【実施例】
【0096】
<実施例1:ビフィズス菌発現用抗ヒトTRAIL-R2遺伝子発現カセットの作製>
(1) ビフィズス菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体4量体(4E6テトラマー)の遺伝子発現カセット
B.ロンガム hup遺伝子由来のプロモーター領域(配列番号25)、B.ロンガム由来のusp分泌シグナル配列(配列番号29)、DTY(シグナル配列後挿入配列)、WO/2011/098520に記載された4E6のアミノ酸配列、8C7 EGFP遺伝子由来の(GGSGG)
2リンカーペプチド(配列番号28)、及びヒストン様タンパク質由来のターミネーター(HUT)(配列番号26)を用い、C末端にはHis-Tag配列をコードするDNAを付加した遺伝子をDNA合成した(配列番号1)。
【0097】
(2) ビフィズス菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体ダイマー緑膿菌外毒素Aサブユニット融合体(4E6ダイマーToxin)の遺伝子発現カセット
B.ロンガム hup遺伝子由来のプロモーター領域(配列番号25)、B.ロンガム由来のusp分泌シグナル配列(配列番号29)、DTY(シグナル配列後挿入配列)、WO/2011/098520に記載された4E6のアミノ酸配列、8C7 EGFP遺伝子由来の(GGSGG)
2リンカーペプチド(配列番号28)、緑膿菌外毒素A(pJH8(ATCCから購入)にコードされるExotoxinAのDNA配列)、及びヒストン様タンパク質由来のターミネーター(HUT)(配列番号26)を用い、C末端にはHis-Tag配列をコードするDNAを付加した遺伝子をDNA合成した(配列番号2)。
【0098】
(3) ビフィズス菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体ダイマー緑色蛍光タンパク質融合体(4E6ダイマーEGFP)の遺伝子発現カセット
B.ロンガム hup遺伝子由来のプロモーター領域(配列番号25)、B.ロンガム由来のusp分泌シグナル配列(配列番号29)、DTY(シグナル配列後挿入配列)、及びヒストン様タンパク質由来のターミネーター(HUT)(配列番号26)を用い、4E6ダイマー遺伝子の3’末端に、8C7 EGFP遺伝子由来の(GGSGG)
2リンカーペプチド(配列番号28)+EGFP(Zhang G. et al., 1996, Biochem Biophys Res Commun, 227(3):707-711)遺伝子+His-Tag配列をコードするDNA配列を付加した(配列番号3)。
【0099】
<実施例2:hTRAIL-R1:Fc、hTRAIL-R2:Fc、mTRAIL-R2:Fc分泌発現ショウジョウバエ培養細胞の作製と組換えタンパク質の精製>
(1)遺伝子発現カセットの作製
(1-1) ショウジョウバエ培養細胞発現用ヒトTRAIL-R1:アルパカFc(hTRAIL-R1:Fc)の遺伝子発現カセット
KpnIサイト、翻訳開始コンセンサス配列(Cavener D.R., 1987, Nucleic Acids Res. 15, 1353-1361)、Bip分泌シグナル(Life Technologies)、hTRAIL-R1細胞外領域(Accession No. AAC51226、109〜239アミノ酸)、IEGRMDリンカー(配列番号27)、Lama pacos (alpaca) IgG1 Fc (Accession No. AM773729、102〜335アミノ酸)、His-Tag配列、終止コドン、XhoIサイトから構成されるDNAを合成した。(配列番号4)
【0100】
(1-2) ショウジョウバエ培養細胞発現用ヒトTRAIL-R2:アルパカFc (hTRAIL-R2:Fc)の遺伝子発現カセット
KpnIサイト、翻訳開始コンセンサス配列(Cavener D.R., 1987, Nucleic Acids Res. 15, 1353-1361)、Bip分泌シグナル(Life Technologies)、hTRAIL-R2細胞外領域(Accession No. Q6FH58、54〜182アミノ酸)、IEGRMDリンカー(配列番号27)、Lama pacos (alpaca) IgG1 Fc (Accession No. AM773729、102〜335アミノ酸)、His-Tag配列、終止コドン、XhoIサイトから構成されるDNAを合成した。(配列番号5)
【0101】
(1-3) ショウジョウバエ培養細胞発現用マウスTRAIL-R2:アルパカFc(mTRAIL-R2:Fc)の遺伝子発現カセット
KpnIサイト、翻訳開始コンセンサス配列(Cavener D.R., 1987, Nucleic Acids Res. 15, 1353-1361)、Bip分泌シグナル(Life Technologies)、mTRAIL-R2細胞外領域(Accession No. Q9QZM4、52〜177アミノ酸)、IEGRMDリンカー(配列番号27)、Lama pacos (alpaca) IgG1 Fc (Accession No. AM773729、102〜335アミノ酸)、His-Tag配列、終止コドン、XhoIサイトから構成されるDNAを合成した。(配列番号6)
【0102】
(2) hTRAIL-R1:Fc、hTRAIL-R2:Fc、mTRAIL-R2:Fc分泌発現ショウジョウバエ培養細胞の作製と組換え蛋白質の精製
hTRAIL-R1、hTRAIL-R2、mTRAIL-R2の細胞外領域とアルパカIgG1のFcを融合したタンパク質を得るため、これらの組換えタンパク質をショウジョウバエ培養細胞であるS2細胞で分泌発現するベクター、pAc5.1/hTRAIL-R1 Fc、pAc5.1/hTRAIL-R2 Fc、pAc5.1/mTRAIL-R2 Fcを作成した。pAc5.1/V5-HisAプラスミド(Life Technologies)のKpnI、XhoIサイトに組換えタンパク質のS2分泌発現遺伝子カセットを挿入した。リン酸カルシウム法により、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むpCoHygroプラスミド(Life Technologies)と19:1の比でS2細胞に導入した。細胞は、300μg/mLハイグロマイシン(Life Technologies)、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を含むSchneider’s Drosophila Medium(Life Technologies)で培養し、薬剤耐性細胞を得た。薬剤耐性細胞(1×10
