(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記係止部は、前記香箱車側トルク調整用車を係止するレバーと、回転するトルク調整用脱進カムと、前記レバーに連結され前記トルク調整用脱進カムの回転に連動するカムフォロアと、を有し、
前記係止解除部は、前記所定周期で前記トルク調整用脱進カムを回転させるように作用して前記カムフォロアを連動させることで前記レバーによる前記香箱車側トルク調整用車の係止を解除する解除機構を有する
請求項1又は請求項2に記載のトルク調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。
時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。ムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側、すなわち、文字板のある方の側をムーブメントの「裏側」又は「ガラス側」又は「文字板側」と称する。地板の両側のうち、時計ケースの裏蓋のある方の側、すなわち、文字板と反対の側をムーブメントの「表側」又は「裏蓋側」と称する。
【0017】
図1は、機械式時計1のコンプリート裏側の平面図である。機械式時計1のコンプリートは、時に関する情報を示す目盛り3などを含む文字板2を備えている。また機械式時計1のコンプリートは、時を示す時針4a、分を示す分針4bおよび秒を示す秒針4cを含む針4を備えている。
【0018】
図2は、第1実施形態におけるトルク調整装置6の説明図であり、ムーブメント5の表側の輪列受を除いた状態の斜視図である。
図2に示すように、機械式時計1のムーブメント5は、香箱車10の内部に配置されて動力源となる主ぜんまい10aと、当該主ぜんまい10aの動力を伝達する輪列(香箱車10、二番車20、三番車30、四番車40)と、輪列を間欠的に動作させる脱進機50(がんぎ車51、アンクル56)と、脱進機50を周期的に動作させる調速機(てんぷ58)とを備えている。これらの各部材は、基板を構成する地板(不図示)と、この地板に対向配置される輪列受(不図示)との間に配置される。
【0019】
香箱車10は、香箱の外周に香箱歯車14を備えている。二番車20は、香箱歯車14に噛み合う二番かな22と、二番かな22に連動する二番歯車24とを備えている。三番車30は、二番歯車24に噛み合う三番かな32と、三番かな32に連動する三番歯車34とを備えている。四番車40は、三番歯車34に噛み合う四番かな42と、四番かな42に連動する四番歯車44とを備えている。香箱車10ないし四番車40は、主ぜんまい10aの動力を伝達しながら回転数を増加させる増速輪列を構成している。四番車40は
図1の秒針4cに対応する。
【0020】
がんぎ車51は、四番歯車44に噛み合うがんぎかな52と、がんぎかな52に連動するがんぎ歯車54とを備えている。アンクル56は、がんぎ歯車54の歯に係合する一対のつめ石57を備えている。てんぷ58は、ひげぜんまい59を備えている。
図2では、アンクル56の一方のつめ石57が、がんぎ歯車54の歯に係合した状態で、がんぎ車51は一時的に停止している。
【0021】
この状態から、ひげぜんまい59の拡縮によりてんぷ58が回転すると、てん真に固定された振り石がアンクル56を回動させる。これにより、アンクル56の一方のつめ石57が、がんぎ歯車54から外れ、がんぎ歯車54はアンクル56の他方のつめ石57に係合する位置まで
図2の反時計回りの方向に回転する。このようながんぎ歯車54の間欠的な回転運動により、脱進機50は輪列を間欠的に動作させる。またてんぷ58は周期的に回転振動するので、脱進機50は周期的に動作する。
【0022】
アンクル56の一方のつめ石57が、がんぎ歯車54から外れる際に、がんぎ歯車54がそのつめ石57を押し出すことで、アンクル56がてんぷ58を振り上げる。これにより、がんぎ歯車54からてんぷ58に動作トルクが付与され、てんぷ58の回転振動が維持される。
【0023】
主ぜんまい10aの巻き解けに応じて、香箱車10から脱進機50に伝達される動作トルクが変動すると、てんぷの振り角が変化して時計の歩度が変化する。このような動作トルクの変動を抑制するため、ムーブメント5は、香箱車10から脱進機50への輪列に副ぜんまい(トルク調整用ぜんまい)65を組み込んだトルク調整装置6を備えている。
