(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の工具異常判別システムの実施の形態について説明する。
【0030】
<<旋盤の構成>>
まず、本実施形態の工具異常判別システムを有する旋盤の構成について説明する。
図1に、本実施形態の工具異常判別システムを有する旋盤の前面図を示す。
図2に、同旋盤のブロック図を示す。
図1、
図2に示すように、本実施形態の旋盤1は、工具異常判別システム2と、チャック装置3と、テーブル4と、ベッド5と、スライド部6と、コラム7と、を備えている。
【0031】
[チャック装置3、テーブル4、ベッド5、コラム7]
テーブル4は、テーブル本体40と、主軸41と、を備えている。主軸41は、ベッド5に収容されている。主軸41の上端は、ベッド5の前部上面から突出している。テーブル本体40は、主軸41の上端に固定されている。
【0032】
チャック装置3は、テーブル本体40の上面に固定されている。チャック装置3は、ワークWを固定、解除可能である。ワークW、チャック装置3、テーブル4は、主軸モータ42から主軸41に伝達される駆動力により、水平面内における軸周りに回転可能である。
【0033】
コラム7は、ベッド5の後部の前上部に配置されている。コラム7は、ボールねじ部71と、X軸モータ72と、を備えている。ボールねじ部71は、左右方向に延在している。X軸モータ72の駆動軸は、ボールねじ部71のシャフト部に連結されている。
【0034】
[スライド部6]
スライド部6は、X軸スライド部60と、Z軸スライド部61と、ボールねじ部62と、Z軸モータ63と、を備えている。
【0035】
X軸スライド部60は、X軸下スライド60aと、X軸スライド60bと、を備えている。X軸下スライド60aは、コラム7の前方に固定されている。X軸下スライド60aは、左右方向(X軸方向に対応)に延在している。X軸スライド60bは、X軸下スライド60aに対して、左右方向に移動可能である。X軸スライド60bには、ボールねじ部62のナット部が取り付けられている。X軸モータ72の駆動力は、ボールねじ部62のシャフト部およびナット部を介して、X軸スライド60bに伝達される。すなわち、X軸スライド60bは、X軸モータ72の駆動力により、左右方向に移動可能である。
【0036】
Z軸スライド部61は、Z軸下スライド61aと、Z軸スライド61bと、を備えている。Z軸下スライド61aは、上下方向(Z軸方向に対応)に延在している。Z軸下スライド61aは、X軸スライド60bの前方に配置されている。Z軸スライド61bは、Z軸下スライド61aに対して、上下方向に移動可能である。
【0037】
ボールねじ部62は、上下方向に延在している。Z軸モータ63は、Z軸下スライド61aの上端に配置されている。Z軸モータ63の駆動軸は、ボールねじ部62のシャフト部に連結されている。一方、ボールねじ部62のナット部は、Z軸スライド61bに取り付けられている。Z軸モータ63の駆動力は、ボールねじ部62のシャフト部およびナット部を介して、Z軸スライド61bに伝達される。すなわち、Z軸スライド61bは、Z軸モータ63の駆動力により、上下方向に移動可能である。
【0038】
[工具異常判別システム2]
工具異常判別システム2は、工具台20と、制御装置22と、画面23と、バイト28と、を備えている。バイト28は、本発明の「工具」の概念に含まれる。
【0039】
工具台20は、Z軸スライド61bの下端に配置されている。バイト28は、工具台20に、交換可能に取り付けられている。バイト28の先端の刃により、ワークWに切削加工が施される。工具台20、バイト28は、X軸スライド部60およびZ軸スライド部61により、上下左右方向に駆動される。
【0040】
制御装置22は、コンピューター220と、入出力インターフェイス221と、複数のモータ駆動回路222と、を備えている。コンピューター220は、記憶部220aと、演算部220bと、を備えている。記憶部220aには、後述する監視範囲(下限しきい値、上限しきい値)が格納される。監視範囲は更新、補正可能である。入出力インターフェイス221は、コンピューター220に接続されている。また、入出力インターフェイス221は、モータ駆動回路222を介して、X軸モータ72、Z軸モータ63、主軸モータ42に接続されている。また、入出力インターフェイス221は、画面23に接続されている。
【0041】
<<工具異常判別方法>>
次に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法について説明する。
図3に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートを示す。
図4に、
図3の実加工ステップ(S15(ステップ15。以下同様。))において行われる監視範囲更新工程のフローチャートを示す。
【0042】
図3、
図4に示すように、工具異常判別方法と、ワークの生産方法と、は並行して実行される。工具異常判別方法は、主軸モータ42の電流値の変化を基に、バイト28の異常を検出している。主軸モータ42の電流値は、本発明の「負荷データ」の概念に含まれる。
【0043】
ワークWの生産方法は、ティーチング工程(
図3のS1〜S10)と、加工工程(
図3のS11〜S17)と、を有している。ティーチング工程、加工工程においては、各々、所定の回数だけ、サイクルが繰り返し実行される。なお、サイクルは、エアカットステップA1(
図3のS3、
図3のS11)と、実加工ステップA2(
図3のS4、
図3のS15)と、を有している。
【0044】
図2に示す制御装置22は、エアカットステップA1の始点、終点、実加工ステップA2の始点、終点を、例えばワークWの加工プログラムの加工指令(Gコードなど)から、認識することができる。すなわち、記憶部220aに格納されている加工プログラムには、G0、G1、G2というGコードが用いられている。G0は、バイト28の位置決めに関するGコードである。G0は、ワークWの任意の加工部分における加工を開始する際、別の位置から当該位置までバイト28を移動させる際に、用いられる。また、G0は、ワークWの任意の加工部分における加工が終了した際、当該位置から別の位置までバイト28を移動させる際に、用いられる。
