特許第6178653号(P6178653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178653
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】支承構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20170731BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20170731BHJP
   E04B 1/36 20060101ALI20170731BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20170731BHJP
   F16C 17/26 20060101ALI20170731BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20170731BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   E04H9/02 331E
   E01D19/04 101
   E04B1/36 F
   F16F15/02 L
   F16C17/26
   F16C33/10 D
   F16C33/10 Z
   F16C17/04 Z
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-156455(P2013-156455)
(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-25318(P2015-25318A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(72)【発明者】
【氏名】田中 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】長峰 洋一
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−099051(JP,U)
【文献】 特開2006−118170(JP,A)
【文献】 特開平09−210121(JP,A)
【文献】 実開平05−081307(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0000159(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00−9/02
F16F 15/02
E01D 1/00−24/00
E04B 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物及び下部構造物におけるそれぞれの対向部分に配設した上沓及び下沓で構成し、該上沓及び該下沓との対向部分における摺動面同士の摺動を許容するとともに、前記上沓及び前記下沓のうちいずれか一方の沓の摺動面を他方の沓の摺動面に比べて所定の方向に長く形成し、前記上沓及び前記下沓の相対的な長手方向の摺動を許容する可動支承装置であって、
前記上沓及び前記下沓の上下方向の離間を規制する規制手段を、前記所定の方向に長く形成するとともに、前記上沓及び前記下沓のうちいずれか一方に備え、
前記上沓及び前記下沓のうち他方の沓を、
前記規制手段によって規制される被規制部材と、
前記摺動面を有する摺動部材と、
少なくとも一部が前記被規制部材と前記摺動部材との間に配置された支承部材とで構成し、
前記被規制部材及び前記摺動部材のそれぞれと前記支承部材との対向面を、前記支承部材が傾斜可能となる、上下方向のいずれかに凸な球状面で構成し
前記上沓及び前記下沓において摺動する前記摺動面及び、前記規制手段と前記被規制部材とが対向して摺動する対向面のそれぞれにおいて、摺動する面のうち少なくともいずれか一方の面に摺動状態における摩擦を低減する摩擦低減手段を備え、
前記規制手段と前記被規制部材とが平面で対向するとともに、前記所定の方向に摺動可能に構成した
可動支承装置。
【請求項2】
前記下沓の摺動面を、前記上沓の摺動面に比べて前記所定の方向に長く形成し、
