(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1のような保持器では、保持器表面のフッ酸処理層以上に摩耗が進むとガラス繊維が露出するため、上記と同様に摩擦摩耗に対する信頼性の低下を招く恐れがある。一方、フッ酸処理層を厚くしてガラス繊維の露出の防止を図ると、フッ酸処理時間が増加して製造リードタイムが増加するとともに、ガラス繊維の減少により保持器の強度が低下してしまう。
【0006】
本発明が解決すべき課題は、流動性潤滑剤が適用できない場合であっても、潤滑不良、製造リードタイムの増加、及び強度低下を回避できる保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明は、一対の軌道輪の間に配され、複数の転動体を所定位置に保持する転がり軸受用保持器であって、前記転動体を収容する複数のポケット穴を有する円環状の本体と、前記本体をインサート部品として固体潤滑剤を含む樹脂で射出成形された樹脂部とを備え、前記樹脂部が、前記本体のポケット穴の内周面に設けられ、各転動体と摺接する複数のポケット面を形成する第1部分と、前記本体の内周面又は外周面に設けられ、一方の軌道輪と摺接する案内面を形成する第2部分とを一体に有し、前記樹脂部のウェルドラインが、前記ポケット面の保持器円周方向両端部に露出しない位置に形成されている。
【0008】
このように、本発明の保持器では、転動体と摺接するポケット面、及び、軌道輪と摺接する案内面が、固体潤滑剤を含む樹脂で形成されるため、樹脂に含まれる固体潤滑剤を転動体及び軌道輪に移着することで潤滑を行うことができる。このとき、本体で保持器の強度を確保することができるため、樹脂部に配合する強化材を低減あるいは0にすることができる。これにより、樹脂部で構成されたポケット面や案内面に多量のガラス繊維等が露出する事態が回避され、潤滑不良を防止できる。また、フッ酸処理を行う必要がなくなるため、製造リードタイムの増加や保持器の強度低下を防止できる。
【0009】
ところで、転がり軸受の回転時には、ラジアル荷重や取り付け誤差に起因して、転動体が保持器に対して保持器円周方向で相対移動する(進み遅れが生じる)ため、ポケット面の保持器円周方向両端部に転動体が頻繁に接触する。そこで、前記のように、脆弱な樹脂部のウェルドラインを、ポケット面の保持器円周方向両端部に露出しない位置に形成することで、保持器の信頼性が高められる。具体的には、ウェルドラインを、ポケット面の保持器軸方向一方側のみに形成したり(
図3参照)、ポケット面の保持器軸方向両側に形成したり(
図6参照)、ポケット面間の柱部に形成したり(
図8参照)することができる。
【0010】
ポケット面を形成する樹脂部の第1部分は、転動体との接触により摩耗するため、肉厚を厚くする方が好ましい。しかし、保持器のサイズを変えずに第1部分の肉厚を厚くすると、その分本体の厚さが薄くなるため、本体の強度が不足する恐れがある。特に、高速回転する転がり軸受の場合、保持器には遠心力による大きなフープ応力が発生するため、ポケット面の保持器軸方向両側に設けられる環状部分の保持器軸方向厚さが薄いと、上記のフープ応力に対する強度が不足する恐れがある。
【0011】
上記のような懸念を回避するため、例えば、樹脂部の第1部分の保持器円周方向両端部における肉厚を、保持器軸方向両端部における肉厚よりも厚くすることができる。このように、樹脂部の第1部分の保持器円周方向両端部における肉厚を相対的に厚くすることで、転動体との接触による摩耗の許容量が増えて信頼性向上が図られる。また、樹脂部の第1部分の保持器軸方向両端部における肉厚を相対的に薄くすることで、その分本体の肉厚(特に、ポケット穴の保持器軸方向両側に設けられる環状部分の保持器軸方向厚さ)を厚くすることができ、フープ応力に対する保持器の強度が高められる。
【0012】
樹脂部の第2部分に設けられた案内面には、凹部を形成することができる。これにより、互いに摺接する案内面と軌道輪との間の隙間に液膜(例えば、ロケットエンジンのターボポンプの推進剤による液膜)を形成しやすくなり、潤滑性及び耐摩耗性が向上する。
【0013】
本体の表面に凹部を形成し、該凹部に樹脂部を入り込ませれば、アンカー効果により本体と樹脂部とが強固に固着される。このような凹部は、エッチング処理やショットブラスト等の粗面化処理による微小なものや、機械加工等による比較的大きいものとすることができる。
【0014】
