(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6177295
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】h−BN上におけるグラフェンナノリボンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/186 20170101AFI20170731BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20170731BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
C01B32/186
C23C16/26
C23C14/06 F
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-206777(P2015-206777)
(22)【出願日】2015年10月20日
(65)【公開番号】特開2016-28012(P2016-28012A)
(43)【公開日】2016年2月25日
【審査請求日】2015年10月20日
(31)【優先権主張番号】201510098675.9
(32)【優先日】2015年3月5日
(33)【優先権主張国】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515291465
【氏名又は名称】中国科学院上海微系統与信息技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】王 浩敏
(72)【発明者】
【氏名】賀 立
(72)【発明者】
【氏名】陳 令修
(72)【発明者】
【氏名】謝 紅
(72)【発明者】
【氏名】王 慧山
(72)【発明者】
【氏名】唐 述杰
(72)【発明者】
【氏名】李 蕾
(72)【発明者】
【氏名】張 道礼
(72)【発明者】
【氏名】謝 暁明
(72)【発明者】
【氏名】江 綿恒
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0022813(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0034707(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/027585(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0000961(US,A1)
【文献】
特開2012−080006(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0130011(US,A1)
【文献】
特表2014−534144(JP,A)
【文献】
特表2013−536796(JP,A)
【文献】
特開2013−166849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00−32/991
C23C14/00−14/58
C23C16/00−16/56
C30B1/00−35/00
H01L21/205,21/31,21/365,21/469,21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)金属触媒エッチング法によりh−BN上にナノリボン状溝構造を有したh−BN溝パターンを形成するステップと、
2)化学気相成長法により前記h−BN溝パターン内にグラフェンナノリボンを成長させるステップを含み、
ステップ2)で前記グラフェンナノリボンの成長に用いられる炭素源はアセチレン及びメタンであり、メタンとアセチレンガスの流量比を1:1〜1:30とし、
前記グラフェンナノリボンの成長時に適切な成長速度に制御するために、シランを導入して前記炭素源の気体の分圧比を調節するステップを更に含み、
前記メタン、前記シラン及び前記アセチレンの気体体積範囲比を1:1:10〜1:1:20とすることを特徴とするh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項2】
ステップ1)において、前記h−BNはh−BNバルク単結晶、機械的剥離による劈開で得られるh−BN薄膜及び化学気相成長法により得られるh−BN薄膜のいずれかを含むことを特徴とする請求項1記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項3】
前記h−BNは、機械的剥離法によって得られる原子レベルで平坦な劈開面を備えたh−BN薄膜であることを特徴とする請求項2記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項4】