前記上沓の上方向への離間を規制する前記規制手段を、前記下沓に備え、
前記上沓を、
前記被規制部材と、前記摺動部材と、前記上部構造物に接続された前記支承部材とで構成した
請求項1に記載の可動支承装置。
【請求項3】
前記規制手段を、
前記被規制部材の上下方向の離間を規制する離間方向規制手段と、前記長手方向に交差する幅方向の相対移動を規制する幅方向規制手段とで構成し、
前記被規制部材と、前記離間方向規制手段および前記幅方向規制手段とが平面で対向するとともに、摺動可能に構成した
請求項1または2に記載の可動支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、下部構造物で上部構造物を支持する支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、橋梁、免震構造物、あるいは固定構造物同士を接続する接続部分等の相対的に可動する構造物では、主桁等の被支持構造物(上部構造物)と、橋脚等の支持構造物(下部構造物)との間に配設され、被支持構造物(上部構造物)に固定された上沓と、支持構造物(下部構造物)に固定された下沓との境界面、つまり摺動面同士が摺動する支承装置が設けられる。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された支承装置は、下沓の摺動面が所定の方向に長く形成され、上沓の下沓に対する長手方向の摺動を許容する構成であるとともに、長手方向に対して交差する幅方向の断面が略T型に形成された下沓に対して、T型のフランジ部に係止することで上沓は下沓に対して、上向きおよび幅方向の離間が規制されている。
【0004】
したがって、特許文献1の支承装置は、下沓に対して上沓が長手方向に摺動するとともに、下沓に対して上沓が浮き上がったり、幅方向に相対移動して離間することを防止できるものの、上沓と下沓との摺動面を上向きに凸な球面状に形成した特許文献2に開示の支承装置のように、下沓に対して、上沓が傾斜方向に摺動することはできるが、支承装置設置面(地面)に沿った摺動はできなかった。
したがって、下部構造物に対して相対的に移動する上部構造物の様々な姿勢を許容して、安全に支承することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−210121号公報
【特許文献2】特開2006−118170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明では、上沓が下沓と上下方向に離間することなく、下部構造物に対して、様々な姿勢で相対的に移動する上部構造物を安全に支承できる支承構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上部構造物及び下部構造物におけるそれぞれの対向部分に配設した上沓及び下沓で構成し、該上沓及び該下沓との対向部分における摺動面同士の摺動を許容するとともに、前記上沓及び前記下沓のうちいずれか一方の沓の摺動面を他方の沓の摺動面に比べて所定の方向に長く形成し、前記上沓及び前記下沓の相対的な長手方向の摺動を許容する可動支承装置であって、前記上沓及び前記下沓の上下方向の離間を規制する規制手段を、前記所定の方向に長く形成するとともに、前記上沓及び前記下沓のうちいずれか一方に備え、前記上沓及び前記下沓のうち他方の沓を、前記規制手段によって規制される被規制部材と、前記摺動面を有する摺動部材と、少なくとも一部が前記被規制部材と前記摺動部材との間に配置された支承部材とで構成し、前記被規制部材及び前記摺動部材のそれぞれと前記支承部材との対向面を、前記支承部材が傾斜可能となる、上下方向のいずれかに凸な球状面で構成し、前記上沓及び前記下沓において摺動する前記摺動面及び、前記規制手段と前記被規制部材とが対向して摺動する対向面のそれぞれにおいて、摺動する面のうち少なくともいずれか一方の面に摺動状態における摩擦を低減する摩擦低減手段を備え、前記規制手段と前記被規制部材とが平面で対向するとともに、前記所定の方向に摺動可能に構成したことを特徴とする。
【0008】