7細胞/mL)は、20 mMグルタミンを含むEXPRESS FIVE SFM (Life Technologies)で培養し、7日目に培養上清を回収した。組換えタンパク質は、TALONレジン(タカラバイオ)を用いて精製した。具体的には、TALONレジンを充填したカラムに、培養上清を添加後、洗浄バッファー(25mM HEPES pH7.4、0.3M NaCl、5mMイミダゾール)で洗浄し、溶出バッファー(25mM HEPES pH7.4、0.3M NaCl、150mMイミダゾール)で組換えタンパク質を溶出した。精製タンパク質は、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動し、Coomassie Brilliant Blue(CBB) R-250 (Bio-Rad)で染色して、各タンパク質の精製を確認した(
図4)。
【0103】
<実施例3:E. coli BL21(DE3)における組換え4E6モノマータンパク質の発現・精製、及び結合活性>
(1) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体/Myc-Tag(4E6モノマー)遺伝子発現カセットの作製
WO/2011/098520に記載された4E6 VHHモノマーのアミノ酸配列情報を基に、大腸菌発現用の遺伝子をDNA合成した(配列番号7)。
【0104】
(2) 4E6モノマーの大腸菌による発現・精製
4E6モノマーを発現するベクターは、pET22b(+)のNdeIとNotI部位に挿入した。E.coli BL21Star
TM(DE3)One Shot(Life technologies)に本発現ベクタープラスミドDNAを導入した。付属マニュアルに従って組換え大腸菌を100mLの100μg/mLアンピシリン(シグマアルドリッチ)入り2YT培地を用いて37℃で培養し、OD
600=0.4〜0.5に達した時に、0.5 mM IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド、タカラバイオ)を添加して30℃で3時間培養した。培養終了後、大腸菌を回収して、10mLの抽出バッファー(50mM Na Phosphate pH7.8, 300mM NaCl, EDTA-Free protease inhibitor cocktail(Roche))に再懸濁した。氷中でSonifier 250(Branson)を用いて、Output Control 2、Duty cycle 80%の条件で超音波処理を1分間、2回行い、菌体を破砕した。処理後の懸濁液を15000rpmで4℃にて20分遠心して、上清を回収した。融合タンパク質の精製は、His Trapカラム(GE Healthcare UK)を用いた。超音波処理懸濁液の遠心上清をそのままHis Trapカラムにかけ、結合バッファー(20mM リン酸ナトリウム, 0.5M NaCl, 20mM Imidazole pH 7.4)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液で融合タンパク質を溶出させた。精製サンプルを15%アクリルアミドSDS電気泳動に供し、CBBで染色し、約15KDaに精製された4E6モノマータンパク質を確認し、BSA(ウシ血清アルブミンタンパク質)の染色と比較して、4E6モノマーの濃度を算出した。その結果、4E6モノマーの濃度は、〜3μg/μlであった(
図5)。
【0105】
(3) ELISAによる4E6モノマーのhTRAIL-R2:Fc抗原への結合活性の確認
hTRAIL-R2:Fcは実施例2のように調製した。96ウェルイムノプレート(Nunc)に50μL/ウェルで0.1M NaHCO
3(Blank)、又は1μg/mL若しくは10μg/mLのBSAを含む0.1M NaHCO
3(BSA陰性抗原)、又は1μg/mL若しくは10μg/mLのhTRAIL-R2:Fcを含む0.1M NaHCO
3を添加して、4℃で一晩置いた。そこに350μL/ウェルのSuperBlock-PBS(サーモサイエンティフィック)を加えて室温で1時間放置した。400μL/ウェルのPBS-T(0.05% Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後、40μL/ウェル、1μg/mLの4E6モノマーを含むSuperBlock-PBSを加えて、室温で1時間反応させた。再度、400μL/ウェルのPBS-Tで3回洗浄し、40μL/ウェルのSuperBlock-PBSで500倍希釈した抗Mycマウスモノクローナル抗体9E10(Santa Cruz Biotechnology)を加えて1時間、室温で反応させた。400μL/ウェルのPBS-Tで3回洗浄し、40μL/ウェルで抗マウスIgGヤギ抗体HRPを加えて1時間、室温に置いた。その後、400μL/ウェルのPBS-Tで3回洗浄し、50μL/ウェルでTMB試薬(和光純薬)を加えて、10分間程度反応させた後、0.5M硫酸で反応をストップさせた。その後、450nmの吸光度を測定し、トリプリケートで行った測定の平均値と標準偏差を算出した。精製した4E6モノマータンパク質は、hTRAIL-R2:Fcに特異的に結合した(
図6)。
【0106】
(4) 4E6モノマーとhTRAIL-R2 ECD (extracellular domain)との解離定数(K
D)の測定
4E6モノマーとhTRAIL-R2:Fc(実施例2参照)との結合親和性を、Biacore X-100(GEヘルスケア)を用いた表面プラズモン共鳴法にて解析した。測定はBiacore X-100付属の説明書に従って、マルチサイクルカイネティクス法で行い、4E6モノマーを0.919nM、1.838nM、3.675nM、7.35nM、14.7nM、29.4nM、58.8nM、及び117.6nMで測定した。
【0107】
各濃度におけるセンサーグラム及びフィッティングカーブを
図7に示す。4E6モノマーと組換えヒトTRAIL-R2:Fc抗原のK
D値は7.5 x 10
-11Mであった。
【0108】
<実施例4:新規抗hTRAIL-R1 VHH抗体(4P6モノマー)の取得>
(1) 新規抗hTRAIL-R1 VHH抗体(4P6モノマー)遺伝子の単離
