた検出信号を出力するクランク回転検出手段(回転センサ)、特定の気筒が圧縮工程にあることを示す気筒判別信号を出力する気筒検出手段(気筒判別センサ)、冷却水温度検出手段(水温センサ)等、種々の検出手段(センサ)が取り付けられているが、これらについては記載及び説明を省略する。
【0029】
排気経路には、燃料添加弁15、排気温度検出手段16A、16B、16C、触媒12、粒子捕集フィルタ13、差圧検出手段17、A/F検出手段14等が設けられている。なお、触媒12と粒子捕集フィルタ13は、別々に構成されることなくフィルタユニットとして一体化されていてもよく、例えば、触媒12、粒子捕集フィルタ13、排気温度検出手段16A、16B、16C、差圧検出手段17が、1つのケース内に一体となるように組み付けられていてもよい。燃料添加弁15(再生処理実行部に相当)は、触媒12(及び粒子捕集フィルタ13)よりも上流側に設けられており、粒子捕集フィルタ13内に捕集された粒子状物質を燃焼焼却する際にエンジンコントローラ10から制御され、排気経路内に燃料を噴射する。燃料添加弁15から噴射された燃料は、活性化された触媒12(酸化触媒等)内での燃焼(酸化)に使用され、触媒12の反応熱(酸化反応熱)で高温となった排気ガスが粒子捕集フィルタ13に導入され、当該排気ガスによって粒子捕集フィルタ13内に堆積している粒子状物質が燃焼焼却される。排気温度検出手段16A、16B、16Cは、例えば排気温度センサであり、排気温度検出手段16Aは触媒12の上流側(触媒12の入口部)に設けられ、排気温度検出手段16Bは触媒12と粒子捕集フィルタ13との間(触媒12の出口部、または粒子捕集フィルタ13の入口部)に設けられ、排気温度検出手段16Cは粒子捕集フィルタ13の下流側(粒子捕集フィルタ13の出口部)に設けられている。エンジンコントローラ10は、排気温度検出手段16A、16B、16Cからの検出信号に基づいて、排気経路の各位置における排気ガスの温度を知ることができる。なお、排気温度検出手段の数、及び設ける位置については、
図2の例に示す数及び位置に限定されるものではない。またA/F検出手段14は、例えばA/Fセンサであり、排気ガスの空燃比に関する検出信号を出力する。エンジンコントローラ10は、A/F検出手段14からの検出信号に基づいて空燃比を知り、当該空燃比に基づいてインジェクタからの燃料噴射量を調整する。
【0030】
触媒12は、排気ガス中の所定の成分(例えばCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素))を浄化して無害化する。粒子捕集フィルタ13は、DPF(Diesel Particulate Filter)であり、排気ガス中に含まれている粒子状物質を捕集する。差圧検出手段17(堆積量検知部に相当)は、例えば差圧センサであり、粒子捕集フィルタ13の上流側と下流側に接続されている。エンジンコントローラ10は、差圧検出手段17からの検出信号に基づいて、粒子捕集フィルタ13の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧を知ることが可能であり、粒子捕集フィルタ13にて捕集した(堆積している)粒子状物質の量を推定することができる。
【0031】
エンジンコントローラ10は、CPUとメモリ等の記憶装置を有している。そしてエンジンコントローラ10には、上述した排気温度検出手段16A、16B、16C、差圧検出手段17、クランク回転検出手段、気筒検出手段からの検出信号の他にも、図示省略した種々の検出手段からの検出信号が入力されている。またエンジンコントローラ10は、上述したスロットル装置18、燃料添加弁15、インジェクタの他にも、図示省略した種々のアクチュエータを駆動する駆動信号を出力している。またエンジンコントローラ10は、通信線T13を介して機体コントローラ30から受信した要求トルク情報(エンジン目標回転)に基づいて、ディーゼルエンジン11を制御する。
【0032】
