特許第6177931号(P6177931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6177931選択的にマグネシウムイオンを決定するための多層デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6177931
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】選択的にマグネシウムイオンを決定するための多層デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20170731BHJP
【FI】
   G01N21/78 C
【請求項の数】21
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-545102(P2015-545102)
(86)(22)【出願日】2013年11月20日
(65)【公表番号】特表2016-505824(P2016-505824A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】US2013071004
(87)【国際公開番号】WO2014085160
(87)【国際公開日】20140605
【審査請求日】2016年10月27日
(31)【優先権主張番号】13/689,350
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316006336
【氏名又は名称】オプティ・メディカル・システムズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ピーター・チャオクアン
(72)【発明者】
【氏名】ウー・インジ
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−292453(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/085811(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/012867(WO,A1)
【文献】 特開2000−258414(JP,A)
【文献】 特開平10−048193(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/058778(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/83
G01N 31/00−31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的にマグネシウムイオンの存在を測定するためのデバイスであって、
基板と、
マグネシウムイオンに結合することが可能であり、任意に、固体支持体上に固定化される発光団−イオノフォアを含むセンサ層と、
マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの両方の存在下で、優先的に、カルシウムイオンと結合する捕捉層と、を含み、
上記の発光団−イオノフォアは、第1強度で発光し、上記デバイスを、マグネシウムイオンを含む溶液と接触させると、上記の発光団−イオノフォアは、上記の溶液に存在するマグネシウムイオンの濃度に比例する量で上記第1強度とは異なる第2強度で発光
上記の発光団−イオノフォアは、下記式(I)に従う、デバイス。
【化1】
式中、
A、B、及びCは、独立に、水素、−OCHCOOR’、及び−N(CHCOOR’)からなる群から選択され、A、B及びCの1つ以上は、独立に、−OCHCOOR’及び−N(CHCOOR’)からなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
X及びY存在するとき各々の場合のX及びYは、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COOR’からなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
vは、0、1、2、3及び4から選択された整数であり、
Zは、式(a)によって表わされる発光団部分であり、
【化2】
式中、
、R、R、R、R、R、及びRは、独立に、水素、親油性基、親水性基及びポリマーとカップリングするための反応基からなる群から選択され、R、R、R、R、R、及びRの少なくとも1つは、−NH−基であり、Zが−NH−基を通じて−(CXY)−基に結合される。
【請求項2】
上記の発光団−イオノフォアは、マグネシウムに結合することが可能である1つ以上のキレート化部分を有するイオノフォア、及び、発光団部分を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
Zは、一般式(a)を有し、R及びRの一方は、−NHであり、他方は、水素、親油性基、親水性基、及び、ポリマーとカップリングするための反応基からなる群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
上記のセンサ層は、式(II)の発光団−イオノフォアを含む、請求項1に記載のデバイス。
【化3】
式中、
各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
は、(CXY)であり、ここで、nは、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、X及びYが存在するとき各々の場合のX及びYは、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COOR’からなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
はNH又はOであり、
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【請求項5】
上記のセンサ層は、式(III)の発光団−イオノフォアを含む、請求項4に記載のデバイス。
【化4】
式中、
各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンであり、
’’は、−(CHOH)−又は1つの結合であり、
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【請求項6】
上記の基板は、高透明性ポリマーを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
上記の基板は、接着を促進するために前処理された高透明性ポリエステルフィルムを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
上記の捕捉層は、カルシウムイオンとマグネシウムイオンの混合物の存在下で、選択的にカルシウムイオンと結合することが可能である、1つ以上のキレート化部分を有する化合物を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
上記の捕捉層は、1、2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N、N、N’、N’−四酢酸、エチレングリコール四酢酸、シュウ酸ナトリウム、それらの塩及び/又は混合物の群から選択される化合物を含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
