特許第6177680号(P6177680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6177680
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】固体電解質燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20170731BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170731BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20170731BHJP
【FI】
   H01M8/02 E
   H01M4/86 T
   H01M4/86 U
   H01M8/12
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-259494(P2013-259494)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-118741(P2015-118741A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2015年11月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物形燃料電池を用いた事業用発電システム要素技術開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佃 洋
(72)【発明者】
【氏名】末森 重徳
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 研一
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−110965(JP,A)
【文献】 特開2012−198990(JP,A)
【文献】 特開2013−140737(JP,A)
【文献】 特開2004−186119(JP,A)
【文献】 特開2010−257947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02−8/12
H01M 4/86−4/88
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質膜と、燃料極と、前記固体電解質膜に積層される空気極とを備える固体電解質燃料電池であって、
前記空気極は、前記固体電解質膜側に設けられる空気極中間層と、前記固体電解質膜とは反対側に設けられる空気極導電層とを備え、
前記空気極導電層は、(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO(ただし、0.98<x≦1.0である。)を含有する材料により構成され、
前記空気極中間層は、30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と、5〜70mol%のSmMnOとを含有する材料により構成される第1空気極中間層を少なくとも含み、
前記固体電解質膜と、前記空気極中間層と、前記空気極導電層と、をこの順に積層した抵抗値計測用素子としたときに、前記抵抗値計測用素子の全抵抗値が900℃において0.95Ωcm以上1.4Ωcm以下である固体電解質燃料電池。
【請求項2】
前記空気極中間層の膜厚が3〜30μmである請求項1に記載の固体電解質燃料電池。
【請求項3】
前記空気極中間層は、
前記第1空気極中間層と、
前記第1空気極中間層と前記固体電解質膜との間に設けられ、99mol%以上100mol%以下のSm0.2Ce0.8を含有する材料により構成される第2空気極中間層と、を含む複層構造を有する請求項1又は2に記載の固体電解質燃料電池。
【請求項4】
前記固体電解質膜は、イットリア安定化ジルコニアを含有する材料により構成される請求項3に記載の固体電解質燃料電池。
【請求項5】
固体電解質膜と、燃料極と、前記固体電解質膜に積層される空気極とを備える固体電解質燃料電池であって、
前記空気極は、前記固体電解質膜側に設けられる空気極中間層と、前記固体電解質膜とは反対側に設けられる空気極導電層とを備え、
前記空気極導電層は、(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO(ただし、0.98<x≦1.0である。)を含有する材料により構成され、
前記空気極中間層は、30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と、5〜70mol%のSmMnOとを含有する材料により構成される第1空気極中間層と、前記第1空気極中間層と前記固体電解質膜との間に設けられ、99mol%以上100mol%以下のSm0.2Ce0.8を含有する材料により構成される第2空気極中間層と、を含む複層構造を有し、
