【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素先端科学基礎研究事業/水素先端科学基礎研究/水素に対して耐性に優れた適用材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(A)ポリビニルアルコール系樹脂と前記(B)極性官能基含有フッ素樹脂との含有重量比(A/B)が9.5/0.5〜5/5である請求項1に記載の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器。
前記カルボニル含有基が、カーボネート基、ハロホルミル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸無水物基、及びイソシアナト基からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器。
前記(B)極性官能基含有フッ素樹脂は、構成モノマーとして、少なくとも、テトラフルオロエチレンを含む共重合体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器。
前記(B)極性官能基含有フッ素樹脂を構成するフッ素樹脂は、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/CH2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体、及びエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/CH2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体からなる群より選択される一種である請求項6に記載の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器。
前記(A)ポリビニルアルコール系樹脂における、前記側鎖1,2−ジオール構造単位の含有率は、0.1〜30モル%である請求項1〜8のいずれか1項に記載の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器。
前記樹脂組成物からなる層以外の少なくともいずれか1層の構成材料が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、及び極性基含有フッ素系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項10に記載の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
はじめに本発明の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器のガスバリア層の原料となる樹脂組成物について説明する。
【0022】
<ガスバリア層用樹脂組成物>
本発明のホース又は貯蔵容器のガスバリア層は、(A)特定構造を有するポリビニルアルコール系樹脂、及び(B)水酸基と反応又は水素結合を形成可能な極性官能基を有するフッ素樹脂(以下、「極性官能基含有フッ素樹脂(B)」と称する)を含有する樹脂組成物により構成される。以下、各成分について説明する。
【0023】
〔(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂〕
上記(A)特定構造を有するポリビニルアルコール系樹脂とは、下記(1)式で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂(以下、「側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂」又は「側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂」という)である。かかる樹脂は、必要に応じてその他の共重合モノマーに由来する構造単位を含有してもよい。
【0024】
側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂は、側鎖1,2−ジオール構造単位を有しない通常のポリビニルアルコール系樹脂(以下、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂と区別する場合には、「未変性ポリビニルアルコール系樹脂」又は「未変性PVA系樹脂」と称することがある)と比べて、外部環境の変化に伴う結晶化度の変化もなく、ガスバリア性に優れている。側鎖1,2−ジオール部分は、ポリマー主鎖で構成されるラメラ結晶に組み込まれず、非晶部分となっているために結晶性が低下することで、ガスバリア性は、対応する未変性PVA樹脂よりも低下すると予想されるが、本発明者らの研究により、水素のような小さい分子のガスバリア性については、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂の方が未変性ポリビニルアルコール系樹脂よりも優れる傾向にあるという、予想外の結果が見出された。このような予想に反する結果は、非晶部分において、側鎖1,2−ジオール同士が水素結合により緻密なネットワークを形成し、フリーボリューム(自由体積空孔サイズ)を小さくすることができるため、水素ガスのようにサイズが小さいガス分子の透過性、侵入を防止できるためではないかと考えられる。さらに、後述するように、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂は、1級水酸基を有していることから、B成分の極性官能基と反応又は水素結合を形成することが可能であり、反応型相溶化を経由して、A成分とB成分の界面の濡れ性を強固にして、かかる点からも耐高圧水素性(ブリスタ発生の抑制)と柔軟性を両立できると考えられる。
【0025】
なお、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、水溶性でポリビニルアルコールに分類されるが、側鎖1,2−ジオール構造単位を有しない一般的なポリビニルアルコールと比べて、融点と分解温度の差が大きいことに基づき、溶融成形可能であるという利点がある。
【0026】
はじめに、(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂を構成する構造単位について説明する。
(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂は、a)側鎖1,2−ジオール構造単位と称する、下記式(1)で表される単位;b)ビニルエステル系モノマーに由来するビニルアルコール構造単位;c)必要に応じて共重合される共重合モノマー単位を含有する。以下、これらの構造単位について、順に説明する。
【0027】
a)側鎖1,2−ジオール構造単位
【化1】
【0028】
上記一般式(1)において、R
1〜R
3はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R
4〜R
6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を示す。
【0029】
R
1〜R
6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。該有機基としては特に限定しないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。R
1〜R
3としては好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、特に好ましくは水素原子である。R
4〜R
6としては、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、特に好ましくは水素原子である。
【0030】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合鎖であり、結晶性の向上や非晶部におけるフリーボリューム(自由体積空孔サイズ)低減の点から単結合であることが好ましい。上記結合鎖としては、特に限定しないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CH
2O)m−、−(OCH
2)m−、−(CH
2O)nCH
2−等のエーテル結合部位を含む構造単位;−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)mCO−、−CO(C
6H
