(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
上記多層体は、好ましくはポリカーボネートまたはポリカーボネートブレンドから製造される。ポリカーボネートブレンドは、更なるポリマー、例えばエラストマーまたはグラフトポリマー、或いは更なる熱可塑性樹脂、例えばポリエステルを含んでもよい。
【0003】
本発明は、更に、自動車部品用のパネルまたはマルチメディアケース用フレーム部品としての、本発明による上記多層体の使用に関する。
【0004】
これまで、ガラスのような外観によって特徴付けられるポリカーボネートから形成された多層システム、特に多層プラスチック成形品はなかった。これらの多層体は、特に自動車の外装部品に好適である。そのような多層体は、優れた表面性状、深みのある光沢効果、および優れた耐候性を有していなければならない。用途には、とりわけガラス窓、例えばサンルーフ用のフレーム部品が挙げられる。自動車の耐用年数が長いため、そのような材料の所望の高品質な色彩印象、ここでは特に黒色の深みのある光沢効果を自動車の耐用寿命期間にわたって、明らかな低下なしに維持することは、特に高級車の分野で重要である。
【0005】
このような多層体は、例えば、自動車分野で用いられるガラスなどのような従来の材料に比べて多くの利点を有する。このような利点には、例えば、自動車の場合、交通事故が起こった時に乗員のより高い安全性を可能とする、向上した破壊抵抗性および/または軽量化、並びに低燃費が含まれる。最後に、熱可塑性ポリマーを含む材料は、成形が容易であるため、設計の自由度が実質的により大きくなる。
【0006】
自動車、鉄道車両、航空機分野およびインフラ分野で使用される外装部品は、また、長い耐用年数を有していなければならず、その間、脆化してはならない。更に、上記部品の耐用期間にわたって、色および光沢効果はほとんど変化してはならない。加えて、熱可塑性樹脂部品は、十分な耐引っかき性を有するべきである。
【0007】
要求される長い耐用年数、並びに提供される優れた表面性状および深みのある光沢効果を考慮して、多くの場合、材料としてガラスが使用される。ガラスは、長期間にわたって、紫外線の悪影響を受けず、引っかきに対して抵抗性を有しており、その機械的特性が変化しない。例えば、酸化鉄等の無機酸化物が顔料として使用されるため、色特性も、実際に長期間にわたって変化しない。しかしながら、熱可塑性材料におけるこのような顔料の使用は、マトリックスの劣化につながるため、不可能である。
【0008】
それでも、プラスチックの前述の利点により、熱可塑性樹脂の良好な物理的特性、並びに対応する黒色ガラスの優れた表面性状および所望の深みのある光沢効果の両方を提供する材料が求められている。
【0009】
透明な熱可塑性樹脂の中でも、例えばポリカーボネートおよびポリメチルメタクリレート(PMMA)をベースとするポリマーは、自動車用外装部品としての使用に特に適している。高い靱性のために、特にポリカーボネートは、そのような用途にとって非常に良好な特性を有する。
【0010】
熱可塑性材料の耐用年数を向上させるために、紫外線保護コーティングおよび/または耐引っかき性コーティングを追加することが知られている。また、高い光堅牢性を有する多くの着色剤が知られている。
【0011】
しかしながら、従来技術で挙げられた熱可塑性樹脂組成物は、優れた表面性状、非常に深みのある光沢効果およびピアノ塗料外観と共に非常に高い耐候性を要求される場合に、適さないことがわかった。従来技術には、特に外装用途のピアノ塗料のような表面を有する漆黒の構成部品用としての可能な解決策は何も記載されていない。
【0012】
従来技術では、黒色または暗色の外装部品は、多くの場合、所望の黒色効果を得るために、カーボンブラックで着色されている。しかしながら、表面欠陥につながる可能性があるためカーボンブラックの使用には問題がある。ナノスケールカーボンブラックは、小さい粒径のために、実際には表面に悪影響を与えないはずであるが、非常に容易に凝集塊を形成し、凝集塊が表面欠陥につながる。このような表面欠陥は、肉眼で認識することができる。更に、このような表面欠陥は、次の工程のコーティングの欠陥部位を構成するので、塗料は、耐候試験下で、このような部位で、層間剥離、割れなどを生じる傾向がある。そのため、できるだけ欠陥の少ない優れた表面性状が、光学的理由および技術的理由の両方から非常に有利である。カーボンブラックを熱可塑性樹脂マトリックス中に分散体の形態で導入する試みもしばしば行われている。しかしながら、無機粒子を分散体内に保持するために、このような分散剤は多くの場合、官能化されており、官能基は熱可塑性樹脂マトリックス、特にポリカーボネートマトリックスを損傷するので、望ましくない。
【0013】
カーボンブラックを着色剤として用いると、射出成形品は、多くの場合、深みのある光沢効果を有さず、その代わりに曇って見え、ある場合には炭素の吸収スペクトルのため、わずかに黄色がかって見える。対照的に、非常に低いカーボンブラック濃度では、深みのある黒色効果がなくなる。
【0014】
高光沢表面はまた、ナノスケールまたは微粒子のカーボン改質体、例えば特許文献1に記載されたカーボンナノチューブ、または特許文献2に記載されたグラファイトを用いて達成することができる。しかしながら、棒状または板状の粒子は、射出成形部品に望ましくない表面粗さを与える。
【0015】
カーボンブラックまたは他のカーボン改質体に関係する前述のような欠点を回避するため、高い表面光沢、ある種のピアノ塗料外観を達成するために、多くの場合、可溶性染料を用いる。しかしながら、この方法の欠点は、染料を比較的高濃度で使用しなければならないということである。これは、染料が塗料溶媒の故に容易に成形部品の表面から浸出する高濃度で存在するので、塗装方法において問題を生じる。これは、塗料溶液を徐々に着色する。工業的塗装方法においては、多くの場合、塗料溶液の節約のために、塗料溶液は循環される。しかしながら、成形部品は着色された塗料溶液で徐々に塗装されるため、望ましくない。塗料は、深みのある光沢外観に悪影響を与えないように、無色のままでなければならない。更に、大規模な工業用塗装ラインにおいては、異なる部品を同様の塗料溶液を用いて塗装する。これによって、必然的に、特に透明部品または特殊な色の部品に問題を引き起こす。この点で、まだ透明度を有し、低着色であるがなお暗色、例えばプライバシー(目隠し)塗料においては、かなり低い染料濃度を用いることに注目すべきである。そのような場合、プラスチック表面のブリードは、塗装溶液を着色する原因とはならない。有機染料を使用する更なる不都合は、紫外線照射による褪色であり、時間が経過すると色彩の印象が変化することである。染料も使用する自動車外装部品に用いられる色設定が、例えば特許文献3に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の多層体は、
(1)以下の成分(1.1)〜(1.8)を含む、光透過率1.0%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.2%未満、最も好ましくは0.1%未満、特に好ましくは0.0%を有するベース層、
