(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
リチウム金属複合酸化物は、合成時に、表面にLi
2CO
3、LiOHなどのアルカリ成分が残る場合がある。結着剤であるPVdFは、アルカリ成分により劣化を起こし、ゲル化する傾向にある。このため、リチウム金属複合酸化物にPVdF及び溶剤を混合して作成した電極合剤は、時間経過に伴い粘度が増加する。
【0011】
そこで、本発明では、リチウム金属複合酸化物を、Mg(NO
3)
2などの硝酸塩を有する硝酸塩水溶液に接触させる。硝酸塩は、アルカリ成分と反応してアルカリ成分を中和させる。硝酸塩が硝酸マグネシウム(Mg(NO
3)
2)である場合について、硝酸塩とアルカリ成分との反応を、以下の反応式(1)に示す。
Mg(NO
3)
2 + 2LiOH → Mg(OH)
2 + 2LiNO
3 ・・・(1)
【0012】
アルカリ成分の中和によって、PVdFの劣化が抑制されて、電極合剤の粘度上昇及びゲル化を抑えることができると考えられる。
【0013】
また、リチウム金属複合酸化物に接触させる水溶液が硝酸塩水溶液である場合には、硫酸塩水溶液に比較して酸化力が強いため、活物質上の金属等のゴミをきれいに溶かす効果がある。
【0014】
また、硝酸塩が硝酸マグネシウムである場合に、リチウム金属複合酸化物を、Mg(NO
3)
2水溶液に接触させると、リチウム金属複合酸化物の表面にMg(OH)
2やMgOが残り、リチウム金属複合酸化物の安定性が増すとも考えられる。リチウム金属複合酸化物の表面にMg(OH)
2やMgOが残ると、リチウム金属複合酸化物の安定性が増すと考えるのは、電解液と活物質の接触面積が減少するためである。
【0015】
本発明の電極合剤の製造方法は、リチウム金属複合酸化物に接触工程と混合工程と行う。リチウム金属複合酸化物に接触工程を行うことは、リチウム金属複合酸化物の処理方法として把握することもできる。
【0016】
(リチウム金属複合酸化物)
リチウム金属複合酸化物は、電極活物質として用いられる化合物である。リチウム金属複合酸化物は、その酸化還元電位が比較的高いために、主に正極活物質として用いられることが多く、場合によっては負極活物質として用いられることもある。
【0017】
リチウム金属複合酸化物は、層状岩塩構造又は/及びスピネル構造をもつことが多い。層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物は、層状化合物ともいわれる。層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物は、一般式:Li
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Ni、Coから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、Li
2MnO
3を挙げることができる。
【0018】
前記一般式の中のb:c:dの比率は、0.5:0.2:0.3、1/3:1/3:1/3、0.5:0:0.5、0.75:0.10:0.15、0:0:1、1:0:0、及び0:1:0から選ばれる少なくとも1種類であることが良い。
【0019】
即ち、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物の具体例としては、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Mn
0.5O
2、LiNi
0.75Co
0.1Mn
0.15O
2、LiMnO
2、LiNiO
2、及びLiCoO
2から選ばれる少なくとも一種であることがよい。
【0020】
スピネル構造をもつリチウム金属複合酸化物は、一般式:Li
x(A
yMn
2-y)O
4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素、0<x≦2.2、0<y≦1)で表されると良い。一般式の中のAを構成し得る遷移金属元素は、例えば、Fe、Cr、Cu、Zn、Zr、Ti、V、Mo、Nb、W、La、Ni、Coから選ばれる少なくとも1の元素であるとよい。スピネル構造をもつリチウム金属複合酸化物の具体例としては、LiMn
2O
4、Li
2Mn
2O
4、LiNi
0.5Mn
1.5O
4から選ばれる少なくとも一種であることがよい。
【0021】
リチウム金属複合酸化物は、上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能であるし、Mgなどの他の金属元素を基本組成のものに加えて金属酸化物としてもよい。
【0022】
