特許第6176988号(P6176988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6176988
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/12 20060101AFI20170731BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20170731BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20170731BHJP
【FI】
   F21S8/12 251
   F21W101:10
   F21Y115:10
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-89338(P2013-89338)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-216049(P2014-216049A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀忠
【審査官】 當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−227102(JP,A)
【文献】 特開2009−224039(JP,A)
【文献】 特開2005−035497(JP,A)
【文献】 特開2009−048786(JP,A)
【文献】 特開2007−030619(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/129105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射面を有し動作位置に応じて前記反射面からの反射光の向きが変化する可動リフレクタと、
前記反射面に対して光を出射する第1発光部と、
前記反射面に対して前記第1発光部とは異なる位置から光を出射する第2発光部と、
前記反射光を集光して出射する光制御部材とを備え
前記第1発光部の光と前記第2発光部の光が、共通の前記可動リフレクタの反射面に向けて出射し、
前記第1発光部がハイビーム用の発光部とされ、
前記第2発光部が描画用の発光部とされている
車両用灯具。
【請求項2】
前記可動リフレクタは回転又は揺動可能に構成されている
請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記光制御部材は凸レンズとされ、
前記第1発光部と前記第2発光部が上下に配置されている
請求項1又は請求項2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記第1発光部と前記第2発光部が異なる色の光を出射する
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記第1発光部又は前記第2発光部は少なくとも一つの半導体発光素子をそれぞれ有する複数の発光ブロックによって構成され、
前記複数の発光ブロックが一方向において隣接して配置され、
少なくとも一つの前記発光ブロックには複数の前記半導体発光素子が前記一方向に直交する方向において所定の間隔で配列され、
複数の前記半導体発光素子を有する前記発光ブロックとこれに隣接する前記発光ブロックとにおいて、一方の前記発光ブロックの前記半導体発光素子と他方の前記発光ブロックの前記半導体発光素子とが前記直交する方向においてずれて位置されている
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射光をスキャン可能に構成された車両用灯具の技術分野に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2009−224039号公報
【特許文献2】特開2012−227102号公報
【背景技術】
【0003】
車両用灯具には、例えば上記特許文献1や特許文献2にあるように、照射光をスキャン(走査)させることが可能に構成されたものがある。
特許文献1には、投射光をスキャンさせつつスキャン動作に合わせて光源のオン/オフ制御を行うことでいわゆるADB(Adaptive Driving Beam:走行環境に適応させた配光パターンの制御)機能を実現する技術が開示されている。
