特許第6178356号(P6178356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6178356固形臓器移植レシピエントにおいて移植片生着を評価するための方法および組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178356
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】固形臓器移植レシピエントにおいて移植片生着を評価するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20170731BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20170731BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20170731BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170731BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20170731BHJP
   G01N 37/00 20060101ALN20170731BHJP
【FI】
   C12Q1/68 A
   G01N33/50 P
   G01N33/68
   !C12N15/00 F
   !C12M1/00 A
   !G01N37/00 102
【請求項の数】11
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-59131(P2015-59131)
(22)【出願日】2015年3月23日
(62)【分割の表示】特願2008-501966(P2008-501966)の分割
【原出願日】2006年3月13日
(65)【公開番号】特開2015-154774(P2015-154774A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2015年4月21日
(31)【優先権主張番号】60/662,083
(32)【優先日】2005年3月14日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】サーワル ミニー エム.
(72)【発明者】
【氏名】マンスフィールド イレイン
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 移植, (2004), 39, [2], p.138-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において移植片生着評価を補助するために該被験体由来の試料においてHIST1H2BC、IGHG3、AHSA2、TNFRSF10D、MAPK9、IFNAR2、TM4SF9、MIF、SCYE1、MAPK1、TGFBR3、IGKC、IL1R2、およびIGLからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を評定する段階を含む、被験体において移植片生着評価を補助するための方法であって、
該試料が、末梢血試料であり、
該移植片生着が、腎臓移植片生着であり、
該移植片生着の評価が、腎臓移植が生着するかまたは喪失するかの評価であり、
該被検体が、急性拒絶の少なくとも1つの症状発現を経験した被検体であり、
該遺伝子の発現を評定する段階が、被験体由来の試料について発現プロファイルを得る段階、および該発現プロファイルを参照発現プロファイルと比較する段階である、
方法。
【請求項2】
少なくとも1つの遺伝子の発現が、該遺伝子の核酸転写産物について試料をアッセイすることにより評定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの遺伝子の発現が、該遺伝子の発現産物について試料をアッセイすることにより評定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
発現プロファイルが少なくとも5つの異なる遺伝子についての発現測定値を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの遺伝子がMAPK9を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
以下の(a)および(b)を含む、被験体において移植片生着を評価するための系:
(a)遺伝子発現結果を得るために、試料においてHIST1H2BC、IGHG3、AHSA2、TNFRSF10D、MAPK9、IFNAR2、TM4SF9、MIF、SCYE1、MAPK1、TGFBR3、IGKC、IL1R2、およびIGLからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を評価するための遺伝子発現評価要素;および
(b)被験体が移植片生着表現型を有するかどうかを決定するために、該遺伝子発現結果を用いるための表現型決定要素、
ここで、
該試料が、末梢血試料であり、
該移植片生着が、腎臓移植片生着であり、
該移植片生着の評価が、腎臓移植が生着するかまたは喪失するかの評価であり、
該被検体が、急性拒絶の少なくとも1つの症状発現を経験した被検体であり、
該遺伝子の発現を評価することが、被験体由来の試料について発現プロファイルを得る段階、および該発現プロファイルを参照発現プロファイルと比較する段階である。
【請求項7】
遺伝子発現評価要素が、少なくとも1つの遺伝子の核酸転写産物について試料をアッセイするための少なくとも1つの試薬を含む、請求項6記載の系。
【請求項8】
遺伝子発現評価要素が、少なくとも1つの遺伝子の発現産物について試料をアッセイするための少なくとも1つの試薬を含む、請求項6記載の系。
【請求項9】
遺伝子発現評価要素がアレイを含む、請求項6記載の系。
【請求項10】
表現型決定要素が少なくとも1つの遺伝子についての参照発現値を含む、請求項6記載の系。
【請求項11】
少なくとも1つの遺伝子がMAPK9を含む、請求項6記載の系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
35 U.S.C. §119(e)によって、本出願は、2005年3月14日に出願された米国仮特許出願第60/662,083号(その出願の開示は参照により本明細書に組み入れられている)の出願日の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
背景
移植臓器または組織のドナーから宿主患者への移植は、特定の医学的手順および処置プロトコールの特徴である。宿主-ドナー組織型適合を通して移植片拒絶を避けるための努力にもかかわらず、ドナー臓器が宿主へ導入される移植手順において、免疫抑制治療が、一般的に、宿主においてドナー臓器の生存能力を維持するために必要とされる。
【0003】
臓器が患者へ移植された後、患者の免疫系は、新しい臓器の拒絶を防ぐために抑制される。免疫抑制治療の幅広い使用にもかかわらず、臓器移植拒絶は起こりうる。
【0004】
臓器移植拒絶は、3つの別々のカテゴリー:超急性、急性、および慢性を含む。超急性拒絶は、臓器移植後数分から数時間以内の移植片脈管構造の急速な血栓性閉塞により特徴付けられる。超急性拒絶は、大部分、上皮に結合し、補体カスケードを活性化する既存の抗体により媒介される。補体活性化は、結果として、内皮細胞損傷およびその後の基底膜の露出を生じ、その結果として、血小板の活性化を生じ、血栓症および血管閉塞へと導く。移植の分野は成熟しているので、超急性拒絶は、ドナー臓器と患者の間の血液抗原およびMHC分子適合により、まれになってきている。
【0005】
急性拒絶は、急性血管拒絶および急性細胞拒絶へと下位に分類される。急性血管拒絶は、移植血管における個々の細胞のネクローシスにより特徴付けられる。その過程は、超急性拒絶のそれと類似しているが、発生がしばしば、より遅く、拒絶後1週間以内であり、T細胞成分が関与する場合がある。急性血管拒絶は、ドナー臓器の血管内皮細胞上に存在する同種抗原に対する応答により開始され、結果として、サイトカインカスケードの放出、炎症、および最終的なネクローシスを生じる。急性細胞拒絶は、しばしば、宿主Tリンパ球およびマクロファージの浸潤により引き起こされる移植臓器の本質または実質細胞のネクローシスにより特徴付けられる。関与するリンパ球は、通常、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)およびマクロファージであり、両方とも標的細胞の溶解を生じる。CTLは、通常、MHCクラスI分子との関連においてディスプレイされる移植片同種抗原に特異的である。
【0006】
慢性拒絶は、同種移植片損失の主な原因であり、線維症および正常な臓器構造の喪失により特徴付けられる。線維症は、急性拒絶の細胞ネクローシス後の創傷治癒の結果でありうる、または無関係に、かつ先行の急性拒絶無しに、起こりうる。加えて、慢性拒絶は、移植臓器上に存在する同種抗原に対する遅延型過敏応答に起因すると考えられる血管閉塞へと導きうる。これらの同種抗原は、リンパ球を刺激して、マクロファージを引きつけるサイトカインを分泌し、他のエフェクター細胞は、最終的に、動脈硬化様閉塞へ導く。
