【実施例】
【0025】
実施形態に係る固体電解質燃料電池の電池性能及び耐ヒートサイクル性を、以下に記載する実施例及び比較例1〜26により確認した。なお、実施例1、4、5、9〜11、14、15、19〜21、24及び25は本発明に係る実施例であり、比較例2、3、6〜8、12、13、16〜18、22、23及び26は比較例である。
【0026】
試験1:電池性能の経時変化及び耐ヒートサイクル性の評価(実施例及び比較例1〜6)
以下の手順で評価用セルを作成し、電池性能の経時変化及び耐ヒートサイクル性の評価を行った。
(評価用セルの作製)
カルシア安定化ジルコニア(CSZ)を主原料とした基体管原料に、メチルセルロースとポリエチレンオキサイドとグリセリンを添加し、水を加えながら加圧ニーダで坏土状に混練した。この混練物をオーガー式押出機で3mm厚さの円筒状に成形した。
燃料極としては、NiO及びYSZを主成分とし、スキージオイルを添加して、3本ローラで剪断力を加えスラリーにしたものを用いた。固体電解質としては、YSZにスキージオイルを加え、3本ローラでスラリーにしたものを用いた。インターコネクタとしては、Sr
0.9La
0.1TiO
3にスキージオイルを加え、3本ローラでスラリー化したものを用いた。
円筒状に成形した基体管の上に燃料極(膜厚:100μm)、固体電解質膜(膜厚:80μm)及びインターンコネクタ(膜厚:30μm)を、
図1に示される要領で成膜し、乾燥後1400℃で3時間以上保持して共焼結した。
共焼結後のセルの固体電解質膜上に、表1に示す組成及び構成となるように、空気極中間層及び空気極導電層を成膜及び焼成して評価用セルを作製した。
より具体的には、共焼結後のセルの固体電解質膜上に、空気極中間層として、3本ローラでスラリーにしたSm
0.2Ce
0.8O
2からなる第2空気極中間層(膜厚:10μm)と、3本ローラでスラリーにした50mol%のSmMnO
3と50mol%のSm
0.2Ce
0.8O
2からなる第1空気極中間層(膜厚:20μm)をこの順に成膜した。ただし、表1にも示すように、比較例2においては第1空気極中間層を成膜しなかった。また、実施例及び比較例1〜4及び比較例6については、第2空気極中間層を成膜しなかった。
成膜した空気極中間層の上に、空気極導電層として、表1に示す組成((La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
xMnO
3、0.98<x≦1.0)を有する原料を3本ローラでスラリーにしたものを700μm成膜し、1200℃で焼成して評価用セルを作製した。
(電池性能の測定及び評価)
上述のように調製した評価用セルの内側に燃料として70%H
2−N
2混合気体と外側に空気を流し、900℃に保持して発電を実施し、発電開始直後の作動電圧0.75Vにおける電流密度を測定した。また、発電開始から1000時間経過後にも作動電圧0.75Vにおける電流密度を測定し、この測定結果A2と、発電開始直後の電流密度の測定結果A1とから、発電開始から1000時間後における電流密度の経時変化率(100×(A1−A2)/A1)(単位:%)を算出した。これらの結果を表1に示す。
なお、以下本明細書において、「発電開始直後の作動電圧0.75Vにおける電流密度」を単に「電流密度」とも称することがあり、「発電開始から1000時間後における電流密度の経時変化率」を単に「経時変化率」又は「劣化率」とも称することがある。
(耐ヒートサイクル性の評価)
上述のように作製した評価用セルを900℃で5時間保持した後、50℃以下で5時間保持する熱サイクルを加え、何回目の熱サイクルで空気極の剥離が起きるか確認した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1において、“0.75Vにおける電流密度”は電池の初期性能の指標であり、300mA/cm
2以上であれば良好であると評価する。また、“経時変化率”は発電開始から1000時間経過後における電池性能の劣化度の指標であり、0.15%/1000時間以下であれば良好であると評価する。また、“耐ヒートサイクル性”はヒートサイクルを加えた際の耐久性の指標であり、25回以上であれば良好であると評価する。
【0029】
表1からわかるように、本発明の実施例である、空気極中間層(第1空気極中間層のみ)を有する実施例1においては、作動電圧0.75Vで電流密度は400mA/cm
2であり、劣化率は0.1%/1000時間であり、結果は良好であった。また,熱サイクル50回を加えても剥離には至らず、結果は良好であった。
これに対し、空気極中間層(第1空気極中間層及び第2空気極中間層)を設けなかった比較例2においては、作動電圧0.75Vで電流密度は125mA/cm
