(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178016
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】向上した耐脱亜鉛性および機械加工性を有する真鍮
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20170731BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20170731BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20170731BHJP
【FI】
C22C9/04
C22F1/08 K
!C22F1/00 611
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630C
!C22F1/00 630D
!C22F1/00 630J
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 681
!C22F1/00 682
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-549434(P2016-549434)
(86)(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公表番号】特表2017-508073(P2017-508073A)
(43)【公表日】2017年3月23日
(86)【国際出願番号】SE2015050103
(87)【国際公開番号】WO2015115989
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】1450094-6
(32)【優先日】2014年1月30日
(33)【優先権主張国】SE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516140801
【氏名又は名称】ノルディック ブラス グスム アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】NORDIC BRASS GUSUM AB
(73)【特許権者】
【識別番号】516227135
【氏名又は名称】アイエムアイ ハイドロニック エンジニアリング アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】IMI HYDRONIC ENGINEERING AB
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マルティンセン メレリド、カトー
【審査官】
田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/065830(WO,A1)
【文献】
特開2011−219857(JP,A)
【文献】
特開昭57−051233(JP,A)
【文献】
特開平07−207387(JP,A)
【文献】
米国特許第3963526(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00− 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
向上した耐脱亜鉛性、機械加工性、および粒間粒界腐食に対する保護作用を有する真鍮合金であって、
a.62〜68重量%のCuと、
b.0.02〜1.00重量%のPbと、
c.0.002〜0.02重量%のAsと、
d.0.01〜0.06重量%のPおよび/または0.01〜0.06重量%のSbと、
e.0.07〜0.12重量%のFeと、
f.0.45〜0.70重量%のAlと、
g.0.013〜0.200重量%のNiと、
h.0.004〜0.100重量%のMnと、
i.0.015〜0.02重量%のSiと、
j.0.0004〜0.0006重量%のBと、
k.残部のZnおよび不可避不純物とを含み、
<5%のβ相を含むことを特徴とする、真鍮合金。
【請求項2】
d.0.02〜0.06重量%のPおよび0.02〜0.06重量%のSb
を含む、請求項1に記載の真鍮合金。
【請求項3】
a.63.0〜64.0重量%のCu
を含む、請求項2に記載の真鍮合金。
【請求項4】