上記の保持器は、一対の軌道輪と、複数の転動体とを備えた転がり軸受に組み込んで使用することができる。このような転がり軸受は、無潤滑環境での使用に適している。
【0015】
上記の保持器は、前記転動体を収容する複数のポケット穴を有する円環状の本体をインサート部品として、固体潤滑剤を含む樹脂材料で射出成形することにより、前記本体のポケット穴の内周面に設けられ、各転動体と摺接する複数のポケット面を形成する第1部分と、前記本体の内周面又は外周面に設けられ、一方の軌道輪と摺接する案内面を形成する第2部分とを一体に有する樹脂部を形成することにより製造することができる。
【0016】
樹脂部の材料を射出するゲートは、樹脂部の射出成形を行う金型のうち、樹脂部の第2部分の軸方向一方の端面を成型する成型面に設けられる。これにより、上記成形面上でゲートの保持器円周方向位置を自由に設定することができるため、樹脂部のウェルドラインを所望の位置(ポケット面の保持器円周方向両端部に露出しない位置)に設けることができる。
【0017】
例えば、上記のゲートをディスクゲートとすれば、ポケット面の保持器軸方向一方側のみにウェルドラインが形成される(
図3及び
図4参照)。また、上記のゲートは、ピンゲートとすることもできる。この場合、上記の成型面のうち、複数のポケット面の間の保持器円周方向領域にピンゲートを設ければ、各ポケット面の保持器軸方向両側にウェルドラインが形成される(
図6及び
図7参照)。また、上記の成型面のうち、ポケット面の保持器円周方向中央部の円周方向位置にピンゲートを設ければ、ポケット面間の柱部にウェルドラインが形成される(
図8及び
図9参照)。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、転がり軸受に流動性潤滑剤が適用できない場合であっても、潤滑不良、製造リードタイムの増加、及び保持器の強度低下を回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本発明の一実施形態に係る転がり軸受として、アンギュラ玉軸受1を示す。アンギュラ玉軸受1は、一対の軌道輪(内輪10及び外輪20)と、複数の転動体(ボール30)と、保持器40とを備える。アンギュラ玉軸受1は、無潤滑環境、すなわち、油やグリース等の流動性潤滑剤を使用しない環境で用いられる。本実施形態のアンギュラ玉軸受1は、内径(内輪10の内径)が10〜100mm程度であり、軸方向寸法が10〜40mm程度である。アンギュラ玉軸受1は、図示するように接触角を有する。接触角とは、軸受中心軸に垂直な平面(ラジアル平面)と、軌道輪によって転動体へ伝えられる力の合力の作用線(
図1に一点鎖線で示す)とがなす角度と定義されている。
【0021】
内輪10の外周面には、軌道面12が設けられる。外輪20の内周面には、軌道面22が設けられる。内輪10及び外輪20は金属で形成され、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440Cなど)で形成される。複数のボール30は、内輪10の軌道面12と外輪20の軌道面22との間に配される。ボール30は、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440Cなど)等の金属や、セラミックス材料で形成される。尚、内輪10の軌道面12、外輪20の軌道面22、及びボール30の表面には、初期摩擦の低減を目的としたPTFEスパッタリング被膜を施してもよい。
【0022】
保持器40は、外輪20と内輪10との間に配される。本実施形態のアンギュラ玉軸受1は、保持器40の外周面と外輪20の内周面(具体的には、軌道面22の保持器軸方向両側に設けられた肩面)とを摺接させて保持器40を半径方向で案内する、いわゆる外輪案内の軸受である。
【0023】
保持器40は、本体42と樹脂部44とからなる。本体42は、環状を成し、図示例では円筒状を成している。本体42には、
