(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品であって、
音波の伝播経路を形成する一方向に延在した複数の貫通孔と、前記貫通孔の周りに形成され、前記貫通孔の延在方向に延びる壁と、を備え、
前記貫通孔は水力直径が0.4mm以下の貫通孔を含み、
前記熱・音波変換部品における前記複数の貫通孔の開口率は60%以上であって、
前記熱・音波変換部品は、第1の層と第2の層とが前記貫通孔の延在方向に、交互に積層された多層構造体であり、前記第1の層の気孔率は、0%または前記第2の層の気孔率に比べて小さく、前記壁に、前記延在方向に沿って前記第1の層と前記第2の層が交互に設けられ、
前記熱・音波変換部品における前記延在方向における構造体としての熱伝導率は2[W/m/K]以下である、ことを特徴とする熱・音波変換部品。
音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品の製造方法であって、
複数の貫通孔の開口部が両側の主表面に設けられた複数の金属板を形成する工程と、
前記金属板それぞれの前記主表面に粗面化処理を施す工程と、
前記粗面化処理後、前記複数の金属板を、前記開口部同士が同じ位置に揃うように位置決めして積層することにより金属板集合体を形成する工程と、
前記金属板集合体を熱圧着して、隣接する金属板間に気孔を有する層を形成する工程と、を含むことを特徴とする熱・音波変換部品の製造方法。
音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品の製造方法であって、
複数の貫通孔の開口部が両側の主表面に設けられた複数の金属板を形成する工程と、
前記金属板それぞれの前記主表面にセラミックス素材を塗布する工程と、
前記セラミックス素材を塗布後、前記複数の金属板を、前記開口同士が同じ位置に揃うように位置決めして積層することにより金属板集合体を形成する工程と、
前記金属板集合体を熱処理して、隣接する金属板間にセラミックス層を形成する工程と、を含むことを特徴とする熱・音波変換部品の製造方法。
さらに、作製した前記熱・音波変換部品を、セラミックス粉末を分散させたスラリ中に、浸漬することにより、前記貫通孔を囲む前記壁の内壁面にセラミックスコート層を形成する工程、を有する請求項9〜11のいずれか1項に記載の熱・音波変換部品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記スタックでは、臨界温度勾配を達成するのに必要な高温側熱交換器の温度を効率よく低くすることができる。
しかし、現在、音波と熱との間のエネルギ変換の効率は依然として低いため、流体中の音波と、流体と接する壁の熱との間で効率よくエネルギ変換を行うことがよりいっそう求められている。音波と熱との間のエネルギ変換の効率をより向上させるためには、貫通孔に沿った壁の温度勾配が維持できるように、壁の貫通孔に沿った熱伝導率を低く抑えること、エネルギ変換を行うための音波が伝播する流体と壁との間の接触面積を広くすること、及び音波の伝播の障害とならないようにするために、多数の貫通孔を平行に精度よく作製することが好ましい。
【0007】
そこで、本発明は、流体と壁との間の接触面積が広く、多数の貫通孔を設けることができる構成であって、音波が伝播する流体と、この流体と接する壁との間で、音波と熱のエネルギ変換を効率よく行うことができる熱・音波変換部品、熱・音波変換器、及び熱・音波変換部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品である。当該熱・音波変換部品は、
音波の伝播経路を形成する一方向に延在した複数の貫通孔と、前記貫通孔の周りに形成され、前記貫通孔の延在方向に延びる壁と、を備える。
前記貫通孔は水力直径が0.4mm以下の貫通孔を含み、
前記熱・音波変換部品における前記複数の貫通孔の開口率は60%以上である。
さらに、前記熱・音波変換部品は、第1の層と第2の層とが前記貫通孔の延在方向に、交互に積層された多層構造体であり、前記第1の層の気孔率は、0%または前記第2の層の気孔率に比べて小さく、前記壁に、前記延在方向に沿って前記第1の層と前記第2の層が交互に設けられ、前記熱・音波変換部品における前記延在方向における構造体としての熱伝導率は2[W/m/K]以下である。
【0009】
前記第2の層は、前記第1の層と異なる材料で構成されている、ことが好ましい。
【0010】
前記第1の層は、金属層を含む、ことが好ましい。
【0011】
前記第2の層は、前記第1の層の金属の酸化物層を含む、ことが好ましい。
【0012】
あるいは、前記第2の層は、セラミックス層を含む、ことも好ましい。
【0013】
前記第2の層の気孔率は10%〜50%である、ことが好ましい。
【0014】
前記熱伝導率は、前記第1の層の材料の熱伝導率の20%以下である、ことが好ましい。
【0015】
さらに、前記多層構造体の前記貫通孔を囲む前記壁の内壁面には、セラミックスコート層が設けられている、ことが好ましい。
【0016】
本発明の他の一態様は、音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品の製造方法である。当該製造方法は、
複数の貫通孔の開口部が両側の主表面に設けられた複数の金属板を形成する工程と、
前記金属板それぞれの前記主表面に粗面化処理を施す工程と、
前記粗面化処理後、前記複数の金属板を、前記開口部同士が同じ位置に揃うように位置決めして積層することにより金属板集合体を形成する工程と、
前記金属板集合体を熱圧着して、隣接する金属板間に気孔を有する層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
前記金属板は、ステンレス鋼で構成され、前記金属板集合体を熱圧着するとき、前記金属板の温度は1050〜1150℃である、ことが好ましい。
【0018】
本発明のさらに他の一態様も、音波が伝播する流体と、前記流体と接する壁との間で、音波のエネルギを熱のエネルギに変換する、あるいは熱のエネルギを音波のエネルギに変換する熱・音波変換部品の製造方法である。当該製造方法は、