(2)ポリシロキサン系耐引っかき性コーティング、および
(3)任意の少なくとも1つの接着促進層
を含む。
【0027】
(1)ベース層
(1.1)少なくとも1つの熱可塑性樹脂、好ましくはポリカーボネート、より好ましくはISO 1133(300℃および1.2kg負荷)に準拠したメルト体積流量率(i)6〜25cm
3/10分、(ii)好ましくは9〜21cm
3/10分を有するポリカーボネート。
(1.2)以下の構造、
構造(1a)、(1b):
【化1】
(式中、RaおよびRbは互いに独立して直鎖状または分岐状アルキル基、またはハロゲン、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、テキシル、またはCl、より好ましくは、メチル、Cl、特に好ましくはClを表し、
nはR毎に独立して、0〜3の自然数を表し、n=0の場合、上記基は水素である。)
構造(2a)および(2b)
【化2】
(式中、RcおよびRdは互いに独立して直鎖状または分岐状アルキル基、またはハロゲン、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、テキシル、またはCl、より好ましくは、メチル、Cl、特に好ましくはClを表し、
nはR毎に独立して、0〜3の自然数を表し、n=0の場合、上記基は水素である。)
から成る群から選択される少なくとも1つの着色剤。
【0028】
構造(1a)および(1b)について
好ましい態様では、Raおよび/またはRbは、Clであり、アミン官能基を有する炭素原子のオルト位および/またはパラ位に配置される。更に、好ましい態様では、RaおよびRbはそれぞれ、好ましくは窒素官能基を有する炭素原子のメタ位に配置されたtert‐ブチル基を表す。
【0029】
特に好ましい態様では、すべてのRaおよびRbがHであるように、すべての環においてn=0である。
【0030】
構造(2a)および(2b)について
好ましい態様では、Rcおよび/またはRdはClであり、例えばジ‐オルソ−クロロナフタレノ、ジ‐オルソ、モノ‐パラ‐クロロナフタレノおよびモノ‐オルソ−ナフタレノなどの、アミン官能基を有する炭素原子のオルト位および/またはパラ位に配置される。更に、好ましい態様では、RcおよびRdはそれぞれ、好ましくは窒素官能基を有
する炭素原子のメタ位に配置されたtert‐ブチル基を表す。
【0031】
特に好ましい態様では、すべてのRcおよびRdがHであるように、すべての環においてn=0である。
【0032】
構造(1a)、(1b)、(2a)および(2b)について
構造(1a)、(1b)、(2a)および(2b)は、互いに異性体である。それぞれの異性体は、単独または混合物で用いることができる。1つの特定の態様では、(1a)および(1b)または(2a)および(2b)の異性体の1:1混合物(異性体混合物中の異性体の量(重量%)に対して)を用いる。
【0033】
そのような着色剤の製造は、例えば独国特許第2148101号明細書および国際公開第2009/74504号パンフレットに記載されている。
【0034】
更なる態様では、構造(1a)、(1b)、(2a)および(2b)はそれぞれ、純粋な異性体として用いられ、そのような純粋な異性体は例えば、分取HPLCによって得ることができる。
【0035】
特定の態様では、構造(1a)、(1b)、(2a)および(2b)の着色剤の組み合わせを用いる。
【0036】
好ましくは、このような組み合わせは、濃度0.01〜0.50重量%、好ましくは0.02〜0.30重量%、特に好ましくは0.03〜0.25重量%で用いられる。
【0037】
構造(1a)、(1b)、(2a)および(2b)の着色剤を個々に用いる場合、このような着色剤はそれぞれ、濃度0.05〜0.50重量%、好ましくは0.10〜0.30重量%で用いられる。
【0038】
(1.3)0.03重量%未満、好ましくは0.025重量%未満、より好ましくは0.02重量%未満の濃度の、任意のナノスケールカーボンブラック。
【0039】
上記組成物は、特に好ましくはカーボンブラックを含有しない。
【0040】
(1.4)以下の構造(3)〜(7)並びに(8a)および(8b)から成る群から選択される任意の1つ以上の着色剤。
構造(3)
【化3】
(式中、Rは、Hおよびp‐メチルフェニルアミン基から成る群から選択され;好ましくはRはHである。)
【0041】
そのような着色剤は、例えばLanxess社から商品名Macrolex(登録商標) Violet Bで入手可能である。特に好ましい態様では、構造(3)の着色剤を使用しない。
【0042】
構造(4)
【化4】
(式中、R3は好ましくはハロゲン、特に好ましくはClを表し、特に好ましくはn=4である。n=0およびR3=Hの態様がより好ましい。)
【0043】
そのような着色剤は、例えばLanxess社から商品名Macrolex(登録商標) Orange 3GまたはMacrolex(登録商標) Red EGで入手可能である。
【0044】
R3はClを表し、n=4の場合には、構造(4)の着色剤の代わりに、同様の色彩特性を達成するために、
i.構造(5)
【化5】
の着色剤を用いることができる。
【0045】
そのような着色剤は、例えばLanxess社から商品名Macrolex(登録商標) Red E2Gで入手可能である。
【0046】
ii.構造(6)
【化6】
(式中、RxおよびRyは分岐状または直鎖状アルキル基を表す。特に直鎖状または分岐状C1〜C12アルキル基、特に好ましくはメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソプロピル、イソブチル、tert‐ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基、より好ましくは、n−ブチル、tert‐ブチルおよびメチルである。そのような着色剤は、例えばLanxess社から商品名Macrolex(登録商標) Green G(例えば、CAS番号28198−05−2、4851−50−7)で入手可能である。)
【0047】
本発明において、表示「C(数)」(例えばC1、C12)は、隣接する(数)に対応する鎖長を有する炭素鎖を表し、構造異性体を含む。
【0048】
iii.構造(7)
【化7】
(式中、R1およびR2は互いに独立して直鎖状または分岐状アルキル基、またはハロゲン、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、テキシル、またはCl、より好ましくは、メチル、Cl、特に好ましくはClを表し、
nは、0〜4の自然数を表す。)
【0049】
特に好ましい態様では、すべてのR1およびR2がHであるように、すべての環においてn=0である。
【0050】
この構造(7)の着色剤は、BASF社から「Paliogen Blue」シリーズで市販されている。
【0051】
構造(7)の着色剤を使用する場合、特に(DIN ISO 787−11に準拠して測定される)嵩体積2〜10L/kg、好ましくは3〜8L/kg、(DIN 66132に準拠して測定される)比表面積5〜60m
