特許第6176768号(P6176768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6176768
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】被膜形成装置及び被膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 3/10 20060101AFI20170731BHJP
   B05C 3/08 20060101ALI20170731BHJP
   B05C 11/08 20060101ALI20170731BHJP
   B05C 13/00 20060101ALI20170731BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   B05C3/10
   B05C3/08
   B05C11/08
   B05C13/00
   B05D1/18
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-66647(P2017-66647)
(22)【出願日】2017年3月30日
【審査請求日】2017年4月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511001909
【氏名又は名称】株式会社大商
(74)【代理人】
【識別番号】100170025
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(72)【発明者】
【氏名】山口 武彦
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−031816(JP,A)
【文献】 実開昭62−066753(JP,U)
【文献】 特開平04−166257(JP,A)
【文献】 特開2002−210404(JP,A)
【文献】 特開2013−226558(JP,A)
【文献】 特開2004−069235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00− 21/00
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平な回転軸を有する複数のカゴであって、吊り下げ部の鉛直な回転軸の周りに放射状に吊り下げられた複数のカゴの内部に対象物を保持する対象物保持部と、
前記複数のカゴを処理槽の処理液に浸漬させて、前記複数のカゴ内の対象物を前記処理液に付着させるカゴ浸漬部と、
浸漬させた各前記カゴ毎の回転軸を回転させることで、各前記カゴを鉛直方向に第一の液中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部の回転軸を回転させることで、浸漬させた前記複数のカゴを水平方向に第二の液中回転速度で回転させる液中回転部と、
前記処理液中で回転後の前記複数のカゴを前記処理液から引き上げるカゴ引上部と、
引き上げた各前記カゴ毎の回転軸を回転させることで、各前記カゴを鉛直方向に前記第一の液中回転速度よりも速い第一の空中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部の回転軸を回転させることで、引き上げた前記複数のカゴを水平方向に前記第二の液中回転速度よりも速い第二の空中回転速度で回転させる空中回転部と、
を備える被膜形成装置。
【請求項2】
前記対象物保持部は、各前記カゴ毎に同一の量の対象物を保持する
請求項1に記載の被膜形成装置。
【請求項3】
前記カゴは、左右対称の正多角柱である
請求項1又は2に記載の被膜形成装置。
【請求項4】
前記カゴ引上部は、前記処理槽の位置を、所定の浸漬位置から、前記複数のカゴが前記処理液の液面より上で、且つ、前記処理槽の内部である所定の引上位置に移動させる
請求項1〜3のいずれか一項に記載の被膜形成装置。
【請求項5】
水平な回転軸を有する複数のカゴであって、吊り下げ部の鉛直な回転軸の周りに放射状に吊り下げられた複数のカゴの内部に対象物を保持する対象物保持ステップと、
前記複数のカゴを処理槽の処理液に浸漬させて、前記複数のカゴ内の対象物を前記処理液に付着させるカゴ浸漬ステップと、
浸漬させた各前記カゴ毎の回転軸を回転させることで、各前記カゴを鉛直方向に第一の液中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部の回転軸を回転させることで、浸漬させた前記複数のカゴを水平方向に第二の液中回転速度で回転させる液中回転ステップと、
