特許第6178162号(P6178162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6178162β−ガラクトシダーゼで処理されたムチンを含むマクロファージ活性化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178162
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】β−ガラクトシダーゼで処理されたムチンを含むマクロファージ活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20170731BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20170731BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 36/39 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 36/00 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   A61K38/16
   C07K14/415
   C12P21/00 A
   A61P37/04
   A61K36/39
   A61K36/00
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-171620(P2013-171620)
(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公開番号】特開2015-40183(P2015-40183A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】510327161
【氏名又は名称】竹内 亮太
(73)【特許権者】
【識別番号】300032112
【氏名又は名称】森田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮太
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−259850(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/020889(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/029954(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61K 36/00
A61K 36/39
A61P 37/04
C07K 14/415
C12P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品由来のムチンを含有するマクロファージを活性化するための組成物であって、該ムチンがβ−ガラクトシダーゼで処理されている、上記組成物。
【請求項2】
食品が植物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
食品由来のムチンをβ−ガラクトシダーゼで処理することを含む、β−ガラクトシダーゼで処理された該ムチンを含有するマクロファージを活性化するための組成物の製造方法。
【請求項4】
食品が植物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
食品由来のムチンを含有し、該ムチンがβ−ガラクトシダーゼで処理されていることを特徴とする、マクロファージ活性化剤。
【請求項6】
食品が植物である、請求項5に記載のマクロファージ活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージを活性化するための、β−ガラクトシダーゼで処理された食品由来のムチンを含む組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージは生体内の免疫反応の中心的役割を担い、生体内に侵入した細菌・ウイルス、また癌細胞等を攻撃することが明らかにされている。今日では、生体内のマクロファージを活性化させ、感染症や癌等を治療するマクロファージ活性化療法が開発され、注目を集めている。
【0003】
