特許第6178115号(P6178115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178115
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】測長装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/02 20060101AFI20170731BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20170731BHJP
   G01D 5/12 20060101ALI20170731BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALN20170731BHJP
【FI】
   G01B21/02 S
   G01B7/00 101H
   G01D5/12 Q
   !B23Q17/22 E
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-114013(P2013-114013)
(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2014-232080(P2014-232080A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】平岡 祐典
(72)【発明者】
【氏名】飯島 淳
【審査官】 眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−105808(JP,U)
【文献】 特開2009−139377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00−21/32
G01B 7/00
G01D 5/12
B23Q 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目盛が記録されたスケール本体と、上記スケール本体に対し相対的にスライド可能に設けられ、上記スケール本体に記録された目盛を検出するセンサを備えたスライダユニットと、上記センサにより得られる検出信号が供給される信号処理部を収納したヘッド部筐体とにより構成され、上記ヘッド部筐体と連結部を介して一体に設けられた支持部により、上記スライダユニットが支持された測長装置であって、
少なくとも上記ヘッド部筐体内の発熱部分である上記信号処理部の近傍領域であって、上記ヘッド部筐体の取り付け固定点よりも上記ヘッド部筐体の上記連結部側の壁縁に沿った領域に、上記ヘッド部筐体が取り付け固定される被取り付け面への接触面を有し、上記ヘッド部筐体から上記連結部に伝達される熱量を減少させ、上記支持部により支持された上記スライダユニットの上記ヘッド部筐体の取り付け固定点に対する位置ずれを抑える第1の熱変形抑止手段と、
上記支持部による上記センサの支持点よりも上記スライダユニットのスライド方向の外側まで延長した延長部を上記連結部に有し、上記支持部により支持された上記スライダユニットの上記ヘッド部筐体の取り付け固定点に対する位置ずれを抑える第2の熱変形抑止手段を備えることを特徴とする測長装置。
【請求項2】
上記連結部の筐体側端部は、上記接触面のある縁部に突設されていることを特徴とする請求項1記載の測長装置。
【請求項3】
上記接触面は、上記ヘッド部筐体の上記連結部側の壁縁に沿って少なくとも上記連結部の全長に亘って形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1項に記載の測長装置。
【請求項4】
上記連結部は、上記ヘッド部筐体から上記支持部に向かって上記スライダユニットのスライド方向に拡幅された板状に形成され、上記支持部が設けられた長縁部分にスライド方向と交叉するスリットを有することを特徴とする請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の測長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金属加工用の工作機械や産業機械、ロボット等に用いられる測長装置に関し、特に、自身の温度変化による測定精度の劣化を抑止するようにした測長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の工作機械や産業用ロボット等の本体機器には、テーブル等の可動部の移動量や移動位置を検出するための測長装置が備え付けられている。
