特許第6178108号(P6178108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178108
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】シリコーン離型フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20170731BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   B32B27/00 L
   B32B27/00 101
   C04B35/622
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-95273(P2013-95273)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-213590(P2014-213590A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】301020226
【氏名又は名称】帝人フィルムソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】武久 慶太
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/032683(WO,A1)
【文献】 特開昭63−314275(JP,A)
【文献】 特開平08−245887(JP,A)
【文献】 特開2009−263467(JP,A)
【文献】 特開2011−070207(JP,A)
【文献】 特開平08−302196(JP,A)
【文献】 特開2011−206997(JP,A)
【文献】 特開2009−138101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00 − 1/54
B32B 1/00 − 43/00
C04B 35/00 − 35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、アルケニル基含有シリコーンの水分散体、Si−H基で表されるSi原子と直接結合した水素原子を有するシリコーンの水分散体およびアクリル系樹脂の水分散体を含む離型用コーティング組成物を用いて形成される塗布層を有するシリコーン離型フィルムであって、
該アクリル系樹脂は、その主骨格および側鎖にカルボキシル基およびイオン性基を実質的に有さず、固形分含有重量が塗布層全固形分重量に対して1〜50重量%であり、
上記水分散体は、いずれもノニオン性界面活性剤により乳化されている、
シリコーン離型フィルム。
【請求項2】
セラミックグリーンシート成形用である、請求項1に記載のシリコーン離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコーン離型フィルムに関し、さらに詳しくは積層セラミックコンデンサ製造時に使用される薄膜セラミックグリーンシート成形に適した軽剥離性と剥離帯電性とを有し、セラミックグリーンシートの破れや積層の際のずれを防止することができるシリコーン離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの製造には、セラミックグリーンシート(セラミックシートまたはグリーンシートともいう)成形用キャリアフィルムとして離型フィルムが使用される。特に寸法安定性、耐熱性の点で、離型フィルムの基材としてポリエステルフィルムが使用される。近年、積層セラミックコンデンサの小型化・大容量化が進むに伴い、セラミックグリーンシートの厚みも益々薄膜化する傾向にある。
【0003】
セラミックグリーンシートの薄膜化に伴い、乾燥後のシートの厚みが1μm以下という領域になっている。そのため、キャリアフィルムには軽剥離性と適度な剥離帯電性の2点が求められている。前者は、薄膜化によりセラミックグリーンシートの剛性が低くなり、従来の離型フィルムの剥離力ではセラミックグリーンシートを剥離する際に破れが生じてしまうためである。後者は、セラミックグリーンシートの薄膜化に伴う剛性の低下から、キャリアフィルムからセラミックグリーンシートが剥離される際に、剥離帯電に由来するシワや剥離不良が生じ易くなるためである。また、近年生産性向上のためセラミックグリーンシートを剥離し積層する工程のライン速度を増速する傾向にあるため、剥離帯電によるシワや剥離不良の問題がより深刻化している。
【0004】