【0024】
トルク調整装置6は、トルク調整装置本体60と、トルク調整用脱進機(周期制御機構)70とを備えている。本実施形態では、トルク調整装置本体60は、三番車30に組み込まれている。また、トルク調整用脱進機70は、トルク調整装置本体60の動作を制御する。
【0025】
図3はトルク調整装置6の説明図であり、
図2の白抜き矢印の方向Aに見た時の構成を示す側面図である。
図3に示すように、トルク調整装置本体60は、副ぜんまい(トルク調整用ぜんまい)65と、香箱車側歯車(香箱車側トルク調整用車)64と、脱進機側歯車(脱進機側トルク調整用車)66とを備えている。
【0026】
副ぜんまい65は、外周端部(第一端部)65a及び内周端部(第二端部)65bを有している。副ぜんまい65の外周端部65aは、第1固定部材64fを介して香箱車側歯車64に固定されている。副ぜんまい65の内周端部65bは、第2固定部材61を介して三番車30の真31に固定されている。
【0027】
脱進機側歯車66は、三番車30の真31に固定されている。これにより、脱進機側歯車66は、副ぜんまい65の内周端部65bに連結されている。脱進機側歯車66は、上記の三番歯車34として機能する。つまり、本実施形態では、脱進機側歯車66と三番歯車34とは同一の構成要素である。
【0028】
香箱車側歯車64は、三番かな32に固定されている。香箱車側歯車64は、三番車30の真31に対して三番かな32と一体で回転可能となっている。香箱車側歯車64の外周には歯が形成されている。
【0029】
図4は、
図2におけるトルク調整用脱進機70の周囲を拡大して示す図である。
図5は、
図4におけるトルク調整用脱進機70の構成を裏側から見た時の構成を示している。なお、
図4及び
図5では、輪列に対してトルク調整用脱進機70が同じ側(
図4、
図5の下側)に配置されるように示されている。
【0030】
図4及び
図5に示すように、トルク調整用脱進機70は、係止部71と、係止解除部72とを備えている。係止部71は、香箱車側歯車64を所定角度だけ回転させた後に当該香箱車側歯車64を係止する。係止解除部72は、所定周期で係止部71に作用し、係止部71による香箱車側歯車64の係止を解除する。
【0031】
係止部71は、係止部中間歯車73と、ラチェット車(ストップ車)74と、レバー(係止部材)75と、一対のドテピン80(ドテピン80a、80b)とを有している。
係止部中間歯車73は、真81を中心として回転可能に設けられている。係止部中間歯車73は、香箱車側歯車64と噛み合っており、当該香箱車側歯車64と連動して回転する。ラチェット車74は、係止部中間歯車73に固定されている。ラチェット車74は、真81に対して係止部中間歯車73と一体で回転可能となっている。
【0032】
レバー75は、真82を中心として回転可能に設けられている。レバー75は、3本の腕部(第一腕部75a、第二腕部75b、第三腕部75c)と、基部75dとを有している。第一腕部75aの先端には、入爪84が固定されている。第二腕部75bの先端には、出爪85が固定されている。入爪84及び出爪85は、ラチェット車74の歯74aに係合される。入爪84の先端には、端面84aが形成されている。出爪85の先端には、端面85aが形成されている。一方、第三腕部75cには、レバー側外し爪86が固定されている。また、第三腕部75cの先端には、腕部75eが設けられている。腕部75eは、係止解除部72側へ向けて突出するように形成されている。
【0033】
一対のドテピン80(80a、80b)は、レバー75の回転を規制する。ドテピン80aは、第一腕部75aの先端の入爪84がラチェット車74の歯74aに係合されるときに、第三腕部75cに当接される位置に配置されている。ドテピン80bは、レバー75の回転方向について、ドテピン80aとの間で第三腕部75cを挟む位置に配置されている。
【0034】
図4及び
図5では、レバー75の一方のつめ石(入爪84)が、ラチェット車74の一の歯74aに係止した状態となっている。この状態において、ラチェット車74の回転はレバー75によって一時的に停止される。ラチェット車74の回転が停止している場合、係止部中間歯車73の回転が停止し、係止部中間歯車73が香箱車側歯車64と噛み合った状態で停止する。
【0035】
一方、係止解除部72は、振り車76と、係止解除用カム77と、振り座78と、カムジャンパ79