上記の捕捉層は、一般式(IV)で表される1、2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N、N、N’、N’−四酢酸の混合物を含む、請求項9に記載のデバイス。
【化5】
式中、Rは、H又は陽イオンから選択される。
【請求項11】
選択的にマグネシウムイオンの存在を測定するためのデバイスであって、
基板と、
マグネシウムイオンに結合することが可能であり、任意に、固体支持体上に固定化される発光団−イオノフォアを含むセンサ層と、
マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの両方の存在下で、優先的に、カルシウムイオンと結合する捕捉層と、を含み、
上記の発光団−イオノフォアは、第1強度で発光し、上記デバイスを、マグネシウムイオンを含む溶液と接触させると、上記の発光団−イオノフォアは、上記の溶液に存在するマグネシウムイオンの濃度に比例する量で上記第1強度とは異なる第2強度で発光し、
上記の発光団−イオノフォアは、2、2’−(4−(3−カルボキシラト−4−(2、7−ジクロロ−6−オキシド−3−オキソ−3H−キサンテン−9−イル)ベンズアミド)−2−(カルボキシラトメトキシ)フェニルアザンジイル)二酢酸カリウム、及びこれらの混合物である、デバイス。
【請求項12】
上記の発光団−イオノフォアは、2、2’−(4−(3−カルボキシラト−4−(2、7−ジクロロ−6−オキシド−3−オキソ−3H−キサンテン−9−イル)ベンズアミド)−2−(カルボキシラトメトキシ)フェニルアザンジイル)二酢酸カリウムである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
一般式(I)の発光団−イオノフォア。
【化6】
式中、
A、B、及びCは、独立に、水素、−OCHCOOR’、及び−N(CHCOOR’)からなる群から選択され、A、B及びCの1つ以上は、独立に、−OCHCOOR’及び−N(CHCOOR’)からなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
X及びY存在するとき各々の場合のX及びYは、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COOR’からなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
vは、0、1、2、3及び4から選択された整数であり、
Zは、式(a)によって表わされる発光団部分であり、
【化7】
式中、
、R、R、R、R、R、及びRは、独立に、水素、親油性基、親水性基及びポリマーとカップリングするための反応基からなる群から選択され、R、R、R、R、R、及びRの少なくとも1つは、−NH−基であり、Zが−NH−基を通じて−(CXY)−基に結合される。
【請求項14】
Zは、一般式(a)を有し、R及びRの一方は、−NHであり、他方は、水素、親油性基、親水性基、及び、ポリマーとカップリングするための反応基からなる群から選択される、請求項13に記載の発光団−イオノフォア。
【請求項15】
上記の発光団−イオノフォアは、式(II)の構造を有する、請求項13に記載の発光団−イオノフォア。
【化8】
式中、
各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンであり、
は、(CXY)であり、ここで、nは、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、X及びYが存在するとき各々の場合のX及びYは、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COOR’からなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
は、NH又はOであり、
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【請求項16】
試料中のマグネシウムイオンの濃度を決定する方法であって、
(a)第1強度を得るために、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンが存在する場合、カルシウムイオンに対する優先的結合親和性を示す化合物、及び、マグネシウムイオンと結合することが可能である発光団−イオノフォアを含む混合物の蛍光放出を測定する工程と、
(b)第1強度が変化するように、工程(a)の上記の混合物を、上記の試料と接触させる工程と、
(c)第2強度を得るために少なくとも1つの蛍光放出の強度を測定する工程と、
(d)部分的には、第1強度と第2強度との差に基づいて、上記の試料中のマグネシウムイオンの濃度を導出する工程と、を含み、
上記の発光団−イオノフォアは、下記式(I)に従う、方法。
【化9】
式中、
A、B、及びCは、独立に、水素、−OCHCOOR’、及び−N(CHCOOR’)からなる群から選択され、A、B及びCの1つ以上は、独立に、−OCHCOOR’及び−N(CHCOOR’)からなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
X及びY存在するとき各々の場合のX及びYは、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COOR’からなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
vは、0、1、2、3及び4から選択された整数であり、
Zは、式(a)によって表わされる発光団部分であり、
【化10】
式中、
、R、R、R、R、R、及びRは、独立に、水素、親油性基、親水性基及びポリマーとカップリングするための反応基からなる群から選択され、R、R、R、R、R、及びRの少なくとも1つは、−NH−基であり、Zが−NH−基を通じて−(CXY)−基に結合される。
【請求項17】
Zは、一般式(a)を有し、R及びRの一方は、−NHであり、他方は、水素、親油性基、親水性基、及び、ポリマーとカップリングするための反応基からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記の発光団−イオノフォアは、式(II)の化合物である、請求項16に記載の方法。
【化11】
式中、
各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンであり、
は、(CXY)であり、ここで、nは、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、X及びYが存在するとき、各々の場合のX及びYは、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COORからなる群から選択され、R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択され、
はNH又はOであり、
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【請求項19】
上記の発光団−イオノフォアは、式(III)の化合物である、請求項16に記載の方法。
【化12】
