特許第6176397号(P6176397)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6176397
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】分析データ処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20170731BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   G01N27/62 D
   G01N27/62 X
   G01N21/27 A
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-523013(P2016-523013)
(86)(22)【出願日】2014年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2014063987
(87)【国際公開番号】WO2015181893
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 真一
(72)【発明者】
【氏名】梅村 佳克
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩二
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−025275(JP,A)
【文献】 特開2009−025056(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/125001(WO,A1)
【文献】 特表2006−504071(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0141719(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 21/27
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元領域上に設定された複数の区画に対応した機器分析の結果である複数の分析データから成るデータセットを処理する分析データ処理装置であって、
a) 比較しようとする複数のデータセットを設定する対象データセット設定手段と、
b) 前記複数のデータセットに基づき、前記2次元領域における物質又は物理量の分布を表した画像をそれぞれ生成する画像生成手段と、
c) 前記複数のデータセットに基づいて生成された複数の画像のうちの1つの画像上で、前記2次元領域上に設定された複数の区画のうちの二つ以上の区画を含んだ任意の領域をユーザに指定させ、該任意の領域を前記一つの画像における関心領域として設定する関心領域指定受付手段と、
d) 前記複数の画像の内の前記1つの画像以外の各画像において前記関心領域に対応する領域を該画像についての関心領域としてそれぞれ設定する関心領域自動設定手段と、
e) 前記複数の画像のそれぞれについて、前記関心領域に含まれる前記二つ以上の区画に対応した分析データを、各画像の基になったデータセットからそれぞれ抽出する領域内データ抽出手段と、
f) 前記複数のデータセットのそれぞれについて個別に該データセットから抽出された複数の分析データを対象に統計的な処理を行って得られたデータである統計量データを生成する統計量データ生成手段と、
g) 前記複数のデータセットのそれぞれについて生成された前記統計量データを並べて又は重畳してモニタに表示させる統計量データ表示手段と、
を有することを特徴とする分析データ処理装置。
【請求項2】
前記関心領域自動設定手段が、画像解析により、前記1つの画像上に設定された関心領域に含まれる特徴と一致する特徴を前記1つの画像以外の各画像中で検出し、該各画像中で前記特徴を含む領域を該画像についての関心領域として設定することを特徴とする請求項1に記載の分析データ処理装置。
【請求項3】
前記関心領域自動設定手段が、前記1つの画像上に設定された関心領域の座標情報に基づき、前記1つの画像以外の各画像における同一の座標位置に該各画像についての関心領域を設定することを特徴とする請求項1に記載の分析データ処理装置。
【請求項4】
前記分析データ処理装置が、試料上の2次元領域内に設定された複数の区画に対してそれぞれ質量分析又は分光分析を実行することで得られたデータを処理するものであって、
前記分析データが、質量スペクトルデータ又は波長スペクトルデータであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分析データ処理装置。
【請求項5】
前記関心領域指定受付手段が、前記画像生成手段で生成された画像に代えて、前記2次元領域をカメラで撮影することで得られたカメラ画像上でユーザに関心領域を指定させるものであって、
前記関心領域自動設定手段が、前記画像生成手段で生成された各画像上の領域であって、前記カメラ画像上の関心領域に対応する領域を該各画像についての関心領域として設定することを特徴とする請求項4に記載の分析データ処理装置。
【請求項6】
前記分析データ処理装置が、1次カラムによって試料中の成分を時間方向に分離すると共に該1次カラムからの溶出液の少なくとも一部を2次カラムに導入して時間方向に分離し、該2次カラムからの溶出液に対し質量分析又は分光分析を逐次行う2次元クロマトグラフィーを実行することで得られたデータを処理するものであって、
前記分析データが、前記1次カラムにおける保持時間を第1軸、前記2次カラムによる保持時間を第2軸とする2次元領域上の各区画における質量スペクトルデータ又は波長スペクトルデータであって、
