(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178665
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】免震試験装置及び免震試験方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20170731BHJP
【FI】
G01M7/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-171102(P2013-171102)
(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公開番号】特開2015-40735(P2015-40735A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】高井 茂光
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 信一
(72)【発明者】
【氏名】金川 基
(72)【発明者】
【氏名】成田 悠
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0080908(US,A1)
【文献】
特開2002−169460(JP,A)
【文献】
赤羽佳仁,免震システム−機器免震モジュールの開発−,精密工学会誌,2012年,第78巻第1号,P.10−13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/00−7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動台に載置される免震機能を具備する建物フレームに錘を載置してなる模擬免震建物を前記振動台に載置し、
前記模擬免震建物と前記振動台との間にエキスパンションジョイントを架橋したことを特徴とする免震試験装置。
【請求項2】
前記エキスパンションジョイントの一端を前記模擬免震建物に接続して、
前記エキスパンションジョイントの他端を前記振動台に剛結合したことを特徴とする請求項1に記載の免震試験装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の免震試験装置を用い、
前記振動台に地震動を入力することで、前記振動台上の前記模擬免震建物と前記振動台との間の前記エキスパンションジョイントに、揺れる地盤上に立つ免震建物と地盤との間の免震条件を疑似的に再現させることを特徴とする免震試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の地震動や正弦波を含む波形を再現できる振動台上に載置可能な
模擬免震建物を用いる免震試験装置と、その免震試験装置を用いる免震試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免震建物において、その実物の免震建物と地盤等との間に設置されるエキスパンションジョイントの変位追従性能は、次の何れかの方法にて検証する(非特許文献1参照)。
(1)振動台を用いて設計可動量までの損傷しないことを確認する。
(2)設計可動量まで静的に変形させて損傷しないことを確認する。
(3)設計可動量までの動作が可能なことを図面上で確認する。
【0003】
そして、検証の信頼性は、(1)が最も高く、検証された製品には品質上で最高ランクが与えられる。しかし、エキスパンションジョイントの可動範囲に対して振動台が再現可能なストロークの大きさに余裕がないことがネックとなっていた。
具体的には、エキスパンションジョイントの変位追従性能を±50cm程度まで検証する場合、従来の試験では、
図5に示すように、振動台1と不動点(振動台の基礎2)との間の相対変位をエキスパンションジョイント3に与える(非特許文献2参照)ことから、±50cm以上のストロークが振動台1に必要となってくる。
しかし、そのような振動台1は比較的規模が大きく、試験コストや実施場所等の制約が課題となっていた。
【0004】
その課題に対し、特許文献1では、
図6に示すように、エキスパンションジョイント3の可動範囲(大きな円)から小さな検証する領域を複数抽出し、大きな円の可動範囲の全体でなく、小さな検証領域に対して振動を与えるものとし、ストロークの小さな振動台で試験を行なうことを提案している。すなわち、ストロークの小さな振動台を用いた分割試験の各可動範囲(小さな円)において試験を行うものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】株式会社パラキャップ社HP(製品案内→可動試験映像) http://www.palacap.co.jp/products/kadoushiken/index.html
【非特許文献2】免震エキスパンションジョイントガイドライン 一般社団法人日本免震構造協会 2013年4月
【非特許文献3】株式会社THK HP(住宅免震) http://www.menshin.biz/?q=menshin/node/307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、
図5に示した振動台1を用いる従来の検証方法では、前述の通り、振動台1の最大ストロークの制約を受けることがネックであった。
また、特許文献1のように、可動範囲を分割して小さな検証領域とする試験方法によれば、前記制約は緩和されるものの、5〜6回程度の領域を変えた複数回の試験を必要とすることから、それも面倒なものであった。
さらに、いずれの場合とも、振動台1に与えた地震動と不動点との間の相対変位がエキスパンションジョイント3に加わるが、これは現実の地震でエキスパンションジョイント3が受ける条件とは異なるという問題がある。
つまり、現実のエキスパンションジョイントは、地震動とその応答である不動点でない免震建物との間の相対変位を受けており、これを再現することが試験での残された課題となっていた。
【0007】
本発明の課題は、振動台とエキスパンションジョイントを用いて、現実の地震動や正弦波による建物の状況を忠実に再現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
振動台に載置される免震機能を具備する建物フレームに錘を載置してなる模擬免震建物を特徴とする。
【0009】
そして、請求項1に記載の発明は、
前記模擬免震建物を前記振動台に載置し、