【0003】
一般にこの種の測長装置は、目盛が記録されたスケール本体と、上記スケール本体に対し相対的にスライド可能に設けられ、上記スケール本体に記録された目盛を検出するセンサを備えたスライダユニットとにより構成されている。
【0004】
例えば、工作機械等の基準面側に長尺のスケール本体が取り付けられ、工具台(移動テーブル)側には、スライダユニットが上記スケール本体と対向するように設けられる。
【0005】
この場合、スケール本体とスライダユニットとが相対的に移動され、その移動に伴って、目盛り検出信号がセンサにより得られ、測長装置(リニアエンコーダ)として使用される。
【0006】
すなわち、上記センサにより得られる目盛り検出信号は、信号処理部に供給され、波形成形処理や補間処理などの各種信号処理が施されることにより、上記スケール本体とスライダユニットとの相対的移動距離を示す測長情報や絶対位置情報に変換される。
【0007】
上記信号処理部は、上記スライダユニットを支持する支持部(キャリア)を設けたヘッド部筐体内に収納され、上記ヘッド部筐体がカバーにより閉じられることにより、実際の使用環境で切削油などから保護される。
【0008】
ところで、このような構造の測長装置では、上記スケール本体に対し相対移動可能に設置されるスライダユニットの支持構造の機械的な位置ずれや取り付け誤差、構成部品の部品公差などが検出精度誤差の原因になる。
【0009】
そこで、スライダユニットを上記スケール本体に対する相対移動方向の片側でカップリング部材を介して支持する構造のキャリアを用いるようにしたスケール装置が先に提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような構造のキャリアを用いることにより、取付誤差、部品公差、あるいは組立誤差等に起因する検出精度誤差が修正され、キャリアとスライダとの間で伝達される力が高い精度となり、極めて精度の高い測定が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−87552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述の如く、スケール本体に対する相対移動方向の片側でカップリング部材を介してスライダユニットを支持する構造のキャリアを採用することにより、取付誤差、部品公差、あるいは組立誤差等に起因する検出精度誤差を修正して極めて精度の高い測定が可能となるのであるが、より高精度の測長結果を得るためには、スライダユニットを支持する構造のキャリアに温度変化による変形が生じないようにする必要がある。
【0012】
従来、温度変動環境で使用する際の、ヘッド部筐体の変形を避けるため、ヘッド部筐体とカバーの材質は同材質とするか、異なる材質であっても、寸法のばらつきや、相互の部品の干渉を避けるために、ヘッド部筐体とカバーとは隙間を設けるのが通常設計となっていた。
【0013】
しかしながら、従来の設計手法では、ヘッド部筐体内に収納されている信号処理部が発熱すると、ヘッド部筐体が発熱の影響を受け、大きく変形してしまうことがあり、上記ヘッド部筐体の変形に伴い、スライダユニットを支持するキャリアにも変形が生じてしまい、測定誤差となってしまう。
【0014】
そこで、本発明は、上述の如き従来の実情に鑑み、ヘッド部筐体と一体に設けられた支持部により支持されたスライダユニットの上記ヘッド部筐体の取り付け固定点に対する上記ヘッド部筐体の熱変形による位置ずれを抑え、高い精度の測長を可能にした測長装置を提供することを目的とする。
【0015】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、スケール本体に記録された目盛を検出するセンサにより得られる検出信号が供給される信号処理部を収納するヘッド部筐体内の発熱部分である上記信号処理部の近傍領域であって、上記ヘッド部筐体の取り付け固定点よりも上記ヘッド部筐体の連結部側の壁縁に沿った領域に、上記ヘッド部筐体が取り付け固定される被取り付け面への接触面を設け、上記ヘッド部筐体の上記連結部側の側縁の熱を上記接触面を介して上記被取り付け面に伝達することにより、上記ヘッド部筐体と上記連結部を介して一体に設けられた支持部により支持されたスライダユニットの上記ヘッド部筐体の取り付け固定点に対する位置ずれを抑える。
【0017】
