特許第6178493号(P6178493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6178493リチウムイオン電池用被覆負極活物質、リチウムイオン電池用スラリー、リチウムイオン電池用負極、リチウムイオン電池、及び、リチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178493
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用被覆負極活物質、リチウムイオン電池用スラリー、リチウムイオン電池用負極、リチウムイオン電池、及び、リチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20170731BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170731BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170731BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170731BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170731BHJP
【FI】
   H01M4/36 C
   H01M4/62 Z
   H01M10/052
   H01M4/13
   H01M4/139
【請求項の数】12
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-507406(P2016-507406)
(86)(22)【出願日】2015年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2015054065
(87)【国際公開番号】WO2015137041
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年5月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-49137(P2014-49137)
(32)【優先日】2014年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 雄介
(72)【発明者】
【氏名】今石 高寛
(72)【発明者】
【氏名】川北 健一
(72)【発明者】
【氏名】草地 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】赤間 弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/168727(WO,A1)
【文献】 特開2013−131324(JP,A)
【文献】 特開2003−151543(JP,A)
【文献】 特開2012−178269(JP,A)
【文献】 特開2011−222153(JP,A)
【文献】 特開2011−243558(JP,A)
【文献】 特開2006−049288(JP,A)
【文献】 特開2014−112539(JP,A)
【文献】 特開2014−229583(JP,A)
【文献】 特開2014−220216(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/156892(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆され、
前記被覆剤が被覆用樹脂及び導電助剤を含み、前記被覆用樹脂の、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であり、前記被覆用樹脂が、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリサッカロイド及びこれらの混合物からなる群から選択された少なくとも1種であり、
リチウム及び/又はリチウムイオンが少なくとも活物質にドープされてなることを特徴とするリチウムイオン電池用被覆負極活物質。
【請求項2】
前記リチウムイオン電池用負極活物質の体積平均粒子径が、0.01〜100μmである請求項1に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質。
【請求項3】
前記被覆剤の導電率が0.001〜10mS/cmである請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質及び分散媒を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項5】
前記分散媒が電解液である請求項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質又は請求項4若しくは5に記載のリチウムイオン電池用スラリーに含まれるリチウムイオン電池用負極活物質を有することを特徴とするリチウムイオン電池用負極。
【請求項7】
請求項に記載のリチウムイオン電池用負極を用いたことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項8】
請求項に記載のリチウムイオン電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池であって、不可逆容量が0.1〜50mAh/gであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆用樹脂及び導電助剤を含む被覆剤で被覆されてなる被覆負極活物質を準備する工程と、
前記被覆負極活物質と分散媒とを混合し、原料スラリーを得る工程と、
前記原料スラリー中の前記被覆負極活物質の少なくとも活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープする工程とを含むリチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法であって、
前記被覆用樹脂の、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であり、前記被覆用樹脂が、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリサッカロイド及びこれらの混合物からなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とするリチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記分散媒が電解液である請求項に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記原料スラリー中の前記被覆負極活物質の少なくとも活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープする工程は、
原料スラリーを用いて予備充電用負極を作製し、予備充電用負極と予備充電用正極とを備える予備充電用電池を作製した後、予備充電用電池に対して予備充電を行うことによって行う請求項9又は10に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記予備充電用負極の作製工程は、
前記原料スラリーを集電体上に塗布して集電体上にスラリー層を形成する工程と、
前記スラリー層の上にセパレータを載置して、セパレータの上面側から吸液して、前記被覆負極活物質を前記集電体と前記セパレータの間に定着する工程とを含む請求項11に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用被覆負極活物質、リチウムイオン電池用スラリー、リチウムイオン電池用負極、リチウムイオン電池、及び、リチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン二次電池に注目が集まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極又は負極活物質等を正極用又は負極用集電体にそれぞれ塗布して電極を構成している。また、双極型の電池の場合には、集電体の一方の面にバインダを用いて正極活物質等を塗布して正極層を、反対側の面にバインダを用いて負極活物質等を塗布して負極層を有する双極型電極を構成している。
【0004】
リチウムイオン二次電池において、充電時には、正極活物質からリチウムイオンが引き抜かれ、負極活物質に吸蔵される。一方、放電時には、負極活物質からリチウムイオンが放出され、正極活物質に移動する。このとき、一定の電気量(電気エネルギー)を外部に取り出すことができる。
【0005】
しかしながら、リチウムイオン二次電池の多くは、初回の充放電時の不可逆容量が大きいという問題がある。ここで、不可逆容量とは、充電容量(充電に要した電気量)と放電容量(放電に要した電気量)との差である。つまり、不可逆容量が大きいことは、充電に見合った電気量を放電することができないことを意味する。不可逆容量の原因としては、主に、初回の充電時に負極に吸蔵されるが放電時に放出されないリチウムイオンの存在、及び、初回の充電時に電解液が分解する際に費やされる電気量の2つが考えられている。
【0006】
不可逆容量の問題を解決するため、特許文献1には、不可逆容量が小さい電極用炭素材料を安定的に効率よく製造することを可能とする電極用炭素材料の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、二次電池を組み立てた後、2回目以降の充電のカットオフ電圧よりも高いカットオフ電圧で1回目の充電(予備充電)を行うことにより不可逆容量を補填する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、二次電池において、負極と電気的に接続され、負極に接しない状態で金属リチウム又はリチウム合金を配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−40406号公報
【特許文献2】特開2013−12336号公報
【特許文献3】特開平8−102333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に記載の発明では、二次電池の不可逆容量をある程度小さくすることはできるが、不可逆容量をさらに小さくしようとする要求は大きい。また、特許文献2に記載の発明のように、二次電池を組み立てた後に予備充電を行うと、予備充電の際に電解液が分解してガスが発生する。そのため、二次電池の製造工程において、デガス工程と呼ばれるガス抜き工程を行う必要があり、二次電池の製造工程を簡素化することができない原因となっている。
【0009】
本発明は、上記状況を踏まえてなされたものであり、リチウムイオン電池の不可逆容量を小さくすることができる負極活物質を提供することを目的とする。また、本発明は、該負極活物質の製造方法、該負極活物質を含むリチウムイオン電池用スラリー、該負極活物質を有するリチウムイオン電池用負極、及び、該リチウムイオン電池用負極を用いたリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リチウムイオン電池を組み立てる前の負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆剤によって被覆し、そのような被覆負極活物質にさらにリチウム等をドープすることにより、リチウムイオン電池の不可逆容量を小さくすることができ、かつ、リチウムイオン電池の製造時にデガス工程を行う必要がないことを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質は、粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆され、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされてなることを特徴とする。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用スラリーは、本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質及び分散媒を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質又は本発明のリチウムイオン電池用スラリーに含まれるリチウムイオン電池用負極活物質を有することを特徴とする。
【0014】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極を用いたことを特徴とする。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池であって、不可逆容量が0.1〜50mAh/gであることを特徴とする。
【0016】