式中、
各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンであり、
’’は、−(CHOH)−又は1つの結合であり、
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【請求項20】
上記の試料は、体液である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
上記の体液が、全血、血漿、血清、及び尿からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2012年11月29日に出願された米国特許出願第13/689,350号の優先日の利益を主張し、その全体が本明細書に参照として含まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、基板、マグネシウムイオンに結合することができるセンサ層、及び、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの両方の存在下で、優先的にカルシウムイオンと結合する捕捉層を含むデバイスに関する。また、本発明は、試料中のマグネシウムイオンの濃度を決定する方法であって、発光団−イオノフォア(luminoionophore)を、試料中のマグネシウムイオンと接触させ、少なくとも1つの蛍光放出の強度が変化し、蛍光放出の強度の変化に基づいてマグネシウムイオンの濃度を算出する方法に関する。また、本発明は、マグネシウムと結合することができる、発光団部分及びイオノフォア部分を含む、新規発光団−イオノフォアに関する。
【0003】
臨床診断において、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウムなどの生理的陽イオンの正確な測定は、必要不可欠である。伝統的に、イオン選択性電極(ISE)を使用して、血漿又は血清中のこれらのイオンを決定する方法が使用されているが、その利用は非常に面倒で、維持するために費用がかかる。電気化学的測定構造の重大な欠点は、電位と電磁障害に対する感度を基準要素の条件とすることである。
【0004】
その他の酵素法は、陽イオンによるβガラクトシダーゼの活性化に基づいている(ベリー他、クリニカルケミストリ、34/11、1988、2295−2298)。しかし、酵素は、コストが高く、不安定で、臨床検査室における広範囲の応用を困難にする。したがって、体液中のこれらのイオンを臨床的に決定するための実用的かつ安価な比色試薬の開発は、研究の重要な領域として残されている。
【0005】
米国特許第4,367,072号は、イオン結合単位として単純なクラウンエーテルを使用して金属イオンを決定する方法を記載している。しかし、このような結合は、非常に類似した性質を有するイオン、例えば、ナトリウムとカリウム、あるいはマグネシウムとカルシウムを識別するためのインジケータが利用される、臨床応用のような多くの実用的な応用で使用するための十分な特異性を欠いている。
【0006】
米国特許第6,211,359号、同第5,952,491号、及び同第6,171,866号(それぞれは、その全体が本明細書に個別に参考として含まれる)には、それぞれ、カリウム、ナトリウム、及びカルシウムのイオノフォア(ionophore)が報告されている。これらのイオノフォアは、π電子共役窒素を有し、フルオロフォア(fluorophore)又は発光団(luminophore)にカップリングされて、蛍光又は発光の放出を測定することによって各イオンを検出する、フルオロフォアーイオノフォア又は発光団−イオノフォアセンサを作る。すべての3つのイオノフォアは、それぞれ、非常に選択的に、全血中のカリウム、ナトリウム、及びカルシウムを決定することが示されていて(ヒー他、アナリティカルケミストリ、75巻、2003、449−555;及び米国化学会誌、125巻、2003、1468−1469参照)、従ってイオノフォアは生理的pHで効果的であることを示す。しかし、これらの公報には、選択的にマグネシウムと結合するイオノフォアが提供されていない。
【0007】
本発明は、陽イオン選択的イオノフォアに可逆的に結合する陽イオンに基づく発光法、イオノフォア部分と発光団部分との間のいわゆる「PET効果」(光誘起電子移動)によるイオンの決定に関する。同様の方法による、他のイオンの決定は、米国特許第6,211,359号、同第6,171,866号、及び同第5,952,491号に記載されていて、それぞれその全体が本明細書に参考として含まれる。いくつかの例で、陽イオン選択的イオノフォアは、2つ以上の陽イオンに対して選択的であり得るが、イオンが、PET効果を発揮する、イオノフォア及び発光団部分と接触する前に、選択的濾過イオノフォアに接触するように、結合されないイオンについて選択的である、付加的に選択的イオノフォアを提供することにより、1つ以上の陽イオンが、イオノフォア部分に結合されることを防ぐことができる。
【0008】
いわゆる「PET効果」は、光子によって誘発される、電子がイオノフォア部分から発光団部分へ移動することを示し、この移動によって、(相対)発光強度、及び、発光団の発光減衰時間(luminescence decay time)が減少する。しかし、吸収及び放出波長は、基本的に、そのプロセスおいて影響を受けない(J.R.ラコウィッツ、「蛍光分光法におけるトピック(Topics in Fluorescence Spectroscopy)」、4巻、プローブの設計及び化学センシング、プレナム・プレス、ニューヨーク&ロンドン)(1994)。
【0009】
イオンがイオノフォアと結合すると、PET効果が、部分的に又は完全に抑制されて、相対発光強度が増加し、発光団部分の発光減衰時間が増加する。したがって、発光特性、例えば、相対発光強度及び/又は発光減衰時間を測定して、所望のイオンの活量又は濃度を推測することができる。活量は、公知のデバイ・ヒュッケルの式を用いて、濃度と関連させることができる。
【0010】
米国特許第5,516,911号によると、フッ素化BAPTA誘導体に基づく蛍光インジケータが知られている。このようなインジケータは、一般に、ミリモルの範囲のK値を有する。しかしながら、このようなインジケータは、フッ素化BAPTA誘導体を合成することが比較的複雑である。
【0011】
また、BAPTA又はその誘導体に基づく公知のイオノフォアは、水性環境、及び通常の周囲温度で、少し化学的に不安定性を示すことが、既に示されている(例えば、米国特許第4,603,209号、26段、40〜46行参照)。このことは、光学センサが監視目的のために長期間測定で使用される場合、又はセンサの高い貯蔵寿命(耐久性)を必要とする測定状況において、光学センサを用いる決定手順で特に不利な点がある。多くの場合、これらの化合物は、マグネシウム以外の陽イオン(例えば、カルシウム)のK値が、より小さいことを示す。
【0012】
本発明は、従来技術の欠点及び問題を回避し、克服する。本発明は、イオノフォアが、より容易に合成可能であり、電子的に分離された際、適した発光団に共有結合させることができる、マグネシウムイオンを光学的に決定するための発光団−イオノフォア及びデバイスを提供することを目的とする。また、優先的に、代替の競合陽イオン(例えば、カルシウム)と結合するイオノフォアを含むブロッキング層を、発光団−イオノフォアと陽イオン含有溶液との間に設置することができるため、イオノフォアが、マグネシウムイオンに対する高い選択性を発揮する必要はない。