複数の貫通孔の開口部が両側の主表面に設けられた複数の金属板を形成する工程と、
前記金属板それぞれの前記主表面にセラミックス素材を塗布する工程と、
前記セラミックス素材を塗布後、前記複数の金属板を、前記開口同士が同じ位置に揃うように位置決めして積層することにより金属板集合体を形成する工程と、
前記金属板集合体を熱処理して、隣接する金属板間にセラミックス層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
さらに、作製した前記熱・音波変換部品を、セラミックス粉末を分散させたスラリ中に、浸漬することにより、前記貫通孔を囲む前記壁の内壁面にセラミックスコート層を形成する工程、を有することが好ましい。
【0020】
前記熱・音波変換部品において、
前記熱・音波変換部品は、音波の伝播経路を形成する一方向に延在した複数の貫通孔と、前記貫通孔の周りに形成され、前記貫通孔の延在方向に延びる壁と、を備え、
前記貫通孔は、水力直径が0.4mm以下の貫通孔を含み、
前記熱・音波変換部品における前記複数の貫通孔の開口率は60%以上であって、
前記熱・音波変換部品は、前記貫通孔の延在方向に、第1の層と、第2の層とが交互に積層された多層構造体であり、前記第1の層の気孔率は、0%または前記第2の層の気孔率に比べて小さく、前記壁に、前記延在方向に沿って前記第1の層と前記第2の層が交互に設けられ、
前記熱・音波変換部品における前記延在方向における構造体としての熱伝導率は2[W/m/K]以下である、ことが好ましい。
【0021】
本発明のさらに他の一態様は、流体の音波エネルギを、前記流体に接する壁の熱を用いて増幅する熱・音波変換部品を備えた熱・音波変換器である。当該熱・音波変換器は、
前記熱・音波変換部品、あるいは、前記熱・音波変換部品の製造法により製造された前記熱・音波変換部品と、
前記流体の音波の伝播経路を形成し、前記熱・音波変換部品の前記貫通孔の延在方向に沿って前記音波が伝播するように、前記音波を前記貫通孔に導く導管と、
前記熱・音波変換部品の両端に設けられ、前記熱・音波変換部品の前記両端の間で前記延在方向に沿って温度勾配を形成させる一対の熱交換部と、を有する。
前記導管は、前記温度勾配を用いて音波エネルギが増幅された音波を出力し、出力した音波を用いて、前記増幅した音波エネルギを別のエネルギに変換する変換器に接続される出力端を有する。
【0022】
本発明のさらに他の一態様は、流体に接する壁に、前記流体の音波エネルギを用いて温度勾配をつくる熱・音波変換部品を備えた熱・音波変換器である。当該熱・音波変換器は、
前記熱・音波変換部品、あるいは、前記熱・音波変換部品の製造法により製造された前記熱・音波変換部品と、
前記流体の音波の伝播経路を形成し、前記熱・音波変換部品の前記貫通孔の延在方向に沿って前記音波が伝播するように、前記音波を前記貫通孔に導く導管と、
前記熱・音波変換部品の一方の端に設けられた一定の温度を有する熱交換部と、
前記熱・音波変換部品の他方の端に設けられる熱出力部であって、前記音波の伝播によって、前記熱交換部との間で前記熱・音波変換部品上に形成される温度勾配から、前記熱交換部の温度と温度差を有する温度を取り出す熱出力部と、を有する。
【発明の効果】
【0023】
上述の態様の熱・音波変換部品、熱・音波変換器によれば、流体と壁との間の接触面積が広く、多数の貫通孔を設けることができる構成であり、音波が伝播する流体と、この流体と接する壁との間で、音波と熱のエネルギ変換を効率よく行うことができる。また、熱・音波変換部品の製造方法により、上記熱・音波変換部品を精度よく作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本実施形態の熱・音波変換部品、熱・音波変換器、及び熱・音波変換部品の製造方法について詳細に説明する。
【0026】
(熱・音波変換器10)
図1は、本実施形態の熱・音波変換部品を適用した本実施形態の熱・音波変換器10の構成の一例を示す図である。
図1に示す熱・音波変換器10は、導管内を伝播する音波の音圧エネルギを増大し、増大した音圧エネルギを、他のエネルギに変換する変換装置40に供給する装置である。変換装置40は、例えば、音圧エネルギを電気エネルギに変換する発電機や音圧エネルギを熱エネルギに変換する装置が挙げられる。上記発電機では、音波によって発電素子であるコイルや磁石等を振動させることにより電磁誘導を発生させて起電力を生じさせる。音圧エネルギを熱エネルギに変換する変換装置では、例えば音波に熱が吸収されて冷却された冷媒を取り出して、冷却装置として用いられる。
熱・音波変換器10は、熱・音波変換部品に入力した音波Swの音圧エネルギを熱・音波変換部品で増大させ、音圧エネルギの増大した音波を出力する装置である。熱・音波変換器10は、例えば、小さな音圧エネルギの音波Swを熱・音波変換部品で増大させ、音圧エネルギの増大した音波を循環して、さらに熱・音波変換部品に入力させて音圧エネルギを増大させることにより、極めて大きな音圧エネルギの音波を出力することができる。このとき、小さな音圧エネルギの音波Swを形成する初期段階では、熱・音波変換器10は、上記循環を利用して、導管14内の音のノイズ成分の一部を、熱・音波変換器10の形状寸法等によって定まる周波数を持つ音波として選択的に増幅する。これにより、上記小さな音圧エネルギの音波Swが自励的に形成される。
【0027】
熱・音波変換器10は、
図1に示すように、熱・音波変換部品12と、導管14と、熱交換部15,23と、を主に有する。
熱・音波変換部品12は、音波Swが伝播する流体と、この流体と接する壁との間で、音波と熱のエネルギの変換を行う部品であって、後述するように、音波Swの伝播経路を形成する一方向に延在した管状の複数の貫通孔を備える。すなわち、熱・音波変換部品12は円柱や角柱等の柱形状を成し、柱形状の軸方向に沿って、多数の貫通孔が互いに平行に設けられている。熱・音波変換部品12は、例えば、金属、セラミックス等で構成される。
【0028】