これに関し、特許文献1には、イオン性帯電防止剤の添加による被着体の剥離帯電圧の低減が提案されているが、一般にイオン性物質を付加硬化型シリコーンシステムに組み込むと白金触媒の触媒毒となり、シリコーンの付加硬化を阻害してしまうため、重剥離化や塗布外観不良および被着体へのシリコーン転写が発生しやすくなる。また、特許文献2には、グリシジル基を架橋性基として有するシリコーンとアクリル酸末端を有するアクリル樹脂との架橋により耐削れ性向上と離型性の両立が提案されているが、離型性が不十分である上、高度な軽剥離性を狙って付加硬化型シリコーン剤を塗布する場合、アクリル酸末端はSi−H基と激しく反応し(アクリルロックアップ現象)、シリコーンの硬化反応を阻害してしまう問題がある。また、特許文献3には、付加硬化型シリコーンの反応性を阻害しないようにπ共役導電性高分子による帯電防止機能の付加が提案されているが、π共役高分子とシリコーンの相溶性が悪いため、帯電防止層と離型層を別々に形成しなければならず、工数とコストの面から不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−44336号公報
【特許文献2】特開平9−123372号公報
【特許文献3】特開2005−153250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
剥離帯電性に関し、本発明者らは、従来のシリコーン離型層から剥離されたセラミックグリーンシートが強く正に帯電することに着目した。そして、かかる剥離帯電を制御するには、帯電列がセラミックグリーンシートと近い素材を離型層に添加すればよいが、本発明者らの検討によれば、一般的な溶剤系塗工では、シリコーン成分と帯電列を調整するための素材との相溶性が非常に乏しく、相分離状態の塗膜となり、軽剥離性と塗布外観および塗液のポットライフの両立が困難となることが分かった。
【0007】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、積層セラミックコンデンサ製造時のキャリアフィルムとしても好適に使用することのできる、特に薄膜セラミックグリーンシート成形に適した軽剥離性と剥離帯電性が良好なシリコーン離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成を具備するものである。
1.基材フィルムの少なくとも片面に、アルケニル基含有シリコーンの水分散体、Si−H基で表されるSi原子と直接結合した水素原子を有するシリコーンの水分散体およびアクリル系樹脂の水分散体を含む離型用コーティング組成物を用いて形成される塗布層を有するシリコーン離型フィルムであって、
該アクリル系樹脂は、その主骨格および側鎖にカルボキシル基およびイオン性基を実質的に有さず、固形分含有重量が塗布層全固形分重量に対して1〜50重量%であり、
上記水分散体は、いずれもノニオン性界面活性剤により乳化されている、
シリコーン離型フィルム。
2.セラミックグリーンシート成形用である、上記1に記載のシリコーン離型フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコーン離型フィルムは、積層セラミックコンデンサ製造の際の薄膜セラミックグリーンシートに対する剥離力が小さく、さらにセラミックグリーンシートを剥離した際の剥離帯電が抑制されているため、セラミックグリーンシートの破れやシワによる積層ずれを低減することができる。そしてそれによって、薄肉の積層セラミックコンデンサの不良率を低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
[離型用コーティング組成物]
本発明のシリコーン離型フィルムは、離型用コーティング組成物を用いて形成される塗布層を有し、該離型用コーティング組成物はアルケニル基含有シリコーンの水分散体、Si−H基で表されるSi原子と直接結合した水素原子を有するシリコーンの水分散体、アクリル系樹脂の水分散体を含有する。そして該アクリル系樹脂は、その固形分含有量は塗布層全固形分重量に対して1〜50重量%であり、主骨格および側鎖にカルボキシル基およびイオン性基を実質的に有さないものである。
以下、構成成分毎に詳述する。
【0011】
(アルケニル基含有シリコーン)
本発明におけるアルケニル基含有シリコーンとして、下記の一般式(I)で示される構造を有するオルガノポリシロキサンが例示される。
SiO(4−a−b)/2 ・・・(I)
(式(I)中、Rは炭素数2〜8のアルケニル基、Rはアルキル基またはアリール基から選択される炭素数1〜16の1価の飽和炭化水素基であり、aは1〜3、bは0〜2で、かつa+b≦3を満たす整数をそれぞれ表す)
【0012】