【0045】
G1は、バイト28の直線方向移動に関するGコードである。G1は、ワークWの加工中にバイト28をX軸方向、Z軸方向に移動させる際に、用いられる。G2は、バイト28の円弧方向移動に関するGコードである。G2は、ワークWの加工中にバイト28を円弧方向に移動させる際に、用いられる。なお、これらのGコード以外にも、G3(バイト28の円弧方向(G2の場合と反対方向)移動に関するGコードなどが用いられる場合がある。
【0046】
本例では、ワークWの全生産数(全サイクル数)をN(=50)、ティーチング工程におけるワークWの生産数(ティーチング工程におけるサイクルの繰り返し数)をn(=10)、加工工程におけるワークWの生産数(加工工程におけるサイクルの繰り返し数)を40とする。
【0047】
工具異常判別方法は、第一サンプリング工程(
図3のS3、S4)と、ピークホールド工程(
図3のS5)と、前期データ演算工程(
図3のS7)と、監視範囲設定工程(
図3のS8)と、監視区間設定工程(
図3のS9)と、連続超過数しきい値設定工程(
図3のS10)と、第二サンプリング工程(
図3のS11)と、後期データ演算工程(
図3のS12)と、負荷比演算工程(
図3のS13)と、監視範囲補正工程(
図3のS14)と、監視範囲更新工程(
図4のS21〜S26)と、手動更新工程と、を有している。
【0048】
<工具異常判別方法の工程うち、ワークWの生産方法のティーチング工程内で実行される工程>
ティーチング工程においては、
図2に示す制御装置22が、後工程である加工工程で用いる監視範囲を設定する。すなわち、ティーチング工程においては、監視範囲未設定の状態で、ワークWが10個生産される。
【0049】
ティーチング工程においては、第一サンプリング工程と、ピークホールド工程と、前期データ演算工程と、監視範囲設定工程と、監視区間設定工程と、連続超過数しきい値設定工程と、が実行される。以下、各工程について説明する。
【0050】
[第一サンプリング工程、ピークホールド工程]
図5に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法の第一サンプリング工程(1回目のサイクル)の電流値の時間変化を示す。
図6に、同工具異常判別方法のピークホールド工程により設定される低負荷側ピークホールド値および高負荷側ピークホールド値を示す。なお、
図6に示すのは、10回目の第一サンプリング工程後の低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2である。
【0051】
図2に示す制御装置22は、第一サンプリング工程(
図3のS3、S4)とピークホールド工程(
図3のS5)とを、この順番に10回繰り返す。すなわち、10個のワークWに対して、電流値の検出を行う。
【0052】
具体的には、まず、作業者が、
図2に示す画面23を介して、制御装置22に、ティーチング回数=10回、オフセット量=5%を入力する(
図3のS1、S2)。次に、制御装置22は、主軸モータ42を駆動し、チャック装置3つまりワークWを、自身の軸周りに回転させる。続いて、制御装置22は、X軸モータ72、Z軸モータ63を駆動し、ワークWの所定の加工部分まで、バイト28を移動させる(
図3のS3)。それから、バイト28を左右上下方向に適宜動かすことにより、ワークWの所定の加工部分に切削加工を施す(
図3のS4)。
【0053】
第一サンプリング工程(
図3のS3、S4)においては、制御装置22は、所定間隔(例えば、30ms)ごとに、主軸モータ42の電流値を検出する。現在のサイクルAの数が10回以下の場合(
図3のS6)、制御装置22は、第一サンプリング工程(
図3のS3、S4)と、ピークホールド工程(
図3のS5)と、を繰り返す。すなわち、ピークホールド工程は、1回のサイクルAが完了するたびに実行される。
図2に示す制御装置22は、
図5に示す1回目のサイクルAの電流値を、基準データBとして、記憶部220aに格納する。
【0054】
例えば、2回目のサイクルAが完了した際には、制御装置22は、1回目のサイクルAの電流値と2回目のサイクルAの電流値とを、各加工ポイントごとに、比較する。ここで、各サイクルAにおける加工経路は一定である。このため、
図5、
図6の横軸の時間は、ワークWの加工ポイントに対応している。制御装置22は、サイクル2回分の電流値を、加工ポイントが対応するように、重ね合わせる。そして、各加工ポイントにおいて、2回分の電流値のうち、小さい方の電流値を、低負荷側ピークホールド値に設定する。また、各加工ポイントにおいて、2回分の電流値のうち、大きい方の電流値を、高負荷側ピークホールド値に設定する。
【0055】
図6に示すように、サイクル10回分の電流値を重ね合わせると帯状になる。10回目のピークホールドにより(
図3のS5)、
図2に示す制御装置22は、
図6に太線で示すように、曲線状に連なる10回分の低負荷側ピークホールド値C1を取得する。並びに、制御装置22は、
図6に太線で示すように、曲線状に連なる10回分の高負荷側ピークホールド値C2を取得する。
【0056】
図2に示す制御装置22は、
図6に示すサイクル10回分の電流値、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を、記憶部220aに格納する。
【0057】
ここで、10回分の電流値の中には、
図5に示す基準データBから大きく外れるものも存在する。例えば、
図6に示す加工ポイントP1においては、基準データB1に対して、電流値E1が大きく上方に外れている。同様に、加工ポイントP2においては、基準データB2に対して、電流値E2が大きく下方に外れている。
