特許第6178111号(P6178111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178111
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】摩擦ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20170731BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20170731BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20170731BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   F16F15/02 E
   E04H9/02 311
   E04G23/02 F
   E04G23/02 D
   E04G23/02 E
   F16F7/08
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-102206(P2013-102206)
(22)【出願日】2013年5月14日
(65)【公開番号】特開2014-222095(P2014-222095A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2016年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】松浦 恒久
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−231912(JP,A)
【文献】 特開2012−067805(JP,A)
【文献】 特開2005−188653(JP,A)
【文献】 特開2000−179616(JP,A)
【文献】 特開2012−067806(JP,A)
【文献】 特開2012−132520(JP,A)
【文献】 特開2003−269008(JP,A)
【文献】 特開2005−257001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
F16F 7/00− 7/14
E04H 9/00− 9/16
E04G 23/00−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材の一方に設けられる滑り材と、他方に設けられ、前記滑り材に対して前記所定方向に相対移動可能に重合される摩擦材と、前記滑り材と前記摩擦材に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材とを備え、前記2つの部材間に介装されて、前記2つの部材が前記振動により相対移動するときに前記滑り材と前記摩擦材との間に発生する摩擦力により、前記振動を減衰する摩擦ダンパーにおいて、
前記滑り材と前記摩擦材は、一方が、前記2つの部材の相対移動方向を長さ方向、前記相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、前記長さ方向に長く、前記長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側を前記滑り材と前記摩擦材との間の接触面積が漸次減少可能に前記幅方向を漸次小さく形成され、他方が、前記一方と幅方向を共通とし前記一方の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態のときに前記一方の平面の対称中心で前記他方が接触され、前記2つの部材が前記振動の発生により前記中立の状態から相対移動するときに前記一方に対して前記他方が前記2つの部材の相対移動方向に摺動可能に構成され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、前記滑り材と前記摩擦材は所定の接触面積で所定の摩擦係数により接触され、
前記2つの部材が相対移動して前記所定の相対移動量を超えた後の前記滑り材と前記摩擦材は両者間の接触面積が漸次減少されて接触される、
ことを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項2】
振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材の一方に設けられる滑り材と、他方に設けられ、前記滑り材に対して前記所定方向に相対移動可能に重合される摩擦材と、前記滑り材と前記摩擦材に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材とを備え、前記2つの部材間に介装されて、前記2つの部材が前記振動により相対移動するときに前記滑り材と前記摩擦材との間に発生する摩擦力により、前記振動を減衰する摩擦ダンパーにおいて、
前記滑り材と前記摩擦材は、一方が、前記2つの部材の相対移動方向を長さ方向、前記相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、前記長さ方向に長く、前記長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側を前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数が漸次低減可能に前記幅方向を漸次小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数を低減する部材が組み合わせられ、他方が、前記一方と幅方向を共通とし前記一方の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態のときに前記一方の平面の対称中心で前記他方が接触され、前記2つの部材が前記振動の発生により前記中立の状態から相対移動するときに前記一方に対して前記他方が前記2つの部材の相対移動方向に摺動可能に構成され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、前記滑り材と前記摩擦材は所定の摩擦係数で接触され、
前記2つの部材が相対移動して前記所定の相対移動量を超えた後の前記滑り材と前記摩擦材は両者間の摩擦係数が漸次低減されて接触される、
ことを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項3】
振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材の一方に設けられる滑り材と、他方に設けられ、前記滑り材に対して前記所定方向に相対移動可能に重合される摩擦材と、前記滑り材と前記摩擦材に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材とを備え、前記2つの部材間に介装されて、前記2つの部材が前記振動により相対移動するときに前記滑り材と前記摩擦材との間に発生する摩擦力により、前記振動を減衰する摩擦ダンパーにおいて、
前記滑り材と前記摩擦材は、一方が、前記2つの部材の相対移動方向を長さ方向、前記相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、前記長さ方向に長く、前記長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、前記対称中心から両端方向所定の長さのところで前段、後段に分けられて前記各前段が前記滑り材と前記摩擦材との間の接触面積が前記各後段より小さくなるように前記幅方向を前記各後段よりも小さく形成され、前記各後段に続く両端側をそれぞれ前記滑り材と前記摩擦材との間の接触面積が漸次減少可能に前記幅方向を漸次小さく形成され、他方が、前記一方の前記後段と幅方向を共通とし前記一方の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、前記2つの部材が前記振動発生前の中立の状態のときに前記一方の平面の対称中心で前記他方が接触され、前記2つの部材が前記振動の発生により前記中立の状態から相対移動するときに前記一方に対して前記他方が前記2つの部材の相対移動方向に摺動可能に構成され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動を開始して所定の相対移動量よりも小さい所定の相対変位量に達するまで、前記滑り材と前記摩擦材の一方の前段で前記滑り材と前記摩擦材が前記滑り材と前記摩擦材の一方の後段での前記滑り材と前記摩擦材との間の所定の接触面積よりも小さい接触面積で接触され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動して前記所定の相対変位量を超え、前記所定の相対移動量に至るまでの間、前記滑り材と前記摩擦材の一方の後段で前記滑り材と前記摩擦材は前記所定の接触面積で所定の摩擦係数により接触され、
前記2つの部材が相対移動して前記所定の相対移動量を超えた後の前記滑り材と前記摩擦材は両者間の接触面積が漸次減少されて接触される、
ことを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項4】
振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材の一方に設けられる滑り材と、他方に設けられ、前記滑り材に対して前記所定方向に相対移動可能に重合される摩擦材と、前記滑り材と前記摩擦材に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材とを備え、前記2つの部材間に介装されて、前記2つの部材が前記振動により相対移動するときに前記滑り材と前記摩擦材との間に発生する摩擦力により、前記振動を減衰する摩擦ダンパーにおいて、