ステップ1)の金属触媒エッチング法は、
1−1)h−BN上にエッチング触媒作用を有する金属粒子薄膜を形成するステップと、
1−2)金属粒子薄膜が形成されたh−BNについて焼鈍・エッチングを行い、表面にナノリボン状溝構造を有したh−BN溝パターンを取得するステップ、を含むことを特徴とする請求項1記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項5】
ステップ1−1)において、h−BNに対してエッチング触媒作用を有するZn(NO3)2、Cu(NO3)2、NiCl2、FeCl2、FeCl3、CuSO4、MgCl2溶液のいずれか又はこれらの組み合わせを含む金属塩溶液を、スピンコーティング工程によりh−BN表面に形成することを特徴とする請求項4記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項6】
金属触媒粒子溶液の濃度を制御することで、エッチングにより形成されるナノリボン状溝構造の密度及び分布を制御し、前記金属触媒粒子の濃度を5.29×10−3mol/L〜5.29×10−1mol/Lとし、金属触媒粒子の濃度を変えることでh−BNナノリボンのエッチング密度を制御することを特徴とする請求項5記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項7】
ステップ1−2)の焼鈍・エッチングとはCVD管状炉内でh−BNを焼鈍・エッチングするものであり、キャリアガスをArとし、作動ガスはエッチング傾向に応じてH2又はO2を選択し、H2とArの流量比を1:1〜1:10とした場合にはアームチェアー境界構造のナノリボン状溝を得やすく、O2とArの流量比を5:1とした場合にはジグザグ境界構造のナノリボン状溝を得やすいことを特徴とする請求項4記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項8】
前記焼鈍・エッチングの温度範囲を900〜1300℃とし、焼鈍・エッチング温度を制御することでh−BNのエッチング速度を制御することを特徴とする請求項4記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項9】
前記焼鈍・エッチング時間範囲を10〜300minとし、焼鈍・エッチング時間を制御することでナノリボン状溝の深さ、幅及び長さを制御することを特徴とする請求項4記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項10】
前記ナノリボン状溝構造の深さを原子層1〜9分の厚みとし、幅を≦1μm、長さを≧100nmとすることを特徴とする請求項1記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項11】
ステップ2)の化学気相成長法は、低圧化学気相成長LPCVD、プラズマ強化化学気相成長PECVD、常圧化学気相成長法CVD及びパルスレーザー堆積法PLDのいずれかを含むことを特徴とする請求項1記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項12】
ステップ2)においてグラフェンナノリボンを成長させる気圧範囲を1〜10Paとし、温度範囲を800〜1300℃とし、成長時間範囲を1min〜1Hourとすることを特徴とする請求項1記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【請求項13】
ステップ2)で取得されるグラフェンナノリボンの幅は≦1μmであり、深さは原子層1〜9分の厚みであり、長さは≧100nmであることを特徴とする請求項1記載のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低次元材料及び新素材分野に関し、特に六方晶窒化ホウ素(h−BN)上でのグラフェンナノリボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは優れた物理化学特性を有することから、科学及び産業界で注目の研究課題となっており、その優れた電子輸送特性や裁断加工特性によって、新世代マイクロナノ電子デバイスの重要基礎材料となることが期待されている。一方、現在のところグラフェンの性能については、製造方法や手段に制限があることから応用に限界が生じている。目下、グラフェン製造の一般的な方法としては、機械的剥離法、化学気相成長(CVD)法、SiCエピタキシャル成長法及びグラファイト酸化還元法などがある。CVD法は低コストなことから大規模生産がしやすく、半導体技術に適合することから、成長が最速であり、最も将来性のある主だった製造方法となっている。しかし、CVD法は遷移金属上でグラフェンを触媒成長させる方法であり、電子デバイスの製造に直接応用することはできず、グラフェンを誘電体層に転写することで初めて効果的なデバイス組み立てが可能となる。現在研究されているグラフェン光電子デバイスの誘電体層は大部分がSiO