抗TRAIL-R1 VHH抗体はこれまでに知られていなかったため、以下の方法により作成した。すなわち、Maassらによる文献(J Immunol Methods., 2007, 324, 13-25)を参考にし、hTRAIL-R1:ヒトFc(R&D Systems)に結合するVHH抗体遺伝子をファージディスプレイ法により単離した。100 μgのhTRAIL-R1:アルパカFcを1〜2週おきに、アルパカに6回免疫し、8週後、白血球を回収し、RNeasy(Qiagen、Venlo、Netherland)を用いてRNAを抽出した。このRNAから、PrimeScriptII 1
st strand cDNA synthesis kit (タカラバイオ)により、オリゴdTプライマー、ランダム6プライマーを用いてcDNAを合成した。VHH抗体遺伝子は、PrimeSTAR GXL DNA polymerase(タカラバイオ)により、95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、55℃ 15秒、68℃ 1分を25サイクルでPCRを行い、増幅した。この増幅産物に対し、95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 1分を20サイクルで同様にPCRを行い、抗体遺伝子を増幅した。PCRには、プライマーDNA配列1(配列番号8)及びプライマーDNA配列2(配列番号9)のDNA配列を有するプライマーを使用した。単離した抗体遺伝子の配列(4P6)は、BigDye Terminator v3.1 (Life Technologies)を用いて、サイクルシークエンス法により決定した。その結果、単離した抗体は、CDR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号23で示されるアミノ酸配列を有し、及びCDR3が配列番号24で示されるアミノ酸配列を有していた。
【0109】
(2) ショウジョウバエ培養細胞発現用4P6モノマー遺伝子発現カセットの作製
KpnIサイト、翻訳開始コンセンサス配列(Cavener D.R., 1987, Nucleic Acids Res. 15, 1353-1361)、Bip分泌シグナル(Life Technologies)、4P6遺伝子、His-Tag配列、Myc-Tag配列、終止コドン、XhoIサイトから構成されるDNAを合成した。
【0110】
(3) 抗hTRAIL-R1 VHH抗体モノマー(4P6モノマー)分泌発現ショウジョウバエ培養細胞の作製と組換えタンパク質の精製
pAc5.1/V5-HisAプラスミド(Life Technologies)のKpnI、XhoIサイトの間に、上記(2)の遺伝子発現カセットを挿入することにより、4P6モノマーをショウジョウバエ培養細胞であるS2細胞で分泌発現するベクター、pAc5.1/4P6モノマーを作成した。このプラスミドをリン酸カルシウム法により、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むpCoHygroプラスミドと19:1の比でS2細胞に導入した。細胞は、300μg/mLハイグロマイシン(Life Technologies)、10%ウシ胎児血清を含むSchneider’s Drosophila Medium(Life Technologies)で培養し、薬剤耐性細胞を得た。薬剤耐性細胞は、20 mMグルタミンを含むEXPRESS FIVE SFM (Life Technologies)で培養し、培養上清を得た。4P6モノマーは、HisTrapカラム(GE Healthcare)により精製した。精製タンパク質は、12.5% SDS-ポリアクリルアミド電気泳動し、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した(
図8)。
【0111】
<実施例5:抗hTRAIL-R1 VHH抗体モノマー(4P6モノマー)の結合特異性とhTRAIL-R1との親和性の測定>
(1)4P6モノマー及び4E6モノマーのELISAによる結合特異性の解析
4P6モノマーがTRAIL-R1に選択的に結合することをELISAにより調べた。96ウェルのヌンクイムノプレート(Thermo Scientific)に、0.1 M NaHCO
3に溶解した1μg/mLのhTRAIL-R1:Fc、hTRAIL-R2:Fc、mTRAIL-R2:Fc(実施例2参照)、Bovine serum albuminを50μL加え、一晩4℃に置いた。SuperBlock(TBS) Blocking Buffer(Thermo Scientific)を300μL加え、1時間室温に置いた。各ウェルの溶液を除いた後、10μg/mLでBlocking Bufferに溶解した4P6モノマー又は4E6モノマーを50μL/ウェルで加え、室温に1時間置いた。0.05% Tween20を含むPBSで、3回洗浄後、67 ng/mLでBlocking Buffer に溶解した9E10 抗Myc抗体(Santa Cruz Biotechnology)を50μL加え、室温に1時間置いた。3回洗浄後、Blocking Buffer に溶解した抗マウスIgG HRPを50μL加え、1時間室温に置いた。3回洗浄後、TMB溶液(和光純薬)を50μL加え、10分間室温に置いた。0.5 M硫酸を50μL加え、450 nmの吸光度を測定した。各サンプルを2ウェルずつ解析し、測定値の平均値と誤差を算出した。4P6モノマーはhTRAIL-R1に、4E6モノマーはhTRAIL-R2に、それぞれ特異的に結合することが確認できた(
図9)。
【0112】
(2) 抗hTRAIL-R1 VHH抗体モノマー(4P6モノマー)とhTRAIL-R1 ECD (extracellular domain)との解離定数の測定
4P6モノマーと組換えヒトTRAIL-R1 ECDとの結合親和性を、Biacore X-100(GE Healthcare)を用いた表面プラズモン共鳴法にて解析した。hTRAIL-R1: Fc (hTRAIL-R1:Fc、実施例2参照)をセンサーチップ(CM5)に約1000 RUで固定した。測定はBiacoreX-100付属の説明書に従って、シングルサイクルカイネティクス法で行い、4P6モノマーを0.1 nM、0.5 nM、2.5 nM、12.5 nM、62.5 nMの順で連続添加して測定した。センサーグラム及びフィッティングカーブを
図10に示す。K
D値(解離定数)は3.4 x 10
-11 Mであった。
【0113】
(3) 4P6モノマー及び4E6モノマーのアンタゴニスト活性