前記滑り材と前記摩擦材は、一方が、前記2つの部材の相対移動方向を長さ方向、前記相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、前記長さ方向に長く、前記長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、前記対称中心から両端方向所定の長さのところで前段、後段に分けられて前記各前段が前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数が前記各後段より小さくなるように前記幅方向を前記各後段よりも小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数を低減する部材が組み合わせられ、前記各後段に続く両端側をそれぞれ前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数を漸次低減可能に前記幅方向が漸次小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数を低減する部材が組み合わせられ、他方が、前記一方の前記後段と幅方向を共通とし前記一方の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、前記2つの部材が前記振動発生前の中立の状態のときに前記一方の平面の対称中心で前記他方が接触され、前記2つの部材が前記振動の発生により前記中立の状態から相対移動するときに前記一方に対して前記他方が前記2つの部材の相対移動方向に摺動可能に構成され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動を開始して所定の相対移動量よりも小さい所定の相対変位量に達するまで、前記滑り材と前記摩擦材の一方の前段で前記滑り材と前記摩擦材が前記滑り材と前記摩擦材の一方の後段での前記滑り材と前記摩擦材との間の所定の摩擦係数よりも小さい摩擦係数で接触され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動して前記所定の相対変位量を超え、前記所定の相対移動量に至るまでの間、前記滑り材と前記摩擦材の一方の後段で前記滑り材と前記摩擦材は前記所定の摩擦係数で接触され、
前記2つの部材が相対移動して前記所定の相対移動量を超えた後の前記滑り材と前記摩擦材は両者間の摩擦係数が漸次低減されて接触される、
ことを特徴とする摩擦ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存又は新築の鉄骨造建物の補強に用いる摩擦ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄骨造建物の地震力負担要素として、摩擦ダンパーが知られている。
この種の摩擦ダンパーは、例えば建物架構の相対移動する一対の鉄骨部材同士の間に介装されて、建物架構の振動時にその振動を減衰するのに用いられる。
【0003】
従来、この種の摩擦ダンパーは、相対移動する一方の部材に固設された滑動板(滑り材)と、他方の部材に固設された摩擦板(摩擦材)とを備え、これらの滑動板と摩擦板が互いに所定の圧接力で接触されて、2つの部材が相対移動し滑動板と摩擦板が摺動する際にこれら滑動板と摩擦板との間に一定の摩擦力を生じさせ、この摩擦力を減衰力として用いて建物の振動を減衰するようになっている。
【0004】
また、大地震時等の建物の最大層間変位時には、建物の制振対象の構造体自体が大きく変形することから、当該構造体に大きな内力が生じ、このような時に、さらに大きな外力が変形方向と逆向きに付与されると、その分だけ、さらに内力が拡大して構造体の破壊限界強度に至り易くなり、この場合に、従来の摩擦ダンパーの減衰力は、変形方向と逆向きの外力として構造体に作用し、また、層間変位の大きさによらず常にほぼ一定の減衰力を発生するために、構造体は、最大層間変位時の厳しい内力下において、大きな減衰力が加えられることになり、構造体の破壊限界強度の大きさによっては、構造体は破損してしまう恐れがあり、かかる問題点を解決するために、減衰力を調整できるようにした摩擦ダンパーが特許文献1により提案されている。
この文献1の摩擦ダンパーは、相対移動可能に重ねられた2つの部材が振動により相対移動するときに圧接力に基づいて発生する摩擦力で振動を減衰する構造を有するもので、このダンパーでは、特に、2つの部材のうちの一方の部材として設けられ、板厚方向に間隔を隔てて互いに対向する一対の第1板部材と、2つの部材のうちの他方の部材として設けられる第2板部材と、一対の第1板部材及び第2板部材に圧接力を付与する圧接力付与部材とを備え、第2板部材(中板)の板厚が変化され、一対の第1板部材のうちの一方の第1板部材と第2板部材との間に転動体が介装されて、一対の第1板部材と第2板部材との所定方向の相対移動量が所定値を超えたときに、圧接力が低下(すなわち、減衰力が低減)するようになっている。
【0005】
さらに、昨今は、建物の高層化などに伴い風荷重作用下における居住性が重要視され、一般に地震とは外力レベルの異なる風荷重に対しても適切な振動減衰効果を発揮したい場合には、地震時の大きな外力に対応させて大きな摩擦力を発生可能にするだけでなく、風荷重等の小さな外力にも対応させて小さな摩擦力も発生できるようにすることが求められており、これに対して、大きさの異なる摩擦力の発生を可能とした摩擦ダンパーが特許文献2により提案されている。
この文献2の摩擦ダンパーは、所定方向に相対移動する二部材間に介装されて、摩擦力により二部材間の相対移動に係る振動を減衰する構造を有するもので、このダンパーでは、特に、二部材のうちの一方の部材に一体に設けられた第1圧接板と、二部材のうちの他方の部材に一体に設けられた第2圧接板と、これら第1圧接板と第2圧接板との間に挟まれた状態で、第1圧接板及び第2圧接板の両者に所定の圧接力で圧接される摩擦板とを備え、摩擦板に2種類の摩擦係数の異なる材料を使用することにより、摩擦板において第1圧接板に圧接される第1摩擦面の第1摩擦係数を、摩擦板において第2圧接板に圧接される第2摩擦面の第2摩擦係数よりも大きくして、振動の振幅が所定値以内の場合は、摩擦板は第1摩擦面では摺動せずに第2摩擦面で摺動して、風などの小さい外力に抵抗し、振動の振幅が所定値を超える場合に、摩擦板は第1摩擦面で摺動し、地震による大きな外力に抵抗するように構成され、このようにして大きさの異なる摩擦力を発生するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−102793公報
【特許文献2】特開2012−102809公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、従来の摩擦ダンパーにあっては、地震時に建物の最大応答変位付近で減衰力が最大になり、このダンパーの減衰力の反力がダンパー周辺の架構に作用するため、架構に生じる応力は架構分にダンパーの応力が累加されて、建物によっては架構を補強しなければならないという問題があり、また、他面で、一般的なダンパー容量が地震を対象として設定されるために、風による揺れには効果がない、という問題がある。
これに対して、特許文献1の摩擦ダンパーでは、大地震での架構の損傷を防ぐために、板厚を局部的に変化させて、減衰力の調整がなされているものの、ダンパー機構が複雑になるという問題があり、また、大地震での架構の損傷を防ぐことを目的としているが、風のような小さな外力を対象としていないため、風による揺れには対応することができない、という問題がある。また、特許文献2の摩擦ダンパーでは、摩擦板に摩擦係数の異なる2種類の材料を用いて、減衰力の調整がなされ、風などによる小さな外力から地震による大きな外力までを対象とするものの、この機構では、大地震時の架構の損傷を防ぐまでには至っていない、という問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、この種の摩擦ダンパーにおいて、簡単な機構で、大地震時に建物の構造体の損傷を防止でき、また、風荷重に対しても有効な振動減衰効果を発揮できるようにすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明(1)は、
振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材の一方に設けられる滑り材と、他方に設けられ、前記滑り材に対して前記所定方向に相対移動可能に重合される摩擦材と、前記滑り材と前記摩擦材に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材とを備え、前記2つの部材間に介装されて、前記2つの部材が前記振動により相対移動するときに前記滑り材と前記摩擦材との間に発生する摩擦力により、前記振動を減衰する摩擦ダンパーにおいて、
前記滑り材と前記摩擦材は、一方が、前記2つの部材の相対移動方向を長さ方向、前記相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、前記長さ方向に長く、前記長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側を前記滑り材と前記摩擦材との間の接触面積が漸次減少可能に前記幅方向を漸次小さく形成され、他方が、前記一方と幅方向を共通とし前記一方の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態のときに前記一方の平面の対称中心で前記他方が接触され、前記2つの部材が前記振動の発生により前記中立の状態から相対移動するときに前記一方に対して前記他方が前記2つの部材の相対移動方向に摺動可能に構成され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、前記滑り材と前記摩擦材は所定の接触面積で所定の摩擦係数により接触され、
