特許第6178283号(P6178283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178283
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】過負荷保護装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/08 20060101AFI20170731BHJP
   F16D 43/206 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   F16D7/08
   F16D43/206
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-112585(P2014-112585)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-227675(P2015-227675A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】506179929
【氏名又は名称】ツバキ山久チエイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】江原 康広
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭44−024003(JP,B1)
【文献】 特開2003−194096(JP,A)
【文献】 特開昭57−054728(JP,A)
【文献】 特開昭53−057348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/08
F16D 43/206
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸方向に貫通する孔に第1球体をその一部が孔から突出するように保持して前記回転軸の軸回りでの回転自在に設けられた中間回転体と、
当該中間回転体に前記軸方向の一方側から対向する面に前記第1球体を係合可能とする一方側凹部を有して前記軸回りでの回転自在に設けられた一方側回転体と、
前記中間回転体に前記軸方向の他方側から対向する面に前記第1球体を係合可能とする他方側凹部を有して、前記回転軸と一体回転可能である一方、前記軸方向への移動自在に且つ前記軸回りでの回転自在に設けられた他方側回転体と、
当該他方側回転体を前記軸方向の一方側に向けて付勢する付勢部材と、
前記一方側凹部及び前記他方側凹部に係合した状態の前記第1球体を介した前記一方側回転体と前記他方側回転体との間での伝達トルクが予め設定された設定トルクの範囲を超えた過負荷時には、前記付勢部材の付勢力に抗して前記一方側凹部から前記軸方向の他方側に外れた前記第1球体が前記他方側回転体により前記一方側凹部側に押圧されるのを規制可能に、前記中間回転体と前記他方側回転体との間に挟圧された状態となる第2球体と、を備え、
前記他方側凹部は、前記軸方向の深さが相対的に浅い第1他方側凹部と、前記軸方向の深さが相対的に深い第2他方側凹部とが、周方向に交互の配置となるように形成されており、前記第1球体は、トルクを伝達可能な通常時には前記第1他方側凹部に係合し、前記過負荷時には前記第2他方側凹部に係合し、
前記中間回転体と前記一方側回転体には、前記中間回転体の前記孔と前記一方側回転体の前記一方側凹部とが前記軸方向で対向する復帰用の位置関係となった場合に、当該位置関係になったことを外見上で識別可能とさせる識別部が設けられている過負荷保護装置。
【請求項2】
前記識別部は、前記中間回転体に設けられた孔位置識別部と前記一方側回転体に設けられた凹部位置識別部とを含み、前記孔と前記一方側凹部とが前記復帰用の位置関係となっ
た場合に、前記孔位置識別部と前記凹部位置識別部とは、前記軸を中心とする周方向において予め設定された相対的位置関係にて外部から視認される請求項1に記載の過負荷保護装置。
【請求項3】
前記孔位置識別部は、前記中間回転体の外面に外部から位置合わせ用の治具を係止可能とする形状で設けられ、
前記凹部位置識別部は、前記一方側回転体の外面に外部から前記孔位置識別部に係止させた前記治具を係止可能とする形状で設けられている請求項2に記載の過負荷保護装置。
【請求項4】
前記孔位置識別部は、前記中間回転体の外面に前記一方側回転体との対向面まで延びる凹条又は凸条の形状で設けられ、
前記凹部位置識別部は、前記凹条及び前記凸条のうち前記孔位置識別部と同じ形状にて前記一方側回転体の外面に前記中間回転体との対向面まで延びることにより前記孔位置識別部と繋がる形状で設けられている請求項3に記載の過負荷保護装置。
【請求項5】
前記孔位置識別部と前記凹部位置識別部とは、前記相対的位置関係において前記軸方向で互いに対向した位置関係となるように設けられている請求項2〜請求項4のうち何れか一項に記載の過負荷保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクの伝達機構に過負荷が生じた場合にトルクの伝達を遮断して伝達機構を保護する過負荷保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の装置として、例えば特許文献1に記載の過負荷保護装置が知られている。この装置は、軸方向に貫通する孔にトルク伝達用のボールをその一部が孔から突出するように保持した状態でモータの駆動により回転するハブフランジと、同ハブフランジと軸方向で対向する面に前記トルク伝達用のボールが係脱可能に係合するポケットを形成して軸回りに回転自在なドライブプレートとを備えている。また、この装置には、ハブフランジに対してドライブプレートとは軸方向の反対側から対向して軸方向への移動自在に且つ軸回りでの回転自在に設けられたスライドプレートと、そのスライドプレートを軸方向においてハブフランジ側に押圧してトルク伝達用のボールをドライブプレートに向けて押圧可能な圧縮コイルばねとを備えている。
