(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
回転電機用の積層鉄心は一般に、電磁鋼板のフープ材(帯状薄鋼板)を素材として、順送り金型装置により製造される。順送り金型装置では、フープ材に対してパイロット穴やスロット部、内径ティース等の打抜き加工が順次行われて鉄心薄板が連続的にかたちづくられ、外形打抜き後の鉄心薄板を所定の枚数積層して固着させることにより積層鉄心が製造される。鉄心薄板の固着には、各鉄心薄板にかしめ用の凹凸を形成しておき、積層時に圧着させてかしめ結合させる積層かしめ法や、積層後にレーザ溶接等によって鉄心薄板を結合する積層溶接法も存在するが、結合部位の磁気特性の劣化等が生じ難いことから、順送り金型装置内でフープ材の表面に接着剤を塗布し、外形打抜きと同時に鉄心薄板を積層して接着させる積層接着法(特許文献1,2参照)が広く採用されている。
【0003】
積層接着法に用いる接着剤供給装置としては、例えば、プレス成形ラインの下金型内において上下に摺動自在に保持されたシリンダと、シリンダの先端部に設けられた複数の接着剤転写用ノズルと、シリンダの先端側内部に画成されて、接着液供給通路から所定圧で供給された接着液を貯留する貯留室と、シリンダ内に摺動自在に設けられ、貯留室内の接着液を転写用ノズル方向へ押し出すピストンとを備え、プレス成形機の上金型を下降させてシリンダ先端部を押圧することで、ピストンをシリンダに対して相対的に上昇させて、転写用ノズルから鉄心薄板に向けて接着液が吐出されるようにしたものが存在する(特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献3に記載の発明においては、接着液を吐出させるためのシリンダおよびピストンの相対移動がプレス成形機のラム(金型)の上下動によって実現されるため、プレス動作の速度を増大させた場合、転写用ノズルから鉄心薄板に向けて吐出される接着液の速度も増大することとなる。従って、プレス動作速度が一定の限界を超えると、転写用ノズルから接着液が過大に吐出されて接着強度にばらつきが生じる上、接着液が周囲に飛散して金型等に悪影響を及ぼす虞があった。即ち、特許文献1に記載の発明では、鉄心薄板に対する接着液の適切な転写を実現可能な範囲でプレス動作の速度を設定する必要があり、プレス動作の高速化も一定の制約を受けるという課題があった。このような課題は、ラムの上下動によってピストンを直接移動させる構成とした場合も同様に生じ得る。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、積層接着法を採用した積層鉄心の製造において、打抜きを行う帯状薄鋼板の移送速度によらずに接着剤を安定的に塗布することができ、積層鉄心の生産性の向上に寄与する積層鉄心の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた第1の発明は、帯状薄鋼板(1)から所定の形状に打抜き形成された鉄心薄板(2)を積層接着してなる積層鉄心(19)の製造装置であって、上金型(4)と下金型(11)とを有し、間欠移送される帯状薄鋼板から鉄心薄板を順次打抜く順送り金型手段(3)と、前記下金型内に設けられ、前記帯状薄鋼板の前記鉄心薄板に対応する部位に接着剤を塗布する接着剤塗布手段(12)とを備え、前記接着剤塗布手段は、前記帯状薄鋼板の接着剤塗布面に向けて接着剤を吐出する吐出孔(62)が設けられた接着剤吐出部(31)と、前記接着剤吐出部に対して常時所定圧力で接着剤を供給する接着剤供給部(32)とを有し、前記上金型が降下してストリッパープレート(10)により前記帯状薄鋼板を前記下金型上面(11a)へと当接させた際に、前記接着剤吐出部から吐出される前記接着剤を前記帯状薄鋼板に転写させる構成とする。
【0010】
上記課題を解決するためになされた第2の発明として、前記吐出孔の先端は、前記上金型が降下して前記ストリッパープレートにより前記帯状薄鋼板を前記下金型上面へと当接させた際に、前記帯状薄鋼板から離間している構成とすることができる。
【0011】
上記課題を解決するためになされた第3の発明として、前記接着剤塗布手段は、前記接着剤吐出部を前記帯状薄鋼板の接着剤塗布面に対して進退動させる進退駆動部(33)を更に有する構成とすることができる。
