(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178429
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】赤外線放射のため半導体光センサ
(51)【国際特許分類】
H01L 27/144 20060101AFI20170731BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20170731BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20170731BHJP
H04N 5/33 20060101ALI20170731BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
H01L27/144 K
H01L31/10 A
H01L27/146 A
H04N5/33
G01J1/02 B
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-548534(P2015-548534)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公表番号】特表2016-524313(P2016-524313A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】JP2014060042
(87)【国際公開番号】WO2014163205
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2016年12月1日
(31)【優先権主張番号】00716/13
(32)【優先日】2013年4月4日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】ザイツ ピーター
【審査官】
鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−504274(JP,A)
【文献】
特開平02−248077(JP,A)
【文献】
特開平03−088367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/339
H01L 27/14 −27/148
H01L 29/762
H01L 31/00 −31/02
H01L 31/0232
H01L 31/0248
H01L 31/0264−31/0336
H01L 31/08 −31/119
H01L 31/18 −31/20
H01L 51/42
H04N 5/30 − 5/378
G01J 1/00 − 1/60
G01J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1μmから1000μmの波長範囲にある赤外線放射を検出するための光センサであって、
半導体基板のメイン領域と、
前記半導体基板に到来する放射のための高ドープ相互作用領域と、
絶縁層の上に伝導材料を含み、前記相互作用領域に隣接した延長構造である、隣接するゲート電極と、
電荷コレクタとしての役割を果たし、本質的に高ドープ半導体ゾーンからなり且つ前記ゲート電極に隣接した延長構造である、隣り合った高ドープコレクタ領域と、を備え、
前記相互作用領域が第1の電圧VBに電気的にバイアスされ、
前記コレクタ領域は、光励起された電子が収集されるはずのケースでは前記第1の電圧VBより高く、且つ、光励起されたホールが収集されるはずのケースでは前記第1の電圧VBより低い、第2の電圧VSに電気的にバイアスされ、
到来する光子が、自由キャリア吸収を通して前記到来する光子のエネルギーを前記相互作用領域中の可動電荷キャリアに付与し、自由電荷キャリアが電子であるケースでは光励起された電子を生成し、または、前記自由電荷キャリアがホールであるケースでは光励起されたホールを生成し、
前記ゲート電極が、前記相互作用領域中の前記光励起された電荷キャリアに対する電位障壁が作られるように第3の電圧VGに電気的にバイアスされ、これにより、前記到来する光子により付与されたエネルギーは、前記光励起された電荷キャリアが前記電位障壁を乗り越えるのに十分であり、前記光励起された電荷キャリアが、後続する電子的検出のために前記コレクタ領域中に収集され得る、光センサ。
【請求項2】
前記相互作用領域の領域が、前記ゲート電極と前記コレクタ領域とに少なくとも1つの側が境を接している、請求項1に記載の光センサ。
【請求項3】
前記コレクタ領域は、前記相互作用領域の領域により囲まれた前記ゲート電極により囲まれている、請求項1に記載の光センサ。
【請求項4】
前記コレクタ領域が長方形の構造、円形の構造または多角形の構造を有する、請求項3に記載の光センサ。
【請求項5】
前記コレクタ領域に接続された増幅器または回路をさらに備え、