また、特許文献2には、投射光をスキャンさせつつスキャン動作に合わせて光源のオン/オフ制御を行うことで配光パターンを制御する機能を実現する技術が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用灯具に関しては、光を照射するという機能のみではなく、さらに機能を追加して機能性を高めたいとの要請がある。
しかしながら、その一方でサイズの大型化は避けたいとの要請もある。
【0005】
そこで、本発明は、上記した問題点を克服し、車両用灯具に関して機能性の向上とサイズの大型化の防止との両立を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1に、本発明に係る車両用灯具は、反射面を有し動作位置に応じて前記反射面からの反射光の向きが変化する可動リフレクタと、前記反射面に対して光を出射する第1発光部と、前記反射面に対して前記第1発光部とは異なる位置から光を出射する第2発光部と、前記反射光を集光して出射する光制御部材とを備え、前記第1発光部の光と前記第2発光部の光が、共通の前記可動リフレクタの反射面に向けて出射し、前記第1発光部がハイビーム用の発光部とされ、前記第2発光部が描画用の発光部とされているものである。
【0007】
これにより、第1発光部と第2発光部に関して共通の可動リフレクタの動作によって2つの光がスキャンされる。また、ハイビームとしての車両用灯具に描画機能が追加される。
【0008】
第2に、上記した本発明に係る車両用灯具においては、前記可動リフレクタは回転又は揺動可能に構成されていることが望ましい。
これにより、送風機能が実現される。
【0009】
第3に、上記した本発明に係る車両用灯具においては、前記光制御部材は凸レンズとされ、前記第1発光部と前記第2発光部が上下に配置されていることが望ましい。
これにより、第1発光部又は第2発光部から出射され可動リフレクタで反射された光を上向き又は下向きに照射することが可能となる。
【0010】
第4に、上記した本発明に係る車両用灯具においては、前記第1発光部と前記第2発光部が異なる色の光を出射することが望ましい。
これにより、異なる色の光が光制御部材によって制御されて照射される。
【0011】
第5に、上記した本発明に係る車両用灯具においては、前記第1発光部又は前記第2発光部は少なくとも一つの半導体発光素子をそれぞれ有する複数の発光ブロックによって構成され、前記複数の発光ブロックが一方向において隣接して配置され、少なくとも一つの前記発光ブロックには複数の前記半導体発光素子が前記一方向に直交する方向において所定の間隔で配列され、複数の前記半導体発光素子を有する前記発光ブロックとこれに隣接する前記発光ブロックとにおいて、一方の前記発光ブロックの前記半導体発光素子と他方の前記発光ブロックの前記半導体発光素子とが前記直交する方向においてずれて位置されていることが望ましい。
これにより、各半導体発光素子を光源とするスキャン光同士のスキャン方向に直交する方向における間隔を狭めることが可能とされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光のスキャンを利用した機能として、例えばADB機能と描画機能などといった2つの機能を実現できる。2つの機能の実現にあたり機能ごとに光学系を分けて構成する必要がないため、サイズの大型化を防止できる。
従って、本発明によれば、車両用灯具の機能性の向上とサイズの大型化の防止との両立を図ることができる。また、ハイビームとしての車両用灯具に描画機能が追加される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態の車両用灯具の概略正面図である。
図2】車両用灯具が備える灯具ユニットの概略斜視図である。
図3】灯具ユニットの概略平面図である。
図4】灯具ユニットの発光に係る部分の拡大図である。
図5】灯具ユニットにおける光のスキャンを実現するための構成部を抽出して示した概略斜視図である。
図6】回転リフレクタの斜視図である。
図7】回転リフレクタの側面図である。
図8】回転リフレクタの回転によって実現される光のスキャンについての説明図である。
図9】ADB機能の説明図である。
図10】描画機能についての説明図である。
図11】第1発光部と第2発光部からそれぞれ出射される光の経路を模式的に表した図である。
図12】灯具ユニットを上側から俯瞰した際の第2発光部、回転リフレクタの羽部及び投射レンズの位置関係を模式的に示した図である。