モータコントローラ20は、CPUとメモリ等の記憶装置を有している。そしてモータコントローラ20は、電動モータ21のロータ21Cの回転状態を検出するロータ回転検出手段(ロータ回転センサ等)からの検出信号に基づいて、ロータ21Cの回転状態を検出し、検出した回転状態に基づいて、ステータの各コイルへの電流を制御する。またモータコントローラ20は、通信線T23を介して機体コントローラ30から受信した要求トルク情報(モータ目標回転)に基づいて、電動モータ21を制御する。
【0033】
機体コントローラ30は、CPUとメモリ等の記憶装置を有している。そして機体コントローラ30には、操作ロック部41、エンジンコントロールダイヤル42(目標回転指示部に相当)、再生禁止手段43、手動再生実行手段44等からの検出信号が入力され、図示省略した油圧ポンプ31からの油圧負荷検出信号が入力されている。操作ロック部41は、作業者からの操作によって、リリーフバルブ36の開口状態または閉鎖状態の切り替えを行う。エンジンコントロールダイヤル42は、作業者から指示されたディーゼルエンジン11の目標回転数に基づいた検出信号を機体コントローラ30に出力する。再生禁止手段43は、例えばフィルタ再生処理の実行を禁止するための再生禁止スイッチであり、作業者が再生禁止手段43を操作すると(再生禁止スイッチをONにすると)、フィルタ再生処理の実行が禁止される。手動再生実行手段44は、例えばフィルタ再生処理における手動再生の実行を指示するための手動再生実行スイッチであり、作業者が手動再生実行手段を操作すると(手動再生実行スイッチをONにすると)、フィルタ再生処理の手動再生が実行される。機体コントローラ30は、上述した各入力に基づいて、ディーゼルエンジン11と電動モータ21への要求トルクを求め、通信線T12を介して要求トルク情報(エンジン目標回転)をエンジンコントローラ10に送信し、通信線T23を介して要求トルク情報(モータ目標回転)をモータコントローラ20に送信する。
【0034】
●[制御装置(エンジンコントローラと機体コントローラ)の処理手順(
図3、
図4)]
次に
図3及び
図4に示すフローチャートを用いて、制御装置(エンジンコントローラ10と機体コントローラ30)の処理について説明する。なお、手動再生については従来と同様であるので、説明を省略している。また以降の説明では、「フィルタ再生処理」、「自動再生」という言葉を、「フィルタ再生処理=粒子状物質の燃焼焼却」、「自動再生=燃焼モードの変更+下限回転数の切り替え+フィルタ再生処理」という意味で使用する。
【0035】
まず
図3に示すエンジンコントローラの処理について説明する。エンジンコントローラ10は、所定時間間隔(例えば数10[ms]毎)等の所定タイミングにて、
図3に示すエンジンコントローラの処理を起動し、ステップS110へと処理を進める。
【0036】
ステップS110にてエンジンコントローラ10は、粒子捕集フィルタ内のPM堆積量(粒子状物質の堆積量)を推定し、ステップS115に進む。例えばエンジンコントローラ10は、差圧検出手段17(堆積量検知部に相当)を用いて検出した差圧に基づいて、PM堆積量を推定する。
【0037】
ステップS115にてエンジンコントローラ10は、推定したPM堆積量が再生開始閾値(自動再生を開始するべき堆積量)を超えたか否かを判定し、再生開始閾値を超えている場合(Yes)はステップS120に進み、再生開始閾値を超えていない場合(No)はステップS190に進む。再生開始閾値は、エンジンコントローラ10の記憶装置に予め記憶されている。
【0038】
ステップS120に進んだ場合、エンジンコントローラ10は、作業者によって操作される再生禁止手段43がONであるか否かを判定し、再生禁止手段43がON(フィルタ再生処理の禁止が指示されている)である場合(Yes)はステップS180に進み、再生禁止手段43がOFF(フィルタ再生処理の許可が指示されている)である場合(No)はステップS130に進む。なお、再生禁止手段43のONまたはOFFの状態は、通信線T13を介して機体コントローラ30から適宜受信する。
【0039】
ステップS130〜ステップS150A、S150B、及び後述するステップS310〜ステップS340、ステップS420Aの処理は、自動再生の処理である。ステップS130に進んだ場合、エンジンコントローラ10は、再生用燃焼モードフラグをONにして、ステップS135に進む。なお、再生用燃焼モードフラグは、後述する
