特許第6178188号(P6178188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6178188医療デバイスおよび医療デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178188
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】医療デバイスおよび医療デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20170731BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   A61M25/00 650
   A61M25/00 500
   A61L29/08 100
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-200070(P2013-200070)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-65986(P2015-65986A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小俣 力也
(72)【発明者】
【氏名】徳江 彩子
【審査官】 佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−136600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61L 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔内に挿入される長尺体の医療デバイスであって、
基材表面の少なくとも一部を覆うように被覆された第一の表面潤滑層を有し、
前記第一の表面潤滑層は色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域とを有し、
前記色素を相対的に多く含有する領域または前記色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域が、幾何学模様を形成してなり、
前記第一の表面潤滑層は、エポキシ基を有する単量体を少なくとも一つの構成単位とした反応性ドメインと、親水性単量体を少なくとも一つの構成単位とした親水性ドメインと、を有するブロック共重合体である親水性高分子から形成され、
前記色素は、酸性基を有する色素である、医療デバイス。
【請求項2】
前記親水性高分子は、グリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド共重合体である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記色素を相対的に多く含有する領域または前記色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域が、縞状、螺旋状、または格子状に分布している、請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記第一の表面潤滑層上に、第二の表面潤滑層をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
長尺体の基材を準備し、基材表面の少なくとも一部を覆うよう被覆された第一の表面潤滑層を形成した後、前記第一の表面潤滑層の少なくとも一部にエネルギー線を照射し、前記第一の表面潤滑層を色素含有溶液と接触させることにより、前記第一の表面潤滑層に色素を相対的に多く含有する領域と、前記色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域とを形成し、前記色素を相対的に多く含有する領域または前記色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域により、幾何学模様を形成する、医療デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記基材の長軸方向を回転軸として前記基材を回転させながら前記エネルギー線を照射する、請求項に記載の医療デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスおよび医療デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体管腔等の所定位置の観察又は処置を行う際、内視鏡と併用して、経内視鏡的にガイドワイヤやカテーテルが利用されている。かかる処置において、ガイドワイヤやカテーテル等の医療デバイスを操作する際、医療デバイスの色調が単調であると、これらの位置や動きを判別しにくい。このため、内視鏡視界内においてガイドワイヤの位置や動きを判別する、あるいは、バルーンカテーテルを用いて治療する際には内視鏡視界内においてバルーン部分とシャフト部分の位置の判別する、といった行為を効率的に行うために、医療デバイスに対して種々のマークを設ける方法が提案されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、ポリテトラフルオロエチレン等からなり、着色された複数の縞模様を有する中空チューブをガイドワイヤの芯材の先端部の上から熱収縮させて包むことにより付着させる方法が開示されている。
【0004】
一方、カテーテルやガイドワイヤ等の生体内に挿入される医療用具は、生体管腔内などの組織の損傷を低減させ、かつ術者の操作性を向上させるため、優れた潤滑性を示すことが要求される。このため、医療デバイス表面に親水性の潤滑コートを施すことにより、生体内における摩擦を低減し、デバイスの操作性を向上させる技術が種々提案されている。たとえば、特許文献2のように、色調の異なる縞模様が形成された樹脂の表面に親水性コーティングを施すことで操作性を向上させた内視鏡用ガイドワイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平9−501593号公報
【特許文献2】特開2011−110392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたガイドワイヤの製造方法では、医療デバイスに模様を付す際、医療デバイスに熱収縮して付着させるための縞模様を付した中空チューブを作成する必要がある。そのため、中空チューブに縞模様を付す作業が煩雑となり、製造コストが増大してしまうという課題がある。またこの方法では、複数の縞模様を有する中空チューブを熱収縮させるため、医療デバイスの縞模様を付した部分の肉厚が厚くなる。そのため、医療デバイスの柔軟性が低下し、医療デバイスの操作性が低下するという問題がある。特に、ガイドワイヤの先端部等の柔軟性が必要な部位に模様を付す場合には、柔軟性や操作性の確保が重要である。
【0007】
また、特許文献2に開示された製造方法では、まず、互いに色調の異なる複数種類の樹脂を調製し、次に、これらの樹脂で交互に被覆することによりガイドワイヤが製造されるため、製造方法が依然として煩雑であるという課題がある。また、特許文献2の方法を用いる場合、形成できる模様の種類が限定されている(ガイドワイヤの長軸方向に対して略垂直な縞状)ことから、視認性に関しても十分に満足できるものではなかった。