【0058】
教示用オフセット量をh(=10%)、任意の加工ポイントP1、P2における基準データB1、B2の電流値をtとして、教示用下限しきい値F1は、以下の式から算出される。
F1=t−(t×h) ・・・式(1)
同様に、教示用上限しきい値F2は、以下の式から算出される。
F2=t+(t×h) ・・・式(2)
電流値E1は、教示用上限しきい値F2を上回っている。このため、高負荷側ピークホールド値C2を取得する際に、除外される。また、電流値E2は、教示用下限しきい値F1を下回っている。このため、低負荷側ピークホールド値C1を取得する際に、自動的に除外される。
【0059】
このように、電流値のうち、教示用下限しきい値F1、教示用上限しきい値F2を超過する部分は、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を取得する際に、除外される。
図2に示す制御装置22は、教示用オフセット量h、教示用下限しきい値F1、教示用上限しきい値F2を、記憶部220aに格納する。
【0060】
[前期データ演算工程]
本構成においては、
図3のS3に示すエアカットステップA1において検出された全ての電流値(例えば、一回のサイクルAのエアカットステップA1においてm点の電流値が検出された場合は、m(点/回)×10(回)の電流値)から、
図2に示す制御装置22が、前期データを算出する。具体的には、制御装置22は、全ての電流値の平均値を算出し、当該平均値を前期データL1とする。制御装置22は、前期データL1を、記憶部220aに格納する。
【0061】
[監視範囲設定工程]
図7に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法の監視範囲設定工程により設定される監視範囲を示す。本工程においては、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を基に、制御装置22が監視範囲ΔDを設定する(
図3のS8)。具体的には、制御装置22は、
図3のS2で設定したオフセット量=5%を用いて、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を補正する。そして、下限しきい値D1、上限しきい値D2を算出する。
【0062】
オフセット量をH(=5%)、任意の加工ポイントP3における、低負荷側ピークホールド値c1と高負荷側ピークホールド値c2との差をΔcとして、下限しきい値D1は、以下の式から算出される。
D1=c1−(Δc×H) ・・・式(3)
同様に、上限しきい値D2は、以下の式から算出される。
D2=c2+(Δc×H) ・・・式(4)
監視範囲ΔDは、以下の式から算出される。
ΔD=D2−D1 ・・・式(5)
このようにして、本工程においては、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を基に、
図2に示す制御装置22が監視範囲ΔDを設定する。制御装置22は、オフセット量H、監視範囲ΔD(下限しきい値D1、上限しきい値D2)を、記憶部220aに格納する。
【0063】
[監視区間設定工程]
図8に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法の第二サンプリング工程の電流値の時間変化を示す。本工程においては、
図8に示すように、始点(時刻)P5と終点(時刻)P6との間を、監視区間ΔPに設定する(
図3のS9)。
【0064】
監視区間ΔPは、以下のようにして設定する。すなわち、制御装置22は、
図3のS4に示す、第一サンプリング工程の一回目のサイクルAの実加工ステップA2で検出された複数の電流値のうち、連続する10個の電流値の最大値GHと最小値GLとの差ΔGを算出する。
【0065】
ここで、主軸モータ42の電流(詳しくは、主軸モータ42の電流のうち、加減速に必要な電流を除いた電流)は、(−7282〜7282)に正規化されている。モータ駆動回路222のアンプ(図略)の最大電流値(=20A)は、「7282」に対応している。
【0066】
制御装置22は、差ΔG(A)≦(100/7282)×20(A)となる区間(詳しくは、当該不等号関係が連続する区間)を、監視区間ΔPとして設定する。監視区間ΔPにおいては、電流(つまり負荷)の変化率(=電流/時間)が小さい。このため、監視区間ΔPにおいては、電流が安定している。制御装置22は、監視区間ΔPを、記憶部220aに格納する。
【0067】
[連続超過数しきい値設定工程]
本工程においては、作業者が、画面23を介して、制御装置22に、連続超過数しきい値k(
図3のS15において、電流値が、監視範囲ΔDを、連続して超過する回数に関するしきい値)を入力する(
図3のS9)。制御装置22は、連続超過数しきい値k(本実施形態では2回)を、記憶部220aに格納する。
【0068】
<工具異常判別方法の工程うち、ワークWの生産方法の加工工程内で実行される工程>
加工工程においては、
図2に示す制御装置22が、上記監視範囲ΔD(具体的には、監視範囲ΔDを補正した監視範囲Δd)を用いてバイト28の負荷(具体的には、主軸モータ42の電流値)を監視しながら、ワークWの加工を実行する。すなわち、加工工程においては、監視範囲ΔDが設定された状態で、ワークWが40個生産される。
【0069】
加工工程においては、第二サンプリング工程と、後期データ演算工程と、負荷比演算工程と、監視範囲補正工程と、監視範囲更新工程と、手動更新工程と、が実行される。以下、各工程について説明する。
【0070】
[第二サンプリング工程、後期データ演算工程、負荷比演算工程]
図3のS11に示すように、第二サンプリング工程は、加工工程の40回のサイクルAのエアカットステップA1において実行される。具体的には、制御装置22が、所定間隔ごとに、主軸モータ42の電流値を検出する。すなわち、任意回のサイクルAのエアカットステップA1が実行されるたびに、制御装置22は、電流値を検出する。
