特許第6178388号(P6178388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6178388レーザ手術において眼へのインタフェースを提供する装置、システム及び技術
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178388
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】レーザ手術において眼へのインタフェースを提供する装置、システム及び技術
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/009 20060101AFI20170731BHJP
【FI】
   A61F9/009
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-237686(P2015-237686)
(22)【出願日】2015年12月4日
(62)【分割の表示】特願2013-157034(P2013-157034)の分割
【原出願日】2008年9月10日
(65)【公開番号】特開2016-64149(P2016-64149A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2015年12月17日
(31)【優先権主張番号】60/971,177
(32)【優先日】2007年9月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510060361
【氏名又は名称】アルコン レンゼックス, インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【弁理士】
【氏名又は名称】利根 勇基
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】カーツ,ロナルド,エム.
【審査官】 川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−262550(JP,A)
【文献】 特表2004−531344(JP,A)
【文献】 特表2006−502410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/009
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ手術する眼の圧平のためのデバイスにおいて、
光を供給する光学モジュールとは別体であるが該光学モジュールに取付可能な取付フレームと、
眼を保持し、前記光学モジュールから供給される光を透過させるリング開口を有し、前記リング開口において圧平レンズを受け入れるように構成された固定リングと、
前記固定リングを前記取付フレームに連結し、前記圧平レンズを受け入れて該受け入れた圧平レンズを摺動させることによって該圧平レンズを前記リング開口に案内するように構成される1つ以上のガイドと、
前記固定リング上に設けられたロックメカニズムであって、前記圧平レンズを前記固定リングにロックするロックメカニズムとを備えるデバイス。
【請求項2】
前記固定リングは、吸気動作によって眼を保持する吸気メカニズムを備える請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
前記固定リングは、眼を保持する固定歯を備える請求項1記載のデバイス。
【請求項4】
前記取付フレーム、前記固定リング及び前記ガイドの少なくとも一部は、使い捨てである請求項1記載のデバイス。
【請求項5】
手術中に標的組織内に外科的な変化を引き起こすべく、手術用レーザパルスからなる手術用レーザビームを生成するように構成された手術用レーザと、
手術中に前記標的組織に接触し且つ前記標的組織を所定の位置に保持するように構成された患者インタフェースと、
前記手術用レーザと前記患者インタフェースとの間に配設され、前記手術用レーザビームを、前記患者インタフェースを介して、前記標的組織に方向付けるように構成され、前記標的組織内で所定の手術パターンに沿って前記手術用レーザビームを走査するように動作可能である光学モジュールとを備え、
前記患者インタフェースは、
前記光学モジュールとは別体であるが該光学モジュールに取付可能な取付フレームと、
前記標的組織を保持し、前記光学モジュールから供給された光を透過させ且つ圧平レンズを受け入れるリング開口を含む固定リングと、
前記固定リングを前記取付フレームに連結し、前記圧平レンズを受け入れて該受け入れた圧平レンズを摺動させることによって該圧平レンズを前記リング開口に案内するように構成される1つ以上のガイドと、
前記固定リング上に設けられたロックメカニズムであって、前記圧平レンズが前記標的組織に直接接触して、前記手術のためのインタフェースを形成するように、前記圧平レンズを前記固定リングにロックするロックメカニズムとを備える、レーザ手術システム。
【請求項6】
前記手術用レーザ及び前記光学モジュールを制御して、前記手術用レーザパルスを前記標的組織における標的位置に集光するように構成された制御ユニットを備える請求項5記載のレーザ手術システム。
【請求項7】
前記制御ユニットは、前記手術用レーザ及び前記光学モジュールを制御して、前記手術用レーザパルスを眼の角膜に方向付けるように構成された請求項6記載のレーザ手術システム。
【請求項8】
前記制御ユニットは、前記手術用レーザ及び前記光学モジュールを制御して、前記手術用レーザパルスを眼の水晶体組織又は水晶体嚢胞組織に方向付けるように構成された請求項6記載のレーザ手術システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権及び関連出願
本出願は、2007年9月10日に出願された米国特許出願番号第60/971,177号、発明の名称、「APPARATUS, SYSTEMS AND TECHNIQUES FOR CENTERING AND FIXATING AN EYE FOR LASER SURGERY」の優先権を主張し、この文献は、引用によって、その全体が本願の一部として援用される。
【0002】
背景
本発明は、レーザ手術のための装置、システム及び技術に関する。
【背景技術】
【0003】
レーザ手術は、特に眼科において、一般的な医療的施術である。多くの異なるレーザが眼科で使用されているが、光破壊レーザは、光の供給について特定の要件を有し、このために独特である。光破壊では、レーザパルスを比較的小さいスポットに集光して、レーザに誘起された光学的な破壊を達成する必要があるので、組織への光路は、歪みを低減するように最適化する必要があり、レーザビームは、所望の3次元位置に集光され、光破壊を引き起こすレーザパルスを供給する。光破壊レーザ手術のこれらの側面及び他の側面は、供給されたレーザパルスの生来的な又は誘起された組織吸収を用いて手術の効果を調整し、したがって、通常、光供給の要求が少ない又は比較的厳しくない他のレーザ手術とは異なる。光破壊レーザの重要な要求は、レーザビームが標的に入射した際のレーザビームの集光の品質を維持すること、及び手術の効果を調整するために組織内で集光を適切に位置決めすることを含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
レーザ手術において眼へのインタフェースを提供する装置、システム及び技術を開示する。
【0005】
一側面においては、レーザ手術する眼の圧平のためのデバイスは、固定端と、光を供給する光学モジュールに係合するように構成されている取付端を有するフレームと、フレームの固定端に取り付けられて眼を保持し、光学モジュールから供給される光を透過させるリング開口を有するリングフレームを有する固定リングと、フレームの固定端を取付端に連結し、圧平レンズを受け入れるように構成され、圧平レンズを固定リングの開口に誘導する複数のガイドと、圧平レンズを固定リングにロックするロックメカニズムとを備える。
【0006】
他の側面においては、レーザ手術システムは、手術下の標的組織内に外科的な変化を引き起こす手術用レーザパルスからなる手術用レーザビームを生成する手術用レーザと、患者インタフェースを標的組織に接触するように係合させ、標的組織を所定の位置に保持する患者インタフェースマウントと、手術用レーザと患者インタフェースとの間に配設され、手術用レーザビームを、患者インタフェースを介して、標的組織に方向付けるように構成された光学モジュールとを備え、レーザビーム供給モジュールは、標的組織内で所定の手術パターンに沿って手術用レーザビームを走査するように動作可能である。患者インタフェースマウントは、光を供給する光学モジュールに係合される取付端と、標的組織を保持し、光学モジュールから供給された光を透過させるリング開口を含む固定リングを有する固定端と、固定端を取付端に連結し、圧平レンズを受け入れるように構造化され、圧平レンズを固定リングの開口に案内する1つ以上のガイドと、圧平レンズが標的組織に直接接触して、レーザ手術のためのインタフェースを形成するように、圧平レンズを固定リングにロックするロックメカニズムとを備える。
【0007】
他の側面においては、眼のレーザ手術を実行するための方法は、手術する眼の標的領域に固定リングを心合わせし、固定リング内の開口を標的領域に整列させるステップと、眼内の標的領域に固定リングを取り付け、標的領域を圧平するステップと、固定リングに連結されている剛性を有するガイドに圧平レンズを挿入し、固定リングの開口内に圧平レンズを配置するステップと、圧平レンズを固定リングにロックするステップと、パルスレーザを制御して、手術用レーザパルスを、圧平レンズを介して、標的領域に供給するステップとを有する。画像誘導特徴を有するレーザシステムを含むこれらの及びこの他の側面は、図面、詳細な説明、及び特許請求の範囲により詳細に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】固定リング、圧平レンズ、並びにレーザ供給経路及び眼に関して圧平の心合わせを実施できるレーザ手術システムの具体例を示す図である。
図2】手術中に光学モジュール120を眼101に固定するメカニズムの具体例を示す図である。
図3図2の設計の1つの例示的な実施例の構成を示す図である。
図4図2の設計の1つの例示的な実施例の構成を示す図である。
図5図2の設計の1つの例示的な実施例の構成を示す図である。
図6】固定リングの設計に基づく図1のレーザシステムの動作を示す図である。
図7】レーザ制御のために標的のイメージングを行うイメージングモジュールが設けられた画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図8】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図9】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図10】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図11】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図12】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図13】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図14】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図15】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図16】レーザ手術システム及びイメージングシステムの統合の度合いが異なる画像誘導レーザ手術システムの具体例を示す図である。
図17】画像誘導レーザ手術システムを用いてレーザ手術を実行する方法の具体例を示す図である。
図18】光干渉断層法(OCT)イメージングモジュールからの眼の画像の具体例を示す図である。
図19】A〜Dは、画像誘導レーザ手術システムを較正するための較正サンプルの2つの具体例を示す図である。
図20】システムを較正するために、画像誘導レーザ手術システム内の患者インタフェースに較正サンプル材料を取り付ける具体例を示す図である。
図21】手術用レーザビームによってガラス表面に作成された参照マークの具体例を示す図である。
図22】画像誘導レーザ手術システムの較正処理及び較正後の手術の具体例を示す図である。
図23A】レーザ誘起光破壊副産物及び標的組織の画像を捕捉し、レーザ整列を誘導する例示的な画像誘導レーザ手術システムの動作モードを示す図である。
図23B】レーザ誘起光破壊副産物及び標的組織の画像を捕捉し、レーザ整列を誘導する例示的な画像誘導レーザ手術システムの動作モードを示す図である。
図24】画像誘導レーザ手術システムにおけるレーザ整列動作の具体例を示す図である。
図25】画像誘導レーザ手術システムにおけるレーザ整列動作の具体例を示す図である。
図26】光破壊副産物の画像を用いるレーザ整列に基づく例示的なレーザ手術システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
従来の多くの眼科用の光破壊レーザシステムは、シングルショットを生成し、又は閾値エネルギが数百mJ、集光されるスポットサイズが約10〜20ミクロンの約3つの一連のレーザパルスを含むバーストモードで動作する(例えば、ナノ秒Nd:YAGレーザ)。このようなシステムでは、集光は、外科医が提供する何らかの手動のサポートと共に表面張力によって角膜に取り付けられるコンタクトレンズを用いて維持でき、コンタクトレンズは、レーザビームの光路を、コンタクトレンズの表面に関して一般的に垂直の向き、及び拡大すれば、眼の光軸の向きに維持する。集光の位置決めは、通常、照準のために手術用レーザに整列された第2の可視レーザビームを利用して手動で行うことができる。このデバイスによるレーザ治療(例えば、YAG切嚢術又は周辺虹彩切除術)では、眼の如何なる特定の軸、例えば、眼の視軸、幾何学的軸又は光軸との厳密な整列も不要であるため、コンタクトレンズの心合わせ(centration)は、重要でない。これらのシステムでは、一般的に10〜20ミクロンのスポットサイズ範囲のスポットサイズにレーザビームを集光すればよく、集光光学素子のサイズ及び重量は比較的小さく、比較的容易にビームを手動で動かすことができる。更に、治療の面積が比較的小さいために、ビームを手動で動かすことができ、集光システム内でレーザビームを走査させる必要はない。