【0008】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、煩雑な製造工程を必要とせず、操作性および視認性に優れた医療デバイスを提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、操作性および視認性に優れた医療デバイスの簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、医療デバイスの操作性および視認性を向上させるため、基材表面の少なくとも一部を覆う表面潤滑層(第一の表面潤滑層)において色素の濃淡を付すことに注目した。そしてさらに、かような表面潤滑層が、簡便な方法によって形成可能となることを知得し、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記諸目的は、生体管腔内に挿入される長尺体の医療デバイスであって、基材表面の少なくとも一部を覆うように被覆された第一の表面潤滑層を有し、前記第一の表面潤滑層は色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域とを有し、前記色素を相対的に多く含有する領域または前記色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域が、幾何学模様を形成してなる、医療デバイスによって達成できる。また、上記目的は、上記医療デバイスの製造方法であって、長尺体の基材を準備し、基材表面の少なくとも一部を覆うよう被覆された第一の表面潤滑層を形成した後、前記第一の表面潤滑層の少なくとも一部にエネルギー線を照射し、前記第一の表面潤滑層を色素含有溶液と接触させることにより、前記第一の表面潤滑層に色素を相対的に多く含有する領域と、前記色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域とを形成し、前記色素を相対的に多く含有する領域または前記色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域により、幾何学模様を形成する、医療デバイスの製造方法によって達成できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、煩雑な製造工程を必要とせず、操作性および視認性に優れた医療デバイスを得ることができる。また、本発明によれば、操作性および視認性に優れた医療デバイスの簡便な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態(カテーテル)に係る医療デバイスの積層構成を模式的に表した部分断面図である。
図2】本発明の一実施形態(カテーテル)に係る医療デバイスの部分側面図である。
図3】本発明の他の実施形態(ガイドワイヤ)に係る医療デバイスの積層構成を模式的に表した部分断面図である。
図4】実施例1で製造された医療デバイス(カテーテル)表面の拡大写真である。
図5】実施例2で製造された医療デバイス(カテーテル)表面の拡大写真である。
図6】比較例1で製造された医療デバイス(カテーテル)表面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一は、生体管腔内に挿入される長尺体の医療デバイスであって、
基材表面の少なくとも一部を覆うように被覆された第一の表面潤滑層を有し、第一の表面潤滑層は色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域とを有し、色素を相対的に多く含有する領域または前記色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域が、幾何学模様を形成してなる、医療デバイスを提供する。
【0014】
本発明は、生体管腔内に挿入される医療デバイスの基材表面に、その基材表面の少なくとも一部を覆う第一の表面潤滑層を設け、その第一の表面潤滑層自体に色素の濃淡を付すことで視認性を高めることを特徴とする。こうすることで、本発明の医療デバイスは、第一の表面潤滑層を有することにより、潤滑性(湿潤時の潤滑性;以下、特記しない限り、「潤滑性」は「湿潤時の潤滑性」を意図する)が良好となるため、生体管腔内に挿入された際の操作性に優れる。加えて、本発明の医療デバイスは、第一の表面潤滑層において色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域とを有していることで、視認性が高まる。このように、本発明の医療デバイスでは、予め成形されたデバイスに対して別途樹脂等のマーカーを付するのではなく、第一の表面潤滑層中にマーカーが付される。したがって、マーカーによる医療デバイスの厚みの増加(拡径)を抑制し、かつ、その基材表面のマーカー部位とマーカーを付してない部位との境目の段差(高低差)を低減できるため、柔軟性と共に操作性が良好となる。
【0015】
また、本発明の医療デバイスは、上記の通り拡径が抑制されるため、生体管腔等に挿入する際の径を小さくでき、低侵襲な治療を実現しうる。
【0016】
加えて、本発明におけるマーカーは、微細なパターニングが可能である。このため、色素の濃淡により任意でさまざまな模様を形成することができ、優れた視認性を有する。したがって、本発明の医療デバイスによれば、内視鏡と併せて使用する際、視認性が優れているため、手術操作際に医療デバイスの動きや位置が認識しやすく、術者の負担が軽減される。また、術者の負担の軽減によって手術時間が短縮される結果、患者への負担を軽減することもできる。
【0017】
さらにまた、本発明者らは、以下で詳述するように、第一の表面潤滑層にエネルギー線を照射することにより、その色素吸着性が変化することを見出した。したがって、上記構成の第一の表面潤滑層を有する医療デバイスは、着色した複数種類の樹脂を準備して、これらを組み合わせる工程を経る必要がないため、その製造方法が極めて簡素化される。
【0018】
本発明の医療デバイスは、基材および第一の表面潤滑層を含むデバイス本体を有する長尺体であれば、いかなるものであってもよく、たとえば、カテーテル、ガイドワイヤ等が例示される。
【0019】
まず、本発明の一実施形態である、カテーテルを例に挙げて説明する。
【0020】
[医療デバイス]
図1は、本発明の一実施形態に係る医療デバイス(カテーテル)100の積層構成を模式的に表した部分断面図である。なお、本明細書において、図面は、理解を容易にするために、図面には各構成要素を誇張して模式的に図示する。したがって、長尺体であるカテーテル100の長さ方向と太さ方向との比率は実際とは異なる。また、以下では図示の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく、医療デバイスを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0021】
また、本明細書において、範囲を示す「A〜B」は「A以上B以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で行ったものである。
【0022】
図1に示されるように、本発明の医療デバイスであるカテーテル100(カテーテル本体10)は、基材1と、基材1表面の少なくとも一部を覆うように被覆された第一の表面潤滑層4を有している。ここで、第一の表面潤滑層4は、色素を相対的に多く含有する領域2と、色素を相対的に少なく含有する領域(もしくは色素を含有しない領域)3とを有する。
【0023】