【0013】
また、発光団−イオノフォアは、光学センサで使用するために、化学基によって、親水性ポリマー材料に結合させてもよい。
【0014】
発光団−イオノフォアは、試料の予想pH範囲で固有のpH依存性を示すことなく、例えば、>420nmの波長で、市販のLEDの光によって励起することができる必要がある。また、これら発光団−イオノフォアは、高い周囲温度でも、長期間にわたって水性環境中で化学的に安定する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、基板、マグネシウムイオンに結合することができるセンサ層、及び、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの両方の存在下で、優先的にカルシウムイオンと結合する捕捉層を含むデバイスを提供する。本発明はまた、試料中のマグネシウムイオンの濃度を決定する方法を提供し、この方法では、発光団−イオノフォアを、試料中のマグネシウムイオンと接触させ、少なくとも1つの蛍光放出の強度が変化し、蛍光放出の強度の変化に基づいてマグネシウムイオンの濃度を算出する。また、本発明は、マグネシウムと結合することができる、発光団部分及びイオノフォア部分を含む、新規発光団−イオノフォアに関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一実施形態において、本発明のマグネシウムイオンの存在を選択的に測定するためのデバイスは、基板と、マグネシウムイオンと結合することが可能であり、任意に、固体支持体上に固定化される発光団−イオノフォアを含むセンサ層と、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの両方の存在下で、優先的にカルシウムイオンと結合する捕捉層と、を含み、上記の発光団−イオノフォアは、第1強度で発光し、上記デバイスを、マグネシウムイオンを含む溶液と接触させると、上記の発光団−イオノフォアは、上記の溶液に存在するマグネシウムイオンの濃度に比例する量で第1強度とは異なる第2強度で発光する。
【0017】
いくつかの実施形態において、発光団−イオノフォアは、公知の化合物である。他の実施形態において、発光団−イオノフォアは、本明細書に開示される、新規化合物である。
【0018】
別の実施形態において、本発明の新規発光団−イオノフォアは、式(I)に従う化合物である。
【化1】
式中、
A、B、及びCは、独立に、水素、-OCHCOOR’、及び-N(CHCOOR’)からなる群から選択され、A、B及びCの1つ以上は、独立に、-OCHCOOR’及び-N(CHCOOR’)からなる群から選択され、
R’は、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンからなる群から選択される。
【0019】
X及びYは、存在するそれぞれの場合、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COOR’からなる群から選択される。
【0020】
vは、0、1、2、3及び4から選択された整数である。
【0021】
Zは、発光団部分である。
【0022】
本発明は、試料中のマグネシウムイオンの濃度を決定する方法であって、(a)第1強度を得るために、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンが存在する場合、カルシウムイオンに対する優先的結合親和性を示す化合物、及び、マグネシウムイオンと結合することができる発光団−イオノフォアを含む混合物の蛍光放出を測定する工程と、(b)第1強度が変化するように、工程(a)の上記の混合物を、上記の試料と接触させる工程と、(c)第2強度を得るために少なくとも1つの蛍光放出の強度を測定する工程と、(d)部分的には、第1強度と第2強度との差に基づいて、上記の試料中のマグネシウムイオンの濃度を導出する工程と、を含む方法をさらに提供する。
【0023】
他の実施形態において、本発明の新規発光団−イオノフォアは、式(II)に従う化合物である。
【化2】
式中、
各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、または陽イオンである。
【0024】
は、(CXY)であり、ここで、nは、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、各々の場合のX及びYは、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COORからなる群から選択される。
【0025】
は、NH又はOである。
【0026】
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【0027】
他の実施形態において、本発明の新規発光団−イオノフォアは、式(III)に従う化合物である。
【化3】
式中、各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、又は陽イオンである。
【0028】
’’は、−(CHOH)−又は1つの結合である。
【0029】
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】新規なマグネシウム発光団−イオノフォアのための合成経路を示す。
図2】Mg2+の五つの濃度及びCa2+の2つの濃度でH−バッファを用いたMgセンサの応答を示すグラフである。
図3】Mgセンサで測定された血液試料の比を示す。
図4】本明細書中で具体化されたデバイスの層の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書中で使用される用語は以下の意味を有する。
【0032】
本明細書で使用する用語「アルキル」は、表示された炭素原子数を有する、直鎖又は分枝鎖の、飽和炭化水素を意味する。例えば、(C−C)アルキルは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、及びネオヘキシルを含むことを意味するが、これらに限定されるものではない。アルキル基は、非置換であるか、又は、任意に1つ以上の置換基で置換されることができる。
【0033】
本明細書で使用する用語「アルコキシ」は、表示された炭素原子数を有する−O−アルキル基を意味する。例えば、(C−C)アルコキシ基は、−O−メチル、−O−エチル、−O−プロピル、−O−イソプロピル、−O−ブチル、−O−sec−ブチル、−O−tert−ブチル、−O−ペンチル、−O−イソペンチル、−O−ネオペンチル、−O−ヘキシル、−O−イソヘキシル、及び−O−ネオヘキシルを含む。
【0034】
本明細書で使用する用語「ハロゲン」は、−F、−Cl、−Br及び/又は−Iを意味する。
【0035】
本明細書で使用する用語「発光団−イオノフォア」は、少なくとも1つのイオノフォア及び少なくとも1つの発光団を含む化合物を意味する。本明細書で使用されたように、発光団−イオノフォアは、少なくとも1つのイオノフォア及び少なくとも1つのフルオロフォアを含むフルオロイオノフォアを含んでもよい。
【0036】
親油性基の例には、置換(C−C20)アルキル基、置換(C−C20)アルコキシ基、非置換(C−C20)アルキル基、及び非置換(C−C20)アルコキシ基が挙げられる。
【0037】