b.0.80〜1.00重量%のPb
を含む、請求項3に記載の真鍮合金。
【請求項5】
d.0.01重量%のPおよび0.02重量%のSb
を含む、請求項1に記載の真鍮合金。
【請求項6】
c.0.01重量%のAsと、
d.0.02重量%のSbと
を含む、請求項1に記載の真鍮合金。
【請求項7】
c.0.01重量%のAsと、
d.0.015重量%のPおよび0.02重量%のSbと
を含む、請求項1に記載の真鍮合金。
【請求項8】
a.63.5重量%のCuと、
b.0.9重量%のPbと、
c.0.002重量%のAsと、
d.0.02〜0.06重量%のPおよび0.02〜0.06重量%のSbと、
e.0.10重量%のFeと、
f.0.50重量%のAlと
を含む、請求項1に記載の真鍮合金。
【請求項9】
d.0.03重量%のPおよび0.03重量%のSb
を含む、請求項8に記載の真鍮合金。
【請求項10】
a.炉内のベース合金にSbおよび/またはPを添加する工程と、
b.工程aで得たスメルトを、型内に流し込む工程と、
c.工程bで得た鋳造真鍮合金を、500℃〜550℃で1〜2時間熱処理する工程とを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の真鍮合金を製造する方法。
【請求項11】
前記真鍮合金を、550℃で2時間熱処理することを特徴とする、請求項10に記載の真鍮合金を製造する方法。
【請求項12】
水と接触する環境における、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の真鍮合金の使用。
【請求項13】
前記環境が、混合栓、バルブ、および継手の形態の、建築設備器具である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の真鍮合金を使用して製造された物品。
【請求項15】
請求項1に記載の真鍮合金を製造する方法において、Pが真鍮合金の切削力を減少させるための合金添加剤として添加される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した耐脱亜鉛性、粒間粒界腐食に対する保護作用、および機械加工性を有する、本質的にヒ素を含まない真鍮合金に関する。
【背景技術】
【0002】
真鍮は、銅(Cu)および亜鉛(Zn)を主要な構成成分とする材料である。鉛(Pb)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)等の異なる合金化材料の添加によって、真鍮に独特の特性を付与することができ、異なる種類の加工処理および最終製品に適合された多くの異なる真鍮合金が存在する。組成および製品に応じて、真鍮は、異なった微細構造構成要素、いわゆる相からなる。真鍮の通常の相は、銅が豊富であるα相および亜鉛が豊富であるβ相である。多くの場合、真鍮はこれら2つの相の混合物からなる。
【0003】
均一な真鍮の組成を有する固溶体は、銅に対して最大約35重量%の亜鉛が添加された場合に形成される。亜鉛の含有量のさらなる増加は、元々の固溶体(α相)と、より高い亜鉛の含有量を有する新しい固溶体(β相)との混合物をもたらす。35〜45重量%の亜鉛を含有する真鍮は、これら2つの相の混合物からなり、α−β真鍮または二重真鍮(duplex brass)と呼ばれ、α相とβ相との間の関係性は主に、亜鉛の含有量に依存する。α−β真鍮中のβ相の存在は、低温での展延性の低下をもたらすが、押出または打抜き、および鋳造による熱間加工に対して、ヒートクラックを伴わない、著しく増加した感受性をもたらす(鉛が存在する場合も)。加えて、α−β合金はより良好な機械的特性を有し、また、より多い割合の亜鉛を含有するため、ある特定の場合においてはα真鍮よりも安価である。しかしながら、α−β真鍮合金は、脱亜鉛作用に対して感受性がより高い。よって、耐脱亜鉛性を有するα−β真鍮合金を製造する必要性が存在する。
【0004】
ある特定の環境においては、特殊合金が使用されねばならない。そのような例は、耐脱亜鉛性が必要とされる場合の、混合栓、バルブ、および継手等の形態の建築設備器具である。脱亜鉛作用はある種の腐食であり、亜鉛が選択的に腐食され、多孔質の銅の構造が残される。耐脱亜鉛性真鍮は、60%超の比較的高いCu含有量を有し、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、またはリン(P)等の阻害剤を含有し、この阻害剤が真鍮のα相を脱亜鉛作用に対して耐性にする。安定化できるのはα相のみのため、銅のより高い含有量によってβ相の含有量を最小限にすることが重要である。しかしながら、結局、ヒ素および60%超の高含有量の銅が使用されている場合でも、β相は残ることが分かった。その結果、代替的な方法で、α−β真鍮合金(≧60重量%のCuを含む)のβ相を最小限にする必要性が存在する。
