特許第6178407号(P6178407)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178407
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】抗炎症薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/045 20060101AFI20170731BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20170731BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20170731BHJP
【FI】
   A61K31/045
   A61P37/08
   A61P17/00
   A23L33/10
【請求項の数】6
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2015-508705(P2015-508705)
(86)(22)【出願日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2014058920
(87)【国際公開番号】WO2014157540
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2016年3月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-67026(P2013-67026)
(32)【優先日】2013年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 季之
(72)【発明者】
【氏名】砂田 太
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀忠
(72)【発明者】
【氏名】青柳 健一
(72)【発明者】
【氏名】米田 弘義
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−176814(JP,A)
【文献】 特開2010−064984(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/057824(WO,A1)
【文献】 特開2011−042628(JP,A)
【文献】 特開2007−330105(JP,A)
【文献】 特表2008−542452(JP,A)
【文献】 特開2006−022121(JP,A)
【文献】 TAKASHI MAOKA et al.,Anti-oxidative, anti-tumor-promoting, and anti-carcinogenic activities of adonirubin and adonixanthi,Journal of Oleo Science,2013年 3月 6日,Vol.62, No.3,P.181-186
【文献】 花田 勝美,特集/活性酸素・フリーラジカルと老化制御化粧品の開発,FRAGRANCE JOURNAL Vol.21, No.11,Vol.21, No.11,P.43-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A23L 33/00−33/29
A61P 17/00−17/18
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アドニキサンチンまたはその薬学的に許容される塩を含有する、経口アレルギー性皮膚炎治療剤。
【請求項2】
アレルギー性皮膚炎がアトピー性皮膚炎である、請求項に記載の治療剤。
【請求項3】
皮膚炎がIgEに起因するものである、請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項4】
アドニキサンチンまたはその薬学的に許容される塩を含有する、アレルギー性皮膚炎抑制用食品組成物
【請求項5】
アレルギー性皮膚炎がアトピー性皮膚炎である、請求項4に記載の食品組成物。
【請求項6】
皮膚炎がIgEに起因するものである、請求項4または5に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物を含有する経口投与用の皮膚炎の治療剤に関する。詳しくは、アドニキサンチン等を含有する経口投与用の皮膚炎の治療剤および機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは飼料添加物、食品添加物、化粧品素材、医薬品等として有用な天然色素である。カロテノイドには、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニルビン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノンおよび3−ヒドロキシエキネノンなどが含まれる。
【0003】
中でも、アスタキサンチンは養殖魚であるサケ、マス、マダイ等の体色改善剤や、家禽類の卵黄色改善剤のような飼料添加物として有用である。また、アスタキサンチンは安全な天然の食品添加物や健康食品素材、化粧品素材として産業上の価値が高いことが知られている。アドニルビンは、工業的製造法が確立されることにより、アスタキサンチンと同様に飼料添加物、食品添加物、化粧品素材、医薬品等としての用途が期待されている。さらに、β−カロテンは飼料添加物、食品添加物、化粧品素材、医薬品等として使用され、カンタキサンチンは飼料添加物、食品添加物、化粧品等として使用され、ゼアキサンチンは食品添加物、飼料添加物、化粧品素材等として使用されている。さらにリコペン、エキネノン、β−クリプトキサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、アステロイデノン等も飼料添加物、食品素材、化粧品素材等としての使用が期待される。これらカロテノイドの製造方法としては、化学合成法、天然物からの抽出法、微生物による産生方法などが知られている(例えば、特許文献1および2)。
【0004】
しかしながら、カロテノイド、中でもアドニキサンチン等の、炭素原子および水素原子の他に酸素原子に代表されるヘテロ原子を分子内に含むカロテノイドであるキサントフィル化合物の有する生物学的作用については、未だ十分に知られていない。
【0005】
一方、皮膚炎、特にアトピー性皮膚炎のさらなる治療剤の開発の必要性が、依然として存在している。すなわち、従来知られるアトピー性皮膚炎の治療剤のうち、ステロイド剤は炎症の治療には効果があるが、皮膚が薄くなる等の強い副作用があり、長期の使用が困難である。一方、免疫抑制剤に関しては、免疫系全般の抑制効果があるため、他の病疾に罹患しやすくなるといった問題がある。このような状況から、炎症の治療に効果があり、且つ、副作用等の少ない治療剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−172293号公報
【特許文献2】特開2009−050237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物を含有する経口投与用の皮膚炎の治療剤または機能性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、アドニキサンチンなどの特定のキサントフィル化合物が経口投与により皮膚炎、特にアレルギー性皮膚炎の予防、治療に対して、経口投与により有効に作用することなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記一般式(1)で示されるキサントフィル化合物、またはその薬学的に許容される塩を含有する、経口アレルギー性皮膚炎治療剤である。
【化1】


〔一般式(1)において、Wは下記一般式(2)〜(4)のいずれかによって示される基を、Xは下記一般式(5)〜(8)のいずれかによって示される基をそれぞれ表すか、あるいはWとXとの組み合わせであるW−Xは下記一般式(9)で示される基を表し、Yは下記一般式(10)〜(12)のいずれかによって示される基を、Zは下記一般式(13)〜(21)のいずれかによって示される基をそれぞれ表すか、あるいはYとZとの組み合わせであるY−Zは下記一般式(22)〜(24)のいずれかで示される基を表す。
【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


【化9】

【0010】
(ここで、一般式(2)〜(4)および一般式(9)において、RおよびRは、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;
置換基を有していてもよいグリコシル基;
置換基を有していてもよいシリル基;
−COR
−COOR
−CONR
−PO(OR)(OR);または
−SOを表し、
【0011】
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;または
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基
を表し、
およびRは、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;または
置換基を有していてもよいシリル基
を表す。
【0012】
一般式(13)〜(15)において、
10、R11およびR12は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、水素原子または−OQを表し、
は、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;
置換基を有していてもよいグリコシル基;
置換基を有していてもよいシリル基;
−COR16
−COOR17
−CONR1819
−PO(OR20)(OR21);または
−SO22を表し、
16、R17、R18、R19およびR22は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;または
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基
を表し、
20およびR21は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;または
置換基を有していてもよいシリル基
を表す。
【0013】
また、一般式(16)、(18)、(21)および(22)において、R13、R14およびR15は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;
置換基を有していてもよいグリコシル基;
置換基を有していてもよいシリル基;
−COR23
−COOR24
−CONR2526
−PO(OR27)(OR28);または
−SO29を表し、
23、R24、R25、R26およびR29は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;または
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基
を表し、
27およびR28は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;または
置換基を有していてもよいシリル基
を表す。)〕
【0014】
本発明において、Wとしては一般式(2)または(3)で示されるものが挙げられる。
また、Xとしては一般式(5)で示されるものが、Yとしては一般式(10)で示されるものが、Zとしては一般式(13)、(14)および(15)のいずれかで示されるものが挙げられる。
さらに、本発明において、一般式(2)または(3)において、Rが水素原子を表すものを例示することができる。
【0015】
本発明において、キサントフィル化合物としては、例えばゼアキサンチン、α-クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチン、アステロイデノン、アドニキサンチンおよびルテイン、並びにこれらの薬学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。
【0016】
また、本発明において、アレルギー性皮膚炎としてはアトピー性皮膚炎が挙げられる。皮膚炎は例えばIgEに起因するものを例示することができる。
【0017】
さらに、本発明は、前記一般式(1)で示されるキサントフィル化合物、またはその薬学的に許容される塩を含有する、機能性食品である。
一般式(1)、及び式(1)中の置換基(W、X、およびWとXとの組み合わせであるW−X、並びにY、Z、およびYとZとの組み合わせであるY−Z)の定義は前記と同様である。
本発明の機能性食品に含まれるキサントフィル化合物としては、ゼアキサンチン、α-クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチン、アステロイデノン、アドニキサンチンおよびルテイン、並びにこれらの薬学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
【0018】
さらに、本発明は、ゼアキサンチン、α-クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチン、アステロイデノン、アドニキサンチンおよびルテイン、並びにこれらの薬学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、アトピー性皮膚炎治療用の医薬組成物を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、経口投与剤である皮膚炎、特にアレルギー性皮膚炎の治療剤が提供される。本発明の一実施態様において、本発明の皮膚炎治療剤は、NCモデルマウスで観察される皮膚病変スコアおよび/または血中IgE濃度を濃度依存的に低下させるため、血中IgE濃度に起因する皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、特にアトピー性皮膚炎の治療に有用である。また、本発明の別の実施態様において、本発明の皮膚炎治療剤は、副作用としての体重減少を示さないため、より副作用の少ない治療剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
【0021】
また、本明細書において引用した刊行物は、全体を通して本明細書に組み込むものとする。
【0022】
本発明は、アドニキサンチン等のキサントフィル化合物が経口投与により、NCマウスで発症する皮膚炎の治療に有効であるという新たな知見に基づき完成されたものである。したがって、本発明は、アドニキサンチン等の抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物を含む、経口投与剤である皮膚炎の治療剤を提供する。皮膚炎は、例えばアレルギー性皮膚炎、好ましくはアトピー性皮膚炎である。
【0023】
1.抗皮膚炎作用を有するキサントフィル
本発明において、「キサントフィル」は、抗皮膚炎作用を有し皮膚炎の治療に有効である限り特に限定されるものではない。
【0024】
本発明の経口治療剤として使用されるキサントフィル化合物(以下、「本発明のキサントフィル化合物」ともいう)は、下記一般式(1)で示されるものであり、その薬学的に許容される塩も含まれる。
【化10】

