【実施例】
【0076】
実施例1.小川血清型および稲葉血清型両方のO1抗原を含むコレラ菌細胞を含むワクチンの調製および検査
小川血清型および稲葉血清型両方のO1抗原を発現するように遺伝的に改変されたコレラ菌JS1569株(稲葉型)を含むワクチンが、小川型LPSおよび稲葉型LPSと反応する異なる比率の抗体で抗体応答を起こすかどうかを、ELISAにおいて、JS1569稲葉型親株による免疫化後の抗体応答と比べて検査した。
【0077】
実施例2に由来する細菌(下記を参照されたい)は、ホルマリンで死滅させ、免疫化のために使用した。ホルマリンによる細菌の死滅化および経口免疫化ならびにアッセイ法は、以前に説明されているようにして実施した(Nygren E, Li BL, Holmgren J, Attridge SR. Infect Immun. 2009 Aug;77(8):3475-84)。簡単に説明すると、ホルマリンで死滅させた細胞3×10
8個(WbeT株のためのアジュバントと共に)の1日2回投与を2週間間隔で3回行ってBalb/cマウスを免疫化し、最後の免疫化から1週間後にマウスを屠殺して血清を採取し、稲葉型LPSまたは小川型LPSのいずれかでコーティングしたELISAプレートにおける合計したIgG/IgM抗体力価を検査した。
【0078】
この結果を下記の表に示す。抗稲葉型力価が抗小川型力価よりもわずかに高かったJS1569稲葉型親株の抗体応答とは対照的に、JS1569/野生型Wbe S158Sワクチンの抗体応答では、抗稲葉型特異的抗体も少しは形成したが、抗稲葉型力価よりも抗小川型力価がはるかに高かったことが示されている。
【0079】
これらの知見は、アジュバント無しで皮下に免疫化を実施した場合に確認された。JS1569稲葉型親株による免疫化とは著しく異なり、かつ小川型A457参照株による免疫化により類似した、JS1569 WbeTによる免疫化は、下記の表に示すように、小川型特異的な抗体の比率が多い免疫血清を生じた。
【0080】
実施例2:変異WbeTタンパク質の発現により小川血清型および稲葉血清型両方のO1抗原を発現する、遺伝的に改変されたコレラ菌細胞:プラスミドに基づいた変異WbeTタンパク質の発現
GenBankにおける彦島株由来のwbeT遺伝子の1エントリには、タンパク質の158位のセリンをプロリンに変換する変異(S158P)が存在するが、同じ変異は、稲葉血清型であると同定された株においても記載されている(それぞれ、GenBankアクセッション番号FJ619106およびDQ401028)。プライマーwbeT1 EcoRI
およびwbeT2 HindIII
を用いてO1 El Tor小川型VX44945株から野生型wbeT遺伝子を増幅し、Eco31Iでこれを消化して、pAF1()に由来する発現ベクター中にクローニングし、ここで、クローニングされた遺伝子は、EcoRIおよびHindIIIで消化しておいた強力な合成tacプロモーターの制御下に置かれた。この遺伝子の配列を、プライマーwbe1
およびwbe2
を用いたプラスミドのDNA配列決定によって確認した。
【0081】
野生型wbeT遺伝子のDNA配列をSEQ ID NO:5に示し、野生型タンパク質をSEQ ID NO:6に示す。
【0082】
野生型wbeTを発現するプラスミド(pML-wbeTtac)の配列全体をSEQ ID NO:7に示す。
【0083】
遺伝子産物のアミノ酸158位に変異を有するwbeTの変異体ライブラリーを構築するために、オリゴヌクレオチドwbeT m3
およびwbeT m1