前記処理液中で回転後の前記複数のカゴを前記処理液から引き上げるカゴ引上ステップと、
引き上げた各前記カゴ毎の回転軸を回転させることで、各前記カゴを鉛直方向に前記第一の液中回転速度よりも速い第一の空中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部の回転軸を回転させることで、引き上げた前記複数のカゴを水平方向に前記第二の液中回転速度よりも速い第二の空中回転速度で回転させる空中回転ステップと、
を備える被膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜形成装置及び被膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物の表面に被膜を形成する方法として、対象物を被膜用の処理液(例えば、塗料)に対して浸漬させた後、引き上げ、更に、対象物を水平方向に回転(正転、逆転)させ、遠心力で余分な処理液を除去しながら処理液を乾燥・硬化等させる、いわゆるディップスピンコーティングが広く実施されている。
【0003】
例えば、特開2003−126747号公報(特許文献1)には、皮膜形成剤塗布用タンクと、少なくとも一つのパイプと、回転ドラムと、回転装置とを備えた皮膜形成剤溶液塗布装置が開示されている。タンクには、パイプが連結され、回転ドラムは、タンク内に収容可能であり、回転装置によりタンク内で回転ドラムが回転し、回転ドラムに塗布対象物を収容し、これをタンク内に収容し、この状態で、パイプで皮膜形成剤溶液をタンク内に注入して、回転ドラム内の塗布対象物を浸漬し、その後、パイプ若しくは他のパイプでタンク内の皮膜形成剤溶液をタンク外部に排出し、その後、回転装置により回転ドラムを回転させて塗布対象物から残存の皮膜形成剤溶液を脱液させる。
【0004】
又、本出願人は、ディップスピンコーティングに関して、三次元動作をする被覆膜形成装置を独自開発し、特許出願している。例えば、特開2013−31816号公報(特許文献2)には、対象物に被覆膜を形成する被覆膜形成装置が開示されている。被覆膜形成装置は、被覆処理液が付着した対象物を内部に保持することができる対象物保持部と、対象物保持部を垂直方向に回転させる垂直回転部と、対象物保持部を水平方向に回転させる水平回転部と、を有する。これにより、被覆処理液が付着した対象物を水平方向だけでなく、垂直方向にも三次元的に回転させることが可能であり、対象物の形状、対象物の配置に影響されることなく、不要な被覆処理液を均一に除去し、均一な被覆膜をすることが出来る。又、対象物の形状や大きさ、形成する被覆膜の厚さ等の条件を考慮して、対象物保持部を、垂直方向、水平方向に回転させる際の回転速度と回転時間を、適宜、決定することによって、対象物に最適な被覆膜を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−126747号公報
【特許文献2】特開2013−31816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の被覆膜形成装置では、内部に対象物を収納した対象物保持部を処理液に浸し、対象物に処理液を付着させて、対象物保持部を引き上げると、対象物の表面の一部にエアー(空気)が入り込むエアー噛みが生じる場合がある。又、対象物の表面の一部に処理液が集中する液溜まりが生じる場合がある。このようなエアー噛みや液溜まりが生じると、対象物の表面に満遍なく処理液を付着させることが出来ないという課題がある。
【0007】
又、従来の被覆膜形成装置では、対象物保持部の中心軸が水平方向の回転軸に一致していることから、被膜用の処理液が付着した対象物を水平方向に回転させた場合、対象物保持部の中心軸の付近に存在する対象物には、水平方向による遠心力が殆ど働かずに、処理液の除去が適切に行われない。又、対象物保持部の中心軸の付近に存在する対象物に遠心力を働かせるためには、水平方向に高速で回転させる必要があり、駆動部に負荷が掛かる。そのため、従来の被覆膜形成装置では、条件によって、対象物に均一な被覆膜を形成することが出来ず、故障が頻繁に生じるという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、対象物に均一な被膜を形成することが出来るとともに、余分な処理液を確実に除去することが可能な被膜形成装置及び被膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭い研究を重ねた結果、本発明に係る新規な被膜形成装置及び被膜形成方法を完成させた。