本発明者らはこれまでにヒトの血清中に存在する糖タンパク質であるビタミンD結合型タンパク質(以下、「DBP」と記載する。)をβ−ガラクトシダーゼ、必要に応じてさらにシアリダーゼで処理し、DBPの糖鎖を修飾することによってDBPにマクロファージ活性化作用を付与できることを見出し、報告している(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、当該分野においては依然として、簡易且つ効率的にマクロファージを活性化することが可能な手段が切望されている。
【0005】
糖タンパク質のうち、単純な繰り返し構造を持つペプチド鎖に、1〜数十個程度の単糖からなる糖鎖がO−グリコシド結合で周期的に結合してなる高分子糖タンパク質は「ムチン」と総称される。ムチンは、動植物の粘液の成分として天然に多種存在し、生体系において、細胞組織の保湿、保護、潤滑などの物理的作用の他、細胞外マトリックスとして抗菌効果を示し、ウイルスなどの感染を抑える等、様々な重要な働きをすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2012/029954
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マクロファージを活性化することが可能な新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、食品由来のムチンをβ−ガラクトシダーゼで処理することによって、当該ムチンにマクロファージ活性化作用を付与できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
[1] 食品由来のムチンを含有する組成物であって、該ムチンがβ−ガラクトシダーゼで処理されている、上記組成物。
[2] 食品が植物である、[1]の組成物。
[3] 食品由来のムチンをβ−ガラクトシダーゼで処理することを含む、β−ガラクトシダーゼで処理された該ムチンを含有する組成物の製造方法。
[4] 食品が植物である、[3]の方法。
[5] 食品由来のムチンを含有し、該ムチンがβ−ガラクトシダーゼで処理されていることを特徴とする、マクロファージ活性化剤。
[6] 食品が植物である、[5]のマクロファージ活性化剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食品由来のムチンよりマクロファージを活性化する作用を有する組成物を提供することができる。本発明の組成物は、食経験の豊富な食品に由来するムチンより得ることができる組成物であり、マクロファージを活性化することを目的として日常的に摂取、使用、又は投与することができる安全性の高い組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)は、CBB染色した結果を示す写真図である。各レーンにアプライしたサンプル:(M)マーカー、(レーン1)ムチン抽出液、(レーン2)加工ムチン抽出液。図1(B)及び(C)は、実施例2のHPAレクチンを用いたウェスタンブロッティングの結果を示す写真図である。(B)各レーンにアプライしたサンプル:(レーン1)ムチン抽出液、(レーン2)加工ムチン抽出液。(C)アプライしたサンプル:(レーン3)精製加工ムチン抽出液。
図2図2はGcMAF、ムチン抽出液、又は加工ムチン抽出液で処理したマクロファージの貪食活性を示す。
図3図3は精製加工ムチン抽出液を投与されたマウスに由来するマクロファージの貪食活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.β−ガラクトシダーゼで処理されたムチン
「ムチン」とは、アポムチンと呼ばれるコアタンパク質にO-グリコシド結合を介して無数の糖鎖が結合している高分子糖タンパク質の総称である(T. E. Maureen & D. Kurt: 糖鎖生物学入門,化学同人(2005))。より詳細には、ムチンは、セリン及び/又はトレオニンに富む10〜80残基からなる繰り返し構造を有するコアタンパク質を有し、このセリン及び/又はトレオニンの水酸基に糖鎖の還元末端のN-アセチルガラクトサミン(以下、「GalNAc」と記載する。)がα-O-グリコシド結合により高頻度で結合している構造を有する。糖鎖には、GalNAcに連結してN-アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコース、シアル酸などが含まれ得る。
【0013】
本発明において「ムチン」とは、上記構造を有するものであれば特に限定はされないが、食用とし得る天然物(いわゆる食品)由来のムチンが入手容易性及び安全性の面から好ましい。ムチンを含む食品は公知であり、例えば、イモ類(サツマイモ、ヤマイモ、ナガイモ(ツクネイモ、ヤマトイモ)、サトイモ等)、レンコン、オクラ、モロヘイヤ、アシタバ、ツルムラサキ、アロエ等の植物、燕の巣、海藻、ナメコ、クラゲ等が挙げられる。