前記画像が該2次元領域上における物質又は物理量の分布を表した2次元クロマトグラムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分析データ処理装置。
【請求項7】
前記統計量データ表示手段が、前記統計量データをテーブル形式で表示することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の分析データ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種分析機器による試料の分析によって収集されたデータを処理する分析データ処理装置に関し、特に質量分析イメージング等の2次元分析を行う分析機器で得られたデータを処理する分析データ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析イメージングは、生体組織切片などの試料の2次元領域内の複数の微小領域においてそれぞれ質量分析を行うことにより、特定の質量電荷比を有する物質の分布を調べる手法であり、創薬やバイオマーカ探索、各種疾病・疾患の原因究明などに利用できるものと期待されている。質量分析イメージングを実施するための質量分析装置は一般にイメージング質量分析装置と呼ばれている。また、通常、試料上の任意の範囲について顕微観察を行い、その顕微観察画像に基づいて分析対象領域を定めて該領域のイメージング質量分析を実行することから顕微質量分析装置と呼ばれることもある。例えば非特許文献1には、一般的なイメージング質量分析装置の構成や分析例が開示されている。
【0003】
イメージング質量分析装置では、試料上の2次元領域内の多数の測定点(微小領域)それぞれにおいて質量分析データ(MSスペクトルデータ、MSn(nは2以上の整数)スペクトルデータ)が得られる。質量分解能を上げるほど1測定点当たりの質量分析データの量は多くなる。また、試料上の測定点の間隔が空間分解能を左右するから、精緻な質量分析画像(質量分析イメージ)を得るべく空間分解能を上げるほど測定点の数は多くなり、測定対象である2次元領域における質量分析データの数が多くなる。図8に質量分析イメージの一例を模式的に示す。質量分析イメージ500では、一般に1つの測定点における特定の質量電荷比の強度情報(又は全イオンの強度情報)が1つのピクセル501の色情報や濃淡情報で表されるため、以下、測定点をピクセルという。
【0004】
こうしたイメージング質量分析装置において、ユーザがマウス等のポインティングデバイスを用いて、モニタに表示された質量分析イメージ上で任意の領域を指定することにより、該領域に対応した質量分析データを表示させる機能を備えたものがある(例えば非特許文献2を参照)。このとき、表示される質量分析データは、例えば、指定された領域内の各ピクセルにおける質量分析データ(すなわちマススペクトル)の総和又は平均を取ったものである。これにより、ユーザは試料中の任意の領域に存在する物質の種類や該領域における各物質の存在量を知ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】原田、ほか8名、「顕微質量分析装置による生体組織分析」、島津評論、第64巻、第3・4号、2008年4月24日発行、pp.139-145
【非特許文献2】"Datacube Explorer"、[online]、[平成26年4月3日検索]、インターネット<URL:http://www.maldi-msi.org/index.php?option=com_content&view=article&id=314&Itemid=101>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように試料上の所定の領域における質量分析データを表示する機能を備えたイメージング質量分析装置を用いて、複数の試料上の同一領域(例えば特定の組織や病変部など)に関する質量分析データを比較したい場合には、各試料について得られた質量分析イメージ上で、上記のような領域指定作業を繰り返す必要がある。そのため、比較しようとする試料の数が増えるほどユーザの作業負担が増大するという問題があった。
【0007】
本発明はこうした点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、質量分析イメージングなどの2次元分析を行う分析装置で得られたデータを処理する分析データ処理装置において、該分析結果に基づいて生成された複数の画像中の同一領域に関するデータの比較を容易に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る分析データ処理装置は、
2次元領域上に設定された複数の区画に対応した機器分析の結果である複数の分析データから成るデータセットを処理する分析データ処理装置であって、
a) 比較しようとする複数のデータセットを設定する対象データセット設定手段と、
b) 前記複数のデータセットに基づき、前記2次元領域における物質又は物理量の分布を表した画像をそれぞれ生成する画像生成手段と、
c) 前記複数のデータセットに基づいて生成された複数の画像のうちの1つの画像上で、前記2次元領域上に設定された複数の区画のうちの二つ以上の区画を含んだ任意の領域をユーザに指定させ、該任意の領域を前記一つの画像における関心領域として設定する関心領域指定受付手段と、
d) 前記複数の画像の内の前記1つの画像以外の各画像において前記関心領域に対応する領域を該画像についての関心領域としてそれぞれ設定する関心領域自動設定手段と、
e) 前記複数の画像のそれぞれについて、前記関心領域に含まれる前記二つ以上の区画に対応した分析データを、各画像の基になったデータセットからそれぞれ抽出する領域内データ抽出手段と、