【0007】
多くの場合、慢性移植片傷害または拒絶(CR)は、大部分は、カルシニューリン阻害剤薬剤性腎毒性(DT)および慢性同種移植片腎症(CAN)、レシピエントの平均余命にとって時期尚早の移植片機能の喪失および早期移植片喪失を結果として生じうる2つの状態のためである。慢性移植片喪失の発生率は、過去10年間に渡って変化しないままである。
【0008】
生検は、CANおよびDT診断のための唯一の現行の最も基準になる検査(gold standard)である。両方の状態が移植後進行性であるため、複数の移植片プロトコール生検が必要とされる。しかしながら、生検手順の侵襲性は、この型のモニタリングへの制限である。加えて、生検サンプリングおよび病理分析の変動性(2)は、異なる機構(非免疫対免疫)からの慢性線維性傷害の共通の転帰をもつ、これらの2つの状態(多すぎる薬物(DT)対少なすぎる/不適切な薬物(CAN)のいずれかの結果)の鑑別診断に交絡因子を加える。
【0009】
現在、移植もしくは急性拒絶(AR)発症の時点において将来の移植片喪失を検出する、またはモニターするのに利用できる方法がない。ARは、最終的な移植片喪失、移植片機能の回復の遅延、および慢性拒絶までもに関するリスク因子である。AR層別化、CR、DT、および発生中または確立された寛容についての非侵襲性モニタリング方法は、現在利用できないが、移植片生検が、現行の最も基準になる検査とはいえ、ARを階層化する、もしくは予見すること、CRとDTを明確に区別すること、または寛容を診断することができないため、非常に価値があると思われる。
【0010】
従って、移植患者のための処置プロトコールがカスタマイズされるように、例えば、AR発症後、移植レシピエントにおいて移植片生着の可能性を評価する能力は関心が高いと思われる。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
被験体を移植片生着について評価するための方法が提供されており、例えば、被験体において、移植片生着を予測すること、CANおよびDTのような有害な移植片状態の存在を同定すること、急性拒絶の重症度およびクラスを同定することなどに関して、提供される。本方法の実施において、被験体を評価するために、被験体由来の試料(例えば、血液または生検試料)における少なくとも1つの遺伝子の発現が、例えば、核酸レベルおよび/またはタンパク質レベルでアッセイされる。本方法の実施において使用を見出す組成物、系、およびキットもまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】3,170個の示差的に発現している遺伝子のセットを用いるマイクロアレイの予測分析(PAM)は、類似した能力をもつ33個の分類子を同定する(図1A)。PAM分類スコアは、割り当てられたクラスに100%一致して試料を分類し、報告されたスコアはクラスター形成された試料と整列している(図1B)。
図2】移植片喪失(赤色)および喪失なし(青色)についてのカプラン-マイヤー生着分析。遺伝子はICAM5(図2A;p=0.007)、IL6R(図2B;p=0.003)、STAT1(図2C;p=0.036)、およびSTAT6(図2D;p=0.020)を含む。
図3】移植片喪失を予測する全血試料由来の8個の遺伝子についてのカプラン-マイヤー生着曲線。遺伝子は、AHSA2(図3A)、IGHG1(図3B)、IFNAR2(図3C)、IGKC(図3D)、HIST1H2BC(図3E)、IL1R2(図3F)、MAPK1(図3G)、およびMAPK9(図3H)を含む。
図4】遺伝子発現レベルが患者群間内で十分、分離しているため、遺伝子発現が一般的に、分析された全部の臨床群に渡って均一/一貫していることを実証している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
便宜上、明細書、実施例、および添付された特許請求の範囲に用いられる特定の用語はここに集められている。
【0014】
「急性拒絶またはAR」は、移植組織が免疫学的に外来である場合、組織移植レシピエントの免疫系による拒絶である。急性拒絶は、レシピエントの免疫細胞による移植組織の浸潤により特徴付けられ、それはそれらのエフェクター機能を実行し、移植組織を破壊する。急性拒絶の発症は急速であり、一般的に、移植手術後2、3週間以内にヒトに起きる。一般的に、急性拒絶は、ラパマイシン、シクロスポリンA、抗CD40Lモノクローナル抗体などのような免疫抑制薬で阻害または抑制されうる。
【0015】
「慢性移植拒絶またはCR」は、一般的に、移植後数ヶ月から数年間以内に、急性拒絶の免疫抑制の成功がある場合でさえも、ヒトに起こる。線維症は、すべての型の臓器移植の慢性拒絶における共通の因子である。慢性拒絶は、典型的には、特定の臓器の特徴を示す一連の特定の障害により記載されうる。例えば、肺移植において、そのような障害は気道の線維増殖性破壊(細気管支炎)を含む;弁置換のような心臓移植または心臓組織の移植において、そのような障害は線維性アテローム性動脈硬化症を含む;腎臓移植において、そのような障害は閉塞性腎疾患、腎硬化症、尿細管間質性腎症を含む;および肝臓移植において、そのような障害は消失胆管症候群を含む。慢性拒絶はまた、虚血性傷害、移植組織の脱神経、免疫抑制薬と関連した高脂血症および高血圧により特徴付けられうる。
【0016】
「移植拒絶」という用語は、急性および慢性移植拒絶の両方を含む。
【0017】
本明細書に用いられる場合、「ストリンジェントなアッセイ条件」という用語は、アッセイにおいて所望のレベルの特異性を提供するのに十分な相補性の核酸の結合対(例えば、表面結合性核酸と溶液相核酸)を生じるのに適合性があるが、一方、所望の特異性を提供するのには不十分な相補性の結合メンバー間の結合対の形成にとって適合性がより低い条件を指す。ストリンジェントなアッセイ条件は、ハイブリダイゼーション条件および洗浄条件の両方の総和または組み合わせ(全体性)である。
【0018】
核酸ハイブリダイゼーションに関して(例えば、アレイ、サザン、またはノーザンハイブリダイゼーションにおいてのような)の「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」および「ストリンジェントなハイブリダイゼーション洗浄条件」は、配列依存性であり、異なる実験パラメーター下で異なる。本発明の範囲内で核酸を同定するために用いられうるストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、例えば、50%ホルムアミド、5xSSC、および1%SDSを含む緩衝液における42℃でのハイブリダイゼーション、または5xSSCおよび1%SDSを含む緩衝液における65℃でのハイブリダイゼーションで、両方とも0.2xSSCおよび0.1%SDSの65℃での洗浄と共の、ハイブリダイゼーションを含みうる。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件はまた、40%ホルムアミド、1M NaCl、および1%SDSの緩衝液における37℃でのハイブリダイゼーション、ならびに1xSSCにおける45℃での洗浄を含みうる。または、0.5M NaHPO4、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mM EDTAにおいて65℃でフィルター結合したDNAへのハイブリダイゼーション、および0.1xSSC/0.1%SDSにおける68℃での洗浄が用いられうる。さらに追加のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、60℃またはそれ以上かつ3xSSC(450mM塩化ナトリウム/45mMクエン酸ナトリウム)におけるハイブリダイゼーション、または30%ホルムアミド、1M NaCl、0.5%サルコシン酸ナトリウム、50mM MES、pH6.5を含む溶液における42℃でのインキュベーションを含む。当業者は、代替であるが、匹敵するハイブリダイゼーションおよび洗浄条件が同様のストリンジェンシーの条件を提供するために利用されうることを容易に認識するものと思われる。
【0019】
特定の態様において、洗浄条件のストリンジェンシーは、核酸が表面結合核酸へ特異的にハイブリダイズしているかどうかを判定する条件を示す。核酸を同定するために用いられる洗浄条件は、例えば、pH7で約0.02モルの塩濃度および少なくとも約50℃もしくは約55℃から約60℃までの温度;または約0.15M NaClの塩濃度、72℃で15分間;または約0.2xSSCの塩濃度、少なくとも約50℃もしくは約55℃から約60℃までの温度で約15〜約20分間;またはハイブリダイゼーション複合体は、0.1%SDSを含む約2xSSCの塩濃度をもつ溶液で、室温で15分間、2回洗浄され、その後、0.1%SDSを含む0.1xSSCにより68℃で15分間、2回洗浄する;または等価条件を含みうる。洗浄についてのストリンジェントな条件はまた、例えば、42℃で0.2xSSC/0.1%SDSでありうる。
【0020】