【0025】
一般式(1)において、Wは下記一般式(2)〜(4)のいずれかによって示される基を、Xは下記一般式(5)〜(8)のいずれかによって示される基をそれぞれ表すか、あるいはWとXとの組み合わせであるW−Xは下記一般式(9)で示される基を表し、Yは下記一般式(10)〜(12)のいずれかによって示される基を、Zは下記一般式(13)〜(21)のいずれかによって示される基をそれぞれ表すか、あるいはYとZとの組み合わせであるY−Zは下記一般式(22)〜(24)のいずれかで示される基を表す。
【化11】


【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】

【0026】
ここで、一般式(2)〜(4)および一般式(9)において、RおよびRは、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;
置換基を有していてもよいグリコシル基;
置換基を有していてもよいシリル基;
−COR
−COOR
−CONR
−PO(OR)(OR);または
−SOを表し、
【0027】
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;または
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基
を表し、
およびRは、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;または
置換基を有していてもよいシリル基
を表す。
【0028】
一般式(13)〜(15)において、
10、R11およびR12は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、水素原子または−OQを表し、
は、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;
置換基を有していてもよいグリコシル基;
置換基を有していてもよいシリル基;
−COR16
−COOR17
−CONR1819
−PO(OR20)(OR21);または
−SO22を表し、
16、R17、R18、R19およびR22は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;または
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基
を表し、
20およびR21は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;または
置換基を有していてもよいシリル基
を表す。
【0029】
また、一般式(16)、(18)、(21)および(22)において、R13、R14およびR15は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;
置換基を有していてもよいグリコシル基;
置換基を有していてもよいシリル基;
−COR23
−COOR24
−CONR2526
−PO(OR27)(OR28);または
−SO29を表し、
23、R24、R25、R26およびR29は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;または
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基
を表し、
27およびR28は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基;または
置換基を有していてもよいシリル基
を表す。
【0030】
以下に、本発明において使用される式(I)で示されるキサントフィル化合物中の各基について具体的に説明する。
【0031】
各基の説明において、例えば「C1−20」とは、構成炭素原子数が1から20(C〜C20)であることを表し、特に断らない限り、直鎖、分枝鎖または環状の基の炭素原子数を表す。当該構成炭素原子数には、環状の基が置換した直鎖もしくは分枝鎖の基、または直鎖もしくは分枝鎖の基が置換した環状の基を含む基の総炭素原子数も含まれる。
従って、例えば「C1−20」のときの鎖状の基は、構成炭素原子数が1から20の直鎖または分枝鎖を意味する。また、環状の基は、環の構成炭素員数が1から20の環状基を意味する。鎖状の基と環状の基を含む基は、総炭素原子数が1から20の基を意味する。
他の炭素原子数の表示のときも上記と同様である。
【0032】
「置換基を有していてもよい」とは、置換可能な部位に、1個の置換基または任意に組み合わせた複数個の置換基を有してもよいことを意味する。
「置換基を有していてもよい」における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、シリル基、メタンスルホニル基、C1−6アルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C3−8シクロアルキル、C6−10アリール、5〜10員ヘテロアリール、3〜10員非芳香族ヘテロ環式基、C1−6アルコキシ、C1−6アルキルチオ、C3−8シクロアルコキシ、モノ−C1−6アルキルアミノ、ジ−C1−6アルキルアミノ、C2−7アシルまたはC2−7アルコキシカルボニルなどを挙げることができる。
ただし、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−8シクロアルキル基、C6−10アリール基、5〜10員ヘテロアリール基、3〜10員非芳香族ヘテロ環式基、C1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、C3−8シクロアルコキシ基、モノ−C1−6アルキルアミノ基、ジ−C1−6アルキルアミノ基、C2−7アシル基およびC2−7アルコキシカルボニル基はそれぞれ独立して下記置換基群から選ばれる1〜3個の基を有していてもよい。
(置換基群:ハロゲン原子、水酸基、チオール基、ニトロ基、シアノ基、C1−6アルキル基、C3−8シクロアルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C6−10アリール基、5〜10員ヘテロアリール基、3〜10員非芳香族ヘテロ環式基、C1−6アルコキシ基およびC1−6アルキルチオ基。)
【0033】
「アルキル基」とは、直鎖または分枝鎖のアルキル基を表す。例えば「C1−20アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピル、ヘプチル、1−メチルヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、1,1−ジメチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等が挙げられる。
【0034】
「アルケニル基」とは、直鎖、分枝鎖または環状のアルケニル基を表す。例えば「C2−20アルケニル基」としては、ビニル、アリル、イソプロペニル、2−メチルアリル、ブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、1−シクロプロペン−1−イル、2−シクロプロペン−1−イル、1−シクロブテン−1−イル、1−シクロペンテン−1−イル、2−シクロペンテン−1−イル、3−シクロペンテン−1−イル、1−シクロヘキセン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル、3−シクロヘキセン−1−イル、2,4−シクロペンタジエン−1−イル、2,5−シクロヘキサジエン−1−イル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、1−シクロヘプテン−1−イル、1−シクロヘキセン−1−イルメチル、4−メチル−1−シクロヘキセン−1−イル、4,4−ジメチル−1−シクロヘキセン−1−イル、3,3,5,5−テトラメチル−1−シクロヘキセン−1−イル等が挙げられる。
【0035】
「アルキニル基」とは、直鎖、分枝鎖または環状のアルキニル基を表す。例えば「C2−20アルキニル基」としては、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル等が挙げられる。
【0036】
「シクロアルキル基」とは、単環または多環の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば「C3−22シクロアルキル基」としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、1−シクロプロピルエチル、2−シクロプロピルエチル、2−シクロブチルエチル、2−メチルシクロプロピル、シクロヘプチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル、4−メチルシクロヘキシル、4,4−ジメチルシクロヘキシル、3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキシル等が挙げられる。
【0037】
「アリール基」とは、単環式または縮環式のアリール基を意味する。「C6−18アリール基」としては、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アンスリル、フェナンスリル、アセナフチル等、あるいは(1−、2−、4−または5−)インダニル、インデニル、テトラヒドロナフチル等の部分的に水素化された縮合アリール基等が挙げられる。ここで部分的に水素化されたアリール基とは、部分的水素化された縮合環から任意の水素原子を除いてできる1価の基を意味し、縮合環の芳香環部分の水素原子あるいは水素化された部分の水素原子のどちらが除かれてもよい。例えば、テトラヒドロナフチルであれば、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(−1−イル、−2−イル、−3−イル、−4−イル、−5−イル、−6−イル、−7−イル、−8−イル)等が挙げられる。
【0038】
「5〜20員ヘテロアリール基」とは、環を構成する原子の数が5〜20個であり、環を構成する原子中に1〜5個のヘテロ原子を含有する芳香族性の環式基を意味する。「5〜20員ヘテロアリール基」としては、例えばフリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、フラザニル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、トリアジニル、プリニル、プテリジニル、キノリル、イソキノリル、ナフチリジニル、キノキサリニル、シンノリニル、キナゾリニル、フタラジニル、イミダゾピリジル、イミダゾチアゾリル、イミダゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、ピロロピリジル、チエノピリジル、フロピリジル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾオキサジアゾリル、ピリドピリミジニル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、チエノフリル等が挙げられる。
【0039】
「3〜20員非芳香族ヘテロ環式基」とは、環を構成する原子の数が3〜20個であり、環を構成する原子中に1〜2個のヘテロ原子を含有し、環中に二重結合を1〜2個含んでいてもよく、環中にカルボニル基、スルフィニル基またはスルホニル基を1〜3個含んでいてもよい環式基であって、単環式または多環式である非芳香族性の環式基を意味する。環を構成する原子中に窒素原子を含有する場合、窒素原子から結合手が出ていてもよい。
「3〜20員非芳香族ヘテロ環式基」としては、例えば、アジリジニル、アゼチジニル、オキシラニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、チオラニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、ピペリジニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロピラニル(オキサニル)、テトラヒドロチオピラニル、テトラヒドロチエニル、ピペラジニル、ジオキサニル、オキサゾリニル、イソキサゾリニル、オキサゾリジニル、イソキサゾリジニル、チアゾリニル、イソチアゾリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、オキサジアゾリニル、オキサジアゾリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、キヌクリジニル、オキセパニル等が挙げられる。
【0040】
「グリコシル基」とは、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース、ラムノース等の単糖、ルチノース、ビシアノース、ラクトース、マルトース、シュクロース等の二糖などの糖残基を表す基である。従って、グリコシル基は、例えば、グルコシル基、ガラクトシル基、フルクトシル基、ラムノシル基等が挙げられ、さらにこれら基の任意の組み合わせが、1→2結合、1→3結合、1→4結合又は1→6結合で結合し、二糖となった基も含まれる。
【0041】