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法は、粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆されてなる被覆負極活物質を準備する工程と、上記被覆負極活物質と分散媒とを混合し、原料スラリーを得る工程と、上記原料スラリー中の上記被覆負極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープする工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質においては、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされていることを特徴としている。つまり、リチウムイオン電池を組み立てる前の時点で、被覆負極活物質にはリチウムイオンがあらかじめ吸蔵されている。したがって、この被覆負極活物質を有する負極を用いてリチウムイオン電池を組み立てて初回の充放電を行った場合、放電時に負極から放出されないリチウムイオンは依然として存在するが、そのリチウムイオンを正極活物質が負担する割合は小さくなる。そのため、初回の充電に費やした電気量を放電に費やすことができるため、不可逆容量を小さくすることができる。また、充電時に吸蔵されるリチウムイオンを供給する正極活物質は一般的に高価であるため、本発明では、正極活物質の使用量を低減することもできる。さらに、リチウムイオンがあらかじめ吸蔵された被覆負極活物質を用いてリチウムイオン電池を製造する場合、初回の充電時に電解液が分解してガスが発生することがないため、リチウムイオン電池の製造時にデガス工程を行う必要がない。また、リチウムイオン電池用被覆負極活物質を用いることにより、活物質表面での非伝導体であるSEIの形成を抑制し、充放電速度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)及び図1(b)は、被覆負極活物質を膜上に定着させる工程を模式的に示す工程図である。
図2図2(a)、図2(b)及び図2(c)は、被覆負極活物質を集電体とセパレータの間に定着する工程を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0020】
[リチウムイオン電池用被覆負極活物質]
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質は、粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆され、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされてなることを特徴とする。
【0021】
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質は、粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆されていることを第1の特徴としている。
【0022】
また、本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質は、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされていることを第2の特徴としている。
具体的には、被覆負極活物質が、電気化学的処理によりリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされている。
リチウム及び/又はリチウムイオンは、金属リチウム及び/又は正極活物質からドープされていることが好ましく、金属リチウムからドープされていることがより好ましい。
例えば、製品であるリチウムイオン電池を作製する前に、被覆負極活物質を有する負極と金属リチウム極とを用いて予備充電用電池を作製し、予備充電用電池に対して予備充電を行うことによって、被覆負極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープすることができる。また、製品であるリチウムイオン電池を作製する前に、被覆負極活物質を有する負極と正極活物質を有する正極とを用いて予備充電用電池を作製し、予備充電用電池に対して予備充電を行うことによっても、被覆負極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープすることができる。
また、本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質は、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされているものであるが、リチウム及び/又はリチウムイオンは、少なくとも活物質にドープされてなることが好ましい。
【0023】
リチウムイオン電池用負極活物質としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、高分子化合物焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)、炭素繊維、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、スズ、シリコン、及び金属合金(例えばリチウム−スズ合金、リチウム−シリコン合金、リチウム−アルミニウム合金及びリチウム−アルミニウム−マンガン合金等)、リチウムと遷移金属との複合酸化物(例えばLiTi12等)等が挙げられる。
【0024】
リチウムイオン電池用負極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜20μmであることがより好ましく、2〜10μmであることがさらに好ましい。
【0025】
本明細書において、リチウムイオン電池用負極活物質の体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0026】
被覆剤は被覆用樹脂を含むことが好ましく、被覆用樹脂及び導電助剤を含むことがより好ましい。リチウムイオン電池用負極活物質の周囲が被覆用樹脂を含む被覆剤で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0027】
被覆剤に含まれる被覆用樹脂としては、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよいが、例えば、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリサッカロイド(アルギン酸ナトリウム等)及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0028】
これらの中では、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上である被覆用樹脂が好ましい。
【0029】
電解液に浸漬した際の吸液率は、電解液に浸漬する前、浸漬した後の被覆用樹脂の重量を測定して、以下の式で求められる。
吸液率(%)=[(電解液浸漬後の被覆用樹脂の重量−電解液浸漬前の被覆用樹脂の重量)/電解液浸漬前の被覆用樹脂の重量]×100
吸液率を求めるための電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPFを1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液を用いる。
吸液率を求める際の電解液への浸漬は、50℃、3日間行う。50℃、3日間の浸漬を行うことにより被覆用樹脂が飽和吸液状態となる。なお、飽和吸液状態とは、それ以上電解液に浸漬しても被覆用樹脂の重量が増えない状態をいう。
なお、リチウムイオン電池を製造する際に使用する電解液は、上記電解液に限定されるものではなく、他の電解液を使用してもよい。
【0030】
吸液率が10%以上であると、被覆用樹脂が充分に電解液を吸液しており、リチウムイオンが被覆用樹脂を容易に透過することができるため、活物質と電解液の間でのリチウムイオンの移動が妨げられることがない。吸液率が10%未満であると、電解液が被覆用樹脂内に浸透しにくいためにリチウムイオンの伝導性が低くなり、リチウムイオン電池としての性能が充分に発揮されないことがある。
吸液率は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
また、吸液率の好ましい上限値としては、400%であり、より好ましい上限値としては300%である。
【0031】
被覆用樹脂のリチウムイオンの伝導性は、飽和吸液状態とした後の被覆用樹脂の室温での伝導度を交流インピーダンス法で測定することによって求められる。
上記方法で測定されるリチウムイオンの伝導性は、1.0〜10.0mS/cmであることが好ましく、上記範囲であればリチウムイオン電池としての性能が充分に発揮される。
【0032】
飽和吸液状態での引張破断伸び率は、被覆用樹脂をダンベル状に打ち抜き、上記吸液率の測定と同様に電解液への浸漬を50℃、3日間行って被覆用樹脂を飽和吸液状態として、ASTM D683(試験片形状TypeII)に準拠して測定することができる。引張破断伸び率は、引張試験において試験片が破断するまでの伸び率を下記式によって算出した値である。
引張破断伸び率(%)=[(破断時試験片長さ−試験前試験片長さ)/試験前試験片長さ]×100
【0033】
被覆用樹脂の飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であると、被覆用樹脂が適度な柔軟性を有するため、リチウムイオン電池用負極活物質を被覆することにより電極の体積変化を緩和し、電極の膨脹を抑制することができる。
引張破断伸び率は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
また、引張破断伸び率の好ましい上限値としては、400%であり、より好ましい上限値としては300%である。
【0034】
被覆用樹脂としては、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であるビニル樹脂(A)が好ましい。
【0035】
ビニル樹脂(A)は、ビニルモノマー(a)を必須構成単量体とする重合体(A1)を含んでなる樹脂である。
特に、重合体(A1)は、ビニルモノマー(a)としてカルボキシル基又は酸無水物基を有するビニルモノマー(a1)及び下記一般式(1)で表されるビニルモノマー(a2)を含むことが好ましい。
CH=C(R)COOR (1)
[式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数4〜36の分岐アルキル基である。]
【0036】
カルボキシル基又は酸無水物基を有するビニルモノマー(a1)としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸等の炭素数3〜15のモノカルボン酸;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の炭素数4〜24のジカルボン酸;アコニット酸等の炭素数6〜24の3価〜4価又はそれ以上の価数のポリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0037】
上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(a2)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。Rはメチル基であることが好ましい。
は炭素数4〜36の分岐アルキル基であり、Rの具体例としては、1−アルキルアルキル基[1−メチルプロピル基(sec−ブチル基)、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、1−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−メチルデシル基、1−エチルノニル基、1−ブチルエイコシル基、1−ヘキシルオクタデシル基、1−オクチルヘキサデシル基、1−デシルテトラデシル基、1−ウンデシルトリデシル基等]、2−アルキルアルキル基[2−メチルプロピル基(iso−ブチル基)、2−メチルブチル基、2−エチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルペンチル基、2−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルオクチル基、2−エチルヘプチル基、2−メチルノニル基、2−エチルオクチル基、2−メチルデシル基、2−エチルノニル基、2−ヘキシルオクタデシル基、2−オクチルヘキサデシル基、2−デシルテトラデシル基、2−ウンデシルトリデシル基、2−ドデシルヘキサデシル基、2−トリデシルペンタデシル基、2−デシルオクタデシル基、2−テトラデシルオクタデシル基、2−ヘキサデシルオクタデシル基、2−テトラデシルエイコシル基、2−ヘキサデシルエイコシル基等]、3〜34−アルキルアルキル基(3−アルキルアルキル基、4−アルキルアルキル基、5−アルキルアルキル基、32−アルキルアルキル基、33−アルキルアルキル基及び34−アルキルアルキル基等)、並びに、プロピレンオリゴマー(7〜11量体)、エチレン/プロピレン(モル比16/1〜1/11)オリゴマー、イソブチレンオリゴマー(7〜8量体)及びα−オレフィン(炭素数5〜20)オリゴマー(4〜8量体)等から得られるオキソアルコールから水酸基を除いた残基のような1又はそれ以上の分岐アルキル基を含有する混合アルキル基等が挙げられる。