前記2つの部材が相対移動して前記所定の相対移動量を超えた後の前記滑り材と前記摩擦材は両者間の接触面積が漸次減少されて接触される、
ことを要旨とする。
また、上記目的を達成するために、本発明(2)は、
振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材の一方に設けられる滑り材と、他方に設けられ、前記滑り材に対して前記所定方向に相対移動可能に重合される摩擦材と、前記滑り材と前記摩擦材に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材とを備え、前記2つの部材間に介装されて、前記2つの部材が前記振動により相対移動するときに前記滑り材と前記摩擦材との間に発生する摩擦力により、前記振動を減衰する摩擦ダンパーにおいて、
前記滑り材と前記摩擦材は、一方が、前記2つの部材の相対移動方向を長さ方向、前記相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、前記長さ方向に長く、前記長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側を前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数が漸次低減可能に前記幅方向を漸次小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数を低減する部材が組み合わせられ、他方が、前記一方と幅方向を共通とし前記一方の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態のときに前記一方の平面の対称中心で前記他方が接触され、前記2つの部材が前記振動の発生により前記中立の状態から相対移動するときに前記一方に対して前記他方が前記2つの部材の相対移動方向に摺動可能に構成され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、前記滑り材と前記摩擦材は所定の摩擦係数で接触され、
前記2つの部材が相対移動して前記所定の相対移動量を超えた後の前記滑り材と前記摩擦材は両者間の摩擦係数が漸次低減されて接触される、
ことを要旨とする。
【0010】
記目的を達成するために、本発明()は、
振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材の一方に設けられる滑り材と、他方に設けられ、前記滑り材に対して前記所定方向に相対移動可能に重合される摩擦材と、前記滑り材と前記摩擦材に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材とを備え、前記2つの部材間に介装されて、前記2つの部材が前記振動により相対移動するときに前記滑り材と前記摩擦材との間に発生する摩擦力により、前記振動を減衰する摩擦ダンパーにおいて、
前記滑り材と前記摩擦材は、一方が、前記2つの部材の相対移動方向を長さ方向、前記相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、前記長さ方向に長く、前記長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、前記対称中心から両端方向所定の長さのところで前段、後段に分けられて前記各前段が前記滑り材と前記摩擦材との間の接触面積が前記各後段より小さくなるように前記幅方向を前記各後段よりも小さく形成され、前記各後段に続く両端側をそれぞれ前記滑り材と前記摩擦材との間の接触面積が漸次減少可能に前記幅方向を漸次小さく形成され、他方が、前記一方の前記後段と幅方向を共通とし前記一方の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、前記2つの部材が前記振動発生前の中立の状態のときに前記一方の平面の対称中心で前記他方が接触され、前記2つの部材が前記振動の発生により前記中立の状態から相対移動するときに前記一方に対して前記他方が前記2つの部材の相対移動方向に摺動可能に構成され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動を開始して所定の相対移動量よりも小さい所定の相対変位量に達するまで、前記滑り材と前記摩擦材の一方の前段で前記滑り材と前記摩擦材が前記滑り材と前記摩擦材の一方の後段での前記滑り材と前記摩擦材との間の所定の接触面積よりも小さい接触面積で接触され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動して前記所定の相対変位量を超え、前記所定の相対移動量に至るまでの間、前記滑り材と前記摩擦材の一方の後段で前記滑り材と前記摩擦材は前記所定の接触面積で所定の摩擦係数により接触され、
前記2つの部材が相対移動して前記所定の相対移動量を超えた後の前記滑り材と前記摩擦材は両者間の接触面積が漸次減少されて接触される
ことを要旨とする。
また、上記目的を達成するために、本発明(4)は、
振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材の一方に設けられる滑り材と、他方に設けられ、前記滑り材に対して前記所定方向に相対移動可能に重合される摩擦材と、前記滑り材と前記摩擦材に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材とを備え、前記2つの部材間に介装されて、前記2つの部材が前記振動により相対移動するときに前記滑り材と前記摩擦材との間に発生する摩擦力により、前記振動を減衰する摩擦ダンパーにおいて、
前記滑り材と前記摩擦材は、一方が、前記2つの部材の相対移動方向を長さ方向、前記相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、前記長さ方向に長く、前記長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、前記対称中心から両端方向所定の長さのところで前段、後段に分けられて前記各前段が前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数が前記各後段より小さくなるように前記幅方向を前記各後段よりも小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数を低減する部材が組み合わせられ、前記各後段に続く両端側をそれぞれ前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数を漸次低減可能に前記幅方向が漸次小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に前記滑り材と前記摩擦材との間の摩擦係数を低減する部材が組み合わせられ、他方が、前記一方の前記後段と幅方向を共通とし前記一方の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、前記2つの部材が前記振動発生前の中立の状態のときに前記一方の平面の対称中心で前記他方が接触され、前記2つの部材が前記振動の発生により前記中立の状態から相対移動するときに前記一方に対して前記他方が前記2つの部材の相対移動方向に摺動可能に構成され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動を開始して所定の相対移動量よりも小さい所定の相対変位量に達するまで、前記滑り材と前記摩擦材の一方の前段で前記滑り材と前記摩擦材が前記滑り材と前記摩擦材の一方の後段での前記滑り材と前記摩擦材との間の所定の摩擦係数よりも小さい摩擦係数で接触され、
前記2つの部材が前記振動の発生前の中立の状態から前記振動の発生により相対移動して前記所定の相対変位量を超え、前記所定の相対移動量に至るまでの間、前記滑り材と前記摩擦材の一方の後段で前記滑り材と前記摩擦材は前記所定の摩擦係数で接触され、
前記2つの部材が相対移動して前記所定の相対移動量を超えた後の前記滑り材と前記摩擦材は両者間の摩擦係数が漸次低減されて接触される、
ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の摩擦ダンパー(1)によれば、2つの部材が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材と摩擦材が所定の接触面積で所定の摩擦係数により接触され、2つの部材が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材と摩擦材は両者間の接触面積が漸次減少されて接触されるので、2つの部材について所定の相対移動量を適宜定めて、振動により2つの部材が最大変位付近にまで達したとき、又は最大変位に近づくに従って、滑り材と摩擦材との間に発生する摩擦力を漸次低減して、振動の減衰力が漸次低下するように、滑り材と摩擦材との間の接触面積が漸次減少するようにすることで、大地震時など建物の最大層間変位時に、建物架構が大きく変形して、架構に大きな内力が生じ、これにさらに摩擦ダンパーの減衰力が累加されても、この場合の振動の減衰力を適時に漸次小さくして、架構に生じる内力の過度の増大を抑制することができ、簡単な機構でありながら、大地震時に建物の構造体の損傷を確実に防止することができる。