上述の前記上沓及び前記下沓において摺動する前記摺動面及び、前記規制手段と前記被規制部材とが対向して摺動する対向面のそれぞれにおいて、摺動する面のうち少なくともいずれか一方の面とは、前記上沓の摺動面及び前記下沓の摺動面のうち少なくともいずれか一方の面、並びに前記規制手段と前記被規制部材とが対向して摺動する対向面のうち少なくともいずれか一方の面との意味である。また、摩擦低減手段は、摺動樹脂材などの摩擦係数の少ない材料で構成した手段、あるいは、例えば鋼製部材の表面に平滑処理を施した平滑面で構成した手段、あるいは部材表面に摩擦係数の低い材料を用いたコーティング処理や貼り付けによる手段、さらには、黒鉛や2硫化モリブデンなどの無潤滑被膜の形成による手段とすることができる。
【0009】
この発明により、上下動の地震入力に対しても、上沓が下沓と上下方向に離間することなく、下部構造物で上部構造物を安全に支承することができる。
詳しくは、前記上沓及び前記下沓の上下方向の離間を規制する規制手段を、前記上沓及び前記下沓のうちいずれか一方に備えたことにより、上沓が下沓と上下方向に離間することなく、様々な姿勢で相対的に移動する上部構造物を安全に支承することができる。
【0010】
また、前記上沓及び前記下沓のうちいずれか一方の沓の摺動面を他方の沓の摺動面に比べて所定の方向に長く形成することによって、前記上沓及び前記下沓が前記長手方向に相対的に摺動することができる。
【0011】
さらにまた、前記上沓及び前記下沓のうち摺動面が所定の方向に長く形成した一方の沓と摺動する他方の沓を、前記規制手段によって規制される被規制部材と、前記摺動面を有する摺動部材と、少なくとも一部が前記被規制部材と前記摺動部材との間に配置された支承部材とで構成し、前記被規制部材及び前記摺動部材のそれぞれと前記支承部材との対向面を、前記支承部材が傾斜可能となる、上下方向のいずれかに凸な球状面で構成したことにより、被規制部材及び摺動部材に対して支承部材を傾斜方向に摺動させることができ、上沓と下沓のうち一方の沓に対して他方の沓がいずれの方向にも傾斜することができる。
【0012】
したがって、上沓と下沓とは、上下方向の離間が規制された状態で、長手方向に摺動できるとともに、一方の沓に対して他方の沓を傾斜させることができ、下部構造物に対して様々な姿勢で相対的に移動する上部構造物を安全に支承することができる。
【0013】
また、前記上沓及び前記下沓において摺動する前記摺動面及び、前記規制手段と前記被規制部材とが対向して摺動する対向面のそれぞれにおいて、摺動する面のうち少なくともいずれか一方の面に摺動状態における摩擦を低減する摩擦低減手段を備えることにより、摺動する摺動面の摩擦が摩擦低減手段によって低減され、スムーズに長手方向に摺動して、下部構造物で上部構造物を安全に支承することができる。
【0014】
この発明の態様として、前記下沓の摺動面を、前記上沓の摺動面に比べて前記所定の方向に長く形成し、前記上沓の上方向への離間を規制する前記規制手段を、前記下沓に備え、前記上沓を、前記被規制部材と、前記摺動部材と、前記上部構造物に接続された前記支承部材とで構成することができる。
【0015】
この発明により、上下動の地震入力に対しても、上沓が下沓に対して上方に離間することなく、下部構造物で上部構造物を安全に支承することができる。
詳しくは、前記下沓に対する前記上沓の上方への離間を規制する規制手段を前記下沓に備え、前記下沓の摺動面を上沓の摺動面に比べて所定の方向に長く形成するとともに、上沓を、前記規制手段によって規制される被規制部材と、前記摺動面を有する摺動部材と、少なくとも一部が前記被規制部材と前記摺動部材との間に配置された支承部材とで構成し、前記被規制部材及び前記摺動部材のそれぞれと前記支承部材との対向面を、前記支承部材が傾斜可能となる、上下方向のいずれかに凸な球状面で構成したことにより、上沓が下沓に対して上方に離間することなく、上沓において被規制部材及び摺動部材に対して支承部材を傾斜方向に摺動させ、下沓に対して上沓をいずれの方向にも傾斜させることができる。
【0016】
したがって、前記下沓に対する前記上沓の前記長手方向の相対的な摺動を許容するとともに、下沓に対して上沓が傾斜することができ、様々な姿勢で上部構造物に対して相対的に移動する上部構造物を安全に支承することができる。
【0017】