ストリンジェントなアッセイ条件の特定の例は、1.5Mの一価陽イオン総濃度をもつ塩に基づいたハイブリダイゼーション緩衝液における65℃での回転性ハイブリダイゼーション(例えば、開示は参照により本明細書に組み入れられている、2000年9月5日に出願された米国特許出願第09/655,482号に記載されているような)、続いて室温での0.5xSSCおよび0.1xSSCの洗浄である。
【0021】
ストリンジェントなアッセイ条件は、少なくとも上記の代表的な条件と同じくらいストリンジェントであるハイブリダイゼーション条件であり、与えられたセットの条件は、所望の特異性を提供するのに十分な相補性を欠く追加の結合複合体が、その与えられたセットの条件において実質的に生成されない場合には、上記の特定の条件と比較して少なくとも同じくらいストリンジェントであるとみなされ、「実質的により高くない」とは、約5倍未満高い、典型的には、約3倍未満高いことを意味する。他のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当技術分野において公知であり、必要に応じてまた用いられうる。
【0022】
本明細書に用いられる場合、「遺伝子」または「組換え遺伝子」という用語は、エクソンおよび(任意で)イントロン配列を含む、ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸を指す。「イントロン」という用語は、タンパク質へ翻訳されず、一般的に、DNA分子におけるエクソン間に見出される、所定の遺伝子に存在するDNA配列を指す。加えて、遺伝子は、それの天然のプロモーター(すなわち、遺伝子のエクソンおよびイントロンが、非組換え細胞、すなわち、天然の細胞、において機能的に連結されているプロモーター)および関連した制御配列を含んでいてもよく、AUG開始点の上流に配列を有する場合もあるし、有しない場合もあり、非翻訳リーダー配列、シグナル配列、下流非翻訳配列、転写開始および終止配列、ポリアデニル化シグナル、翻訳開始および終止配列、リボソーム結合部位などを含む場合もあるし、含まない場合もある。
【0023】
「タンパク質コード配列」、または特定のポリペプチドもしくはペプチドを「コードする」配列は、適切な制御配列の支配下に置かれる場合、インビトロまたはインビボで転写される(DNAの場合)、およびポリペプチドへ翻訳される(mRNAの場合)核酸配列である。コード配列の境界は、5'(アミノ)末端における開始コドンおよび3'(カルボキシ)末端における翻訳終止コドンにより決定される。コード配列は、限定されるわけではないが、ウイルス、原核生物、もしくは真核生物のmRNA由来のcDNA、ウイルス、原核生物、もしくは真核生物のDNA由来のゲノムDNA配列、および合成DNA配列さえも含みうる。転写終結配列はコード配列の3'側に位置しうる。
【0024】
「参照」および「対照」という用語は、観察された値が比較されうる既知の値または1組の既知の値を指すために交換可能に用いられる。本明細書に用いられる場合、既知の値とは、値が、わかっているパラメーター、例えば、移植片生着または喪失表現型におけるマーカー遺伝子の発現のレベルを表すことを意味する。
【0025】
「核酸」という用語は、DNA、RNA(二本鎖または一本鎖)、それらの類似体(例えば、PNAまたはLNA分子)および誘導体を含む。本明細書に用いられる場合、「リボ核酸」および「RNA」という用語は、リボヌクレオチドで構成されるポリマーを意味する。本明細書に用いられる場合、「デオキシリボ核酸」および「DNA」という用語は、デオキシリボヌクレオチドで構成されるポリマーを意味する。「mRNA」という用語は、メッセンジャーRNAを意味する。「オリゴヌクレオチド」は、一般的に、約10〜100ヌクレオチド長のヌクレオチド多量体を指し、一方、「ポリヌクレオチド」は任意の数のヌクレオチドを有するヌクレオチド多量体を含む。
【0026】
本出願に用いられる「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は交換可能である。「ポリペプチド」は、アミノ酸のポリマー(アミノ酸配列)を指し、分子の特定の長さに言及しない。従って、ペプチドおよびオリゴペプチドは、ポリペプチドの定義内に含まれる。この用語はまた、ポリペプチドの翻訳後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などに言及するか、またはこのような翻訳後修飾を含む。その定義内には、例えば、天然および非天然の両方の、1つまたは複数のアミノ酸の類似体を含むポリペプチド、置換された結合、加えて当技術分野において公知の他の修飾をもつポリペプチドが含まれる。
【0027】
「評定すること(assessing)」および「評価すること(evaluating)」という用語は、任意の型の測定を指すために交換可能に用いられ、要素が存在するかどうかを判定することを含む。「判定すること(determining)」、「測定すること(measuring)」、「評定すること(assessing)」、および「アッセイすること(assaying)」は、交換可能に用いられ、定量的および定性的判定の両方を含む。評定は相対的または絶対的でありうる。「の存在を評定すること」とは、存在する何かの量を判定すること、およびそれが存在するかまたは不在であるかを判定することを含む。
【0028】
特定の態様の説明
被験体を移植片機能について評価するための方法が提供されており、例えば、被験体において、移植片生着を予測すること、CANおよびDTのような有害な移植片状態の存在を同定すること、急性拒絶の重症度およびクラスを同定することなどに関して、提供される。本方法の実施において、被験体を評価するために、被験体由来の試料、例えば、血液または生検試料、における少なくとも1つの遺伝子の発現が、例えば、核酸レベルおよび/またはタンパク質レベルでアッセイされる。本方法の実施において使用を見出す組成物、系、およびキットもまた提供される。方法および組成物は様々な適用において使用を見出す。
【0029】
本発明がより詳細に記載される前に、本発明が、記載された特定の態様に限定されず、それとして変わりうることは理解されるべきである。本発明の範囲は添付された特許請求の範囲によってのみ限定されるものであるから、本明細書に用いられる専門用語は特定の態様を記載することのみを目的とし、限定するものではないこともまた理解されるべきである。
【0030】
値の範囲が提供されている場合、その範囲の上限と下限の間の、文脈が明らかに他に指示しない限り下限の単位の10分の1までの、それぞれの中間値、およびその表示された範囲における任意の他の表示値または中間値が本発明に含まれる。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、より小さい範囲に含まれることができ、表示された範囲において任意の具体的に除外された限界を条件として、また本発明内に含まれる。表示された範囲が限界の一つまたは両方を含む場合、それらの含まれる限界の一方または両方を排除する範囲もまた本発明に含まれる。
【0031】
他に規定がない限り、本明細書に用いられるすべての技術的および科学的用語は、当業者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。本明細書に記載されたものと類似または等価の任意の方法および材料もまた、本発明の実施または試験において用いられうるが、代表する例証的方法および材料は今、記載されている。
【0032】
本明細書に引用されたすべての刊行物および特許は、あたかも各個々の刊行物または特許が具体的かつ個別に示されて参照により組み入れられているかのように、参照により本明細書に組み入れられており、かつ刊行物が引用していることに関連して方法および/または材料を開示ならびに記載するように参照により本明細書に組み入れられている。任意の刊行物の引用は、出願日前のそれの開示のためであり、本発明が、先行発明によるそのような刊行物に先立つ権利がないという容認として解釈されるべきではない。さらに、提供された刊行物の日付は、別の情報筋によって確認される必要がありうる実際の刊行日とは異なっている場合がある。
【0033】
本明細書および添付された特許請求の範囲に用いられる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他に指示しない限り、複数の指示対象を含むことが留意される。特許請求の範囲はいかなる随意的な要素も排除するように作成されうることはさらに留意される。それとして、この言明は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連して「単独で」、「だけ」のような排他的用語の使用、または「消極的な」限定の使用についての根拠としての役割を果たすことを意図される。
【0034】
この開示を読んで当業者にとって明らかであるように、本明細書に記載および例証された個々の態様のそれぞれは、本発明の範囲または真意から逸脱することなく、容易に、他のいくつかの態様のいずれかの特徴から分離されうる、または、他のいくつかの態様のいずれかの特徴と組み合わせられうる別個の構成要素および特徴を有する。任意の引用された方法を、列挙された事象の順序で、または論理的に可能である任意の他の順序で行うことができる。
【0035】