【0010】
より新しい光破壊レーザシステムは、1秒あたり数千から数百万までの遙かに高い繰返し率を用い、遙かに小さいスポットサイズを用いて、より小さい手術エネルギで所望の手術の効果を得る。このようなシステムは、通常、光学的な破壊を達成するために必要とされる、僅か数ミクロンの桁になることもあるより小さい集光スポットを得るために、より大きい直径の集光光学素子を必要とする。レーザパルスが組織を横断して標的に達する際に、このような小さいスポットサイズを維持することは、特に眼の表面における空気−角膜界面において、難易度が高い場合がある。
【0011】
したがって、このような繰返し率が高く、エネルギが小さく、スポットサイズが小さいレーザシステムでは、広い走査可能範囲に亘って集光を維持し、光供給システムの中心を標的の所望の走査パターンの中心に最適に位置決めする光供給システムを設けることが有益である場合がある。広い走査可能範囲に亘って集光を維持するために一般的に用いられている技術の1つは、レーザ波長を透過し、角膜の前面を押圧する圧平レンズを用いることである。圧平レンズは、レーザビーム光路に対して垂直位置(normal position)に維持され、眼の表面で生じるあらゆる光学収差を厳密に制御する。この圧平レンズは、施術の間、標的に対して固定された位置に保持される。このようなシステムの位置決め要求は、以前のナノ秒YAGレーザに比べてかなり厳しいので、圧平レンズの制御は、手動では不十分であり、眼は、(吸気リング又は眼に配置される歯付きの固定リング(toothed fixation ring)への連結を含む)幾つかのメカニズムの1つによって、コンタクトレンズに機械的に固定される。これは、レイ(Lai)に付与されている米国特許第5,549,632号に開示されているように、圧平レンズがレーザパルスの3次元局所化のための参照として使用される場合、更に重要となる。
【0012】
眼の表面を圧平して、レーザパルスの光学収差を低減し、及びレーザパルスの深さを局所化する固定及び圧平デバイスの使用と組み合わされた幾つかのシステムが開発されている。これらのシステムは、包括的に、ワンピース(one piece)システム及びツーピース(two piece)システムの2つの範疇に分類される。
【0013】
ワンピースシステムでは、圧平レンズは、固定メカニズムに一体化されており、固定メカニズムは、通常、圧平プレート自体の外部又は周辺にある吸気リングである。このようなシステムの具体例は、例えば、米国特許US6254595B1、US6254595B2、US6344040B及びUS6676653B2等の様々な特許文献に開示されている具体例を含む。圧平レンズの全体に亘る表面接触を確実にするために、圧平レンズの曲率半径は、角膜の曲率半径より平坦になるように選択される。現実的に言えば、(大量生産される場合)コンタクトレンズの形状は、単一又は比較的少ないことが望ましく、曲率の半径は、大多数の角膜より平坦になるように選択され、平面であってもよい。これらのようなシングルピースシステムは、使い易く見えるが、眼が固定される前に曲面である角膜表面を圧平すると、眼が向きを変え、並進し、回転し、又は眼窩内により深く移動する。このような眼の動きによって、眼を適切な向きに固定して圧平する際に困難が生じることがある。このような短所のために、上述したシングルピースシステムは、特に圧平直径が数ミリメートルより大きい場合、非実用的である。
【0014】
米国特許出願公開第2007/0093796号に開示されている改善されたシングルピースシステムは、患者の眼をレーザに結合するフレームの2つの端部間で圧平レンズを柔軟に取り付けることによって眼の動きの効果を低減する。このようなシステムによって、眼をレーザに容易に固定することができるが、眼とレーザとの間に圧平プレートが存在することによって、主観的又は客観的な入力を用いて特定の軸(例えば、視軸)を吸気リング及び/又は圧平プレートの中心に合わせる能力が複雑になる。更に、この手法及び上述したワンピース法では、眼の視軸(又は他の何らかの特徴)の中心を特定するために、眼を治療している患者からの主観的又は客観的な入力を容易に使用できず、したがって、角膜又は眼にマークを付す独立したステップを行わない限り、所望の機能的又は解剖学的な特徴を特定し、このような特徴に整列させることができない。
【0015】
ツーピース圧平/固定システムは、眼に固定される固定リングと、圧平レンズを保持する独立した圧平レンズユニットと、固定リングが眼に固定された後に、圧平レンズユニット内で固定された圧平レンズを、圧平レンズユニットに係合させることなく、固定リングに係合させるメカニズムとを含むように設計することができる。このようなシステムの具体例は、例えば、米国特許US6863667B2、6899707B2、US7018376B2及び米国特許出願公開USPA2006/0195078A1等の幾つかの特許文献に開示されている設計を含む。これらのツーピースのシステムは、独立した固定リングを含み、固定リングは、心合わせのための手段(例えば、リングの周縁上のマーク、心合わせ用の差し込み、又はリングの中空の中心を介して患者によって主観的に目視される標的)を含むことができる。固定リングは、圧平を適用する前に眼に配置される。固定リングを配置することによって、圧平の間、眼の動きが防止され、及び(心合わせデバイスも使用されている場合)圧平レンズの心合わせを固定することができる。この方法は、かなり有効であるが、外科医は、圧平レンズを独立した固定リングに嵌め込む必要があり、機械的クランピング又は他のメカニズムを用いて固定リングと圧平レンズを固く連結するために、固定リングの内側の直径は、圧平レンズの外径より僅かに大きいのみであるため、この作業は、技術的に難易度が高い。圧平レンズは、レーザの光ビーム光路に対して配置できる自由度に制約がある(通常、圧平レンズは、圧平プレートの表面領域に亘って光学収差を最小化するために、レーザの光ビーム光路に対して垂直に、すなわち、90度に取り付ける必要がある)。
【0016】
更に、数千又は数百万ものショットを組み合わせて所望の手術の効果を得るように焦点スポットを走査するより新しい用途及びシステムにおける要求によって、圧平レンズの中心は、光供給経路の中心と同心する必要がある。被走査領域は大きい場合があり、眼科の用途では、一般に6mmより大きいので、この要求を実現させる必要性と、光供給システムの複雑さ、重量及びコストを削減するために集光光学素子をできるだけ小さくする要求とが対立する。そこで、幾つかのレーザシステムでは、レーザパターンの心合わせを最適化するために、(集光光学素子の直径内で)ビームの動きの余地が殆ど残らないように、集光光学素子の直径は、最大走査直径より僅かに大きくなるように選択される。この結果、眼の何らかの解剖学的又は機能的な特徴、例えば、眼の視軸又は光軸に対するパターンの心合わせが重要な場合、このようなシステムでは、一旦、レーザの光路に関して眼が位置決めされ、固定された後は、偏心又は整列誤差を補正する能力が制限される。シルベストリーニ(Silvestrini)に付与されている米国特許第6,143,010号は、眼の位置を心合わせするための角膜真空心合わせデバイス(corneal vacuum centering device)を開示しているが、このシステムを使用して、圧平レンズを介してレーザパルスの供給を行うことは困難であり、このようなシステムは、レーザ手術では、使用できないこともある。
【0017】
本明細書に開示する装置、システム及び技術は、ビーム光路に対する所望の向きで固定リングを眼に固く連結し、固定リングへの圧平レンズの挿入及び圧平条件を維持するための固定リング内での圧平レンズのロックを容易にし、整列の間に、光供給経路内に圧平レンズが存在しない状態で、光供給経路を圧平表面の中心に整列させることができる固定デバイスを提供する。本明細書に開示する装置、システム及び技術を用いて、圧平レンズの中心をレーザ光供給システムの中心と同心に維持しながら、眼を最適に固定及び圧平することができる。眼は、吸気又は上述したツーピースシステムにおいて使用される歯付きのリングを含む様々な手段を用いて、圧平の前に、固定リングに固定することができる。固定リングの中心は、視軸(又は患者又は外科医が空洞を介して最良に観察できる他の解剖学的又は機能的な関心対象となる特徴)の中心及びレーザビーム光路の中心と同心になるように制御でき、これにより、圧平レンズが固定リング内に配置されると、圧平レンズも心合わせされる(この結果、供給システムの走査範囲が最大化される)。この設計は、圧平レンズがビーム光路に対して正しい(垂直な)向きになるように圧平レンズによって眼を圧平するための技術的に容易な方法を提供する。
【0018】
図1は、固定リング、圧平レンズ、及びレーザ供給経路及び眼に対する圧平の心合わせを実現することができるレーザ手術システムの具体例を示している。パルスレーザ110は、眼101の手術を実行するための所望の手術用レーザパルスを生成する。また、レーザ110を動作させて、手術用レーザパルスの供給の前に眼101の一部を事前に処置し、手術用レーザパルスによるレーザ手術を容易にする予備的レーザパルスを生成してもよい。光学モジュール120は、レーザビームを眼101に集光し、方向付ける。光学モジュール120は、1つ以上のレンズを含むことができ、更に、1つ以上の反射板を含んでいてもよい。光学モジュール120は、ビーム制御信号に応じて、ビーム集光及びビーム方向を調整する制御アクチュエータを含んでいてもよい。システム制御モジュール140は、レーザ制御信号を介してパルスレーザ110を制御し、ビーム制御信号を介して光学モジュール120を制御する。イメージングデバイス130は、眼101から反射又は散乱した光を回収し、眼101の画像を捕捉する。捕捉されたイメージングデータは、レーザ動作を制御するためにレーザシステム制御モジュール140に送信される。この制御は、手術処理の間、レーザビームが眼101内の各目標位置に適切に位置決めされることを確実にする動的な整列処理を含むことができる。イメージングデバイス130は、光干渉断層法(optical coherent tomography:OCT)デバイス及びイメージングセンサアレイを含む様々な形式で実現することができる。
【0019】
一具体例では、パルスレーザ110は、1秒あたり数千ショット又はこれ以上のパルス繰返し率を有し、1パルスあたりのエネルギが比較的低い繰返し率が高いパルスレーザであってもよい。このようなレーザを動作させて、1パルスあたりの比較的低いエネルギを用いて、レーザ誘起光破壊によって引き起こされる組織効果(tissue effect)を局所化でき、例えば、光破壊によって影響を受ける組織面積を数ミクロン又は数十ミクロンの桁にすることができる。この局所化された組織効果は、レーザ手術の精度を向上させ、レーザ眼科手術等のある種の手術では、望ましい場合がある。このような手術の一具体例においては、時間内に、数ミクロン又は数十ミクロン離間された、数百、数千又は数百万の隣接する又は略々隣接するパルスの配置を用いて、ある所望の手術に有効な配置を実現することができる。繰返し率が高いパルスレーザを用いるこのような施術では、標的組織上の標的位置に関する絶対的位置と、先行するパルスに関する相対的位置との両方について、手術下の標的組織における各パルスの位置決めに高い精度が要求されることがある。例えば、幾つかの場合、レーザパルスは、マイクロ秒の桁である場合もあるパルス間の時間内に、数ミクロンの精度で、互いに隣り合うように供給することが要求されることもある。
【0020】
図2は、手術中に眼101に光学モジュール120を固定するためのメカニズムの具体例を示している。光学モジュール120は、レーザ110と通信して、レーザ110からレーザパルスからなるレーザ光を受光する基端部(proximate end)と、レーザ光を眼101に方向付ける先端部(distal end)とを有する。光学モジュール120の先端部は、患者の眼に接触して、レーザ手術のために、眼を所定の位置に保持する患者インタフェース200に連結される。この具体例の患者インタフェース200は、先端部において、眼に対して圧平レンズを保持する固定リング230と、基端部において、患者インタフェース200を光学モジュール120に取り付け、固定リング230に連結されている取付フレーム210とを含む。固定リング230は、一旦、レンズが固定リング内に配置されると、圧平レンズを固定された位置にロックするレンズロックメカニズムを含むように設計されている。圧平レンズは、固定リング230に永久的に固定されるのではなく、光学モジュール120及び固定リング230が眼101の所望の向きに整列された後に取り外すことができるように固定リング230にロックされる。
【0021】
患者インタフェース200内には、固定リング230を取付フレーム210に固く係合するために、剛性を有するガイド又は支柱220が設けられている。例えば、3本以上の剛性を有するロッド状のガイド又は支柱220を用いて、フレーム210及びリング230を連結してもよい。剛性を有するガイド又は支柱220は、フレーム210と固定リング230との間に圧平レンズを挿入でき、挿入された圧平レンズを摺動させて、剛性を有するロッド状のガイド又は支柱220に沿って、固定リング230の中央の開口に案内できるように設計することができる。一旦、圧平レンズが固定リング230内の所定の位置に収まると、ロックメカニズムが使用され、固定リング230内で圧平レンズの位置が固定される。
【0022】