図4に示す処理にて使用するフラグであり、自動再生の実行中において、フィルタ再生用燃焼モードとして、触媒12を活性化するために、内燃機関の燃焼温度を意図的に上昇させるために用いるフラグである。
【0040】
ステップS135にてエンジンコントローラ10は、通信線T13を介して機体コントローラ30に、再生用下限回転数を送信し、ステップS140に進む。なお、再生用下限回転数は、自動再生の実行中における内燃機関の下限回転数として、予めエンジンコントローラ10の記憶装置に記憶されている。エンジンコントローラ10は、予め記憶装置に記憶されている再生用下限回転数(例えば500[rpm])を読み出して、機体コントローラ30に再生用下限回転数を送信する。
【0041】
次に
図3に示す機体コントローラの処理について説明する。機体コントローラ30は、例えば通信線T13を介してエンジンコントローラ10から情報を受信したタイミングにて、
図3に示す機体コントローラの処理を起動し、ステップS310へと処理を進める。
【0042】
ステップS310にて機体コントローラ30は、エンジンコントローラ10から再生用下限回転数を受信し、ステップS315に進む。
【0043】
ステップS315にて機体コントローラ30は、作業者によって操作されるエンジンコントロールダイヤル42から指示された指示目標回転数(作業者が所望する内燃機関の回転数)を取得し、ステップS320に進む。
【0044】
ステップS320にて機体コントローラ30は、指示目標回転数が再生用下限回転数未満であるか否かを判定し、指示目標回転数が再生用下限回転数未満である場合(Yes)はステップS325に進み、指示目標回転数が再生用下限回転数以上である場合(No)はステップS330Aに進む。
【0045】
ステップS325に進んだ場合、機体コントローラ30は、作業者から操作される操作ロック部41が、作業者が操作する作業機操作部からの操作指示を無効とする状態とされているか否かを判定し、操作指示を無効とする状態とされている場合(Yes)はステップS330Bに進み、操作指示を有効とする状態とされている場合(No)はステップS330Cに進む。ステップS325の処理は、自動再生の実行中において、エンジンコントロールダイヤル(目標回転指示部)から指示された目標回転数である指示目標回転数が再生用下限回転数未満である場合、内燃機関の下限回転数を、操作ロック部の状態に応じて、指示目標回転数あるいは再生用下限回転数のいずれかに切り替える、回転数切り替えステップに相当する。
【0046】
ステップS330Aに進んだ場合、機体コントローラ30は、下限回転数を再生用下限回転数に設定して(下限回転数に再生用下限回転数を代入して)ステップS340に進む。
【0047】
ステップS330Bに進んだ場合、機体コントローラ30は、下限回転数を再生用下限回転数に設定して(下限回転数に再生用下限回転数を代入して)ステップS340に進む。ステップS330Bは、自動再生の実行中において、指示目標回転数が再生用下限回転数未満である際に、操作ロック部が(作業機操作部からの)操作指示を無効とする状態である場合に、下限回転数を再生用下限回転数に切り替えている。
【0048】
ステップS330Cに進んだ場合、機体コントローラ30は、下限回転数を指示目標回転数に設定して(下限回転数に指示目標回転数を代入して)ステップS340に進む。ステップS330Cは、自動再生の実行中において、指示目標回転数が再生用下限回転数未満である際に、操作ロック部が(作業機操作部からの)操作指示を有効とする状態である場合に、下限回転数を指示目標回転数に切り替えており、本願の特徴となる処理である。
【0049】
ステップS340にて機体コントローラ30は、エンジンコントローラ10に下限回転数を送信し、処理を終了する。
【0050】
エンジンコントローラは、ステップS140にて、機体コントローラ30から下限回転数を受信し、ステップS145に進む。なお、エンジンコントローラ10は、受信した下限回転数に基づいて、自動再生の実行中における内燃機関の回転数を制御する。エンジンコントローラ10は、自動再生の実行中において、エンジンコントロールダイヤル42から指示された指示目標回転数が下限回転数以上である場合は指示目標回転数となるように内燃機関の回転数を制御し、指示目標回転数が下限回転数より低い場合は下限回転数となるように内燃機関の回転数を制御する。