該アルケニル基含有シリコーンは、直鎖状構造、分岐鎖状構造のいずれでもよく、また部分的に交差結合を有するもの、さらにこれらの混合物、のいずれであってもよい。Rで表される炭素数2〜8のアルケニル基として、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基などが挙げられ、これらの中でも特にビニル基が好ましい。また、Rで表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など、またアリール基として、フェニル基、トリル基などが挙げられる。中でも、Rの置換基の80モル%以上がメチル基であることが軽剥離性の点で好ましい。
【0013】
また、該アルケニル基含有シリコーン中の全ケイ素原子に対し、アルケニル基を有するケイ素原子が0.05〜20モル%の範囲であることが、組成物の硬化速度およびポットライフの点から好ましい。アルケニル基を有するケイ素原子の割合が下限に満たないときは組成物の硬化速度が低下し、後述するフィルム製膜中に硬化状のシリコーン被膜を効率的に形成し難くなることがある。また、アルケニル基を有するケイ素原子の割合が上限を超える範囲では組成物のポットライフが短くなることがある。
本発明におけるアルケニル基含有シリコーンは、公知の方法で製造することができる。また、本発明におけるアルケニル基含有シリコーンは水分散体の状態で該組成物に含有される。
【0014】
(Si−H基含有シリコーン)
本発明における、Si−H基で表されるSi原子と直接結合した水素原子を有するシリコーン(以下、Si−H基含有シリコーンと称することがある)として、下記の一般式(II)で示される構造を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが例示される。
SiO(4−c−d)/2 ・・・(II)
(式(II)中、Rはアルキル基またはアリール基から選択される炭素数1〜16の1価の飽和炭化水素基であり、cは0〜2、dは1〜3で、かつc+d≦3を満たす整数をそれぞれ表す)
【0015】
該Si−H基含有シリコーンは、直鎖状構造、分岐鎖状構造のいずれでもよい。また、Rで表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など、またアリール基として、フェニル基、トリル基などが挙げられる。中でも、Rの置換基の50モル%以上がメチル基であることが軽剥離性の点で好ましい。
該Si−H基含有シリコーンは、硬化特性の観点から、シリコーン1分子中に少なくとも3個、好ましくは5個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有することが好ましい。
該Si−H基含有シリコーンは、公知の方法で製造することができる。また、本発明におけるSi−H基含有シリコーンは水分散体の状態で該組成物に含有される。
【0016】
(アクリル系樹脂)
本発明におけるアクリル系樹脂は、離型フィルムの帯電列を調整し、離型フィルムから剥離したセラミックグリーンシートの剥離帯電位を低減する、すなわち剥離帯電を抑制するために用いられる。
本発明におけるアクリル系樹脂としては、ガラス転移温度−10〜40℃のノニオン性アクリル系樹脂を好ましく用いることができる。また、かかるアクリル系樹脂は、シリコーンの付加硬化反応を阻害しないようにポリマー主骨格および側鎖にカルボキシル基およびイオン性基を実質的に含まない必要がある。なお、ここで「実質的に含まない」とは、本発明の目的が達成できない程度に塗布層の硬化阻害が生じない量であれば、少量含んでいても良いことを意味する。具体的には、アクリル系樹脂のポリマーを構成する全モノマーユニット100mol%に対して、これら基を有するモノマーユニットの含有量が1mol%以下であることを示し、好ましくは0.5mol%以下、より好ましくは0.1mol%以下であり、理想的にはこれら基を有するモノマー成分を含有しない態様である。なお、1ユニットに上記基を複数有する場合は割り掛けて含有量とする。
【0017】
このアクリル系樹脂の構成成分(モノマー)としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等を例示することができる。これらのモノマーは、例えばスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の他の不飽和単量体と併用することもできる。かかるアクリル系樹脂の主鎖および側鎖にカルボキシル基を実質的に有していると、アクリルロックアップ現象として知られているSi−H基との激しい反応が起こり、シリコーンの付加硬化を阻害してしまう上、コーティング液中に架橋凝集物が発生し、塗布外観の悪化や剥離強度の局部的な重化が発生する。同様に主鎖および側鎖にイオン性基を実質的に有していると、シリコーン付加反応の触媒の働きを阻害し、硬化不良や凝集物を発生する。