カテーテル100は、可撓性を有する管状体で構成されており、図1に示すように、基材1の内周面には、カテーテル本体10の全長にわたって、ルーメン5が形成されている。なお、図1では、ルーメン5は一つのみ形成された態様を図示しているが、当該形態に限定されるものではなく、下記に詳述するようなカテーテルの種類によって、ルーメンの数、径などは自由に選択することができる。カテーテル100は、生体のたとえば消化器管に挿入され、ガイドワイヤによって患部まで誘導される。カテーテル100としては、たとえば、造影用カテーテル、マイクロカテーテル、ガイディングカテーテル、バルーンカテーテル、ステント付きカテーテル、アブレーションカテーテルなど様々なものが挙げられるが、これらに制限されない。ここでは、カテーテルの機能についての詳細な説明は省略する。
【0024】
(基材1)
表面潤滑層4によって被覆される基材4の材質は、特に制限されず、医療デバイスとしてのカテーテル100において通常使用される材質から適宜選択され、高分子材料のいずれであってもよい。
【0025】
高分子材料としては、特に制限されず、公知の医療用の高分子が使用できる。具体的には、ポリアミド樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、基材は、高分子単体により成形加工されたものであっても、あるいは高分子が基材表面に存在するものであってもよい。また、上記高分子中に、X線不透過材料(X線造影性を有する材料)で構成された粒子(フィラー)が分散されていてもよい。これにより、カテーテル100にX線造影性が得られ、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ生体内に挿入することができる。
【0026】
基材1の厚さは、基材1の形成目的や構成材料、形成方法等を考慮して適宜設定されるが、通常は、その平均厚さは、30〜300μm程度であるのが好ましく、50〜200μm程度であるのがより好ましい。なお、基材1は、カテーテル本体10全体に亘って同一の樹脂で構成しても良く、また部位によって異なる樹脂で構成しても良い。
【0027】
上記基材層の形状は、カテーテルを形成する場合、主として管状であるが、他の実施態様では、その使用態様により適宜選択される。
【0028】
(第一の表面潤滑層4)
カテーテル100は、最外面(最表面)の少なくとも一部に(図1では全体に亘って)、親水性材料からなる第一の表面潤滑層4が被覆されている。第一の表面潤滑層4は、少なくとも一部に色素を相対的に多く含有する領域2と、色素を相対的に少なく含有する領域(もしくは色素を含有しない領域)3とを有しており、これによりカテーテル100の外観は幾何学模様(図1では格子状)を呈する。ここで、「色素を相対的に多く含有する領域」とは、隣接したある領域を比較した場合に、色素の含有率が高い方の領域を意味する。具体的には、「色素が相対的に多く含有する領域」とは、色素の含有量(固形分換算)が、表面潤滑層に対して、0.001質量%以上10質量%未満、好ましくは0.005〜1質量%である領域であることが望ましい。かような範囲であれば、「色素を相対的に少なく含有する領域」若しくは「色素を含有しない領域」との濃淡を、目視により容易に識別することができる。また、「色素を相対的に少なく含有する領域」とは、隣接したある領域を比較した場合に、色素の含有率が低い方の領域を意味する。具体的には、「色素を相対的に少なく含有する領域」とは、色素の含有量(固形分換算)が、表面潤滑層に対して、0質量%を超えて0.001質量%未満、好ましくは0超〜0.0005質量%である領域であることが望ましい。かような範囲であれば、「色素を相対的に多く含有する領域」との濃淡を、目視により容易に識別することができる。さらに、「色素を含有しない領域」とは、色素が全く含まれていない領域(すなわち、色素の含有量が0質量%)を意味する。但し、選定する色素及び基材の種類によっては、目視により色調の区別ができる色素の含有量であれば、上記範囲を逸脱しても構わない。なお、「色素を相対的に多く含有する領域」と「色素を相対的に少なく含有する領域」若しくは「色素を含有しない領域」との間の相対的な色素量の差は、表面潤滑層に対して0.001質量%以上10質量%未満、好ましくは、0.005質量%〜1質量%未満であることが望ましい。上記範囲であれば、「色素を相対的に多く含有する領域」と「色素を相対的に少なく含有する領域」若しくは「色素を含有しない領域」とを容易に識別することができる。なお、上記色素量は、表面潤滑層における各領域を可溶な溶媒に溶解させ、これを分析することにより測定することができる。
【0029】
色素の濃淡による幾何学模様状の色調は、いかなるパターンを形成していてもよいが、縞状、螺旋状または格子状であると好ましい。すなわち、色素を相対的に多く含有する領域2または色素を相対的に少なく含有する領域(もしくは色素を含有しない領域)3が、縞状、螺旋状または格子状に分布していると好ましい。かような模様が第一の表面潤滑層4に形成されることにより、特に視認性を向上させることができる。
【0030】
幾何学模様のパターンが縞状、螺旋状、または格子状であるとき、そのパターンの配置は、特に制限されない。例えば、パターンの間隔は、0.1〜20mmであると好ましく、0.2〜10mmであるとより好ましい。ここで、パターンの間隔とは、繰り返しで形成されるパターンの隣接するパターンの中心間の距離を意味し、例えば、図2中の「X」である。また、パターンの幅(図2中の「Y」)は、0.1〜20mmであると好ましく、0.2〜10mmであるとより好ましい。このような配置であれば、十分良好な視認性を確保しつつ、カーテルの操作(手技)をスムーズに行うことができる。
【0031】
幾何学模様のパターンは、カテーテル100全体に亘って均一な大きさであってもよいし、また、部分的に大きさが異なっていてもよい。部分的に大きさの異なるパターンを第一の表面潤滑層4に形成することにより、視認性がさらに向上する。具体的には、カテーテル100に幾何学模様のパターンを施す際、幾何学模様のパターンの間隔が基端から先端に向かうに従って小さくなるように構成してもよい。このようにすることで、幾何学模様のパターンの間隔により、内視鏡視界下においてカテーテルの動き及び位置を認識しやすくなり、カテーテル100の視認性が上昇する。このようなパターンを有するカテーテル100を体内に挿入し、内視鏡を介して観察した際には、カテーテル100の表面に形成された模様の移動具合から、カテーテル100の挿入長さやカテーテル100の回転等の動きを術者が容易に認識することができる。
【0032】
第一の表面潤滑層4の厚さとしては、十分な潤滑性が得られれば特に制限されないが、第一の表面潤滑層4が基材1に強固に固定化され、かつ使用時の優れた潤滑性を発揮することができるだけの厚さを有することが好ましい。このような観点から、表面潤滑層の厚さ(未膨潤時の表面潤滑層の厚さ)は、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは1〜5μmの範囲とするのが望ましい。このような厚みであれば、均一な被膜を容易に形成でき、表面の潤滑性を十分発揮できる。
【0033】
第一の表面潤滑層4は、吸水して潤滑性を示し、かつ、後述の色素が十分に吸着することができるものであればどのようなものであってもよい。たとえば、親水性高分子などが挙げられる。以下に具体例を示す。
【0034】
・親水性高分子