図3図4及び図5は、図2の設計の例示的な実施例の3つの構成を示している。図3は、圧平レンズ310が剛性を有するガイド320及び固定リング230から分離されている設計及び状態を示している。この具体例では、剛性を有するガイド320に垂直な方向に沿う側から、開口を介して剛性を有するガイド320に圧平レンズ310を挿入できる。固定リング230上には、レンズ310を固定リング230にロックするロックメカニズム312が設けられている。図4は、レンズ310が剛性を有するガイド320によって支持され、固定リング230の開口に滑入されることを示している。図5は、圧平レンズ310が所定の位置にあり、ロックメカニズム312によってロックされることを示している。
【0023】
したがって、幾つかのツーピース設計とは異なり、固定リング230は、初期的に、レーザ光学システムの光学モジュール120に固定されている。また、幾つかのワンピース設計とは異なり、圧平レンズ310は、初期的には、固定リング230に固定されていない。これに代えて、光学モジュール120及び固定リング230は、まず、眼101に整列され、この整列の後に、圧平レンズ310が固定リング230に配置され、所定の位置で固定される。そして、この時点で固定リング230に固定されている圧平レンズ310を用いて、眼101の圧平が達成される。
【0024】
図6は、上述した固定リングの設計に基づく図1のレーザシステムの動作を示している。まず、光学モジュール120及び固定された固定リング230を用いて、圧平レンズ310なしで、手術する眼101の標的領域について、固定リング230の心合わせを行う。この整列のためには、固定リング230の空の開口を使用する。外科医は、固定リング230の中央にある初期的には空の開口を介して観察を行うことによって、患者からの主観的及び客観的な情報を利用して、固定リング230を所望の位置に心合わせすることができる。続いて、固定リング230の心合わせの後、眼101の標的領域を圧平するために、固定リング230を眼101の標的領域に固定する。次に、圧平レンズ310が、剛性を有するガイド220の間に配置され、固定リング230の空の開口に案内され、所定の位置にロックされる。固定リング230は、フレーム210及び剛性を有するガイド220によってレーザ光供給システムに固く連結されているので、及び圧平レンズ310は、最終的に固定リング内に挿入され、そして、正しい向きで固定されるので、一旦、眼がリングによって固定されれば、眼は、ビーム光路に対して正しい向き(心合わせされた向き)にあることが保証される。レーザシステム又は光学モジュール内で心合わせキュー(centration cue)及び/又は較正された標的を用いて固定リングの位置合わせを行うことによって、固定リングの中心と、レーザビーム供給システムの中心との間の一致が更に確実になる。一旦、固定リングが眼に取り付けられると、固定リング内への圧平レンズの配置を容易にするガイド又はトラックを利用して、圧平レンズを開口に挿入することができ、ここで、例えば、機械的又は空気圧式のクランピング手段によって、圧平レンズを固く固定することができる。圧平レンズは、固定リング内で実質的に心合わせされるので、圧平レンズの中心は、レーザ供給システムの光学素子とも同心になる。次に、レーザ手術が実行される。
【0025】
このようなシステムでは、ワンピースシステム及びツーピースシステムの両方の利点(例えば、ツーピースシステムにおける、圧平の前に心合わせされた固定を達成できる能力、及びワンピースシステムにおける、圧平プレート及び固定リングの結合の技術的な容易性)が維持される。このような可動圧平レンズシステムは、固定リングが適用される前にレーザ光学システムの先端部に固定してもよいが、固定が達成された後に、可動圧平レンズシステムをレーザシステムに取り付けてもよい。このような場合、固定標的及びレーザ光供給経路に整列されているがその一部ではない観察システムを用いることができ、この結果、レーザ供給システムの光学的要求を潜在的に簡素化することができる。何れの場合も、可動圧平レンズシステムは、使い捨てであってもよく、再使用可能であってもよい。固定された又は一体化されている圧平レンズを用いるシステムに対するこのようなシステムの更なる利点の1つは、システムの使い捨ての部分を可動の圧平レンズだけに限定でき、この結果、使い捨てのコストを削減し、及び/又は他方の使い捨てではない部品の品質及び再現性を高めることができる点である。
【0026】
これまでのこのようなレーザの主用途における精密な心合わせは、ある施術、例えば、角膜フラップの作成等では不要であると考える外科医もいる。しかしながら、精密な心合わせが有利であることが明らかな用途、例えば、角膜及び水晶体における屈折手術等に加えて、完全に心合わせされたフラップ作成の利点についてのより最近の考察によって、より精度が高い心合わせ法の必要性が明らかになっている。更に、システムの走査範囲を広げることなく(したがって、コストを増加させることなく)、このような心合わせを提供する要求を満たすためには、圧平を適用する前に、患者からの主観的又は客観的な入力を用いて、固定リングを配置する必要がある。また、あるレーザ手術システムでは、患者は、従来のように背臥位になる必要はなく、この結果、上述したツーピース設計において、固定リングを圧平レンズに手動で取り付けることがより難しくなることがある。本発明の設計は、外科医の技術に大きく頼ることなく、圧平レンズを固定リングに連結する技術的に簡単な方法を提供する。本発明の設計は、レーザ手術システムにおける眼の固定、心合わせ及び光伝達の機能を統合するプラットホームを提供する。
【0027】
本発明の設計の一具体例では、レーザ手術システムは、以下のような特徴を含むことができ、すなわち、最も一般的には短パルスレーザであるが、他の光破壊を引き起こす装置であってもよい光破壊のための手段と、所望の順序で走査されるパルスのパターンを供給する手段と、眼の固定が行われた前又は後に、フレームを介して、レーザのための光供給システムの先端部に固定リングを固く連結する手段と、観察システムを用いて、眼の視軸の中心、光学的中心、解剖学的中心又は他の関心対象となる特徴を特定する手段と、例えば、歯付き固定リング又は吸気固定リングである、眼の視軸の中心、光学的中心、解剖学的中心又は他の関心対象となる特徴に対して眼を固定する手段と、固定リングの開口と、眼の関心対象となる特徴に対して固定リングを心合わせするために用いられる観察システムとによって形成された光路内に圧平レンズを移動させる手段と、圧平レンズ又はプレートを固定リングの開口に移動させることによって眼を圧平する手段と、圧平レンズの適切な配置を補助するガイド又はトラック及び固定リング内に圧平レンズの所望の位置を維持するロックメカニズムを用いて、圧平レンズが固定リング内に配置された後、固定リング及び圧平レンズを固く連結する手段とを含んでいてもよい。
【0028】
患者は、眼が、固定光又は他のデバイスを目視して、視軸、角膜、瞳孔、若しくは、レーザパターンの心合わせに重要な他の解剖学的又は機能的な特徴の中心を特定することができるように位置決めされる。次に、固定リングが眼に適用される。固定リングは、最初は自由であってもよく、フレームを介して、光供給システムの端部に既に固く連結されていてもよく、また、ガイド又はトラックを介して、圧平プレートに連結されていてもよく、これにより、圧平プレートを固定リングの中央の開口に移動させて位置をロックすることができる。圧平プレートは、固定リングの開口の光路内に運ばれ、次に、これら2つが共に運ばれ、圧平プレートは、眼の表面に接触し、固定リング内で所望の向きでロックされる。これによって、レーザパターンの中心又は開始位置は、圧平リングの中心にすることができ、又はユーザは、光学素子の走査範囲を超えないオフセットを導入できる。このようなシステムでは、手術用レーザの光ビーム光路に予め整列されている実際の又は仮想のマークを利用して、様々な心合わせ標的を用いることができる。
【0029】
本発明の設計を実施することによって、正確で、上述したツーピースシステムに比べて外科医にとって技術的な困難性が低い心合わせ及び圧平を実現できる。固定のステップ及び圧平のステップを分離することによって、角膜、水晶体及び眼の能力、収差、寸法、並びに生体力学に関する測定を含む、圧平の後には行うことができない更なる診断ステップを実行することができる。更に、このようなシステムは、ビーム光路に対して、患者が背臥位でなく、立位であるシステム、更には、腹臥位であるシステムでも使用でき、外科医が、圧平レンズの配置の間に重力に非対称的に抵抗して作業する必要がある場合であっても使用できる。このようなシステムでは、手術用レーザの光ビーム光路に予め整列されている実際の又は仮想のマークを利用して、圧平プレートの中心を心合わせ標的として用いることができる。システムの部品は、使い捨てにすることができる。これは圧平プレートのみであってもよく、圧平プレートと固定リング又はフレームの組合せであってもよい。圧平レンズは、フレーム及び固定リングから独立して取り付けることができるので、使い捨てにされるデバイスの部分を限定でき、コスト及び使い捨ての部品を保存するための空間の要求を低減できる。
【0030】
上述した特徴は、様々なレーザ眼科手術システムのための患者インタフェースとして用いることができる。このようなシステムの具体例には、標的組織のイメージングに基づくレーザ手術システムが含まれる。以下では、このようなシステムの具体例について説明する。
【0031】
レーザ手術の1つの重要な側面は、レーザビームの精密な制御及び照準、例えば、ビーム位置決め及びビーム集光である。レーザ手術システムは、レーザパルスを組織内の特定の標的に目標設定するレーザ制御及び照準ツールを含むように設計することができる。様々なナノ秒光破壊レーザ手術システム、例えば、Nd:YAGレーザシステムでは、目標設定精度の必要なレベルは、比較的低い。この理由の1つは、使用されるレーザエネルギが比較的高く、したがって、影響を受ける組織領域も比較的大きく、衝撃を受ける領域が数百ミクロンの寸法に亘ってカバーされることが多いためである。このようなシステムにおけるレーザパルス間の時間は、長い傾向があり、手動制御の目標設定が可能であり、一般的に用いられている。このような手動の目標設定メカニズムの一具体例は、標的組織を可視化する生体顕微鏡と、照準ビームとして使用される二次レーザ光源との組合せである。外科医は、通常、ジョイスティックコントローラを用いて、顕微鏡を介する画像と(オフセットの有無にかかわらず)同焦点であるレーザ集光レンズの集光を手動で移動させ、手術用ビーム又は照準ビームを意図された標的上に最良に集光する。
【0032】
繰返し率が低いレーザ手術システムと共に使用するように設計されたこのような技術は、1秒あたり数千ショットで動作し、1パルスあたりのエネルギが比較的低い、高繰返し率のレーザと共に使用することは困難である場合がある。繰返し率が高いレーザを用いる手術では、個々のレーザパルスの効果が小さいために、遙かに高い精度が必要となることがあり、及び何千ものパルスを新たな治療領域に非常に速やかに供給する必要性のために、遙かに高い位置決め速度が必要となることがある。
【0033】
レーザ手術システムのための繰返し率が高いパルスレーザの具体例は、1秒あたり数千ショット又はこれ以上のパルス繰返し率を有し、1パルスあたりのエネルギが比較的低いパルスレーザを含む。このようなレーザは、1パルスあたりのエネルギが比較的低く、組織の影響を局所化し、レーザ誘起光破壊によって引き起こされる、例えば、光破壊によって衝撃を受ける組織領域を数ミクロン又は数十ミクロン程度にする。このように組織の影響を局所化することによって、レーザ手術の精度を改善でき、これは、レーザ眼科手術等のある手術において、望ましい場合がある。このような手術の一具体例においては、連続する、略々連続する又は既知の間隔だけ分離された、数百、数千乃至数百万のパルスを用いて、ある所望の手術効果、例えば組織の切開、分離又は断片化等を達成することができる。
【0034】
レーザパルス幅が短く、繰返し率が高い光破壊レーザ手術システムを用いる様々な手術は、標的組織上の標的部位に関する絶対的位置、及び先行するパルスに関する相対的位置の両方において、手術下の標的組織における各パルスの位置決めに高い精度を要求することがある。例えば、幾つかの場合、レーザパルスは、数マイクロ秒程度であることもあるパルス間の時間内に、数ミクロンの精度で互いに隣り合うように供給する必要があることがある。この場合、2つの連続するパルス間の間隔は短く、パルス整列に関する精度要求は高いので、繰返し率が低いパルスレーザシステムで用いられる手動の目標設定は、不適切又は不可能である。
【0035】
レーザパルスを組織に供給するための精密な高速位置決め要求を実現及び制御する1つの技術は、透明材料、例えば、組織に接触する予め定義された接触面を有するガラスから形成された圧平プレート(applanation plate)を取り付け、圧平プレートの接触面が組織とのよく定義された光インタフェースを形成するようにすることである。このよく定義されたインタフェースは、組織へのレーザ光線の透過及び集光を補助し、眼内の角膜の前面にある空気/組織インタフェースにおいて最も重大な、光学収差又は変動(例えば、特定の眼の光学的特性又は表面の乾燥によって生じる変化に起因する。)を制御又は減少させることができる。様々な用途、並びに眼及び他の組織内の標的について、使い捨てのもの及び再使用可能なものを含むコンタクトレンズを設計することができる。標的組織の表面上のコンタクトガラス又は圧平プレートは、参照プレート(reference plate)として用いることができ、これに対して、レーザパルスは、レーザ供給システム内の集光要素の調整によって集光される。このようにコンタクトガラス又は圧平プレートを使用することによって、組織表面の光学品質をより良好に制御することができ、この結果、レーザパルスの光学的歪みを小さく抑えながら、圧平プレートに対する標的組織内の所望の位置(相互作用点)にレーザパルスを速やかに正確に配置することができる。
【0036】