【0012】
上記課題を解決するためになされた第4の発明として、前記接着剤塗布手段は、前記吐出孔が複数設けられ、当該複数の吐出孔が連通する接着剤溜まり(63)を有する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
上記第1の発明によれば、打抜きを行う上下動(プレス上下動)の速度に同期せずに接着剤を安定的に塗布することができ、積層鉄心の生産性の向上に寄与することが可能となる。また、上記第2の発明によれば、帯状薄鋼板に塗布した接着剤が不適切に拡がることを防止し、良好な接着を実現することができる。また、上記第3の発明によれば、簡易な構成により、帯状薄鋼板に対する接着剤塗布処理の実行の有無を切り替えることができる。また、上記第4の発明によれば、複数の吐出孔から定量の接着剤を安定的に吐出させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は実施形態に係るストリップレイアウトを示す図であり、
図2は打抜き後の鉄心薄板の平面図であり、
図3は順送り金型装置の概略構成図である。本実施形態では、ステップモータ用の積層鉄心の製造工程が、前半打抜き工程、接着剤塗布工程、外形打抜き工程、回転積層工程、および加熱工程から構成される場合を例として示す。
【0017】
図1に示す前半打抜き工程において、フープ材1は、パイロット穴Pの打抜き加工(1)、内径下穴d1および外形溝用小穴hの打抜き加工(2)、スロット部Sの打抜き加工(3)、内径dの打抜き加工(4)、内径溝(ティース)mの打抜き加工(5)を順次施されて、外形を除く鉄心薄板2の基本形状が形成される。このとき、フープ材1は、
図3に示す順送り金型装置3内で間欠移送されながら、上下方向に移動する上金型4に取り付けられたパンチ5〜9によって順次打抜き加工が実施される。打抜き加工の際には、上金型4に取り付けられたストリッパープレート10が下降してフープ材1を下金型11の上面11aに当接させる。なお、
図3に示す順送り金型装置3における(1)〜(9)は、
図1に示す各工程(1)〜(9)との対応を示すものである。
【0018】
前半打抜き工程が完了すると、接着剤塗布工程(6)が実施される。このとき、フープ材1への接着剤の塗布は、順送り金型装置3の下金型11内に設けられた接着剤塗布装置12により実施され、接着剤は、
図2に示すスロット部S間の磁極部Jおよびヨーク部Yに相当する複数の転写部位(本実施形態では、各磁極部Jの2箇所E1、ヨーク部Yの8箇所E2)にスポット状に塗布される。なお、後述するように、計量用の鉄心薄板に対しては接着剤の塗布は行われない。
【0019】
接着剤塗布工程が完了すると、外形打抜き工程(7)が実施される。このとき、順送り金型装置3の上金型4に取り付けられた外形打抜きパンチ13によって、外形Dが打抜かれて鉄心薄板2が完成する。
【0020】
外形打抜き工程により鉄心薄板2が得られると、回転積層工程(8)が実施される。このとき、
図3に示すように、既に打抜きが完了して回転ダイ14内に積層されている鉄心薄板群15上に積層され、その後は、回転ダイ14下部のスクイズリング16内へと順次押し込まれる。ここで、回転駆動装置17は、新たに打抜かれた鉄心薄板2が鉄心薄板群15上に積層される前に、鉄心薄板群15を保持する回転ダイ14を所定の角度(例えば、90°)回転させることができる。これにより、各鉄心薄板2の回転位置を変化させながら積層させ、鉄心薄板2に生じ得る微少な板厚偏差による影響を解消し、製品(積層鉄心)の積み厚を精度良く管理することができる。
【0021】
回転積層工程が完了すると、加熱工程(9)が実施される。
図3に示すように、スクイズリング16下部には、第1加熱装置18が設けられており、鉄心薄板群15は下方に移動しながら加熱される。これにより、各鉄心薄板2間の接着剤を加熱により硬化させて接着強度を高めることができる。加熱装置としては、例えば、鉄心薄板群15に対して熱風を吹き付けるヒータ装置を用いることができる。第1加熱装置18による加熱の後、鉄心薄板群15は各計量用の鉄心薄板の位置で分離され、所定枚数の鉄心薄板2からなる積層鉄心19が形成される。この積層鉄心19は、下金型11の下方に配置されたベルトコンベア20上に載置され、次工程(図示せず)に搬送される。ベルトコンベア20の搬送経路の途中には、第2加熱装置21が設けられており、搬送中の積層鉄心19が再加熱される。これにより、各鉄心薄板間の接着強度を一層高めることができる。