「シリル基」とは、−Si(R303示される基を意味する。
30は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、
水素原子;
置換基を有していてもよいC1−20アルキル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルケニル基;
置換基を有していてもよいC2−20アルキニル基;
置換基を有していてもよいC3−22シクロアルキル基;
置換基を有していてもよいC6−18アリール基;
置換基を有していてもよい5〜20員ヘテロアリール基;または
置換基を有していてもよい3〜20員非芳香族ヘテロ環式基を表す。シリル基は、例えば−SiHである。
【0042】
本発明においては、Wが一般式(2)または(3)で示されるものが好ましい。また、本発明の別の態様において、Xが一般式(5)で示され、Yが一般式(10)で示され、Zが一般式(13)、(14)および(15)のいずれかで示されるものが好ましい。また、本発明の別の態様において、Wが一般式(2)または(3)で示され、Xが一般式(5)で示され、Yが一般式(10)で示され、Zが一般式(13)、(14)および(15)のいずれかで示されるものが好ましい。
さらに、本発明においては、一般式(2)または(3)において、Rが水素原子を表すものがさらに好ましい。
【0043】
本発明において使用されるキサントフィル化合物の例を以下(表1〜5)に示す。
【表1】


【表2-1】


【表2-2】


【表3-1】


【表3-2】


【表4-1】


【表4-2】

【表5】

【0044】
上記化合物のうち、特に好ましいキサントフィル化合物は、例えばゼアキサンチン、α−クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチン、アステロイデノン、アドニキサンチン、ルテイン等が挙げられ、中でもアドニキサンチンが好ましい。アドニキサンチンはカロテノイド生合成系においてアスタキサンチンの前駆体であり、アドニキサンチンをケト化することによりアスタキサンチンが得られる。本発明の経口皮膚炎治療剤には、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物の中から1個または複数個を適宜組み合わせて使用することができ、アレルギー性皮膚炎の治療に有用である。
【0045】
以下に、ゼアキサンチン、α−クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチン、アステロイデノン、アドニキサンチン、及びルテインの構造式を表1〜5から抽出して示す。
【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【化25】
【0046】
本発明において、キサントフィル化合物は、当業者であれば化学合成法または細菌や酵母等の微生物を用いた方法等の公知の方法で製造することができる。例えば、化学合成を行う場合としては、Pure & Appl. Chem., Vol 51 pp535-564(1979)等に記載の方法で製造することができる。また、細菌を用いる場合は、特開2010-172293号、特開2005-087097号、国際公開2010/087400号パンフレット、国際公開2010/044469号パンフレット、特開2001-352995号パンフレット等に記載の方法で製造することができる。さらに、酵母を用いる場合は、特開平5-76347号、特開平6-319531号、特開平8-214870号等に記載の方法で製造することができる。
【0047】