2/Siを採用している。研究者によると、SiO
2表面の電荷凝集がもたらすグラフェンの一部キャリアのドーピングと、SiO
2−グラフェン界面におけるグラフェンキャリアに対するフォノンの散乱作用によって、グラフェンの電子移動度の上限はグラフェン本来の理論値に遠く及ばない40000cm
2/Vsまで低下し、グラフェンの応用性は大幅に損なわれている。また、グラフェンの転写過程で用いられる湿式化学法は、技術工程を複雑にするのみならずグラフェンの破損や汚染が不可避であり、グラフェン品質を低下させることから、高性能の電子デバイス製造には不利である。そこで、如何にして転写を不要とし、SiO
2/Si基板の欠点を克服するかが、グラフェン光電子デバイスにおける要点の1つとされている。
【0003】
このほか、グラフェンは特殊な結晶構造から独特のゼロバンドギャップ構造となっており、その金属特性をそのまま電子デバイスの製造に応用することは不可能である。現在、欠陥が少なく構造の整ったグラフェンを製造することはできるものの、得られるグラフェンのバンドギャップはほぼゼロ又は非常に小さく、半導体機能デバイスの製造要求を満たすことは困難である。しかし、グラフェンはそのゼロバンドギャップ構造により、電子学分野での応用が制限されている。理論及び実験研究によれば、グラフェンナノリボンが備える量子閉じ込め効果とエッジ効果によって、グラフェンナノリボンのバンドギャップには幅依存効果が備わっている。実験結果には、ナノリボン幅の減少に伴うバンドギャップの増大が確かに示されている。よって、グラフェンの電子構造及びバンドギャップを制御する技術を発展させることには重要な意義があるといえる。研究者は物理的、化学的視点からそれぞれ変性グラフェンの製造方法を提起しており、グラフェンの幾何構造、寸法及び物理構造に応じてエッチング法、印加電界調節法を採用したり、或いは、例えばエッジ修飾法や化学的ドーピング等の化学的方法を用いたりしており、これらはいずれもグラフェンのバンドギャップを異なるレベルで開くことを可能としている。しかし、グラフェンの電子構造を制御するこれらの方法は、いずれもまず構造の整ったグラフェンを製造してから変性制御を実施するものであり、技術工程の制約を受けやすく、ドーピング濃度が制御不可能であるので、電子デバイスの製造や商業化の点から考えると、これらの工程は煩雑且つ高コストである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、グラフェンの発展は、ゼロバンドギャップの電子構造により電子デバイス及び集積回路分野での応用が制限されているほか、従来のグラフェン製造及び転写技術では欠陥や電荷不純物を招来するために、グラフェン材料の電気性能が本来の電気性能から大幅に低下してしまうといった課題に直面している。そこで、本発明は、現在のグラフェンの発展が直面する成長阻害要因を克服すべく、h−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法を提供する。
【0005】
上述した従来技術における欠点に鑑みて、本発明は、従来技術における各種課題を解決するためのh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的及びその他関連の目的を実現するために、本発明は、金属触媒エッチング法を用いてh−BN上にナノリボン状溝構造を有したh−BN溝パターンを取得し、続いてCVD成長条件を制御することでナノリボン状溝構造内におけるグラフェンの核生成を実現して、グラフェンナノリボンに成長させるh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法を提供する。h−BNはホワイトグラフェンと呼ばれ、グラフェンの等電子体であり、グラフェンと同じ層状の六角形平面構造を備えるとともに、原子レベルの平坦面を備えている。また、(0001)面にダングリングボンドがなく、グラフェンとの格子不整合がわずか1.8%であるため、ドーピング効果が弱く、グラフェン本来の物理性質を最大限維持可能である。即ち、最も可能性のあるグラフェンデバイス絶縁基板である。また、h−BN上に直接グラフェンナノリボンを成長させ、h−BN金属触媒エッチング条件及びCVD反応条件を制御することで、形状及び構造の成長制御が可能なグラフェンナノリボンが得られ、電気性能向上の目的が達せられる。
【0007】