これらのうち、好ましいのは2−アルキルアルキル基であり、より好ましいのは2−エチルヘキシル基及び2−デシルテトラデシル基である。
【0038】
また、重合体(A1)を構成する単量体には、カルボキシル基又は酸無水物基を有するビニルモノマー(a1)及び上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(a2)の他に、活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a3)が含まれていてもよい。
活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a3)としては、下記(a31)〜(a38)が挙げられる。
(a31)炭素数1〜20のモノオールと(メタ)アクリル酸から形成されるハイドロカルビル(メタ)アクリレート
上記モノオールとしては、(i)脂肪族モノオール(メタノール、エタノール、n−又はi−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等)、(ii)脂環式モノオール(シクロヘキシルアルコール等)、(iii)芳香脂肪族モノオール(ベンジルアルコール等)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0039】
(a32)ポリ(n=2〜30)オキシアルキレン(炭素数2〜4)アルキル(炭素数1〜18)エーテル(メタ)アクリレート[メタノールのエチレンオキサイド(以下EOと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート、メタノールのプロピレンオキサイド(以下POと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート等]
【0040】
(a33)窒素含有ビニル化合物
(a33−1)アミド基含有ビニル化合物
(i)炭素数3〜30の(メタ)アクリルアミド化合物、例えばN,N−ジアルキル(炭素数1〜6)又はジアラルキル(炭素数7〜15)(メタ)アクリルアミド(N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジベンジルアクリルアミド等)、ジアセトンアクリルアミド
(ii)上記(メタ)アクリルアミド化合物を除く、炭素数4〜20のアミド基含有ビニル化合物、例えばN−メチル−N−ビニルアセトアミド、環状アミド(ピロリドン化合物(炭素数6〜13、例えば、N−ビニルピロリドン等))
【0041】
(a33−2)(メタ)アクリレート化合物
(i)ジアルキル(炭素数1〜4)アミノアルキル(炭素数1〜4)(メタ)アクリレート[N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート等]
(ii)4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレート{3級アミノ基含有(メタ)アクリレート[N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等]の4級化物(メチルクロライド、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、ジメチルカーボネート等の4級化剤を用いて4級化したもの)等}
【0042】
(a33−3)複素環含有ビニル化合物
ピリジン化合物(炭素数7〜14、例えば2−又は4−ビニルピリジン)、イミダゾール化合物(炭素数5〜12、例えばN−ビニルイミダゾール)、ピロール化合物(炭素数6〜13、例えばN−ビニルピロール)、ピロリドン化合物(炭素数6〜13、例えばN−ビニル−2−ピロリドン)
【0043】
(a33−4)ニトリル基含有ビニル化合物
炭素数3〜15のニトリル基含有ビニル化合物、例えば(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン、シアノアルキル(炭素数1〜4)アクリレート
【0044】
(a33−5)その他の窒素含有ビニル化合物
ニトロ基含有ビニル化合物(炭素数8〜16、例えばニトロスチレン)等
【0045】
(a34)ビニル炭化水素
(a34−1)脂肪族ビニル炭化水素
炭素数2〜18又はそれ以上のオレフィン(エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン等)、炭素数4〜10又はそれ以上のジエン(ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等)等
【0046】
(a34−2)脂環式ビニル炭化水素
炭素数4〜18又はそれ以上の環状不飽和化合物、例えばシクロアルケン(例えばシクロヘキセン)、(ジ)シクロアルカジエン[例えば(ジ)シクロペンタジエン]、テルペン(例えばピネン及びリモネン)、インデン
【0047】
(a34−3)芳香族ビニル炭化水素
炭素数8〜20又はそれ以上の芳香族不飽和化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン
【0048】
(a35)ビニルエステル
脂肪族ビニルエステル[炭素数4〜15、例えば脂肪族カルボン酸(モノ−又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ジアリルアジペート、イソプロペニルアセテート、ビニルメトキシアセテート)]
芳香族ビニルエステル[炭素数9〜20、例えば芳香族カルボン酸(モノ−又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えばビニルベンゾエート、ジアリルフタレート、メチル−4−ビニルベンゾエート)、脂肪族カルボン酸の芳香環含有エステル(例えばアセトキシスチレン)]
【0049】
(a36)ビニルエーテル
脂肪族ビニルエーテル[炭素数3〜15、例えばビニルアルキル(炭素数1〜10)エーテル(ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2−エチルヘキシルエーテル等)、ビニルアルコキシ(炭素数1〜6)アルキル(炭素数1〜4)エーテル(ビニル−2−メトキシエチルエーテル、メトキシブタジエン、3,4−ジヒドロ−1,2−ピラン、2−ブトキシ−2’−ビニロキシジエチルエーテル、ビニル−2−エチルメルカプトエチルエーテル等)、ポリ(2〜4)(メタ)アリロキシアルカン(炭素数2〜6)(ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシブタン、テトラメタアリロキシエタン等)]
芳香族ビニルエーテル(炭素数8〜20、例えばビニルフェニルエーテル、フェノキシスチレン)
【0050】
(a37)ビニルケトン
脂肪族ビニルケトン(炭素数4〜25、例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン)
芳香族ビニルケトン(炭素数9〜21、例えばビニルフェニルケトン)
【0051】
(a38)不飽和ジカルボン酸ジエステル
炭素数4〜34の不飽和ジカルボン酸ジエステル、例えばジアルキルフマレート(2個のアルキル基は、炭素数1〜22の、直鎖、分岐鎖又は脂環式の基)、ジアルキルマレエート(2個のアルキル基は、炭素数1〜22の、直鎖、分岐鎖又は脂環式の基)
【0052】
上記(a3)として例示したもののうち耐電圧の観点から好ましいのは、(a31)、(a32)及び(a33)であり、より好ましいのは、(a31)のうちのメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートである。
【0053】
重合体(A1)において、カルボキシル基又は酸無水物基を有するビニルモノマー(a1)、上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(a2)及び活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a3)の含有量は、重合体(A1)の重量を基準として、(a1)が0.1〜80重量%、(a2)が0.1〜99.9重量%、(a3)が0〜99.8重量%であることが好ましい。
モノマーの含有量が上記範囲内であると、電解液への吸液性が良好となる。
より好ましい含有量は、(a1)が15〜60重量%、(a2)が5〜60重量%、(a3)が5〜80重量%であり、さらに好ましい含有量は、(a1)が25〜50重量%、(a2)が15〜45重量%、(a3)が20〜60重量%である。
【0054】
重合体(A1)の数平均分子量の好ましい下限は3,000、より好ましくは50,000、さらに好ましくは100,000、特に好ましくは200,000であり、好ましい上限は2,000,000、より好ましくは1,500,000、さらに好ましくは1,000,000、特に好ましくは800,000である。
【0055】
重合体(A1)の数平均分子量は、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略記)測定により求めることができる。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン
標準物質:ポリスチレン
検出器:RI
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED−B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0056】
重合体(A1)の溶解度パラメータ(以下、SP値と略記する)は9.0〜20.0(cal/cm1/2であることが好ましい。重合体(A1)のSP値は10.0〜18.0(cal/cm1/2であることがより好ましく、11.5〜14.0(cal/cm1/2であることがさらに好ましい。重合体(A1)のSP値が9.0〜20.0(cal/cm1/2であると、電解液の吸液の点で好ましい。
SP値は、Fedors法によって計算される。SP値は、次式で表せる。
SP値(δ)=(ΔH/V)1/2
但し、式中、ΔHはモル蒸発熱(cal)を、Vはモル体積(cm)を表す。
また、ΔH及びVは、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,1974,Vol.14,No.2,ROBERT F.FEDORS.(151〜153頁)」に記載の原子団のモル蒸発熱の合計(ΔH)とモル体積の合計(V)を用いることができる。
SP値は、この数値が近いもの同士はお互いに混ざりやすく(相溶性が高い)、この数値が離れているものは混ざりにくいことを表す指標である。
【0057】
また、重合体(A1)のガラス転移点[以下Tgと略記、測定法:DSC(走査型示差熱分析)法]は、電池の耐熱性の観点から好ましくは80〜200℃、より好ましくは90〜180℃、さらに好ましくは100〜150℃である。
【0058】
重合体(A1)は、公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)により製造することができる。
重合に際しては、公知の重合開始剤{アゾ系開始剤[2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル等)]、パーオキサイド系開始剤(ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等))等}を使用して行なうことができる。
重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜2重量%、さらに好ましくは0.1〜1.5重量%である。
【0059】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、例えばエステル(炭素数2〜8、例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル)、アルコール(炭素数1〜8、例えばメタノール、エタノール及びオクタノール)、炭化水素(炭素数4〜8、例えばn−ブタン、シクロヘキサン及びトルエン)及びケトン(炭素数3〜9、例えばメチルエチルケトン)が挙げられ、使用量はモノマーの合計重量に基づいて通常5〜900%、好ましくは10〜400%、より好ましくは30〜300重量%であり、モノマー濃度としては、通常10〜95重量%、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%である。
【0060】
乳化重合及び懸濁重合における分散媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル(例えばプロピオン酸エチル)、軽ナフサ等が挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10〜24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10〜24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノメチル等が挙げられる。さらに安定剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を加えてもよい。
