特許第6178761号(P6178761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ライオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178761
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】内服剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20170731BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   A61K31/202
   A61K31/12
   A61P43/00 107
   A61P43/00 111
   A61P43/00 121
   A61P25/28
   A61P13/12
   A61P9/12
   A61P3/10
   A61P19/10
   A61P17/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-142526(P2014-142526)
(22)【出願日】2014年7月10日
(65)【公開番号】特開2015-34161(P2015-34161A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-144388(P2013-144388)
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】一柳 直希
(72)【発明者】
【氏名】小圷 美聡
(72)【発明者】
【氏名】石原 康晴
(72)【発明者】
【氏名】竹中 玄
(72)【発明者】
【氏名】栗田 啓
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−256153(JP,A)
【文献】 特開2010−248148(JP,A)
【文献】 特開2007−077067(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/090745(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/040938(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0110674(US,A1)
【文献】 特開2009−298740(JP,A)
【文献】 特開2007−008863(JP,A)
【文献】 特開2012−224602(JP,A)
【文献】 Journal of Food Science, 2007, Vol.72(2), p.s98-s102
【文献】 日本調理科学会誌, 2008, Vol.41(4), p.262-268
【文献】 Functional Food, 2013/4, Vol.6(4), p.254-260
【文献】 日本農芸化学会大会要旨集, 2007, Vol.2007, p.115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/202
A61K 31/12
A61P 3/10
A61P 9/12
A61P 13/12
A61P 17/02
A61P 19/10
A61P 25/28
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)及び(B)を含有する神経幹細胞活性化剤。
成分(A):ドコサヘキサエン酸
成分(B):カプソルビン
【請求項2】
成分(A)及び(B)を含有するRAGE遺伝子発現抑制剤。
成分(A):ドコサヘキサエン酸
成分(B):カプソルビン
【請求項3】
成分(A)及び(B)を含有する神経幹細胞活性化用食品組成物。
成分(A):ドコサヘキサエン酸
成分(B):カプソルビン
【請求項4】
成分(A)及び(B)を含有するRAGE遺伝子発現抑制用食品組成物。
成分(A):ドコサヘキサエン酸
成分(B):カプソルビン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内服剤に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カロテノイド、アスコルビン酸類及びトコフェロール類のいずれか2種以上を配合した抗酸化剤が試験管内で抗酸化能を発揮することが記載されている。
【0003】