f) 前記複数のデータセットのそれぞれについて個別に該データセットから抽出された複数の分析データを対象に統計的な処理を行って得られたデータである統計量データを生成する統計量データ生成手段と、
g) 前記複数のデータセットのそれぞれについて生成された前記統計量データを並べて又は重畳してモニタに表示させる統計量データ表示手段と、
を有することを特徴としている。
【0009】
ここで、前記対象データセット設定手段は、比較しようとする複数のデータセットをユーザに設定させるものであってもよく、所定の条件を満たすデータセット、例えば同日に取得されたデータセットや同一フォルダに格納されたデータセットなどを自動的に前記比較しようとする複数のデータセットとして設定するものであってもよい。なお、前記「物質又は物理量の分布を表した画像」とは、前記各区画についての機器分析の結果から求められた1つ又は複数の物質の2次元分布を表した画像であってもよく、あるいは前記機器分析の測定値そのものの2次元分布を表した画像であってもよい。また、前記統計量とは、上記の複数の分析データに対し、統計的な処理を行って得られたデータを意味する。
例えば、前記分析データが質量分析データである場合は、複数の質量分析データを対象に、各m/zにおける信号強度の平均、総和、又は中央値等を取ることで生成されたマススペクトルが前記統計量データとなる。
【0010】
更に、上記本発明に係る分析データ処理装置は、前記関心領域自動設定手段が、画像解析により、前記1つの画像上に設定された関心領域に含まれる特徴と一致する特徴を前記1つの画像以外の各画像中で検出し、該各画像中で前記特徴を含む領域を該画像についての関心領域として設定するものとすることができる。
【0011】
あるいは上記本発明に係る分析データ処理装置は、前記関心領域自動設定手段が、前記1つの画像上に設定された関心領域の座標情報に基づき、前記1つの画像以外の各画像における同一の座標位置に該各画像についての関心領域を設定するものとすることもできる。
【0012】
更に、上記本発明に係る分析データ処理装置は、試料上の2次元領域内に設定された複数の区画に対してそれぞれ質量分析又は分光分析を実行することで得られたデータを処理するものであって、前記分析データが、質量スペクトルデータ又は波長スペクトルデータであるものとすることができる。
【0013】
なお、この場合、前記関心領域指定受付手段を、前記画像生成手段で生成された画像に代えて、前記2次元領域をカメラで撮影することで得られたカメラ画像上でユーザに関心領域を指定させるものとし、且つ前記関心領域自動設定手段を、前記画像生成手段で生成された各画像上の領域であって、前記カメラ画像上の関心領域に対応する領域を該各画像についての関心領域として設定するものとしてもよい。
【0014】
また、上記本発明に係る分析データ処理装置は、1次カラムによって試料中の成分を時間方向に分離すると共に該1次カラムからの溶出液の少なくとも一部を2次カラムに導入して時間方向に分離し、該2次カラムからの溶出液に対し質量分析又は分光分析を逐次行う2次元クロマトグラフィーを実行することで得られたデータを処理するものであって、前記分析データが、前記1次カラムにおける保持時間を第1軸、前記2次カラムによる保持時間を第2軸とする2次元領域上の各区画における質量スペクトルデータ又は波長スペクトルデータであって、前記画像が該2次元領域上における物質又は物理量の分布を表した2次元クロマトグラムであるものとすることもできる。
【0015】
なお、前記統計量データ表示手段は、例えば前記統計量データをテーブル形式で表示するものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明に係る分析データ処理装置によれば、比較しようとする複数のデータセットに基づいて生成された複数の画像のうち、1つの画像上でユーザが関心領域を指定することにより、他の画像上でも同様の領域が関心領域として自動的に設定される。そして、該関心領域における分析データの平均等を表す統計量データがデータセット毎に生成され、得られた複数の統計量データがモニタ上に並べて又は重畳して表示される。これにより、2次元分析結果に基づいて生成された複数の画像について同一領域に関するデータの比較を容易に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1に係る分析データ処理装置を備えたイメージング質量分析装置の概略構成図。
図2】同実施例における制御/処理部の概略構成を示すブロック図。
図3】同実施例におけるデータ比較のための表示処理の手順を示すフローチャート。
図4】同実施例において表示装置に複数の質量分析イメージを表示する際の表示画面の一例を示す図。
図5】前記表示画面において1つの質量分析イメージ上に関心領域が指定された状態を示す図。
図6】前記表示画面において全ての質量分析イメージ上に関心領域が設定された状態を示す図。
図7】前記実施例において複数の平均スペクトルデータを表示する際の画面表示の一例を示す図。
図8】イメージング質量分析装置において生成される質量分析イメージの一例を示す模式図。
図9】本発明の実施例2に係る分析データ処理装置を備えた包括的2次元クロマトグラフの一実施例の概略構成図。
図10】同実施例における制御/処理部の概略構成を示すブロック図。
図11】同実施例におけるデータ比較用表示処理の手順を示すフローチャート。
図12】包括的2次元クロマトグラフにおける2次元クロマトグラムの作成順序を説明する図。
図13】包括的2次元クロマトグラフにおいて作成される2次元クロマトグラムの一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る分析データ処理装置の実施例について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0019】