【0051】
ステップS145にてエンジンコントローラ10は、排気温度検出手段16A、16B、16Cからの検出信号に基づいて触媒12の温度を推定し、推定した触媒温度が、予め設定された触媒活性化温度以上であるか否かを判定し、触媒活性化温度以上である場合(Yes)はステップS150Aに進み、触媒活性化温度未満である場合(No)はステップS150Bに進む。触媒活性化温度は、エンジンコントローラ10の記憶装置に予め記憶されている。
【0052】
ステップS150Aに進んだ場合、エンジンコントローラ10は、燃料添加弁15(再生処理実行部に相当)を制御して、粒子捕集フィルタ内に堆積している粒子状物質の燃焼焼却(フィルタ再生処理)に必要となる所定の燃料量を噴射し、処理を終了する。なお、ステップS130にて再生用燃焼モードフラグがONとされているので、燃焼モード変更ステップ(後述するステップS420A)の処理が実行されているとき(自動再生の実行中)に、ステップS150A、150Bが実行されることになる。
【0053】
ステップS150Bに進んだ場合、エンジンコントローラ10は、燃料添加弁15からの燃料の噴射を停止して、処理を終了する。下限回転数を再生用下限回転数未満とした場合では、排気ガスの流量が不足して触媒の温度が活性化温度に達しない場合がある。触媒の温度が活性化温度に達していない場合では、触媒にて充分な酸化反応を行うことができないので、ステップS145、S150A、S150Bの処理によって、触媒が活性化している場合に、適切に燃料添加弁から燃料を噴射する。また、ステップS145、S150Bの処理は、自動再生の「中断」ではなく「一時的保留」の処理であり、触媒の温度が触媒活性化温度以上となれば、ただちに燃料添加弁からの燃料の噴射(すなわち、粒子捕集フィルタ内の粒子状物質の燃焼焼却)を再開することができる。ステップS145、S150A、S150Bの処理は、触媒の温度に応じて、フィルタ再生処理(粒子状物質の燃焼焼却)が実行されるように燃料添加弁(再生処理実行部に相当)を制御する、粒子状物質燃焼焼却ステップに相当している。
【0054】
ステップS180に進んだ場合、エンジンコントローラ10は、再生禁止手段がONの場合の処理(既存の処理であり、説明を省略する)を実行し、ステップS190に進む。
【0055】
ステップS190に進んだ場合、エンジンコントローラ10は、再生用燃焼モードフラグをOFFにして、処理を終了する。
【0056】
次に、
図4に示すエンジンコントローラの処理について説明する。エンジンコントローラ10は、所定時間間隔(例えば数10[ms]毎)等の所定タイミングにて、
図4に示すエンジンコントローラの処理を起動し、ステップS410へと処理を進める。
【0057】
ステップS410にてエンジンコントローラ10は、再生用燃焼モードフラグがONであるか否かを判定し、再生用燃焼モードフラグがONである場合(Yes)はステップS420Aに進み、再生用燃焼モードフラグがOFFである場合(No)はステップS420Bに進む。
【0058】
ステップS420Aに進んだ場合、エンジンコントローラ10は、フィルタ再生用燃焼モードの処理を実行して、処理を終了する。エンジンコントローラ10は、粒子捕集フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却するにあたって触媒12を活性化するために、内燃機関の燃焼温度を上昇させて、排気ガスの温度を上昇させる。具体的には、エンジンコントローラ10は、スロットル装置18を少し絞って吸入空気量を減量する。あるいは、エンジンコントローラ10は、ディーゼルエンジン11の各気筒に燃料を噴射するインジェクタからの燃料噴射の噴射タイミングを少し遅らせて(メイン噴射のタイミングを遅角して)、噴射量を増量させる。これにより、ディーゼルエンジン11の燃焼温度を上昇させることができる。ステップS420Aの処理は、自動再生の実行中において、内燃機関の燃焼温度を上昇させるフィルタ再生用燃焼モードにて内燃機関を制御する、燃焼モード変更ステップに相当している。
