【実施例】
【0027】
[実施例1]ムチン抽出液および加工ムチン抽出液の調製
(抽出液の調製)
皮を剥いたサツマイモ徳島産鳴門金時50gを刻み、蒸留水450mlを加えミキサー(ZOJIRUSHI BM-RE08-HA)で180秒間摩砕した。室温にて5時間撹拌したのち、濾紙でろ過した水抽出を4℃、3000rpmで10分間遠心分離(TOMY CX-200 TA-4)して上清を回収した。回収液は片側をクリップで留めた透析膜に100mlずつ分注して、反対側もクリップで留め、浮きをつけて4Lのイオン交換水中に浮かべて透析を行った。透析開始から120分後イオン交換水を新しいものに代えて一晩透析して、約400mlのムチン抽出液を得た。
【0028】
(タンパク質定量)
ムチン抽出液中のタンパク質定量は、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質測定キット(PIERCE, Reagent A [Lot NO.HH106101, PROD # 23223],およびReagent B [Lot NO.CE49183, PROD # 23224](タカラバイオ社)を使用した。ムチン抽出液にpH 7.0の10mMリン酸緩衝液を加えて25倍、50倍希釈し96 wellプレートに25μlずつアプライした。別にウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich社製Albumin from Bovine Serum.COH)にpH 7.0の10mMリン酸緩衝液を加えて0, 0.1, 0.25, 0.5, 1.0, 2.0 mg/mlに調整し、上記96 wellプレートに25μlずつアプライした。そこにBCA液(A液1ml:B液20μlの割合で混合)を200μlずつアプライし、37℃で30分間反応させた後570nmで吸光度を測定した。
結果、ムチン抽出液中のタンパク質量は0.906μg/μlであった。
【0029】
(加工ムチン抽出液の調製)
ムチン抽出液(タンパク質量0.906μg/μl)50mlにβ−ガラクトシダーゼ(WAKO社製:pH7.0の100 mMリン酸ナトリウム緩衝液で溶解して2000 U/mlとしたもの)28.3μlを加えて37.5℃で3時間インキュベーションした。その後、60℃で10分熱処理して酵素を失活させ、β−ガラクトシダーゼで処理した加工ムチン抽出液を得た。
【0030】
[実施例2]加工ムチン抽出液の電気泳動によるタンパク質の分離とHPAレクチンを用いたウェスタンブロッティング
(サンプルの調整)
実施例1記載の手法にて調製したムチン抽出液(1)及び加工ムチン抽出液(2)、並びに、ムチン抽出液500μlをAmicon Ultra 10K(Lot.R3CA66596)(メルクミリポア社)で限外ろ過し(4℃、13500rpm、15分間)、回収した濃縮液をβ−ガラクトシダーゼ処理した液(精製加工ムチン抽出液)(3)につき、それぞれタンパク質量が2μgになるように調製したサンプルをSDS-ポリアクリルアミドゲルにアプライし、300 Vで電気泳動を行った。次いで、PVDF膜に転写(47V、1時間)し、TBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)した後、1%BSA(TBST 10ml:BSA 100mg)でブロッキングした。その後、TBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)し、一次抗体(2000倍希釈のHPAレクチン)と室温にて2時間反応させた。一次抗体反応後、TBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)し、二次抗体(5000倍希釈のストレプトアビジン)と室温にて2時間反応させた。二次抗体反応後、TBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)し、ECL液(A液 1ml:B液 1ml)(GEヘルスケア社)をかけ室温にて1分間反応させ、3分間感光して撮影した。撮影後、PVDF膜はTBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)した後、CBB染色液(CBB溶液 1 ml:20%酢酸 1 ml)を1mlかけ、脱色液で脱色し、一夜乾燥させた。
【0031】
(結果)
図1(A)には、ムチン抽出液(1)及び加工ムチン抽出液(2)のSDS-PAGEのCBB染色の結果を示す。ムチン抽出液(1)のレーンにはバンドが確認されなかった。これはタンパク質が、O-グリコシド結合を介して無数の糖鎖が結合している高分子糖タンパク質であることを示唆する。また、加工ムチン抽出液(2)のレーンには80, 70, 56, 45 及び26 kDa付近にバンドが見られた。
【0032】
図1(B)にはムチン抽出液(1)、加工ムチン抽出液(2)の、
図1(C)には精製加工ムチン抽出液(3)のHPAレクチンを用いたウェスタンブロッティングの様子を示す。その結果、ムチン抽出液(1)のレーンにはHPAレクチン陽性バンドはみられないが、加工ムチン抽出液(2)および、精製加工ムチン抽出液(3)のレーンでは80, 70および 56kDa付近にHPAレクチン陽性バンドが見られた。