前記第1空気極中間層の膜厚と前記第2空気極中間層の膜厚との比が、1:2〜10:1である固体電解質燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質燃料電池は、一般的に、空気極、固体電解質及び燃料極が積層された構造を有する。
そして、空気極と固体電解質との間で起こる電池反応をスムーズに進行させるため、すなわち空気極と固体電解質との間の接触抵抗を低減させて燃料電池の出力性能を向上させるため、空気極と電解質との間に中間層を設ける構成が提案されている。
例えば、特許文献1には、空気極が、固体電解質膜上に形成される空気極中間層と、該空気極中間層上に形成される空気極導電層とを含む積層構造を有し、空気極中間層はSm1−xCe(但し、0.8≦x≦0.9)で表されるセリア化合物を主成分とし、空気極導電層は、La(a+b)/2Sr(1−a)/2Ca(1−b)/2Mn(但し、y>1、0.4≦a≦0.8、0.4≦b≦0.8)で表され、Mnのモル数に対するLa,Sr及びCaのモル数の合計の比が0.92以上0.98以下とされるペロブスカイト型酸化物を主成分とする固体電解質型燃料電池が記載されている。
そして、特許文献1には、上述の固体電解質型燃料電池は焼結により製造することができ、空気極導電層中の遊離Mnが焼結時に空気極中間層に拡散することで空気極中間層中に電子導電性の高いSmMnOが形成されるため、このような空気極を備える固体電解質型燃料電池において固体電解質膜と空気極との間の界面における接触抵抗が低減され、発電性能が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−140737
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、空気極中間層において適度な量のSmMnOが存在すると、固体電解質膜と空気極との間の界面における接触抵抗が低減されて発電性能が向上すると考えられる。
しかしながら、本発明者らは、適度な量のSmMnOを含む空気中間層を有する固体電解質燃料電池(例えば特許文献1に記載の上述の固体電解質型燃料電池)で発電を続けると、時間が経過するにつれて固体電解質膜と空気極との間の界面における接触抵抗が増加し、かえって発電性能が低下することを見出した。
本発明者らの検討によれば、この理由は以下のように考えられる。
適度な量のSmMnOを含む空気中間層を有する固体電解質燃料電池(例えば特許文献1に記載の上述の固体電解質型燃料電池)を用いて発電を行うと、発電開始時には空気極中間層の中に適度な量のSmMnOが存在するため、発電性能は良好である。しかし、発電を続けていくと、空気極導電層中のMnが空気極中間層の中に拡散していき、拡散したMnはSmMnOを形成するため、空気極中間層中のSmMnO量が増加するとともに、Sm0.2Ce0.8(SDC)中のSm量が減少し、SDCのイオン伝導性が低下する。そして、適正な範囲を超えた量のSmMnOが空気極中間層内に存在すると、固体電解質膜と空気極との間の界面における接触抵抗が増加する。このようにして、発電中に空気極中間層が変質することにより、発電性能が低下すると考えられる。
【0005】
本発明の少なくとも一実施形態の目的は、空気極と固体電解質との間の界面における接触抵抗が発電中に増加するのを抑制し得る固体電解質燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は本発明者らの上記知見に基づくものであり、
本発明の少なくとも一実施形態に係る固体電解質燃料電池は、
固体電解質膜と、前記固体電解質膜に積層される空気極とを備え、
前記空気極は、前記固体電解質膜側に設けられる空気極中間層と、前記固体電解質膜とは反対側に設けられる空気極導電層とを備え、
前記空気極導電層は、(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO(ただし、0.98<x≦1.0である。)を含有する材料により構成され、
前記空気極中間層は、30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と、5〜70mol%のSmMnOとを含有する材料により構成される第1空気極中間層を少なくとも含む。
【0007】
上記実施形態に係る固体電解質燃料電池においては、第1空気極中間層は、30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と、5〜70mol%のSmMnOとを含有する材料により構成される。すなわち、空気極中間層そのものが、電子導電性の高いSmMnOを適量含有する材料によって構成される。このため、例えば従来技術(例えば特許文献1)のように、焼結時や発電時に空気極導電層から拡散したMnが空気極中間層においてSmMnOを形成しなくても、空気極中間層の電子導電性を適切な範囲にすることができる。