アドニキサンチンの製造方法を以下に示す。 本発明に用いる細菌としては、キサントフィル化合物を産生する細菌であれば何ら限定されないが、好ましくはParacoccus属、Sphingomonas属、Brevundimonas属またはErythrobacter属に属する細菌が用いられ、中でもParacoccus属に属する細菌が好ましい。Paracoccus属に属する細菌の中では、Paracoccus carotinifaciens、Paracoccus marcusii、Paracoccus haeundaensisおよびParacoccus zeaxanthinifaciensが好ましく用いられ、特にParacoccus carotinifaciensが好ましく用いられる。Paracoccus属に属する細菌の具体的な菌株の例として、Paracoccus carotinifaciens E−396株(FERM BP−4283)およびParacoccus属細菌A−581−1株(FERM BP−4671)が挙げられ、これらの変異株も本発明に好ましく用いられる。
【0048】
また、キサントフィル化合物産生細菌として、好ましくは16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が上記E−396株の塩基配列と高い相同性(同一性)を有する細菌が用いられる。ここで言う「高い相同性を有する」とは、E−396株の16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列と目的の細菌の対応する塩基配列とが、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上相同であること意味する。E−396株の塩基配列と高い相同性を有する細菌が用いられる。E−396株の16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列は、例えば国際公開第2010/044469号の配列表に記載されている。
【0049】
16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列とは、16SリボソームRNAの塩基配列中のU(ウラシル)をT(チミン)に置き換えた塩基配列を意味する。この16SリボソームRNAの塩基配列の相同性に基づいた微生物の分類法は、近年主流になっている。従来の微生物の分類法は、従来の運動性、栄養要求性、糖の資化性など菌学的性質に基づいているため、自然突然変異による形質の変化等が生じた場合に、微生物を誤って分類する場合があった。これに対し、16SリボソームRNAの塩基配列は遺伝的に極めて安定であるので、その相同性に基づく分類法は従来の分類法に比べて分類の信頼度が格段に向上する。
【0050】
Paracoccus carotinifaciens E−396株の16SリボソームRNAの塩基配列と、
他のキサントフィル化合物産生細菌であるParacoccus marcusii DSM 11574株、Paracoccus属細菌N-81106株、Paracoccus haeundaensis BC 74171株、Paracoccus属細菌 A-581-1株、Paracoccus zeaxanthinifaciens ATCC 21588株、およびParacoccus sp. PC-1株の16SリボソームRNAの塩基配列との相同性は、それぞれ99.7%、99.7%、99.6%、99.4%、95.7%、および95.4%であり、これらは分類学上極めて近縁な菌株であることが分かる。従って、これらの菌株はキサントフィル化合物を産生する細菌として一つのグループを形成しているといえる。よって、これらの菌株は本発明に好ましく用いられ、キサントフィル化合物を効率的に産生することができる。
【0051】
本発明において、キサントフィル化合物の生産性が改良された変異株も用いることができる。改良された変異株の例としては、アスタキサンチン生産能の高い菌株(特開2001-95500号)、カンタキサンチンを選択的に多く産生する菌株(特開2003-304875号)、ゼアキサンチンとβ−クリプトキサンチンを選択的に多く産生する菌株(特開2005-87097号)、リコペンを選択的に産生する菌株(特開2005-87100号)、沈降性が向上した菌株などを挙げることができる。
【0052】
キサントフィル化合物の生産性が改良された変異株は、変異処理とスクリーニングにより取得することができる。変異処理する方法は変異を誘発するものであれば特に限定されない。例えば、N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)およびエチルメタンスルホネート(EMS)などの変異剤による化学的方法、紫外線照射およびX線照射などの物理的方法、遺伝子組換えおよびトランスポゾンなどによる生物学的方法などを用いることができる。変異処理される微生物は特に限定されないが、キサントフィル化合物産生細菌であることが好ましい。また、変異株は、自然に起こる突然変異により生じたものでもよい。
【0053】
変異株のスクリーニング方法は特に限定されないが、例えば、寒天培地上のコロニーの色調で目的の変異株を選択する方法の他、試験管、フラスコ、発酵槽などで変異株を培養し、吸光度、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどを利用したカロテノイド色素分析により目的の変異株を選択する方法などが例示される。変異およびスクリーニングの工程は1回でもよいし、また、例えば突然変異処理とスクリーニングにより変異株を得て、これをさらに変異処理とスクリーニングにより生産性の改良された変異株を取得するというように、変異およびスクリーニング工程を2回以上繰り返してもよい。
【0054】
本発明において上記細菌を培養し、キサントフィル化合物を製造する方法を以下に説明する。
【0055】
(1)菌体の生産方法
例えば、特開2010-172293の方法に従い、キサントフィル化合物産生細菌を培養し、菌
体(培養物)を作製する。
【0056】
本発明において、細菌の培養に用いるキサントフィル化合物生産用培地は、キサントフィル化合物産生細菌が生育し、キサントフィル化合物を生産するものであるならば何れでもよいが、炭素源、窒素源、無機塩類および必要に応じてビタミン類などを含有する培地が好ましく用いられる。
【0057】
炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトールおよびマルトース等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸およびピルビン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノールおよびグリセノール等のアルコール類、大豆油、ヌカ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ゴマ油およびアマニ油等の油脂類などが挙げられ、これらの炭素源の中から、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。中でも好ましくはグルコースまたはシュークロースが用いられる。培養前の培地(始発培地)に添加する量は炭素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1L当たり1〜100g、好ましくは2〜50gである。また、炭素源は始発培地に添加するだけでなく、培養途中に逐次的または連続的に追加供給することも好ましく行われる。
【0058】
無機窒素源としては、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類、硝酸カリウムなどの硝酸塩類、アンモニアおよび尿素等が挙げられ、これらの中から、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。添加量は窒素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.1g〜20g、好ましくは0.2〜10gである。
【0059】
有機窒素源としては、例えば、コーンスティープリカー(ろ過処理物を含む)、ファーマメディア、大豆粕、大豆粉、ピーナッツミール、ディスティラーズソルブル、乾燥酵母、グルタミン酸ソーダなどが挙げられ、これらの中から、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。添加濃度は窒素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、0〜80g/L、好ましくは0〜30g/Lである。無機窒素源および有機窒素源は、通常始発培地に添加するが、逐次的または連続的に追加供給してもよい。
【0060】
無機塩類としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどのリン酸塩類、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩類、硫酸鉄、塩化鉄などの鉄塩類、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム塩類、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩類、硫酸マンガンなどのマンガン塩類、塩化コバルトなどのコバルト塩類、硫酸銅などの銅塩類、硫酸亜鉛などの亜鉛塩類、モリブデン酸ナトリウムなどのモリブデン塩類、硫酸ニッケルなどのニッケル塩類、セレン酸ナトリウムなどのセレン塩類、ホウ酸およびヨウ化カリウム等が挙げられ、これらの中から、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。添加量は無機塩の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.0001〜15gである。無機塩類は通常始発培地に添加するが、逐次的または連続的に追加供給してもよい。
【0061】
ビタミン類としては、例えば、シアノコバラミン、リボフラビン、パントテン酸、ピリドキシン、チアミン、アスコルビン酸、葉酸、ナイアシン、p−アミノ安息香酸、ビオチン、イノシトール、コリンなどが挙げられ、これらの中から、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。添加割合はビタミン類の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.001〜1000mgであり、好ましくは0.01〜100mgである。ビタミン類は通常始発培地に添加するが、逐次的または連続的に追加供給してもよい。
【0062】
本発明において、培養物の発泡を抑えるために消泡剤を用いることもできる。消泡剤の種類は泡の発生を抑制しまたは発生した泡を消す作用があり、かつ生産菌に対する阻害作用の少ないものであれば何れでもよい。たとえば、アルコール系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、エステル系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、シリコン系消泡剤、スルホン酸系消泡剤などを例示することができる。添加量は消泡剤の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.01g〜10gである。消泡剤は通常殺菌前の始発培地に添加する。さらに、培養途中に連続的または間欠的に追加添加してもよい。
【0063】
本発明において用いるキサントフィル化合物生産用培地は、殺菌処理した後、細菌の培養に用いられる。殺菌処理は、当業者であれば、適宜行うことができる。例えば、適切な容器中の培地をオートクレーブで加熱滅菌すればよい。あるいは、滅菌フィルターによりろ過滅菌すればよい。
【0064】
本発明において用いるキサントフィル化合物生産用培地の初期pHは2〜12、好ましくは6〜9、より好ましくは6.5〜8.0に調整する。培養中も上記範囲のpHを維持することが好ましい。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アンモニアガス、硫酸水溶液またはこれらの混合物が例示される。
【0065】
本発明において、キサントフィル化合物生産細菌は、上記のように調製されたキサントフィル化合物生産用培地に植菌され、所定の条件で培養される。植菌は、試験管、フラスコあるいは発酵槽などを用いたシード培養により菌株を適宜増やし、得られた培養物をキサントフィル化合物生産用培地に加えることで行う。シード培養に用いる培地は、キサントフィル化合物生産菌が良好に増殖する培地であれば特に限定されない。
【0066】
培養は、適切な培養容器において行われる。培養容器は培養容量により適宜選択することができ、例えば、試験管、フラスコ、発酵槽などをあげることができる。培養温度は15〜80℃、好ましくは20〜35℃、より好ましくは25℃〜32℃であり、通常1日〜20日間、好ましくは2〜12日間、より好ましくは3〜9日間、好気条件で培養を行う。好気条件としては、例えば、振とう培養または通気撹拌培養等が挙げられ、溶存酸素濃度を一定の範囲に制御することが好ましい。溶存酸素濃度の制御は、例えば、攪拌回転数、通気量、内圧などを変化させることにより行うことができる。溶存酸素濃度は好ましくは0.3〜10ppm、より好ましくは0.5〜7ppm、さらに好ましくは1〜5ppmに制御する。
【0067】
(2)菌体の取り出し