(停止解除用動力部)とを有している。振り車76は、歯車76aと、溝付き車76bとを有している。なお、
図2以降においては、便宜上、歯車76aを透明に示している。また、
図3においては、ドテピン80bの図示を省略している。更に
図5においては、振り座78を透明に示している。
【0036】
歯車76aは、真83を中心として回転可能に設けられている。歯車76aは、四番歯車44と噛み合っている。歯車76aは、四番歯車44と噛み合うがんぎ車51に連動して回転することになる。したがって、歯車76aは、がんぎ車51の回転方向と等しい方向、すなわち、
図4及び
図5の反時計回りの方向に回転する。
【0037】
溝付き車76bは、歯車76aに固定されている。溝付き車76bは、真83を中心として歯車76aと一体で回転するようになっている。溝付き車76bは、表裏を貫通する溝部76cを有している。溝部76cは、溝付き車76bの周方向に沿って円弧状に形成されている。
【0038】
係止解除用カム77は、真83を中心として回転可能に設けられている。係止解除用カム77は、側部にカム面77fを有している。カム面77fは、第一面77a及び第二面77bを有している。第一面77aは、係止解除用カム77の周方向の一方向(例、
図4又は
図5の時計回りの方向)において、徐々に係止解除用カム77の径(真83からカム面77fまでの距離)が大きくなるように形成されている。第二面77bは、係止解除用カム77の径が最大となる部分から、上記一方向において、急に径が小さくなるように形成された斜面である。
【0039】
係止解除用カム77は、振り車76とは固定されないように配置されており、振り車76とは独立して回転可能である。ただし、係止解除用カム77のうち溝付き車76bに対向する面には、円柱状の突起部77cが設けられている。この突起部77cは、溝付き車76bの溝部76cに挿入されている。突起部77cの径は、溝部76cの幅方向(係止解除用カム77の径方向)の寸法よりも小さくなっている。このため、係止解除用カム77と振り車76とが相対的に回転する場合、突起部77cと溝部76cとの間が回転方向に一定の範囲で相対的に移動可能となる。この場合、係止解除用カム77は、振り車76に対して自由回転可能である。このように、溝部76c及び突起部77cは、振り車76に対して係止解除用カム77を自由回転可能とする自由回転機構87を構成している。一方、突起部77cが溝部76cの端部に引っ掛かるときには、溝付き車76bの回転に引っ張られるように係止解除用カム77が
図4又は
図5の反時計回りの方向に回転する。
【0040】
振り座78は、円板状に形成されており、係止解除用カム77に固定されている。振り座78は、真83を中心として係止解除用カム77と一体で回転可能するようになっている。また、振り座78には、送り石78a及び振り座側外し爪78bが設けられている。
【0041】
送り石78aは、振り座78の端面から突出するように柱状に形成されている。送り石78aの頂面の形状は、例えば半円形に形成されている。送り石78aは、レバー75の腕部75eに係合されるようになっている。
【0042】
振り座側外し爪78bは、振り座78の側面(円周面)に埋め込まれており、振り座78の側面から径方向の外側へ突出するように設けられている。振り座側外し爪78bは、送り石78aに対して、振り座78の回転方向の前方に配置されている。振り座側外し爪78bは、レバー75に設けられるレバー側外し爪86と当接するようになっている。
【0043】
カムジャンパ79は、不図示の付勢部を有しており、係止解除用カム77のカム面77f(第一面77a又は第二面77b)を常時押圧している。第一面77aが緩やかに湾曲する形状であるため、カムジャンパ79が第一面77aを押圧する場合には、係止解除用カム77の回転には寄与しない。一方、カムジャンパ79の押圧面が第一面77aから第二面77bに切り替わり、カムジャンパ79が第二面77bを押圧することにより、係止解除用カム77が瞬間的に
図4又は
図5の反時計回りの方向に回転するようになっている。
【0044】
一対のドテピン80(80a、80b)は、レバー75の回転を規制する。ドテピン80aは、第一腕部75aの先端の入爪84がラチェット車74の歯74aに係合されるときに、第三腕部75cに当接される位置に配置されている。ドテピン80bは、レバー75の回転方向について、ドテピン80aとの間で第三腕部75cを挟む位置に配置されている。