2と比較的低い値であった。また、熱サイクル10回を加えたところ,空気極導電層が剥離してしまい、良好な結果は得られなかった。
このことから、実施例1の構成及び膜厚を有する空気極中間層を設けることにより、空気極中間層を有さない電池に比べて、良好な初期性能、劣化度及び耐ヒートサイクル性を有する固体電解質燃料電池が得られることが確認された。
【0030】
また、表1からわかるように、本発明の実施例である、空気極導電層((La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
xMnO
3)の組成においてx=0.981である実施例4においては、作動電圧0.75Vで電流密度395mA/cm
2の特性を示し、経時的な劣化率は0.1%/1000時間と小さく、結果は良好であった。また,熱サイクル50回を加えても剥離には至らず、良好な結果となった。
これに対し、空気極導電層((La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
xMnO
3)の組成においてx=0.975である比較例3においては、作動電圧0.75Vでの電流密度は380mA/cm
2であり良好であったが、経時的な劣化率が大きく,0.25%/1000時間であった。また、熱サイクルを18回加えたところ,空気極が中間層から剥離し、耐ヒートサイクル性については良好な結果が得られなかった。
また、空気極導電層((La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
xMnO
3)の組成においてx=1.025である比較例6においては、同様の発電条件で作動電圧0.75Vで電流密度270mA/cm
2であり,特性が低下した。特性低下要因は,空気極導電層の組成を,(La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
1.025MnO
3としたことで,空気極導電層の焼結性が低下し導電率が低下したことが考えられる。また,熱サイクルを15回加えたところ,空気極中間層から剥離が発生し、耐ヒートサイクル性については良好な結果が得られなかった。さらに,室温保持中に空気極が破砕した。これは、空気極導電層中の過剰のLaにより,空気中の水分と反応して,空気極の強度が低下したためであると考えられる。
このことから、実施例4のように、(La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
xMnO
3においてxが0.98<x≦1.0の範囲内である組成を有する空気極導電層とすることにより、xが上記範囲外である場合に比べて、良好な初期性能、劣化度及び耐ヒートサイクル性を有する固体電解質燃料電池が得られることが確認された。
なお、本発明に係る実施例では、ヒートサイクルが50回を超えても剥がれは認められず、良好な耐ヒートサイクル性が確認された。これは、本発明の組成を有する空気導電層及び空気中間層とすることにより、膜の密着性が改善されたことが要因と考えられる。
【0031】
上述の試験1の結果より、空気極導電層は(La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
xMnO
3においてxが0.98<x≦1.0の範囲内でることが望ましいことが明らかとなった。このため、以下の試験2及び試験3においては、空気極導電層にはxが0.98<x≦1.0である(La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
xMnO
3を用いた。
【0032】
なお、空気極中間層が複層構造であり、第1空気極中間層は30〜95mol%のSm
0.2Ce
0.8O
2と5〜70mol%のSmMnO
3とを含有する組成を有し、第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が1:2〜10:1の範囲内である構成を有する燃料電池セルについて、上述の試験1において実施例5として電池性能の測定及び評価を行った。表1に示されるように、上記構成を有する場合、作動電圧0.75Vで電流密度390mA/cm
2の特性を示し、経時的な劣化率は0.12%/1000時間と小さく、結果は良好であった。また,熱サイクルを60回以上加えても剥離には至らず、特に良好な結果となった。この結果、上記の構成を有する場合、固体電解質燃料電池として適する電池性能及び耐ヒートサイクル特性を有することが確認された。
【0033】
試験2:抵抗値の計測(実施例及び比較例7〜16)