【0014】
本発明において「ムチン」は、上記食品より溶媒を用いて抽出した抽出液又はその乾燥物の形態で用いることができる。抽出溶媒としては、食品よりムチンを抽出できるものであればよく、例えば水、アルコール(好ましくはエタノール)、及びそれらの混合液等を利用することができる。好ましくは抽出溶媒として水を利用する。抽出液の乾燥物は、得られた抽出液を凍結乾燥、噴霧乾燥、送風乾燥、真空乾燥等の公知の乾燥手段に付すことにより得ることができる。
【0015】
本発明において「β−ガラクトシダーゼ」は、いずれの生物由来のものであってもよく、ウシ(ウシ肝臓)、大腸菌、アスペルギルス菌、ペニシリウム菌等に由来するものを利用することができる。また、β−ガラクトシダーゼをコードする核酸を用いて適切な宿主細胞で組み換え的に発現させて得られた組換え酵素も利用することができる。β−ガラクトシダーゼは、粗精製形態、精製形態、固定化形態などの任意の形態を採ることが可能である。粗精製形態には、例えば細胞、組織、又は細胞培養物からの処理物(例えば、抽出物、凍結乾燥物など)が含まれる。固定化形態とは、適当な固相に固定された状態を意味する。このような固相の材料としては、例えば、セルロース、ニトロセルロースなどのセルロース誘導体、セファロース、アガロース、金属、ガラス、セラミック、樹脂など(これらに限定されない)が挙げられる。固相の形状および材質は特に限定されるものではない。
【0016】
ムチンのβ−ガラクトシダーゼによる処理は、水性溶媒中にてムチンとβ−ガラクトシダーゼとを反応させることにより行うことができる。反応はムチン、より詳細には糖鎖においてGalNAcに結合したガラクトースを外す/遊離させることができればよく、水性溶媒中にてムチンとβ−ガラクトシダーゼとを20〜60℃、好ましくは35〜42℃、より好ましくは37.5℃にて、0.5〜5時間、好ましくは、1〜3時間程度反応させることによって行うことができる。反応pHは、pH5〜pH11、好ましくは中性域とし、バッチ方式で行っても良いし、連続方式で行っても良い。水性溶媒としては、水やリン酸緩衝液(リン酸ナトリウム緩衝液等)を用いることができる。反応の停止は、熱処理(60〜70℃にて5〜15分間)にて酵素を失活させることにより行うことができる。
【0017】
得られたβ−ガラクトシダーゼで処理されたムチンは、適当な水性溶媒中に含めて液状の形態としてもよいし、公知の乾燥手段に付して乾燥物の形態としてもよい。
【0018】
上記抽出液及び/又は上記β−ガラクトシダーゼで処理されたムチンはさらに精製することができる。精製はムチンの精製に一般的に用いられる手法を利用することができ、例えば硫安塩析、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン等)による沈殿分離、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、基質または抗体などを利用したアフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透ろ過等の濾過処理などを1つまたは複数を適宜組み合わせて用いて精製することができる。精製により好ましくは45〜80kDa程度、さらに好ましくは56〜80kDa程度の分子量を有するタンパク質を少なくとも回収できればよい。
【0019】
本発明の組成物又はマクロファージ活性化剤中には、β−ガラクトシダーゼで処理されたムチンをタンパク質の量にして、0.0001mg〜100mgの範囲から適宜選択される量を含めることができる。当該含有量は、組成物又はマクロファージ活性化剤の形態、用法、用量、並びに、当該組成物又はマクロファージ活性化剤を必要とするヒト(患者)又は動物の年齢、体重、疾患の重篤度などの要因によって変化し得る。
【0020】
2.その他の成分
本発明の組成物又はマクロファージ活性化剤は、β−ガラクトシダーゼで処理されたムチンに加えて、飲食品、動物飼料、医薬品、化粧品などの最終的な形態において許容される他の成分をさらに含めることができる。このような成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、酸化防止剤、増粘剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、乳化剤、果汁、甘味料、酸味料、食塩、香料、ビタミン類、調味料、香辛料、油分、紫外線吸収剤、アルコール類、各種皮膚栄養剤等から選択される一以上の成分を、飲食品、動物飼料、医薬品、化粧品などの最終的な形態に応じて適宜選択し含めることができる。
【0021】
3.組成物及びその用途
