特許第6178575号(P6178575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6178575金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178575
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/08 20060101AFI20170731BHJP
   C22C 45/02 20060101ALN20170731BHJP
【FI】
   B22F9/08 A
   !C22C45/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-4263(P2013-4263)
(22)【出願日】2013年1月15日
(65)【公開番号】特開2014-136807(P2014-136807A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2016年1月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511053964
【氏名又は名称】ハード工業有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】末永 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山形 琢一
(72)【発明者】
【氏名】伊▲崎▼ 博
(72)【発明者】
【氏名】山形 虎雄
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−271719(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトマイズ法の原理を利用して金属粉末を得るための金属粉末の製造装置であって、
溶融金属または金属線材を供給する供給手段と、
前記供給手段により供給される前記溶融金属または前記金属線材に高温のフレームジェットを噴射するジェットバーナーと、
前記フレームジェットの噴射により得られる溶融金属粉末、または、前記溶融金属粉末を含む前記フレームジェットに向かって冷却媒体としての水を噴射する冷却手段とを、
有することを特徴とする金属粉末の製造装置。
【請求項2】
前記ジェットバーナーは、前記フレームジェットが前記溶融金属または前記金属線材の外周に沿って隙間なく、ほぼ均等なジェット圧で前記溶融金属または前記金属線材に鋭角に衝突するよう、前記溶融金属または前記金属線材の周囲から前記フレームジェットを噴射するよう構成されており、
前記冷却手段は、前記溶融金属または前記金属線材に噴射される前記フレームジェットの外側から前記水を噴射することを特徴とする請求項1に記載の金属粉末の製造装置。
【請求項3】
前記冷却手段は、前記溶融金属粉末を含む前記フレームジェットの外側および/または内側から前記水を噴射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属粉末の製造装置。
【請求項4】
前記冷却手段は、前記水をストレート水流、またはシャワー状の状態で噴射する、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の金属粉末の製造装置。
【請求項5】
アトマイズ法の原理を利用して金属粉末を得るための金属粉末の製造方法であって、溶融金属または金属線材に高温のフレームジェットを噴射し、前記フレームジェットの噴射により得られる溶融金属粉末、または、前記溶融金属粉末を含む前記フレームジェットに向かって冷却媒体としての水を噴射することを特徴とする金属粉末の製造方法。
【請求項6】
前記フレームジェットが前記溶融金属または前記金属線材の外周に沿って隙間なく、ほぼ均等なジェット圧で前記溶融金属または前記金属線材に鋭角に衝突するよう、前記溶融金属または前記金属線材の周囲から前記フレームジェットを噴射し、
前記溶融金属または前記金属線材に噴射される前記フレームジェットの外側から前記水を噴射することを
特徴とする請求項5に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項7】
前記溶融金属粉末を含む前記フレームジェットの外側および/または内側から前記水を噴射することを特徴とする請求項6に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項8】
前記水をストレート水流、またはシャワー状の状態で噴射する、請求項5〜請求項7の何れか1項に記載の金属粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アトマイズ時の冷却速度を上げることにより、アモルファス状態の金属粉末を得る方法として、水を噴射して溶融金属を粉砕する水アトマイズ法(例えば、特許文献1参照)や、ガスアトマイズと高速回転水流を用いた水アトマイズとを併用したSWAP法(例えば、特許文献2または3参照)がある。
【0003】
一方、アトマイズ法の原理を利用し、溶融金属または金属線材に対してフレームジェットを噴射することにより、球状で微細な金属粉末を得るものがある(例えば、特許文献4または5参照)。この方法は、フレームジェットにより微細化された溶融金属粉末を、飛行中に冷却凝固させて球状の金属粉末にするものであり、アモルファス状態の金属粉末が得られるほどに急速冷却するものではない。