【0059】
ステップS420Bに進んだ場合、エンジンコントローラ10は、通常モード時の処理を実行し、処理を終了する。具体的には、ステップS420Aにて実施した処理を行わないことが通常モード時の処理である。エンジンコントローラ10は、スロットル装置18を絞る処理を行うことなく通常時(フィルタ再生用燃焼モードでないとき)の開度に戻し、メイン噴射のタイミングも噴射量も通常時(フィルタ再生用燃焼モードでないとき)のメイン噴射のタイミングと噴射量に戻す。
【0060】
●[本願の効果(
図5)]
図5に、「操作ロック部=操作を「有効」とした状態の場合、かつ、自動再生実行中の場合」における内燃機関の稼働領域(使用領域)の特性(回転数・軸トルク特性)と、「操作ロック部=操作を「無効」とした状態の場合、かつ、自動再生実行中の場合」における内燃機関の稼働領域(使用領域)の特性(回転数・軸トルク特性)の例を示す。領域Aは内燃機関の回転数が再生用下限回転数以上となる中・高負荷領域を示し、領域Cは内燃機関の回転数がローアイドル回転数以上で再生用下限回転数未満となる低負荷領域を示している。なお、「操作ロック部=操作を「無効」とした状態の場合、かつ、自動再生実行中の場合」の図は、操作を「無効」として作業者は作業する意思がない状態であるので、アイドル状態で放置した場合の特性の例を示している。
【0061】
なお、自動再生(及び手動再生)が実行されていない場合において、操作ロック部が操作を有効とした状態にされて作業機への作業指示が特になされていない場合では、内燃機関の回転数は、
図5の上図に示す「ローアイドル回転数」に維持される。自動再生が実行されている場合において、操作ロック部が操作を無効とした状態にされた場合では、内燃機関の回転数は、
図5の下図に示すように、「ローアイドル回転数」から「再生用下限回転数」へと引き上げられる。再生用下限回転数は、粒子捕集フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却するために必要となる排気ガスの流量を確保できる回転数に設定されている。そして、この排気ガスの流量の確保と、燃焼モードの変更(フィルタ再生用燃焼モードへ移行して排気ガスの温度を昇温)により、触媒の温度を上昇させて、触媒を活性化することができる。触媒を活性化すれば、上述したように、燃料添加弁から燃料を噴射することで、触媒内で燃料を燃焼(酸化)させ、反応熱で高温となった排気ガスを粒子捕集フィルタに導入し、粒子捕集フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却することができる。
【0062】
また、
図5の上図における領域Aで作業が実施されている場合では、内燃機関から排出される排気ガスの流量は、触媒を活性化するために充分な流量であり、フィルタ再生用燃焼モードとすることで、容易に触媒を活性化(触媒活性化温度以上に昇温)させることができる。触媒が活性化していれば、上述したように、燃料添加弁から燃料を噴射することで、粒子捕集フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却することができる。また
図5の上図における領域Cで作業が実施されている場合では、内燃機関から排出される排気ガスの流量は、触媒を活性化するためには不足している。排気ガスの流量が不足している場合、フィルタ再生用燃焼モードに移行しても、触媒の温度が下がって活性化していない状態となる場合がある。触媒が活性化していない場合では、上述したように、燃料添加弁からの燃料の噴射を停止して、自動再生を維持しつつフィルタ再生処理(粒子状物質の燃焼焼却)を一時的に保留する。
【0063】
また、
図5の下図の状態では、操作ロック部が操作を無効とした状態であるので、作業者の作業意思がないことが、制御装置によって検知されている。従って、エンジンコントロールダイヤルから再生用下限回転数未満の回転数が指示されていても、内燃機関のアイドル回転数は、制御装置によって、再生用下限回転数へと引き上げられる。このため、内燃機関から排出される排気ガスの流量は、触媒を活性化するために充分な流量であり、フィルタ再生用燃焼モードとすることで、容易に触媒を活性化(触媒活性化温度以上に昇温)せせることができる。触媒が活性化していれば、上述したように、燃料添加弁から燃料を噴射することで、粒子捕集フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却することができる。
