【実施例】
【0040】
実施例1:希薄電解液の組成
直流0.16A、最大電圧400V及びコーティング時間10分で、選択した電解液の組成中に浸漬した、10cm
2の表面積を有する長方形のマグネシウムプレート上に、コーティングを施した。使用した電解液の組成は以下のとおりである。
電解液Aの組成:リン酸水素二アンモニウム0.13mol/L、アンモニア(25%)1.07mol/L、及び尿素0.50mol/L。
電解液Bの組成:リン酸水素二アンモニウム0.05mol/L、アンモニア(25%)5.36mol/L、及び尿素0.50mol/L。
【0041】
図1は、電解液Aを用いて生成した、粗大気孔を有する、マグネシウムプレート上のコーティングの、塑性変形後のSEM画像である。
図2は、電解液Bを用いて生成した、微細気孔を有する、マグネシウムプレート上のコーティングの、塑性変形後のSEM画像である。これら2つの試料間で他のパラメータが全て同一であったことから、電解液の組成が気孔のサイズに対する主要なパラメータであった。
【0042】
気孔のサイズ及び分布は、インプラントの破損挙動にとって重要な場合がある。塑性変形及び弾性引張の後では、粗大気孔を有する試料(
図1)には、割れ目がより細くかつ均一に分布していた微細気孔を有する試料(
図2)よりも、幅広な割れ目が見られた。腐食が、粗大な気孔に、より局在化して起こる場合があり、それらの粗大な気孔が応力集中部として機能しているものと推測される。
【0043】
実施例2:インビボでの分解
実験:
全ての動物実験は、スイス動物保護法に従って行われた。この予備研究では、それぞれ30〜36月齢で、かつ平均体重53±7kgの骨格的に成熟したミニブタを14頭使用した。
【0044】
眼窩下部の約2cm下から11〜12cm長の中央の切れ目が始まる、T字状の切り込みによって、ミニブタの顔面の中程にアプローチした。前頭骨を露出させた後、2枚の長方形プレートを収容するのに十分大きく、及び鼻骨の直線部分を有効に利用するために十分に深い、軟組織のポケットがラスプ(rasp)で作製された。そのため、プレートを予め曲げておくことを回避できた。
図3は、本実施例による、ブタ頭蓋骨12上における埋め込み後のプレート10a及び10bの位置を示す。それぞれのミニブタには、2枚のコーティングしたマグネシウムプレート又は2枚のコーティングしていないマグネシウムプレートのいずれかを埋め込んだ。コーティングされたプレートには、後述の実施例3に従ってコーティングを行った。
【0045】
手術後の頭部X線写真に加えて、1、4、8、及び12週間時点の中間のX線写真(Philips BVPulsera)も撮影された。
図7は、ミニブタに埋め込んだコーティングしていないマグネシウムプレートの、1週間後のX線画像を示す。
図8は、ミニブタに埋め込んだコーティングしたマグネシウムプレートの、12週間時点での安楽死前のX線画像を示す。これらの動物は12又は24週間後に屠殺した。安楽死後、コンピューターX線断層撮影(CT)を行った。鼻の長軸に沿って、約10cm長の中央の切り込みを入れ、インプラントを取り除いた。インプラント床のpHを、使用前に蒸留水で濡らした、pH感受性ストリップ(Merck 1.09557.0003、pH 6.4〜8.0)を用いて判定した。取り除いたプレートを、密封したガラス瓶内の70%エタノール中で保存した。機械的試験場へ輸送した後、マグネシウムプレートをガラス瓶から取り出し、ペーパータオルで軽くたたくように拭き、空気乾燥させた。
【0046】
THERMO Scientific製ultra dry EDX detectorを用い、Zeiss EVO60走査電子顕微鏡(SEM)にて、エネルギー分散形X線分光法(EDX)による測定が行われた。測定したスペクトルを、C、O、Mg、P、Ca、Y、Zr、Nd、Gd、Dy、Er、Yb、Na及びK元素を対象に分析した。塩素(Cl)は、スペクトルのいずれにも検出できなかったため、分析から除外した。EDXスペクトルを判定するためそれぞれの試料について、約100μm×100μmの領域を3か所測定した。ネイルブラシを用いて分解生成物を除去した後、重量減少を判定した。加えて、プレートを、A.Krause et al.(「Degradation behavior and mechanical properties of magnesium implants in rabbit tibiae」Journal of Materials Science 2010,45,624〜632、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)で記載されているように、少なくとも5分間、40%のフッ化水素酸中に浸漬してから、蒸留水及びエタノールで洗浄し、送風機で乾燥させた。