【0004】
なお、溶射の分野では、材料粒子を含む火炎に向けて、気体または液体ミスト混合気体を噴射してアモルファス被膜を形成する方法が開発されている(例えば、特許文献6または7参照)。しかしながら、溶射の場合には、材料粒子が金属粉末であるため、原料として溶融金属や金属線材を使用するアトマイズ法とは原理が異なっており、溶射の技術をそのままアトマイズ法に適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−63357号公報
【特許文献2】特開平5−148516号公報
【特許文献3】特開2010−90421号公報
【特許文献4】特開平10−176206号公報
【特許文献5】国際公開WO2012/157733
【特許文献6】特開2008−174784号公報
【特許文献7】特開2010−22895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
急速冷却が可能な特許文献1に記載の水アトマイズ法や、特許文献2および3に記載のSWAP法では、大量の水を使用するため、得られた金属粉末が水と混ざってスラリー状になっており、脱水・乾燥工程が必要となる。このため、脱水乾燥装置を導入するための設備費や、それを運転するためのランニングコストが嵩むという課題があった。また、高速で水を噴射するための高価な高圧ポンプも必要であり、さらに設備費が嵩むという課題があった。また、酸化する可能性が高い粉末については、水中に長くさらされるため酸化が顕著になり、還元工程が必要になることがあるため、対応できる金属には限りがあるという課題もあった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、より低コストで、溶融金属粉末を水を用いた急速冷却機構を利用して乾燥状態の金属粉末を得ることができる金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る金属粉末の製造装置は、アトマイズ法の原理を利用して金属粉末を得るための金属粉末の製造装置であって、溶融金属または金属線材を供給する供給手段と、前記供給手段により供給される前記溶融金属または前記金属線材に高温のフレームジェットを噴射するジェットバーナーと、前記フレームジェットの噴射により得られる溶融金属粉末、または、前記溶融金属粉末を含む前記フレームジェットに向かって冷却媒体としての水を噴射する冷却手段とを、有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る金属粉末の製造方法は、アトマイズ法の原理を利用して金属粉末を得るための金属粉末の製造方法であって、溶融金属または金属線材に高温のフレームジェットを噴射し、前記フレームジェットの噴射により得られる溶融金属粉末、または、前記溶融金属粉末を含む前記フレームジェットに向かって冷却媒体としての水を噴射することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る金属粉末の製造方法は、本発明に係る金属粉末の製造装置により好適に実施することができる。本発明に係る金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法は、フレームジェットの噴射により得られる溶融金属粉末、または、溶融金属粉末を含むフレームジェットに向かって冷却媒体としての水を噴射することにより、溶融金属粉末を急速に冷却することができ、金属粉末を得ることができる。このとき、噴射するの温度や量を調節することにより、アモルファス状態の金属粉末を得ることもできる。また、溶融金属粉末の径が比較的大きくても、噴射するの温度や量を調節することにより、アモルファス状態の金属粉末にすることができる。フレームジェットにより溶融金属を粉砕または金属線材を溶融して粉砕するため、球状の金属粉末を得ることができる。
【0011】
本発明に係る金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法は、溶融金属粉末を冷却した後にが液体として残らないよう、噴射するの温度や量を調節することにより、乾燥した状態の金属粉末を得ることができる。このため、脱水や乾燥の工程が不要であり、その工程に係るコストを削減することができる。また、水アトマイズ法やSWAP法で使用される高圧ポンプも不要であり、その設備費も削減することができる。このように、本発明に係る金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法は、水アトマイズ法やSWAP法と比べて、より低コストで、溶融金属粉末を急速冷却して金属粉末を得ることができる。
【0012】
本発明に係る金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法は、フレームジェットの噴射により得られる溶融金属粉末に向かって、を直接噴射可能であれば、直接噴射することが好ましい。この場合、溶融金属粉末を容易に急速冷却することができ、その冷却速度の制御も容易になる。また、フレームジェットの噴射により得られる溶融金属粉末が、そのままフレームジェットの内部に分布している場合には、その溶融金属粉末を含むフレームジェットに向かってを噴射すればよい。これにより、フレームジェットを冷却して間接的に溶融金属粉末を冷却したり、フレームジェットと共に直接溶融金属粉末を冷却したりすることができ、いずれにしても溶融金属粉末を急速冷却することができる。