即ち、本発明に係る被膜形成装置は、対象物保持部と、カゴ浸漬部と、液中回転部と、カゴ引上部と、空中回転部と、を備える。対象物保持部は、水平な回転軸を有する複数のカゴであって、吊り下げ部の鉛直な回転軸の周りに放射状に吊り下げられた複数のカゴの内部に対象物を保持する。カゴ浸漬部は、前記複数のカゴを処理槽の処理液に浸漬させて、前記複数のカゴ内の対象物を前記処理液に付着させる。液中回転部は、浸漬させた各前記カゴ毎の回転軸を回転させることで、各前記カゴを鉛直方向に第一の液中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部の回転軸を回転させることで、浸漬させた前記複数のカゴを水平方向に第二の液中回転速度で回転させる。カゴ引上部は、前記処理液中で回転後の前記複数のカゴを前記処理液から引き上げる。空中回転部は、引き上げた各前記カゴ毎の回転軸を回転させることで、各前記カゴを鉛直方向に前記第一の液中回転速度よりも速い第一の空中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部の回転軸を回転させることで、引き上げた前記複数のカゴを水平方向に前記第二の液中回転速度よりも速い第二の空中回転速度で回転させる。
【0010】
又、本発明に係る被膜形成方法は、対象物保持ステップと、カゴ浸漬ステップと、液中回転ステップと、カゴ引上ステップと、空中回転ステップと、を備える。対象物保持ステップは、水平な回転軸を有する複数のカゴであって、吊り下げ部の鉛直な回転軸の周りに放射状に吊り下げられた複数のカゴの内部に対象物を保持する。カゴ浸漬ステップは、前記複数のカゴを処理槽の処理液に浸漬させて、前記複数のカゴ内の対象物を前記処理液に付着させる。液中回転ステップは、浸漬させた各前記カゴ毎の回転軸を回転させることで、各前記カゴを鉛直方向に第一の液中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部の回転軸を回転させることで、浸漬させた前記複数のカゴを水平方向に第二の液中回転速度で回転させる。カゴ引上ステップは、前記処理液中で回転後の前記複数のカゴを前記処理液から引き上げる。空中回転ステップは、引き上げた各前記カゴ毎の回転軸を回転させることで、各前記カゴを鉛直方向に前記第一の液中回転速度よりも速い第一の空中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部の回転軸を回転させることで、引き上げた前記複数のカゴを水平方向に前記第二の液中回転速度よりも速い第二の空中回転速度で回転させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、対象物に均一な被膜を形成することが出来るとともに、余分な処理液を確実に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る被膜形成装置の構成の一例を示す概要図である。
図2】本発明に係る被膜形成装置のカゴの構成の一例を示す側面図及び正面図(図2A)と、複数のカゴの構成の一例を示す平面図(図2B)と、である。
図3】本発明に係る被膜形成方法の手順の一例を示す図である。
図4】本発明に係る被膜形成装置のカゴの一例を示す斜視図(図4A)と、本発明に係る被膜形成装置のカゴの蓋の開放の一例を示す斜視図(図4B)と、である。
図5】本発明に係る被膜形成装置の吊り下げ部の動作の一例を示す斜視図である。
図6】本発明に係る被膜形成装置のカゴが処理液に浸漬している一例を示す斜視図(図6A)と、カゴが処理液から引き上げられた一例を示す斜視図(図6B)と、である。
図7】本発明に係る被膜形成装置で処理されたネジの一例を示す平面斜視図(図7A)と、側面斜視図(図7B)と、である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0014】
本発明に係る被膜形成装置1は、対象物保持部10を備える。対象物保持部10は、複数のカゴ10aの内部に対象物を保持する。対象物は、例えば、ネジ、ナット等の部品(部材)であり、表面に数mmの凹凸を有する細かい部品である。
【0015】
カゴ10aは、複数設けられ、水平な回転軸10bを有し、吊り下げ部10cの鉛直な回転軸10dの周りに放射状に吊り下げられている。吊り下げ部10aの形状は、例えば、円筒形とし、回転軸10dで回転し易くしている。吊り下げ部10aは、円筒状の外装で保護され、吊り下げ部10cの回転軸10dには、モータ等の第一の駆動部20aが連結されている。第一の駆動部20aが駆動することで、吊り下げ部10cの回転軸10dが時計回り(又は逆時計回り)に回転する。