親水性基の例には、測定溶液のpHで解離されていた、少なくとも1つのヒドロキシル基及び/又は官能基を有する(C−C17)アルキル基が挙げられる。このような官能基の例には、カルボン酸、スルホン酸、及びリン酸が挙げられる。
【0038】
アミノ官能化されたポリマー、例えば、アミノセルロース及びアミノ官能性ポリアクリルアミドとカップリングするための反応基の例は、例えば、米国特許第4,774,339号、表4で知られていて、これは本明細書に参照として含まれる。
【0039】
発光団部分又は発光団は、イオノフォア部分と組み合わせて、PET効果を得ることができる、任意の部分でもよい。多数の発光団部分は、イオノフォアと組み合わせて、PET効果を与えるか、又は、原理的には、その目的に適していることが、文献から知られている。更なる発光団部分の例には、発光金属配位子錯体が挙げられる。発光長寿命遷移金属配位子錯体は、2、2’−ビピリジン、1、10−フェナントロリン、及び4、7−ジフェニル−1、20−フェナントロリンの群から選択されたα−ジイミン配位子を有し、このような配位子は、例えば、ルテニウム(II)、オスミウム(II)、イリジウム(III)及びロジウム(III)からなる群の中心原子を含む。
【0040】
Mg色素又はマグネシウム色素は、マグネシウムに対する結合親和性を示し、本発明の実施形態のデバイスに組み込まれるか、又は組み込まれてもよい、発光団−イオノフォアを指すことができる。
【0041】
以下の略語が本明細書中で使用され、次のように定義される。NMR:核磁気共鳴、THF:テトラヒドロフラン、TLC:薄層クロマトグラフィー、EA:酢酸エチル、DBU:1、8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、Boc:tert−ブチルオキシカルボニル、NMP:N−メチル−2−ピロリドン、TFA:トリフルオロ酢酸、DMAP:4−ジメチルアミノピリジン、DIPEA:N、N−ジイソプロピルエチルアミン、MTBE:メチルtert−ブチルエーテル、NMP:N−メチル−2−ピロリドン。
[本発明のデバイス]
【0042】
本発明は、基板、マグネシウムイオンに結合されることができるセンサ層、及び、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの両方の存在下で、優先的にカルシウムイオンと結合する捕捉層を含むデバイスを提供する。
【0043】
基板は、その上へのデバイスの他の層の蒸着を助けるのに適している固体材料を含む。いくつかの実施形態において、基板は、センサ層によって放出された少なくとも1つの蛍光スペクトルに対して不透明ではない。いくつかの実施形態において、基板は、高透明性ポリマー、例えば、メリネックス(登録商標)505の商標で販売されているポリマーを含むことができる。いくつかの実施形態において、基板は、デバイスの更なる少なくとも1つの層(例えばセンサ層)の接着を促進するために前処理される。前処理には、基板とセンサ層との良好な接着のために、これらの間にD4ヒドロゲル層を適用する工程を含んでもよい。
【0044】
マグネシウムイオンと結合することができるセンサ層は、マグネシウムイオンと接触されたときのスペクトル発光の変化を提供する少なくとも1つの化合物を含む。この化合物は、イオノフォア部分がマグネシウムイオンと結合する発光団−イオノフォアであってもよい。いくつかの実施形態において、センサ層は、マグネシウムイオンに対する高い親和性を示し、マグネシウムイオンと接触されたとき、蛍光放出強度の増加を示す公知の化合物を含む。一実施形態において、センサ層は、公知の化合物の2、2’(4−(3−カルボキシラト−4−(2、7−ジクロロ−6−オキシド−3−オキソ−3H−キサンテン−9−イル)ベンズアミド)−2(カルボキシラトメトキシ)フェニルアザンジイル)二酢酸を含み、これは、商標であるマグネシウムグリーン(商標)、又はマグ‐フラ−2(商標)、マグ‐インド−1(商標)、及び、マグ−フルオ−4(商標)として販売されている。他の実施形態において、センサ層は、本明細書に開示された式の発光団−イオノフォアを含む。例えば、センサ層は、式(I)、式(II)、及び/又は式(III)から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0045】
センサ層は、基板上の蒸着を助けるために発光団−イオノフォアと共に、化合物を含んでもよい。一実施形態において、センサ層の発光団−イオノフォアは、基板上に直接蒸着される。別の実施形態において、センサ層の発光団−イオノフォアは、アミノ官能化ポリマーのような固体支持体に共有結合された後、基板上に蒸着させることができる。非限定的な例として、固体支持体は、アミノセルロース、及びアミノ官能性ポリアクリルアミドのように当該技術分野で知られている材料であってもよい。例示の実施形態において、固体支持体は、3−アミノ−2−ヒドロキシプロピルセルロース(AHPC)繊維を含む。いくつかの実施形態において、結合又は非結合発光団−イオノフォアは、基板上の均一な蒸着を助けるために、D4又はD6ヒドロゲルなどの公知の化合物中に分散されてもよい。
【0046】
具現化されたデバイスの捕捉層は、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの両方の存在下で、優先的にカルシウムイオンと結合する。層は、マグネシウムイオンとの解離定数(K)よりも小さい、カルシウムイオンとの解離定数(K)を示す少なくとも1つの化合物を優先的に含み、さらに、デバイスに組み込まれた場合、構造的安定性及びカルシウムイオンの高速の錯化反応速度を有する。いくつかの実施形態において、捕捉層は、BAPTA又は既知BAPTA、EGTA(エチレングリコール4酢酸)、シュウ酸ナトリウムのようなシュウ酸誘導体、又はホモログを含む。
【0047】
具現化されたデバイスは、任意に更なる1つ以上の層を含んでもよい。いくつかの実施形態において、デバイスは、更なる不透明な光学分離層(例えば、カーボンブラック)を含む。いくつかの実施形態において、更なる光学分離層は、カーボンブラックのような光学分離基板を含む捕捉層が一回のみ蒸着されるように、捕捉層に組み込まれる。いくつかの実施形態において、更なる、光学分離層のような層は、例えば、D4又はD6ヒドロゲルなどの、基板上の蒸着を助けるために、化合物中に分散されてもよい。
【0048】
このような層の蒸着後、デバイスは、室温で貯蔵されているか、又は硬化されるため、一般的に水を除去して、水蒸気による汚染を防止した後、室温未満の温度で貯蔵することに適する。
【0049】
別の実施形態において、デバイスは、公知の薬学的デバイス(例えば、オプティライオン(OPTi LION)カセット)に組み込まれている。
[本発明の化合物]
【0050】
本発明は、「発光団−イオノフォア」という式(I)の新規化合物を提供する。
【化4】
式中、A、B、C、X、Y、v及びZは上記に定義されている。
【0051】
いくつかの実施形態において、本発明の発光団−イオノフォアは、その発光特性を、マグネシウムイオン及び発光団−イオノフォアを含む混合物中に存在するマグネシウムイオンの濃度に比例する量で、変化させ、この発光特性には、相対的発光強度、時間依存の発光強度、又は位相シフトが挙げられる
【0052】
いくつかの実施形態において、式(I)中の発光団−イオノフォア部分Zは、下記に記載された、式(a)、(b)及び(c)からなる群から選択される。