上で要約されているように、本発明は、被験体において移植片機能を評価する方法、加えて、本方法を実施するのに用いる試薬およびキットを対象にする。本発明をさらに記載するにおいて、本方法が最初に記載され、その後に、本方法を実施するのに用いる試薬およびキットの概説が続く。
【0036】
移植片機能を評価する方法
上で概説されているように、本発明は、移植片生着について被験体を評価するための方法を提供する。方法は、いくつかの異なる因子に関して移植片生着について被験体を評価することを提供する。特定の態様において、評価される因子は、移植片生着の基本的予測である。特定の態様において、評価される因子は、CANおよびDTのような有害な移植片状態の存在である。特定の態様において、同定される因子は、急性拒絶の重症度および/またはクラスであり、これらの態様は、ただ急性拒絶の存在を同定するだけである方法とは区別され、急性拒絶の重症度および/またはクラス、ならびにそれゆえに、移植片生着の局面をさらに決定しているからである。
【0037】
それとして、本発明の特定の態様は、移植片を含む被験体において移植片生着を、例えば、予測することに関して、評価する方法を提供する。それとして、本発明は、移植患者または被験体における移植片が生着するかまたは喪失するかを評価する方法を提供する。特定の態様において、本方法を、移植被験体が移植片生着表現型を有する、すなわち、移植片が生着するかどうかを判定する方法として見ることができる。移植片生着表現型は、長期間移植片生着の存在により特徴付けられる表現型である。「長期間」移植片生着とは、1つまたは複数のARの先行症状発現の発生に関わらず、最新のサンプリングを超えて少なくとも約5年間の移植片生着を意味する。特定の態様において、移植片生着は、急性拒絶(AR)の少なくとも1つの症状発現が起きている患者について判定される。それとして、これらの態様は、AR後の移植片生着を判定または予測する方法である。移植片生着は、移植治療、例えば、免疫抑制治療との関連での特定の態様において判定または予測され、免疫抑制治療は当技術分野において公知である。さらに他の態様において、CANおよびDTのような臓器拒絶疾患状態であることを識別する方法が提供される。さらに他の態様において、急性拒絶のクラスおよび/または重症度(およびそれらの存在だけでなく)を判定する方法が提供される。
【0038】
移植分野において公知であるように、移植片臓器、組織、または細胞は、移植片が同種移植片または異種移植片であるように、同種間または異種間でありうる。対象となる臓器および組織は、限定されるわけではないが、以下を含む:皮膚、心臓、腎臓、肝臓、骨髄、および他の臓器。
【0039】
本方法の実施において、被験体または患者試料、例えば、細胞またはそれらの収集物、例えば、組織、は宿主において移植片生着を、例えば、移植片がアッセイされる試料が得られた宿主において生着するかどうかを、評価するためにアッセイされる。従って、本方法の第一段階は、対象となる被験体または患者、すなわち、少なくとも1つの移植片(例えば、同種移植片)を有する患者から適した試料を得ることである。
【0040】
試料は任意の初期の適した源由来であり、対象となる試料源は、限定されるわけではないが、多くの異なる生理学的源、例えば、CSF、尿、唾液、涙、組織由来試料、例えば、ホモジネート(限定されるわけではないが、腎臓、心臓、肺生検を含む移植組織または臓器の生検試料のような)、および血液またはその派生物を含む。
【0041】
特定の態様において、患者試料として適した初期の源は血液である。それとして、これらの態様の本アッセイに用いられる試料は、一般的に、血液由来試料である。血液由来試料は、全血またはその画分、例えば、血清、血漿など、由来であることができ、特定の態様において、試料は全血から収集された血液細胞由来である。試料源として特に興味深いのは、末梢血リンパ球(PBL)である。そのような試料を得るための任意の便利なプロトコールが用いられることができ、適したプロトコールは当技術分野において周知であり、代表的なプロトコールは下の実験セクションに報告されている。
【0042】
本方法の実施において、試料は、1つまたは複数の遺伝子について発現評価、例えば発現プロファイルを得るためにアッセイされ、発現プロファイルという用語は、ゲノム発現プロファイル、例えば、対象となる1つもしくは複数の遺伝子の核酸転写産物、例えば、mRNA、の発現プロファイル、またはプロテオーム発現プロファイル、例えば、1つもしくは複数の異なるタンパク質の発現プロファイルを含むように広く用いられ、タンパク質/ポリペプチドは対象となる1つまたは複数の遺伝子の発現産物である。それとして、特定の態様において、たった1つの遺伝子の発現が評価される。さらに他の態様において、2個またはそれ以上、例えば、約5個またはそれ以上、約10個またはそれ以上、約15個またはそれ以上、約25個またはそれ以上、約50個またはそれ以上、約100個またはそれ以上、約200個またはそれ以上などの遺伝子の発現が評価される。従って、本方法において、試料における少なくとも1個の遺伝子の発現が評価される。特定の態様において、なされる評価は、トランスクリプトソームの評価としてみなされうるが、その用語は当技術分野において用いられている。例えば、Gomes et al., Blood (2001 Jul 1)98(1):93-9を参照。
【0043】
発現プロファイルを作成するにおいて、特定の態様において、試料は、少なくとも1つの遺伝子/タンパク質、通常には複数の遺伝子/タンパク質、についての発現データを含む発現プロファイルを作成するためにアッセイされ、複数とは、少なくとも2つの異なる遺伝子/タンパク質、およびしばしば少なくとも約5個、典型的には少なくとも約10個、およびより通常には、50個またはそれ以上、100個またはそれ以上などのような少なくとも約20個の異なる遺伝子/タンパク質またはそれ以上を意味する。
【0044】
最も広い意味において、発現評価は定性的または定量的でありうる。それとして、検出が定性的である場合、方法は、標的分析物、例えば、核酸または発現産物、がアッセイされることになっている試料に存在しているかどうかの読みまたは評価(例えば、評定)を提供する。さらに他の態様において、方法は、標的分析物がアッセイされることになっている試料に存在するかどうかの定量的検出、すなわち、標的分析物(例えばアッセイされることになっている試料における核酸)の実際量もしくは相対存在量の評価または評定を提供する。そのような態様において、定量的検出は、絶対的、または方法が試料において2つもしくはそれ以上の異なる分析物(例えば標的核酸)を検出する方法である場合には、相対的でありうる。それとして、試料において標的分析物(例えば、核酸)を定量化する関連で用いられる場合の「定量化する」という用語は、絶対的または相対的定量化を指しうる。絶対的定量化は、1つまたは複数の対照分析物の既知の濃度の包含、および標的分析物の検出されたレベルを既知の対照分析物で(例えば、標準曲線の作成を通して)参照することにより達成されうる。または、相対定量化は、2つのまたはそれ以上の異なる分析物のそれぞれの、例えば、お互いに対する、相対的定量化を提供するための2つまたはそれ以上の異なる標的分析物間の検出されたレベルまたは量の比較により達成されうる。
【0045】
対象となる遺伝子/タンパク質は、移植片生着/喪失指標遺伝子、すなわち、移植片生着および移植片喪失個体(より具体的には、移植片喪失が起きるだろう個体対移植片が生着するだろう個体)において異なって発現している、または異なるレベルで存在する遺伝子/タンパク質である。特定の態様において対象となる代表的な遺伝子/タンパク質は、限定されるわけではないが、表1および表2に提供される遺伝子/タンパク質を含む。(表1および表2について、表で同定されたクローンの正確な配列はウェブブラウザー(例えば、Netscape)のナビゲーションウィンドウにおいて「ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&db=nucleotide」の前に「http://www.」を置くことにより作成されるウェブサイトに位置しているNCBI Entrezヌクレオチドデータベースを通して決定されうること;特定のクローンの配列はその後、検索用語として引用符で囲まれたクローンIDを入力することにより得られることに留意されたい)。
【0046】
(表1)急性拒絶後の移植片喪失を予測する全血における既知の機能の遺伝子
【0047】
(表2)急性拒絶後の移植片喪失を予測する腎生検全血における既知の機能の遺伝子
【0048】
特定の態様において、調製された発現プロファイルにおける遺伝子/タンパク質の少なくとも1個は、表1および/または表2からの移植片生着/拒絶指標遺伝子であり、発現プロファイルは、表1および/または表2に列挙された遺伝子/タンパク質の、全部を含む、5個、10個、20個、50個、75個またはそれ以上についての発現データを含みうる。発現および/または量データ、すなわち、発現の存在または非存在、加えて発現/量レベルが作成される発現プロファイルに含まれる、異なる遺伝子/タンパク質の数は、変化しうるが、少なくとも2個であり、特定の態様において、2個から約100個またはそれ以上まで、時々、約4個から約70個またはそれ以上までを含む3個から約75個またはそれ以上までの範囲である。