【0016】
又、吊り下げ部10cの上部には、左右の水平方向に移動可能な水平移動部20bが設けられ、水平移動部20bには、モータ等の第二の駆動部20cが連結されている。第二の駆動部20cが駆動することで、複数のカゴ10aを含む吊り下げ部10cが水平方向に移動する。又、吊り下げ部10cの内部には、カゴ10aを鉛直方向に回転させる第三の駆動部20dが設けられている(第三の駆動部20dの動作は後述する)。
【0017】
吊り下げ部10cの下方には、処理液11bが貯留された処理槽11aが設けられており、処理槽11aの上方が開放されている。処理槽11aは、処理液11bを単に貯留する貯留式であっても、処理液11bを循環させる循環式であっても良い。
【0018】
ここで、吊り下げ部10cの上部に、更に、上下の鉛直方向に移動可能な鉛直移動部を設けても良いが、装置の簡素化の観点から、例えば、処理槽11aの下部には、鉛直方向に移動可能な鉛直移動部11cが設けられ、鉛直移動部11cには、モータ等の第四の駆動部11dが連結されている。第四の駆動部11dが駆動することで、処理槽11aが鉛直方向に移動する。吊り下げ部10cを処理槽11aの直上に移動させ、処理槽11aを上方に移動させることで、吊り下げ部10cの複数のカゴ10aが処理槽11aの内部に入れられ、カゴ10a内の対象物が処理槽11aの処理液11bに接触し、浸される。
【0019】
ここで、第一の駆動部20aと、第二の駆動部20cと、第三の駆動部20dと、第四の駆動部11dとは、被膜形成装置1の制御部2により操作される。被膜形成装置1の制御部2は、カゴ浸漬部11と、液中回転部12と、カゴ引上部13と、空中回転部14と、を備える。各部は、プログラム化されており、スタートキーの押下により各部が動作する(各部の詳細な動作は後述する)。
【0020】
カゴ10aの回転軸10bは、図2Aに示すように、2つのV字状のフレーム10eの下方端部で回転可能に支持され、2つのフレーム10eは、吊り下げ部10cの下面に設置される。これにより、カゴ10aの回転軸10bは、水平方向に固定され、カゴ10aが吊り下げ部10cにより鉛直方向に回転可能に吊り下げられる。
【0021】
ここで、カゴ10aの回転軸10bには、第一のロッド10fの一端が回転可能に連結され、第一のロッド10fの他端には、吊り下げ部10cからフレーム10eまでのサイズを有する第二のロッド10gの一端が回転可能に連結され、第二のロッド10gの他端には、カゴ10aの回転軸10bと平行に配置された回転軸10hを有する回転盤10iの端部に回転可能に連結される。そして、回転盤10iの回転軸10hは、第四の駆動部20dと連結され、第四の駆動部20dが駆動することで、回転盤10iの回転軸10hが回転する。これにより、回転盤10iの回転軸10hの回転を、第一のロッド10fと第二のロッド10gとを介して、カゴ10aの回転軸10bに伝えることが可能となる。カゴ10aの回転方向は、回転盤10iの回転方向に対応し、回転盤10iが回転軸10hに対して時計回り(又は逆時計回り)に回転すれば、カゴ10aは回転軸10bに対して時計回り(又は逆時計回り)に回転する。これで、カゴ10aは鉛直方向に回転する。
【0022】
カゴ10aの形状は、鉛直方向の回転を円滑に行うために、例えば、左右対称の正多角柱を採用すると好ましく、図2Aに示すように、中心軸をカゴ10aの回転軸10bに一致させた正六角柱としている。又、カゴ10aは、回転軸10bに沿って長い形状とすることで、対象物の収納量を増加させると好ましい。
【0023】
複数のカゴ10aは、図2Bに示すように、吊り下げ部10cの外縁部に放射状に配置され、吊り下げ部10cの中央部は空間としている。ここで、カゴ10aの配置位置を吊り下げ部10cの回転軸10dから所定距離、離れた位置とすることで、吊り下げ部10aの回転軸10dの回転により、カゴ10a及びカゴ10a内の対象物へ生じる遠心力を強め、対象物の表面に残った余分の処理液10bを飛散させることが出来る。又、吊り下げ部10aの回転軸10dの回転を顕著に高速化しなくても、水平方向の遠心力がカゴ10a内の対象物に十分に掛かるため、第一の駆動部20aへの負荷を軽減し、故障の発生を防止出来る。
【0024】
カゴ10aの数は、例えば、4個であり、全てのカゴ10aは、同一形状、同一サイズであり、複数のカゴ10aが吊り下げ部10cの回転軸10dの周りに放射状に均等に配置されることで、吊り下げ部10cのバランスを取り、吊り下げ部10cの回転の安定を図る。
【0025】
