(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6176997
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】トルクコンバータのロックアップ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 45/02 20060101AFI20170731BHJP
【FI】
F16H45/02 Y
F16H45/02 X
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-98571(P2013-98571)
(22)【出願日】2013年5月8日
(65)【公開番号】特開2014-219056(P2014-219056A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高田 幸悦
(72)【発明者】
【氏名】河原 裕樹
【審査官】
岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−081522(JP,A)
【文献】
特開2002−089658(JP,A)
【文献】
特開2002−048217(JP,A)
【文献】
特開2002−161967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントカバーからのトルクをトルクコンバータのタービンに伝達するためのロックアップ装置であって、
軸方向に移動自在であり、前記フロンカバーに圧接される摩擦部材を有するとともに、外周部に前記タービン側に軸方向に延びて突出する複数の係合部を有するピストンと、
前記タービンに設けられた出力部材と、
前記ピストンの係合部及び前記出力部材が係合可能であり、前記ピストンの係合部と前記出力部材とを回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材と、
前記ピストンと前記弾性部材との軸方向間において前記ピストン及び前記出力部材に対して相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つを直列的に作用させるための部材であり、前記ピストンと前記弾性部材との間に配置された円板状部分を有し、前記円板状部分に前記ピストンの複数の係合部のそれぞれが挿通する円弧状の複数のスリットを有する中間部材と、
を備えたトルクコンバータのロックアップ装置。
【請求項2】
前記ピストンは、前記ピストンの一部を前記タービン側に押し出して形成され軸方向タービン側に突出する突起部を有し、
前記中間部材は、内周端が前記突起部に当接することにより径方向の位置決めがなされている、
請求項1に記載のトルクコンバータのロックアップ装置。
【請求項3】
前記ピストンの係合部は前記中間部材のスリットの一部に当接しており、前記中間部材の径方向の位置決めがなされている、請求項1に記載のトルクコンバータのロックアップ装置。
【請求項4】
前記出力部材は、前記タービンのシェルを軸方向フロントカバー側に折り曲げて形成されている、請求項1から3のいずれかに記載のトルクコンバータのロックアップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップ装置、特に、フロントカバーからのトルクをトルクコンバータのタービンに伝達するためのロックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータには、トルクをフロントカバーからタービンに直接伝達するためのロックアップ装置が設けられている場合が多い。特許文献1に示されるように、この種のロックアップ装置は、フロントカバーに摩擦連結可能なピストンと、ピストンに固定されるドライブプレートと、ドリブンプレートと、複数のトーションスプリングと、中間部材と、を有している。ドリブンプレートは、トルクコンバータのタービンに固定され、複数のトーションスプリングを介してドライブプレートに回転方向に弾性的に連結されている。
【0003】
この装置では、ピストンは、フロントカバーとタービンとの間に設けられており、ピストンの外周部に固定された環状の摩擦部材がフロントカバーの摩擦面に押し付けられると、フロントカバーのトルクがロックアップ装置に伝達される。すると、トルクがロックアップ装置からタービンへと伝達される。このとき、ロックアップ装置の複数のトーションスプリングによって、エンジンから入力されるトルク変動が吸収、減衰される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−179515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トルクコンバータのロックアップ装置では、ダンパー機構を低剛性で捩じり角度を広角度化するために、1対のトーションスプリングが直列的に作用するように構成される場合が多い。そして、1対のトーションスプリングを直列に作用させるために中間部材が設けられている。この中間部材は、ドライブプレート及びドリブンプレートに対して相対回転自在に設けられ、複数のトーションスプリングを支持している。