すなわち、本発明は、目盛が記録されたスケール本体と、上記スケール本体に対し相対的にスライド可能に設けられ、上記スケール本体に記録された目盛を検出するセンサを備えたスライダユニットと、上記センサにより得られる検出信号が供給される信号処理部を収納したヘッド部筐体とにより構成され、上記ヘッド部筐体と連結部を介して一体に設けられた支持部により、上記スライダユニットが支持された測長装置であって、少なくとも上記ヘッド部筐体内の発熱部分である上記信号処理部の近傍領域であって、上記ヘッド部筐体の取り付け固定点よりも上記ヘッド部筐体の上記連結部側の壁縁に沿った領域に、上記ヘッド部筐体が取り付け固定される被取り付け面への接触面を有し、上記ヘッド部筐体から上記連結部に伝達される熱量を減少させ、上記支持部により支持された上記スライダユニットの上記ヘッド部筐体の取り付け固定点に対する位置ずれを抑える第1の熱変形抑止手段と、上記支持部による上記センサの支持点よりも上記スライダユニットのスライド方向の外側まで延長した延長部を上記連結部に有し、上記支持部により支持された上記スライダユニットの上記ヘッド部筐体の取り付け固定点に対する位置ずれを抑える第2の熱変形抑止手段を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る測長装置において、上記連結部の筐体側端部は、例えば、上記接触面のある縁部に突設されているものとすることができる。
【0019】
また、本発明に係る測長装置において、上記接触面は、例えば、上記ヘッド部筐体の上記連結部側の壁縁に沿って少なくとも上記連結部の全長に亘って形成されているものとすることができる。
【0021】
さらに、本発明に係る測長装置において、上記連結部は、例えば、上記ヘッド部筐体から上記支持部に向かって上記スライダユニットのスライド方向に拡幅された板状に形成され、上記支持部が設けられた長縁部分にスライド方向と交叉するスリットを有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、ヘッド部筐体の連結部側の側縁の熱を接触面を介して上記ヘッド部筐体の被取り付け面に伝達することにより、上記ヘッド部筐体と上記連結部を介して一体に設けられた支持部により支持されたスライダユニットの上記ヘッド部筐体の取り付け固定点に対する位置ずれを抑え、高い精度の測長を可能にした測長装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明を適用した測長装置の構成を示す外観斜視図である。
図2】上記測長装置の一部縦断側面図である。
図3】上記測長装置のヘッド部の外観を示す斜視図であり、(A)は上記ヘッド部を斜め上方から見て示した外観斜視図、(B)は、上記ヘッド部を裏返して斜め上方から見て示した外観斜視図である。
図4】上記ヘッド部の分解斜視図である。
図5】上記ヘッド部の側面図である。
図6】上記測長装置の設置状態を示す外観斜視図である。
図7】上記測長装置の一部横断平面図である。
図8】上記測長装置と従来の測長装置におけるヘッド部筐体からの熱の伝達状態を示す要部断面であり、(A)は従来の測長装置におけるヘッド部筐体からの熱の伝達状態を示し、(B)は本発明を適用した測長装置におけるヘッド部筐体からの熱の伝達状態を示す。
図9】従来の測長装置と上記測長装置における各ヘッド部の熱変形状態示す平面図であり、(A)は従来の測長装置におけるヘッド部の熱変形状態を示し、(B)は本発明に係る上記測長装置におけるヘッド部の熱変形状態を示している。
図10】従来の測長装置における熱変形前後における支持部の変形量を示す図である。
図11】上記測長装置におけるヘッド部の連結部に延長部を設けた上記ヘッド部の底面図である。
図12】上記ヘッド部の連結部における延長部の有無によるスライダ支持部の変形量の変化を比較して示す図である。
図13】上記連結部に延長部を設けたヘッド部の熱変形状態を示す平面図である。
図14】上記測長装置におけるヘッド部筐体の温度上昇の状況を従来の測長装置の場合と比較して示す図である。
図15】上記測長装置における連結部の温度上昇の状況を従来の測長装置の場合と比較して示す図である。
図16】上記測長装置におけるスライダユニットの温度上昇の状況を従来の測長装置の場合と比較して示す図である。
図17】上記測長装置におけるキャリア変形量の変化状況を従来の測長装置の場合と比較して示す図である。
図18】上記測長装置におけるヘッド部の連結部に更にスリット設けた上記ヘッド部の底面図である。
図19】上記連結部にスリットを設けたヘッド部の熱変形状態を示す平面図である。
図20】測長装置の改良前後のキャリア変形シミュレーションの結果を一覧にして示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