本発明の摩擦ダンパー(2)によれば、2つの部材が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材と摩擦材は所定の摩擦係数で接触され、2つの部材が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材と摩擦材は両者間の摩擦係数が漸次低減されて接触されるので、2つの部材について所定の相対移動量を適宜定めて、振動により2つの部材が最大変位付近にまで達したとき、又は最大変位に近づくに従って、滑り材と摩擦材との間に発生する摩擦力を漸次低減して、振動の減衰力が漸次低下するように、滑り材と摩擦材との間の摩擦係数が漸次低減するようにすることで、大地震時など建物の最大層間変位時に、建物架構が大きく変形して、架構に大きな内力が生じ、これにさらに摩擦ダンパーの減衰力が累加されても、この場合の振動の減衰力を適時に漸次小さくして、架構に生じる内力の過度の増大を抑制することができ、簡単な機構でありながら、大地震時に建物の構造体の損傷を確実に防止することができる。
【0012】
本発明の摩擦ダンパー()によれば、2つの部材が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動を開始して所定の相対移動量よりも小さい所定の相対変位量に達するまで、滑り材と摩擦材の一方の前段で滑り材と摩擦材が滑り材と摩擦材の一方の後段での滑り材と摩擦材との間の所定の接触面積よりも小さい接触面積で接触され、2つの部材が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動して所定の相対変位量を超え、所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材と摩擦材の一方の後段で滑り材と摩擦材が所定の接触面積で所定の摩擦係数により接触され、2つの部材が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材と摩擦材は両者間の接触面積が漸次減少されて接触されるので、2つの部材について所定の相対移動量を適宜定めて、振動により2つの部材が最大変位付近にまで達したとき、又は最大変位に近づくに従って、滑り材と摩擦材との間に発生する摩擦力を漸次低減して、振動の減衰力が漸次低下するように、滑り材と摩擦材と間の接触面積が漸次減少するようにすることで、大地震時など建物の最大層間変位時に、建物架構が大きく変形して、架構に大きな内力が生じ、これにさらに摩擦ダンパーの減衰力が累加されても、この場合の振動の減衰力を適時に漸次小さくして、架構に生じる内力の過度の増大を抑制することができ、簡単な機構でありながら、大地震時に建物の構造体の損傷を確実に防止することができさらに、2つの部材について所定の変位量を適宜定めて、風荷重による外力に対応させることで、風荷重などに対しても有効な振動減衰効果を発揮することができる。
本発明の摩擦ダンパー(4)によれば、2つの部材が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動を開始して所定の相対移動量よりも小さい所定の相対変位量に達するまで、滑り材と摩擦材の一方の前段で滑り材と摩擦材が滑り材と摩擦材の一方の後段での滑り材と摩擦材との間の所定の摩擦係数よりも小さい摩擦係数で接触され、2つの部材が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動して所定の相対変位量を超え、所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材と摩擦材の一方の後段で滑り材と摩擦材は所定の摩擦係数で接触され、2つの部材が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材と摩擦材は両者間の摩擦係数が漸次低減されて接触されるので、2つの部材について所定の相対移動量を適宜定めて、振動により2つの部材が最大変位付近にまで達したとき、又は最大変位に近づくに従って、滑り材と摩擦材との間に発生する摩擦力を漸次低減して、振動の減衰力が漸次低下するように、滑り材と摩擦材との間の摩擦係数が漸次低減するようにすることで、大地震時など建物の最大層間変位時に、建物架構が大きく変形して、架構に大きな内力が生じ、これにさらに摩擦ダンパーの減衰力が累加されても、この場合の振動の減衰力を適時に漸次小さくして、架構に生じる内力の過度の増大を抑制することができ、簡単な機構でありながら、大地震時に建物の構造体の損傷を確実に防止することができ、さらに、2つの部材について所定の変位量を適宜定めて、風荷重による外力に対応させることで、風荷重などに対しても有効な振動減衰効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の各実施の形態における摩擦ダンパーが建物架構のブレースに一体的に組み込まれ、ブレースに適用される状態を示す図
図2】本発明の第1の実施の形態における摩擦ダンパーの構成を示す図((a)は正面図(b)は平面断面図(c)は特に滑り材と摩擦材の構成を示す図(d)は特に滑り材の構成を示す図)
図3】同摩擦ダンパーの作用を示す図
図4】2つの部材(ブレースの各分断部)の相対移動量と同摩擦ダンパーによる振動の減衰力との関係を示す図
図5】本発明の第2の実施の形態における摩擦ダンパーの構成を示す図((a)は正面図(b)は平面断面図(c)は特に滑り材と摩擦材の構成を示す図(d)は特に滑り材の構成を示す図)
図6】同摩擦ダンパーの作用を示す図
図7】本発明の第3の実施の形態における摩擦ダンパーの構成を示す図((a)は正面図(b)は平面断面図(c)は特に滑り材と摩擦材の構成を示す図(d)は特に滑り材の構成を示す図)
図8】同摩擦ダンパーの作用を示す図
図9】2つの部材(ブレースの各分断部)の相対移動量と同摩擦ダンパーによる振動の減衰力との関係を示す図
図10】2つの部材(ブレースの各分断部)の相対移動量と同摩擦ダンパーによる振動の減衰力との関係を示す図
図11】本発明の第4の実施の形態における摩擦ダンパーの構成を示す図((a)は正面図(b)は平面断面図(c)は特に滑り材と摩擦材の構成を示す図(d)は特に滑り材の構成を示す図)
図12】同摩擦ダンパーの作用を示す図
図13】本発明の摩擦ダンパーが建物架構の間柱に一体的に組み込まれ、間柱に適用される状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。
次の各実施の形態では、建物架構に取り付けられるブレースに一体的に組み込まれる摩擦ダンパーについて例示する。
この場合、図1に示すように、建物架構5は鉄骨柱51と鉄骨梁52とを結合して構成される。ブレース53はH形鋼などの鋼材からなり、架構5の柱51と梁52の構面内に左右に対にして、例えば、一方が下梁の右端部と上梁の中央部とを結ぶ線分を所定方向として架け渡しされ、他方が下梁の左端部と上梁の中央部とを結ぶ線分を所定方向として架け渡しされる。この一対のブレース53はそれぞれ、所定の方向適宜の位置で間隔Sにより上下に分断されて、これら上下の分断部531,532は相互に間隔Sによって所定の方向に相対移動可能になっている。なお、これらの分断部531,532が振動の発生により所定方向に相対移動する2つの部材となる。摩擦ダンパー1,2,3,4はブレース53毎に設けられ、それぞれ、ブレース53の一方の分断部531に設けられる一対の滑り材11と、他方の分断部532に一対の圧接板54がボルト止めにより固定されて、これら圧接板54の内側面にそれぞれ設けられる一対の摩擦材12と、これら滑り材11と摩擦材12に圧接力を付与して接触させる面圧導入ボルト131及びこれに面圧用ばね132を介して螺合されるナット133からなる圧接力付与部材13とを備え、各滑り材11の各面に各摩擦材12が所定方向に相対移動可能に重合され、これら各滑り面11、各摩擦材12が圧接力付与部材13により圧接されて構成される。このようにして摩擦ダンパー1,2,3,4は2つの部材であるブレース53の各分断部531,532間に介装されて、ブレース53(各分断部531,532)が振動により相対移動するときに滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力により、振動を減衰するようになっている。
【0015】
図2に第1の実施の形態を示している。図2に示すように、摩擦ダンパー1は、既述のとおり、ブレース53の一方の分断部531に設けられる一対の滑り材11と、他方の分断部532に設けられ、各滑り材11に対して所定方向に相対移動可能に重合される所定の摩擦係数を有する一対の摩擦材12と、これら滑り材11と摩擦材12に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材13とを備える。
この摩擦ダンパー1では、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材11と摩擦材12は所定の摩擦係数及び接触面積で接触され、ブレース53の各分断部531,532が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材11と摩擦材12は両者間の接触面積が漸次減少されて接触される構造を具備する。
【0016】