導管14は、流体を導管14内に含み、この流体の音波Swの伝播経路を形成するとともに、熱・音波変換部品12の貫通孔の延在方向に沿って音波Swが伝播するように、音波Swを貫通孔に導く。導管14は、例えば、金属製の管である。導管14には、流体として好適にはガスが用いられ、例えば水素やヘリウムガスが用いられる。ガスは、例えば数気圧〜数十気圧の所定の圧力に調整されて導管14に封入されている。導管14は、
図1に破線で示すように、音波Swが熱・音波変換部品12を循環する循環経路36を形成するように構成される。導管14は、音圧エネルギが増幅された音波Swを用いて、音圧エネルギ以外のエネルギに変換する変換器40に接続される出力端14aを有する。本実施形態の導管14は、循環経路36を形成するが、導管14は必ずしも循環経路を形成しなくてもよい。
【0029】
熱交換部15は、熱・音波変換部品12の一方の端に設けられ、熱・音波変換部品12の端を低温にする低温部である。以降では、熱交換部15を、同符号を付して低温部15という。熱交換部23は、熱・音波変換部品12の他方の端に設けられ、熱・音波変換部品12の端を高温にする高温部である。以降では、熱交換部23を同符号を付して高温部23という。これにより、低温部15及び高温部23は、熱・音波変換部品12の両端の間において、熱・音波変換部品12に設けられた貫通孔の壁面に沿って、すなわち貫通孔の延在方向に沿って温度勾配を形成させる。
低温部15は、低温のガスや液体等の媒体を低温部15に供給する供給管16と、上記媒体を低温部15から排出する排出管18と、供給管16と排出管18の間に設けられ、音波Swの伝播経路の周りを環状に囲む環状管20と、を有する。供給管16は、図示されない低熱源と接続されている。環状管20は、供給管16と排出管18に接続されている。また、環状管20は、熱伝導率の高い金属部材21と当接し、この金属部材21が熱・音波変換部品12と当接している。したがって、上記金属部材21を介して熱・音波変換部品12の端との間で熱交換して熱・音波変換部品12の端から低温部15に熱が流れて熱・音波変換部品12の金属部材21と接する端は冷却される。また、低温部15は、導管14内の流体を冷却するための冷却フィン22が設けられている。この冷却フィン22は、環状管20と接続されているので、低温部15に位置する流体の熱を吸収し、流体の温度を低下させる。
【0030】
一方、高温部23は、高温のガスや液体等の媒体を高温部23に供給する供給管24と、この媒体を高温部23から排出する排出管26と、供給管24と排出管26の間に設けられ音波Swの伝播経路の周りを環状に囲む環状管28と、を有する。供給管24は、図示されない高熱源と接続されている。環状管28は、供給管24と排出管26に接続されている。また、環状管28は、熱伝導率の高い金属部材29と当接し、この金属部材29が熱・音波変換部品12と当接している。したがって、上記金属部材29を介して熱・音波変換部品12の端は、高温部23と熱交換し、熱・音波変換部品12の端には高温部23から熱が流れて加熱される。また、高温部23は、導管14内の流体を加熱するための加熱フィン30が設けられている。この加熱フィン30は、環状管28と接続されているので、高温部23に位置する流体に熱を供給し、加熱フィン30に位置する流体の温度を高くさせる。
【0031】
熱・音波変換部品12の外周には、熱・音波変換部品12の熱移動を抑制する干渉材32が設けられる。干渉材32の外周には、空隙を介してケーシング34が設けられている。
したがって、熱・音波変換部品12は、低温部材15及び高温部材23によって形成される温度勾配を維持することができる。このような熱・音波変換器10における熱・音波変換部品12の作用についての詳細は後述する。
【0032】
(熱・音波変換器110)
図2は、熱・音波変換器10とは別の実施形態である熱・音波変換器110の構成の一例を示す図である。
図2に示す熱・音波変換器110は、導管内を伝播する音波の音圧エネルギを熱エネルギに変換する装置である。
熱・音波変換器110は、
図2に示すように、熱・音波変換部品112と、導管114と、熱変換部123と、熱出力部115と、を主に有する。熱出力部115が熱交換部123の温度と温度差を有する温度を取り出す、すなわち、冷却された冷却媒体(ガスあるいは液体)を出力する部分である。
熱・音波変換器110は、導管114を介して、音波を出力する上述した熱・音波変換器10に接続されている。本実施形態の熱・音波変換器110では、上述した熱・音波変換器10に接続される構成であるが、これ以外の音波を発生させる装置であってもよい。
【0033】
導管114及び熱変換部123は、
図1に示す導管14及び熱変換部23と同じ構成を有する。
導管114は、流体を導管114内に含み、この流体の音波の伝播経路を形成するとともに、熱・音波変換部品112の貫通孔の延在方向に沿って音波が伝播するように、音波を熱・音波変換部品112の貫通孔に導く。導管114は、例えば、金属製の管である。導管114には、流体としてガスが用いられ、例えば水素やヘリウムガスが用いられる。ガスは、例えば数気圧〜数十気圧の所定の圧力に調整されて導管114に封入されている。導管114は、
図2に示すように、音波が熱・音波変換部品112を循環する循環経路136を形成するように構成される。本実施形態の導管114は、循環経路136を形成するが、導管114は必ずしも循環経路を形成しなくてもよい。
【0034】
熱交換部123は、一定の温度のガスや液体等の媒体を熱交換部123に供給する供給管124と、上記媒体を熱変換部123から排出する排出管126と、供給管124と排出管126の間に設けられ音波の伝播経路の周りを環状に囲む環状管128と、を有する。供給管124は、図示されない一定の温度の熱源と接続されている。環状管128は、供給管124と排出管126に接続されている。また、環状管128は、熱伝導率の高い金属部材129と当接し、この金属部材129が熱・音波変換部品12と当接している。したがって、上記金属部材129を介して熱・音波変換部品12の端は、熱交換部123と熱交換し、熱・音波変換部品112の端は熱交換部123の温度と同じ温度になる。また、熱変換部123は、導管114内の流体を一定の温度にするためのフィン130が設けられている。このフィン130は、環状管128と接続されているので、熱変換部123に位置する流体に熱を供給し、フィン130に位置する流体の温度を一定にする。