前記増幅器または回路が、前記第2の電圧VSを感知し、出力電圧VOUTを生成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光センサ。
【請求項6】
前記増幅器または回路は、前記コレクタ領域を前記第2の電圧VSにリセットするリセットスイッチを含む、請求項5に記載の光センサ。
【請求項7】
前記リセットスイッチは、前記コレクタ領域を周期的にリセットする、請求項6に記載の光センサ。
【請求項8】
前記増幅器または回路が、感知ノードおよびソースフォロワトランジスタを含み、前記感知ノードが、前記リセットスイッチにより前記第2の電圧VSにリセットされ、前記ソースフォロワトランジスタのゲートに接続されている、請求項6又は7に記載の光センサ。
【請求項9】
感知ノードが、プログラム可能な電流ソースに接続され、前記電流ソースにより、オフセット電流を前記コレクタ領域により蓄積された信号電流から引くことができ、前記信号電流の電子的な検出より前に、暗電流の実部分を前記信号電流から引くことができるため、前記プログラム可能な電流ソースが、前記光センサのダイナミックレンジの増加を提供する、請求項5〜7のいずれか一項に記載の光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既知の半導体製造プロセスを使用して、1〜1000μmの波長範囲にある赤外線放射を検出するための方法および素子に関する。特に、本発明は、シリコンベースのCMOS(相補型金属酸化膜半導体)素子に広く使用されるシリコンプロセスにより製造され得る赤外線光センサに関する。
【背景技術】
【0002】
科学、技術およびコンシューマーエレクトロニクスの分野において、電磁放射の検出は、最も重要な感知タスクのうちの1つである。シリコンは、マイクロエレクトロニクスの基本的な半導体であり、ポイント検出器からマルチメガピクセルのイメージセンサまでの、軟X線領域から近赤外線までの広範囲のスペクトル域をカバーする、非常に感度の高い光センサを加工するのに非常によく適している。これは、約1nmから最大約1100nmのシリコンの遮断波長までの感度の波長範囲に対応している。診断の目的および非接触性ケミカルフィンガープリンティングの目的のための赤外線の重要性が増していることから、従来のシリコン光センサでは検出することができない、1μmを上回る波長の赤外線スペクトル域に対しこの波長帯に感度を持つ光センサに対する必要性も急速に増大している。
【0003】
赤外線放射を検出するために広く使用される方法としては、例えば、J.Fraden著の「Handbook of Modern Sensors,3rd edition,Springer社、2004」に記述されているように、温度の関数として焦電材料の電気的な分極を自然に変化させることができる焦電材料を使用することがある。この分極の変化は、既知の電子測定回路を用いて、電流または電圧の変化として検出できる。大抵の焦電材料は、その製造工程の難しさ故に、単一デバイスに対し一般に1から数百ピクセルの間の限られた数の光センシングエレメント(ピクセル)のみしか製造加工できない。
【0004】
例えば、J.Fraden著の「Handbook of Modern Sensors,3rd edition,Springer社 2004」に記述されているように、サーモパイルでは多数の赤外線感度の高いピクセルが熱電材料のシステムにより製造される。これらは、いわゆる熱電対のような2つの異なるタイプの半導体材料の組み合わせからなる。ゼーベック効果により、このような熱電対は、素子間の温度差の関数として電圧を生成する。サーモパイルセンサは、同一素子における数百から数千の熱電対ピクセルから構成される。
【0005】
例えば、J.Fraden著の「Handbook of Modern Sensors,3rd edition,Springer社 2004」に記述されているように、さらに多数の赤外線ピクセル、つまり一検出器素子において最大数十万のピクセルが、マイクロボロメータアレイにより加工される。各ピクセルは、温度の関数として大きな抵抗値変化を示す導電材料の上にあり熱的に隔離された熱吸収器からなる。このマイクロボロメータセンサは、冷却せずに動作させることができる。しかしながら、マイクロボロメータの作動原理は素子の加熱に依存することから、マイクロボロメータの感度は非常に制限され、単一光子感度に近づくことは不可能である。
【0006】
このような限定は、例えば、B.E.A.Saleh及びM.C.Teich著の「Fundamentals of Photonics,2nd edition,John Wiley & Sons社、2007」に記述されているように、光電効果に基づく赤外線感知素子により克服することができる。第1のタイプの光電素子では、真空中の金属および半導体における外部光電効果が活用される。十分なエネルギーの入射光子が光電材料中の電子により吸収された場合、この励起された電子は、材料の引力を克服でき、これにより、電子は材料から離れ、真空空間に入ることができる。真空で、この遊離された電子を高圧電場中で加速することにより、この遊離された電子は更なるエネルギーを供給され、これにより、各個別の電子を信頼性高く検出できる。
