特許第6178602号(P6178602)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178602
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】p−クマル酸を含有した組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/365 20060101AFI20170731BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20170731BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   A61K8/365
   A61K8/34
   A61K8/19
   A61K8/44
   A61K8/24
   A61Q19/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-72079(P2013-72079)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196257(P2014-196257A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 英美
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−036305(JP,A)
【文献】 特開2002−145719(JP,A)
【文献】 特開2012−092076(JP,A)
【文献】 特開2002−226494(JP,A)
【文献】 特開2001−086966(JP,A)
【文献】 特開昭55−092000(JP,A)
【文献】 特開昭62−019510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)〜(D);
(A)p−クマル酸
(B)分子内に水酸基を1〜3個有するアルコール
(C)中和剤
(D)エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ならびにジエチレントリアミン五酢酸およびその塩からなる群より選択されるいずれかであるキレート剤
(E)pH緩衝剤
を含有し、25℃のpHが6.0〜8.5の範囲であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
成分(B)が2価アルコールであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分(B)が1,3−ブチレングリコールであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
成分(B)および(D)の、成分(A)に対する含有質量割合が、下記:
(B)/(A)=1〜100
(D)/(A)=0.0002〜0.8
であり、
成分(A)と(C)のモル比が、
(A):(C)=1:(1〜2.0)/n(nは成分(C)の価数)
である、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
化粧料または皮膚外用剤である、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
下記の工程を含む、25℃のpHが6.0〜8.5の範囲である組成物の製造方法。
(1)下記の成分(A)を下記の成分(B)に溶解する工程、
(2)前記(1)の溶解液に下記の成分(C)の水溶液を添加して中和し、得られた中和液に、下記の成分(D)および(E)を混合するか、または前記(1)の溶解液に下記の成分(C)を添加して中和し、得られた中和液に、水の存在下で下記の成分(D)および(E)を混合する工程;
(A)p−クマル酸
(B)分子内に水酸基を1〜3個有するアルコール
(C)中和剤
(D)エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ならびにジエチレントリアミン五酢酸およびその塩からなる群より選択されるいずれかであるキレート剤
(E)pH緩衝剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p−クマル酸を含有した組成物に関する。本発明の組成物は、化粧料または皮膚外用剤とすることができる。
【背景技術】
【0002】
p−クマル酸(4−ヒドロキシケイ皮酸、β−(4−ヒドロキシフェニル)アクリル酸)は、メラニン抑制作用、紫外線吸収作用、防腐作用、メイラード反応阻害等が知られており、各種の化粧料や皮膚外用剤への配合が試みられている(特許文献1〜3)が、水への溶解度が低く、油剤に対しても難溶性であるため、配合に際しては種々の検討がされてきた。