【0071】
図3のS12に示す後期データ演算工程においては、
図3のS11に示すエアカットステップA1において検出された複数の電流値(ただし、単一のサイクルAのエアカットステップA1において検出された複数の電流値)から、
図2に示す制御装置22が、後期データを算出する。具体的には、制御装置22は、全ての電流値の平均値を算出し、当該平均値を後期データL2とする。制御装置22は、後期データL2を、記憶部220aに格納する。
【0072】
図3のS13に示す負荷比演算工程においては、制御装置22が、以下の式を用いて、前期データL1、後期データL2から、負荷比Rを算出する。
R=L2/L1 ・・・式(6)
例えば、旋盤1のアイドリング前に前期データL1の検出が行われた場合であって、かつ旋盤1のアイドリング後に後期データL2の検出が行われた場合、アイドリングの実施により、アイドリング前よりアイドリング後の方が、旋盤1各部の機械効率が高くなる。このため、L1>L2、つまりR<1となる。
【0073】
反対に、旋盤1のアイドリング後に前期データL1の検出が行われた場合であって、かつ旋盤1のアイドリング前(例えば、前期データL1を検出した日の翌朝)に後期データL2の検出が行われた場合、L1<L2、つまりR>1となる。このように、検出される負荷比Rは、旋盤1の状態に応じて変化する。
【0074】
[監視範囲補正工程]
図8のエアカットステップA1においては、上記第二サンプリング工程が、並行して実行される。仮に、旋盤1のアイドリング前に
図3のS3に示す第一サンプリング工程が行われ、旋盤1のアイドリング後に
図3のS11に示す第二サンプリング工程が行われる場合を想定する。この場合、監視範囲ΔDは、アイドリング前に検出された電流値を基に設定されている。このため、監視範囲ΔDは、アイドリング前の低い機械効率を反映している。一方、第二サンプリング工程実行時には、アイドリングが完了している。このため、高い機械効率を反映して、電流値が低くなる。したがって、
図8のエアカットステップA1に示すように、電流値が監視範囲ΔDの下限しきい値D1を下回りやすくなる。
【0075】
反対に、旋盤1のアイドリング後に
図3のS3に示す第一サンプリング工程が行われ、旋盤1のアイドリング前(例えば、前期データL1を検出した日の翌朝)に
図3のS11に示す第二サンプリング工程が行われる場合は、電流値が監視範囲ΔDの上限しきい値D2を上回りやすくなる。このように、電流値検出時と監視範囲ΔD設定時とで、旋盤1の状態が一致しない場合、バイト28が正常であるにもかかわらず、電流値が監視範囲ΔDから外れやすくなる。
【0076】
そこで、本工程においては、制御装置22が、式(6)から算出される負荷比Rを用いて、監視範囲ΔD(つまり下限しきい値D1、上限しきい値D2)を補正している。補正後の下限しきい値d1は、以下の式から算出される。
d1=D1×R ・・・式(7)
また、補正後の上限しきい値d2は、以下の式から算出される。
d2=D2×R ・・・式(8)
よって、補正後の監視範囲Δdは、以下の式から算出される。
Δd=d2−d1 ・・・式(9)
このように、本工程においては、監視範囲ΔDを、監視範囲Δdに、補正している。
図8に示すように、補正された監視範囲Δdは、第二サンプリング工程(つまりエアカットステップA1)直後の実加工ステップA2において使用される。例えば、旋盤1のアイドリング前に前期データL1の検出が行われた場合であって、かつ旋盤1のアイドリング後に後期データL2の検出が行われた場合、アイドリングの実施により、アイドリング前よりアイドリング後の方が、旋盤1各部の機械効率が高くなる。このため、L1>L2、つまりR<1となる。したがって、
図8に白抜き矢印で示すように、下限しきい値D1に対して、下限しきい値d1は、下方にシフトする。また、上限しきい値D2に対して、上限しきい値d2は、下方にシフトする。
【0077】
[監視範囲更新工程]
図9に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法の監視範囲更新工程における電流値の時間変化を示す。本工程は、加工工程の実加工ステップA2(
図3のS15)と並行して行われる。すなわち、本工程においては、補正後の監視範囲Δdを用いてバイト28の異常を監視しながら、ワークWの加工を行う。
【0078】
具体的には、
図2に示す制御装置22は、主軸モータ42を駆動し、チャック装置3つまりワークWを、自身の軸周りに回転させる。続いて、制御装置22は、X軸モータ72、Z軸モータ63を駆動し、バイト28を左右上下方向に適宜動かすことにより、ワークWに切削加工を施す(
図4のS21)。
【0079】
また、制御装置22は、所定間隔ごとに検出される電流値が、
図9に示す監視区間ΔP内に含まれるか否かを判断する(
図4のS22)。例えば、
図9に示す電流値P10〜P12のように、実加工ステップA2の初期においては、エアカットステップA1からの移行に伴い、主軸モータ42の電流値が、急激に大きくなる場合がある。このため、電流値が監視範囲Δdを超過してしまう。しかしながら、電流値P10〜P12は、いずれも監視区間ΔPの始点P5以前に検出されている。すなわち、電流値P10〜P12は、いずれも監視区間ΔPに含まれていない。このため、制御装置22は、電流値P10〜P12と、監視範囲Δdと、の比較を行わない。つまり、制御装置22は、電流値P10〜P12の監視を行わない。
【0080】
始点P5以降に検出される電流値は、監視区間ΔPに含まれることになる(
図4のS22)。このため、制御装置22は、電流値の監視を開始する(
図4のS23)。すなわち、制御装置22は、電流値と、監視範囲Δdと、の比較を行う。
【0081】
電流値が監視範囲Δdを超過しない場合は、当該ワークWの実加工ステップA2を完了する(
図4のS24)。次のワークWがある場合、言い換えると
図3に示す加工工程におけるサイクル数が50回未満の場合は、次のワークW用のエアカットステップA1に移行する(