【0007】
赤外線センサの製造を簡略化するために、および、製造のコストを低下させるために、真空を用いるのを避けようとすることがある。これは、半導体材料内部光電効果により達成できる。これらの材料は、絶対零度において価電子帯が完全に満たされ且つ伝導帯が完全に空である、エネルギーバンドギャップ構造を示す。入射光子のエネルギーがバンドギャップ、即ち、伝導帯と価電子帯との間のエネルギー差よりも大きい場合、入射光子は、半導体材料により吸収でき、電子正孔対として伝導帯中の電子および価電子帯中のホールを作ることができる。このように、入射放射は、半導体材料中の電気導電率に影響を与え電気回路により感知できる。光導電センサにおいて、有効な抵抗率の変化は、入射されてきた放射エネルギーの強度の関数として測定される。光発電センサにおいて、光発生電荷対は電場中を移動し、入射されてきた放射エネルギーの強度の関数として、素子にわたる静電位の変化を作る。内部光電効果に基づく最も感度の高い光センサは、例えば、CMOSイメージセンサにおいて使用されるような逆バイアス光ダイオード、または、例えば、電荷結合素子(CCD)イメージセンサもしくは光ゲートイメージセンサにおいて使用されるようなMOS(金属酸化膜半導体)構造のいずれかにより作られる、完全空乏化した半導体領域からなる。これらの感度の光センサでは、素子はある逆電位にバイアスされ、その後、電気的にフローティングしたままになる。光発生電荷キャリアは、入射放射の強度に比例して、素子にわたる電圧を低下させる。この電圧の変化は、例えば、Ch.LottoおよびP.Seitzによる欧州特許第8,119,972号である「反転増幅器の出力ノードを通る信号周波数を制限するためのローパスフィルタを有するソリッドステートイメージ感知素子」に記述されているように、1より少ない電子に対応する読み出しノイズr.m.sにより電気的に検出できる。
【0008】
外部光電および内部光電を用いるこれらの感度の高い検出器は全て、エネルギーが低すぎるために、外部光電のケースにおいて有効仕事関数に満たない場合、または、内部光電のケースにおいてバンドギャップ上に電子正孔対を作ることができない、などの場合において、入射光子を検出できないという共通点がある。これらの感度の高い光検出器は、いわゆる遮断波長λ
Cを有し、遮断波長λ
Cを上回ると、これらの感度の高い光検出器はもはや感度がなくなる。遮断波長λ
Cは、光電により可動電荷キャリアを作るのに必要とされる最低限のエネルギーE
minに反比例し、プランク定数hおよび真空での光速cにより、λ
C=h×c/E
minで表される。これは、光電効果が、赤外線の特定の長波長を持つ赤外線スペクトル範囲の検出に適さないことを示唆する。
【0009】
赤外線に対する感度がないというこの問題は、例えば、A.G.U.Perera et al.著の「Homojunction interal photoemission far−infrared detectors:Photoresponse performance analysis、J.Appl.Phys.Vol.77,pp.915−924,1995」に記述されているように、HIP(ホモ接合内部光電子放出)原理にしたがった半導体素子により克服できる。HIP検出器は、素子表面における高ドープ半導体領域に、軽ドープ(または真性)の領域が続く垂直な構造からなる。高ドープ領域において、大多数の自由電荷キャリアが存在し、これらは、自由キャリア吸収(FCA)を通して、到来する電磁放射と相互作用し得る。自由電荷キャリアは、入射光子のエネルギーを吸収でき、結果として光励起された電荷キャリアとなり得る。これらの光励起された電荷キャリアは、いわゆる散乱長Lにわたる異なる非弾性および弾性の散乱プロセスを通して、これらの光励起された電荷キャリアのエネルギーをかなり急速に失う。HIP素子では、HIP素子の表面に平行して、高ドープ半導体領域と軽ドープ半導体領域の間に電位障壁が形成される。光励起された電荷キャリアが、散乱長Lよりも少なく電位障壁から離れて生成される場合、および、光励起された電荷キャリアのエネルギーが十分に高い場合、電荷キャリアは、電位障壁を乗り越えることができ、電荷キャリアは、軽ドープ領域を通って半導体に垂直に輸送され、そこで、文献により既知の電子回路のうちの1つにより検出され得る。例えば、シリコンまたはゲルマニウムから作られるこのようなHIP光センサは、200μmを超える波長を持つ赤外線放射の検出に使用されている。
【0010】