【0003】
例えば、特許文献4には、4−ヒドロキシケイ皮酸を0.1〜20重量%およびシグロデキストリンを配合したことを特徴とする化粧料が記載されており、シグロデキストリンが4ーヒドロキシケイ皮酸との包接複合体を形成し、4−ヒドロキシケイ皮酸の水への溶解性を向上させ、かつ分解を受けないようにブロックする作用を有すると考えられること、および複合化による見かけ分子量の増大により、経皮吸収が抑制されることが記載されている。また特許文献5には、4−ヒドロキシケイ皮酸0.1〜20重量%と弱塩基性無機塩または弱塩基性有機塩を配合したことを特徴とする化粧料が記載されており、中和剤である弱塩基性無機塩または弱塩基性有機塩が、4−ヒドロキシケイ皮酸を安定に水に溶解する作用を有する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−342110号公報
【特許文献2】特開2002−145719号公報
【特許文献3】特開2003−212774号公報
【特許文献4】特開昭62−19510号公報
【特許文献5】特開昭62−36305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来の方法では、p−クマル酸の経時安定性は十分ではなかった。本発明者の検討によると、p−クマル酸は水性の基剤にも油性の基剤にも、単に混合するのみでは溶解させて含有させることができず、また機械力や加温等により一時的に溶解させて含有させたとしても、経時により黄変や析出が観られることがあった。特に高温での安定性に乏しいことが分かった。
【0006】
化粧料は、直接、顔や手の皮膚に塗布し、塗布した状態を保つとともに、比較的長い期間にわたって繰り返し用いるものである。そのため、見た目の変化がなく安定であることが、品質の維持という観点だけでなく、心理的な安心感という観点においても重視される。また外観の美しさや高級感は心理的・精神的な効果をもたらしうる点からも、近年は化粧容器のバリエーションも多様化し、中身を見せるような容器が用いられることも多いことから、化粧料においては外観にも留意を要する。そこで、p−クマル酸の含有に際しては、黄変や析出について、成分の機能低下をもたらしうるとの観点のみならず、適切な系により化粧品としての外観基準に適合した安定性を確保できる方策を講じることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、p−クマル酸の液状組成物における安定化方法を鋭意検討した。その結果、特定の成分を組み合わせて用いることにより、特定の基準に適合する程度にまで黄変および析出を抑制しうることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1]下記の成分(A)〜(D);
(A)p−クマル酸
(B)分子内に水酸基を1〜3個有するアルコール
(C)中和剤
(D)キレート剤
(E)pH緩衝剤
を含有し、25℃のpHが6.0〜8.5の範囲であることを特徴とする組成物。
[2] 成分(B)が2価アルコールであることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[3] 成分(B)が1,3−ブチレングリコールであることを特徴とする、[2]に記載の組成物。
[4] 成分(D)が、エチレンジミン四酢酸およびその塩、ならびにジエチレントリアミン五酢酸およびその塩からなる群より選ばれるいずれかである、[1]〜[3]のいずれか一に記載の組成物。
[5] 成分(B)および(D)の、成分(A)に対する含有質量割合が、下記:
(B)/(A)=1〜100
(D)/(A)=0.0002〜0.8
であり、
成分(A)と(C)のモル比が、
(A):(C)=1:(1〜2.0)/n(nは成分(C)の価数)
である、[1]〜[4]のいずれか一に記載の組成物。
[6] 化粧料または皮膚外用剤である、[1]〜[5]のいずれか一に記載の組成物。
[7] 下記の工程を含む、組成物の製造方法。
(1)下記の成分(A)を下記の成分(B)に溶解する工程、
(2)前記(1)の溶解液に下記の成分(C)の水溶液を添加して中和し、得られた中和液に、下記の成分(D)および(E)を混合するか、または前記(1)の溶解液に下記の成分(C)を添加して中和し、得られた中和液に、水の存在下で下記の成分(D)および(E)を混合する工程;
(A)p−クマル酸
(B)分子内に水酸基を1〜3個有するアルコール
(C)中和剤
(D)キレート剤
(E)pH緩衝剤
[8] 下記の工程により得られる、組成物。
(1)下記の成分(A)を下記の成分(B)に溶解する工程、
(2)前記(1)の溶解液に水の存在下で下記の成分(C)を添加して中和し、得られた中和液に、下記の成分(D)および(E)を混合するか、または前記(1)の溶解液に下記の成分(C)を添加して中和し、得られた中和液に、水の存在下で下記の成分(D)および(E)を混合する工程;