【0018】
かかるアクリル系樹脂の固形分含有重量は、塗布層全固形分重量に対して1〜50重量%であり、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%である。アクリル系樹脂の固形分含有重量が前記範囲を下回ると帯電列の調整効果が低く、剥離帯電位が高くなる傾向にあり、また、前期範囲を越えると重剥離化によって所望の離型性を得られなくなる。そしてそれにより、セラミックシート剥離積層性に劣る傾向にある。
【0019】
本発明におけるアクリル系樹脂は、水分散体の状態で離型用コーティング組成物に含有される。上述したアルケニル基含有シリコーンおよびSi−H基含有シリコーンをいずれも水分散体として用いると同時に、上記アクリル系樹脂も水分散体として用いることで、シリコーン成分との相分離を抑え、これら成分が均一に分散した塗布層を形成することができ、それによって離型フィルムの帯電列を適度なものとし、剥離帯電を抑制できる。
【0020】
(水系溶媒)
本発明における、上述した各水分散体を形成する水系溶媒として、水が好ましく用いられる。水系溶媒を用いることにより、フィルム製膜の工程中に有機溶剤で必要となる防爆設備および回収設備を用いることなくシリコーン離型層を形成させることができる。
【0021】
(乳化剤)
それぞれの水分散体は、水分散体の安定性、せん断耐性を上げるために乳化剤を使用して作成される。乳化剤として、シリコーンの硬化反応に影響を与えないノニオン系乳化剤が用いられる。イオン性を有する乳化剤はシリコーンの硬化反応に影響を与える可能性があり、また塗膜中に局在化、例えば表面にブリードアウトして離型性に影響を与え、重剥離化する場合がある。
【0022】
ノニオン系乳化剤としては、HLB値が8〜18の範囲が好ましく、例えば、高級アルコール、ないし高級脂肪酸のアルキレンオキシド付加体、高級脂肪酸とアルコールとのアルキレンオキシド付加体のエステル体、アルカノールアミドのアルキレンオキシド付加体、ソルビタンエステルのアルキレンオキシド付加体、高級脂肪酸グリセリドのアルキレンオキシド付加体などのアルキレンオキシド付加型から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ここで、HLB値はGriffinの計算式により算出される値である。
【0023】
アルキレンオキシドとして、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが挙げられ、これらのうちの1種を用いても複数用いてもよい。複数用いる場合、ブロック、ランダムの付加形式を問わないが、HLB値が8〜18の範囲であることが好ましく、10〜15の範囲であることがさらに好ましい。これらのノニオン系乳化剤の中でも、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等が好ましく挙げられる。HLB値がかかる範囲をはずれるノニオン系乳化剤をシリコーン水分散体の乳化剤として用いると、乳化分散力や水分散体の安定性が低下することがある。
【0024】
(白金系触媒)
本発明の塗布層を構成する離型用コーティング組成物には、アルケニル基含有シリコーンとSi−H基含有シリコーンとを付加反応させるため、白金系触媒を用いることができる。
白金系触媒としては公知のものが使用でき、例えば塩化白金や塩化白金酸が挙げられる。該白金系触媒はシリコーンへの分散性を考慮して1,3−ジビニルー1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体(Karstedt触媒)を用いてもよく、シリコーンを乳化させる際に同時に分散させることで均一分散性を確保することができる。
【0025】
(架橋反応抑制剤)
本発明において、室温における白金系触媒の活性を抑制するために離型用コーティング組成物に架橋反応抑制剤が、好ましくは5〜1000ppm含有されてもよい。
一般的に、付加硬化型シリコーン組成物には室温における白金系触媒の活性を抑制し、ポットライフを調整させる目的で架橋反応抑制剤が添加される。該架橋反応抑制の含有量が下限に満たない場合はポットライフが低下し、室温においてシリコーンの付加硬化反応が進行するためシリコーン凝集物が発生しやすくなる傾向にある。また該架橋反応抑制の含有量が上記範囲を超えると付加硬化反応が進行しにくくなる傾向にあり、相手材をはがした後に相手材にシリコーンが移行しやすくなったり、熱処理時に揮発する反応抑制剤の量が増加するためオーブン内部の汚染につながる。
【0026】
(その他成分)