を合成した。これら2つのオリゴヌクレオチドを等モル量で混合し、室温で一晩、アニールさせた。過剰なデオキシリボヌクレオチド3リン酸の存在下でT4 DNAポリメラーゼを用いて短いwbeT m3プライマーを伸長させることにより、完全長二重鎖DNAを作製した。得られた断片をBsp119IおよびVan91Iで消化し、同じ酵素で消化したpML-wbeTtac(SEQ ID NO:7)に連結した。連結したDNAを用いて、市販のエレクトロコンピテントな大腸菌株DH12S(Invitrogen)を形質転換させた。抗生物質選択を行わずにインキュベートした後、アンピシリン(100μg/ml)を追加した選択的LB寒天プレート上に少量のアリコートを塗布した。残りの細胞を新鮮なLBブロスで25mlに希釈した。最終濃度が100μg/mlとなるようにアンピシリンを添加し、クローンライブラリーを得るために培養物を37℃で一晩増殖させた。得られた培養物のアリコートに最終濃度が17%となるようにグリセロールを追加し、-70℃で保存した。他のアリコートはプラスミドDNAを調製するために使用した。
【0084】
LB寒天プレート上で得られたコロニーを採取して新しいプレートに移し、コロニーを培養してプラスミドDNAを調製した。wbeT遺伝子が変異を有するかどうか判定するために、これらのプラスミドを配列決定した。このライブラリーから得られたwbeTの変異体は以下である:S158G、S158P、S158V、S158I、S158L、S158A、S158T、S158M、S158W、S158R、S158C、およびS158F。さらに、野生型遺伝子および158位に停止シグナルTGAを有する遺伝子も単離した。
【0085】
様々なプラスミドを単離し、O1の古典的稲葉型株JS1569を形質転換するために使用した。この株は、タンパク質の219位のグリシン(GGA)が停止コドン(TGA)に変更された変異wbeT遺伝子を有し、これにより短縮型かつ不活性な産物を生じる(SEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11)。
【0086】
全く重要ではないと思われる他の多型が存在する。
【0087】
様々な組換えプラスミドの導入によって作製された様々な株が、誘導条件下(1mM IPTGの存在下)で増殖させた場合に、異なるレベルの小川型抗原を発現した。凝集アッセイ法に基づいて、および場合によっては阻害ELISAを用いて(材料および方法の説明については実施例5を参照されたい)、表現型を調べた。野生型遺伝子は、ほぼ全体的な血清型スイッチングを起こしたのに対し、他のもの(S158PおよびS158Gなど)は、小川型特異的抗血清とおよび稲葉型特異的抗血清と、わずかではあるが検出可能な凝集を示した(したがって、彦島血清型を与えた)。一部の変異体は、小川型特異的抗血清に対して検出可能な活性を有さなかった(S158IおよびS158C)が、さらにその他は中程度の凝集を示した(S158T、S158F、およびS158W)。
【0088】
これらの結果から、wbeT遺伝子産物の変異、具体的には158位での変異により、酵素活性の改変されたタンパク質が生じることが、明らかに実証される。現在のところ、野生型と比べてこれら変異体の酵素活性レベルを定量的に直接測定するための信頼性が高いアッセイ法はないが、実施例5のように、関連する最終結果を容易に評価することができる。要約すると、S158CおよびS158Iを除くすべてが、宿主株の稲葉表現型をある程度まで補完することができた。
【0089】
実施例3:変異WbeTタンパク質の発現により小川血清型および稲葉血清型両方のO1抗原を発現する、遺伝的に改変されたコレラ菌細胞:変異wbeTの染色体挿入
JS1569株の短縮型染色体wbeT遺伝子を、実施例2で作製した変異遺伝子で置換した。プライマーwbeT1 BlgII(SEQ ID NO:1)およびwbeT2 BglII(SEQ ID NO:2)を用いて、関連する変異遺伝子を増幅させた。増幅された断片をBglIIで消化し、BamHIで消化しておいた自殺ベクターpMT-SUICIDE(SEQ ID NO:12)に連結した。これは、M. Lebensが本発明者らの研究室で構築したR6Kベースの小型自殺ベクターであり、クロラムフェニコール耐性遺伝子と広宿主域プラスミドRP4由来の伝達起点(oriT)とを有し、ヘルパープラスミド(pNJ5000; Grinter NJ, Gene. 1983 Jan-Feb;21(1-2):133-43)の助けを借りてプラスミドがコレラ菌株に接合伝達されることを可能にするものである。
