(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178703
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20170731BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20170731BHJP
B23K 15/00 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
F01D25/00 X
F01D5/28
B23K15/00 501B
B23K15/00 505
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-234681(P2013-234681)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-94308(P2015-94308A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石原 幹久
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】柏口 康治
(72)【発明者】
【氏名】丸山 俊之
【審査官】
山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−031050(JP,A)
【文献】
特開平05−023920(JP,A)
【文献】
米国特許第5033938(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
B23K 15/00
F01D 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン動翼の先端部の翼部の前縁側にシムを介して防食片を電子ビーム溶接により接続する防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法であって、
前記電子ビーム溶接前の前記タービン動翼の先端部の翼部、前記シム及び前記防食片は最終的な蒸気タービン動翼の形状に対して板厚が大きく形成されており、
前記翼部、前記防食片、前記電子ビーム溶接時に前記翼部と前記防食片の間に設置される前記シムの何れかの素材の一部を、前記電子ビーム溶接時の溶融金属の溶け落ち防止の裏当てとして利用し、
前記電子ビーム溶接として下向き電子ビーム溶接による1層溶接を行い、
前記電子ビーム溶接後に、機械加工により前記翼部の一部、前記シムの一部、前記防食片の一部及び前記裏当て部分の除去を含めて最終的な蒸気タービン動翼の形状にすることを特徴とする防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法において、
前記裏当てとして前記シムの素材の一部を利用することを特徴とする防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法において、
前記裏当てとして前記タービン動翼の素材の一部を利用することを特徴とする防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法において、
前記裏当てとして前記防食片の素材の一部を利用することを特徴とする防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法に係り、特に、防食片を溶接により蒸気タービン動翼に接合して蒸気タービン動翼を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汽力蒸気タービン、又は、原子力蒸気タービンでは、湿り蒸気中で使用される蒸気タービン動翼前縁部の侵食を防ぐために、特許文献1〜特許文献3に記載のように、蒸気タービン動翼前縁部の蒸気流入側に、シム材を介在させて、防食材をTIG溶接(タングステン-不活性ガス溶接)、又は電子ビーム溶接で接合している。
【0003】
一般的に、電子ビームの1層溶接による接合は、素材の種類や板厚に対して、加速電圧,電子ビーム電流,溶接速度,焦点距離などの溶接条件を細かく調整し、溶け落ちが生じない最適条件を選定して施工している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-250124号公報
【特許文献2】特開昭63-97802号公報
【特許文献3】特開平5-23920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、蒸気タービンの高効率化に伴い、タービン動翼の長翼化、流れ最適化の為のタービン動翼の3次元形状化が進んでおり、防食材の板厚が大きくなっている。より厚い翼材と防食材、及びシム材に対して、下向き電子ビーム溶接による1層溶接を施工する場合、電子ビームが板厚を貫通すると同時に、電子ビームの熱により溶融した金属が自重で下方へと流れ落ちてしまい、溶融金属の溶け落ちが生じる。それに伴うビード表面のアンダーカットの発生が、防食材の接合において、施工上の重大な課題となる。
【0006】
また、電子ビームを用いた溶接において、対象とする溶接物の厚さが大きければ大きい程、溶接電流値、すなわち出力を大きくする必要がある。また、低電圧型電子ビーム溶接機では、高電圧型電子ビーム溶接機よりも施工電流値を大きくする必要がある。出力を増加させるに従って、電子ビーム出力の偏差は大きくなり、1層で溶接するための最適な溶接条件範囲は狭くなる。溶接電流における偏差は、溶融金属の溶け落ちや融合不良による欠陥の原因となり、電子ビーム溶接を用いた1層溶接での防食材の接合は極めて困難になる。
【0007】
電子ビーム溶接において、施工時の溶け落ちに対して、開先形状の裏側に当て板をして溶け落ちを防止する方法が考えられる。しかし、被施工材とは別に裏当て材を用意する必要があり、裏当て材の調達費用が発生し、製造コストの面でデメリットがある。
【0008】