またこの発明の態様として、前記規制手段を、前記被規制部材の上下方向の離間を規制する離間方向規制手段と、前記長手方向に交差する幅方向の相対移動を規制する幅方向規制手段とで構成し、前記被規制部材と、前記離間方向規制手段および前記幅方向規制手段とが平面で対向するとともに、摺動可能に構成することができる。
【0018】
この発明により、上沓が下沓に対して上下方向に加えて幅方向にも離間することなく、さらにスムーズにそれぞれの方向に摺動して、下部構造物で上部構造物を安全に支承することができる。
また、前記被規制部材と、前記離間方向規制手段および前記幅方向規制手段とが平面で対向するとともに、摺動可能に構成したため、例えば、前記被規制部材と規制手段とが局所的に当接しながら摺動することでいずれか一方が損傷する場合に比べ、長期に亘って確実な規制状態を実現することができる。また、前記被規制部材と、前記離間方向規制手段および前記幅方向規制手段とが平面で対向するため、前記被規制部材と、前記離間方向規制手段および前記幅方向規制手段における対向面において容易に摩擦低減手段を備えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、上沓が下沓と上下方向に離間することなく、下部構造物に対して、様々な姿勢で相対的に移動する上部構造物を安全に支承できる支承構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】可動支承装置の斜視図。
図2】可動支承装置の説明図。
図3】可動支承装置の分解斜視図。
図4】可動支承装置の分解斜視図。
図5】長手方向に傾斜及び可動した状態の可動支承装置の説明図。
図6】幅方向に傾斜した状態の可動支承装置の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の一実施形態を以下図1乃至図6と共に説明する。
図1は可動支承装置1の斜視図を示し、図2は可動支承装置1の説明図を示している。
【0022】
詳しくは、図1は、可動支承装置1の構造の理解を容易にするため可動支承装置1の手前側の一部を切り欠いて図示している。また、図2(a)は図1におけるA−A矢視断面図を示し、図2(b)はB−B矢視断面図を示し、図2(c)は可動支承装置1の平面図を示している。
【0023】
図3は可動支承装置1の上方から見た分解斜視図を示し、図4は可動支承装置1の下方から見た分解斜視図を示し、図5は下沓20に対して上沓10が長手方向Lに傾斜及び可動した状態の可動支承装置1の説明図を示し、図6は下沓20に対して上沓10が幅方向Wに傾斜した状態の可動支承装置1の説明図を示している。
【0024】
詳しくは、図5(a)は下沓20に対して上沓10が長手方向Lに可動するとともに、長手方向Lに傾斜した状態の図1におけるB−B矢視断面図を示し、図5(b)は同状態の可動支承装置1の平面図を示している。図6(a)は下沓20に対して上沓10が幅方向Wに傾斜した状態の図1におけるA−A矢視断面図を示し、図6(b)は同状態の可動支承装置1の平面図を示している。また、図3及び図4では、図1と同様に、可動支承装置1を構成する各構成要素の構造の理解を容易にするため可動支承装置1の各構成要素の手前側の一部を切り欠いて図示している。
【0025】
可動支承装置1は、図示省略する下部構造物で上部構造物を支承する支承装置であり、下部構造物の上部に配置する下沓20と、上部構造物の底部に配置する上沓10とで構成し、下沓20に対する上沓10の長手方向Lの可動と傾斜を許容する構成である。
【0026】
上部構造物の底部に配置する上沓10は、浮遊リング11と、支承上部部材12と、鉛直支持ベアリング保持部材13と、鉛直支持ベアリング14とで構成している。
浮遊リング11は、平面視中央に後述する支承上部部材12の支承上部部材本体121の貫通を許容する円形開口111を有する平面視矩形リング状であり、所定の高さで形成している。また、浮遊リング11の底面側における円形開口111の下部に対応する部分には、上向きに凸な球面状、つまりいずれの方向の断面においても同じ径の上向きに凸な円弧状となる球面部112によって球面開口部113を形成している。なお、円形開口111は、後述する支承上部部材12の支承上部部材本体121より大径に形成している。
【0027】