しかし、HIP赤外線光センサは、2つの主な不利益を被る:(1)励起された電荷が克服しなければならない電位障壁は、HIP光センサの加工に用いられる材料により永久的に固定される。これは、特定の金属の仕事関数により決定され得るか、または、軽ドープ半導体領域のドーピング濃度により左右される。結果として、このようなHIP光センサの遮断波長は電気的に適合できない。(2)入射赤外線光子は、入射赤外線光子が検出され得る軽ドープ半導体領域に達する前に、高ドープ変換領域を通して垂直に拡散されなければならない励起された電荷キャリアを作る。高ドープ半導体における励起された多数電荷キャリアは、キャリア寿命が短いため、高ドープ半導体における多数電荷キャリアの拡散長はナノメータ・オーダーの短距離に限定される。結果として、このようなHIP光センサの有効量子効率は、空乏化した半導体領域における光電効果を活用した光センサと比べて非常に低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第8,119,972号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“Handbook of Modern Sensors”,3rd edition,J.Fraden著,Springer社、2004
【0013】
【非特許文献2】“Fundamentals of Photonics”,2nd edition,B.E.A.Saleh and M.C.Teich著,John Wiley & Sons社,2007
【0014】
【非特許文献3】“Homojunction interal photoemission far−infrared detectors: Photoresponse performance analysis”,J.Appl.Phys.Vol.77,pp.915−924,1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これらの既知の方法および素子の限定を克服するために、本発明は、高ドープ半導体領域における自由キャリアの吸収を利用して、1μmから1000μmの波長範囲にある赤外線放射のための半導体光センサ素子を開示する。本発明に係る赤外線光センサの遮断波長は、ゲート電極の電圧の選択を通して、任意に適合させることができる。励起された電荷キャリアの輸送は側方に生じ、従来のHIP赤外線光センサと比べて、向上した量子効率につながる。
【0016】
本発明は、1μmから1000μmの波長範囲にある赤外線放射の感度の高い検出のための光センサ素子を提供することにより、赤外線光センサの上述した限定を克服する。この光センサ素子は、入射赤外線放射に対する高ドープ領域を持つ半導体基板からなる。この高ドープ領域の端には、絶縁層の上にある伝導材料からなる延長されたゲート電極が置かれる。ゲート電極のもう1方の側には、電荷コレクタとしての役割を果たす、別の高ドープ半導体領域が置かれる。空乏領域では自由電荷キャリア吸収を通して、到来する赤外線光子は、そのエネルギーを可動電荷キャリアに付与する。可動電荷キャリアが自由電子である場合に、ゲート電極は、空乏領域のリセット電圧をわずかに下回るようにバイアスされ、これにより、吸収された光子のエネルギーを受けた電子が、ゲート電極エリアを通って、主として相互作用領域から電荷コレクタ領域に遷移することができ、電荷コレクタ領域の電位は、収集された自由電子がこの半導体領域に残り続けるように十分高く設定されている。収集された自由電荷キャリアは、電流または電荷パケットの測定のための既知の回路により電子的に検出される。このような光センサ素子は、赤外線放射のためのラインまたはエリアセンサを形成するように、1次元アレイまたは2次元アレイに配列され得る。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、1μmから1000μmの波長範囲にある赤外線放射を検出するための光センサに関する。光センサは、半導体基板のメイン領域と、半導体基板に到来する放射のための高ドープ領域と、絶縁層の上に伝導材料を含む隣接するゲート電極と、電荷コレクタとして役割を果たす隣り合った高ドープコレクタ領域とを備え、隣接するゲート電極は、領域に隣接した延長構造であり、コレクタ領域は、本質的に高ドープ半導体ゾーンからなり、ゲート電極に隣接した延長構造である。光センサでは、相互作用領域は第1の電圧V
Bに電気的にバイアスされ、コレクタ領域は、光励起された電子が収集されるはずのケースでは第1の電圧V
Bより高く、光励起されたホールが収集されるはずのケースでは第1の電圧より低い、第2の電圧V
Sに電気的にバイアスされ、到来する光子は、自由キャリア吸収を通して到来する光子のエネルギーを相互作用領域中の可動電荷キャリアに付与し、自由電荷キャリアが電子であるケースでは光励起された電子を生成し、または、自由電荷キャリアがホールであるケースでは光励起されたホールを生成し、ゲート電極は、相互作用領域中の光励起された電荷キャリアに対する電位障壁が作られるように第3の電圧V