本発明の離形用コーティング組成物には、本発明の課題を損なわない範囲内でさらに密着性付与剤、着色剤、紫外線吸収剤、粒子などを添加してもよい。
【0027】
[基材フィルム]
本発明のシリコーン離型フィルムを構成する基材フィルムとしては、従来公知の離型フィルムの基材フィルムとして用いられるフィルムを採用することができるが、ポリエステルフィルムが好ましい。ポリエステルフィルムとして、公知のポリエステルフィルムが使用でき、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート等の公知のポリエステルが用いられる。中でも、ポリエチレンテレフタレートが力学的物性と成形性のバランスがよいので特に好ましい。
【0028】
上記で例示した各ポリエステルは、ホモポリマーであっても、これらポリエステルのうちの1つを主たる成分とする共重合体であってもよく、またはブレンドしたものであってもよい。ここで「主たる成分」とは、ポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として80モル%以上である。また主たる成分の割合は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。また、共重合成分またはブレンド成分はポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として20モル%以下であり、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
【0029】
ポリエステルフィルムには、本発明の課題を損なわない範囲内で、滑剤粒子、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤を含有してもよい。表面平坦性が求められる場合は、滑剤粒子は実質的に含有しないことが好ましい。
ポリエステルの製造には公知の方法が用いられ、エステル化反応もしくはエステル交換反応により低重合度のポリエステルを得た後、重合触媒を用いて重合度を高める方法が挙げられる。
【0030】
また、ポリエステルフィルムも公知の方法で得ることができ、逐次延伸方法、同時二軸延伸方法のいずれの方法を用いてもよい。例えば、ポリエステルを溶融状態で押出機のダイからシート状に押し出す工程、得られたシート状物を冷却固化することで未延伸ポリエステルフィルムとする工程、そして得られた未延伸ポリエステルフィルムを製膜方向と幅方向に延伸することで製造できる。ポリエステルフィルムが積層構成である場合は、例えばA層用のポリエステルとB層用のポリエステルとを用意し、これらを溶融状態で積層してダイからシート状に共押出し、続いて上述の方法に従って製膜する方法が例示される。
【0031】
また、本発明におけるポリエステルフィルムは粒子を含まないことが好ましい。ポリエステルフィルムが積層構成である場合、全層が粒子を含まない構成の他、積層ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面層(好ましくは塗布層を形成する側の表面層)が粒子を含まない構成であるとよい。かかる構成によって、表面平滑性と滑り性とを両立できる。本発明において粒子を含まないとは、具体的にはポリエステルフィルムの重量を基準として粒子含有量が0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以下、特に好ましくは0.005重量%以下であることを指す。なお、積層ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面層が粒子を含まない構成である場合には、該層の重量を基準として粒子含有量が0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以下、特に好ましくは0.005重量%以下であることを指す。ポリエステルフィルムに粒子が含まれていると、粒子によって形成されるポリエステルフィルムの表面突起がグリーンシートに凹み状転写したり、グリーンシートの貫通を引き起こすことがある。
【0032】
[塗布層]
本発明において、本発明の離型用コーティング組成物を用いて基材フィルムの少なくとも一方の面に塗布層が形成される。本発明の塗布層は、該基材フィルム上に該離型用コーティング組成物を塗布した後、乾燥が施され、塗布層が形成される。該塗布層の形成はフィルム製膜工程において形成されることが好ましい。
【0033】
本発明において、塗布層厚みは乾燥後の厚みとして10〜100nmが好ましい。塗布層の厚みが下限に満たないと離型特性が不十分となることがあり、また上限を超えると剥離強度が増大する傾向にある他、塗布液を高濃度にしたり、塗工量を増やす必要があるため、塗布し難くなる傾向にある。厚みは、より好ましくは20〜80nm、さらに好ましくは30〜70nmである。