【0003】
また、この過負荷保護装置は、トルク伝達用のボールが配置されているピッチ円よりも内周側に配置されるストラットボールと、軸方向に貫通形成した孔にストラットボールをその一部が孔から突出するように保持した状態でスライドプレートとハブフランジとの間で軸回りに回転自在なケージプレートとを備えている。さらに、スライドプレートとハブフランジとの互いに対向する面には、ケージプレートの孔に保持されたストラットボールを係脱可能に係合させるポケット部が形成されている。
【0004】
そして、トルク伝達用のボールがスライドプレートを介して圧縮コイルばねに押圧されてドライブプレートのポケットに係合した状態でモータが駆動されることによりトルクが伝達される通常状態では、ストラットボールは、スライドプレート側とハブフランジ側の両ポケット部の間に、圧縮コイルばねの押圧力を受けない収容状態で保持される。
【0005】
その一方、過負荷の発生時には、スライドプレートを介して圧縮コイルばねに押圧されてドライブプレートのポケットに係合していたトルク伝達用のボールが圧縮コイルばねの押圧力に抗してポケットから外れることにより、ハブフランジ側とドライブプレート側との間のトルク伝達が遮断される。そして、このトルク伝達の遮断状態では、ストラットボールがポケット部から外れてスライドプレートとハブフランジとの互いに対向する面間に挟圧された状態になり、スライドプレートのハブフランジ側への押圧力を受け止める。そして、このようにストラットボールで押圧力を受け止めることにより、スライドプレートがトルク伝達用のボールをドライブプレートのポケット側に押圧することを規制し、トルク伝達の遮断状態を維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−194096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような過負荷保護装置をトルク伝達の遮断状態からトルクが伝達される通常状態へ復帰させる際には、トルク伝達の遮断に伴う空転によりドライブプレートとハブフランジとが相対回転することで周方向へ互いに位置ずれした状態となったトルク伝達用のボールの位置とドライブプレートのポケットの位置とを再び合致させる必要がある。すなわち、ドライブプレートにおけるハブフランジ側の面に形成されたポケットと、ハブフランジにトルク伝達用のボールを収容保持可能に軸方向へ貫通形成された孔とを、ドライブプレートとハブフランジとを相対回転させることで合致させる必要がある。
【0008】
しかしながら、ドライブプレートとハブフランジとを相対回転させることで位置合わせがされるべき、ドライブプレート側のポケットも、ハブフランジ側の孔も、過負荷保護装置の外見上からは、各々の位置を視認することができず、それらの位置関係を把握することは困難である。したがって、こうした位置合わせに手間取ってしまい、トルク伝達の遮断状態からトルクが伝達される通常状態への復帰作業を迅速に行うことが難しいという問題があった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トルクの伝達が遮断された状態からトルクが伝達される通常状態への復帰作業を迅速且つ容易に行うことができる過負荷保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する過負荷保護装置は、軸方向に貫通する孔に第1球体をその一部が孔から突出するように保持して軸回りでの回転自在に設けられた中間回転体と、当該中間回転体に前記軸方向の一方側から対向する面に前記第1球体を係合可能とする凹部を有して前記軸回りでの回転自在に設けられた一方側回転体と、前記中間回転体に前記軸方向の他方側から対向して前記軸方向への移動自在に且つ前記軸回りでの回転自在に設けられた他方側回転体と、当該他方側回転体を前記軸方向の一方側に向けて付勢する付勢部材と、前記凹部に係合した状態の前記第1球体を介した前記一方側回転体と前記他方側回転体との間での伝達トルクが予め設定された設定トルクの範囲を超えた過負荷時には、前記付勢部材の付勢力に抗して前記凹部から前記軸方向の他方側に外れた前記第1球体が前記他方側回転体により前記凹部側に押圧されるのを規制可能に、前記中間回転体と前記他方側回転体との間に挟圧された状態となる第2球体と、を備え、前記中間回転体と前記一方側回転体には、前記中間回転体の前記孔と前記一方側回転体の前記凹部とが前記軸方向で対向する復帰用の位置関係となった場合に、当該位置関係になったことを外見上で識別可能とさせる識別部が設けられている。
【0011】
一般に、過負荷保護装置は、トルク伝達の遮断状態において、中間回転体と一方側回転体が相対回転することにより、第1球体を保持した孔の位置と第1球体を係合可能な凹部の位置とが周方向に位置ずれしていることがある。しかし、そのように位置ずれしていたとしても、この構成によれば、中間回転体と一方側回転体とに設けられた識別部を利用して、孔と凹部が軸方向で対向した復帰用の位置関係となるように、迅速且つ容易に位置合わせすることが可能になる。
【0012】
上記過負荷保護装置において、前記識別部は、前記中間回転体に設けられた孔位置識別部と前記一方側回転体に設けられた凹部位置識別部とを含み、前記孔と前記凹部とが前記復帰用の位置関係となった場合に、前記孔位置識別部と前記凹部位置識別部とは、前記軸を中心とする周方向において予め設定された相対的位置関係にて外部から視認されることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、中間回転体に設けられた孔位置識別部と一方側回転体に設けられた凹部位置識別部とが予め設定された相対的位置関係となるように、中間回転体及び一方側回転体の少なくとも一方を回転させることにより、中間回転体における孔の位置と一方側回転体における凹部の位置とを復帰用の位置関係に簡単にできる。