Gに電気的にバイアスされ、このため、到来する光子により付与されたエネルギーは、光励起された電荷キャリアが電位障壁を乗り越えるのに十分であり、光励起された電荷キャリアは、後続する電子的検出のためにコレクタ領域中に収集され得る。
【0018】
先の光センサでは、相互作用領域の領域は、ゲート電極とコレクタ領域とに少なくとも1つの側が境を接していてもよい。コレクタ領域は、相互作用領域の領域により囲まれたゲート電極により囲まれていてもよい。コレクタ領域は、長方形の構造、円形の構造または多角形の構造を有していてもよい。
【0019】
先の光センサは、コレクタ領域に接続された増幅器または回路をさらに備えてもよく、増幅器または回路は、第2の電圧V
Sを感知し、出力電圧V
OUTを生成する。増幅器または回路は、コレクタ領域を第2の電圧V
Sにリセットするリセットスイッチを含んでもよい。リセットスイッチは、コレクタ領域を周期的にリセットしてもよい。増幅器または回路は、感知ノードおよびソースフォロワトランジスタを含んでもよく、感知ノードは、リセットスイッチにより第2の電圧V
Sにリセットされ、ソースフォロワトランジスタのゲートに接続されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、広範囲の適合可能なスペクトル範囲にわたる赤外線放射の非常に感度の高い検出のための光センサを提供してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の以下の詳細な説明を考慮すると、本発明はより良く理解され、先に述べた以外の目的も明らかとなるであろう。このような説明は添付図面を参照する。
【
図1】
図1は、本発明に係る赤外線光センサの断面図を示す。図の下部分では、相互作用領域中の自由電荷キャリアが電子であるケースにおける、表面電位Φ
S(半導体の表面における静電位)の側方分布が示され、ここで、入射赤外線光子の電位V
λは、ゲート電位差V
B−V
Gよりも大きくなっている。
【
図2】
図2は、本発明に係る赤外線光センサの断面図を示す。図の下部分では、相互作用領域中の自由電荷キャリアが電子であるケースにおける、表面電位Φ
S(半導体の表面における静電位)の横方向断面分布が示され、ここで、入射赤外線光子の電位V
λは、ゲート電位差V
B−V
Gよりも低くなっている。
【
図3】
図3は、本発明に係る赤外線光センサの好ましい実施形態の上面図を示す。この光センサは、コレクタ構造によって両側の境が接している高ドープ相互作用領域の線形配列からなる。
【
図4】
図4は、本発明に係る赤外線光センサの別の好ましい実施形態の上面図を示す。この光センサは、高ドープ相互作用領域における長方形のコレクタ構造の2次元アレイからなる。
【
図5】
図5は、本発明に係る赤外線光センサの別の好ましい実施形態の上面図を示す。この光センサは、高ドープ領域における円形のコレクタ構造の2次元アレイからなる。
【
図6】
図6は、コレクタ構造からの電流の継続的な読み出しのための回路例を示す。この回路は、到来する電流を信号電圧に変換するトランスインピーダンス増幅器からなる。
【
図7】
図7は、コレクタ構造中の電荷キャリアの読み出しのための回路例を示す。この回路は、リセットスイッチを持つ電荷積分器からなる。
【
図8】
図8は、コレクタ構造中の電荷キャリアの読み出しのための別の回路例を示す。この回路は、感知ノードに接続されたリセットスイッチを持つソースフォロワからなる。
【
図9】
図9は、ダイナミックレンジ増大を提供する、コレクタ構造中の電荷キャリアの読み出しのための回路例を示す。この回路は、感知ノードに接続されたリセットスイッチを持つソースフォロワと、感知ノードにも接続された電流ソースとからなり、プログラム可能な補正電流I
Cが電流ソースを通って流れ得るようになっている。
【
図10】
図10は、
図9における、ダイナミックレンジ増大を提供する、コレクタ構造中の電荷キャリアの読み出しのための回路の好ましい実施形態を示す。この回路は、感知ノードに接続されたリセットスイッチを持つソースフォロワと、感知ノードにも接続された電流ソースとして飽和モードで動作する単一のトランジスタとからなる。このトランジスタは、補正電流I
Cが流れ得るプログラム可能な電流ソースとしての役割を果たす。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の主要な目的は、1μmから1000μmの広スペクトル範囲の赤外線放射に対する非常に感度の高い検出を行うための光センサを提供することである。
【0023】
本発明のさらなる目的は、広く利用可能なシリコンベースのCMOSプロセスのような業界標準の半導体プロセスにより加工できる赤外線光センサを提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、電圧制御により遮断波長を素早く任意に調整できる赤外線光センサを提供することである。