[実施例1]
図1は本実施例による分析データ処理装置を含むイメージング質量分析装置の要部の構成図である。このイメージング質量分析装置は、大きく分けて分析部100と制御/処理部200から成り、制御/処理部200が本発明に係る分析データ処理装置に相当する。
【0020】
分析部100は、内部が略大気圧に維持される気密チャンバ101と、図示しないターボ分子ポンプなどの真空ポンプによって内部が高真空度の雰囲気に維持される真空チャンバ114と、を備える。気密チャンバ101の内部には、試料104を上に載せた試料プレート103を保持する試料ステージ102が、ガイド105に沿ってx方向に大きくスライド往復動可能に配設されている。図1中に、試料ステージ102を実線で示した位置が分析位置Pbであり、点線で示した位置が観察位置Paである。なお、試料ステージ102は、ステージ駆動部109により駆動されるモータ等を含んだ駆動機構106によって、ガイド105に沿ったx方向だけでなく、これと水平方向に直交するy方向、及び、高さ方向であるz方向にも所定の範囲で移動可能となっている。
【0021】
気密チャンバ101には観察位置Paの上方に当たる位置に窓部が設けられている。該窓部の外側にはCCDカメラやレンズなどを含む撮像部107が設置され、この撮像部107と対向するように気密チャンバ101内部に透過照明部108が設置されている。試料ステージ102が観察位置Paにあるとき、透過照明部108から出射した光が試料ステージ102に形成されている開口を通して試料104の下面に当たり、その透過光による試料像を撮像部107により観察できるようになっている。撮像部107による顕微観察の倍率は所定の範囲で可変であり、倍率を上げるほど試料104の表面を精緻に観察できる反面、観察可能な範囲、つまり観察視野は狭くなる。撮像部107で取得された画像データはインターフェース(I/F)121を介して制御/処理部200に送られる。なお、このような透過観察のほかに反射観察や蛍光観察のための照明を別途設けてもよい。
【0022】
分析位置Pb上方の気密チャンバ101の外側には、試料104の表面に微小径に絞ったレーザ光を照射するために、レーザ駆動部112により駆動されるレーザ光照射部110及びレーザ集光光学系111が配設されている。また、気密チャンバ101の内部には、レーザ光の照射に応じて試料104から発生したイオンを真空チャンバ114に輸送するためのイオン輸送管113のイオン採取口が、試料104に対向して配設されている。
【0023】
制御/処理部200の制御の下にレーザ光照射部110から出射されたイオン化用のレーザ光は、レーザ集光光学系111により絞られて試料104に照射される。このときの試料104上でのレーザ光の照射径は例えば1μm〜数十μmと微小径である。前述のように駆動機構106により試料ステージ102がx−y面内で移動されると、試料104上のレーザ光照射位置、つまり試料104上で質量分析の実行対象となる微小領域が移動する。これにより、試料104上で質量分析が実行される位置が2次元的に走査され、任意の形状の2次元領域内を格子状に細かく区切った各微小領域(測定点)の質量分析がそれぞれ実施される。該微小領域が本発明における「区画」に相当する。
【0024】
真空チャンバ114内には、イオンを収束させつつ後段に送るイオン輸送光学系115、116と、イオンを一時的に保持するイオントラップ117と、イオンを質量電荷比m/zに応じて分離するリフレクトロン型の飛行時間型質量分析器118と、飛行時間型質量分析器118で分離されたイオンを検出する検出器119と、が配設されている。ここでは、イオン輸送光学系115、116は、静電的な電磁レンズと多極型の高周波イオンガイドとの組み合わせであるが、この構成に限るものではない。イオントラップ117は3次元四重極型の構成であり、単にイオンを保持するだけでなく、導入された各種イオンの中で特定の質量電荷比を持つイオンをプリカーサイオンとして選別し、衝突誘起解離(CID)により開裂を生じさせてプロダクトイオンを生成させることも可能である。すなわち、このイメージング質量分析装置では、通常の(つまり開裂を伴わない)質量分析のほかMSn(nは2以上の整数)分析も可能である。なお、検出器119からの検出信号はA/D変換部120及びインターフェース(I/F)121を経て制御/処理部200に送出される。
【0025】
制御/処理部200の実態は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータであり、図2に示すように、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)201にメモリ202、LCD(Liquid Crystal Display)等から成るモニタ(表示部)203、キーボードやマウス等から成る入力部204、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置から成る記憶部206が互いに接続されている。記憶部206には、OS(Operating System)250、分析制御プログラム210、及びデータ表示プログラム240が記憶されると共にカメラ画像データ格納部220及び質量分析データセット格納部230が設けられている。制御/処理部200は、更に、外部装置との直接的な接続や、外部装置等とのLAN(Local Area Network)などのネットワークを介した接続を司るためのインターフェース(I/F)205を備えており、該I/F205よりネットワークケーブルNW(又は無線LAN)を介して分析部100に接続されている。
【0026】