以下の手順で、
図4に示す構成の抵抗値計測用素子を作製し、交流法により抵抗値を測定した。
(抵抗値計測用素子の作製)
固体電解質膜としてのYSZ上に、表2に示す組成及び膜厚の空気極中間層(第1空気極中間層)と、(La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
0.99MnO
3の空気極導電層(膜厚:100μm)をこの順に成膜し、1200℃で焼成して、抵抗値計測用素子を作製した。
(抵抗値の計測)
上述のようにして作製した計測用素子の抵抗値を交流法で測定した。
図4に示すように、計測用素子を2つのPt電極で挟み、空気極導電層側のPt電極を作用電極、電解質側のPt電極を対極として、この2つのPt電極で集電を行い、電解質側面に巻きつけたPt線と、前述の空気極導電層側のPt電極とを参照電極として、900℃においてオーム抵抗及び界面抵抗の測定を行った。オーム抵抗(単位:Ωcm
2)は、交流法で得られた複素インピーダンス平面プロットにおける高周波側の実軸との交点から計測値を求めた。また、界面抵抗(単位:Ωcm
2)は、交流法で得られた複素インピーダンス平面プロットにおけるインピーダンス円弧の実軸の交点の差より求めた。全抵抗(単位:Ωcm
2)は、これらの合計値である。計測結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2において、実施例及び比較例7〜12では、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚を20μmで固定した場合の、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成の違いによる抵抗値の変化が示される。また、実施例及び比較例13〜16では、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成をSm
0.2Ce
0.8O
2:50mol%、SmMnO
3:50mol%で固定した場合の、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚による抵抗値の変化が示される。測定により得られる全抵抗値が1.4Ωcm
2以下であれば、抵抗が十分に小さく良好であると考えられる。
なお、全抵抗値の閾値を1.4Ωcm
2としているのは、全抵抗値が1.4Ωcm
2であれば、発電性能として、作動電圧0.75Vにおける電流密度が400mA/cm
2程度となることが経験的にわかっていることによる。(以下においても同様である。)
【0036】
表2から分かるように、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚が20μmである場合、空気極中間層(第1空気極中間層)が、30〜95mol%のSm
0.2Ce
0.8O
2と、5〜70mol%のSmMnO
3とを含有する実施例9〜11については、オーム抵抗の計測値、界面抵抗の計測値、及びこれらの合計である全抵抗が十分に小さく、空気極の組成として適することが確認された。これに対し、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成において、SmMnO
3の量が上記範囲よりも少ない比較例7及び8、並びにSmMnO
3の量が上記範囲よりも多い比較例12については、オーム抵抗の計測値及び界面抵抗の計測値が大きく、全抵抗も1.4Ωcm
2を超えるため、空気極中間層の組成としては不適であることが確認された。
【0037】
また、表2から分かるように、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成がSm
0.2Ce
0.8O
2:50mol%、SmMnO
3:50mol%である場合、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚が3μm及び30μmである実施例14及び15については、オーム抵抗の計測値、界面抵抗の計測値、及びこれらの合計である全抵抗が十分に小さく、空気極の組成として適することが確認された。これに対し、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚が1μm及び40μmである比較例13及び16では、オーム抵抗の計測値及び界面抵抗の計測値が大きく、全抵抗も1.4Ωcm
2を超えるため、空気極中間層の組成としては不適であることが確認された。
【0038】
上述の試験2の結果より、空気極導電層(第1空気極中間層)は、30〜95mol%のSm