4)CO−等のカルボニル基を含む構造単位;−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−等の硫黄原子を含む構造単位;−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造単位;−HPO
4−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造単位;−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−等の珪素原子を含む構造単位;−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−等のチタン原子を含む構造単位;−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子等の金属原子を含む構造単位などが挙げられる。これらの構造単位中、Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基であることが好ましい。またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、特に好ましくは1〜10である。これらのうち、製造時あるいは使用時の安定性の点から、炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、さらには炭素数1〜6の炭化水素鎖、特に炭素数1の炭化水素鎖が好ましい。
【0031】
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R
1〜R
3及びR
4〜R
6がすべて水素原子であり、Xが単結合である、下記構造式(1a)で示される構造単位である。
【0033】
このような側鎖1,2−ジオール構造単位は、特に限定しないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示されるビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより生成される。
かかる共重合の際に、必要に応じて、c)共重合モノマーを系内に共存させることにより、c)共重合モノマーを共重合させることが可能である。
【0035】
(2)(3)(4)式中、R
1〜R
6は、いずれも(1)式の場合と同様である。R
7及びR
8は、それぞれ独立して水素またはR
9−CO−(式中、R
9は、炭素数1〜4のアルキル基である)。R
10及びR
11は、それぞれ独立して水素原子又は有機基である。
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2002−284818、特開2004−075866、特開2004−285143等に記載の公知の方法を採用できる。
【0036】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で(i)の方法が好ましく、特にR
1〜R
6が水素、Xが単結合、R
7、R
8がR
9−CO−であり、R
9がアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、その中でも特にR
9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0037】
重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。
【0038】
得られた共重合体のケン化についても、従来より公知のケン化方法を採用することができる。すなわち共重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。前記アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
【0039】
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂における側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量は、通常0.1〜30モル%、好ましくは2〜15モル%、より好ましくは4〜12モル%、さらに好ましくは5〜8モル%である。側鎖1,2−ジオール含有率が高くなりすぎると、非晶部分のフリーボリュームが小さくなり、水素溶解性を低減させるという点では好ましいが、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の生産性が低下する傾向がある。一方、側鎖1,2−ジオール含有率が低すぎると、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の融点と分解点が近づき、溶融成形が困難となり、多層構造のホース等の成型への適用上、不利になる傾向にある。さらに、水素透過係数が増大する傾向にあり、ひいては水素ガスバリア性が低下し、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂に対する水素溶解量が増大する。
なお、側鎖1、2−ジオール構造単位の含有量は、
1H−NMRの測定結果より算出することができる。
【0040】
b)ビニルアルコール構造単位
ビニルアルコール構造単位は、通常、ビニルエステル系重合体又は共重合体を構成するビニルエステル系モノマーに由来する構造単位がケン化されることにより生成される。したがって、ケン化度が100モル%未満の場合には、(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル構造単位も含有する。
【0041】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。このほか、例えば具体的には、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等を用いることができ、通常、炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルが挙げられる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0042】
c)共重合モノマー単位
A成分である側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂は、上記側鎖1,2−ジオール構造単位を提供するモノマー、ビニルアルコール系モノマーの他、所望により他の共重合モノマーに由来する構造単位を含んでもよい。
【0043】
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A)の製造に用いられ得る共重合モノマーとしては、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;さらにビニレンカーボネート類やアクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル、アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸、ビニルトリメトキシシランやビニルトリエトキシシランなどのシリル基含有モノマー、あるいはその塩などの化合物が共重合されていてもよい。
【0044】
本発明に用いる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(A)においては、水溶性の観点から、エチレンやプロピレン等のα−オレフィンの含有率が、通常0モル%〜20モル%未満である。好ましくは0モル%〜15モル%、より好ましくは高圧下での水素溶解量に影響を与えない点で、0〜10モル%である。
【0045】
以上のような構造単位で構成される側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂における重合度は、通常250〜1000、好ましくは300〜650、より好ましくは400〜500、さらに好ましくは440〜480である。重合度が高くなりすぎると、溶融粘度が高くなりすぎて、押出機に負荷がかかり、成形しにくくなる傾向がある。また、溶融混練時のせん断発熱により、樹脂温度が高くなり、樹脂が劣化するおそれがある。一方、重合度が低くなりすぎると、成形品がもろくなるため、ガスバリア層にクラックが入りやすく、ガスバリア性、特に小分子である水素ガスのバリア性が低下する傾向にある。
【0046】