溶液又は分散液のモノマー濃度は通常5〜95重量%、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは15〜85重量%であり、重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン等)及び/又はハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル等)を使用することができる。使用量はモノマーの全重量に基づいて通常2重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下である。
【0061】
また、重合反応における系内温度は通常−5〜150℃、好ましくは30〜120℃、より好ましくは50〜110℃、反応時間は通常0.1〜50時間、好ましくは2〜24時間であり、反応の終点は、未反応単量体の量が使用した単量体全量の通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下となることにより確認できる。
【0062】
ビニル樹脂(A)に含まれる重合体(A1)は、重合体(A1)をポリエポキシ化合物(a’1)及び/又はポリオール化合物(a’2)で架橋してなる架橋重合体であってもよい。
架橋重合体においては、重合体(A1)中のカルボキシル基等の活性水素と反応する反応性官能基を有する架橋剤(A’)を用いて重合体(A1)を架橋することが好ましく、架橋剤(A’)としてポリエポキシ化合物(a’1)及び/又はポリオール化合物(a’2)を用いることが好ましい。
【0063】
ポリエポキシ化合物(a’1)としては、エポキシ当量80〜2,500のもの、例えばグリシジルエーテル[ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ピロガロールトリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール(Mw200〜2,000)ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール(Mw200〜2,000)ジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド1〜20モル付加物のジグリシジルエーテル等];グリシジルエステル(フタル酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル等);グリシジルアミン[N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルキシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルヘキサメチレンジアミン等];脂肪族エポキシド(エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等);脂環式エポキシド(リモネンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等)が挙げられる。
【0064】
ポリオール化合物(a’2)としては、低分子多価アルコール{炭素数2〜20の脂肪族又は脂環式のジオール[エチレングリコール(以下EGと略記)、ジエチレングリコール(以下DEGと略記)、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール(以下14BGと略記)、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等];炭素数8〜15の芳香環含有ジオール[m−又はp−キシリレングリコール、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン等];炭素数3〜8のトリオール(グリセリン、トリメチロールプロパン等);4価以上の多価アルコール[ペンタエリスリトール、α−メチルグルコシド、ソルビトール、キシリット、マンニット、グルコース、フルクトース、ショ糖、ジペンタエリスリトール、ポリグリセリン(重合度2〜20)等]等}、及びこれらのアルキレン(炭素数2〜4)オキサイド付加物(重合度2〜30)等が挙げられる。
【0065】
架橋剤(A’)の使用量は、電解液の吸液の観点から、重合体(A1)中の活性水素含有基と、架橋剤(A’)中の反応性官能基の当量比が好ましくは、1:0.01〜1:2、より好ましくは1:0.02〜1:1となる量である。
【0066】
架橋剤(A’)を用いて重合体(A1)を架橋する方法としては、リチウムイオン電池活物質を重合体(A1)からなる被覆用樹脂で被覆した後に架橋する方法が挙げられる。具体的には、リチウムイオン電池活物質と重合体(A1)を含む樹脂溶液を混合し脱溶剤することにより、リチウムイオン電池活物質が樹脂で被覆された被覆活物質を製造した後に、架橋剤(A’)を含む溶液を被覆活物質に混合して加熱することにより、脱溶剤と架橋反応を生じさせて、架橋重合体でリチウムイオン電池活物質を被覆する方法が挙げられる。
加熱温度は、架橋剤としてポリエポキシ化合物(a’1)を用いる場合は70℃以上とすることが好ましく、ポリオール化合物(a’2)を用いる場合は120℃以上とすることが好ましい。
【0067】
被覆用樹脂としては、また、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であるウレタン樹脂(B)が好ましい。
【0068】
ウレタン樹脂(B)は、活性水素成分(b1)及びイソシアネート成分(b2)を反応させて得られる樹脂である。
【0069】
活性水素成分(b1)としては、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0070】
ポリエーテルジオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(以下PEGと略記)、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール、ポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)−ジフェニルプロパン等の低分子グリコールのエチレンオキサイド付加物;数平均分子量2,000以下のPEGと、ジカルボン酸[炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸等)、炭素数8〜15の芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸等)等]の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエーテルエステルジオール;及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
ポリエーテルジオール中にオキシエチレン単位が含まれる場合、オキシエチレン単位の含有量は好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上である。
また、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール(以下PTMGと略記)、ポリオキシプロピレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオール等も挙げられる。
これらのうち、好ましくはPEG、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール及びポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオールであり、より好ましくはPEGである。
また、ポリエーテルジオールを1種のみ用いてもよいし、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。
【0071】
ポリカーボネートジオールとしては、例えばポリヘキサメチレンカーボネートジオールが挙げられる。
【0072】
ポリエステルジオールとしては、低分子ジオール及び/又は数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールと前述のジカルボン酸の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエステルジオールや、炭素数4〜12のラクトンの開環重合により得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。上記低分子ジオールとして上記ポリエーテルジオールの項で例示した低分子グリコール等が挙げられる。上記数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールとしてはポリオキシプロピレングリコール、PTMG等が挙げられる。上記ラクトンとしては、例えばε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン等が挙げられる。該ポリエステルジオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリカプロラクトンジオール及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0073】
また、活性水素成分(b1)は上記ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオールのうちの2種以上の混合物であってもよい。
【0074】
活性水素成分(b1)は数平均分子量2,500〜15,000の高分子ジオール(b11)を必須成分とすることが好ましい。高分子ジオール(b11)としては上述したポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオール等が挙げられる。
高分子ジオール(b11)は、数平均分子量が2,500〜15,000であるとウレタン樹脂(B)の硬さが適度に柔らかく、また、活物質上に形成した被膜の強度が強くなるため好ましい。
また、高分子ジオール(b11)の数平均分子量が3,000〜12,500であることがより好ましく、4,000〜10,000であることがさらに好ましい。
高分子ジオール(b11)の数平均分子量は、高分子ジオールの水酸基価から算出することができる。
また、水酸基価は、JIS K1557−1の記載に準じて測定できる。
【0075】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500〜15,000の高分子ジオール(b11)を必須成分とし、上記高分子ジオール(b11)の溶解度パラメータ(SP値)が8.0〜12.0(cal/cm1/2であることが好ましい。高分子ジオール(b11)のSP値は8.5〜11.5(cal/cm1/2であることがより好ましく、9.0〜11.0(cal/cm1/2であることがさらに好ましい。高分子ジオール(b11)のSP値が8.0〜12.0(cal/cm1/2であると、ウレタン樹脂(B)の電解液の吸液の点で好ましい。
【0076】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500〜15,000の高分子ジオール(b11)を必須成分とし、上記高分子ジオール(b11)の含有量が上記ウレタン樹脂(B)の重量を基準として20〜80重量%であることが好ましい。高分子ジオール(b11)の含有量は30〜70重量%であることがより好ましく、40〜65重量%であることがさらに好ましい。
高分子ジオール(b11)の含有量が20〜80重量%であると、ウレタン樹脂(B)の電解液の吸液の点で好ましい。
【0077】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500〜15,000の高分子ジオール(b11)及び鎖伸長剤(b13)を必須成分とすることが好ましい。
鎖伸長剤(b13)としては、例えば炭素数2〜10の低分子ジオール(例えばEG、プロピレングリコール、14BG、DEG、1,6−ヘキサメチレングリコール等);ジアミン類[炭素数2〜6の脂肪族ジアミン(例えばエチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン等)、炭素数6〜15の脂環式ジアミン(例えばイソホロンジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等)、炭素数6〜15の芳香族ジアミン(例えば4,4’−ジアミノジフェニルメタン等)等];モノアルカノールアミン(例えばモノエタノールアミン等);ヒドラジン又はその誘導体(例えばアジピン酸ジヒドラジド等)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは低分子ジオールであり、さらに好ましいものはEG、DEG及び14BGである。
高分子ジオール(b11)及び鎖伸長剤(b13)の組み合わせとしては、高分子ジオール(b11)としてのPEGと鎖伸長剤(b13)としてのEGの組み合わせ、又は、高分子ジオール(b11)としてのポリカーボネートジオールと鎖伸長剤(b13)としてのEGの組み合わせが好ましい。