【0090】
作製したクローンにおいて、wbeT遺伝子(S158Gおよび野生型)はどちらも、クローニングされる遺伝子がcat遺伝子と反対の向きになるように挿入された。このようなベクターの配列を、SEQ ID NO:13(野生型wbeT遺伝子を有する;S158Gのための構築物は、WbeT残基158をコードするヌクレオチドを除いて同一である)に例示する。
【0091】
得られたプラスミドをJS1569株内に接合させ、クロラムフェニコール耐性およびリファンピシン耐性に基づいて選択した。該プラスミドの消失に関する対抗選択がないため、該プラスミドが相同組換えによって染色体中に挿入されると、該プラスミドによって隔てられたwbeT遺伝子のタンデムコピーが生じる。組換えが起こった部位に応じて、クローンは異なる表現型を示した(実施例5を参照されたい)。
【0092】
野生型遺伝子が挿入された株(1342)は、明らかな彦島型の表現型を有していた。阻害ELISAにより、S158G変異体が挿入された株の表面では小川型LPSの15%しか発現しないことが示された。後者の株(1356)は実質的に、小川型特異的な抗血清で著しく凝集するが稲葉型特異的な抗血清では全く凝集しない、小川型株であった。
【0093】
しかし、これらの株は非常に安定であり;これらはLPS血清型を保持し、選択が無い場合にでさえクロラムフェニコール耐性のままであったことから、該プラスミドは容易に消失しないことが示唆された。
【0094】
wbe1プライマーおよびwbe2プライマー(それぞれSEQ ID NO:3および4)を用いたPCRおよび配列決定により、変化した株には、宿主中に存在する遺伝子と導入されたものとの間の変化部位において異なる2つの遺伝子が存在することが示された。wbeT遺伝子のタンデムコピーが存在する場合にのみ増幅を可能にするプライマーwbeTfor 87>;
およびwbeT rev 51<;
を用いた増幅および配列決定によって、近位の遺伝子(アミノ酸87番目から)の3'末端およびアミノ酸51番目までの遠位の遺伝子の5'末端ならびに間に挟まれたプラスミドを増幅することに成功した。wbeTfor 87>;プライマーを用いた配列決定により、1342株では、天然のプロモーターに隣接したwbeT遺伝子が短縮型の宿主遺伝子であることが示された。遠位の遺伝子は野生型配列を有していたがプロモーターは有さなかった。野生型遺伝子が潜在的プロモーターから極めて低いレベルで発現されていたため、この配置により彦島表現型が得られた。
【0095】
小川型1356株では、配置が異なっていた。組換えの結果、天然のwbeT遺伝子が天然のプロモーターから発現され、変異S158G遺伝子は遠位に配置され、したがってプロモーターには全く認識不可能となった。この遺伝子のコピーはどちらも、219位の停止コドンを失っているようであるが、この変異は表現型には明らかな影響を与えなかった。
【0096】
実施例4:低レベルの天然WbeTタンパク質を発現させることにより小川血清型および稲葉血清型両方のO1抗原を発現する、遺伝的に改変されたコレラ菌細胞
実施例2で説明した変異wbeTに関する実験に関連して、野生型wbeTを有する対照プラスミドが、JS1569株の変異遺伝子を、それが誘導されていない場合でさえ部分的に補完できることに注目した。これにより、野生型遺伝子の存在下でさえ彦島血清型がもたらされたことから、発現レベルを制限することによって(この場合、tacプロモーターを抑制されたままにし、かつ誘導因子の非存在下で起こる突破的(breakthrough)発現のみを可能にすることによって)、該表現型を実現できることも実証された。
【0097】