【0006】
以上のように、低剛性で捩じり角度を広角度化したロックアップ装置では、ピストンに固定されるドライブプレート、トーションスプリングを支持する中間部材、タービンに固定されるドリブンプレートが必要であり、部品点数が多く、コスト削減の妨げになっている。
【0007】
本発明の課題は、特に中間部材が設けられたロックアップ装置において、部材点数を削減して低コスト化及び軽量化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面に係るトルクコンバータのロックアップ装置は、フロントカバーからのトルクをトルクコンバータのタービンに伝達するための装置であって、ピストンと、出力部材と、複数の弾性部材と、中間部材と、を備えている。ピストンは、軸方向に移動自在であり、フロンカバーに圧接される摩擦部材を有するとともに、外周部にタービン側に突出する複数の係合部を有する。出力部材はタービンに設けられている。複数の弾性部材は、ピストンの係合部及び出力部材が係合可能であり、ピストンの係合部と出力部材とを回転方向に弾性的に連結する。中間部材は、ピストンと弾性部材との軸方向間においてピストン及び出力部材に対して相対回転自在に配置され、複数の弾性部材のうちの少なくとも2つを直列的に作用させるため部材である。そして、中間部材は、ピストンの複数の係合部のそれぞれが挿通する円弧状の複数のスリットを有している。
【0009】
この装置では、複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材が中間部材によって直列的に作用し、捩じり角度の広角度化が図られている。そして、ピストンに設けられた係合部は、中間部材の円弧状のスリットを貫通して弾性部材に係合している。このような構成において、フロントカバーに摩擦部材が圧接されることによって、トルクはフロントカバーからピストンに伝達される。そして、ピストンに伝達されたトルクは、係合部から複数の弾性部材を介して出力部材に伝達される。
【0010】
ここでは、ピストンの係合部が中間部材のスリットを貫通して弾性部材に係合している。このため、従来装置におけるドライブプレートが不要になり、コストの低減及び軽量化を実現できる。
【0011】
本発明の第2側面に係るトルクコンバータのロックアップ装置は、第1側面の装置において、ピストンはタービン側の面において軸方向タービン側に突出する突起部を有している。そして、中間部材は、内周端が突起部に当接することにより径方向の位置決めがなされている。
【0012】
ここでは、中間部材がピストンの突起部に当接することにより、中間部材の径方向の位置決めが行われている。このため、位置決めのための特別な構成が不要となる。
【0013】
本発明の第3側面に係るトルクコンバータのロックアップ装置は、第1側面の装置において、ピストンの係合部は中間部材のスリットの一部に当接しており、中間部材の径方向の位置決めがなされている。
【0014】
ここでは、ピストンの係合部と中間部材のスリットを利用して、中間部材の径方向の位置決めが行われている。このため、位置決めのための特別な構成が不要となる。
【0015】
本発明の第4側面に係るトルクコンバータのロックアップ装置は、第1から第3側面のいずれかの装置において、出力部材は、タービンのシェルを軸方向フロントカバー側に折り曲げて形成されている。
【0016】
ここでは、タービンシェルの一部によって出力部材が構成されているので、従来装置におけるドリブンプレートが不要になる。また、ドリブンプレートをタービンシェルに溶接したり、リベットによってタービンハブに固定したりする必要がなく、部品点数の削減及び構成の簡略化を実現できる。
【発明の効果】
【0017】
以上のようは本発明では、中間部材が設けられたロックアップ装置において、従来装置におけるドライブプレートが不要になり、低コスト化及び軽量化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態によるロックアップ装置を備えたトルクコンバータの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[トルクコンバータの全体構成]
図1は、本発明の一実施形態としてのロックアップ装置が採用されたトルクコンバータ1の断面部分図である。
図1の左側にはエンジン(図示せず)が配置され、図の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。
図1に示すO−Oは、トルクコンバータ及びロックアップ装置の回転軸線である。
【0020】
トルクコンバータ1は、フロントカバー2と、トルクコンバータ本体3と、ロックアップ装置4と、を有している。トルクコンバータ本体3は、トーラス形状の流体作動室を有しており、流体作動室は、インペラ5と、タービン6と、ステータ7と、から構成されている。
【0021】