図3のS16、S11)。一方、次のワークWがない場合、言い換えると
図3に示す加工工程におけるサイクル数が50回に到達した場合は、ワークWの生産を終了する(
図3のS17)。
【0082】
これに対して、電流値が監視範囲Δdを超過する場合は、制御装置22は、連続超過数をカウントする(
図4のS25)。連続超過数が連続超過しきい値(=2回)を超過しない場合は、電流値の監視を続行する(
図4のS23)。
【0083】
例えば、
図9に示す電流値P13は監視範囲Δdを超過しているものの、次の電流値P14は監視範囲Δdを超過していない。このため、連続超過数は1回である。このような場合は、電流値の監視を続行する(
図4のS23)。
【0084】
一方、連続超過数が連続超過しきい値(=2回)を超過した場合は(
図4のS25)、制御装置22は、監視範囲Δdを超過した時点で旋盤1を停止する。また、制御装置22は、画面23に、ガイダンスを表示する(
図4のS26)。
【0085】
例えば、
図9に示す電流値P18〜P20は3回連続して監視範囲Δdを超過している。すなわち、連続超過数は3回(>2回)である(
図4のS25)。この場合は、制御装置22は、旋盤1を停止し、画面23にガイダンスを表示する(
図4のS26)。
【0086】
図4に示すように、画面23には、
図9同様の電流値が表示される。また、画面23には、「チッピングしていますか?」という質問233が表示される。また、質問233に対する回答入力用として、「はい」ボタン230、「いいえ」ボタン231、「キャンセル」ボタン232が表示される。
【0087】
作業者は、
図1に示すバイト28を視認する。視認の結果、バイト28の刃にチッピングが発生している場合、言い換えるとメインの異常状態である場合、作業者は、画面23の「はい」ボタン230を押圧する。また、視認の結果、バイト28の刃にチッピングが発生しておらず、かつバイト28が正常な状態(例えば、バイト28が摩耗しただけの状態)である場合、作業者は、画面23の「いいえ」ボタン231を押圧する。また、視認の結果、バイト28の刃にチッピングが発生しておらず、かつバイト28が他の異常状態(例えば、バイト28がワークWの切屑を噛み込んでいる状態、バイト28が工具台20に装着されていない状態、
図2に示すX軸モータ72、Z軸モータ63、主軸モータ42の動作がおかしい状態、
図2の記憶部220aに格納されている切削加工用のプログラムがおかしい状態など)である場合、言い換えるとサブの異常状態である場合、作業者は、画面23の「キャンセル」ボタン232を押圧する。
【0088】
「はい」ボタン230、または「キャンセル」ボタン232が作業者に押された場合は、当該ワークWの実加工ステップA2を完了する(
図4のS24)。次のワークWがある場合は、次のワークW用のエアカットステップA1に移行する(
図3のS16、S11)。一方、次のワークWがない場合は、ワークWの生産を終了する(
図3のS17)。この場合、制御装置22は、監視範囲Δdを更新しない。
【0089】
これに対して、「いいえ」ボタン231が作業者に押された場合は、監視範囲Δdを更新する。すなわち、「いいえ」ボタン231が作業者に押された場合、バイト28が正常状態であるにもかかわらず、
図9に示す電流値が下限しきい値d1を超過したことになる。この場合、
図2に示す制御装置22は、
図9に示す電流値のうち、下限しきい値d1を超過した部分(
図9のハッチング部分)を用いて、ピークホールドを実行する。具体的には、
図7に示す低負荷側ピークホールド値C1を補正する。そして、上記式(3)〜式(5)を用いて、下限しきい値D1、上限しきい値D2、監視範囲ΔDを再び算出する。
【0090】
更新後の監視範囲ΔDには、
図9に示す電流値が反映されている。
図2に示す制御装置22は、新しい監視範囲ΔD(下限しきい値D1、上限しきい値D2)を、記憶部220aに格納する。ワークWの加工が進行し、監視区間ΔPの終点P6以降になると、制御装置22は、電流値の監視を終了する(
図4のS22)。
【0091】
制御装置22は、次のワークWがある場合は、次のワークWから、更新後の監視範囲ΔDを採用する。すなわち、更新後の監視範囲ΔDを、上記式(7)〜式(9)で補正し、監視範囲Δdを算出する。そして、
図8に示すように、監視範囲Δdを用いて、次のワークWの実加工ステップA2におけるバイト28の異常を監視する。
【0092】
[手動更新工程]
本工程においては、作業者が、手動で監視範囲ΔDを更新する。すなわち、ワークWの加工ポイントごとに、作業者が下限しきい値D1、上限しきい値D2を調整する。調整作業は、
図2に示す制御装置22が画面23を数値入力モードに切り替え、作業者が当該画面に、下限しきい値D1、上限しきい値D2を入力することにより実行される。制御装置22は、画面23に、手入力された下限しきい値D1、上限しきい値D2を反映した監視範囲ΔDを表示する。
【0093】
<<作用効果>>
次に、本実施形態の工具異常判別システム2の作用効果について説明する。本実施形態の工具異常判別システム2によると、ティーチング工程のサイクルAのエアカットステップA1の主軸モータ42の電流値、および加工工程のサイクルAのエアカットステップA1の主軸モータ42の電流値を用いて、加工工程のサイクルAの実加工ステップA2(具体的には監視区間ΔP)の監視範囲ΔDを補正することができる。このため、
図3のS8の監視範囲ΔDの設定時期(例えば、アイドリング前、アイドリング後など)によらず、バイト28の異常を精度良く検出することができる。
【0094】
また、サイクルAの実加工ステップA2においては、
図1に示すワークWに加工が施される。このため、ワークWの形状、材質などのばらつきが、主軸モータ42の電流値に反映されやすい。この点、本実施形態の工具異常判別システム2によると、前期データL1用の電流値および後期データL2用の電流値は、共に、バイト28を空走させるエアカットステップA1において検出されている。このため、負荷比Rに、ワークWのばらつきが反映されにくい。