【0064】
自動再生によるフィルタ再生処理は、比較的時間がかかる処理であるので、この自動再生の実行中に、作業者が、作業機の先端刃具(
図1の作業車両の場合、バケット85が相当する)の交換を所望する場合がある。先端刃具の交換をするためには、作業機操作部からの操作が必要であるので、操作ロック部を、作業機操作部からの操作指示を有効とする状態にしなければならない。
【0065】
先端刃具の交換等をするためには、内燃機関の回転数を、通常のアイドル回転数よりも低い回転数にして、油圧を微調整する必要がある。作業者が、操作ロック部=操作を有効とした状態、にした場合、
図5における上図に示すように、自動再生の実行中であっても、領域Cを使用することが可能である。作業者は、特別な操作をする必要がなくエンジンコントロールダイヤルを操作して指示目標回転数を下げるだけで、内燃機関の稼働領域を領域Cへと移動させ、先端刃具の交換等の低負荷作業を行うことができる。これにより、作業者の意思によらない粒子捕集フィルタの自動再生の処理と、作業者の意思による作業と、を両立させ、作業効率の低下を抑制することができる。なお従来では、自動再生の実行中は内燃機関の回転数を再生用下限回転数未満にすることができなかったので、自動再生の実行中では領域Cを利用することができなかった。
【0066】
なお、自動再生の実行中において、内燃機関の回転数を再生下限回転数よりも低くした場合(
図5の上図における領域Cを使用した場合)、排気流量が減少して触媒温度が低下して触媒が活性化状態でなくなる可能性がある。触媒が活性化状態でない場合、粒子捕集フィルタ内の粒子状物質の燃焼焼却が期待どおりに進まない可能性がある。そこで本願では、自動再生の実行中において、触媒温度が触媒活性化温度未満となった場合は燃料添加弁からの燃料の噴射を停止してフィルタ再生処理(粒子状物質の燃焼焼却)を一時的に保留し、触媒温度が触媒活性化温度以上となった場合に燃料添加弁からの燃料の噴射を実行してフィルタ再生処理をただちに再開している。
【0067】
本発明の、内燃機関のフィルタ再生制御システム、及び内燃機関のフィルタ再生制御方法は、本実施の形態で説明した構成、処理手順等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
【0068】
本実施の形態にて説明した内燃機関のフィルタ再生制御システム、及び内燃機関のフィルタ再生制御方法は、建設機械や産業車両を含む種々の作業車両に適用することができる。
【0069】
本実施の形態の説明では、堆積量検知部の例として差圧検出手段を用いたが、堆積量検知部は、差圧検出手段に限定されるものではない。
【0070】
また、以上(≧)、以下(≦)、より大きい(>)、未満(<)等は、等号を含んでも含まなくてもよい。また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【課題】内燃機関の排気ガス中の粒子状物質を捕集するDPFの自動再生の処理において、作業者が自動再生を意識することなく手間なく低負荷作業を実行することを可能として、作業者の意思によらないDPFの自動再生と、作業者の意思による作業と、を両立させ、作業効率の低下を抑制することができる、内燃機関のフィルタ再生制御システム及び内燃機関のフィルタ再生制御方法を提供する。
【解決手段】制御装置は、粒子状物質の堆積量が再生開始閾値を超えた場合、自動再生を開始し、自動再生の実行中は、排気ガスの温度を上昇させるフィルタ再生用燃焼モードにて内燃機関を制御し、目標回転指示部から指示された指示目標回転数が再生用下限回転数未満である場合、内燃機関の下限回転数を、操作ロック部の状態に応じて、指示目標回転数あるいは再生用下限回転数のいずれかに切り替えて制御し、触媒の温度に応じて再生処理実行部を制御する。