この場合、ブレース53の一方の分断部531は他方の分断部532に向けて突出する一端側の(ウエブ)各面が各滑り材11の固定部になっている。この一端側の幅方向中央に一方の面から他方の面に貫通して長さ方向に延びる、面圧導入ボルト131を通すための長穴530が所定の長さに形成される。一対の滑り材11はそれぞれステンレス板などにより形成され、摩擦材12に接する面が滑り面になっている。これらの滑り材11はそれぞれ、全体がブレース53の一方の分断部531の一端側の各面の所定の範囲内に重合可能な大きさで、ブレース53の各分断部531,532の相対移動方向を長さ方向、この相対移動方向に対して直角方向を幅方向として、長さ方向に長く、幅方向が均一で、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状に、すなわち、対称中心から両端方向へブレース53の各分断部531,532の所定の相対移動量に対応する長さまでが全体として長方形の平面形状に形成され、滑り材11と摩擦材12の接触面積が漸次減少される部分につき、すなわち、前記所定の相対移動量に対応する長さの位置から両端までが幅方向を漸次小さくして、この場合、略三角形状に形成される。そして、各滑り材11の幅方向中央には、ブレース53の一方の分断部531の長穴530と同様に、一方の面から他方の面に貫通して長さ方向に延びる長穴110が長さ方向中央の対称中心から両端まで同じ所定の長さに形成される。これらの滑り材11はブレース53の一方の分断部531の一端側の各面にビス止めや接着などにより固定される。
また、ブレース53の他方の分断部532に固定される一対の圧接板54はそれぞれ、鋼材などからなる平板で、幅方向をブレース53の幅方向よりも少し短く、長さ方向を滑り材11よりも長く形成されて、他方の分断部532の一方の分断部531に向けて突出する一端の(ウエブ)両面にボルト61及びナット62を介して固定されて、他方の分断部532の延長上に延ばされる。これらの圧接板54には幅方向中央で長さ方向中間の所定の位置に面圧導入ボルト131を通すための円形の穴540が形成される。一対の摩擦材12はそれぞれ鋼材などからなる平板で、両面に所定の摩擦係数を付与するために摩擦材料のコーティングなどが施されて、両面が摩擦面になっている。これらの摩擦材12はそれぞれ、滑り材11と幅方向を共通として滑り材11の平面に部分的に接触可能な断片形状、ここでは円形の平面形状に形成され、また、円形の平面形状の中心には面圧導入ボルト131を通すための円形の穴120が穿たれる。これらの摩擦材12は各圧接板54の内側で面圧導入ボルト131を通すための穴540の周囲に配置され、各圧接板54の各穴540間に通される面圧導入ボルト131により固定される。
滑り材11、摩擦材12はそれぞれ、かかる構造を有し、ブレース53の一方の分断部531の一端に固定された一対の滑り材11の両側(外側)にブレース53の他方の分断部432の圧接板54が摩擦材12を介して重合され、面圧導入ボルト131が一方の圧接板54の穴540の外側に面圧用ばね132を介して一方の圧接板54及び摩擦材12の各穴540、120から挿入され、一方の滑り材11、分断部531及び他方の滑り材11の各長穴110、530、110の中央を通して他方の摩擦材12及び圧接板54の各穴120、540まで貫通され、他方の圧接板54の穴540の外側でナット133に締結されて、各圧接板54間が締め込まれ、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生前の中立の状態のときは滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレース53の各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成される。
【0017】
このようにして摩擦ダンパー1はブレース53の各分断部531,532間に介装されて、ブレース53の各分断部531,532が振動により相対移動するときに滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力により、振動を減衰するようになっている。
図3にこの摩擦ダンパー1の作用を示している。
図3において、建物架構に大地震などによる大きな外力が作用すると、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動し、各分断部531,532が所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材11と摩擦材12が所定の摩擦係数及び接触面積で接触されて、この滑り材11と摩擦材12との間に発生する所定の摩擦力により、振動が有効に減衰される。
そして、ブレース53の各分断部531,532がさらに大きく相対移動し、所定の相対移動量を超えると、滑り材11と摩擦材12は両者間の接触面積が漸次減少されて接触され、この滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力が漸次低減して、振動の減衰力が徐々に低下していく。
図4にブレース53の各分断部531,532の相対移動量とこの摩擦ダンパー1による振動の減衰力との関係を示している。図4から明らかなように、この摩擦ダンパー1では、ブレース53の各分断部531,532が所定の相対移動量に至るまでの間、大きな振動を減衰するのに必要な大きな減衰力が発生し、ブレース53の各分断部531,532が所定の相対移動量を超えると、大きな減衰力が徐々に低下するようになっている。
したがって、この摩擦ダンパー1の使用に当たり、大地震時などでの建物の最大層間変位を想定して、ブレース53の各分断部531,532について所定の相対移動量を定め、大きな振動によりブレース53の各分断部531,532の相対移動量が最大変位付近にまで達したとき、又は最大変位に近づくに従って、滑り材11と摩擦材12との間に発生する大きな摩擦力を漸次低減して、振動の減衰力が漸次低下するようにすることで、大地震時など建物の最大層間変位時に、建物架構が大きく変形して架構に大きな内力が生じ、これにさらに摩擦ダンパー1の減衰力が累加されても、この場合の振動の減衰力は適時に漸次小さくなって、架構に生じる内力の過度の増大が抑制される。
【0018】
以上説明したように、この摩擦ダンパー1によれば、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材11と摩擦材12は所定の摩擦係数及び接触面積で接触し、ブレース53の各分断部531,532が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材11と摩擦材12が両者間の接触面積を漸次減少して接触するようにしたので、建物毎に大地震時の建物架構の振動を考慮して、ブレース53の各分断部531,532について所定の相対移動量を適宜定め、大地震によりブレース53の各分断部531,532が最大変位付近にまで達したときに、又は最大変位に近づくに従って、滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力を漸次低減して、振動の減衰力が漸次低下するように、滑り材11と摩擦材12の所定の接触面積を漸次減少するようにすることで、大地震時の建物架構に過度の反力が生じることがなく、簡単な機構でありながら、大地震時の建物の構造体の損傷を防止することができる。また、この摩擦ダンパーによる補強構造は既存架構に耐力の余裕がない場合にも適用でき、耐震性能を向上させることが可能となる。
【0019】
なお、この実施の形態では、滑り材11が、ブレース53の各分断部531,532の相対移動方向を長さ方向、この相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成され、摩擦材12が、滑り材11と幅方向を共通とし滑り材11の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態のときに滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレース53の各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成されるものとしたが、これとは反対に、摩擦材が、長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向を漸次小さく形成され、滑り材が、摩擦材と幅方向を共通とし摩擦材の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、摩擦材に対して滑り材が摺動可能に構成されるようにしてもよく、このようにしても、第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
図5に第2の実施の形態を示している。図5に示すように、摩擦ダンパー2は、既述のとおり、ブレース53の一方の分断部531に設けられる一対の滑り材11と、他方の分断部532に設けられ、各滑り材11に対して所定方向に相対移動可能に重合される所定の摩擦係数を有する一対の摩擦材12と、これら滑り材11と摩擦材12に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材13とを備える。
この摩擦ダンパー2では、第1の実施の形態の構成において、ブレースの各分断部531,532が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材11と摩擦材12は両者間の接触面積が漸次減少されて接触されるのに代えて、ブレースの各分断部531,532が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材11と摩擦材12は両者間の摩擦係数が漸次低減されて接触される構造になっている。
【0021】