【0013】
本発明に係る金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法は、溶射の場合と異なり、原料が固体の金属粉末ではなく、溶融金属を用いることができる。また、溶融金属を粉末状に粉砕または金属線材を溶融して粉末状に粉砕する必要があるため、フレームジェットの速度が重要であり、溶射のように火炎で原料を軟化するまで加熱する必要はない。このため、本発明では、一般的な溶射の火炎速度よりも大きく、例えば超音速または音速に近い速度にする必要がある。また、溶射の場合には、溶射材を母材に付着させてから凝固させる必要があるため、火炎中の溶射材をその融点または軟化する温度以下にまで冷却させることができないのに対し、本発明に係る金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法は、金属粉末が得られればよいため、そのような制約はない。
【0014】
また、溶射の場合、溶射に使用する粉末を加熱し、母材に付着させる必要があるため、加熱された温度に上限下限の制約がでてくる。また、溶射のノズル先端から母材までの距離は通常300mm以下であり、この距離を通過する時間中に加熱して半溶融状態近くまで温度をあげ、母材に衝突させて、結晶化温度以下までの冷却を行う必要がある。このため、溶射によりアモルファス化を行うには制約が出てくる。粉末材料も、アモルファス化しやすい特殊な金属ガラス系の合金に限られる。また、溶射の場合、水で冷却すると、水分による母材の酸化や、大気中での冷却中の酸化等が発生するため、冷却媒体としては主に窒素が使用されている。これに対し、本発明に係る金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法は、密閉チャンバ−内で金属粉末を製造できるため、冷却媒体として水を使用しても、大気による酸化は起こらない。また、冷却しすぎによる悪影響もない。また、飽和水蒸気が発生する温度を保つように水量を制御することにより、乾燥したアモルファスの粉末を得ることができ、原料をアモルファス化しやすい合金に限定する必要がない。
【0017】
本発明に係る金属粉末の製造装置で、前記ジェットバーナーは、前記フレームジェットが前記溶融金属または前記金属線材の外周に沿って隙間なく、ほぼ均等なジェット圧で前記溶融金属または前記金属線材に鋭角に衝突するよう、前記溶融金属または前記金属線材の周囲から前記フレームジェットを噴射するよう構成されており、前記冷却手段は、前記溶融金属または前記金属線材に噴射される前記フレームジェットの外側から前記水を噴射することが好ましい。本発明に係る金属粉末の製造方法は、前記フレームジェットが前記溶融金属または前記金属線材の外周に沿って隙間なく、ほぼ均等なジェット圧で前記溶融金属または前記金属線材に鋭角に衝突するよう、前記溶融金属または前記金属線材の周囲から前記フレームジェットを噴射し、前記溶融金属または前記金属線材に噴射される前記フレームジェットの外側から前記水を噴射することが好ましい。この場合、溶融金属または金属線材に対して均一なアトマイズが可能であり、微細で均一な球状の金属粉末を得ることができる。また、による冷却効率を高めることができ、冷却速度を速めることができる。
【0018】
本発明に係る金属粉末の製造装置で、前記冷却手段は、前記溶融金属粉末を含む前記フレームジェットの外側および/または内側から前記水を噴射することが好ましい。本発明に係る金属粉末の製造方法は、前記溶融金属粉末を含む前記フレームジェットの外側および/または内側から前記水を噴射することが好ましい。また、外側からの冷却だけでは、フレームジェットの中央付近の冷却が不十分な場合、フレームジェットの内側で水を噴射してもよい。この場合、超高速で流れているフレームジェットの内側に水を効率良く供給するために、ミストでなくストリームの直進ソリッドノズルにより水を高圧噴射してもよい。
また、本発明に係る金属粉末の製造装置、及び金属粉末の製造方法では、水をストレート水流、またはシャワー状の状態で噴射することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、より低コストで、溶融金属粉末を冷却媒体としての水を用いた急速冷却機構を利用して乾燥状態の金属粉末を得ることができる金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置を示す側面図である。
図2図1に示す金属粉末の製造装置により、Fe−10%Cr−8%P−2%C合金を原料として得られた金属粉末の、走査型電子顕微鏡写真の(a)(c)(e)SEI像、(b)(d)(f)COMPO像である。
図3図1に示す金属粉末の製造装置により、Fe−10%Cr−8%P−2%C合金を原料として得られた金属粉末の粒度分布を示すグラフである。
図4図1に示す金属粉末の製造装置により、Fe−10%Cr−8%P−2%C合金を原料として得られた金属粉末のX線回折結果を示すグラフである。