また、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂のビニルエステル部分のケン化度は、JIS K6726に準じて測定した値で、通常80〜100モル%の範囲内で、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂の構成、その他の所望により適宜選択される。好ましくは、98〜100モル%、より好ましくは99〜99.9モル%、特に好ましくは99.5〜99.8モル%である。ケン化度が低くなりすぎると、OH基の含有量が少なくなることを意味し、ガスバリア性が低下する傾向にある。
【0047】
〔(B)極性官能基含有フッ素樹脂〕
本発明に用いられる極性官能基含有フッ素樹脂とは、フッ素樹脂に、水酸基と反応又は水素結合を形成可能な極性官能基が導入されたフッ素系重合体をいう。
【0048】
前記極性官能基としては、好ましくはカルボニル含有基又は水酸基であり、より好ましくはカルボニル含有基である。
【0049】
前記カルボニル含有基としては、カーボネート基、ハロホルミル基、アルデヒド基(ホルミル基を含む)、ケトン基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸無水物基、及びイソシアナト基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは、カーボネート基、フルオロホルミル基、クロロホルミル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、カルボン酸無水物基であり、さらに好ましくはカルボン酸無水物基である。
【0050】
このような極性官能基含有フッ素樹脂は、上記極性官能基が、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂の水酸基と反応又は水素結合を形成することができるので、両者の界面で化学的結合が形成されたり、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂の一部と極性官能基含有フッ素樹脂とがブロックポリマーを生成し、生成したブロックコポリマーが相溶化剤として働くことにより、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂の一部と極性官能基含有フッ素樹脂との界面を強固なものとすることができる。
【0051】
さらに、極性官能基含有フッ素樹脂は、極性官能基を有しないフッ素樹脂と同様に、水素ガス70MPa環境下での水素溶解度が低いという特徴を有している。このことは、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂と極性官能基含有フッ素樹脂の混合系において、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂の低水素溶解性を損なわずに済むことを期待できる。
【0052】
極性官能基含有フッ素樹脂を構成するフッ素樹脂は、構成モノマーとして、少なくとも、テトラフルオロエチレンを含むフッ素系共重合体であることが好ましい。フッ素系共重合体には、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、CH
2=CX(CF
2)
nY(X、Yはそれぞれ独立にフッ素原子又は水素原子であり、nは2〜10である)で表わされるモノマー(以下、当該モノマーを「FAE」と称する)等の他のフッ素含有ビニルモノマーの他、エチレン、プロピレンなどのオレフィン系ビニルモノマー、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、他のハロゲン含有ビニルモノマーが共重合されていてもよい。
【0053】
前記FAEにおいて、式中のnは2〜8が好ましく、2〜6がより好ましく、2,4,6が特に好ましい。nが2未満であると樹脂組成物の成形体の耐熱性や耐ストレスクラックが低下する傾向にある。nが10を超えると、重合反応性が不十分になる場合がある。なかでも、nが2〜8の範囲にあると、FAEの重合反応性が良好である。さらには、耐熱性及び耐ストレスクラック性に優れた成形体が得られやすくなる。FAEは1種又は2種以上を用いることができる。このようなFAEの好ましい具体例としては、CH
2=CH(CF
2)
2F、CH
2=CH(CF
2)
4F、CH
2=CH(CF
2)
6F、CH
2=CF(CF
2)
3H等が挙げられる。FAEとしては、CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)が最も好ましい。
【0054】
上記フッ素樹脂の具体例としては、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体などが挙げられる。
【0055】
これらのうち、エチレンを構成モノマーとして含有するフッ素系共重合体が好ましく、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体、及びエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基)系共重合体からなる群より選択される一種であることが好ましい。より好ましくはエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、エチレンを「E」、テトラフルオロエチレンを「TFE」、ヘキサフルオロプロピレンを「HFP」と表し、エチレン/テトラフルオロエチレンをE/TFE系共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体を「E/TFE/HFP系共重合体」と表わすことがある。)である。
【0056】
また、耐ストレスクラック性を改善したり、若しくはフッ素樹脂の生産性を良好に保つために、E/TFE系共重合体やE/TFE/HFP系共重合体に、CH
2=CH−Rf(Rfは炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)なるコモノマーを共重合することも好ましい。なお、当該CH
2=CH−RfにおけるRfの炭素数は4が最も好ましい。
【0057】
上記のようなフッ素樹脂に、極性官能基を導入する方法としては、TFEやHFP等のフッ素含有ビニルモノマーを重合してフッ素樹脂を製造する際に、フッ素含有ビニルモノマーと極性官能基を有するビニルモノマーとを共重合させる方法;極性官能基を有する重合開始剤又は連鎖移動剤の存在下でフッ素含有ビニルモノマーを重合することにより、重合体末端に極性官能基を導入する方法;極性官能基を有するビニルモノマーとフッ素樹脂とを混錬した後、放射線照射する方法;極性官能基を有するビニルモノマー、フッ素樹脂及びラジカル開始剤を混錬した後、溶融押出しすることにより当該極性官能基を有するコモノマーをフッ素樹脂にグラフト重合する方法等が挙げられる。このうち好ましくは、特開2004−238405号に記載のように、フッ素含有ビニルモノマーと、極性官能基を有するコモノマー、例えば無水イタコン酸や無水シトラコン酸とを共重合させる方法である。
【0058】
前記極性官能基を有するビニルモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネンー2,3−ジカルボン酸無水物(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物ともいう)等のカルボン酸無水物基を与えるモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2COOH、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2COOH、CH
2=CHCF
2CF
2CF
2COOH等のカルボキシル基を与えるモノマー、及びそれらのメチルエステル、エチルエステル等のアルキルエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0059】
また、前記極性官能基を有する重合開始剤としては、例えば、パーオキシカーボネート基を有するパーオキシド、パーオキシエステルを有するパーオキシドを用いることができ、中でも、パーオキシカーボネート基を有するパーオキシドがより好ましく用いられる。パーオキシカーボネート基を有するパーオキシドとしては、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が好ましく用いられる。
また、極性官能基を有する連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、無水酢酸等のカルボン酸、チオグリコール酸、チオグリコール等が挙げられる。
【0060】