また、上記固体電解質燃料電池において、空気極導電層は、(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO(ただし、0.98<x≦1.0である。)を含有する材料により構成される。すなわち、空気極導電層において、ペロブスカイト構造のAサイトを構成するLa、Sr及びCaに対して過剰なMnの量を従来(例えば、特許文献1においては0.92≦x≦0.98)に比べて減少させている。このため、空気極導電層に含まれるMnの空気極中間層への拡散が抑制され、空気極中間層においてSmMnOが生成され難くなり、空気極中間層のSmMnOの量を適切な範囲で維持できるので、固体電解質膜と空気極との間の界面における接触抵抗を最適な範囲に維持することができる。
したがって、上記実施形態に係る固体電解質燃料電池によれば、空気極と固体電解質との間の接触抵抗が発電中に増加するのが抑制され、固体電解質燃料電池の発電性能が低下しにくくなる。
【0008】
幾つかの実施形態では、前記空気極中間層の膜厚は3〜30μmである。
空気極中間層の膜厚が上記範囲内であれば、空気極による抵抗が大きくなりすぎず、固体電解質燃料電池として実用的である。
【0009】
幾つかの実施形態では、前記空気極中間層は、前記第1空気極中間層と、前記第1空気極中間層と前記固体電解質膜との間に設けられ、99mol%以上100mol%以下のSm0.2Ce0.8を含有する材料により構成される第2空気極中間層と、を含む複層構造を有する。
上記の複層構造を有する固体電解質燃料電池は、加熱及び冷却を繰り返した際の耐久性(すなわち、耐ヒートサイクル性)がより優れる。
【0010】
幾つかの実施形態では、前記固体電解質膜は、イットリア安定化ジルコニアを含有する材料により構成される。
【0011】
幾つかの実施形態では、前記第1空気極中間層の膜厚と前記第2空気極中間層の膜厚との比が、1:2〜10:1である。
第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が上記範囲内であれば、空気極による抵抗が大きくなりすぎず、固体電解質燃料電池として実用的である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、空気極と固体電解質との間の界面における接触抵抗が発電中に増加するのを抑制し得る固体電解質燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る固体電解質燃料電池の構成の概略を示す図である。
図2】一実施形態に係る固体電解質燃料電池の空気極の構造を示す図である。
図3】一実施形態に係る固体電解質燃料電池の空気極の構造を示す図である。
図4】実施例において作成した抵抗値計測用素子の構成を示す図である。
図5】実施例において作成した抵抗値計測用素子の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
図1は、一実施形態に係る固体電解質燃料電池の構成の概略を示す図であり、図2及び図3は、それぞれ一実施形態に係る固体電解質燃料電池の空気極の構造を示す図である。
【0016】
図1に示すように、一実施形態に係る固体電解質燃料電池1は、固体電解質膜16と、固体電解質膜16に積層される空気極30を備える。固体電解質膜16は、例えば図1に示すように、基体12上に形成された燃料極14の上に積層されてもよい。また、固体電解質燃料電池1において、例えば図1に示すように、燃料極14、固体電解質膜16、空気極30により構成される単素子10を基体12上に複数形成し、隣接し合う単素子10を素子間部20により電気的に接続してもよい。
【0017】
空気極30は、図2及び図3に示すように、固体電解質膜16側に設けられる空気極中間層32と、固体電解質膜16とは反対側に設けられる空気極導電層34とを備える。そして、空気極導電層34は、(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO(ただし、0.98<x≦1.0である。)を含有する材料により構成される。また、空気極中間層は、30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と、5〜70mol%のSmMnOとを含有する材料により構成される第1空気極中間層32を少なくとも含む。