図5図1に示す金属粉末の製造装置により、Fe−10%Cr−8%P−2%C合金を原料として得られた金属粉末の、粒度毎のX線回折結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図5は、本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置および金属粉末の製造方法を示している。
図1に示すように、金属粉末の製造装置10は、供給手段11と複数のジェットバーナー12と冷却手段13とを有している。
【0022】
供給手段11は、溶融金属1を収納する容器から成っている。供給手段11は、底面の中央に、内部に連通する注湯ノズル11aを有している。供給手段11は、内部に収納した溶融金属1を、注湯ノズル11aから下方に流出可能に構成されている。
【0023】
各ジェットバーナー12は、供給手段11の下方で、注湯ノズル11aからの溶融金属1の垂下流1aに対して互いに回転対称の位置に配置されている。各ジェットバーナー12は、溶融金属1の垂下流1aの周囲からフレームジェット21を斜め下方に向かって噴射可能に配置されている。各ジェットバーナー12は、フレームジェット21が溶融金属1の垂下流1aの外周に沿って隙間なく、ほぼ均等なジェット圧で溶融金属1に鋭角に衝突するよう、同じ圧力および速度でフレームジェット21を噴射するよう構成されている。これにより、各ジェットバーナー12は、垂下流1aの1点にフレームジェット21を集中して噴射するようになっている。各ジェットバーナー12は、溶融金属1の垂下流1aにフレームジェット21を噴射することにより、溶融金属1を粉砕して溶融金属粉末を形成可能に構成されている。各ジェットバーナー12は、超音速または音速に近い速度でフレームジェット21を噴射するようになっている。
【0024】
冷却手段13は、冷却媒体22を噴射可能な複数の冷却ノズル13aを有している。本実施形態の冷却媒体22は、水である。各冷却ノズル13aは、各ジェットバーナー12の下方で、各フレームジェット21が1点に集中して下方に流れる1本のフレームジェット21aに対して、互いに回転対称の位置に配置されている。各冷却ノズル13aは、溶融金属粉末を含む1本のフレームジェット21aの外側から、そのフレームジェット21aに向かって冷却媒体22を斜め下方に噴射するよう構成されている。各冷却ノズル13aは、そのフレームジェット21aの流れ方向に沿った所定の範囲で、そのフレームジェット21aの外周面に冷却媒体22が隙間なく当たるよう、冷却媒体22を噴射可能に構成されている。
【0025】
冷却手段13は、液体の冷却媒体22を、ストレート水流やシャワー状、ミスト状などの状態で噴射可能になっている。冷却手段13は、冷却ノズル13aごとに、例えばストレート水流とミスト状など、異なる状態の冷却媒体22を噴射するよう構成されていてもよい。また、冷却手段13は、冷却媒体22を直接加熱したり、高圧にした液体の冷却媒体22をノズルで噴霧して、ジュール・トムソン効果で加熱したりすることにより、沸点近傍の温度を有する冷却媒体22を噴射可能になっている。また、冷却手段13は、冷却媒体22による冷却直後の金属粉末が、冷却媒体22の沸点より高い温度を維持するよう、冷却媒体22の温度および量を調整して噴射可能になっている。
【0026】
なお、具体的な一例では、各ジェットバーナー12は、小型で、音速よりも速い速度でフレームジェット21を噴射可能なハード工業有限会社製のジェットバーナーから成っている。また、ジェットバーナー12は4台、冷却ノズル13aは4つから成っている。
【0027】
本発明の実施の形態の金属粉末の製造方法は、金属粉末の製造装置10により好適に実施することができる。本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置10および金属粉末の製造方法は、フレームジェット21の噴射により得られる溶融金属粉末を含むフレームジェット21aに向かって冷却媒体22を噴射することにより、直接的または間接的に溶融金属粉末を急速冷却することができ、金属粉末を得ることができる。このとき、噴射した冷却媒体22が溶融金属粉末やフレームジェット21aにより加熱されて蒸発する際に気化熱を奪うため、溶融金属粉末を効率的に冷却することができる。また、沸点近傍の温度を有する冷却媒体22を噴射することにより、冷却媒体22が沸点まで加熱される時間を短くすることができ、冷却速度をより速くすることができる。また、溶融金属1を含むフレームジェット21aが超音速または音速に近い速度で流れているため、その流速により熱伝達も速くなり、冷却速度をさらに速めていると考えられる。このように、本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置10および金属粉末の製造方法は、溶融金属粉末を急速冷却することができるため、噴射する冷却媒体22の温度や量を調節することにより、アモルファス状態の金属粉末を容易に得ることができる。
【0028】
本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置10および金属粉末の製造方法は、液体ミストの冷却媒体22を使用することにより、溶融金属粉末やフレームジェット21aとの接触面積を大きくすることができ、蒸発を促進して冷却速度を速めることができる。また、液体の冷却媒体22をストレート水流で勢いよく噴射することにより、溶融金属粉末を含むフレームジェット21aの内部まで冷却媒体22を供給することができ、フレームジェット21aの内部に分布する溶融金属粉末をムラなく急速冷却することができ、均一な金属粉末を得ることができる。