2/g、好ましくは10〜55m
2/g、および(DIN ISO 787−9に準拠して測定される)pH4〜9を有する顔料が好ましい。
【0052】
iv.構造(8a)および(8b)
【化8】
【0053】
(上記基R5〜R20はそれぞれ互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、テキシル、フッ素、塩素、臭素、スルホン、CNである。)
【0054】
R5〜R20は、好ましくはすべての位置で同一である。R5〜R20は、より好ましくはすべての位置でHである。別の態様では、R5〜R20は、すべての位置でClである。
【0055】
Mは、好ましくはアルミニウム(R=Hの場合:アルミニウムフタロシアニン、CAS:14154−42−8)、ニッケル(R=Hの場合:ニッケルフタロシアニン、CAS:14055−02−8)、コバルト(R=Hの場合:コバルトフタロシアニン、CAS:3317−67−7)、鉄(R=Hの場合:鉄フタロシアニン、CAS:132−16−1)、亜鉛(R=Hの場合:亜鉛フタロシアニン、CAS:14320−04−08)、銅(R=Hの場合:銅フタロシアニン、CAS:147−14−8;R=HおよびClの場合:ポリクロロ銅フタロシアニン、CAS:1328−53−6;R=Clの場合:ヘキサデカクロロフタロシアニン、CAS:28888−81−5;R=Brの場合:ヘキサデカブロモフタロシアニン、CAS:28746−04−5)およびマンガン(R=Hの場合:マンガンフタロシアニン、CAS:14325−24−7)である。
【0056】
M=Cuと全ての位置についてR=Hとの組み合わせが特に好ましい。このように、M=CuおよびR5〜R20=Hである構造(8b)の化合物は、LudwigshafenのBASF社からHeliogen(登録商標) Blue K 6911DまたはHeliogen(登録商標) Blue K 7104KWとして入手可能である。
【0057】
構造(8a)の化合物は、LudwigshafenのBASF社から、例えば、Heliogen(登録商標) Blue L 7460として入手可能である。
【0058】
このような着色剤は、個々の成分に対して、0.001〜0.050重量%の量で使用することができる。このような着色剤は、好ましくは、着色剤(1a)および(1b)または(2a)および(2b)よりも低い濃度で使用される。
【0059】
より好ましくは、上記着色剤を使用することによって、塗料溶液の著しい着色を引き起こさない、即ち、室温で270分の抽出時間の後に測定され、顆粒について測定された、塗料溶液の測定した色の変化(ASTM E313に従って、色座標(CIE)を測定することによって、光タイプD65および10°標準観測器について測定され、計算された黄色度指数(YI))は、|15|(値15)未満である。
【0060】
(1.5)離型剤の合計量に対して、0.0〜1.0重量%、好ましくは0.01〜0.50重量%、より好ましくは0.01〜0.40重量%の任意の1つ以上の離型剤。
【0061】
(1.6)紫外線吸収剤の合計量に対して、0.0〜20.00重量%、好ましくは0.05〜10.00重量%、より好ましくは0.10〜1.00重量%、さらにより好ましくは0.10〜0.50重量%、最も好ましくは0.10〜0.30重量%の任意の少なくとも1つの紫外線吸収剤。
【0062】
(1.7)好ましくはホスフィン、ホスフィットおよびフェノール系酸化防止剤、並びにそれらの混合物から成る群から選択され、熱安定剤または加工安定剤の合計量に対して、0.00〜0.20重量%、好ましくは0.01〜0.10重量%の1つ以上の熱安定剤または加工安定剤。本発明の特定の態様では、0.01〜0.05重量%、好ましくは0.015〜0.040重量%の熱安定剤または加工安定剤が用いられる。
【0063】
(1.8)添加剤の合計量に対して、0.0〜5.0重量%、好ましくは0.01〜1.00重量%の任意の1つ以上の更なる添加剤。
【0064】
前述の量は、それぞれの場合に、ベース層の総ポリマー組成物に対するものであり、熱可塑性樹脂の量を合わせて100%となる。
【0065】
特に好ましい態様では、上記ベース層は、前述の成分のみから構成されている。
【0066】
(2)ベース層の少なくとも片面に形成された、(i)少なくとも1つの紫外線吸収剤を含有し、(ii)厚さ2〜15μm、特に好ましくは4.0〜12.0μmを有するポリシロキサン系耐引っかき性コーティング。
【0067】
(3)(i)紫外線安定剤を含有し、(ii)プライマー層の厚さが0.3〜8μm、特に好ましくは1.1〜4.0μmであり、ベース層と耐引っかき性層の間の前記ベース層上に配置された、任意の少なくとも1つの接着促進層(プライマー層)。
【0068】
さらに好ましい態様では、接着促進層および耐引っかき性層は、ベース層の両面に塗布される。
【0069】
深みのある外観は、本発明の染料の組み合わせを含有する基材層を含み、特定の厚さを有するプライマー層およびポリシロキサン塗料の耐引っかき性層を有する多層体によって達成される。これらの構成成分および特性の組み合わせによってのみ、そのような効果を達成することが可能になる。
【0070】
上記ベース層の熱可塑性成分(1.1)は、熱可塑性樹脂、好ましくは透明熱可塑性ポリマー、より好ましくはポリカーボネート、コポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリスチレン、スチレン共重合体、芳香族ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、PET−シクロヘキサンジメタノール共重合体(PETG)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT);環状ポリオレフィン;ポリアクリレートまたはコポリアクリレートおよびポリメタクリレートまたはコポリメタクリレート(例えばPMMA);透明ポリスチレンアクリロニトリル(PSAN)などのスチレンの共重合体;熱可塑性ポリウレタン、環状オレフィンをベースとしたポリマー[例えば、Ticona社の市販品TOPAS(登録商標)]、より好ましくはポリカーボネート、コポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、芳香族ポリエステルまたはポリメチルメタクリレート、或いは前述の成分の混合物、特に好ましくはポリカーボネートおよびコポリカーボネートを含み、上記透明熱可塑性ポリマーはすべての他の成分と合わせて100重量%となる量で添加される。
【0071】
特に相互に透明に混和することができる場合には、複数の透明熱可塑性ポリマーの混合物も用いることができ、特定の態様において、ポリカーボネートのPMMA(より好ましくはPMMA<2重量%)またはポリエステルとの混合物が好ましい。
【0072】
本発明のプラスチック組成物の製造に適したポリカーボネートは、全ての既知のポリカーボネートである。これらは、ホモポリカーボネート、コポリカーボネートおよび熱可塑性ポリエステルカーボネートである。