前記h−BN上のグラフェンナノリボンの製造方法は、1)金属触媒エッチング法によりh−BN上にナノリボン状溝構造を有したh−BN溝パターンを形成するステップと、2)化学気相成長法により前記h−BN溝パターン内にグラフェンナノリボンを成長させるステップを含
み、ステップ2)で前記グラフェンナノリボンの成長に用いられる炭素源はアセチレン及びメタンであり、メタンとアセチレンガスの流量比を1:1〜1:30とし、前記グラフェンナノリボンの成長時に適切な成長速度に制御するために、シランを導入して前記炭素源の気体の分圧比を調節するステップを更に含み、前記メタン、前記シラン及び前記アセチレンの気体体積範囲比を1:1:10〜1:1:20とする。
【0008】
本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法における好ましい方案として、ステップ1)において、前記h−BNはh−BNバルク単結晶、機械的剥離による劈開で得られるh−BN薄膜及び化学気相成長法により得られるh−BN薄膜のいずれかを含む。
【0009】
更に、前記h−BNは、機械的剥離法によって得られる原子レベルで平坦な劈開面を備えたh−BN薄膜である。
【0010】
本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法における好ましい方案として、ステップ1)の金属触媒エッチング法は、1−1)h−BN上にエッチング触媒作用を有する金属粒子薄膜を形成するステップと、1−2)金属粒子薄膜が形成されたh−BNについて焼鈍・エッチングを行い、表面にナノリボン状溝構造を有したh−BN溝パターンを取得するステップを含む。
【0011】
更に、ステップ1−1)において、h−BNに対してエッチング触媒作用を有するZn(NO
3)
2、Cu(NO
3)
2、NiCl
2、FeCl
2、FeCl
3、CuSO
4、MgCl
2等の溶液である金属塩溶液を、スピンコーティング工程によりh−BN表面に形成する。
【0012】
更に、金属触媒粒子溶液の濃度を制御することで、エッチングにより形成されるナノリボン状溝構造の密度及び分布を制御し、前記金属触媒粒子の濃度を5.29×10
−3mol/L〜5.29×10
−1mol/Lとする。
【0013】
更に、ステップ1−2)の焼鈍・エッチングとはCVD管状炉内でh−BNを焼鈍・エッチングするものであり、キャリアガスをArとし、作動ガスはエッチング傾向に応じてH
2又はO
2を選択し、H
2とArの流量比を1:1〜1:10とした場合にはアームチェアー境界構造のナノリボン状溝を得やすく、O
2とArの流量比を
5:1とした場合にはジグザグ境界構造のナノリボン状溝を得やすい。
【0014】
本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法における好ましい方案として、前記焼鈍・エッチングの温度範囲を900〜1300℃とし、焼鈍・エッチング温度を制御することでh−BNのエッチング速度を制御する。
【0015】
本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法における好ましい方案として、前記焼鈍・エッチング時間範囲を10〜300minとし、焼鈍・エッチング時間を制御することでナノリボン状溝の深さ、幅及び長さを制御する。
【0016】
本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法における好ましい方案として、前記ナノリボン状溝構造の深さを原子層1〜9分の厚みとし、幅を≦1μm(1μm以下)、長さを≧100nm(100nm以上)とする。
【0017】
本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法における好ましい方案として、ステップ2)の化学気相成長法は、低圧化学気相成長LPCVD、プラズマ強化化学気相成長PECVD、常圧化学気相成長法CVD及びパルスレーザー堆積法PLDのいずれかを含む。
【0021】
本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法における好ましい方案として、ステップ2)においてグラフェンナノリボンを成長させる気圧範囲を1〜10Paとし、温度範囲を800〜1300℃とし、成長時間範囲を1min〜1Hourとする。
【0022】
本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法における好ましい方案として、ステップ2)で取得されるグラフェンナノリボンの幅は≦1μmであり、深さは原子層1〜9分の厚みであり、長さは≧100nmである。
【0023】