【0034】
基材フィルム上に離型用コーティング組成物を塗布するにあたり、該組成物を含む水性塗布液が作成され、水性塗布液の固形分濃度は該塗布液の重量を基準として20重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1〜10重量%である。水性塗布液中の固形分濃度が下限に満たないと基材フィルムへの塗れ性が不足することがある。また固形分濃度が上限を超えると塗液の安定性や塗布層の外観が悪化することがある。固形分濃度を調整する水性溶媒として水が好ましく用いられる。
【0035】
水性塗布液の基材フィルムへの塗布は、任意の段階で実施することができるが、例えば基材フィルムがポリエステルフィルムである場合は、ポリエステルフィルムの製造過程で実施するのが好ましく、さらには配向結晶化が完了する前のポリエステルフィルムに塗布するのが好ましい。
【0036】
ここで、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向(以下、フィルム連続製膜方向、長手方向、MD方向と称することがある)または横方向(以下、縦方向と直交する方向、幅方向、TD方向と称することがある)のいずれか一方に配向させた一軸配向フィルム、さらには縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向させたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸して配向結晶化を完了させる前の二軸延伸フィルム)などを含むものである。なかでも、未延伸フィルムまたは一方向に配向させた一軸延伸フィルムに、上記組成物の水性塗布液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施す、いわゆるインラインコーティングが好ましい。塗布後の延伸工程あるいは熱固定処理によって塗布層を乾燥させてもよく、さらに必要に応じて乾燥工程を加えてもよい。また、触媒を用いて組成物を硬化させ、硬化状の被膜を得る場合には、延伸工程あるいは熱固定処理によって硬化させることができるが、さらに必要に応じて硬化工程を加えてもよい。
【0037】
水性塗布液をポリエステルフィルムに塗布する際には、塗布性を向上させるための予備処理としてフィルム表面にコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理処理を施すか、あるいは組成物と共に前述した乳化剤を濡れ剤として併用することが好ましい。
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独または組合せて用いることができる。
【0038】
[離型フィルムの特性]
本発明においては、後述する試験法によるセラミックシートの剥離力が8g/25mm未満であることが好ましい。より好ましくは5g/25mm未満である。このような剥離力であると、セラミックシートを形成後、該シートの破れを抑制し、容易に剥離することができる。
【0039】
また、本発明においては、後述する試験法における、セラミックシートの離型フィルムを剥離した直後の帯電位(剥離帯電位)として−3.0kV以上、+0.30kV以下の範囲が好ましく、より好ましくは−2.0〜0.20kV、さらに好ましくは−1.5〜0.20kV、特に好ましくは−1.5〜0.05kV、最も好ましくは−1.5〜0.00kVの範囲である。セラミックシートの剥離帯電位が前記範囲を越えると、積層工程においてシワが発生し、積層ズレが発生する。また前記範囲を下回ると積層時にセラミックシート間での反発力が大きく、同様に積層ズレが発生してしまう。
【0040】
[用途]
本発明のシリコーン離型フィルムは、積層セラミックコンデンサ製造時に使用される薄膜セラミックグリーンシート成形のキャリアフィルムとして用いられる離型フィルムに好適に用いられる。かかる用途に用いた場合、軽剥離性に優れるため、離型フィルム上に乾燥後の厚みが1μm以下の薄膜グリーンシートを作成し、離型フィルムを剥離する際に、薄肉グリーンシートに破れが生じることなく、また、離型層の帯電列が適切であるため、セラミックシート剥離時の剥離帯電が抑制され、剥離時の帯電によるグリーンシートのシワや積層時のズレを抑制することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。なお、各種物性は下記の方法により評価した。
【0042】
1.離型層塗布均一性