【0073】
ゴム変性ビニル(コ)ポリマーおよび/または更なるエラストマーもブレンド成分として好適である。
【0074】
好適なポリカーボネートは、好ましくは、ポリカーボネート較正を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した、平均分子量Mw10,000〜50,000、好ましくは14,000〜40,000、特に好ましくは16,000〜32,000を有する。上記ポリカーボネートは、好ましくは、文献に様々に記載された、界面重縮合法または溶融エステル交換法によって製造される。
【0075】
界面重縮合法に関して、例として、H.Schnell、“Chemistry and Physics of Polycarbonates”、Polymer Reviews、第9巻、Interscience Publishers、ニューヨーク 1964年、第33頁以降;Polymer Reviews、第10巻、“Condensation Polymers by Interfacial and Solution Methods”、Paul W. Morgan、Interscience Publishers、ニューヨーク 1965年、第VIII章、第325頁;Dres.U.Grigo、K.Kircher、P.R−Muller、“Polycarbonate”、in Becker/Braun, Kunststoff−Handbuch,第3/1巻、Polycarbonate、Polyacetale、Polyester、Celluloseester、Carl Hanser Verlag、ミュンヘン、ウィーン 1992年、第118〜145頁;および欧州特許出願公開第0 517 044 A1号明細書;を参照する。
【0076】
溶融エステル交換法は、例えば、“Encyclopedia of Polymer Science”、第10巻(1969年)、“Chemistry and Physics of Polycarbonates”、Polymer Reviews、H.Schnell、第9巻、John Wiley and Sons, Inc.(1964年);並びに独国特許第10 31 512号明細書および米国特許第6 228 973号明細書に記載されている。
【0077】
ポリカーボネートは、好ましくは、炭酸化合物、特にホスゲン、或いは溶融エステル交換法の場合にはジフェニルカーボネートまたはジメチルカーボネートとビスフェノール化合物の反応によって製造される。
【0078】
ビスフェノールAをベースとしたホモポリカーボネート並びにモノマーとしてビスフェノールAおよび1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)‐3,3,5‐トリメチルシクロヘキサンをベースとしたコポリカーボネートが特に好ましい。
【0079】
ポリカーボネートの合成に使用するのに好適な、これらおよび他のビスフェノールまたはジオール化合物が、特に、国際公開第2008/37364号パンフレット(第7頁、第21行〜第10頁第5行)、欧州特許出願公開第1 582 549号明細書([0018]〜[0034]]、国際公開第2002/26862号パンフレット(第2頁、第20行〜第5頁第14行)、国際公開第2005/113639号パンフレット(第2頁、第1行〜第7頁、第20行)に記載されている。
【0080】
上記ポリカーボネートは、直鎖状または分岐状であってもよい。分岐および非分岐ポリカーボネートの混合物を用いることもできる。
【0081】
ポリカーボネートに好適な分岐剤は、文献から公知であり、例えば米国特許第4 185 009号明細書および独国特許出願公開第25 00 092号明細書に記載されており[本発明の3,3‐ビス‐(4‐ヒドロキシアリール‐オキシインドール)、各文献中の文書全体を参照]、独国特許出願公開第42 40 313号明細書(第3頁、第33〜55行を参照)、独国特許出願公開第19 943 642号明細書(第5頁、第25〜34行を参照)、米国特許第5 367 044号明細書、並びにそれらの中で引用された文献に記載されている。
【0082】
更に、使用されるポリカーボネートはまた本質的に分岐させることができ、その場合、ポリカーボネートの製造において分岐剤は添加されない。溶融ポリカーボネートに関する欧州特許出願公開第1 506 249号明細書に開示されているように、いわゆるFries構造は、本質的な分岐の1つの例である。
【0083】
連鎖停止剤を、ポリカーボネートの製造に使用することもできる。連鎖停止剤として、フェノールなどのフェノール類、クレゾールおよび4‐tert‐ブチルフェノールなどのアルキルフェノール類、クロロフェノール、ブロモフェノール、クミルフェノールまたはそれらの混合物が好ましくは用いられる。
【0084】
ベース層の成分(1.3)
カーボンブラックは、好ましくは、官能基を有する分散剤を使用することなく、有機ポリマーマトリックス中に微細分散される。好適なカーボンブラックは、平均粒度好ましくは100nm未満、より好ましくは75nm未満、更により好ましくは50nm未満、および特に好ましくは40nm未満を有し、上記平均粒度は好ましくは0.5nmを
超え、より好ましくは1nmを超え、および特に好ましくは5nmを超える。
【0085】
導電性をほとんど有さない、本発明の目的にとって好適なカーボンブラックは、導電性カーボンブラックとは異なる。本発明において用いられるカーボンブラックと比較すると、導電性カーボンブラックは高電導性を達成するために、特殊な組織形態およびスーパーストラクチャーを有する。これに対して、本発明で用いられるナノスケールのカーボンブラックは熱可塑性樹脂中に非常に良好に分散することができ、実際に導電性をもたらすことができるカーボンブラックの連続領域を生じない。
【0086】
市販されており、本発明の目的にとって好適なカーボンブラックは、多数の商品名により、かつペレットまたは粉末など多数の形態で入手可能である。例えば、好適なカーボンブラックが、商品名BLACK PEARLS(登録商標)で入手可能であり、湿式法ペレットの形態では商品名ELFTEX(登録商標)、REGAL(登録商標)およびCSX(登録商標)で入手可能であり、フレーク状形態では商品名MONARCH(登録商標)、ELFTEX(登録商標)、REGAL(登録商標)およびMOGUL(登録商標)で入手可能であり、すべてCabot Corporationから入手可能である。
【0087】
特に好ましい態様では、上記種類のカーボンブラックは、10〜30nmの粒度および好ましくは35〜138m
2/gの表面積を有する。カーボンブラックは処理されていても未処理であってもよく、従ってカーボンブラックは例えば、特定のガス、シリカまたはブチルリチウムなどの有機物質を用いて処理することができる。この種の処理によって、表面を変性または官能化することができる。これによって、同様に用いられるマトリックスとの相溶性を向上することができる。商品名BLACK PEARLS(登録商標;CAS番号1333‐86‐4)で市販されているカーボンブラックが特に好ましい。