【0045】
(トルク調整装置の動作)
次に、
図6〜
図15を参照して、トルク調整装置本体60およびトルク調整用脱進機70の動作について説明する。
図6〜
図15は、トルク調整装置本体60およびトルク調整用脱進機70の動作中の一状態を示す図であり、ムーブメント5の裏面側から見たときの構成を示している。なお、副ぜんまい65は、予め所定量だけ巻き上げられている。
【0046】
まず、
図6に示すように、レバー75の一方の入爪84がラチェット車74の歯74aに係合する場合、レバー75の第三腕部75cは、ドテピン80aに当接されているため、ラチェット車74の回転は一時的に停止する。このとき、係止解除用カム77の突起部77cが溝付き車76bの溝部76cの端部に配置されている。したがって、この状態から振り車76が
図6の反時計回りの方向に回転する場合、係止解除用カム77の突起部77cが溝付き車76bの溝部76cの端部により反時計回りの方向に押され、係止解除用カム77が同方向に回転することになる。また、振り座78に設けられる振り座側外し爪78bは、レバー75のレバー側外し爪86とは離れた位置に配置されている。カムジャンパ79はカム面77fのうち第一面77aを押圧している。
【0047】
また、レバー75は、ラチェット車74から力を受ける。この力は、真82を中心としてレバー75を
図6の反時計回りに回転させる方向に働く。一方、レバー75の第三腕部75cがドテピン80aに当接されているため、レバー75に作用する力がドテピン80aによって受けられ、レバー75の回転が規制される。このとき、レバー75と係止解除部72側との接続が切り離されているため、香箱車側歯車64と脱進機側歯車66との間は、力の伝達が切り離された状態となる。
【0048】
このようにラチェット車74の回転が停止するので、係止部中間歯車73の回転が停止し、当該係止部中間歯車73と噛み合う香箱車側歯車64の回転が停止する。この状態では、副ぜんまい65の巻き解けにより脱進機側歯車66が回転するので、副ぜんまい65から脱進機側歯車66を介して脱進機50に動作トルクが供給される。これにより、機械式時計が動作する。
【0049】
機械式時計の動作により、脱進機50のがんぎ車51(
図2、
図3参照)が回転し、当該がんぎ車51の回転に伴って振り車76が回転する。振り車76が回転すると、溝付き車76bの溝部76cの端部により係止解除用カム77の突起部77cが押されて、係止解除用カム77が回転する。係止解除用カム77の回転により、当該係止解除用カム77と一体に振り座78が回転する。
【0050】
振り座78が回転することにより、
図7に示すように、振り座78に設けられる振り座側外し爪78bがレバー75のレバー側外し爪86に当接する。また、振り座78の振り座側外し爪78bがレバー75のレバー側外し爪86に当接する際に、カムジャンパ79の押圧面が第一面77aから第二面77bに切り替わる。これにより、係止解除用カム77及び振り座78は、カムジャンパ79によって
図7の反時計回りの方向に回転するように付勢される。このカムジャンパ79の付勢力は、突起部77cが溝部76cの端部から離れる方向に作用する。このため、係止解除用カム77及び振り座78が
図7の反時計回りの方向に瞬間的に自由回転する。また、突起部77cが溝部76cの端部から中央部近傍に移動するため、溝付き車76bと係止解除用カム77との力の伝達が切り離される。
【0051】
また、係止解除用カム77及び振り座78の当該回転により、振り座78の振り座側外し爪78bがレバー75のレバー側外し爪86を時計回りの方向に押圧する。この押圧により、レバー75には、真82を中心として
図7の時計回りの方向に回転しようとする力が作用する。
【0052】
この結果、
図8に示すように、レバー75が回転し、ラチェット車74の歯74aとレバー75の入爪84との係合が解除される。この係合の解除により、ラチェット車74が
図8の時計回りの方向に回転する。このとき、ラチェット車74の歯74aの先端は、入爪84の端面84aに当接され、ラチェット車74の回転に伴って端面84aが歯74aの先端によって押圧される。この押圧により、レバー75が
図8の時計回りの方向に回転する。レバー75の回転により、第三腕部75cの先端の腕部75eが振り座78の送り石78aに当接する。なお、このとき、係止解除用カム77は溝付き車76b(振り車76)との間で力の伝達が切り離されているため自由回転可能である。また、香箱車側歯車64と脱進機側歯車66との間は、力の伝達が切り離された状態となっている。