リチウム金属複合酸化物は、例えば、溶融塩法、水熱法、固相法などにより製造される。この中、溶融塩法では、溶融塩原料としてアルカリ成分が用いられるため、合成後にリチウム金属複合酸化物表面にアルカリ成分が残り、時間経過とともに粘度を上昇させるおそれがある。溶融塩法で合成されたリチウム金属複合酸化物は、本発明の電極合剤の製造方法を行うことの意義が大きい。水熱法及び固相法でも、水酸化リチウムや炭酸リチウムなどのアルカリ成分が残る場合があり、その場合には本発明の電極合剤の製造方法を適用することの意義がある。
【0023】
溶融塩法を用いてリチウム金属複合酸化物を製造するために、金属元素を含む金属化合物を含む金属化合物原料を、少なくともリチウム源を含み、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウムの理論組成を超えるモル比のリチウムを含む溶融塩原料を溶融した溶融塩中で反応させる。
【0024】
金属化合物原料は、Liを除く一種以上の金属元素を供給する原料である。金属元素を含む金属化合物は、金属化合物原料に必須である。金属化合物に含まれる金属元素の価数に特に限定はない。目的のリチウム含有複合酸化物に含まれる金属元素の価数以下にするのが好ましい。これは、リチウム金属複合酸化物の製造方法では、溶融塩原料の酸化状態を調整することで、合成されるリチウム含有複合酸化物に含まれる金属元素の価数を調整可能であるためである。たとえば、溶融塩原料全体を100モル%としたとき、水酸化リチウムを50モル%以上含む場合には、高酸化状態の溶融塩中で反応が進むため、たとえば2価や3価のMnであっても4価のMnになる。したがって、溶融塩法に使用される一般的な金属化合物であれば使用可能である。具体的には、Mn供給源であれば、二酸化マンガン(MnO
2)、三酸化二マンガン(Mn
2O
3)、一酸化マンガン(MnO)、四三酸化マンガン(Mn
3O
4)水酸化マンガン(Mn(OH)
2)、オキシ水酸化マンガン(MnOOH)、等が挙げられる。Co供給源であれば、酸化コバルト(CoO、Co
3O
4)、硝酸コバルト(Co(NO
3)
2・6H
2O)、水酸化コバルト(Co(OH)
2)、塩化コバルト(CoCl
2・6H
2O)、硫酸コバルト(Co(SO
4)・7H
2O)、等が挙げられる。Ni供給源であれば、酸化ニッケル(NiO)、硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2・6H
2O)、硫酸ニッケル(NiSO
4・6H
2O)、塩化ニッケル(NiCl
2・6H
2O)、等が挙げられる。Fe供給源であれば、水酸化鉄(Fe(OH)
3)、塩化鉄(FeCl
3・6H
2O)、酸化鉄(Fe
2O
3)、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3・9H
2O)、硫酸鉄(FeSO
4・9H
2O)、等が挙げられる。これらの酸化物、水酸化物または金属塩に含まれる金属元素の一部が他の金属元素(たとえば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Mgなど)で置換された金属化合物であってもよい。なかでも、Mn供給源であればMnO
2、Co供給源であればCo(OH)
2、Ni供給源であればNi(OH)
2、Fe供給源であればFe(OH)
3、が好ましく、入手が容易であるとともに、比較的高純度のものが入手しやすい。
【0025】
また、金属化合物原料が二種以上の金属元素を含む場合は、それらを含む化合物を前駆体としてあらかじめ合成するとよい。すなわち、原料を調製する前に、少なくとも二種の金属元素を含む水溶液をアルカリ性にして沈殿物を得る前駆体合成工程を行うとよい。水溶液としては、水溶性の無機塩、具体的には金属元素の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩などを水に溶解し、アルカリ金属水酸化物、アンモニア水などで水溶液をアルカリ性にすると、前駆体は沈殿物として生成される。合成するリチウム含有複合酸化物がNiを含むリチウムニッケル系複合酸化物である場合には、前駆体を用いた製造方法を採用することで、除去が困難な副生成物(NiO)の生成が抑制されるため好ましい。
【0026】
溶融塩原料は、水酸化リチウム、硝酸リチウム、及び炭酸リチウムの群から選ばれる1種以上を用いるとよい。水酸化リチウムは、無水物(LiOH)を用いても水和物(LiOH・H
2O)を用いてもよい。水酸化リチウムの配合割合に特に限定はなく、たとえば、溶融塩原料全体を100モル%としたとき、50モル%以上の水酸化リチウムを含むとよい。水酸化リチウムは、リチウム塩のうち最も塩基性が高いため、溶融塩の酸化力を高めることを目的としても使用される。したがって、たとえば、結晶構造が層状岩塩構造に属するリチウム含有複合酸化物を高品質で効率よく製造するには、溶融塩原料に占める水酸化リチウムの割合を、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上とするとよい。
