特許第6176683号(P6176683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6176683
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】組換え偏性嫌気性グラム陽性菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20170731BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20170731BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170731BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170731BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20170731BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C07K16/28
   A61K39/395 E
   A61K39/395 T
   A61P35/00
   A61K48/00
   A61K35/74 A
   A61P43/00 111
   !C12N15/00 A
   !C07K19/00
【請求項の数】8
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-556763(P2015-556763)
(86)(22)【出願日】2014年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2014084038
(87)【国際公開番号】WO2015104994
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2016年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-3441(P2014-3441)
(32)【優先日】2014年1月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597023558
【氏名又は名称】学校法人帝京平成大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100180954
【弁理士】
【氏名又は名称】漆山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】西川 毅
(72)【発明者】
【氏名】平 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】平 郁子
(72)【発明者】
【氏名】石田 功
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/126073(WO,A1)
【文献】 特表2013−519364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シグナルペプチド、並びに3つ以上の抗TRAIL-R1単鎖抗体及び/又は3つ以上の抗TRAIL-R2単鎖抗体を含む融合タンパク質をコードする核酸を発現可能な状態で含む組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
【請求項2】
偏性嫌気性グラム陽性菌がビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)である、請求項1に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
【請求項3】
抗TRAIL-R1単鎖抗体が、
CDR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列からなり
CDR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列からなり、及び
CDR3が配列番号24で示されるアミノ酸配列からなる
請求項1又は2に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
【請求項4】
抗TRAIL-R2単鎖抗体が、
CDR1が配列番号15で示されるアミノ酸配列からなり
CDR2が配列番号16で示されるアミノ酸配列からなり、及び
CDR3が配列番号17で示されるアミノ酸配列からなる
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
【請求項5】
前記融合タンパク質が、さらに機能性ペプチドを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
【請求項6】
機能性ペプチドが、標識タンパク質である、請求項5に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌を有効成分とする抗腫瘍剤。
【請求項8】
CDR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列からなり
CDR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列からなり、及び
CDR3が配列番号24で示されるアミノ酸配列からなる
抗TRAIL-R1単鎖抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え偏性嫌気性グラム陽性菌を有効成分とする抗腫瘍剤及び腫瘍検出用マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
TRAIL(TNF-related apoptosis-inducing ligand)は、TNFスーパーファミリーに属し、さまざまながん細胞に細胞死(アポトーシス)を誘導するタンパク質である。TRAILは、生体内では3量体を形成し、細胞内にデスドメインをもつTRAIL受容体(TRAIL-R1、TRAIL-R2)に結合する。TRAILが結合するとTRAIL受容体は凝集して3量体を形成し、それによって、細胞死シグナルを細胞内に伝達することが知られている。TRAILの受容体には、前記TRAIL-R1、TRAIL-R2以外にもTRAIL-R3、TRAIL-R4、及び可溶型受容体であるオステオプロテゲリンが知られている(図1)。TRAIL-R3、TRAIL-R4、及びオステオプロテゲリンはデスドメインを完全、もしくは部分的に欠失しており、これらの受容体はTRAILが結合しても細胞死を誘導しないことから、おとり受容体と呼ばれている。
【0003】
TRAILは、正常細胞には細胞死を起こしにくいことから、抗腫瘍薬として開発が進められている。しかしながら、TRAILを利用してがん細胞に細胞死を効率的に誘導させるためには、前記おとり受容体に結合することなく、TRAIL-R1及びTRAIL-R2に効率的に結合し、細胞内に細胞死シグナルを伝達するシステムを開発する必要がある。TRAIL-R1及びTRAIL-R2に対する作動性(アゴニスト)抗体は、上記おとり受容体に結合しないため、TRAILよりも効果的に細胞死を誘導でき、また血中の半減期が長いため、投与間隔を長くできる。それ故に、これらの抗体は現在臨床段階にある(非特許文献1)。しかしながら、HGS-ETR1(抗hTRAIL(ヒトTRAIL)-R1作動性抗体)及びHGS-ETR2(抗hTRAIL-R2作動性抗体)は、二価であるため、Fc受容体を持ったNK細胞やマクロファージによる抗体のクロスリンクなしに、TRAIL受容体の3量体形成を誘導することができない(図2a)。そのため、これらの抗体は臨床試験では顕著な治療効果が見られないという問題があった(非特許文献2)。
【0004】
NK細胞やマクロファージの関与なしに直接がん細胞膜上のhTRAIL-R2分子を凝集させて細胞死シグナルを伝えることができる強力なアゴニスト抗体としてHGS-TR2J(KMTR2)が知られている(非特許文献3)(図2b)。また、hTRAIL-R2に対するラマ一本鎖VHH抗体の3〜5量体が、NK細胞やマクロファージの関与なしに、hTRAIL-R2発現がん細胞に対して非常に強力な細胞死を誘導することも知られている(特許文献1)(図3)。一方、hTRAIL-R1及びhTRAIL-R2はがん細胞だけでなく、さまざまなヒト正常組織に発現しており、特に、ヒト正常肝細胞はhTRAIL、抗hTRAIL-R作動性抗体に感受性であるため(非特許文献4及び非特許文献5)、hTRAIL-R作動性抗体は、副作用として肝障害を引き起こすと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】PCT WO/2011/098520
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ghobrialら, 2005, CA Cancer J Clin., 55(3), pp. 178-194
【非特許文献2】Micheauら, 2013, Br J Pharmacol., 169(8), pp.1723-1744
【非特許文献3】Motokiら, 2005, Clin Cancer Res., 11(8), pp.3126-3135
【非特許文献4】Joら, 2000, Nat Med., 6(5), pp.564-567
【非特許文献5】Moriら, 2004, Cell Death Differ., 11(2), pp.203-207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗TRAIL-R1抗体及び抗TRAIL-R2抗体によって効果的ながん細胞死を誘導すると同時に、正常細胞への毒性を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明者は、強力なアゴニスト活性を有する抗hTRAIL-R2 VHH抗体を発現し、分泌するビフィズス菌を作製して、この組換えビフィズス菌の静脈内投与によって腫瘍局所でのがん細胞死を誘導できることを初めて明らかにした。また、本発明者は、がん細胞膜上のhTRAIL-R1分子を認識できる新規な抗hTRAIL-R1 VHH抗体を取得した。本発明により、強力なアゴニスト活性を有する抗hTRAIL-R1及び抗hTRAIL-R2抗体の腫瘍部位局所投与によって、正常細胞への毒性を軽減しながら、効果的にがん細胞死を誘導することが可能となる。
【0009】
本発明は、当該研究結果に基づくものであって、具体的には以下の発明を提供する。
(1)シグナルペプチド、並びに3つ以上の抗TRAIL-R1単鎖抗体及び/又は3つ以上の抗TRAIL-R2単鎖抗体を含む融合タンパク質をコードする核酸を発現可能な状態で含む組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
(2)偏性嫌気性グラム陽性菌がビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)である、(1)に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
(3)抗TRAIL-R1単鎖抗体が、
CDR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含み、
CDR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含み、及び
CDR3が配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、
(1)又は(2)に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
(4)抗TRAIL-R2単鎖抗体が、
CDR1が配列番号15で示されるアミノ酸配列を含み、
CDR2が配列番号16で示されるアミノ酸配列を含み、及び
CDR3が配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む、
(1)〜(3)のいずれかに記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
(5)前記融合タンパク質が、さらに機能性ペプチドを含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
(6)機能性ペプチドが、標識タンパク質である、(5)に記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の組換え偏性嫌気性グラム陽性菌を有効成分とする抗腫瘍剤。
(8)CDR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含み、
CDR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含み、及び
CDR3が配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、
抗TRAIL-R1抗体。
【0010】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2014-003441号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、強力なアゴニスト活性を有する抗hTRAIL-R1及び抗hTRAIL-R2抗体の腫瘍部位局所投与によって、正常細胞への毒性を軽減しながら、効果的ながん細胞死を誘導することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、TRAIL及びその受容体の構造と、細胞死誘導のシグナル伝達の概略図である。
図2図2は、TRAIL-Rに対する通常の抗体aとアゴニスト活性を持つ抗体bとの細胞死シグナルの細胞内伝達の相違を示す概略図である(通常の抗体の場合、TRAILを介するアポトーシスにNK細胞やマクロファージcによるクロスリンクを必要とする。KMTR2抗体の場合、TRAILを介するアポトーシスにNK細胞やマクロファージによるクロスリンクを必要としない)。
図3図3は、一本鎖VHH抗体の3〜5量体(この図ではVHH4)が、NK細胞やマクロファージによるクロスリンクなしにhTRAIL-R発現がん細胞に対してアポトーシスを誘導することを示す概略図である。