【0053】
図8の状態からラチェット車74が回転することにより、
図9に示すように、レバー75は更に時計回りの方向に回転し、第三腕部75cの先端の腕部75eが振り座78の送り石78aを押圧する。この押圧により、振り座78及び係止解除用カム77は、
図9の反時計回りに自由回転する。また、レバー75の回転により、第二腕部75bの出爪85がラチェット車74の歯74aの軌道上に出現する。なお、このとき、ドテピン80bにより、レバー75が時計回りに回転し過ぎるといった事態が回避される。
【0054】
図9の状態からラチェット車74が回転することにより、
図10に示すように、ラチェット車74の歯74aが出爪85の端面85aに当接される。ラチェット車74が更に回転すると、ラチェット車74の歯74aによって出爪85の端面85aが押圧される。この押圧により、
図11に示すように、レバー75が
図11の反時計回りの方向に回転する。このとき、第三腕部75cの先端の腕部75eが振り座78の送り石78aを押圧して、振り座78が大きく回転しているので、レバー75が
図11の反時計回りの方向に回転するときに、振り座78の振り座側外し爪78bとレバー75のレバー側外し爪86との干渉を防止できる。
【0055】
レバー75の当該回転により、
図12に示すように、出爪85がラチェット車74の歯74aの軌道から退避すると共に、入爪84がラチェット車74の歯74aの軌道上に出現する。この状態でラチェット車74が更に回転すると、
図13に示すように、ラチェット車74の歯74aが入爪84に当接される。
【0056】
ラチェット車74の回転により、レバー75はラチェット車74から力を受け、
図13の反時計回りに回転する。この結果、
図14に示すように、第三腕部75cがドテピン80aに当接し、ラチェット車74からの力がレバー75を介してドテピン80aによって受けられる。このとき、レバー75と係止解除部72側との接続が切り離されているため、香箱車側歯車64と脱進機側歯車66との間は、力の伝達が切り離された状態を維持する。そして係止部中間歯車73の回転が停止し、当該係止部中間歯車73と噛み合う香箱車側歯車64の回転が停止する。このように、香箱車側歯車64は、所定角度回転した後に係止される。
【0057】
一方、
図8〜
図14に示す間、つまり、ラチェット車74の歯74aとレバー75の入爪84との係合が解除された状態においては、香箱車側歯車64には主ぜんまい10aから定時巻上トルクが伝達されているので、この定時巻上トルクによって香箱車側歯車64が回転し、脱進機側歯車66との間で副ぜんまい65を巻き上げる。その後、レバー75の入爪84がラチェット車74の歯74aに係合して香箱車側歯車64の回転が停止するまでの間に、副ぜんまい65は所定量だけ巻き上げられる。この所定量は、副ぜんまい65が再び巻き上げられるまでに巻き解ける量に設定されている。このように、副ぜんまい65は周期的に所定量だけ巻き上げられるので、副ぜんまい65は略一定の巻き上げ量に保持される。この副ぜんまい65からは、略一定の動作トルクが脱進機50およびてんぷ58に供給されるので、てんぷ58は脱進機50を一定の周期で動作させることができる。
【0058】
その後、上記同様に、副ぜんまい65の巻き解けにより脱進機側歯車66が回転し、脱進機50に動作トルクが供給され、機械式時計が動作する。機械式時計の動作により、脱進機50のがんぎ車51が回転し、当該がんぎ車51の回転に伴って振り車76が回転する。このため、
図15に示すように、振り車76の溝部76cが
図15の反時計回りの方向に移動し、係止解除用カム77の突起部77cが溝部76cの端部に配置される。振り車76が更に回転すると、溝部76cの端部により突起部77cが押されて係止解除用カム77が回転し、振り車76が一周ほど回転して