【0027】
また、上記の溶融塩原料の配合割合は、溶融塩原料に含まれるリチウムに対する、目的のリチウム金属複合酸化物に含まれるリチウムの理論組成(複合酸化物のLi/溶融塩原料のLi)で規定することも可能である。溶融塩原料は、リチウムの供給源のみならず、溶融塩の酸化状態を調整する役割を果たす。そのため、溶融塩原料は、製造されるリチウム金属複合酸化物に含まれるリチウムの理論組成を超えるリチウムを含む。リチウム金属複合酸化物のLi/溶融塩原料のLiは、モル比で1未満であればよいが、0.01〜0.4が好ましく、さらに好ましくは、0.013〜0.3、0.02〜0.2である。0.01未満であると、使用する溶融塩原料の量に対して生成するリチウム金属複合酸化物の量が少なくなるため、製造効率の面で望ましくない。また、0.4を超えると、金属化合物原料を分散させる溶融塩の量が不足し、溶融塩中でリチウム金属複合酸化物が凝集したり粒成長したりすることがあるため望ましくない。
【0028】
溶融反応での反応温度は、溶融塩の温度に相当し、溶融塩原料の融点以上である。反応温度は、合成するリチウム含有複合酸化物の構造に応じて適宜選択すればよい。たとえば、スピネル構造のリチウムマンガン系酸化物を合成する場合には、それほど高い反応活性が必要ではないため、300〜550℃程度であればよい。一方、層状岩塩構造のリチウム含有複合酸化物を合成するには、350℃未満では溶融塩の反応活性が十分ではなく層状岩塩構造を有する所望のリチウム金属複合酸化物を高純度で製造することが困難である。また、反応温度が350℃以上であれば、得られる複合酸化物の結晶構造が安定する。したがって、水酸化リチウムと硝酸リチウムとの混合溶融塩であって融点が350℃未満であっても、反応温度は350℃以上とする。好ましい反応温度の下限は、400℃以上、450℃以上、500℃以上さらには550℃以上である。反応温度が高いほど、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物を選択率よく製造することができ、また、結晶性の高いリチウム金属複合酸化物が得られるが、硝酸リチウムは高温(約600℃)になると激しく分解する。そのため、硝酸リチウムを含む溶融塩原料を使用する場合には、500℃以下であれば比較的安定した条件の下でリチウム金属複合酸化物の合成を行うことができる。この反応温度で30分以上さらに望ましくは1〜6時間保持すれば、溶融塩及び金属化合物は十分に反応する。また、溶融反応を酸素含有雰囲気、たとえば大気中、酸素ガス及び/又はオゾンガスを含む雰囲気中で行うと、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物が単相で得られやすい。酸素ガスを含有する雰囲気であれば、酸素ガス濃度を20〜100体積%さらには50〜100体積%とするのがよい。なお、酸素濃度を高くするほど、合成されるリチウム金属複合酸化物の粒子径は小さくなる傾向にある。
【0029】
(接触工程)
接触工程では、リチウム金属複合酸化物を硝酸塩水溶液に接触させる。
【0030】
硝酸塩水溶液は、硝酸塩を含む水溶液である。硝酸塩は、硝酸マグネシウム(Mg(NO
3)
2)、硝酸アルミニウムAl(NO
3)
3などが挙げられるが、中でも、硝酸マグネシウムがよい。硝酸塩が硝酸マグネシウムである場合に、リチウム金属複合酸化物を、Mg(NO
3)
2水溶液に接触させると、リチウム金属複合酸化物の表面にMg(OH)
2やMgOが残り、リチウム金属複合酸化物の安定性が増すからである。
【0031】
硝酸塩水溶液1リットル当たりの硝酸塩のモル濃度は、5mmol/L以上200mmol/L以下であることが好ましい。Mg(NO
3)
2水溶液1リットル当たりの硝酸塩のモル濃度の下限値は、5mmol/L、更には50mmol/Lであることが好ましく、上限値は、200mmol/L、更には100mmol/Lであることが好ましい。このモル濃度が過少の場合には、電極合剤が、時間経過に伴い粘度上昇するおそれがある。このモル濃度が過剰である場合には、電極合剤の初期粘度が増加するおそれがある。
【0032】
リチウム金属複合酸化物を硝酸塩水溶液に接触させる手法について、以下に例示する。
・硝酸塩水溶液にリチウム金属複合酸化物を浸漬し、必要に応じて撹拌機などで撹拌する。その後、フィルターなどの濾過装置で層状化合物を硝酸塩水溶液から分離する。
・硝酸塩水溶液をリチウム金属複合酸化物にシャワー掛けする。
・硝酸塩水溶液の流水中にリチウム金属複合酸化物を置く。
【0033】
いずれの手法でも、リチウム金属複合酸化物1kgに対して、硝酸塩水溶液を3.3リットル以上用いることがよい。好ましくは、リチウム金属複合酸化物1kgに対する硝酸塩水溶液の使用量の下限は1リットル以上、2リットル以上であり、上限は10リットル以下、5リットル以下であることが好ましい。