特に、各カゴ10aには、所定量の対象物が計量された後に収納され、全てのカゴ10aには、同一の量の対象物が保持される。これにより、吊り下げ部10c全体でカゴ10aの重量のバランスが取れるようにし、複数のカゴ10aの水平方向の回転でも安定して行えるようにしている。カゴ10aの数は、3個でも構わないが、カゴ10aの数が減ると、カゴ10aの1個当たりに収納する対象物の量が増加する。すると、1個1個のカゴ10aに対象物を収納している際に、吊り下げ部10aがバランスを崩す可能性がある。そのため、カゴ10aの数は、4個であると好ましい。
【0026】
複数のカゴ10aは、吊り下げ部10cの外側に設置させ、カゴ10a同士の間隔を短くするとともに、カゴ10aを回転軸10bに沿って長い形状にする。これにより、対象物の量を増加させ、一回で多くの対象物を処理出来る。
【0027】
次に、図3を参照しながら、本発明の実施形態に係る構成及び実行手順について説明する。先ず、作業者は、被膜形成装置1の1個1個のカゴ10aに所定量の対象物を収納することで、被膜形成装置1の対象物保持部10は、複数のカゴ10aの内部に対象物を保持する(図3:S101)。
【0028】
具体的には、図4Aに示すように、先ず、作業者は、被膜形成装置1の制御部2のコントローラを用いて、第一の駆動部20aを駆動させることで、吊り下げ部10cを回転軸10dに対してゆっくり回転させ、複数のカゴ10aのうち、空のカゴ10aを目の前まで移動させる。
【0029】
次に、作業者は、被膜形成装置1の制御部2のコントローラを用いて、第三の駆動部20dを駆動させることで、カゴ10aを回転軸10bに対してゆっくり回転させて、カゴ10aの蓋が上方にくるように調整する。そして、作業者は、図4Bに示すように、カゴ10aの蓋を取り外すとともに、所定量の対象物を計量し、所定量の対象物をカゴ10aの開口部からカゴ10aの内部に収納し、カゴ10aに蓋をして、カゴ10aの内部に対象物を保持させる。
【0030】
ここで、対象物の所定量は、例えば、カゴ10aの内容積の1/2未満とする。これにより、カゴ10aを鉛直方向に回転した際に、カゴ10aの内部の対象物も適度に鉛直方向に回転し、対象物に付着した余分の処理液11bを飛散させることが出来る。
【0031】
さて、カゴ10aの内部への対象物の収納が完了すると、作業者は、空のカゴ10aに対して上述の作業を繰り返すことで、各カゴ10a毎に同一の量の対象物を保持させることが出来る。
【0032】
次に、作業者は、コントローラのスタートキーを押下する。すると、制御部2のプログラムが作動し、制御部2のカゴ浸漬部11は、複数のカゴ10aを処理槽11aの処理液11bに浸漬させて、複数のカゴ10a内の対象物を処理液11bに付着させる(図3:S102)。
【0033】
具体的には、図5に示すように、作業者は、コントローラ3のスタートキーを押下すると、カゴ浸漬部11は、第二の駆動部20cを駆動することで、水平移動部20bを介して、吊り下げ部10cの位置を、初期位置(処理後の対象物を入れるトレイ4の位置)から処理槽10aの直上の位置に移動させる。
【0034】
次に、カゴ浸漬部11は、第四の駆動部11dを駆動することで、鉛直移動部11cを介して、処理槽11aの位置を、初期位置(最下の位置)から、図6Aに示すように、吊り下げ部10cの複数のカゴ10aが処理槽11aの処理液11bに浸漬する所定の浸漬位置に移動させる。これにより、カゴ10a内に保持された対象物が処理液11bに付着する。所定の浸漬位置は、例えば、カゴ10aの半分が処理液11b内に浸かる位置に設定すると、カゴ10a内の対象物が確実に処理液11bに浸るため、好ましい。
【0035】
そして、カゴ浸漬部11がカゴ10aの浸漬を完了すると、次に、制御部2の液中回転部12は、浸漬させた各前記カゴ10a毎の回転軸10bを回転させることで、各前記カゴ10aを鉛直方向に第一の液中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部10cの回転軸10dを回転させることで、浸漬させた前記複数のカゴ10aを水平方向に第二の液中回転速度で回転させる(図3:S102)。
【0036】