図4図4は、精製hTRAIL-R1:Fc(a)、hTRAIL-R2:Fc(b(1))、及びmTRAIL(マウスTRAIL)-R2:Fc(b(2))のSDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)像を示す。
図5図5は、精製した4E6モノマーのSDS-PAGE像を示す。矢印が4E6モノマーを示す。
図6図6は、4E6モノマーのhTRAIL-R2:Fc抗原への結合活性のELISAによる測定結果を示す。
図7図7は、4E6モノマーとhTRAIL-R2:Fc抗原の解離定数のBiacore X-100による測定結果を示す。
図8図8は、精製した4P6モノマーのSDS-PAGE像を示す。
図9図9は、4P6モノマー及び4E6モノマーの結合特異性のELISAによる解析結果を示す。
図10図10は、4P6モノマーとhTRAIL-R1:Fc抗原の解離定数のBiacore X-100による測定結果を示す。
図11図11は、4P6モノマー及び4E6モノマーのアンタゴニスト活性を示す。
図12図12は、大腸菌で発現させた4E6ダイマーToxin(a)、4E6ダイマーEGFP(b)、及び4E6テトラマー(c)の遺伝子構造の模式図である。
図13図13は、精製した大腸菌発現組換えタンパク質(a:4E6ダイマーToxin、b: 4E6ダイマーEGFP、及びc:4E6テトラマー)のSDS-PAGE像を示す。
図14図14は、ヒト大腸がん細胞Colo205細胞に対する組換えタンパク質(a:4E6ダイマーToxin及び4E6ダイマーEGFP並びにb:4E6モノマー及び4E6テトラマー)の細胞死誘導活性を示す。
図15図15は、4E6ダイマーEGFPによるがん細胞(a:Colo205細胞及びb:BxPC-3細胞)の蛍光染色を示す。縦軸は細胞数、横軸は、4E6ダイマーEGFPの蛍光強度を示す。
図16図16は、大腸菌で発現した抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)のヒト大腸がん細胞Colo205細胞(a)及び膵臓がん細胞BxPC-3細胞(b)に対する細胞死誘導作用を示す。
図17図17は、ビフィズス菌培養上清1mLから精製した4E6テトラマー、及び4E6ダイマーEGFPのSDS-PAGE像を示す。4E6テトラマーは3クローン、4E6ダイマーEGFPは2クローンの結果を示す。
図18図18は、ビフィズス菌培養上清から精製した4E6テトラマー(4E6テトラマー)のColo205細胞に対するがん細胞死誘導活性を示す。
図19図19は、Colo205細胞を移植したヌードマウスにおける4E6テトラマー分泌ビフィズス菌の抗腫瘍効果を示す。腫瘍体積はmm3で、平均値+標準誤差(n=6)で示す。
図20図20は、Colo205細胞を移植したヌードマウスにおいて4E6 テトラマー分泌ビフィズス菌を投与したときの体重変化を示す。体重は、平均値+標準偏差(n=6)で示す。
図21図21は、BxPC-3細胞を移植したヌードマウスにおける4E6 テトラマー分泌ビフィズス菌の抗腫瘍効果を示す。腫瘍体積はmm3で、平均値+標準誤差(n=6)で示す。
図22図22は、BxPC-3細胞を移植したヌードマウスにおいて4E6 テトラマー分泌ビフィズス菌を投与したときの体重変化を示す。体重は、平均値+標準偏差(n=6)で示す。
図23図23は、精製した大腸菌発現組換えタンパク質(4P6トリマー)のSDS-PAGE像を示す。
図24図24は、大腸菌で発現した抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)のヒト大腸がん細胞Colo205細胞に対する細胞死誘導作用を示す。
図25図25は、ビフィズス菌培養上清から精製した4P6トリマーのSDS-PAGE像を示す。
図26図26は、ビフィズス菌培養上清から精製した抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)のヒト大腸がん細胞Colo205細胞(a)及び膵臓がん細胞BxPC-3細胞(b)に対する細胞死誘導作用を示す。
図27図27は、BxPC-3-Luc#2細胞を移植したヌードマウスにおける4P6 トリマー分泌ビフィズス菌の抗腫瘍効果を示す。腫瘍体積はmm3で、平均値+標準誤差(n=5)で示す。
図28図28は、BxPC-3-Luc#2細胞を移植したヌードマウスにおいて4P6 トリマー分泌ビフィズス菌を投与したときの体重変化を示す。体重は、平均値+標準誤差(n=5)で示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下で本発明について具体的に説明をする。
1.組換え偏性嫌気性グラム陽性菌
【0014】
1−1.概要及び定義
本発明の第1の態様は、組換え偏性嫌気性グラム陽性菌(以下、しばしば「組換え細菌」と略称する)である。本発明の組換え細菌は、融合タンパク質をコードする核酸を発現可能な状態で含む薬剤送達用の担体である。
【0015】
「偏性嫌気性グラム陽性菌」とは、グラム陽性菌に分類される偏性嫌気性菌をいう。ここで、「偏性嫌気性菌」とは、絶対嫌気性菌とも呼ばれ、高酸素存在下では増殖できず、死滅する性質を有する細菌をいう。したがって、哺乳動物の体内においては、低酸素で嫌気状態の消化器官内、主として腸内では増殖可能であるが、溶存酸素の存在する血液等の体液中や通常の組織内では増殖することができない。「グラム陽性菌」とは、グラム染色により紫色又は紺色に染色される細菌の総称である。グラム陽性菌には、桿菌、球菌、らせん菌が知られるが、本明細書では特に限定はしない。グラム陽性菌は、内毒素(エンドトキシン)を含まないことから、死後も内毒素を放出しない。それ故、安全性の面で本発明の薬剤送達用担体として好ましい。本発明の組換え細菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)(本明細書では、以下ビフィドバクテリウム属を総称して「ビフィズス菌」と呼ぶ)、クロストリジウム属(Clostridium)が該当し得る。好ましくはビフィズス菌である。これは、ビフィズス菌が外毒素(エキソトキシン)を分泌せず、また乳酸菌として日常的に利用されており、人体等に対する安全性が確認されているからである。ビフィズス菌は、いずれの種であってもよいが、好ましくは人間の腸管内に生息する種類、具体的には、B.ビフィドゥム(B. bifidum)、B.ロンガム(B. longum)、B.ブレイブ(B. brave)、B.インファンティス(B. infantis)及びB.アドレセンティス(B.adolescentis)である。
【0016】
1−2.構成
本発明の偏性嫌気性グラム陽性菌は、融合タンパク質をコードする核酸(以下、しばしば「融合遺伝子」とする)を発現可能な状態で含む。以下、本発明の組換え細菌を特徴付ける融合遺伝子及びそれを発現可能な状態にする発現カセットの構成について具体的に説明をする。
【0017】
1−2−1.融合遺伝子の構成
本明細書において「融合タンパク質をコードする核酸(融合遺伝子)」とは、遺伝子組換え技術によって複数の遺伝子等を融合して構築された、融合タンパク質をコードする外来性核酸をいう。融合遺伝子は、後述する発現カセット内に挿入された状態で本発明の組換え細菌内に導入されている。
【0018】
本明細書において「融合タンパク質」とは、シグナルペプチド、3つ以上の単鎖抗体、及び任意に機能性ペプチドを含み、それらを連結した細胞外分泌性タンパク質である。シグナルペプチド、単鎖抗体及び機能性ペプチドは、直接連結されていてもよいし、リンカーペプチドを介して間接的に連結されていてもよい。リンカーペプチドの長さやアミノ酸配列は、単鎖抗体及び機能性ペプチドのそれぞれの機能を阻害しなければ、特に限定はしない。例えば、20アミノ酸以下、又は15アミノ酸以下で自己フォールディングしないアミノ酸配列等が好適である。本発明に用いられるリンカーペプチドとして、例えば、IEGRMDリンカーペプチド(配列番号27)及び(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)が挙げられる。以下、融合タンパク質を構成するシグナルペプチド、単鎖抗体及び機能性ペプチドについて、具体的に説明をする。
【0019】
(1)シグナルペプチド
シグナルペプチドは、細胞内で生合成されたタンパク質の細胞外移行に必要なペプチドである。通常、N末端側にLys及びArgのような正電荷を有するアミノ酸を配し、それに続いてAla、Leu、Val、Ile、Val、及びPheのような疎水性の高いアミノ酸配列を配する。また、シグナルペプチドのC末端側には、シグナルペプチドの切断と分泌を促進するシグナル配列後挿入配列及び/又は融合タンパク質からシグナルペプチドを切断するシグナルペプチダーゼ認識部位を含むアミノ酸配列を有していてもよい。シグナルペプチドは、本発明の細菌内で発現された前記融合タンパク質を、膜に存在するトランスロケーター等を介して細胞外に分泌する機能を担う。シグナルペプチドのアミノ酸配列は、特に限定はしない。偏性嫌気性グラム陽性菌内で機能し得る公知のあらゆるシグナル配列のアミノ酸配列を利用することができる。また、シグナルペプチドのアミノ酸長も、特に限定はしない。通常は、3アミノ酸〜60アミノ酸の範囲内にあればよい。ただし、融合タンパク質の分子量が大きくなりすぎないようにするためアミノ酸長の短いシグナルペプチドが好ましい。
【0020】
シグナルペプチドは、融合タンパク質のN末端側に配置する。
【0021】
(2)単鎖抗体
前記融合タンパク質には、3つ以上の単鎖抗体が含まれる。本明細書において「単鎖抗体」とは、一本鎖ポリペプチドで構成され、かつ単体で標的物質を認識し、結合することのできる抗体をいう。二本鎖以上で構成される抗体は、分子量的に大き過ぎるため偏性嫌気性グラム陽性菌内では発現しない可能性や、抗体機能を有する適切な立体構造が構築されない可能性が高いためである。したがって、本発明の単鎖抗体は、1つあたりの分子量が35kDa以下の低分子抗体であることが好ましい。天然抗体及び人工抗体は、問わない。
【0022】
本発明の単鎖抗体は、典型的に、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)からなる可変領域で構成される。相補性決定領域は、可変性を示して抗体に結合特異性を付与する領域である。一方、フレームワーク領域は、可変領域の相対的に保存されている部分である。完全な可変ドメインは3つのCDRにより連結された4つのFRを含む。3つのCDRはそのN末から順にCDR1、CDR2、及びCDR3と呼ばれ、4つのFRはそのN末から順にFR1、FR2、FR3、及びFR4と呼ばれている。従って、可変領域において、前記CDRとFRは、アミノ酸末端からカルボキシ末端方向にFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の順序で配列される。
【0023】
本明細書で「天然抗体」とは、いずれかの脊椎動物が産生する抗体と同一のアミノ酸配列を有する抗体をいう。天然抗体の単鎖抗体の具体例としては、例えば、ラクダ科の動物が産生する一本鎖抗体が挙げられる(Hamers-Casterman C., et al., 1993, Nature 363: 446-448)(以下、本明細書では「ラクダ科一本鎖抗体」とする)。ラクダ科一本鎖抗体は、L鎖がなくH鎖のみで構成される抗体であり、H鎖のVH領域のみで抗原と結合できるため、分子量は、約14kDaと、通常の抗体の10分の1程度しかない。また、一般に抗原親和性が高く、熱、酸及び塩基に対する耐性が高いという性質がある(Deffar, K., et al., 2009, African Journal of Biotechnology 8 (12): 2645-2652)。それ故、本発明における単鎖抗体として非常に好適である。ラクダ科の動物種は、ラクダ科一本鎖抗体を産生できれば、その種類は問わない。例えば、ラマ、アルパカ、ラクダ等のいずれの動物種由来の抗体も利用することができる。
【0024】
本明細書で「人工抗体」とは、人工的に構築された抗体である。例えば、前記天然抗体のアミノ酸配列に適当な変異を導入した単鎖抗体の他、天然界には原則存在しない構造上の改変を行った単鎖抗体が挙げられる。このような人工抗体の具体例として、キメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖Fv(scFv :single chain Fragment of variable region)(Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995, Pierce Chemical Co., Rockford, IL)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。
【0025】
「キメラ抗体」とは、抗体分子の可変領域と定常領域が、それぞれ異種の動物に由来する抗体をいう。キメラ抗体の作製は公知の方法を用いて行うことができ、例えば、抗体V領域をコードする核酸とヒト抗体C領域をコードする核酸とを連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入して産生させることにより得られる。
【0026】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。
【0027】
一本鎖Fvは、免疫グロブリン分子において、L鎖とH鎖に位置する可変領域(すなわち、それぞれVL及びVH)を十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する、分子量約35kDa以下の合成抗体である。一本鎖Fv内において両可変領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。
【0028】
前記融合タンパク質において、単鎖抗体は、TRAILを凝集させ3量体を形成させるために、3つ以上含まれていなければならない。ただし、抗体数が多くなると融合タンパク質の分子量が大きくなるため、通常は、数個、例えば3〜6個、3〜5個又は3〜4個が好ましい。個々の単鎖抗体は、適当なリンカーペプチドで連結されていることが望ましい。リンカーペプチドの長さやアミノ酸配列は、それぞれの単鎖抗体の抗原結合活性を阻害しなければ、特に限定はしない。
【0029】
前記融合タンパク質は、同一の抗原を認識する単鎖抗体を3つ以上含む。例えば、hTRAIL-R1を抗原とする場合、前記融合タンパク質は、いずれも同一のhTRAIL-R1を認識する単鎖抗体を3つ以上含む。