図13】半導体発光素子の配置についての説明図である。
図14】揺動リフレクタについての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明車両用灯具を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。
本発明車両用灯具は、車両に備えられる各種の灯具として適用可能であるが、以下では一例として、車両用前照灯への適用例を説明する。
【0016】
図1は、実施の形態の車両用灯具1の概略正面図である。
車両用前照灯としての車両用灯具1は、ランプハウジングとカバーによって構成された筐体の内部が灯室1Aとして形成され、灯室1A内に灯具ユニット2と灯具ユニット3とが設けられている。灯具ユニット2は、ロービーム用の灯具ユニットである。なお、灯具ユニット2については本発明と直接的に関係するものではなく、任意の構成が採られればよい。
灯具ユニット3は、本発明に係るスキャン光を車両前方に照射(投射)するための灯具ユニットである。
【0017】
灯具ユニット3は、図2乃至図5に示すように、鉛直ベース5と、鉛直ベース5に取り付けられた第1ブラケット6と、第1ブラケット6が取り付けられた底面ベース7と、底面ベース7に取り付けられた第2ブラケット8と、第2ブラケット8に回転自在に支持された回転リフレクタ9と、第1ブラケット6に取り付けられた第1発光ユニット10及び第2発光ユニット11と、第1ブラケット6に取り付けられたレンズホルダー12と、レンズホルダー12に保持された投射レンズ13とを備えている。
【0018】
鉛直ベース5は、前後方向を向く矩形の板状部材とされている。鉛直ベース5の後面5Bには、ヒートシンク50,50が取り付けられている。ヒートシンク50,50により、後述する第1発光部16と第2発光部19の発光に伴い生じた熱が放出される。
【0019】
第1ブラケット6は、左右方向を向く略矩形の板状部材とされ、後端部が鉛直ベース5の一方の側部に取り付けられている。
【0020】
第1発光ユニット10と第2発光ユニット11は、第1ブラケット6の一方の側面6aに取り付けられている。第1発光ユニット10は、第1ブラケット6に接合された第1ベース板15と、第1ベース板15上に配置された第1発光部16と、第1ベース板15に取り付けられたリフレクタ形成部材17とを備えて構成されている。第2発光ユニット11は、第1ブラケット6に接合された第2ベース板18と、第2ベース板18上に配置された第2発光部19と、第2ベース板18に取り付けられたシェード20とを備えて構成されている。第2発光ユニット11は、第1発光ユニット10より上側に位置されている。
【0021】
図4に示すように、第1発光ユニット10の第1発光部16は、複数の半導体発光素子16A,16A・・・を備えている。本実施の形態の場合、半導体発光素子16A,16A・・・にはLED(Light Emitting Diode)が用いられ、その発光色は例えば白色とされている。第1発光部16を構成する半導体発光素子16A,16A・・・の数は例えば五つとされ、これらの半導体発光素子16Aは例えば三列に配列されている。具体的には、二個、二個、一個の組に分けられて配列されている。
【0022】
リフレクタ形成部材17には、リフレクタ17Aが形成されている。本例の場合、リフレクタ17Aは第1発光部16における半導体発光素子16Aの各列に対応して三つが形成されている。リフレクタ17A,17A,17Aは、リフレクタ形成部材17に設けられた開口部の周囲を覆う壁部が反射面とされたことで形成されている。リフレクタ17A,17A,17Aは、それぞれ対応する半導体発光素子16Aからの出射光を反射し、これにより第1発光部16に関する光量や配光パターンをコントロールすることが可能とされている。
【0023】
第2発光ユニット11の第2発光部19は、複数の半導体発光素子19A,19A・・・を備えている。本実施の形態の場合、これら半導体発光素子19A,19A・・・としてもLEDが用いられ、その数は例えば五つとされる。半導体発光素子19A,19A・・・は、車両用灯具1が備える他の光源(第1発光部16及びロービームを照射する灯具ユニット2が備える光源)とは異なる色の光を出射する。本例の場合、半導体発光素子19A,19A・・・の発光色は例えば橙色とされている。