【0014】
上記過負荷保護装置において、前記孔位置識別部は、前記中間回転体の外面に外部から位置合わせ用の治具を係止可能とする形状で設けられ、前記凹部位置識別部は、前記一方側回転体の外面に外部から前記孔位置識別部に係止させた前記治具を係止可能とする形状で設けられていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、中間回転体の孔位置識別部と一方側回転体の凹部位置識別部は共に外部から位置合わせ用の治具を係止可能とする形状であるため、それらに外部から位置合わせ用の治具を係止させることが可能となる。したがって、こうした位置合わせ用の治具を係止させた状態で、一方側回転体及び他方側回転体の何れか一方を通常状態時とは逆方向へ回転させることにより、孔と凹部を復帰用の位置関係に維持しつつ、トルク伝達の遮断状態から通常状態への復帰作業を容易に行うことができる。
【0016】
上記過負荷保護装置において、前記孔位置識別部は、前記中間回転体の外面に前記一方側回転体との対向面まで延びる凹条又は凸条の形状で設けられ、前記凹部位置識別部は、前記凹条及び前記凸条のうち前記孔位置識別部と同じ形状にて前記一方側回転体の外面に前記中間回転体との対向面まで延びることにより前記孔位置識別部と繋がる形状で設けられていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、中間回転体の孔位置識別部と一方側回転体の凹部位置識別部とを予め設定された相対的位置関係に位置合わせしたとき、中間回転体の外面及び一方側回転体の外面には両回転体の対向面を跨いで延びる凹条又は凸条ができる。そのため、かかる両回転体の対向面を跨いで延びる凹条又は凸条に外部から治具を嵌め合わせることにより、中間回転体における孔の位置と一方側回転体における凹部の位置とを軸方向で対向させた状態に維持することができる。
【0018】
上記過負荷保護装置において、前記孔位置識別部と前記凹部位置識別部とは、前記相対的位置関係において前記軸方向で互いに対向した位置関係となるように設けられていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、中間回転体の孔位置識別部と一方側回転体の凹部位置識別部とが軸方向で対向する位置関係となるように、中間回転体及び一方側回転体の少なくとも一方を回転させれば、中間回転体の孔と一方側回転体の凹部が軸方向で対向する。したがって、中間回転体における孔の位置と一方側回転体における凹部の位置との復帰用の位置合わせが更に容易になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、トルクの伝達が遮断された状態からトルクが伝達される通常状態への復帰作業を迅速且つ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態の過負荷保護装置の斜視図。
図2図1に示す過負荷保護装置の半断面図。
図3】トルクを伝達可能な通常状態にある過負荷保護装置の他方側回転体を軸方向の一方側から第1球体及び第2球体を投影させた状態で見た場合の正面図。
図4】過負荷が発生した直後の過負荷保護装置の部分断面図。
図5図4における過負荷保護装置の他方側回転体を軸方向の一方側から第1球体及び第2球体を投影させた状態で見た場合の部分正面図。
図6】過負荷時でトルク伝達の遮断状態にある過負荷保護装置の部分断面図。
図7図6における過負荷保護装置の他方側回転体を軸方向の一方側から第1球体及び第2球体を投影させた状態で見た場合の部分正面図。
図8】トルク伝達の遮断状態から復帰させるときの過負荷保護装置の部分断面図。
図9図8における過負荷保護装置の他方側回転体を軸方向の一方側から第1球体及び第2球体を投影させた状態で見た場合の部分正面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、過負荷保護装置の一実施形態について図を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の過負荷保護装置11は、モータ等の駆動源や減速機等の被駆動装置の回転軸(図示略)にキー溝12aを介して連結された状態で軸線Pを中心に回転可能な略円筒状のハブ12を備えている。そして、このハブ12の外周には、それぞれが略同径のリング状をなす、中間回転体13と一方側回転体14と他方側回転体15とが、軸線Pを中心とする軸回りでの相対回転自在に設けられている。
【0023】
すなわち、このハブ12の軸方向の略中央位置には、センタプレートとも称される中間回転体13が配置されている。そして、この中間回転体13を軸方向の両側から挟んで、軸方向の一方側(図2では左方側)となる位置にはドライブプレートとも称される一方側回転体14が配置される一方、その軸方向の他方側(図2では右方側)となる位置にはスライドプレートとも称される他方側回転体15が配置されている。
【0024】
また、軸方向において他方側回転体15よりも更に他方側(図2では右方側)となる位置には、トルク調整ナット16がハブ12の外周に形成された雄ねじ部(図示略)に螺合した状態で、軸方向への位置調整が可能に配置されている。なお、以下の説明においては特に断らない限り、「軸方向の一方側」という場合は図2における左方側のことを示し、「軸方向の他方側」という場合は図2における右方側のことを示すものとする。
【0025】