4P6モノマーが、がん細胞のhTRAIL-R1に結合し、細胞死を誘導するhTRAILに対してアンタゴニスト活性を示すかどうか、解析した。ヒト大腸がんColo205細胞を、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 10
3cells/50μL培地/ウェルで細胞を加えた。一晩培養し、終濃度100ng/mLのTRAILと、4P6モノマー、抗hTRAIL-R2 VHH抗体(4E6モノマー)を、さまざまな濃度で含む培地を50μLずつ添加した。さらに一晩培養し、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、2時間培養後450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3 ウェルの平均値+標準偏差で示した。
図11に示すように、4P6モノマー、4E6モノマー単独ではTRAILによる細胞死を抑制することはできなかった。しかし、4P6モノマーと4E6モノマーを同時に加えると、用量依存的に細胞死を抑制した。hTRAIL、4P6モノマー、4E6モノマーの分子量はほぼ等しいため、VHH抗体100ng/mLは、hTRAIL100ng/mLとモル濃度がほぼ等しい。以上の結果から、4P6モノマー、4E6モノマーはそれぞれ、細胞表面のhTRAIL-R1、hTRAIL-R2に結合するだけでなく、アンタゴニストとして作用することが示された。
【0114】
以上の様に、hTRAIL-R1に対して特異的に結合し、アンタゴニストとしても作用し得る新規抗体である4P6を取得することができた。
【0115】
<実施例6:4E6ダイマーToxin、4E6ダイマーEGFP 、及び4E6テトラマー、組換えE. coli BL21(DE3)の作製及び組換えタンパク質の発現・精製>
(1) 遺伝子発現カセットの作製
(1-1) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体ダイマー緑膿菌外毒素Aサブユニット融合体(4E6ダイマーToxin)遺伝子発現カセットの作製
大腸菌発現用4E6ダイマーToxin遺伝子は、pBluescriptII(+)プラスミドに挿入されたビフィズス菌発現用4E6ダイマーToxin遺伝子発現カセット(配列番号2)を鋳型として、プライマーDNA配列5(配列番号12)及び6(配列番号13)を用いてPCRによる増幅を行った。PCRの条件はDNAポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 2分を25サイクルで実施した。増幅産物は、MinEluteカラム(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.2%アガロースで電気泳動を行い、ゲルから目的のバンドを切り出してDNAゲル抽出キット(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET-22b(+)(Novagen)のNdeIとNotI部位に挿入し、N末端にStrep Tag(Schmidt T.G., Skerra A., 2007, Nat Protoc. 2(6):1528-1535)を持ち、2つのVHHモノマーどうしを(GGSGG)
2リンカーペプチド(配列番号28)で連結し、4E6ダイマーのC末端にXbaI配列(SerArg)を介して緑膿菌外毒素サブユニットA(Toxin)を結合させた4E6ダイマーToxinを構築した(
図12a)。
【0116】
(1-2) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体ダイマー緑色蛍光タンパク質融合体(4E6ダイマーEGFP)遺伝子発現カセットの作製
大腸菌発現用4E6ダイマーEGFP遺伝子は、pBluescriptII(+)プラスミドに挿入されたビフィズス菌発現用4E6ダイマーToxin遺伝子発現カセット(配列番号3)を鋳型として、プライマーDNA配列5(配列番号12)及び7(配列番号14)を用いてPCRによる増幅を行った。PCRの条件はDNAポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 2分を25サイクルで実施した。増幅産物は、MinEluteカラム(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.2%アガロースで電気泳動を行い、ゲルから目的のバンド切り出してDNAゲル抽出キット(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET-22b(+)(Novagen)のNdeIとNotI部位に挿入し、N末端にStrep Tagを持ち、2つのVHHモノマーどうしを(GGSGG)
2リンカーペプチド(配列番号28)で連結し、4E6ダイマーのC末端にXbaI配列(SerArg)を介して、N末端に(GGSGG)
2リンカーペプチド(配列番号28)を結合した緑色蛍光タンパク質(EGFP)を結合させた4E6ダイマーEGFPを構築した(
図12b)。
【0117】
(1-3) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)遺伝子発現カセットの作製
大腸菌発現用4E6テトラマー遺伝子は、pEX-Kプラスミドに挿入されたビフィズス菌発現用4E6テトラマー遺伝子発現カセット(配列番号1)を鋳型として、プライマーDNA配列3(配列番号10)及び4(配列番号11)を用いてPCRによる増幅を行った。PCRの条件はDNAポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて95℃ 1分を1サイクル、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 2分を25サイクルで実施した。増幅産物は、MinEluteカラム(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製し、NdeI及びNotIで制限酵素消化後、1.2%アガロースで電気泳動を行い、ゲルから目的のバンド切り出してDNAゲル抽出キット(Qiagen)を用いて添付のプロトコルに従って精製単離した。これをpET-22b(+)(Novagen)のNdeIとNotI部位に挿入し、N末端にStrep Tagを持ち、4つのVHHモノマーどうしを3つの(GGSGG)
2リンカーペプチド(配列番号28)で連結した4E6テトラマーを構築した(
図12c)。
【0118】