【0047】
結果:
気泡の発生を、インビボの分解の指標として使用することができた。マグネシウムプレートの露出面が非常に広かったため(2×9cm
2)、一日あたり0.3mL/cm
2のインビトロのガス放出速度を用いた場合、一日あたり約5mLの放出が予想できた。これだけの量のガスを運び去ることができなかった場合、プレート表面上の厚い柔組織内に気泡が形成されるであろう。気泡の発生及び長方形プレートの保全性を確認するために、中間のX線写真を使用した。コーティングしていないプレートでは、1週間後には、ほとんどの動物で、気泡を観察することができた。ある1頭の動物の場合、観察された大きな気泡は4週間で消滅した。コーティングしたプレートでは、気泡の発生が遅延した。ガスポケットの最初の兆候は、大抵ネジ穴の周囲で発生し、4週間で出現が始まった。コントロールのチタンプレートの周囲に組織の緩みの兆候を見つけることはできなかった。付加的なCT画像により、安楽死後及び前記プレートを取り除く前の状態が示される。取り外しの際、プレートはさほど腐食されていないようであった。24週で取り外されたプレートは12週におけるプレートより、より広い領域で白色の腐食生成物が見られた。プレートの両面の腐食は同程度ではなく、柔組織に接触していた上面側は、前頭骨と接触していた底面側よりも、より腐食しているようであった。骨に水平方向の段差が形成されたようであったため、プレートは周囲の組織とよく融合したようであった。それぞれの24週群のうちの1頭の動物において、プレートを取り除いた後、インプラント床のpHを判定した。チタンの基準試料と比較して、コーティングした群及び、コーティングしていない群に、pHの違いは見られなかった。典型的には、pH値は7.0〜7.2であった。インビトロな条件と比較して、白色のエナメル状の分解生成物はより密集しており、より付着力があるようであった。結果として、ブラシによる分解生成物の除去は十分ではなく、完全な重量減少を判定するため、追加してフッ化水素酸浴を用いた。どちらの種類のプレートも、平均重量減少は、12週間後で約5〜6%であり、24週間後では13〜14%に増加した。ブラシによる除去に先立った、インビボの分解生成物のEDX分析の結果から、コーティングされたマグネシウムプレートについて、腐食金属のミリグラムあたりの著しく高いカルシウム及びリン含有量が示され、結果を以下の表Iにまとめた。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例3:合金及びコーティング
マグネシウム合金WE43の組成(化学組成:Mg−Y−Nd重希土類)に基づき、新たな合金を開発した。同一ロットからのインプラントを全ての実験で用いた(MI0018Bロット、T5熱処理済、押出形材6.4×19mm)。60mm×6.0mm×1.50mmの長方形プレートを、超硬工具を用いて乾式(w/o潤滑剤)で機械加工した。エッジ部は全て0.5mmのアールで丸めた。全部で36枚のプレートについて試験が行われ、半分のプレートにはコーティングがされず、他の半分にはAHC(Kerpen、Germany)のプラズマ電解コーティングを施した。標準的なMAGOXID(商標)電解液を使用し、コーティングを生成するために、400Vまでで、1.4A/dm
2の直流を印加した。初め、コーティングしていないプレートは940±5mgの重量であった。MAGOXID(商標)コーティングは、10μmの典型的な厚さを有し、15mgの追加的な質量となった。プレートの総表面積は9cm
2である。超音波支援(ultrasound assistance)によりプレートを90〜100%エタノール中で洗浄してから、空気乾燥し、2枚を対にして二重真空袋内に詰め、25〜30kGyの放射線量でγ線滅菌した。
【0050】
実施例4:インビトロでの浸漬試験
実験:
コーティングした試料及びコーティングしていない試料に対して、それぞれ、250mLの擬似体液(SBF)が入った別々の浸漬ユニットの内部で試験を行った。コーティングした試料は、上述した実施例3に従って用意された。浸漬ユニットは、内径が25mmで長さが240mmの目盛りの付いたガラスシリンダ、及び250mLのプラスチック瓶からなる。それぞれのマグネシウム試料をガラスシリンダの内部に入れてから、ガラスシリンダをSBFで満たした。プラスチック瓶を、ガラスシリンダの上に、上下逆さまにして被せた。シリンダ/瓶組立体を素早く傾けて、液体が流れ出ることを防ぎ、残ったSBFは瓶とガラスシリンダとの間の隙間に注いだ。最後に、瓶の蓋(33mmの孔を有する)を、組立体を固定するために、ガラスシリンダの上へスライドさせた。瓶を、37℃に調節された水槽内に入れた。
【0051】
擬似体液は、L.Muller and F.A.Muller[「Preparation of SBF with different HCO
3−content and its influence on the composition of biomimetic apatites」Acta Biomaterialia 2(2006)181〜9、その全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする]に記載されているような、原液から、トリスバッファ、及びHCO
3−含有量が27mmol/Lとなる製法を用いて調製した。細菌の増殖が見られないことから、また、媒質へN
2が放出されることを回避できることから、NaN
3の添加は省略した。媒質は1週間に1度取り換えた。インビトロの分解試験とインビボの分解試験とでは、同一の材料ロット、コーティング及び形状を使用した。これらの試料を4、8及び12週間浸漬した。ガス放出は、約±1mLの精度の、段階分けされたガラスシリンダに対して、通常の目視検査を行って判定した。平均質量減少は、浸漬期間の終了の際に、一般的なネイルブラシで腐食生成物を除去することによって判定した。
【0052】
結果:
SBF中での浸漬中の平均ガス放出を
図5で見ることができる。
図5は、SBFに12週間まで浸漬した、コーティングした長方形プレート、及びコーティングしていない長方形プレートの平均ガス放出速度を表すグラフを示す(データポイント毎に6試験の平均)。コーティングしていない試料は、浸漬の直後にガス放出が始まった。初期的なガス放出速度は、初めの2、3日の間で最も高く(一日あたり>1mL/cm
2)、その後、一日あたり約0.3mL/cm
2で安定した。一方で、コーティングした試料は、初めの2週間、ほとんどガス放出を示さなかった。その後、ガス放出速度は増加を始め、一日あたり約0.2mL/cm
2で安定した。コーティングしていないマグネシウム試料の分解は、浸漬時間全体を通して一定であった。12週間時点でのコーティングしたマグネシウム試料には多少の局所的な腐食が発生しているようであったが、これは65日目前後(9〜10週間)でガス放出速度がわずかに増加したことと関連する可能性がある。SBFに12週間まで浸漬した、コーティングしたプレート及びコーティングしていないプレート(データポイント毎に6試験の平均)の重量減少の関数として、ガス放出を表したグラフである、
図6で示されているように、試料の質量減少(パウダー状の白色の腐食生成物をブラシで除去することにより判定された)は、観測されたガス放出と関連を有すると考えられる。コーティングしていない試料については、腐食反応全体から理論的に予想されるように、腐食マグネシウム1mgにつき、約1mLのガスが放出されている。しかしながら、コーティングしたマグネシウムについては、予想されたよりもガスの放出は少なく、約0.6mLのガスが回収できただけであった。
【0053】
実施例5:機械的試験
実験:
小型のZwick/Roell製万能試験機(BZ2.5/TN1S型)をISO EN 178に従った試験装置と共に用いて、実施例2及び4の、インビボで分解された試料、及びインビトロで分解された試料の3点曲げ試験を行った。
図4は、2つの支持用ブラケット22a及び22bの上に位置決めされ、下方へ移動するプランジャ24によって曲げられている、試料20を示す3点曲げ試験を表す図である。全てのプレートに対して、間隔は40mmとした。支持用ブラケットのアールは2mmである。プランジャの直径は4mmであり、1mm/分の速度で下方へ移動させた。10mm変位した後、試験を終了した。力は、±0.5%の精度で記録された(2kNフォースゲージ)。