【0035】
熱・音波変換部品112の外周には、熱・音波変換部品112の熱移動を抑制する干渉材132が設けられる。干渉材132の外周には、空隙を介してケーシング134が設けられている。したがって、熱・音波変換部品112は、音波によって形成される温度勾配を維持することができる。このような熱・音波変換器110における音波と熱の変換を行う熱・音波変換部品112の作用についての詳細は後述する。
【0036】
熱出力部115は、熱・音波変換部品112の一方の端に設けられている。熱出力部115は、音波の伝播によって、熱・音波変換部品112上に形成される温度勾配から、熱交換部123の温度と温度差を有する温度を取り出す。上記温度勾配は、熱変換部123の一定の温度との間に形成される温度勾配である。
熱出力部115は、ガスや液体等の媒体を供給する供給管116と、上記媒体を熱出力部115から排出する排出管118と、供給管116と排出管118の間に設けられ、音波の伝播経路の周りを環状に囲む環状管120と、を有する。環状管120は、供給管116と排出管118に接続されている。また、環状管120は、熱伝導率の高い金属部材121と当接し、この金属部材121が熱・音波変換部品112と当接している。したがって、環状管120は、上記金属部材121を介して熱・音波変換部品112の端との間で熱交換をして熱・音波変換部品112の端に熱出力部115から熱が流れて環状管120は冷却される。このため、環状管12を流れる媒体は冷却媒体となり、冷却媒体が出力される。このような冷却媒体は、冷却装置に用いられる。また、熱出力部115は、導管114内の流体を冷却するための冷却フィン122が設けられている。この冷却フィン122は、環状管120と接続されているので、熱出力部115に位置する流体の熱を吸収し、温度を低下させる。
このように熱・音波変換器110では、音波の音圧エネルギを熱エネルギに変換するが、この変換は熱・音波変換部品112によって行われる。以下、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の作用、すなわち、音圧エネルギ及び熱エネルギの変換について説明する。
【0037】
(熱・音波変換部品)
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112は同一の構成を有するので、熱・音波変換部品12を代表して説明する。
図3は、熱・音波変換部品12の外観斜視図である。
熱・音波変換部品12は、波の伝播経路を形成する一方向に延在した複数の貫通孔12aと、貫通孔12aの周りに形成され、貫通孔12aの延在方向(
図3中のX方向)に延びる壁12bと、を備える。
図3では、壁12bは、簡略化して線で記されている。
熱・音波変換部品12のX方向の長さは、導管14内に形成させる音波の波長や流体の振動による縦変位に応じて設定され、例えば10mm以上500mm未満であることが好ましい。この範囲にあるとき、音波の縦振動による流体要素の変位に一致し、効率のよいエネルギ変換を実現できる。
【0038】
図4(a),(b)は、熱・音波変換部品12における音圧エネルギと熱エネルギとの間の変換を説明する図である。
流体は、音波を伝播させる媒体であり縦振動する。この縦振動による流体の変位と流体の圧縮と膨張との関係を説明するために、流体のごく一部の領域を定めた流体要素を用いて説明する。
【0039】
音波が進行波であって、この音波が流体中を伝播するとき、流体中の流体要素は圧縮及び膨張を繰り返し受ける。圧縮する流体要素の壁12bに沿ったX方向の位置と、膨張する流体要素の壁12bに沿ったX方向の位置は、流体の縦振動によって異なる。
図4(a)に示す例では、音波の音圧と流体要素の変動の位相が4分の1周期ずれる進行波における圧縮、膨張の1サイクルを示している。予め壁12bの一端(位置I)を外部より加熱し、一端(位置II)を外部より冷却して壁12bに
図4(b)に示すように温度勾配をつけてある状態で、流体要素が、壁12bの位置Iで膨張過程の状態Aにある。この状態で膨張をつづけながら状態Bに移行する。このとき、流体要素は温度が高い壁12bから熱の供給を受ける。次に、状態Bから流体要素は変位を開始して、壁12bの位置IIに向かって移動し最も膨張した状態B’に移行する。この状態B’において、音波により圧縮を開始し、状態Dに移行する。このとき、温度の低い壁12bに熱を供給する。次に、状態Dから流体要素は変位を開始して、位置Iに向かって移動し、最も圧縮されたD’にいたるまでの間壁12bへの熱の供給を続ける。このように、膨張過程で流体要素が壁12bから熱を受け、壁12bが圧縮過程で流体要素から熱を奪うことができ、流体要素の圧縮と膨張を増大させることができる。すなわち、熱・音波変換部品12は、熱・音波変換部品12に伝播する音波の音圧エネルギを、温度勾配を予め形成しておくことにより増大させることができる。
【0040】
一方、予め温度勾配を壁12bに与えていない場合には、流体要素の圧縮過程で高温になった流体要素から熱が壁12bへ供給され、流体要素の膨張過程では壁12bから熱を奪うので、
図4(b)と反対の温度勾配が壁12b内に形成される。すなわち、熱・音波変換部品112は、熱・音波変換部品112に伝播する音波の音圧エネルギによって形成される温度勾配を用いて、低い温度あるいは高い温度を取り出すことができる。例えば、壁12bには位置Iと位置IIとの間で、音波によって温度勾配が形成されるので、位置Iあるいは位置IIのうちいずれか一方の位置を一定の温度に調整したとき、この温度勾配から一定の温度に対して温度差を持った温度を他方の位置で取り出すことができる。すなわち、熱・音波変換部品112は、熱・音波変換部品112に伝播する音波の音圧エネルギによって形成される温度勾配を用いて、低い温度あるいは高い温度を取り出すことができる。