なお、灯具ユニット2の光源の発光色は第1発光部16の発光色と同様に例えば白色とされている。
【0024】
第2発光部19においては、半導体発光素子19A,19A・・・が例えば二列に配列されている。具体的には、二個、三個の組に分けられて配列されている。
なお、本例における半導体発光素子19A,19A・・・の具体的な配列態様については後述する。
【0025】
シェード20は、第2発光部19から出射される発散光の外周部分を遮光するために設けられている。シェード20には、第2発光部19からの出射光を通過させる開口部20Aが設けられている。シェード20が設けられることで、第2発光部19から投射レンズ13に対して直射光(回転リフレクタ9を介さない光)が入射されることを防止できる。また、シェード20が設けられることで、第2発光部19による出射光の光束の広がりを抑制でき、後述する描画機能において描画像をシャープにする上で好適である。
【0026】
図5に示すように、第2発光ユニット11は、第1発光ユニット10の設置角度に対して所定の角度θだけ傾斜されている。具体的に、第1発光ユニット10の設置角度は鉛直方向とされているのに対し、第2発光ユニット11の設置角度は鉛直方向に対して角度θだけ下向きに傾斜されている。これに伴い、第1発光部16の発光面(各半導体発光素子16Aの発光面)に対し、第2発光部19の発光面(各半導体発光素子19Aの発光面)が角度θだけ下向きに傾斜されている。
本例では、第1ブラケット6における第2発光ユニット11の取り付け面が、鉛直方向に対し角度θだけ下向きに傾斜され、該傾斜された面に第2ベース板18が接合されることで第2発光部19の発光面が角度θだけ下向きに傾斜されている。
【0027】
レンズホルダー12は、その一部が第1ブラケット6の他方の側面6bに取り付けられ、前端部が投射レンズ13を取り付けるためのレンズ取付部12Aとして形成されている(図2及び図3参照)。
【0028】
投射レンズ13は、凸レンズであり、本例では平凸レンズが用いられている。投射レンズ13の外縁部の所定位置には被取付部13Aが形成されており、被取付部13Aがレンズ取付部12Aに取り付けられることで、投射レンズ13がレンズホルダー12に保持されている。被取付部13Aのレンズ取付部12Aに対する取り付けは、投射レンズ13の凸面が前方を向くように行われている。
【0029】
底面ベース7は、上下方向を向く略矩形の板状部材とされ、その上面7Aに第1ブラケット6と第2ブラケット8が取り付けられている。
【0030】
第2ブラケット8は、略矩形状の板状部材が90°折り曲げられ略L字形状とされている。第2ブラケット8は、L字の底辺部を構成する底部8Aと、L字の背の部分を構成する背部8Bとを有する。第2ブラケット8は、底部8Aが底面ベース7の上面7Aに取り付けられている。
【0031】
第2ブラケット8の背部8Bには、回転リフレクタ9を取り付けるため取付部8Cが形成されている。取付部8Cは略円筒状に形成され、取付部8Cの内部には回転リフレクタ9を回転させるためのモータ(不図示)が保持されている。このモータの回転軸に回転リフレクタ9が取り付けられている。回転リフレクタ9は、該モータの回転軸(後の図8で説明する回転軸Rと一致)を回転中心として回転可能とされ、回転軸Rが第1発光部16と第2発光部19の出射光の光軸(ax1,ax2)に対して傾斜するように位置されている。
【0032】
回転リフレクタ9は、図6及び図7に示すように、中央部に配された円筒状の回転基部9Aと、回転基部9Aの外周面から外方へ突出された2枚の羽部9B,9Bとを有する。羽部9B,9Bは板状にされ、同一形状を有している。羽部9B,9Bの表面はそれぞれ反射面Rfとして形成されている。
【0033】
回転リフレクタ9には、羽部9B、9B間に周方向においてそれぞれ空隙9C,9Cが形成されている。なお、空隙9C,9Cを形成する意義については後述する。
【0034】
回転リフレクタ9は、第1発光部16と第2発光部19よりそれぞれ出射された光を反射面Rfにより反射して投射レンズ13に入射させる役割を担う。回転リフレクタ9は、回転位置に応じて反射光の向きを変化させることが可能に構成されている。
【0035】
羽部9Bの反射面Rfの形状は、第1発光部16と第2発光部19から出射された光のスキャンを実現するために所定形状に形成されている。