本発明は、例えば図1図2に示すような構成の測長装置100に適用される。図1は、本発明を適用した測長装置100の構成を示す外観斜視図であり、図2は、上記測長装置100の一部縦断側面図である。
【0026】
この測長装置100は、スケール部10とヘッド部20からなる。
【0027】
スケール部10は、目盛が記録された長尺なスケール本体11と、このスケール本体11を収納したスケールケース12からなる。スケールケース12は、スケール本体11の長手方向に沿って一側が開放されている。
【0028】
ヘッド部20は、上記スケール本体11に対し相対的にスライド可能に設けられスライダユニット30と、カバー41により閉じられたヘッド部筐体40とにより構成されている。また、このヘッド部20は、上記ヘッド部筐体40と一体に設けられ、上記カバー41と対向する壁42から突設された連結部43を備え、上記スライダユニット30が、上記連結部43の先端側両端部分に設けられた支持部43A,43Bにより、上記スケールケース12内において、上記スケール本体11に対する相対移動方向の両側で支持されている。
【0029】
なお、上記スケール本体11は、例えば計測方向の絶対値を表すMコードパターン(アブソリュートパターン)を磁気記録したアブソリュート(ABS)トラックと、上記計測方向に沿ってS極とN極が交互に規則正しく並んだインクリメンタル(INC)トラックを有する磁気スケールである。
【0030】
上記ヘッド部20を斜め上方から見て示した外観斜視図及び上記ヘッド部20を裏返して斜め上方から見て示した外観斜視図を図3の(A),(B)に示す。図3の(A),(B)に示すように、スライダユニット30には、上記スケール本体11に記録された目盛を検出するセンサ31が上記スケール本体11との対向面に設けられている。
【0031】
そして、この測長装置100は、図3の(A),(B)に示すように、上記ヘッド部筐体40の上面壁及び下面壁の上記連結部43側の壁縁に沿った領域に、上記ヘッド部筐体40が取り付け固定される被取り付け面への接触面46A,46Bを有する。
【0032】
また、上記ヘッド部20の分解斜視図及び組み立てた状態の側面図を図4及び図5に示すように、ヘッド部筐体40には、上記センサ31により得られる検出信号が供給される信号処理部44等が収納されている。そして、このヘッド部筐体40は、上記信号処理部44等を収納した状態で、上記カバー41が螺子50により取り付けられて密閉されている。また、上記連結部43は、その筐体側端部が上記接触面46Bのある縁部に突設されている。
【0033】
なお、この測長装置100では、上記センサ31として、上記スケール本体11に磁気記録されたアブソリュート(ABS)トラックとインクリメンタル(INC)トラックから目盛情報を検出する例えばMRセンサが用いられている。
【0034】
そして、この測長装置100において、上記ヘッド部筐体40及び該ヘッド部筐体40と一体に設けられた支持部43A,43Bはアルミニウムからなり、上記カバー41は亜鉛からなる。ここで、亜鉛の線膨張率は27×10−6/℃であり、アルミニウムの線膨張率(21×10−6/℃)よりも大きい。
【0035】
この測長装置100は、例えば、図6の外観斜視図に示すように、上記スケール本体11をスケールケース12に収納してなるスケール部10が、取り付け基板110を介して工作機械等の基準面側に取り付けられ、上記スケールケース12内において、上記スケール本体11に対する相対移動方向の片側で上記スライダユニット30を支持する支持部43A,43Bが一体に設けられ、上記センサ31により得られる検出信号が供給される信号処理部44を収納し、カバー41により閉じられたヘッド部筐体40とにより構成される上記ヘッド部20が取り付け基板120を介して工具台(移動テーブル)側に取り付けられて使用される。上記ヘッド部筐体40には、その横断平面面を図7に示すように、2つの取り付け穴70A,70Bが設けられており、上記ヘッド部20は、上記2つの取り付け穴70A,70Bに挿入される螺子71A,71Bにより上記取り付け基板120に取り付け固定される。
【0036】