第一の表面潤滑層4を構成する親水性材料は、たとえば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子物質、ポリアクリルアミドおよびポリジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系高分子物質、ヒアルロン酸、ポリアクリル酸、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体等の無水マレイン酸系高分子物質、水溶性ナイロン(登録商標)、およびそれらの誘導体といった親水性高分子が挙げられる。これらの親水性高分子であれば、湿潤時に吸水して潤滑性を発現することができる。これら親水性高分子を基材層に強固に固定化するためには、適量の架橋剤を添加するか、表面潤滑層を形成する親水性高分子に反応性官能基を導入するなどにより、親水性高分子を架橋させることが好ましい。
【0035】
親水性高分子に反応性官能基を導入する方法としては、反応性官能基を有する単量体(以下、「反応性単量体」とも称する。)と、親水性単量体とを共重合させる方法が挙げられる。
【0036】
ここで、反応性単量体とは、架橋反応等が可能な反応性官能基を有する単量体を意味する。本明細書中、「反応性官能基」とは、加熱処理、光照射、電子線照射、放射線照射、プラズマ照射などにより、他の単量体と架橋反応しうる官能基を指す。
【0037】
反応性官能基は、特に制限されないが、エポキシ基、酸ハライド基、アルデヒド基、イソシアネート基、酸無水物基;などの官能基でありうる。これらのうち、反応性官能基を有する単量体(反応性単量体)としては、取り扱いの容易性、架橋反応の効率等の観点から、エポキシ基、イソシアネート基、アルデヒド基を有する単量体が好ましく、エポキシ基を有する単量体が特に好ましい。これら反応性官能基は、反応性単量体の中に単独で存在してもよいし、また、複数存在してもよい。
【0038】
本発明で用いられる反応性単量体は、反応性官能基を有し、かつ体液や水系溶媒中において、少なくとも共重合体の製造時に使用される親水性単量体よりも疎水性を発現することが好ましい。このような反応性単量体としては、具体的には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、メチルグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミド、(メタ)アクリル酸アイオダイドなどの酸ハライド基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリルアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレインなどのアルデヒド基を分子内に有する単量体;(メタ)アクリロイルオキシメチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネートなどのイソシアネート基を分子内に有する単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物基を分子内に有する単量体;などを例示できる。これらのうち、反応性官能基を有する単量体としては、エポキシ基を有する単量体が好ましく、反応が熱等により促進され、取り扱いも比較的容易であるグリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートがより好ましい。これら反応性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。つまり、本発明におけるブロック共重合体の反応性部位は、1種単独の反応性単量体から構成されるホモポリマー型であっても、あるいは上記反応性単量体2種以上から構成されるコポリマー型であってもよい。なお、2種以上用いる場合の重合体の形態は、ブロック共重合体でもよいしランダム共重合体でもよい。
【0039】
また、親水性単量体としては、特に制限されないが、たとえば、アクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸およびそれらの誘導体、ポリエチレングリコールアクリレートおよびその誘導体、糖やリン脂質を側鎖に有する単量体、無水マレイン酸などの水溶性の単量体などを例示できる。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、N−メチルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N’−ジメチルアミノエチルアクリレート、ビニルピロリドン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−D−グリコシド、2−メタクリロイルオキシエチル−D−マンノシド、ビニルメチルエーテル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、およびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートが挙げられる。合成の容易性や操作性の観点から、好ましくは、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリル酸、メタアクリル酸、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ビニルピロリドンであり、より好ましくはN,N’−ジメチルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチルアクリレートであり、特に好ましくはN,N’−ジメチルアクリルアミドである。これら親水性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。つまり、本発明における共重合体の親水性部位は、1種単独の親水性単量体から構成されるホモポリマー型であっても、あるいは上記親水性単量体2種以上から構成されるコポリマー型であってもよい。よって、親水性部位は、上記の親水性単量体からなる群から選ばれる1種以上に由来することが好ましい。なお、2種以上用いる場合の重合体の形態は、ブロック共重合体でもよいしランダム共重合体でもよい。
【0040】
良好な潤滑性を発現するためには、親水性高分子が、反応性単量体と親水性単量体とが共重合された架橋反応可能な反応性官能基を有する重合体であることが好ましく、反応性官能基を有する単量体から形成されるブロックと、親水性単量体から形成されるブロックとを有するブロック共重合体であることがより好ましい。こうしたブロック共重合体であると、表面潤滑層の強度や潤滑性において良好な結果が得られる。
【0041】
また、本発明のより好ましい実施形態では、親水性高分子が、エポキシ基を有する単量体を少なくとも一つの構成単位とした反応性ドメインと、親水性単量体を少なくとも一つの構成単位とした親水性ドメインと、を有するブロック共重合体である。反応性官能基であるエポキシ基が隣接するエポキシ基と反応することで、隣接する親水性高分子が架橋構造を形成させ、表面潤滑層の強度を高めることができる。
【0042】
親水性高分子における親水性単量体と反応性単量体の比率は、特に制限されない。良好な潤滑性、被膜の強度、基材層との強固な結合性などを考慮すると、親水性単量体と反応性単量体とのモル比は、好ましくは1:1〜100:1、より好ましくは5:1〜80:1、さらに好ましくは10:1〜50:1である。かような比率であれば、親水性高分子の親水性部位と反応性部位の比率を良好な範囲にすることができる。
【0043】
上記親水性材料は、湿潤(吸水)により潤滑性を発揮し、カテーテル100と生体内壁との摩擦抵抗を低減する。これら親水性材料はディップコート、スプレーコート、表面グラフト重合等、従来公知の技術により被覆され、第一の表面潤滑層4として固定される。