(A)p−クマル酸
(B)分子内に水酸基を1〜3個有するアルコール
(C)中和剤
(D)キレート剤
(E)pH緩衝剤
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、p−クマル酸の経時による、また比較的高温域における、黄変および/または析出が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で数値範囲を「X〜Y」で表すときは、特に記載した場合を除き、両端XおよびYを含む。また本発明で組成物の含有量に関し、「%」で表すときは、特に記載した場合を除き、質量%を意味し、組成物全体の質量とその成分の質量(その成分として混合物を用いる場合は、混合物の質量を指す。)とに基づいて算出された値である。
【0011】
本発明の組成物は、次の成分(A)〜(F)を含有する:
(A)p−クマル酸
(B)分子内に水酸基を1〜3個有するアルコール
(C)中和剤
(D)キレート剤
(E)pH緩衝剤。
【0012】
〔成分(A)〕
本発明の組成物は、p−クマル酸を含む。p−クマル酸(IUPAC名:3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロペノン酸)は、4−ヒドロキシケイ皮酸、β−(4−ヒドロキシフェニル)アクリル酸と称されることもある。p−クマル酸は、下式で表される。分子量は164.15である。
【化1】
【0013】
本発明の組成物における成分(A)の含有量は、0.01〜5.0質量%であり、好ましい含有量は0.1〜3.0%であり、より好ましい含有量は0.3〜1.0%である。この範囲であれば、美白等の意図した作用も優れ、本発明による処方により、黄変および/または析出が許容できる程度にまで抑制されうる。
【0014】
本発明の組成物は溶液状である。本発明において「溶液状」というときは、特に記載した場合を除き、p−クマル酸が溶解した状態であることを指す。組成物が液剤である場合、p−クマル酸の析出の有無は目視により容易に観察することができるが、乳液等である場合には、析出の有無は一見したところでは判別しにくい場合がある。当業者であれば、剤形に応じた適切な方法を用いて、対象組成物が「溶液状」であるか否か、すなわち対象組成物においてp−クマル酸が溶解した状態で存在するか否かを適宜判断することができる。
【0015】
〔成分(B)〕
本発明の組成物は、分子内に水酸基を1〜3個有するアルコールを含む。本発明の成分(B)は、p−クマル酸を溶解することができるものである。分子内に水酸基を4個以上有するアルコールは、p−クマル酸の溶解が困難となる。
【0016】
成分(B)として用いることができるアルコール類は、p−クマル酸を溶解することができれば特に限定されない。例えば、エタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ジエチルペンタンジオール、ブチルエチルペンタンジオール、グリセリンなどが挙げられる。成分(B)としては、必要に応じて1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
成分(A)の溶解性が良好であるとの観点からは、成分(B)としては、2価アルコールを用いることが好ましい。2価のアルコールのうち、特に好ましい例として、1,3−ブチレングリコールを挙げることができる。1,3−ブチレングリコールとエタノールとの混合物も、好ましい例の一つである。
【0018】
本発明の組成物における成分(B)の含有量は、p−クマル酸を溶解するのに有効な量であれば制限無く、例えば、0.5〜50%とすることができ、好ましい含有量は1〜30%、より好ましい含有量は2〜25%である。この範囲であれば、成分(A)を十分に溶解することができ、かつ溶解した状態を安定的に保つことができる。
【0019】
さらに、成分(A)との比率に関しては、(B)/(A)=1〜100とすることができ、2〜75とすることが好ましく、4〜50とすることがより好ましい。この範囲であれば、成分(A)を十分に溶解することができ、かつ溶解した状態を安定的に保つことができる。
〔成分(C)〕
本発明の組成物は、成分(B)に溶解した成分(A)を中和するための中和剤を含む。
【0020】
成分(C)として用いることのできるものは、成分(B)に溶解した成分(A)を中和することができる限り、特に限定されるものではないが、通常、成分(A)より塩基性の成分を用いる、例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、L−アルギニン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール等を挙げることができる。成分(C)としては、これらの一種または二種以上を混合して用いることができる。成分(C)のうち、本発明に用いるのに特に好ましいのは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。