【0054】
結果:
測定した最大の曲げ力、曲げ応力、降伏強度、及び曲げ弾性率について、コーティングしていないインプラントは以下の表IIに、コーティングしたインプラントは以下の表IIIに示す。それぞれの値は、インビトロの場合に対しては個々の瓶からの、及びインビボの場合(2枚からなる対)においては3頭の異なる動物からの、6試料の平均である。
図9は、インビトロ及びインビボで分解された、コーティングした又はコーティングしていない長方形プレートに対する、経時的な降伏強度の低下を更に示すグラフである。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
インビボで分解された全てのプレートが、破断することなく最終曲げ位置まで変形できた。インビボ又はインビトロで分解されたプレートについての、これらの3点曲げ試験に加えて、分解されたプレートの寸法の変化によって、正しく強度が測定できるかどうかを確認するために、間隔を40mmに固定した選択的な3点曲げ試験構成で、一連の長方形プレートを用いた検証を行った。プレートの厚さと幅を0.2mm刻みで、厚さ0.5mm及び幅5.0mmまで減少させることにより、均一な分解を「シミュレーション」した。理論上は、曲げ力Fは、次のように、厚さdと幅bに依存することが予想される。
【数1】
Lは間隔、σ
bは曲げ応力
一定な曲げ応力を仮定すると(σ
b=MPa)、測定した最大力(結果は示していない)と理論値とがよく一致した(ΔF≦2N)。この相関は分解されたプレートの芯の厚さを計算するために使用してもよいし、分解の均一性を調査するために使用してもよい。
【0058】
実施例6:陽極酸化
実験:
この実験で用いたWE43合金のマグネシウム製インプラントの表面積は0.1dm
2であった。マグネシウム製インプラントを脱脂し、無菌水に漬けて、すすいだ。WE43合金を、以下の成分からなる水性電解浴で処理した。
【0059】
【表4】
【0060】
マグネシウム製インプラントを、水性電解浴内に吊るし、この正極を直流電源に接続した。また、ステンレス鋼のシートを水性電解浴内に置き、直流電源の陰極に接続した。電流密度は1.4A/dm
2に設定した。マグネシウム製インプラントの「セラミック化」を8分間行った。最終電圧は360Vに設定した。
【0061】
結果:
得られたセラミック層は11μmの厚さを有した。「セラミック化」マグネシウム製インプラントを電解浴から取り出し、無菌、脱イオン水でよくすすぎ、その後、乾燥させた。WE43−マグネシウム製インプラント上に生成したセラミック層の化学分析により、MgO、Mg(OH)
2、並びに少量のMg
3(PO
4)
2、酸化イットリウム及び希土類元素の酸化物が示された。
【0062】
AZ91、AM50、AS41等の鋳造用マグネシウム合金と同様に、WE54、ZK40、ZK、60、AZ31等の他の展伸用マグネシウム合金も同様に、実施例6の手順を用いて、(例えば、カソード材料としてステンレス鋼やプラチナを用いて)セラミック化することができる。
【0063】
実施例7:WE43試料のインビトロでの分解挙動
実験:
擬似体液(SBF)中での浸漬の間の、コーティングしていないWE43マグネシウム合金試料、及びコーティングしたWE43マグネシウム合金試料の、インビトロでの分解挙動が
図10に示されている。3つの異なる電解液由来のコーティングを有するマグネシウムWE43試料は、コーティングしていないWE43合金試料と比較して、水素放出が著しく減少した。3つの電解液には、以下が含まれる。
電解液1:リン酸水素二アンモニウム及びアンモニア
電解液2:リン酸水素二アンモニウム、アンモニア、及び尿素
電解液3:クエン酸、ホウ酸、リン酸、及びアンモニア
【0064】
実施例8:SBF中に浸漬した引張されたWE43試料のガス放出及び強度保持性
実験:
WE43合金の長方形試料(60mm×8.0mm×0.50mm)を、超硬工具を用いて乾式(w/o潤滑剤)で機械加工した。試料の一部分を、AHC(Kerpen、Germany)のプラズマ電解コーティングでコーティングした。プラズマ電解コーティングに使用した電解液の組成は、標準的なMAGOXID(商標)電解液を改変したものである。コーティングを生成するために、400Vまでで、1.4A/dm