また、中間回転体13の外面における周方向の複数箇所(例えば、120度間隔となる3箇所。但し、図1では1箇所のみ図示。)には、その中間回転体13における一方側回転体14との対向面と他方側回転体15との対向面との間を繋ぐように軸方向に沿って延びる直線状の凹条17が形成されている。同様に、一方側回転体14の外面における周方向の複数箇所(例えば、図1に示すような120度間隔となる3箇所。)には、その一方側回転体14における中間回転体13との対向面とその反対側となる一方側の面との間を繋ぐように軸方向に沿って延びる直線状の凹条18が形成されている。
【0026】
図1及び図2に示すように、中間回転体13の凹条17と一方側回転体14の凹条18は、互いに周方向に沿う開口幅が略同じの溝状に形成されている。そして、この凹条17と凹条18は、中間回転体13と一方側回転体14との相対回転に基づき軸方向で互いに対向した位置関係すなわち軸を中心とする周方向において予め設定された相対的位置関係となった場合には、中間回転体13と一方側回転体14との対向面を跨いで繋がる一つの凹溝19を形成するようになっている。また、この凹溝19には、図2に示すように、位置合わせ用の治具の一例である棒状部材20が外部から嵌め込み可能とされている。そして、この棒状部材20が凹溝19に嵌め合わされた状態では、中間回転体13と一方側回転体14とが互いに相対回転することが規制される。
【0027】
図2に示すように、ハブ12の外周面には鍔状をなすハブフランジ12bが突出形成され、このハブフランジ12bにおける軸方向での他方側には、ハブフランジ12bと略同径のリング状をなすニードルベアリング21がハブフランジ12bにおける軸方向の他方側の面と対向するように配置されている。そして、このニードルベアリング21における軸方向での他方側には、既述した中間回転体13がニードルベアリング21における軸方向の他方側の面と対向するように配置されている。すなわち、ハブ12の外周において、センタプレートとして機能する中間回転体13は、軸方向でハブフランジ12bとの間にニードルベアリング21を挟む態様にて、軸回りでの回転自在に配置されている。
【0028】
また、図2に示すように、トルク調整ナット16における軸方向の一方側の面には、軸線Pを中心とする周方向の複数箇所(例えば、45度間隔となる8箇所。)に、ばね収容穴22が形成されている。そして、各ばね収容穴22には、スライドプレートとして機能する他方側回転体15を中間回転体13が位置する軸方向の一方側に向けて付勢する付勢部材23が、蓄圧された状態で先端を他方側回転体15に突き当てた状態で収容されている。なお、付勢部材23は、一例として、圧縮コイルスプリングにより構成される。
【0029】
また、図2に示すように、他方側回転体15における軸方向の一方側の面には、内周面側に繋がる環状の段差部24が形成されている。そして、この段差部24には他方側回転体15よりも小径であって且つ他方側回転体15よりも軸方向の厚さが薄いバックアップリング25が収容されている。すなわち、バックアップリング25は、段差部24に収容された状態で、その軸方向の一方側の面が中間回転体13に接触する一方、その軸方向の他方側の面が他方側回転体15に接触する態様にて、段差部24に収容されている。
【0030】
また、図2に示すように、ハブ12の外周において、ドライブプレートとして機能する一方側回転体14は、ハブフランジ12bとニードルベアリング21の外周側に位置し、その軸方向の他方側の面が中間回転体13の軸方向の一方側の面と対向するように配置されている。また、ハブ12の外周面において、ハブフランジ12bよりも軸方向の一方側には、ボールベアリング26が、ワッシャ27を介在させた状態で止め輪28により組み付けられている。すなわち、一方側回転体14は、このボールベアリング26を介して、ハブ12の外周にて軸回りでの回転自在とされている。
【0031】
また、図2に示すように、一方側回転体14における軸方向の一方側の面には複数(図2には破線で1つのみ図示)のねじ穴14aが形成され、これらのねじ穴14aに螺合される取付ねじ(図示略)を利用して、一方側回転体14には駆動連結用アタッチメント(図示略)が固定されるようになっている。また、他方側回転体15の内周面には、軸方向に沿って延びるキー溝29が形成される一方、ハブ12の外周面には、このキー溝29に軸方向への摺動可能に嵌合するキー30が形成されている。すなわち、ハブ12の外周面のキー30に対して内周面のキー溝29を摺動自在に嵌合させることにより、他方側回転体15は、ハブ12と一体回転可能である一方、中間回転体13に対しては軸方向の他方側から対向した状態で、軸方向への移動自在に且つ軸回りでの回転自在とされている。
【0032】
また、図2に示すように、中間回転体13における外周寄りの部位には、中間回転体13を軸方向に貫通する孔31が形成されている。また、一方側回転体14における中間回転体13に軸方向の一方側から対向する面には、一方側回転体14と中間回転体13とが所定の相対角度の位置関係となったときに中間回転体13に貫通形成された孔31と軸方向で対向する凹部(以下、「一方側凹部」ともいう。)32が形成されている。また、他方側回転体15における中間回転体13に軸方向の他方側から対向する面には、他方側回転体15と中間回転体13とが所定の相対角度の位置関係となったときに中間回転体13に貫通形成された孔31と軸方向で対向する凹部(以下、「他方側凹部」ともいう。)33,33aが形成されている。なお、他方側凹部33,33aは、軸方向の深さが互いに異なる二種類の凹部、すなわち、軸方向の深さが相対的に浅い他方側凹部33と、軸方向の深さが相対的に深い他方側凹部33aとからなり、これらの浅い方の他方側凹部33と深い方の他方側凹部33aとが他方側回転体15の周方向に交互の配置となるように形成されている。
【0033】