【0095】
また、本実施形態の工具異常判別システム2によると、式(7)〜式(9)に示す負荷比Rを用いて、
図8に示すように、監視範囲ΔDを、監視区間ΔPの全域に亘って補正することができる。
【0096】
また、本実施形態の工具異常判別システム2によると、
図3のS3に示すように、前期データL1用の電流値は、ティーチング工程のサイクルAのエアカットステップA1において、検出されている。すなわち、ティーチング工程のサイクルAのエアカットステップA1において検出される電流値は、監視範囲ΔD設定用および監視範囲ΔD補正用である。このため、監視範囲ΔD設定時の負荷の状態を、負荷比Rに反映させることができる。
【0097】
また、本実施形態の工具異常判別システム2によると、監視範囲補正工程(
図3のS14)により、
図8に示すように、監視範囲ΔDを、少なくとも監視区間ΔPの全域に亘って、変更することができる。すなわち、監視範囲ΔDを、全体的に変更することができる。
【0098】
また、本実施形態の工具異常判別システム2によると、監視範囲更新工程(
図4のS21〜S26)、手動更新工程により、
図9に示すように、監視範囲ΔDを、加工ポイント単位で、変更することができる。すなわち、監視範囲ΔDを、局所的に変更することができる。このように、監視範囲ΔDの「補正」と「更新」とを組み合わせることにより、作業者の作業負荷を増やすことなく、自動的かつ継続的に、監視範囲ΔDを改善することができる。
【0099】
また、仮に、監視範囲補正工程(
図3のS14)を実行しない場合、
図8に示すように、アイドリング前(機械効率が低い)に設定した監視範囲ΔDに対して、時系列的に後であるアイドリング後(機械効率が高い)の電流値が、下側に外れやすくなる。このため、監視範囲更新工程(
図4のS21〜S26)が頻繁に実行されることになる。この場合、作業者は、頻繁に、
図1に示すバイト28を視認し、
図4のS26に示す画面23の「はい」ボタン230を押す必要がある。当該作業は繁雑である。また、当該作業により、監視範囲ΔDの下限しきい値D1は、徐々に下側に移動することになる。このため、結果として、監視範囲ΔDが拡がってしまう。
【0100】
なお、上記仮定したケースと反対に、アイドリング後に設定した監視範囲ΔDに対しては、時系列的に後であるアイドリング前の電流値が、上側に外れやすくなる。この場合は、監視範囲ΔDの上限しきい値D2が、徐々に上側に移動することになる。このため、やはり、結果として、監視範囲ΔDが拡がってしまう。
【0101】
この点、本実施形態の工具異常判別システム2は、監視範囲補正工程(
図3のS14)を実行可能である。このため、作業者が頻繁に監視範囲ΔDを更新する必要がない。また、アイドリングの前後(機械効率の変化)を理由に、監視範囲ΔDが拡がるおそれが小さい。
【0102】
また、本実施形態の工具異常判別システム2は、
図4のS26に示すように、バイト28の負荷が監視範囲ΔDを超えた場合に、「チッピングしていますか?」という質問233を、作業者に通知する。作業者は、直接バイト28を確認することにより、または画面23の電流値グラフなどで間接的にバイト28を確認することにより、実際にバイト28が異常状態であるか否かを確認することができる。すなわち、作業者は、監視範囲ΔDの妥当性を認識することができる。このため、容易に監視範囲ΔDの精度を向上させることができる。
【0103】
また、本実施形態の工具異常判別システム2によると、監視範囲ΔDの精度が高いため、バイト28に安定した切削加工面を確保することができる。また、監視範囲ΔDの精度が高いため、バイト28を、チッピングが発生する直前まで、使用することができる。
【0104】
工具異常判別方法の第一サンプリング工程においては、制御装置22は、各サイクルAごとにピークホールドを行いながら(
図3のS3、S4)、合計10回のサイクルAの電流値を検出する。このため、制御装置22は、
図6に示すように、10回分の電流値のうち、最も小さい電流値を、低負荷側ピークホールド値C1に設定することができる。また、制御装置22は、10回分の電流値のうち、最も大きい電流値を、高負荷側ピークホールド値C2に設定することができる。
【0105】
このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、制御装置22は、実際に検出された電流値を重畳させることにより、低負荷側ピークホールド値C1および高負荷側ピークホールド値C2を設定している。また、制御装置22は、式(3)〜式(5)に示すように、低負荷側ピークホールド値C1および高負荷側ピークホールド値C2を基に、監視範囲ΔDを設定している。このため、複雑な演算処理が不要であり、かつ視覚的にも確認が容易である。
【0106】
また、第一サンプリング工程、ピークホールド工程、監視範囲設定工程においては、
図3に示す画面23に、バイト28が異常状態であるか否かに関する質問が、表示されない。このため、第一サンプリング工程、ピークホールド工程、監視範囲設定工程を円滑に実行することができる。
【0107】
また、ピークホールド工程においては、
図6、式(1)、式(2)に示すように、電流値のうち、教示用下限しきい値F1、教示用上限しきい値F2を超過する部分は、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を取得する際に、除外される。このため、異常な電流値が監視範囲ΔDに反映されるおそれが小さい。したがって、監視範囲ΔDの精度を向上させることができる。
【0108】
図3のS8に示す監視範囲設定工程においては、制御装置22は、前記式(3)〜式(5)から監視範囲ΔDを設定している。ここで、下限しきい値D1、上限しきい値D2は、
図7に示すように、低負荷側ピークホールド値c1と高負荷側ピークホールド値c2との差Δcに対応して、変化する。
【0109】