この測長装置100では、このように上記ヘッド部筐体40に設けられた2つの取り付け穴70A,70Bに挿入される螺子71A,71Bにより上記ヘッド部20が上記取り付け基板120に取り付け固定されるので、上記ヘッド部筐体40に一体的に設けられた上記支持部43A,43Bにより支持された上記スライダユニット30の上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点、すなわち、上記取り付け基板120に螺子71A,71Bにより取り付け固定される上記ヘッド部筐体40に設けられている上記2つの取り付け穴70A,70Bの位置に対する上記スライダユニット30の位置及び姿勢が変化すると測定誤差が発生することになる。すなわち、上記ヘッド部筐体40に内蔵された上記信号処理部44等が消費電力の影響で発熱すると、その熱の影響で、上記ヘッド部20が膨張、変形し、上記ヘッド部20に支持されたセンサ31が上記ヘッド部20の膨張、変形に伴い移動してしまい、測定値に誤差を生じる。
【0037】
そこで、この測長装置100において、上記ヘッド部筐体40の上面壁及び下面壁の上記連結部43側の壁縁42に沿った領域に設けられた上記接触面46A,46B、すなわち、この本発明の実施の形態における上記ヘッド部筐体40が取り付け固定される被取り付け面への接触面46Bは、上記ヘッド部筐体40から上記連結部43に伝達される熱量を減少させ、上記支持部43A,43Bにより支持された上記スライダユニット30の上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点、すなわち、上記取り付け基板120に螺子71A,71Bにより取り付け固定される上記ヘッド部筐体40に設けられている上記2つの取り付け穴70A,70Bの位置に対する位置ずれを抑える第1の熱変形抑止手段として機能するようになっている。
【0038】
なお、この測長装置100は、上記接触面46Aが被取り付け面に接触する状態に設置すれば、上記接触面46Aが第1の熱変形抑止手段として機能する。
【0039】
上記取り付け基板120に螺子71A,71Bにより取り付け固定される上記2つの取り付け穴70A,70Bの周囲の円環状の領域のみを被取り付け面への接触面としたヘッド部筐体40’を従来の測長装置のヘッド部20’では備えていたので、図8の(A)に示すように、従来の測長装置のヘッド部20’では、上記ヘッド部筐体40’から上記連結部43’に大量の熱が伝達されてしまっていたが、本発明の実施の形態に係る測長装置100では、上記ヘッド部筐体40に設けられた2つの取り付け穴70A,70Bに挿入される螺子71A,71Bにより上記ヘッド部20が上記取り付け基板120に取り付け固定され、上記接触面46Bが上記取り付け基板120の被取り付け面に接触した状態となり、図8の(B)に示すように、上記ヘッド部筐体40の上記連結部43側の側縁の熱を上記接触面46Bを介して上記取り付け基板120の面に伝達することにより、上記ヘッド部筐体40から上記連結部43に伝達される熱量を減少させることができる。
【0040】
この測長装置100では、上記ヘッド部筐体40の上記連結部43側の壁縁に沿って少なくとも上記連結部43の全長に亘って上記接触面46A,46Bが形成される。
【0041】
ここで、従来の測長装置では上記2つの取り付け穴70A,70Bの周囲の円環状の領域のみを被取り付け面への接触面としたヘッド部筐体40’を備えるものとなっていた。従来の測長装置におけるヘッド部20’の熱変形の様子をシミュレーションした結果を図9の(A)に示すとともに、本発明を適用した上記測長装置100におけるヘッド部20の熱変形の様子をシミュレーションした結果を図9の(B)に示す。図9の(A),(B)に示すように、熱変形前後における支持部43B’の変形量は、従来の測長装置におけるヘッド部20’ではΔ1であった対し、上記測長装置100におけるヘッド部20の支持部43Bの変形量は、Δ2に減少している。
【0042】
すなわち、この測長装置100では、上記ヘッド部筐体40に設けられた2つの取り付け穴70A,70Bに挿入される螺子71A,71Bにより上記ヘッド部20が上記取り付け基板120に取り付け固定され、上記接触面46Bが上記取り付け基板120の被取り付け面に接触した状態となり、上記ヘッド部筐体40の上記連結部43側の側縁の熱を上記接触面46Bを介して上記被取り付け面に伝達することにより、上記ヘッド部筐体40から上記連結部43に伝達される熱量を減少させ、上記ヘッド部筐体40と上記連結部43を介して一体に設けられた支持部43A,43Bにより支持されたスライダユニット30の上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点に対する位置ずれを抑える第1の熱変形抑止手段として機能している。
【0043】