【0049】
特定の態様において、発現パターンが追加の移植片特徴を評価するために用いられうる遺伝子のような、表1および/または表2に列挙されたもの以外の追加の遺伝子がアッセイされることができ、限定されるわけではないが、以下を含む:急性拒絶(例えば、下の表3においてARとして同定された遺伝子);血液における慢性同種移植片傷害(慢性拒絶)(例えば、下の表3においてCRとして同定された遺伝子);薬物誘導性高血圧を含む免疫抑制薬物毒性または有害な副作用(例えば、下の表3においてDTとして同定された遺伝子);腎臓病理学と関連がある、もしくはレシピエント年齢関連移植片許容性における違いの原因となる年齢または体格指数関連遺伝子(例えば、下の表3においてBMIとして同定された遺伝子);全血における免疫寛容マーカー(例えば、下の表3においてTOLとして同定された遺伝子);移植片転帰において役割を果たしうる免疫調節性役割をもつと文献検索で見出された遺伝子(例えば、下の表3において文献として同定された遺伝子);加えて、例えば、試料品質(プローブ位置における3'偏り〜5'偏り)、生検に基づいた研究におけるサンプリングエラーを評定するための他のアレイアッセイ機能関連遺伝子、細胞表面マーカー、およびハイブリダイゼーション結果を較正するための標準化遺伝子(例えば、下の表3において対照として同定された遺伝子を参照)など。
【0050】
上の表1および表2の移植片生着/拒絶遺伝子だけでなく、追加の移植片特徴付け遺伝子(例えば、DT、CAN、および免疫寛容に特異的な)も含む遺伝子の代表的なコレクションは表3にある。
【0051】
(表3)カスタム移植チップ(TxChip V1)について編集された予後値の既知機能の遺伝子
【0052】
特定の態様において、表3からの遺伝子のコレクションがアッセイされ、これらの態様において、表3からの遺伝子の数は、表3からの遺伝子の全部を含め、少なくとも約5%、少なくとも10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約90%またはそれ以上でありうる。
【0053】
特定の態様において、得られる発現プロファイルはゲノムまたは核酸発現プロファイルであり、試料における1つもしくは複数の核酸(例えば、対象となる遺伝子の核酸転写産物)の量またはレベルが決定される。これらの態様において、診断方法に用いられる発現プロファイルを作成するためにアッセイされる試料は、核酸試料であるものである。核酸試料は、診断されることになっている細胞または組織の対象となる表現型決定遺伝子の発現情報を含む別々の核酸の複数または集団を含む。核酸は、試料が、それが得られる宿主細胞または組織の発現情報を保持する限り、RNAまたはDNA核酸(例えば、mRNA、cRNA、cDNAなど)を含みうる。試料は、当技術分野において公知のように、いくつかの異なる方法で、例えば、細胞からのmRNA単離により調製されてもよく、単離されたmRNAは、示差的発現分野において公知のように、そのまま用いられる、増幅される、cDNA、cRNAを調製するように用いられるなど。特定の態様において、試料は、標準プロトコールを用いて、診断されることになっている被験体から採取された細胞または組織から、例えば、組織の生検により、調製され、そのような核酸が作製されうる細胞型または組織は、限定されるわけではないが、上記で概説されているように、末梢血リンパ球細胞などを含む、表現型を決定されうる発現パターンが存在する任意の組織を含む。
【0054】
発現プロファイルは、任意の都合の良いプロトコールを用いて初期の核酸試料から作成されうる。示差的遺伝子発現分析の分野に用いられるもののような、発現プロファイルを作成する様々な異なる様式が知られているが、発現プロファイルを作成するためのプロトコールの1つの代表的かつ便利な型は、アレイに基づく遺伝子発現プロファイル作成プロトコールである。特定の態様において、そのような適用は、作成されるべきプロファイルにおいてアッセイ/プロファイリングされるべき遺伝子のそれぞれについて「プローブ」核酸をディスプレイする核酸アレイが用いられるハイブリダイゼーションアッセイである。これらのアッセイにおいて、標的核酸の試料は、最初に、アッセイされることになっている初期の核酸試料から調製され、調製は、標的核酸の標識、例えば、シグナル発生系のメンバー、での標識化を含みうる。標的核酸試料調製後、試料は、ハイブリダイゼーション条件下でアレイと接触させられ、それによって、複合体が、アレイ表面に付着したプローブ配列と相補的である標的核酸の間で形成される。ハイブリダイズした複合体の存在は、その後、定性的かまたは定量的のいずれかで検出される。本方法に用いられる発現プロファイルを作成するために実施されうる特異的ハイブリダイゼーションテクノロジーは、開示が参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,143,854号;第5,288,644号;第5,324,633号;第5,432,049号;第5,470,710号;第5,492,806号;第5,503,980号;第5,510,270号;第5,525,464号;第5,547,839号;第5,580,732号;第5,661,028号;第5,800,992号;加えて、WO 95/21265;WO 96/31622;WO 97/10365;WO 97/27317;EP 373 203;およびEP 785 280に記載されたテクノロジーを含む。これらの方法において、上記のように、発現がアッセイされることになっている表現型決定遺伝子のそれぞれについてのプローブを含む「プローブ」核酸のアレイが、標的核酸と接触させられる。接触は、ハイブリダイゼーション条件(例えば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件)の下で行われ、結合していない核酸はその後除去される。
【0055】
ハイブリダイズした核酸の結果として生じたパターンは、探索された遺伝子のそれぞれについての発現に関する情報を提供し、発現情報は、遺伝子が発現しているかどうか、および典型的には、どれほどのレベルで発現しているかに関してであり、発現データ、すなわち、発現プロファイル(例えば、トランスクリプトソームの形をとって)が定性的および定量的の両方でありうる。
【0056】
または、試料において1つまたは複数の核酸のレベルを定量化するためのアレイに基づかない方法が用いられてもよく、定量的PCRなどを含む。
【0057】
発現プロファイルがタンパク質発現プロファイルである場合、任意の都合の良いタンパク質定量化プロトコールが用いられることができ、アッセイされる試料における1つまたは複数のタンパク質のレベルが決定される。代表的な方法は、限定されるわけではないが、以下を含む:プロテオームアレイ、フローサイトメトリー、標準イムノアッセイ(例えば、ELISAアッセイ)、多重タンパク質活性アッセイを含むタンパク質活性アッセイなど。
【0058】
アッセイされることになっている試料からの発現プロファイルの取得後、発現プロファイルは、細胞または組織の特定の移植片寛容性/非寛容性表現型を決定するために参照または対照プロファイルと比較される。本明細書に用いられる場合の「参照」および「対照」という用語は、与えられた患者の発現シグネチャーを解釈し、それらに移植片寛容性/非寛容性表現型を割り当てるために用いられうる遺伝子発現の標準化パターンまたは特定の遺伝子の発現のレベルを意味する。参照または対照プロファイルは、所望の表現型を有すること、例えば、寛容性表現型、が知られている細胞/組織から得られるプロファイルであることができ、それゆえに、陽性参照または対照プロファイルでありうる。加えて、参照/対照プロファイルは、所望の表現型を有しないこと、例えば、非寛容性表現型、が知られた細胞/組織由来であることができ、それゆえに、陰性参照/対照プロファイルでありうる。
【0059】
特定の態様において、得られる発現プロファイルは、アッセイされることになっている細胞/組織の表現型に関する情報を得るために単一の参照/対照プロファイルと比較される。さらに他の態様において、得られた発現プロファイルは、アッセイされた細胞/組織の表現型に関する情報をより徹底的に得るために2つまたはそれ以上の異なる参照/対照プロファイルと比較される。例えば、得られた発現プロファイルは、細胞/組織が対象となる表現型を有するかどうかに関する確認された情報を得るために陽性および陰性参照プロファイルと比較されうる。
【0060】
得られた発現プロファイルおよび1つまたは複数の参照/対照プロファイルの比較は、任意の都合の良い方法を用いて行われることができ、様々な方法がアレイ分野における業者に公知であり、例えば、発現プロファイルのデジタル画像を比較することによる、発現データのデータベースを比較することによるなどである。発現プロファイルを比較する方法を記載した特許は、限定されるわけではないが、米国特許第6,308,170号および第6,228,575号を含み、それらの開示は参照により本明細書に組み入れられている。発現プロファイルを比較する方法はまた上に記載されている。
【0061】