0.2Ce
0.8O
2と5〜70mol%のSmMnO
3とを含有する組成を有することが望ましいことが分かった。また、空気極導電層(第1空気極中間層)の膜厚は3〜30μmの範囲内であることが望ましいことが明らかとなった。
【0039】
試験3:抵抗値の計測(実施例及び比較例17〜26)
以下の手順で、
図5に示すように、空気極中間層が複層構造を有する構成の抵抗値計測用素子を作製し、交流法により抵抗値を測定した。
(抵抗値計測用素子の作製)
固体電解質膜としてのYSZ上に、表3に示す組成及び膜厚の第2空気極中間層及び第1空気極中間層と、(La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
0.99MnO
3の空気極導電層(膜厚:100μm)をこの順に成膜し、1200℃で焼成して、抵抗値計測用素子を作製した。
(抵抗値の計測)
上述のようにして作製した計測用素子の抵抗値を交流法で測定した。
図5に示すように、計測用素子を2つのPt電極で挟み、空気極導電層側のPt電極を作用電極、電解質側のPt電極を対極として、この2つのPt電極で集電を行い、電解質側面に巻きつけたPt線と、前述の空気極導電層側のPt電極とを参照電極として、900℃においてオーム抵抗及び界面抵抗の測定を行った。オーム抵抗は、交流法で得られた複素インピーダンス平面プロットにおける高周波側の実軸との交点から計測値を求めた。また、界面抵抗は、交流法で得られた複素インピーダンス平面プロットにおけるインピーダンス円弧の実軸の交点の差より求めた。全抵抗は、これらの合計値である。計測結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3において、実施例及び比較例17〜22では、空気極中間層が複層構造を有する構成において、第1空気極中間層の組成の違いによる抵抗値の変化が示される。また、実施例及び比較例23〜26では、第2空気極中間層の膜厚の違いによる抵抗値の変化が示される。なお、実施例及び比較例17〜26のいずれにおいても、第1空気極中間層の膜厚(10μm)及び第2空気極中間層の組成(Sm
0.2Ce
0.8O
2:100%)は一定である。測定により得られる全抵抗値が1.4Ωcm
2以下であれば、抵抗が十分に小さく良好であると考えられる。
【0042】
表3からわかるように、空気極中間層が複層構造を有する構成において、空気極中間層(第1空気極中間層)が、30〜95mol%のSm
0.2Ce
0.8O
2と、5〜70mol%のSmMnO
3とを含有する実施例19〜21については、オーム抵抗の計測値、界面抵抗の計測値、及びこれらの合計である全抵抗が十分に小さく、空気極の組成として適することが確認された。これに対し、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成において、SmMnO
3の量が上記範囲よりも少ない比較例17及び18、並びにSmMnO
3の量が上記範囲よりも多い比較例22については、オーム抵抗の計測値及び界面抵抗の計測値が大きく、全抵抗も1.4Ωcm
2を超えるため、空気極中間層の組成としては不適であることが確認された。
【0043】
また、表3からわかるように、空気極中間層が複層構造を有する構成において、第2空気極中間層の膜厚がそれぞれ1μm及び20μmであり、第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が、1:2〜10:1の範囲内である実施例24及び25については、オーム抵抗の計測値、界面抵抗の計測値、及びこれらの合計である全抵抗が十分に小さく、空気極の組成として適することが確認された。これに対し、第2空気極中間層の膜厚がそれぞれ0.5μm及び30μmであり、第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が、1:2〜10:1の範囲外である
比較例23及び26では、オーム抵抗の計測値及び界面抵抗の計測値が大きく、全抵抗も1.4Ωcm
2を超えるため、空気極中間層の組成としては不適であることが確認された。
【0044】
上述の試験3の結果より、空気極中間層を複層構造にした場合においても、第1空気極中間層は30〜95mol%のSm
0.2Ce
0.8O
2と5〜70mol%のSmMnO
3とを含有する組成を有することが望ましいことが確認された。また、空気極中間層を複層構造にした場合、第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が1:2〜10:1の範囲内であることが望ましいことが確認された。