実施例3において、クローン1342は、潜在的プロモーターから発現される、染色体に組み込まれた野生型遺伝子を有しており、これによって彦島血清型が得られた。これらの結果から、野生型遺伝子を極めて低いレベルで発現させることによって彦島血清型がもたらされ得ることが裏付けられる。
【0098】
実施例5:遺伝的に改変されたコレラ菌細胞の表現型の特徴付け
野生型WbeTメチラーゼタンパク質(JS1569/S158S株)または158位にS→G(JS1569/S158G株)もしくはS→A(JS1569/S158A株)の変異を有するWbeTタンパク質をコードする変異wbeT遺伝子のいずれかをコードするプラスミドを含むように改変しておいたコレラ菌JS1569株(稲葉型)をLB寒天プレート上で増殖させ、稲葉型O抗原および小川型O抗原にそれぞれ特異的な抗体による凝集について、単一コロニーを試験した。
【0099】
これらの抗体は、精製した小川型LPSおよび稲葉型LPSそれぞれでウサギを最初に免疫化し、次いで、交差反応性抗体を除去するために、異種血清型のホルマリン死菌で血清を大規模に吸収させた後に得られた。吸収後、小川型特異的な抗血清は、小川血清型の参照コレラ菌細胞の著しい凝集を起こしたが、稲葉型細胞を凝集させることはできなかった。稲葉型特異的な血清については、逆もまた同様であった。
【0100】
標準的な方法によって凝集試験を実施した。手短に言えば、試験株の新しいプレートから得た単一コロニーを生理食塩水緩衝液50〜100μlに懸濁し、懸濁液10μlを顕微鏡スライドに載せた。次いで、適切に希釈した特異的抗血清10μlを添加し、凝集がはっきりと視認できるようになるまで最長5分間、スライドを前後に傾けることによって細胞と混合した。各検査結果を、参照稲葉型株および参照小川型株に由来する細胞からなる陰性対照および陽性対照と比較した。
【0101】
さらに、血清を緩衝液で置き換えた、自発的凝集に関する対照を、各試験株について実施した。結果を下記の表に示す。この結果から、野生型WbeTタンパク質をコードするプラスミドを含むJS1569/S158S株は稲葉血清型から小川血清型へと完全にスイッチングし、WbeTの158SがGへ変異したJS1569/S158G株は小川型を強く発現したものの稲葉型の反応性も検出可能であり、WbeTの158SがAへ変異したJS1569/S158Aはごくわずかな小川型の反応性しか有さないことが示された。
【0102】
これらの結果は、同じ株のホルマリン死菌を、同じ血清による凝集に関して試験した際に確認された。またこれは、ホルマリン死菌を、細菌表面における稲葉型抗原および小川型抗原の量的発現についてELISA阻害法によって試験した際にも確認され適用された。この方法は次のようにして実施した:5μg/mlの精製小川型LPSのPBS溶液をウェル1つ当たり100μl加えて一晩インキュベートすることによって、Greiner Bio-oneのHigh bindingプレートを小川型LPSでコーティングした。OD
6001.00のホルマリン死菌200マイクロリットルで開始し;PBS中の5倍の連続希釈物7種を(1:15625まで希釈)、8種目として細胞を含まないブランク試験管と共に作製した。PBS、0.2%BSA中で適切に希釈した等量の抗小川型血清と各希釈物150マイクロリットルとを混合した。これらの試料を振盪せずに室温で1時間インキュベートした。コーティングされたプレートをPBSで2回洗浄し、ウェル1つ当たり200μlのPBS、0.1%BSAで30分間、37℃でブロッキングした。20,000xgで5分間遠心分離することによって懸濁液から細胞を除去し、ブロッキングしたプレートに上清100マイクロリットルを添加した。細胞も抗小川型血清も含まずPBS、0.1%BSAを含むブランクを全プレートに含め、試料はすべて2通りで試験した。室温で1時間、プレートをインキュベートし、次いで、PBS、0.05% Tween20で3回洗浄した。PBS、0.1%BSA、0.05%Tween20中で適切に希釈したヤギ抗ウサギIgG 100マイクロリットルを各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。PBS、0.05%Tween20でプレートを3回洗浄した後、pH4.5の0.1Mクエン酸中の0.1%オルトフェニレンジアミン(OPD)および0.012%H