【0030】
本発明において、抗体の「価」とは、抗体1分子が有する抗原結合部位の数をいう。例えば、IgGは1分子に2つの抗原結合部位を有する2価の抗体である。上記単鎖抗体は、1分子あたり1つの抗原結合部位を有する1価の抗体である。本発明の融合タンパク質は、3つ以上の単鎖抗体を含むことから、全体として3価以上である。
【0031】
単鎖抗体は、融合タンパク質において、シグナルペプチドのC末端側であれば、後述する機能性ペプチドとの順序は特に制限はしないが、機能性ペプチドのN末端側に配置することが好ましい。
【0032】
本発明における単鎖抗体の標的物質は、TRAIL-R1又はTRAIL-R2である。前述のように本発明の組換え細菌は、嫌気性環境下でのみ増殖可能であることから、生体内において嫌気的環境下となる細胞が標的細胞として好適である。具体的には、好適な標識細胞として、腫瘍細胞又は腸管上皮細胞が挙げられる。以下、抗TRAIL-R1抗体及び抗TRAIL-R2抗体について、具体的に説明する。
【0033】
(i)抗TRAIL-R1抗体
本発明において、「抗TRAIL-R1単鎖抗体」とは、TRAIL-R1(TNF-related apoptosis-inducing ligand receptor 1、TRAIL受容体1)に対する単鎖抗体をいう。本発明に用いる抗TRAIL-R1単鎖抗体は、TRAIL-R1に特異的に結合するものであれば、特に限定しない。本発明に用いられる抗TRAIL-R1単鎖抗体として、例えば本明細書の実施例で取得し、使用した4P6が挙げられる。4P6は、アルパカ由来の一本鎖VHH抗体であり、CDR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含み、CDR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含み、及びCDR3が配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む。本発明で用いる抗TRAIL-R1単鎖抗体のフレームワーク領域の配列は特に限定しないが、例えば、Maass D.R., et al., 2007, J Immunol Methods. 324: 13-25に記載されているアルパカ単鎖抗体(例えば、上記文献に記載のClone A02)のフレームワーク領域の配列を用いる事ができる。したがって、抗TRAIL-R1単鎖抗体は、限定するものではないが、例えば、FR1が配列番号18で示されるアミノ酸配列を含み、FR2が配列番号19で示されるアミノ酸配列を含み、FR3が配列番号20で示されるアミノ酸配列を含み、及びFR4が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含んでよい。
【0034】
本発明に用いる融合タンパク質は、特に、TRAIL-R1に結合して、アポトーシスを誘導するアゴニスト活性を有することが望ましい。TRAIL-R1は3量体以上に凝集することでアポトーシスを誘導するため、TRAIL-R1を活性化させるために、前記融合タンパク質が、前述したように3つ以上、4つ以上、5つ以上、又は6つ以上、例えば3つ、4つ、5つ、又は6つの抗TRAIL-R1単鎖抗体を含むのが特に好ましい。
【0035】
本発明の一態様として、CDR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含み、CDR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含み、及びCDR3が配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、抗TRAIL-R1抗体が挙げられる。該抗体のフレームワーク領域の配列は特に限定しないが、例えば、上記のMaass D.Rの文献に記載された配列を用いてよく、したがって、FR1が配列番号18で示されるアミノ酸配列を含み、FR2が配列番号19で示されるアミノ酸配列を含み、FR3が配列番号20で示されるアミノ酸配列を含み、及びFR4が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含んでよい。TRAIL-R1を活性化させるために、該抗体は3価以上であるのが好ましい。また、該抗体は上記のような人工抗体、例えばキメラ抗体又はヒト化抗体であってよい。
【0036】
TRAIL-R1に対する作動性抗体は、TRAIL-R1を介してアポトーシスを誘導するため、本発明の抗体はアポトーシス誘導剤として使用することができる。
【0037】
(ii)抗TRAIL-R2抗体
本発明において、「抗TRAIL-R2単鎖抗体」とは、TRAIL-R2(TNF-related apoptosis-inducing ligand receptor 2、TRAIL受容体2)に対する単鎖抗体をいう。本発明に用いる抗TRAIL-R2単鎖抗体は、TRAIL-R2に特異的に結合するものであれば、特に限定しない。本発明に用いられる抗TRAIL-R2単鎖抗体として、例えば、上記文献WO2011/098520に記載されている4E6が挙げられる。4E6は、ラマ一本鎖VHH抗体であり、CDR1が配列番号15で示されるアミノ酸配列を含み、CDR2が配列番号16で示されるアミノ酸配列を含み、及びCDR3が配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む。
【0038】
本発明に用いる融合タンパク質は、特に、TRAIL-R2に結合して、アポトーシスを誘導するアゴニスト活性を有することが望ましい。TRAIL-R2は3量体以上に凝集することでアポトーシスを誘導するため、TRAIL-R2を活性化させるために、前記融合タンパク質が、前述したように3つ以上、4つ以上、5つ以上、又は6つ以上、例えば3つ、4つ、5つ、又は6つの抗TRAIL-R2単鎖抗体を含むのが特に好ましい。
【0039】
TRAIL-R2に対する作動性抗体は、TRAIL-R2を介してアポトーシスを誘導するため、本発明の抗体はアポトーシス誘導剤として使用することができる。
【0040】
(3)機能性ペプチド
前記融合タンパク質には、任意に機能性ペプチドが含まれる。本明細書において「機能性ペプチド」とは、生体内又は細胞内において、特定の生物活性、例えば、酵素活性、触媒活性、基質としての機能、又は生物学的阻害若しくは亢進機能(例えば、細胞傷害活性)を有するペプチドをいう。具体的には、例えば、蛍光タンパク質若しくは発光タンパク質、酵素、又は外毒素が挙げられる。
【0041】
機能性ペプチドの由来する生物種は問わない。また、機能性ペプチドは、天然型又は非天然型のいずれであってもよい。天然型の機能性ポリペプチドとは、天然界に存在するペプチドをいう。一方、非天然型の機能性ポリペプチドとは、天然型の機能性ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて、その機能性ペプチドが有する特有の機能を失わない範囲においてアミノ酸配列に適当な変異(アミノ酸の付加、欠失、置換を行ったもの)を導入した改変ペプチドをいう。
【0042】
前記融合タンパク質において、機能性ペプチドは二以上含まれていてもよい。ただし、複数の機能性ペプチドを含む場合、融合タンパク質全体の分子量が大きくなり過ぎることから、機能性ペプチドの総分子量は、80kDa以下、好ましくは40kDa以下とするのがよい。二以上の機能性ペプチドを包含する場合、それぞれの機能性ペプチドの種類は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、外毒素と酵素、又は外毒素と蛍光タンパク質又は発光タンパク質を組み合わせた機能性ペプチドが挙げられる。二以上の機能性ペプチドを包含する場合、個々の機能性ペプチドは、直接連結されていてもよいが、それぞれの機能性ペプチドが独自の機能を効率的に発揮し得るように適当なリンカーペプチドで連結されていることが好ましい。リンカーペプチドの長さやアミノ酸配列は、機能性ペプチドの機能を阻害しなければ、特に限定はしない。二以上の異なる機能性ペプチドを1つの融合タンパク質に包含させることによって、単鎖抗体が認識する標的物質に対して異なる機能を付与することが可能となる。
【0043】
機能性ペプチドは、融合タンパク質において、シグナルペプチドのC末端側であれば、特に制限はしないが、前記単鎖抗体のC末端側に配置することが好ましい。
【0044】
以下、本発明の組換え細菌において、機能性ペプチドとして働き得る、上述の蛍光タンパク質若しくは発光タンパク質、酵素、又は外毒素について具体的に説明をする。
【0045】
(i)蛍光タンパク質又は発光タンパク質(標識タンパク質)
機能性ペプチドとしての蛍光タンパク質の種類は、塩基配列が既知であれば特に問わない。上記天然型及び非天然型のいずれであってもよい。ただし、上記理由からアミノ酸長の短いものが好ましい。また、励起波長、蛍光波長も特に限定はしない。これらの波長は、状況及び必要に応じて適宜選択すればよい。具体的な蛍光タンパク質としては、例えば、CFP、RFP、DsRed、YFP、PE、PerCP、APC、GFP等が挙げられる。
【0046】
また、発光タンパク質についても、塩基配列が既知であればその種類は、特に問わない。上記蛍光タンパク質と同様に、天然型及び非天然型のいずれであってもよいが、アミノ酸長の短いものが好ましい。具体的な発光タンパク質としては、例えば、イクオリン等が挙げられる。
【0047】
(ii)酵素
機能性ペプチドとしての酵素の種類は、塩基配列が既知であれば特に問わない。標的物質に対して直接作用する酵素であってもよいし、標的物質に対して直接作用はせず、その周辺で機能する酵素であってもよい。後者の具体的な例としては、発光に寄与するルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ)等が挙げられる。前記単鎖抗体に酵素が連結された融合タンパク質は、イムノエンザイム(免疫酵素)として機能し得る。
【0048】
(iii)外毒素
「外毒素」(エキソトキシン)とは、細菌が菌体外に分泌する毒性タンパク質である。外毒素は、細胞傷害活性を有し、かつその塩基配列が既知であれば種類は問わない。例えば、緑膿菌毒素(Pseudomonas toxin; PT)及びその派生物、例えば、PTから細胞接着ドメインを除去した外毒素A、ジフテリア毒素(Diphtheria toxin: DT)及びその派生物、並びにリシン(Ricin)及びその派生物が挙げられる(Brinkmann U. & Pastan I., 1994, Biochimica et Biophysica Acta, 1198(1):27-45)。緑膿菌外毒素Aは、癌細胞内へ取り込まれた後、EF-2をADPリボシル化して不活性化することでタンパク質合成を阻害し、強い殺細胞効果を発揮することが知られている。前記単鎖抗体に外毒素が連結された融合タンパク質は、イムノトキシン(免疫毒素)として機能し得る。
【0049】
1−2−2.発現カセットの構成
本明細書において「発現カセット」とは、前記融合遺伝子を含み、それを融合タンパク質として発現可能な状態にすることのできる発現システムをいう。本明細書において、「発現可能な状態」とは、当該発現カセットに含まれる融合遺伝子が組換え細菌内で発現可能なように、遺伝子発現に必要なエレメントの制御下に配置されている状態をいう。遺伝子発現に必要なエレメントには、プロモーター及びターミネーターが挙げられる。
【0050】
プロモーターは、組換え細菌内で作動可能なプロモーターであれば、特に制限はしないが、使用する偏性嫌気性グラム陽性菌由来のプロモーターが好ましい。例えば、偏性嫌気性グラム陽性菌にビフィズス菌のB.ロンガムを使用する場合には、B.ロンガムのhup遺伝子プロモーター(配列番号25)が挙げられる。また、プロモーターには、その発現制御の性質により過剰発現型プロモーター、構成的プロモーター、部位特異的プロモーター、段階特異的プロモーター、又は誘導性プロモーター等が知られている。本発明における発現カセットに使用するプロモーターがいずれのプロモーターであるかは、特に限定はしない。必要に応じて適宜選択すればよい。好ましくは、過剰発現型プロモーター又は構成的プロモーターである。前記発現カセットにおいて、プロモーターは、前記融合遺伝子の開始コドンよりも上流の5’側に配置される。
【0051】
ターミネーターは、組換え細菌内で、前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であれば特に限定はしない。例えば、ヒストン様タンパク質ターミネーター(HUT)(配列番号26)が挙げられる。好ましくはプロモーターと同一生物種由来のターミネーターであり、より好ましくはプロモーターが由来する生物種のゲノム上で、そのプロモーターと組となっているターミネーターである。前記発現カセットにおいて、ターミネーターは、前記融合遺伝子の終止コドンよりも下流の3’側に配置される。
【0052】
前記融合タンパク質を組換え細菌内で安定的に発現させるため、発現カセットを包含するベクターを発現ベクターとして同菌体内に導入することができる。又は、相同性組換えを介して同菌のゲノム内に挿入してもよい。発現ベクターを使用する場合、ベクターには、プラスミド等を使用することができる。ベクターは、本発明の組換え細菌内で複製可能であり、また菌体内で安定的に保持される適当な選抜マーカー遺伝子を含むものを用いる。ベクターは、大腸菌等の他の細菌内でも複製可能なシャトルベクターであってもよい。例えば、pKKT427、pBESAF2、pPSAB1等が挙げられる。組換え細菌のゲノム内に挿入する場合、融合遺伝子のみを組換え細菌のゲノム中に発現可能な状態となるように挿入してもよい。すなわち、組換え細菌の内在性のプロモーターやターミネーターの制御下に融合遺伝子を挿入してもよい。
【0053】
発現カセットは、1つの発現カセット内に1つの融合遺伝子を含むモノシストロニックであってもよいし、二以上の融合遺伝子を含むポリシストロニックであってもよい。
【0054】
1−3.組換え偏性嫌気性グラム陽性菌の製造方法
本発明の組換え細菌は、当該分野で公知の分子遺伝学的方法を用いて製造することができる。例えば、前記融合遺伝子であれば、シグナルペプチド、及び単鎖抗体をそれぞれコードする核酸を、例えば、Green and Sambrook, Molecular Cloning, 4th Ed (2012), Cold Spring Harbor Laboratory PressやAusubelet al., Short Protocols in Molecular Biology, 3rd Ed., A compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology (1995), John Wiley & Sonsに記載の手法を用いて構築すればよい。