さらに、浮遊リング11はSS400などの構造用鋼材で構成し、浮遊リング11のリング上面11a及び球面開口部113を形成する球面部112は、鋼材表面に平滑処理を施した平滑面としている。なお、図1図3及び図4では、鋼材表面に平滑処理を施した平滑面をドットで図示している。
【0028】
支承上部部材12は、上部の円柱状に形成した支承上部部材本体121と、支承上部部材本体121の下部において、上述の球面部112と対向するとともに、球面部112と同径の球面状に形成した球状拡幅部122とで構成している。また、支承上部部材12の支承上部部材底面12aの底面視中央には、上向きに凸な球面状、つまりいずれの方向の断面においても同じ径の上向きに凸な円弧状となる球面部123によって、上向きに凸な球面レンズ状の凹部となる球面凹部124を形成している。
【0029】
なお、球面凹部124を形成する球面状の球面部123は、球面部112と同径の球面で形成した球状拡幅部122と同心であり、球状拡幅部122の厚み分径の小さな球面で形成している。
また、支承上部部材12は、浮遊リング11と同様に、SS400などの構造用鋼材で構成し、浮遊リング11の球面開口部113と対向するとともに摺動する球状拡幅部122の表面、及び後述する鉛直支持ベアリング保持部材13と対向するとともに、摺動する球面部123は、鋼材表面に平滑処理を施した平滑面としている。
【0030】
鉛直支持ベアリング保持部材13は、底面視円形の上向きに凸な球面レンズ状であり、浮遊リング11や支承上部部材12と同様に、SS400などの構造用鋼材で構成している。また、球状拡幅部122の球面凹部124において球面部123と対向するとともに摺動する鉛直支持ベアリング保持部材13の上側の球面部分13aは、球面部123と同径で形成するとともに、鋼材表面に平滑処理を施した平滑面としている。
【0031】
鉛直支持ベアリング保持部材13の保持部材底面13bに装着される鉛直支持ベアリング14は、保持部材底面13bの平面形状と同じ平面視円形の板状であり、摩擦係数の低い樹脂製摺動材で構成している。
【0032】
下部構造物の上部に配置する下沓20は、正面視凹状で長手方向Lに長い支承下部部材22と、支承下部部材22の上部における幅方向Wの両側において、対称な向きで配置される引き抜き抵抗部材21とで構成している。
【0033】
支承下部部材22は、上沓10における浮遊リング11より幅広の支承下部部材本体221と、支承下部部材本体221の幅方向W両側において本体上面221aより上向きに突出するガイド側部222とで、正面視凹状に形成し、支承下部部材本体221の本体上面221aと、ガイド側部222のガイド側部内側面222aとで三方を囲む摺動溝223を構成している。
【0034】
摺動溝223は、上沓10の浮遊リング11が上方から嵌まり込むとともに、ガイド側部222のガイド側部内側面222aによって浮遊リング11の幅方向Wの離間を規制できるように、ガイド側部222のガイド側部内側面222a同士の間隔を、浮遊リング11の幅方向Wの長さよりわずかに大きく形成している。なお、本実施形態では、ガイド側部222のガイド側部内側面222a同士の間隔、つまり摺動溝223の幅方向Wの長さを浮遊リング11より3mm程度大きく形成している。
【0035】
また、本体上面221aからのガイド側部222の突出量、つまり摺動溝223の深さは、浮遊リング11の高さよりわずかに高くなるように形成しており、本実施形態では、本体上面221aからのガイド側部222の突出量を浮遊リング11の高さより3mm程度高く形成している。
【0036】
さらに、支承下部部材22は、上沓10を構成する浮遊リング11、支承上部部材12及び鉛直支持ベアリング保持部材13と同様に、SS400などの構造用鋼材で構成し、上沓10の鉛直支持ベアリング14と対向するとともに摺動する支承下部部材本体221の本体上面221aを、鋼材表面に平滑処理を施した平滑面としている。
【0037】
引き抜き抵抗部材21は、支承下部部材22のガイド側部222のガイド側部上面222bに対して、ガイド側部外側面222cから跨ぐように被せ、水平部分211が摺動溝223に向かって突出するように装着する断面L型部材であり、SS400などの構造用鋼材で構成している。
【0038】
なお、幅方向Wの両側のガイド側部222に対して装着される引き抜き抵抗部材21は、それぞれの水平部分211が摺動溝223に向かって突出するように、左右対称な向きで装着され、図示省略する締結治具でガイド側部222に固定される。