【0029】
本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置10および金属粉末の製造方法は、冷却媒体22による冷却直後の金属粉末が、冷却媒体22の沸点より高い温度を維持するよう、冷却媒体22の温度および量を調整して冷却媒体22を噴射するため、溶融金属粉末を冷却した後に冷却媒体22が液体として残らない。このため、乾燥した状態の金属粉末を得ることができる。このように、本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置10および金属粉末の製造方法によれば、金属粉末を乾燥した状態で得ることができるため、脱水や乾燥の工程が不要であり、その工程に係るコストを削減することができる。また、水アトマイズ法やSWAP法で使用される高圧ポンプも不要であり、その設備費も削減することができる。このように、本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置10および金属粉末の製造方法は、水アトマイズ法やSWAP法と比べて、より低コストで、溶融金属粉末を急速冷却して金属粉末を得ることができる。
【0030】
本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置10および金属粉末の製造方法は、フレームジェット21が溶融金属1の外周に沿って隙間なく、ほぼ均等なジェット圧で溶融金属1に衝突するため、溶融金属1に対して均一なアトマイズが可能であり、微細で均一な球状の金属粉末を得ることができる。
【0031】
なお、本発明の実施の形態の金属粉末の製造装置10および金属粉末の製造方法は、供給手段11が下方に向かって金属線材を連続的に供給可能に設けられ、各ジェットバーナー12が、金属線材に対してフレームジェット21を噴射するよう構成されていてもよい。この場合、金属線材に対して高温のフレームジェット21を噴射することにより、金属線材を溶かしつつ、その溶融した金属を粉砕することができる。金属線材の材質は、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼やFe−Si−B系合金等である。
【実施例1】
【0032】
図1に示す金属粉末の製造装置10を用いて、原料としてFe−10%Cr−8%P−2%C合金(%は質量%)の溶融金属1を使用して金属粉末の製造を行った。噴射手段から噴射するフレームジェット21の温度を1330℃、原料の溶融金属1の垂下速度を2kg/minとした。冷却媒体22として水を使用し、冷却手段13により液体ミストにして噴射した。また、冷却媒体22による冷却直後の金属粉末が100℃以上になるよう、水の噴射量を制御した。
【0033】
なお、冷却媒体22としての水は、比熱が大きいため、比較的少ない量で冷却を行うことができる。図1に示す金属粉末の製造装置10について冷却媒体22の水の量と金属粉末の温度との関係を調べたところ、冷却媒体22の水の噴射位置から4m下の位置での金属粉末の温度は、水の噴射量が1リットル/minのとき300〜400℃、2リットル/minのとき約200℃、4〜5リットル/minのとき約100℃であった。
【0034】
得られた金属粉末の走査型電子顕微鏡写真、粒度分布およびX線回折結果を、それぞれ図2図3および図4に示す。図2に示すように、球状の金属粉末が得られていることが確認された。また、図3に示すように、金属粉末は、粒径が数μmのものから100μmを超えるものまで得られており、粒径が20〜30μmのものが最も多いことが確認された。また、図4に示すように、X線回折ではブロードなハローピークしか認められず、アモルファスの金属粉末が得られていることが確認された。
【0035】
得られた金属粉末の粒径毎にX線回折を行った結果を図5に示す。測定では、金属粉末を、粒径が53μm以上75μm未満のもの(サンプル名「No.1」)、75μm以上106μm未満のもの(サンプル名「No.2」)、106μm以上150μm未満のもの(サンプル名「No.3」)、150μm以上のもの(サンプル名「No.4」)に篩分けし、それぞれのサンプルについてX線回折を行った。図5に示すように、粒径が小さいものほど冷却速度が速くなるためアモルファスになりやすく、およそ粒径が106μm未満の金属粉末がアモルファスになっていることが確認された。通常の水アトマイズでは粒径が30μm程度のものまで、ガスアトマイズでは粒径が10μm程度のものまでアモルファスにすることができるが、金属粉末の製造装置10では、さらに大きい粒径のものまでアモルファスにすることができることが確認された。
【0036】
なお、図1に示す金属粉末の製造装置10を用いて、他の原料、例えば、Fe−6.7%Si−2.5%Cr−2.5%B−2%C合金(%は質量%)についてもアモルファスの金属粉末が得られている。これらの結果から、金属粉末の製造装置10では、105.4K/s程度の冷却速度が得られていると考えられる。
【符号の説明】
【0037】
1 溶融金属
1a 垂下流
10 金属粉末の製造装置
11 供給手段
11a 注湯ノズル
12 ジェットバーナー
21 フレームジェット
13 冷却手段
13a 冷却ノズル
22 冷却媒体(水)
図1
図2
図3
図4
図5