以上のようなサイクルを1サイクルとして複数サイクルを繰り返し行うために、循環経路36,136を形成することが好ましい。
なお、上記説明では、進行波を例に挙げて説明した。進行波は、流体の圧縮及び膨張のサイクルと、流体要素の変動のサイクルが4分の1周期ずれている。このため、音波と熱のエネルギ変換が実現される。これに対して、定在波では、流体の圧縮及び膨張のサイクルと、流体要素の変動のサイクルが同位相であるため、エネルギ変換は発生し難い。しかし、定在波の場合、流体と壁との間でエネルギ変換を行うときに生じる変換の遅れを利用するために、音波の周波数を設定することにより、上記変換を実現することができる。定在波の波長は、導管14,114あるいは循環経路36,136の長さに応じて定まり、この波長によって音波の周波数は定まるので、音波の周波数の設定は、導管14,114あるいは循環経路36,136の長さを調整することにより行われる。なお、エネルギ変換の遅れは、流体の熱伝導度、流体の密度、流体の定圧比熱、及び貫通孔の大きさによって定まる。
【0041】
このような熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の機能を効率よく実現するためには、音波と熱との間のエネルギの変換が、複数の箇所で行われることが好ましく、しかも、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112上に温度勾配が安定して形成されることが好ましい。
この点で、本実施形態の熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の音波を伝播する貫通孔は水力直径が0.4mm以下の貫通孔を含み、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における複数の貫通孔の開口率は60%以上である。水力直径が0.4mm以下の貫通孔の数は、音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における音波を伝播する貫通孔全体の数の80%以上であることが好ましく、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の音波を伝播する貫通孔の水力直径はいずれも0.4mm以下であることが最も好ましい。さらに、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における貫通孔の延在方向における構造体としての熱伝導率は2[W/m/K]以下である。このような熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112は、
図3に示すように、貫通孔12aの延在方向に、気孔のない第1の層13aと、気孔を有する第2の層13bとが交互に積層された多層構造体であり、貫通孔を囲む壁に、貫通孔の延在方向に沿って第1の層13aと第2の層13bが交互に設けられている。
第2の層13bは、気孔を有するので、第1の層13aの熱伝導率が高くても、第2の層13bの気孔を調整することにより、第1の層13aと第2の層13bが交互に配置された壁の、貫通孔の延在方向における構造体としての熱伝導率を2[W/m/K]以下にすることができる。壁の延在方向における材料の熱伝導率は5[W/m/K]以下にすることが好ましい。上記熱伝導率を低くするのは、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112に形成される温度勾配を適切に維持するためである。熱伝導率が大きい場合、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の両端間において、温度勾配によって熱が流れて温度勾配の勾配が穏やかになり、音波と熱のエネルギ変換が低くなる。上記熱伝導率の下限は、例えば0.2[W/m/K]である。
【0042】
なお、上記熱伝導率は、以下の温度傾斜法(定常法)で求められる。すなわち、上記熱伝導率を測定しようとするテストサンプルを熱伝導率が既知のスペーサで挟み、その片面を30℃〜200℃に加熱し、反対面を20〜25℃に冷却することにより、テストサンプルの厚さ方向に定常状態の温度勾配を設ける。このとき伝播する熱流量をスペーサ内の温度勾配より求め、この熱流量を温度差で割り算して熱伝導率を算出する。より具体的には、径30mm、 厚さ30mmの熱・音波変換部品12あるいは熱・音波変換部品112をテストサンプルとし、径30mm、 長さ150mmのステンレス、または銅製のスペーサを用い、スペーサ内軸方向の温度分布を測定することにより、貫通孔の延在方向に沿った熱伝導率を測定する。この方法により、構造体としての熱伝導率λsが測定される。材料の熱伝導率λmは、開口率がRoである場合、λs/(1−Ro )によって計算される。このときの開口率は 貫通孔に垂直な断面の貫通孔に垂直な断面(研磨面)を顕微鏡で撮影し、このときの断面の撮影画像から、材料部分面積S1と空隙部分面積S2を求め、S1とS2を用いてS2/(S1+S2)として求められる。ここでいう材料は、貫通孔は除外されるが、気孔は除外されない。
【0043】
貫通孔の水力直径を0.4mm以下とするのは、貫通孔周りの壁と流体との間でエネルギの変換を行う時に寄与する流体の厚さの上限は0.2mmである。このため、エネルギの変換効率を高めるためには、貫通孔の水力直径は0.4mm以下としている。水力直径とは、貫通孔の延在方向に直交する方向に切断したときの貫通孔の断面形状において、断面形状の外周の周長をL[mm]とし、断面の面積をS[mm
2]としたとき、4・S/L[mm]で表される寸法をいう。貫通孔の水力直径は、0.2〜0.3mmとすることが好ましい。また、貫通孔の水力直径を0.1mmより小さくすると、流体と貫通孔の壁との間で摩擦抵抗が増大するので好ましくない。この点で、貫通孔の水力直径を0.1mm以上とすることが好ましい。