すなわち、差Δcが大きい加工ポイント場合、言い換えるとサンプリング工程における10回分の電流値のばらつきが大きい加工ポイントの場合、下限しきい値D1は、低負荷側ピークホールド値c1を大きく下回る。また、上限しきい値D2は、高負荷側ピークホールド値C2を大きく上回る。このため、監視範囲ΔDが広くなる。
【0110】
これに対して、差Δcが小さい加工ポイント場合、言い換えるとサンプリング工程における10回分の電流値のばらつきが小さい加工ポイントの場合、下限しきい値D1は、低負荷側ピークホールド値c1を小さく下回る。また、上限しきい値D2は、高負荷側ピークホールド値C2を小さく上回る。このため、監視範囲ΔDが狭くなる。このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、ワークWの加工ポイントに応じて、下限しきい値D1と上限しきい値D2との間隔(監視範囲ΔD)を変化させることができる。
【0111】
図3に示す加工工程においては、11回目以降のサイクルAを実行する。つまり、設定した監視範囲ΔDを用いて、実際にワークWを切削加工する。
図4のS26に示すように、バイト28の電流値が3回連続して監視範囲Δdを超えた場合、画面23は、作業者に「チッピングしていますか?」という質問233を通知する。質問を受けて、作業者は、バイト28の状態を確認する。
【0112】
作業者の確認の結果、実際にバイト28がチッピングしている場合、作業者は「はい」ボタン230を押す。この場合、制御装置22がバイト28のチッピングを判別できたことになる。制御装置22の判断は適正なので、制御装置22は監視範囲ΔDを更新しない。これに対して、作業者の確認の結果、実際にはバイト28が正常状態(例えば、バイト28が摩耗しただけの状態)である場合、作業者は「いいえ」ボタン231を押す。この場合、制御装置22がバイト28の正常状態を判別できなかったことになる。制御装置22の判断は不適正なので、制御装置22は監視範囲ΔDを更新する(監視範囲更新工程)。
【0113】
また、作業者の確認の結果、バイト28の刃にチッピングが発生しておらず、かつバイト28が他の異常状態である場合、作業者は「キャンセル」ボタン232を押す。この場合、制御装置22が、他の異常状態を、チッピングと誤判別したことになる。この場合は、制御装置22の判断は不適正であるものの、監視範囲ΔDを更新しない。その理由は、この場合に監視範囲ΔDを更新すると、他の異常状態が監視範囲ΔDに反映されてしまうからである。このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、制御装置22が正常状態を誤判別した場合に限って、監視範囲を更新することができる。このため、監視範囲の精度を向上させることができる。
【0114】
また、仮に、ワークWの切屑の噛み込みにより旋盤1が停止した場合であって、作業者がバイト28を確認した際に既に切屑が脱落していた場合を想定する。この場合、バイト28にはチッピングが発生していない。このため、作業者は、直接、異常状態を確認することはできない。しかしながら、
図4のS26に示すように、画面23には、「はい」ボタン230、「いいえ」ボタン231、「キャンセル」ボタン232の横に、旋盤1停止直前の電流値の時間変化(履歴)が並置されている。このため、当該電流値とバイト28の状態とを基に、作業者は、旋盤1停止時に、ワークWの切屑の噛み込みが発生していたことを、推認することができる。このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、画面23の電流値のグラフから、異常状態を推認することができる。
【0115】
また、手動更新工程においては、作業者が、手動で監視範囲ΔDを更新することができる。このため、作業者がチッピングを視認した場合であって、かつ電流値が監視範囲ΔD内の場合など、手動で上限しきい値D2を下げることができる。同様に、手動で下限しきい値D1を上げることができる。このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、ピークホールド工程により広くなりがちな監視範囲ΔDを、手動で狭めることができる。
【0116】
また、画面23には、「はい」ボタン230と、「キャンセル」ボタン232と、が配置されている。「はい」ボタン230は、バイト28のチッピング(メイン異常状態)に対応している。「キャンセル」ボタン232は、チッピング以外の異常状態(サブ異常状態)に対応している。どちらのボタンが押されたかを、制御装置22は、記憶部220aに格納する。このため、異常状態のデータ収集および異常要因の分類を容易に行うことができる。
【0117】
また、
図4のS22に示すように、電流値が監視区間ΔPを超過している場合は、たとえ電流値が監視範囲ΔDを超過していても、制御装置22は、電流値の監視を行わない。このため、例えば実加工ステップの開始時など、電流値に外乱因子の影響が反映されやすい区間を、意識的に監視区間ΔPから除外することができる。したがって、誤判断の発生を抑制することができる。よって、作業者の煩雑さを軽減することができる。
【0118】
また、
図4のS25に示すように、制御装置22は、連続超過数が連続超過数しきい値を超えた場合に限って、旋盤1を停止する。また、
図4のS26に示すように、制御装置22は、画面23にガイダンスを表示する。このため、例えばワークWにゴミが付着している場合など、突発的な外乱因子の影響により電流値が監視範囲Δdを超過した場合、誤判断の発生を抑制することができる。したがって、作業者の煩雑さを軽減することができる。
【0119】
<<その他>>
以上、本発明の工具異常判別方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0120】
例えば、式(6)に示す負荷比Rの設定方法は、特に限定しない。
図3のS4に示す実加工ステップA2において検出された全ての電流値の平均値を、前期データL1としてもよい。また、