図2に示すように、複数のポケット穴42aが円周方向等間隔に設けられ、各ポケット穴42aにボール30が1つずつ収容される。本体42は、樹脂部44よりも高強度の材料で形成され、例えば樹脂複合材や金属で形成される。樹脂複合材としては、CFRPやGFRP等の繊維強化プラスチック材を使用できる。また、金属としては、例えばアルミニウム合金、マグネシウム合金、炭素鋼、ステンレス鋼、銅合金等の溶製材や、焼結金属を使用できる。特に、高速回転環境下で使用される軸受の場合、比強度の高い材料を使用することが好ましい。このような材料として、例えばCFRP、GFRP、アルミニウム合金、チタン合金、マグネシウム合金が挙げられる。また、液体水素ターボポンプ用に使用される軸受の場合、水素反応性の低い材料を使用することが好ましい。このような材料として、例えばCFRP、GFRP、アルミニウム合金が挙げられる。さらに、液体酸素ターボポンプに使用される軸受の場合、酸化反応性の低い材料を使用することが好ましい。このような材料として、例えばGFRPが挙げられる。
【0024】
樹脂部44は、本体42をインサート部品とした射出成形で形成され、第1部分44aと第2部分44bとを一体に有する。第1部分44aは、本体42の各ポケット穴42aの内周面に設けられ、図示例では第1部分44aがポケット穴42aの円筒面状内周面の全面を覆っている。各ポケット穴42aに設けられた第1部分44aの表面(内周面)は、各転動体30と摺接するポケット面46として機能する。第2部分44bは、本体42の外周面に設けられ、図示例では第2部分44bが本体42の円筒面状外周面の全面を覆っている。第2部分44bの表面(外周面)は、外輪20の内周面と摺接する案内面48として機能する。第1部分44aの厚さ及び第2部分44bの厚さは均一になっており、射出成形時の流動性を考慮すると0.1mm以上が好ましく、さらに、摩耗に対する信頼性を考慮すると0.2mm以上がより好ましい。
【0025】
図3に示すように、樹脂部44にはウェルドラインWが形成される。ウェルドラインWは、ポケット面46のうち、保持器円周方向両端部に露出しない位置に形成される。本実施形態では、ウェルドラインWが、ポケット面46の保持器軸方向一方側(図中左側)のみに形成される。ウェルドラインWは、ポケット面46の保持器円周方向中央部の円周方向位置に設けられ、おおよそ保持器軸方向に沿って延びている。ウェルドラインWの一端は、第2部分44bの保持器軸方向一方の端面に露出し、ウェルドラインWの他端は、ポケット面46の保持器軸方向一方側の端部に露出している。
【0026】
樹脂部44は、固体潤滑剤を含む樹脂で形成される。主成分樹脂としては、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)等の熱可塑性樹脂が使用できる。特に、極低温環境下で使用される場合、耐衝撃性、耐薬品性、本体42との密着性の観点から、線膨張係数が小さいPEEKを使用することが望ましい。固体潤滑剤としては、フッ素樹脂(例えばPTFE)、二硫化モリブデン、黒鉛などが使用できる。
【0027】
樹脂部44を形成する樹脂には、強化材を配合してもよい。強化材としては、保持器の耐摩耗性を高め、線膨張係数を抑える効果のあるものを使用することが望ましく、例えばガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)、酸化マグネシウム等が使用できる。尚、強化材は省略することもできる。
【0028】
上記の樹脂のうち、主成分樹脂(熱可塑性樹脂)は、射出成形可能な45vol%以上とすることが好ましい。また、固体潤滑剤は、潤滑性を考慮すると5vol%以上配合する必要があり、特に、液体窒素や液体酸素中等の極低温環境下で使用する場合は、固体潤滑剤を20vol%以上とすることが好ましい。また、固体潤滑剤が40vol%を超えると、主成分樹脂との混練時に混ざりにくくなり、射出成形時の分散性が低下する。以上より、固体潤滑剤の配合割合は20〜40vol%とすることが好ましい。さらに、強化材は、配合しなくてもよいが、必要とされる耐摩耗性や線膨張係数に応じて0〜15vol%配合すればよい。以上より、上記の樹脂は、例えば主成分樹脂を45〜80vol%、固体潤滑剤を20〜40vol%、強化材を0〜15vol%の割合で配合される。
【0029】
極低温環境下における樹脂部44の固体潤滑剤の好適な配合割合を確認するために、
図16に示すピンオンボールオンディスク試験装置100を用いて液体窒素中(極低温環境下)で摩擦摩耗試験を行った。具体的に、液体窒素中に配置したディスク101の上面の同一円周上に、固体潤滑剤(PTFE)を含む樹脂からなるピン102と、ステンレス鋼からなるボール103を押し付け、この状態でディスク101を所定回転数で回転させる。このとき、ピン102の樹脂に含まれる固体潤滑剤がディスク101の上面に移着し、移着膜104が形成される。上記のような試験を、固体潤滑剤の配合割合の異なる複数のピン102を用いて行い、ピン102の組成ごとに、ディスク101回転中のピン102のディスク101に対する摩擦係数と、ディスク101を所定時間回転させた後のボール103の摩耗量とを確認した。その結果を