本発明の組成物は、マクロファージ活性化作用を有する飲食品組成物、動物飼料組成物、化粧品組成物、又は医薬品組成物として使用することができる。
【0022】
本発明の組成物の形態は特に限定されないが、一態様において経口摂取又は経口投与に適した液状、固形状または半固形状の組成物とすることができる。固形状又は半固形状の組成物は、例えば、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、細粒剤、カプレット、散剤、丸剤などの形態を有する医薬品や、健康食品、栄養機能食品、栄養補助食品(サプリメント)、介護食、流動食、栄養調整食品、栄養補助剤等として提供される。固形状又は半固形状の組成物は、上記β−ガラクトシダーゼで処理されたムチンを賦形剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤増粘剤等の助剤等と混合し、常法に従って成形し製造することができる。液状組成物は、例えば、液状食品(例えば、ジュース、ミネラル飲料、スポーツドリンク等の飲料)や液状の経口投与用の医薬品等として提供される。液状組成物は、水を基調とする組成物であり、β−ガラクトシダーゼで処理されたムチンを水と混合して製造することができる。
【0023】
また別の態様において、本発明の組成物は非経口投与(例えば、経皮投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与等)に適した液状又は半固形状の組成物とすることができる。このよう形態の組成物は、例えば、ローション、乳液、クリーム等の形態の化粧品組成物や、注射剤、軟膏剤等の形態の医薬品として提供される。これらの組成物は、β−ガラクトシダーゼで処理されたムチンを水と共に、懸濁化剤、界面活性剤、乳化剤、増粘剤等の助剤等と混合し、常法に従って製造することができる。
【0024】
本発明の組成物はマクロファージ活性化する作用を有し、当該組成物を摂取又は投与されたヒト又は動物においてマクロファージを活性化することができる。本発明において「マクロファージ活性化」とは、マクロファージの貪食能(特にFcレセプターを介する貪食能)や活性酸素産生能及び抗原提示作用が増強されることを意味する。当該組成物の摂取量又は投与量は、1回の摂取又は投与につき体重1kgあたりβ−ガラクトシダーゼで処理されたムチンのタンパク質の量にして、0.0001mg〜100mgの範囲から適宜選択される量を摂取又は投与することができる。当該量は、組成物の形態、用法、用量、並びに、当該組成物を必要とするヒト(患者)又は動物の年齢、体重、疾患の重篤度などの要因によって変化し得る。
【0025】
本発明の組成物を摂取又は投与することにより、マクロファージの活性化によって治療し得ることが公知である、または治療し得る可能性がある疾患や障害を治療又は寛解し、あるいは当該疾患や障害に対する抵抗性を増強することができる。このような疾患や障害としては例えば、創傷治癒、アレルギー疾患、自己免疫疾患、治療薬による副作用、癌等が挙げられる。
【0026】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【実施例】
【0027】
[実施例1]ムチン抽出液および加工ムチン抽出液の調製
(抽出液の調製)
皮を剥いたサツマイモ徳島産鳴門金時50gを刻み、蒸留水450mlを加えミキサー(ZOJIRUSHI BM-RE08-HA)で180秒間摩砕した。室温にて5時間撹拌したのち、濾紙でろ過した水抽出を4℃、3000rpmで10分間遠心分離(TOMY CX-200 TA-4)して上清を回収した。回収液は片側をクリップで留めた透析膜に100mlずつ分注して、反対側もクリップで留め、浮きをつけて4Lのイオン交換水中に浮かべて透析を行った。透析開始から120分後イオン交換水を新しいものに代えて一晩透析して、約400mlのムチン抽出液を得た。
【0028】
(タンパク質定量)
ムチン抽出液中のタンパク質定量は、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質測定キット(PIERCE, Reagent A [Lot NO.HH106101, PROD # 23223],およびReagent B [Lot NO.CE49183, PROD # 23224](タカラバイオ社)を使用した。ムチン抽出液にpH 7.0の10mMリン酸緩衝液を加えて25倍、50倍希釈し96 wellプレートに25μlずつアプライした。別にウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich社製Albumin from Bovine Serum.COH)にpH 7.0の10mMリン酸緩衝液を加えて0, 0.1, 0.25, 0.5, 1.0, 2.0 mg/mlに調整し、上記96 wellプレートに25μlずつアプライした。そこにBCA液(A液1ml:B液20μlの割合で混合)を200μlずつアプライし、37℃で30分間反応させた後570nmで吸光度を測定した。