眼の上で圧平プレートを使用する一手法は、眼内の標的組織にレーザパルスを供給するための位置参照を提供する圧平プレートを用いることである。このような圧平プレートの位置参照としての使用は、標的内のレーザパルスを出射する前に十分な精度で特定されたレーザパルス集光の既知の所望の位置に基づくことができ、参照プレートと個々の内部の組織標的との相対的位置は、レーザ出射の間、一定のままである必要がある。更に、この方法は、異なる眼の間で又は同じ眼内の異なる領域の間で、予測可能で再現可能な所望の位置へのレーザパルスの集光を必要とすることがある。実際のシステムでは、上述した条件が満たされない場合があるため、実際のシステムでは、位置参照として圧平プレートを用いて、レーザパルスを眼内で正確に局所化することが困難であることがある。
【0037】
例えば、手術標的が水晶体である場合、眼の表面にある参照プレートから標的への正確な距離は、角膜自体、前眼房、虹彩等の伸縮可能な構造(collapsible structures)の存在のために、変化する傾向がある。異なる個々の眼の間で、圧平された角膜と水晶体との間の距離の変化がかなり大きいだけではなく、同じ眼内においても、外科医が使用する特定の手術及び圧平技術によって、変化があることもある。更に、手術の効果を達成するために必要な数千個のレーザパルスを出射している間に、圧平された表面に対して、目標設定された水晶体組織が移動することもあり、これによって、パルスの正確な供給が更に複雑になる。更に、眼内の構造は、キャビテーション気泡等の光破壊副産物の形成を原因として動くことがある。例えば、水晶体に供給されたレーザパルスによって、水晶体嚢胞が前方に膨らむことがあり、この場合、その後のレーザパルスの配置のために、この組織に目標設定する調整が必要である。更に、コンピュータモデル及びシミュレーションを使用して、圧平プレートを取り除いた後に、標的組織の実際の位置を十分な精度で予測すること、及び圧平なしで、レーザパルスの配置を調整して、所望の局所化を達成することは、困難である場合があり、この理由の一部は、圧平効果は、個々の角膜又は眼、並びに外科医が使用する特定の手術及び圧平技術に固有の因子に依存することがあるので、非常に変化しやすい性質を有するためである。
【0038】
ある手術的処置において、内部組織構造の局所化に対して不均衡に影響する圧平の物理的な効果に加えて、目標設定システムは、パルス継続時間が短いレーザを使用するときに生じる可能性がある光破壊の非線型特性を予測又は考慮することが望ましいことがある。光破壊は、組織物質における非線形の光学プロセスであり、ビーム整列及びビーム目標設定を複雑にすることがある。例えば、光破壊の間にレーザパルスと相互作用する際の組織物質における非線形の光学的効果の1つとして、レーザパルスが受ける組織物質の屈折率が一定ではなくなり、光の強度によって変化するようになる。レーザパルスの光強度は、パルスレーザビームの伝播方向に沿う方向及びこの伝播方向を横切る方向に亘ってパルスレーザビーム内で空間的に変化するので、組織物質の屈折率も空間的に変化する。この非線形の屈折率の1つの結果は、組織内でパルスレーザビームの実際の集光を変化させ、及び集光の位置をシフトさせる組織物質の自己収束(self-focusing)又は自己発散(self-defocusing)である。したがって、標的組織内の各標的組織位置へのパルスレーザビームの正確な整列では、レーザビームに対する組織物質の非線形の光学的効果を考慮する必要がある場合がある。更に、異なる物理的特徴、例えば硬度等のために又は特定の領域に伝播するレーザパルス光の吸収又は拡散等の光学的な要件のために、各パルス内のエネルギを調整して、標的内の異なる領域に同じ物理的な効果を提供する必要があることもある。このような場合、エネルギ値が異なるパルス間の非線形集光効果の差も、手術用パルスのレーザ整列及びレーザ目標設定に影響することがある。
【0039】
したがって、非表層の構造(non superficial structure)が標的になる手術では、圧平プレートが提供する位置参照に基づく表層の圧平プレート(superficial applanation plate)の使用は、内部の組織標的におけるレーザパルスの正確な局所化を達成するには、不十分であることがある。レーザ供給を誘導するための参照として圧平プレートを使用する場合、公称値からの偏りが、深さ精度誤差に直接影響するので、圧平プレートの厚さ及びプレート位置を高精度で測定する必要があることがある。高精密圧平レンズは、特に一回だけしか使用できない使い捨ての圧平プレートの場合、高価であることがある。
【0040】
本明細書に開示する技術、装置及びシステムを実施することによって、レーザパルスを出射する前に、標的内のレーザパルス焦点の所望の位置を十分な精度で知る必要なく、及びレーザ出射の間に、参照プレートと個々の内部の組織標的の相対的位置を一定のままにする必要なく、圧平プレートを介して、眼内の所望の局所に、高精度且つ高速に短いレーザパルスを供給する目標設定メカニズムを提供することができる。すなわち、この技術、装置及びシステムは、手術下の標的組織の物理的条件が変化する傾向があり、制御することが困難であり、圧平レンズの寸法がレンズ毎に異なる傾向がある様々な手術のために用いることができる。また、この技術、装置及びシステムは、構造の表面に対する手術標的の歪み又は動きが存在し、又は非線形の光学的効果が正確な目標設定を難しくする他の手術標的にも使用することができる。このような手術標的の具体例としては、眼以外に、心臓、皮膚の深部組織等が含まれる。
【0041】
この技術、装置及びシステムは、圧平された表面の内部構造に光破壊の正確な局所化を提供しながら、例えば、表面形状及び水和(hydration)の制御、並びに光学的歪みの低減を含む圧平プレートによって提供される利益を維持するように実施することができる。これは、統合されたイメージングデバイスを使用して、供給システムの集光光学素子に対して、標的組織を局所化することによって達成できる。イメージングデバイス及び方法の正確なタイプは、標的の特定の性質及び精度の必要なレベルに応じて異なっていてもよい。 圧平レンズは、眼の並進運動及び回転運動を防止するように眼を固定する他のメカニズムによっても実現できる。このような固定デバイスの具体例は、吸気リング(suction ring)の使用を含む。また、このような固定メカニズムによっても、手術標的の望ましくない歪み又は動きが生じることがある。本発明の技術、装置及びシステムを実施することによって、非表層の手術標的のために圧平プレート及び/又は固定手段を利用する高繰返し率レーザ手術システムに、手術標的のこのような歪み及び動きを監視する手術時のイメージングを提供する目標設定メカニズムを提供することができる。
【0042】
以下、光イメージングモジュールを用いて、標的組織の画像を捕捉し、例えば、手術前及び手術中に標的組織の位置決め情報を得るレーザ手術技術、装置及びシステムの特定の具体例を説明する。このようにして得られた位置決め情報を用いて、高繰返し率レーザシステムにおいて、標的組織における手術用レーザビームの位置決め及び集光を制御し、手術用レーザパルスの配置を正確に制御することができる。一具体例では、手術中に、光イメージングモジュールによって得られた画像を用いて、手術用レーザビームの位置及び集光を動的に制御することができる。更に、エネルギが小さい短いレーザパルスは、光学的歪みに対して敏感である傾向があり、このようなレーザ手術システムは、標的組織に取り付けられた平坦な又は曲面のインタフェースを有する圧平プレートによって、標的組織及び手術用レーザシステムとの間に、制御された安定した光インタフェースを提供し、組織表面において、光学収差を緩和及び制御することができる。
【0043】
具体例として、図7は、光イメージング及び圧平に基づくレーザ手術システムを示している。このシステムは、レーザパルスからなる手術用レーザビーム1012を生成するパルスレーザ1010と、手術用レーザビーム1012を受光し、集光し、集光された手術用レーザビーム1022を、例えば眼である標的組織1001に方向付け、標的組織1001内に光破壊を引き起こす光学モジュール1020とを含む。標的組織1001に接触するように圧平プレートを設け、標的組織1001へのレーザパルス及び標的組織1001からの光を透過させるインタフェースを形成してもよい。なお、ここでは、標的組織画像1050を搬送する光1050又は標的組織1001からのイメージング情報を捕捉して、標的組織1001の画像を生成する光イメージングデバイス1030を設けている。イメージングデバイス1030からのイメージング信号1032は、システム制御モジュール1040に供給される。システム制御モジュール1040は、イメージングデバイス1030からの捕捉された画像を処理し、捕捉された画像からの情報に基づいて、光学モジュール1020を制御して、標的組織101における手術用レーザビーム1022の位置及び集光を調整するように動作する。光学モジュール120は、1つ以上のレンズを含むことができ、更に、1つ以上の反射板を含んでいてもよい。光学モジュール1020は、システム制御モジュール1040からのビーム制御信号1044に応じて、集光及びビーム方向を調整する制御アクチュエータを含んでいてもよい。また、制御モジュール1040は、レーザ制御信号1042によって、パルスレーザ1010も制御できる。
【0044】
光イメージングデバイス1030は、標的組織1001を精査する(probe)ための、手術用レーザビーム1022とは別の光イメージングビームを生成してもよく、光イメージングデバイス1030は、この光イメージングビームの戻り光を捕捉して、標的組織1001の画像を得る。このような光イメージングデバイス1030の一具体例は、一方が圧平プレートを介して標的組織1001に方向付けられるプローブビームであり、他方が参照光路内の参照ビームである2つのイメージングビームを用いて、これらを互いに光学的に干渉させて、標的組織1001の画像を得る光干渉断層法(optical coherence tomography:OCT)イメージングモジュールである。他の実施例では、光イメージングデバイス1030は、専用の光イメージングビームを標的組織1001に供給することなく、標的組織1001から散乱又は反射された光を用いて、画像を捕捉する。例えば、イメージングデバイス1030は、例えば、CCD又はCMSセンサ等の感知素子のセンサアレイであってもよい。例えば、手術用レーザビーム1022によって生成された光破壊副産物の画像は、手術用レーザビーム1022の集光及び位置決めを制御するために、光イメージングデバイス1030によって捕捉することができる。光イメージングデバイス1030が、光破壊副産物の画像を用いて、手術用レーザビーム整列を誘導するように設計されている場合、光イメージングデバイス1030は、光破壊副産物、例えば、レーザによって誘起された気泡又は空洞等の画像を捕捉する。また、イメージングデバイス1030は、超音波画像(acoustic image)に基づいて画像を捕捉する超音波イメージングデバイスであってもよい。
【0045】
システム制御モジュール1040は、標的組織1001内の標的組織位置からの光破壊副産物の位置オフセット情報を含むイメージングデバイス1030からの画像データを処理する。画像から得られた情報に基づいて、ビーム制御信号1044が生成され、レーザビーム1022を調整する光学モジュール1020が制御される。システム制御モジュール1040は、レーザ整列のために様々なデータ処理を実行するデジタル処理ユニットに含ませることができる。
【0046】
上述した技術及びシステムを用いて、高繰返し率レーザパルスを、切断又は体積分解の用途に必要とされる連続的なパルス配置に必要な精度で、表面下の標的に供給することができる。これは、標的の表面上の参照源の使用の有無にかかわらず行うことができ、及び圧平の後の又はレーザパルスの配置の間の標的の動きを考慮に入れることができる。
【0047】
このシステムの圧平プレートは、レーザパルスを組織に供給するための、正確且つ高速な位置決め要求を補助及び制御するために設けられている。このような圧平プレートは、組織に接触する予め定義された接触面を有する透明材料、例えば、ガラスから作製することができ、圧平プレートの接触面は、よく定義された、組織との光インタフェースを形成する。このよく定義されたインタフェースは、組織へのレーザ光線の透過及び集光を補助し、眼内の角膜の前面にある空気/組織インタフェースにおいて最も重大な、光学収差又は変動(例えば、特定の眼の光学的特性又は表面の乾燥によって生じる変化に起因する。)を制御又は減少させることができる。様々な用途、並びに眼及び他の組織内の標的のために多くのコンタクトレンズが設計されており、これらには、使い捨てのものと再使用可能なものとが含まれる。標的組織の表面上のコンタクトガラス又は圧平プレートは、参照プレート(reference plate)として用いられ、これに対して、レーザパルスは、レーザ供給システム内の集光要素の調整によって集光される。このような手法は、組織表面の光学品質の制御を含む、コンタクトガラス又は圧平プレートによって提供される上述したような更なる利点を生来的に有する。したがって、レーザパルスの光学的歪みを小さく抑えながら、圧平プレートに対する標的組織内の所望の位置(相互作用点)にレーザパルスを速やかに正確に配置することができる。
【0048】
図7の光イメージングデバイス1030は、圧平プレートを介して標的組織1001の画像を捕捉する。制御モジュール1040は、捕捉された画像を処理し、捕捉された画像から位置情報を抽出し、抽出された位置情報を位置参照又はガイドとして用いて、手術用レーザビーム1022の位置及び集光を制御する。上述したように、圧平プレートの位置は、様々な要因のために変化する傾向があるので、この画像誘導レーザ手術は、位置参照としての圧平プレートに依存することなく行うことができる。すなわち、圧平プレートは、手術用レーザビームが標的組織に入り、及び標的組織の画像を捕捉するための望ましい光インタフェースを提供するが、手術用レーザビームの位置及び集光を整列及び制御してレーザパルスを正確に供給するための位置基準として圧平プレートを使用することは、難しい場合がある。イメージングデバイス1030及び制御モジュール1040に基づく手術用レーザビームの位置及び集光の画像誘導制御によって、位置参照を提供するために圧平プレートを使用することなく、標的組織1001の画像、例えば、眼の内側の構造の画像を位置参照として使用することができる。