このように、この測長装置100では、上記接触面46Bが上記第1の熱変形抑止手段として機能することにより、上記ヘッド部筐体40と上記連結部43を介して一体に設けられた支持部43Bにより支持されたスライダユニット30の上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点に対する位置ずれを抑え、高い精度の測長を行うことができる。
【0044】
なお、この測長装置100では、上記アルミニウムからなる上記ヘッド部筐体40よりも線膨張率の大きな亜鉛からなる上記カバー41は、上記ヘッド部筐体40よりも大きく熱膨張するので、上記カバー41の熱変形による応力を上記ヘッド部筐体40に伝達する構造を採用することにより、上記支持部43A,43Bにより支持された上記スライダユニット30の上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点に対する上記ヘッド部筐体40の熱変形による位置ずれを抑えるようにしている。すなわち、上記ヘッド部筐体40に内蔵された上記信号処理部44等が消費電力の影響で発熱すると、その熱の影響で、上記ヘッド部20が膨張、変形し、上記ヘッド部20に支持されたセンサ31が上記ヘッド部20の膨張、変形に伴い移動してしまい、測定値に誤差を生じるが、この測長装置100では、上記信号処理部44等を収納設置する上記ヘッド部筐体40を閉じる上記カバー41を、上記ヘッド部筐体40の材質とは異なる線膨張係数の材質とし、ヘッド部20が温度上昇した際に、上記カバー41の膨張が、上記ヘッド部筐体40の変形を打ち消す効果を生むように配置することで、所謂バイメタル効果により熱変形による測定誤差を低減させるようにしている。なお、上記カバー41の熱膨張による測定誤差を低減させる機能は、上記カバー41の断面積を大きくして熱膨張力を高め、バイメタル効果を高めることで、より効果を発揮することができる。
【0045】
そして、この測長装置100では、上述の如く、上記取り付け基板120の被取り付け面に接触する上記接触面46Bの接触面積面を広げることにより、熱流を流れやすくして、連結部43側の温度上昇を低減するようにしているが、上記取り付け基板120の被取り付け面に接触する上記接触面46Bは、その面精度が重要であるためむやみに広げることはできず、また、フライス加工により形成されることになるので、剛性の高い箇所に設ける必要がある。そこで、連結部43側に流れる熱流を低減すれば、スライダ支持点の変動を抑えられるので、この測長装置100では、少なくとも上記ヘッド部筐体40内の発熱部分の近傍領域であって、上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点、すなわち、上記取り付け穴70A,70Bの位置よりも上記ヘッド部筐体40の上記連結部43側の壁縁に沿った領域を上記接触面とすることにより、連結部43側寄りに接触面積を広げ、連結部43側へ流れ込む熱流を小さくし、連結部43側の温度を下げるようにしている。
【0046】
なお、この測長装置100における接触面46A,46Bの候補領域を、図7にハッチングを付して示してある。接触面46A,46Bのある面積を取り付け穴70A,70Bの中心を結んだ仮想線で分割した場合に、連結部43側の方が接触面積の割合が高くなっている。
【0047】
この測長装置100では、少なくとも上記ヘッド部筐体40内の発熱部分の近傍領域であって、上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点よりも上記ヘッド部筐体40の上記連結部43側の壁縁に沿った領域に設けられた接触面46Bを介して、上記ヘッド部筐体40の上記連結部43側の側縁の熱を上記被取り付け面に伝達することにより、上記カバー41の膨張による測定誤差の低減機能を損なうことなく、上記ヘッド部筐体40から上記連結部43に伝達される熱量を減少させ、上記支持部43Bにより支持された上記スライダユニット30の上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点に対する位置ずれを抑える第1の熱変形抑止手段として機能するので、上記ヘッド部筐体20と上記連結部43を介して一体に設けられた支持部43Bにより支持されたスライダユニット30の上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点に対する位置ずれを抑え、高い精度の測長を行うことができる。
【0048】