2の直流を印加した。他の試料のロットは、リン酸水素二アンモニウム、アンモニア(濃度25体積%)、及び尿素を様々な割合で含む、別々の希薄電解液を使用してコーティングされ、それらの比は以下の表IVに示されている。
【0065】
長方形試料は、両端を直径16mmのシリンダ周りで曲げることにより、手作業で変形させた。曲げの量は、緩和状態での長方形試料の両端間の間隔により定義される。手作業により変形した試料30の例を表す、
図14Aに示されている試料には、約42mmの間隔が適用された。その後、試料の各端を、UHMWPE製の試料ホルダ内の約12mm離間したスロット内に挿入し、曲げられた試料を張力下に置いた。
図14Bは、各端を、試料ホルダ32内のスロット34a及び34b内に挿入した後の、張力下にある例示的な試料30を示す。
【0066】
引張した試料を、実施例4で記載した処理に類似した方法で、250mLのSBFが入った別々の浸漬ユニットの内部に、合計6週間配置することにより、引張した試料の浸漬試験を行った。250mLのSBFは1週間に1度取り換えた。ガスの量は作業日毎に2回記録され、破損の発生は試料ごとに目視で確認された。
【0067】
また、浸漬した試料に対し、ねじ固定手段を備えた試料ホルダを用いて、強度保持試験が行われた(
図15A〜15D)。SBFの週間変動の間、ホルダのねじが緩み、ホルダを超過したばね力を押しピン(
図15Aの矢印で示されている)によって測定した。この手順の間、ホルダから試料を取り外す必要はなかった。(例えば、
図15C及び15Dに示されているように)試料が最終的に破損(破断)したにせよ、試料は6週間SBF中に放置された。
【0068】
結果:
試験を行った全てのコーティングは、基材に対して良好な付着性を有し、試料に大きな塑性変形を適用している間でも剥離することはなかった。塑性変形により、付加的な引張の間拡げられて、腐食性のSBF媒質により多く触れていたコーティングにマイクロクラックが引き起こされた。厳しい試験条件にも関わらず、希薄電解液コーティングした試料のガス放出速度は一日あたり約0.2mL/cm
2〜一日あたり約0.4mL/cm
2であり、一日あたり約0.4mL/cm
2〜一日あたり約0.6mL/cm
2であるコーティングしていない基材の値を概して下回ることがわかった。張力下でSBFに浸漬した、希薄電解液コーティングした長方形試料の経時的な平均積算ガス放出を
図11のグラフに示す。希薄電解液コーティングした試料の強度保持測定は浸漬時間の関数としての残存曲げ力を表すグラフである、
図12に示されている。
【0069】
SBFに浸漬中の、引張された長方形試料の破損時間は、種々のコーティング間の違いを示す
図13の箱ひげ図に示されている。5枚のコーティングしていない試料のうちの4枚が32日の浸漬の後に破損した。希薄電解液コーティングした標本は、より大きな程度のばらつきを示し、破損することなく42日の浸漬に耐えた試料がある一方で、コーティングしていない試料より先に破損したものもあった。コーティングした試料にのみ適用された、強度保持(残存曲げ力)試験によって、コーティングしていない試料と比較して、コーティングした試料の破損が加速されたのかもしれない。更に、試料を曲げる、又は引張するために加えた手作業による力のばらつきが、この広く分散した結果に寄与しているのかもしれない。希薄電解液コーティングした試料の破損時間及びガス放出速度の更なるデータを、以下の表IVに示す。
【0070】
【表5】
【0071】
様々な変更、代用、及び修正が、添付の特許請求の範囲で定義する本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解されたい。特定の実施形態に属する本明細書において特定される個々の要素が、本発明の他の実施形態に含まれてもよいことも同様に理解されたい。更に、本願の範囲は、本明細書に記載したプロセス、機械、製造法、物質組成、手段、方法、及び工程の特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者は上の本開示から容易に理解することが推察されるように、本明細書において説明される対応する実施形態と実質的に同じ機能を実施するか、又は実質的に同じ結果を達成する、現在存在するか、又は後に開発される、プロセス、機械、製造法、物質組成、手段、方法、又は工程が、本発明に従って利用され得る。