神経幹細胞の活性化に関する先行技術としては、非特許文献1、非特許文献2などがある。非特許文献1では成人の脳(海馬)に神経幹細胞が存在し、必要に応じて再生される可能性があること、また非特許文献2ではドコサヘキサエン酸(DHA)やアラキドン酸などに神経幹細胞の増殖効果があることが示されている。
【0004】
終末糖化産物(advanced glycation end products、以下、AGEsと略記することがある。)の受容体(receptor for AGEs;以下、RAGEと略記することがある。)は、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、腎メサンギウム細胞、神経細胞、グリア細胞、肺胞上皮細胞、気管支上皮細胞、マクロファージ等の様々な細胞、組織にて発現することが知られている。RAGEに結合するAGEsは、生体におけるタンパク質が糖によりメイラード反応を起こした結果生成される。
【0005】
RAGEはアミロイドβの細胞内への再取り込みに関わること(非特許文献3)が知られており、アルツハイマー病との関与が示唆されている。そのため、アミロイド生成性疾患を予防及び処置する方法として抗RAGE抗体を用いること(特許文献2)などが知られている。RAGEの抑制が加齢疾患の治療法として有望であることは認められつつあるものの、生体内でのその機能については不明な点が多く、ましてやAGEsの生成抑制やRAGEシグナルの制御については、ほとんど解明されていない。また、RAGEは、各種の加齢疾患に関与していることが知られており、慢性腎臓病や高血圧、糖尿病の病態への関与、糖尿病合併症としての網膜症や角膜症、眼の加齢疾患である白内障、黄斑変性症などへの関与も知られている。
【0006】
また、DHAの効果として、血中脂質低下、抗血栓作用などの他に脳機能低下の予防効果があるとの報告は多く、またDHAとルテインを組み合わせることによる脳機能の低下抑制効果がある(特許文献3)ことが報告されている。しかしながら、DHAを用いた介入研究のメタ分析からは、有効性があるとされるもの、無いとされるものが混在している状態であり、その脳機能に対する有効性については立証されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2009年9月号Nature Neuroscience誌(Volume 12,No.9,pages 1097−1105)
【非特許文献2】Genes to Cells,Volume 16,Issue 7,pages 778−790,July 2011
【非特許文献3】日薬理誌(Folia Pharmacol.Jpn.)131,326〜332(2008)
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−179632号公報
【特許文献2】特表2009−530423号公報
【特許文献3】国際公開第2006/116755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、神経幹細胞やRAGE遺伝子発現に関し何ら記載されていない。非特許文献1及び2に記載されている有効性については、神経幹細胞の増殖効果の結果によるものであり、神経活動においてより重要な指標となる神経幹細胞から神経細胞への分化(成熟)に対する影響に関しては明らかにはなっていない。非特許文献3及び特許文献2には上述の通り、RAGE遺伝子発現抑制活性を有する物質が記載されていない。特許文献3では、DHAとルテイン以外のカロテノイドが何らかの活性を有することは記載されていない。
【0010】
本発明は、神経幹細胞活性化機能及びRAGE遺伝子発現抑制機能を発揮することのできる内服剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の〔1〕〜〔6〕を提供するものである。
〔1〕ドコサヘキサエン酸、カプサンチン、カプソルビン、フコキサンチン及びフコキサンチノールからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とする内服剤。
〔2〕有効成分がドコサヘキサエン酸とカプサンチンとを少なくとも含む、上記〔1〕記載の内服剤。
〔3〕脳機能改善剤である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の内服剤。
〔4〕脳内アミロイドβ蓄積抑制剤である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の内服剤。
〔5〕神経幹細胞活性化剤である、上記〔1〕に記載の内服剤。
〔6〕RAGE遺伝子発現抑制剤である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の内服剤。