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の貫通孔の開口率を60%以上とすることにより、音波が伝播する流体と壁との間でエネルギの変換を行う場所をより多数設け、流体と壁12bとの接触面積を高めることができる。開口率は、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112のX方向に直交する方向に切断した断面形状の外周で囲まれる面積に対する貫通孔の断面積の総和の比率である。上記開口率が60%未満である場合、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の内の伝播経路が急激に狭くなり、音波による流体要素の粘性による散逸エネルギが増加し易い。この点で上記開口率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。上記開口率の上限は、例えば93%である。なお、上記開口率は、貫通孔に垂直な断面(研磨面)を顕微鏡で撮影し、このときの断面の撮影画像から、材料部分面積S1と空隙部分面積S2を求め、S1とS2を用いてS2/(S1+S2)として求められる。
【0044】
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112では、第1の層13aは気泡を有さない(気孔率が0%)が、気孔を有してもよい。この場合、第1の層13aの気孔率は、第2の層13bの気孔率よりも小さい。熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112では、第1の層13aと第2の層13bとを交互に積層した多層構造体とするが、第2の層13bは、第1の層13aと異なる材料で構成することにより、貫通孔の延在方向における熱伝導率を十分に低下することができる。第1の層13aの厚さは、例えば50〜1000μmであり、第2の層13bの厚さは5〜100μmである。したがって、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の貫通孔に沿った長さを10mmとするには、第1の層13aと第2の層13bがそれぞれ5〜200層用いられる。第1の層13aは、ステンレス鋼等の金属層を含んで構成されることが、貫通孔を精度よく形成する点で好ましい。なお、上記金属層の材料は、ステンレス鋼以外に、炭素鋼、純鉄、アルミニウム、チタン、ニッケル、クロムまたはこれらの合金、または、コバルト、マンガンとの合金であってもよく、これらに限らない。第2の層13bは、第1の層のステンレス鋼等の金属の酸化物を含んで構成されることが、熱伝導率の高い第2の層を形成する点で好ましい。酸化物の気孔率は10%〜50%であることが、上述の熱伝導率の数値範囲を満足しつつ、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112を容易に作製することができる点で好ましい。このような構成は、例えば、後述するように、金属の第1の層13aとなる金属板に貫通孔を設けるとともに、金属板の主表面を粗面化処理して、複数の金属板を作製し、この複数の金属板同士を積層して熱圧着することにより、金属板間に気孔を有する金属の酸化物の層を形成することができる。この金属の酸化物の層が第2の層13bである。
気孔率は、測定対象となる材料領域の貫通孔に垂直な断面を走査型電子顕微鏡で撮影し、このときの断面の撮影画像から、貫通孔の空隙を除く隔壁内の細孔(気孔)の空隙部分の面積の総和Spと、貫通孔の空隙を除く隔壁部分の全面積Swより、気孔率=Sp/ (Sw +Sp)として、求められる。気孔率が場所によってばらつく場合、10箇所の異なる位置の断面から求めた気孔率の平均値とすればよい。
【0045】
また、第2の層13bは、セラミックス層を含んでいることが、熱伝導率を低くする点で好ましい。また、セラミックス層の気孔率は10%〜50%であることが、上述の熱伝導率の数値範囲を満足しつつ、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112を容易に作製することができる点で好ましい。セラミックス層には、例えば、ジルコニアを主成分とするセラミックスが用いられる。このような構成は、例えば、後述するように、金属の第1の層13aとなる貫通孔の設けられた金属板の主表面に、セラミックス素材を塗布した後、金属板を積層して熱処理することにより、セラミックスを焼結させてセラミックス層を第2の層13bとして形成することができる。
【0046】
また、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の貫通孔の延在方向における構造体としての熱伝導率を、第1の層13aの材料の熱伝導率の20%以下とすることが好ましく、より好ましくは1%以下である。また、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の貫通孔の延在方向における構造体としての熱伝導率は、例えば、第1の層13aの材料の熱伝導率の0.1%以上である。このような熱伝導率は、第2の層13bの材料の種類、厚さ、及び気孔率によって調整することができる。
【0047】
貫通孔の密度(セル密度)は、1600cpsi(1平方インチ当たりの貫通孔の数(セル数))以上であり、9000cpsi以下であることが好ましい。貫通孔の密度を高くすることで、流体と熱・音波変換部品12との間で生じする流体損失を抑制することができる。
また、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における400℃における壁12bの材料の熱容量を3[J/cc/K](壁12bの1cc当たりの熱容量)以上とすることが好ましい。これにより、壁と流体との間の熱の授受によって壁の温度が変動することを抑えることができ、温度勾配を安定して維持することができる。壁12bの材料の熱容量が3[J/cc/K]未満である場合、壁12bと流体との間の熱の授受によって、壁の温度は急激に冷え、あるいは急激に大きくなるため、上記熱容量を3[J/cc/K]未満とすることは、温度勾配を安定して維持する上で好ましくない。上記熱容量の上限は、例えば6[J/cc/K]である。