【0021】
本発明に用いられる成分(C)の中和剤の含有量は、成分(C)として1価の塩基性成分を用いる場合は、成分(A)1モルに対して、成分(C)を1モル以上用いるようにする。成分(C)としてn価の塩基性成分を用いる場合は、成分(A)1モルに対して、成分(C)を1/nモル以上用いるようにする。具体的には、モル比(A):(C)=1:(1〜2.0)/nとすることができ、好ましくは1:(1〜1.5)/nとすることができ、より好ましくは1:(1〜1.1)/nとすることができる。
【0022】
本発明の成分(C)の含有量のより具体的な例としては、例えば成分(A)を0.5%含有し、2%の水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合には、1〜20%(水酸化ナトリウムとしては、0.02〜0.4%)とすることができ、好ましい含有量は2〜15%(水酸化ナトリウムとしては、0.04〜0.3%)であり、より好ましい含有量は3〜10%(水酸化ナトリウムとしては、0.06〜0.2%)である。他の中和剤を用いる場合は、これに相当する量を用いることができる。
【0023】
〔成分(D)〕
本発明の組成物には、キレート剤を用いる。本発明の成分(D)は、水に溶解することができ、かつ最終的には水相に溶解した状態で含まれることとなる成分(A)の分解を防止しうる。本発明者の検討によると、成分(D)が存在しない場合および成分(D)の代わりにp−クマル酸に対して何らかの保護作用が期待できる紫外線吸収剤を含有させた場合は、所望の効果が得られなかった。
【0024】
成分(D)として用いられるキレート剤は、水相において効果を発揮しうる限り特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン五酢酸、およびそれらの塩等を挙げることができる。塩の例としては、特に限定されず、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、第3級アミン等の塩等を挙げることができ、好ましい例として、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、または亜鉛塩等を挙げることができる。また、成分(D)として用いられるキレート剤の他の例として、例えば、グリシン、有機酸の塩(例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、ピロリドンカルボン酸、ポリリン酸、メタリン酸等の塩)が挙げられる。塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、バリウム塩等を挙げることができる。成分(D)としては、必要に応じて1種または2種以上用いることができる。
【0025】
成分(D)の特に好ましい例は、エチレンジミン四酢酸およびその塩、ならびにジエチレントリアミン五酢酸およびその塩からなる群より選択されるいずれかである。これらは、pHが中性領域でキレート能が高く、かつ配位数が多い点でも有益だと考えられる。より具体的な例は、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、およびジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウムである。
【0026】
本発明の組成物における成分(D)の含有量の下限値は、その成分のキレート能に応じ、適宜設計することができる。例えば、0.001%以上とすることができ、0.005%以上とすることが好ましく、0.01%以上とすることがより好ましい。成分(D)の上限値は、経済性、その成分(D)の溶解性、その成分(D)の安定性に考慮して定めることができる。例えば、5%以下とすることができ、2%以下とすることが好ましく、1%以下とすることがより好ましく、0.5%以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
さらに、成分(A)との含有質量割合に関しては、(D)/(A)=0.0002〜0.8とすることができ、0.0005〜0.4とすることが好ましく、0.001〜0.2とすることがより好ましい。この範囲であれば、(A)の安定化に十分寄与することができる。
【0028】
〔成分(E)〕
本発明の組成物は、pH6.0〜8.5、好ましくは6.0〜8.0、より好ましくは6.0〜7.5に調整され、またその範囲内にpHを維持するために、pH緩衝剤が含有される。pH緩衝剤は、pH調整剤と称されることもある。本発明者の検討によると、成分(A)の溶液は、適切なpH範囲を外れた条件では、析出や黄変を生じうる。特に50℃を越えるような比較的高い温度の状態では、そのままでは液性はアルカリ性に変化し、黄変の程度が著しく悪化すると考えられる。