【0039】
なお、ガイド側部222に装着された引き抜き抵抗部材21の水平部分211の水平部分底面211aは、上沓10の浮遊リング11と略同じ高さで形成された摺動溝223に嵌め込まれた浮遊リング11のリング上面11aと対向するとともに摺動するため、鋼材表面に平滑処理を施した平滑面としている。
【0040】
このように各構成要素を構成した可動支承装置1は、上部構造物の底部に配置する上沓10と、下部構造物の上部に配置する下沓20とを組み付けて構成する。
さらに詳述すると、まず、鉛直支持ベアリング保持部材13の保持部材底面13bに鉛直支持ベアリング14を貼りつけ一体化する。そして、鉛直支持ベアリング保持部材13の球面部分13aと、支承上部部材12の球面部123とが対向するように、鉛直支持ベアリング保持部材13を支承上部部材12の球面凹部124に嵌め込む。また、支承上部部材12の支承上部部材本体121を浮遊リング11の円形開口111に挿通するとともに、球状拡幅部122と球面部112とが対向するように、球状拡幅部122を球面開口部113に嵌め込んで上沓10を組み付ける。そして、鉛直支持ベアリング14の底面が支承下部部材22の本体上面221aと対向するように、浮遊リング11を摺動溝223に嵌めつける。そして、その上部から引き抜き抵抗部材21を固定して、下沓20を組み付けるとともに、可動支承装置1を構成する。
【0041】
なお、上述の組み付け順序の説明は、各構成要素の相互関係が明確となるような組み付け順序で組み付けており、この順序に限定されることなく、例えば、支承下部部材22の本体上面221aに対して、鉛直支持ベアリング14、鉛直支持ベアリング保持部材13、支承上部部材12、浮遊リング11及び引き抜き抵抗部材21を、下からこの順で組み付けて可動支承装置1を構成してもよい。
【0042】
このようにして組み付けた可動支承装置1の上沓10と下沓20とは、上沓10の鉛直支持ベアリング14と、下沓20における摺動溝223の底面となる支承下部部材本体221の本体上面221aとが長手方向Lに摺動可能に対向する。同様に、浮遊リング11のリング上面11aと、引き抜き抵抗部材21の水平部分211の水平部分底面211aとも、長手方向Lに摺動可能に対向する。
【0043】
さらに、上沓10では、球面凹部124において、球面凹部124を形成する球面部123と鉛直支持ベアリング保持部材13の球面部分13aとが、球面に沿って摺動可能に対向するとともに、球面開口部113において、球面開口部113を形成する球面部112と球状拡幅部122とが、球面に沿って摺動可能に対向する。
【0044】
具体的には、例えば、図5に示すように、鋼材表面に平滑処理を施した平滑面である支承下部部材本体221の本体上面221aと、樹脂製摺動材で構成した鉛直支持ベアリング14とが摺動可能に対向し、下沓20に対して上沓10が長手方向Lに相対移動することができる。このとき、浮遊リング11は、摺動溝223を構成するガイド側部222によって幅方向Wの離間が規制され、引き抜き抵抗部材21の水平部分211によって引き抜き方向の離間が規制されている。
【0045】
また、球面凹部124を形成する球面部123と鉛直支持ベアリング保持部材13の球面部分13a、並びに、球面開口部113を形成する球面部112と球状拡幅部122とが、それぞれの平滑面によって、球面に沿って摺動可能となるため、上沓10において浮遊リング11及び鉛直支持ベアリング保持部材13に対して支承上部部材12が、例えば長手方向L(図5参照)や幅方向W(図6参照)のように、いずれの方向にも傾斜することができる。
【0046】
したがって、下沓20が配置される下部構造物に対して、上沓10が配置される上部構造物が、長手方向Lや傾斜方向に相対移動した場合であっても、スムーズに相対移動させながら、安全に支承することができる。
【0047】
このように、上部構造物及び下部構造物におけるそれぞれの対向部分に配設し、互いの摺動面での摺動を許容する上沓10及び下沓20で構成する可動支承装置1は、下沓20における摺動面である支承下部部材本体221の本体上面221aを、上沓10における摺動面を構成する鉛直支持ベアリング14に比べて長手方向Lに広く形成したことによって、下沓20に対して上沓10が長手方向Lに相対的に摺動することができる。