B成分(極性官能基含有フッ素樹脂)における極性官能基の含有率((極性官能基のモル数/フッ素樹脂構成モノマーのモル数)×100)は、好ましくは0.01〜10モル%、より好ましくは0.05〜5モル%、最も好ましくは0.1〜3モル%である。官能基の量が少なすぎると、A成分である側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂との親和性が低下しすぎて、B成分の微分散が達成されにくくなり、結果として、均質な樹脂組成物が得られにくくなる。すなわち、B成分が微小な島となる海島構造が形成されにくくなり、その結果、耐屈曲疲労性の改善が不十分となるだけでなく、ボイドや凝集物が発生し、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂本来の利点であるガスバリア性や溶融成形性が低下する原因ともなる。
【0061】
本発明で使用する極性官能基含有フッ素樹脂は、融点が120〜240℃であることが好ましく、より好ましくは150〜210℃、さらに好ましくは170〜190℃である。樹脂組成物の主成分であるA成分の融点よりも高くなりすぎると、組成物を製造する際に溶融温度を250〜290℃の高温まで上げる必要があり、その結果、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂の劣化や色調悪化を引き起こし、好ましくない。通常、極性官能基の含有率が上記範囲内にある極性官能基含有フッ素樹脂では、融点が上記範囲となる。
【0062】
(B)成分に使用するフッ素樹脂の容量流速(以下「Q値」という。)は、0.1〜1000mm
3/秒で、好ましくは、1〜500mm
3/秒、さらに好ましくは、2〜200mm
3/秒である。Q値は、フッ素樹脂を溶融成形する場合に問題となる樹脂の溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。すなわち、Q値が大きいと分子量が低く、小さいと分子量が高いことを示す。ここで、Q値は、島津製作所社製フローテスタを用いて、当該フッ素樹脂の融点より50℃高い温度において、荷重7kg下に直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に押出すときの樹脂の押出し速度である。Q値が小さすぎると当該フッ素樹脂の押出し成形が困難となり、大きすぎると樹脂の機械的強度が低下する。
【0063】
以上のような極性官能基含有フッ素樹脂(B)の製造方法については特に制限はなく、通常、フッ素含有ビニルモノマー、その他のコモノマーを反応器に装入し、一般に用いられているラジカル重合開始剤、連鎖移動剤を用いて共重合させる方法が採用できる。重合方法の例としては、公知の方法である塊状重合;重合媒体としてフッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合;重合媒体として水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合;重合媒体として水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合が挙げられるが、溶液重合が最も好ましい。重合は、一槽ないし多槽式の撹拌型重合装置、管型重合装置等を使用し、回分式又は連続式操作として実施することができる。
【0064】
ラジカル重合開始剤としては、半減期が10時間である温度が0〜100℃である開始剤が好ましく、20〜90℃である開始剤がより好ましい。例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート;tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル;イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド;(Z(CF
2)
pCOO)
2(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、pは1〜10の整数である。)等の含フッ素ジアシルペルオキシド;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0065】
重合媒体としては、上記したようにフッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒、水性媒体等が挙げられる。
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール;1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボン;1−ヒドロトリデカフルオロヘキサン等の含フッ素ハイドロカーボンなどが挙げられる。
重合条件は特に限定しないが、例えば重合温度は通常0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。また重合圧力は0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。重合時間は重合温度及び重合圧力等により変わりうるが、通常1〜30時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。
【0066】
〔(C)その他の添加物〕
本発明で用いられるガスバリア層用樹脂組成物には、上記(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂、(B)極性官能基含有フッ素樹脂の他、必要に応じて、本発明の効果を損なわない限り(例えば、樹脂組成物全体の5重量%未満にて)、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6・66等のポリアミド樹脂;上記一般式(1)の構造単位を有しない未変性ポリビニルアルコール系樹脂;他の熱可塑性樹脂;エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);充填材(例えば無機フィラー等);酸素吸収剤(例えば、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体の環化物等);界面活性剤、ワックス;分散剤(ステアリン酸モノグリセリド等)、熱安定剤、光安定剤、乾燥剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、共役ポリエン化合物などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0067】
また、(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂又は(B)極性官能基含有フッ素樹脂の不可避的に含有されるモノマー残渣やモノマーのケン化物などが含まれていてもよい。
【0068】
(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂に伴って含まれる不可避的不純物としては、例えば、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−オール−1−ブテン、4−アセトキシ−3−オール−1−ブテン等が挙げられる。
【0069】
〔ガスバリア層用樹脂組成物及びその調製〕
ガスバリア層用樹脂組成物は、上記(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂、(B)極性基含有フッ素樹脂、さらに必要に応じて添加される添加物(C)を、所定比率で配合し、溶融混練することにより調製できる。
【0070】
上記(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂と(B)極性官能基含有フッ素樹脂との含有量比は、質量比(A/B)にて、9.5/0.5〜5/5であることが好ましく、より好ましくは9/1〜6/4、特に好ましくは9/1〜7/3である。A成分の含有比率が大きくなりすぎると、柔軟性、耐屈曲性の改善が不十分となる傾向があり、B成分の含有比率が大きくなりすぎると、水素ガスバリア性が不足する傾向にある。特に極性官能基含有フッ素樹脂(B)の極性基がカルボキシル基である場合、水酸基とカルボキシル基の反応を促進し、相溶化を向上させる目的で各種塩類(酢酸ソーダ、酢酸カリウム、第2リン酸カリウム等)を配合することが好ましい。
【0071】
溶融混練は、押出機、バンバリーミキサー、ニーダールーダー、ミキシングロール、ブラストミル等の公知の混練機を用いることができる。例えば、押出機の場合、単軸または二軸の押出機等が挙げられる。溶融混練後、樹脂組成物をストランド状に押出し、カットしてペレット化する方法が採用され得る。