幾つかの実施形態では、空気極導電層34は、(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO(ただし、0.99≦x≦1.0である。)を含有する材料により構成される。また、空気極中間層は、40〜85mol%のSm0.2Ce0.8と、15〜60mol%のSmMnOとを含有する材料により構成される第1空気極中間層32を少なくとも含む。
【0018】
このように、一実施形態において、第1空気極中間層32は、上記範囲の量のSm0.2Ce0.8とSmMnOとを含有する材料により構成される。すなわち、空気極中間層31そのものが、電子導電性の高いSmMnOを適量含有する材料によって構成される。このため、空気極中間層31の電子導電性を適切な範囲にすることができる。
また、一実施形態において、空気極導電層34は、(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO(ただし、xは上記の範囲である。)を含有する材料により構成される。すなわち、空気極導電層34において、Aサイトを構成するLa、Sr及びCaに対して過剰なMnの量が従来よりも低減されている。このため、発電中においても、空気極導電層34に含まれるMnの空気極中間層31への拡散が抑制され、空気極中間層31においてSmMnOが生成され難くなり、空気極中間層31のSmMnOの量を適切な範囲で維持できるので、固体電解質膜16と空気極31との間の界面における接触抵抗を最適な範囲に維持することができる。
【0019】
幾つかの実施形態では、図3に示すように、空気極中間層31は、第1空気極中間層32と、第2空気極中間層33とを含む複層構造を有する。そして、第2空気極中間層33は、第1空気極中間層32と固体電解質膜16との間に設けられ、99mol%以上100mol%以下のSm0.2Ce0.8を含有する材料により構成される。また、幾つかの実施形態では、第2空気極中間層33は、99.5mol%以上99.8mol%以下のSm0.2Ce0.8を含有する材料により構成される。なお、「99mol%以上100mol%以下のSm0.2Ce0.8」及び「99.5mol%以上99.8mol%以下のSm0.2Ce0.8を含有する材料」とは、Sm0.2Ce0.8以外の他の成分を実質的に含まない材量であることを意味し、仮に他の成分が含まれるとしても、第2空気極中間層の性質や固体電解質膜燃料電池の発電性能に実質的な影響を与えない範囲で含まれるということである。
このような複層構造を有する固体電解質燃料電池1は、加熱及び冷却を繰り返した際の耐久性(耐ヒートサイクル性)がより優れる。
【0020】
空気極と固体電解質膜との間の密着性が良好でないと、加熱と冷却の繰り返し(ヒートサイクル)によって剥離が発生する場合がある。
Sm0.2Ce0.8(SDC)とSmMnOとを上記比率で含む第2空気極中間層33と固体電解質膜層16との密着性は、Sm0.2Ce0.8(SDC)層と固体電解質膜層との密着性に比べて優れる。このため、上記実施形態に係る固体電解質燃料電池では、加熱及び冷却による剥離が起きにくく、耐ヒートサイクル性に優れると考えられる。
【0021】
幾つかの実施形態では、空気極中間層31の膜厚は3〜30μmである。また、幾つかの実施形態では、空気極中間層31の膜厚は10〜25μmである。
空気極中間層の膜厚が上記範囲内であれば、空気極による抵抗が大きくなりすぎず、固体電解質燃料電池として実用的である。
【0022】
空気極中間層は、空気極と固体電解質との間で起こる電池反応(O+4e→2O2−で表される)をスムーズに行わせるために設けられる層である。そして、上記還元反応の際に生成した酸素イオン(O2−)の一部が空気極中間層を通過して固体電解質に到達するために、空気極中間層はイオン導電性を有する必要がある。また、上記還元反応のための電子(e)をスムーズに供給するために、空気極中間層は電子導電性を有する必要がある。したがって、空気極中間層は、電子導電性とイオン導電性の両方を有している必要がある。そして、一実施形態に係る固体電解質燃料電池においては、空気極中間層に含まれる成分のうち、Sm0.2Ce0.8がイオン導電性を有する物質であり、SmMnOが電子導電性を有する物質である。
したがって、空気極中間層の膜厚が上記範囲よりも小さいと、イオン導電性を有するSm0.2Ce0.8と電子導電性を有するSmMnOの絶対量が少なくなり、空気極中間層の有する電子導電性及びイオン導電性が十分でなくなる。このため、空気極と固体電解質との間で起こる電池反応をスムーズに行わせるという空気中間層の役割を十分に果たせなくなり、空気極と固体電解質との間の接触抵抗を十分に低減することができなくなる。
また、空気極中間層の中において、酸素イオンは固体電解質に向かって膜厚方向に移動するが、空気極中間層の中で移動する酸素イオンと電子とを比べると、酸素イオンのほうが径が大きく、比較的空気極中間層の中を移動し難い。このような状況において空気極中間層の膜厚が大きくなると、移動し難い酸素イオンの動く距離が大きくなり、このため抵抗として大きくなると考えられる。