離型フィルムをA4版に切り出し、塗布層面を蛍光灯、ハロゲンライトを用いて目視で観察した際に凝集状塗布欠点の個数を比較し、以下の基準により評価した。
◎:塗布欠点なし
○:塗布欠点が1〜2個
△:塗布欠点が3〜5個
×:塗布欠点が6個以上
【0043】
2.セラミックシート剥離性
チタン酸バリウム(BaTiO)100重量部、ポリビニルブチラール7重量部、ジオクチルフタレート3質量部をトルエン:エタノール=1:1(体積比率)の混合溶媒に加え、ボールミルにて分散させ、スラリーを調整した。このスラリーを離型フィルムの塗布層上に乾燥後厚みが3μmとなるように均一塗工した後、乾燥させセラミックシートを形成した。セラミックシートが形成された離型フィルムを25mm×150mmに裁断し、セラミックシート側に粘着テープ(日東電工(株)製、商品名「31Bテープ」)を貼り合わせ試験片を作製した。この試験片を23℃、湿度50%条件化で24時間調湿し、次いで引っ張り試験機を用いて剥離角度180°、剥離速度300mm/分でセラミックシートを剥離し、剥離強度を測定した。セラミックシートの剥離強度については以下の指標から優劣を判断した。
◎:剥離強度が5g/25mm未満
○:剥離強度が5g以上、8g未満/25mm
△:剥離強度が8g以上、12g以下/25mm
×:剥離強度が12g/25mmを超える、もしくはセラミックシートの破れが生じる。
【0044】
3.セラミックシートの剥離帯電性
上記2で得られたセラミックシートが形成された離型フィルムについて、50mm×100mmに切り出し、セラミックシート側をテフロン(登録商標)板上に両面テープで固定し、そこから離型フィルムを剥離した直後、静電電位測定器(シシド静電気(株)製、STATIRON TYPE−TL)を用いてセラミックシートの帯電位(剥離帯電位)を測定した。
【0045】
4.セラミックシート剥離積層性
離型フィルムの塗布層上に、セラミックシートを形成するための上記スラリーを乾燥後の厚みが1μmとなるように塗布し、乾燥後巻き取った。ついでこれを巻き出しながら、セラミックシートを有する離型フィルムを断裁し、そこからセラミックシートを剥離して、該セラミックシートを積層し、積層ブロック体を成型した。剥離積層時および積層ブロック体の観察結果から下記指標にて優劣を判断した。
○:剥離速度60m/分においてシワ発生なし。
△:剥離速度60m/分においてはシワ発生するが、剥離速度30m/分以上、60m/分未満においてシワ発生しない。
×:剥離速度30m/分以上、60m/分未満においてシワ発生する。
【0046】
[実施例1〜5、比較例4]
A層として平均粒子径が0.7μmの炭酸カルシウムの粒子を0.1重量%含むポリエチレンテレフタレート([η]=0.64dl/g、Tg=78℃)と、B層として粒子を含まないポリエチレンテレフタレート([η]=0.64dl/g、Tg=78℃)とを溶融状態でA層/B層の2層に積層させ押出機のダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いで縦方向に80℃で3.6倍に延伸した後、後述する組成からなる塗布液をフィルムのB層表面に、ロールコーターで均一に塗布した。なお、用いた塗布液は調整後、24時間以内のものを用いた。
次いで、この塗布フィルムを115℃で乾燥し、145℃で横方向に4.0倍に延伸し、更に230℃で約10秒間熱固定して表1に示す塗布層を有する二軸延伸ポリエステルフィルム(全体厚さ31μm、A層厚さ24μm、B層厚さ7μm)を得た。また、乾燥後の塗布層の厚みは50nmであった。
【0047】
<塗布液(離型用コーティング組成物)>
離型用コーティング組成物として、アルケニル基含有シリコーン水分散体100重量部/Si−H基含有シリコーン水分散体12重量部に、アルキル系樹脂として後述のノニオン性アクリル樹脂の水分散体(乳化剤:ノニオン性乳化剤)を表1の固形分濃度となるように混合し、水で希釈した後固形分濃度5重量%の塗布液を調整した。
【0048】
[比較例1]
コーティング組成物にアクリル系樹脂の水分散体を添加しなかった以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0049】
[比較例2]
アクリル系樹脂として後述のカチオン性アクリル樹脂を用い、該アクリル樹脂の水分散の際に乳化剤としてカチオン性乳化剤を使用した以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0050】
[比較例3]
アクリル系樹脂として後述のカルボキシル基を有するアクリル樹脂を用い、該アクリル樹脂の水分散の際に乳化剤としてアニオン性乳化剤を使用した以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0051】