図2においては、データ表示プログラム240に係るように、対象データセット設定部241、質量分析イメージ作成部242、領域指定受付部243、領域自動設定部244、領域内データ抽出部245、平均スペクトルデータ生成部246、及び表示制御部247が示されている。これはいずれも基本的にはCPU201がデータ表示プログラム240を実行することによりソフトウエア的に実現される機能手段である。なお、データ表示プログラム240は必ずしも単体のプログラムである必要はなく、例えば分析部100を制御するためのプログラム(すなわち分析制御プログラム210)の一部に組み込まれた機能であってもよく、その形態は特に問わない。
【0027】
撮像部107から制御/処理部200に送られてきた画像データは、必要に応じて記憶部206のカメラ画像データ格納部220に格納される。また、飛行時間型質量分析器118の検出器119から制御/処理部200に送られてきた検出信号は、記憶部206の質量分析データセット格納部230に格納される。ここで、質量分析データセット格納部230に格納されるデータは、上述のように試料104上の任意の形状の2次元領域内を格子状に細かく区切った微小領域について質量分析をそれぞれ実施した結果の集まりであり、これを以下「質量分析データセット」とよぶ。また、該質量分析データセットを構成する個々の質量分析結果、すなわち1つの微小領域から生じたイオンの質量電荷比とその強度の情報から成るデータを以下「質量分析データ」とよぶ。この「質量分析データセット」及び「質量分析データ」がそれぞれ本発明における「データセット」及び「分析データ」に相当する。
【0028】
本実施例による分析データ処理装置は、複数の質量分析データセットを容易に比較可能な状態でユーザに提示するための表示機能に特徴を有している。以下、この点について図3のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0029】
ここでは、予め複数の試料について上記のような2次元領域に対する質量分析が実行され、それらにより得られた複数の質量分析データセットが質量分析データセット格納部230に格納されているものとする。この状態でユーザが入力部204から所定の操作を行うと、対象データセット設定部241は、表示制御部247を介して、質量分析データセット格納部230に格納されているデータセットのファイル名の一覧を表示部203の画面上に表示させ、比較しようとする複数の質量分析データセットをユーザに選択させる(ステップS11)。
【0030】
続いて質量分析イメージ作成部242が、ステップS11で選択された複数の質量分析データセット(以下それぞれを「対象データセット」とよぶ)に基づいて質量分析イメージを生成し、該質量分析イメージを表示制御部247が表示部203の画面上に表示させる(ステップS12)。このとき表示される質量分析イメージは、例えば試料表面における、ある1種類のイオンの分布を表した画像であってもよく、あるいは複数種類のイオン(あるいは全イオン)の分布を表したものであってもよい。前者の場合、質量分析イメージ作成部242は、対象データセットを構成する各質量分析データから予め指定された1つの質量電荷比のイオンの強度値を抽出し、それを各質量分析データが取得された微小領域に対応するピクセルのピクセル値とすることで質量分析イメージを生成する。また、後者の場合、質量分析イメージ作成部242は、対象データセットを構成する各質量分析データ中で予め指定された複数の質量電荷比のイオン(又は所定の質量範囲に属する全てのイオン)の強度値を積算し、その値を各質量分析データが取得された微小領域に対応するピクセルのピクセル値とすることで前記質量分析イメージを生成する。
【0031】
例えば、ステップS11において、ユーザがファイル名「001」、「002」、「003」、「004」という4つの質量分析データセットを対象データセットとして指定した場合、ステップS12ではこれら4つの対象データセットに基づく4つの質量分析イメージ301〜304が作成され、それらが表示部203の画面上に並べて表示される。このときの画面表示の一例を図4に示す。
【0032】
次に、ユーザが入力部204を介して所定の操作(例えば「ROI表示」ボタン305の押下)を行うと、領域指定受付部243が表示制御部247を介して前記画面上に表示された質量分析イメージの1つ、例えば質量分析イメージ301に、関心領域(Region of Interest、ROI)を表すグラフィックを重畳表示させる。以下、このグラフィックをROI枠307とよぶ。ユーザは入力部204を用いてROI枠307を移動、拡大、縮小、回転、又は変形することにより、質量分析イメージ301中の任意の領域(例えば特定の組織や病変部など)をROI枠307で囲繞する(図5参照)。その後、ユーザが入力部204を介して所定の操作(例えば「ROI決定」ボタン306の押下)を行うと、ROI枠307で囲まれた領域が質量分析イメージ301に関する関心領域として領域指定受付部243に受け付けられる(ステップS13)。なお、図中ではROI枠307を楕円形で表したが、これに限らずROI枠を多角形や自由曲線から成るものとしてもよい。
【0033】
ステップS13で1つの質量分析イメージ(以下「代表イメージ」とよぶ)に対する関心領域の設定が受け付けられると、続いて領域自動設定部244が、その他の質量分析イメージ上の対応する領域に自動的に関心領域を設定する(ステップS14)。これにより、ステップS12で生成された全ての質量分析イメージ上に関心領域が設定される(図6参照、同図では質量分析イメージ302〜304上に設定された関心領域をROI枠308〜310で表している)。このとき領域自動設定部244は、画像解析により前記代表イメージの関心領域中に含まれる特徴を検出し、他の質量分析イメージ中で該特徴と類似する特徴を含む領域をそれぞれ特定して、該領域を各質量分析イメージについての関心領域として設定する。具体的には例えば、領域自動設定部244が、各質量分析イメージ301〜304中に含まれる輪郭線(組織の境界線など)を抽出し、代表イメージである質量分析イメージ301上のROI枠307内に存在する輪郭線に最も類似した形状の輪郭線を含む領域を、質量分析イメージ302〜304中からそれぞれ探し出し、当該領域を各質量分析イメージ302〜304についての関心領域として設定する。