公知技術に基づき、培養が終了した菌体培養液等の培養物から培地成分のみを取り除く。その後、ドラムドライヤーにて菌体を乾燥させてもよい。乾燥方法としては、ドラムドライヤーの他、スプレードライ、造粒型スプレードライ、凍結乾燥等を用いることができる。以下、詳細に記載する。
【0068】
上記のようにキサントフィル化合物産生細菌を培養して得られる培養物から遠心分離、ろ過分離またはデカンテーションによりキサントフィル化合物および菌体を含む濃縮物を分離する。分離工程は酸性条件下で行うこともできる(特開2010-172293号参照)。ここで、本明細書において、「培養物」は、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
【0069】
培養物は、そのまま分離操作を施すこともできるが、不要な成分の除去効果を高めるために水で培養物を希釈してから分離することも好ましく行われる。その際の培養物のpH調整は水を加える前でもよいし、水を加えた後でもよい。また、遠心分離、ろ過分離、デカンテーションなどの操作の最中に水を加えることも可能である。希釈のために加える水の量に制限はないが、好ましくは培養物容積の0〜10倍、より好ましくは0.5〜3.0倍である。また、培養終了後、分離するまでの間に培養微生物を死滅させるために加熱殺菌を行うことも可能である。この場合のpH調整は、加熱殺菌の前でも後でもよい。
【0070】
本発明におけるキサントフィル化合物の分離の方法は、沈降性に基づいて分離する方法あるいは粒子の大きさに基づいて分離する方法ならば何でもよいが、好ましくは遠心分離、ろ過分離またはデカンテーションが用いられる。これらは単独でもよいが、2種以上を組み合わせてもよい。また、1回遠心分離を行い、上澄み液に残ったキサントフィル化合物をさらに回収するためにもう一度上澄み液だけを遠心分離に供するというように同種の分離を2回以上繰り返してもよい。
【0071】
遠心分離に用いる遠心分離機は連続式でもバッチ式でもよいが、好ましくは連続式が用いられる。遠心分離機のタイプは何でもよいが、たとえば、かご型、多室型、デカンター型、ディスク型(ノズル型、ディスラッジ型)、チューブラー型、ローター型の遠心分離機が挙げられる。遠心加速度は一般的な細菌の菌体分離に用いられるレベルならばいずれでもよいが、好ましくは500〜100,000×g、より好ましくは1,000〜50,000×gである。
【0072】
ろ過分離に用いる膜ろ過装置は、スタティック型でも、クロスフロー型でも良いが、目詰まりを防止しやすいクロスフロー型が好ましい。使用される膜の材質は、たとえば、ろ紙、ろ布、化学繊維、セラミックなどを例示することができる。また、珪藻土などをろ過助剤として用いてもよい。ろ過を促進する力の方式としては加圧型、減圧型、遠心ろ過型、フィルタープレス型など、膜の形状としては、平膜、中空糸膜、筒型膜などが例示される。膜の孔径は、通常細菌を分離するのに適するものならばいずれでも良いが、好ましくは、0.001μm〜100μm、より好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.1〜1μmである。精密ろ過膜、限外ろ過膜が好ましく、精密ろ過膜が特に好ましく用いられる。
【0073】
デカンテーションに用いる容器は何でもよいが、たとえば、通常の円筒形タンクが用いられる。デカンテーションで培養物を静置する時間に、特に制限はないが、好ましくは、0.5h〜48h、より好ましくは1h〜24hである。
分離に供する培養物の温度は、通常行われる温度であれば特に制限はないが、好ましくは0℃〜90℃、より好ましくは2℃〜75℃、さらに好ましくは4℃〜60℃である。
【0074】
上記分離工程、すなわち遠心分離、ろ過分離またはデカンテーション、またはこれらの組み合わせによって培養物から得られた沈殿濃縮物には、キサントフィル化合物と菌体が濃縮される。沈殿濃縮物が次の工程に適した粘度、水分含量になるように、分離速度、分離強度などを適宜調整することも好ましく行うことができる。分離工程におけるキサントフィル化合物の濃縮物中への回収率は、キサントフィル化合物の分解・劣化、装置内面などへの付着、上澄み液への漏洩などの影響により変化しうるが、好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%、さらに好ましくは90〜100%である。
【0075】
得られた沈殿濃縮物を乾燥することにより、キサントフィル化合物を含む乾燥菌体を得ることができる。このようにして得られた乾燥菌体はそのまま飼料添加物として用いることができる。また、乾燥菌体からキサントフィル化合物を抽出して、必要に応じて精製し、食品用、化粧品用、飼料用として使用することが可能である。沈殿濃縮物を乾燥せずにキサントフィル化合物を抽出回収することにより、キサントフィル化合物を製造することができる。乾燥の方法は特に限定されないが、たとえば、噴霧乾燥、流動乾燥、噴霧造粒乾燥、噴霧造粒流動乾燥、回転式ドラム乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。また、培養物、沈殿濃縮物、または乾燥菌体の段階において、アルカリ試薬や界面活性剤などを用いた化学的処理、溶菌酵素や脂質分解酵素、タンパク質分解酵素などを用いた生化学的処理、あるいは超音波、粉砕、加熱などの物理的処理のうち一つまたは二つ以上の処理を行ってもよい。
【0076】
(3)菌体からのキサントフィル化合物粗抽出および(4)キサントフィル化合物粗抽出品からの精製
抽出は、以下に示すように当業者であれば公知技術に基づき実施することができる。例えば、(i)〜(iii)の方法が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
(i) 特許第4969370号に記載の方法による高温エタノール抽出。
(ii) 50℃のアセトンに菌体を入れ、2時間懸濁(または常温6時間)したのち、ろ過。続いて、溶媒を除去し、乾燥させる(公知技術)。
(iii) 常温クロロホルム溶液に菌体をいれ、3時間懸濁した後、ろ過。続いて、溶媒を除去し、乾燥させる(公知技術)。
【0077】
キサントフィル化合物を培養物から抽出する場合、抽出および洗浄に用いる溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヘキサンなどが挙げられる。
【0078】
このように得られた抽出物をキサントフィル化合物としてそのまま用いることが可能であり、さらに精製して使用することもできる。抽出操作後の抽出物から菌体等を分離する方法は特に限定されないが、ろ過、遠心分離、デカンテーションなどが用いられる。抽出液からキサントフィル化合物沈殿物を得る方法としては、たとえば、冷却、加熱、減圧濃縮、貧溶媒添加、酸・アルカリ薬剤など各種塩類の添加などを単独で、または適宜組み合わせて用いて沈殿させる方法が挙げられる。得られたキサントフィル化合物沈殿物は、洗浄のため必要に応じて少量の低級アルコール類などの溶媒を用いて懸濁攪拌させてもよい。洗浄の手法は特に限定されないが、例えば、懸濁攪拌後に濾取する方法または沈殿物の上から通液する方法等が実用的に好ましい方法として挙げられる。
【0079】
培養物、沈殿濃縮物、乾燥菌体、抽出液、精製物および各工程操作におけるキサントフィル化合物の酸化分解を極力防止したい場合には、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で行うことができる。また、医薬品や食品で用いられている酸化防止剤を選択して加えてもよい。あるいは、これらの処理を組み合わせてもよい。また、光によるキサントフィル化合物の分解を極力防止するために、光を当てない条件下で行ってもよい。
【0080】
上記のように得られる沈殿濃縮物、乾燥菌体、抽出物または精製物は、キサントフィル化合物としてそれぞれ単独で用いることもできるし、これらを任意の割合で混合して用いることもできる。
【0081】
本発明において、キサントフィル化合物は、存在する場合は、薬学的に許容される塩の形態であってもよく、これらの塩も本発明におけるキサントフィル化合物に含まれる。本発明において、キサントフィル化合物は、酸又は塩基と塩を形成する場合もある。本発明において、薬学的に許容される塩は、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物と薬学的に許容される塩を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えばフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等)、無機酸塩(例えば硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩等)、有機カルボン酸塩(例えば酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(例えばメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等)、アミノ酸塩(例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えばマグネシウム塩、カルシウム塩等)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0082】
また、本発明において、キサントフィル化合物は光学異性体が存在しうるが、これら光学異性体も、本発明においてキサントフィル化合物に含まれる。本発明に含まれるキサントフィル化合物はラセミ体であってもよい。
【0083】
また、ゼアキサンチン、α−クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチン、アステロイデノン、アドニキサンチン、ルテインなど、水酸基を有するキサントフィル化合物においては、脂肪酸とのエステル体、または糖と結合したグルコシド体、化合物と結合していないフリー体などの存在形態がありうる。本発明において、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物は、いずれの存在形態でも良いがフリー体であることが特に好ましい。
【0084】
2.皮膚炎の治療剤
本発明の経口投与剤である皮膚炎の治療剤(以下、「本発明の治療剤」ともいう)は、抗皮膚炎作用を有する本発明のキサントフィル化合物を有効成分として含むものである。本発明の治療剤において、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物は、好ましくはゼアキサンチン、α−クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチン、アステロイデノン、アドニキサンチンまたはルテインであり、より好ましくはアドニキサンチンである。本発明の治療剤に含まれる抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物には、その薬学的に許容される塩、光学異性体、エステル体、またはグルコシド体などが含まれる。
【0085】
本発明の治療剤に含有されるキサントフィル化合物は、経口投与により血中のIgEレベルを低下させる作用を有する。したがって、本発明の治療剤は、IgEに起因する皮膚炎の治療等に有効である。また、掻痒症を伴う皮膚炎にも有効であり得る。また、IgEは、アレルギー性疾患の因子の一つであるため、本発明の治療剤は、経口用のアレルギー性皮膚炎の治療剤として用いることができる。さらに、実施例で示すように、本発明の治療剤に含有されるキサントフィル化合物は、経口投与によりNCマウスにおける皮膚炎の症状を沈静化した。NCマウスはダニ抗原により皮膚炎を自然発症するモデル動物であり、その皮膚炎の症状はアトピー性皮膚炎の症状とよく類似することから、アトピー性皮膚炎のモデル動物としても汎用されている。したがって、本発明の治療剤は、経口用のアトピー性皮膚炎の治療剤として用いることができる。また、アトピー性のみならず、敏感肌や乾燥肌からくる掻痒感の改善やアレルギー様の症状の治療などにも有効に用いることができる。
【0086】
本発明において、皮膚炎の「治療」は、皮膚炎の症状の予防、抑制、緩和、重症化の遅延、停止または治癒等を意味する。
【0087】
抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物は、皮膚炎の予防剤の有効成分としても有用であり得る。したがって、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物を含む皮膚炎の予防剤も本発明に含まれる。本発明において、皮膚炎の「予防」は、皮膚炎の発症遅延または防止等を意味する。
【0088】
皮膚炎の治療に有効かどうかの判断は、肉眼的所見、皮膚病変スコア、血中IgE濃度、HE染色による病理所見評価、ギムザ染色による肥満細胞カウント、CD4免疫組織化学によるCD4陽性ヘルパーT細胞カウント、F4/80免疫組織化学によるF4/8−陽性マクロファージカウント、IgE免疫組織化学によるIgE陽性細胞カウントなどによって行うことができる。当業者であれば、定法に基づき各方法を実施することができる。
【0089】
本発明の治療剤には、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物をそのまま用いることも、製剤で常用される担体または公知の薬学的に許容される担体などを配合して製剤化することも可能である。このような担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、保存剤、保湿剤などを挙げることができる。本発明の治療剤は、製剤化された医薬組成物としても提供され得る。すなわち、本発明の医薬組成物は、本発明のキサントフィル化合物を含む、アレルギー性皮膚炎治療用の医薬組成物、好ましくはアトピー性皮膚炎治療用の医薬組成物である。