この場合、摩擦ダンパー2は第1の実施の形態と共通の構成を備え、上述の後者の構造を有する点で異なる。ここでは、摩擦ダンパー2の共通の事項について共通の各部に第1の実施の形態と同じ符号を付してその重複した説明を省略することとし、第1の実施の形態と異なる構造について説明を加える。
この摩擦ダンパー2では、滑り材11が、既述のとおり、ブレース53の各分断部531,532の相対移動方向を長さ方向、この相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、長さ方向に長く、幅方向が均一で、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状に、すなわち、対称中心から両端方向にブレース53の各分断部531,532の所定の相対移動量に対応する長さまでが全体として長方形の平面形状に形成され、滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数が漸次低減される部分につき、すなわち、前記所定の相対移動量に対応する長さの位置から両端までが幅方向が漸次小さくなって、この場合、略三角形状に形成される。
そして、この両端側の幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分、この場合、滑り材11と摩擦材12との間の所定の摩擦係数を低くするための滑り材21が組み合わせられる。
この場合、滑り材11と摩擦材12との間の接触面積が漸次減少される部分、すなわち、滑り材11の両端側の所定の範囲が幅方向を漸次小さくして略三角形状に形成され、これら幅方向を漸次小さく形成された分の面積内、すなわち、滑り材11の略三角形の両端の両側の略三角形の範囲に所定の摩擦係数よりも低い摩擦係数の滑り材21が組み合わせられる。なお、摩擦材12は第1の実施の形態と同様である。
滑り材11、摩擦材12はそれぞれ、かかる構造を有し、第1の実施の形態と同様に、ブレース53の一方の分断部531の一端に固定された一対の滑り材11の両側(外側)にブレース53の他方の分断部532の圧接板54が摩擦材12を介して重合され、面圧導入ボルト131が一方の圧接板54の穴540の外側に面圧用ばね132を介して一方の圧接板54及び摩擦材12の各穴540、120から挿入され、一方の滑り材11、一方の分断部531及び他方の滑り材11の各長穴110、530、110の中央を通して他方の摩擦材12及び圧接板54の各穴120、540まで貫通され、他方の圧接板54の穴540の外側でナット133に締結されて、各圧接板54間が締め込まれ、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態のときは滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレース53の各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成される。
【0022】
このようにして摩擦ダンパー2はブレース53の各分断部531,532間に介装されて、ブレース53の各分断部531,532が振動により相対移動するときに滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力により、振動を減衰するようになっている。
図6にこの摩擦ダンパーの作用を示している。
図6において、建物架構に大地震などによる大きな外力が作用すると、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動し、各分断部531,532が所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材11と摩擦材12が所定の摩擦係数及び接触面積で接触されて、この滑り材11と摩擦材12との間に発生する所定の摩擦力により、振動が有効に減衰される。
そして、ブレース53の各分断部531,532が大きく相対移動して、所定の相対移動量を超えると、滑り材11と摩擦材12は両者間の接触面積が漸次減少されて接触されるとともに、この接触面積が漸次減少されるにつれて、この接触面積が減少する分だけ、摩擦材12と所定の摩擦係数よりも低い滑り材21が両者間の接触面積を漸次増大して接触され、全体として滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数が漸次低減されて、この滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力が漸次減少し、大地震荷重による振動が徐々に減衰される。
したがって、この摩擦ダンパー2の使用に当たり、大地震時などの建物の最大層間変位を想定して、ブレース53の各分断部531,532について所定の相対移動量を定め、大地震荷重によりブレース53の各分断部531,532の相対移動量が最大変位付近にまで達したとき、又は最大変位に近づくに従って、滑り材11と摩擦材12との間に発生する大きな摩擦力が漸次低減して、大きな振動の減衰力が漸次低下するようにすることで、大地震時など建物の最大層間変位時に、建物架構が大きく変形して架構に大きな内力が生じ、これにさらに摩擦ダンパー2の減衰力が累加されても、この場合の振動の減衰力が適時に漸次小さくなって、架構に生じる内力の過度の増大が抑制される。
【0023】
このようにしても、第1の実施の形態と概ね同様の作用効果を得ることができ、特に、この摩擦ダンパー2では、滑り材11が長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分、この場合、所定の摩擦係数を低くするための滑り材21が組み合わせられ、このような滑り材11、21に対して摩擦材12が摺動されるので、摩擦係数の異なる滑り材11、21の組み合わせにより、滑り材11と摩擦材12との間の摩擦力を適宜変更することができ、振動の減衰力を種々に調整することができる。
【0024】
なお、この実施の形態では、滑り材11が、ブレース53の各分断部531,532の相対移動方向を長さ方向、この相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成され、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分が組み合わせられ、摩擦材12が、滑り材11と幅方向を共通とし滑り材11の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態のときに滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレースの各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成されるものとしたが、これとは反対に、摩擦材が、長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成され、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材と摩擦材との間の摩擦係数を低減する部分が組み合わせられ、滑り材が、摩擦材の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、摩擦材に対して滑り材が摺動可能に構成されるようにしてもよく、このようにしても第2の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0025】
図7に第3の実施の形態を示している。図7に示すように、摩擦ダンパー3は、既述のとおり、ブレース53の一方の分断部531に設けられる一対の滑り材11と、他方の分断部532に設けられ、各滑り材11に対して所定方向に相対移動可能に重合される所定の摩擦係数を有する一対の摩擦材12と、これら滑り材11と摩擦材12に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材13とを備える。
この摩擦ダンパー3では、第1の実施の形態と同様に、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生前の中立の状態から振動の発生により相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材11と摩擦材12は所定の摩擦係数及び接触面積で接触され、ブレース53の各分断部531,532が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材11と摩擦材12は両者間の接触面積が漸次減少されて接触される構造を有し、また、第1の実施の形態とは異なり、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から所定の相対移動量に至るまでの間が、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動を開始して所定の相対移動量よりも小さい所定の相対変位量に達するところで前段31、後段32に分けられ、前段31では滑り材11と摩擦材12が後段32での滑り材11と摩擦材12との間の接触面積よりも小さい接触面積で接触される構造をさらに具備する。
【0026】
この場合、摩擦ダンパー3は第1の実施の形態と共通の構成を備え、上述の後者の構造を有する点で異なる。ここでは、摩擦ダンパー3の共通の事項については共通の各部に第1の実施の形態と同じ符号を付してその重複した説明を省略することとし、第1の実施の形態と異なる構造について説明を加える。