フロントカバー2は、円板状の部材であり、内周端にはセンターボス10が設けられている。センターボス10は、軸方向に延びる円筒形状の部材であり、クランクシャフトの中心孔内に挿入されている。フロントカバー2の外周側には、円周方向に等間隔で複数のボルト11が固定されている。このボルト11に螺合するナット(図示せず)がフレキシブルプレート(図示せず)の外周部を、フロントカバー2に固定している。
【0022】
インペラ5は、インペラシェル13と、その内側に固定された複数のインペラブレード14と、インペラシェル14の内周部に固定されたインペラハブ15と、を有している。インペラシェル13の外周縁は、フロントカバー2の外周部に形成された外周側筒状部2aの先端に溶接されている。
【0023】
タービン6はインペラ5に対して軸方向に対向して配置されている。タービン6は、タービンシェル17と、その内側に固定された複数のタービンブレード18と、タービンシェル18の内周縁に固定されたタービンハブ19と、を有している。タービンシェル17の内周端部が、複数のリベット20によってタービンハブ19に固定されている。また、タービンハブ19の内周面には、トランスミッションの入力シャフト(図示せず)に係合するスプライン19aが形成されている。これによりタービンハブ19は入力シャフトと一体回転するようになっている。
【0024】
ステータ7は、インペラ5の内周部とタービン6の内周部と間に配置されており、タービン6からインペラ5に戻る作動油の流れを整流するための機構である。ステータ7は、環状のステータシェル22と、シェル22の外周面に設けられた複数のステータブレード23と、を有している。ステータシェル22はワンウェイクラッチ24を介して筒状の固定シャフト(図示せず)に支持されている。固定シャフトは入力シャフトの外周面とインペラハブ15の内周面との間を延びている。
【0025】
フロントカバー2の内周部とタービンハブ19との軸方向間にはスラストブッシュ26が配置されている。また、タービンハブ19とワンウェイクラッチ24との間、及びステータ7とインペラ5との軸方向間には、それぞれスラストベアリング27,28が配置されている。
【0026】
[ロックアップ装置4の構造]
ロックアップ装置4は、タービン6とフロントカバー2との間に配置されており、両者を機械的に連結するための機構である。ロックアップ装置4は、ピストン30と、タービン6に一体で形成された出力部材31と、複数のトーションスプリング32と、中間部材33と、を有している。
【0027】
<ピストン30>
ピストン30は、クラッチの連結及び遮断を行うための部材であり、中心孔が形成された円板形状である。ピストン30の内周縁には、軸方向トランスミッション側に延びる内周側筒状部30aが形成されている。内周側筒状部30aはタービンハブ19のエンジン側の外周面によって回転方向及び軸方向に移動可能に支持されている。なお、ピストン30は、タービンハブ19のトランスミッション側の面に当接することで、軸方向トランスミッション側への移動が規制されている。
【0028】
また、タービンハブ19のエンジン側の外周面には内周側筒状部30aの内周面に当接するシールリング35が設けられている。これにより、ピストン30の内周縁はシールされている。さらに、ピストン30の外周側には環状の摩擦連結部30bが形成されている。摩擦連結部30bの軸方向エンジン側には環状の摩擦フェーシング36が固定されている。
【0029】
図2に拡大して示すように、ピストン30の外周部には複数の入力側係合部30cが形成されている。複数の入力側係合部30cは、円周方向に等角度間隔で配置され、ピストン30の外周部をトランスミッション側に折り曲げて形成されたものである。そして、各入力側係合部30cはトーションスプリング32の円周方向の端面に当接可能である。
【0030】
<出力部材31>
図1及び
図2に示すように、出力部材31は、タービンシェル17の外周部をエンジン側に折り曲げて形成されたものである。そして、この出力部材31には、複数の出力側係合部31aが形成されている。複数の出力側係合部31aは、円周方向に等角度間隔で、かつ入力側係合部30cの内周側に配置されており、トーションスプリング32の円周方向の端面に当接可能である。
【0031】
<トーションスプリング32>
トーションスプリング32は、
図1〜
図3に示すように、中間部材33によって支持され、ピストン30と出力部材31とを回転方向に弾性的に連結している。具体的には、トーションスプリング32は、ピストン30の入力側係合部30c及び出力部材31の出力側係合部31aと当接可能な位置に配置され、入力側係合部30cからトルクが伝達されて、これを出力側係合部31aに伝達する。なお、複数のトーションスプリング32のうちの2つ1組のトーションスプリング32が、中間部材33によって直列に作用するように配置されている。
【0032】
<中間部材33>
中間部材33は、前述のように、1対のトーションスプリング32を直列に作用させるための部材であり、またトーションスプリング32を半径方向及び軸方向に支持するための部材である。中間部材33はピストン30及び出力部材31に対して相対回転可能に配置されている。
【0033】
中間部材33は、環状に形成されており、