図17及び
図18に示す。
図17はピン102の摩耗係数、すなわち樹脂複合材の潤滑性を示しており、PTFEの配合割合が20vol%以上のときに小さくなっている。
図18はボール103の摩耗量、すなわち移着膜104の潤滑性を示しており、
図17と同様にPTFEの配合割合が20vol%以上のときにほぼ一定になっている。以上より、特に極低温環境下では、固体潤滑剤の配合割合は20vol%以上が好ましいことが確認された。
【0030】
上記のアンギュラ玉軸受1が回転すると、保持器40のポケット面46とボール30とが摺接すると共に、保持器40の案内面48(外周面)と外輪20の内周面(肩面)とが摺接する。これにより、樹脂部44の固体潤滑剤がボール30の表面や外輪20の肩面に移着し、保持器40とボール30及び外輪20との間の潤滑が行われる。さらに、ボール30に移着した固体潤滑剤により、ボール30と内輪10の軌道面12及び外輪20の軌道面22との間の潤滑が行われる。
【0031】
上記のように、本体42及び樹脂部44で保持器40を構成することで、保持器40の強度を本体42で受け持つことができる。これにより、樹脂部44の樹脂に配合する強化材を低減あるいは0にすることができるため、樹脂部44に含まれる強化材がポケット面46や案内面48に多量に露出することがない。従って、樹脂部44から摺接相手材(ボール30あるいは外輪20)への固体潤滑剤の移着が阻害されることがなく、潤滑性が高められる。
【0032】
また、アンギュラ玉軸受1の回転時には、保持器40に対するボール30の保持器円周方向の相対移動(進み遅れ)が生じるため、保持器40のポケット面46の保持器円周方向両端部にボール30が頻繁に接触する。そこで、上記のように、強度が低い樹脂部44のウェルドラインWを、ポケット面46の保持器円周方向両端部を避けた領域に形成することで、この部分の強度を高めることができる。
【0033】
次に、上記の保持器40の製造方法について説明する。
【0034】
まず、本体42を形成する。例えば、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む樹脂からなる樹脂複合材で、本体42が形成される。あるいは、金属を機械加工(切削等)又は塑性加工(プレス加工や鍛造加工)することにより、金属(溶製材)からなる本体42が形成される。あるいは、混合金属粉末を圧縮成形してなる圧粉体を所定の焼結温度で焼結することで、焼結金属からなる本体42が形成される。
【0035】
その後、本体42と樹脂部44との密着性を向上させる目的で、本体42の表面に微小な凹部が形成される。この微小凹部は、エッチング処理(ナトリウムエッチング、プラズマエッチング等)、ショットブラスト、溶射などの粗面化処理により形成される。粗面化処理後の本体42の表面粗さは、本体42と樹脂部44との線膨張係数差による保持器半径方向での寸法変化量よりも大きくすることが好ましい。例えば、本体42がアルミ合金(線膨張係数24×10
-6[1/℃])、樹脂部44がGF強化のPEEK系材料(線膨張係数34×10
-6[1/℃])、ポケット面46の直径8mmの場合、本体42の表面粗さはRa10μm以上とすることが望ましい。尚、粗面化処理は省略してもよく、例えば本体42が焼結金属からなる場合は、本体42の表面に無数の微細な開孔が形成されるため、粗面化処理は不要である。
【0036】
その後、本体42をインサート部品として樹脂部44を射出成形する。このとき用いる射出成形金型のキャビティ50を、
図4及び
図5に示す。キャビティ50は、樹脂部44の第1部分44aを成形する第1キャビティ52と、第2部分44bを成形する第2キャビティ54とからなる。第2キャビティ54を形成する成形面のうち、第2部分44bの保持器軸方向他方(
図4及び
図5の右側)の端面を成形する成形面に、ゲート60が設けられる。本実施形態のゲート60は、ディスク状のランナ62の外径端の全周から保持器軸方向に延びる、環状のディスクゲートである。尚、
図5は、キャビティ50、ゲート60、及びランナ62に樹脂(散点で示す)が満たされた状態を示す。
【0037】
ゲート60からキャビティ50に樹脂を射出すると、