本発明の目的は、裏当て材を別に用意することなく、蒸気タービン動翼の前縁に防食片を、溶け落ちを防止して電子ビーム溶接することできる防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の防食片を備えた蒸気タービン動翼の製造方法は、蒸気タービン動翼、防食片及びシムの何れかの素材の一部を、電子ビーム溶接時の溶融金属の溶け落ち防止の裏当てとして利用し、電子ビーム溶接後に、機械加工により裏当て部分の除去を含めて最終的な蒸気タービン動翼の形状にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、裏当て材を別に用意することなく、蒸気タービン動翼の前縁に防食片を、溶け落ちを防止して電子ビーム溶接することが可能となる。
【0011】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例における防食材の接合工程の流れ図である。(実施例1)
【
図2】本発明の他の実施例における防食材の接合工程の流れ図である。(実施例2)
【
図3】本発明の他の実施例における防食材の接合工程の流れ図である。(実施例3)
【
図4】本発明の実施例が適用される蒸気タービン動翼の一例を示す蒸気タービン動翼の全体図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0014】
図4に本発明の実施例が適用される蒸気タービン動翼の一例である蒸気タービン動翼の全体図を示す。
図4は、低圧タービンにおける蒸気タービン最終段動翼を示している。蒸気タービン動翼は、翼部1と、シュラウドカバー7と、ロータへの植え込み部8と、翼部の先端側の前縁部(タービン動翼の蒸気流入側)に設けられる防食片2を有する。後述の
図1〜
図3は、
図4におけるA-A断面部を示している。
【実施例1】
【0015】
図1に本発明の実施例1における蒸気タービン動翼の製造工程を示す。蒸気タービン動翼の先端部の前縁部を示している。蒸気タービン動翼を構成する素材としては、
図1(a)に示すように、蒸気タービン動翼の翼部1、防食片2、翼部1と防食片2の間に配置されるシム3からなる。タービン動翼としては、Ti合金(例えばAl6%、V4%を含むTi合金)や12Crステンレス鋼などが用いられる。防食片としては、タービン動翼がTi合金の場合、防食性Ti合金(例えばMo15%、Zr5%、Al3%を含むTi合金)が用いられ、タービン動翼が12Crステンレス鋼の場合、Co基合金が用いられる。シムとしては、タービン動翼と防食片よりも硬度の低いTi製シムやNi基合金が用いられる。
【0016】
翼部1、防食片2、シム3は、
図1(b)に示すように組み立てられる。本実施例では、電子ビーム溶接時の溶け落ち防止機構はシム3に設けている。すなわち、電子ビーム出口側である開先裏面に設けられる溶け落ち防止機構としてシム3の一部を利用している。本実施例のシム3は断面が逆T字形となっている。そして、翼部1と、防食片2、シム3は、電子ビームの入射側(図面上の上側)と反対の裏面にTIG溶接により点付け溶接9を実施して、隙間を最小にして開きがないように取り付けられている。
【0017】
その後、電子ビーム溶接による1層溶接を行う(
図1(c))。電子ビーム溶接は、本実施例では、低電圧型電子ビーム溶接機を用いて低電圧型電子ビーム溶接(例えば〜60KW))により翼部1、防食片2、シム3の1層溶接を行っている。このとき、溶接金属部4はシム3の一部で構成された溶け落ち防止機構により溶け落ちが防止されている。これにより、低電圧型電子ビーム溶接の電子ビーム条件の裕度を広げることができる。
【0018】
その後、溶け落ち防止機構部を含めて機械加工により除去し、目標の動翼形状へと仕上げる(
図1(d))。この機械加工では、
図1(c)に符号10で示す部分の除去を含めてシム3の溶け落ち防止機構を除去する。符号10で示す部分の除去は、流れ最適化のためのタービン動翼の3次元形状化に対応して施工されている。この機械加工の後に、仕上げ加工が適宜施工される。
図1(d)に示す機械加工では、電子ビーム時の溶接先端を含めて除去される。溶接先端にはブローホールが形成されやすいが、この部分を含めて除去されるので、溶接部の健全性が確保される。
【0019】
本実施例によれば、素材(本実施例ではシム)を利用して裏当て機能を付与することで、裏当て材を別に用意することなく、蒸気タービン動翼の前縁に防食片を、溶け落ちを防止して低電圧型電子ビーム溶接の1層溶接による接合(目標とする翼材の肉厚に対して1回の溶接で防食板の接合)が可能となる。したがって、別体の裏当て材を調達する費用が無くなり、製造コストの低減が可能となる。特に、翼部や防食片、シムの板厚が大きくなった場合(板厚が大きくなると溶け落ちが発生しやすい)、防食片の接合を容易に実施することが可能である。従って、より長翼化・複雑な3次元形状に設計された蒸気タービン動翼を、電子ビーム溶接を用いて製造することが可能である。
また、本実施例は、未溶接部分がないので、強度に優れる蒸気タービン動翼が得られる。また、翼部1と防食片2の双方の開先形状が直線状となるので、開先形状の形成が容易であるという効果も得られる。
【実施例2】
【0020】
図2を用いて本発明の実施例2を説明する。実施例1と同様な部分についての説明は省略する。
本実施例では、電子ビーム出口側である開先裏面に設けられる溶け落ち防止機構として翼部1の素材の一部を利用している。本実施例では、翼部1の素材における防食片2との接合部がL字型に形成されている。翼部1のL字型の突出し部(台座)にシム3、防食片2を取り付ける。このL字型の突出し部が、溶け落ち防止機構の役割を果たす。この他、実施例1と同様であり、電子ビーム溶接後、翼部1のL字型突き出し部の除去を含めて、目標の動翼形状となるように機械加工が施工される。
本実施例においても基本的に実施例1と同様な効果が得られる。
【実施例3】
【0021】
図3を用いて本発明の実施例3を説明する。実施例1と同様な部分についての説明は省略する。
本実施例では、電子ビーム出口側である開先裏面に設けられる溶け落ち防止機構として防食片2の素材の一部を利用している。本実施例では、防食片2の素材における翼部1との接合部がL字型に形成されている。翼部1に、シム3、L字型の突出し部(台座)を有する防食片2を取り付ける。このL字型の突出し部が、溶け落ち防止機構の役割を果たす。この他、実施例1と同様であり、電子ビーム溶接後、防食片2のL字型突き出し部の除去を含めて、目標の動翼形状となるように機械加工が施工される。
本実施例においても基本的に実施例1と同様な効果が得られる。
【0022】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 タービン動翼の翼部
2 防食片
3 シム