したがって、空気極中間層の膜厚が上記範囲よりも大きいと、空気極中間層の中を移動する酸素イオンの移動距離が大きくなるため、空気極の抵抗が大きくなってしまうと考えられる。
【0023】
固体電解質膜の材料としては、酸素イオン導電性を有し、水素等の燃料ガスや酸素ガスを通さない材料を用いることができる。固体電解質膜の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する材料の他、例えば、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)や、ランタンガレート(LaGaO)等を用いることができる。
幾つかの実施形態では、前記固体電解質膜は、イットリア安定化ジルコニアを含有する材料により構成される。この場合、空気極中間層と固体電解質膜との密着性が優れるため、加熱及び冷却による剥離が起きにくく、耐ヒートサイクル性に優れると考えられる。
【0024】
幾つかの実施形態では、前記第1空気極中間層の膜厚と前記第2空気極中間層の膜厚との比が、1:2〜10:1である。また、幾つかの実施形態では、前記第1空気極中間層の膜厚と前記第2空気極中間層の膜厚との比は1:1〜8:1である。
第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が上記範囲内であれば、空気極による抵抗が大きくなりすぎず、固体電解質燃料電池として実用的である。
【実施例】
【0025】
実施形態に係る固体電解質燃料電池の電池性能及び耐ヒートサイクル性を、以下に記載する実施例及び比較例1〜26により確認した。なお、実施例1、4、5、9〜11、14、15、19〜21、24及び25は本発明に係る実施例であり、比較例2、3、6〜8、12、13、16〜18、22、23及び26は比較例である。
【0026】
試験1:電池性能の経時変化及び耐ヒートサイクル性の評価(実施例及び比較例1〜6)
以下の手順で評価用セルを作成し、電池性能の経時変化及び耐ヒートサイクル性の評価を行った。
(評価用セルの作製)
カルシア安定化ジルコニア(CSZ)を主原料とした基体管原料に、メチルセルロースとポリエチレンオキサイドとグリセリンを添加し、水を加えながら加圧ニーダで坏土状に混練した。この混練物をオーガー式押出機で3mm厚さの円筒状に成形した。
燃料極としては、NiO及びYSZを主成分とし、スキージオイルを添加して、3本ローラで剪断力を加えスラリーにしたものを用いた。固体電解質としては、YSZにスキージオイルを加え、3本ローラでスラリーにしたものを用いた。インターコネクタとしては、Sr0.9La0.1TiOにスキージオイルを加え、3本ローラでスラリー化したものを用いた。
円筒状に成形した基体管の上に燃料極(膜厚:100μm)、固体電解質膜(膜厚:80μm)及びインターンコネクタ(膜厚:30μm)を、図1に示される要領で成膜し、乾燥後1400℃で3時間以上保持して共焼結した。
共焼結後のセルの固体電解質膜上に、表1に示す組成及び構成となるように、空気極中間層及び空気極導電層を成膜及び焼成して評価用セルを作製した。
より具体的には、共焼結後のセルの固体電解質膜上に、空気極中間層として、3本ローラでスラリーにしたSm0.2Ce0.8からなる第2空気極中間層(膜厚:10μm)と、3本ローラでスラリーにした50mol%のSmMnOと50mol%のSm0.2Ce0.8からなる第1空気極中間層(膜厚:20μm)をこの順に成膜した。ただし、表1にも示すように、比較例2においては第1空気極中間層を成膜しなかった。また、実施例及び比較例1〜4及び比較例6については、第2空気極中間層を成膜しなかった。
成膜した空気極中間層の上に、空気極導電層として、表1に示す組成((La0.5Sr0.25Ca0.25MnO、0.98<x≦1.0)を有する原料を3本ローラでスラリーにしたものを700μm成膜し、1200℃で焼成して評価用セルを作製した。
(電池性能の測定及び評価)
上述のように調製した評価用セルの内側に燃料として70%H−N混合気体と外側に空気を流し、900℃に保持して発電を実施し、発電開始直後の作動電圧0.75Vにおける電流密度を測定した。また、発電開始から1000時間経過後にも作動電圧0.75Vにおける電流密度を測定し、この測定結果A2と、発電開始直後の電流密度の測定結果A1とから、発電開始から1000時間後における電流密度の経時変化率(100×(A1−A2)/A1)(単位:%)を算出した。これらの結果を表1に示す。
なお、以下本明細書において、「発電開始直後の作動電圧0.75Vにおける電流密度」を単に「電流密度」とも称することがあり、「発電開始から1000時間後における電流密度の経時変化率」を単に「経時変化率」又は「劣化率」とも称することがある。