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の壁12bにおける材料の400℃での熱容量は、具体的には、上記材料を切断・粉砕して粉末状または小片の集合体にした材料をサンプルとして、断熱型熱量計を用いて投入熱と温度上昇の関係から求められる。
また、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における20℃〜800℃間の貫通孔の延在方向に沿った熱膨張率は、6[ppm/K]以下であることが好ましい。これにより、熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の熱応力を小さくして熱歪みによる破壊を抑制することができる。熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112における20℃〜800℃間の貫通孔の延在方向に沿った熱膨張率は、3[ppm/K]以下であることがより好ましい。上記熱膨張率の下限は、例えば1[ppm/K]である。なお、貫通孔の延在方向に沿った熱膨張率は、JIS R1618−2002に記載される「ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法」に準拠して求められる。
【0048】
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112の多層構造体の貫通孔を囲む壁12bの内壁面には、セラミックスコート層が設けられていることが、壁12bの表面から内部に向けて熱が拡散するのを防止する点で、好ましい。すなわち、セラミックスコート層を設けることにより、第1の層13aの位置における貫通孔の延在方向と直交する方向の熱伝導率を例えば30%以上、好ましくは40%以上低下させることができる。例えば、第1の層13aにオーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合の材料の熱伝導率は概略16[W/m/K]であるが、開口率80%の構造体としての熱伝導率は3.2[W/m/K]となる。コージェライトからなるセラミックス層を壁12bの表面に10μmの厚さで形成することにより、第1の層13a貫通孔の延在方向と直交する方向の構造体としての熱伝導率を2[W/m/K]以下にすることができる。
【0049】
熱・音波変換部品12及び熱・音波変換部品112に備える貫通孔の断面形状は、例えば、三角形、四角形、六角形を含む多角形状である。あるいは、この多角形状を組み合わせた形状である。貫通孔12aと接する壁12bの内壁面には、貫通孔12aの断面の内側に向かって突出した図示されないリブが貫通孔12aの延在方向に沿って設けられていることが好ましい。リブを壁12bの内壁面に設けることにより、音波を伝播させる流体と壁12bとの間の接触面積を広くすることができる。このため、音圧エネルギと熱エネルギと間の変換効率を高めることができる。
【0050】
(熱・音波変換部品の製造方法)
上述した熱・音波変換部品12,112の製造方法について以下説明する。
図5は、熱・音波変換部品12,112の製造方法に用いる金属板100の一例を示す図である。
【0051】
まず、複数の貫通孔の開口部が両側の主表面に設けられた金属板100を複数形成する。金属板100は、フォトエッチングを用いて形成される。具体的には、例えば厚さ0.1mm以下の金属板を洗浄した後、フォトレジスト膜を金属板の両主表面に貼り付ける。その後、最終部品である金属板100の貫通孔の開口部に対応した開口および位置決めのピン孔を再現した加工パターンを有するフィルムあるいはガラスの原版を、フォトレジスト膜が貼り付けられた金属板の上に密着させ、露光、現像して、金属板の上にマスクを形成する。その後、マスクの形成された金属板の主表面にエッチング液を吹き付けてエッチングをした後、マスクを除去することにより、貫通孔の開口部及びピン孔を有する金属板100を得る。
【0052】
次に、形成した複数の金属板100それぞれの主表面に粗面化処理を施す。粗面化処理は、例えば、プレス成形型を用いて機械的に凹凸形状に加工処理して、あるいはフォトエッチングを用いて表面処理をして、あるいはプラズマを用いて表面処理をして、あるいはサンドブラストを用いて表面を処理して、金属板100の主表面を粗くする。このように金属板100の主表面の粗面化処理を行うのは、後述するように、複数の金属板100を積層して熱圧着したとき、金属板100の間に気孔を有する金属の酸化物層を第2の層13bとして形成するためである。このとき、金属板100の部分は第1の層13aとなる。したがって、第2の層13bの気孔率は、金属板100の主表面の表面粗さの程度、すなわち粗面化処理における加工処理や表面処理の強弱によって調整される。なお、粗面化処理を施す金属板100の面は、両側の主表面であっても、片側の主表面のみであってもよい。第2の層13bの気孔率を調整するために、積層する金属板100の主表面同士の表面凹凸を調整できれば、両側の主表面を粗面化処理してもよく、片側の主表面のみを粗面化処理してもよい。
【0053】
次に、粗面化処理後の複数の金属板を、貫通孔の開口部同士が略同じ位置に揃うように位置決めして積層することにより金属板集合体を形成する。具体的には、金属板100に形成されたピン孔(図示されず)にピンを通すことにより、貫通孔の開口部同士が略同じ位置に揃うように複数の金属板100が位置決めされた状態で、複数の金属板100を積層する。これにより、金属板集合体が形成される。
【0054】
次に、金属板集合体を熱圧着して、隣接する金属板間に気孔を有する層を形成する。これにより熱・音波変換部品12,112が作製される。金属板集合体の熱圧着は、例えば水素雰囲気中の炉内で、所定の温度で行う。例えば、金属板100がオーステナイト系ステンレス鋼等のステンレス鋼である場合、金属板100の温度は1050〜1150℃であることが好ましく、例えば1100℃、15分間の条件で、例えば300〜2000気圧の圧力を加えて金属板集合体を圧着させる。