【0034】
接触工程を行ったリチウム金属複合酸化物には、必要に応じて、乾燥工程を行うとよい。乾燥工程では、接触工程を行ったリチウム金属複合酸化物を乾燥させる。リチウム金属複合酸化物を乾燥させるために、120℃以上300℃以下の温度にリチウム金属複合酸化物を置くとよい。その他、熱風乾燥、冷風乾燥でもよい。熱風乾燥の場合には、おおよそ40〜100℃の熱風を用いるとよい。冷風乾燥の場合には、おおよそ−5〜5℃の冷風を用いるとよい。
【0035】
(混合工程)
混合工程では、上記の接触工程、及び必要に応じて乾燥工程を行ったリチウム金属複合酸化物に、結着剤としてのPVdFを混合して電極合剤を形成する。電極合剤は、流動性をもつスラリー状を呈している。
【0036】
リチウム金属複合酸化物は電極活物質の1種である。リチウム金属複合酸化物は、正極活物質として用いられることが多い。リチウム金属複合酸化物は、混合工程において、他の正極活物質と混合されてもよい。例えば、正極活物質は、リチウム金属複合酸化物と、LiMn
2O
4、Li
2Mn
2O
4等のスピネルとの混合物で構成される固溶体を含んでいてもよい。
【0037】
電極合剤は、電極活物質としてのリチウム金属複合酸化物、結着剤としてのPVdF、及び溶剤、並びに必要に応じて導電助剤を含む。
【0038】
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)は、結着剤としての機能をもつ成分である。電極合剤には、PVdFとともに、ほかの結着剤を含めてもよい。結着剤としては、PVdFの他に、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を含んでいてもよい。
【0039】
電極合剤において、リチウム金属複合酸化物100質量部に対するPVdFの質量比は、2質量部以上5質量部以下であることがよく、更には3質量部以上4質量部以下であることが好ましい。リチウム金属複合酸化物に対するPVdFの質量比が過大である場合には、電極のエネルギー密度が低くなるおそれがある。リチウム金属複合酸化物に対するPVdFの質量比が過少である場合には、電極の成形性が低下するおそれがある。
【0040】
電極合剤中の、リチウム金属複合酸化物に対するPVdFの配合割合は、質量比で、リチウム金属複合酸化物:PVdF=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましい。PVdFが少なすぎると電極の成形性が低下し、また、PVdFが多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0041】
電極合剤には、更に導電助剤を含めてもよい。導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0042】
電極合剤中の、リチウム金属複合酸化物に対する導電助剤の配合割合は、質量比で、電極活物質:導電助剤=1:0.05〜1:0.3であるのが好ましい。
【0043】
電極合剤に含まれる溶剤は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。溶剤を含む電極合剤全体を100体積%としたときに、溶剤の含有量は、50体積%以上85体積%以下であることが好ましい。
【0044】
接触工程を行ったリチウム金属複合酸化物、PVdF及び溶剤、並びに必要に応じて導電助剤を加えて混合してスラリー状とすることで、電極合剤が得られる。
【0045】
電極合剤の粘度は、25000mPA・s以下であることがよく、更には15000mPA・s以下、10000mPA・s以下であることが好ましい。電極合剤の粘度が過剰に高い場合には、集電体への塗布のときに、塗布終端部に尾引きが生じるなどして、塗布時の取り扱い性が低下するおそれがある。
【0046】
(電極)
上記で製造された電極合剤が集電体の表面に塗布されることで、電極が形成される。集電体の表面に電極合剤を塗布する方法には、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法が挙げられる。電極合剤は、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0047】
集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はない。集電体は、非水系二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0048】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
(電池)