(耐ヒートサイクル性の評価)
上述のように作製した評価用セルを900℃で5時間保持した後、50℃以下で5時間保持する熱サイクルを加え、何回目の熱サイクルで空気極の剥離が起きるか確認した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1において、“0.75Vにおける電流密度”は電池の初期性能の指標であり、300mA/cm以上であれば良好であると評価する。また、“経時変化率”は発電開始から1000時間経過後における電池性能の劣化度の指標であり、0.15%/1000時間以下であれば良好であると評価する。また、“耐ヒートサイクル性”はヒートサイクルを加えた際の耐久性の指標であり、25回以上であれば良好であると評価する。
【0029】
表1からわかるように、本発明の実施例である、空気極中間層(第1空気極中間層のみ)を有する実施例1においては、作動電圧0.75Vで電流密度は400mA/cmであり、劣化率は0.1%/1000時間であり、結果は良好であった。また,熱サイクル50回を加えても剥離には至らず、結果は良好であった。
これに対し、空気極中間層(第1空気極中間層及び第2空気極中間層)を設けなかった比較例2においては、作動電圧0.75Vで電流密度は125mA/cmと比較的低い値であった。また、熱サイクル10回を加えたところ,空気極導電層が剥離してしまい、良好な結果は得られなかった。
このことから、実施例1の構成及び膜厚を有する空気極中間層を設けることにより、空気極中間層を有さない電池に比べて、良好な初期性能、劣化度及び耐ヒートサイクル性を有する固体電解質燃料電池が得られることが確認された。
【0030】
また、表1からわかるように、本発明の実施例である、空気極導電層((La0.5Sr0.25Ca0.25MnO)の組成においてx=0.981である実施例4においては、作動電圧0.75Vで電流密度395mA/cmの特性を示し、経時的な劣化率は0.1%/1000時間と小さく、結果は良好であった。また,熱サイクル50回を加えても剥離には至らず、良好な結果となった。
これに対し、空気極導電層((La0.5Sr0.25Ca0.25MnO)の組成においてx=0.975である比較例3においては、作動電圧0.75Vでの電流密度は380mA/cmであり良好であったが、経時的な劣化率が大きく,0.25%/1000時間であった。また、熱サイクルを18回加えたところ,空気極が中間層から剥離し、耐ヒートサイクル性については良好な結果が得られなかった。
また、空気極導電層((La0.5Sr0.25Ca0.25MnO)の組成においてx=1.025である比較例6においては、同様の発電条件で作動電圧0.75Vで電流密度270mA/cmであり,特性が低下した。特性低下要因は,空気極導電層の組成を,(La0.5Sr0.25Ca0.251.025MnOとしたことで,空気極導電層の焼結性が低下し導電率が低下したことが考えられる。また,熱サイクルを15回加えたところ,空気極中間層から剥離が発生し、耐ヒートサイクル性については良好な結果が得られなかった。さらに,室温保持中に空気極が破砕した。これは、空気極導電層中の過剰のLaにより,空気中の水分と反応して,空気極の強度が低下したためであると考えられる。
このことから、実施例4のように、(La0.5Sr0.25Ca0.25MnOにおいてxが0.98<x≦1.0の範囲内である組成を有する空気極導電層とすることにより、xが上記範囲外である場合に比べて、良好な初期性能、劣化度及び耐ヒートサイクル性を有する固体電解質燃料電池が得られることが確認された。
なお、本発明に係る実施例では、ヒートサイクルが50回を超えても剥がれは認められず、良好な耐ヒートサイクル性が確認された。これは、本発明の組成を有する空気導電層及び空気中間層とすることにより、膜の密着性が改善されたことが要因と考えられる。
【0031】
上述の試験1の結果より、空気極導電層は(La0.5Sr0.25Ca0.25MnOにおいてxが0.98<x≦1.0の範囲内でることが望ましいことが明らかとなった。このため、以下の試験2及び試験3においては、空気極導電層にはxが0.98<x≦1.0である(La0.5Sr0.25Ca0.25MnOを用いた。
【0032】
なお、空気極中間層が複層構造であり、第1空気極中間層は30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と5〜70mol%のSmMnOとを含有する組成を有し、第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が1:2〜10:1の範囲内である構成を有する燃料電池セルについて、上述の試験1において実施例5として電池性能の測定及び評価を行った。表1に示されるように、上記構成を有する場合、作動電圧0.75Vで電流密度390mA/cmの特性を示し、経時的な劣化率は0.12%/1000時間と小さく、結果は良好であった。また,熱サイクルを60回以上加えても剥離には至らず、特に良好な結果となった。この結果、上記の構成を有する場合、固体電解質燃料電池として適する電池性能及び耐ヒートサイクル特性を有することが確認された。