図6の状態に戻る。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、トルク調整用脱進機70において香箱車10と脱進機50との間の力の伝達を分断することができる。そのため、香箱車10のトルクが脱進機50に伝達されるのを抑制することができる。これにより、脱進機50の動作トルクの変化を抑制することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態によれば、香箱車10と脱進機50との間は、力の伝達が常に切り離された状態となるため、香箱車側歯車64のトルクが脱進機50側に伝達されることがない。したがって、脱進機50の動作トルクの変化を防ぐことが可能となり、脱進機50を一定の周期で動作させることができる。これにより、時計の精度を向上させることができる。また、脱進機50が一定の周期で動作するので、脱進機50に連動してトルク調整用脱進機70も一定の周期で動作する。これにより、副ぜんまい65を一定の周期で巻き上げることが可能になり、時計の精度をさらに向上させることができる。
【0061】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態を説明する。
図16は、本実施形態に係るトルク調整装置106の説明図であり、ムーブメント105の表側の輪列受を除いた状態の平面図である。
【0062】
図16に示すように、トルク調整装置106は、トルク調整装置本体160と、トルク調整用脱進機(周期制御機構)170とを備えている。
本実施形態では、トルク調整装置本体160は、四番車40に組み込まれている。トルク調整装置本体160は、副ぜんまい(トルク調整用ぜんまい)165と、香箱車側つめ車(香箱車側トルク調整車)164と、脱進機側歯車(脱進機側トルク調整車)166とを備えている。
【0063】
香箱車側つめ車164は、四番かな42に固定されている。香箱車側つめ車164は、四番かな42と共に四番車40の真41に対して回転可能となっている。香箱車側つめ車164の外周には、つめが形成されている。
【0064】
脱進機側歯車166は、四番車40の真41に固定されている。脱進機側歯車166は、上記第一実施形態における四番歯車44として機能する。つまり、本実施形態では、脱進機側歯車166と四番歯車44とが同一の構成要素である。
【0065】
副ぜんまい165の外周端部は、香箱車側つめ車164に固定されている。副ぜんまい165の内周端部は、四番車40の真41に固定されている。したがって、副ぜんまい65の内周端部は、脱進機側歯車166に連結されている。
【0066】
トルク調整用脱進機170は、係止部171及び係止解除部172を有している。
係止部171は、レバー175と、トルク調整用脱進カム187と、カムフォロア188と、ギア押圧部189とを有している。
【0067】
レバー175は、真182を中心として回転可能に設けられている。レバー175は、3本の腕部(第一腕部175a、第二腕部175b、第三腕部175c)を有している。第一腕部175aの先端には、入爪184が固定されている。第二腕部175bの先端には、出爪185が固定されている。入爪184及び出爪185は、香箱車側つめ車164のつめ164aに係合される。
【0068】
トルク調整用脱進カム187は、真183を中心として回転可能に設けられている。トルク調整用脱進カム187は、平面視においてほぼ三角形の形状を有している。トルク調整用脱進カム187には、ギア187aが固定されている。ギア187aは、真183を中心としてトルク調整用脱進カム187と一体に回転可能となっている。
【0069】
カムフォロア188は、レバー175の第三腕部175cの先端に設けられている。カムフォロア188は、平面視においてトルク調整用脱進カム187を挟む一対のフォークを備えている。一対のフォークの先端は、トルク調整用脱進カム187の中心を挟むようにトルク調整用脱進カム187の外周に配置されている。一対のフォークの間隔は、トルク調整用脱進カム187の中心から外周の頂点までの距離の2倍より小さく形成されている。カムフォロア188は、トルク調整用脱進カム187の回転に連動して、真182を中心としてレバー175と一体に回転可能となっている。
【0070】
ギア押圧部189は、トルク調整用脱進カム187に固定されたギア187aに対して所定の押圧力を常時作用させる。ギア押圧部189は、この押圧力により、ギア187aの遥動を規制する。
【0071】
係止解除部172は、中間車191と、振り車176と、係止解除用カム177と、振り座178と、カムジャンパ179
(停止解除用動力部)とを有している。