【0090】
また、本発明の治療剤の投与形態は経口投与である。したがって、本発明の治療剤は経口投与剤である。
【0091】
製剤化の剤形としては、経口的投与形態に用いられる錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤などが例示される。
【0092】
本発明の治療剤は、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物を有効成分として含む。抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物の有効な投与量は、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、投与期間、製剤の性質、調剤、種類、有効成分の種類等によって異なるが、当業者であれば適宜設定することができる。例えば、本発明の治療剤の全成分量に対する抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物の含有量が、好ましくは0.001〜5.0重量%、0.01〜5.0重量%より好ましくは0.01〜1.0重量%、0.05〜1.0重量%になるように配合することができる。あるいは、成人(体重60Kg)に1日あたり0.01〜500mg、0.1〜500mg、好ましくは0.5〜200mg、より好ましくは1〜100mg、最も好ましくは60mgを投与することができる。
【0093】
本発明は、また、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物の有効量を患者に経口投与することを特徴とする、皮膚炎の治療方法も提供する。さらに、本発明には、本発明の皮膚炎の経口治療剤のための抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物も含まれる。ここで、上記抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物は、好ましくはゼアキサンチン、α−クリプトキサンチン、β−クリプトキサンチン、アステロイデノン、アドニキサンチンまたはルテインであり、さらに好ましくはアドニキサンチンである。また、本発明の別の態様において、好ましいキサントフィル化合物は、キサントフィル、例えばアドニキサンチンの光学異性体および修飾体も含まれる。本発明の方法において、抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物の投与径路および投与方法は特に限定されないが、上記本発明の治療剤の記載を参照することができる。
【0094】
3.機能性食品
本発明の機能性食品は、上記一般式(1)で示されるキサントフィル化合物、またはその薬学的に許容される塩を含有するものであり、抗皮膚炎作用を有することから、特に機能性食品(サプリメント、健康食品を含む)として使用される。
【0095】
本発明の食品の形態としては、例えばサプリメント(散剤、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠)が挙げられるが、その他にも、飲料(お茶、炭酸飲料、乳酸飲料、スポーツ飲料等)、菓子(グミ、ゼリー、ガム、チョコレート、クッキー、キャンデー等)、油、油脂食品(マヨネーズ、ドレッシング、バター、クリーム、マーガリン等)、調味料(ケチャップ、ソース等)、流動食、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ等)、パン類、麺類(うどん、そば、ラーメン、パスタ、焼きそば、きしめん、ソーメン、冷麦、ビーフン等)等が挙げられる。但し、これらの形態に限定されるものではない。
【0096】
本発明の機能性食品は、必要に応じて各種栄養素、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE等)、各種ミネラル類、食物繊維、多価不飽和脂肪酸、その他の栄養素(コエンザイムQ10、カルニチン、セサミン、α−リボ酸、イノシトール、D−カイロイノシトール、ピニトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルDHA、ホスファチジルイノシトール、タウリン、グルコサミン、コンドロイチン硫酸、S−アドノシルメチオニン等)、分散剤、乳化剤などの安定剤、甘味料、呈味成分(クエン酸、リンゴ酸等)、フレーバー、ローヤルゼリー、プロポリス、アガリクス等を配合することができる。また、ペパーミント、ベルガモット、カモミール、ラベンダー、タイム等のハーブ類を配合してもよい。またテアニン、デヒドロエピアンドステロン、メラトニンなどの素材を配合することもできる。
【0097】
本発明において、上記一般式(1)で示されるキサントフィル化合物、またはその薬学的に許容される塩を機能性食品又はサプリメントとして使用する場合、用法及び用量として特に限定されるものではないが、前記皮膚炎治療剤の項で説明した用法及び用量を適用することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本実施例により本発明は限定されるものではない。
【0099】
以下に、本発明の経口アレルギー性皮膚炎治療剤、健康食品の例を記す。
【0100】
[実施例1]
コーン油50mLに対し、0.03gのアドニキサンチンを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、皮膚炎治療剤薬としての赤色のアドニキサンチン・コーン油液50mLを得た。
【0101】
[実施例2]
コーン油50mLに対し、0.03gのアドニルビンを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、皮膚炎治療剤薬としての赤色のアドニルビン・コーン油液50mLを得た。
【0102】
[実施例3]
コーン油50mLに対し、0.03gのα-クリプトキサンチンを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、皮膚炎治療剤薬としての赤色のα-クリプトキサンチン・コーン油液50mLを得た。
【0103】
[実施例4]
コーン油50mLに対し、0.03gのβ-クリプトキサンチンを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、皮膚炎治療剤薬としての赤色のβ-クリプトキサンチン・コーン油液50mLを得た。
【0104】
[実施例5]
コーン油50mLに対し、0.03gのルテインを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、皮膚炎治療剤薬としての赤色のルテイン・コーン油液50mLを得た。
【0105】
[実施例6]
コーン油50mLに対し、0.03gのアステロイデノンを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、皮膚炎治療剤薬としての赤色のアステロイデノン・コーン油液50mLを得た。
【0106】
[実施例7]
オリーブ油50mLに対し、0.15gのアドニキサンチンを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、皮膚炎治療剤薬としての赤色のアドニキサンチン含有オリーブ油50mLを得た。
【0107】
[実施例8]
キャノーラ油50mLに対し、0.15gのアドニキサンチンを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、健康食品としての赤色のアドニキサンチン含有キャノーラ油50mLを得た。
【0108】
[実施例9]
スクアレン50mLに対し、0.15gのアドニキサンチンを懸濁し、窒素雰囲気下60℃にて撹拌し溶解させた後、常温まで冷却し、健康食品としての赤色のアドニキサンチン含有スクアレン50mLを得た。
【0109】
[実施例10]
乳酸カルシウム175mg、グリセロリン酸カルシウム175mg、重炭酸ナトリウム250mg、アスパラギン酸カルシウム0.5mg、コロイド状二酸化ケイ素12mg、コーンスターチ15mg、デキストロース10mg、マルトデキストリン3mg、マンニトール6mg、プレゼラチン化デンプン3mg、アドニキサンチン6mgを完全に混和させた後、打錠し、健康食品用錠剤として10mgの錠剤を得た。
【0110】
[実施例11]
乳酸カルシウム175mg、グリセロリン酸カルシウム175mg、重炭酸ナトリウム250mg、アスパラギン酸カルシウム0.5mg、コロイド状二酸化ケイ素12mg、コーンスターチ15mg、デキストロース10mg、マルトデキストリン3mg、マンニトール6mg、プレゼラチン化デンプン3mg、ゼアキサンチン6mgを完全に混和させた後、打錠し、健康食品用錠剤として10mgの錠剤を得た。
【0111】
[実施例12]
乳酸カルシウム175mg、グリセロリン酸カルシウム175mg、重炭酸ナトリウム250mg、アスパラギン酸カルシウム0.5mg、コロイド状二酸化ケイ素12mg、コーンスターチ15mg、デキストロース10mg、マルトデキストリン3mg、マンニトール6mg、プレゼラチン化デンプン3mg、β-クリプトキサンチン6mgを完全に混和させた後、打錠し、健康食品用錠剤として10mgの錠剤を得た。
【0112】
[試験例]
<Paracoccus中のキサントフィル化合物の分離方法>
(1)Paracoccus生菌体からの濃縮乾固品の製造
キサントフィル化合物産生細菌を定法に従い培養した。培養が終了した培養物から遠心操作によってある程度上清を除いた生菌体100gを抽出工程に用いた。生菌体100gにアセトン500mLを添加し、室温に6時間おいた後、抽出液(i)と菌体(i)とに分離した。菌体(i)にさらにアセトン500mLを添加し、室温に6時間おいた後、抽出液(ii)と菌体(ii)とに分離した。さらに、菌体(ii)に同様の操作に行い、抽出液(iii)と菌体(iii)を得た。抽出液(i)〜(iii)を混合し、全抽出液約1.5Lを得た。得られた全抽出液を水と油分が分離するまでエバポレーター濃縮した後、ヘキサン・クロロホルム1:1溶液100mLを添加し、分液操作により有機溶媒層と水層とに分離した。有機溶媒層を40℃以下でエバポレーター濃縮し、濃縮乾固品を得た。エバポレーター濃縮の際、水分が残存するようであれば、エタノールを少量加え、50℃で共沸させて取り除いた。
【0113】
(2)Paracoccus乾燥菌体からの濃縮乾固品の製造
上記(1)と同様に培養が終了した培養物から培地成分のみを取り除いた後、菌体を乾燥させて乾燥菌体を得た。得られた乾燥菌体に菌体が湿る程度の水分を添加したものを抽出工程に用いた(100g)。アセトン500mLを添加し、室温に6時間おいた後、抽出液(iv)と菌体(iv)とに分離した。菌体(iv)にさらにアセトン500mLを添加し、室温に6時間おいた後、抽出液(v)と菌体(v)とに分離した。抽出液(iv)〜(v)を混合し、全抽出液を得た。全抽出液から上記(1)と同様の方法により、濃縮乾固品を得た。
【0114】
(3)濃縮乾固品からのキサントフィル化合物の分離
濃縮乾固品を、定法(JP2009−019935)に従い、テトラヒドロフランにて溶解した後、高速液体クロマト装置(HPLC)を用いてキサントフィル化合物の分取を行った。
【0115】
カラムはWakosil−II 5 SIL−100(和光純薬製)を2本連結して使用した。移動相はn−ヘキサン:テトラヒドロフラン:メタノール混合液(40:20:1)を用い室温付近一定の温度にて、毎分4mL流した。
【0116】
事前にキサントフィル化合物のピーク位置を確認し、必要とするピーク分離を行い、キサントフィル化合物の分取を行った。分取したキサントフィル化合物は、それぞれ同条件にてさらにHPLCによる分取を行った。
【0117】
精製度の確認は、H−NMRおよび13C−NMRにて行い、精製キサントフィル化合物を得た。
【0118】
<試験例1>NCマウスを用いるアドニキサンチンの抗アトピー性皮膚炎作用試験
アドニキサンチン(ADX)の抗皮膚炎作用、特に抗アトピー性皮膚炎作用に関する有効性についての非臨床試験として、アトピー性皮膚炎罹患NCマウスにアドニキサンチンを28日間経口投与し、期間中後述する検査により病変の変化および副作用(体重減少)を調べた。
【0119】
(方法)
(1)投与液(被験物質)
アドニキサンチン(ADX)粉末にコーン油を加えて懸濁し、それぞれ0.0002mg/mL、0.02mg/mL、0.2mg/mLの濃度となるように3種の投与液を調製した。陰性対照としてはアドニキサンチンを含まないコーン油を用いた。
【0120】
(2)試験系
試験には8週齢の雌:NCマウス70匹(NC/Nga Tnd Crlj系統)を用い、NCマウスにアトピー性皮膚炎を発症させるダニ抗原のビオスタ(登録商標)AD(株式会社ビオスタ)を投与した。これらのマウスについて、被験物質投与前に測定する体重、皮膚炎スコア及び血中総IgE量に基づいて32匹を選択し、完全無作為抽出法により各群の平均体重及び皮膚炎スコアが可能な限り等しくなるよう4群に割り当てた。また完全陰性対照区として、アトピー性皮膚炎を発症させないNCマウス(無処置マウス)に対しても投与を行った。無処置マウスについては、被験物質投与開始直前に測定する体重に基づいて10匹を選択し、コンピュータを用いた完全無作為抽出法により各群の平均値が等しくなるよう2群に割り当てた。
【0121】
(3)群構成と投与
各実験群について、投与物質、その濃度、および1日(1回)当たりの投与液量を表6に示す。投与は、ディスポーザブルシリンジ及び経口ゾンデを用い、28日間(被験物質の投与開始日を1日目と起算)行った。
【0122】
【表6】