【0055】
上記単鎖抗体を取得するのに、TRAIL-R1又はTRAIL-R2に結合する抗体をコードする遺伝子の塩基配列情報を使用することができる。この抗体の塩基配列情報は、例えば前述のCDR及びFRの塩基配列に基づいてもよい。
【0056】
TRAIL-R1又はTRAIL-R2に対する抗体を新たに作製する場合、それらに対するモノクローナル抗体の作製は、当該分野で公知の方法に従って行えばよい。以下に、その作製例を示す。
【0057】
標的とするTRAIL-R1又はTRAIL-R2の細胞外ドメインを免疫原としてラクダ科の動物に投与して免疫する。必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントの例としては、市販の完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いることができる。免疫原溶液の1回の投与量は、前記動物1匹当たり約50〜200μgの免疫原を含んでいればよい。免疫の間隔は、特に限定されず、初回免疫後、数日から数週間間隔で、好ましくは1〜4週間間隔で、2〜10回、好ましくは5〜7回追加免疫を行う。初回免疫の後、免疫動物の血清中の抗体価の測定をELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法等により繰り返し行う。続いて、免疫された動物から抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、末梢血細胞が好ましい。次に、末梢血細胞からRNAを抽出し、オリゴdTプライマー及びランダム6merプライマーを用いてcDNAを合成する。このcDNAから、ラクダ科一本鎖抗体の可変領域(VHH領域)の遺伝子をPCRにより増幅し、pCANTAB6(McCafferty J., et al., 1994, Appl. Biochem. Biotech., 47, 157-173)などのファージミドベクターに上記遺伝子を組み込み、エレクトロポレーション法で大腸菌TG1に導入する。上記の大腸菌TG1にM13K07ヘルパーファージを感染させ、ファージを回収することにより、ラクダ科一本鎖抗体可変領域(VHH領域)発現ファージライブラリーを取得する。標準的には1×107pfu種以上のライブラリーとなる。
【0058】
標的抗原に対する抗体を発現するファージを選別するにはバイオパニングを行う。これは、固定化した標的抗原に抗体ファージライブラリーを反応させ、結合しなかったファージを洗浄により除去した後に、結合したファージを溶出し大腸菌に感染させて増殖させるという操作を3回から5回行うことで標的抗原に特異的なファージを濃縮する方法である。パニングしたファージを大腸菌TG1に再感染させた後、VHH挿入pCANTABファージミドベクターを含むTG1クローンを単離し、個々のTG1クローンにKO7ヘルパーファージを感染させて、VHH抗体を提示したクローン化ファージを得る。これらの中から抗原に反応するクローンを選択する。取得したファージから抗体の塩基配列を得ることができる。
【0059】
融合遺伝子は、発現可能なように上記発現カセット内に分子遺伝学的方法を用いて挿入される。発現カセットは、必要に応じて、例えば、プラスミド等のベクターに組み込む。ベクターに発現カセットを組み込むには、発現カセットの5’末端及び3’末端を適当な制限酵素で切断し、ベクター内のマルチクローニングサイト等の対応する制限部位に挿入する方法等を採用することができる。また、ベクターが本発明の組換え細菌内で発現可能な発現用ベクターである場合、前記融合遺伝子をその発現用ベクターの発現制御領域内(ベクター内のプロモーター及びターミネーター間のマルチクローニング部位等)に挿入することで、発現カセットを構築すると同時に目的の発現ベクターを構築することも可能である。これらの具体的な方法については、例えば、上記Green and Sambrook(2012)に記載の方法を参照されたい。
【0060】
目的の組換え細菌は、前記発現ベクター、発現カセット又は融合遺伝子を薬剤送達用担体である偏性嫌気性グラム陽性菌に導入することによって製造できる。発現ベクター等を目的の偏性嫌気性グラム陽性菌内へ導入する方法は、当該分野で公知の分子生物学的方法を用いればよい。例えば、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)やリン酸カルシウム法の公知の方法を用いることができる。これらの具体的な方法については、例えば、上記Green and Sambrook(2012)に記載の方法を参照されたい。
【0061】
2.抗腫瘍剤
2−1.概要
本発明の第2の態様は、抗腫瘍剤である。本発明において「抗腫瘍剤」とは、腫瘍細胞に対して細胞傷害活性を有し、該細胞をアポトーシスに至らしめ、その結果、腫瘍細胞の増殖を抑制することのできる薬剤をいう。ただし、その薬効は、腫瘍細胞の増殖を抑制できればよく、腫瘍細胞を根絶させずともよい。
【0062】
本発明の抗腫瘍剤は、第1態様の組換え細菌を有効成分とすることを特徴とする。本発明の抗腫瘍剤によれば、有効成分である組換え細菌が腫瘍内でのみ増殖し、腫瘍内で3つ以上の抗TRAIL-R1単鎖抗体及び/又は3つ以上の抗TRAIL-R2単鎖抗体を分泌することによって、効率的に腫瘍におけるアポトーシスを誘導し、腫瘍を退縮させることができる。
【0063】
2−2.構成
本発明の抗腫瘍剤は、前述のように第1態様の組換え細菌を有効成分とする。この場合の組換え細菌は、融合遺伝子が標的細胞である腫瘍細胞の表面抗原の一種であるTRAIL-R1を認識して結合する単鎖抗体及び/又はTRAIL-R2を認識して結合する単鎖抗体をコードしている。したがって、本発明の抗腫瘍剤の有効成分である組換え細菌は、細胞外分泌性抗腫瘍細胞融合タンパク質を分泌することとなる。
【0064】
本発明の抗腫瘍剤の標的となる腫瘍は、TRAIL-R1及び/又はTRAIL-R2を発現しているものであれば、良性、悪性を問わず、いずれの腫瘍であってもよい。例えば、脳腫瘍、甲状腺癌、口腔癌、食道癌、胃癌、大腸癌、咽頭癌、肺癌、肝臓癌、腎癌、副腎癌、膵臓癌、胆道癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、線維肉腫、肥満細胞腫又はメラノーマが標的腫瘍として挙げられる。
【0065】
本発明の組換え細菌が融合遺伝子を発現した場合、その産物である細胞外分泌性抗腫瘍細胞融合タンパク質は、細胞外に分泌される。分泌された融合タンパク質は、単鎖抗体部分で標的物質である腫瘍細胞に結合し、TRAIL-R1及び/又はTRAIL-R2を多量体化することによってアポトーシスを誘導する。
【0066】
本発明の有効成分である組換え細菌は、抗腫瘍剤において生菌状態で含まれる。本発明の第1態様に記載の組換え細菌は、高濃度の酸素存在下では増殖できず、やがて死滅する。したがって、生体内においては、酸素分圧の低い部位でのみ増殖、生存が可能である。そのような部位の代表的な例として、進行癌に見られる腫瘍(固形癌)の中心部位又は腸管内が挙げられる。それ故、本発明の抗腫瘍剤は、注射等により体内投与した場合、腫瘍選択的送達性の高い抗腫瘍剤となり得る。
【0067】
また、本発明の抗腫瘍剤は、有効成分である組換え細菌の生存、増殖、融合タンパク質の発現及び分泌を阻害又は抑制しない範囲において、他の抗腫瘍剤と併用することができる。
【0068】
本発明の抗腫瘍剤は、組換え細菌を生菌状態で維持又は保存することを前提として、原則として当該分野で公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Merck Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載の方法を用いればよい。具体的な製剤化の方法は、投与方法によって異なる。投与方法は、経口投与と非経口投与に大別されるが、本発明の抗腫瘍剤の場合、非経口投与がより好ましい。
【0069】
本発明の抗腫瘍剤を非経口投与する場合、その具体例としては、注射による投与が挙げられる。本発明の抗腫瘍剤を注射で投与する場合、組換え細菌を製薬上許容可能な溶媒と混合し、必要に応じて製薬上許容可能な担体を加えた懸濁液剤として調製することができる。
【0070】
「製薬上許容可能な溶媒」は、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は油性液のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80(TM)、HCO-60)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。油性液としては、ゴマ油、大豆油が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールと併用することもできる。また、緩衝剤、例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えば、ベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。
【0071】
注射剤は、製薬上許容される賦形剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化すればよい。
【0072】
注射は、例えば、血管内注射、リンパ管内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等が挙げられるが、本発明の抗腫瘍剤の有効成分である組換え細菌が腫瘍内で増殖して、その腫瘍細胞の増殖を抑制するという機序から、腫瘍巣の位置が明確でない場合には、全身投与である血管内注射又はリンパ管内注射等の循環器内投与が好ましい。血管内注射には、静脈内注射及び動脈内注射等があるが、本発明の抗腫瘍剤を投与する場合いずれであってもよい。一方、腫瘍巣の位置が確定している場合には、前記全身投与の他、腫瘍へ直接的に投与する局所投与であってもよい。
【0073】
本発明の抗腫瘍剤を経口投与する場合については、有効成分である組換え細菌に加えて、製薬上許容可能な担体を添加してもよい。
【0074】
「製薬上許容可能な担体」とは、薬剤の製剤化や生体への適用を容易にし、また有効成分である組換え細菌の生存を維持するために、その菌体の作用を阻害又は抑制しない範囲で添加される物質をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤又は潤滑沢剤が挙げられる。
【0075】
「賦形剤」としては、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0076】
「結合剤」としては、例えば、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0077】
「崩壊剤」としては、例えば、前記デンプンや、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム又はそれらの塩が挙げられる。
【0078】
「充填剤」としては、例えば、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が挙げられる。
【0079】
「乳化剤」としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0080】
「流動添加調節剤」及び「滑沢剤」としては、例えば、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが挙げられる。
【0081】
その他、必要に応じて、矯味矯臭剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、増量剤、付湿剤、保湿剤(例えば、グリセリン、澱粉等)、吸着剤(例えば、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等)、崩壊抑制剤(例えば、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等)、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。上記のような担体を、一又は二以上、必要に応じて適宜使用すればよい。
【0082】
経口ワクチン剤の剤形としては、例えば、固形剤(錠剤、丸剤、舌下剤、カプセル剤、ドロップ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤等を挙げることができる。さらに固形剤は、必要に応じ、当該分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠とすることができる。剤形の具体的な形状、大きさについては、いずれもそれぞれの剤形において当該分野で公知の剤形の範囲内にあればよく、特に限定はしない。
【0083】
本発明の抗腫瘍剤における組換え細菌の含有量は、原則1回の投与でその菌体が標的の腫瘍に生存かつ増殖可能な状態で達し得る量で、かつそれを適用する被検体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量であればよい。このような含有量は、抗腫瘍剤の標的細胞の種類、癌の進行度、腫瘍の大きさ、全身における腫瘍巣数、抗腫瘍剤の剤形及び投与方法によって異なるため、それぞれの条件を勘案し、適宜定められる。
【0084】
本明細書の抗腫瘍剤の投与対象は、腫瘍を有するか又はその蓋然性の高い被検体である。本明細書で「被検体」とは、本発明の抗腫瘍剤を適用する動物いう。例えば、哺乳動物、好ましくはヒト、イヌ、ネコ、ウマ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、サル等、より好ましくはヒトである。
【0085】
2−3.効果
本発明の抗腫瘍剤によれば、有効成分である組換え細菌が酸素分圧の低い腫瘍内でのみ生存及び増殖し、抗腫瘍細胞融合タンパク質を分泌する。それ故、該融合タンパク質を腫瘍細胞にまで効率的に伝達し、かつ継続的に作用させることができる。また、融合タンパク質の作用により腫瘍細胞の増殖が抑制され、腫瘍が退縮することによって、組織中の酸素分圧が高まると、偏性嫌気性グラム陽性菌である組換え細菌は、生存不能となることから生体内から自動的に排除することができる。これにより、従来の細菌療法と比較して、固形がんに対して非病原性の偏性嫌気性菌で他の抗腫瘍薬を投与することなく、単独の静脈内への投与により抗腫瘍効果を発揮することのできる安全でかつ簡便な治療法を提供することができる。