具体的に、反射面Rfの形状は、先に掲げた特許文献2に記載のブレード26aと同様に捩られた形状とされている。より具体的に、反射面Rfの形状は、第1発光部16による出射光の光軸を光軸ax1、第2発光部19による出射光の光軸を光軸ax2としたときに、水平面に平行な面内において光軸ax1,ax2と反射面Rfとがなす角度を羽部9Bの回転に伴って変化させるように捩られた形状とされている。
【0036】
図8は、回転リフレクタ9の回転によって実現される光のスキャンについての説明図であり、灯具ユニット3を上側から俯瞰した際の第1発光部16、第2発光部19、回転リフレクタ9及び投射レンズ13の位置関係と、光軸ax1及び光源ax2を模式的に示している。なお、灯具ユニット3を上側から俯瞰したとき、回転リフレクタ9に対する第1発光部16、第2発光部19の位置関係は同様とみなせるので、この図では第1発光部16と第2発光部19及び光軸ax1と光軸ax2を纏めて表している。
【0037】
回転リフレクタ9は、前述したモータが駆動されることに伴い、回転軸Rを回転中心として例えば図中の矢印rで表す方向に回転される。回転リフレクタ9が回転されると、その回転位置に応じて、水平面に平行な面内において光軸ax1,ax2と反射面Rfとがなす角度が変化する。このため、回転リフレクタ9の回転に応じて、図中の矢印sで表すように、光軸ax1,ax2が水平面に平行な面内で揺動するように変化し、第1発光部16と第2発光部19からそれぞれ出射された光が水平方向にスキャン(走査)される。
本例の場合、羽部9Bの1枚につき1スキャンが行われる。
【0038】
ここで、上記のように構成された本実施の形態の車両用灯具1においては、第1発光部16が、ハイビーム(上向き・遠目)用の光源とされている。ハイビーム用光源としての第1発光部16による出射光について図8のようなスキャンを行うことにより、ADB(Adaptive Driving Beam)機能を実現することが可能とされる。
ADB機能は、例えば先行車や対向車など、ハイビームを照射することが望ましくない対象物に光が照射されないようにハイビーム配光領域の一部に光の非照射領域を形成する機能である。
【0039】
図9は、ADB機能の説明図である。
図9の左側には、第1発光部16を光源とする光が投射レンズ13を介して車両前方に照射されて形成される配光領域Saが、スキャン動作に伴い水平方向に遷移する様子を模式的に表している。なお、この図では、1回のスキャンに要する時間を時点t1〜t7に分割した際の各時点tにおける配光領域Sa1〜Sa7を表している。
スキャン動作中に第1発光部16が点灯し続けていれば、人間の視覚的には、配光領域Sa1〜Sa7の全てを合わせた領域がハイビーム配光領域として認識される。これは、ADB機能を実現する上でスキャン周波数を人間の目の残像効果が得られる程度に高く設定することによる。
【0040】
図9の右側には、スキャン動作中における時点t3の直後から時点t6の直前までの期間で第1発光部16を消灯させることで、配光領域Sa3と配光領域Sa6との間に光の非照射領域を形成した例を示している。光のスキャン動作中において所定のタイミングで第1発光部16を消灯させることで、ハイビーム配光領域の所定の一部に光の非照射領域を形成できる。このように、ADB機能は、ハイビーム用光源としての第1発光部16についての点消灯制御を、光のスキャン動作、すなわち回転リフレクタ9の回転動作に応じて行うことで実現される。
【0041】
なお、図示による説明は省略するが、第1発光部16を構成する半導体発光素子16A,16A・・・のうち例えば上側に配置される半導体発光素子16Aのみをスキャン動作中に消灯させれば、光の非照射領域を上側のみにすることもできる。この点からも理解されるように、ADB機能は、図9の右側に例示したような、ハイビーム配光領域を左右に完全に分断するものに限定されない。
【0042】
本実施の形態の車両用灯具1においては、上記のようなハイビーム用光源としての第1発光部16による出射光のスキャンのみでなく、第2発光部19を光源とする光についても同様に回転リフレクタ9によるスキャンが可能とされている。
本実施の形態において、第2発光部19は、描画用の光源とされている。
【0043】
図10は、描画機能についての説明図である。
図10の上側には、第2発光部19を構成する半導体発光素子19A,19A・・・をそれぞれ光源とする光のスキャン範囲Sc1〜Sc5を模式的に表している。描画機能は、回転リフレクタ9の回転により光のスキャンが行われる下で、半導体発光素子19Aごとに点消灯制御を所定のタイミングで行うことで実現される。図10の中央及び下側には、このような半導体発光素子19Aごとの点消灯制御によってそれぞれ「50」「→」としての像が描画された例を示している。