【0088】
成分(1.5)
本発明では、脂肪酸エステル、好ましくはステアリン酸エステル、より好ましくはペンタエリスリトールをベースとした離型剤を使用する。
【0089】
含まれている場合、任意の離型剤は、好ましくは0.1〜0.5重量%、特に好ましくは0.2〜0.45重量%の濃度で使用される。
【0090】
1つの態様においては、特に好ましくはペンタエリスリトールテトラステアレート(PETS)またはグリセロールモノステアレート(GMS)を用いる。
【0091】
成分(1.6)
好適な紫外線吸収剤は、400nm未満の領域で可能な限り低い透過率および400nmを超える領域で可能な限り高い透過率を有する化合物である。このような化合物およびそれらの製造は、文献により公知であり、例えば欧州特許出願公開第0 839 623号明細書、国際公開第96/15102号パンフレットおよび欧州特許出願公開第0 500 496号明細書に記載されている。本発明の組成物に使用するのに特に好適な紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール、トリアジン、ベンゾフェノンおよび/またはアリール化シアノアクリレートである。
【0092】
特に好適な紫外線吸収剤には、ヒドロキシベンゾトリアゾール、例えば2‐(3'、5'‐ビス‐(1,1‐ジメチルベンジル)‐2'‐ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール[Tinuvin(登録商標) 234、Ciba Spezialitaetenchemie,Basel]、2‐(2'‐ヒドロキシ‐5'‐(tert‐オクチル)フェニル)ベンゾトリアゾール[Tinuvin(登録商標) 329、Ciba Spezialitaetenchemie,Basel]、2‐(2'‐ヒドロキシ‐3'‐(2‐ブチル)‐5'‐(tert‐ブチル)‐フェニル)ベンゾトリアゾール[Tinuvin(登録商標) 350、Ciba Spezialitaetenchemie,Basel]、ビス‐(3‐(2H‐ベンズトリアゾリル)‐2‐ヒドロキシ‐5‐tert‐オクチル)メタン、[Tinuvin(登録商標) 360、Ciba Spezialitaetenchemie,Basel]、(2‐(4,6‐ジフェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル)‐5‐(ヘキシルオキシ)フェノール[Tinuvin(登録商標) 1577、Ciba Spezialitaetenchemie,Basel]、およびベンゾフェノン、例えば2,4‐ジヒドロキシ‐ベンゾフェノン[Chimassorb(登録商標) 22、Ciba Spezialitaetenchemie,Basel]および2‐ヒドロキシ‐4‐(オクチルオキシ)ベンゾフェノン[Chimassorb(登録商標) 81、Ciba,Basel]、2‐プロペン酸、2‐シアノ‐3,3‐ジフェニル‐2,2‐ビス[[(2‐シアノ‐1‐オキソ‐3,3‐ジフェニル‐2‐プロペニル)オキシ]‐メチル]‐1,3‐プロパンジイルエステル(9CI)[Uvinul(登録商標) 3030、BASF AG、Ludwigshafen]、2‐[2‐ヒドロキシ‐4‐(2‐エチルヘキシル)オキシ]フェニル‐4,6‐ジ(4‐フェニル)フェニル‐1,3,5‐トリアジン(「CGX UVA 006」、Ciba Spezialitaetenchemie,Basel)、またはテトラエチル‐2,2'‐(1,4‐フェニレン‐ジメチリデン)ビスマロネート[Hostavin(登録商標) B−Cap、Clariant AG]が挙げられる。
【0093】
このような紫外線吸収剤の混合物も使用することができる。
【0094】
上記組成物から製造された成形体による紫外線の所望の吸収が確保され、黒色効果が紫外線吸収剤の固有の色によって悪影響を受けない限り、上記組成物中に含まれる紫外線吸収剤の量は特に限定されない。
【0095】
成分(1.7)
本発明に好適なベース層中の熱安定剤および加工安定剤は、ホスファイト、ホスホナイト、およびホスフィンである。それらの例としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルアルキルホスファイト、フェニルジアルキルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4‐ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジイソデシルオキシペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4‐ジ‐tert‐ブチル‐6‐メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6‐トリス(tert‐ブチルフェニル))ペンタエリスリトールジホスファイト、トリステアリルソルビトールトリホスファイト、テトラキス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)‐4,4’‐ビフェニレンジホスホナイト、6‐イソオクチルオキシ‐2,4,8,10‐テトラ‐tert‐ブチル‐12H‐ジベンゾ[d,g]‐1,3,2‐ジオキサホスホシン、ビス(2,4‐ジ‐tert‐ブチル‐6‐メチルフェニル)メチルホスファイト、ビス(2,4‐ジ‐tert‐ブチル‐6‐メチルフェニル)エチルホスファイト、6‐フルオロ‐2,4,8,10‐テトラ‐tert‐ブチル‐12‐メチル‐ジベンゾ[d,g]‐1,3,2‐ジオキサホスホシン、2,2’,2’’‐ニトリロ‐[トリエチルトリス(3,3’,5,5’‐テトラ‐tert‐ブチル‐1,1’‐ビフェニル‐2,2’‐ジイル)ホスファイト]、2‐エチルヘキシル(3,3’,5,5’‐テトラ‐tert‐ブチル‐1,1’‐ビフェニル‐2,2’‐ジイル)ホスフィット、5‐ブチル‐5‐エチル‐2‐(2,4,6‐トリ‐tert‐ブチルフェノキシ)‐1,3,2‐ジオキサホスフィラン、ビス(2,6‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリフェニルホスフィン(TPP)、トリアルキルフェニルホスフィン、ビスジフェニルホスフィノエタンまたはトリナフチルホスフィンが挙げられる。トリフェニルホスフィン(TPP)、「Irgafos(登録商標) 168」(トリス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)ホスファイトおよびトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、またはこれらの混合物が特に好ましい。
【0096】