【0012】
具体的には、本発明は以下の〔7〕〜〔11〕を提供する。
〔7〕成分(A)及び(B)を含有する内服剤。
成分(A):ドコサヘキサエン酸
成分(B):カプソルビン、フコキサンチン及びフコキサンチノールからなる群より選ばれる1種以上
〔8〕神経幹細胞活性化剤である、〔7〕に記載の内服剤。
〔9〕RAGE遺伝子発現抑制剤である、〔7〕又は〔8〕に記載の内服剤。
〔10〕ドコサヘキサエン酸、カプサンチン、カプソルビン、フコキサンチン、フコキサンチノール、ドコサヘキサエン酸とフコキサンチン、ドコサヘキサエン酸とフコキサンチノール、ドコサヘキサエン酸とカプソルビン、ドコサヘキサエン酸とカプサンチン、又は、ドコサヘキサエン酸とカプサンチンとルテインとゼアキサンチンを有効成分とする神経幹細胞活性化剤。
〔11〕ドコサヘキサエン酸、ドコサヘキサエン酸とカプサンチン、ドコサヘキサエン酸とルテインとゼアキサンチン、又は、ドコサヘキサエン酸とルテインとゼアキサンチンとカプサンチンを有効成分とするRAGE遺伝子発現抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、神経幹細胞活性化機能、RAGE遺伝子発現抑制機能を発揮することのできる内服剤を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の剤は、DHA及び/又はカロテノイドを含んでいてもよい。カロテノイドとしては、カプサンチン、カプソルビン、フコキサンチン、フコキサンチノール、ゼアキサンチン、ルテインが例示され、これらのうち1種又は2種以上であってもよい。
【0015】
DHA(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)−ドコサ−4,7,10,13,16,19−ヘキサエン酸)は、魚類などの動物、微生物(Schizochytrium属)等天然物由来でもよいし、人工的に製造したものでもよいし、遺伝子組み換えにより製造されたものでもよいし、市販品を用いてもよい。更に、様々な取得方法で得られる2種以上のDHAを組み合わせて用いてもよい。DHAは薬理学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0016】
DHAは、遊離脂肪酸としてのDHAであってもよいし、その誘導体であってもよい。誘導体としては、トリグリセリド型DHA(TG−DHA)、リン脂質型DHAが例示される。トリグリセリド型DHAとは、トリグリセロールとDHAがエステル結合している化合物である。なおトリグリセリド型DHAにはトリグリセロール1分子あたり1分子以上の脂肪酸としてのDHAが結合することができる。トリグリセリド型DHAのうち、トリグリセロール1分子あたり2分子以上のDHAが結合しているトリグリセリド型DHAが望ましい。リン脂質型のDHAとは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン等のリン脂質にDHAが結合している化合物である。リン脂質型のDHAとしては、ホスファチジルコリン型DHA(PC−DHA)が好ましい。リン脂質型DHAのうち、リン脂質1分子あたり2分子以上のDHAが結合しているリン脂質型DHAが望ましい。リン脂質型DHAはトリグリセリド型DHAに比べ、生体吸収性や脳移行性、酸化安定性が高いことが知られており、DHAのなかではリン脂質型DHAがより好ましい。
【0017】
カプサンチン(all−trans−カプサンチン、(3R,3'S,5'R)−3,3'−ジヒドロキシ−β,κ−カロテン−6'−オン、(3R,3'S)−3,3'−ジヒドロキシ−β,κ−カロテン−6'−オン)は、パプリカ、トウガラシなどの植物等天然物由来であってもよいし、人工的に製造されたものでもよいし、遺伝子組み換えにより製造されたものでもよいし、市販品を用いてもよい。カプサンチンは薬理学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0018】
カプソルビン((2S,2’S,5R,5'R)−2,2'−ジヒドロキシ−κ,κ−カロテン−6,6’−ジオン、(3S,3'S,5R,5'R)−3,3’−ジヒドロキシ−κ,κ−カロテン−6,6’−ジオン)は、パプリカ、トウガラシなどの植物等天然物由来であってもよいし、人工的に製造されたものでもよいし、遺伝子組み換えにより製造されたものでもよいし、市販品を用いてもよい。カプソルビンは薬理学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0019】