【0078】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500〜15,000の高分子ジオール(b11)、上記高分子ジオール(b11)以外のジオール(b12)及び鎖伸長剤(b13)を含み、(b11)と(b12)との当量比[(b11)/(b12)]が10/1〜30/1であり、(b11)と(b12)及び(b13)の合計当量との当量比{(b11)/[(b12)+(b13)]}が0.9/1〜1.1/1であることが好ましい。
なお、(b11)と(b12)との当量比[(b11)/(b12)]はより好ましくは13/1〜25/1であり、さらに好ましくは15/1〜20/1である。
【0079】
高分子ジオール(b11)以外のジオール(b12)としては、ジオールであって上述した高分子ジオール(b11)に含まれず、鎖伸長剤(b13)の炭素数2〜10の低分子ジオールに含まれないものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、数平均分子量が2,500未満のジオール、及び、数平均分子量が15,000を超えるジオールが挙げられる。
ジオールの種類としては、上述したポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオール等が挙げられる。
【0080】
イソシアネート成分(b2)としては、従来ポリウレタン製造に使用されているものが使用できる。このようなイソシアネートには、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6〜20の芳香族ジイソシアネート、炭素数2〜18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体等)及びこれらの2種以上の混合物が含まれる。
【0081】
上記芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、ジフェニルメタンジイソシアネートをMDIと略記)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0082】
上記脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等が挙げられる。
【0083】
上記脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−又は2,6−ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0084】
上記芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m−又はp−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0085】
これらのうち好ましいものは芳香族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートであり、より好ましいものは芳香族ジイソシアネートであり、さらに好ましいのはMDIである。
【0086】
ウレタン樹脂(B)が高分子ジオール(b11)及びイソシアネート成分(b2)を含む場合、好ましい(b2)/(b11)の当量比は10/1〜30/1であり、より好ましくは11/1〜28/1であり、さらに好ましくは15/1〜25/1である。イソシアネート成分(b2)の比率が30当量を超えると硬い被膜となる。
また、ウレタン樹脂(B)が高分子ジオール(b11)、鎖伸長剤(b13)及びイソシアネート成分(b2)を含む場合、(b2)/[(b11)+(b13)]の当量比は通常0.9/1〜1.1/1、好ましくは0.95/1〜1.05/1である。この範囲外の場合ではウレタン樹脂が充分に高分子量にならないことがある。
【0087】
ウレタン樹脂(B)の数平均分子量は、40,000〜500,000であることが好ましく、より好ましくは50,000〜400,000であり、さらに好ましくは60,000〜300,000である。ウレタン樹脂(B)の数平均分子量が40,000未満では被膜の強度が低くなり、500,000を超えると溶液粘度が高くなって、均一な被膜が得られないことがある。
【0088】
ウレタン樹脂(B)の数平均分子量は、ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記)を溶剤として用い、ポリオキシプロピレングリコールを標準物質としてGPCにより測定される。サンプル濃度は0.25重量%、カラム固定相はTSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000(いずれも東ソー株式会社製)を各1本連結したもの、カラム温度は40℃とすればよい。
【0089】
ウレタン樹脂(B)は活性水素成分(b1)とイソシアネート成分(b2)を反応させて製造することができる。
例えば、活性水素成分(b1)として高分子ジオール(b11)と鎖伸長剤(b13)を用い、イソシアネート成分(b2)と高分子ジオール(b11)と鎖伸長剤(b13)とを同時に反応させるワンショット法や、高分子ジオール(b11)とイソシアネート成分(b2)とを先に反応させた後に鎖伸長剤(b13)を続けて反応させるプレポリマー法が挙げられる。
また、ウレタン樹脂(B)の製造は、イソシアネート基に対して不活性な溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。溶媒の存在下で行う場合の適当な溶媒としては、アミド系溶媒[DMF、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略記)等]、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシド等)、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、芳香族系溶媒(トルエン、キシレン等)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものはアミド系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒及びこれらの2種以上の混合物である。
【0090】
ウレタン樹脂(B)の製造に際し、反応温度はウレタン化反応に通常採用される温度と同じでよく、溶媒を使用する場合は通常20〜100℃、無溶媒の場合は通常20〜220℃である。
【0091】
反応を促進させるために必要により、ポリウレタン反応に通常使用される触媒[例えばアミン系触媒(トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等)、錫系触媒(ジブチルチンジラウレート等)]を使用することができる。
【0092】
また、必要により重合停止剤[例えば1価アルコール(エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、1価アミン(ジメチルアミン、ジブチルアミン等)等]を用いることもできる。
【0093】
ウレタン樹脂(B)の製造は当該業界において通常採用されている製造装置で行うことができる。また溶媒を使用しない場合はニーダーやエクストルーダー等の製造装置を用いることができる。このようにして製造されるウレタン樹脂(B)は、30重量%(固形分)DMF溶液として測定した溶液粘度が通常1〜1,000,000mPa・s/20℃であり、実用上好ましいのは1,500〜500,000mPa・s/20℃であり、実用上より好ましいのは5,000〜100,000mPa・s/20℃である。
【0094】
被覆剤に導電助剤が含まれる場合、導電助剤としては、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、金、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0095】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0096】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01〜10μmであることが好ましく、0.02〜5μmであることがより好ましく、0.03〜1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0097】
被覆用樹脂と導電助剤の配合比率は特に限定されるものではないが、重量比率で被覆用樹脂(樹脂固形分重量):導電助剤=1:0.2〜3.0であることが好ましい。
【0098】
被覆剤の導電率は、0.001〜10mS/cmであることが好ましく、0.01〜5mS/cmであることがより好ましい。
被覆剤の導電率は、四端子法によって求めることができる。
被覆剤の導電率が0.001mS/cm以上であることで、活物質への電子抵抗が高くなく、充放電が可能となる。
【0099】
被覆剤の導電率が0.001〜10mS/cmである場合、被覆剤は、被覆用樹脂及び導電助剤を含むことが好ましいが、導電化処理された被覆剤であってもよい。
導電化処理された被覆剤としては、金属膜等が挙げられる。
金属膜を形成する方法としては、金属めっき処理、蒸着処理、スパッタリング処理等が挙げられる。
【0100】
以下、上述した本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法について説明する。
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質の製造方法は、粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆されてなる被覆負極活物質を準備する工程と、上記被覆負極活物質と分散媒とを混合し、原料スラリーを得る工程と、上記原料スラリー中の上記被覆負極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープする工程とを含むことを特徴とする。
【0101】
(1)まず、粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆されてなる被覆負極活物質を準備する。
被覆負極活物質は、例えば、リチウムイオン電池用負極活物質の粒子を万能混合機に入れて30〜500rpmで撹拌した状態で、被覆用樹脂を含む樹脂溶液を1〜90分かけて滴下混合し、さらに必要に応じて導電助剤を混合し、撹拌したまま50〜200℃に昇温し、0.007〜0.04MPaまで減圧した後に10〜150分保持することにより得ることができる。
【0102】
リチウムイオン電池用負極活物質、被覆剤(被覆用樹脂、導電助剤)の種類等については、本発明のリチウムイオン電池用被覆活物質で説明したとおりであるので、その詳細な説明を省略する。
【0103】
(2)次に、被覆負極活物質と分散媒とを混合し、原料スラリーを得る。必要により、導電助剤を加えてもよい。導電助剤としては、被覆剤に含まれる導電助剤と同じものを用いることができる。
このとき、粒子状の被覆負極活物質を、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされていない状態で分散媒中に分散させる。
【0104】
原料スラリーを得る際、粒子状の被覆負極活物質を、分散媒の重量に基づいて30〜90重量%の濃度で分散させることが好ましく、50〜80重量%の濃度で分散させることがより好ましい。
【0105】
混合法は特に限定されないが、例えば、攪拌式、振とう式及び回転式等の混合機を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル及び遊星式混合機等の分散混合機を使用した方法も挙げられる。
【0106】
原料スラリーに含まれる分散媒としては、電解液、非水溶媒等が挙げられる。
これらの中では、電解液が好ましい。すなわち、原料スラリーは、粒子状の被覆負極活物質及び電解液を含む電解液スラリーであることが好ましい。
【0107】
電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する電解液を使用することができる。
【0108】
電解液に含有される電解質としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiPFである。
【0109】
電解液に含有される非水溶媒としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0110】
非水溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステルであり、より好ましいのはラクトン化合物、環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルであり、さらに好ましいのは環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液である。特に好ましいのはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0111】
原料スラリーに含まれる分散媒として使用する非水溶媒も、電解液に含有される非水溶媒と同じものを使用することができる。非水溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【0112】