【0005】
特許文献1によって、5〜20%のβ相を有する真鍮合金は、少なくとも0.02重量%の、As、Sb、またはP等の脱亜鉛作用阻害合金元素の、合金への添加によって得られることが既知である。合金内に自然に存在するβ相の連続的なネットワークは、鋳造真鍮合金を400〜600℃の温度で好適な時間熱処理することによって、ばらばらにされ得る。
【0006】
脱亜鉛作用に加えて、真鍮合金は、粒界に沿って起こる腐食の一形態である、粒間粒界腐食を受ける場合もある。真鍮合金の粒界においては亜鉛の含有量がより高く、粒間粒界腐食は、粒界に沿って存在する亜鉛の部分において腐食する。よって、粒間粒界腐食に対して真鍮合金を保護する必要性もまた存在する。
【0007】
人々は最も多くの場合、飲料水およびある特定の食物を介して無機ヒ素に曝露され、とりわけ魚類および貝類を介して様々な有機ヒ素化合物に曝露される[1−3]。世界的に見られるように、数百万人の人々が、そのように高いヒ素含有量を有する飲料水を使用するため、重大な健康への影響が存在する。バングラデシュ、インド、台湾、ならびに南アフリカの一部および中国の一部が、最も被害を受けている[3]。よって、飲料水と接触する真鍮の合金中において、可能な限りヒ素を用いないようにすることで、飲料水中のヒ素の含有量を低下させる必要性が存在する。
【0008】
米国科学アカデミー(The American Academy of Sciences)は、10μg/lの閾値レベルのヒ素含有量を有する飲料水を1日1l摂取することで、癌の生涯のリスクが、1000人あたり1〜3症例であると推定している。これは、個々の環境要因の許容可能なリスクとしてみなし得る低リスクレベル(およそ、曝露された100000人あたり1症例)を超えている[3]。他の発癌性物質と同様に、健康影響のリスクは、曝露の低下につれて減少する。EU内では、飲料水中のヒ素の閾値は、10μg/lである。
【0009】
スウェーデンでの飲料水中のヒ素の閾値、10μg/lは、癌のリスクに基づくものである[3]。飲料水中の閾値に対応するヒ素の1日の摂取量(年齢、気候、および身体活動に応じて、1日あたり10〜20μg)において、癌の発生の生涯のリスクは、1000人あたり1〜3例と推定されている(0.1〜0.3%)。よって、可能な限りヒ素の摂取量を制限することが望ましい。これは特に子供に当てはまるが、その理由は、実験的研究により、胎児および小さな子供の方が、大人よりも知覚的であることが示されているためである。
【0010】
水道システムにおいて鉛が比較的一般的である国においては、飲料水中の鉛が、高い曝露に寄与している。鉛は、非常に低い用量において既に神経系を損傷し得る[3、4]。未成熟の神経系が特に感受性が高い。血液中の鉛含有量が、健康上のリスクに対して設定される場合がある。ほぼ100μg/l以上の血中鉛含有量において、低下した知的能力、発育遅滞、および行動障害等の症状が、胎児期および幼児の年齢において曝露されていた子供に示される可能性がある。よって、飲料水と接触する真鍮の合金中において、より少ない含有量の鉛を用いることで、飲料水中の鉛の含有量を低下させる必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3963526号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、本質的にヒ素を含まないα−β真鍮合金を提供することである。
目的はさらに、この真鍮合金が、ヒ素を含む、またはヒ素のみを含む真鍮合金よりも向上した耐脱亜鉛性を有することである。
【0013】
目的はさらに、粒間粒界腐食に対して、ヒ素を含む、またはヒ素のみを含む真鍮合金と類似の、またはそれよりも良好な保護作用を有する真鍮合金を提供することである。
目的はさらに、本真鍮合金の鉛含有量が≦1.0重量%、好ましくは≦0.10重量%のPbであるべきことである。
【0014】