【0029】
pH緩衝剤は、pHを適切な範囲に維持することができるものあれば特に限定されないが、典型的には、弱酸と強塩基の塩、弱酸から選択される1種又は2種の使用であり、具体的には、リン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、メタリン酸が挙げられる。好ましいpH緩衝剤はリン酸およびその塩、クエン酸およびその塩が挙げられる。なお、本発明で組成物のpH値を示すときは、特に記載した場合を除き、25℃のときの値である。
【0030】
本発明の成分(E)の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば0.01〜5.0とすることができ、0.05〜3.0%であることが好ましく、0.1〜2.0%であることがより好ましい。
【0031】
〔他の成分〕
【0032】
本発明の組成物には、成分(A)やその他の成分を溶解するための溶媒として、水を用いる。水は、使用時および使用後の皮膚にみずみずしい感触を付与しうる。水としては、精製水、温泉水、深層水、又は植物等の水蒸気蒸留水等を用いることができる。水の含有量は特に限定されず適宜、他の成分量に応じて含有することができるが、好ましい含有量は50〜95%であり、より好ましい含有量は60〜90%である。
【0033】
本発明の組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で種々の成分、具体的には、油剤、アルコール類、粉体、溶性高分子、皮膜形成剤、界面活性剤、有機変性粘土鉱物、樹脂、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、香料、清涼剤、酸化防止剤等を添加することができる。
【0034】
本発明の組成物には、比較的少量であれば、油剤を含有させることができる。油分は肌を柔軟にし、肌のエモリエント感を付与する作用を発揮しうる。
【0035】
本発明の組成物には、美白や抗酸化等を目的とした美容剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
【0036】
美白剤としては、アルブチン、ビタミンCおよびその誘導体、サンザシ抽出物、インチンコウ(カワラヨモギ)抽出物、カンゾウ抽出物、クララ(クジン)抽出物、コムギ抽出物、サイシン抽出物、コメおよびコメヌカ抽出物、ブラックカラント抽出物、イブキトラノオ抽出物、ノイバラ(エイジツ)抽出物、エゾウコギ抽出物、ソウハクヒ抽出物、トウキ抽出物、コーヒー抽出物、ハトムギ(ヨクイニン)抽出物等が挙げられる。抗酸化剤としては、コエンザイムQ10、αリポ酸、ビタミンEおよびその誘導体、カロチノイド、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ルチンおよびその誘導体、グルタチオンおよびその誘導体、スーパーオキサイドディスムターゼ、マンニトール、ケイケットウ抽出物、ゲンノショウコ抽出物、シャクヤク抽出物、スーパーオキサイドディスムターゼ、イチョウ抽出物、コガネバナ(オウゴン)抽出物、マイカイカ(マイカイ、ハマナス)抽出物、トルメンチラ抽出物、ブドウ抽出物、ヤシャジツ(ヤシャ)抽出物、ユキノシタ抽出物、ローズマリー(マンネンロウ)抽出物、茶抽出物(烏龍茶、紅茶、緑茶等)等が挙げられる。
【0037】
〔製造方法〕
本発明は、下記の工程により得られる、組成物を提供する;
(1)成分(A)を成分(B)に溶解する工程、
(2)前記(1)の溶解液に水の存在下で下記の成分(C)を添加して中和し、得られた中和液に、下記の成分(D)および(E)を混合するか、または前記(1)の溶解液に下記の成分(C)を添加して中和し、得られた中和液に、水の存在下で下記の成分(D)および(E)を混合する工程。
成分(A)〜(E)については、上述したとおりである。
【0038】
本発明者の検討によると、単に成分(A)は水にも油剤にもそのまま溶解させることが困難であり、単に混合するのみでは、溶解した状態とすることができず、含有に際しては、含有量や他の成分との組み合わせのみならず、製造方法にも留意する必要があると考えられた。前掲特許文献1〜5には、p−クマル酸を含有する組成物が記載されているものもあるが、どのように製造されたかは一切示されていない。また記載された含有量で成分を単に混合するのみでは、p−クマル酸は溶解しないと考えられる。
【0039】