(3)続いて、原料スラリー中の被覆負極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープする。
【0113】
リチウム及び/又はリチウムイオンをドープする方法は特に限定されないが、例えば、原料スラリーを用いて予備充電用負極を作製し、予備充電用負極と予備充電用正極とを備える予備充電用電池を作製した後、予備充電用電池に対して予備充電を行う方法や、原料スラリー中の被覆負極活物質にリチウム源及び/又はリチウムイオン源を接触させてドープする方法等が挙げられる。
まず、予備充電用電池に対して予備充電を行う方法の一例について、以下の(3−1)〜(3−3)で説明する。
【0114】
(3−1−a)予備充電用負極を作製する方法の例としては、原料スラリーを膜の上に塗布し、加圧又は減圧して、被覆負極活物質を膜の上に定着させることにより、予備充電用負極を作製する方法が挙げられる。
【0115】
図1(a)には膜上に原料スラリーを塗布した様子を模式的に示しており、膜470上に、負極活物質粒子24が被覆剤25で被覆された被覆負極活物質20を含む原料スラリーが塗布されている。原料スラリーには導電助剤26が含まれている。また、被覆剤25にも導電助剤26が含まれていてもよい。
膜としては、その後の加圧又は減圧において被覆負極活物質と分散媒とを分離できるものが好ましい。また、膜が導電性の高い材料(導電性材料)からなると、集電体の代わりに膜を用いることができ、また、集電体と膜を接触させても導電性が阻害されないため好ましい。例えば、電気伝導度が100mS/cm以上である材料を好適に用いることができる。
このような特性を有する材料の例としては、炭素繊維等の導電性繊維を配合した濾紙、金属メッシュ等が挙げられる。
金属メッシュとしては、ステンレス製メッシュを用いることが好ましく、例えばSUS316製の綾畳織金網(サンネット工業製)等が挙げられる。金属メッシュの目開きは、活物質粒子及び導電部材が通過しない程度とすることが好ましく、例えば2300メッシュのものを用いることが好ましい。
【0116】
原料スラリーは、バーコーター、刷毛等の任意の塗工装置を用いて膜の上に塗布することができる。
【0117】
続いて、加圧又は減圧して被覆負極活物質を膜の上に定着させる。
加圧操作の方法としては、原料スラリーの塗布面の上からプレス機を用いてプレスする方法が挙げられる。また、減圧操作の方法としては、膜に原料スラリーが塗布されていない側の面に濾紙やメッシュ等を当てて、真空ポンプにより吸引する方法が挙げられる。加圧又は減圧により原料スラリーから分散媒が除去されて、負極活物質が膜の上に定着される。
図1(b)には、被覆負極活物質20が膜470上で定着されてなる予備充電用負極210を示している。
【0118】
上述のとおり、膜が導電性材料からなるとき、膜は集電体として使用することができ、また、集電体と膜を接触させて1つの集電体として機能させることもできる。
また、膜が導電性を有さない材料であるときは、膜をセパレータ側に配置するようにするとよい。また、膜をセパレータとしてもよい。導電性を有さない材料からなる膜の例としては、アラミドセパレータ(日本バイリーン株式会社製)等が挙げられる。
【0119】
分散媒が電解液である場合、膜が被覆負極活物質を透過させず電解液を透過させる膜であり、加圧又は減圧して電解液を膜を透過させて除去してもよい。
【0120】
また、加圧又は減圧の後、原料スラリーをさらに強い圧力で加圧してもよい。
この工程(プレス工程ともいう)は、前述の加圧又は減圧工程よりも、さらに圧力差を大きくして負極活物質の密度を向上させる工程である。プレス工程は、減圧工程の後に加圧するという態様と、加圧工程の後に加圧する圧力をさらに高くするという態様の両方を含む。
【0121】
さらに、膜の上に定着された予備充電用負極を、集電体又はセパレータの主面に転写する工程を行ってもよい。
この場合、予備充電用負極の主面のうち、膜と反対側の主面を集電体又はセパレータの主面に接触させて転写することが好ましい。
【0122】
膜が導電性材料からなり、集電体の代わりに膜を用いる場合、膜と反対側の主面をセパレータの主面に接触させて転写させることが好ましい。また、膜を集電体として用いない場合は、転写後に、膜を剥離する工程を行うことが好ましい。
【0123】
(3−1−b)予備充電用負極の作製は、下記の方法により行うこともできる。
すなわち、原料スラリーを集電体上に塗布して集電体上にスラリー層を形成する工程と、
上記スラリー層の上にセパレータを載置して、セパレータの上面側から吸液して、被覆負極活物質を上記集電体と上記セパレータの間に定着する工程とを含むことを特徴とする方法である。
【0124】
図2(a)、図2(b)及び図2(c)は、被覆負極活物質を集電体とセパレータの間に定着する工程を模式的に示す工程図である。
【0125】
まず、被覆負極活物質を含むスラリーを、集電体上に塗布してスラリー層を形成する。
集電体としては、アルミ、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。
スラリーとしては、上記(2)で説明した原料スラリーと同様のスラリーを用いることができる。スラリーにさらに導電部材としての導電性繊維を加えてスラリー中に導電性繊維を分散させてもよい。
スラリーは、電解液を含む電解液スラリーであることが好ましい。電解液としては上述した電解液スラリーと同様のものを用いることができる。また、スラリーは溶剤を含む溶剤スラリーであってもよい。
【0126】
スラリーは集電体上にバーコーター、刷毛等の任意の塗工装置を用いて塗布することができる。
図2(a)には集電体50上にスラリーを塗布してスラリー層225を形成した様子を模式的に示しており、集電体50上に、負極活物質粒子24が被覆剤25で被覆された被覆負極活物質20を含むスラリーが塗布されており、スラリー層225が形成されている。
図2(a)に示す形態では、負極活物質粒子24の周囲が被覆剤25で被覆されて被覆負極活物質20となっており、スラリーには導電助剤26が含まれている。また、被覆剤25にも導電助剤26が含まれていてもよい。
【0127】
続いて、スラリー層の上にセパレータを載置して、セパレータの上面側から吸液して、被覆負極活物質を集電体とセパレータの間に定着する。まず、図2(b)に示すように、スラリー層225の上にセパレータ30を載置する。そして、セパレータ30の上面側から吸液する。
セパレータとしては、アラミドセパレータ(日本バイリーン株式会社製)、ポリエチレン、ポリプロピレン製フィルムの微多孔膜、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等が挙げられる。
【0128】
吸液は、セパレータの上面側又は下面側から加圧してセパレータの上面から浸み出した液体を吸液することにより行ってもよく、また、セパレータの上面側から減圧して液体を吸引することにより行ってもよい。さらに、セパレータの上面に吸液性材料を置くことでセパレータの上面側からの吸液を行ってもよい。
吸液性材料としては、タオル等の吸液性布、紙、吸液性樹脂等を使用することができる。
吸液によりスラリーから電解液又は溶剤が除去されて、被覆負極活物質が集電体とセパレータの間に定着されて、流動しない程度に緩くその形状が維持された状態となる。
加圧の方法は特に限定されないが、種々の方法で実施できる。たとえば、公知のプレス機を用いる方法及び重量物等を重りとして載置して加圧する方法が挙げられ、加圧は超音波振動機等で加振しながら行っても良い。セパレータの上面側又は下面側から加圧する場合の圧力は、0.8〜41kg/cmが好ましく、0.9〜10kg/cmがより好ましい。圧力がこの範囲にあると電池をより高容量化でき好ましい。
【0129】
図2(c)には、被覆負極活物質20が集電体50とセパレータ30の間に定着されてなる予備充電用負極220を示している。
予備充電用負極220においては、予備充電用負極の第1主面221がセパレータ30と接しており、予備充電用負極の第2主面222が集電体50と接している。
このような予備充電用負極の製造方法であると、電極がセパレータと集電体で挟まれた状態で製造される。そのため、電極の両側にセパレータと集電体を配置する工程を別途行う必要がなく、双極型電極として好ましい形態の電極が少ない工程で得られるため好ましい。
【0130】
(3−2)次に、予備充電用負極と予備充電用正極とを備える予備充電用電池を作製する。
例えば、予備充電用負極を、対極となる予備充電用正極を組み合わせて、セパレータとともにセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することで予備充電用電池を得ることができる。また、集電体の一方の面に予備充電用正極を形成し、もう一方の面に予備充電用負極を形成して双極型電極を作製し、双極型電極をセパレータと積層してセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することでも予備充電用電池を得ることができる。
【0131】
予備充電用正極としては、正極活物質を有する正極及び金属リチウム極を用いることができるが、正極活物質は高価であることから、金属リチウム極を用いることが好ましい。
【0132】
正極活物質を有する正極を用いる場合、正極活物質を有する正極は、バインダ(結着剤)を用いて正極活物質を集電体に塗布して乾燥させることにより作製することができる。
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物(例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO及びLiMn)、リチウムと遷移金属とのリン酸塩(例えばLiFePO)等が挙げられる。
バインダとしては、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレン等の高分子化合物が挙げられる。
集電体としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。
【0133】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン製フィルムの微多孔膜、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等が挙げられる。
【0134】
電解液としては、原料スラリーに含まれる電解液として上述した電解液を使用することができる。
【0135】
(3−3)予備充電用電池に対して予備充電を行う。
これにより、被覆負極活物質にリチウム及び/又はリチウムイオンをドープすることができる。
予備充電の方法は特に限定されないが、予備充電用電池に対して1サイクルの充放電を行う方法が好ましい。
【0136】
また、原料スラリー中の被覆負極活物質にリチウム源及び/又はリチウムイオン源を接触させてドープする方法としては、被覆負極活物質とリチウム金属を混練混合することによって行う方法が挙げられる。
被覆負極活物質とリチウム金属を混練混合する際には、溶媒として、通常の電解液に用いられている溶媒を使用することができ、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、被覆負極活物質とリチウム金属を混練混合するための装置としては、実験的には乳鉢等、製造ではロール混練機、プラネタリーミキサー、自公転ミキサー等を用いることができる。また、ボールを用いたボールミル、遊星型ボールミル、ビーズミル等の混練混合機、あるいは、自公転ミキサーにボールを入れ、混練混合することも可能である。
【0137】
上記の方法により、粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆され、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされてなるリチウムイオン電池用被覆負極活物質を製造することができる。
なお、後述するように、製造されたリチウムイオン電池用被覆負極活物質を用いてリチウムイオン電池用負極を作製する場合、予備充電用電池を解体する必要がある。
【0138】
また、上記の方法により、粒子状のリチウムイオン電池用負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆剤で被覆され、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされてなるリチウムイオン電池用被覆負極活物質と分散媒とを含むリチウムイオン電池用スラリーが得られると考えることもできる。このようなリチウムイオン電池用スラリーも本発明の1つである。
【0139】
本発明のリチウムイオン電池用スラリーは、上記リチウムイオン電池用被覆負極活物質及び分散媒の他、導電助剤等が含まれていてもよい。
導電助剤としては、被覆剤に含まれるもの導電助剤と同じものを用いることができる。
【0140】
本発明のリチウムイオン電池用スラリーにおいて、上記リチウムイオン電池用被覆負極活物質は、リチウムイオン電池用スラリー全体の重量に対して25〜80重量%含まれていることが好ましく、40〜65重量%含まれていることがより好ましい。
また、本発明のリチウムイオン電池用スラリーにおいて、分散媒は、リチウムイオン電池用スラリー全体の重量に対して20〜75重量%含まれていることが好ましく、35〜60重量%含まれていることがより好ましい。