【0053】
いくつかの実施形態において、Zは、式(a)の基であり、
【化5】
、R、R、R、R、R、及びRは、独立に、水素、親油性基、親水性基及びポリマーとカップリングするための反応基からなる群から選択され、R、R、R、R、R、及びRの少なくとも1つは、Zが−(CXY)−基に結合される、−NH−基である。
【0054】
他の実施形態において、Zは、式(b)の基であり、
【化6】
10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、独立に、−OH、−OR18、及び−(CH−COOHからなる群から選択され、ここで、R18は、親水性基、親油性基、−O−R19−Gからなる群から選択され、R19は、親水性基、又は、親油性基であり、Gは、ポリマーとカップリングするための反応基であり、wは、0と17との間の整数であり、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17の少なくとも1つは、Zが、イオノフォア部分に直接結合される、1つの結合を表す。
【0055】
他の実施形態において、Zは、式(c)の基であることができる。
【化7】
式中、R20、R21、R22、R23、R24、R25及びR26は、独立に、水素、親油性基、親水性基、及びポリマー又は生体分子とカップリングするための反応基からなる群から選択され、R21は、R22と一緒に、芳香族環系を形成してもよく、R25は、R26と一緒に、任意に芳香族環系を形成し、R20、R21、R22、R23、R24、R25及びR26の少なくとも1つは、Zが−(CXY)−基に結合される、1つの化学結合を表す。
【0056】
式(c)において、R21は、R22と一緒に芳香族環系を形成してもよく、R25は、R26と一緒に芳香族環系を形成してもよい。
【0057】
式(c)において、R20、R21、R22、R23、R24、R25及びR26の少なくとも1つは、Zが−(CXY)−基に結合される、1つの化学結合を表す。
【0058】
他の実施形態において、Zは、一般式(a)を有し、R及びRの一方が、−NHであり、他方は、水素、親油性基、親水性基、及びポリマーとカップリングするための反応基からなる群から選択される。
【0059】
さらに他の実施形態において、Zは、一般式(b)を有し、R14は1つの結合である。
【0060】
いくつかの実施形態において、Zは、一般式(c)を有し、R23は1つの結合であり、R22及びR24は、独立に、水素又はメチルである。
【0061】
いくつかの実施形態において、発光団−イオノフォアは、式(II)の化合物である。
【化8】
式中、各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、及び陽イオンであり、Aは、(CXY)であり、ここで、nは、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、各々の場合のX及びYは、独立に、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、エトキシ、メトキシ、アミン及び−COORからなる群から選択される。
【0062】
は、NH又はOである。
【0063】
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【0064】
いくつかの実施形態において、発光団−イオノフォアは、式(III)の化合物である。
【化9】
式中各々の場合のRは、独立に、水素、C−C12−アルキル、又は陽イオンである。
【0065】
’’は、−(CHOH)−又は1つの結合である。
【0066】
Qは、水素、C−C12−アルキル、陽イオン又は固体支持体である。
【0067】
式(II)及び式(III)の化合物の具体例は、以下に提供される。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0068】
Boc保護基は、ポリマー支持体に化合物を固定又は固着するために除去することができること、又は、イオノフォアの酸のアルキル基及び/又はヒドロキシル基は、脱保護又は脱プロトン化され、マグネシウムのような陽イオンにキレート化されることができることが、当業者によって認識される。
[本発明の方法]
【0069】
また、本発明は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを含む試料中のマグネシウムイオンを決定する方法を提供する。一実施形態において、試料中にマグネシウムイオンの濃度を決定する方法は、(a)第1強度を得るために、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンが存在する場合、カルシウムイオンに対する優先的結合親和性を示す化合物、及び、マグネシウムイオンと結合することができる発光団−イオノフォアを含む混合物の蛍光放出を測定する工程と、(b)第1強度が変化するように、(a)工程の上記の混合物を、上記の試料と接触させる工程と、(c)第2強度を得るために少なくとも1つの蛍光放出の強度を測定する工程と、(d)部分的には、第1強度と第2強度との差に基づいて、上記の試料中のマグネシウムイオンの濃度を導出する工程と、を含む。
【0070】
いくつかの実施形態において、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを含む試料中のマグネシウムイオンの決定方法は、本明細書に具現化されたデバイスを、マグネシウム及びカルシウムイオンを含む水溶液、例えば、緩衝溶液、及び/又は、体液(例えば、全血、血漿、血清、及び/又は尿)と、接触させる工程を含む。別の実施形態において、本発明は、本明細書に具現化された、式(I)に従う発光団−イオノフォアを含むデバイス、及びマグネシウムイオン、カルシウムイオンを含む試料中のマグネシウムイオンを決定する方法を提供する。
【0071】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に具現化された、式(II)に従う発光団−イオノフォアを含むデバイス、及びマグネシウムイオン、カルシウムイオンを含む試料中のマグネシウムイオンを決定する方法を提供する。
【0072】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に具現化された、式(III)に従う発光団−イオノフォアを含むデバイス、及びマグネシウムイオン、カルシウムイオンを含む試料中のマグネシウムイオンを決定する方法を提供する。
【0073】
さらに別の実施形態において、本発明は、本明細書に具現化された、例えばマグネシウムグリーンのよう公知の発光団−イオノフォアを含むデバイス、及びマグネシウムイオン、カルシウムイオンを含む試料中のマグネシウムイオンを決定する方法を提供する。
[本発明の化合物の製造]
【0074】
当業者は、特許請求の範囲に示される分子を合成するために利用可能な種々の方法があることを認識する。1つの一般的な戦略は、本明細書に概説するが、特許請求の範囲を限定するものではない。
[実施例1]
【0075】
[Mg2合成]
【化14】
【0076】
THF(1L)中のMg1(100g、0.72mol)とPd(OH)/C(10g、10%)との混合物を、16時間、常圧で、50℃で水素化した後、(PdOH)/Cを濾過し、熱THF(200mL)で洗浄し、ろ液を蒸発乾燥して、白色固体としての79gのMg2を得た(収率100%)。