比較段階は、結果として、得られた発現プロファイルが対照/参照プロファイルとどれくらい類似しているかまたは異なるかに関する情報を生じ、類似性/相違性情報が、アッセイされることになっている細胞/組織の表現型を決定し、それにより被験体における移植片生着を評価するために用いられる。例えば、陽性対照との類似性は、アッセイされた細胞/組織が移植片生着表現型を有することを示す。同様に、陰性対照との類似性は、アッセイされた細胞/組織が移植片喪失表現型を有することを示す。
【0062】
得られた発現プロファイルが比較される参照/対照プロファイルの型および性質に依存して、上記の比較段階は、アッセイされる細胞/組織に関する情報の様々な異なる型を生じる。それとして、上記比較段階は、アッセイされる細胞/組織の移植片生着表現型の陽性/陰性決定を生じうる。多くの態様において、アッセイされることになっている細胞/組織についての上記の得られた情報が、上記のように、移植片生着に関して宿主、被験体、または患者を診断するために用いられる。特定の態様において、移植片生着および喪失の決定/予測は、移植片およびその機能の追加の特徴の決定と結びつけられうる。例えば、特定の態様において、移植片喪失が起こるだろうかどうかだけでなく、例えば、CANまたはDTを介しての、移植片喪失の機構を予測できる。図4に示されたクラスターにおける最初の9つの遺伝子は、CANとDT間で高度に異なって発現している。それとして、これらの遺伝子の1つまたは複数を評価することは、これらの2つの重複条件が容易に区別されるのを可能にし、CANまたはDTの存在を容易に決定することができる。
【0063】
本方法はさらに、薬理ゲノム学的適用に使用を見出す。これらの適用において、被験体/宿主/患者は、最初、本発明に従って移植片機能について診断され、その後、診断の結果に少なくとも一部基づいて決定されたプロトコールを用いて処置される。例えば、宿主は、前のセクションに記載された診断プロトコールのようなプロトコールを用いて移植片生着表現型の存在または非存在について評価されうる。被験体は、その後、診断段階の結果を用いて適合性が決定されるプロトコールを用いて処置されうる。態様において、宿主がCANもしくはDTの存在または非存在について評価される場合、処置プロトコールは対応して、得られた結果に基づいて調整されうる。例えば、本方法が用いられてCANの存在を決定した場合、CANの処置について当技術分野において公知であるように、免疫抑制治療は調節されうる、例えば、増加されうる、または薬物が変更されうる。同様に、本方法が用いられてDTの存在を検出した場合、免疫抑制治療はDTの処置のために低減されうる。本方法の実施において、被験体は、典型的には、移植片(graft)または移植片(transplant)の受け取り後、移植片生着または喪失表現型の存在についてスクリーニングされる。被験体は、移植片受け取り後、1回または連続的に、例えば、毎週、毎月、隔月に、半年ごとに、毎年など、スクリーニングされてもよい。特定の態様において、被験体は急性拒絶(AR)の発生後スクリーニングされる。そのような態様において、方法は、AR後の被験体における最終的移植片喪失または生着を評価する(例えば予測する)ために用いられる。
【0064】
本方法は、移植被験体の様々な異なる型で用いられうる。多くの態様において、被験体は、肉食動物目(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモット、およびラット)、ウサギ目(例えば、ウサギ)、および霊長目(例えば、ヒト、チンパンジー、およびサル)を含む哺乳動物綱内である。特定の態様において、動物または宿主、すなわち、被験体(本明細書では患者とも呼ばれる)はヒトである。
【0065】
方法は移植片の様々な異なる型の生着を評価するために用いられうる。対象となる移植片は、限定されるわけではないが、以下を含む:移植された心臓、腎臓、肺、肝臓、膵臓、膵島、脳組織、胃、大腸、小腸、角膜、皮膚、気管、骨、骨髄、筋肉、膀胱、またはそれらの部分。
【0066】
表現型決定遺伝子の発現プロファイルのデータベース
移植片生着および/または移植片喪失表現型決定遺伝子の発現プロファイルのデータベースもまた提供される。そのようなデータベースは、典型的には、移植片寛容性表現型を有する様々な細胞/組織の発現プロファイル、陰性発現プロファイルなどを含み、そのようなプロファイルは下に記載されている。
【0067】
発現プロファイルおよびそのデータベースは、それらの使用を容易にするための様々な媒体で提供されうる。「媒体」とは、本発明の発現プロファイル情報を含む製造物を指す。本発明のデータベースは、コンピューター可読媒体、例えば、コンピューターにより直接的に読まれて、アクセスされうる任意の媒体に記録されうる。そのような媒体は、限定されるわけではないが、以下を含む:フロッピーディスク、ハードディスク記憶媒体、および磁気テープのような磁気記憶媒体;CD-ROMのような光学記憶媒体;RAMおよびROMのような電気的記憶媒体;ならびに磁気/光学記憶媒体のようなこれらのカテゴリーのハイブリッド。当業者は、現在知られているコンピューター可読媒体のいずれかが本データベース情報の記録を含む製造物を作製するためにどのようにして用いられうるかを容易に認識できる。「記録される」とは、当技術分野において公知であるような任意の方法を用いて、コンピューター可読媒体に情報を保存するための過程を指す。任意の都合の良いデータ記憶構造が、記憶された情報にアクセスするために用いられる手段に基づいて選択されうる。様々なデータ処理装置プログラムおよびフォーマットが、記憶のために用いられることができ、例えば、文書処理テキストファイル、データベースフォーマットなどである。
【0068】
本明細書に用いられる場合、「コンピューターに基づいたシステム」とは、本発明の情報を分析するために用いられるハードウェア手段、ソフトウェア手段、およびデータ記憶手段を指す。本発明のコンピューターに基づいたシステムの最小ハードウェアは、中央処理装置(CPU)、入力手段、出力手段、およびデータ記憶手段を含む。当業者は、現在利用できるコンピューターに基づいたシステムのいずれか一つが本発明における使用に適していることを容易に認識できる。データ記憶手段は、上記のような本情報の記録を含む任意の製造物、またはそのような製造物にアクセスできるメモリーアクセス手段を含みうる。
【0069】
入力および出力手段についての様々な構造フォーマットは、本発明のコンピューターに基づいたシステムにおける情報を入力および出力するために用いられうる。出力手段についての1つのフォーマットは、参照発現プロファイルとの様々な類似度を有する発現プロファイルをランク付けする。そのような提示は、当業者に類似性のランキングを提供し、検査発現プロファイルに含まれる類似度を同定する。
【0070】
試薬、系、およびキット
上記の方法の1つまたは複数を実施するための試薬、系、およびそのキットもまた提供される。本試薬、系、およびそのキットは大幅に変化しうる。対象となる試薬は、上記の表現型決定遺伝子の発現プロファイルの作成に用いるために特別に設計された試薬、すなわち、1つまたは複数の試薬から構成される遺伝子発現評価要素を含む。系という用語は、試薬の収集物を指すが、例えば、同じまたは異なる供給元から試薬の収集物を購入することにより、集められる。キットという用語は、いっしょに提供された、例えば、販売された、試薬の収集物を指す。
【0071】
そのような試薬の1つの型は、対象となる表現型決定遺伝子が提示されるプローブ核酸のアレイである。幅広い種類の異なるプローブ構造、基質組成物、および付着テクノロジーをもつ、様々な異なるアレイ形式は当技術分野において公知である。対象となる代表的なアレイ構造は、開示が参照により本明細書に組み入れられている米国特許第5,143,854号;第5,288,644号;第5,324,633号;第5,432,049号;第5,470,710号;第5,492,806号;第5,503,980号;第5,510,270号;第5,525,464号;第5,547,839号;第5,580,732号;第5,661,028号;第5,800992号;加えて、WO 95/21265;WO 96/31622;WO 97/10365;WO 97/27317;EP 373 203;およびEP 785 280に記載されたものを含む。
【0072】