中間回転体13の孔31には、例えば鋼球等で構成される第1球体34が、その一部を孔31から突出させるようにして収容保持されている。そして、運転停止時やトルクを伝達可能な通常状態時に、第1球体34において孔31から軸方向の一方側に突出した部分は、一方側回転体14に形成された一方側凹部32に係合する一方、第1球体34において孔31から軸方向の他方側に突出した部分は、他方側回転体15に形成された浅い方の他方側凹部33に係合するようになっている。
【0034】
また、図2に示すように、バックアップリング25には、このバックアップリング25を軸方向に貫通する保持孔35が形成されている。また、中間回転体13におけるバックアップリング25に軸方向の一方側から対向する面には、中間回転体13とバックアップリング25とが所定の相対角度の位置関係となったときにバックアップリング25に貫通形成された保持孔35と軸方向で対向する凹部(以下、「一方側保持凹部」ともいう。)36が形成されている。また、他方側回転体15におけるバックアップリング25に軸方向の他方側から対向する面には、他方側回転体15とバックアップリング25とが所定の相対角度の位置関係となったときにバックアップリング25に貫通形成された保持孔35と軸方向で対向する凹部(以下、「他方側保持凹部」ともいう。)37が形成されている。
【0035】
バックアップリング25の保持孔35には、例えば鋼球等で構成される第2球体38が、その一部を保持孔35から突出させるようにして収容保持されている。そして、運転停止時やトルクを伝達可能な通常状態時に、第2球体38において保持孔35から軸方向の一方側に突出した部分は、中間回転体13に形成された一方側保持凹部36に係合する一方、第2球体38において保持孔35から軸方向の他方側に突出した部分は、他方側回転体15に形成された他方側保持凹部37に係合するようになっている。
【0036】
図3に示すように、他方側回転体15における一方側の面には、回転中心となる軸線Pから他方側凹部33,33aの中心までの長さと略同じ長さを半径とする円弧溝39が形成されている。そして、この円弧溝39上における複数箇所(図3の場合は20度間隔となる18箇所)に前述した各他方側凹部33,33aは形成されている。図3に示すように、本実施形態では、複数(図3では9個)の第1球体34が、軸線Pを中心とする周方向において一つおきの他方側凹部(この場合は、浅い方の他方側凹部33)と係合する構成とされている。そのため、本実施形態の場合、中間回転体13には、これら複数(9個)の第1球体34を一つずつ収容保持可能な孔31が複数箇所(9箇所)に貫通形成される。
【0037】
また、図3に示すように、他方側回転体15の段差部24における一方側を向いた面には、回転中心となる軸線Pから他方側保持凹部37の中心までの長さと略同じ長さを半径とする円弧溝40が形成されている。そして、この円弧溝40上における複数箇所(図3の場合は10箇所)に他方側保持凹部37は形成されている。図3に示すように、本実施形態では、他方側保持凹部37の形成箇所数と同じ複数(図3では10個)の第2球体38が、各他方側保持凹部37と個別に係合する構成とされている。そのため、本実施形態の場合、バックアップリング25には、これら複数(10個)の第2球体38を収容保持可能な保持孔35が複数箇所(10箇所)に形成される。
【0038】
なお、図3は、図2の場合と同様に過負荷保護装置11が運転停止時又は通常状態時である場合の、第1球体34と各他方側凹部33,33aとの位置関係及び第2球体38と各他方側保持凹部37との位置関係を示すために、他方側回転体15の一方側の面の上に第1球体34と第2球体38を投影させて表示したものである。そして、この状態時には、図3に破線及び二点鎖線で示すように、他方側回転体15の外周面に形成された位置合わせ用穴15aと、中間回転体13の外周面に形成された凹条17と、一方側回転体14の外周面に形成された凹条18とが、軸線Pを中心とする周方向での位置が一致する。図3に示すように、本実施形態の場合、位置合わせ用穴15aと凹条17と凹条18とは、それぞれ軸線Pを中心とする周方向において120度間隔となる3箇所に形成される。
【0039】
また、図3に示すように、他方側回転体15の段差部24に形成された円弧溝40上の複数箇所(例えば、180度間隔となる2箇所)には、ピン部41が軸方向の一方側(図3では紙面と直交する方向の手前側)に向けて突設されている。これらのピン部41は、他方側回転体15の円弧溝40に沿う形状でもって、バックアップリング25の複数箇所(例えば90度間隔となる4箇所)に貫通形成された長孔42(図3に二点鎖線で図示)内に挿通されるものであり、点対称に位置する一対のピン部41は4つの長孔42のうち点対称に位置する2つの長孔42内に挿通されている。
【0040】
なお、残る2つの長孔42内には、中間回転体13の他方側の面の複数箇所(例えば、180度間隔となる2箇所)から軸方向の他方側に向けて突設されたピン部43(図3に二点鎖線で図示)が挿通される。これらのピン部41,43と長孔42は、他方側回転体15とバックアップリング25が相対回転する際の回転可能範囲及び中間回転体13とバックアップリング25が相対回転する際の回転可能範囲を規制するものである。
【0041】
次に、以上のように構成された過負荷保護装置11の作用について、適宜に図面を参照しながら説明する。
なお、前提として、この場合の過負荷保護装置11は、駆動源となるモータ(図示略)にハブ12が連結されると共に、ドライブプレートとなる一方側回転体14に駆動負荷となる被駆動装置(図示略)が連結されているものとする。また、通常時には図2図7に実線矢印で示すA方向に回転しつつトルクの伝達が行われ、トルクの遮断状態からの復帰時には図8及び図9に実線矢印で示すB方向に回転させられるものとする。そして、駆動負荷が大きくなった過負荷時には被駆動装置に連結された一方側回転体14の回転が停止されるものとする。