2O
2の基質溶液を添加した。10分後、490nmの吸光度を読み取った。
【0103】
下記の表に示す結果を用いて、50%阻害をもたらす細菌希釈率を推定し、1:25の細菌希釈物による吸光度阻害率(%)も推定した。これらの結果から、野生型WbeTをコードするwbeT遺伝子を含むJS1569/S158S株が特異的抗小川型血清を効率的に阻害できたのに対し、単一変異を有するwbeT遺伝子を含む株もまた、中程度の活性で(JS1569/S158G)またはやっと検出可能な程度に(JS1569/S158A)抗小川型血清を阻害できたことが示される。
【0104】
それぞれWbeTおよびS158Gをコードするプラスミドに基づく、JS1569の組換え派生株2種、すなわち1356(野生型WbeT)および1342(S158G WbeT)を得た。これらの派生株では、変異wbeT遺伝子が染色体中に安定に挿入されることにより、予想外であるが安定な表現型を与えていた。これらの株の説明および記載に関しては、上記の実施例を参照されたい。これらの株および適切な参照株を、小川型発現を分析するためにコロニーブロット法に供した。変異wbeT遺伝子を含む株を対照の稲葉型株および小川型株と共にLB寒天プレート上に区画分けして塗布し、37℃で一晩増殖させた。PBSで濡らしたニトロセルロース膜を、増殖したコロニーがあるプレート上に貼り付け、室温で15分間放置した。この膜を紙片の上で5分間放置して乾燥させた後、PBS中1%ウシ血清アルブミン(BSA)10mlによる室温で20分間のブロッキングを2回実施した。ブロッキング液を廃棄し、0.1%BSAおよび0.05%Tween20を含むPBSにおける抗小川型血清の適切な希釈物10mlで置き換えた。振盪台上で室温で2時間、膜をインキュベートした。次いで、0.05%Tween20を含むPBSで膜を3回洗浄した後、0.05%Tween20を含む0.1%BSA含有PBS中の西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(Jackson Immunoresearch Laboratories Inc.)を添加し、穏やかに撹拌しながら室温で2時間インキュベートした。
【0105】
PSB、0.05%Tween20中でさらに3回洗浄し、PBSのみで1回洗浄した後、500mM NaClおよび16.7%メタノールを含む20mM Tris-HCl(pH7.5)中の0.05%4-クロロ-1-ナフトールおよび0.015%H
2O
2を用いて15分間、膜を発色させた。次いで、それを水道水で入念に洗浄し、紙片上で放置して乾燥させた。発色した膜のデジタル写真を撮影し、コンピューターシステムを用いて染色密度を測定した。
【0106】
表の結果から、1356株が小川型参照株とほぼ同じ多さの小川型抗原を発現したのに対し、1342株はそれより実質的に少ない量の小川型抗原を発現したことが示される。表にも示すように、これらの知見は、上記のように実施した阻害ELISAによって、これらの株のホルマリンで死滅させた調製物を小川型抗原の定量的発現に関して試験した際にさらに確認された。
【0107】
実施例6:彦島血清型を得るための内因性wbeT遺伝子の遺伝的改変
上記の実施例で提示した株は安定であり、所望の表現型を明らかに有しているが、彦島表現型を得る代替的な方法とは、内因性遺伝子において正確な(true)遺伝子置換を実施することである。内因性の活性なwbeT遺伝子産物の158位における適切な変異(上記のとおり)もまた、活性を減弱させ、したがって彦島血清型をもたらす。これにより、実施例5および最適な免疫原性特性に関する免疫化実験においてのように彦島型発現について試験できる、様々な小川型発現レベルを有する一連の変異体が生じると考えられる。