【0034】
なお、領域自動設定部244は、上記のような画像解析による関心領域の自動設定を行うものとするほか、例えば、代表イメージ上における関心領域の座標情報に基づき、他の質量分析イメージ上の同一の位置に、該関心領域と同一の形状及び大きさの関心領域を設定するものとしてもよい。この場合、予めユーザが表示部203の画面上で各質量分析イメージのアライメント(トリミング、回転、拡大・縮小など)を行い、各質量分析イメージの大きさや形状、並びに各質量分析イメージ中における試料の位置、大きさ、角度等を揃えておくことが望ましい。
【0035】
以上により、各質量分析イメージについて関心領域が設定されると、領域内データ抽出部245が、質量分析データセット格納部230から前記各質量分析イメージの基になった質量分析データセットをそれぞれ読み出す。そして、各質量分析イメージの関心領域に含まれる複数のピクセルに対応した複数の質量分析データを、該質量分析イメージの基になった質量分析データセットからそれぞれ抽出する(ステップS15)。
【0036】
次に、平均スペクトルデータ生成部246が、各質量分析データセットについて、ステップS15で抽出された複数の質量分析データの平均を取ることにより平均スペクトルデータを生成する(ステップS16)。上述の例の場合、例えばまず領域内データ抽出部245が質量分析イメージ301について設定された関心領域に含まれる複数のピクセルを特定すると共に、該質量分析イメージの基になった質量分析データセット「001」を質量分析データセット格納部230から読み出す。そして、前記複数のピクセルのそれぞれに対応した試料上の微小位置に関する質量分析データを該質量分析データセット「001」から抽出する。これらの質量分析データは、上述したように、前記各微小領域から生じたイオンの質量電荷比とその強度の情報を含んでおり、平均スペクトルデータ生成部246は、これらの質量分析データについて、各質量電荷比における信号強度の値の平均を取ることにより、質量分析イメージ301の関心領域についての平均スペクトルデータを作成する。また、平均スペクトルデータ生成部246は、その他の質量分析イメージ302〜304の基になった質量分析データセット「002」、「003」、及び「004」についても、同様に質量分析データの抽出及び平均化処理を行って、各質量分析イメージの関心領域についての平均スペクトルデータをそれぞれ生成する。
【0037】
続いて、表示制御部247がステップS16で作成された複数の平均スペクトルデータを表示部203の画面上に並べて表示する(ステップS17)。このときの表示画面の一例を図7に示す。この表示画面は、対象データセット表示領域410と、平均スペクトルデータ表示領域420を含んでいる。対象データセット表示領域410は、ステップS11で指定された対象データセットの一覧を表示する領域であり、例えば対象データセットのファイル名と記憶部206における各対象データセットの保存場所の情報が表示される。平均スペクトルデータ表示領域420はステップS16で生成された平均スペクトルデータを表示する領域であり、該平均スペクトルデータをテーブル形式で表示するテーブル表示部421とグラフ形式で表示するグラフ表示部422とで構成されている。
【0038】
テーブル表示部421には、各平均スペクトルデータに含まれる質量電荷比(m/z)を表示する列421b、各質量電荷比に対応する化合物名を表示する列421aと、各質量電荷比における信号強度の値(関心領域内の平均値)をデータセット毎に表示する列421c〜421fが設けられている。ここで、前記各質量電荷比に対応する化合物名は、別途設けられた定性用データベース等を用いて予め特定される。ユーザはこのテーブル表示部421を参照することにより、各対象データセットに対応した試料の所定の領域(関心領域として指定した領域)における各種化合物の存在量を容易に比較することができる。また、グラフ表示部422には各対象データセットについて生成された平均スペクトルデータが、横軸を質量電荷比、縦軸を信号強度としたグラフとして重畳表示される。なお、図7中では対象データセット毎にグラフの線種や線の太さを変えているが、このほか、対象データセット毎にグラフの色を変えて表示してもよい。あるいは、各対象データセットから生成された平均スペクトルデータを別個のグラフとして画面上に並べて表示するようにしてもよい。
【0039】
なお、本実施例における領域指定受付部243は、表示部203に表示した質量分析イメージ上でユーザに関心領域を指定させるものとしたが、これに限らず、カメラ画像データ格納部220に格納されたカメラ画像の1つを表示部203に表示させ、該カメラ画像上でユーザに関心領域を指定させるようにしてもよい。この場合、領域自動設定部244は、該カメラ画像について指定された関心領域に対応する領域を、上記と同様にして各対象データセットに基づく質量分析イメージ上に設定する。そして、領域内データ抽出部245が、各質量分析イメージの関心領域中のピクセルに対応する質量分析データを上記同様に各対象データセットから抽出する。
【0040】