【0042】
さて、図2に示すように、過負荷保護装置11は、駆動負荷が過負荷ではない通常状態時には、一方側凹部32と浅い方の他方側凹部33とに係合した状態にある第1球体34を介してモータからのトルクを伝達する。すなわち、図2のA方向にハブ12が駆動回転すると、キー30にキー溝29を嵌合させた他方側回転体15も同方向に回転する。そして、この場合において、他方側回転体15は付勢部材23により軸方向の一方側へ付勢されているため、他方側回転体15の浅い方の他方側凹部33に係合した状態にある第1球体34は、一方側回転体14の一方側凹部32に圧接した係合状態を維持する。そのため、モータからハブ12と他方側回転体15と第1球体34を介して伝達されたトルクは、第1球体34から一方側回転体14へと伝達され、さらに、その一方側回転体14を介して被駆動装置へと伝達される。
【0043】
その一方、過負荷時には、図4図7に示す状態となってトルクの伝達が遮断される。
さて、過負荷が発生すると、中間回転体13と他方側回転体15(及びバックアップリング25)は回転を継続するが、一方側回転体14はその回転を停止させる。そのため、通常状態時には図3に示すように凹条17及び位置合わせ用穴15aの周方向での各位置を一方側回転体14の凹条18に一致させていた中間回転体13及び他方側回転体15が、一方側回転体14に対してA方向へそれぞれ相対回転する。
【0044】
まず、過負荷の発生直後、中間回転体13は、図5に示すように、凹条17が凹条18よりもA方向へ僅かに(例えば5度程度)位置ずれするように、一方側回転体14に対して相対回転する。そのため、中間回転体13の孔31に収容保持されている第1球体34も、中間回転体13の回転に従ってA方向に移動する。その結果、第1球体34は、一方側回転体14の一方側凹部32から軸方向の他方側へ抜け出ることになり、図4に示すように、他方側回転体15を付勢部材23の付勢力に抗して軸方向の他方側(すなわち、同図では右方側)に押し返す。なお、このとき第1球体34は、図5に示すように、他方側回転体15の一方側の面上において円弧溝39に沿って周方向へ転動し、それまで係合していた浅い方の他方側凹部33とその一つ隣の深い方の他方側凹部33との間の位置まで移動する。
【0045】
また、このときバックアップリング25も最初は他方側回転体15と共にA方向に回転するため、バックアップリング25の保持孔35に収容保持されている第2球体38も、バックアップリング25の回転に従ってA方向に移動する。その結果、第2球体38は、中間回転体13の一方側保持凹部36から軸方向の他方側へ抜け出る。なお、このとき第2球体38は、図5に示すように、他方側回転体15の一方側の面上において円弧溝40に沿って周方向へ転動し、それまで係合していた他方側保持凹部37から抜け出た直後の位置状態となる。
【0046】
そして、その状態では、図4及び図5に示すように、第2球体38は、他方側回転体15における円弧溝40に沿う位置にあって、未だ中間回転体13と他方側回転体15との互いに対向する面間に挟圧された状態にはなっていない。そのため、この状態では、第1球体34が、付勢部材23の付勢力に基づき他方側回転体15と一方側回転体14との間に挟圧された状態となる。そして、そのように他方側回転体15と一方側回転体14との間に挟圧された状態で第1球体34が転動することにより、他方側回転体15と一方側回転体14は周方向において互いに逆向きとなる方向へ回転する。その結果、図5に示すように、他方側回転体15は、位置合わせ用穴15aが凹条17よりもA方向へ僅かに(例えば5度程度)且つ凹条18よりはA方向へ更に(例えば10度程度)位置ずれするように、中間回転体13及び一方側回転体14の各々に対して相対回転する。
【0047】
そして、その状態から更に他方側回転体15がA方向へ回転すると、図6及び図7に示すように、第1球体34は、図3の通常状態時に係合していた他方側凹部33の一つ隣の深い方の他方側凹部33aに係合した状態となり、回転停止している一方側回転体14に対しては非接触の状態となる。また、第1球体34が深い方の他方側凹部33aに係合する(収容される)と同時に、他方側回転体15は、付勢部材23の付勢力により軸方向の一方側に移動する。すると、この他方側回転体15の一方側への移動によって、第2球体38が中間回転体13と他方側回転体15の対向面間に挟圧された状態となり、第1球体34は、付勢部材23の付勢力が及ばない状態で一方側回転体14に対する非接触の状態を維持する。そのため、回転停止している一方側回転体14に対して、他方側回転体15及び中間回転体13は空転するようになり、その結果、第1球体34を介したトルクの伝達が遮断される。なお、この空転時には、他方側回転体15及び中間回転体13において回転停止している一方側回転体14に対して摺動する部分というものがないので、例えばモータ直結の使用状態で空転を続けた場合でも、摩耗が生じるなどの不具合もない。
【0048】
なお、図7に示すように、このとき他方側回転体15はピン部41がバックアップリング25の長孔42の一端に係止すると共に、中間回転体13はピン部43がバックアップリング25の長孔42の他端に係止する。すなわち、他方側回転体15は、位置合わせ用穴15aが中間回転体13の凹条17よりもA方向へ少し(例えば20度程度)位置ずれするように中間回転体13に対して相対回転した状態で、中間回転体13と一緒に一方側回転体14に対する空転を続ける。
【0049】