【0044】
上記のような描画機能は、例えば走行中において運転者に所定のマークを視認させる等の用途を考慮すると、半導体発光素子19A,19A・・・からの出射光を投射レンズ13を介して路面上に照射して行うことが望ましい。この点を考慮し、本実施の形態の車両用灯具1では、第1発光部16よりも第2発光部19を上側に配置している。
【0045】
図11は、第1発光部16と第2発光部19からそれぞれ出射された光の経路を模式的に表している。なお、図11では、灯具ユニット3を側面から見た際の光の経路を示している。また、図11では、第1発光部16と第2発光部19から出射された光として、それぞれ1つの半導体発光素子16Aと半導体発光素子19Aから出射された光のみを代表して示している。図中の実線Aが、第2発光部19から出射された光の経路を表している。
【0046】
ここで、路面に向けて下向きに光を照射するためには、凸レンズとしての投射レンズ13の焦点より上方に第2発光部19を配置させる必要がある。これは、投射レンズ13が、焦点付近の光度分布(像)を上下左右に反転して前方に投射する特性を有することによる。上記のように第2発光部19を第1発光部16よりも上側に配置することは、第2発光部19を投射レンズ13の焦点より上方に配置させる上で望ましく、従って路面描画機能のように下向きの光照射を要する機能を実現する上で好適となる。
【0047】
なお、前述のように本実施の形態では、第2発光部19を角度θだけ下向きに傾斜させている。この角度θは、投射レンズ13の像面湾曲に応じた角度に設定されている。このように投射レンズ13の像面湾曲に応じた角度で第2発光部19を下向きに傾斜させることは、第2発光部19を光源とする光についての投射レンズ13における光学収差の発生を抑える面で好適である。
【0048】
また、本実施の形態では、第1発光部16と第2発光部19をそれぞれ異なる位置に設けて、第1発光部16と第2発光部19からの出射光をそれぞれ反射面Rfの異なる部分に照射させるようにしている。これにより、反射面Rfを介して投射される第1発光部16と第2発光部19の出射光の上下の向きを制御するにあたっての光学系の設計を容易化できる。
【0049】
また、車両用灯具1においては、回転リフレクタ9の羽部9B,9Bに同時に光が照射されて二つの光束が同時に路面に投射されてしまうと描画性能の低下を招き望ましくないため、一方の羽部9Bによるスキャンから他方の羽部9Bによるスキャンに切り替わるタイミングで半導体発光素子19A,19A・・・を消灯させる制御が行われる。
但し、半導体発光素子19A,19A・・・を消灯させる時間が長くなると、路面に対する描画範囲が狭まる傾向となり、描画像の視認性の低下を招く虞がある。このため、車両用灯具1においては、上記したように、羽部9B,9B間に空隙9C,9Cを形成し、空隙9C,9Cに光線が向かうことになる一定の時間のみ半導体発光素子19A,19A・・・を消灯して消灯時間の短縮化を図っている。
このように車両用灯具1にあっては、羽部9B,9Bに二つの光束が同時に照射されないようにした上で半導体発光素子19A,19A・・・の消灯時間の短縮化を行うことにより、路面に対する描画性能の向上を図ることができると共に、路面に描画される像の視認性の向上を図ることができる。
【0050】
なお、双方の羽部9Bに同時に光が照射される時間を短くするためには、例えば特許文献2に記載されるような「仕切り板」を設けることも考えられる。
【0051】
車両用灯具1では、描画性能を考慮すると光学系の焦点を第2発光部19側に合わせることが望ましく、この場合の第2発光部19、回転リフレクタ9及び投射レンズ13の位置関係を図12を参照して説明する。
図12において、焦点Fは、投射レンズ13の焦点を表す。交点Prは、第2発光部19による出射光の光軸(ax2)と羽部9Bの反射面Rfとの交点である。本実施の形態では、第2発光部19の発光面から交点Prまでの距離L2が、交点Prから焦点Fまでの距離L1と一致するように第2発光部19、回転リフレクタ9及び投射レンズ13の位置関係を設定している。このように第2発光部19側に焦点を合わせることで、描画像がシャープとなり、描画像の視認性が向上して描画性能の向上が図られる。