結果、ムチン抽出液中のタンパク質量は0.906μg/μlであった。
【0029】
(加工ムチン抽出液の調製)
ムチン抽出液(タンパク質量0.906μg/μl)50mlにβ−ガラクトシダーゼ(WAKO社製:pH7.0の100 mMリン酸ナトリウム緩衝液で溶解して2000 U/mlとしたもの)28.3μlを加えて37.5℃で3時間インキュベーションした。その後、60℃で10分熱処理して酵素を失活させ、β−ガラクトシダーゼで処理した加工ムチン抽出液を得た。
【0030】
[実施例2]加工ムチン抽出液の電気泳動によるタンパク質の分離とHPAレクチンを用いたウェスタンブロッティング
(サンプルの調整)
実施例1記載の手法にて調製したムチン抽出液(1)及び加工ムチン抽出液(2)、並びに、ムチン抽出液500μlをAmicon Ultra 10K(Lot.R3CA66596)(メルクミリポア社)で限外ろ過し(4℃、13500rpm、15分間)、回収した濃縮液をβ−ガラクトシダーゼ処理した液(精製加工ムチン抽出液)(3)につき、それぞれタンパク質量が2μgになるように調製したサンプルをSDS-ポリアクリルアミドゲルにアプライし、300 Vで電気泳動を行った。次いで、PVDF膜に転写(47V、1時間)し、TBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)した後、1%BSA(TBST 10ml:BSA 100mg)でブロッキングした。その後、TBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)し、一次抗体(2000倍希釈のHPAレクチン)と室温にて2時間反応させた。一次抗体反応後、TBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)し、二次抗体(5000倍希釈のストレプトアビジン)と室温にて2時間反応させた。二次抗体反応後、TBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)し、ECL液(A液 1ml:B液 1ml)(GEヘルスケア社)をかけ室温にて1分間反応させ、3分間感光して撮影した。撮影後、PVDF膜はTBST緩衝液で洗浄(10分間×3回)した後、CBB染色液(CBB溶液 1 ml:20%酢酸 1 ml)を1mlかけ、脱色液で脱色し、一夜乾燥させた。
【0031】
(結果)
図1(A)には、ムチン抽出液(1)及び加工ムチン抽出液(2)のSDS-PAGEのCBB染色の結果を示す。ムチン抽出液(1)のレーンにはバンドが確認されなかった。これはタンパク質が、O-グリコシド結合を介して無数の糖鎖が結合している高分子糖タンパク質であることを示唆する。また、加工ムチン抽出液(2)のレーンには80, 70, 56, 45 及び26 kDa付近にバンドが見られた。
【0032】
図1(B)にはムチン抽出液(1)、加工ムチン抽出液(2)の、図1(C)には精製加工ムチン抽出液(3)のHPAレクチンを用いたウェスタンブロッティングの様子を示す。その結果、ムチン抽出液(1)のレーンにはHPAレクチン陽性バンドはみられないが、加工ムチン抽出液(2)および、精製加工ムチン抽出液(3)のレーンでは80, 70および 56kDa付近にHPAレクチン陽性バンドが見られた。
【0033】
これらの結果は、ムチン抽出液中に含まれる巨大な糖タンパク質から、β−ガラクトシダーゼ処理による糖鎖の切断によりGalNAc構造のO型糖タンパク質が形成されたことが示唆される。
【0034】
以上の結果より、ムチン抽出液及びその濃縮液をβ−ガラクトシダーゼで処理することによって、HPAレクチン陽性の糖タンパク質を得ることができた。
【0035】
[実施例3]加工ムチン抽出液のマクロファージ貪食活性への影響(in vitro)
実施例1記載の手法にて調製した加工ムチン抽出液のマクロファージの貪食活性への影響を以下の手順で評価した。
【0036】
(実験方法)
8週齢のICRマウス(雌)の腹腔に10mM PBS緩衝液10mlを注入して腹腔内混合細胞を取り出し、4℃、1,000rpmで15分間遠心した。集めた細胞をRPMI1640培地で1.0×106細胞/mlに調節し、カバーグラスを沈めたプレートに5.0×105細胞/wellになるように500μlずつ播種した。当該細胞にRPMI培地を500μl加えて、37.5℃で1時間予備培養して、マクロファージをカバーグラスに定着させた。その後、上清を除き付着したマクロファージ層を洗浄して、新しいRPMI培地を加えて37℃で15時間培養した。