目的はさらに、β相の含有量が<5%、好ましくは≦1%であることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によって、独立請求項に見られるように、上述の目的は満たされる。本発明の好適な実施形態は、従属請求項において定義される。
本発明は、向上した(i)耐脱亜鉛性、(ii)機械加工性、および(iii)粒間粒界腐食に対する保護作用を有する、本質的にヒ素を含まないα−β真鍮合金に関する。
【0016】
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、62〜68重量%のCu、0.02〜1.00重量%のPb、<0.02重量%のAs、および/または0.01〜0.06重量%のPおよび/または0.01〜0.06重量%のSb(アンチモン)、ならびに残部のZnを含む。該真鍮合金は、<5%、好ましくは≦1%のβ相を含むことを特徴とする。安定化できるのはα相のみのため、脱亜鉛作用および粒間粒界腐食に対抗するために、β相の含有量を、<5%、好ましくは≦1%のβ相にまで最小限にすることが重要である。
【0017】
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、62〜68重量%のCu、0.02〜1.00重量%のPb、<0.02重量%のAs、および/または0.01〜0.06重量%のPおよび/または0.01〜0.06重量%のSb、ならびに残部のZnを含み、本真鍮合金は、
a.炉内のベース合金にSbおよびPを添加する工程と、
b.スメルトを型内に流し込む工程と、
c.鋳造真鍮合金を、500℃〜550℃で1〜2時間熱処理する工程と
を含む方法によって製造される。
安定化できるのはα相のみのため、脱亜鉛作用および粒間粒界腐食に対抗するために、β相の含有量を最小限にすることが重要である。阻害剤Sbを伴う熱処理はβ相の量を低下させ、ならびに合金添加剤Pが切削力を低下させる。
【0018】
この好ましい実施形態において、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、それを製造する方法(プロダクト・バイ・プロセス)、ならびに合金の他の定量分析で特徴付けられており、これは、合金の技術的特徴を別の方法で定義することが困難であるからであり、すなわち、本合金が向上した(i)耐脱亜鉛性および(ii)粒間粒界腐食に対する保護作用を獲得するのは、部分的には熱処理によるものである。
【0019】
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、63.0〜64.0重量%のCu、0.02〜1.00重量%のPb、および/または0.02〜0.06重量%のP、0.02〜0.06重量%のSb、ならびに残部のZnを含む。いくぶん多い量のPbは、特定の向上した機械加工性をもたらす。
【0020】
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、63.0〜64.0重量%のCu、0.80〜1.00重量%のPb、0.02〜0.06重量%のP、0.02〜0.06重量%のSb、ならびに残部のZnを含む。いくぶん多い量のPbは、特定の向上した機械加工性をもたらす。
【0021】
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金はまた、0.07〜0.12重量%のFe、および0〜0.05重量%または0.45〜0.70重量%のAlも含む。真鍮合金中のFeおよびAlの存在は、ある特定の増加した硬度、強度、および引張強度を必然的に伴う。
【0022】
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、63.5重量%のCuと、35.0重量%のZnと、0.9重量%のPbと、0.10重量%のFeと、0.50重量%のAlと、0.02〜0.06重量%のPと、0.02〜0.06重量%のSbとを含む。FeおよびAl等の合金添加剤は、強度、硬度、および引張強度を向上させる。0.02〜0.06重量%の含有量のPおよびSbは、脱亜鉛作用および粒間粒界腐食に対する保護作用をそれぞれもたらす。
【0023】