【0052】
第1発光部16側については、上記の第2発光部19側のように焦点を合わせなくてもよい。これによると、ADBによるハイビームの照射領域と非照射領域との境界がぼやけるため、運転者に違和感を与えないようにできる。
【0053】
また、本実施の形態では、第2発光部19において、半導体発光素子19A,19A・・・を複数列に分けて配列させている。ここで、図13の上側に示すように、第2発光部19における半導体発光素子19Aの列をそれぞれ発光ブロックBLと表記する。なお、このように発光ブロックBLを定義したとき、第2発光部19は、複数の発光ブロックBLが一方向(水平方向)に隣接して配置されている。
前述のように、本例では5つの半導体発光素子19A,19A・・・を二個、三個の組に分けて配置しているため、一方の発光ブロックBLにおいては、二個の半導体発光素子19Aが前記一方向に直交する方向(垂直方向)に所定の間隔で配列され、他方の発光ブロックBLにおいては三個の半導体発光素子19Aが前記直交する方向に所定の間隔で配列されている。
そして、本実施の形態では、隣接関係にある発光ブロックBL,BLにおいて、一方の発光ブロックBLの半導体発光素子19Aと他方の発光ブロックBLの半導体発光素子19Aとが前記直交する方向においてずれて位置されている。
【0054】
各半導体発光素子19Aは、発光面を有するチップ19chが基板19sb上に搭載されて形成されている。このため、仮に、図13の下側に示すように半導体発光素子19A,19A・・・を垂直方向(スキャン方向に直交する方向)に1列に配置した場合には、チップ19ch同士の垂直方向の配置間隔gが比較的大きくなり、各スキャン範囲Scの垂直方向における間隔Gも比較的大きくなる。従って、描画性能の低下を招く虞がある。
これに対し、上記した本実施の形態の半導体発光素子19A,19A・・・の配置によれば、図13の上側に示すように、各発光ブロックBL間でチップ19chの垂直方向における配置位置が重ならないようにした上で、各チップ19ch間の垂直方向における配置間隔gを狭めることができる。従って、各スキャン範囲Scの間隔Gも狭めることができ、描画性能の低下を防止できる。
【0055】
以上に記載した通り、本実施の形態の車両用灯具1は、反射面Rfを有し動作位置に応じて反射面Rfからの反射光の向きが変化する回転リフレクタ9と、反射面Rfに対して光を出射する第1発光部16と、反射面Rfに対して第1発光部16とは異なる位置から光を出射する第2発光部19と、前記反射光を集光して出射する投射レンズ(光制御部材)13とを備えている。
【0056】
これにより、第1発光部16と第2発光部19とに関して、共通の回転リフレクタ9の動作によって2つの異なる光がスキャンされ、光のスキャンを利用した機能として例えばADB機能と描画機能などといった2つの機能を実現できる。2つの機能の実現にあたり機能ごとに光学系を分けて構成する必要がないため、サイズの大型化を防止できる。
従って、本実施の形態によれば、車両用灯具1の機能性の向上とサイズの大型化の防止との両立を図ることができる。
【0057】
また、本実施の形態の車両用灯具1においては、可動リフレクタとして回転リフレクタ9を用いている。
回転リフレクタ9の回転動作(羽部9B,9Bの回転動作)によって送風機能が実現され、第1発光部16と第2発光部19の発熱に対する冷却効果を得ることができる。また、回転という単純な動作によって光のスキャンが実現されるため、構成の複雑化が防止され、この点でもサイズの大型化の防止が図られる。
【0058】
さらに、本実施の形態の車両用灯具1においては、第1発光部16と第2発光部19とが異なる色の光を出射するようにしている。
これにより、異なる色の光が投射レンズ13によって制御されて照射される。従って、本実施の形態のように一方の発光部の光で描画を行う場合には、描画像の視認性が向上し好適である。
【0059】
また、本実施の形態の車両用灯具1においては、第1発光部16がハイビーム用の発光部とされ、第2発光部19が描画用の発光部とされている。
これにより、ハイビームとしての車両用灯具1に描画機能が追加され、機能性の向上が図られる。
【0060】
なお、上記した実施の形態においては、回転リフレクタ9に二枚の羽部9B,9Bを設けた例を示したが、羽部9Bの枚数は二枚に限定されるべきものではない。羽部9Bの枚数は、例えば1スキャン分の時間長としてどの程度の時間長が要求されるか等を考慮して適切に設定すればよい。