[実施例2]
【0077】
[Mg3合成]
【化15】
【0078】
Mg2(79g、0.72mol)、NaOH(50g、1.25mol)及びクロロ酢酸ナトリウム(313g、2.69mol)を、水(290mL)に溶解し、混合物を90℃に加熱した。水(100mL)中のNaOH(100g、2.5mol)の溶液を30分かけて滴下させて添加した。添加後、この混合物を2時間加熱還流した後、氷浴により15℃に冷却した。この混合物を4N塩酸(約1.1L)でpH=2に酸性化した。この混合物をEA(4×200mL)で抽出し、EA層を合わせ、NaSOで乾燥した後、蒸発乾燥した。残渣をMTBE(250mL)で結晶化して、白色固体として158gのMg3を得た(収率77%)。
[実施例3]
【0079】
[Mg4合成]
【化16】
【0080】
EtOH(2600mL)中のMg3(130g、0.46mol)の混合物に、SOCl(273g、2.29mol)をゆっくりと加えた。添加後、この混合物を還流で一晩加熱した。この混合物を蒸発乾燥した後、残渣をEA(2L)に溶解した。EA層を、飽和NaCO(水溶液)(200mL)、次いで塩水(200mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、蒸発乾燥させ、油として160gのMg4を得た(収率95%)(TLC:石油エーテル:EA=2:1、R=0.3)。
[実施例4]
【0081】
[Mg5合成]
【化17】
【0082】
AcOH(250mL)中のMg4(50g)とウロトロピン(21g)の混合物に、TFA(50ml)を加えた後、この混合物をNガス雰囲気下で、6時間、90℃で撹拌した。溶媒を蒸発させ、残渣をEA(600mL)に溶解した。EA層を、飽和NaCO(水溶液)(100mL)、次いで塩水(50mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、蒸発乾燥させた。残渣をカラムクロマトグラフィーによって分離して、オフ・ホワイトの固体として17gのMg5を得た(収率32%)(TLC:石油エーテル:EA=2:1、R=0.6、Mg4のないTLC上のクリーンスポット)。
[実施例5]
【0083】
[Mg6合成]
【化18】
【0084】
MeNO(30mL)中のMg5(5g、12.64mmol)の混合物に、25℃でDBU(0.2g、1.3mmol)を添加した。添加後、この混合物を30分間撹拌した。過剰MeNOを減圧下で蒸発させた。残渣に100mLのトルエンを添加し、再び蒸発乾燥した。残渣をカラムクロマトグラフィーによって分離して、黄色固体として3.2gのMg6を得た(収率55%)(TLC:石油エーテル:EA=2:1、R=0.3、Mg5のないTLC上のクリーンスポット)。
[実施例6]
【0085】
[Mg7合成]
【化19】
【0086】
EtOH(20mL)中のMg6(1.5g、3.3mmol)、BocO(3.96mmol)、ラネーニッケル(0.5g)の混合物を、15℃未満で、一晩水素化した。触媒を濾過し、残渣を蒸発乾燥し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製して、透明な油として1.5gのMg7を得た(収率86%)(TLC:石油エーテル:EA=1:1、R=0.4、Mg6のないTLC上のクリーンスポット)。
[実施例7]
【0087】
[Mg8合成]
【化20】
【0088】
ジクロロメタン(180mL)中のMg7(18g、34.2mmol)、トリエチルアミン(5.2g、51.3mmol)及びDMAP(0.9g)の溶液に、0℃で無水酢酸(102g、34.2mmol)を加えた。反応混合物を一晩撹拌した。その後、50mLの水でクエンチし、ジクロロメタン(3×200mL)で抽出した。その後、NaSOで乾燥し、蒸発乾燥させた。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製して、透明な油として7.6gのMg8を得た(収率39.2%)(TLC:石油エーテル:EA=2:1、R=0.4、Mg7のないTLC上のクリーンスポット)。
[実施例8]
【0089】
[Mg9合成]
【化21】
【0090】
EtOH(75mL)中のMg8(7.5g、13.2mmol)の溶液を、Pd/C(1.5g)で、一晩水素化した。触媒を濾去し、残渣を蒸発乾燥して、透明な油として6.7gのMg9を得た(収率100%)(TLC:石油エーテル:EA=2:1、R=0.3、Mg8のないTLC上のクリーンスポット)。
[実施例9]
【0091】
[Mg10合成]
【化22】
【0092】
40mLのジクロロメタン中のMg9(6.6g、12.9mmol)及びトリフルオロ酢酸(40mL)の溶液を、一晩攪拌し、蒸発して、5.5gのMg10を得た(Mg9のないTLC上のクリーンスポット)。
[実施例10]
【0093】
[Opti−Target−5合成]
【化23】
【0094】
NMP(33mL)中のMg10(4.4g、8.4mmol)、化合物10A(3.6g、8.4mmol)及びDIPEA(13.3mL)の混合物を、N下で、3日間、100℃で撹拌した。この混合物を、水(10mL)中に注ぎ、EA(3×50mL)で抽出した。合わせたEA層を、飽和NaCO(水溶液)(3×10mL)で洗浄した後、次に塩水(10mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、蒸発乾燥させた。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製して、黄色固体として1.1gのOpti−TARGET−5を得た(収率17%)(TLC:石油エーテル:EA=1:1、R=0.3)。
[発光特性の決定]
【0095】
本発明の文脈で、「発光を測定する」という表現は、発光強度の測定、減衰発光強度の時間分解測定、及び位相変調測定を含む、任意の発光特性の測定を意味する。
【0096】
測定した発光を利用して、試料中のイオンを決定することは、発光強度や発光減衰時間に基づいていることができる。
【0097】
様々な発光団−イオノフォアの発光を測定することにより、イオンを決定する方法は、例えば、米国特許第6,211,359号、同第5,959,491号、同第6,171,866号に記載されていて、各々は、本明細書中に参照として含まれる。
[センサの作製]
【0098】
発光団−イオノフォア(マグネシウム色素)を、3−アミノ−2−ヒドロキシプロピルセルロース(AHPC)繊維に、DCCカップリングにより共有結合させた。次に、繊維は、遊離色素を除去するために洗浄し、次いで乾燥し、25μmの篩にかける。その後、マグネシウム繊維を、D4ヒドロゲルと混合し、均一な分散を得るために、室温(RT)で、少なくとも20時間撹拌し続けた。上塗り懸濁液は、1、2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N、N、N’、N’四ナトリウム塩(BAPTA)及びカーボンブラックを、D6ヒドロゲルと混合し、室温で、少なくとも20時間攪拌して、均一な分散を達成することによって調製した。
【0099】