【0044】
以下で詳述するように、本発明者らは、上記親水性材料が、エネルギー線が照射されることにより、その色素吸着性が変化することを見出した。かような性質を利用して、第一の表面潤滑層4において、色素を相対的に多く含有する領域2と、色素を相対的に少なく含有する領域(もしくは色素を含有しない領域)3とを、容易に作り分けることができる。
【0045】
・色素
第一の表面潤滑層4は、色素を含む。当該色素は、特に制限されないが、第一の表面潤滑層4を形成する親水性材料との親和性が高いものであると好ましい。
【0046】
第一の表面潤滑層4に含有させる色素として、たとえば、アセチルイエロー、アシドブラック、アシドブルー、アシドグリーン、アシドマゼンタ、アシドオレンジ、アシドレッド、アシドバイオレット、アシドイエロー、アクリジンオレンジ、アルシアンブルー、アルシアンイエロー、アリザリンブルー、アニリンパープル、アゾバンブルー、ベーシックブルー、ベーシックブラウン、ベーシックグリーン、ベーシックオレンジ、ベーシックレッド、ベーシックバイオレット、ベーシックイエロークリスタルスカーレット、クリスタルバイオレット、メチレンブルー、メチレングリーン、メチルブルー、メチルグリーン、メチルバイオレット、オキサミンブルー、トリパンブルー等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、特に、親水性高分子(第一の表面潤滑層)としてグリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド共重合体(特にブロック共重合体)を用いる場合には、当該親水性材料と色素との親和性が高いという観点から、酸性基を有する色素であると好ましい。ここで、酸性基は、電離してプロトンを放出しうる官能基であれば特に制限されないが、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基等が挙げられる。また、これらの置換基は、4級アンモニウム塩、金属塩、エステル、アミドの形態であっても構わない。上記酸性基の中でも、スルホン酸基、スルフィン酸基が好ましい。
【0048】
したがって、上記色素の中では、オキサミンブルー、トリパンブルーが好適に用いられる。なお、上記色素は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
(第二の表面潤滑層)
以上、本発明の医療デバイスとしてのカテーテル100に備えられる第一の表面潤滑層4について説明したが、本発明の医療デバイスは、第一の表面潤滑層とは別に、第二の表面潤滑層をさらに有していてもよい。第二の表面潤滑層は、第一の表面潤滑層のさらに上層(好ましくは、第一の表面潤滑層の表面)に被覆される層であって、当該層を設けることにより、医療デバイスの潤滑性がさらに良好になり、その結果、操作性をさらに向上させることができる。第二の表面潤滑層は、少なくとも、第一の表面潤滑層の色素を含有する領域を被覆するように形成されると好ましい。かような構成は、色素の脱離の抑制、潤滑性の向上という点で、好ましい。
【0050】
第二の表面潤滑層は、第一の表面潤滑層と同様の親水性高分子を用いて形成することができる。第二の表面潤滑層は、色素を含んでいなくてもよいし、第一の表面潤滑層と同様に、色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有する領域(色素を含有しない領域)とを有していてもよい。後者の構成を採る場合、第一の表面潤滑層と組み合わせることでさらに複雑な模様を形成することができる。なお、第二の表面潤滑層に含有される色素は、第一の表面潤滑層に含有される色素と同様のものを使用可能である。
【0051】
[医療デバイスの製造方法]
本発明の医療デバイスは、医療デバイスに備えられる第一の表面潤滑層において、色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有する領域(色素を含有しない領域)とを含む構成を有するものであれば、いずれの方法によって製造されてもよいが、なかでも、以下の製造方法であると好ましい。
【0052】
すなわち、本発明の第二は、上記の医療デバイスの製造方法であって、長尺体の基材を準備し、前記基材表面の少なくとも一部を覆うよう被覆された第一の表面潤滑層を形成した後、第一の表面潤滑層の少なくとも一部にエネルギー線を照射し、第一の表面潤滑層を色素含有溶液と接触させることにより、第一の表面潤滑層に色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有するもしくは色素を含有しない領域とを形成する、医療デバイスの製造方法を提供する。
【0053】
上記医療デバイスの好ましい製造方法は、(I)長尺体である基材を準備する工程、(II)第一の表面潤滑層を形成する工程、(III)第一の表面潤滑層の少なくとも一部に対してエネルギー線を照射する工程、(IV)第一の表面潤滑層を色素含有溶液と接触させる工程に大別される。また、さらにこの後に、第二の表面潤滑層を形成する工程を行ってもよい。
【0054】
以下では、上記(I)〜(IV)の工程を含む医療デバイスの製造方法について詳細に説明する。
【0055】
(長尺体である基材を準備する工程(I))
工程(I)では、製造する医療デバイスの形態に合わせて、長尺体である基材が適宜準備される。このとき、基材を構成する材料は、上述の通りである。本工程(I)では、次の工程(II)をより進行しやすくするために、基材表面の洗浄・研磨等を行ってもよい。また、後に行われる工程(II)、(III)および(IV)の工程を行うために必要な治具を基材に取り付ける作業を行ってもよい。さらに、工程(II)の後、工程(III)および工程(IV)を繰り返し行ってもよい。
【0056】
(第一の表面潤滑層を形成する工程(II))
本工程(II)では、基材表面の少なくとも一部に第一の表面潤滑層を形成する。このとき、第一の表面潤滑層を構成する材料は、上述の通りである。
【0057】
本工程(II)は、上記の親水性高分子を用い、公知の方法と同様にしてあるいはこれを適宜修飾して適用できる。
【0058】
具体的には、たとえば、上記親水性高分子(特に、ブロック共重合体が好ましい)を溶媒に溶解させて塗布液(潤滑コート剤、コート液)を調製し、当該塗布液を基材上にコートして塗布層を形成した後、当該塗布層を加熱処理して、親水性高分子(ブロック共重合体)を架橋反応させることにより、第一の表面潤滑層を形成する方法が挙げられる。すなわち、本発明において、第一の表面潤滑層の形成方法は、少なくとも、潤滑コート剤を基材上にコートする潤滑コート剤被覆工程と、潤滑コート剤により形成された塗布層に加熱処理を施す加熱工程とを含んでいると好ましい。このような方法により、医療デバイス表面に潤滑性、耐久性を付与することができる。
【0059】
上記方法において、本発明に係る親水性高分子を溶解するのに使用される溶媒としては、本発明に係る親水性高分子を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0060】
コート液中の親水性高分子の濃度は、特に限定されない。塗布性、所望の効果(潤滑性および耐久性)が得られるなどの観点からは、コート液中の親水性高分子の濃度は、0.01〜20質量%、より好ましくは0.05〜15質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。親水性高分子の濃度が上記範囲であれば、得られる第一の表面潤滑層の潤滑性、耐久性が十分発揮されうる。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な第一の表面潤滑層を容易に得ることができ、操作性(たとえば、コーティングのしやすさ)、生産効率の点で好ましい。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0061】