この摩擦ダンパー3では、各滑り材11、各圧接板54の長さが第1の実施の形態のものと比べて若干長くなっていて、滑り材11は、前段31の部分につき幅方向が小さく形成され、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態のときに滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレース53の各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成される。
この場合、滑り材11の対称中心から両端方向に向けて所定の長さまでが前段31で、前段31は幅方向が後段31よりも小さく、この場合、全体として長方形に形成されて、滑り材11と摩擦材12との間の接触面積が小さく形成され、これに続く後段32及び両端側の大きさ及び形状は第1の実施の形態の滑り材11と概ね同じ大きさ、形状になっている。なお、摩擦材12は第1の実施の形態と同様である。
滑り材11、摩擦材12はそれぞれ、かかる構造を有し、第1の実施の形態と同様に、ブレース53の一方の分断部531の一端に固定された一対の滑り材11の両側(外側)にブレース53の他方の分断部532の圧接板54が摩擦材12を介して重合され、面圧導入ボルト131が一方の圧接板54の穴540の外側に面圧用ばね132を介して一方の圧接板54及び摩擦材12の各穴540、120から挿入され、一方の滑り材11、一方の分断部531及び他方の滑り材11の各長穴110、530、110の中央を通して他方の摩擦材12及び圧接板54の各穴120、540まで貫通され、他方の圧接板54の穴540の外側でナット133に締結されて、各圧接板54間が締め込まれ、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態のときは滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレース53の各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成される。
【0027】
このようにして摩擦ダンパー3はブレース53の各分断部531,532間に介装されて、ブレース53の各分断部531,532が振動により相対移動するときに滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力により、振動を減衰するようになっている。
図8にこの摩擦ダンパー3の作用を示している。
図8において、建物架構に風荷重などによる小さな外力が作用すると、各ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動し、各分断部531,532が所定の変位量に達するまでの間、滑り材11と摩擦材12が前段31で、後段32での滑り材11と摩擦材12との間の接触面積よりも小さい接触面積で接触されて、後段32での滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力よりも小さな摩擦力により、振動が有効に減衰される。
また、建物架構に大地震などによる大きな外力が作用すると、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動し、各分断部531,532が所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材11と摩擦材12が後段32での所定の摩擦係数及び接触面積で接触されて、この滑り材11と摩擦材12との間に発生する所定の大きな摩擦力により、振動が有効に減衰される。
そして、各ブレース53の各分断部531,532がさらに大きく相対移動し、所定の相対移動量を超えると、滑り材11と摩擦材12は両者間の接触面積が漸次減少されて接触され、この滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力が漸次低減し、振動の減衰力が徐々に低下していく。
図9にブレース53の各分断部531,532の相対移動量とこの摩擦ダンパー3による振動の減衰力との関係を示している。図9から明らかなように、この摩擦ダンパー3では、風荷重などの小さな外力によりブレース53の各分断部531,532が中立の状態から所定の変位量に達するまでの間、すなわち前段31では、この小さな振動を減衰するのに必要な小さな減衰力(摩擦力)が発生して当該小さな振動を減衰し、地震荷重などの大きな外力によりブレース53の各分断部531,532が中立の状態から所定の変位量を超えて所定の相対移動量に至るまで、すなわち、後段32ではこの大きな振動を減衰するのに必要な大きな減衰力(摩擦力)が発生して当該大きな振動を減衰し、ブレース53の各分断部531,532が所定の相対移動量を超えると、大きな減衰力(摩擦力)が徐々に低下するようになっている。なお、この場合、風対策の領域は狭く、ダンパー速度が最大になり、通過時間が短いので、減衰力低下の影響は少ない(図10参照)。
したがって、この摩擦ダンパー3の使用に当たり、建物に対する風対策として風荷重を考慮して、ブレース53の各分断部531,532について所定の相対変位量を定め、風荷重によりブレース53の各分断部531,532の相対移動量が所定の相対変位量に達するまでは、風荷重に対応する小さな減衰力を発生するようにすることで、風などによる小さな外力に対しても有効となり、また、大地震時などの建物の最大層間変位を想定して、ブレース53の各分断部531,532について所定の相対移動量を決定し、大地震荷重によりブレース53の各分断部531,532の相対移動量が最大変位付近にまで達したとき、又は最大変位に近づくに従って、滑り材11と摩擦材12との間に発生する大きな摩擦力を漸次低減して、振動の減衰力が漸次低下するようにすることで、大地震時など建物の最大層間変位時に、建物架構が大きく変形して架構に大きな内力が生じ、これにさらに摩擦ダンパー3の減衰力が累加されても、この場合の振動の減衰力は適時に漸次小さくなって、架構に生じる内力の過度の増大が抑制される。
【0028】
以上説明したように、この摩擦ダンパー3によれば、第1の実施の形態と共通の構成により同様の作用効果を得ることができる他、さらに、この摩擦ダンパー3では、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動して所定の相対移動量に至るまでの間が、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動を開始して所定の相対移動量よりも小さい所定の相対変位量に達するところで前段31、後段32に分けられ、前段31では滑り材11と摩擦材12が後段32での滑り材11と摩擦材12との間の接触面積よりも小さい接触面積で接触されるので、風荷重を考慮して、ブレース53の各分断部531,532について所定の相対変位量を適宜定め、風荷重による外力に対応させることで、風荷重などに対しても有効な振動減衰効果を発揮することができる。このように風等から大地震まで対応できるようにしたので、既存架構に耐力の余裕がない場合にも適用でき、耐震性能を向上させることが可能となる。
【0029】
なお、この実施の形態では、滑り材11が、ブレース53の各分断部531,532の相対移動方向を長さ方向、この相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成され、また、前段31の部分につき幅方向が小さく形成され、摩擦材12が、滑り材11と幅方向を共通とし滑り材11の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態のときに滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレース53の各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成されるものとしたが、これとは反対に、摩擦材が長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成され、また、前段31の部分につき幅方向が小さく形成され、滑り材が、摩擦材の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、摩擦材に対して摺動可能に構成されるようにしてもよく、このようにしても第3の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0030】
図11に第4の実施の形態を示している。図11に示すように、摩擦ダンパー4は、既述のとおり、ブレース53の一方の分断部531に設けられる一対の滑り材11と、他方の分断部532に設けられ、各滑り材11に対して所定方向に相対移動可能に重合される所定の摩擦係数を有する一対の摩擦材12と、これら滑り材11と摩擦材12に圧接力を付与して接触させる圧接力付与部材13とを備える。
この摩擦ダンパー4では、第3の実施の形態の構成において、ブレース53の各分断部531,532が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材11と摩擦材12は両者間の接触面積が漸次減少されて接触されるのに代えて、ブレース53の各分断部531,532が相対移動して所定の相対移動量を超えた後の滑り材11と摩擦材12は両者間の摩擦係数が漸次低減されて接触され、前段31では滑り材11と摩擦材12が後段32での滑り材11と摩擦材12との間の接触面積よりも小さい接触面積で接触されるのに代えて、前段31では滑り材11と摩擦材12が後段32での滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数よりも低い摩擦係数で接触される構造になっている。
【0031】