【0086】
また、本発明の抗腫瘍剤は、静脈内注射が可能であることから、被検体に与える侵襲性も低いという利点を有する。
【0087】
3.腫瘍検出用マーカー
3−1.概要
本発明の第3の態様は、腫瘍検出用マーカーである。本発明において「腫瘍検出用マーカー」とは、生体内において腫瘍を検出することができるマーカーである。
【0088】
本発明の腫瘍検出用マーカーは、第1態様の組換え細菌を有効成分とすることを特徴とする。本発明の腫瘍検出用マーカーによれば、有効成分である組換え細菌が腫瘍内でのみ増殖し、腫瘍内で酵素、蛍光タンパク質又は発光タンパク質を分泌することによって、生体内における腫瘍の位置や大きさをモニタリングすることができる。
【0089】
3−2.構成
基本的な構成は、第2態様の抗腫瘍剤に準じる。そこで、ここでは主に前記抗腫瘍剤と異なる点について説明をし、重複する構成については原則省略する。
【0090】
本発明の腫瘍検出用マーカーは、前述のように第1態様の組換え細菌を有効成分とする。この場合の組換え細菌は、融合遺伝子が標的細胞である腫瘍細胞の表面抗原を認識して、結合する単鎖抗体をコードし、機能性ペプチドが標識タンパク質又は標識化を誘導するタンパク質をコードしている。標識タンパク質としては、例えば、前述の蛍光タンパク質又は発光タンパク質が挙げられる。また、標識化を誘導するタンパク質としては、ルシフェリンやルミノールのような発光素又は蛍光素を基質とする酵素(ルシフェラーゼやペルオキシダーゼ)が挙げられる。したがって、本発明の腫瘍検出用マーカーの有効成分である組換え細菌は、細胞外分泌性抗腫瘍細胞イムノマーカー(免疫標識子)を分泌することとなる。
【0091】
本発明の組換え細菌が融合遺伝子を発現した場合、その産物である細胞外分泌性抗腫瘍細胞イムノマーカーは、細胞外に分泌される。分泌されたイムノマーカーは、単鎖抗体部分で標的物質である腫瘍細胞の細胞膜上のTRAIL-R1又はTRAIL-R2に結合し、その細胞は標識化される。具体的には、機能性ペプチドが発光タンパク質又は蛍光タンパク質のような標識タンパク質であった場合、単鎖抗体部分と連結されたそれらの標識タンパク質によって腫瘍細胞が直接標識化されることとなる。一方、機能性ペプチドが酵素であった場合、単鎖抗体部分と連結された酵素によって腫瘍細胞が酵素標識されることとなる。
【0092】
本発明の腫瘍検出用マーカーは、第2態様の抗腫瘍剤と併用することができる。この場合、有効成分である組換え細菌が、腫瘍検出用マーカーと抗腫瘍剤をそれぞれ独立した分子として分泌する、すなわち同一標的物質を認識する単鎖抗体を含む異なる融合タンパク質を分泌する、同一の又は異なる組換え細菌であってもよいし、機能性タンパク質部分に外毒素と標識タンパク質又は酵素を含む1つの融合タンパク質を分泌する組換え細菌であってもよい。これらの場合、同一の腫瘍細胞を標識化すると同時に、外毒素の作用によって腫瘍細胞を傷害することが可能となる。
【0093】
また、有効成分である組換え細菌の生存、増殖、イムノマーカーの発現、及び分泌を阻害又は抑制しない範囲において、他の抗腫瘍剤と併用することもできる。
【0094】
3−3.検出
本発明の腫瘍検出用マーカーを被検体に投与した場合、その個体が腫瘍を有していれば、有効成分である組換え細菌がその腫瘍内で増殖し、抗腫瘍細胞イムノマーカーが分泌される。分泌されたイムノマーカーは、腫瘍細胞を標識化する。標識化された腫瘍細胞の検出は、イムノマーカーが発光タンパク質又は蛍光タンパク質のような標識タンパク質の場合には、その標識タンパク質自身の発する発光又は蛍光を、また酵素標識の場合には、生体内に投与されたルシフェリン等の基質の酵素反応による発光又は蛍光を、検出すればよい。イムノマーカーの検出方法は、特に限定はしない。腫瘍の多くは、生体内部に存在するため、開腹等の手術によって腫瘍を露出させた上でイムノマーカーを検出してもよいし、生体内の発光又は蛍光を体外から非侵襲的に検出してもよい。好ましくは体外から検出する方法である。イムノマーカー由来の発光又は蛍光を体外から検出する方法としては、限定はしないが、例えば、in vivoバイオイメージング法を用いることができる。例えば、Katz, M.H. et al., 2003, Cancer Res. 63: 5521-5525、Schmitt, C.A. et al., 2002, Cancer Cell, 1: 289-298, Katz, M.H. et al., 2003, J. Surg. Res., 113: 151-160等に記載の方法を用いて検出することができる。市販のIVIS Imaging System(Caliper)やそれに類似する装置により検出してもよい。
【0095】
3−4.効果
本発明の腫瘍検出用マーカーによれば、生体内の腫瘍の位置及び大きさをイムノマーカーに基づいて生体外部からモニタリングすることができる。また、本発明の腫瘍検出用マーカーと第2態様の抗腫瘍剤とを併用することで、イムノトキシンにより腫瘍細胞の増殖を抑制させると共に、イムノマーカーにより生体内の腫瘍を生体外部から検出することによって、腫瘍の退縮や治癒効果を経時的にモニタリングすることが可能となる。
【実施例】
【0096】
<実施例1:ビフィズス菌発現用抗ヒトTRAIL-R2遺伝子発現カセットの作製>
(1) ビフィズス菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体4量体(4E6テトラマー)の遺伝子発現カセット
B.ロンガム hup遺伝子由来のプロモーター領域(配列番号25)、B.ロンガム由来のusp分泌シグナル配列(配列番号29)、DTY(シグナル配列後挿入配列)、WO/2011/098520に記載された4E6のアミノ酸配列、8C7 EGFP遺伝子由来の(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)、及びヒストン様タンパク質由来のターミネーター(HUT)(配列番号26)を用い、C末端にはHis-Tag配列をコードするDNAを付加した遺伝子をDNA合成した(配列番号1)。
【0097】
(2) ビフィズス菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体ダイマー緑膿菌外毒素Aサブユニット融合体(4E6ダイマーToxin)の遺伝子発現カセット
B.ロンガム hup遺伝子由来のプロモーター領域(配列番号25)、B.ロンガム由来のusp分泌シグナル配列(配列番号29)、DTY(シグナル配列後挿入配列)、WO/2011/098520に記載された4E6のアミノ酸配列、8C7 EGFP遺伝子由来の(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)、緑膿菌外毒素A(pJH8(ATCCから購入)にコードされるExotoxinAのDNA配列)、及びヒストン様タンパク質由来のターミネーター(HUT)(配列番号26)を用い、C末端にはHis-Tag配列をコードするDNAを付加した遺伝子をDNA合成した(配列番号2)。
【0098】
(3) ビフィズス菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体ダイマー緑色蛍光タンパク質融合体(4E6ダイマーEGFP)の遺伝子発現カセット
B.ロンガム hup遺伝子由来のプロモーター領域(配列番号25)、B.ロンガム由来のusp分泌シグナル配列(配列番号29)、DTY(シグナル配列後挿入配列)、及びヒストン様タンパク質由来のターミネーター(HUT)(配列番号26)を用い、4E6ダイマー遺伝子の3’末端に、8C7 EGFP遺伝子由来の(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)+EGFP(Zhang G. et al., 1996, Biochem Biophys Res Commun, 227(3):707-711)遺伝子+His-Tag配列をコードするDNA配列を付加した(配列番号3)。
【0099】
<実施例2:hTRAIL-R1:Fc、hTRAIL-R2:Fc、mTRAIL-R2:Fc分泌発現ショウジョウバエ培養細胞の作製と組換えタンパク質の精製>
(1)遺伝子発現カセットの作製
(1-1) ショウジョウバエ培養細胞発現用ヒトTRAIL-R1:アルパカFc(hTRAIL-R1:Fc)の遺伝子発現カセット
KpnIサイト、翻訳開始コンセンサス配列(Cavener D.R., 1987, Nucleic Acids Res. 15, 1353-1361)、Bip分泌シグナル(Life Technologies)、hTRAIL-R1細胞外領域(Accession No. AAC51226、109〜239アミノ酸)、IEGRMDリンカー(配列番号27)、Lama pacos (alpaca) IgG1 Fc (Accession No. AM773729、102〜335アミノ酸)、His-Tag配列、終止コドン、XhoIサイトから構成されるDNAを合成した。(配列番号4)
【0100】
(1-2) ショウジョウバエ培養細胞発現用ヒトTRAIL-R2:アルパカFc (hTRAIL-R2:Fc)の遺伝子発現カセット
KpnIサイト、翻訳開始コンセンサス配列(Cavener D.R., 1987, Nucleic Acids Res. 15, 1353-1361)、Bip分泌シグナル(Life Technologies)、hTRAIL-R2細胞外領域(Accession No. Q6FH58、54〜182アミノ酸)、IEGRMDリンカー(配列番号27)、Lama pacos (alpaca) IgG1 Fc (Accession No. AM773729、102〜335アミノ酸)、His-Tag配列、終止コドン、XhoIサイトから構成されるDNAを合成した。(配列番号5)
【0101】
(1-3) ショウジョウバエ培養細胞発現用マウスTRAIL-R2:アルパカFc(mTRAIL-R2:Fc)の遺伝子発現カセット
KpnIサイト、翻訳開始コンセンサス配列(Cavener D.R., 1987, Nucleic Acids Res. 15, 1353-1361)、Bip分泌シグナル(Life Technologies)、mTRAIL-R2細胞外領域(Accession No. Q9QZM4、52〜177アミノ酸)、IEGRMDリンカー(配列番号27)、Lama pacos (alpaca) IgG1 Fc (Accession No. AM773729、102〜335アミノ酸)、His-Tag配列、終止コドン、XhoIサイトから構成されるDNAを合成した。(配列番号6)
【0102】
(2) hTRAIL-R1:Fc、hTRAIL-R2:Fc、mTRAIL-R2:Fc分泌発現ショウジョウバエ培養細胞の作製と組換え蛋白質の精製
hTRAIL-R1、hTRAIL-R2、mTRAIL-R2の細胞外領域とアルパカIgG1のFcを融合したタンパク質を得るため、これらの組換えタンパク質をショウジョウバエ培養細胞であるS2細胞で分泌発現するベクター、pAc5.1/hTRAIL-R1 Fc、pAc5.1/hTRAIL-R2 Fc、pAc5.1/mTRAIL-R2 Fcを作成した。pAc5.1/V5-HisAプラスミド(Life Technologies)のKpnI、XhoIサイトに組換えタンパク質のS2分泌発現遺伝子カセットを挿入した。リン酸カルシウム法により、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むpCoHygroプラスミド(Life Technologies)と19:1の比でS2細胞に導入した。細胞は、300μg/mLハイグロマイシン(Life Technologies)、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を含むSchneider’s Drosophila Medium(Life Technologies)で培養し、薬剤耐性細胞を得た。薬剤耐性細胞(1×107細胞/mL)は、20 mMグルタミンを含むEXPRESS FIVE SFM (Life Technologies)で培養し、7日目に培養上清を回収した。組換えタンパク質は、TALONレジン(タカラバイオ)を用いて精製した。具体的には、TALONレジンを充填したカラムに、培養上清を添加後、洗浄バッファー(25mM HEPES pH7.4、0.3M NaCl、5mMイミダゾール)で洗浄し、溶出バッファー(25mM HEPES pH7.4、0.3M NaCl、150mMイミダゾール)で組換えタンパク質を溶出した。精製タンパク質は、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動し、Coomassie Brilliant Blue(CBB) R-250 (Bio-Rad)で染色して、各タンパク質の精製を確認した(図4)。
【0103】
<実施例3:E. coli BL21(DE3)における組換え4E6モノマータンパク質の発現・精製、及び結合活性>
(1) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体/Myc-Tag(4E6モノマー)遺伝子発現カセットの作製
WO/2011/098520に記載された4E6 VHHモノマーのアミノ酸配列情報を基に、大腸菌発現用の遺伝子をDNA合成した(配列番号7)。
【0104】
(2) 4E6モノマーの大腸菌による発現・精製