ここで、ヘッド部筐体40の温度上昇を3℃に固定した状態で、連結部43の温度を0〜3℃まで0.5℃刻みで変化させた場合の、上記連結部43の変形量をシミュレーションしたところ、図10の(A)に示すように、連結部43’の温度上昇とともに矢印方向にスライダ支持点が変動し、従来の測長装置におけるヘッド部20’における支持部43B’の変形量Δ1は、図10の(B)に示すように、0〜3℃の温度変化で約2.66μmであった。
【0049】
それに対し、上記測長装置100のように接触面積を広げた接触面46Bを有するヘッド部20における支持部43Bの変形量Δ2は、0〜3℃の温度変化で約1.99μmに減少する結果が得られた。
【0050】
また、図11に示すように、従来の測長装置における連結部43’に延長部43D’を設け、温度上昇によるヘッド部筐体40’で発生した応力を支持部43B’に伝え、スライダ支持点を熱膨張方向と逆方向に変形させるようにしたところ、図12に延長部43D’の有無によるスライダ支持部43B’の変形量の変化を比較して示すように、ヘッド部20’における支持部43B’の変形量Δ3’は、上記変形量Δ1よりも減少することが判明した。
【0051】
そして、上記測長装置100において、上記支持部43Bによる上記センサ31の支持点よりも上記スライダユニット30のスライド方向の外側まで上記連結部43を延長した延長部43Dを設け、温度上昇によるヘッド部筐体40で発生した応力をスライダユニット30の支持部43Bに伝え、スライダ支持点を熱膨張方向と逆方向に変形させるようにしたところ、図13に示すように、上記測長装置100におけるヘッド部20の支持部43Bの変形量は、上記変形量Δ2よりも小さなΔ3となった。
【0052】
上記支持部43Bの変形量Δ3は、0〜3℃の温度変化で約1.6μmに減少している結果が得られた。
【0053】
すなわち、上記測長装置100において、上記支持部43Bによる上記センサ31の支持点よりも上記スライダユニット30のスライド方向の外側まで上記連結部43を延長した延長部43Dは、上記支持部43Bにより支持された上記スライダユニット30の上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点に対する位置ずれを抑える第2の熱変形抑止手段として機能する。
【0054】
ここで、上記第1の熱変形抑止手段として機能する上記接触面46B、及び、上記第2の熱変形抑止手段として機能する上記延長部43Dを備える測長装置100におけるヘッド部筐体40、連結部43、スライダユニット30の各温度の上昇状況を測定した実験結果を、上記接触面46B及び上記延長部43Dを備えていない従来の測長装置におけるヘッド部筐体40’、連結部43’、スライダユニットの各温度の上昇状況の測定した実験結果とともに図14図15図16に示すとともに、キャリア変形量の変化状態を図17に示す。
【0055】
すなわち、上記測長装置100におけるヘッド部筐体40の温度上昇の状況を従来の測長装置の場合と比較した実験結果を図14に示すように、従来の測長装置では、ヘッド部筐体40’の温度が0℃から60分程度で3℃まで上昇して安定状態になっていたが、本発明を適用した上記測長装置100では、同じ加熱条件で、ヘッド部筐体40の温度が0℃から60分程度で2℃まで上昇して安定状態になり、従来の測長装置よりも1℃程度 低い安定状態になっている。
【0056】
また、上記測長装置100における連結部43の温度上昇の状況を従来の測長装置の場合と比較した実験結果を図15に示すように、従来の測長装置では、ヘッド部筐体40’の温度が0℃から60分程度で約3℃まで上昇して安定状態になるのにともない、連結部43’の温度は0℃から60分程度で約2.5℃まで上昇しているのに対し、本発明を適用した上記測長装置100では、同じ加熱条件で、ヘッド部筐体40の温度が0℃から60分程度で約2℃まで上昇して安定状態になるのにともない約1.8℃まで上昇して、従来の測長装置よりも約0.8℃程度低い安定状態になっている。
【0057】
さらに、上記測長装置100におけるスライダユニット30の温度上昇の状況を従来の測長装置の場合と比較した実験結果を図16に示すように、従来の測長装置では、ヘッド部筐体40’の温度が0℃から60分程度で約3℃まで上昇して安定状態になるのにともない、スライダユニットの温度は0℃から60分程度で約2.7℃まで上昇しているのに対し、本発明を適用した上記測長装置100では、同じ加熱条件で、 ヘッド部筐体40の温度が0℃から60分程度で約2℃まで上昇して安定状態になるのにともない、スライダユニット30の温度は、1.9℃まで上昇して、従来の測長装置よりも約0.9℃程度低い安定状態になっている。
【0058】