【0025】
本発明のさらに別の目的は、業界標準の半導体プロセスを使用して、1次元または2次元の赤外線イメージセンサを作り、例えば、結果として、平方センチメートル当たり少なくとも1つのメガピクセルを持つ赤外線イメージセンサとなり得る、省スペースでの赤外線光センサ素子を提供することである。
【0026】
本発明の最後の目的は、入射赤外線光子により生成される光電流と、熱励起(いわゆる暗電流)または入射してきた可視光波長帯光子による光電流のいずれかを通して生成される電流とを区別できる光センサ素子を提供することである。この区別は、追加の光学的なフィルタを必要とすることなく、素子の適切な電気的動作を通して行われる。
【0027】
先述の目的を考慮に入れて、本発明は、
図1に例示された半導体素子により達成される。
図1に例示される半導体素子は、高ドープ接触領域2を通して基板電圧V
subにバイアスされる、軽ドープまたは真性の半導体基板55(メイン領域1)からなる。基板55では、領域3は、基板55のメイン領域1とは反対のタイプの高ドープ半導体領域として加工される。領域3は、バイアススイッチ8を介してバイアス電位V
Bにリセットされ得る。領域3に隣接して、伝導層の上に絶縁層が加工されたものからなる延長ゲート電極4が配置される。ゲート電極4は、ゲート電圧V
Gに接続される。ゲート電極4のもう1方の側には、相互作用領域3と同じタイプの高ドープ半導体領域としてコレクタ領域5が加工される。コレクタ領域5は、信号電位V
Sを感知し、出力電圧V
OUTを生成させる増幅器6(増幅器回路)に接続される。入射光子7は、相互作用領域3において自由電荷キャリアと相互作用し、入射光子7のエネルギーを自由電荷キャリアに付与し、自由電荷キャリアをより高いエネルギー状態に励起する。
【0028】
一般性を失うことなく、以下では、自由電荷キャリアが電子であると仮定され、このケースにおいて、相互作用領域3およびコレクタ領域5は、n+型であり、基板55のメイン領域1は、p−型または真性のいずれかである。相互作用領域3はスイッチ8を介して中間バイアス電圧V
Bにバイアスされる。基板電圧V
subは、相互作用領域3と基板55のメイン領域1との間を流れる正味電流がないように調整される。ゲート電圧V
Gは、バイアス電圧V
Bより低くなるように選択され、これにより、相互作用領域3中の自由電子に対して電位差(V
B−V
G)による静電障壁が形成される。相互作用領域3中の自由電子の熱励起により、これらの熱励起された電子のうちのいくつかは、電位障壁を乗り越えるのに十分なエネルギーを有し、これにより、熱励起された電子のうちのいくつかは、ゲート領域4を通って拡散し、コレクタ領域5中に収集され得る。
【0029】
コレクタ領域5は、収集された電子が相互作用領域3に戻るのを防ぐために、高正電圧V
Sにバイアスされている。熱励起により電位障壁を乗り越える自由電子は、本発明に係る光センサの温度依存の暗電流を表している。
【0030】
例えば、P.Y.Yu及びM.Cardona著の「Fundamentals of Semiconductors”,4th Ed.,Springer社,2010」に記述されているように、入射光子は、自由キャリア吸収(FCA)効果により、相互作用領域3において自由電子と相互作用する。FCAによる吸収係数は、相互作用領域のドーピング濃度と、入射光子の波長の平方とに比例する。ドープされた半導体では、遮断波長を上回るFCAにより電磁放射の吸収が支配される。重ドープされたシリコンにおいて、FCAは、1.1μmから少なくとも1000μmの波長範囲では、吸収作用が支配的である。波長λの入射光子がFCAを通して自由電子と相互作用するとき、光子は、光子のエネルギーE=h×c/λを自由電子に付与する。これは、
図1の電位図における電位差V
λ=E/q=h×c/(λ×q)による電子の励起されたエネルギー状態に対応する。ここで、qは、単位電荷q=1.602×10
−19 Asを示す。
【0031】
この電位差V
λが、ゲート電極により作られる電位障壁(V
B−V
G)と少なくとも同じくらい高い場合に、励起された電子は電位障壁を乗り越えることができ、励起された電子は、ゲート領域を通して拡散し、その後、励起された電子は、励起された電子が信号電荷に寄与するコレクタ領域5中に収集される。このモードの動作では、光電流は、V
λが電位障壁(V
B−V
G)より大きい限り、ゲート電圧V
Gとは効果的に独立している。これは、暗電流密度が光電流と同等であるか、または、暗電流密度が光電流より小さい、このような低温に素子が冷却される場合に、好ましいモードの動作である。
【0032】
この素子は、ほとんど冷却せずに又は冷却することなく動作することもでき、このケースでの動作モードを