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、63.5重量%のCuと、35.0重量%のZnと、0.9重量%のPbと、0.10重量%のFeと、0.50重量%のAlと、0.03重量%のPと、0.03重量%のSbとを含む。0.03重量%の含有量のPおよびSbは、脱亜鉛作用および粒間粒界腐食に対するより良好な保護作用、ならびにおよそ10%低い切削力をそれぞれもたらす。
【0024】
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、0〜0.200重量%のNi、0〜0.100重量%のMn、0〜0.02重量%のSi、0〜0.002重量%のAs、および/または0.0004〜0.0006重量%のB(ボロン)、好ましくは0.0005重量%のBを含む。ニッケルは、展延性への著しい影響を伴わずに、耐腐食性、硬度、および引張強度を向上させ、昇温における向上した特性をもたらす。Mnの存在は、ある特定の増加した硬度、強度、および引張強度を必然的に伴う。Siは、強度、加工性、および耐摩耗性を増加させる。AsおよびBの含有量は、合金中において、不可避不純物の許容可能な含有量である。
【0025】
好ましい実施形態によれば、本真鍮合金は、62〜68重量%のCuと、0.02〜1.00重量%のPbと、0.01重量%のAsと、0.02重量%のSbと、残部のZnとを含む。
【0026】
好ましい実施形態によれば、本真鍮合金は、62〜68重量%のCuと、0.02〜1.00重量%のPbと、0.01重量%のAsと、0.02重量%のSbと、0.015重量%のP、残部のZnとを含む。
【0027】
好ましい実施形態によれば、本出願による本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は:
a.炉内のベース合金にSbおよびPを添加する工程と、
b.スメルトを型内に流し込む工程と、
c.鋳造真鍮合金を、500℃〜550℃で1〜2時間熱処理する工程と
によって製造される。
【0028】
阻害剤Sbおよび/またはAsを伴う熱処理はβ相の量を低下させ、ならびに合金添加剤Pが切削力を低下させる。
好ましい実施形態によれば、本質的にヒ素を含まない本真鍮合金は、550℃で2時間熱処理することによって製造され、この熱処理がβ相の量を<5%、好ましくは≦1%にまで低下させ、ならびに合金添加剤Pが10%低い切削力にまで切削力を低下させる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】鋳造および熱処理両方の試験合金10の微細構造の図。全ての写真は、光学顕微鏡を用いて撮られている。1段目は200倍の倍率であり、2段目は500倍の倍率である。
【
図2】代表的な試験合金に対する腐食の程度を示す、試験プレートの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、向上した(i)耐脱亜鉛性、(ii)機械加工性、および(iii)粒間粒界腐食に対する保護作用を有する、本質的にヒ素を含まない真鍮合金に関し、該真鍮合金は、62〜68重量%のCu、0.02〜1.00重量%のPb、<0.02重量%のAs、0.01〜0.06重量%のPおよび/または0.01〜0.06重量%のSb、ならびに残部のZnを含み、<5%、好ましくは≦1%のβ相を含むことを特徴とする。
【0031】
本発明による真鍮合金はまた、強度、耐摩耗性、および/または引張強度を向上させる目的で、Fe、Al、Ni、Mn、およびSi等の合金添加剤も含み得る。真鍮合金中のFe、MnおよびAlの存在は、ある特定の増加した硬度、強度、および引張強度を必然的に伴う。Siは、真鍮合金の強度および耐摩耗性を増加させる。ニッケルは、展延性への著しい影響を伴わずに、硬度および引張強度を向上させ、昇温における向上した特性をもたらす。B、Bi、Mg、Cr、およびAs等の他の元素もまた、不可避不純物として真鍮合金中に存在し得る。
【0032】
定義「ヒ素を含まない」は、本出願による真鍮合金が、<0.02重量%のAsを含むことを意味する。好ましくは、本真鍮合金は、≦0.02重量%のAsを含み、すなわちAsは、不可避不純物として存在する。
【0033】
本発明による真鍮合金は、
a.所定量のCu、Zn、Pb、ならびに真鍮合金中に含まれるべきFeおよびAl等の他の合金添加剤を場合により含む炉内のベース合金にSbおよびPを添加する工程と、
b.スメルトを型内に流し込む工程と、
c.鋳造真鍮合金を、500℃〜550℃で1〜2時間、好ましくは550℃で2時間熱処理する工程と
を含む方法によって製造される。