【0049】
ある手術的処置において、内部組織構造の局所化に不均衡に影響する圧平の物理的な効果に加えて、目標設定システムは、パルス継続時間が短いレーザを使用するときに生じる可能性がある光破壊の非線型特性を予測又は考慮することが望ましいことがある。光破壊は、ビーム整列及びビーム目標設定を複雑にすることがある。例えば、光破壊の間にレーザパルスと相互作用する際の組織物質における非線形の光学的効果の1つとして、レーザパルスが受ける組織物質の屈折率が一定ではなくなり、光の強度によって変化するようになる。レーザパルスの光強度は、パルスレーザビームの伝播方向に沿う方向及びこの伝播方向を横切る方向に亘ってパルスレーザビーム内で空間的に変化するので、組織物質の屈折率も空間的に変化する。この非線形の屈折率の1つの結果は、組織内でパルスレーザビームの実際の集光を変化させ、及び集光の位置をシフトさせる組織物質の自己収束(self-focusing)又は自己発散(self-defocusing)である。したがって、標的組織内の各標的組織位置へのパルスレーザビームの正確な整列では、レーザビームに対する組織物質の非線形の光学的効果を考慮する必要がある場合がある。異なる物理的特徴、例えば硬度等のために又は特定の領域に伝播するレーザパルス光の吸収又は拡散等の光学的な要件のために、各パルス内のエネルギを調整して、標的内の異なる領域に同じ物理的な効果を提供してもよい。このような場合、エネルギ値が異なるパルス間の非線形集光効果の差も、手術用パルスのレーザ整列及びレーザ目標設定に影響することがある。これに関して、イメージングデバイス1030によって標的組織から取得された直接画像を用いて、標的組織内の非線形の光学的効果の組み合わされた効果を反映する手術用レーザビーム1022の実際の位置を監視し、ビーム位置及びビーム集光の制御のための位置参照を提供することができる。
【0050】
ここに開示する技術、装置及びシステムを圧平プレートと組み合わせて使用することによって、表面形状及び水和の制御を提供し、光学的歪みを低減し、圧平された表面を介して、内部構造に光破壊の精密な局所化を提供することができる。ここに開示するビーム位置及び集光の画像誘導制御は、圧平プレート以外の眼を固定する手段を用いる手術システム及び施術に適用でき、これらには、吸気リングの使用が含まれ、これによって、手術標的の歪み又は動きが生じることがある。
【0051】
以下では、まず、イメージング機能を、システムのレーザ制御部分に様々な度合いで統合した、自動化された画像誘導レーザ手術のための技術、装置及びシステムの具体例を説明する。光学式又は他の様式のイメージングモジュール、例えば、OCTイメージングモジュールを用いて、プローブ光又は他の種類のビームを方向付け、標的組織、例えば、眼内の構造の画像を捕捉することができる。レーザパルス、例えば、フェムト秒レーザパルス又はピコ秒レーザパルスからなる手術用レーザビームは、捕捉された画像の位置情報によって誘導でき、手術中に、手術用レーザビームの集光及び位置決めを制御することができる。手術用レーザビーム及びプローブ光ビームの両方は、捕捉された画像に基づいて手術用レーザビームを制御でき、手術を精密且つ正確に行うことが確実となるように、手術中に、標的組織に順次的に方向付けてもよく、同時に方向付けてもよい。
【0052】
このような画像誘導レーザ手術では、ビーム制御は、手術用パルスの供給の直前又は略々同時の圧平又は標的組織の固定の後の標的組織の画像に基づいているので、手術中の手術用レーザビームの正確で精密な集光と位置決めを提供することができる。なお、標的組織、例えば、眼について手術前に測定された何らかのパラメータは、様々な要因、例えば、標的組織の準備(例えば、眼を圧平レンズに固定すること)手術的措置による標的組織の変質等のために、手術中に変化することがある。したがって、このような要因及び/又は手術前に測定された標的組織のパラメータは、手術中には、標的組織の物理的状態を反映しなくなる。本発明の画像誘導レーザ手術は、手術前及び手術中の手術用レーザビームの集光及び位置決めについてのこのような変化に関する技術的問題を緩和できる。
【0053】
この画像誘導レーザ手術は、標的組織内の正確な手術のために効果的に用いることができる。例えば、眼内でレーザ手術を実行する場合、レーザ光線は、眼内に集光され、目標設定された組織の光学的な破壊が行われ、このような光学的相互作用は、眼の内部構造を変化させることがある。例えば、水晶体は、事前の測定と手術との間だけではなく、手術中にも、遠近調節によって位置、形状、厚さ及び直径が変化する。機械的手段によって手術器具を眼に取り付けることによって、眼の形状がよく定義されていない状態に変化することもあり、この変化した状態が、例えば、患者の動き等の様々な要因のために、手術中に更に変化することもある。取付手段は、吸気リングによって眼を固定すること、及び平坦な又は曲面のレンズによって眼を圧平することを含む。これらの変化は、数ミリメートルに達することもある。眼内で精密なレーザ顕微手術を実行する場合、例えば、角膜又は角膜縁の前面等の眼の表面を機械的に参照及び固定することは、うまく機能しない。
【0054】
この画像誘導レーザ手術では、準備後又は略々同時のイメージングを用いて、手術前及び手術中に変化が生じる環境内で、眼の内部の特徴と手術器具との間で3次元的な位置基準を確立することができる。眼の圧平及び/又は固定の前又は実際の手術の最中にイメージングによって提供される位置基準情報は、眼における変化の効果を反映し、したがって、手術用レーザビームの集光及び位置決めを正確に誘導することができる。本発明の画像誘導レーザ手術に基づくシステムは、構造を単純に構成でき、コスト効率にも優れている。例えば、手術用レーザビームの誘導に関連する光部品の一部は、標的組織をイメージングするためにプローブ光ビームを誘導する光部品と共有でき、デバイス構造並びにイメージング光ビーム及び手術用光ビームの光学的整列及び較正が簡素化される。
【0055】
以下に説明する画像誘導レーザ手術システムは、イメージングデバイスの具体例としてOCTイメージングを使用し、また、手術中に手術用レーザを制御するための画像を捕捉するために、他の非OCTイメージングデバイスを用いてもよい。以下の具体例に示すように、イメージングサブシステム及び手術サブシステムの統合は、様々な度合いで実現できる。ハードウェアを統合しない最も簡単な形式では、イメージングサブシステム及びレーザ手術サブシステムは、分離され、インタフェースを介して互いに通信を行うことができる。このような設計によって、2つのサブシステムの設計が柔軟になる。例えば、患者インタフェース等の幾つかのハードウェアコンポーネントによって、2つのサブシステムを統合することにより、手術領域をハードウェアコンポーネントにより良好に位置合わせでき、機能性が拡張され、より正確な較正が実現し、ワークフローを改善できる。2つのサブシステム間の統合の度合いを高めるにつれて、システムは、よりコスト効率が高まり、小型化され、システム較正が簡素化され、時間に伴ってより安定する。図8図16は、様々な度合いで統合された画像誘導レーザシステムの具体例を示している。
【0056】
本発明の画像誘導レーザ手術システムの1つの実施例は、例えば、手術下の標的組織に外科的な変化を引き起こす手術用レーザパルスからなる手術用レーザビームを生成する手術用レーザと、患者インタフェースを標的組織に接触するように係合させ、標的組織を所定の位置に保持する患者インタフェースマウントと、手術用レーザと患者インタフェースとの間に位置し、患者インタフェースを介して手術用レーザビームを標的組織に方向付けるように構成されたレーザビーム供給モジュールとを含む。このレーザビーム供給モジュールは、所定の手術パターンに沿って、標的組織内で手術用レーザビームを走査するように動作できる。このシステムは、更に、手術用レーザの動作を制御し、及びレーザビーム供給モジュールを制御して、所定の手術パターンを生成するレーザ制御モジュールと、患者インタフェースに対して位置決めされ、患者インタフェース及び患者インタフェースに固定された標的組織に関して既知の空間的関係を有するOCTモジュールとを含む。OCTモジュールは、手術用レーザビームが標的組織に方向付けられ、手術が実行されている間、光プローブビームを標的組織に方向付け、標的組織から、光プローブビームの戻りプローブ光(returned probe light)を受光し、標的組織のOCT画像を捕捉するように構成されており、これにより、光プローブビーム及び手術用レーザビームは、標的組織内に同時に存在する。OCTモジュールは、レーザ制御モジュールと通信し、捕捉されたOCT画像の情報をレーザ制御モジュールに送信する。
【0057】
更に、この特定のシステムのレーザ制御モジュールは、捕捉されたOCT画像の情報に応じて、レーザビーム供給モジュールを操作して、手術用レーザビームを集光及び走査し、捕捉されたOCT画像内の位置決め情報に基づいて、標的組織における手術用レーザビームの集光及び走査を調整する。
【0058】
幾つかの実施例では、標的と手術器具とを位置合わせするためには、標的組織の完全な画像を取得する必要はなく、標的組織の一部、例えば、生来的な又は人工的な目印である手術領域からの幾つかの点を取得するだけで十分な場合もある。例えば、剛体は、3次元空間内で6の自由度を有し、剛体を定義するためには、独立した6個の点だけで十分である。手術領域の正確な寸法が未知である場合は、位置参照を提供するために更なる点が必要である。これに関して、幾つかの点を用いることによって、通常、個人差がある人間の眼の水晶体の前面及び後面の位置及び曲率、並びに厚さ及び直径を判定することができる。これらのデータに基づき、所定のパラメータを有する楕円体の2つの片半分から構成される体積体によって、水晶体を近似させ、実用的な目的のために可視化することができる。他の実施例では、捕捉された画像からの情報を他のソースからの情報、例えば、コントローラへの入力として用いられる水晶体の厚さの手術前測定の測定値に結合してもよい。
【0059】
図8は、分離されたレーザ手術システム2100及びイメージングシステム2200を備える画像誘導レーザ手術システムの一具体例を示している。レーザ手術システム2100は、手術用レーザパルスからなる手術用レーザビーム2160を生成する手術用レーザを有するレーザエンジン2130を含む。レーザビーム供給モジュール2140は、患者インタフェース2150を介して、レーザエンジン2130から標的組織1001に手術用レーザビーム2160を方向付け、所定の手術パターンに沿って、標的組織1001内で手術用レーザビーム2160を走査するように動作できる。レーザ制御モジュール2120は、通信チャネル2121を介して、レーザエンジン2130内の手術用レーザの動作を制御し、及びコントロールは、通信チャネル2122を介して、レーザビーム供給モジュール2140を制御して、所定の手術パターンを生成する。更に、患者インタフェース2150を標的組織1001に接触するように係合させ、標的組織1001を所定の位置に保持する患者インタフェースマウントを設けている。患者インタフェース2150は、眼の前面の形状に従って係合し、所定の位置に眼を保持する、平坦な又は曲面の表面を有するコンタクトレンズ又は圧平レンズを含むように実現することができる。
【0060】
図8のイメージングシステム2200は、手術システム2100の患者インタフェース2150に対して位置決めされたOCTモジュールであってもよく、これは、患者インタフェース2150及び患者インタフェース2150に固定されている標的組織1001に対して既知の空間的関係を有するように位置決めされている。このOCTモジュール2200は、標的組織1001とインタラクトするOCTモジュール2200自体の患者インタフェース2240を有するように構成してもよい。イメージングシステム2200は、イメージング制御モジュール2220及びイメージングサブシステム2230を含む。サブシステム2230は、標的1001をイメージングするためのイメージングビーム2250を生成する光源と、光プローブビーム又はイメージングビーム2250を標的組織1001に方向付け、標的組織1001から、光イメージングビーム2250の戻りプローブ光2260を受光し、標的組織1001のOCT画像を捕捉するイメージングビーム供給モジュールとを含む。光イメージングビーム2250及び手術用ビーム2160は、標的組織1001に同時に方向付けることができ、これによって、イメージング及び手術を順次的又は同時に行うことができる。
【0061】
図8に示すように、レーザ手術システム2100とイメージングシステム2200の両方に通信インタフェース2110、2210を設け、レーザ制御モジュール2120によるレーザ制御とイメージングシステム2200によるイメージングとの間で通信を可能にしており、これによって、OCTモジュール2200は、捕捉されたOCT画像の情報をレーザ制御モジュール2120に送信することができる。このシステムのレーザ制御モジュール2120は、捕捉されたOCT画像の情報に応じて、手術用レーザビーム2160を集光及び走査させるようレーザビーム供給モジュール2140を動作させ、及び捕捉されたOCT画像内の位置決め情報に基づいて、標的組織1001における手術用レーザビーム2160の集光及び走査を動的に調整する。レーザ手術システム2100とイメージングシステム2200との間の統合は、主に、通信インタフェース2110、2210の間の通信を介してソフトウェアレベルで実現される。
【0062】
また、この具体例及び他の具体例において、様々なサブシステム又はデバイスを統合することもできる。例えば、ある診断器具、例えば、波面収差計(wavefront aberrometer)、角膜トポグラフィー測定デバイス(corneal topography measuring device)等をシステム内に含ませてもよく、又はこれらのデバイスからの手術前情報を利用して、手術時のイメージング(intra-operative imaging)を補強してもよい。