【0055】
本実施形態では、主表面に粗面化処理を施した金属板100を熱圧着するが、粗面化処理する代わりに、粗面化処理を施すことなく、金属板を積層した金属板集合体を、上記熱圧着における温度よりも30〜50℃低下した温度の条件で、金属板集合体を熱処理することにより、隣接した第1の層13aの間に気孔を有する第2の層13bが設けられた熱・音波変換部品12,112を作製することもできる。
【0056】
また、本実施形態では、金属板100の主表面に粗面化処理を施し、金属板100同士を熱圧着することにより、隣り合う第1の層13aの間に気孔を有する第2の層13bを形成したが、第2の層13bは、セラミックス層を含んでもよい。この場合、粗面化処理を金属板100の主表面に施す代わりに、金属板100の主表面にセラミックス素材を塗布した後、金属板100を積層した金属板集合体を熱処理して、セラミックス素材を焼結させることもできる。
この場合、以下の手順に従って、熱・音波変換部品12,112が作製される。まず、複数の貫通孔の開口部が両側の主表面に設けられた複数の金属板100を形成する。この後、金属板100それぞれの主表面にセラミックス素材を塗布する。セラミックス素材を塗布後、複数の金属板を、開口同士が略同じ位置に揃うように位置決めして積層することにより金属板集合体を形成する。この後、金属板集合体を熱処理して、隣接する金属板間にセラミックス層を形成する。これにより熱・音波変換部品12,112が作製される。セラミックス素材には、例えばジルコニアを主成分とするセラミックス材が用いられる。
【0057】
こうして作製された熱・音波変換部品12,112を、さらに、セラミックス粉末を分散させたスラリ中に、浸漬することにより、熱・音波変換部品12,112の貫通孔を囲む壁12bの内壁面にセラミックスコート層を形成することが、貫通孔の水力直径を小さくでき、また貫通孔に沿う方向の構造体としての熱伝導率を低減できる点で好ましい。セラミックコート層は、例えばジルコニア、アルミナ、コージェライト、セリア、ムライト、アルミニウムチタネートの材料からなる。金属板100に用いる金属としては、ステンレス鋼以外に、炭素鋼、純鉄、アルミニウム、チタン、ニッケル、クロムまたはこれらの合金、または、コバルト、マンガンとの合金であってもよく、これらに限らない。
【0058】
このように、本実施形態の製造方法では、貫通孔を多数設けた複数の金属板を用いて積層構造体である熱・音波変換部品12,112を作製することができるので、精度の高い寸法を持つ貫通孔を多数備えた熱・音波変換部品12,112を効率よく作製することができる。
【0059】
(実験例)
本実施形態の熱・音波変換部品における流体と壁との間のエネルギ変換を調べるために、種々の熱・音波変換部品を作製した。
エネルギの変換効率の算出のために、
図1に示す熱・音波変換器10の出力端14aにおいて、リニア発電機により音波を電気に変換し、その発電量W[J/秒]を測定した。一方、高温度側熱交換器における本システムへの投入熱量Q(J/秒)を、高温側の熱変換部の入り口、出口間のガスの温度差(ΔT)と その流量M(kg/秒)とガスの比熱Cp(J/kg/K)よりQ= ΔT・Cp・Mとして求めた。変換効率ηは、η=W/Qとして求めた。変換効率は、20%以上を合格品とした。
熱・音波変換部品12のX方向の長さは30mmとし、導管14内にヘリウムガスを密封し、10気圧とした。熱・音波変換部品12の、低温部15側の端は60℃となり、高温部23側の端は500℃となるように、低温部15及び高温部23の温度を定めた。
【0060】
下記表1は、各仕様とそのときのエネルギの変換効率の結果を示す。表1中の水力直径、開口率、熱伝導率(貫通孔の延在方向の、構造体としての熱伝導率)は既に説明したパラメータである。第1の層13aは、厚さ100μmのステンレス鋼からなる金属板100を用い、第2の層13bは、気孔率が30%となるように、粗面化処理を主表面に施した。第1の層13a及び第2の層13bがそれぞれ略300層ある積層構造体である熱・音波変換部品12を得た。さらに、第2の層13bの厚さ、すなわち粗面化処理の深さ、及び第2の層13bの気孔率を変化させることにより熱伝導率を変化させたサンプルを準備した。実施例1〜10及び比較例1〜8の複数の貫通孔すべての水力直径は、下記表1に示す数値とした。実施例11では、複数の貫通孔全体の数の20%の数に当たる貫通孔の水力直径を0.35mmとし、残りの貫通孔の水力直径を0.5mmとした。実施例12では、複数の貫通孔全体の数の50%の数に当たる貫通孔の水力直径を0.35mmとし、残りの貫通孔の水力直径を0.5mmとした。実施例13では、複数の貫通孔全体の数の80%の数に当たる貫通孔の水力直径を0.35mmとし、残りの貫通孔の水力直径を0.5mmとした。実施例14では、複数の貫通孔全体の数の90%の数に当たる貫通孔の水力直径を0.35mmとし、残りの貫通孔の水力直径を0.5mmとした。
【0062】
表1に示される実施例1〜3と比較例1〜3との比較より、水力直径を0.4mm以下とすることにより、変換効率が合格レベルになることがわかる。また、実施例4〜6と比較例4〜6との比較より、貫通孔の開口率を60%以上とすることにより、変換効率が合格レベルになることがわかる。また、実施例7〜10と比較例7,8との比較により、貫通孔の延在方向における壁12bの構造体としての熱伝導率を2[W/m/K]以下とすることにより、変換効率が合格レベルになることがわかる。特に、壁12bの構造体としての熱伝導率を1[W/m/K]以下とすることにより、変換効率が大幅に向上することがわかる。
また、実施例11〜14より、水力直径が4μm以下の貫通孔の数は多いほど変換効率は高く、貫通孔の全体の数の80%以上であると変換効率の向上が大きくなることがわかる。
【0063】
以上、本発明の熱・音波変換部品、熱・音波変換器、及び熱・音波変換部品の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。