【0034】
阻害剤Sbの添加および熱処理により、<5%のβ相、好ましくは≦1%のβ相を含む真鍮合金が得られ、これは向上した耐脱亜鉛性および粒間粒界腐食に対する保護作用をもたらす。本発明はさらに、AlまたはFeの存在下においては、Pは脱亜鉛作用に対する阻害剤としては作用しないが、代わりにPはより低い切削力を結果としてもたらすことを示す。これは予期しない技術的効果である(実施例1を参照)。また、Sbおよび550℃で2時間の熱処理は、連続的でないβ領域を促進し、ひいては粒間粒界腐食に対する保護作用を促進する。
【0035】
以下の実施例は、好ましい実施形態を例証するためにあり、それによって、本発明による特許請求の範囲の保護範囲内に入るα相およびβ相を伴う他の真鍮合金を除外するものではない。実施例はまた、(技術的効果を実証する目的で)異なる組み合わせのAs、Sb、および/またはPを含有する真鍮合金間での比較実験も含む。
【0036】
実施例
ノルディックブラスガサム社(Nordic Brass Gusum(NBG))によって製造されたベース合金
試験合金1〜11を本出願において試験したが、これらは、As、Sb、およびPの含有量が可能な限りゼロに近い、プロトタイプ名752を有するベース合金を用いて生成した。752の化学組成を重量%単位で表1に示し、ここで「NBG標準値」は達成されることが所望されるベース合金の化学組成を示し、一方で「最小値」および「最大値」は許容誤差を示す。また、測定されたベース合金の組成も示す。
【0038】
試験合金1〜11
試験合金を、As、Sb、および/またはPを炉(ライボルト社(Leybold))内のベース合金に添加することによって、2kgのインゴットの形態で生成した。ここでは、合金は、インダクタンスコイル内に配置した坩堝(モーガン・クルーシブル社(Morgan crucible))内で溶融させた。合金は、炉上方の換気装置を用いて空気の存在下で溶融させ、次いで、坩堝をコイルと共に傾けることによって型内にスメルトを流し込んだ。型の寸法は、40×40mm(高さ、300mm)であった。
【0039】
試験した、異なる組み合わせのAs、Sb、および/またはPを伴う試験合金を、表2に示す。
【0041】
試験合金の化学組成を表3に示し、B、Bi、Mg、およびCr等の不可避不純物もまた表中に含まれている。
【0043】
腐食試験
試験合金1〜11を、鋳造試料プレートおよび熱処理試料プレートの両方の形態で、腐食に曝露する。該熱処理は、550℃で2時間行い、炉から取り出した後、試料は水中で迅速に反応停止させた(最大5分間の遅延を伴った)。先に示されているように、熱処理の目的は、試験合金中のβ相を低減することである。
【0044】
熱処理は550℃で2時間行ったが、これは、他の温度および時間間隔(460℃〜550℃で30分〜8時間)での比較実験が、向上した耐脱亜鉛性および粒間粒界腐食に対する保護作用は、550℃で2時間の熱処理の際に得られることを示しているためである。また、実験は、550℃で2時間の熱処理が、連続的でないβ領域を促進し、ひいてはIGAに対する保護作用を促進することも示している。
【0045】
脱亜鉛作用および粒間粒界腐食の試験は、インゴットの真ん中から試料プレートを切り出すことで行った。プレートは、試料をインゴットから切り出し、露出した表面を600メッシュペーパを用いて磨いた事実によって得た。次に、該試料プレートを、ネイルポリッシュを用いて部分的に覆って、露出されていない基準表面を作り出し、これを腐食の深度を決定するのに使用した。
【0046】
試験合金1〜11を、ISO 6509「銅および銅合金−真鍮−脱亜鉛作用の決定」に従って、75±2℃の1%CuCl
2溶液中で24時間、腐食に曝露した。
腐食試験後、試料プレートの摩擦および研磨による金属組織検査のために、ネイルポリッシュの覆いに対して垂直に断面を調製した。200倍および500倍の倍率を用いた測定での光学顕微鏡検査で、腐食を決定した。
【0047】
腐食への曝露前の構造の特徴解析を、腐食した断面上で同様に行った。200個の点に取って代わったグリッドの交点(メッシュ交点)の割合を数えることで、すなわち、グリッドを写真上に置き、次いでα相およびβ相の点の数をそれぞれ数え、%に換算することで、定量した。
【0048】
結果−試験合金のβ相の定量
腐食した断面のβ相の量を決定し、結果を表4に示す。