4E6モノマーを発現するベクターは、pET22b(+)のNdeIとNotI部位に挿入した。E.coli BL21StarTM(DE3)One Shot(Life technologies)に本発現ベクタープラスミドDNAを導入した。付属マニュアルに従って組換え大腸菌を100mLの100μg/mLアンピシリン(シグマアルドリッチ)入り2YT培地を用いて37℃で培養し、OD600=0.4〜0.5に達した時に、0.5 mM IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド、タカラバイオ)を添加して30℃で3時間培養した。培養終了後、大腸菌を回収して、10mLの抽出バッファー(50mM Na Phosphate pH7.8, 300mM NaCl, EDTA-Free protease inhibitor cocktail(Roche))に再懸濁した。氷中でSonifier 250(Branson)を用いて、Output Control 2、Duty cycle 80%の条件で超音波処理を1分間、2回行い、菌体を破砕した。処理後の懸濁液を15000rpmで4℃にて20分遠心して、上清を回収した。融合タンパク質の精製は、His Trapカラム(GE Healthcare UK)を用いた。超音波処理懸濁液の遠心上清をそのままHis Trapカラムにかけ、結合バッファー(20mM リン酸ナトリウム, 0.5M NaCl, 20mM Imidazole pH 7.4)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液で融合タンパク質を溶出させた。精製サンプルを15%アクリルアミドSDS電気泳動に供し、CBBで染色し、約15KDaに精製された4E6モノマータンパク質を確認し、BSA(ウシ血清アルブミンタンパク質)の染色と比較して、4E6モノマーの濃度を算出した。その結果、4E6モノマーの濃度は、〜3μg/μlであった(図5)。
【0105】
(3) ELISAによる4E6モノマーのhTRAIL-R2:Fc抗原への結合活性の確認
hTRAIL-R2:Fcは実施例2のように調製した。96ウェルイムノプレート(Nunc)に50μL/ウェルで0.1M NaHCO3(Blank)、又は1μg/mL若しくは10μg/mLのBSAを含む0.1M NaHCO3(BSA陰性抗原)、又は1μg/mL若しくは10μg/mLのhTRAIL-R2:Fcを含む0.1M NaHCO3を添加して、4℃で一晩置いた。そこに350μL/ウェルのSuperBlock-PBS(サーモサイエンティフィック)を加えて室温で1時間放置した。400μL/ウェルのPBS-T(0.05% Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後、40μL/ウェル、1μg/mLの4E6モノマーを含むSuperBlock-PBSを加えて、室温で1時間反応させた。再度、400μL/ウェルのPBS-Tで3回洗浄し、40μL/ウェルのSuperBlock-PBSで500倍希釈した抗Mycマウスモノクローナル抗体9E10(Santa Cruz Biotechnology)を加えて1時間、室温で反応させた。400μL/ウェルのPBS-Tで3回洗浄し、40μL/ウェルで抗マウスIgGヤギ抗体HRPを加えて1時間、室温に置いた。その後、400μL/ウェルのPBS-Tで3回洗浄し、50μL/ウェルでTMB試薬(和光純薬)を加えて、10分間程度反応させた後、0.5M硫酸で反応をストップさせた。その後、450nmの吸光度を測定し、トリプリケートで行った測定の平均値と標準偏差を算出した。精製した4E6モノマータンパク質は、hTRAIL-R2:Fcに特異的に結合した(図6)。
【0106】
(4) 4E6モノマーとhTRAIL-R2 ECD (extracellular domain)との解離定数(KD)の測定
4E6モノマーとhTRAIL-R2:Fc(実施例2参照)との結合親和性を、Biacore X-100(GEヘルスケア)を用いた表面プラズモン共鳴法にて解析した。測定はBiacore X-100付属の説明書に従って、マルチサイクルカイネティクス法で行い、4E6モノマーを0.919nM、1.838nM、3.675nM、7.35nM、14.7nM、29.4nM、58.8nM、及び117.6nMで測定した。
【0107】
各濃度におけるセンサーグラム及びフィッティングカーブを図7に示す。4E6モノマーと組換えヒトTRAIL-R2:Fc抗原のKD値は7.5 x 10-11Mであった。
【0108】
<実施例4:新規抗hTRAIL-R1 VHH抗体(4P6モノマー)の取得>
(1) 新規抗hTRAIL-R1 VHH抗体(4P6モノマー)遺伝子の単離
抗TRAIL-R1 VHH抗体はこれまでに知られていなかったため、以下の方法により作成した。すなわち、Maassらによる文献(J Immunol Methods., 2007, 324, 13-25)を参考にし、hTRAIL-R1:ヒトFc(R&D Systems)に結合するVHH抗体遺伝子をファージディスプレイ法により単離した。100 μgのhTRAIL-R1:アルパカFcを1〜2週おきに、アルパカに6回免疫し、8週後、白血球を回収し、RNeasy(Qiagen、Venlo、Netherland)を用いてRNAを抽出した。このRNAから、PrimeScriptII 1st strand cDNA synthesis kit (タカラバイオ)により、オリゴdTプライマー、ランダム6プライマーを用いてcDNAを合成した。VHH抗体遺伝子は、PrimeSTAR GXL DNA polymerase(タカラバイオ)により、95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、55℃ 15秒、68℃ 1分を25サイクルでPCRを行い、増幅した。この増幅産物に対し、95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 1分を20サイクルで同様にPCRを行い、抗体遺伝子を増幅した。PCRには、プライマーDNA配列1(配列番号8)及びプライマーDNA配列2(配列番号9)のDNA配列を有するプライマーを使用した。単離した抗体遺伝子の配列(4P6)は、BigDye Terminator v3.1 (Life Technologies)を用いて、サイクルシークエンス法により決定した。その結果、単離した抗体は、CDR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列を有し、及びCDR3が配列番号24で示されるアミノ酸配列を有していた。
【0109】
(2) ショウジョウバエ培養細胞発現用4P6モノマー遺伝子発現カセットの作製
KpnIサイト、翻訳開始コンセンサス配列(Cavener D.R., 1987, Nucleic Acids Res. 15, 1353-1361)、Bip分泌シグナル(Life Technologies)、4P6遺伝子、His-Tag配列、Myc-Tag配列、終止コドン、XhoIサイトから構成されるDNAを合成した。
【0110】
(3) 抗hTRAIL-R1 VHH抗体モノマー(4P6モノマー)分泌発現ショウジョウバエ培養細胞の作製と組換えタンパク質の精製
pAc5.1/V5-HisAプラスミド(Life Technologies)のKpnI、XhoIサイトの間に、上記(2)の遺伝子発現カセットを挿入することにより、4P6モノマーをショウジョウバエ培養細胞であるS2細胞で分泌発現するベクター、pAc5.1/4P6モノマーを作成した。このプラスミドをリン酸カルシウム法により、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むpCoHygroプラスミドと19:1の比でS2細胞に導入した。細胞は、300μg/mLハイグロマイシン(Life Technologies)、10%ウシ胎児血清を含むSchneider’s Drosophila Medium(Life Technologies)で培養し、薬剤耐性細胞を得た。薬剤耐性細胞は、20 mMグルタミンを含むEXPRESS FIVE SFM (Life Technologies)で培養し、培養上清を得た。4P6モノマーは、HisTrapカラム(GE Healthcare)により精製した。精製タンパク質は、12.5% SDS-ポリアクリルアミド電気泳動し、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した(図8)。
【0111】
<実施例5:抗hTRAIL-R1 VHH抗体モノマー(4P6モノマー)の結合特異性とhTRAIL-R1との親和性の測定>
(1)4P6モノマー及び4E6モノマーのELISAによる結合特異性の解析
4P6モノマーがTRAIL-R1に選択的に結合することをELISAにより調べた。96ウェルのヌンクイムノプレート(Thermo Scientific)に、0.1 M NaHCO3に溶解した1μg/mLのhTRAIL-R1:Fc、hTRAIL-R2:Fc、mTRAIL-R2:Fc(実施例2参照)、Bovine serum albuminを50μL加え、一晩4℃に置いた。SuperBlock(TBS) Blocking Buffer(Thermo Scientific)を300μL加え、1時間室温に置いた。各ウェルの溶液を除いた後、10μg/mLでBlocking Bufferに溶解した4P6モノマー又は4E6モノマーを50μL/ウェルで加え、室温に1時間置いた。0.05% Tween20を含むPBSで、3回洗浄後、67 ng/mLでBlocking Buffer に溶解した9E10 抗Myc抗体(Santa Cruz Biotechnology)を50μL加え、室温に1時間置いた。3回洗浄後、Blocking Buffer に溶解した抗マウスIgG HRPを50μL加え、1時間室温に置いた。3回洗浄後、TMB溶液(和光純薬)を50μL加え、10分間室温に置いた。0.5 M硫酸を50μL加え、450 nmの吸光度を測定した。各サンプルを2ウェルずつ解析し、測定値の平均値と誤差を算出した。4P6モノマーはhTRAIL-R1に、4E6モノマーはhTRAIL-R2に、それぞれ特異的に結合することが確認できた(図9)。
【0112】
(2) 抗hTRAIL-R1 VHH抗体モノマー(4P6モノマー)とhTRAIL-R1 ECD (extracellular domain)との解離定数の測定
4P6モノマーと組換えヒトTRAIL-R1 ECDとの結合親和性を、Biacore X-100(GE Healthcare)を用いた表面プラズモン共鳴法にて解析した。hTRAIL-R1: Fc (hTRAIL-R1:Fc、実施例2参照)をセンサーチップ(CM5)に約1000 RUで固定した。測定はBiacoreX-100付属の説明書に従って、シングルサイクルカイネティクス法で行い、4P6モノマーを0.1 nM、0.5 nM、2.5 nM、12.5 nM、62.5 nMの順で連続添加して測定した。センサーグラム及びフィッティングカーブを図10に示す。KD値(解離定数)は3.4 x 10-11 Mであった。
【0113】
(3) 4P6モノマー及び4E6モノマーのアンタゴニスト活性
4P6モノマーが、がん細胞のhTRAIL-R1に結合し、細胞死を誘導するhTRAILに対してアンタゴニスト活性を示すかどうか、解析した。ヒト大腸がんColo205細胞を、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 103cells/50μL培地/ウェルで細胞を加えた。一晩培養し、終濃度100ng/mLのTRAILと、4P6モノマー、抗hTRAIL-R2 VHH抗体(4E6モノマー)を、さまざまな濃度で含む培地を50μLずつ添加した。さらに一晩培養し、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、2時間培養後450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3 ウェルの平均値+標準偏差で示した。図11に示すように、4P6モノマー、4E6モノマー単独ではTRAILによる細胞死を抑制することはできなかった。しかし、4P6モノマーと4E6モノマーを同時に加えると、用量依存的に細胞死を抑制した。hTRAIL、4P6モノマー、4E6モノマーの分子量はほぼ等しいため、VHH抗体100ng/mLは、hTRAIL100ng/mLとモル濃度がほぼ等しい。以上の結果から、4P6モノマー、4E6モノマーはそれぞれ、細胞表面のhTRAIL-R1、hTRAIL-R2に結合するだけでなく、アンタゴニストとして作用することが示された。
【0114】
以上の様に、hTRAIL-R1に対して特異的に結合し、アンタゴニストとしても作用し得る新規抗体である4P6を取得することができた。
【0115】
<実施例6:4E6ダイマーToxin、4E6ダイマーEGFP 、及び4E6テトラマー、組換えE. coli BL21(DE3)の作製及び組換えタンパク質の発現・精製>
(1) 遺伝子発現カセットの作製
(1-1) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体ダイマー緑膿菌外毒素Aサブユニット融合体(4E6ダイマーToxin)遺伝子発現カセットの作製
大腸菌発現用4E6ダイマーToxin遺伝子は、pBluescriptII(+)プラスミドに挿入されたビフィズス菌発現用4E6ダイマーToxin遺伝子発現カセット(配列番号2)を鋳型として、プライマーDNA配列5(配列番号12)及び6(配列番号13)を用いてPCRによる増幅を行った。PCRの条件はDNAポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 2分を25サイクルで実施した。増幅産物は、MinEluteカラム(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.2%アガロースで電気泳動を行い、ゲルから目的のバンドを切り出してDNAゲル抽出キット(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET-22b(+)(Novagen)のNdeIとNotI部位に挿入し、N末端にStrep Tag(Schmidt T.G., Skerra A., 2007, Nat Protoc. 2(6):1528-1535)を持ち、2つのVHHモノマーどうしを(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)で連結し、4E6ダイマーのC末端にXbaI配列(SerArg)を介して緑膿菌外毒素サブユニットA(Toxin)を結合させた4E6ダイマーToxinを構築した(図12a)。
【0116】
(1-2) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体ダイマー緑色蛍光タンパク質融合体(4E6ダイマーEGFP)遺伝子発現カセットの作製