【0063】
図9は、更なる統合特徴を有する画像誘導レーザ手術システムの具体例を示している。このイメージング及び手術システムは、図8に示す2つの別々の患者インタフェースとは異なり、標的組織1001(例えば、眼)を固定する共通の患者インタフェース3300を共有する。手術用ビーム3210及びイメージングビーム3220は、患者インタフェース3300において結合され、共通の患者インタフェース3300によって、標的1001に方向付けられる。更に、イメージングサブシステム2230及び手術部分(レーザエンジン2130及びビーム供給システム2140)の両方を制御するための共通の制御モジュール3100が設けられている。イメージング部分と手術部分の間の統合の度合いを高めることによって、2つのサブシステムの正確な較正、並びに患者及び手術体積体(surgical volume)の位置の安定性が実現する。手術サブシステム及びイメージングサブシステムの両方は、共通のハウジング3400に収容されている。2つのシステムが共通のハウジング内に統合されない場合、共通の患者インタフェース3300は、イメージングサブシステム及び手術サブシステムの何れかの一部であってもよい。
【0064】
図10は、レーザ手術システム及びイメージングシステムが、共通のビーム供給モジュール4100及び共通の患者インタフェース4200の両方を共有する画像誘導レーザ手術システムの具体例を示している。この統合によって、システム構造及びシステム制御機能が更に簡素化される。
【0065】
一実施例においては、上述及び他の具体例におけるイメージングシステムは、光コンピュータ断層撮影(optical computed tomography:OCT)システムであってもよく、レーザ手術システムは、フェムト秒レーザ又はピコ秒レーザを用いる眼科手術システムであってもよい。OCTでは、低コヒーレンスの広帯域光源、例えば、スーパールミネッセントダイオードからの光が、別々の参照ビーム及び信号ビームに分割される。信号ビームは、手術標的に供給されるイメージングビームであり、イメージングビームの戻り光は、回収され、参照ビームにコヒーレントに再結合され、干渉計が形成される。光学トレインの光軸又は光の伝播方向に垂直に信号ビームを走査すると、x−y方向に空間分解能が提供され、一方、深さ分解能は、干渉計の参照アームの光路長と、戻り信号ビームの信号アームの光路長との間の差分の抽出に由来する。異なるOCT実施例のx−yスキャナは、本質的には同じであるが、光路長の比較及びz−スキャン情報の取得は、異なる手法で行われることがある。例えば、時間領域OCTとも呼ばれる一実施例においては、参照アームは、その光路長を継続的に変化させ、一方、フォトディテクタは、再結合されたビームの強度から干渉変調を検出する。異なる実施例では、参照アームは、実質的に固定されており、干渉を調べるために結合光のスペクトルが解析される。結合ビームのスペクトルをフーリエ変換することによって、サンプルの内部からの拡散に関する空間情報が得られる。この方法は、スペクトル領域又はフーリエOCT法として知られている。周波数掃引OCT(frequency swept OCT)(S. R. Chinn, et.al.Opt.Lett.22 (1997))として知られている異なる実施例では、スペクトル範囲に亘って周波数が高速に掃引される狭帯域光源が使用される。参照アームと信号アームとの間の干渉は、高速検出器及び動的信号解析器によって検出される。これらの具体例では、この目的のために開発された外部共振器調整ダイオードレーザ又は周波数が調整された(Frequency tuned of)周波数領域モード同期(frequency domain mode-locked:FDML)レーザ(R. Huber et.al.Opt.Express, 13, 2005)(S. H. Yun, IEEE J. of Sel.Q. El.3(4) p. 1087-1096, 1997)を光源として使用することができる。OCTシステムの光源として使用されるフェムト秒レーザは、十分な帯域幅を有することができ、及び信号対雑音比を向上させる更なる利点を提供する。
【0066】
本明細書に開示するシステムにおけるOCTイメージングデバイスは、様々なイメージング機能を実行するために使用することができる。例えば、OCTを用いて、システムの光学的構成又は圧平プレートの存在から生じる複素共役を抑制し、標的組織内の選択された部分のOCT画像を捕捉して、標的組織内における手術用レーザビームの集光及び走査を制御するための3次元的な位置決め情報を提供し、若しくは、標的組織の表面上又は圧平プレート上の選択された部分のOCT画像を捕捉して、直立から仰向け等、標的の位置の変化によって生じる向きの変化を制御するための位置合わせを提供することができる。OCTは、標的の1つの向きにおけるマーク又はマーカの配置に基づく位置合わせ処理によって較正でき、OCTモジュールは、標的が他の向きにあるとき、これらのマーク又はマーカを検出できる。他の実施例では、OCTイメージングシステムを用いて、眼の内部構造に関する情報を光学的に収集するために偏光されたプローブ光ビームを生成する。レーザビーム及びプローブ光ビームは、異なる偏光方向に偏光してもよい。OCTは、上述した光断層法のために用いられるプローブ光を制御して、プローブ光が眼に向かって伝播する際、プローブ光を1つの偏光方向に偏光し、プローブ光が眼から戻る方向に伝播する際、プローブ光を他の異なる偏光方向に偏光する偏光制御メカニズムを含むことができる。偏光制御メカニズムは、例えば、波長板又はファラデー回転子を含んでいてもよい。
【0067】
図10のシステムは、スペクトルOCT構成として示されており、手術システムとイメージングシステムとの間で、ビーム供給モジュールの集光光学素子部分を共有するように構成できる。この光学素子のための主な要求は、動作波長、画質、解像度、歪み等に関連する。レーザ手術システムは、例えば、約2〜3マイクロメータ等、回析が制限された焦点サイズを達成するように設計された高開口数システムを含むフェムト秒レーザシステムであってもよい。様々な眼科手術用のフェムト秒レーザが、様々な波長、例えば、約1.05マイクロメータの波長で動作できる。イメージングデバイスの動作波長は、レーザ波長に近い波長に選択でき、これにより、光学素子は、両方の波長について、色収差を補償(chromatically compensated)できる。このようなシステムは、第3の光チャネル、例えば、標的組織の画像を捕捉するための更なるイメージングデバイスを提供する手術用顕微鏡等の視覚的観察チャネル(visual observation channel)を含むことができる。この第3の光チャネルのための光路が、手術用レーザビーム及びOCTイメージングデバイスの光と光学素子を共有する場合、共有された光学素子は、第3の光チャネルのための可視スペクトル帯域と、手術用レーザビーム及びOCTイメージングビームのためのスペクトル帯域とにおける色収差を補償するように構成できる。
【0068】
図11は、図9の設計の特定の具体例を示しており、ここでは、手術用レーザビームを走査するためのスキャナ5100及び手術用レーザビームを調整(コリメート及び集光)するためのビーム調整器5200は、OCTのためにイメージングビームを制御するためのOCTイメージングモジュール5300内の光学素子から独立している。手術システム及びイメージングシステムは、対物レンズ5600モジュール及び患者インタフェース3300を共有している。対物レンズ5600は、手術用レーザビーム及びイメージングビームの両方を患者インタフェース3300に方向付け及び集光し、その集光は、制御モジュール3100によって制御されている。手術ビーム及びイメージングビームを方向付けるために、2つのビームスプリッタ5410、5420が設けられている。また、ビームスプリッタ5420は、戻りのイメージングビームをOCTイメージングモジュール5300に戻すように方向付けるためにも使用される。また、2つのビームスプリッタ5410、5420は、標的1001から視覚的観察光学ユニット5500に光を方向付け、標的1001のダイレクトビュー又は画像を提供する。ユニット5500は、外科医が標的1001を見るためのレンズイメージングシステムであってもよく、標的1001の画像又は映像を捕捉するカメラであってもよい。例えば、ダイクロイックビームスプリッタ及び偏光ビームスプリッタ、光学格子、ホログラムビームスプリッタ(holographic beam splitter)、又はこれらのデバイスの組合せ等の様々なビームスプリッタを用いることができる。
【0069】
幾つかの実施例では、光ビームの光路の複数の表面からのグレアを低減するために、手術用波長及びOCT波長の両方について、光部品を反射防止コーティングによって適切にコーティングしてもよい。このようなコーティングを行わず、反射がある場合、OCTイメージングユニット内の背景光を増加させることによって、システムのスループットが低下し、及び信号対雑音比が低下する。OCTにおけるグレアを低減させる1つの手法は、標的組織の近くに配置されたファラデーアイソレータの波長板によって、サンプルからの戻り光の偏光方向を回転させ、OCT検出器の正面の偏光子が、サンプルから戻る光を優先的に検出し、光部品から散乱された光を抑制するように向けることである。
【0070】
レーザ手術システムでは、手術用レーザ及びOCTシステムのそれぞれが、標的組織内の同じ手術領域をカバーするようにビームスキャナを有することができる。したがって、手術用レーザビームのためのビーム走査及びイメージングビームのためのビーム走査は、共通の走査デバイスを共有するように統合できる。
【0071】
図12は、このようなシステムの具体例を詳細に示している。この実施例では、x−yスキャナ6410及びzスキャナ6420は、両方のサブシステムによって共有されている。手術動作及びイメージング動作の両方のシステム動作を制御するために、共通のコントローラ6100が設けられている。OCTサブシステムは、イメージング光を生成するOCT光源6200を含み、イメージング光は、ビームスプリッタ6210によって、イメージングビーム及び参照ビームに分離される。イメージングビームは、ビームスプリッタ6310において手術用ビームに結合され、標的1001に到達する共通の光路に沿って伝播する。スキャナ6410、6420及びビーム調整ユニット6430は、ビームスプリッタ6310からのダウンストリーム側に配設されている。ビームスプリッタ6440は、イメージングビーム及び手術用ビームを対物レンズ5600及び患者インタフェース3300に方向付けるために使用される。
【0072】
OCTサブシステムでは、参照ビームが、ビームスプリッタ6210を介して、光遅延デバイス6220に供給され、反射ミラー6230によって反射される。標的1001から戻るイメージングビームは、ビームスプリッタ6310に戻るように方向付けられ、ビームスプリッタ6310は、戻りのイメージングビームの少なくとも一部をビームスプリッタ6210に反射し、ここで、反射した参照ビーム及び戻りのイメージングビームが重なり、互いに干渉する。分光検出器6240は、干渉を検出し、標的1001のOCT画像を生成するために使用される。OCT画像情報は、手術用レーザエンジン2130、スキャナ6410、6420及び対物レンズ5600を制御して手術用レーザビームを制御するために、制御システム6100に送信される。一実施例では、光遅延デバイス6220は、標的組織1001内の様々な深さを検出するように、光遅延を変化させることができる。
【0073】
OCTシステムが時間領域システムである場合、2つのサブシステムは、2つの異なるzスキャナを使用する。これは、2つのスキャナの動作が異なるためである。この具体例では、手術システムのzスキャナは、手術用ビーム光路内のビームの光路長を変化させることなく、ビーム調整ユニットにおいて、手術用ビームの拡がり角を変更することによって動作する。一方、時間領域OCTは、可変遅延によって、又は参照ビーム反射ミラーの位置を移動させることによって、ビーム光路を物理的に変更することにより、z−方向の走査を行う。較正の後に、2つのzスキャナは、レーザ制御モジュールによって同期させることができる。2つの動きの間の関係は、制御モジュールが処理できる一次式又は多項式に従属するように簡素化でき、又はこれに代えて、較正点によってルックアップテーブルを定義して、適切なスケーリングを提供してもよい。スペクトル/フーリエ領域及び周波数掃引光源OCTデバイスは、zスキャナを有しておらず、参照アームの長さは固定である。コストを削減できることに加えて、2つのシステムの相互の較正は、比較的簡単である。集光光学素子及び2つのシステムのスキャナは、共有されているので、集光光学素子の画像歪み又は2つのシステムのスキャナの差分から生じる差分を補償する必要はない。
【0074】
手術システムの実用的な実施例では、集光対物レンズ5600は、ベースに摺動可能又は移動可能に取り付けられ、対物レンズの重量は、患者の眼に加わる力を制限するようにバランスがとられる。患者インタフェース3300は、患者インタフェースマウントに取り付けられた圧平レンズを含んでいてもよい。患者インタフェースマウントは、集光対物レンズを保持する取付ユニットに取り付けられている。この取付ユニットは、患者に避けられない動きがあった場合に、患者インタフェースとシステムとの間の安定した接続を確実にし、及び眼への負担がより軽くなるように患者インタフェースを眼に連結するように設計されている。集光対物レンズについては、様々な実施例を用いることができる。可調整集光対物レンズを設けることによって、OCTサブシステムのための光干渉計の一部として、光プローブ光の光路長を変更することができる。対物レンズ5600及び患者インタフェース3300の動きによって、OCTの参照ビームとイメージング信号ビームとの間の光路長の差分が制御不能に変化し、これによって、OCTによって検出されるOCT深さ情報が劣化することがある。これは時間領域OCTシステムのみではなく、スペクトル/フーリエ領域及び周波数掃引OCTシステムにおいても生じることがある。