【0048】
また、引き抜き抵抗部材21を下沓20に備えたことにより、引き抜き抵抗部材21における水平部分211によって浮遊リング11の引き抜き方向の離間が規制される。また、浮遊リング11の球面部112と、下沓20における支承下部部材本体221の本体上面221aとの間に挟まれる、球状拡幅部122を有する支承上部部材12、鉛直支持ベアリング保持部材13及び鉛直支持ベアリング14は、浮遊リング11を介して引き抜き抵抗部材21によって引き抜き方向に規制される。したがって、下沓20に対して上沓10が引き抜き方向に離間することを防止できる。
【0049】
このように、下沓20における摺動溝223に嵌め込まれた上沓10の浮遊リング11は、引き抜き抵抗部材21によって引き抜き方向が規制されるとともに、摺動溝223を構成するガイド側部222によって、上沓10が下沓20と交差方向(幅方向W)に離間することなく、さらにスムーズに長手方向Lに摺動することができる。
【0050】
また、下沓20における支承下部部材22と浮遊リング11とが互いに対向するガイド側部内側面222aと浮遊リング11の側面11bとを平面に形成しているため、例えば、ガイド側部内側面222aに対して浮遊リング11の一部が局所的に当接しながら摺動した場合のように、ガイド側部内側面222aや浮遊リング11の一部が局所的に損傷するおそれもなく、長期に亘って確実な規制状態を実現することができる。
【0051】
また、上沓10の摺動面を構成する鉛直支持ベアリング14を摩擦係数の低い樹脂製摺動材で構成するとともに、下沓20の摺動面を構成する本体上面221aを、平滑処理を施した平滑面としているため、下沓20に対する上沓10の長手方向Lの摺動に伴う鉛直支持ベアリング14と本体上面221aとの摩擦が低減され、スムーズに長手方向Lに摺動して、下部構造物で上部構造物を安全に支承することができる。
【0052】
さらには、浮遊リング11のリング上面11a及び下沓20の引き抜き抵抗部材21における水平部分211の水平部分底面211aを、ともに鋼材表面に平滑処理を施した平滑面としているため、下沓20に対して上沓10がスムーズに長手方向Lに摺動することができる。
【0053】
さらにまた、上沓10を、引き抜き抵抗部材21によって引き抜き方向の離間が規制される浮遊リング11と、摺動面を構成する鉛直支持ベアリング14を貼りつけた鉛直支持ベアリング保持部材13と、球状拡幅部122が浮遊リング11と鉛直支持ベアリング保持部材13との間に配置された球状拡幅部122を有する支承上部部材12とで構成し、浮遊リング11の球面部112と、球面部112に対向する支承上部部材12の球状拡幅部122、並びに、球面凹部124を形成する球面部123及び球面部123に対向する鉛直支持ベアリング保持部材13の球面部分13aを、上向きに凸な球状面で構成したことにより、上沓10において、浮遊リング11及び鉛直支持ベアリング保持部材13に対して、支承上部部材12がいずれの傾斜方向にも摺動することができる。したがって、上沓10と下沓20とは、引き抜き方向及び交差方向(幅方向W)に離間しないように規制された状態で、長手方向Lに摺動できるとともに、下沓20に対して上沓10が傾斜方向に摺動でき、下部構造物に対して様々な姿勢で相対的に移動する上部構造物を安全に支承することができる。
【0054】
また、上沓10において、球面凹部124を形成する球面部123と鉛直支持ベアリング保持部材13の球面部分13a、並びに、球面開口部113を形成する球面部112と球状拡幅部122とを、それぞれの平滑面とするとともに、球面凹部124を形成する球面状の球面部123及び鉛直支持ベアリング保持部材13の球面部分13aを、球面部112と同径の球面で形成した球状拡幅部122と同心であり、球状拡幅部122の厚み分径の小さな球面で形成しているため、これらの球面に沿ってスムーズに摺動して、浮遊リング11及び鉛直支持ベアリング保持部材13に対して支承上部部材12は、いずれの方向にもスムーズに傾斜することができる。
【0055】