(2) 大腸菌における組換えタンパク質の発現
上記のように作製した4E6テトラマー、4E6ダイマーToxin、及び4E6ダイマーEGFP遺伝子をpET22b(+)のNdeIとNotI部位に挿入した。E.coli RosettaGami(DE3)2(Novagen)に本発現ベクタープラスミドDNAを導入し、付属マニュアルに従って組換え大腸菌を200mLの100μg/mLアンピシリン(シグマアルドリッチ)入り2YT培地を用いて37℃で培養し、OD
600=0.4〜0.5に達した時に、1mM IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド、タカラバイオ)を添加して30℃で3時間培養した。培養終了後、大腸菌を回収して、20mLの抽出バッファー(50mM NaPhosphate pH7.8, 300mM NaCl, EDTA-Free protease inhibitor cocktail(Roche))に再懸濁して、氷中でSonifier 250(Branson)を用いて、Output Control 2、Duty cycle 80%の条件で超音波処理を1分間、2回行い、菌体を破砕した。処理後の懸濁液を15000rpmで4℃にて20分遠心して、上清を回収した。融合タンパク質の精製には、HisTrapカラム(GEヘルスケア)を用いた。超音波処理懸濁液の遠心上清をそのままHisTrapカラムにかけ、結合バッファー(20mM NaPhosphate, 0.5M NaCl, 20mM Imidazole pH7.4)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液で融合タンパク質を溶出させた。精製サンプルを10%アクリルアミドSDS電気泳動に供し、CBBで染色し、精製された組換えタンパク質を確認し、BSA(ウシ血清アルブミンタンパク質)の染色と比較して、目的タンパク質バンドの濃度を算出した(
図13a-c)。4E6ダイマーToxin、4E6ダイマーEGFP、4E6テトラマーの濃度はそれぞれ、0.8mg/mL、1.2mg/mL、1.6mg/mLと算定された。
【0119】
<実施例7: 4E6ダイマーToxin及び4E6テトラマーのがん細胞死誘導活性の測定>
4E6ダイマーToxin融合タンパク質が培養hTRAIL-R2発現ヒトがん細胞(Colo205、American Type Culture Collectionより入手)に対して、細胞死誘導作用があるかどうかを調べた。Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に5×10
4cells/50μL培地(0.2%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を含むRPMI1640培地)/ウェルで細胞を加え、2時間培養後、上記のように精製した4E6ダイマーToxin、4E6ダイマーEGFPを終濃度で2000、800、160、32、6.4、1.28、0.256、0.0512 ng/mLになる培地(2 x終濃度)を50μLずつ添加した。培養2日目に10μLのMTT試薬(ナカライテスク)を加えた。さらに2時間培養後に100μL/ウェルで可溶化液を加え、ピペッティングで細胞を溶解してOD
570 nmの吸光度を測定した。細胞無添加培地のウェルの測定値をバックグラウンド値として全測定値から減じた。抗体を添加しなかったコントロールのウェルを100%として、その相対値で示した。アッセイはトリプリケートで行い、3ウェルの平均値を取った。
図14aに示すように、抗TRAIL-R2 VHH抗体ダイマーとToxin融合体、即ちイムノトキシンは、全く細胞死を誘導しなかった。
【0120】
4E6ダイマーが細胞に結合していることを確認するため、以下の試験を行った。すなわち、ヒト大腸がんColo205細胞、膵臓がんBxPC-3細胞について、各2 x 10
5 細胞を10 μg/mL 4E6ダイマーEGFPと2%ウシ胎児血清を含むリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4) 50μL中で氷上30分反応させた。上記の血清入りリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、FACSVerse(BD Biosciences)で細胞の蛍光強度を解析した。2つの細胞とも、4E6ダイマーEGFPにより染色された。一方、対照ダイマーEGFPでは、どちらの細胞も染色されなかった(
図15)。したがって、4E6ダイマーは細胞に結合すると考えられる。
【0121】
以上の結果から、4E6ダイマーToxinは、細胞膜上のTRAIL-R2に結合するが、TRAIL-R2分子を3量体以上に凝集させることができず、また、細胞内にも取り込まれないため、Colo205細胞に細胞死を誘導できないと考えられた。
【0122】
続いて、4E6モノマー及び4E6テトラマーの細胞死誘導作用があるかどうかを調べるために、上記のように精製した4E6モノマー、4E6テトラマーを終濃度で25000、5000、1000、200、40、8、1.6、0.32 pg/mLになる培地(2×終濃度)を50μLずつ添加した。その結果、4E6モノマーは細胞死を引き起こさなかったが、TRAIL-R2分子を3量体以上に凝集させる活性を持つ4E6テトラマーは、Colo205細胞に強力な細胞死を誘導した(
図14b)。
【0123】
これらの結果は、TRAIL-Rを3量体以上に凝集させる活性を持つ抗hTRAIL-R VHH抗体テトラマーが、抗hTRAIL-R VHH抗体ダイマーToxinよりも、効率的にがん細胞死を誘導できることを示している。
【0124】
<実施例8:大腸菌で発現した4E6テトラマーのヒト大腸がん細胞及び膵臓がん細胞に対する細胞死誘導作用>
ヒト大腸がん細胞Colo205及び膵臓がん細胞BxPC-3(American Type Culture Collectionより入手)に対する4E6テトラマーのがん細胞死誘導作用を検討した。細胞は、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 10
3 cells/50μL/ウェルで細胞を加え、一晩培養後、4E6テトラマー、hTRAIL(和光純薬)を含む培地を50μLずつ添加した。Colo205細胞は一晩、BxPC-3細胞は二晩培養後、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、更に4〜6時間培養し、450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3ウェルの平均値+標準偏差で示した。