【0037】
この準備したマクロファージ層に、(pH 7.0の100mM SPBで調節した)ムチン抽出液又は加工ムチン抽出液(タンパク質量にして、1.0ng、10ng若しくは100ng)、あるいはコントロール(なお、「コントロール」には上記のとおりマウス腹腔から集めた細胞をRPMI1640培地にて培養して得られた上清を用いた。)、さらにポジティブコントロールとして精製GcMAF(徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部の堀研究室で合成)1.0ngタンパク質量をそれぞれ加えて、37℃、3時間培養した。続いて、マクロファージに、0.5%オプソニン化SRBCを加え90分間貪食させ後、マクロファージを固定、ギムザ染色し、その後、顕鏡にて貪食されたSRBCをカウントして貪食指数(ingestion index)を算出し、マクロファージの貪食活性を評価した。
【0038】
(結果)
コントロール群を相対値1.00として、加工ムチン抽出液(タンパク質量にして、1.0ng、10ng若しくは100ng)で処理した群の貪食指数の平均値(n=3)は、それぞれ1.89、1.95、1.93となり、コントロール群と比べて有意に上昇した(図2参照)。一方、ムチン抽出液(タンパク質量にして、1.0ng、10ng若しくは100ng)で処理した群の貪食指数の平均値(n=3)は、それぞれ0.95、1.02、0.91となり、コントロール群と同程度であった。
【0039】
以上より、in vitroにおいて、加工ムチン抽出液に優れたマクロファージ貪食活性が認められた。
【0040】
[実施例4]精製加工ムチン抽出液のマクロファージ貪食活性への影響(ex vivo)
(精製加工ムチン抽出液の調製)
実施例1記載の手法にて調製したムチン抽出液(タンパク質量0.906μg/μl)22.1 μlに、2.5μlのβ−ガラクトシダーゼ(10mU/μl、Grade III from Bovine Liver, SIGMA, Lot NO.54H7025, G1875)を加え、そこに100mM SPB緩衝液(pH7.0)を加えて全量を200μlとした。得られた混合液を37.5℃で1時間インキュベーションした後、HOT DRY BATHで60℃、10分間加熱し、酵素を失活させた。次いで、得られた加工ムチン抽出液を実施例2記載の手法にて限外ろ過し、その得られた精製加工ムチン抽出液のタンパク質量が6ng/500μl又は60ng/500μlとなるように、100mM SPB緩衝液(pH7.0)を用いて調整した。
【0041】
(実験方法)
8週齢のICRマウス(雌)に、調製した精製加工ムチン抽出液6ng/500μl又は60ng/500μl、およびコントロール500μlをそれぞれ腹腔内注射し、3時間放置した(なお、「コントロール」には上記のとおりマウス腹腔から集めた細胞をRPMI1640培地にて培養して得られた上清を用いた。)。次いで、実施例3記載の手法にて、各マウスの腹腔より腹腔内混合細胞を取り出し、カバーグラスを沈めたプレートに5.0×105細胞/wellになるように500μlずつ播種した。当該細胞にRPMI培地を500μl加えて、37.5℃で1時間予備培養して、マクロファージをカバーグラスに定着させた後、新しいRPMI培地と交換し0.5%オプソニン化SRBCを加えて、マクロファージに90分間貪食させる。マクロファージを固定、ギムザ染色し、その後、顕鏡にて貪食されたSRBCをカウントして貪食指数(ingestion index)を算出し、マクロファージの貪食活性を評価した。
【0042】
(結果)
コントロール群を1.00として相対値で示すとき、精製加工ムチン抽出液(タンパク質量にして、6ng、及び60ng)で処理した群の貪食指数の平均値(n=3)は、それぞれ1.463及び1.539であり、コントロール群と比べて有意に上昇した(図3参照)。
【0043】
これより、in vivoにおいて、精製加工ムチン抽出液に優れたマクロファージ貪食活性が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、マクロファージを活性化することを目的として日常的に摂取、使用、又は投与することができる安全性の高い組成物を得ることができ、マクロファージ活性化作用を有する飲食品組成物、化粧品組成物、及び/又は医薬品組成物を提供することができる。
図1
図2
図3