基材表面にコート液を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)を用いるのが好ましい。
【0062】
また、基材の一部にのみ第一の表面潤滑層を形成する場合には、基材の一部のみをコート液中に浸漬して、コート液を基材の一部にコーティングすることで、基材の所望の表面部位に、第一の表面潤滑層を形成することができる。
【0063】
基材の一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、予め第一の表面潤滑層を形成する必要のない基材の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材をコート液中に浸漬して、コート液を基材にコーティングした後、第一の表面潤滑層を形成する必要のない基材の表面部分の保護部材(材料)を取り外し、その後、加熱処理等により反応させることで、基材の所望の表面部位に第一の表面潤滑層を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではない。
【0064】
このように親水性高分子を含むコート液中に基材を浸漬した後は、コート液から基材を取り出して、加熱処理を行う。ここで、コート液の加熱処理条件(温度、時間等)は、基材上に親水性高分子を含む第一の表面潤滑層が形成できる条件であれば、特に制限されない。具体的には、加熱温度は、好ましくは60〜200℃、より好ましくは80〜160℃であり、更に好ましくは80℃を超えて150℃以下であり、特に好ましくは90〜140℃である。また、加熱時間は、好ましくは15分〜24時間、より好ましくは1〜10時間である。このような条件とすることにより、上記の加熱処理条件とすることにより、親水性高分子の反応性官能基による架橋反応が起こり、基材から容易に剥離することのない、強固な第一の表面潤滑層を形成することができる。
【0065】
なお、親水性高分子中に含まれる反応性官能基をエポキシ基とした場合、エポキシ基は加熱することで自己架橋しうるが、架橋反応を促進するためにエポキシ反応触媒や、エポキシ基と反応しうる多官能架橋剤をコート溶液に含ませてもよい。
【0066】
また、加熱処理時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。
【0067】
加熱処理手段(装置)としては、たとえば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができる。
【0068】
上記方法により、基材表面に親水性高分子の被膜(塗布層)を形成した後、反応性官能基を架橋させることで基材から容易に剥離することのない、強固な第一の表面潤滑層を形成することができる。このため、本発明による医療デバイスは、優れた潤滑性、耐久性を発揮できる。
【0069】
(第一の表面潤滑層の少なくとも一部に対してエネルギー線を照射する工程(III))
本工程(III)では、上記工程(II)の後、第一の表面潤滑層が形成された基材に対して、エネルギー線を照射する。すなわち、本工程(III)は、第一の表面潤滑層を改質する工程である。
【0070】
第一の表面潤滑層において、エネルギー線が照射された領域は、後の工程(IV)において、色素含有溶液と接触させることにより、色素が吸着(色素の吸着量が増加)し、強く呈色する。このため、第一の表面潤滑層にて着色したい領域のみにエネルギー線を照射した後、第一の表面潤滑層全体を色素含溶液と接触させることにより、親水性材料によって形成された第一の表面潤滑層中に、色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有する領域(または色素を含有しない領域)とを形成することができる。このように、本発明によれば、第一の表面潤滑層の特定の部分にエネルギー線を照射することで、その色素吸着性が変化することを利用して、色素の濃淡による幾何学模様を第一の表面潤滑層に形成することができる。
【0071】
したがって、エネルギー線を照射する際、第一の表面潤滑層の一部にはエネルギー線が照射され、他の部分にはエネルギー線が照射されないように、第一の表面潤滑層を別の部材(材料)で保護(被覆)するとよい。このとき、色素を相対的に少なく含有する領域(または色素を含有しない領域)を形成したい部分をマスクで被覆し、反対に、色素を相対的に多く含有する領域を形成したい部分にはマスクを設けず、エネルギー線が照射されるような構成とする。したがって、本工程(III)では、(a)基材にマスクを取り付ける工程、(b)マスクが取り付けられた基材にエネルギー線を照射する工程を含んでいると好ましい。
【0072】
このように、第一の表面潤滑層において呈色させない領域のみをマスキングしてから基材表面全体にエネルギー線を照射し、その後、第一の表面潤滑層を色素含有溶液に接触させることで、医療デバイスは模様状の色調を呈するようになる。
【0073】
使用されるマスクは、照射されるエネルギー線を透過しない材料であり、且つ、エネルギー線照射後に基材表面から容易に取り外せるものであれば、特に限定されない。また、マスクの形状(パターン)は、第一の表面潤滑層中に形成したい幾何学模様の種類に依存して決定されるものであって、特に限定されないが、たとえば、その開口部が縞状、螺旋状、格子状等であると好ましい。また、マスクの形状(パターン)の間隔および幅は、上記の幾何学模様のパターンの間隔および幅と同様であるため、その説明を省略する。
【0074】
エネルギー線を照射する工程は、基材表面に対するエネルギー線の照射量が均一になるような態様であれば特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。また、色素の吸着量(着色度)を連続して徐々に変化させたいとき(グラデーションパターンを形成するとき)には、エネルギー線の照射量を徐々に変化させることよって、色素の吸着量(着色度)を制御してもよいが、視認性を向上させ、また、線源の制御が容易となるという観点から、均一にエネルギー線を照射することが好ましい。
【0075】
基材が円柱状や管状等といった、色素を吸着させたい表面が一の側面のみでない場合は、多方向からエネルギー線を照射するとよい。このとき、エネルギー線が基材表面に対して均一に照射することができれば、エネルギー線はいかなる方法で照射してもよい。たとえば、一の側面(「表側面」とする)からエネルギー線を照射した後に、他方の側面(「裏側面」とする)からエネルギー線を照射してもよいし、エネルギー線源を基材の外周面に沿うように移動(回転)させながらエネルギー線の照射を行ってもよい。また、基材の長軸方向を回転軸として基材を回転させながらエネルギー線の照射を行ってもよい。
【0076】
上記方法の中でも、基材の長軸方向を回転軸として基材を回転させながらエネルギー線を照射すると好ましい。このようにエネルギー線を照射することにより、エネルギー線源の構造を簡素化することができる。また、かような方法を用いることにより、エネルギー線の照射量の偏りがなく、且つ、エネルギー線の照射を複数回行う必要がなくなる。したがって、第一の表面潤滑層を均一な濃度(色調)で着色することができると共に、製造コストを節減することができる。