【0108】
言及したように、pMT-SUICIDEベクターは適切な対抗選択遺伝子を欠き、該プラスミドを有さずかつ所望の遺伝子および表現型は保持している派生体を単離するのは難しいことが判明している。このため、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のsacB遺伝子を有する新しい自殺ベクターを構築することにより、該プラスミドを失った株をショ糖含有プレート上での選択によって単離することを可能にした。これは、グラム陰性菌におけるsacB遺伝子産物の発現は致死的であるため、および、wbeT遺伝子の2つのコピー間での相同組換えが原因で該プラスミドを失った細胞に由来するコロニーのみが生き残ると考えられるためである。該プラスミドpMT-SUICIDE/sacB(SEQ ID NO:16)は、同じ機能を有する同等のプラスミドよりはるかに小さく、はるかに使いやすい。
【0109】
野生型wbeT遺伝子およびいくつかの変異wbeT遺伝子をこの新しいベクター中にクローニングした。これらを、前記と同様にJS1569株ならびに適切な小川型株のような他の株内に接合させる。
【0110】
正確なクローンを得る確率を最適化するために、トランス接合実験により得られた部分二倍体の遺伝子配置を解析した後、組換えによってプラスミドを失った株をさらに選択するために候補株を選択する。
【0111】
実施例7:ハイブリッドCFA/I+CS2の発現
大腸菌TOP10株およびコレラ菌JS1569株が、ETECの主要定着因子の内の1つ、すなわちCFA/I線毛をそれらの表面で発現できることが最近示された(Tobias J, Lebens M, Bolin I, Wiklund G, Svennerholm AM. Vaccine. 2008 Feb 6;26(6):743-52)。CFA/Iを含む発現ベクターをエレクトロポレーションにより上記株に導入した後、ドットブロットアッセイ法によって表面での発現を検出した。
【0112】
また、大腸菌TOP10がCFA/IおよびCS2(すなわち、ETECのさらなる主要定着因子)両方の主要サブユニットを含むハイブリッド線毛を発現できることも最近示された(Tobias J, Svennerholm AM, Holmgren J, Lebens M. Appl Microbiol Biotechnol. 2010 Jul;87(4))。
【0113】
したがって、本発明者らは、コレラ菌JS1569における同じハイブリッド線毛の発現の実現可能性を検討した。前述の発現ベクターpJT-CFA/I-CotAでこの株をエレクトロポレーションした(Tobias et al. 2008, 前記; Tobias J, Holmgren J, Hellman M, Nygren E, Lebens M, Svennerholm AM. Vaccine. 2010 Aug 20. (印刷版に先立つ電子版))。
【0114】
次いで、クロラムフェニコール(12.5μg/ml)およびIPTG(1mM)を添加したLBプレート2枚に50コロニー(クローン)を画線し、その後、37℃で一晩インキュベートした。次いで、CFA/Iに対する特異的モノクローナル抗体(MAb)1:6およびCS2に対するMAb10:3をコロニーブロットアッセイ(Tobias et al, 2010, 前記)に加えて、コレラ菌JS1569におけるハイブリッドCFA/I-CotA線毛の表面発現を検査した。次いで、これらのブロットを発色させ、試験したコレラ菌JS1569の50クローンすべてにおいて、ハイブリッドCFA/I-CS2線毛の表面発現についての陽性シグナルを示した。
【0115】
したがって、小川血清型および稲葉血清型両方のO1抗原を発現するように操作された同一細胞において抗原性ハイブリッド線毛の発現を組み合わせることが可能である。