大腸菌発現用4E6ダイマーEGFP遺伝子は、pBluescriptII(+)プラスミドに挿入されたビフィズス菌発現用4E6ダイマーToxin遺伝子発現カセット(配列番号3)を鋳型として、プライマーDNA配列5(配列番号12)及び7(配列番号14)を用いてPCRによる増幅を行った。PCRの条件はDNAポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 2分を25サイクルで実施した。増幅産物は、MinEluteカラム(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.2%アガロースで電気泳動を行い、ゲルから目的のバンド切り出してDNAゲル抽出キット(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET-22b(+)(Novagen)のNdeIとNotI部位に挿入し、N末端にStrep Tagを持ち、2つのVHHモノマーどうしを(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)で連結し、4E6ダイマーのC末端にXbaI配列(SerArg)を介して、N末端に(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)を結合した緑色蛍光タンパク質(EGFP)を結合させた4E6ダイマーEGFPを構築した(図12b)。
【0117】
(1-3) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)遺伝子発現カセットの作製
大腸菌発現用4E6テトラマー遺伝子は、pEX-Kプラスミドに挿入されたビフィズス菌発現用4E6テトラマー遺伝子発現カセット(配列番号1)を鋳型として、プライマーDNA配列3(配列番号10)及び4(配列番号11)を用いてPCRによる増幅を行った。PCRの条件はDNAポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 2分を25サイクルで実施した。増幅産物は、MinEluteカラム(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.2%アガロースで電気泳動を行い、ゲルから目的のバンド切り出してDNAゲル抽出キット(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET-22b(+)(Novagen)のNdeIとNotI部位に挿入し、N末端にStrep Tagを持ち、4つのVHHモノマーどうしを3つの(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)で連結した4E6テトラマーを構築した(図12c)。
【0118】
(2) 大腸菌における組換えタンパク質の発現
上記のように作製した4E6テトラマー、4E6ダイマーToxin、及び4E6ダイマーEGFP遺伝子をpET22b(+)のNdeIとNotI部位に挿入した。E.coli RosettaGami(DE3)2(Novagen)に本発現ベクタープラスミドDNAを導入し、付属マニュアルに従って組換え大腸菌を200mLの100μg/mLアンピシリン(シグマアルドリッチ)入り2YT培地を用いて37℃で培養し、OD600=0.4〜0.5に達した時に、1mM IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド、タカラバイオ)を添加して30℃で3時間培養した。培養終了後、大腸菌を回収して、20mLの抽出バッファー(50mM NaPhosphate pH7.8, 300mM NaCl, EDTA-Free protease inhibitor cocktail(Roche))に再懸濁して、氷中でSonifier 250(Branson)を用いて、Output Control 2、Duty cycle 80%の条件で超音波処理を1分間、2回行い、菌体を破砕した。処理後の懸濁液を15000rpmで4℃にて20分遠心して、上清を回収した。融合タンパク質の精製には、HisTrapカラム(GEヘルスケア)を用いた。超音波処理懸濁液の遠心上清をそのままHisTrapカラムにかけ、結合バッファー(20mM NaPhosphate, 0.5M NaCl, 20mM Imidazole pH7.4)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液で融合タンパク質を溶出させた。精製サンプルを10%アクリルアミドSDS電気泳動に供し、CBBで染色し、精製された組換えタンパク質を確認し、BSA(ウシ血清アルブミンタンパク質)の染色と比較して、目的タンパク質バンドの濃度を算出した(図13a-c)。4E6ダイマーToxin、4E6ダイマーEGFP、4E6テトラマーの濃度はそれぞれ、0.8mg/mL、1.2mg/mL、1.6mg/mLと算定された。
【0119】
<実施例7: 4E6ダイマーToxin及び4E6テトラマーのがん細胞死誘導活性の測定>
4E6ダイマーToxin融合タンパク質が培養hTRAIL-R2発現ヒトがん細胞(Colo205、American Type Culture Collectionより入手)に対して、細胞死誘導作用があるかどうかを調べた。Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に5×104cells/50μL培地(0.2%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を含むRPMI1640培地)/ウェルで細胞を加え、2時間培養後、上記のように精製した4E6ダイマーToxin、4E6ダイマーEGFPを終濃度で2000、800、160、32、6.4、1.28、0.256、0.0512 ng/mLになる培地(2 x終濃度)を50μLずつ添加した。培養2日目に10μLのMTT試薬(ナカライテスク)を加えた。さらに2時間培養後に100μL/ウェルで可溶化液を加え、ピペッティングで細胞を溶解してOD570 nmの吸光度を測定した。細胞無添加培地のウェルの測定値をバックグラウンド値として全測定値から減じた。抗体を添加しなかったコントロールのウェルを100%として、その相対値で示した。アッセイはトリプリケートで行い、3ウェルの平均値を取った。図14aに示すように、抗TRAIL-R2 VHH抗体ダイマーとToxin融合体、即ちイムノトキシンは、全く細胞死を誘導しなかった。
【0120】
4E6ダイマーが細胞に結合していることを確認するため、以下の試験を行った。すなわち、ヒト大腸がんColo205細胞、膵臓がんBxPC-3細胞について、各2 x 105 細胞を10 μg/mL 4E6ダイマーEGFPと2%ウシ胎児血清を含むリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4) 50μL中で氷上30分反応させた。上記の血清入りリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、FACSVerse(BD Biosciences)で細胞の蛍光強度を解析した。2つの細胞とも、4E6ダイマーEGFPにより染色された。一方、対照ダイマーEGFPでは、どちらの細胞も染色されなかった(図15)。したがって、4E6ダイマーは細胞に結合すると考えられる。
【0121】
以上の結果から、4E6ダイマーToxinは、細胞膜上のTRAIL-R2に結合するが、TRAIL-R2分子を3量体以上に凝集させることができず、また、細胞内にも取り込まれないため、Colo205細胞に細胞死を誘導できないと考えられた。
【0122】
続いて、4E6モノマー及び4E6テトラマーの細胞死誘導作用があるかどうかを調べるために、上記のように精製した4E6モノマー、4E6テトラマーを終濃度で25000、5000、1000、200、40、8、1.6、0.32 pg/mLになる培地(2×終濃度)を50μLずつ添加した。その結果、4E6モノマーは細胞死を引き起こさなかったが、TRAIL-R2分子を3量体以上に凝集させる活性を持つ4E6テトラマーは、Colo205細胞に強力な細胞死を誘導した(図14b)。
【0123】
これらの結果は、TRAIL-Rを3量体以上に凝集させる活性を持つ抗hTRAIL-R VHH抗体テトラマーが、抗hTRAIL-R VHH抗体ダイマーToxinよりも、効率的にがん細胞死を誘導できることを示している。
【0124】
<実施例8:大腸菌で発現した4E6テトラマーのヒト大腸がん細胞及び膵臓がん細胞に対する細胞死誘導作用>
ヒト大腸がん細胞Colo205及び膵臓がん細胞BxPC-3(American Type Culture Collectionより入手)に対する4E6テトラマーのがん細胞死誘導作用を検討した。細胞は、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 103 cells/50μL/ウェルで細胞を加え、一晩培養後、4E6テトラマー、hTRAIL(和光純薬)を含む培地を50μLずつ添加した。Colo205細胞は一晩、BxPC-3細胞は二晩培養後、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、更に4〜6時間培養し、450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3ウェルの平均値+標準偏差で示した。図16に示すように、4E6テトラマーは濃度依存にColo205細胞、BxPC-3細胞の細胞死を誘導し、IC50はそれぞれ2 pmol/L、8 pmol/Lであった。大腸菌で作製したhTRAILのIC50は400 pmol/Lであり、4E6テトラマーはhTRAILよりも低濃度で細胞死を誘導できることがわかった。
【0125】
<実施例9: 4E6テトラマー及び4E6ダイマーEGFPのビフィズス菌における分泌発現と精製>
(1)エレクトロポレーションによる組換えビフィズス菌の作製
4E6テトラマー及び4E6ダイマーEGFPをビフィズス菌で分泌発現するためのベクター遺伝子カセット(実施例1参照)をpKKT427ベクター(Yasui K., et al., Nucleic Acids Res. 2009)のHindIIIとNotIの間に挿入し、B.longum 105-Aにエレクトロポレーション法により導入した。エレクトロポレーションは、2.4 kV、25μF、200オームの条件で行った。
【0126】
(2)ビフィズス菌で分泌発現された4E6テトラマー、4E6ダイマーEGFPの精製
(1)で得た組換えビフィズス菌を、スペクチノマイシン100μg/mLを含むMRS液体培地(Lactobacilli MRS Broth、Difco Laboratories, Detroit, MI)、50 mM ショ糖、3.4 mg/mL L-アスコルビン酸ナトリウム塩、及び0.2 mg/mL L-システイン塩酸塩に加え、一晩嫌気培養した。嫌気培養は、脱酸素剤であるアネロパック・ケンキ(三菱ガス化学、東京、日本)を入れた密閉容器を使用することにより行った。一晩培養した培養液は、吸光度(600 nm)を測定し、吸光度が0.1になるように、新しい液体培地に加えた。6〜7時間嫌気培養し、4℃、9,400 x gで10分遠心し、培養上清を採取した。組換えタンパク質の精製は、HisTrapカラム(GE Healthcare)で行った。培養上清をHisTrapカラムにかけ、結合バッファー(50mM NaPhosphate, 0.3M NaCl, 20mM Imidazole pH7.8)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液でタンパク質を溶出した。培養上清1 mLから精製した量に相当する精製タンパク質を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動し、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した(図17)。4E6テトラマー、4E6ダイマーEGFPともに推定分子量付近(約60 kDa)に検出された。培養上清中の分泌量は、4E6テトラマーは400 ng/mL、4E6ダイマーEGFPは3.2 ng/mLと見積もられた。以上の結果から、どちらの組換えタンパク質も分泌され、4E6テトラマーの方が、4E6ダイマーEGFPと比較して、効率良く分泌発現されることがわかった。
【0127】
<実施例10:ビフィズス菌で分泌発現した抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)のがん細胞死誘導活性>
ヒト大腸がんColo205細胞(American Type Culture Collection)に対する4E6テトラマーのがん細胞死誘導活性を検討した。細胞は、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 103 cells/50μl培地/ウェルで細胞を加えた。一晩培養し、4E6テトラマー、TRAILを、終濃度0.3 pM〜10 nMで含む培地を50μLずつ添加した。さらに一晩培養し、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、6時間培養後450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3 ウェルの平均値+標準偏差で示した。図18に示すように、4E6テトラマーは濃度依存的に増殖を抑制し、IC50は0.02 nmol/Lであった。一方、大腸菌で作製したhTRAIL(和光純薬)のIC50は0.4 nmol/Lであった。したがって、ビフィズス菌で分泌発現された4E6テトラマーは、hTRAILよりも細胞死誘導活性が高いことがわかった。
【0128】
<実施例11:Colo205細胞移植Xenograft modelにおける、組換えB. longum の静脈内投与による抗腫瘍効果の検討>