そして、上記測長装置100におけるスライダユニット30を支持している支持部43Bの変形量の状況を従来の測長装置の場合と比較した実験結果を図17に示すように、従来の測長装置における支持部43Bでは1.7μm程度の変形量であったのに対し、本発明を適用した上記測長装置100では、同じ加熱条件で、ヘッド部筐体40の温度が0℃から60分程度で約2℃まで上昇して安定状態になるのにともない、支持部43Bの変形量は、1μm程度に減少している。
【0059】
このように、この測長装置100では、上記第1の熱変形抑止手段として機能する上記接触面46B、及び、上記第2の熱変形抑止手段として機能する上記延長部43Dを備えることにより、上記ヘッド部筐体40と上記連結部43を介して一体に設けられ、上記スライダユニット30を支持している支持部43Bの上記ヘッド部筐体40の取り付け固定点、すなわち、上記取り付け穴70A,70Bの位置に対する位置ずれを抑え、さらに高い精度の測長を行うことができる。
【0060】
さらに、この測長装置100において、上記連結部43は、図18に示すように、上記ヘッド部筐体40から上記支持部43A,43Bに向かって上記スライダユニット30のスライド方向に拡幅された板状に形成され、上記支持部43A,43Bが設けられた長縁部分にスライド方向と交叉するスリット45を設けることにより、剛性を低下させて熱変形効果を高めることができる。
【0061】
上記スリット45を有する連結部43を一体に設けたヘッド部筐体40を備えるヘッド部20では、その熱変形状態を図19の平面図に示すように、上記ヘッド部20の支持部43Bの変形量は、さらに減少してΔ4となる。すなわち、上記連結部43にスリット45を設けることにより、剛性を低下させて熱変形効果を高めることができる。
【0062】
具体的には、上記支持部43Bの変形量Δ4は、0〜3℃の温度変化で約1.42μmに減少する結果が得られている。
【0063】
すなわち、上記測長装置100では、改良前後のキャリア変形シミュレーションの結果を一覧にして図20に示すように、改良前の従来の状態Aでは、ヘッド部20’における支持部43B’の変形量Δ1は、0〜3℃の温度変化で約2.66μmであったの対し、接触面積を広げた接触面46Bを設ける改良を施した状態Bでは、ヘッド部20における支持部43Bの変形量Δ2が0〜3℃の温度変化で約1.99μmに減少し、また、上記連結部43を延長した延長部43Dを設ける改良を施した状態Cでは、ヘッド部20における支持部43Bの変形量Δ3が0〜3℃の温度変化で約1.6μmに減少し、さらに、連結部43にスリット45を設ける改良を施した状態Dでは、ヘッド部20における支持部43Bの変形量Δ3が0〜3℃の温度変化で約1.42μmに減少する結果が得られており、上記改良によりヘッド部筐体40に内蔵された信号処理のための基板の発熱の影響によるヘッド部筐体40の変形を抑えて、測定誤差を低減させることができる。
【0064】
なお、上記測長装置100では、上記カバー41と対向する壁42から支持部43A,43Bによりスライダユニット30をスライド方向の両側で支持するようにしたが、支持部43Bのみで上記スライダユニット30を片持ち支持する構造とすることできる。
【0065】
また、上記測長装置100では、例えば計測方向の絶対値を表すMコードパターン(アブソリュートパターン)を磁気記録したアブソリュート(ABS)トラックと、上記計測方向に沿ってS極とN極が交互に規則正しく並んだインクリメンタル(INC)トラックを有する磁気スケールを上記スケール本体11として備える磁気式の測長装置に本発明を適用したが、本発明は、磁気式の測長装置にのみに限定されるものでなく、光学スケールをスケール本体として備える光学式の測長装置等、他の方式の測長装置に適用しても、ヘッド部筐体40に内蔵された信号処理のための基板の発熱の影響によるヘッド部筐体40の変形を抑えて、測定誤差を低減させることができ、スケール本体11が取付けられる装置の性能を向上させることが可能になる。
【符号の説明】
【0066】
10 スケール部、11 スケール本体、12 スケールケース、20 ヘッド部、30 スライダユニット、31 センサ、40 ヘッド部筐体、41 カバー、42 壁、43 連結部、43A,43B 支持部、43D 延長部、44 信号処理部、46A,46B 接触面、50 螺子、70A,70B 取り付け穴、71A,71B 螺子、100 測長装置、110,120 取り付け基板
図1
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