フコキサンチン(Acetic acid[(1S,3R)−3−hydroxy−4−[(3E,5E,7E,9E,11E,13E,15E)−18−[(1S,4S,6R)−4−hydroxy−2,2,6−trimethyl−7−oxabicyclo〔4.1.0〕heptane−1−yl]−3,7,12,16−tetramethyl−17−oxooctadeca−1,3,5,7,9,11,13,15−octaenylidene]−3,5,5−trimethylcyclohexyl]ester)は、昆布、ひじき、ワカメなどの褐藻類等天然物由来であってもよいし、人工的に製造されたものでもよいし、遺伝子組み換えにより得られるものであってもよいし、市販品を用いてもよい。フコキサンチンは薬理学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0020】
フコキサンチノール((3S,3'S,5R,5'R,6S,6’S)−6’,7'−ジデヒドロ−5,6−エポキシ−5,5’,6,6’,7,8−ヘキサヒドロ−3,3’,5’−トリヒドロキシ−8−オキソ−β,β−カロテン)は、昆布、ひじき、ワカメなどの褐藻類等天然物由来であってもよいし、人工的に製造されたものでもよいし、遺伝子組み換えにより得られるものでもよいし、市販品を用いてもよい。フコキサンチノールは薬理学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0021】
ゼアキサンチン(4−[18−(4−ヒドロキシ−2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセニル)−3,7,12,16−テトラメチル−オクタデカ−1,3,5,7,9,11,13,15,17−ノナエニル]−3,5,5−トリメチル−3−シクロヘキセン−1−オール)は、植物(トウモロコシ等)、卵黄、動物性脂肪などの天然物由来であってもよいし、人工的に製造されたものでもよいし、遺伝子組み換えにより得られるものでもよいし、市販品を用いてもよい。ゼアキサンチンは薬理学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0022】
ルテイン(β,ε−カロテン−3,3’−ジオール)は、以下の式で表される。ルテインは高等植物(ホウレンソウ、ケール、コマツナなど)の葉緑体などの天然物由来であってもよいし、人工的に製造されたものでもよいし、遺伝子組み換えにより得られるものでもよいし、市販品を用いてもよい。ルテインは薬理学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0023】
本発明において薬理学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、又はパラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩;アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸塩が挙げられる。
【0024】
上記成分のうち1種又は2種以上の組み合わせを有効成分として選択して、該有効成分を含む内服剤としてもよい。中でも、以下の成分(A)及び(B)を含有する内服剤は、神経幹細胞の活性化機能、RAGE遺伝子発現抑制機能を発揮することができるので、好ましい。
成分(A):DHA
成分(B):カプソルビン、フコキサンチン及びフコキサンチノールからなる群より選ばれる1種以上。
【0025】
上記成分は単独で、又は2種以上の組み合わせで、神経幹細胞の活性化機能を発揮するので、神経幹細胞活性化剤の有効成分として利用することができる。神経幹細胞の活性化とは、神経幹細胞を成熟神経細胞に分化させることを示す。神経幹細胞活性化剤の有効成分は、DHA、カプサンチン、カプソルビン、フコキサンチン、フコキサンチノール、DHAとフコキサンチン、DHAとフコキサンチノール、DHAとカプソルビン、DHAとカプサンチン、又は、DHAとカプサンチンとルテインとゼアキサンチンであることが好ましい。中でも、カプサンチン、フコキサンチン、フコキサンチノール、DHAとカプサンチン、又はDHAとカプソルビンであることが好ましく、カプサンチン、フコキサンチン、フコキサンチノール、DHAとカプソルビンであることがより好ましく、カプサンチン、DHAとカプソルビンであることが更に好ましい。これにより神経幹細胞の顕著な分化促進機能を発揮することができる。
【0026】