特定の態様において、アレイは、表1および/または表2に列挙された遺伝子の少なくとも1個についてのプローブを含む。特定の態様において、アレイ上に提示される表1および/または表2からである遺伝子の数は、表1および/または表2に列挙された遺伝子の全部を含む、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも25個、少なくとも50個、少なくとも75個またはそれ以上である。本アレイは、表1および/もしくは表2に列挙されているそれらの遺伝子のみを含みうる、またはそれらは、発現パターンが、限定されるわけではないが、以下を含む追加の移植片特徴を評価するために用いられうる遺伝子についてのプローブのような、表1および/もしくは表2に列挙されていない追加の遺伝子を含みうる:急性拒絶;血液における慢性同種移植片傷害(慢性拒絶);薬物誘導性高血圧を含む免疫抑制薬物毒性または有害な副作用;腎臓病理学と関連がある、もしくはレシピエント年齢関連移植片許容性における違いの原因となる年齢または体格指数関連遺伝子;全血における免疫寛容マーカー;移植片転帰において役割を果たしうる免疫調節性役割をもつと文献検索で見出された遺伝子(例えば、代表的な追加の遺伝子のリストについて表3参照);加えて、例えば、試料品質(プローブ位置における3'偏り〜5'偏り)、生検に基づいた研究におけるサンプリングエラーを評定するための他のアレイアッセイ機能関連遺伝子、細胞表面マーカー、およびハイブリダイゼーション結果を較正するための標準化遺伝子など。本アレイがそのような追加の遺伝子についてのプローブを含む場合、特定の態様において、提示され、かつ移植に直接的にも間接的にも関連していない追加の遺伝子の%数は、約50%を超えない、通常には約25%を超えない。特定の態様において、追加の遺伝子が含まれる場合、コレクションにおける遺伝子の大多数は、移植片特徴付け遺伝子であり、大多数とは、コレクションにおける遺伝子の100%が表現型決定遺伝子である態様を含め、少なくとも約75%、通常には少なくとも約80%、および時々、少なくとも約85%、約90%、約95%またはそれ以上を意味する。移植片特徴付け遺伝子は、発現が、ある様式で、例えば、拒絶の存在など、移植片機能を特徴付けるために用いられうる遺伝子である。
【0073】
表現型決定遺伝子の発現プロファイルを作成するために特別に合わせられている試薬のもう一つの型は、そのような遺伝子を選択的に増幅するように設計されている遺伝子特異的プライマーのコレクションである。遺伝子特異的プライマーおよびその同じものを用いるための方法は、開示が参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,994,076号に記載されている。特に対象となるのは、表1および/または表2に列挙された遺伝子の少なくとも1個、しばしば、これらの遺伝子のうちの複数、例えば、少なくとも2個、5個、10個、15個またはそれ以上、についてのプライマーを有する遺伝子特異的プライマーのコレクションである。特定の態様において、コレクションにおいてプライマーを有する表1および/または表2からである遺伝子の数は、表1および/または表2に列挙された遺伝子の全部を含め、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも25個、少なくとも50個、少なくとも75個またはそれ以上である。本遺伝子特異的プライマーコレクションは、表1および/もしくは表2に列挙されているそれらの遺伝子のみを含みうる、またはそれらは、発現パターンが、限定されるわけではないが、以下を含む追加の移植片特徴を評価するために用いられうる遺伝子についてのプローブのような、表1および/もしくは表2に列挙されていない追加の遺伝子についてのプライマーを含みうる:急性拒絶;血液における慢性同種移植片傷害(慢性拒絶);薬物誘導性高血圧を含む免疫抑制薬物毒性または有害な副作用;腎臓病理学と関連がある、もしくはレシピエント年齢関連移植片許容性における違いの原因となる年齢または体格指数関連遺伝子;全血における免疫寛容マーカー;移植片転帰において役割を果たしうる免疫調節性役割をもつと文献検索で見出された遺伝子(例えば、代表的な追加の遺伝子のリストについて表3参照);加えて、例えば、試料品質(プローブ位置における3'偏り〜5'偏り)、生検に基づいた研究におけるサンプリングエラーを評定するための他のアレイアッセイ機能関連遺伝子、細胞表面マーカー、およびハイブリダイゼーション結果を較正するための標準化遺伝子など。本アレイがそのような追加の遺伝子についてのプローブを含む場合、特定の態様において、提示され、かつ移植に直接的にも間接的にも関連していない追加の遺伝子の%数は、約50%を超えない、通常には約25%を超えない。特定の態様において、追加の遺伝子が含まれる場合、コレクションにおける遺伝子の大多数は、移植片特徴付け遺伝子であり、大多数とは、コレクションにおける遺伝子の100%が表現型決定遺伝子である態様を含め、少なくとも約75%、通常には少なくとも約80%、および時々、少なくとも約85%、約90%、約95%またはそれ以上を意味する。
【0074】
本発明の系およびキットは、上記のアレイおよび/または遺伝子特異的プライマーコレクションを含みうる。系およびキットはさらに、標的核酸を作製するためのプライマー、前もって混合されているかもしくは分離されているかのいずれかでありうるdNTPおよび/またはrNTP、ビオチン化またはCy3もしくはCy5タグ付きのdNTPのような1つもしくは複数の固有に標識されたdNTPおよび/またはrNTP、異なる散乱スペクトルをもつ金または銀粒子、または蛍光色素の化学的活性誘導体のような他の合成後標識試薬、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼなどのような酵素、様々な緩衝媒体、例えば、ハイブリダイゼーションおよび洗浄緩衝液、作製済みのプローブアレイ、標識プローブ精製試薬、およびスピンカラムなどのような構成要素、シグナル発生および検出試薬、例えば、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ結合体、化学蛍光または化学ルミネセンス基質、などのような様々な方法に用いられる1つまたは複数の追加の試薬を含みうる。
【0075】
本系およびキットはまた、表現型決定要素を含むことができ、その要素は、多くの態様において、例えば、上記の遺伝子発現評価要素をもつと決定されている、「入力」発現プロファイルに基づいて表現型を決定するために、例えば、適した計算手段により、用いられうる参照または対照発現プロファイルである。代表的な表現型決定要素は、上記のように、発現プロファイル、例えば、参照または対照プロファイルのデータベースを含む。
【0076】
上記構成要素に加えて、本キットはさらに、本方法を実施するための使用説明書を含む。これらの使用説明書は、様々な形をとって本キットに存在することができ、それらの1つまたは複数がキットに存在しうる。これらの使用説明書が存在しうる1つの形は、適した媒体または基材上の印刷情報として、例えば、キットのパッケージにおいて、包装挿入物においてなどの情報が印刷されている1枚または複数枚の紙、である。さらにもう一つの手段は、情報が記録されているコンピューター可読媒体、例えば、ディスケット、CDなど、である。存在しうるさらにもう一つの手段は、離れた場所で情報にアクセスするためにインターネットを経由して用いられうるウェブサイトアドレスである。任意の都合の良い手段がキットに存在しうる。
【0077】
以下の実施例は、例証として提供され、限定としてではない。
【0078】
実験
I. 序文
この研究の目的は、遺伝子発現マーカーが、AR後の将来的移植片喪失を予測する末梢血白血球(PBL)または腎生検から抽出されたRNAにおいて同定されうるかどうかを判定することであった。
【0079】
II. アレイ実験
各マイクロアレイは、およそ12,440個のヒト遺伝子を提示するおよそ32,000個のDNAスポットを含んだ。全RNAを、全血試料から単離された軟膜から単離した(Tri Reagent; MRC Inc., Cincinnati, OH)。共通参照RNAプール(Perou et al., Nature (2000) 406:747-52)を内部標準として用いた。試料または参照RNAを、Wang et al(完全な引用を提供してください)により記載された方法に基づいた改良プロトコールを用いてマイクロアレイへのハイブリダイゼーションの前に増幅の連続した2ラウンドに供した。62個の腎生検試料および56個の全血試料についてのアレイデータを、Stanford Microarrayデータベース(Sherlock et al., Nuc. Acids Res. (2001) 29:152-55)に保存し、遺伝子リストを、高忠実度をもつ発現マーカーを提供するように検索においてフィルターにかけた。試料の2つの群を2つの別々の研究において分析した。すべてのPBLを、最初の教師なし階層的クラスター分析(Eisen et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA (1998) 95:14863-8)に、その後の群間の教師あり分析(マイクロアレイの有意分析(Significance Analysis of Microarrays);SAM(Tusher et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA (2001) 98:5116-21)に、用いた。
【0080】
III. ARクラス予測およびリスク評定のための最小遺伝子セットのカスタマイズ