【0075】
図13及び図14は、可調整集光対物レンズに関連する技術的課題を解決する例示的な画像誘導レーザ手術システムを示している。
【0076】
図13のシステムは、可動集光対物レンズ7100に連結された位置感知デバイス7110を備え、位置感知デバイス7110は、摺動可能マウント上の対物レンズ7100の位置を測定し、測定した位置をOCTシステムの制御モジュール7200に伝える。制御システム6100は、対物レンズ7100の位置を制御し、移動させて、OCT動作のためにイメージング信号ビームが伝播する光路長を調整することができる。位置エンコーダ7110は、対物レンズ7100に連結され、圧平プレート及び標的組織に対する、又はOCTデバイスに対する対物レンズ7100の位置変化を測定するように構成されている。そして、対物レンズ7100の測定された位置は、OCT制御モジュール7200に供給される。OCTシステムの制御モジュール7200は、OCTデータの処理において3次元画像を構築する際、患者インタフェース3300に対する集光対物レンズ7100の動きによって生じた、OCT内の干渉計の参照アームと信号アームとの間の差分を補償するアルゴリズムを適用する。OCT制御モジュール7200によって算出されたレンズ7100の位置の変化の適切な量は、制御モジュール6100に伝えられ、制御モジュールは、レンズ7100を制御して、その位置を変更する。
【0077】
図14は、OCTシステムの干渉計の参照アーム内の反射ミラー6230又はOCTシステムの光路長遅延アセンブリ内の少なくとも1つの一部が、可動集光対物レンズ7100に固定的に取り付けられており、対物レンズ7100が移動すると、信号アーム及び参照アームの光路長が同じ量だけ変化する他の例示的なシステムを示している。この場合、スライド上で対物レンズ7100が動いた場合、OCTシステムの光路長差分が自動的に補償され、更に演算によって補償を行う必要はない。
【0078】
画像誘導レーザ手術システムの上述の具体例では、レーザ手術システム及びOCTシステムは、異なる光源を使用している。レーザ手術システムとOCTシステムとを更に完全に統合した具体例では、手術用レーザビームのための光源としての手術用フェムト秒レーザが、OCTシステムのための光源としても使用される。
【0079】
図15は、光モジュール9100内のフェムト秒パルスレーザが、手術のための手術用レーザビーム及びOCTイメージングのためのプローブ光ビームの両方を生成するために使用される具体例を示している。ビームスプリッタ9300は、レーザビームを、手術用レーザビーム及びOCTのための信号ビームの両方としての第1のビームと、OCTのための参照ビームとしての第2のビームとに分割する。第1のビームは、第1のビームの伝播方向に垂直なx方向及びy方向にビームを走査するx−yスキャナ6410と、ビームの拡がり角を変更して、標的組織1001における第1のビームの集光を調整する第2のスキャナ(zスキャナ)6420とを介して方向付けられる。この第1のビームは、標的組織1001において手術を実行し、この第1のビームの一部は、患者インタフェースに後方散乱し、対物レンズによって、OCTシステムの光干渉計の信号アームのための信号ビームとして回収される。この戻り光は、参照アーム内の反射ミラー6230によって反射され、時間領域OCTのための可調整光遅延要素6220によって遅延された第2のビームに結合され、標的組織1001の異なる深さをイメージングする際に、信号ビームと参照ビームとの間の光路差が制御される。制御システム9200は、システム動作を制御する。
【0080】
角膜に対する実際の手術例によって、良好な手術結果を得るためには、数百フェムト秒のパルス幅で十分である場合があり、一方、十分な深さ分解能のOCTのためには、より短いパルス、例えば、数十フェムト秒以下のパルスによって生成されるより広いスペクトル帯域幅が必要であることがわかった。この文脈においては、OCTデバイスの設計が手術用フェムト秒レーザからのパルスの継続時間を決定する。
【0081】
図16は、単一のパルスレーザ9100を用いて、手術用ビーム及びイメージングビームを生成する他の画像誘導システムを示している。フェムト秒パルスレーザの出力光路内には、例えば、白色光生成又はスペクトル広帯域化等の光学非線形プロセスを用いて、通常、手術で用いられる数百フェムト秒の比較的長いパルスのレーザ光源からのパルスのスペクトル帯域幅を広げる非線形スペクトル広帯域化媒体9400が配設されている。媒体9400は、例えば、光ファイバ材料であってもよい。2つのシステムの光強度要求は、異なり、ビーム強度を調整するメカニズムは、2つのシステムにおけるこのような要求を満たすように実現できる。例えば、ビームステアリングミラー、ビームシャッタ又は減衰器を2つのシステムの光路に配設して、OCT画像を取得する際、又は手術を実行する際、患者及び敏感な器具を過度の光強度から保護するために、ビームの存在及び強度を適切に制御することができる。
【0082】
実際の動作では、図8図16の上述の具体例を用いて、画像誘導レーザ手術を実行することができる。図17は、画像誘導レーザ手術システムを用いてレーザ手術を実行する方法の一具体例を示している。この方法では、システム内の患者インタフェースを用いて、手術下の標的組織に係合させ、標的組織を所定の位置に保持し、システム内のレーザからのレーザパルスからなる手術用レーザビーム及びシステム内のOCTモジュールからの光プローブビームを、患者インタフェースを介して標的組織に同時に方向付ける。そして、手術用レーザビームを制御して標的組織においてレーザ手術を実行し、OCTモジュールを動作させて、標的組織から戻る光プローブビームの光から標的組織内のOCT画像を取得する。取得されたOCT画像内の位置情報は、手術前又は手術中に、標的組織における手術用レーザビームの集光及び走査を調整するために、手術用レーザビームの集光及び走査に適用される。
【0083】
図18は、眼のOCT画像の具体例を示している。患者インタフェース内の圧平レンズの接触面は、圧平の際に眼に加わる圧力に起因する角膜における歪み又は折り曲がりを最小化する曲率を有するように構成できる。患者インタフェースにおいて、眼の圧平が成功すると、OCT画像を取得することができる。図18に示すように、水晶体と角膜の曲率、及び水晶体及び角膜との間の距離は、OCT画像において特定可能である。上皮−角膜界面等の、より微細な特徴も検出可能である。これらの特定可能な特徴は、眼に対するレーザ座標の内部参照として使用してもよい。角膜及び水晶体の座標は、例えば、エッジ又はブロブ検出等の実績のあるコンピュータビジョンアルゴリズムを用いてデジタル化できる。一旦、水晶体の座標が確立されると、これらを用いて、手術のために、手術用レーザビームの集光及び位置決めを制御することができる。
【0084】
これに代えて、較正サンプル材料を用いて、既知の位置座標の位置に参照マークの3次元アレイを形成してもよい。較正サンプル材料のOCT画像を取得して、参照マークの既知の位置座標と、取得されたOCT画像内の参照マークのOCT画像との間でマッピング関係を確立することができる。このマッピング関係は、デジタル較正データとして保存され、手術中に取得された標的組織のOCT画像に基づいて、標的組織の手術中に、手術用レーザビームの集光及び走査を制御する際に適用される。なお、OCTイメージングシステムは、例示的なものであり、この較正は、他のイメージング技術を介して取得された画像にも適用できる。
【0085】
ここに開示する画像誘導レーザ手術システムでは、手術用レーザは、高開口数集光の下で、眼の内部(すなわち、角膜及び水晶体の内部)に強光子場/多光子イオン化を引き起こすために十分な比較的高いピークパワーを生成できる。これらの条件下では、手術用レーザからの1つのパルスは、焦点体積内(focal volume)にプラズマを生成する。プラズマの冷却の結果、よく定義されたダメージゾーン又は「気泡」が生じ、これは、参照点として用いることができる。以下では、手術用レーザによって生成されたダメージゾーンを用いて、OCTベースのイメージングシステムに対して手術用レーザを較正する較正処理について説明する。
【0086】
OCTは、手術用レーザに対して較正され、標的組織において、OCTによって取得された標的組織のOCT画像内の画像に関連する位置に対して、手術用レーザを所定の位置で制御できるように、相対的な位置関係が確立された後、手術が実行できるようになる。この較正を実行するための1つの手法では、レーザによってダメージを与えることができ、及びOCTによってイメージングできる予め較正された標的又は「ファントム(phantom)」を使用する。ファントムは、材料が手術用レーザによって生成された光ダメージを永久的に記録できるように、例えば、ガラス又は硬化プラスチック(例えば、PMMA)等の様々な材料から形成することができる。また、ファントムは、手術標的と同様の光学的特性又は他の特性(例えば、含水率)を有するように選択できる。
【0087】
ファントムは、例えば、少なくとも10mmの直径(又は供給システムの走査の直径)と、眼の上皮から水晶体への距離に亘る、又は手術システムの走査深度と同じ長さである少なくとも10mmの高さとを有する筒状材料であってもよい。ファントムの上面は、患者インタフェースに隙間なく一致するような曲面であってもよく、又はファントム材料は、完全な圧平を許容するように圧縮可能であってもよい。ファントムは、レーザ位置(x及びy)及び集光(z)の両方、並びにOCT画像を、ファントムに対して参照できるように3次元グリッドを有していてもよい。
【0088】
図19のA〜Dは、ファントムの2つの例示的な構成を示している。図19のAは、薄いディスクにセグメント化されたファントムを示している。図19のBは、ファントムに亘ってレーザ位置を判定するための参照(すなわち、x座標及びy座標)としての参照マークのグリッドを有するようにパターン化された単一のディスクを示している。z−座標(深さ)は、スタックから個々のディスクを取り出し、共焦点顕微鏡下でこれをイメージングすることによって判定できる。
【0089】
図19のCは、2つの片半分に分離することができるファントムを示している。図19のAのセグメント化されたファントムと同様に、このファントムは、x座標及びy座標においてレーザ位置を判定するために参照される参照マークのグリッドを含むように構造化されている。深さ情報は、ファントムを2つの片半分に分離し、ダメージゾーン間の距離を測定することによって抽出することができる。これらの情報を組み合わせて、画像誘導手術のためのパラメータを提供できる。
【0090】
図20は、画像誘導レーザ手術システムの手術システム部分を示している。このシステムは、例えば、検流計又はボイスコイル等のアクチュエータによって駆動されるステアリングミラーと、対物レンズと、使い捨ての患者インタフェースとを含む。手術用レーザビームは、ステアリングミラーから対物レンズを介して反射される。対物レンズは、患者インタフェースの直後にビームを集光する。x座標及びy座標における走査は、対物レンズに対してビームの角度を変更することによって実行される。z−平面での走査は、ステアリングミラーのアップストリーム側のレンズのシステムを用いて、入射ビームの拡がり角を変更することによって達成される。
【0091】
この具体例では、使い捨ての患者インタフェースの円錐部分は、空気によって区切られていても、中実であってもよく、患者に接触する部分は、曲面を有するコンタクトレンズを含む。曲面を有するコンタクトレンズは、溶融シリカ又は電離放射線による放射の際に色中心が形成されることを防ぐ他の材料から作製できる。曲率半径は、眼と互換性がある上限、例えば、約10mmに設定する。
【0092】
較正処理の第1のステップは、患者インタフェースをファントムに連結することである。ファントムの曲率は、患者インタフェースの曲率に一致する。連結の後、処理の次のステップは、ファントムの内部に光ダメージを作成して、参照マークを生成することを伴う。
【0093】
図21は、フェムト秒レーザによってガラス内に作成された実際のダメージゾーンの具体例を示している。ダメージゾーン間の間隔は、平均的に8μmである(パルスエネルギは、半値全幅で580fsの継続時間で2.2μJである)。図21に示す光ダメージから、フェムト秒レーザによって作成されたダメージゾーンは、よく定義されており、離散的であることがわかる。ここに示す具体例では、ダメージゾーンは、約2.5μmの直径を有する。図20に示すものと同様の光ダメージゾーンは、様々な深さでファントム内に作成され、参照マークの3次元アレイが形成される。これらのダメージゾーンは、適切なディスクを抽出し、共焦点顕微鏡下でこれをイメージングする(図19のA)ことによって又はファントムを2つの片半分に分割して、マイクロメータを用いて深さを測定する(図19のC)ことによって、較正されたファントムに対して参照される。x座標及びy座標は、予め較正されたグリッドから確立することができる。
【0094】
手術用レーザによってファントムにダメージを作成をした後に、ファントムに対してOCTが実行される。OCTイメージングシステムは、OCT座標系とファントムとの間の関係を確立するファントムの3Dレンダリングを提供する。ダメージゾーンは、イメージングシステムによって検出可能である。OCT及びレーザは、ファントムの内部基準を用いて、相互較正してもよい。OCT及びレーザが互いに参照された後、ファントムを取り除くことができる。
【0095】
手術前に、較正を検証してもよい。この検証ステップは、第2のファントムの内部の様々な位置に光ダメージを作成することを伴う。OCTによって、円形パターンを形成する複数のダメージゾーンをイメージングできるように、光ダメージは、十分に鮮明である必要がある。パターンが作成された後、第2のファントムは、OCTによってイメージングされる。手術前にOCT画像をレーザ座標と比較することによって、システム較正の最終的なチェックが行われる。
【0096】