【0072】
〔実施の態様〕
(1) マグネシウム及びその合金上にセラミック層を生成する方法であって、
インプラント及び金属シートを水性電解浴中に浸漬する工程であって、前記水性電解浴が、アンモニア、リン酸水素二アンモニウム及び尿素から本質的になり、前記インプラントが、マグネシウム又はその合金で作製されている、工程と、
前記インプラントと前記金属シートとの間を、前記水性電解浴を通じて通電させることにより陽極酸化を行う工程であって、前記インプラントが、電流源の陽極に接続され、前記金属シートが、前記電流源の陰極に接続される、工程と、
前記インプラント上で火花を形成するように選択される電流密度を印加することにより、前記インプラント上にセラミック層を形成する工程と、を含む、方法。
(2) 25体積%のアンモニアの濃度が1.0mol/L〜6.0mol/Lであり、リン酸水素二アンモニウムの濃度が0.05mol/L〜0.2mol/Lであり、尿素の濃度が0.01mol/L〜1.0mol/Lである、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記水性電解浴が、10.3〜11.6のpH値、及び18℃〜22℃の温度を有する、実施態様1又は2に記載の方法。
(4) 前記電流密度が少なくとも1A/dm
2である、実施態様1〜3のいずれかに記載の方法。
(5) 前記電流密度が1A/dm
2〜3A/dm
2である、実施態様1〜3のいずれかに記載の方法。
【0073】
(6) コーティングされない表面領域を電気的に絶縁することによって、前記コーティングを前記インプラントに選択的に適用する、実施態様1〜5のいずれかに記載の方法。
(7) 前記水性電解浴中に前記インプラントを浸漬するに先立って、ラッカー、フィルム又は箔等を前記コーティングされない表面領域に適用することにより、前記コーティングされない領域の電気的な絶縁を達成する、実施態様6に記載の方法。
(8) 実施態様1〜7のいずれかに記載の方法により作製されたセラミック層を有するマグネシウム製インプラントであって、前記セラミック層が、酸化物セラミック層、水酸化物セラミック層若しくはリン酸塩セラミック層又はこれらの組み合わせであり、50μmまでの厚さを有する、マグネシウム製インプラント。
(9) 実施態様1〜7のいずれかに記載の方法により作製されたセラミック層を有するマグネシウム製インプラントであって、前記セラミック層が2μm〜20μmの厚さを有する、マグネシウム製インプラント。
(10) 実施態様1〜7のいずれかに記載の方法により作製されたセラミック層を有するマグネシウム製インプラントであって、前記セラミック層が、MgO、Mg(OH)
2、Mg
3(PO
4)
2及びマグネシウムの合金元素の酸化物からなる群から選択される、マグネシウム製インプラント。
【0074】
(11) 実施態様1〜7のいずれかに記載の方法により作製されたセラミック層を有するマグネシウム製インプラントであって、前記セラミック層が、骨組織癒着性を改善し、生体適合性を損なう物質を実質的に含まない、マグネシウム製インプラント。
(12) 実施態様1〜7のいずれかに記載の方法により作製されたセラミック層を有するマグネシウム製インプラントであって、前記セラミック層がアミン分解生成物を含まない、マグネシウム製インプラント。
(13) 生体適合性セラミック層の生体適合性を損なう材料を実質的に含まない、前記生体適合性セラミック層を有するマグネシウム製インプラントであって、前記生体適合性セラミック層は50μmまでの厚さを有し、前記生体適合性セラミック層は、MgO、Mg(OH)
2、Mg
3(PO
4)
2、マグネシウムの合金元素の酸化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を含む、マグネシウム製インプラント。
(14) 前記インプラントが、擬似体液中に浸漬されたとき、前記セラミック層を有さないマグネシウム製インプラントと比較して、水素放出を遅延させ、かつ、減少させる、実施態様8〜13のいずれかに記載のマグネシウム製インプラント。
(15) 前記水素放出を、40日までの浸漬期間にわたり、前記セラミック層を有さないマグネシウム製インプラントと比較して、マグネシウムの腐食質量に関して10%〜50%減少させる、実施態様14に記載のセラミック層を有するマグネシウム製インプラント。