更に、アルキル化モノフェノール、アルキル化チオアルキルフェノール、ヒドロキノンおよびアルキル化ヒドロキノンなどの、フェノール系酸化防止剤を使用することができる。特に好ましくは、「Irganox(登録商標) 1010」(ペンタエリスリトール‐3‐(4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジ‐tert-ブチルフェニル)プロピオネート、CAS:6683‐19‐8)および「Irganox(登録商標) 1076」(2,6‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐(オクタデカノキシカルボニルエチル)フェノール)が用いられる。
【0097】
本発明の特定の態様では、本発明のホスフィン化合物は、ホスファイトまたはフェノール系酸化防止剤、或いはこれら二つの化合物の混合物と共に使用される。
【0098】
成分(1.8)
場合により、上記ベース層は、0.0〜5.0重量%、好ましくは0.01〜1.00重量%の少なくとも一つの更なる添加剤を含有する。更なる添加剤は、例えば欧州特許出願公開第0 839 623号明細書、国際公開第96/15102号パンフレット、欧州特許出願公開第0 500 496号明細書、または“Plastics Additives Handbook”、Hans Zweifel、第5版、2000年、Hanser Verlag、ミュンヘンに記載されているような従来のポリマー添加剤、例えば難燃剤または流動性向上剤である。ここでは、前述のベース層の構成成分は、これらの添加物から明確に除外する。
【0099】
上記の量は、それぞれの場合に、全ポリマー組成物に対するものである。
【0100】
上記組成物は、処理の間に深みのある光沢などの光学特性または機械的特性を著しく変化させずに、熱可塑性樹脂の従来の温度、即ち、例えば350℃などの300℃を超える温度で処理することができなければならない。
【0101】
上記の成分を含有する本発明のベース層用ポリマー組成物は、配合、混合および均質化することによる通常の導入方法を用いて製造され、均質化は、特に好ましくは、剪断力の作用下、溶融物中で行われる。配合および混合は、場合により、予備混合粉末を用いて、溶融均質化の前に行われる。
【0102】
また、好適な溶媒中の混合成分の溶液から製造された予備混合物を用いてもよく、場合により、均質化を溶液中で行って、次いで溶媒を除去する。
【0103】
本発明の上記組成物の成分は、例えば特にマスターバッチとして既知の方法によって導入することができる。
【0104】
マスターバッチの使用およびドライブレンドまたはコンパクト化した予備混合物の使用は、前述の成分を導入するのに特に好適である。すべての前述の成分は、場合により予備混合することができる。しかしながら、別の方法として、上記成分の予備混合物を使用することも可能である。すべての場合、上記熱可塑性ポリマー組成物の製造における改善された計量のために、容易に取り扱うことができる全量を得るように、好ましくは粉末状ポリマー成分を用いて前述の成分の予備混合物を調製する。
【0105】
特定の態様では、前述の成分を混合してマスターバッチを生成してもよく、予備混合は好ましくは剪断力の作用下で、(例えば、混合機または2軸押出機により)溶融物中で行う。この方法は、上記成分が上記ポリマーマトリックス中でより良好に分散されるという利点を提供する。最終段階の全体のポリマー組成物の主成分でもある上記熱可塑性プラスチックを、好ましくは、マスターバッチ製造用のポリマーマトリックスとして用いる。
【0106】
上記組成物を押出機(例えば、2軸押出機)、混合機、ブラベンダーまたはバンバリーミルなどの従来の装置により混合および均質化し、次いで押し出す。押し出し後、押出物を冷却および切断することができる。また、個々の成分を予備混合した後、残りの出発材料を個々におよび/または更に混合物中に添加してもよい。
【0107】
特定の態様では、深みのある光沢外観を有する耐候性多層プラスチック成形部品を製造する方法は、以下の工程から成る。
【0108】
1.(300℃および1.2kg荷重での)ISO 1133に従って測定したメルト体積流量率(MVR)7〜25cm
3/10分、好ましくは9〜21cm
3/10分を有するポリカーボネートを含有し、本発明の着色剤の組み合わせ、任意に熱安定剤、特に好ましくはトリフェニルホスフィン、任意に離型剤および任意に紫外線安定剤を含有する基材材料(成分A)を生成する工程。
【0109】
2.成分Bから特定のフレーム形態の成形部品を製造する工程。優れた表面性状を達成するために、射出成形パラメータを最適化する必要がある。従って、高い成形温度で操作することが好ましい。
【0110】
3.(a)ポリカーボネートおよびポリシロキサン系塗料間の接着を促進する有機バインダー、
(b)少なくとも1つの紫外線吸収剤、
(c)アルコール系溶媒
を含有するプライマー溶液を用いて上記成形部品をフローコーティング法によって塗布する工程。
【0111】
上記成分から上記溶媒を室温で10〜60分間蒸発除去し、次いで100〜135℃で5〜60分間硬化する。
【0112】
4.(a)式:R
nSiX
4−n(式中、nは1〜4であり、RはC1〜C10脂肪族基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルおよびイソブチル基、並びにアリール基、好ましくはフェニル、および置換アリール基を表し、XはH、C1〜C10脂肪族基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルおよびイソブチル基、並びにアリール基、好ましくはフェニル、置換アリール基、OH、Clを表す。)の有機シリコーン化合物またはその部分縮合物、
(b)無機微粒子化合物、好ましくはSiO
2、
(c)アルコール系溶媒、
(d)少なくとも1つの紫外線吸収剤
を含むポリシロキサン系塗料を用いて上記成形部品をフローコーティング法によって塗布する工程。
【0113】
上記成分から溶媒を室温で10〜60分間蒸発除去し、次いで100〜140℃で10〜120分間硬化する。
【0114】
本発明のポリマー組成物は、例えばまず、前述のように上記ポリマー組成物を顆粒に押し出す工程、および次いでこのような顆粒を好適な方法で種々の製品または成形物に既知のように加工する工程によって、製品または成形品に加工することができる
【0115】
例えばホットプレス、スピニング、ブロー成形、熱成形、押出成形または射出成形により、本発明の上記組成物を製品、成形物または成形体に変換することができる。射出成形または射出圧縮成形が好ましい。
【0116】
射出成形法は、当業者に知られており、例えば、“Handbuch Spritzgiessen”、Friedrich Johann Aber/Walter Michaeli、ミュンヘン;ウィーン:Hanser、2001年、ISBN 3-446-15632-1、または“Anleitung zum Bau von Spritzgiesswerkzeugen”、Menges/Michaeli/Mohren、ミュンヘン;ウィーン:Hanser、1999年、ISBN 3-446-21258-2に記載されている。
【0117】