この場合、摩擦ダンパー4は第3の実施の形態と共通の構成を備え、上述の各後者の構造を有する点で異なる。ここでは、摩擦ダンパー4の共通の事項について共通の各部に第3の実施の形態と同じ符号を付してその重複した説明を省略することとし、第3の実施の形態と異なる構造について説明を加える。
この摩擦ダンパー4では、滑り材11は、両端側の滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数が漸次低減される部分につき幅方向が漸次小さく形成され、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分が組み合わせられ、前段31では滑り材11と摩擦材12が後段32での滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数よりも低い摩擦係数で接触される部分につき幅方向が小さく形成され、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分が組み合わせられる。
この場合、滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数が漸次低減される部分、すなわち、滑り材11の両端側の所定の範囲が幅方向を漸次小さくして略三角形状に形成され、これら幅方向を漸次小さく形成した分の面積内、すなわち、滑り材11の略三角形の両端の両側の略三角形の範囲に所定の摩擦係数よりも低い摩擦係数となるように滑り材21が組み合わせられ、また、滑り材11の対称中心から両端方向に向けて所定の長さまでが前段31で、前段31は幅方向が後段32よりも小さい長方形状に形成され、これら幅方向を漸次小さく形成した分の面積内、すなわち、滑り材11の長方形状の前段31の両側の長方形の範囲にそれぞれ、所定の摩擦係数よりも低い摩擦係数となるように滑り材41が組み合わせられる。なお、摩擦材12は第3の実施の形態と同様である。
滑り材11、摩擦材12はそれぞれ、かかる構造を有し、第3の実施の形態と同様に、ブレース53の一方の分断部531の一端に固定された一対の滑り材11の両側(外側)にブレース53の他方の分断部532の圧接板54が摩擦材12を介して重合され、面圧導入ボルト131が一方の圧接板54の穴540の外側に面圧用ばね132を介して一方の圧接板54及び摩擦材12の各穴540、120から挿入され、一方の滑り材11、一方の分断部531及び他方の滑り材11の各長穴110、530、110の中央を通して他方の摩擦材12及び圧接板54の各穴120、540まで貫通され、他方の圧接板54の穴540の外側でナット133に締結されて、各圧接板54間が締め込まれ、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態のときは滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレース53の各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成される。
【0032】
このようにして摩擦ダンパー4はブレース53の各分断部531,532間に介装されて、ブレース53の各分断部531,532が振動により相対移動するときに滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力により、振動を減衰するようになっている。
図12にこの摩擦ダンパー4の作用を示している。
図12において、建物架構に風荷重などによる小さな外力が作用すると、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動し各分断部531,532が所定の変位量に達するまでの間、滑り材11と摩擦材12が後段32での滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数よりも小さい摩擦係数で接触されて、後段32での滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力よりも小さな摩擦力により、風荷重による振動が有効に減衰される。
また、建物架構に大地震などによる大きな外力が作用すると、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態から相対移動し、各分断部531,532が所定の相対移動量に至るまでの間、滑り材11と摩擦材12が所定の摩擦係数及び接触面積で接触されて、この滑り材11と摩擦材12との間に発生する所定の大きな摩擦力により、振動が有効に減衰される。
そして、ブレース53の各分断部531,532が大きく相対移動して、所定の相対移動量を超えると、滑り材11と摩擦材12は両者間の摩擦係数が漸次減少されて接触され、この滑り材11と摩擦材12との間に発生する摩擦力が漸次減少し、振動の減衰力が徐々に低下していく。
したがって、この摩擦ダンパー4の使用に当たり、建物に対する風対策として風荷重を考慮して、ブレース53の各分断部531,532について所定の相対変位量を定め、風荷重によりブレース53の各分断部531,532の相対移動量が所定の相対変位量に達するまでは、風荷重に対応する小さな減衰力を発生するようにすることで、風などによる小さな外力に対しても有効となり、また、大地震時などでの建物の最大層間変位を想定して、ブレース53の各分断部531,532について所定の相対移動量を定め、大地震荷重によりブレース53の各分断部531,532の相対移動量が最大変位付近にまで達したとき、又は最大変位に近づくに従って、滑り材11と摩擦材12との間に発生する大きな摩擦力を漸次低減して、振動の減衰力が漸次低下するようにすることで、大地震時など建物の最大層間変位時に、建物架構が大きく変形して架構に大きな内力が生じ、これにさらに摩擦ダンパー4の減衰力が累加されても、この場合の振動の減衰力は適時に漸次小さくなって、架構に生じる内力の過度の増大が抑制される。
【0033】
このようにしても、第3の実施の形態と概ね同様の作用効果を得ることができ、特に、この摩擦ダンパー4では、滑り材11が長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分、この場合、所定の摩擦係数を低くするための滑り材21が組み合わせられ、また、前段31の部分につき幅方向が小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分、この場合、所定の摩擦係数を低くするための滑り材41が組み合わせられ、このような滑り材11、41、21に対して摩擦材12が摺動されるので、摩擦係数の異なる滑り材11、41、21の組み合わせにより、滑り材11と摩擦材12との間の摩擦力を適宜変更することができ、振動の減衰力を種々に調整することができる。
【0034】
なお、この実施の形態では、滑り材11が、ブレース53の各分断部531,532の相対移動方向を長さ方向、この相対移動方向に対して直角の方向を幅方向として、長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分が組み合わせられ、また、前段31の部分につき幅方向が小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に滑り材11と摩擦材12との間の摩擦係数を低減する部分が組み合わせられ、摩擦材12が、滑り材11と幅方向を共通とし滑り材11の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、ブレース53の各分断部531,532が中立の状態のときに滑り材11と摩擦材12が滑り材11の平面の対称中心で接触され、ブレース53の各分断部531,532が振動の発生により相対移動するときに滑り材11に対して摩擦材12がブレース53の各分断部531,532の相対移動方向に摺動可能に構成されるものとしたが、これとは反対に、摩擦材が長さ方向に長く、長さ方向中央を対称中心として対称的な平面形状をなし、両端側の部分につき幅方向が漸次小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に摩擦材と滑り材との間の摩擦係数を低減する部分が組み合わせられ、また、前段の部分につき幅方向が小さく形成されて、この幅方向を小さくした分の面積内に摩擦材と滑り材との間の摩擦係数を低減する部分が組み合わせられ、滑り材が、摩擦材と幅方向を共通とし摩擦材の平面の一部に接触可能な断片状の平面形状に形成されて、摩擦材に対して滑り材が摺動可能に構成されるようにしてもよく、このようにしても第4の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0035】
また、各実施の形態においては、建物架構のブレースに組み込まれる摩擦ダンパーついて例示したが、これらの摩擦ダンパー1、2、3、4の構造は図13に示すような間柱など、建物架構の相対移動する一対の鉄骨部材間に組み込まれる摩擦ダンパーについても同様に適用することができ、同様の作用効果を奏することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 摩擦ダンパー
11 滑り材
110 長穴
12 摩擦材
120 穴
13 圧接力付与部材
131 面圧導入ボルト
132 面圧用ばね
133 ナット
2 摩擦ダンパー
21 滑り材
3 摩擦ダンパー
31 前段
32 後段
4 摩擦ダンパー
41 滑り材
5 建物架構
51 鉄骨柱
52 鉄骨梁
53 ブレース
530 長穴
531、532 分断部
S 間隔
54 圧接板
540 穴
61 ボルト
62 ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13