上述したように、本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法によれば、h−BN表面を金属触媒エッチングすることで得られるナノリボン構造の溝をパターンとし、CVD堆積条件を制御することで、グラフェンをh−BNナノリボン溝のエッジ沿いに核形成させ、ナノリボン溝全体に充填してグラフェンナノリボンを形成するまで成長させられる。h−BN溝内でのグラフェン核生成に要する核生成エネルギーは、h−BN表面の核生成エネルギーよりも小さく、基板欠陥箇所、特にh−BNナノリボン溝の境界箇所において容易に核形成される。そして、例えば気圧、温度、時間及び気体の流量比といったCVD工程条件を適切に制御すると、h−BN表面と溝境界箇所とのグラフェン核生成エネルギーの差によって、グラフェンはまず溝境界箇所で核形成し、段差流動成長方式でh−BN溝全体に充填されてグラフェンナノリボンを形成する。また、金属触媒エッチング工程によりh−BNをエッチングする工程でh−BNナノリボン溝のパターン形状を制御することは、後続のグラフェン形状の制御に重要な役割を果たす。グラフェンはエピタキシャル成長するため、形成されたグラフェンのエッジ構造はh−BNのエッジ構造と一致しており、h−BNエッチング溝の深さ、幅、長さ及び密度のいずれもがグラフェンナノリボンの層数、幅、長さ及び密度の分布に影響する。
【0024】
本発明では、CVD法で直接h−BN上に形状制御可能なグラフェンナノリボンを製造しており、絶縁材基板にグラフェンを核形成及び成長させることが困難であるという長年の重要課題を解決するとともに、グラフェン転写や後続のナノリボン裁断加工といった複雑な工程がもたらす一連の課題を回避している。また、h−BN上でグラフェンナノリボンを成長させることで、次のような明らかに優れた効果が得られる。まず、グラフェン品質が高まり、キャリアの高移動度を実現可能となる。また、例えば幅、エッジ構造といったグラフェン形状を制御することでグラフェンの電子構造調整が実現され、グラフェン性能が高まるとともに、グラフェンの製造工程が簡略化され、生産コストが削減されて、グラフェンがより広範に電子デバイス製造へ応用される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法におけるステップで現れる構造を示した図である。
【
図2】本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法におけるステップで現れる構造を示した図である。
【
図3】本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法におけるステップで現れる構造を示した図である。
【
図4】エッチング深さが1原子層であるh−BN溝を示す原子間力顕微鏡画像である。
【
図5】エッチング深さが複数原子層であるh−BN溝を示す原子間力顕微鏡画像である。
【
図6】得られたエッチング境界がジグザグであるh−BN溝を示す原子間力顕微鏡画像である。
【
図7】得られたエッチング境界がジグザグであるh−BN溝内にグラフェンナノリボンを成長させた原子間力顕微鏡画像である。
【
図8】得られたエッチング境界がアームチェアーであるh−BN溝を示す原子間力顕微鏡画像である。
【
図9】得られたエッチング境界がアームチェアーであるh−BN溝内にグラフェンナノリボンを成長させた原子間力顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、特定の具体的実例により本発明の実施形態を説明するが、当業者であれば、本明細書に開示の内容から本発明の他の利点及び効果を容易に理解可能である。本発明は、別の具体的実施形態によっても実施又は応用可能であり、本明細書における各詳細事項もまた他の観点及び応用に基づき、本発明の主旨を逸脱しないことを前提に各種の追加又は変更が可能である。
【0027】
図1〜
図9を参照する。なお、本実施例が提示する図面は、本発明の基本思想を概略的に説明するためのものにすぎない。図面には本発明に関する構成要件のみを示しており、実際の実施時における構成要件の数、形状及び寸法に基づき描画したものではない。実際の実施時における各構成要件の形態、数及び比率は任意に変更してもよく、且つ構成要件の配置形態がより複雑となる場合もある。
【0028】
図1〜