ヌードマウスの皮下にヒト大腸がんColo205細胞を移植して固形がんを形成させたXenograft modelにおいて、抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)を分泌発現する組換えB. longum 105-Aを静脈内に投与した場合の抗腫瘍効果を検討した。具体的には、6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、2 x106のColo205細胞を皮下移植し、9日後に各群(n=6、無処置、4E6テトラマー、4E6ダイマーEGFP)の腫瘍塊の体積が約280mm3になるように群分けした後、実施例9に従って作製した組換えビフィズス菌を、1匹当り1.5x109個で静脈内に投与した。使用したB.longum 105-Aは遠心及び生理食塩水への再懸濁によって調製した。体内のB.longum 105-Aの栄養補助のために、毎日1mLの20%ラクツロースを腹腔内に投与した。腫瘍径はビフィズス菌を投与した日から0、2、4、7、11、14、18、21日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は「(短径)2 x(長径)/2」の計算式で算出した。結果を図19に示す。ビフィズス菌投与後21日目で、4E6テトラマーを分泌発現する組換えビフィズス菌は無処置と比較して、腫瘍増殖を51%抑制した。一方、陰性対照とした、4E6ダイマーEGFP分泌ビフィズス菌投与群では腫瘍増殖抑制効果はみられなかった。
【0129】
腫瘍径の計測と同時に、ビフィズス菌を投与した日から0、2、4、7、11、14、18、21日後に各群の体重を計測した。図20に示すように、無処置、4E6ダイマーEGFP群と比較して、4E6テトラマー群で体重減少は検出されなかった。これらの結果から、4E6テトラマーは、体重減少を引き起こすような副作用を生じることなく、細胞死誘導活性により腫瘍増殖を抑制すると考えられる。
【0130】
<実施例12:BxPC-3細胞移植Xenograft modelにおける、組換えB. longum の静脈内投与による抗腫瘍効果の検討>
ヌードマウスの皮下にヒト膵臓がんBxPC-3細胞を移植して固形がんを形成させたXenograft modelにおいて、抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)を分泌発現する組換えB. longum 105-Aを静脈内に投与した場合の抗腫瘍効果を検討した。具体的には、8週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、2x106のBxPC-3細胞を皮下移植し、8日後に各群(n=6、無処置、4E6テトラマー、4E6ダイマーEGFP)の腫瘍塊の体積が約230mm3になるように群分けした後、実施例9に従って作製した組換えビフィズス菌を、1匹当り1.5x109個で静脈内に投与した。使用したB.longum 105-Aは遠心及び生理食塩水への再懸濁によって調製した。体内のB.longum 105-Aの栄養補助のために、毎日1mLの20%ラクツロースを腹腔内に投与した。腫瘍径はビフィズス菌を投与した日から0、3、6、10、13、17日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は「(短径)2 x(長径)/2」の計算式で算出した。結果を図21に示す。ビフィズス菌投与後17日目で、4E6テトラマーを分泌発現する組換えビフィズス菌は無処置と比較して、腫瘍増殖を52%抑制した。一方、陰性対照である、4E6ダイマーEGFP分泌ビフィズス菌投与群では腫瘍増殖抑制効果はみられなかった。
【0131】
腫瘍径の計測と同時に、ビフィズス菌を投与した日から0、3、6、10、13、17日後に各群の体重を計測した。図22に示すように、無処置、4E6ダイマーEGFP群と比較して、4E6テトラマー群で体重減少は検出されなかった。これらの結果から、4E6テトラマーは、体重減少を引き起こすような副作用を生じることなく、細胞死誘導活性により腫瘍増殖を抑制すると考えられる。
【0132】
<実施例13:4P6トリマー組換えE. coli BL21(DE3)の作製及び組換えタンパク質の発現・精製>
(1) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)遺伝子発現カセットの作製
N末端にStrep Tag、C末端にHis-Tag配列を持ち、実施例4(1)に従って取得した抗hTRAIL-R1 VHH抗体の3つのモノマーどうしを2つの(GGSGG)2リンカーペプチド(配列番号28)で連結した4P6トリマーをコードする遺伝子を、pET-22b(+)(Novagen)のNdeIとNotI部位に挿入し、大腸菌発現用4P6トリマー遺伝子発現カセットを構築した(実施例6参照)。
【0133】
(2) 大腸菌における組換えタンパク質の発現
上記のように作製したプラスミドベクターを、E.coli BL21StarTM(DE3)One Shot(Life technologies)に導入した。付属マニュアルに従って組換え大腸菌を200mLの100μg/mLアンピシリン(シグマアルドリッチ)入り2YT培地を用いて37℃で培養し、OD600=0.4〜0.5に達した時に、1 mM IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド、タカラバイオ)を添加して30℃で3時間培養した。培養終了後、大腸菌を回収して、20mLの抽出バッファー(50mM Na Phosphate pH7.8, 300mM NaCl, EDTA-Free protease inhibitor cocktail(Roche))に再懸濁した。氷中でSonifier 250(Branson)を用いて、Output Control 2、Duty cycle 80%の条件で超音波処理を1分間、2回行い、菌体を破砕した。処理後の懸濁液を9,400xgで4℃にて20分遠心して、上清を回収した。融合タンパク質の精製には、His Trapカラム(GE Healthcare UK)を用いた。超音波処理懸濁液の遠心上清をそのままHis Trapカラムにかけ、結合バッファー(20mM リン酸ナトリウム, 0.5M NaCl, 20mM Imidazole pH 7.4)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液で融合タンパク質を溶出させた。さらに、溶出画分は、Strep-Tactinカラム(IBA)に添加し、付属マニュアルに従って精製した。50ng のBSAに相当する精製タンパク質を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動し、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した(図23)。4P6トリマーは、推定分子量付近(約42 kDa)に検出された。以上の結果から、4P6トリマーは大腸菌で発現、精製できることがわかった。
【0134】
<実施例14: 大腸菌で発現した4P6トリマーのがん細胞死誘導活性の測定>
ヒト大腸がんColo205細胞(American Type Culture Collection)に対する4P6トリマーのがん細胞死誘導活性を検討した。細胞は、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 103 cells/50μl培地/ウェルで細胞を加えた。一晩培養後、4P6トリマーを、終濃度10 pM〜10 nMで含む培地を50μLずつ添加した。さらに二晩培養後、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、4時間培養後450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3 ウェルの平均値+標準偏差で示した。図24に示すように、4P6トリマーは濃度依存的にColo205細胞の増殖を抑制し、IC50は0.4 nmol/Lであった。大腸菌で作製したhTRAIL(和光純薬)のIC50は0.4 nmol/Lであり、大腸菌で発現した4P6トリマーは、hTRAILと同程度の細胞死誘導活性を示した。
【0135】
<実施例15:抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)のビフィズス菌における分泌発現と精製>
(1)エレクトロポレーションによる組換えビフィズス菌の作製
実施例1(1)における発現カセットの4E6テトラマーの部分を、実施例4(1)に従って取得した4P6のトリマーに置き換えて作製した、4P6トリマーをビフィズス菌で分泌発現するためのベクター遺伝子カセットをpKKT427ベクター(Yasui K., et al., Nucleic Acids Res. 2009)のHindIIIとNotIの間に挿入し、B.longum 105-Aにエレクトロポレーション法により導入した。エレクトロポレーションは、2.4 kV、25μF、200オームの条件で行った。
【0136】
(2)ビフィズス菌で分泌発現された4P6トリマーの精製
(1)で得た組換えビフィズス菌を、スペクチノマイシン100μg/mLを含むMRS液体培地(Lactobacilli MRS Broth、Difco Laboratories, Detroit, MI)、50 mM ショ糖、3.4 mg/mL L-アスコルビン酸ナトリウム塩、及び0.2 mg/mL L-システイン塩酸塩に加え、一晩嫌気培養した。嫌気培養は、脱酸素剤であるアネロパック・ケンキ(三菱ガス化学、東京、日本)を入れた密閉容器を使用することにより行った。一晩培養した培養液は、吸光度(600 nm)を測定し、吸光度が0.1になるように、新しい液体培地に加えた。7時間嫌気培養し、4℃、9,400 x gで10分遠心し、培養上清を採取した。組換えタンパク質の精製は、HisTrapカラム(GE Healthcare)で行った。培養上清をHisTrapカラムにかけ、結合バッファー(50mM NaPhosphate, 0.3M NaCl, 20mM Imidazole pH7.8)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液でタンパク質を溶出した。培養上清0.6 mLから精製した量に相当する精製タンパク質を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動し、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した(図25)。4P6トリマーは、推定分子量付近(約42 kDa)に検出された。BSAを用いて定量した結果、4P6トリマーの培養上清中の分泌量は、30 ng/mLと見積もられた。以上の結果から、4P6トリマーはビフィズス菌で分泌発現されることがわかった。
【0137】
<実施例16:ビフィズス菌で分泌発現した抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)のがん細胞死誘導活性>
ヒト大腸がんColo205細胞(American Type Culture Collection)及び膵臓がんBxPC-3細胞(American Type Culture Collection)に対する4P6トリマーのがん細胞死誘導活性を検討した。細胞は、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 103 cells/50μl培地/ウェルで細胞を加えた。一晩培養し、4P6トリマーを、終濃度0.3 pM〜10 nMで含む培地を50μLずつ添加した。さらに二晩培養し、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、2時間培養後450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3 ウェルの平均値+標準偏差で示した。図26aに示すように、4P6トリマーは濃度依存的にColo205細胞の増殖を抑制し、IC50は0.08 nmol/Lであった。大腸菌で作製したhTRAIL(和光純薬)のIC50は0.4 nmol/Lであり、ビフィズス菌で分泌発現された4P6トリマーは、hTRAILよりも細胞死誘導活性が高いことがわかった。図26bに示すように、4P6トリマーは濃度依存的にBxPC-3細胞の増殖も抑制した。
【0138】
<実施例17:BxPC-3-Luc#2細胞移植Xenograft modelにおける、4P6トリマーを分泌発現する組換えB. longum の静脈内投与による抗腫瘍効果の検討>
ヌードマウスの皮下にヒト膵臓がんBxPC-3-Luc#2細胞(JCRB細胞バンクより入手)を移植して固形がんを形成させたXenograft modelにおいて、抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)を分泌発現する組換えB. longum 105-Aを静脈内に投与した場合の抗腫瘍効果を検討した。具体的には、6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、3x106のBxPC-3-Luc#2細胞を皮下移植し、15日後に各群(n=5、無処置、4P6トリマー、pKKT427ベクターのみ)の腫瘍塊の体積が約135mm3になるように群分けした後、実施例15に従って作製した組換えビフィズス菌を、1匹当り3x108個で静脈内に投与した。使用したB.longum 105-Aは遠心及び生理食塩水への再懸濁によって調製した。体内のB.longum 105-Aの栄養補助のために、毎日1mLの20%ラクツロースを腹腔内に投与した。腫瘍径は腫瘍を移植した日から15、19、21、24、28、31、35日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は「(短径)2 x(長径)/2」の計算式で算出した。結果を図27に示す。ビフィズス菌投与後20日目で、4P6トリマーを分泌発現する組換えビフィズス菌は無処置と比較して、腫瘍増殖を65%抑制した。一方、陰性対照である、pKKT427導入ビフィズス菌投与群では腫瘍増殖抑制効果はみられなかった。
【0139】
腫瘍径の計測と同時に、腫瘍を移植した日から15、19、21、24、28、31、35日後に各群の体重を計測した。図28に示すように、無処置、pKKT427導入ビフィズス菌群と比較して、4P6トリマー群で体重減少は検出されなかった。これらの結果から、4P6トリマーは、体重減少を引き起こすような副作用を生じることなく、細胞死誘導活性により腫瘍増殖を抑制すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明により、正常細胞への毒性を軽減しながら、強力なアゴニスト活性を有する抗hTRAIL-R1及びR2抗体の腫瘍部位局所投与によって効果的ながん細胞死を誘導することが可能となる。
【0141】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
【配列表】
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