上記成分のうち、DHA及び/又はカプサンチンは、RAGE遺伝子発現抑制効果を発揮するので、RAGE遺伝子発現抑制剤として利用することができる。RAGE遺伝子発現抑制剤の有効成分は、DHA、DHAとカプサンチン、DHAとルテイン及び/又はゼアキサンチン、DHAとルテイン及び/又はゼアキサンチンとカプサンチンであることが好ましい。これにより、顕著なRAGE抑制効果を発揮することができる。
【0027】
本発明の剤の投与量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限は無く、また適応される被投与生体の年齢、状態などの種々の要因により適宜変えることができる。目的の効果を得るために好ましい投与量は、剤の用途により適宜設定すればよい。
【0028】
例えば、成分(A)と成分(B)の組み合わせを有効成分とする内服剤の場合、DHAの1日当たり投与量は、50mg〜3000mgであることが好ましく、100mg〜2200mgであることが好ましい。カロテノイドの1日当たり投与量は、1日当たり0.5mg〜250mgであることが好ましく、1mg〜50mgであることがより好ましい。DHAの1日当たり投与量及びカロテノイドの1日当たり投与量が、それぞれ50mg〜3000mg及び0.5mg〜250mgであることが好ましく、100mg〜2200mg及び1mg〜50mgであることがより好ましい。DHAの含有量とカロテノイドの含有量(総量)の比率は100:1〜1:50であることが好ましく、50:1〜10:1であることがより好ましい。
【0029】
本発明の神経幹細胞活性化剤がDHAを有効成分とする場合、DHAの1日当たり投与量は50mg〜3000mgであることが好ましく、100mg〜2200mgであることがより好ましい。本発明の神経幹細胞活性化剤が1種又は2種以上のカロテノイドを有効成分とする場合、カロテノイドの1日当たり投与量は0.5mg〜250mgであることが好ましく、1mg〜50mgであることがより好ましい。本発明の神経幹細胞活性化剤がDHAとカロテノイドの組み合わせを有効成分とする場合、DHAの含有量とカロテノイドの含有量(総量)の比率は、100:1〜1:50であることが好ましく、50:1〜10:1であることがより好ましい。
【0030】
本発明のRAGE遺伝子発現抑制剤がDHAを有効成分とする場合、DHAの1日当たり投与量は50mg〜3000mgであることが好ましく、100mg〜2200mgであることがより好ましい。本発明のRAGE遺伝子発現抑制剤が1種又は2種以上のカロテノイドを有効成分とする場合、カロテノイドの1日当たり投与量はそれぞれ0.5mg〜250mgであることが好ましく、1mg〜50mgであることが好ましい。本発明のRAGE遺伝子発現抑制剤がDHAとカロテノイドの組み合わせを有効成分とする場合、DHAの含有量とカロテノイドの含有量(総量)の比率は100:1〜1:50であることが好ましく50:1〜10:1であることがより好ましい。
【0031】
DHAの含有量及び投与量は、DHAの脂肪酸組成比換算量として表してもよい。脂肪酸組成比換算量の定義は、実施例で説明するとおりである。
【0032】
本発明の内服剤が成分(B)として2種以上のカロテノイドを含む場合、並びに、神経幹細胞の活性化剤及びRAGE遺伝子発現抑制剤が2種以上のカロテノイドを含む場合、2種以上のカロテノイドの含有比率は特に限定されない。例えば、2種以上のカロテノイドがフコキサンチン、フコキサンチノール、カプソルビン及びカプサンチンの含有量の比率は、ある特定のカロテノイドを1としたときに他のカロテノイドは100倍の比率以内で組み合わせること(特定のカロテノイド:他のカロテノイドのそれぞれ=1:0を超えて100以下)が好ましく、ある特定のカロテノイドを意図したときに他のカロテノイドは10倍の比率以内で組み合わせること(特定のカロテノイド:他のカロテノイドのそれぞれ=1:0を超えて100以下)がより好ましい。
【0033】
但し、上記の投与量はほんの一例にすぎず、製剤化技術により、生体吸収性、生物学的利用率を高めた製剤の場合については、より低濃度で効果を及ぼすことから、さらに低い濃度での適用が可能である。
【0034】
本発明の剤は、上記の成分を有効成分としていればよく、上記以外の成分と、薬理学的に許容される基剤をさらに有する組成物の形態であってもよい。薬理学的に許容される基剤の一例としては、主に貯蔵及び流通における安定性を確保する成分(例えば保存安定剤など)が挙げられる。その他、目的の最終製品(例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品など)を構成する諸成分から選ばれる1又は2種類以上の成分(好ましくは1〜3種類程度、より好ましくは1種類程度)を含有していてもよい。
【0035】