【0022】
次に、上記順送り金型装置における接着剤塗布装置の構成およびその接着剤塗布工程の詳細について説明する。
図4は
図1の接着剤塗布装置周辺を示すA部のIV−IV断面図であり、
図5は
図4のB部の拡大図であり、
図6は
図4の接着剤供給ノズルの上面図であり、
図7は
図4において接着剤の塗布を行わない場合の接着剤塗布装置の状態を示す図である。
【0023】
接着剤塗布装置12は、フープ材1の接着剤塗布面(下面)に向けて適量の接着剤を吐出する接着剤吐出部31と、接着剤吐出部31に対して常時所定圧力で接着剤を供給する接着剤供給部32と、フープ材1の接着剤塗布面に対して略垂直な方向に接着剤吐出部31を進退動させる進退駆動部33とを有する。
【0024】
接着剤吐出部31は、ベース体41と、ベース体41の上面にねじ42で固定された接着剤導入ブロック43と、この接着剤導入ブロック43の上部を収容するノズルブロック44と、これらのブロック43,44を外囲するように配置され、ベース体41の上面にねじ45で固定された受け台46とを備える。
【0025】
接着剤導入ブロック43は、略円柱状をなし、その内部に接着剤の導入路として外周面43aと上面43bとを結ぶ貫通孔51が穿設されるとともに、その下部にフランジ部52が設けられている。
【0026】
ノズルブロック44は、略円柱状をなし、その下面44aに接着剤導入ブロック43を摺動自在に収容する凹部61aが設けられるとともに、その上面44bには接着剤が凸状に吐出される複数の吐出孔62が設けられている。
図6に示すように、本実施形態における吐出孔62は、
図2に示した接着剤の転写部位E1,E2に対応する位置にそれぞれ設けられているが、ここに示したものに限らず、吐出孔62の形状、サイズ、数量、および配置等は適宜変更することができる。接着剤導入ブロック43がノズルブロック44に収容された状態で、凹部61aと接着剤導入ブロック43の上面43bとで画成される空隙は接着剤溜まり63を構成し、貫通孔51を介して供給された接着剤が貯留される。これにより、各吐出孔62から定量の接着剤を安定的に吐出させることが可能となる。また、ノズルブロック44の下部に設けられたフランジ部64と接着剤導入ブロック43のフランジ部52との間には、ばね65が張設されている。
【0027】
受け台46は、略円筒状をなし、その内周側の上部が縮径されて段差部46aが形成されている。この段差部46aとノズルブロック44のフランジ部64とが係合することで、ノズルブロック44の上方(即ち、下金型11の上面11aから突出する方向)への移動が規制される。受け台46の下部は、下金型11内に固定された下型71にベース体41とともに収容される。また、受け台46の外周側の上部が縮径されて段差部46bが形成されており、この段差部46bと押さえ部材72とが係合することで、接着剤吐出部31の上方への移動が規制される。また、受け台46の上面46cと押さえ部材72の上端面は、下金型11の上面11aと同一面に設定配置されている。
【0028】
ここで、
図5に示すように、ノズルブロック44の上面44b(即ち、吐出孔62の先端)は、受け台46の上面46cよりも僅かに低くなるように配置され、これにより、フープ材1とノズルブロック44の上面44bとの間には一定の間隙αが形成される。従って、上金型4が降下してストリッパープレート10でフープ材を下金型上面へ当接させたとき、接着剤吐出孔62を有するノズルブロック44上面との間に間隙αが構成される。また、上述のように、接着剤導入ブロック43とノズルブロック44の間にばね65が張設された構成とすることで、ノズルブロック44の上面44bの必要な位置精度(間隙α)を容易に維持できる。また、ノズルブロック44の組み付けにねじ等の締結手段(およびその配置スペース)が不要となり、また、組み付け作業が容易となるという利点もある。
【0029】