上塗り懸濁液を、125μmの乾燥厚さを有するポリエステル系メリネックス(登録商標)505のシート上に塗布した。インジケータ懸濁液を、この湿潤厚さが100μmになるように、メリネックス(登録商標)に、均一に塗った。インジケータ層を、この乾燥膜厚が、約7μm乃至8μmとなるように、少なくとも30分間乾燥させて、ヒドロゲル中の水とエタノールを蒸発させた。次に、上塗り懸濁液を、同一の装置を用いて塗布し、少なくとも30分間乾燥させて、約7乃至8μmの乾燥厚さを有する上塗りを形成した。
【0100】
PSA(粘着剤)のシートを、メリネックス(登録商標)505シートの背面に貼った。センサは、その後、メリネックスから打ち抜き、オプティライオンカセットのチャンネル5のウェルに直接設けたあと、センサの背面に接着剤で固定した。次いて、カバーをカセット上に溶接した。その後、カセットを、0.5gの分子篩と共に、袋状に包み、1週間、41℃で焼成した。焼成後、iMgカセットを、試験するまでに、冷蔵庫(約4℃)に貯蔵した。
[試料調製]
[H−バッファの調製]
【0101】
4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)は、両性イオン性有機化学緩衝剤で、12個のグッドの緩衝液の1つであり、HEPESは、主に、生理的pHを一定に維持させるという理由で、細胞培養で広く用いられる。この研究で、HEPES緩衝液は、ストック溶液として、pH7.4で、次のイオン濃度を有するように調製した:[Na]146mM、[K]5mM及び[Cl]104mM。ナトリウム、カリウム、塩化物は、ヒトの血液中の主要なイオンの分析物であり、上記の濃度は、健康な人間における正常な水準である。その後、緩衝液に、0.1mM、0.25mM、0.5mM、1mM及び2mMの一連のMg2+の濃度を得るために、MgClを添加した。五つのバッファは、各々、2つの部分に分離され、一方の部分には、1.2mMのCa2+の濃度に到達するようにCaClを添加し、他方の部分には、0mMのCa2+濃度を維持する。ヒト血液中のCa2+の濃度は、通常、1.2mMである。各種[Mg2+]でのMgセンサの応答は、各センサの感度及び直線性を決定するために測定した。BAPTAの遮断効果は、様々なCa2+の濃度でのMgセンサの応答を比較することにより検討した。
[全血試料]
【0102】
新鮮な全血試料は、健康なヒト被験者から得た。全血試料は、全て、試料中のMg2+の濃度を低下させるためにMg2+を含まないH−緩衝液で希釈するか、又は試料中のMg2+の濃度を高めるためにMgClを添加した。[Mg2+]の4つの水準の試料は、血液試料中のMg2+の濃度に対するMgセンサの応答を観察し証明するために準備した。上記の4つ試料は、各々、2つの部分に分離され、一方の部分には、2.4mMの[Ca2+]に到達するために、その後CaClを添加し、他方の部分はそのまま維持する。したがって、[Ca2+]の2つの水準の試料を調製した。
[試料調製]
【0103】
iMgカセットは、オプティライオン(商標)スタット電解質分析機を用いて試験した。まず、カセットを冷蔵庫から取り出し、少なくとも1時間、室温に温めた。次に、このカセットは、この分析機内に配置し、試料吸引用シッパーをカセット上に取り付けた。この分析機が、青色発光ダイオード(LED)を点灯し、60秒間発光団−イオノフォアの乾燥強度を測定する、試験プログラムを開始した。次に、試料をシッパーに取り付け、分析機内に装着されたペリポンプ(PERIPUMP)は、試料をカセット内に吸引した。試料は、最初に上塗りと接触し、上塗りを通って拡散して、インジケータに到達する。Mg2+は、発光団−イオノフォアを結合し、蛍光のクエンチを「オフ」する。蛍光強度は、発光団−イオノフォアに結合されたMg2+の量に依存する。Mg2+濃度が高いと、より高い蛍光強度が得られる。分析機は、120秒間ウェット強度を測定し、記録する。分析機は、2秒ごとに、1つの強度の測定値を出力する。だから、全体で30個の乾燥強度の測定値であり、60個のウェット強度の測定値が記録される。
[データ分析]
【0104】
測定の結果は、30個の乾燥強度の測定値の後に、60個のウェット強度の測定値を続けて、スプレッドシートに表した。最後の10個の乾燥強度の測定値を平均し、この平均値を、次の計算のために「乾燥強度」として使用した。正規化強度を計算するために、60個のウェット強度を「乾燥強度」で除した。次に、センサの性能評価に用いる湿潤/乾燥比を決定するために、56から64秒までの平均正規化強度を計算した。この比が高いと、試料中のMg2+の濃度が高いことを示している。
[センサの感度及び精度試験]
【0105】
Mgセンサは、前述の手順に従って製造し、各水準で、H−バッファを用いて、10回試験を繰り返した。図1は、[Mg2+]に対して上記データ解析方法に基づいて計算された割合を示した。0.1から2mMまで、異なるMg2+の濃度での比率が、非常に良好に分離されている。一方、R2が0.999である良好な直線性が達成される。[Ca2+]の2水準で、Mgセンサの応答は、非常に類似し、これは、Ca2+の拡散が、BAPTAによって効率的に遮断されることを示唆する。[Mg2+]の5つの水準と[Ca2+]の2つの水準で、H−バッファを用いたMgセンサの応答を示す、図2を参照のこと。
【0106】
変動係数(CV)は、この比の平均を標準偏差で除することによって計算した。小さいCVは、より均一なコーティングと高い精度を意味する。表1は、[Mg2+]の5つの水準と[Ca2+]の2つの水準でH−バッファを用いて測定されたiMgセンサの比のCVを示す。本研究でのすべての10個のCVは、4%未満で、これは、Mgセンサの精度が良好なことを示す。図2には、別のMgとCa2+濃度について湿潤/乾燥強度の比が、プロットされている。
【表1】
[センサ加速貯蔵安定性試験]
【0107】
iMgカセットは、2週間、41℃で貯蔵し、安定性を測定するために、T=0、T=1週間、及びT=2週間で試験した。5つの水準の[Mg2+]と2つの水準の[Ca2+]でのH−バッファが、この実験に使用された。各バッファを用いて、少なくとも5回繰り返した。表2及び表3は、それぞれ、1.2mMのCa2+及び0mMのCa2+でのH−バッファを用いて測定された比を示す。この比の有意差は、T=0、T=1週間及びT=2週間からは観察されなかった。Mg色素及びBAPTAの両方は、貯蔵期間中安定すると判明された。
【表2】
【表3】
*は、全血試料を用いて試験されたiMgセンサ
【0108】
血液試料は、放散タンパク質、ブドウ糖、ミネラルイオン、ホルモン、血小板及び血液細胞などを含んでいて、バッファに比べて相当に複雑な流体を形成する。新鮮な全血試料を、上述の手順に従って調製した。血液試料中のCa2+及びMg2+の濃度は、ノバ(登録商標)クリチィカルケアエクスプレス分析機によって測定した。表4は、ノバ(登録商標)により測定された[Mg2+]及び[Ca2+]を示す。試料1と試料2、試料3と試料4、試料5と試料6、及び試料7と試料8は、試料2、4、6及び8を得るために、CaClを、試料1、3、5、及び7に添加したため、同じ[Mg2+]と異なる[Ca2+]を有するべきである。
【表4】
【0109】
図3は、異なる[Mg2+]で、応答曲線が非常によく分離されたことを示しており、これは、全血試料で測定した場合iMgセンサの良好な感度を示す。また、この結果によると、同じ[Mg2+]と異なる[Ca2+]を有する試料の測定比は、お互い非常に類似することで、BAPTAが、効率的に血液試料中のCa2+を遮断したことを示す。これは、さらに図3に示されていて、図3は、Mgセンサで測定された、血液試料の比を示す。
図1
図2
図3
図4