なお、このように、下沓20に対する上沓10の傾斜を許容する可動支承装置1では、支承上部部材12が傾斜しても、球面状に形成した球面部112と球状拡幅部122、及び球面部123と球面部分13aとは接触状態を保つとともに、浮遊リング11のリング上面11aが水平部分211の水平部分底面211aに当接し、鉛直支持ベアリング14と本体上面221aとが当接している。つまり、下沓20に対して上沓10が傾斜した場合においても、下沓20に対して上沓10自体が浮き上がることなく、また上沓10においても各構成要素同士が離間することがなく、確実に摺動可能な接触状態を維持しているため、例えば、さまざまな姿勢での可動支承装置1の支承状態をモデル化して解析する際において、部材同士の離間や浮き上がりという不確定要素がなく、より正確な解析を行うことができる。したがって、正確な解析に基づく安全な可動支承装置を構成することができる。
【0056】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、
一方の沓の摺動面は、上沓10の鉛直支持ベアリング14に対応し、
以下同様に、
他方の沓の摺動面は、下沓20における支承下部部材本体221の本体上面221aに対応し、
規制手段及び離間方向規制手段は、引き抜き抵抗部材21に対応し、
被規制部材は、浮遊リング11に対応し、
摺動部材は、鉛直支持ベアリング保持部材13に対応し、
支承部材は、支承上部部材12に対応し、
被規制部材及び前記摺動部材のそれぞれと前記支承部材との対向面は、球面部112、球状拡幅部122、球面部123及び球面部分13aに対応し、
摩擦低減手段は、鉛直支持ベアリング14に対応し、
幅方向規制手段は、ガイド側部222に対応するも、上記実施形態に限定するものではない。
【0057】
例えば、浮遊リング11と下沓20とにおいて、対向するとともに摺動する浮遊リング11の側面11b及びガイド側部222のガイド側部内側面222aの表面を、平滑処理を施した平滑面としてもよい。
また、引き抜き抵抗部材21と支承下部部材22とを一体化した下沓20で構成してもよい。
【0058】
さらには、上述の説明の可動支承装置1における上沓10と下沓20とを上下入れ替えてもよい。詳しくは、上下入れ替えた場合の可動支承装置は、図1に図示下向きとは逆向きとなる下向きにした引き抜き抵抗部材21と支承下部部材22とで上沓を構成し、上向きにした浮遊リング11、支承上部部材12、鉛直支持ベアリング保持部材13、及び鉛直支持ベアリング14とで下沓を構成する。このように構成した可動支承装置であっても、上述の可動支承装置1と同様の効果を奏することができる。
【0059】
また、樹脂製摺動材で構成する鉛直支持ベアリング14が摺動する本体上面221a、浮遊リング11のリング上面11a、引き抜き抵抗部材21における水平部分211の水平部分底面211a、球面状に形成した球面部112、球状拡幅部122、球面部123及び球面部分13aを、平滑処理を施した平滑面として摩擦低減したが、摩擦低減樹脂材を貼りつけてもよく、また、黒鉛や2硫化モリブデンなどの無潤滑被膜を形成して摩擦低減してもよい。
【0060】
球面に沿って摺動する球面部112及び球状拡幅部122、並びに球面部123及び球面部分13aを、下向きに凸な球面状に形成してもよく、さらには、例えば、摺動する球面部112及び球状拡幅部122を上向きに凸な球面、球面部123及び球面部分13aを下向きに凸な球面状とするように、凸な方向が異なるように形成してもよい。
【0061】
さらには、上述の説明では、浮遊リング11、支承上部部材12、鉛直支持ベアリング保持部材13、引き抜き抵抗部材21あるいは支承下部部材22を、SS400などの構造用鋼材で構成したが、種類の異なる構造用鋼材で構成してもよく、またステンレス鋼材などで構成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…可動支承装置
10…上沓
11…浮遊リング
12…支承上部部材
13…鉛直支持ベアリング保持部材
13a…球面部分
13b…保持部材底面
14…鉛直支持ベアリング
20…下沓
21…引き抜き抵抗部材
112…球面部
122…球状拡幅部
123…球面部
221…支承下部部材本体
221a…本体上面
222…ガイド側部
L…長手方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6