中間車191は、真192を中心として回転可能に設けられている。中間車191は、中間かな191aと、中間歯車191bとを有している。中間かな191aは、脱進機側歯車166(四番歯車44)と噛み合っており、脱進機側歯車166と連動して回転する。中間歯車191bは、中間かな191aに固定されている。中間歯車191bは、真192を中心として中間かな191aと一体に回転可能に設けられている。
【0072】
振り車176は、真193を中心として回転可能に設けられている。振り車176は、歯車176aと、切り欠き車176bとを有している。歯車176aは、中間歯車191bと噛み合っており、中間歯車191bと連動して回転する。切り欠き車176bは、歯車176aに固定されている。切り欠き車176bは、真193を中心として歯車176aと一体に回転可能に設けられている。切り欠き車176bは、外周方向に沿った所定の領域(切り欠き部176c)が切り欠かれた状態となっている。
【0073】
係止解除用カム177は、真193を中心として回転可能に設けられている。係止解除用カム177は、側部にカム面177fを有している。カム面177fは、第一面177a及び第二面177bを有している。第一面177aは、係止解除用カム177の周方向の一方向(例、
図16の時計回りの方向)において、徐々に係止解除用カム77の径が大きくなるように形成されている。第二面177bは、係止解除用カム177の径が最大となる部分から、上記一方向において、急に径が小さくなるように形成されている。係止解除用カム177は、切り欠き車176bとは固定されないように配置されており、切り欠き車176bとは独立して回転可能である。
【0074】
振り座178は、円板状に形成されており、係止解除用カム177に固定されている。振り座178は、真193を中心として係止解除用カム177と一体で回転するようになっている。振り座178のうち切り欠き車176bに対向する面には、円柱状の突起部178cが設けられている。この突起部178cは、切り欠き車176bの切り欠き部176cに挿入されている。このため、係止解除用カム177及び振り座178と切り欠き車176bとが相対的に回転する場合、突起部178cと切り欠き部176cとの間が回転方向に一定の範囲で相対的に移動可能となる。この場合、係止解除用カム177は、振り車176に対して自由回転可能である。このように、切り欠き部176c及び突起部178cは、振り車176に対して振り座178(ひいては係止解除用カム177)を自由回転可能とする自由回転機構194を構成している。なお、突起部178cが切り欠き部176cの端部に引っ掛かるときには、切り欠き車176bの回転に引っ張られるように振り座178(及び係止解除用カム177)が
図16の反時計回りの方向に回転する。突起部178cは、トルク調整用脱進カム187のギア187aに当接可能に設けられている。
【0075】
カムジャンパ179は、不図示の付勢部を有しており、係止解除用カム177のカム面177f(第一面177a又は第二面177b)を常時押圧している。第一面177aが緩やかに湾曲する形状であるため、カムジャンパ179が第一面177aを押圧する場合には、係止解除用カム177の回転には寄与しない。一方、カムジャンパ179の押圧面が第一面177aから第二面177bに切り替わり、カムジャンパ179が第二面177bを押圧することにより、係止解除用カム177が瞬間的に
図16の反時計回りの方向に回転するようになっている。カムジャンパ179が第二面177bを押圧するときの押圧力は、ギア押圧部189がギア187aを押圧するときの押圧力よりも大きくなっている。
【0076】
次に、トルク調整装置本体160およびトルク調整用脱進機170の動作について説明する。
副ぜんまい165は、予め所定量だけ巻き上げられている。レバー175の入爪184が香箱車側つめ車164に係合すると、香箱車側つめ車164の回転は一時的に停止する。この状態では、副ぜんまい165の巻き解けにより脱進機側歯車166が回転するので、副ぜんまい165から脱進機側歯車166を介して脱進機50に動作トルクが供給される。これにより、機械式時計が動作する。
【0077】
また、脱進機側歯車166の回転に連動して、中間歯車191bが回転する。中間歯車191bの回転により、振り車176が連動して回転し、切り欠き車176bが
図16の反時計回りの方向に回転する。例えば