【0123】
(4)検査項目
体重測定:試験期間中は週1回体重を測定した。
病変観察:ビオスタAD投与前、ビオスタAD投与8日目、被験物質投与前(ビオスタAD投与15日目)、被験物質投与8、15、22及び29日目に皮膚病変の観察を行った。観察は耳介部、頭部、頸背部の各部位について、症状の程度を軽度1点、中度2点、重度3点でスコア化し、合計のスコアで評価した。また、皮膚病変の観察と同時に写真撮影を行った。
【0124】
血中総IgE量測定:ビオスタAD投与前、被験物質投与前(ビオスタAD投与14日目)及び被験物質投与15日目について、無麻酔下でマウスの尾静脈より採血した。被験物質投与29日目はハロセン麻酔下にて腹部大動脈から全採血した。採取した血液は、1,000×g、室温、15 minで遠心分離し、血漿を採取した。総IgE量については、捕捉抗体:抗マウスIgE抗体(ラットモノクローナルab99571、アブカム株式会社)、検出抗体:ビオチンラベル抗マウスIgE抗体(ラットモノクローナルab11580、アブカム株式会社)を用いて、ELISA法により実施した。なお、血中IgE(免疫グロブリン)については、アレルギー反応が起きるとIgEが増加することから、アレルギー反応が起きているかどうかの指標となる。
【0125】
組織重量測定及び組織保存:ハロセン麻酔下の採血後、脾臓及びリンパ節を摘出し重量を測定し、10%中性緩衝ホルマリン固定した。その後、頚背部の皮膚を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン固定するか、あるいは、凍結切片作製用にOCTコンパウンドに包埋後、凍結保存した。
【0126】
(5)統計学的方法
測定値は平均値±標準誤差で表した。統計解析には、Excel 2003及びExcel 2004(マイクロソフト株式会社)、StatLight(登録商標)(ユックムス株式会社)を使用し、有意水準は5%未満とした。
【0127】
(結果)
(1)皮膚病変スコア
各実験群について、皮膚病変スコアの平均値および標準偏差を表7に示す。
【0128】
【表7】