かかる溶融混練は、(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂と(B)極性官能基含有フッ素樹脂とを一括投入して行ってもよいし、(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂を二軸押出機で溶融混練しながら、(B)極性官能基含有フッ素樹脂を溶融状態、あるいは固体状態でサイドフィードして行ってもよい。
【0072】
溶融混練温度は、(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂、(B)極性官能基含有フッ素樹脂の種類に応じて適宜選択されるが、通常215〜250℃、好ましくは215〜240℃、より好ましくは220〜235℃、特に好ましくは220〜230℃である。
【0073】
以上のような組成を有するガスバリア層用樹脂組成物は、主たる成分である(A)側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂をマトリックスとして、(B)極性官能基含有フッ素樹脂を島とする海島構造を有するポリマーアロイを形成することができる。B成分の極性官能基が、A成分の水酸基と反応あるいは水素結合を形成することができるので、海島構造の界面は、強固な界面となることができる。さらに、前記ガスバリア層用樹脂組成物の海島構造は、島部の平均面積が、通常0.1〜3μm、好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.3μm以下、最も好ましくは1μm以下となる。
【0074】
このようなガスバリア層用樹脂組成物は、構成成分である側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)に基づく優れた水素ガスバリア性を有し、且つ極性官能基含有フッ素樹脂(B)により、ポリビニルアルコール系樹脂の弱点であった耐屈曲性が改善される。さらに前記ガスバリア層用樹脂組成物は、上記のような海島構造を形成できることから、優れた耐水素脆性を有する。具体的には、70MPaという高圧で水素を曝露、脱気を繰り返す試験においても、ブリスタを発生しないという優れた高圧水素耐久性を有する。このような優れた高圧水素耐久性は、構成成分である側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂及び極性官能基含有フッ素樹脂の各々が低水素溶解性であるということに加えて、詳細な機構、構造の解明は不明であるが、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂と極性官能基含有フッ素樹脂との海島構造の界面が、両樹脂の化学的結合によって生成した相溶化剤の存在により濡れ性が大幅に向上し、水素ガスの溶解、拡散の際の負荷に耐えうる強靭性を有しているためではないかと考えられる。つまり、構成成分の水素溶解性が低くても、海島構造の界面の濡れ性が悪いと、高圧水素曝露により界面剥離し、そこから水素ガスが侵入し、脱圧時には侵入した水素が脱出しようとするために、ブリスタが発生すると考えられる。しかしながら、界面の濡れ性が向上することにより、高圧水素ガスに曝露されても、脱圧時の島の部位に溶解した水素の気化に起因するブリスタが発生せずに済むのではないかと考えられる。
【0075】
さらに、水素脆性試験後の引張試験においても、初期の引張強度を保持し続けることが可能であった。このことは、水素侵入が阻止されることで、高圧水素曝露、脱気の繰り返しによっても、機械的強度の低下が抑制されたためと考えられる。
【0076】
なお、以上のようなガスバリア用樹脂組成物は、上記のように水素ガスに対して優れたガスバリアを有するだけでなく、ヘリウム、酸素、窒素、空気等の他のガスに対しても優れたガスバリア性を有する。特に水素やヘリウム等の分子量10未満のガスに対するバリア性に優れる。
【0077】
<高圧ガス用ホース又は貯蔵容器>
本発明の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器は、上記ガスバリア層用樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含むものである。好ましくは多層構造からなるホース又は貯蔵容器のうち、内側層(すなわち高圧ガスと接する層)又は中間層、より好ましくは中間層として、ガスバリア層用樹脂組成物の層を含むものである。さらに、内側層及び/又は外側層(すなわち外気と接する層)に、耐水性、水分不透過性の熱可塑樹脂層を含むことが好ましい。なお、中間層とは外側層と内側層の間にある層をいう。また、外側層に、さらに補強層を設けることが好ましい。補強層が設けられている場合、補強層が外気と接する層(最外層)となる。さらにまた、これらの層間に、接着性樹脂からなる接着層が設けられていてもよい。
【0078】
従って、高圧ガス用ホース又は貯蔵容器を構成する積層構造としては、内側から順に、本発明の樹脂組成物からなるガスバリア層/水分不透過性熱可塑性樹脂層/補強層、水分不透過性熱可塑性樹脂層/前記ガスバリア層/補強層、水分不透過性熱可塑性樹脂層/前記ガスバリア層/水分不透過性熱可塑性樹脂層/補強層などが挙げられる。好ましくは水分不透過性熱可塑性樹脂層/前記ガスバリア層/水分不透過性熱可塑性樹脂層/補強層である。これらのホース又は貯蔵容器を構成する多層構造の層間には、接着層を設けてもよい。尚、多層構造体の層数は、補強層を含むのべ数にて通常3〜15層、好ましくは4〜10層である。
【0079】
前記ガスバリア層と水分不透過性熱可塑性樹脂層の厚み比は、多層フィルム中の同種の層厚みを全て足し合わせた状態で、通常、水分不透過性熱可塑性樹脂層の方が厚く、前記ガスバリア層に対する水分不透過性熱可塑性樹脂層の厚み比(水分不透過性熱可塑性樹脂層/ガスバリア層)は、通常1〜100、好ましくは3〜20、特に好ましくは6〜15である。水分不透過性熱可塑性樹脂層の厚みは通常50〜150μmである。
ガスバリア層が薄すぎる場合、得られるホース又は貯蔵容器の高度なガスバリア性が得られにくい傾向がある。厚すぎる場合、耐屈曲性と経済性が低下する傾向がある。
また水分不透過性熱可塑性樹脂層が薄すぎる場合、得られるホース又は貯蔵容器の強度が低下する傾向があり、厚すぎる場合は耐屈曲性や柔軟性が低下する傾向がある。
【0080】
また、接着層を用いる場合、通常ガスバリア層を厚くすることが好ましい。接着層に対する前記ガスバリア層の厚み比(ガスバリア層/接着層)は通常1〜100、好ましくは1〜50、特に好ましくは1〜10である。接着層の厚みは通常10〜50μmであることが好ましい。接着層が薄すぎる場合、層間接着性が不足する傾向があり、厚すぎる場合は経済性が低下する傾向がある。
【0081】
水分不透過性熱可塑性樹脂層に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、疎水性熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。例えば具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、環状ポリオレフィン、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの(カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂、エステル変性ポリオレフィン系樹脂)等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドやナイロン6・12、ナイロン6・66等の共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル等のビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、極性基を有するフッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0082】
なかでも、耐水性、強度、靱性や低温での耐久性の点で、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、極性基を有するフッ素系樹脂から選ばれる少なくとも1種が好ましく、より好ましくはカルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、極性基を有するフッ素系樹脂から選ばれる少なくとも1種である。尚、水分不透過性熱可塑性樹脂層の外側にエポキシ樹脂を塗工してもよい。
【0083】