上記のように本発明の製造方法により製造された電極は、他方の電極及び電解質とともに電池を構成する。上記のように本発明の製造方法により製造された電極は、正極として用いられることが多く、負極と電解質とともに電池を構成することができる。特に、二次電池を構成することができ、電解質として非水系電解液を用いる場合には非水系二次電池を構成することができる。
【0050】
上記のように本発明の製造方法により製造された電極が正極である場合、非水系二次電池に用いられる負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極合剤を有する。
【0051】
負極活物質としては、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO
x(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb
2O
5、TiO
2、Li
4Ti
5O
12、WO
2、MoO
2、Fe
2O
3等の酸化物、又は、Li
3−xM
xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0052】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極合剤を有する。負極の集電体は、例えば、正極の集電体で説明したものを採用できる。
【0053】
負極合剤は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
【0054】
負極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、正極の集電体で説明したものを採用できる。負極の結着剤および導電助剤は正極で説明したものを採用できる。
【0055】
非水系二次電池には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンなどの金属イオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。電解液は粘度がやや高く極性が高いため、水などの極性溶媒が浸み込みやすい膜が好ましい。具体的には、存在する空隙の90%以上に水などの極性溶媒が浸み込む膜がさらに好ましい。
【0056】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えて非水系二次電池とするとよい。また、本発明の非水系二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0057】
本発明の非水系二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0058】
本発明の非水系二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部に非水系二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に非水系二次電池を搭載する場合には、非水系二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。非水系二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の非水系二次電池は、風量発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【実施例】
【0059】
(比較例1)
まず、溶融塩法で合成されたリチウム金属複合酸化物LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2(NCM)を準備した。LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2は、層状岩塩構造をもつ。LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2(NCM)、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を、質量比で、NCM:AB:PVdF:NMP=54.2:1.8:3:41の割合で混合して、正極用スラリー(電極合剤)を作製した(混合工程)。得られた正極用スラリーは比較例1とした。
【0060】
(実施例1)
LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2に、接触工程及び乾燥工程を行った。接触工程では、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2をMg(NO
3)
2水溶液で洗浄した。Mg(NO
3)
2水溶液は、水にMg(NO
3)
2を溶解させている。Mg(NO
3)
2水溶液のMg(NO
3)
2濃度は5mM(5mmol/L)であった。Mg(NO