押出法は、当業者に知られており、共押出しに関しては、例えば、特に、欧州特許出願公開第0 110 221号明細書、同第0 110 238号明細書および同第0 716 919号明細書に記載されている。アダプター法およびノズル法の詳細に関しては、Johannaber/AST:“Kunststoff−Maschinenfuehrer”、Hanser Verlag、2000年、およびGesellschaft Kunststofftechnik、“Coextrudierte Folien und Platten: Zukunftsperspektiven、 Anforderungen、Anlagen und Herstellung、Qualitaetssicherung”、VDI−Verlag、1990年を参照。
【0118】
コーティングは、種々の方法により作製することができる。コーティングを、種々の蒸着法、例えば、電子ビーム法、抵抗加熱、プラズマ蒸着または種々のスパッタリング法、例えば高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング等、DC、RF、HDC法によるイオンプレーティング、反応性イオンプレーティングなど、または化学蒸着によって、形成することができる。
【0119】
前述した方法に加えて、プラスチック物品上に耐引っかき性コーティングを形成するために、種々の方法が知られている。例えば、エポキシ、アクリル、ポリシロキサン、コロイド状シリカゲル、または無機/有機材料(混成系)をベースとする塗料を使用することができる。このような系は、例えば、浸漬法、スピンコート法、スプレー法、またはフローコーティング法によって、塗布することができる。硬化は、熱または紫外線照射により行うことができる。単層または多層系を使用することができる。耐引っかき性コーティングは、例えば、直接塗布またはプライマーを用いて基材表面を処理した後、塗布することができる。また、耐引っかき性コーティングは更に、例えばSiO
2プラズマによるプラズマ重合法によって、被覆することができる。防曇または非反射コーティングを、同様にプラズマ法によって製造することができる。また、表面処理されたフィルムのバックモールディングなどの特定の射出成形法によって、得られた成形体に耐引っかき性コーティングを塗布することが可能である。例えばトリアゾールまたはトリアジンから誘導される紫外線吸収剤などの種々の添加剤が、耐引っかき性層に含まれていてもよい。有機または無機の赤外線吸収剤を含んでいてもよい。このような添加剤は、耐引っかき性塗装自体に含まれていても、プライマー層に含まれていてもよい。耐引っかき性層の厚さは、1〜20μm、好ましくは2〜15μmである。1μm未満では、耐引っかき性層の耐引っかき性が不十分である。20μmを超えると、塗装にしばしば亀裂が生じる。
【0120】
ポリカーボネートには、紫外線吸収剤を含むプライマーを、耐引っかき性塗料の接着性を改良するために使用することが好ましい。上記プライマーには、例えばHALS-システム(立体障害アミンをベースとする安定剤)のような更なる安定剤、接着促進剤、流動性向上剤を含んでいてもよい。個々の樹脂は、多数の材料から選択することができ、例えば、“ULlmann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry”、第5版、第A18巻、第368〜426頁、VCH、ワインハイム、1991年に記載されている。ポリアクリレート、ポリウレタン、フェノール系、メラミン系、エポキシ系およびアルキッド系、またはこれらの系の混合物を使用することができる。上記樹脂はほとんどの場合、好適な溶媒、しばしばアルコールに溶解する。選択された樹脂に依存して、硬化は、室温または高温で行うことができる。しばしば、大部分の溶媒を一時的に室温で除去した後、50〜130℃の温度が好ましく使用される。市販の系として、例えばMomentive Performance Materials社から市販されている「SHP470」、「SHP470FT」および「SHP401」がある。そのようなコーティングは、例えば、米国特許第6350512号B1明細書、米国特許第5869185号明細書、欧州特許第1308084号明細書、国際公開第2006/108520号パンフレットに記載されている。
【0121】
耐引っかき性塗料(ハードコート)は、好ましくはシロキサンから形成され、好ましくは紫外線吸収剤を含有する。それらは、好ましくは浸漬法またはフローコーティング法によって塗布される。硬化は、50〜130℃の温度で行われる。市販の系には、Momentive Performance Materials社から市販されている「AS4000」、「SHC5020」および「AS4700」(CAS:857052−28−9)がある。そのような系は、例えば、米国特許第5041313号明細書、独国特許第3121385号明細書、米国特許第5391795号明細書、国際公開第2008/109072号パンフレットに記載されている。これらの材料の合成は、ほとんどの場合、酸または塩基触媒を用いた、アルコキシおよび/またはアルキルアルコキシシランの縮合により行われる。場合により、ナノ粒子を導入することができる。好ましい溶媒は、アルコール、例えばブタノール、イソプロパノール、メタノール、エタノール、およびそれらの混合物である。
【0122】
プライマー/耐引っかき性コーティングの併用の代わりに、1成分混成系を使用することができる。これらは、例えば欧州特許第0570165号明細書、国際公開第2008/071363号パンフレットまたは独国特許第2804283号明細書に記載されている。市販の混成系は、例えばMomentive Performance Materials社から商品名「PHC587」または「UVHC3000」で入手可能である。
【0123】
溶媒としての1‐メトキシ‐2‐プロパノールおよびジアセトンアルコール並びにジベンゾイルレゾルシノールおよびトリアジン誘導体を含む紫外線吸収剤の組合せを含有するポリメチルメタクリレートをベースとした接着促進紫外線保護プライマーをプライマーとして用いることが特に好ましい。シリカゾルとメチルトリメチルシランから成るゾル‐ゲル縮合生成物を含有し、シリル化紫外線吸収剤を含有するポリシロキサントップコートのようなトップコートが特に好ましい。
【0124】
特に好ましい方法では、高い光学的品質を有する被覆部品が得られるので、上記塗料の塗布はフローコーティング法により行われる。
【0125】
フローコーティング法は、ホースまたは好適なコーティングヘッドを使用して手動で行うか、フローコーティングロボットおよび場合によりフラットフィルムダイを使用して自動的に連続法で行うことができる。
【0126】
上記部品は、適切な製品キャリアに吊すかまたは格納して、被覆することができる。
【0127】
大型および/または3Dの部品では、被覆されるべき部品を、好適な製品キャリアに吊すかまたは配置する。
【0128】
小型部品も、手で被覆することができる。この場合には、塗布する液状プライマーまたは塗料溶液は、上記部品の上端から始まる長手方向のシート上に注がれ、同時にシート上の塗料の開始点がシートの幅上を左から右に進む。塗装されたシートを、個々の製造者の仕様書に従って、グリッパーから垂直に吊して、上記溶媒を蒸発除去し、上記シートを硬化する。