接着層としては、公知の接着性樹脂を用いることが可能であり、通常ポリオレフィン系樹脂をマレイン酸等の不飽和カルボン酸(または不飽和カルボン酸無水物)で変性したカルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂や、極性基を有するフッ素樹脂が好ましく用いられる。前記ポリオレフィン系樹脂としては、上述の水分不透過性の熱可塑性樹脂層に用いられる熱可塑性樹脂として列挙したポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0084】
極性基を有するフッ素樹脂としては、ガスバリア層用樹脂組成物に用いた極性官能基含有フッ素樹脂と同種類のフッ素樹脂であってもよいし、異なる種類のフッ素樹脂であってもよい。経済性と性能のバランスの点から、カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましく、より好ましくはカルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂若しくはカルボン酸変性ポリエチレン系樹脂又はこれらの混合物である。
【0085】
なお、上記水分不透過性熱可塑性樹脂層、接着層には、成形加工性や諸物性の向上のために、公知一般の各種添加剤や改質剤、充填材、他の樹脂等を本発明の効果を阻害しない範囲で配合してもよい。
【0086】
また、本発明で用いるガスバリア層用樹脂組成物は、PVA系樹脂、EVOH樹脂に対して接着性を有するため、特殊な態様としてPVA系樹脂やEVOH樹脂を上記水分不透過性熱可塑性樹脂層に用いることも可能である。例えば、ポリアミド樹脂層/EVOH樹脂層/ガスバリア層、ポリアミド樹脂層/EVOH樹脂層/ガスバリア層/EVOH樹脂層等の層構成が挙げられる。上記ポリアミド樹脂は、好ましくは共重合ポリアミドであり、特に好ましくはナイロン6・66である。
【0087】
補強層としては、繊維を用いた補強繊維層や、ゴムを用いた補強ゴム層等が挙げられる。補強繊維層としては、例えば、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の高強度繊維、不織布、布などを用いることができる。好ましくは、補強繊維層であり、さらに好ましくは高強度繊維を用いた補強繊維層であり、特に好ましくは高強度繊維を編み組したシート層又は当該シートをスパイラルに巻き付けてなる補強繊維層である。
尚、ホースの補強層の構造は、例えば、特開2010−31993号公報に記載の構造に準じて構成してもよい。ホースの補強層としては、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維を用いることが好ましい。貯蔵容器の補強層としては、炭素繊維が好適に使用される。
【0088】
本発明のホースまたは貯蔵容器が、ガスバリア層用樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構造からなるホース又は貯蔵容器である場合、多層構造を構成する樹脂層の各層を構成する材料の平均線膨張係数が等しいことが好ましい。
【0089】
平均線膨張係数の比を1に近づけることにより、水素暴露の高圧時と脱圧時の環境変化に対して各層が類似挙動を示し、ガスバリア層が他の層の挙動に追随できるので、ガスバリア層の受ける屈曲等の負荷を軽減することができる。
かかる平均線膨張係数の比は、同一条件で測定した平均線膨張係数を適用することが可能である。さらには、高圧ガス設備における実用的な温度範囲である、−60〜40℃における平均線膨張係数を用いることが好ましい。
【0090】
特に、補強層として、上記高強度繊維を編み組したシート層又は当該シートをスパイラルに巻き付けてなる層(補強繊維層)を有する場合、補強繊維層の線膨張係数を考慮して、多層構造の層材料の組み合わせを選定することが好ましい。なお、平均線膨張係数は、熱機械分析装置(TMA)によって測定することができる。
【0091】
ホースの内径、外径、厚み、長さは、用途により選定すればよく、例えばその内径は通常1〜180mm、好ましくは3〜100mm、特に好ましくは4.5〜50mm、殊に好ましくは5〜12mmである。外径は、通常5〜200mm、好ましくは7〜100mm、特に好ましくは9〜50mm、殊に好ましくは10〜15mmである。その厚さは、通常1〜50mm、好ましくは1〜20mm、特に好ましくは1〜10mmである。長さは、通常0.5〜300m、好ましくは1〜200m、特に好ましくは3〜100mである。
【0092】
貯蔵容器の厚み、サイズは、用途により選定すればよく、例えばその厚みは通常1〜100mm、好ましくは3〜80mm、特に好ましくは3〜50mmである。貯蔵容器の容量サイズとしては、特に限定しないが、容量が通常5〜500Lであり、好ましくは10〜450Lであり、特に好ましくは50〜400Lである。形状は円柱状、角柱状、樽状など適宜選択できる。
【0093】
ガスバリア層の厚みは、ホース又は貯蔵容器の厚みの通常5〜60%、特に8〜45%の範囲で選択することが好ましい。
【0094】
本発明の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器は、ガスバリア層が、水素バリア性に優れ、しかもポリビニルアルコール系樹脂の弱点であった柔軟性を有し、且つ水素脆化しにくく、初期の機械的強度を長期間にわたって保持することができる。さらに、高圧の水素の曝露、脱圧が繰り返されてもブリスタの発生を抑制できるので、多層構造を有するホース又は貯蔵容器において、ガスバリア層と隣接する層(例えば、補強層、水分不透過性熱可塑性樹脂層)との界面での接着強度の低下も防止できる。よって、本発明の高圧ガス用ホース又は貯蔵容器は、高圧(通常35〜90MPa、好ましくは50〜90MPa)の水素の曝露、脱圧が繰り返され、水素脆化に対する優れた耐久性が要求される、水素ステーションでの高圧水素供給用ホースあるいはTypeIV貯蔵容器等の貯蔵容器、燃料電池の水素ガス燃料貯蔵容器やホースとして、好適に用いることができる。
【0095】
(A)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と(B)極性官能基含有フッ素樹脂を含有する樹脂組成物を用いた場合、エチレン構造単位の含有率が20モル%以上である側鎖1,2−ジオール含有EVOH樹脂と(B)極性官能基含有フッ素樹脂を含有する樹脂組成物を用いた場合と比べて、ガスバリア性、特に水素溶解量が低く、炭素繊維が補強層として使用された場合に、炭素繊維の線膨張係数に近づけやすいという利点もある。従って、長期間にわたって、高圧ガス、高圧水素ガスに曝される仕様にある高圧ガス用貯蔵容器には、(A)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と(B)極性官能基含有フッ素樹脂を含有する樹脂組成物がより好適に用いられる。
【0096】
なお、以上の説明は、水素ガスを中心に説明したが、本発明にかかるガスバリア層が優れたガスバリア性を発揮できる対象のガスは、高圧水素ガスに限定されない。水素ガスのほか、ヘリウム、窒素、酸素、空気などの高圧ガス供給用ホース又は貯蔵容器としても好ましく用いることができる。とりわけ、水素、ヘリウムといった分子量10未満のガスに対しては、ガスバリア性と耐屈曲性等の機械的強度の双方を満足させることは、従来公知の材料では困難であったが、本発明にかかるガスバリア層は双方の要求を満足することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0098】
〔測定評価方法〕
はじめに、以下の実施例で採用した測定評価方法について説明する。
(1)平均重合度
JIS K6726に準じて分析した。
【0099】
(2)側鎖1,2−ジオール構造単位(1a)の含有量
1H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質:テトラメチルシラン)にて測定した積分値より算出した。
【0100】
(3)ケン化度
残存酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量より算出した。
【0101】
(4)溶融粘度
220℃、せん断速度122sec
-1での溶融粘度を、東洋精機社製の「キャピログラフ1B」を用いて測定した。
【0102】
(5)水素透過係数
厚み300μmのフィルム試験片を、
図1に示す水素透過度測定装置のサンプル部分にセットし、41℃雰囲気下で、水素圧0.5MPa、0.9MPaの加圧水素をフィルムサンプルに向けて送り、透過した水素を回収し、透過係数(cc・20μm/m
2・day・atm)を測定した。
図1中、TIは温度計(Temperature Indicator)、PIは圧力計(Pressure Indicator)、MFCは流量制御装置(Mass Flow Controller)を表す。