図2に例示する。光励起された電子の電位V
λは、電位障壁(V
B−V
G)よりも低くなっている。このケースでは、暗電流および光電流に寄与する自由電子は、(V
B−V
G)により表される電位障壁を克服するために熱励起されなければならない。この理由のため、総光電流I
Pは、3つの成分である、暗電流I
dと、半導体の遮断波長を下回るエネルギーを持つ入射光子により生成される光電流I
vと、入射赤外線光子により生成される信号光電流I
sとの合計として与えられる。つまり、I
P=I
d+I
v+I
s。である。電流I
dおよびI
sの双方は、電子が電位障壁を克服する熱励起に依存するため、電流I
dおよびI
sは互いに比例する、すなわち、I
s=A(λ)×P
IR×I
dであり、入射赤外線放射の強度P
IRおよび比例定数A(λ)は、入射赤外線光子の波長λに依存する。電流I
dおよびI
sは、ゲート電圧差(V
B−V
G)に指数的に依存する一方、光電流I
Vは、ゲート電圧差(V
B−V
G)に依存しない。この理由のために、I
Vは、2つ以上の異なるゲート電圧に対する総電流を測定することにより、および、電流における定数部分を計算することにより、ゲート電圧とは独立した素子の総電流に対する寄与として決定することが可能になる。従って、半導体の遮断波長を下回る波長の入射放射の割合は、任意の追加の光学的なフィルタを必要とすることなく測定できる。
【0033】
いずれのケースでも、増幅器6の生の出力信号は、信号電流と温度依存する暗電流との合計からなる。正味の信号は、生の出力信号と暗電流からの寄与との差を決定することにより得ることができる。暗電流を決定するための1つの好ましい方法は、本発明に係る追加の光センサを基準素子として提供することであり、基準素子の表面は、入射電磁放射を通す材料によって完全にカバーされる。この理由のために、この素子により測定される総電流は、暗電流にのみ起因し、基準素子の温度が、カバーされていない測定素子と同じである場合に、測定素子中の暗電流も知ることができる。
【0034】
高ドープ半導体において自由電荷キャリアの脱励起された(緩和)時間は非常に小さい。シリコンでは、1psのオーダーである。結果として、励起された電荷キャリアが励起された電荷キャリアの光励起エネルギーを失う散乱長Lが存在する。シリコンでは、高ドープシリコンにおけるこの散乱長は、1nmのオーダーである。ゲート電極から距離Lより少なく離れて入射光子と相互作用する自由電子のみが、電位障壁を乗り越えるための機会を有する。これは、
図1および
図2に例示する。従って、結果として光センサの高量子効率を得るために、相互作用領域の幅を可能な限り小さくすることが望ましい。本発明に係る赤外線光センサの好ましい実施形態が、
図3、
図4および
図5に例示される。
【0035】
図3では、光センサ50aのストリップ様の配列が示されており、長く薄い相互作用領域10は、ゲート電極11とコレクタ領域12とに両側の境が接している。図に示すように、ゲート電極11から距離Lより多く離れている相互作用領域10の内側の部分は、光信号に寄与せず、本発明の光センサでは本質的に作用しない。
【0036】
図4では、より大きな相互作用領域20においてゲート電極21により囲まれた小さな長方形の収集領域22の2次元アレイを持つ光センサ50bが示されている。全ての収集領域22からの信号が追加され、これにより、任意のエリアを持つ光センサが、感度を失うことなく実現され得る。
【0037】
図5に示すように、ゲート電極31により囲まれた小さな収集領域32を持つ光センサ50cは、代替的に、円形の構造として実現され得る。この実施形態は、ゲート電極の円周の周りに、一定の電場条件を提供し、角部における任意の高電場領域を防ぐ。
【0038】
収集領域に蓄積される自由電荷キャリアは、既知の電子回路により検出される。
図1および
図2においてシンボル的に示した増幅器回路6の好ましい実施形態を、
図6〜
図10に例示する。
【0039】
図6は、この回路の入力に接続されたコレクタ領域により提供される電流Iの継続的な測定のために用いられるトランスインピーダンス増幅器回路6aを示す。このトランスインピーダンス増幅器回路6aは、コレクタ領域を電位V
Sに保ち、回路6aの出力において、回路6aは、入力電流Iに比例する電圧V
out=R×Iを産出する。Rは、フィードバックループ中の抵抗である。
【0040】
図7は、コレクタ領域に蓄積される電荷Qを積分することが可能な電荷積分器回路6bを示す。積分は、演算増幅器のフィードバックループ中のキャパシタンスCで行われ、出力電圧V
out=Q/Cを産出する。いったん積分期間が終了すると、出力電圧が外部の回路により読み出され、V
reset信号によりフィードバックループ中のリセットスイッチを閉じることにより、電荷積分器回路がリセットされる。このように、コレクタ領域は周期的に電位V
Sにリセットされる。
【0041】