具体的には、液中回転部12は、第四の駆動部11dを駆動して、各カゴ10aを鉛直方向に回転させながら、第一の駆動部20aを駆動して、吊り下げ部10cの回転により複数のカゴ10aを水平方向に回転させる。これにより、対象物に処理液を馴染ませることが出来るため、対象物の表面の一部に付いたエアーを抜くとともに、対象物が様々な方向に処理液中で移動することで、処理液の滞留が生じない。そのため、対象物にエアー噛みや液溜まりを発生させること無く、対象物を処理液11bに満遍なく付着させることが出来る。その結果、不良品の生成を確実に防止することが出来る。カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転は、時計回り(正回転)及び反時計回り(逆回転)を含む。カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転を同時に行うことで、処理液11bの付着に要する時間を短縮化することが出来る。
【0037】
又、カゴ10aの回転(処理液の撹拌)は、通常、高速にすると、エアー噛み等が促進され、処理液が空気中の酸素と反応し、処理液の酸化が促進されるため、好ましくない。そのため、第一の液中回転速度と、第二の液中回転速度とは、いずれも低速に設定される。第一の空中回転速度及び第二の空中回転速度を低速にすることで、処理液の酸化を防止するとともに、新鮮な処理液を対象物に馴染ませることが出来る。又、他の観点では、回転に伴う処理液へのカゴ10aの抵抗を無くし、処理液の飛散を防止することが出来る。第一の空中回転速度は、第二の空中回転速度と同一でも良いし、異なっても良い。
【0038】
そして、液中回転部12は、カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転を所定の回転時間だけ行って、当該回転を停止するか、当該回転を維持した状態で、次に、制御部2のカゴ引上部13は、前記処理液11b中で回転後の複数のカゴ10aを処理液11bから引き上げる(図3:S104)。
【0039】
具体的には、カゴ引上部13は、第四の駆動部11dを駆動することで、鉛直移動部11cを介して、処理槽11aの位置を、所定の浸漬位置から、図6Bに示すように、吊り下げ部10cの複数のカゴ10aが処理槽11aの処理液11bの液面より上で、且つ、処理槽11aの内部である所定の引上位置に移動させる。これにより、複数のカゴ10aを処理槽11aの内部に入れた状態にすることが出来るため、後述の処理液除去の際に、飛散する処理液11bを処理槽11aの内壁で受け止め、回収することが出来る。所定の引上位置は、例えば、カゴ10aの最下部と処理液11bの液面との間の距離が数cm程度となる位置に設定される。
【0040】
さて、カゴ引上部13が処理を完了すると、次に、制御部2の空中回転部14は、引き上げた各前記カゴ10a毎の回転軸10bを回転させることで、各前記カゴ10aを鉛直方向に前記第一の液中回転速度よりも速い第一の空中回転速度で回転させるとともに、前記吊り下げ部10cの回転軸10dを回転させることで、引き上げた前記複数のカゴ10aを水平方向に前記第二の液中回転速度よりも速い第二の空中回転速度で回転させる(図3:S105)。
【0041】
具体的には、空中回転部14は、第四の駆動部11dを駆動して、各カゴ10aを鉛直方向に回転させる。これにより、カゴ10a内の対象物に鉛直方向の遠心力を与え、対象物の表面に残った余分の処理液10bを飛散させることが出来る。
【0042】
これと同時に、空中回転部14は、第一の駆動部20aを駆動して、吊り下げ部10cの回転により複数のカゴ10aを水平方向に回転させる。これにより、今度は、カゴ10a内の対象物に水平方向の遠心力を与え、対象物の表面に残った余分の処理液10bを更に飛散させることが出来る。
【0043】
ここで、カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転は、時計回り及び反時計回りを含む。カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転を同時に行うことで、今度は、処理液11bの除去に要する時間を短縮化することが出来る。
【0044】
又、対象物に付着した余分の処理液10bを十分に引き剥がすために、第一の空中回転速度は、第一の液中回転速度よりも高速に設定され、第二の空中回転速度は、第二の液中回転速度よりも高速に設定される。カゴ10aは空中に存在するため、第四の駆動部11d及び第一の駆動部20aに負荷が掛かり難いため、第一の空中回転速度及び第二の空中回転速度は、高速に設定されても、故障が生じるおそれが無い。又、回転に要する動力は、少なくて済む。空中回転部14は、カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転を所定の回転時間だけ行って、処理を完了する。
【0045】