【0141】
[リチウムイオン電池用負極]
本発明のリチウムイオン電池用負極は、上述した本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質を有することを特徴とする。
【0142】
本発明のリチウムイオン電池用負極を作製する方法は特に限定されないが、例えば、本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質を上述の方法で製造した場合、予備充電用電池を解体してリチウムイオン電池用被覆負極活物質を取り出し、バインダを用いて上記被覆負極活物質を集電体に塗布して乾燥させることにより作製することができる。この際、水分が存在しない条件下(例えばグローブボックス内)でリチウムイオン電池用被覆負極活物質を取り出すことが好ましい。
バインダ及び集電体としては、予備充電用正極を作製する際に使用するものと同じものを使用することができる。
【0143】
また、予備充電用電池を解体して取り外した予備充電用負極を本発明のリチウムイオン電池用負極として使用することもできる。
さらに、予備充電用電池を解体して予備充電用負極を取り外した後、予備充電用負極に定着したスラリーに分散媒を加えて再びスラリー化し、予備充電用負極を作製する方法と同様の方法により本発明のリチウムイオン電池用負極を作製することもできる。この場合、得られたスラリーを原料スラリーとして、予備充電用負極を作製する方法の例として示した(3−1−a)の方法又は(3−1−b)の方法に基づき、原料スラリーを膜又は集電体の上に塗布し、(3−1−b)の方法の場合はセパレータをさらに載置して、加圧又は減圧して、リチウムイオン電池用負極活物質を膜又は集電体の上に定着させることにより、本発明のリチウムイオン電池用負極を作製することができる。
使用する分散媒や膜の種類、加圧・減圧操作の方法等については、予備充電用負極を作製する場合と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0144】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池は、上述した本発明のリチウムイオン電池用負極を用いたことを特徴とする。
【0145】
本発明のリチウムイオン電池を作製する方法は特に限定されないが、例えば、本発明のリチウムイオン電池用負極とリチウムイオン電池用正極を組み合わせて、セパレータとともにセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することで得ることができる。また、集電体の一方の面に本発明のリチウムイオン電池用負極を形成し、もう一方の面にリチウムイオン電池用正極を形成して双極型電極を作製し、双極型電極をセパレータと積層してセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することでも得ることができる。
【0146】
リチウムイオン電池用正極としては、正極活物質を有する正極を用いることができる。正極活物質を有する正極は、バインダを用いて正極活物質を集電体に塗布して乾燥させることにより作製することができる。
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物(例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO及びLiMn)、リチウムと遷移金属とのリン酸塩(例えばLiFePO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられる。
バインダ及び集電体としては、予備充電用正極を作製する際に使用するものと同じものを使用することができる。
【0147】
セパレータ及び電解液としては、予備充電用電池を作製する際に使用するものと同じものを使用することができる。
【0148】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン電池は、リチウムイオン二次電池として使用することができる。本発明のリチウムイオン電池は本発明のリチウムイオン電池用スラリーに含まれるリチウムイオンを有する負極を備えるため、不可逆容量を小さくすることができる。
すなわち、上述した本発明のリチウムイオン電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池であって、不可逆容量が0.1〜50mAh/gであることを特徴とするリチウムイオン二次電池もまた、本発明の1つである。
【0149】
本発明のリチウムイオン二次電池において、不可逆容量は好ましくは0.1〜50mAh/gであり、より好ましくは0.5〜35mAh/gである。
リチウムイオン二次電池の不可逆容量は、実施例に記載する方法で充放電を行い、充放電の1サイクル目の充電容量から放電容量を差し引くことにより求めることができる。なお、上記の不可逆容量は、活物質の重量当たりの不可逆容量である。
【実施例】
【0150】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0151】
<実施例1>
[被覆用樹脂溶液の作製]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコに、酢酸エチル83部とメタノール17部とを仕込み68℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2−エチルヘキシルメタクリレート242.8部、酢酸エチル52.1部及びメタノール10.7部を配合したモノマー配合液と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.263部を酢酸エチル34.2部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで4時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.583部を酢酸エチル26部に溶解した開始剤溶液を滴下ロートを用いて2時間かけて連続的に追加した。さらに、沸点で重合を4時間継続した。溶媒を除去し、樹脂582部を得た後、イソプロパノールを1,360部加えて、樹脂固形分濃度30重量%で被覆用樹脂Aを含む被覆用樹脂溶液ASを得た。
【0152】
[被覆負極活物質粒子の作製]
難黒鉛化性炭素[(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製 カーボトロン(登録商標)PS(F)]90重量部を万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、上記被覆用樹脂溶液AS(樹脂固形分濃度30重量%)を樹脂固形分として5重量部になるように60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。
次いで、撹拌した状態でアセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]5重量部を3回に分けて混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持した。上記操作により被覆負極活物質粒子PAを得た。
【0153】
[電解液の作製]
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(体積比率1:1)に、LiPFを1mol/Lの割合で溶解させてリチウムイオン電池用電解液を作製した。
【0154】
[被覆用樹脂の吸液率の測定]
作製したビニル樹脂からなる被覆用樹脂溶液ASを、室温、大気圧下で乾燥させた後、重量を測定した。得られた乾燥被膜を前記の電解液に、50℃で3日間浸漬した。その後、被膜を取り出して表面に付着した電解液をガーゼで軽くふき取って重量を測定した。浸漬前後の重量変化から被覆用樹脂Aの吸液率は20%であった。
【0155】
[吸液した被覆用樹脂の引張破断伸び率の測定]
被覆用樹脂の吸液率の測定と同じ条件で電解液に浸漬した被覆用樹脂Aをダンベル状に打ち抜き、引張破断伸び率を測定したところ、20%であった。
【0156】
[リチウムイオン電池用正極の作製]
正極活物質粒子としてのLiFePO粉末(中国製 SLFP−ES01)85重量部、アセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]10重量部を、ポリフッ化ビニリデン(シグマアルドリッチ社製)5重量部を含むN−メチルピロリドン(以下、NMP)溶液と混合して溶剤スラリーを作製した。
上記溶剤スラリーを、大気中でコーターを用いて厚さ20μmのアルミニウム電解箔上の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥させてリチウムイオン電池用正極を作製した。乾燥前後における重量変化量から、目付量は10.5mg/cmであった。
【0157】
[リチウムイオン電池用被覆負極活物質の作製]
負極活物質粒子としての被覆負極活物質粒子PA100重量部を、電解液に対する含有量が55重量%となるように上記電解液と混合して、遊星式混合機で撹拌することにより、原料スラリー1を作製した。
【0158】
膜としてアラミドセパレータ(日本バイリーン株式会社製)を準備し、上記アラミドセパレータに原料スラリー1を塗布し、吸引濾過(減圧)するとともに圧力1.5kg/cmで加圧することにより、被覆負極活物質粒子PAをアラミドセパレータ上に定着させて予備充電用負極1を作製した。
【0159】
作製した予備充電用負極1を、φ15mmに打ち抜き、φ15mmのLi金属からなる予備充電用正極と共に2032型コインセル内の両端に配置した。
負極側の集電体としては厚さ20μmの銅箔を用い、予備充電用負極のアラミドセパレータをセパレータ側(正極側)に配置した。
電極間にセパレータ(セルガード3501)を2枚挿入し、予備充電用セルを作製した。セルに上記電解液を注液密封し、予備充電用電池1を作製した。
【0160】
室温下、充放電測定装置「HJ0501SM8A」[北斗電工(株)製]を用いて、電流0.1C、下限電位0VでCC−CV充電し、10分間の休止後、電流0.1C、上限電位1.5VでCC放電することにより予備充電を行った。
【0161】
予備充電用電池1を解体し、予備充電用正極及びセパレータを取り外した。アラミドセパレータ上には、被覆負極活物質粒子PAにリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされたリチウムイオン電池用被覆負極活物質HCA及び電解液を含むペースト状のスラリーが付着していた。
【0162】
予備充電用電池1から取り外したアラミドセパレータ上のスラリーにDECを加えてスラリーを取り出した後、吸引濾過によりスラリーから電解質を除き、さらにDECを乾燥させた。これにより、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされてなるリチウムイオン電池用被覆負極活物質HCAを得た。
【0163】
得られたリチウムイオン電池用被覆負極活物質HCAの体積平均粒子径(体積値50%での粒子径;Dv50)を、マイクロトラック(日機装(株)製9320−X100)を用いて測定したところ、12μmであった。
【0164】
[リチウムイオン電池用負極の作製]
得られたリチウムイオン電池用被覆負極活物質HCA90重量部、アセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]5重量部を、水分を除去したポリフッ化ビニリデン(シグマアルドリッチ社製)5重量部を含むN−メチルピロリドン(以下、NMP)溶液と混合して溶剤スラリーを作製した。
上記溶剤スラリーを、アルゴン中でコーターを用いて厚さ20μmの銅箔上の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥させてリチウムイオン電池用負極を作製した。乾燥前後における重量変化量から、目付量は6.0mg/cmであった。
【0165】
[不可逆容量の評価]
作製したリチウムイオン電池用負極を、φ15mmに打ち抜いたリチウムイオン電池用正極と共に2032型コインセル内の両端に集電体がコインセルの外側となるように配置した。
電極間にセパレータ(セルガード3501)を2枚挿入し、さらにセパレータとリチウムイオン電池用負極との間にアラミドセパレータを挿入し、不可逆容量評価用セルを作製した。セルに上記電解液を注液密封し、不可逆容量評価用電池を作製した。
【0166】
室温下、充放電測定装置「HJ0501SM8A」[北斗電工(株)製]を用いて、電流0.1C、上限電位4.0VでCC−CV充電し、10分間の休止後、電流0.1C、下限電位1.5VでCC放電した。その際、充電後の充電容量(mAh/φ15mm)及び放電後の放電容量(mAh/φ15mm)を測定し、充電容量から放電容量を差し引くことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求めた。この不可逆容量から、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0167】
<実施例2>
[リチウムイオン電池用被覆負極活物質の作製]