成分(A)を有効に溶解するためには、まず成分(A)を成分(B)に溶解するとよい。このとき、必要に応じ、加温してもよい。溶解後、中和剤、pH緩衝剤、キレート剤等の添加工程を経て、p−クマル酸を有効成分とする組成物を製造することができる。成分(C)として水酸化ナトリウムのような中和に際して水が必要な物質を用いる場合は、中和に際して、系に水を加える。一方で、成分(C)としてトリエタノールアミンのような中和に際して水が必要ではない物質を用いる場合は、水は、成分(D)および(E)を混合する際に、系に加えることができる。本発明の組成物の溶解や添加のためには、当業者に知られた常法を用いることができる。
【0040】
〔安定性評価方法および評価基準〕
本発明により得られた組成物は、高温で保存した場合および長期間保存した場合であっても、成分(A)に起因する、黄変および析出が抑制される。本発明で「高温」というときは、特に記載した場合を除き、50℃以上をいう。高温での安定性および保存時の安定性は、例えば1ヶ月保存した際の、変色の有無、沈殿の有無を確認することによって、評価できる。
【0041】
本発明の組成物においては、成分(A)に起因する黄変および析出が抑制されたものであるが、これらの程度は、当業者であれば、化粧料または皮膚外用剤に適用される既存の手法および判断基準に基づき、適宜判定することができる。例えば、黄変に関しては、4〜5段階程度の判断基準を設け、訓練された専門家により、目視で判断することができる。また、比較的透明な剤形である場合には、適切な波長、例えば400nmにおける吸光度の値で評価することができる。400nmにおける吸光度を測定し、保存前のものとの差が0.2未満であれば、黄変がないかまたは化粧料または皮膚外用剤として許容できるものであると判断することができる。また析出に関しても、訓練された専門家により、目視で判断することができる。
【0042】
本発明の組成物は、化粧料または皮膚外用剤とすることができる。化粧料または皮膚外用剤である場合、各成分はいずれも、化粧料または皮膚外用剤として許容されるものを選択することができる。本発明の組成物の形態には特に限定はなく、例えば、化粧水、水中油型または油中水型乳液、美容液、マッサージ料、パック料を例示することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。尚、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0044】
下記表1に示す処方の化粧水を下記製造方法にて調製し、50℃で1週間または2週間保存した際の安定性(黄変および析出)について下記の方法により評価した。その結果も併せて表1に示す。
【0045】
〔調製方法〕
(1)成分1を成分2に溶解した。
(2)前記(1)の溶解液に成分3を加えて中和した。
(3)前記(2)の中和した液に成分4〜6を加えてpHを調製した。
(4)さらに成分7〜12を成分13に溶解したものを加えて、化粧水を得た。
【0046】
〔評価方法〕
黄変および析出の有無を下記にしたがって判定した。
黄変(400nm吸光度)
各試料を原液のまま1cmセルに入れ、吸光度計U−3210(日立社製)を用いて波長400nmの吸光度を測定することにより評価した。コントロールとして蒸留水を使用した。製造直後(初期)及び50℃1ヶ月保管後の吸光度を比較し、その差を下記評価基準に従って評価した。( )内は、化粧料評価の専門家によるコメントである。
◎:0.1未満 (黄変が全く見られない、あるいはわずかに黄変が見られるレベル)
○:0.1以上0.2未満 (黄変が見られるが、化粧料として問題ないレベルである)
△:0.2以上0.3未満 (黄変が見られ、化粧料としての品質上問題となる)
×:0.3以上 (黄変が著しい)
析出
各試料を50℃にて1ヶ月保管した後、化粧料評価の専門家が目視により、析出の有無を判定した。
○: 析出が認められない
×: 析出が認められる
【0047】
なお、pHは、製造直後(初期)及び50℃1ヶ月保管後のpHを25℃にて測定した。初期値と比べてpHが上昇している場合は△、下降している場合は▲としてそれぞれ変化値を括弧内に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から明らかなように、実施例1〜4は黄変や析出、pH変化が抑制されたものであった。一方、成分(D)のキレート剤を含有しない比較例1はp−クマル酸が析出し、また、p−クマル酸に対して何らかの保護作用が期待できる紫外線吸収剤を含有した比較例2及び比較例3は、黄変の程度が著しく悪いものであった。
〔処方例〕
美容液(液状)
(成分) (%)
1.1,3−ブチレングリコール 10
2.p−クマル酸 0.5
3.トリエタノールアミン 0.5
4.精製水 10.0
5.トリオクタン酸グリセリル 0.03
6.コハク酸ジ2−エチルヘキシル 0.03
7.ジ−2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 0.05