ところで、液中回転部12が、カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転を低速で行った後に、その回転を維持しながら、カゴ引上部13が、浸漬中の複数のカゴ10aを処理液11bから引き上げ、当該引き上げが完了すると(カゴ10aが処理液11bから上がった段階で)、今度は、液中回転部12から空中回転部14に切り替わり、空中回転部14が、カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転を高速で行い、当該回転を連続的に行っても良い。これにより、カゴ10aの鉛直方向及び水平方向の回転を引き上げによって停止するよりも、各部に負荷が掛かり難く、処理を円滑に行うことが出来る。
【0046】
さて、空中回転部14が処理を完了すると、カゴ引上部12は、第四の駆動部11dを駆動することで、鉛直移動部11cを介して、処理槽11aの位置を、所定の引上位置から、最下の位置(初期位置)に移動させる。次に、カゴ浸漬部11は、第二の駆動部20cを駆動することで、水平移動部20bを介して、吊り下げ部10cの位置を、処理槽10aの直上の位置からトレイ4の位置(初期位置)に移動させる。ここでは、カゴ10aを処理液11bに浸漬させる動作の逆の動作が行われる。
【0047】
そして、作業者は、1個1個のカゴ10aの内部の対象物を取り出す(図3:S106)。具体的には、作業者が、コントローラ3を用いて、対象物を保持するカゴ10aをトレイ4の前まで移動させ、そのカゴ10aの蓋が上方にくるように調整する。そして、作業者は、カゴ10aの蓋を取り外すとともに、カゴ10aの開口部をトレイ4へ傾けることで、カゴ10a内の対象物をトレイ4へ移す。カゴ10a内の対象物が全てトレイ4へ移動すると、作業者は、カゴ10aの傾きを元に戻し、蓋をする。作業者は、上述の作業を、対象物を保持するカゴ10aに対して繰り返すことで、全てのカゴ10aの内部の対象物をトレイ4へ移動させる。これにより、対象物へのディップスピンコーティングが完了する。
【0048】
さて、本発明に係る被膜形成装置1でディップスピンコーティングをした対象物の例を示す。図7A図7Bに示すように、例えば、対象物が数mmの凹凸を有するネジであっても、均一に処理液が対象物の表面に塗布され、均一な被膜が形成されているとともに、余分な処理液が存在しないことが理解される。このように、本発明では、対象物に均一な被膜を形成することが出来るとともに、余分な処理液を確実に除去することが可能となる。処理液の塗布が均一、且つ、適切であるため、不良品が生じず、生産性を向上させる。又、このように非常に均一に処理液を対象物の表面に塗布することが出来ると、同じ対象物の表面に対して処理液を複数回塗布することも可能となり、被膜の強化を図ることが可能となる。
【0049】
更に、本発明では、カゴ10aを水平方向に回転させる場合に、カゴ10aを吊り下げ部10cの回転軸10dから離して放射状に配置していることから、カゴ10aへ水平方向の遠心力が確実に掛かる。そのため、吊り下げ部10cの回転軸10dを過度に回転させる必要が無く、装置に負荷を掛けずに済む。これにより、装置の故障を生じ難くすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係る被膜形成装置及び被膜形成方法は、航空分野、自動車分野、燃料電池分野、水素エネルギー分野等の様々な分野で使用される対象物の被膜形成に有用であり、対象物に均一な被膜を形成することが出来るとともに、余分な処理液を確実に除去することが可能な被膜形成装置及び被膜形成方法として有効である。
【符号の説明】
【0051】
1 被膜形成装置
10 対象物保持部
11 カゴ浸漬部
12 液中回転部
13 カゴ引上部
14 空中回転部
【要約】
【解決手段】対象物保持部10は、水平な回転軸10bを有する複数のカゴ10aであって、吊り下げ部10cの鉛直な回転軸10dの周りに放射状に吊り下げられた複数のカゴ10aの内部に対象物を保持する。カゴ浸漬部11は、複数のカゴ10aを処理槽11aの処理液11bに浸漬させて、複数のカゴ10a内の対象物を処理液11bに付着させる。液中回転部12は、浸漬させた各カゴ10aを鉛直方向に第一の液中回転速度で回転させるとともに、浸漬させた複数のカゴ10aを水平方向に第二の液中回転速度で回転させる。カゴ引上部13は、処理液中で回転後の複数のカゴ10aを処理液11bから引き上げる。空中回転部14は、引き上げた各カゴを鉛直方向に第一の液中回転速度よりも速い第一の空中回転速度で回転させるとともに、引き上げた複数のカゴを水平方向に第二の液中回転速度よりも速い第二の空中回転速度で回転させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7