3)
2水溶液(常温)0.2リットルをビーカーに入れた。Mg(NO
3)
2水溶液1リットル当たりLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を60g投入し、撹拌器で10分間撹拌した。
【0061】
次に、Mg(NO
3)
2水溶液をフィルターに通過させて、Mg(NO
3)
2水溶液に含まれているLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2をろ別した。
【0062】
乾燥工程において、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を150℃、1時間の条件で乾燥させた。
【0063】
乾燥後のLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を、比較例1と同様の混合工程を行って、正極用スラリーを得た。得られた正極用スラリーは実施例1とした。
【0064】
(実施例2)
実施例2では、Mg(NO
3)
2水溶液のMg(NO
3)
2濃度が50mMである点を除いて、実施例1と同様に正極用スラリーを作成した。
【0065】
(実施例3)
実施例2では、Mg(NO
3)
2水溶液のMg(NO
3)
2濃度が100mMである点を除いて、実施例1と同様に正極用スラリーを作成した。
【0066】
(実施例4)
実施例2では、Mg(NO
3)
2水溶液のMg(NO
3)
2濃度が200mMである点を除いて、実施例1と同様に正極用スラリーを作成した。
【0067】
(実施例5)
実施例2では、Mg(NO
3)
2水溶液のMg(NO
3)
2濃度が500mMである点を除いて、実施例1と同様に正極用スラリーを作成した。
【0068】
(粘度測定)
実施例1〜5及び比較例1の正極用スラリーの初期粘度と2日(48時間)経過後の粘度を測定した。粘度は、B型粘度計により測定した。その結果を表1に示した。表1において、「水溶液中のMg(NO
3)
2濃度」は、Mg(NO
3)
2水溶液1リットル当たりに溶解しているMg(NO
3)
2のモル濃度を示している。「初期粘度」は、リチウム金属複合酸化物に、AB、PVdF及びNMPを混合して正極用スラリーを作製した直後の正極用スラリーの粘度を示している。「2日後粘度」は、AB、PVdF及びNMPを混合して正極用スラリーを作製してから2日経過したときの正極用スラリーの粘度を示している。「粘度上昇率(%)」は、100×(2日後粘度―初期粘度)/初期粘度から算出される。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、接触工程を行った実施例1〜5は、接触工程を行わなかった比較例1に比べて、粘度上昇率が低かった。実施例1〜3は、比較例1に比べて2日後粘度が低かった。実施例1、2は、比較例1に比べて初期粘度も低かった。水溶液中のMg(NO
3)
2濃度が高くなるに従って、初期粘度及び2日後粘度も上昇した。このことから、リチウム金属複合酸化物はMg(NO
3)
2水溶液で洗浄することで、粘度上昇が抑制できること、Mg(NO
3)
2水溶液中のMg(NO
3)
2濃度は5mM以上100mM以下であることで、粘度上昇を効果的に抑制できることがわかった。
【0071】
また、上記比較例1及び各実施例で用いるリチウム金属複合酸化物LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2は、溶融塩法で作製した市販品を購入したものであるが、溶融塩法で合成したもので同様の測定を行った。溶融塩法で合成するときに溶融塩原料としてリチウムを用い、金属化合物原料に含まれるリチウムとあわせて、原料全体で、合成物であるリチウム金属複合酸化物の理論モル比よりも過剰のリチウムを用いている。合成されたリチウム金属複合酸化物では、溶融塩原料と金属化合物原料とをあわせて、モル比で、Li:Ni:Co:Mn=1.0:0.5:0.2:0.3を有する原料を用いて、溶融反応を行った。反応温度は、500〜700℃で、反応時間は1〜6時間とした。溶融反応後に、冷却して、リチウム金属複合酸化物LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を得た。この合成されたリチウム金属複合酸化物を用いて、実施例1〜5と同様の濃度のMg(NO
3)
2水溶液で洗浄し、乾燥し、PVdF、AB、及びNMPと混合して、正極用スラリーを得た。Mg(NO
3)
2水溶液での洗浄を行わないリチウム金属複合酸化物についても、同様に正極用スラリーを作製した。これらの正極用スラリーについて上記と同様の粘度測定を行ったところ、Mg(NO
3)
2水溶液での洗浄を行った方が、Mg(NO
3)
2水溶液での洗浄を行わなかった場合に比べて粘度上昇が抑えられる傾向があった。