8.キサンタンガム 0.05
9.精製水 残量
10.アスコルビン酸−2−硫酸2ナトリウム 1.0
11.エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.1
12.乳酸ナトリウム 0.5
13.亜ジチオン酸ナトリウム 0.1
14.グリシルグリシン 0.1
15.クエン酸3Na 0.28
16.リン酸一水素2Na 0.02
17.1,2−ペンタンジオール 10.0
18.グリセリン 5.0
19.エタノール 3.0
20.水溶性コラーゲン1%水溶液(注1) 1
21.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
22.香料 0.01
(注1)ファルコニックスCTP−F(BG) (一丸ファルコス社製)
(製造方法)
A.成分1〜2を均一に溶解したものに、成分3〜7を加え混合する。
B.70℃に加熱した成分9に成分8を添加し混合攪拌し、室温まで冷却する。
C.Bを攪拌しながら、成分10〜22を添加し、均一に混合する。
D.CにAを添加し、均一に混合する。
E.Dを容器に充填して、美容液を得た。
この美容液は、50℃で1ヶ月保管した場合であっても、黄変や析出、pH変化が抑制されており保存安定性に優れたものであった。
【0050】
シート状化粧料
(成分) (%)
1.テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット 0.01
2.ポリオキシエチレン(40モル)硬化ヒマシ油 0.01
3.ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油 0.01
4.セスキオレイン酸ソルビタン 0.01
5.トリセテアレス−4リン酸(注2) 0.01
6.PPG−9ジグリセリル(注3) 1.0
7.エタノール 10.0
8.1,3−ブチレングリコール 5.0
9.p−クマル酸 2.0
10.アルギニン 0.1
11.水酸化ナトリウム 0.06
12.精製水 残量
13.ピロ亜硫酸ナトリウム 0.01
14.エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.3
15.クエン酸3Na 0.28
16.リン酸一水素2Na 0.02
17.1,2−ペンタンジオール 8.0
18.ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
19.トラネキサム酸 2.0
20.カルボキシビニルポリマー(注4) 0.2
21.フェノキシエタノール 0.1
22.香料 0.01
(注2)HOSTAPHAT KW340D(クラリアント・ジャパン社製)
(注3)SY−DP9(阪本薬品工業社製)
(注4)CARBOPOL 980(LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS社製)
(製造方法)
A:成分1〜6を混合溶解する。
B:成分7〜9を均一溶解する。
C:成分10〜12を均一溶解する。
D:AにBを添加し、さらにCおよび成分13〜22を添加し、これを不織布に含浸させる。
E:Dをアルミラミネートの袋状容器に密封充填し、シート状化粧料を得る。
このシート状化粧料は、50℃で1ヶ月保管した場合であっても、黄変や析出、pH変化が抑制されており保存安定性に優れたものであった。
【0051】
乳液
(成分) (%)
1.水添大豆リン脂質 0.2
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 8.0
4.p−クマル酸 0.2
5.トリエタノールアミン 0.2
6.ベヘニルアルコール 0.2
7.ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.2
8.セタノール 1.0
9.バチルアルコール 0.6
10.ポリオキシエチレン(20)フィトステロール(HLB15.5) 0.3
11.精製水 30.0
12.マンニトール 0.3
13.クエン酸3Na 0.1
14.リン酸1水素Na 適量
15.精製水 残量
16.エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.02
17.ダイズエキス1.4%水溶液(注5) 5.0
(注5)大豆エキス(香栄興業社製)
(製造方法)
A:成分1〜4を75℃に加温し、ディスパーミキサーにて4000rpmで3分間攪拌する。
B:成分5〜10を75℃に加温し、Aに添加してディスパーミキサーにて4000rpm、3分間攪拌する。
C:成分11〜17をBに添加してディスパーミキサーにて4000rpm、3分間攪拌し乳液を得た。
この乳液は、50℃で1ヶ月保管した場合であっても、黄変や析出、pH変化が抑制されており保存安定性に優れたものであった。