また、この場合において、もしも中間回転体13がハブ12の外周に一体形成されると共に、他方側回転体15がハブ12に対してキー連結されていなくてハブ12に対しては回転自在な構成(以下、「比較構成」という。)とされている場合には、トルク伝達の遮断状態を得られない場合がある。すなわち、過負荷の発生に伴いトルク伝達の遮断状態を得るためには、第1球体34を孔31に保持する中間回転体13と、他方側凹部33,33aを有する他方側回転体15とを周方向において逆向きとなる方向へ回転させる必要がある。しかし、比較構成の場合には、第1球体34の転動が、回転自在とされている他方側回転体15に対する滑りに変化してしまい、相対的に深い他方側凹部33aに第1球体34を係合させられない虞があり、そうなると空転状態を得られなくなる。この点、本実施形態の場合は、他方側回転体15がハブ12と一体回転可能である一方、中間回転体13に対しては軸方向の他方側から対向した状態で、軸方向への移動自在に且つ軸回りでの回転自在とされているため、そのような不具合もない。
【0050】
また、第1球体34を収容保持する孔31は、中間回転体13に貫通形成される一方、第2球体38を収容保持する保持孔35は、中間回転体13とは別体構成のバックアップリング25に貫通形成されている。すなわち、中間回転体13やバックアップリング25という一つの回転体に対しては、複数種類の孔(この場合は、第1球体34用の孔31と第2球体38用の保持孔35)が混在して形成されることなく、単一種類の孔が貫通形成されている。そのため、孔が貫通形成されることによる回転体(中間回転体13、バックアップリング25)の強度の低下を抑制できると共に、複数種類の孔を径方向へ位置ずれさせて形成する必要もないので、スペース的制約でコンパクト化が阻害される懸念も低減できる。
【0051】
そして次に、このようなトルク伝達の遮断状態から再びトルクが伝達される通常状態へ復帰させるときには、次のような復帰作業が行われる。
まず、図8及び図9に示すように、ハブ12の回転を停止させた状態において、中間回転体13と一方側回転体14とを手動により相対回転させて、中間回転体13の凹条17と一方側回転体14の凹条18とを軸方向において対向するように一致させる。つまり、凹条17と凹条18とを予め設定した相対的位置関係にすることで、凹条17と凹条18とで、両回転体13,14の対向面を跨いで直線状に延びる凹溝19を形成させる。すると、外見からは視認できない中間回転体13における第1球体34を収容保持する孔31の位置と、同じく一方側回転体14における第1球体34を係合可能な一方側凹部32の位置とが、軸方向で対向した復帰用の位置関係となる。
【0052】
その結果、この過負荷保護装置11の使用者は、凹条17と凹条18とを位置合わせして形成された凹溝19を視認することにより、外見からは視認できない中間回転体13の孔31の位置と一方側回転体14の一方側凹部32の位置とが、軸方向で対向した復帰用の位置関係となったことを識別できる。この点で、凹条17と凹条18は、中間回転体13の孔31と一方側回転体14の一方側凹部32とが軸方向で対向する復帰用の位置関係となった場合に、当該位置関係になったことを外見上で識別可能とさせる識別部(孔位置識別部、凹部位置識別部)として機能する。
【0053】
そして次に、図8及び図9に示すように、凹条17と凹条18とが連なって形成された凹溝19に棒状部材20を嵌め込み、孔31と一方側凹部32とが軸方向で対向した状態での中間回転体13と一方側回転体14との相対回転を規制する。そして、その状態で、図8及び図9におけるB方向にハブ12を回転させる。つまり、図2及び図3の通常状態時とは逆方向に、他方側回転体15をハブ12と共に回転させる。なお、このとき、他方側回転体15は、中間回転体13に対して第2球体38を介して付勢部材23の付勢力を及ぼしている状態にあるが、この回転時には第2球体38が中間回転体13に対して転動すると共に、ハブ12と中間回転体13の間のニードルベアリング21も中間回転体13に対して転動する。そのため、大きな負荷なく簡単に手で他方側回転体15をハブ12と共に回転させることができ、迅速且つ容易な復帰作業を実現できる。
【0054】
そして、そのように他方側回転体15を回転させると、第2球体38が、周方向において過負荷発生時とは逆方向へ円弧溝40に沿って移動し、中間回転体13の一方側保持凹部36と他方側回転体15の他方側保持凹部37との間に係合した状態になる。そのため、第2球体38は、それまでの中間回転体13と他方側回転体15との間に挟圧されて付勢部材23の付勢力を受け止めていた状態が解除される。すると、付勢部材23の付勢力により他方側回転体15が軸方向の一方側へ押圧されて移動し、第1球体34を一方側回転体14に向けて押圧する。
【0055】
このとき、他方側回転体15は、ハブ12と共にB方向へ回転したことにより、一方側の面における相対的に浅い方の他方側凹部33が中間回転体13の孔31と軸方向で対向するようになる。すると、第1球体34は、その第1球体34を収容保持する中間回転体13の孔31と一方側回転体14の一方側凹部32とが軸方向で対向しているため、他方側回転体15による押圧を受けて、一方側凹部32に係合するようになる。その結果、第1球体34は図2に示すように付勢部材23の付勢力により一方側回転体14の一方側凹部32と他方側回転体15の相対的に浅い方の他方側凹部33との間に挟圧された状態となり、トルク伝達が可能な通常状態に復帰する。
【0056】
上記の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)トルク伝達の遮断状態において、中間回転体13と一方側回転体14が相対回転することにより、第1球体34を保持した孔31の位置と第1球体34を係合可能な一方側凹部32の位置とが周方向に位置ずれしていることがある。しかし、そのように位置ずれしていたとしても、中間回転体13と一方側回転体14とに設けられた凹条17と凹条18を利用して、孔31と一方側凹部32が軸方向で対向した復帰用の位置関係となるように、迅速且つ容易に位置合わせすることが可能になる。したがって、トルクの伝達が遮断された状態からトルクが伝達される通常状態への復帰作業を迅速且つ容易に行うことができる。