また、本発明に係る分析データ処理装置は、上記のような質量分析イメージングの他に、蛍光分光法、ラマン分光法、X線分光法、紫外分光法、赤外分光法、発光分光法、及び吸光分光法等の各種機器分析による試料の表面分析で得られた分析データの処理に適用することができる。この場合も、試料上で分析対象とする微小領域を移動させながら繰り返し分析を実行することで、任意の形状の2次元領域内を格子状に細かく区切った区画についての分析が実施される。これにより得られる、各区画に対する分析結果(例えば蛍光スペクトル等の分光スペクトル)が本発明における分析データに相当する。
【0041】
更に、本発明は、2次元クロマトグラフィーによる分析データの処理に適用することもできる。以下、本発明に係る分析データ処理装置を2次元クロマトグラフィーに適用する場合の例について、添付図面を参照して説明する。なお、以下の例では1次カラムからの溶出液の全量を2次カラムに導入する、いわゆる包括的2次元クロマトグラフィーを例に挙げて説明を行うが、1次カラムからの溶出液の一部のみを2次カラムに導入する方式の2次元クロマトグラフィーにも本発明を同様に適用することができる。
【0042】
[実施例2]
図9は本実施例による分析データ処理装置を含む包括的2次元クロマトグラフの概略構成図である。
【0043】
この包括的2次元クロマトグラフは、大きく分けて分析部600と制御/処理部700から成り、制御/処理部700が本発明に係る分析データ処理装置に相当する。
【0044】
分析部600は、1次カラム602、該1次カラム602に試料ガスを導入する試料気化室などを含む試料導入部601、1次カラム602から溶出する成分(化合物)を一定時間間隔で捕集し時間的に圧縮して送り出すモジュレータ603、1次カラム602とは異なる分離特性(典型的には異なる極性)を有する高速分離可能な2次カラム604、及び、2段階のカラム602、604で分離された各成分を検出する質量分析計605、を備える。質量分析計605は質量分析器として四重極マスフィルタを用いた四重極型質量分析計であり、指定された質量範囲を繰り返し走査するスキャン測定が可能である。
【0045】
制御/処理部700の実態は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータである。該制御/処理部700の要部構成を図10に示す。なお、実施例1の図2と同一又は対応する構成については下2桁が共通する符号を付し、適宜説明を省略する。本実施例に係る制御/処理部700は、上述の実施例1と同様に、CPU701、メモリ702、表示部703、入力部704、I/F705、及び記憶部706を備えており、記憶部706には、OS750、分析制御プログラム710、及びデータ表示プログラム740が記憶されると共に、質量分析データセット格納部730が設けられている。
【0046】
まず、分析部600における分析動作、つまりデータ収集動作を概略的に説明する。分析部600に含まれる各部の動作は、上述の分析制御プログラム710により制御される。分析部600において、試料導入部601は、1次カラム602に略一定流量で送られるキャリアガス中に分析対象である試料を導入する。通常、この試料には多数の成分(化合物)が含まれる。該試料に含まれる各種成分は、所定の昇温プログラムに従って温調された1次カラム602を通過する間に分離されて時間的にずれて溶出する。この時点では全ての成分が十分に分離されるとは限らず、1次カラム602での保持時間が近い成分は重なって(混じった状態で)溶出する。
【0047】
モジュレータ603は一定時間(=モジュレーション期間t:一般に数秒〜最大でも10秒程度)中に1次カラム602から溶出してくる成分を全て捕集し、時間的に圧縮して2次カラム604に送り込む、という操作を連続的に繰り返す。したがって、1次カラム602からの溶出成分は漏れなく2次カラム604に送り込まれる。モジュレーション期間t毎に送り込まれた複数の試料成分は2次カラム604を通過する際に高い分解能で以て時間方向に分離されて溶出し、溶出した順に質量分析計605に導入される。質量分析計605においてスキャン測定が実行されると、スキャン測定のインターバル間隔T毎に所定の質量範囲に亘るマススペクトルデータが得られる。2次カラム604から各成分が溶出している時間幅よりも短いインターバル間隔でスキャン測定を行うことによって、全ての溶出成分を漏れなく検出することができる。このように質量分析計605でスキャン測定を繰り返すことで取得された複数のマススペクトルデータは、質量分析データセット格納部730に保存される。以下、質量分析計605による1回のスキャン測定で得られるマススペクトルデータを質量分析データとよび、1回の試料分析(すなわち試料導入部601による1回の試料導入に伴う分析)の間に得られる質量分析データのセットを質量分析データセットとよぶ。
【0048】
続いて、本実施例による分析データ処理装置において、複数の質量分析データセットを容易に比較可能な状態でユーザに提示する際の動作について図11のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0049】
ここでは、予め複数の試料について上記のような包括的2次元クロマトグラフによる分析が実行され、それらにより得られた複数の質量分析データセットが質量分析データセット格納部730に格納されているものとする。この状態でユーザが入力部704から所定の操作を行うと、対象データセット設定部741は、表示制御部747を介して、質量分析データセット格納部730に格納されているデータセットのファイル名の一覧を表示部703の画面上に表示させ、比較しようとする複数の質量分析データセット(対象データセット)をユーザに選択させる(ステップS21)。
【0050】