【0061】
また、可動リフレクタとしては、回転リフレクタ9でなく、図14の模式図に示すような揺動リフレクタ9’としてもよい。
揺動リフレクタ9’は、反射面Rf’を有し、軸Caを中心軸として図中の両矢印qで表す方向に揺動する。揺動リフレクタ9’の反射面Rfには、第1発光部16と第2発光部19による出射光がそれぞれ異なる位置から入射する。揺動リフレクタ9’の動作位置に応じて、水平面に平行な面内において反射面Rf’と光軸ax1,ax2とがなす角度が変化し、反射光の向きが変化する。従って、揺動リフレクタ9’が動作することに応じて、第1発光部16、第2発光部19をそれぞれ光源とする光が水平方向にスキャンされる。
このような揺動リフレクタ9’を用いた場合も、送風機能が実現され、第1発光部16と第2発光部19の発熱に対する冷却効果を得ることができる。また、揺動という単純な動作によって光のスキャンが実現されるため、構成の複雑化が防止され、サイズの大型化及びコストアップの防止が図られる。
【0062】
なお、本発明において、可動リフレクタとしては、回転リフレクタ9や揺動リフレクタ9’に限定されるものではない。すなわち、本発明における可動リフレクタは、反射面を有し動作位置に応じて前記反射面からの反射光の向きが変化するように構成されたものであればよい。
【0063】
また、投射レンズ13は平凸レンズに限定されず、例えば非球面レンズ等の他の形状の投射レンズを用いることもできる。或いは、レンズ以外の他の光制御部材によってスキャン光の投射を実現することもできる。例えば、略すり鉢状に形成された反射面を有するリフレクタを設け、該リフレクタによって可動リフレクタの反射面から入射される光を集光・反射して光を照射(出射)する構成を採ることもできる。
【0064】
また、上記には、第1発光部16と第2発光部19を別々のベース板に取り付けた例を挙げたが、同一のベース板に第1発光部16と第2発光部19を形成してもよい。
さらに、第2発光部19を角度θだけ傾斜させて設ける例を挙げたが、第2発光部19及び第1発光部16については、角度θ=0°すなわち角度差を与えないように設置することも可能である。これにより、構成の簡易化を図ることができる。
【0065】
投射レンズ13の焦点に関して、第2発光部19側の焦点を一致させ第1発光部16側の焦点を一致させないようにしたが、逆に第1発光部16側の焦点を一致させ第2発光部16側の焦点を一致させないようにすることもできる。
【0066】
さらにまた、ヒートシンク50を鉛直ベース5の後面に取り付ける場合を例示したが、ヒートシンク50は第1ブラケット6の側面6bに取り付けるなど、その取付位置については特に限定されない。なお、ヒートシンク50を鉛直ベース5の後面に取り付けることによっては、灯具ユニット3の左右方向のサイズの大型化を防止できる。従って、車両用灯具1のように左右方向に複数の灯具ユニットを配列させる構成が採られる場合においては、それら灯具ユニットの配置上の制約を緩和でき、好適である。
【0067】
また、半導体発光素子はLEDに限定されず、例えばEL(ElectroLuminescence)素子やLD(Laser Diode)素子など他の半導体発光素子を用いることもできる。特に、LD素子は、光が広がりにくく、出射光の多くは出射方向を基準として10°〜40°以内の比較的狭い範囲に集中する特性がある。このため、LD素子を第1発光部16に用いる場合はリフレクタ形成部材17が不要となる。また、第2発光部19に用いる場合には、光の利用効率が向上するなどのメリットがある。
【0068】
さらに、上記には、光のスキャンを利用した機能の例としてADB機能と描画機能の2機能を例示したが、他の機能とする場合にも本発明は好適に適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1…車両用灯具、8…第2ブラケット、9…回転リフレクタ、9B…羽部、Rf…反射面、9’…揺動リフレクタ、12…レンズホルダー、13…投射レンズ、16…第1発光部、19…第2発光部、19A…半導体発光素子、BL…発光ブロック、19bs…基板、19ch…チップ
図1
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図10
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図14