図16に示すように、4E6テトラマーは濃度依存にColo205細胞、BxPC-3細胞の細胞死を誘導し、IC
50はそれぞれ2 pmol/L、8 pmol/Lであった。大腸菌で作製したhTRAILのIC
50は400 pmol/Lであり、4E6テトラマーはhTRAILよりも低濃度で細胞死を誘導できることがわかった。
【0125】
<実施例9: 4E6テトラマー及び4E6ダイマーEGFPのビフィズス菌における分泌発現と精製>
(1)エレクトロポレーションによる組換えビフィズス菌の作製
4E6テトラマー及び4E6ダイマーEGFPをビフィズス菌で分泌発現するためのベクター遺伝子カセット(実施例1参照)をpKKT427ベクター(Yasui K., et al., Nucleic Acids Res. 2009)のHindIIIとNotIの間に挿入し、B.longum 105-Aにエレクトロポレーション法により導入した。エレクトロポレーションは、2.4 kV、25μF、200オームの条件で行った。
【0126】
(2)ビフィズス菌で分泌発現された4E6テトラマー、4E6ダイマーEGFPの精製
(1)で得た組換えビフィズス菌を、スペクチノマイシン100μg/mLを含むMRS液体培地(Lactobacilli MRS Broth、Difco Laboratories, Detroit, MI)、50 mM ショ糖、3.4 mg/mL L-アスコルビン酸ナトリウム塩、及び0.2 mg/mL L-システイン塩酸塩に加え、一晩嫌気培養した。嫌気培養は、脱酸素剤であるアネロパック・ケンキ(三菱ガス化学、東京、日本)を入れた密閉容器を使用することにより行った。一晩培養した培養液は、吸光度(600 nm)を測定し、吸光度が0.1になるように、新しい液体培地に加えた。6〜7時間嫌気培養し、4℃、9,400 x gで10分遠心し、培養上清を採取した。組換えタンパク質の精製は、HisTrapカラム(GE Healthcare)で行った。培養上清をHisTrapカラムにかけ、結合バッファー(50mM NaPhosphate, 0.3M NaCl, 20mM Imidazole pH7.8)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液でタンパク質を溶出した。培養上清1 mLから精製した量に相当する精製タンパク質を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動し、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した(
図17)。4E6テトラマー、4E6ダイマーEGFPともに推定分子量付近(約60 kDa)に検出された。培養上清中の分泌量は、4E6テトラマーは400 ng/mL、4E6ダイマーEGFPは3.2 ng/mLと見積もられた。以上の結果から、どちらの組換えタンパク質も分泌され、4E6テトラマーの方が、4E6ダイマーEGFPと比較して、効率良く分泌発現されることがわかった。
【0127】
<実施例10:ビフィズス菌で分泌発現した抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)のがん細胞死誘導活性>
ヒト大腸がんColo205細胞(American Type Culture Collection)に対する4E6テトラマーのがん細胞死誘導活性を検討した。細胞は、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 10
3 cells/50μl培地/ウェルで細胞を加えた。一晩培養し、4E6テトラマー、TRAILを、終濃度0.3 pM〜10 nMで含む培地を50μLずつ添加した。さらに一晩培養し、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、6時間培養後450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3 ウェルの平均値+標準偏差で示した。
図18に示すように、4E6テトラマーは濃度依存的に増殖を抑制し、IC
50は0.02 nmol/Lであった。一方、大腸菌で作製したhTRAIL(和光純薬)のIC
50は0.4 nmol/Lであった。したがって、ビフィズス菌で分泌発現された4E6テトラマーは、hTRAILよりも細胞死誘導活性が高いことがわかった。
【0128】
<実施例11:Colo205細胞移植Xenograft modelにおける、組換えB. longum の静脈内投与による抗腫瘍効果の検討>
ヌードマウスの皮下にヒト大腸がんColo205細胞を移植して固形がんを形成させたXenograft modelにおいて、抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)を分泌発現する組換えB. longum 105-Aを静脈内に投与した場合の抗腫瘍効果を検討した。具体的には、6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、2 x10
6のColo205細胞を皮下移植し、9日後に各群(n=6、無処置、4E6テトラマー、4E6ダイマーEGFP)の腫瘍塊の体積が約280mm
3になるように群分けした後、実施例9に従って作製した組換えビフィズス菌を、1匹当り1.5x10
9個で静脈内に投与した。使用したB.longum 105-Aは遠心及び生理食塩水への再懸濁によって調製した。体内のB.longum 105-Aの栄養補助のために、毎日1mLの20%ラクツロースを腹腔内に投与した。腫瘍径はビフィズス菌を投与した日から0、2、4、7、11、14、18、21日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は「(短径)
2 x(長径)/2」の計算式で算出した。結果を
図19に示す。ビフィズス菌投与後21日目で、4E6テトラマーを分泌発現する組換えビフィズス菌は無処置と比較して、腫瘍増殖を51%抑制した。一方、陰性対照とした、4E6ダイマーEGFP分泌ビフィズス菌投与群では腫瘍増殖抑制効果はみられなかった。
【0129】
腫瘍径の計測と同時に、ビフィズス菌を投与した日から0、2、4、7、11、14、18、21日後に各群の体重を計測した。