図4に点線矢印で示すように樹脂が流動し、第1キャビティ52の保持器軸方向一方(図中左側)で樹脂が合流する。この合流部分にウェルドラインWが形成される(
図3参照)。また、溶融樹脂が本体42の表面の微小凹部に入り込んで固化することで、本体42と樹脂部44とが強固に固着される。
【0038】
樹脂が硬化したら、型開きして保持器40を金型から取り出す。この型開きと同時にゲート60内で固化した樹脂が引きちぎられるため、保持器40にはゲートカット跡が残る。具体的には、樹脂部44の第2部分44bの保持器軸方向他方の端面に、環状のゲートカット跡が残る。金型から取り出した保持器40の軸方向他方の端面に機械加工を施すことにより、ゲートカット跡を除去する。さらに、ポケット面46や案内面48の一方又は双方、あるいは保持器40の表面全体に、機械加工による仕上げを施してもよい。尚、特に必要なければ、上記の機械加工を省略してもよい。
【0039】
本発明は上記の実施形態に限られない。
図6に示す保持器140は、ウェルドラインWの位置が上記の実施形態と異なる。具体的には、各ポケット面46の保持器軸方向両側にウェルドラインWが形成される。
図7に、この保持器140の樹脂部44を成形するキャビティ150を示す。本実施形態のゲート60はピンゲートであり、キャビティ150を形成する成形面のうち、第2部分44bの保持器軸方向他方(
図7の右側)の端面を成形する成形面に設けられる。ゲート60は、円周方向等間隔の複数個所に設けられ、図示例では、ポケット面46を成形する複数の第1キャビティ52間の円周方向領域に、ゲート60が設けられる。このゲート60から樹脂を射出すると、
図7に点線矢印で示すように樹脂が流動し、第1キャビティ52の保持器軸方向両側で樹脂が合流する。この合流部分にウェルドラインWが形成される(
図6参照)。
【0040】
図8に示す保持器240は、ウェルドラインWの位置が上記の実施形態と異なる。具体的には、各ポケット面46の保持器円周方向間の柱部49と、各ポケット面46の保持器軸方向一方(図中左側)にウェルドラインWが形成される。
図9に、この保持器240の樹脂部44を成形するキャビティ250を示す。本実施形態のゲート60はピンゲートであり、キャビティ150を形成する成形面のうち、第2部分44bの保持器軸方向他方(
図7の右側)の端面を成形する成形面に設けられる。ゲート60は、円周方向等間隔の複数個所に設けられ、図示例では、ポケット面46を成形する複数の第1キャビティ52間の保持器円周方向中央部の円周方向位置に、ゲート60が設けられる。このゲート60から樹脂を射出すると、
図9に点線で示すように樹脂が第1キャビティ52を回りこむように流動し、第1キャビティ52の保持器円周方向間、及び、第1キャビティ52の保持器軸方向一方側で樹脂が合流する。この合流部分にウェルドラインWが形成される(
図8参照)。
【0041】
図10に示す保持器340は、ボール30の脱落を防止する突起44cが形成されている点で上記の実施形態と異なる。具体的に、樹脂部44の第1部分44aの保持器内径側端部に、ポケット面46の内径向きに突出した突起44cが形成される。図示例では、突起44cがポケット面46の全周に形成されている。尚、突起44cを、ポケット面46の円周方向に離隔した複数箇所に設けてもよい。
【0042】
図11は、さらに他の実施形態に係る保持器440を内径側から見た側面図である。この保持器440は、樹脂部44の第1部分44aの保持器円周方向両端部における肉厚T1が、保持器軸方向両端部における肉厚T2よりも大きい(T1>T2)点で、上記の実施形態と異なる。このように、ボール30と接触しやすい第1部分44aの保持器円周方向両端部の肉厚T1を厚くすることで、摩耗の許容量が増えて信頼性向上が図られる。また、第1部分44aの保持器軸方向両端部の肉厚T2を薄くすることで、その分、本体42のうち、ポケット穴42aの保持器軸方向両側の環状部分の肉厚T3を厚くすることができ、フープ応力に対する強度が高められる。
【0043】
図12(a)〜(d)に示す保持器540〜840は、案内面48に凹部(散点領域)が形成されている。このように、案内面48に凹部を設けることで、互いに摺接する案内面48と軌道輪(本実施形態では外輪20の内周面)との間の隙間に液膜(例えばターボポンプの推進剤による液膜)を形成しやすくなり、潤滑性及び耐摩耗性が向上する。具体的に、
図12(a)の保持器540の案内面48には、凹部として、保持器軸方向に延びる複数の溝48aが形成される。この溝48aは、保持器円周方向等間隔にステップ状に形成されている。