【0129】
本発明の多層体は、自動車、鉄道車両および航空機用のウィンドウモジュールのフレームとして特に好ましく使用される。他のフレーム部品も好ましい。
【実施例】
【0130】
実施態様の例を参照して以下に本発明を更に詳細に説明するが、本明細書中に記載の試験方法は、特に規定しない限り、本発明の全ての対応するパラメータに使用される。
【0131】
メルト体積流量率:
メルト体積流量率(MVR)は、ISO 1133(300℃、1.2kg)に従って測定される。
【0132】
光透過率(Ty):
透過率測定は、ISO 13468−2に従って、球光度計を備えたPerkin Elmer社製「Lambda 900」分光光度計により行った(すなわち、拡散透過率および直接透過率を測定することにより、全透過率を決定)。
【0133】
ブリード特性/塗装性:
ブリード性は、ポリカーボネートに適した塗料溶液を顆粒に塗布する試験によって決定する。
【0134】
塗料溶媒90g(ジアセトンアルコール/2‐メトキシプロパノールを15重量%/85重量%)中の顆粒10gを、三角フラスコ中で撹拌した。様々な時間経過後に、ゆっくりと着色する塗料溶液から、所定量(約2mL)を採取して、ガラスセル(コーティング厚さ1cm)に入れた。上記セルの透過率を球光度計の前で「PE Lambda 900」により測定し、ASTM E313に従って、光タイプD65および10°標準観測器についての黄色度指数(YI)を、色座標(CIE)を測定し、計算することによって決定した。純粋な塗料溶媒(ジアセトンアルコール/2‐メトキシプロパノールを15重量%/85重量%)の測定値は、各場合において、着色した塗料溶液の測定値から導出される。
【0135】
試験片作製用材料:
フェノール系末端基およびISO 1133に従って300℃および1.2kg荷重下で測定された6cm
3/10分のメルト体積流量率(MVR)を有する直鎖状ビスフェノールAポリカーボネート(以下、PC 1と称する)。
フェノール系末端基およびISO 1133に従って300℃および1.2kg荷重下で測定された12.5cm
3/10分のMVRを有する直鎖状ビスフェノールAポリカーボネート(以下、PC 2と称する)。PC 2はまた、離型剤、熱安定剤および紫外線安定剤から成る添加剤混合物を含有する。ペンタエリスリトールテトラステアレート(CAS 115‐83‐3)を離型剤として使用し、トリフェニルホスフィン(CAS 603‐35‐0)を熱安定剤として使用し、「Tinuvin(登録商標) 329」(CAS 3147−75−9)を紫外線安定剤として使用した。
Cabot社の「Black Pearls(登録商標) 800」(CAS No.1333‐86‐4)をナノスケールのカーボンブラックとして使用した(粒子径約17nm)。
【0136】
着色剤
後述の(I)の生成物(全R=H)を、式(1a、1b)の着色剤として使用した。
後述の(II)の生成物(全R=H)を、式(2a、2b)の着色剤として使用した。
LeverkusenのLanxess社製「Macrolex(登録商標) Violet B」(Solvent Violet 13、CAS No.81‐48‐1)を、式(3)の着色剤として使用した。
【0137】
(I)(1a)および(1b)の1:1混合物(重量%)の調製:
5.62g(0.025モル)のベンゼン‐1,2,4,5‐テトラカルボン酸二無水物および7.99g(0.05モル)の1,8‐ジアミノナフタレンを、室温で75mLのn‐エチルピロリドン中に入れ、150℃まで徐々に加熱した。混合物を上記温度で5時間撹拌した。冷却後、125mLの水を加え、形成した沈澱物を濾去した。次いで、沈殿物を水中で繰り返し懸濁させて、洗浄した。沈殿物を、高真空下80℃で乾燥した。50mLの氷酢酸および25mLの無水酢酸の混合物を乾燥した沈殿物に加えた。この混合物を4時間環流した。冷却後、反応混合物を500mLの水の中に注ぎ入れた。沈殿物を濾去し、水洗し、高真空下80℃で乾燥した。12.5gの薄紫色の粉末を得た。
【0138】
(II)(2a)および(2b)の1:1混合物(重量%)の調製
6.71g(0.025モル)のナフタレン‐1,4,5,8‐テトラカルボン酸二無水物および7.99g(0.05モル)の1,8‐ジアミノナフタレンを、室温で75mLのn‐エチルピロリドン中に入れ、150℃まで徐々に加熱した。混合物を上記温度で5時間撹拌した。冷却後、152mLの水を加え、形成した沈澱物を濾去した。次いで、沈殿物を水中で繰り返し懸濁させて、洗浄した。沈殿物を、高真空下80℃で乾燥した。50mLの氷酢酸および25mLの無水酢酸の混合物を乾燥した沈殿物に加えた。この混合物を4時間環流した。冷却後、反応混合物を125mLの水の中に注ぎ入れた。沈殿物を濾去し、熱水で洗浄し、高真空下80℃で乾燥した。13.7gの薄紫色の粉末を得た。
【0139】
配合による、熱可塑性ポリマー組成物の調製:
添加剤の配合は、KraussMaffei Berstorffの2軸押出機、タイプZE25により、ハウジング温度260℃およびコンパウンド温度270℃および速度100rpm、流速10kg/時で、実施例に示した成分量を用いて行った。混合を改善するため、まず、後述の更なる成分を含有するPC1のドライブレンド(全組成物に対して10重量%のドライブレンド)を調製した。このドライブレンドを、配合時に、PC2に加えた。
【0140】
試験片の作製:
顆粒を真空下、120℃で3時間乾燥し、次いで、サイズ25の射出ユニットを備えた射出成形機「Arburg 370」によりコンパウンド温度300℃および金型温度90℃で加工して、直径80mmおよび厚さ2.0mmを有する円形の光学シートを形成した。
【0141】
実施例1(比較例)
前述したような以下の成分の量を含有するポリマー組成物を、
Macrolex Violet B(比較例用の着色剤) 0.20重量%
Black Pearls(登録商標) 800(成分b) 0.02重量%
を配合することによって製造した。
試料シートおよび顆粒を前述のように作製した。
【0142】
実施例2(実施例)
前述したような以下の成分の量を含有するポリマー組成物を、
(1a)および(1b)の1:1(重量%)混合物(成分a) 0.10重量%
(2a)および(2b)の1:1(重量%)混合物(成分a) 0.10重量%
を配合することによって製造した。
試料シートおよび顆粒を前述のように作製した。
【0143】
光透過率の測定
実施例1および2から得られた上記試料シートは、光透過率0.1%未満を有した。
【0144】
視覚的検査
実施例1および2から得られた上記試料シートを、視覚的に検査した。上記試料シートは、欠陥のない表面および十分な黒色効果を有した。
【0145】
【表1】
【0146】
これは、比較例の材料においては、カーボンブラックを用いたにもかかわらず、本発明(実施例)の顆粒を用いた場合よりかなり強く、塗料溶液が着色されたことが明らかである。顆粒よりかなり小さい表面積を有する成形品を用いると、本発明の上記組成物を使用した場合にブリードのリスクがないのに対して、比較例の材料を用いると、塗料溶液が着色するリスクがある。