図20に示すように、無処置、4E6ダイマーEGFP群と比較して、4E6テトラマー群で体重減少は検出されなかった。これらの結果から、4E6テトラマーは、体重減少を引き起こすような副作用を生じることなく、細胞死誘導活性により腫瘍増殖を抑制すると考えられる。
【0130】
<実施例12:BxPC-3細胞移植Xenograft modelにおける、組換えB. longum の静脈内投与による抗腫瘍効果の検討>
ヌードマウスの皮下にヒト膵臓がんBxPC-3細胞を移植して固形がんを形成させたXenograft modelにおいて、抗hTRAIL-R2 VHH抗体テトラマー(4E6テトラマー)を分泌発現する組換えB. longum 105-Aを静脈内に投与した場合の抗腫瘍効果を検討した。具体的には、8週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、2x10
6のBxPC-3細胞を皮下移植し、8日後に各群(n=6、無処置、4E6テトラマー、4E6ダイマーEGFP)の腫瘍塊の体積が約230mm
3になるように群分けした後、実施例9に従って作製した組換えビフィズス菌を、1匹当り1.5x10
9個で静脈内に投与した。使用したB.longum 105-Aは遠心及び生理食塩水への再懸濁によって調製した。体内のB.longum 105-Aの栄養補助のために、毎日1mLの20%ラクツロースを腹腔内に投与した。腫瘍径はビフィズス菌を投与した日から0、3、6、10、13、17日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は「(短径)
2 x(長径)/2」の計算式で算出した。結果を
図21に示す。ビフィズス菌投与後17日目で、4E6テトラマーを分泌発現する組換えビフィズス菌は無処置と比較して、腫瘍増殖を52%抑制した。一方、陰性対照である、4E6ダイマーEGFP分泌ビフィズス菌投与群では腫瘍増殖抑制効果はみられなかった。
【0131】
腫瘍径の計測と同時に、ビフィズス菌を投与した日から0、3、6、10、13、17日後に各群の体重を計測した。
図22に示すように、無処置、4E6ダイマーEGFP群と比較して、4E6テトラマー群で体重減少は検出されなかった。これらの結果から、4E6テトラマーは、体重減少を引き起こすような副作用を生じることなく、細胞死誘導活性により腫瘍増殖を抑制すると考えられる。
【0132】
<実施例13:4P6トリマー組換えE. coli BL21(DE3)の作製及び組換えタンパク質の発現・精製>
(1) 大腸菌発現用抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)遺伝子発現カセットの作製
N末端にStrep Tag、C末端にHis-Tag配列を持ち、実施例4(1)に従って取得した抗hTRAIL-R1 VHH抗体の3つのモノマーどうしを2つの(GGSGG)
2リンカーペプチド(配列番号28)で連結した4P6トリマーをコードする遺伝子を、pET-22b(+)(Novagen)のNdeIとNotI部位に挿入し、大腸菌発現用4P6トリマー遺伝子発現カセットを構築した(実施例6参照)。
【0133】
(2) 大腸菌における組換えタンパク質の発現
上記のように作製したプラスミドベクターを、E.coli BL21Star
TM(DE3)One Shot(Life technologies)に導入した。付属マニュアルに従って組換え大腸菌を200mLの100μg/mLアンピシリン(シグマアルドリッチ)入り2YT培地を用いて37℃で培養し、OD
600=0.4〜0.5に達した時に、1 mM IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド、タカラバイオ)を添加して30℃で3時間培養した。培養終了後、大腸菌を回収して、20mLの抽出バッファー(50mM Na Phosphate pH7.8, 300mM NaCl, EDTA-Free protease inhibitor cocktail(Roche))に再懸濁した。氷中でSonifier 250(Branson)を用いて、Output Control 2、Duty cycle 80%の条件で超音波処理を1分間、2回行い、菌体を破砕した。処理後の懸濁液を9,400xgで4℃にて20分遠心して、上清を回収した。融合タンパク質の精製には、His Trapカラム(GE Healthcare UK)を用いた。超音波処理懸濁液の遠心上清をそのままHis Trapカラムにかけ、結合バッファー(20mM リン酸ナトリウム, 0.5M NaCl, 20mM Imidazole pH 7.4)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液で融合タンパク質を溶出させた。さらに、溶出画分は、Strep-Tactinカラム(IBA)に添加し、付属マニュアルに従って精製した。50ng のBSAに相当する精製タンパク質を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動し、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した(
図23)。4P6トリマーは、推定分子量付近(約42 kDa)に検出された。以上の結果から、4P6トリマーは大腸菌で発現、精製できることがわかった。
【0134】
<実施例14: 大腸菌で発現した4P6トリマーのがん細胞死誘導活性の測定>
ヒト大腸がんColo205細胞(American Type Culture Collection)に対する4P6トリマーのがん細胞死誘導活性を検討した。細胞は、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 10
3 cells/50μl培地/ウェルで細胞を加えた。一晩培養後、4P6トリマーを、終濃度10 pM〜10 nMで含む培地を50μLずつ添加した。さらに二晩培養後、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、4時間培養後450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3 ウェルの平均値+標準偏差で示した。
図24に示すように、4P6トリマーは濃度依存的にColo205細胞の増殖を抑制し、IC
50は0.4 nmol/Lであった。大腸菌で作製したhTRAIL(和光純薬)のIC
50は0.4 nmol/Lであり、大腸菌で発現した4P6トリマーは、hTRAILと同程度の細胞死誘導活性を示した。