一旦、レーザに座標が提供されると、眼内でレーザ手術を実行できる。これは、レーザを用いた水晶体の光乳化(photo-emulsification)及びこの他の眼のレーザ治療を含む。手術は、いつでも停止することができ、前眼部(図17)を再イメージングして、手術の進行を監視することができ、更に、眼内レンズ(intraocular lens:IOL)を挿入した後に、(光によって又は圧平なしで)IOLをイメージングすることによって、眼内のIOLの位置に関する情報が得られる。医師は、この情報を利用して、IOLの位置の精度を高めることができる。
【0097】
図22は、較正処理及び較正後の手術の具体例を示している。この具体例に示す画像誘導レーザ手術システムを用いてレーザ手術を実行する方法は、手術下の標的組織に係合(engage)し、標的組織を所定の位置に保持するシステム内の患者インタフェースを用いて、手術を実行する前の較正処理の間、較正サンプル材料を保持するステップと、システム内のレーザからのレーザパルスからなる手術用レーザビームを、患者インタフェースを介して、較正サンプル材料に方向付け、選択された3次元参照位置において、参照マークを焼付けるステップと、システム内の光干渉断層法(OCT)モジュールからの光プローブビームを、患者インタフェースを介して較正サンプル材料に方向付け、焼付けられた参照マークのOCT画像を捕捉するステップと、OCTモジュールと焼付けられた参照マークの位置座標間の関係を確立するステップとを有することが可能である。関係を確立した後、システム内の患者インタフェースを手術下の標的組織に係合(engage)させ、標的組織を所定の位置に保持する。レーザパルスからなる手術用レーザビーム及び光プローブビームは、患者インタフェースを介して標的組織に方向付けられる。手術用レーザビームは、標的組織内でレーザ手術を実行するように制御される。OCTモジュールは、標的組織から戻る光プローブビームの光から標的組織内のOCT画像を取得し、取得されたOCT画像内の位置情報及び確立された関係を手術用レーザビームの集光及び走査に適用して、手術中に、標的組織における手術用レーザビームの集光及び走査を調整するように動作する。このような較正は、レーザ手術の直前に行うことができるが、これらの較正は、手術の前に様々な間隔をあけて行い、この間隔の間に、較正のドリフト又は変化がないことを確かめる較正検証(calibration validation)を行ってもよい。
【0098】
以下の具体例は、手術用レーザビームの整列のためにレーザ誘起光破壊副産物の画像を用いる画像誘導レーザ手術技術及びシステムを説明する。
【0099】
図23A及び図23Bは、この技術の他の実施例を示しており、ここでは、標的組織内の実際の光破壊副産物を用いて、更なるレーザ配置を誘導している。例えば、フェムト秒レーザ又はピコ秒レーザであるパルスレーザ1710は、レーザパルスを含むレーザビーム1712を生成し、標的組織1001に光破壊を引き起こす。標的組織1001は、患者の体の一部1700であってもよく、例えば、一方の眼の水晶体の一部であってもよい。レーザビーム1712は、ある手術の効果を達成するために、レーザ1710のための光学モジュールによって、標的組織1001の標的組織位置に集光及び方向付けされる。標的表面は、レーザ波長及び標的組織からの画像波長を透過する圧平プレート1730によって光学的にレーザ光学モジュールに連結されている。圧平プレート1730は、圧平レンズであってもよい。イメージングデバイス1720は、圧平プレートが適用される前又は後(若しくはその両方)に、標的組織1001から反射又は散乱した光又は音波を回収し、標的組織1001の画像を捕捉する。そして、レーザシステム制御モジュールが捕捉された画像データを処理し、所望の標的組織位置を判定する。レーザシステム制御モジュールは、標準の光学モデルに基づいて、光学要素又はレーザ要素を移動又は調整して、光破壊副産物1702の中心が標的組織位置に重なることを確実にする。これは、手術の過程の間に光破壊副産物1702と標的組織1001の画像を継続的に監視し、各標的組織位置においてレーザビームが適切に配設されていることを確実にする動的な整列処理であってもよい。
【0100】
一具体例では、レーザシステムは、2つのモードで動作させることができる。まず、診断モードでは、レーザビーム1712は、整列レーザパルスを用いて、初期的に整列され、整列のための光破壊副産物1702を生成し、次に、手術モードでは、実際の手術を実行するための手術用レーザパルスが生成される。両方のモードにおいて、ビーム整列を制御するために光破壊副産物1702及び標的組織1001の画像が監視される。図23Aは、レーザビーム1712内の整列レーザパルスを、手術用レーザパルスのエネルギレベルとは異なるエネルギレベルに設定できる診断モードを示している。例えば、イメージングデバイス1720によって光破壊副産物1702を捕捉するために組織内に顕著な光破壊を引き起こすために十分であれば、整列レーザパルスは、手術用レーザパルスよりエネルギが小さくてもよい。所望の手術の効果を提供するためには、この粗い目標設定の分解能が十分ではないことがある。捕捉された画像に基づいて、レーザビーム1712を適切に整列することができる。この初期の整列の後、レーザ1710を制御して、より高いエネルギレベルで手術用レーザパルスを生成して、手術を実行することができる。手術用レーザパルスは、整列レーザパルスとは異なるエネルギレベルを有するので、光破壊における組織物質の非線形効果によって、レーザビーム1712が診断モードの間のビーム位置とは異なる位置に集光されることがある。したがって、診断モードの間に行われた整列は、粗い整列であり、手術用レーザパルスが実際の手術を実行する手術モードの間に、各手術用レーザパルスをより精密に位置決めする更なる整列を実行してもよい。図23Aに示すように、イメージングデバイス1720は、手術モードの間に標的組織1001から画像を捕捉し、レーザ制御モジュールは、レーザビーム1712を調整して、レーザビーム1712の集光位置1714を標的組織1001内の所望の標的組織位置に配置する。この処理は、各標的組織位置毎に実行される。
【0101】
図24は、まず、標的組織において、概略的にレーザビームの照準を合わせ、次に、光破壊副産物の画像を捕捉し、これを用いて、レーザビームを整列するレーザ整列の1つの実施例を示している。標的組織としての体の一部の標的組織の画像及びその体の一部の参照用の画像は、標的組織においてパルスレーザビームの照準を合わせるために監視される。光破壊副産物及び標的組織の画像は、パルスレーザビームを調整して、光破壊副産物の位置を標的組織に重ね合わせるために使用される。
【0102】
図25は、レーザ手術における標的組織内の光破壊副産物のイメージングに基づくレーザ整列方法の1つの実施例を示している。この方法では、パルスレーザビームは、標的組織内の標的組織位置に照準を合わされ、初期の整列レーザパルスのシーケンスが標的組織位置に供給される。標的組織位置及び初期の整列レーザパルスによって生じた光破壊副産物の画像は、監視され、標的組織位置に対する光破壊副産物の位置が取得される。初期の整列レーザパルスとは異なる手術用パルスエネルギレベルを有する手術用レーザパルスによって生じた光破壊副産物の位置は、手術用レーザパルスのパルスレーザビームが標的組織位置に配置された際に判定される。パルスレーザビームは、手術用パルスエネルギレベルで手術用レーザパルスを供給するように制御される。パルスレーザビームの位置は、手術用パルスエネルギレベルにおいて、光破壊副産物の位置を、判定された位置に配置するように調整される。標的組織及び光破壊副産物の画像を監視しながら、手術用パルスエネルギレベルのパルスレーザビームの位置は、標的組織内の新たな標的組織位置にパルスレーザビームを動かす際、光破壊副産物の位置を、各判定された位置に配置するように調整される。
【0103】
図26は、光破壊副産物の画像を用いるレーザ整列に基づく例示的なレーザ手術システムを示している。光学モジュール2010は、レーザビームを標的組織1700に集光し、方向付ける。光学モジュール2010は、1個以上のレンズを含んでいてもよく、更に1個以上の反射鏡を含んでいてもよい。光学モジュール2010内には、ビーム制御信号に応じて集光及びビーム方向を調整する制御アクチュエータが含まれている。システム制御モジュール2020は、レーザ制御信号を介してパルスレーザ1010を制御し、及びビーム制御信号を介して光学モジュール2010を制御する。システム制御モジュール2020は、標的組織1700内の標的組織位置からの光破壊副産物1702の位置オフセット情報を含む、イメージングデバイス2030からの画像データを処理する。画像から得られた情報に基づいて、レーザビームを調整する光学モジュール2010を制御するビーム制御信号が生成される。システム制御モジュール2020には、レーザ整列のための様々なデータ処理を実行するデジタル処理ユニットが含まれている。
【0104】
イメージングデバイス2030は、光干渉断層法(OCT)デバイスを含む様々な形式で実現することができる。また、超音波イメージングデバイスを用いてもよい。レーザ焦点の位置は、イメージングデバイスの分解能で、焦点が標的に概略的に配置されるように動かされる。標的へのレーザ焦点の参照における誤差及び可能性がある非線形光学効果、例えば、自己収束によって、レーザ焦点の位置及び後の光破壊イベントを正確に予測することが困難になる。物質内でのレーザの集光を予測するモデルシステム又はソフトウェアプログラムの使用を含む様々な較正法を用いて、イメージングされた組織内でのレーザの粗い目標設定を行うことができる。標的のイメージングは、光破壊の前及び後の両方で行うことができる。標的に対する光破壊副産物の位置を用いて、レーザの焦点を移動させ、標的において又は標的に対して、レーザ集光及び光破壊プロセスをより良好に局所化させる。このように、実際の光破壊イベントは、後の手術用パルスの配置のために精密な目標設定を提供するために使用される。
【0105】
診断モードの間の光破壊のための目標設定は、システムの手術モードにおける後の手術処理のために必要なエネルギレベルと比べて、より低い、より高い、又は同じエネルギレベルで実行できる。光学パルスエネルギレベルは、光破壊イベントの正確な位置に影響を与えることがあるので、診断モードにおいて異なるエネルギで実行される光破壊イベントの局所化を、手術のエネルギにおいて予測される局所化と関連付ける較正を行ってもよい。一旦、この初期の局所化及び整列を実行した後、この位置決めに対して複数のレーザパルス(又は単一のパルス)のボリューム又はパターンを供給することができる。更なるレーザパルスを供給する間に、更なるサンプリング画像を生成して、レーザの適切な局所化を確実にしてもよい(サンプリング画像は、より低い、より高い又は同じエネルギパルスを用いて取得してもよい)。一具体例では、超音波デバイスを用いて、キャビテーション気泡又は衝撃波、若しくは他の光破壊副産物を検出する。そして、この局所化は、超音波又は他の様式によって取得された標的の画像に関連付けることができる。他の実施の形態においては、イメージングデバイスは、単なる生体顕微鏡であってもよく、光干渉断層法等、オペレータによる光破壊イベントの他の光学的可視化であってもよい。初期の観察では、レーザ焦点は、所望の標的位置に動かされ、この後、この最初の位置に対して、パルスのパターン又はボリュームが供給される。
【0106】
特定の具体例として、精密な表面下光破壊のためのレーザシステムは、1秒あたり百〜十億パルスの繰返し率で光破壊を生成することができるレーザパルスを生成するための手段と、標的の画像及びその画像へのレーザ集光の較正を用いて、手術の効果を生成することなく、表面下の標的にレーザパルスを粗く集光する手段と、表面下を検出又は可視化して、標的、標的の周りの隣接する空間又は物質、及び標的の近傍に粗く局所化された少なくとも1つの光破壊イベントの副産物の画像又は可視情報を提供する手段と、光破壊の副産物の位置を表面下の標的の位置に少なくとも一回関連付け、レーザパルスの焦点を移動させ、光破壊の副産物を表面下の標的に又は標的に対する相対的位置に位置決めする手段と、少なくとも1つの更なるレーザパルスの後続するトレインを、光破壊の副産物の表面化の標的の位置への上述した精密な関連付けによって示される位置に対するパターンで供給する手段と、後のパルスのトレインの配置の間、光破壊イベントの監視を継続し、イメージングされている同じ又は改訂された標的に対して、後続するレーザパルスの位置を微調整する手段とを含むことができる。
【0107】
上述した技術及びシステムを用いて、高繰返し率レーザパルスを、切断又は体積分解の用途に必要とされる連続的なパルス配置に必要な精度で、表面下の標的に供給することができる。これは、標的の表面上の参照源の使用の有無にかかわらず行うことができ、及び圧平の後の又はレーザパルスの配置の間の標的の動きを考慮に入れることができる。
【0108】
本文献は、多くの詳細を含んでいるが、これらは、特許請求の範囲又は特許請求可能な範囲を制限するものではなく、本発明の特定の実施の形態の特定の特徴の記述として解釈される。本文献において、別個の実施の形態の文脈で開示した幾つかの特徴を組み合わせて、単一の実施の形態として実施してもよい。逆に、単一の実施の形態の文脈で開示した様々な特徴は、複数の実施の形態として別個に実施してもよく、適切な如何なる部分的組合せとして実施してもよい。更に、以上では、幾つかの特徴を、ある組合せで機能するものと説明しているが、初期的には、そのように特許請求している場合であっても、特許請求された組合せからの1つ以上の特徴は、幾つかの場合、組合せから除外でき、特許請求された組合せは、部分的組合せ又は部分的な組合せの変形に変更してもよい。
【0109】
レーザ手術技術、装置及びシステムの幾つかの実施例を開示した。ここに説明したことから、開示した実施例の変形例、拡張例及び他の実施例を想到できることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23A
図23B
図24
図25
図26