【0057】
(2)中間回転体13には孔位置識別部としての凹条17が設けられると共に、一方側回転体14には凹部位置識別部としての凹条18が設けられている。そのため、この凹条17と凹条18とが予め設定された相対的位置関係となるように、中間回転体13及び一方側回転体14の少なくとも一方を回転させることにより、中間回転体13における孔31の位置と一方側回転体14における一方側凹部32の位置とを復帰用の位置関係に簡単にできる。
【0058】
(3)中間回転体13の孔位置識別部としての凹条17と一方側回転体14の凹部位置識別部としての凹条18は共に凹凸を有する形状であるため、それらに外部から位置合わせ用の治具としての棒状部材20を係止させることが可能となる。したがって、こうした位置合わせ用の治具としての棒状部材20を係止させた状態で、他方側回転体15を通常状態時とは逆方向へ回転させることにより、孔31と一方側凹部32を復帰用の位置関係に維持しつつ、トルク伝達の遮断状態から通常状態への復帰作業を容易に行うことができる。
【0059】
(4)中間回転体13の孔位置識別部としての凹条17と一方側回転体14の凹部位置識別部としての凹条18とを予め設定された相対的位置関係に位置合わせしたとき、中間回転体13の外面及び一方側回転体14の外面には両回転体13,14の対向面を跨いで延びる凹条の一種である凹溝19ができる。そのため、かかる両回転体13,14の対向面を跨いで延びる凹溝19に外部から治具としての棒状部材20を嵌め合わせることにより、中間回転体13における孔31の位置と一方側回転体14における一方側凹部32の位置とを軸方向で対向させた状態に維持することができる。
【0060】
(5)中間回転体13の孔位置識別部としての凹条17と一方側回転体14の凹部位置識別部としての凹条18とが軸方向で対向する位置関係となるように、中間回転体13及び一方側回転体14の少なくとも一方を回転させれば、中間回転体13の孔31と一方側回転体14の一方側凹部32が軸方向で対向する。したがって、中間回転体13における孔31の位置と一方側回転体14における一方側凹部32の位置との復帰用の位置合わせが更に容易になる。
【0061】
なお、上記の実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、中間回転体13の孔位置識別部(凹条17)と一方側回転体14の凹部位置識別部(凹条18)との予め設定された相対的位置関係は、軸方向で対向する位置関係でなくてもよい。要するに、その外見上において孔位置識別部(凹条17)と凹部位置識別部(凹条18)との位置関係が、外部からは視認できない孔31と一方側凹部32とが軸方向で対向した復帰用の位置関係にあると識別可能なものであればよい。例えば、周方向へ予め設定した距離分だけ位置ずれした位置関係を相対的位置関係としてもよい。
【0062】
・上記実施形態において、孔位置識別部としての凹条17と凹部位置識別部としての凹条18は、中間回転体13と一方側回転体14との対向面まで延びていなくてもよい。例えば、各回転体13,14の外周面において、各々の一方側の面と他方側の面との間を繋がない短い凹条であってもよい。
【0063】
・上記実施形態において、孔位置識別部及び凹部位置識別部は、凹条ではなく凸条にて構成してもよい。要するに、治具を係止可能な凹凸を有する形状であればよい。したがって、凹条や凸条に限らず、単なる穴のような凹部や突起のような凸部であってもよい。
【0064】
・上記実施形態において、孔位置識別部及び凹部位置識別部は、中間回転体13及び一方側回転体14の外周面ではなく、外部から視認可能な箇所であれば、軸方向と直交する外面部分であってもよい。例えば、中間回転体13の場合、その外径を一方側回転体14よりも大径にすれば、その中間回転体13の外周面ではなく軸方向と直交する外面部分に孔位置識別部を設けることができる。
【0065】
・上記実施形態において、孔位置識別部及び凹部位置識別部は、凹条17,18などの凹凸を有する形状にかぎらず、外見上で視認できるものならば、マーク表示や色表示などの平面的な表記によって設けてもよい。
【0066】
・上記実施形態において、中間回転体13と一方側回転体14を手動で相対回転させて孔位置識別部と凹部位置識別部を予め設定した相対的位置関係とする際、中間回転体13と一方側回転体14とは、その両方を相互に回転させてもよいし、何れか一方だけを回転させてもよい。
【0067】
・上記実施形態において、トルク伝達の遮断状態から通常状態へ復帰させるべく孔位置識別部と凹部位置識別部を予め設定した相対的位置関係にした状態で、他方側回転体15を通常状態時とは逆方向に回転させる代りに、一方側回転体14の方を図8のB方向とは反対方向に回転させてもよい。
【0068】
・上記実施形態において、他方側回転体における他方側凹部33,33aは、深い方の他方側凹部33aだけでもよい。すなわち、図3の通常状態時に第1球体34は他方側回転体15における一方側の面に接触する構成でもよい。このように構成した場合も、過負荷が発生したとき、深い他方側凹部33aに係合した第1球体34は、回転停止している一方側回転体14から離れた状態を取りやすくなるため、空転時に第1球体34が一方側回転体14の一方側凹部32と小刻みに当たるようなことが抑制される。
【符号の説明】
【0069】
11…過負荷保護装置、13…中間回転体、14…一方側回転体、15…他方側回転体、17…凹条(識別部、孔位置識別部)、18…凹条(識別部、凹部位置識別部)、19…凹溝(識別部)、23…付勢部材、31…孔、32…一方側凹部(凹部)、34…第1球体、38…第2球体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9