図12(b)の保持器640の案内面48には、凹部として、保持器軸方向中央に対して対称に傾斜したへリングボーン形状の溝48bが円周方向等間隔に形成されている。例えば、
図12(b)で見えている面が矢印方向に回転する場合、図示のように回転方向先行側を保持器軸方向端部側に広がるように溝48bを傾斜させれば、保持器640の回転に伴い、液膜を保持器軸方向中央側に供給して潤滑性を高めることができる。
図12(c)の保持器740の案内面48には、ディンプル状の凹部48cが形成される。
図12(d)の保持器840の案内面48には、凹部として、比較的短い溝48dが分散配置される。図示例の溝48dは、保持器軸方向に延びている。尚、
図12の保持器540〜840には上記と同様のウェルドラインWが形成されているが、ウェルドラインWの図示は省略している。
【0044】
上記の凹部の深さは、1〜4μm程度であれば最も効果的であるが、樹脂部44の摩耗を考慮して、
図1の案内面48と外輪20との間の隙間と同程度とすることが好ましく、例えば50μm以下とされる。上記のような凹部は、例えば成型金型に凸部を設けることにより、射出成形時に形成することができる。また、樹脂部44を成形した後、案内面に機械加工(例えば旋削加工)やショットブラストを施すことにより、上記のような凹部を形成することもできる。
【0045】
図13に示す保持器940は、本体42の表面に形成される凹部が、上記の実施形態と異なる。具体的に、本体42の外周面のうち、ポケット42aの保持器軸方向両側に、凹部として、保持器円周方向に連続した環状の溝42bが形成される。また、本体42のポケット42aの内周面に、凹部として、ポケット42aの円周方向に連続した環状の溝42cが形成される。これらの溝42b,42cは、例えば機械加工や塑性加工で形成される。尚、本体42に形成される凹部は、上記と異なる方向に延びる溝や、ディンプル状の凹部とすることもできる。また、本体42の外周面及びポケット穴42a内周面のうち、いずれか一方に凹部を形成してもよい。また、
図14に示すように、凹部42b,42cの奥側の幅を開口側の幅よりも狭くすれば、樹脂部44の抜け止め効果が高められる。また、本体42の表面に、溝42b,42cに加えて、上述の粗面化処理を施すと、本体42と樹脂部44とがより強固に固着される。
【0046】
上記の実施形態では、保持器40を外輪20の内周面と摺接させて案内する外輪案内の転がり軸受を示したが、これに限らず、保持器40を内輪10の外周面と摺接させて案内する内輪案内の転がり軸受に本発明を適用してもよい。この場合、樹脂部44の第2部分44bは本体42の内周面に設けられ、この第2部分44bの内周面が案内面48として機能する(図示省略)。
【0047】
図15に、上記のアンギュラ玉軸受1を組み込んだロケットエンジン用ターボポンプを示す。このターボポンプは液体水素/液体酸素2段燃焼式ロケットエンジンのうち、液体酸素ガスを圧縮するものである。尚、図示は省略するが、この2段燃焼式ロケットエンジンには、液体水素ガスを圧縮する同様のターボポンプも備えている。ターボポンプのタービン軸71は、プリバーナポンプ入口からプリバーナポンプ出口へと流れる液体燃料の燃焼ガスで初期駆動された後、タービンガス入口からタービンガス出口へと流れる液体燃料の燃焼ガスで本格駆動される。そして、主ポンプ入口から流入した液体酸素ガスを圧縮して主ポンプ出口から排出し、燃焼室に供給する。タービン軸71は、極低温における疲労強度の高いニッケル基の超合金、例えばインコネル材で形成される。タービン軸71は、アンギュラ玉軸受1を2つ組み合わせてなる複列アンギュラ玉軸受72で支持される。複列アンギュラ玉軸受72を構成する一対のアンギュラ玉軸受1は、接触角が軸直交平面に関して対称となっている。
【0048】
上記のアンギュラ玉軸受1は、ロケットエンジン用ターボポンプだけでなく、他の用途に適用することも可能である。例えば、人工衛星などの宇宙用機器のように、真空環境下で使用される機器に組み込むことができる。また、上記のアンギュラ玉軸受1は、極低温環境下で使用する用途に限らず、例えば常温以上の環境下で使用することもできる。
【0049】
また、上記の実施形態では、本発明に係る転がり軸受としてアンギュラ玉軸受を説明したが、これに限らず、本発明は、他の種類の玉軸受や、円筒ころ軸受や円すいころ軸受などのころ軸受に適用することも可能である。