【0103】
(6)水素溶解量(ppm)
直径13mm×厚さ3mmの試験片を、60℃で70MPaの水素ガスに24時間曝露した後、試験片を昇温脱離ガス分析装置(TDA:Thermal desorption Gas Analysis)中で定温に保ち、水素放出量の経時変化をガスクロマトグラフィにより測定した。得られた残存水素量の経時変化について、下記に示す拡散方程式の多項式近似解を飽和水素量と拡散係数Dを未知定数として、最小二乗法によりフィッティングすることにより決定した。
【0104】
【数1】
【0105】
なお、式中、C
H,R(t)(wt・ppm)は、水素曝露後の減圧時点からの経過時間t(sec)における試験片中の水素量、C
H0(wt・ppm)は、水素曝露時の飽和水素量、D(m
2/sec)は拡散係数、βnは0次ベッセル関数の根、l(m)とρ(m)は、それぞれ試験片の厚さと半径を示す。なお、かかる測定法の参考文献としては、日本機械学会論文集A編75巻756号1063〜1073頁を参照できる。
【0106】
(7)耐屈曲疲労性
得られた乾燥フィルムを使用し、ゲルボフレックステスター(理学工業社製)にて、23℃、50%RH条件下で捻じり試験を行った。25インチ水平に進んだ後に、3.5インチで440°の捻じりを100回(40サイクル/分)加えた後、該フィルムの中央部28cm×17cmあたりのピンホール発生数を数えた。かかるテストを5回試行し、その平均値を求めた。
【0107】
(8)水素脆性(耐久性)
(8−1)高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験後のブリスタ発生の有無
図3に示すように構成された水素高圧ガス設備を用いて、「試験体」と記載された部分に、
図2に示すダンベル状試験片(ISO 527-3に準拠し、b1=6、b2=25、L
0=25、l
1=33、L=80、l
3=115、h=1、単位はいずれもmm)をセットして、
図4に示す圧力パターン(0.5時間で水素ガスを70MPaまで昇圧し、かかる高圧水素環境下に20時間曝露し、30秒間で脱圧後0.5時間静置を1サイクルとして、20サイクル繰り返した(合計曝露時間400時間)。
高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験後、試験片を取り出し、試験片の状態を目視で観察し、ブリスタの発生の有無(通常、ダンベル部分に発生)を観察した。ダンベル部分にブリスタが発生しなかった場合を「○」(ブリスタ個数:0個)、ブリスタ発生個数が50個以上300個未満の場合を「△」、ブリスタ発生個数が300個以上の場合を「×」として、評価した。
【0108】
(8−2)高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験による機械的強度の変化
上記高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験を行った後、引張試験を行った。弾性率、破断伸び(%)が、高圧水素ガス曝露−脱圧サイクル試験を行う前の弾性率、破断伸びと比べたときの変化度合が、10%以下であり、かつ亀裂が生じる等の水素脆化が認められなかった場合を「○」とし、10%を超える場合又は亀裂が生じる等の水素脆化が認められた場合を「×」とした。
【0109】
(9)モルフォルジーの観察(ドメインサイズ)(μm)
下記方法により得られた樹脂ペレット(No.4,5,7)をエポキシ樹脂で包埋し、ウルトラークライオミクロトームを用いて切断した。かかる切断面をイオンエッチング処理し、Osコーターを用いて導電処理し、走査電子顕微鏡で観察(10000倍)し、ドメインの平均サイズを求めた。
【0110】
(10)平均水素透過量(cc/m・hr)
内径8.3mm、外径10.3mmの押出成形品であるホースを作成し、ホース内に70MPaで1000時間、水素を通過させ、ホース外に漏出した水素量を測定し、同一厚みで1時間当たりの水素透過量(cc/m・hr)に換算した。
【0111】
〔使用した樹脂の種類及び調製〕
(1)側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(PVA1,2,3)
還流冷却器、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.0部、メタノール23.8部、3,4−ジアセトキシ−ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し、共重合体のメタノール溶液とした。
次いで、上記メタノール溶液を、さらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整して、ニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して11.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。
ケン化が進行するとともに、ケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別した。得られたケン化物をメタノールでよく洗浄して熱風乾燥機で乾燥し、上記(1a)式の側鎖1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(PVA2)を得た。
【0112】
得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂のケン化度は99.9モル%、平均重合度は470、一般式(1a)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量は6モル%であった。
【0113】
3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの配合量を変更することにより、重合度470で、側鎖1,2−ジオール含有率が異なる2種類のポリビニルアルコール(PVA1、PVA3)を合成した。
【0114】
(2)極性官能基含有フッ素樹脂(酸無水物基含有フッ素樹脂)(B)
内容積が430リットルの撹拌機付き重合槽を脱気し、溶媒として、1−ヒドロトリデカフルオロヘキサン200.7kg及び1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(旭硝子社製AK225cb、以下「AK225cb」という。)55.8kgを仕込み、さらに、重合モノマーとして、1.3kgのCH
2=CH(CF
2)
4Fを仕込んだ。次いで、重合モノマーとして、122.2kgのヘキサフルオロプロピレン(HFP)、36.4kgのテトラフルオロエチレン(TFE)、1.2kgのエチレン(E)を圧入し、重合槽内を66℃に昇温し、重合開始剤としてtert−ブチルペルオキシピバレート85.8gを仕込み、重合を開始させた。重合中圧力が一定になるように組成TFE/E=54/46(モル比)のモノマー混合ガスを連続的に仕込み、TFE/Eのモノマー混合ガスに対して、1.0モル%となるようにCH
2=CH(CF
2)
4Fを、0.35モル%となるように極性官能基含有化合物である無水イタコン酸を、それぞれ連続的に仕込んだ。重合開始3.6時間後、モノマー混合ガスの29kgを仕込んだ時点で、重合槽内温を室温まで降温するとともに常圧までパージした。
【0115】
得られたスラリーから溶媒を留去して、極性官能基として酸無水物基を含有するフッ素樹脂を得、これを130℃で4時間真空乾燥することにより、30kgの極性官能基含有フッ素樹脂(B)を得た。
【0116】
極性官能基含有フッ素樹脂(B)の結晶化温度は175℃、Q値は12mm
3/秒、コモノマー組成はTFE/E/HFP/CH
2=CH(CF
2)
4F/無水イタコン酸=47.83/42.85/7.97/1.00/0.35(モル%)であった。また、MFR2.3g/10分(210℃、2160g)であった。
【0117】
(3)ポリアミド樹脂
以下に示すポリアミド樹脂を用いた。
・ナイロン11:アルケマ社の「Rilsan BESN P40」(商標)、溶融粘度(220℃、せん断速度122sec
-1)は1557Pa・s
・ナイロン6・66:三菱エンジニアリング社製の「Novamid2420J」(商標)、溶融粘度(220℃、せん断速度122sec
-1)は1368Pa・s、SP値25.8である。
【0118】
〔ペレット及びフィルムの作製〕
使用した樹脂及び樹脂組成物は、二軸押出機(テクノベル社製)を用いて、下記条件でペレット化した。尚、樹脂組成物の調製は、各樹脂をドライブレンドした後、二軸押出機で押し出した。
スクリュー径:15mm
L/D=60mm