【0033】
試験2:抵抗値の計測(実施例及び比較例7〜16)
以下の手順で、図4に示す構成の抵抗値計測用素子を作製し、交流法により抵抗値を測定した。
(抵抗値計測用素子の作製)
固体電解質膜としてのYSZ上に、表2に示す組成及び膜厚の空気極中間層(第1空気極中間層)と、(La0.5Sr0.25Ca0.250.99MnOの空気極導電層(膜厚:100μm)をこの順に成膜し、1200℃で焼成して、抵抗値計測用素子を作製した。
(抵抗値の計測)
上述のようにして作製した計測用素子の抵抗値を交流法で測定した。図4に示すように、計測用素子を2つのPt電極で挟み、空気極導電層側のPt電極を作用電極、電解質側のPt電極を対極として、この2つのPt電極で集電を行い、電解質側面に巻きつけたPt線と、前述の空気極導電層側のPt電極とを参照電極として、900℃においてオーム抵抗及び界面抵抗の測定を行った。オーム抵抗(単位:Ωcm)は、交流法で得られた複素インピーダンス平面プロットにおける高周波側の実軸との交点から計測値を求めた。また、界面抵抗(単位:Ωcm)は、交流法で得られた複素インピーダンス平面プロットにおけるインピーダンス円弧の実軸の交点の差より求めた。全抵抗(単位:Ωcm)は、これらの合計値である。計測結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2において、実施例及び比較例7〜12では、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚を20μmで固定した場合の、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成の違いによる抵抗値の変化が示される。また、実施例及び比較例13〜16では、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成をSm0.2Ce0.8:50mol%、SmMnO:50mol%で固定した場合の、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚による抵抗値の変化が示される。測定により得られる全抵抗値が1.4Ωcm以下であれば、抵抗が十分に小さく良好であると考えられる。
なお、全抵抗値の閾値を1.4Ωcmとしているのは、全抵抗値が1.4Ωcmであれば、発電性能として、作動電圧0.75Vにおける電流密度が400mA/cm程度となることが経験的にわかっていることによる。(以下においても同様である。)
【0036】
表2から分かるように、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚が20μmである場合、空気極中間層(第1空気極中間層)が、30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と、5〜70mol%のSmMnOとを含有する実施例9〜11については、オーム抵抗の計測値、界面抵抗の計測値、及びこれらの合計である全抵抗が十分に小さく、空気極の組成として適することが確認された。これに対し、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成において、SmMnOの量が上記範囲よりも少ない比較例7及び8、並びにSmMnOの量が上記範囲よりも多い比較例12については、オーム抵抗の計測値及び界面抵抗の計測値が大きく、全抵抗も1.4Ωcmを超えるため、空気極中間層の組成としては不適であることが確認された。
【0037】
また、表2から分かるように、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成がSm0.2Ce0.8:50mol%、SmMnO:50mol%である場合、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚が3μm及び30μmである実施例14及び15については、オーム抵抗の計測値、界面抵抗の計測値、及びこれらの合計である全抵抗が十分に小さく、空気極の組成として適することが確認された。これに対し、空気極中間層(第1空気極中間層)の膜厚が1μm及び40μmである比較例13及び16では、オーム抵抗の計測値及び界面抵抗の計測値が大きく、全抵抗も1.4Ωcmを超えるため、空気極中間層の組成としては不適であることが確認された。
【0038】