図3のS15に示す実加工ステップA2において検出された全ての電流値の平均値を、後期データL2としてもよい。
【0121】
この場合、加工工程の1回目(つまり通算11回目)のサイクルAの実加工ステップA2の電流値を基に、加工工程の2回目のサイクルAの監視範囲Δd用の負荷比Rが算出される。同様に、加工工程の2回目のサイクルAの実加工ステップA2の電流値を基に、加工工程の3回目のサイクルAの監視範囲Δd用の負荷比Rが算出される。
【0122】
こうすると、エアカットステップA1を用いずに、負荷比Rを算出することができる。このため、例えばエアカットステップA1が短い場合などであっても、監視範囲ΔDを補正することができる。また、前回(M−1回目)のサイクルAの電流値を用いて、今回(M回目)の監視範囲ΔDを補正することができる。
【0123】
また、加工工程における複数回のサイクルAの実加工ステップA2において検出された全ての電流値の平均値を、後期データL2としてもよい。例えば、サイクルA10回分の電流値の平均値を、後期データL2とする場合、加工工程の1回目(つまり通算11回目)〜10回目(つまり通算20回目)のサイクルAの実加工ステップA2の電流値を基に、加工工程の11回目のサイクルAの監視範囲Δd用の負荷比Rが算出される。同様に、加工工程の2回目〜11回目のサイクルAの実加工ステップA2の電流値を基に、加工工程の12回目のサイクルAの監視範囲Δd用の負荷比Rが算出される。
【0124】
こうすると、エアカットステップA1を用いずに、負荷比Rを算出することができる。このため、例えばエアカットステップA1が短い場合などであっても、監視範囲ΔDを補正することができる。また、前回(M−1回目)までの複数回のサイクルAの電流値を用いて、今回(M回目)の監視範囲ΔDを補正することができる。また、複数回のサイクルAの電流値の平均値を後期データL2として用いるため、検出の誤差による電流値の変動が後期データL2に与える影響を、小さくすることができる。
【0125】
監視範囲ΔD設定用、補正用、更新用に検出する負荷データの種類は特に限定しない。バイト28を動かすアクチュエータ(例えば、
図2に示すX軸モータ72、Z軸モータ63)の負荷、およびワークWを動かすアクチュエータ(例えば、
図2に示す主軸モータ42)の負荷のうち、少なくとも一方に、関連があればよい。例えば、トルク、電流、電圧などであってもよい。また、全アクチュエータの合計トルク、合計電流でもよい。また、これらのアクチュエータのうち、二つのアクチュエータの合計トルク、合計負荷電流でもよい。
【0126】
上記実施形態においては、式(7)〜式(9)に示すように、負荷比Rを用いて監視範囲ΔDを補正した。しかしながら、前期データL1と後期データL2との差分ΔLを用いて、監視範囲ΔDを補正してもよい。例えば、以下の式を用いて、下限しきい値d1、上限しきい値d2を算出してもよい。
d1=D1+ΔL ・・・式(10)
d2=D2+ΔL ・・・式(11)
また、単一のサイクルA内の単一または複数の電流値を基に、前期データL1、後期データL2を算出してもよい。また、加工工程における電流値を基に、前期データL1を算出してもよい。すなわち、前期データL1の検出時期は、ティーチング工程でなくてもよい。
【0127】
前期データL1と後期データL2とは、時系列的に部分的に重複していてもよい。例えば、前期データL1、後期データL2が、各々、複数の電流値を有する場合は、後期データL2の最終の電流値が、前期データL1の最終の電流値よりも、時系列的に後に検出されていればよい。
【0128】
監視範囲ΔDの設定(
図3のS8)はサイクルAごとに行ってもよい。つまり、ピークホールド工程(
図3のS5)と、次の第一サンプリング工程(
図3のS3、S4)と、の間に行ってもよい。ピークホールド工程(
図3のS5)は、サイクルAごとに行わなくてもよい。10回のサイクルAが完了した後、まとめてピークホールド工程を行ってもよい。
【0129】
ティーチング工程、加工工程におけるサイクルAの数、ピークホールド工程における教示用オフセット量h、監視範囲設定工程におけるオフセット量Hは特に限定しない。また、1回のサイクルA(1個のワークW)における加工部分の数は特に限定しない。これらの数は、作業者が任意に入力、更新することができる。
【0130】
また、上記実施形態においては、
図4のS26に示すように、画面23に、「はい」ボタン230、「いいえ」ボタン231、「キャンセル」ボタン232を配置した。しかしながら、画面23に、「はい」ボタン230、「いいえ」ボタン231だけを配置してもよい。この場合、「はい」ボタン230が「キャンセル」ボタン232を兼ねることになる。このため、画面23のボタン数を減らすことができる。
【0131】
また、上記実施形態においては、
図2に示す制御装置22は、監視範囲Δdを超過した時点で旋盤1を停止した。しかしながら、実加工ステップA2の終了後に、旋盤1を停止してもよい。
図2に示す制御装置22は、旋盤1に内蔵されていなくてもよい。例えば、外部接続可能なコンピューターなどであってもよい。
【0132】
また、上記実施形態においては、
図3のS8に示すように、ティーチング工程において、監視範囲ΔDの設定を行った。しかしながら、旋盤1始動前に、予め監視範囲ΔDを設定しておいてもよい。例えば、設定済みの監視範囲ΔDを、旋盤1始動前に、予め
図2に示す記憶部220aに格納しておいてもよい。
【0133】
また、上記実施形態においては、
図4のS21〜S26に示すように、加工工程において、監視範囲ΔDの更新を行った。しかしながら、監視範囲ΔDの更新を行わなくてもよい。すなわち、
図3のS14に示す補正だけにより、監視範囲ΔDを変更してもよい。また、
図3のS9に示す監視区間ΔPは、設定しなくてもよい。
【0134】
また、本発明の工具異常判別システムは、例えばフライス盤の工具、ボール盤のドリルなど、あらゆる工作機械の工具の異常判別に用いることができる。