本発明の剤は、そのままの形態で、最終製品として用いることもできる。また、飲食品用の添加剤、医薬用の添加剤、医薬部外品用の添加剤として用いることができる。これにより、飲食品、医薬品、医薬部外品に、各種効果を付与することができる。
【0036】
薬理学的に許容される基剤は、本発明の目的を損なわない限り、特に限定されない。例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤などの中から、製剤に必要な諸特性(例えば、製剤安定性)を損なわないものであって、最終製品(例えば、医薬品、医薬部外品、飲食品)の剤形に応じたものを1種又は2種以上選択することができる。また、薬理学的に許容される基剤は、一酸化窒素産生抑制効果を有する他の成分であってもよい。
【0037】
本発明の剤が薬理学的に許容される基材を含む場合、有効成分(2種以上の成分の組み合わせである場合には、合計量)の配合量は、有効量であれば特に限定されないが、通常は0.01〜80質量%の範囲である。
【0038】
本発明の剤の投与形態は通常は口腔内投与、舌下投与などの経口投与である。
【0039】
本発明の剤の剤形は、飲食品、医薬品及び医薬部外品のいずれとするかによって適宜決定することができ、特に限定されない。経口投与される際の剤形の例としては、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、錠剤、カプセル状(カプセル剤)、粉末状(顆粒状(顆粒剤)、細粒(散剤))、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、固形状(固形製剤)、半液体状、クリーム状、ペースト状が挙げられる。
【0040】
本発明の神経幹細胞活性化剤は、神経幹細胞の分化を促進することにより、神経を再生できるので、認知機能の予防、改善用の飲食品もしくは医薬品として利用できる。神経幹細胞活性化剤の摂取対象者は特に限定されないが、例えば、アルツハイマー病をはじめとする種々の認知症、また軽度認知障害、また健常でありつつも日ごろ物忘れを感じている対象者、さらには集中力が続かないなどの不調を感じている対象者に適している。また、特段の問題のない対象者であっても、神経幹細胞活性化を目的として日常的に摂取することができる。
【0041】
本発明のRAGE遺伝子発現抑制剤は、RAGE遺伝子の発現を抑制することにより、AGEsを介した不具合を抑制できるので、アルツハイマー病をはじめとして、慢性腎疾患、高血圧、糖尿病、骨粗しょう症などの疾患の、また、網膜症、角膜症、黄斑変性などの眼疾患の、予防、改善を目的とした飲食品もしくは医薬品として利用できる。RAGE遺伝子発現抑制剤の摂取対象者は特に限定されないが、例えば、加齢などにより複数の部分に不具合を感じている対象者に適している。また、特段の問題のない対象者であっても、RAGE遺伝子発現抑制を目的として日常的に摂取することができる。
【0042】
本発明の剤の投与時期は特に限定されない。
【0043】
本発明の剤は、各種剤形で利用することができる。また、健康食品、機能性食品、栄養補助食品(サプリメント)、特定保健用食品、医療用食品、病者用食品、乳児用食品、介護用食品、高齢者用食品等として利用することもできる。
【実施例】
【0044】
実施例1〜10〔神経幹細胞の神経細胞への分化〕
ヒト神経幹細胞(Cell Applications)を培養し、2継代後に48ウェルプレート(BD Falcon)へ、1×105cells/wellとなるよう播種した。播種の12時間後にシーズを添加し、さらにその4日後に半量での培地交換を行った。プレートでの培養開始から10日後に4% パラホルムアルデヒド(シグマ)によって固定した。固定後、分化した神経細胞を抗βIII−tubulin抗体(シグマ)で、細胞の核をHoechst(DOJINDO)で、それぞれ常法によって免疫染色を行い、視野における核染色数に対する神経染色細胞数の比率、すなわち分化した神経細胞の比率を算出した(n=15)。
【0045】
試料は、DHA(実施例1、10)、カプサンチン(実施例2、11)、カプソルビン(実施例3)、フコキサンチン(実施例4)、フコキサンチノール(実施例5)、DHA+カプサンチン(実施例6)、DHA+カプソルビン(実施例7)、DHA+フコキサンチン(実施例8)、DHA+フコキサンチノール(実施例9)であった。実施例1〜5、10、11では各シーズの添加量は10-8M、10-7M、10-6M及び10-5Mであった。実施例6〜9ではDHAの添加量が10-8M、これと組み合わせるシーズの添加量は10-10M、10-8M及び10-6Mであった。
【0046】