上述の試験2の結果より、空気極導電層(第1空気極中間層)は、30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と5〜70mol%のSmMnOとを含有する組成を有することが望ましいことが分かった。また、空気極導電層(第1空気極中間層)の膜厚は3〜30μmの範囲内であることが望ましいことが明らかとなった。
【0039】
試験3:抵抗値の計測(実施例及び比較例17〜26)
以下の手順で、図5に示すように、空気極中間層が複層構造を有する構成の抵抗値計測用素子を作製し、交流法により抵抗値を測定した。
(抵抗値計測用素子の作製)
固体電解質膜としてのYSZ上に、表3に示す組成及び膜厚の第2空気極中間層及び第1空気極中間層と、(La0.5Sr0.25Ca0.250.99MnOの空気極導電層(膜厚:100μm)をこの順に成膜し、1200℃で焼成して、抵抗値計測用素子を作製した。
(抵抗値の計測)
上述のようにして作製した計測用素子の抵抗値を交流法で測定した。図5に示すように、計測用素子を2つのPt電極で挟み、空気極導電層側のPt電極を作用電極、電解質側のPt電極を対極として、この2つのPt電極で集電を行い、電解質側面に巻きつけたPt線と、前述の空気極導電層側のPt電極とを参照電極として、900℃においてオーム抵抗及び界面抵抗の測定を行った。オーム抵抗は、交流法で得られた複素インピーダンス平面プロットにおける高周波側の実軸との交点から計測値を求めた。また、界面抵抗は、交流法で得られた複素インピーダンス平面プロットにおけるインピーダンス円弧の実軸の交点の差より求めた。全抵抗は、これらの合計値である。計測結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3において、実施例及び比較例17〜22では、空気極中間層が複層構造を有する構成において、第1空気極中間層の組成の違いによる抵抗値の変化が示される。また、実施例及び比較例23〜26では、第2空気極中間層の膜厚の違いによる抵抗値の変化が示される。なお、実施例及び比較例17〜26のいずれにおいても、第1空気極中間層の膜厚(10μm)及び第2空気極中間層の組成(Sm0.2Ce0.8:100%)は一定である。測定により得られる全抵抗値が1.4Ωcm以下であれば、抵抗が十分に小さく良好であると考えられる。
【0042】
表3からわかるように、空気極中間層が複層構造を有する構成において、空気極中間層(第1空気極中間層)が、30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と、5〜70mol%のSmMnOとを含有する実施例19〜21については、オーム抵抗の計測値、界面抵抗の計測値、及びこれらの合計である全抵抗が十分に小さく、空気極の組成として適することが確認された。これに対し、空気極中間層(第1空気極中間層)の組成において、SmMnOの量が上記範囲よりも少ない比較例17及び18、並びにSmMnOの量が上記範囲よりも多い比較例22については、オーム抵抗の計測値及び界面抵抗の計測値が大きく、全抵抗も1.4Ωcmを超えるため、空気極中間層の組成としては不適であることが確認された。
【0043】
また、表3からわかるように、空気極中間層が複層構造を有する構成において、第2空気極中間層の膜厚がそれぞれ1μm及び20μmであり、第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が、1:2〜10:1の範囲内である実施例24及び25については、オーム抵抗の計測値、界面抵抗の計測値、及びこれらの合計である全抵抗が十分に小さく、空気極の組成として適することが確認された。これに対し、第2空気極中間層の膜厚がそれぞれ0.5μm及び30μmであり、第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が、1:2〜10:1の範囲外である比較例23及び26では、オーム抵抗の計測値及び界面抵抗の計測値が大きく、全抵抗も1.4Ωcmを超えるため、空気極中間層の組成としては不適であることが確認された。
【0044】
上述の試験3の結果より、空気極中間層を複層構造にした場合においても、第1空気極中間層は30〜95mol%のSm0.2Ce0.8と5〜70mol%のSmMnOとを含有する組成を有することが望ましいことが確認された。また、空気極中間層を複層構造にした場合、第1空気極中間層の膜厚と第2空気極中間層の膜厚との比が1:2〜10:1の範囲内であることが望ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0045】
1 固体電解質燃料電池
10 単素子
12 基体
14 燃料極
16 固体電解質膜
20 素子間部
30 空気極
31 空気極中間層
32 第1空気極中間層
33 第2空気極中間層
34 空気極導電層
41 Pt電極
図1
図2
図3
図4
図5