回転方向:同方向
スクリューパターン:3か所練り
スクリーンメッシュ:90/90メッシュ
スクリュー回転数 :200rpm
温度パターン:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=180/200/210/210/215/215/220/220/220℃
樹脂温度:225℃
吐出量:1.5kg/hr
【0119】
得られた樹脂(又は樹脂組成物)のペレットを、二軸押出機(テクノベル社)にて下記条件で製膜し、厚さ30μmのフィルムを得た。
直径(D)15mm
L/D=60
スクリュー:練り3か所
ベント :C7オーブン
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=180/200/210/210/215/215/220/220/220℃
スクリーンメッシュ:90/90メッシュ
スクリュー回転数:200rpm
樹脂温度:225℃
吐出量:1.5kg/hr
ダイ:幅300mm、コートハンガータイプ
引取速度:2.6m/min
ロール温度:50℃
エアーギャップ:1cm
【0120】
〔水素ガスバリア性の比較〕
上記で調製した側鎖1,2−ジオール含有率が異なるPVA1、PVA2、PVA3、及びナイロン11の水素透過係数を測定し、比較した。結果を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
表1から、ナイロン11では、41℃、0.5MPaにおける水素透過係数が2.1×10
4cc/m
2・day・atmであり、かかる値は、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の3000倍以上である。したがって、側鎖1,2−ジオール構造単位、ビニルアルコール構造単位を含有する側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、これらの構造単位を有しない熱可塑性樹脂と比べて、非常にガスバリア性に優れていることがわかる。
【0123】
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂においては、側鎖1,2−ジオール含有率の増大に伴い、水素透過係数が減少していくことがわかる。しかしながら、PVA3、PVA2、PVA1と、側鎖1,2−ジオール含有率が1/2、1/3と減少しても、水素透過係数は、わずか0.6cc/m
2・day・atm、0.7cc/m
2・day・atmが増加するのみであり、いずれのPVAにおいても水素透過能に優れることがわかる。
【0124】
〔ガスバリア用樹脂組成物の調製及び評価〕
表2に示した組成(重量比率)を有する樹脂組成物について、上記方法によりペレット及びフィルムを作成し、水素溶解量、耐屈曲性、耐水素脆性を測定評価した。結果を表2、表3に示す。また、樹脂組成物No.4、5、及び7の走査電子顕微鏡写真(10000倍)を、それぞれ
図5−
図7に示す。写真右下の白線の長さが1μmである。
また、組成物におけるA成分である側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂とB成分である極性官能基含有フッ素樹脂の混合比率と溶融粘度との関係を
図8に示す。
【0125】
【表2】
【0126】
No.1,2とNo.8,9との比較から、ポリアミド系樹脂では水素溶解量が大きく(No.8,9)、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂及び極性官能基含有フッ素樹脂の水素溶解量は小さい(No.1,2)ことがわかる。
また、No.4、No.5(
図5,6)とNo.7(
図7)の顕微鏡写真からも明らかなように、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と極性官能基含有フッ素樹脂との組合せのドメインサイズは、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂とポリアミド系樹脂との組合せのドメインサイズよりも小さく、微細な海島構造を形成できることがわかる。側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と極性官能基含有フッ素樹脂との組合せのドメインサイズは、極性官能基含有フッ素樹脂の含有率により異なるが、いずれも平均ドメインサイズは1μm未満であった。
【0127】
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の耐屈曲性は、No.1及び極性官能基含有フッ素樹脂の組合せ(No.3−5)又はポリアミド系樹脂との組合せNo.7により、改善されたことがわかる。これは、No.1とNo.3−5、7との耐屈曲性比較により明らかである。
ナイロン6・66(SP値:25.8)は、ナイロン11(SP値:20.8)よりも側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂との相溶性が高い。No.6とNo.7との比較から、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂と相溶性の高いポリアミド系樹脂を用いることで、ブリスタの発生を改善できることがわかるが、相溶性の高いナイロン6・66を用いた場合でも、未だブリスタの発生が認められた(No.7)。これに対して、極性官能基含有フッ素樹脂と組み合わせたNo.3−5では、いずれもブリスタの発生が認められなかった。
【0128】
図8において、点線は、極性官能基含有フッ素樹脂の含有率0重量%(すなわちPVA2単独の組成である)の溶融粘度と、極性官能基含有フッ素樹脂の含有率100重量%(すなわち極性官能基含有フッ素樹脂単独の組成である)の溶融粘度をつないだものであり、A成分とB成分の相互作用がないと仮定した場合の均等混合物における溶融粘度の想定値を示している。
【0129】
極性官能基含有フッ素樹脂の含有率が10重量%、20重量%、30重量%である樹脂組成物(No.3〜5)の溶融粘度は、いずれも想定値よりも高い溶融粘度を示した。そして、極性官能基含有フッ素樹脂の含有率が高くなる程、溶融粘度が想定値よりも高く、外れる度合いも大きくなった。従って、本発明でガスバリア層として使用する、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂と極性官能基含有フッ素樹脂との樹脂組成物は、側鎖1,2−ジオール含有ポリビニルアルコール系樹脂と極性官能基含有フッ素樹脂との単なる混合物ではなく、両成分が化学的相互作用により、強固な界面を形成しているポリマーアロイであると考えられる。
【0130】
〔ホースNo.20−22の作製及び評価〕
表3に示すような樹脂(組成物)及び層構造を有するホース(内径8.3mm、外径10.3mm、長さ1m)を、押出成形により作製した。作製したホースの外側面に高強度繊維であるポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)を用いた補強繊維層(厚み2mm)を設け、ホース(内径8.3mm、外径16mm、長さ1m)を得た。
得られた補強繊維層有りのホースNo.20−22内に70MPaで1000時間、水素を通過させ、ホース外に漏出した水素量を測定し、同一厚みで1時間あたりの水素透過量(cc/m・hr)に換算した。結果を表3に示す。なお、No.22では、ガスバリア層として、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂とナイロン6・66の混合物(樹脂組成物No.7)を使用し、内側層は設けなかった。
【0131】
【表3】
【0132】
ガスバリア層として、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂と極性官能基含有フッ素樹脂のポリマーアロイを使用し、さらに内側層に変性フッ素樹脂層を設けたホースNo.21は、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂とポリアミド樹脂とを組合せた樹脂組成物No.7をガスバリア層としたホースNo.22と比べて、大幅に水素透過量を低減できた。
したがって、本発明のホースNo.21は、ビニルアルコール系樹脂を含有するガスバリア層を有しない従来のホースNo.20に対してだけでなく、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂を含むが極性官能基含有フッ素樹脂を含有しない樹脂組成物をガスバリア層とするホースNo.22と比べても、はるかに優れた水素ガスバリア性を有する。