【0033】
これらの結果は、ムチン抽出液中に含まれる巨大な糖タンパク質から、β−ガラクトシダーゼ処理による糖鎖の切断によりGalNAc構造のO型糖タンパク質が形成されたことが示唆される。
【0034】
以上の結果より、ムチン抽出液及びその濃縮液をβ−ガラクトシダーゼで処理することによって、HPAレクチン陽性の糖タンパク質を得ることができた。
【0035】
[実施例3]加工ムチン抽出液のマクロファージ貪食活性への影響(in vitro)
実施例1記載の手法にて調製した加工ムチン抽出液のマクロファージの貪食活性への影響を以下の手順で評価した。
【0036】
(実験方法)
8週齢のICRマウス(雌)の腹腔に10mM PBS緩衝液10mlを注入して腹腔内混合細胞を取り出し、4℃、1,000rpmで15分間遠心した。集めた細胞をRPMI1640培地で1.0×10
6細胞/mlに調節し、カバーグラスを沈めたプレートに5.0×10
5細胞/wellになるように500μlずつ播種した。当該細胞にRPMI培地を500μl加えて、37.5℃で1時間予備培養して、マクロファージをカバーグラスに定着させた。その後、上清を除き付着したマクロファージ層を洗浄して、新しいRPMI培地を加えて37℃で15時間培養した。
【0037】
この準備したマクロファージ層に、(pH 7.0の100mM SPBで調節した)ムチン抽出液又は加工ムチン抽出液(タンパク質量にして、1.0ng、10ng若しくは100ng)、あるいはコントロール(なお、「コントロール」には上記のとおりマウス腹腔から集めた細胞をRPMI1640培地にて培養して得られた上清を用いた。)、さらにポジティブコントロールとして精製GcMAF(徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部の堀研究室で合成)1.0ngタンパク質量をそれぞれ加えて、37℃、3時間培養した。続いて、マクロファージに、0.5%オプソニン化SRBCを加え90分間貪食させ後、マクロファージを固定、ギムザ染色し、その後、顕鏡にて貪食されたSRBCをカウントして貪食指数(ingestion index)を算出し、マクロファージの貪食活性を評価した。
【0038】
(結果)
コントロール群を相対値1.00として、加工ムチン抽出液(タンパク質量にして、1.0ng、10ng若しくは100ng)で処理した群の貪食指数の平均値(n=3)は、それぞれ1.89、1.95、1.93となり、コントロール群と比べて有意に上昇した(
図2参照)。一方、ムチン抽出液(タンパク質量にして、1.0ng、10ng若しくは100ng)で処理した群の貪食指数の平均値(n=3)は、それぞれ0.95、1.02、0.91となり、コントロール群と同程度であった。
【0039】
以上より、in vitroにおいて、加工ムチン抽出液に優れたマクロファージ貪食活性が認められた。
【0040】
[実施例4]精製加工ムチン抽出液のマクロファージ貪食活性への影響(ex vivo)
(精製加工ムチン抽出液の調製)
実施例1記載の手法にて調製したムチン抽出液(タンパク質量0.906μg/μl)22.1 μlに、2.5μlのβ−ガラクトシダーゼ(10mU/μl、Grade III from Bovine Liver, SIGMA, Lot NO.54H7025, G1875)を加え、そこに100mM SPB緩衝液(pH7.0)を加えて全量を200μlとした。得られた混合液を37.5℃で1時間インキュベーションした後、HOT DRY BATHで60℃、10分間加熱し、酵素を失活させた。次いで、得られた加工ムチン抽出液を実施例2記載の手法にて限外ろ過し、その得られた精製加工ムチン抽出液のタンパク質量が6ng/500μl又は60ng/500μlとなるように、100mM SPB緩衝液(pH7.0)を用いて調整した。
【0041】
(実験方法)
8週齢のICRマウス(雌)に、調製した精製加工ムチン抽出液6ng/500μl又は60ng/500μl、およびコントロール500μlをそれぞれ腹腔内注射し、3時間放置した(なお、「コントロール」には上記のとおりマウス腹腔から集めた細胞をRPMI1640培地にて培養して得られた上清を用いた。)。次いで、実施例3記載の手法にて、各マウスの腹腔より腹腔内混合細胞を取り出し、カバーグラスを沈めたプレートに5.0×10
5細胞/wellになるように500μlずつ播種した。当該細胞にRPMI培地を500μl加えて、37.5℃で1時間予備培養して、マクロファージをカバーグラスに定着させた後、新しいRPMI培地と交換し0.5%オプソニン化SRBCを加えて、マクロファージに90分間貪食させる。マクロファージを固定、ギムザ染色し、その後、顕鏡にて貪食されたSRBCをカウントして貪食指数(ingestion index)を算出し、マクロファージの貪食活性を評価した。
【0042】
(結果)
コントロール群を1.00として相対値で示すとき、精製加工ムチン抽出液(タンパク質量にして、6ng、及び60ng)で処理した群の貪食指数の平均値(n=3)は、それぞれ1.463及び1.539であり、コントロール群と比べて有意に上昇した(
図3参照)。
【0043】
これより、in vivoにおいて、精製加工ムチン抽出液に優れたマクロファージ貪食活性が認められた。