図8は、高感度によりコレクタ領域に蓄積される電荷Qを測定することが可能なソースフォロワ回路6cを示す。電荷積分は、感知ノードに接続されたキャパシタンスCで行われる。電荷積分が始まる前に、V
reset信号により感知ノードに接続されたリセットスイッチを閉じることにより、感知ノードは電位V
Sにリセットされる。キャパシタンスCで電荷Qを積分することは、結果的に、感知ノードにおけるV=Q/Cにより与えられる電圧信号となり、感知ノードは、ソースフォロワトランジスタのゲートに電気的に接続される。ソースフォロワトランジスタのソースは抵抗器Rを通して接地電位に接続され、ドレインは電力供給電圧V
DDに接続される。ソースフォロワ回路の出力において、電圧V
outが生成され、電圧V
outは、ゲート電圧からオフセット電圧V
Tを引いたもの、すなわち、V
out≒Q/C−V
Tと本質的に同じである。
【0042】
図9は、
図8に示したソースフォロワ回路に基づいて、電流測定の増加したダイナミックレンジを提供する電子回路6dの概略図を示す。このような増加したダイナミックレンジは、暗電流が、本発明に係る光センサ素子により測定される総電流のかなりの割合を表すケースでは、望ましい。この増加したダイナミックレンジは、光センサ素子と直列のプログラム可能な電流ソースにより達成することができる。このように、補正電流I
Cは、素子により測定される総電流から引かれ得る。この補正電流が暗電流に近い場合、暗電流の正味の信号電流に対する影響はかなり低下し、したがって、素子の動的な測定範囲がこれに応じて増加する。
【0043】
図10は、
図9で概略的に示した増加するダイナミックレンジによる回路6eの好ましい実施形態を示す。プログラム可能な電流ソースは、飽和モードで動作する単一のトランジスタにより実現される、すなわち、このトランジスタを通る電流は本質的にソースドレイン電圧から独立しており、補正電流I
Cは、ゲート電圧によりプログラム可能であり得る。
【0044】
本発明に係る赤外線光センサは、可視および近赤外線のスペクトル範囲に対する既知のシリコンベースの光センサにおける光感度領域とサイズが類似した、ミクロンオーダーの範囲にある次元を持つ光感度構造として、商業利用可能な半導体プロセスにより実現できる。本発明に係る赤外線光センサに対する電荷検出回路の好ましい実施形態は、可視および近赤外線のスペクトル範囲に対する既知のシリコンベースの光センサにおいて用いられる光電荷検出回路にも非常に類似している。結果として、本発明に係る完全な赤外線光センサは、可視および近赤外線のスペクトル範囲に対するシリコンベースの光センサの既知のピクセルと同等のスペースを有する。この理由のために、本発明に係る多数の赤外線光センサを半導体の同じピース上に加工することが可能である。特に、1次元の赤外線ラインセンサおよび2次元の赤外線イメージセンサは、可視および近赤外線のスペクトル範囲に対するシリコンベースのライン光センサおよびイメージ光センサについて得られるのと同等のピクセル密度で加工できる。
【0045】
上述したように、本発明に係る光センサは、半導体基板のメイン領域と、半導体基板に到来する放射のための高ドープ相互作用領域と、絶縁層の上に伝導材料を含む隣接するゲート電極と、電荷コレクタとして役割を果たす隣り合った高ドープコレクタ領域とを備え、隣接するゲート電極は、相互作用領域に隣接した延長構造であり、コレクタ領域は、本質的に高ドープ半導体ゾーンからなり、ゲート電極に隣接した延長構造である。相互作用領域は第1の電圧V
Bに電気的にバイアスされ、コレクタ領域は、光励起された電子が収集されるはずのケースでは第1の電圧V
Bより高く、光励起されたホールが収集されるはずのケースでは第1の電圧V
Bより低い、第2の電圧V
Sに電気的にバイアスされる。到来する光子は、自由キャリア吸収を通して到来する光子のエネルギーを相互作用領域中の可動電荷キャリアに付与し、自由電荷キャリアが電子であるケースでは光励起された電子を生成し、または、自由電荷キャリアがホールであるケースでは光励起されたホールを生成する。ゲート電極は、相互作用領域中の光励起された電荷キャリアに対する電位障壁が作られるように第3の電圧V
Gに電気的にバイアスされ、このため、到来する光子により付与されたエネルギーは、光励起された電荷キャリアが電位障壁を克服するのに十分であり、光励起された電荷キャリアは、後続する電子的検出のためにコレクタ領域中に収集され得る。
【0046】
好ましい実施形態では、本発明に係る赤外線光センサは、CMOS素子に用いる加工方法を使用して、シリコンをベースの材料として加工することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…基板、2…接触領域、3…相互作用領域、4…ゲート電極、5…コレクタ領域、6…増幅器、7…入射光子、8…スイッチ、50、50a、50b、50c…光センサ、55…半導体基板。