図2に示すように、内周端部に形成された位置決め部33aと、軸方向規制部33bと、径方向規制部33cと、複数の中間係合部33dと、を有している。
【0034】
位置決め部33aは、ピストン30に形成された位置決め用凸部30dの外周面に支持されて、中間部材33径方向の位置決めがなされている。なお、位置決め用凸部30dは、ピストン30の一部をタービン側に押し出して形成された部分である。
【0035】
軸方向規制部33bは、位置決め部33aの外周側に形成された円板状部分である。この軸方向規制部33bは、トーションスプリング32とピストン30との間に配置されており、トーションスプリング32の軸方向エンジン側への移動を規制している。また、軸方向規制部33bには、
図3に示すように、円周方向に長く延びる円弧状の複数のスリット33eが形成されている。そして、ピストン30の入力側係合部30cがこのスリット33eを軸方向に貫通している。入力側係合部30cはこのスリット33e内を回転方向に移動自在である。したがって、ピストン30と中間部材33とは、スリット33eが形成された角度範囲内で相対回転が可能である。
【0036】
径方向規制部33cは、軸方向規制部33bの外周部からトランスミッション側に延びて形成されている。この径方向規制部33は軸方向規制部33bの外周部をトランスミッション側に折り曲げて形成されたものである。径方向規制部33cはトーションスプリング32が径方向外方に飛び出すのを規制している。
【0037】
複数の中間係合部33dは外周側係合部33doと内周側係合部33diとを有している。外周側係合部33doは、径方向規制部33cの一部を内周側に折り曲げ、さらにその先端をエンジン側に折り曲げて形成されている。内周側係合部33diは軸方向規制部33bの一部をトランスミッション側に切り起こして形成されている。これらの中間係合部33dは、直列に作用する1対のトーションスプリング32の回転方向間に配置されている。
【0038】
[トルクコンバータの動作]
エンジン回転数が低回転数領域では、ピストン30の軸方向両側の作動油の圧力差によって、ピストン30はトランスミッション側に移動している。すなわち摩擦フェーシング36はフロントカバー2から離れ、ロックアップが解除されている。このロックアップ解除時には、フロントカバー2からのトルクはインペラ5から作動油を介してタービン6に伝達される。
【0039】
[ロックアップ装置の動作]
トルクコンバータ1の速度比が上がり、エンジン回転数が一定の回転数に達すると、ピストン30のエンジン側の作動油が排出されるとともに、ピストン30のタービン側の作動油圧が上昇させられる。この結果、ピストン30がフロントカバー2側に移動させられ、摩擦フェーシング36がフロントカバー2の摩擦面に押し付けられる。この結果、フロントカバー2のトルクは、ピストン30の入力側係合部30cを介してトーションスプリング32に伝達され、さらに出力部材31の出力側係合部31aを介してタービン6に伝達される。すなわち、フロントカバー2が機械的にタービン6に連結され、フロントカバー2のトルクがタービン6を介して直接トランスミッションの入力シャフトに出力される。
【0040】
ここで、複数のトーションスプリング32のうちの1組(2個)のトーションスプリング32は中間部材33によって直接的に作用する。したがって、ロックアップ装置4の捩じり特性を低剛性化でき、かつ広角度化することができる。
【0041】
[特徴]
(1)ピストン30に形成された入力側係合部30cが中間部材33のスリット33eを貫通してトーションスプリング32に係合している。このため、従来装置におけるドライブプレートが不要になり、コストの低減及び軽量化を実現できる。
【0042】
(2)ピストン30に形成された位置決め用凸部30dによって中間部材33の位置決めを行なっているので、位置決めのための特別な構成が不要となる。
【0043】
(3)出力部材31が、タービンシェル17を軸方向フロントカバー側に折り曲げて形成されているので、従来装置におけるドリブンプレートが不要になる。また、ドリブンプレートをタービンシェルに溶接したり、リベットによってタービンハブに固定したりする必要がなく、部品点数の削減及び構成の簡略化を実現できる。
【0044】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0045】
(1)前記実施形態では、出力部材をタービンシェルの一部を折り曲げて形成したが、出力部材をタービンシェルとは別の部材によって構成してもよい。
【0046】
(2)中間部材33の径方向の位置決めのための構成は前記実施形態に限定されない。例えば、ピストン30の位置決め用凸部30dに代えて、ピストン30の入力側係合部30cを中間部材33のスリット33eの外周側壁面に当接させて位置決めを行なってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 トルクコンバータ
2 フロントカバー
4 ロックアップ装置
6 タービン
17 タービンシェル
30 ピストン
30c 入力側係合部
30d 位置決め用凸部
31 出力部材
31a 出力側係合部
32 トーションスプリング
33 中間部材
33e スリット