比較実験は、熱処理が、全ての試験合金においてβ相の量を著しく減少させたことを示す。結果により、5%未満のβ相の値が、連続的なネットワークが形成されている可能性の低さを必然的に伴い、10%超のβ相の含有量が、連続的なネットワークの形成を必然的に伴うことが示される。これは、鋳造および熱処理試験合金10の両方の微細構造を例証している
図1において明らかに示されている。試験結果は、β相を可能な限り減少させるために熱処理が必要であることを強調している。
【0050】
結果−耐脱亜鉛性
試験合金1〜11のCuCl
2曝露の結果を表5に示し、ここでは、腐食がα相および/またはβ相において起こったかどうか、ならびに脱亜鉛作用がどれだけの深度(μm)(AD−脱亜鉛作用の深度)で存在するかが分かる。
図2は、代表的な試験合金に対する腐食の程度を示す、試験プレートの断面図を例証する。
【0051】
先行のセクションの試験は、熱処理が全ての合金に対してβ相の含有量を著しく減少させることを示した(表4を参照)。表5の比較実験は、β相含有量の減少した量が、AsおよびSbを含有する全ての合金において脱亜鉛作用の深度を著しく減少させることを明らかに示す。試験合金1(ベース合金752)と試験合金2、3、6〜10とを比較すると、AsおよびSbがα相の脱亜鉛作用を阻害すると結論付けることも可能である。
【0052】
結果はまた、Pがα相の腐食を阻害するようには作用しないことも示す。反対に、α相の脱亜鉛作用は、熱処理によってβ相が低減した後、より深刻になるようである(合金5の「最大値」の値を比較されたい)。これは、最良の腐食保護作用を達成するための、α相とβ相との間の最適な関係性の必要性を示している。
【0053】
Asを含有するがSbを含有しない真鍮合金と、Sbを含有するがAsを含有しない真鍮合金との比較も興味深く、結果は、Asの存在が粒間粒界腐食を促進するのに対し、Sbは単に小さな全面腐食しかもたらさないことを示す。この検査は、粒界におけるSbのいくらか増加した含有量を実証しており、これが、正に粒界におけるより良好な保護作用をもたらす。これは表5において見られる。Asを含まずにSbを含有する真鍮合金は、Sbを含まずにAsを含有する真鍮合金とは対照的に、いかなる粒界腐食も示していない(表5を参照)。さらに、これもまた非常に少ない含有量でのSbおよびAsの組み合わせが、相乗的に全面腐食および粒界腐食の両方から保護することが実証されている。
【0054】
また、Sbの最低濃度および最高濃度であるそれぞれ0.02重量%および0.06重量%のSbの間では差異が存在するようであり、これは、0.02重量%よりも高い濃度が、Sbの使用の最大効果のためには必要であることを示し得る。合金10における0.03重量%の濃度が、脱亜鉛作用の阻害剤として良好に働くようである。
【0055】
最良の結果は、試験合金7、9、10、および11について得られ、これらは全て≧0.02重量%のSb、または≧0.02重量%のAsおよびSbの組み合わせを含む。
要するに、結果から、(i)熱処理および(ii)AsまたはSbの存在が、耐脱亜鉛性を得るため、ならびに粒間粒界腐食に対抗するために必要であることが示唆される。
【0057】
結果−切削力
試験合金の切削力について行われた分析は、合金10の予期しない技術的効果を示した。合金10は、良好な機械的特性を有し、また合金1よりも10%低い切削力を有した。
【0058】
より高い切削力は、低出力機械において問題をもたらし、これらの問題は、この文脈において、ならびにチップ幅が大きいオペレーションにおいてよく見られるため、より低い切削力を伴うこの合金10はより有利である。そのようなオペレーションの例は、プロファイル工具を用いる旋盤細工法、溝加工および分断加工、ドリル加工、ならびに螺旋切り加工である。精密さおよび精度もまた、より大きな切削力によってネガティブな影響を受ける。
【0059】
本発明による実施形態は、上記の特定の実施例を参照して詳細に説明されてきた。しかしながら、この実施例は、例証的であることのみを意図したものであり、それによって、本発明の保護の範囲を限定するものではない。したがって、上記の実施例に対する変更および修正が、本発明の保護の範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解されたい。それ故に、本発明の保護の範囲は、上記の実施例によってのみ認められるものではなく、むしろ特許請求の範囲によって認められるものであり得る。