前記模擬免震建物と前記振動台との間にエキスパンションジョイントを架橋してなる免震試験装置を特徴とする。
【0010】
請求項
2に記載の発明は、
請求項
1に記載の免震試験装置であって、
前記エキスパンションジョイントの一端を前記模擬免震建物に接続して、
前記エキスパンションジョイントの他端を前記振動台に剛結合したことを特徴とする。
【0011】
請求項
3に記載の発明は、
請求項
1又は2に記載の免震試験装置を用い、
前記振動台に地震動を入力することで、前記振動台上の前記模擬免震建物と前記振動台との間の前記エキスパンションジョイントに、揺れる地盤上に立つ免震建物と地盤との間の免震条件を疑似的に再現させる免震試験方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来不可能であった、地震動や正弦波に対する建物応答と地震動や正弦波で揺れる地盤との間の変位を与えることができ、現実を忠実に再現した試験が可能となる。
そして、従来の試験方法に存在した振動台の最大ストロークによる制約が緩和され、ストローク分割などの面倒な実験手順が不要となる。
さらに、従来のように振動台と振動台基礎とを跨いで試験体を設置する必要がなくなり、全ての準備を振動台上で行えることから、準備作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用した建物フレームの一実施形態の概略構成を示す平面図である。
【
図2】
図1の直動転がり支承及び復元力バネを含む部分を示した側面図である。
【
図3】
図1の粘性減衰装置を含む部分を示した側面図である。
【
図4】本発明による免震試験方法を示した概略正面図である。
【
図5】従来の免震試験方法を示す概略正面図である。
【
図6】非特許文献1によるストロークの分割例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
(概要)
任意の地震動を再現できる振動台上に載置可能な模擬免震建物を用いることで、実物の免震建物と地盤等との間に設置されるエキスパンションジョイントの変位追従性能を、地震動を入力条件として検証することが可能となる。
具体的には、模擬免震建物を地震動が再現可能な振動台上に載せ、一方、模擬免震建物の振動特性(固有周期等)を決める自重、バネ特性、減衰特性、可動ストローク等を調整することで、模擬免震建物の地震動への応答特性を模擬したい実物の免震建物と同等に設定することができる。
そして、試験対象のエキスパンションジョイントは、この模擬免震建物と振動台とを架橋するよう配置されて、地震動を入力としたエキスパンションジョイントの変位追従性能が検証できるようになる。
【0015】
(実施形態)
先ず、模擬免震建物の構造について述べる。
図1から
図3は本発明を適用した建物フレーム(免震テーブル4)の一実施形態の概略構成を示すもので、免震機能を具備する建物フレームとしての免震テーブル4は、例えば住宅用のもので、図示のように、直動転がり支承5、復元力バネ6、及び粘性減衰装置7を備えている(非特許文献3参照)。
【0016】
直動転がり支承5は、LM(Linear Motion)ガイド(LMガイドは登録商標)を十字型に組み合わせたものである。
復元力バネ6は、水平方向に360度自由に動く積層ゴム等である。
粘性減衰装置7は、ボールねじ軸の直線運動をボールねじナットで回転運動に変え、そのボールねじナットに連結された内筒と、固定された外筒間に封入した粘性体にせん断力を与えて、その粘性体のせん断抵抗により地震のエネルギーを吸収する構造のものである。
【0017】
なお、直動転がり支承5、復元力バネ6、及び粘性減衰装置7は、いずれも調整可能である。
また、免震テーブル4の変位ストロークは、振動台1の最大ストロークとは別に設定可能であり、振動台1のストロークよりも大きな変位を発生させる復元力バネ6の設定も可能である。
【0018】
図4は本発明による免震試験方法の概略を示したもので、模擬免震建物9は、図示のように、免震テーブル4に所定の質量を持った錘8を載せた構造である。
以上の模擬免震建物9を振動台1の上に載置して、その模擬免震建物9と振動台1との間にエキスパンションジョイント3を架橋する。
【0019】
ここで、錘8の質量の設定と併せて、直動転がり支承5、復元力バネ6、及び粘性減衰装置7を調整することで、全体として実際の免震建物の応答を疑似再現することが可能となっている。
【0020】
そして、図示のように、エキスパンションジョイント3は、その一端が模擬免震建物9に接続され、もう一端は振動台1に剛結合10される。
このような構成において、振動台1に地震動を入力することで、揺れる地盤2上に立つ免震建物と地盤2との間の条件をエキスパンションジョイント3に正確に与えることが可能となる。
【0021】
以上、実施形態の免震試験装置によれば、免震テーブル4に錘8を載置してなる模擬免震建物9を振動台1に載置し、その模擬免震建物9と振動台1との間にエキスパンションジョイント3を架橋することで、地震動や正弦波で揺れる地盤2側を模擬として、従来不可能であった、地震動や正弦波に対する建物応答と地震動や正弦波で揺れる地盤との間の変位を与えることができ、現実を忠実に再現した試験が可能となった。
また、模擬免震建物9の滑動ストロークは、振動台1の最大ストロークとは別に設定可能なので、振動台1の最大ストロークの制約を受けることなく、それよりも大きくすることも可能である。
【0022】
そして、従来の試験方法に存在した振動台1の最大ストロークによる制約が緩和され、ストローク分割などの面倒な実験手順が不要となった。
さらに、従来のように振動台1と振動台基礎2とを跨いでエキスパンションジョイント3を設置する必要がなくなり、全ての準備を振動台1上で行えることから、準備作業が容易となった。
【0023】
(変形例)
以上の実施形態においては、免震テーブルとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他に免震用の鉄骨フレーム等、同様の免震機能を具備する建物フレームであればよい。
また、その他、具体的な細部構造等について適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0024】
1 振動台
2 振動台基礎(周囲の地盤)
3 エキスパンションジョイント
4 建物フレーム
5 直動転がり支承
6 復元力バネ
7 粘性減衰装置
8 錘
9 模擬免震建物
10 剛結合