【0077】
上記のように、基材を回転させながらエネルギー線を照射する方法(装置構成)も特に制限されない。たとえば、基材が筒状である場合、その内部に基材を保持する治具を挿通して、当該治具を回転させながらエネルギー線を照射してもよいし、また、基材が円柱状である場合、基材の長軸方向の両端を保持する治具を取り付けて、当該治具を回転させながらエネルギー線を照射してもよい。
【0078】
エネルギー線の照射効率の向上と均一な照射を達成する観点から、線源によって発生させたエネルギー線は、発生源からのエネルギー線を反射板で反射させてから第一の表面潤滑層に照射してもよい。また、エネルギー線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適用可能である。
【0079】
また、本工程(III)は、エネルギー線を集中させて局所的に照射し、照射部を走査するようにしてもよい。このような方法であれば、基材がどのような形状であっても、マスクを設ける必要がなくエネルギー線を照射することができる。
【0080】
上記エネルギー線は、第一の表面潤滑層の表面を改質し、第一の表面潤滑層における色素の吸着性を高めることができるものであれば、いかなるものであってもよいが、具体的には、紫外線、γ線、電子線等を例示できる。これらの中でも、照射量および照射範囲の制御が容易であるという観点から、紫外線であると好ましい。したがって、以下、エネルギー線として紫外線を用いる場合の照射条件について詳説する。なお、本明細書において、「紫外線」とは、10〜400nmの波長を有する電磁波をいう。
【0081】
紫外線の線源としては、特に制限されないが、低圧水銀灯(波長:254nm)、高圧水銀灯(波長:365nm)、重水素ランプ(波長:185〜400nm)、キセノンエキシマランプ(波長:172nm)、メタルハライドランプ(波長:200〜450nm)等が用いられうる。また、蛍光灯、黄色灯等であってもよい。これらのうち、低圧水銀灯、高圧水銀灯等の水銀灯を用いることが好ましい。
【0082】
紫外線の照射強度は、特に制限されないが、1〜1,000mW/cmであることが好ましい。かような範囲とすることにより、色素の吸着性を十分に高めることができ、且つ、第一の表面潤滑層の表面を改質しすぎることなく、良好な表面潤滑性を保持することができる。また、照射エネルギーは、特に制限されないが、100〜10,000mJ/cmであることが好ましい。かような範囲とすることにより、色素の吸着性を十分に高めることができ、且つ、第一の表面潤滑層の表面を改質しすぎることなく、良好な表面潤滑性を保持することができる。
【0083】
紫外線の照射時間は、特に制限されないが、1秒〜10分間であることが好ましく、10秒〜5分間であることがより好ましい。
【0084】
また、紫外線の照射雰囲気は、空気中であってもよいし、乾燥不活性ガスで満たされていてもよい。乾燥不活性ガス雰囲気とする場合は、コストの観点から、乾燥窒素ガスを用いると好ましい。
【0085】
(第一の表面潤滑層を色素含有溶液と接触させる工程(IV))
第一の表面潤滑層を色素含有溶液と接触させる工程(IV)は、上記工程(III)においてエネルギー線が照射された領域に色素を吸着させる工程である。エネルギー線が照射された領域には色素が吸着する一方で、エネルギー線が照射されなかった領域には、色素が吸着しない(または、エネルギー線が照射された部分と比較して、相対的に少ない量の色素が吸着する)。したがって、エネルギー線が照射された領域と、照射されなかった領域との間で色素による着色の濃度差が生じ、結果として、表面潤滑層にパターン(幾何学模様)を描くことが可能となる。
【0086】
色素含有溶液において好ましく用いられる溶媒としては、第一の表面潤滑層を溶解させるものでなく、且つ、吸着させる色素を十分な濃度で溶解できるものであれば、特に制限はないが、水または親水性溶媒が好ましく用いられる。親水性溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコールなどが挙げられる。水およびこれらの溶媒は、単独で使用してもまたは2種以上を混合して使用してもよい。
【0087】
また、上述のように、色素は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上の色素を用いる場合、各色素の混合溶液を第一の表面潤滑層に接触させてもよいし、各色素を別々の溶液として準備し、順次に第一の表面潤滑層に接触させてもよい。
【0088】
本工程(IV)において、基材表面に形成された第一の表面潤滑層に色素含有溶液を接触させる方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)を用いるのが好ましい。
【0089】
浸漬法により色素含有溶液を第一の表面潤滑層と接触させる際、色素含有溶液の濃度は、色素の吸着性や発色性に応じて変動しうるが、0.01〜10質量%であると好ましく、0.05〜1質量%であるとより好ましい。0.01質量%以上とすると、浸漬時間(色素の吸着時間)が長くなりすぎることがなく、好ましい。また、10質量%以下とすると、色素の吸着時、色素の析出を効果的に抑制することができる。
【0090】
また、浸漬時間(色素の吸着時間)は特に制限されないが、1秒〜10分であることが好ましく、5秒〜1分であることがより好ましい。なお、色素含有溶液の温度は室温(25℃)で良いが、適宜加温(60℃程度)することにより染色速度を向上させても良い。
【0091】
色素含有溶液は、第一の表面潤滑層の全体に接触させてもよいし、一部のみに接触させてもよい。
【0092】
第一の表面潤滑層の一部のみに色素を吸着させれば十分な場合は、基材の一部のみを色素含有溶液中に浸漬して、色素含有溶液を基材の一部に接触させることで、第一の表面潤滑層の所望の範囲に、色素を吸着させることができる。なお、上記「第一の表面潤滑層の一部」とは、エネルギー線を照射する工程(III)において、マスキングにより被覆された範囲(つまり、パターニング部分)を指すのではなく、より広範囲にわたる部分であり、且つ、色素によるパターン(幾何学模様)形成を必要としない部分を指すものである。
【0093】
基材の一部のみを色素含有溶液中に浸漬するのが困難な場合には、予め色素を吸着させる必要のない基材の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材を色素含有溶液中に浸漬して、色素含有溶液を基材にコーティングすればよい。その後、色素による幾何学模様を形成する必要のない基材の表面部分の保護部材(材料)を取り外すことで、基材の所望の表面部位に色素による幾何学模様を形成することができる。
【0094】
ただし、本発明において、第一の表面潤滑層を色素含有溶液と接触させる方法は、上記の色素含有溶液に基材を浸漬する方法に何ら制限されるものではない。色素を第一の表面潤滑層に接触させることで、色素を吸着させることができる方法であれば、従来公知の方法を適宜利用することができる。
【0095】
色素含有溶液を第一の表面潤滑層に接触させ、色素を吸着させた後は、余剰の色素を洗浄することが好ましい。洗浄方法は特に限定されないが、洗浄溶媒に浸漬し抽出する方法、洗浄溶媒をシャワーする方法、またはこれらを組合せてもよい。この時使用される洗浄溶媒は、第一の表面潤滑層を溶解させないものであれば特に限定されないが、水または親水性溶媒が好ましく用いられる。親水性溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコールなどが挙げられる。水およびこれらの溶媒は、単独で使用してもまたは2種以上を混合して使用してもよい。