本発明者らは、マイクロアレイの予測分析(Predictive Analysis of Microarrays)(PAM)(Tusher et al., 前記)を用いて腎生検データセット内で97個の遺伝子のみを同定したが、すべてが発現レベルにおいて>5倍の差を有し、割り当てられた表現型に100%一致して本発明者らの26個のAR試料の学習セットを分類している。3,170個の示差的に発現している遺伝子のより大きなセットを用いるもう一つの分析は、類似した能力を有する33個の分類子(classifier)を同定する(図1Aおよび1B)。診断シグネチャーの再現性は、特にAR-1試料の大部分内において、クラスター樹状図における短枝により明らかである。AR発現は、クラスター分析により、ならびにRANTES、MIC-1、いくつかのサイトカイン、ケモカイン、および細胞接着分子を含むいくつかのTGF-β調節遺伝子の示差的発現により証明されているように、感染に対する生得的な免疫応答と重複する。AR-1は、移植片喪失の最高率およびB細胞特異的遺伝子の最高発現をもつ最も重度のクラスである。AR-2は、薬物毒性シグネチャーに似ており、また、活発なウイルス感染をもつ患者と共にクラスター形成する。AR-3の最も顕著な特徴は、活発な組織修復および再生を示唆する、細胞増殖ならびに細胞周期に関与する遺伝子の発現である。増殖性細胞核抗原(PCNA)、細胞増殖のマーカー、の存在が、試験されたすべてのAR-3試料において確認された(Sarwal et al. New Engl. J. Med. 2003 349(2):125-38)。
【0081】
PAM分類スコアは、割り当てられたクラスに100%一致して試料を分類し、報告されたスコアは、クラスター形成された試料と整列している(図1B)。加えて、PAMにより選択されたすべての33個の遺伝子は、それらがカスタマイズされたアレイリストについて高度に有意なバイオマーカーであることを示唆する、0.09%またはそれ未満のマイクロアレイの有意分析の有意スコアを有する。
【0082】
A. PAMクラス予測
PAMクラス予測もまた、移植片回復および移植片喪失についての推定バイオマーカーを同定するための強力なアプローチであることがわかっている。本発明者らは、コックス回帰およびPAMの両方を用いて、発現差を移植片転帰と大変首尾よく相関させている。両方の方法は、カプラン-マイヤー生着分析において有意な結果を生じているが、PAMにより同定された最初の2年の追跡遺伝子もまたより高い有意性を生じている。(図2−移植片喪失(赤色)および喪失なし(青色)についてのカプラン-マイヤー生着分析。遺伝子はICAM5-図2A;(p=0.007)、IL6R;図2B;(p=0.003)、STAT1;図2C;(p=0.036)、およびSTAT6;図2D;(p=0.020)を含む)。
【0083】
遺伝子シグネチャーは、細胞接着遺伝子、選択されたサイトカイン、B細胞遺伝子、STATシグナル伝達経路における代表、ならびにクラスIおよびクラスIIの両方のHLA遺伝子の複数の代表を含むいくつかの免疫応答遺伝子の発現の増加により支配される。
【0084】
代表的な遺伝子は、HLAクラスI(HLA-F、HLA-G)、HLAクラスII(HLA-DRB1、HLA-DRB5、HLA-DRB4)からのもの、シグナルトランスデューサー(STAT1、STAT6)、免疫グロブリン遺伝子(IGKC、IGHG3)、および2個のインターフェロンγ誘導遺伝子(ICAM5、IL6R)を含む。
【0085】
同様のアプローチが、全血試料において移植片喪失マーカーを同定するために用いられた。血液における最も高度に予測する有意遺伝子のリストは、カプラン-マイヤー生着有意スコアを含め、表4に要約されている。
【0086】
(表4)
【0087】
これらの遺伝子のうちの8個についてのカプラン-マイヤー生着曲線は図3に示されている。図3における遺伝子は、A)AHSA2、B)IGHG1、C)IFNAR2、D)IGKC、E)HIST1H2BC、F)IL1R2、G)MAPK1、およびH)MAPK9を含む。
【0088】
遺伝子オントロジー(Gene Ontology)アノテーションの分析により予測された、急性拒絶と関連した遺伝子の機能的組成物は表5に要約されている。
【0089】
(表5)
【0090】
急性拒絶後の移植片喪失を予測する全血における既知の遺伝子の完全リスト(ランク付けされた順序で)は表1に要約されている。最も高い予測力を有すると同定された81個のcDNAクローンのうちで、62個が既知の機能をもつ、または固有のユニジーンクラスターIDを割り当てられている。同様に、急性拒絶後の移植片喪失を予測する腎生検において同定された既知の遺伝子のリストは表2に要約されている(50個のcDNA関連クローン由来の既知機能の30個の独自の遺伝子を含む)。
【0091】
IV. 移植片カスタム発現チップ、TxChipの作製
本発明者らは、臨床転帰および以下の重症度と関連していることが同定された他の発現に基づいたマーカーと共にARおよび移植片喪失について本文書において記載された遺伝子リストを編集している:
1. 急性拒絶−AR後の移植片喪失および/または腎機能の回復率と関連したマーカーを含む(表3);
2. 血液における慢性同種移植片傷害(慢性拒絶)(表3);
3. 薬物誘導性高血圧を含む免疫抑制薬物毒性または有害な副作用(表3);
4. 腎臓病理学と関連がある、もしくはレシピエント年齢関連移植片許容性における違いの原因となる年齢または体格指数関連遺伝子(表3);
5. 全血における免疫寛容マーカー(表3);
6. 試料品質(プローブ位置における3'偏り〜5'偏り)、生検に基づいた研究におけるサンプリングエラーを評定するための対照遺伝子、細胞表面マーカー、およびハイブリダイゼーション結果を較正するための標準化遺伝子
7. 表3に列挙された遺伝子に対するプローブを有する代表的なアレイのためのリストを作成するために、移植片転帰において役割を果たしうる免疫調節性役割をもつと文献検索で見出された遺伝子(表3)。
【0092】
A. 腎生検の試験的研究に渡る発現均一性の試験
本発明開示に記載された遺伝子マーカーの同定において、本発明者らは、本発明者らの研究所により詳細に記載された67個の腎生検のセットに渡って発現を比較した。生検によってもたらされた遺伝子発現マーカーのサブセットを、クラスター形成させて用い、DT、CAN、ARの確認された症例をもつ、および有意な異常がない(正常)患者において発現プロファイルを比較した。これらの患者は、2つの非常に異なる免疫抑制療法、ステロイドに基づいているかまたはステロイドを含まないかのいずれか((Sarwal et al., Transplantation (2001) 72:13-21)で以前に記載された臨床療法、およびSarwal et al., Transplantation (2003) 76:1331-9)を受けていた。
【0093】
図4は、遺伝子発現レベルが患者群間内で十分、分離しているため、遺伝子発現が一般的に、分析された全部の臨床群に渡って均一/一貫していることを示している。さらに、各群(DT、CAN、AR、または正常)内において、これらのマーカー遺伝子の発現レベルは免疫抑制使用と無関係である。
【0094】
表3の479個の遺伝子リストは、カスタマイズされた主題的移植片チップ(TxChip V1)についての設計および特異化を含み、これらの遺伝子についての完全長mRNA配列は表3に列挙されている。遺伝子一覧表は、上で列挙された研究と相互参照されている。本発明者らは、情報を与える遺伝子のリストにおいて適度の重複を観察している。例えば、IGHMの発現レベルは、急性拒絶リスクと正に相関し、免疫寛容と負に相関している。共通のプラットフォーム上での遺伝子の完全な編集を有することの利点は、このような新しい発見が将来の研究において生み出されうることである。
【0095】
本発明は、被験体における移植片が、例えば、急性拒絶後に、生存するだろうかどうかを判定する便利かつ効果的な方法を提供していることは明らかである。それとして、本発明は、異なる治療応答および予後をもつ臨床的に関連したAR群を同定する能力を含む、いくつかの明確な利点を提供し、個別化された処置およびモニタリングを可能にする。それとして、本発明は当技術分野への意義深い貢献を表している。
【0096】
前記の発明は、理解の明快さのために例証および実施例としてかなり詳細に記載されているが、添付された特許請求の範囲の真意または範囲から逸脱することなく、特定の変化および改変がそれらになされうることは、本発明の教示を鑑みれば当業者にとって容易に明らかである。
【0097】
従って、前述は単に、本発明の原理を例証するのみである。本明細書に明確には記載されていない、または示されていないが、本発明の原理を具体化し、かつその真意および範囲内に含まれる様々なアレンジを当業者が工夫することができるだろうことは認識されているものと思われる。さらになお、本明細書に列挙されたすべての例および条件付き言語は、主として、読者が本発明の原理、および本発明者らによって当技術分野を推進するのに貢献する概念を理解するのを助けることを意図され、そのように具体的に列挙された例および条件に限定されないと解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、局面、および態様、加えてその特定の例を本明細書に列挙するすべての記述は、それらの構造的および機能的等価物の両方を含むことを意図される。加えて、そのような等価物は、現在公知の等価物および将来に開発される等価物、すなわち、構造に関わらず、同じ機能を実行する、開発される任意の要素、の両方を含むことが意図される。それゆえに、本発明の範囲は、本明細書に示された、および記載された例示的な態様に限定されるものではない。むしろ、本発明の範囲および真意は添付された特許請求の範囲により具体化される。
図1
図2
図3
図4