接着剤供給部32は、その接着剤タンク(図示せず)内の接着剤を周知の方法(例えば、圧縮空気等)により加圧する加圧装置81からなり、加圧された接着剤は、その加圧に応じた所定の供給速度で管路82を介して接着剤吐出部31に送られる。管路82は、接着剤用のチューブ82aと、下金型11内(押さえ部材72、受け台46等を含む)に形成された連通路82bとにより構成され、接着剤導入ブロック43の貫通孔51に接続される。供給された接着剤は、接着剤吐出部31の接着剤溜まり63に貯留され、最終的に吐出孔62から吐出される。
【0030】
進退駆動部33は、ベース体41と係合して接着剤吐出部31を進退動させる駆動部材91と、駆動部材91をその長手方向に移動させるための動力を供給する駆動装置92とを備える。駆動部材91は、その上部に直動形の鋸歯状のカム面91aが形成されている。カム面91aは、ベース体41の下面に設けられた同様の鋸歯状のカム面41aとともにカム機構を構成し、接着剤吐出部31の進退動を可能とする。
図4では、カム面91aおよびカム面41aが非係合状態(互いに噛合していない状態)にある場合を示しており、このとき、接着剤吐出部31は上限位置にあって接着剤の塗布処理が可能な状態にある。駆動装置92としては、駆動部材91の直線運動を実現する周知のアクチュエータ(例えば、流体シリンダ、ソレノイド等)を用いることができる。なお、カム機構の構成は適宜変更することができる。
【0031】
次に、上記構成の接着剤塗布装置12による接着剤塗布工程の概要について説明する。接着剤の塗布処理を実行する場合(即ち、フープ材1における対象部位が計量用の鉄心薄板に対応しない場合)、前半打抜き工程が完了したフープ材1の移送動作が完了すると、次のプレス動作によりストリッパープレート10が下降し、フープ材1を下金型11の上面11aに当接させる。このとき、接着剤溜まり63に貯留された接着剤は、
図5に示したように、加圧装置81によって所定の圧力に加圧されており、接着剤吐出部31は開口しているので、開口の面積と加圧力に応じた速度でノズルブロック44の吐出孔62から前記間隙αの上方つまりフープ材下面方向へ盛り上がって形成され伸びていく。これによって上金型の上下動により、上金型が降下してストリッパープレート10でフープ材を下金型上面へ当接するときと、接着剤が吐出孔62から盛り上がっていくタイミングを合わせることで、フープ材1下面の所定位置へスポット状に接着剤を転写する(
図2のE1、E2参照)。その後、接着剤が塗布されたフープ材は次の外形打抜き積層工程へ搬送される。なお、接着剤が良好に転写されるためには、上金型の上下動速度(プレス速度)と接着剤の転写面積によって接着剤供給部における加圧力を制御設定することで最適条件を見出すことが可能である。
【0032】
このように、打抜きを行う上金型の上下動速度(プレス速度)に同期せずに接着剤を安定的に塗布することができ、積層鉄心の生産性向上に寄与することが可能となる。この場合、接着剤の供給は、プレス動作とは無関係であるので、接着剤の塗布工程がプレス動作の影響を受けることもない。また間隙αを、設けて接着剤を吐出口から吐出させる構成とすることで、フープ材の下面がノズルブロック44の上面44bすなわち吐出孔62先端へ密着して接着剤が不適切に拡がることを防止し、良好なスポット形状を維持できる。
【0033】
一方、接着剤の塗布処理を実行しない場合(即ち、フープ材1における対象部位が計量用の鉄心薄板に対応する場合)、フープ材1が下金型11の上面11aに当接する前に、駆動装置92が起動して駆動部材91を
図7の矢印方向に移動させる。これにより、駆動部材91のカム面91aとベース体41のカム面41aとが係合状態(互いに噛合した状態)となって、接着剤吐出部31が
図4に示す上限位置から
図7に示す下限位置まで下降する。その結果、フープ材1とノズルブロック44の上面44bとの間の間隙αが拡がり、接着剤をフープ材1の下面に転写させないようにすることを容易に実現できる。
【0034】
本発明を特定の実施形態に基づいて詳細に説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。例えば、本発明に係る積層鉄心の製造装置は、上述のステップモータに限らず、通常のモータコア用の積層鉄心にも適用可能である。