【0129】
表7に示されるように、0.2mg/mLアドニキサンチン投与群において、初期段階で対照群と比較して用量依存的な皮膚病変スコアの低下が認められた。
【0130】
(2)IgE
各群における投与15日目および期間終了後の血中IgE値について、投与前値を100とした相対値を表8に示す。表8中、「カロテノイドX」はアドニキサンチンを示す。
【0131】
【表8】

【0132】
表8において、投与15日目において、対照群と比較して全てのアドニキサンチン投与群は血中IgE濃度の有意な変化が認められた。投与期間終了後である29日目では、アドニキサンチン0.2mg/mL区において、対照区との差が確認された。これにより、アドニキサンチンは、アレルギー反応を抑える働きがあることが判明した。
なお、無処置区に関しては、アトピー性皮膚炎を発症していないため、IgEの増加がほとんど見られなかった。
【0133】
(3)体重
被験物質の副作用判定として、体重を測定した。測定結果を表9に示す。また、試験開始時からの体重増減結果を表10に示す。
【0134】
【表9】

【0135】
【表10】

【0136】
表9および表10より、対照区(コーン油投与区)と比較して、アドニキサンチン投与区は副作用としての体重減少は確認されなかった。
【0137】
以上の結果から、アドニキサンチンは経口投与によりNCマウスのアトピー性皮膚炎症状を、用量依存的に抑制または改善する効果を有することが確認された。実施例の条件下では、アドニキサンチン0. 2mg/mLの濃度の初期段階においては皮膚病変スコアに対する効果が見られた。さらに体内でのIgE濃度も低下したことから、炎症を抑えるアドニキサンチンの効果が確認できた。更に、一般的に抗炎症薬として知られているステロイドで見られるような体重減少の副作用は、アドニキサンチン投与区では生じなかった。これらのことから、アドニキサンチン等の抗皮膚炎作用を有するキサントフィル化合物は、抗皮膚炎治療剤、特に抗アトピー薬として利用できると考えられる。
【0138】
<試験例2>NCマウスを用いる皮膚組織病理検査
試験例2は、試験例1で採取した対照群(コーン油投与群)およびアドニキサンチン(ADX)投与群の皮膚組織について、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)、ギムザ染色、各種免疫染色下での病理組織検査を行い、その結果より、病理組織学的にアドニキサンチンの抗皮膚炎効果を検討することを目的として実施した。
【0139】
本実施例では以下の項目について検討した。各項目の詳細については後述する。
・頚背部皮膚採取、凍結切片作製:3枚×16匹
(a) CD4免疫組織化学:CD4陽性ヘルパーT細胞カウント
(b) IgE免疫組織化学:IgE陽性細胞カウント
(c) F4/80免疫組織化学:F4/80陽性マクロファージカウント
・パラフィン切片作製:2枚×16匹
(d) HE染色:病理所見評価
(e) Giemsa染色:肥満細胞カウント
【0140】
(方法)
A.ヘマトキシリン・エオジン(H.E.)染色、ギムザ染色
(1)対象皮膚組織:試験例1において採取したNCマウス頚背部皮膚を10%中性緩衝ホルマリン固定し、病理組織学的検査に供した。具体的には、頚背部皮膚のうち、半分を10%中性緩衝ホルマリンで固定後、常法に従ってパラフィン包埋し、厚さ約3μmのパラフィン切片を2枚作製した。パラフィン切片はH.E.染色またはギムザ染色を行った。表11は群構成を表す。
【0141】
【表11】

【0142】
(2)標本作製
頚背部の皮膚を常法に従って切り出し、パラフィン包埋、薄切した後、ヘマトキシリン・エオジン(H.E.)染色またはギムザ染色を行い、病理組織標本を作製した。
【0143】
(3)観察項目
H.E.染色標本について病理組織学的診断を行った。ギムザ染色標本について、1視野(倍率:×400)当たりの肥満細胞を計測した。
【0144】
(4)統計解析
対照群(コーン油)とアドニキサンチン(ADX)群との間の統計学的な有意差検定を行い、有意水準を5%及び1%とした。全ての病理組織学的所見は、程度のある病変であったため、Wilcoxon検定(両側)にて統計解析を行った。
【0145】
B.免疫染色
(1)対象皮膚組織
試験例1において採取したNCマウス頚背部皮膚を、病理組織学的検査に供した。表12は群構成を表す。
【0146】
【表12】

【0147】
(2)標本作製
頚背部皮膚のうち、中央部の半分をOCTコンパウンドに包埋後、凍結保存し、厚さ約6μmの凍結切片を作製した。凍結切片は、
Anti-CD4(Rat monoclonal(GK1.5), sc-13573, Santa Cruz Biotechnology inc., ×200希釈)、
Anti-F4/80(Rat monoclonal(3H21113), sc-71088, Santa Cruz Biotechnology inc., x200希釈)又は
Mouse IgE Antibody(FITC Conjugated, A90-115F, Bethyl Laboratories Inc., ×2000希釈)
を用いた免疫組織化学染色を行った。具体的には、Anti-CD4及びAnti-F4/80はABC法(VECTASTAIN ABC Kit Elite, Code No. PK-6104, Vector Laboratories, Inc.)で行い、Anti-IgEは直接法で行った。
【0148】
(3)観察項目
免疫染色標本について、強拡大5視野の陽性細胞数を計測した。
【0149】
(4)統計解析
免疫染色標本における陽性細胞数について、対照群及びADX群の2群間でF検定により分散に一様性が認められたため、Student t検定を行った。有意水準は5%及び1%とした。
【0150】
(結果)
A.H.E.染色およびギムザ染色
(1)病理学的所見
結果を表13に示す。コーン油(コントロール)区、ADX−1区、およびADX−2区において、表皮の痂皮形成、角化亢進、顆粒層肥厚または表皮の肥厚が認められ、真皮上層及び深層に細胞浸潤、真皮に乳頭腫及びメラノファージが認められた。したがって、これらの群において、接触性感作性皮膚炎の発症及びそれに伴う慢性掻爬行動による表皮の障害像及び真皮の乳頭腫症が確認された。ADX各群におけるこれらの症状の発生頻度・程度はコントロール区に比較して減少したが、統計学的な有意性は見られなかった。
【0151】
【表13】

【0152】
HE染色の結果、アトピー性皮膚炎の動物モデルに一般的に認められる病変(潰瘍、表皮過形成、過角化、炎症性細胞浸潤、毛嚢萎縮)において、対照群に比較してADX投与群に改善効果が認められた。
【0153】
B.免疫染色
(1)免疫染色陽性細胞計測
コントロール(A−1)のコーン油を100とした場合の測定結果の相対値を表15に示す。対照群と比較してADX(カロテノイドX)群はCD4陽性細胞数、F4/80陽性細胞数、およびIgE陽性細胞数において、有意な変化ではないが低値であった。
【0154】
【表14】

【0155】
HE染色及びギムザ染色による免疫染色により、対照群と比較してADX群は濃度に応じ表皮変化(痂皮形成、潰瘍形成、過角化、顆粒層肥厚、表皮の肥厚)及び真皮細胞浸潤所見の軽減傾向が認められた。
【0156】
免疫染色の結果から、アドニキサンチンの濃度に応じ、表皮の痂皮形成、潰瘍形成、角化亢進、顆粒層肥厚、棘細胞症に関して低減が認められた。
【0157】
以上の結果より、皮膚組織の病理組織学的検査においてもアドニキサンチンは経口投与によってNCマウスのアトピー性皮膚炎症状に対し抑制効果を有することが確認された。