【0135】
<実施例15:抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)のビフィズス菌における分泌発現と精製>
(1)エレクトロポレーションによる組換えビフィズス菌の作製
実施例1(1)における発現カセットの4E6テトラマーの部分を、実施例4(1)に従って取得した4P6のトリマーに置き換えて作製した、4P6トリマーをビフィズス菌で分泌発現するためのベクター遺伝子カセットをpKKT427ベクター(Yasui K., et al., Nucleic Acids Res. 2009)のHindIIIとNotIの間に挿入し、B.longum 105-Aにエレクトロポレーション法により導入した。エレクトロポレーションは、2.4 kV、25μF、200オームの条件で行った。
【0136】
(2)ビフィズス菌で分泌発現された4P6トリマーの精製
(1)で得た組換えビフィズス菌を、スペクチノマイシン100μg/mLを含むMRS液体培地(Lactobacilli MRS Broth、Difco Laboratories, Detroit, MI)、50 mM ショ糖、3.4 mg/mL L-アスコルビン酸ナトリウム塩、及び0.2 mg/mL L-システイン塩酸塩に加え、一晩嫌気培養した。嫌気培養は、脱酸素剤であるアネロパック・ケンキ(三菱ガス化学、東京、日本)を入れた密閉容器を使用することにより行った。一晩培養した培養液は、吸光度(600 nm)を測定し、吸光度が0.1になるように、新しい液体培地に加えた。7時間嫌気培養し、4℃、9,400 x gで10分遠心し、培養上清を採取した。組換えタンパク質の精製は、HisTrapカラム(GE Healthcare)で行った。培養上清をHisTrapカラムにかけ、結合バッファー(50mM NaPhosphate, 0.3M NaCl, 20mM Imidazole pH7.8)でカラムを洗浄した後、500mM Imidazoleを含む溶出液でタンパク質を溶出した。培養上清0.6 mLから精製した量に相当する精製タンパク質を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動し、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した(
図25)。4P6トリマーは、推定分子量付近(約42 kDa)に検出された。BSAを用いて定量した結果、4P6トリマーの培養上清中の分泌量は、30 ng/mLと見積もられた。以上の結果から、4P6トリマーはビフィズス菌で分泌発現されることがわかった。
【0137】
<実施例16:ビフィズス菌で分泌発現した抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)のがん細胞死誘導活性>
ヒト大腸がんColo205細胞(American Type Culture Collection)及び膵臓がんBxPC-3細胞(American Type Culture Collection)に対する4P6トリマーのがん細胞死誘導活性を検討した。細胞は、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals)を添加したRPMI1640培地(Sigma)に懸濁し、Falcon 96ウェル培養プレート(ベクトン・ディッキンソン)に3 x 10
3 cells/50μl培地/ウェルで細胞を加えた。一晩培養し、4P6トリマーを、終濃度0.3 pM〜10 nMで含む培地を50μLずつ添加した。さらに二晩培養し、10μLの生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を加え、2時間培養後450 nmの吸光度を測定した。細胞を加えなかった培地のみのウェルをバックグラウンドとして差し引いた。細胞のみのウェルを100%として、その相対値をデータとした。各濃度3 ウェルの平均値+標準偏差で示した。
図26aに示すように、4P6トリマーは濃度依存的にColo205細胞の増殖を抑制し、IC
50は0.08 nmol/Lであった。大腸菌で作製したhTRAIL(和光純薬)のIC
50は0.4 nmol/Lであり、ビフィズス菌で分泌発現された4P6トリマーは、hTRAILよりも細胞死誘導活性が高いことがわかった。
図26bに示すように、4P6トリマーは濃度依存的にBxPC-3細胞の増殖も抑制した。
【0138】
<実施例17:BxPC-3-Luc#2細胞移植Xenograft modelにおける、4P6トリマーを分泌発現する組換えB. longum の静脈内投与による抗腫瘍効果の検討>
ヌードマウスの皮下にヒト膵臓がんBxPC-3-Luc#2細胞(JCRB細胞バンクより入手)を移植して固形がんを形成させたXenograft modelにおいて、抗hTRAIL-R1 VHH抗体トリマー(4P6トリマー)を分泌発現する組換えB. longum 105-Aを静脈内に投与した場合の抗腫瘍効果を検討した。具体的には、6週齢の雌のKSN/Slcヌードマウスに、3x10
6のBxPC-3-Luc#2細胞を皮下移植し、15日後に各群(n=5、無処置、4P6トリマー、pKKT427ベクターのみ)の腫瘍塊の体積が約135mm
3になるように群分けした後、実施例15に従って作製した組換えビフィズス菌を、1匹当り3x10
8個で静脈内に投与した。使用したB.longum 105-Aは遠心及び生理食塩水への再懸濁によって調製した。体内のB.longum 105-Aの栄養補助のために、毎日1mLの20%ラクツロースを腹腔内に投与した。腫瘍径は腫瘍を移植した日から15、19、21、24、28、31、35日後にノギスを用いて計測した。腫瘍体積は「(短径)
2 x(長径)/2」の計算式で算出した。結果を
図27に示す。ビフィズス菌投与後20日目で、4P6トリマーを分泌発現する組換えビフィズス菌は無処置と比較して、腫瘍増殖を65%抑制した。一方、陰性対照である、pKKT427導入ビフィズス菌投与群では腫瘍増殖抑制効果はみられなかった。
【0139】
腫瘍径の計測と同時に、腫瘍を移植した日から15、19、21、24、28、31、35日後に各群の体重を計測した。
図28に示すように、無処置、pKKT427導入ビフィズス菌群と比較して、4P6トリマー群で体重減少は検出されなかった。これらの結果から、4P6トリマーは、体重減少を引き起こすような副作用を生じることなく、細胞死誘導活性により腫瘍増殖を抑制すると考えられる。