続いて、2次元クロマトグラムイメージ作成部742が、ステップS21で対象データセットとして指定された各質量分析データセットを質量分析データセット格納部730から読み出し、各質量分析データセットに基づいて2次元クロマトグラムのイメージを作成する。そして、それらを表示制御部747が表示部703の画面上に表示する(ステップS22)。このとき2次元クロマトグラムイメージ作成部742において質量分析データセット(1回の試料分析で得られた質量分析データの集合)から2次元クロマトグラムイメージを生成する際の手順について説明する。まず、2次元クロマトグラムイメージ作成部742は、質量電荷比に依らない全てのイオンの強度信号を1つの質量分析データ毎に合算し、それを時間経過に従って並べることでトータルイオンクロマトグラム(TIC)データを求める。そして、このTICデータをモジュレーション期間t毎に区切り、図12に示すように、モジュレーション期間t内のデータを縦軸(T2軸)方向に順に並べ、横軸(T1軸)方向にモジュレーション期間tの発生順を並べるようにし、信号強度を等高線(又は色の相違)で表すことにより図13に示すような2次元クロマトグラムイメージ800を作成する。
【0051】
なお、2次元クロマトグラムイメージ800は、横軸方向がモジュレーション期間t、縦軸方向がスキャン測定のインターバル間隔Tに相当する時間幅をそれぞれもつ矩形状のピクセル(画素)801の集合である(図13参照)。画素毎に所定質量範囲の質量分析データが存在し、2次元クロマトグラム上では各画素が1つのTICデータを示す。
【0052】
以上により対象データセットの数に応じた複数の2次元クロマトグラムイメージが表示部703の画面上に並べて表示される。その後は、上記実施例1のステップS13〜S17(図3参照)と同様の処理が行われる。すなわち、領域指定受付部743により1つのイメージ上でユーザによる関心領域の指定が受け付けられ(ステップS23)、領域自動設定部744により他のイメージについても該関心領域と対応する領域が関心領域として設定される(ステップS24)。そして、領域内データ抽出部745により、各イメージの関心領域内の各ピクセルに相当する質量分析データ(すなわち1回のスキャン測定で取得されたマススペクトルのデータ)が、それぞれ質量分析データセット格納部730内の各対象データセットから抽出される(ステップS25)。その後、平均スペクトルデータ生成部746が、前記で抽出された複数の質量分析データ中の各質量電荷比における信号強度値の平均を取ることにより、平均スペクトルデータを生成する(ステップS26)。そして、得られた複数の平均スペクトルデータが、表示制御部747の制御の下に、テーブル形式及び/又はグラフ形式で表示部743の画面上に並べて表示される(ステップS27)。
【0053】
なお、本実施例では2次カラム604から溶出する試料成分を検出するための検出器として質量分析計605を用いる構成を示したが、検出器の種類はこれに限定されるものではない。例えば、試料成分の吸光度、屈折率、又は蛍光等の光学的性質を利用した検出器(分光光度計等)を用いる構成としてもよい。この場合は、2次カラム604から溶出する試料成分に対して一定の時間間隔で所定の波長範囲に亘る測定が繰り返し実行され、これにより得られる分光スペクトルが本発明における分析データに相当する。また、試料導入部601への1回の試料導入に伴って得られる一連の分光スペクトルのセットが本発明における分析データセットに相当する。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を挙げて説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容される。例えば、上記の実施例1、2では、対象データセット設定部241、741が質量分析データセット格納部230、730に格納されているデータセットの一覧を表示部203、703に表示させて、その中から任意のデータセットをユーザに選択させるものとしたが、これに限らず、例えば、対象データセット設定部241、741が、質量分析データセット格納部230、730に格納されているデータセットの中から所定の条件を満たすデータセット、例えば同日に生成されたデータセットや、所定のフォルダに格納されているデータセット、あるいは所定のタグが付与されているデータセット等を自動的に対象データセットとして設定するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
100、600…分析部
104…試料
107…撮像部
110…レーザ光照射部
113…イオン輸送管
117…イオントラップ
118…飛行時間型質量分析器
119…検出器
601…試料導入部
602…1次カラム
603…モジュレータ
604…2次カラム
605…質量分析計
200、700…制御/処理部
203、703…表示部
204、704…入力部
206、706…記憶部
210、710…分析制御プログラム
220…カメラ画像データ格納部
230、730…質量分析データセット格納部
240、740…データ表示プログラム
241、741…対象データセット設定部
242…質量分析イメージ作成部
742…2次元クロマトグラムイメージ作成部
243、743…領域指定受付部
244、744…領域自動設定部
245、745…領域内データ抽出部
246、746…平均スペクトルデータ生成部
247、747…表示制御部
301〜304…質量分析イメージ
307〜310…ROI枠
410…対象データセット表示領域
420…平均スペクトルデータ表示領域
421…テーブル表示部
422…グラフ表示部
500…質量分析イメージ
800…2次元クロマトグラムイメージ
501、801…ピクセル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13