【0096】
また、さらに、医療デバイスの潤滑性をさらに向上させるために、第二の表面潤滑層を形成する工程を行ってもよい。第二の表面潤滑層を形成する方法は、上記工程(II)と同様の方法を用いることができるため、詳細な説明は省略する。
【0097】
[他の実施形態の医療デバイス]
上記実施形態では、カテーテルについて説明したが、本発明の医療デバイスは、ガイドワイヤであってもよい。以下、本発明の他の実施形態である、ガイドワイヤについて概略を説明する。なお、本実施形態は、医療デバイス自体の形状が異なること以外は上記実施形態と同様であるため、同様の構成については第1実施形態と同様の符号を付し、ここでの重複する説明を省略する。
【0098】
医療デバイスであるガイドワイヤ200は、カテーテル内部に軸方向に形成されたルーメンを通過可能となるように形成されている。術者は、ガイドワイヤ200の基端側を保持し、前後に移動させることによって、ガイドワイヤ200をカテーテル中で前後に移動させることができる。かような構成を備えたガイドワイヤ200は、可撓性を有する線状体で構成されており、その先端をカテーテルの先端よりも突出させた状態で、カテーテルとともに生体管腔内の目的部位付近まで挿入される。そして、ガイドワイヤ200に沿ってカテーテルを移動させ、カテーテルの先端部を目的部位まで誘導する。ここでは、ガイドワイヤ200の機能についての詳細な説明は省略する。
【0099】
図3に示されるように、ガイドワイヤ200は、可撓性を有する線形の芯線6と、芯線6の表面に被覆される基材1と、基材1の表面に被覆される第一の表面潤滑層4とを含み、さらに、芯線6の小径部には、細線を螺旋状に巻回して形成されたコイル7が配置されている。芯線6およびコイル7の構成および材料は、特に制限はなく、ガイドワイヤにおいて従来公知の構成および材料がそのまま、または適宜改良されて採用されうる。
【0100】
本発明のガイドワイヤ200(ガイドワイヤ本体20)は、上記実施形態であるカテーテルと同様に、基材1と、基材1表面の少なくとも一部を覆うように被覆された第一の表面潤滑層4を有している。ここで、第一の表面潤滑層4は、色素を相対的に多く含有する領域2と、色素を相対的に少なく含有する領域(もしくは色素を含有しない領域)3とを有する。
【0101】
上記実施形態(カテーテル)と同様に、本実施形態においても、色素を相対的に多く含有する領域2、または色素を相対的に少なく含有する領域(もしくは色素を含有しない領域)3によって、幾何学模様が形成される。このとき、幾何学模様のパターンは均一であってもよいが、ガイドワイヤ200の先端から基端に向かうに従って幾何学模様のパターンの間隔を大きくしたり、小さくしても良い。このような構成とすることで、ガイドワイヤ1が軸周りでどの程度回転したか、に加えて、ガイドワイヤ1が軸方向に沿ってどの程度移動したか、を術者が容易に把握することができる。そして、かような幾何学模様は、上記の製造方法を経ることにより形成することができる。
【0102】
したがって、本実施形態によるガイドワイヤ200もまた、上記実施形態のカテーテルと同様に、生体管腔内における視認性および操作性に優れ、且つ、簡便な方法により製造可能である。
【実施例】
【0103】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0104】
(実施例1)
直径1.3mmのカテーテル(基材外層:ナイロン(登録商標)エラストマー)に対して、親水性単量体としてN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)を、反応性単量体としてグリシジルメタクリレート(GMA)を有するブロックコポリマー(DMAA:GMA(モル比)=12:1)を5質量%の割合で溶解したDMF溶液をディップコートし、130℃のオーブン中で3時間反応させることで、カテーテル基材表面に表面潤滑層(第一の表面潤滑層)を形成した。このようにして、基材層表面に厚さ(未膨潤時の厚さ)が3μmの表面潤滑性層を形成した。その後、カテーテルに幅0.4mmの紐状のマスクMを4mm間隔で螺旋状に巻き付け、さらに同様の紐状のマスクMを、4mm間隔でマスクMとは逆回転に螺旋状に巻き付けた。マスクM、およびマスクMを取りつけたカテーテル全面に対して、高圧水銀灯を用いて紫外線(波長365nm、250mW/cm)を30秒照射した後、マスクMおよびマスクMを取り外し、カテーテル全体を0.5質量%のトリパンブルー水溶液に室温で10秒浸漬して表面潤滑層中に色素を吸着させた。その後、カテーテルを色素含有溶液から取り出し、付着した余剰の色素を純水で洗浄することにより、カテーテルAを得た。
【0105】
カテーテルA外面に形成された表面潤滑層は、紫外線が照射された領域のみ鮮やかな青色を呈し、図4に示すように色素を相対的に多く含有する領域が格子状に分布していた。
【0106】
(実施例2)
直径0.5mmのカテーテル(基材外層:ナイロン(登録商標)エラストマー)に対して、親水性単量体としてN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)を、反応性単量体としてグリシジルメタクリレート(GMA)を有するブロックコポリマー(DMAA:GMA(モル比)=12:1)を5質量%の割合で溶解したDMF溶液をディップコートし、130℃のオーブン中で3時間反応させることで、カテーテル基材層表面に表面潤滑層(第一の表面潤滑層)を形成した。このようにして、基材層表面に厚さ(未膨潤時の厚さ)が3μmの表面潤滑性層を形成した。その後、カテーテルに幅0.25mmの紐状のマスクを0.25mm間隔で螺旋状に巻き付けた。マスクを取りつけたカテーテル全面に対して、高圧水銀灯を用いて紫外線(波長365nm、250mW/cm)を30秒照射した後、マスクを取り外し、カテーテル全体を0.5質量%のオキサミンブルー4R水溶液に室温で10秒浸漬して表面潤滑層中に色素を吸着させた。その後、カテーテルを色素含有溶液から取り出し、付着した余剰の色素を純水で洗浄することにより、カテーテルBを得た。
【0107】
カテーテルB外面に形成された表面潤滑層は、紫外線が照射された領域のみ鮮やかな紫色を呈し、図5に示すように色素を相対的に多く含有する領域が螺旋状に分布していた。
【0108】
(比較例1)
実施例2において、表面潤滑層を形成する工程(すなわち、ブロックコポリマーをディップコートし、加熱する工程)を省いた点以外は、実施例2と同様にして、カテーテルCを作製した。カテーテルCは表面潤滑層を有しておらず、紫外線が照射された領域への色素の吸着も観察されなかった(図6)。
【0109】
以上の結果より、本発明においては基材層に固定された表面潤滑層にのみ、色素を相対的に多く含有する領域と、色素を相対的に少なく含有する領域とを形成することができることが示された。すなわち、本発明によれば、煩雑な製造工程を必要とすることなく、視認性及び操作性に優れた医療デバイスを得ることが可能である。
【符号の説明】
【0110】
100 医療デバイス(カテーテル)、
200 医療デバイス(ガイドワイヤ)、
10 カテーテル本体、
20 ガイドワイヤ本体、
1 基材、
2 色素を相対的に多く含有する領域、
3 色素を相対的に少なく含有する領域(または色素を含有しない領域)、
4 第一の表面潤滑層、
5 ルーメン、
6 芯線、
7 コイル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6