図3を参照して、本実施例は、金属触媒エッチング法を用いてh−BN上にナノリボン状溝構造を有したh−BN溝パターンを取得し、続いてCVD成長条件を制御することでナノリボン状溝構造内におけるグラフェンの核生成を実現して、グラフェンナノリボンに成長させるh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法を提供する。h−BNはホワイトグラフェンと呼ばれ、グラフェンの等電子体であり、グラフェンと同じ層状の六角形平面構造を備えるとともに、原子レベルの平坦面を備えている。また、(0001)面にダングリングボンドがなく、グラフェンとの格子不整合がわずか1.8%であるため、ドーピング効果が弱く、グラフェン本来の物理性質を最大限維持可能である。即ち、最も可能性のあるグラフェンデバイス絶縁基板である。また、h−BN上に直接グラフェンナノリボンを成長させ、h−BNの金属触媒エッチング条件及びCVD反応条件を制御することで、形状及び構造の成長制御が可能なグラフェンナノリボンが得られ、電気性能向上との目的が達せられる。
【0029】
前記h−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法は、
図1〜
図2に示すように、まずは金属触媒エッチング法を用いてh−BN10上にナノリボン状溝構造を有したh−BN溝11のパターンを形成するステップ1)を実行する。
【0030】
一例として、ステップ1)において、前記h−BNはh−BNバルク単結晶、機械的剥離による劈開で得られるh−BN薄膜及び化学気相成長法により得られるh−BN薄膜のいずれかを含む。本実施例において、前記h−BNは、機械的剥離法によって得られる原子レベルで平坦な劈開面を備えたh−BN薄膜である。
【0031】
一例として、ステップ1)の金属触媒エッチング法は以下のステップを含む。
【0032】
1−1)h−BN10上にエッチング触媒作用を有する金属粒子薄膜を形成する。
【0033】
具体的に、本実施例では、h−BNに対してエッチング触媒作用を有するZn(NO
3)
2溶液をスピンコーティング工程によりh−BN表面に形成する。また、金属触媒粒子溶液の濃度を制御することで、エッチングにより形成されるナノリボン状溝構造の密度及び分布を制御可能である。前記金属触媒粒子の濃度は5.29×10
−3mol/L〜5.29×10
−1mol/Lとする。
【0034】
1−2)金属粒子薄膜が形成されたh−BN10について焼鈍・エッチングを行い、表面にナノリボン状溝構造を有したh−BN溝11のパターンを取得する。
【0035】
更に、ステップ1−2)の焼鈍・エッチングとはCVD管状炉内でh−BNを焼鈍・エッチングするものであり、キャリアガスをArとし、作動ガスはエッチング傾向に応じてH
2又はO
2を選択する。H
2とArの流量比を1:1〜1:10とした場合には、アームチェアー境界構造のナノリボン状溝を得やすくなる。また、O
2とArの流量比を1:1〜0:10とした場合には、ジグザグ境界構造のナノリボン状溝を得やすくなる。
【0036】
一例として、前記焼鈍・エッチングの温度範囲を900〜1300℃とし、焼鈍・エッチング温度を制御することでh−BNのエッチング速度を制御する。
【0037】
一例として、前記焼鈍・エッチング時間範囲を10〜300minとし、焼鈍・エッチング時間を制御することでナノリボン状溝の深さ、幅及び長さを制御する。
【0038】
一例として、前記ナノリボン状溝構造の深さを原子層1〜9分の厚みとし、幅を≦1μm、長さを≧100nmとする。
【0039】
図3に示すように、続いて化学気相成長法により前記h−BN溝パターン内にグラフェンナノリボン12を成長させるステップ2)を実行する。
【0040】
一例として、ステップ2)の化学気相成長法は、低圧化学気相成長LPCVD、プラズマ強化化学気相成長PECVD、常圧化学気相成長法CVD及びパルスレーザー堆積法PLDのいずれかを含む。
【0041】
一例として、ステップ2)でグラフェンナノリボンの成長に用いられる炭素源としては、固体炭素源、気体炭素源及び液体炭素源を含む。前記固体炭素源はグラファイト、グルコース、ポリメタクリル酸のいずれか又はこれらの組み合わせを含み、前記液体炭素源は液体ベンゼンを含み、前記気体炭素源はメタン、エチレン、アセチレンのいずれか又はこれらの組み合せを含む。本実施例では、グラフェンナノリボンの成長に用いられる炭素源はアセチレン及びメタンであり、メタンとアセチレンガスの流量比を1:1〜1:30とする。
【0042】
また、グラフェンナノリボンの成長時に適切な成長速度に制御するために、シランを導入して炭素源気体の分圧比を調節するステップを更に含む。ここで、メタン、シラン及びアセチレンの気体体積範囲比を1:1:10〜1:1:20とする。
【0043】
一例として、ステップ2)でグラフェンナノリボンを成長させる気圧範囲を1〜10Paとし、温度範囲を800〜1300℃とし、成長時間範囲を1min〜1Hourとする。
【0044】
一例として、ステップ2)で得られるグラフェンナノリボンの幅は≦1μmであり、深さは原子層1〜9分の厚みであり、長さは≧100nmである。
【0045】
図1〜
図3に示すように、具体的実施過程では以下のステップを含む。
【0046】
ステップ1)SiO