実施例1と同様に負極活物質粒子としての被覆負極活物質粒子PA100重量部を、電解液に対する含有量が55重量%となるように上記電解液と混合して、遊星式混合機で撹拌することにより、原料スラリー2を作製した。
【0168】
膜としてアラミドセパレータ(日本バイリーン株式会社製)を準備し、上記アラミドセパレータに原料スラリー2を塗布し、吸引濾過(減圧)するとともに圧力1.5kg/cmで加圧することにより、被覆負極活物質粒子PAをアラミドセパレータ上に定着させて予備充電用負極2を作製した。
【0169】
作製した予備充電用負極2を、φ15mmに打ち抜き、φ15mmのLi金属からなる予備充電用正極と共に2032型コインセル内の両端に配置した。
負極側の集電体としては厚さ20μmの銅箔を用い、予備充電用負極2のアラミドセパレータをセパレータ側(正極側)に配置した。
電極間にセパレータ(セルガード3501)を2枚挿入し、予備充電用セルを作製した。セルに上記電解液を注液密封し、予備充電用電池2を作製した。
【0170】
室温下、充放電測定装置「HJ0501SM8A」[北斗電工(株)製]を用いて、電流0.1C、下限電位0VでCC−CV充電し、10分間の休止後、電流0.1C、上限電位1.5VでCC放電することにより予備充電を行った。
【0171】
予備充電用電池2を解体し、予備充電用正極及びセパレータを取り外した。アラミドセパレータ上には、被覆負極活物質粒子PAにリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされたリチウムイオン電池用被覆負極活物質HCA及び電解液を含むペースト状のスラリーが付着していた。
【0172】
[リチウムイオン電池用負極の作製]
予備充電用電池2から取り外したアラミドセパレータ上のスラリーにDECを加えてスラリーを取り出した後、取り出したスラリー(スラリーにはリチウムイオン電池用被覆負極活物質HCA100重量部が含まれる)を用いて、予備充電用負極2と同様に、アラミドセパレータ上に吸引濾過(減圧)することによりリチウムイオン電池用負極を作製した。乾燥前後における重量変化量から、目付量は6.0mg/cmであった。
【0173】
[不可逆容量の評価]
作製したリチウムイオン電池用負極を、φ15mmに打ち抜いたリチウムイオン電池用正極と共に2032型コインセル内の両端に配置した。
負極側の集電体としては厚さ20μmの銅箔を用い、アラミドセパレータをセパレータ側(正極側)に配置した。
電極間にセパレータ(セルガード3501)を2枚挿入し、不可逆容量評価用セルを作製した。セルに上記電解液を注液密封し、不可逆容量評価用電池を作製した。
【0174】
室温下、充放電測定装置「HJ0501SM8A」[北斗電工(株)製]を用いて、電流0.1C、上限電位4.0VでCC−CV充電し、10分間の休止後、電流0.1C、下限電位1.5VでCC放電した。その際、充電後の充電容量(mAh/φ15mm)及び放電後の放電容量(mAh/φ15mm)を測定し、充電容量から放電容量を差し引くことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求めた。この不可逆容量から、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0175】
<実施例3>
[被覆負極活物質粒子の作製]
被覆用樹脂溶液ASを被覆用樹脂としてのアルギン酸ナトリウム(被覆用樹脂B)を含む被覆用樹脂溶液BS(樹脂固形分濃度30重量%)に変えたこと以外は実施例1と同様にして、被覆負極活物質粒子PBを得た。
尚、用いたアルギン酸ナトリウム(被覆用樹脂B)の吸液率は4%、引張破断伸び率は3%であった。
【0176】
[リチウムイオン電池用被覆負極活物質の作製]
被覆負極活物質粒子PAを被覆負極活物質粒子PBに変えたこと以外は実施例2と同様にし、原料スラリー3を作製した。
【0177】
膜としてアラミドセパレータ(日本バイリーン株式会社製)を準備し、上記アラミドセパレータに原料スラリー3を塗布し、吸引濾過(減圧)するとともに圧力1.5kg/cmで加圧することにより、被覆負極活物質粒子PBをアラミドセパレータ上に定着させて予備充電用負極3を作製した。
【0178】
作製した予備充電用負極3を、φ15mmに打ち抜き、φ15mmのLi金属からなる予備充電用正極と共に2032型コインセル内の両端に配置した。
負極側の集電体としては厚さ20μmの銅箔を用い、予備充電用負極3のアラミドセパレータをセパレータ側(正極側)に配置した。
電極間にセパレータ(セルガード3501)を2枚挿入し、予備充電用セルを作製した。セルに上記電解液を注液密封し、予備充電用電池3を作製した。
【0179】
室温下、充放電測定装置「HJ0501SM8A」[北斗電工(株)製]を用いて、電流0.1C、下限電位0VでCC−CV充電し、10分間の休止後、電流0.1C、上限電位1.5VでCC放電することにより予備充電を行った。
【0180】
予備充電用電池3を解体し、予備充電用正極及びセパレータを取り外した。アラミドセパレータ上には、被覆負極活物質粒子PBにリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされたリチウムイオン電池用被覆負極活物質HCB及び電解液を含むペースト状のスラリーが付着していた。
【0181】
[リチウムイオン電池用負極の作製]
予備充電用電池3から取り外したアラミドセパレータ上のスラリーにDECを加えてスラリーを取り出した後、取り出したスラリー(スラリーにはリチウムイオン電池用被覆負極活物質HCB100重量部が含まれる)を用いて、予備充電用負極3と同様に、アラミドセパレータ上に吸引濾過(減圧)することによりリチウムイオン電池用負極を作製した。乾燥前後における重量変化量から、目付量は6.0mg/cmであった。
【0182】
[不可逆容量の評価]
作製したリチウムイオン電池用負極を、φ15mmに打ち抜いたリチウムイオン電池用正極と共に2032型コインセル内の両端に配置した。
負極側の集電体としては厚さ20μmの銅箔を用い、アラミドセパレータをセパレータ側(正極側)に配置した。
電極間にセパレータ(セルガード3501)を2枚挿入し、不可逆容量評価用セルを作製した。セルに上記電解液を注液密封し、不可逆容量評価用電池を作製した。
【0183】
室温下、充放電測定装置「HJ0501SM8A」[北斗電工(株)製]を用いて、電流0.1C、上限電位4.0VでCC−CV充電し、10分間の休止後、電流0.1C、下限電位1.5VでCC放電した。その際、充電後の充電容量(mAh/φ15mm)及び放電後の放電容量(mAh/φ15mm)を測定し、充電容量から放電容量を差し引くことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求めた。この不可逆容量から、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0184】
<比較例1>
負極活物質粒子としての難黒鉛化性炭素[(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製 カーボトロン(登録商標)PS(F)]90重量部、アセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]5重量部を、ポリフッ化ビニリデン(シグマアルドリッチ社製)5重量部を含むN−メチルピロリドン(以下、NMP)溶液と混合して溶剤スラリー1’を作製した。
上記溶剤スラリー1’を、アルゴン中でコーターを用いて厚さ20μmの銅箔上の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥させてリチウムイオン電池用負極を作製した。乾燥前後における重量変化量から、目付量は6.0mg/cmであった。
その後、実施例1と同様に、不可逆容量評価用電池を作製し、実施例1と同じ条件で充放電を行うことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求め、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0185】
<比較例2>
負極活物質粒子としての被覆負極活物質粒子PA90重量部、アセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]5重量部を、ポリフッ化ビニリデン(シグマアルドリッチ社製)5重量部を含むN−メチルピロリドン(以下、NMP)溶液と混合して溶剤スラリー2’を作製した。
上記溶剤スラリー2’を、アルゴン中でコーターを用いて厚さ20μmの銅箔上の片面に塗布し、100℃で15分間乾燥させてリチウムイオン電池用負極を作製した。乾燥前後における重量変化量から、目付量は6.0mg/cmであった。
その後、実施例1と同様に、不可逆容量評価用電池を作製し、実施例1と同じ条件で充放電を行うことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求め、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0186】
<比較例3>
比較例1で作製したリチウムイオン電池用負極を予備充電用負極として、実施例1と同様に予備充電用電池を作製して予備充電を行った。実施例1と同様に、予備充電用電池を解体して、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされている負極活物質粒子を含むスラリーを取り出し、このスラリーを使用してリチウムイオン電池用負極を作製した。作製したリチウムイオン電池用負極を用いて不可逆容量評価用電池を作製し、実施例1と同じ条件で充放電を行うことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求め、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0187】
<比較例4>
負極活物質粒子としての被覆負極活物質粒子PA100重量部を用いて実施例2と同様にアラミドセパレータ上に吸引濾過(減圧)することによりリチウムイオン電池用負極を作製した。乾燥前後における重量変化量から、目付量は6.0mg/cmであった。
その後、実施例2と同様に、不可逆容量評価用電池を作製し、実施例2と同じ条件で充放電を行うことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求め、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0188】
<比較例5>
実施例2の被覆負極活物質粒子PAの代わりに、負極活物質粒子として難黒鉛化性炭素((株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製 カーボトロン(登録商標)PS(F))としてリチウムイオン電池用負極を作製した。その後、実施例2と同様に、不可逆容量評価用電池を作製し、実施例2と同じ条件で充放電を行うことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求め、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0189】
<比較例6>
比較例5で作製したリチウムイオン電池用負極を予備充電用負極として、実施例2と同様に予備充電用電池を作製して予備充電を行った。実施例2と同様に、予備充電用電池を解体して、リチウム及び/又はリチウムイオンがドープされている負極活物質粒子を含むスラリーを取り出し、このスラリーを使用してリチウムイオン電池用負極を作製した。作製したリチウムイオン電池用負極を用いて不可逆容量評価用電池を作製し、実施例2と同じ条件で充放電を行うことにより不可逆容量(mAh/φ15mm)を求め、活物質の重量当たりの不可逆容量(mAh/g)を求めた。
【0190】
【表1】
【0191】
表1に示された結果から、リチウムイオン電池用被覆負極活物質として、実施例1、2、3のように、被覆用樹脂で負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆する処理を行い、且つ、予備充電によってリチウム及び/又はリチウムイオンのドープされているリチウム及び/又はリチウムイオンがドープされた被覆負極活物質を有する負極を用いたリチウムイオン電池では、活物質の重量当たりの不可逆容量を小さくすることができ、充電時間が短い(入力特性が良い)ことがわかる。
一方で、比較例1、2、4、5のように、予備充電をしていないものは不可逆容量が大きくなっている。また、比較例3、6のように、被覆用樹脂で負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆する処理していないものについては、予備充電をすることで、不可逆容量は比較的小さくすることができるが、充電に時間がかかる(入力特性が悪い)ことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられる双極型二次電池用及びリチウムイオン二次電池用等の負極活物質として有用である。
【符号の説明】
【0193】
被覆負極活物質 20
負極活物質粒子 24
被覆剤 25
導電助剤 26
セパレータ 30
集電体 50
予備充電用負極 210
予備充電用負極の第1主面 221
予備充電用負極の第2主面 222
スラリー層 225
膜 470
図1
図2