図16に示すように突起部178cが切り欠き車176bの端部(回転方向の後方の端部)に配置されている場合、切り欠き車176bの回転により、切り欠き車176bに引っ張られるように振り座178が回転する。振り座178の回転により、係止解除用カム177が振り座178と一体に回転する。
【0078】
振り座178が回転することにより、当該振り座178に設けられる突起部178cがトルク調整用脱進カム187のギア187aに当接される。また、突起部178cがギア187aに当接される際に、カムジャンパ179の押圧面が第一面177aから第二面177bに切り替わる。これにより、係止解除用カム177及び振り座178は、カムジャンパ179によって
図16の反時計回りの方向に回転するように付勢される。このカムジャンパ179の付勢力は、突起部178cが切り欠き部176cの端部から離れる方向に作用する。このため、係止解除用カム177及び振り座178が
図16の反時計回りの方向に瞬間的に自由回転する。また、突起部178cが切り欠き部176cの端部から中央部近傍に移動するため、切り欠き車176bと係止解除用カム177との間において力の伝達が切り離される。
【0079】
また、係止解除用カム177及び振り座178の当該回転により、振り座178の突起部178cがギア187aを
図16の時計回りの方向に押圧する。カムジャンパ179が第二面177bを押圧するときの押圧力は、ギア押圧部189がギア187aを押圧するときの押圧力よりも大きいため、ギア187aは、ギア押圧部189を押し分けて回転する。ギア187aの回転により、トルク調整用脱進カム187がギア187aと一体で
図16の時計回りの方向に回転する。そしてトルク調整用脱進カム187の回転に連動して、カムフォロア188が移動する。このカムフォロア188の往復移動により、レバー175が回転する。
【0080】
上記のように香箱車側つめ車164が回転可能になると、香箱車側つめ車164には主ぜんまい10aから定時巻上トルクが伝達されているので、この定時巻上トルクによって香箱車側つめ車164が回転する。香箱車側つめ車164は、回転することにより脱進機側歯車166との間で副ぜんまい165を巻き上げる。その後、レバー175の出爪185が香箱車側つめ車164に係合して香箱車側つめ車164の回転が停止する。このように、香箱車側つめ車164は、所定角度回転した後、レバー175によって係止される。香箱車側つめ車164の回転により、副ぜんまい165は所定量だけ巻き上げられる。この所定量は、副ぜんまい165が再び巻き上げられるまでに巻き解ける量に設定されている。
【0081】
このように、副ぜんまい165は周期的に所定量だけ巻き上げられるので、副ぜんまい165は略一定の巻き上げ量に保持される。この副ぜんまい165からは、略一定の動作トルクが脱進機50および調速機(てんぷ58)に供給されるので、調速機は脱進機50を一定の周期で動作させることができる。これにより、時計の精度を向上させることができる。しかも、脱進機50が一定の周期で動作するので、脱進機50に連動してトルク調整用脱進機170も一定の周期で動作する。これにより、副ぜんまい165を一定の周期で巻き上げることが可能になり、時計の精度をさらに向上させることができる。
【0082】
以上のように、本実施形態によれば、トルク調整用脱進機170において香箱車側つめ車164(香箱車10)と脱進機側歯車166(脱進機50)との間の力の伝達を分断することができる。そのため、香箱車10のトルクが脱進機50に伝達されるのを抑制することができる。これにより、脱進機50の動作トルクの変化を抑制することが可能となる。
【0083】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。例えば、脱進機の機構として、前述したクラブツース脱進機に限られず、様々な機構を採用することが可能である。
【0084】
また、上記実施形態では、ストップ車として、ラチェット車を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、所定の係止部材の間で機械的に係止可能な構成であれば、他の構成であってもよい。例えば、ストップ車として、歯車や他の形状の爪車を用いてもよい。また、ストップ車の表面または裏面の一部に凹部又は凸部が設けられ、当該凹部又は凸部に対して係止部材を係止させる構成が挙げられる。また、ストップ車の表裏を貫通する貫通孔が形成され、当該貫通孔に係止部材を挿入することでストップ車を係止する構成であってもよい。