2/Si基板上においてh−BN単結晶を機械的に剥離し、新鮮な原子層を露出させたh−BN劈開面を取得する。
【0047】
ステップ2)取得したh−BN劈開面にスピンコーターを用いてZn(NO
3)
2溶液をスピンコーティングし、続いてCVD管状炉に投入して流量300sccmのアルゴン・水素又はアルゴン・酸素混合ガスを導入する。ここで、アルゴン:水素又はアルゴン:酸素のガス体積比は1:5とする。そして、20℃/minの速度で1200℃まで昇温して60min保温し、反応ガスが金属粒子の触媒作用下でh−BNをエッチングしてナノリボン構造を有した段差又は溝パターン形成するのを待つ。
図2は、1原子層分の深さのh−BNエッチング溝を取得したことを示す。
図4及び
図5は、それぞれエッチング深さが1及び複数原子層であるh−BN溝をAFM−コンタクトモードで示した原子間力顕微鏡画像である。
【0048】
ステップ3)CVDが自然に冷却するのを待って、h−BN/SiO
2/Si構造を取り出し、順に塩酸、脱イオン水、イソプロパノールを用いて試料表面に残留したZn(NO
3)
2を除去した後、N
2を吹き付けて乾燥させる。
【0049】
ステップ4)乾燥させたh−BN/SiO
2/Si構造をCVD管状炉に投入し、Ar雰囲気において20℃/minの速度で1300℃まで昇温させ、CH
4及びC
2H
2を流量比1:20で導入する。そして、5min成長させた後に炭素源を遮断し、Ar雰囲気で自然冷却する。
図6及び
図7はそれぞれ、得られたエッチング境界がジグザグであるh−BN溝と、溝内に成長させたグラフェンナノリボンをAFM−コンタクトモードで示す原子間力顕微鏡画像である。
図8及び
図9はそれぞれ、得られたエッチング境界がアームチェアーであるh−BN溝と、溝内に成長させたグラフェンナノリボンをAFM−コンタクトモードで示す原子間力顕微鏡画像である。AFM−コンタクトモードでの原子間力顕微鏡画像を分析した結果、グラフェンナノリボンの幅は30nmであった。
【0050】
上述したように、本発明のh−BN上でのグラフェンナノリボンの製造方法によれば、h−BN表面を金属触媒エッチングすることで得られるナノリボン構造の溝をパターンとし、CVD堆積条件を制御することで、グラフェンをh−BNナノリボン溝のエッジ沿いに核形成させ、ナノリボン溝全体に充填してグラフェンナノリボンを形成するまで成長させられる。h−BN溝内でのグラフェン核生成に要する核生成エネルギーは、h−BN表面の核生成エネルギーよりも小さく、基板欠陥箇所、特にh−BNナノリボン溝の境界箇所において容易に核形成される。そして、例えば気圧、温度、時間及び気体の流量比といったCVD工程条件を適切に制御すると、h−BN表面と溝境界箇所とのグラフェン核生成エネルギーの差によって、グラフェンはまず溝境界箇所で核形成し、段差流動成長方式でh−BN溝全体に充填されてグラフェンナノリボンを形成する。また、金属触媒エッチング工程によりh−BNをエッチングする工程でh−BNナノリボン溝のパターン形状を制御することは、後続のグラフェン形状の制御に重要な役割を果たす。グラフェンはエピタキシャル成長するため、形成されたグラフェンのエッジ構造はh−BNのエッジ構造と一致しており、h−BNエッチング溝の深さ、幅、長さ及び密度のいずれもがグラフェンナノリボンの層数、幅、長さ及び密度の分布に影響する。
【0051】
本発明では、CVD法で直接h−BN上に形状制御可能なグラフェンナノリボンを製造しており、絶縁材基板にグラフェンを核形成及び成長させることが困難であるという長年の重要課題を解決するとともに、グラフェン転写や後続のナノリボン裁断加工といった複雑な工程がもたらす一連の課題を回避している。また、h−BN上でグラフェンナノリボンを成長させることで、次のような明らかに優れた効果が得られる。まず、グラフェン品質が高まり、キャリアの高移動度を実現可能となる。また、例えば幅、エッジ構造といったグラフェン形状を制御することでグラフェンの電子構造調整が実現され、グラフェン性能が高まるとともに、グラフェンの製造工程が簡略化され、生産コストが削減されて、グラフェンがより広範に電子デバイス製造へ応用される。
【0052】
従って、本発明は従来技術の様々な欠点を効果的に克服しており、高度な産業上の利用価値がある。
【0053】
上記の実施例は例示的に本発明の原理及び効果を説明するものにすぎず、本発明を限定する主旨ではない。当業者であれば、本発明の主旨及び範囲を逸脱しないことを前提に、上記の実施例を補足又は変更可能である。よって、当業者が本発明に開示される主旨及び技術思想を逸脱することなく実施する等価の補足又は変更は、いずれも本発明の特許請求の範囲に包括されるものとする。
【符号の説明】
【0054】
10 h−BN
11 h−BN溝
12 グラフェンナノリボン