各試料に用いた成分は、以下の通りであった:
DHA:遊離型DHA、Cayman CHEMICAL社、CAS6217−54−5
カプサンチン:extrasynthese社
カプソルビン:extrasynthese社
フコキサンチン:和光純薬工業株式会社
フコキサンチノール:和光純薬工業株式会社
【0047】
実施例1〜11の神経染色細胞数の比率を表1及び2に示す(n=15)。尚、表中の数値は、溶媒添加と比較しての相対比であり、各添加濃度のうち、もっとも効果のあった添加濃度での測定値を示している。表1及び2のカッコ中の数字は、測定値を得た時の添加濃度(評価濃度)(M)を示している。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1及び2に示す結果より、DHAは神経細胞分化促進効果を発揮すること(実施例1及び10)、カプサンチン、カプソルビン、フコキサンチン、フコキサンチノールはそれぞれ単独で(実施例2、3、4、5、11)効果があり、カプサンチン、カプソルビンについては、DHAとの組み合わせで(実施例6〜8)DHAと同等以上、あるいは相乗的な神経細胞分化促進効果を発揮することが明らかとなった。
【0051】
実施例11〜14及び比較例1〔DNAマイクロアレイによるRAGE遺伝子の発現量の測定〕
6週齢のSAMP8(日本エスエルシー)に、表3に示す試料をCE−2粉末餌(日本エスエルシー)に混合し、与えた。各試料に用いた成分は、以下の通りであった:
TG−DHA:DDオイルDHA−46:日本水産株式会社。(本品のDHAは主にトリグリセリド型のDHAとして含有される。原料中に含まれる脂肪酸をすべて遊離脂肪酸としたうえで、全脂肪酸に対する該当する脂肪酸の組成比を、該当する脂肪酸の「脂肪酸組成比」と定義する。本品の場合、DHAの脂肪酸組成比は46%であった)
カプサンチン:パプリカ由来カプサンチン20%組成物:カトラ社
ルテイン+ゼアキサンチン:マリーゴールド由来ルテイン/ゼアキサンチン混合物:10%:10%混合物:カトラ社
【0052】
TG−DHAの配合量は、1333mg/kg/day(脂肪酸組成比換算量:617mg/kg/day)であった。TG−DHA以外の成分の配合量は、各々100mg/kg/day(含有カロテノイド量では、20mg/kg/day)であった。水は自由に摂取できるようにした。餌は3日に一度交換し、3ヶ月間与え続けた。
【0053】
ある脂肪酸の脂肪酸組成比換算量とは、原料中の脂肪酸含量に、該当する脂肪酸の脂肪酸組成比を乗じて算出された値である。
【0054】
その後、各マウスから脳を摘出し、速やかにRNAlater(Ambion)に浸漬し、AllPrep DNA/RNA/Protein Mini Kit(QIAGEN)を用いてmRNAを抽出した。各群n=3で評価し、抽出したmRNAを群ごとに混合してマイクロアレイ解析に供した。マイクロアレイ解析はタカラバイオ社へ受託依頼した。ChipはSurePrint G3 Mouse GE 8x60K Microarrayを用いた。解析結果から群間でのComparison Analysisを実施し、RAGE遺伝子の変動倍率(Signal Log Ratio=log2(比較例群のシグナル/コントロール(通常食)群のシグナル))を算出した。この変動倍率は、各群のRAGE遺伝子発現量が、コントロール群のそれに比べてどのくらい減少しているのかを表した数値である。すなわち、試験食の投与により、どれほどRAGE遺伝子が減少したか、その悪影響を減らすことができるのかを示している。実施例12〜15及び比較例1の各結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
動物から摘出した脳において、脳機能に悪影響を及ぼすといわれているAGEsの受容体(RAGE)の遺伝子発現が、コントロール動物と比較してDHA+ルテイン+ゼアキサンチン+カプサンチン群(実施例14)では68%減もの低値を示した。一方、DHA+ルテイン+ゼアキサンチン(実施例11)ではRAGE発現はコントロールと比較して低下しているものの、29%減に留まった。DHA+カプサンチン(実施例13)においてもRAGE発現が52%低下したことより、RAGEの発現低下にはカプサンチンの寄与が大きいと考えられる。
【0057】
〔処方例〕
下記表4、5に示す成分を中鎖脂肪酸トリグリセリドに懸濁し、常法によりゼラチンを用いてソフトカプセルを作製した。なお、表4〜5中の各成分の量は、脂肪酸組成比換算量、もしくはカロテノイド含有量として表記している。
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】