[比較例5]
アクリル系樹脂としてノニオン性アクリル樹脂を用い、該アクリル樹脂の水分散の際に乳化剤としてカチオン性乳化剤を使用した以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0052】
[比較例6]
アクリル系樹脂としてノニオン性アクリル樹脂を用い、該アクリル樹脂の水分散の際に乳化剤としてアニオン性乳化剤を使用した以外は実施例1と度応用にして離型フィルムを得た。
【0053】
[比較例7]
塗布層を設けない以外は実施例1と同様に作成した二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのB層側に、トルエンで希釈した付加硬化型シリコーン樹脂(信越化学(株)製、商品名「KS−847H」)100重量部と、硬化剤(信越化学(株)製、商品名「CAT−PL−50T」)1重量部と、実施例1で用いたノニオン性アクリル樹脂を得られる混合溶液の全固形分に対する固形分濃度が20重量%となるように調製した混合溶液を、乾燥後塗布層厚みが50nmとなるように塗布し、130℃で1分間乾燥し、離型フィルムを得た。
【0054】
<アルケニル基含有シリコーン水分散体>
容器内全体を攪拌できる乳化装置(株式会社エヌ・ピー・ラボ製 装置名「ウルトラプラネタリーミキサー」)を用いて、下式(1)で表されるアルケニル基を有するシリコーン98重量%、および界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製 商品名「エマルゲン109P」)2重量%からなる原料を水媒体中で機械的に乳化させて、固形分20重量%のアルケニル基含有シリコーン水分散体を得た。
【0055】
【化1】
式(1)中、mは2であり、nは数平均分子量15000となるよう調整した。
【0056】
<Si−H基含有シリコーン水分散体>
容器内全体を攪拌できる乳化装置(株式会社エヌ・ピー・ラボ製 装置名「ウルトラプラネタリーミキサー」)を用いて、下式(2)で表される水素基を有するシリコーン98重量%、および界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製 商品名「エマルゲン109P」)2重量%からなる原料を水媒体中で機械的に乳化させて、固形分10重量%のSi−H基含有シリコーン水分散体を得た。
【0057】
【化2】
(式(2)中、o=30、p=35、である)
【0058】
<アクリル系樹脂の水分散体>
(アクリル系樹脂)
実施例1〜5および比較例4、7では、アクリル系樹脂として、メタクリル酸メチル成分40mol%、アクリル酸エチル成分45mol%、アクリロニトリル成分10mol%、N−メチロールアクリルアミド成分5mol%をランダム共重合したノニオン性アクリル樹脂を用いた。
比較例2では、アクリル系樹脂として、前記ノニオン性アクリル樹脂のN−メチロールアクリルアミド成分を下式(3)で表される第4級アンモニウムを有するアクリルモノマー(ポリマー中5mol%)に変更したカチオン性アクリル樹脂を用いた。
【0059】
【化3】
【0060】
比較例3では、アクリル系樹脂として、上記と同様に前記ノニオン性アクリル樹脂の共重合成分としてメタクリル酸メチルの代わりにメタクリル酸(ポリマー中40mol%)を導入した、カルボキシル基を有するアクリル樹脂を用いた。
【0061】
(乳化剤)
実施例1〜5および比較例4では、アクリル系樹脂を分散するための乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製 商品名「エマルゲン109P」)(ノニオン性乳化剤)を用いた。
比較例2,5では、アクリル系樹脂を分散するための乳化剤としてステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(花王株式会社性 商品名「コータミン86Pコンク」(カチオン性乳化剤)を用いた。
比較例3,6では、アクリル系樹脂を分散するための乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製 商品名「ペレックスSS−L」)(アニオン性乳化剤)を用いた。
【0062】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のシリコーン離型フィルムは、積層セラミックコンデンサ製造の際の薄膜セラミックシートに対する剥離力が小さく、さらに剥離時の帯電位が制御されることによりセラミックシートのシワや積層ズレを抑制できるため薄肉の積層セラミックコンデンサの不良率を低減させることのでき、その工業的価値は極めて高い。