【文献】
Bioorg. Med. Chem.,2007年,Vol.15, No.5,p.2016-2023
【文献】
The Journal of Rheumatology,1999年,Vol.26, No.12,p.2602-2608
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記新生細胞が、肉腫、リンパ腫、白血病、癌腫および腺癌腫、芽細胞腫、胚細胞性腫瘍、神経膠腫、神経内分泌腫瘍、黒色腫、ラブドイド腫瘍(rhabdoid tumor)、胚芽腫、神経外胚葉性腫瘍、カルチノイド、頭蓋咽頭腫、組織球腫、髄上皮腫、中皮腫、多発性骨髄腫、慢性骨髄増殖性疾患、未分化神経外胚葉性腫瘍、唾液腺腫瘍、胸腺腫、胸腺癌腫、甲状腺癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択される癌細胞である、請求項3に記載の医薬組成物。
前記細胞を、DNA修復の欠陥もしくは欠損を有するもしくはそれを引き起こす、または感染、組込み、もしくは複製について宿主DNA修復経路に依存するウイルスに曝露または感染させる、請求項1から7までのいずれか1項に記載の医薬組成物。
DNAに損傷を与えるまたはDNA修復を阻害する抗新生物薬をさらに含み、ここで、前記細胞浸透性抗DNA抗体またはその抗原結合断片により、前記抗新生物薬に対する前記細胞の感受性が増大する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1-1】
図1Aは、連結ドメイン(LD)によってつながった3E10の軽鎖および重鎖の可変領域で構成される3E10単鎖抗体可変性断片(3E10 scFv)の概略図である。MycタグおよびHis6タグを付加して、検出および精製を可能にした。3E10 scFvは癌細胞の核内に浸透する(5μMの3E10 scFvを用いて30分間処理し、次いで固定し、抗Myc抗体を用いて染色したSkov−3卵巣癌細胞で実証された)。
図1Bは、対照緩衝液(棒1および3)または10μMの3E10 Fv(棒2および4)の存在下で0Gy(棒1〜2)または4Gy(棒3〜4)で照射したU251ヒト神経膠腫細胞のクローン原性生存(対照と比較した生存の割合)を示す棒グラフである。エラーバーは、反復実験についての標準誤差を示す。
図1C〜1Dは、10μMの3E10 scFvの存在下(破線)または不在下(実線)における、ドキソルビシン(Dox)(0〜250nM)(
図1E)またはパクリタキセル(0〜2.5nM)(
図1F)の関数としての、U87ヒト神経膠腫細胞の細胞死(%、ヨウ化プロピジウム蛍光によって測定された)を示すグラフである。
【
図1-2】
図1Aは、連結ドメイン(LD)によってつながった3E10の軽鎖および重鎖の可変領域で構成される3E10単鎖抗体可変性断片(3E10 scFv)の概略図である。MycタグおよびHis6タグを付加して、検出および精製を可能にした。3E10 scFvは癌細胞の核内に浸透する(5μMの3E10 scFvを用いて30分間処理し、次いで固定し、抗Myc抗体を用いて染色したSkov−3卵巣癌細胞で実証された)。
図1Bは、対照緩衝液(棒1および3)または10μMの3E10 Fv(棒2および4)の存在下で0Gy(棒1〜2)または4Gy(棒3〜4)で照射したU251ヒト神経膠腫細胞のクローン原性生存(対照と比較した生存の割合)を示す棒グラフである。エラーバーは、反復実験についての標準誤差を示す。
図1C〜1Dは、10μMの3E10 scFvの存在下(破線)または不在下(実線)における、ドキソルビシン(Dox)(0〜250nM)(
図1E)またはパクリタキセル(0〜2.5nM)(
図1F)の関数としての、U87ヒト神経膠腫細胞の細胞死(%、ヨウ化プロピジウム蛍光によって測定された)を示すグラフである。
【
図2-1】
図2Aは、3E10−DNA結合実験において使用したDNA基質の異なるコンフォメーションを示す。
図2Bは、漸増濃度の3E10(0〜1μM)と一緒にインキュベートした後に3E10が結合した遊離の一本鎖テイル(ゲル移動度シフト分析によって決定される)を有する(実線)または有さない(破線)、放射性標識したオリゴヌクレオチドの割合(%)を示すグラフである。これらの結合曲線により、3E10の、遊離の一本鎖末端を有する基質およびそれを有さない基質への結合について、それぞれ0.2μMおよび0.4μMのK
dがもたらされる。
図2C〜2Hは、各DNAコンフォメーションについての個々の3E10−DNA結合曲線を示す。
図2Iは、対照緩衝液(白抜きの棒)または20μMの3E10(黒塗りの棒)の存在下で、必要な修復酵素と一緒にインキュベートした合成の放射性標識した二重鎖DNA基質における一本鎖切断/塩基除去修復(BER)(%n+1生成物は、ギャップが生じた二重鎖分子にはヌクレオチドが付加されたが、残りの一本鎖切断は修復されず、全長の生成物がもたらされていない、修復が不完全な中間体の割合を示す)を示す棒グラフである。示されている時点で修復反応を停止させ、n、n+1、および二重鎖反応生成物をゲル電気泳動およびオートラジオグラフィーによって定量化した。
【
図2-2】
図2Aは、3E10−DNA結合実験において使用したDNA基質の異なるコンフォメーションを示す。
図2Bは、漸増濃度の3E10(0〜1μM)と一緒にインキュベートした後に3E10が結合した遊離の一本鎖テイル(ゲル移動度シフト分析によって決定される)を有する(実線)または有さない(破線)、放射性標識したオリゴヌクレオチドの割合(%)を示すグラフである。これらの結合曲線により、3E10の、遊離の一本鎖末端を有する基質およびそれを有さない基質への結合について、それぞれ0.2μMおよび0.4μMのK
dがもたらされる。
図2C〜2Hは、各DNAコンフォメーションについての個々の3E10−DNA結合曲線を示す。
図2Iは、対照緩衝液(白抜きの棒)または20μMの3E10(黒塗りの棒)の存在下で、必要な修復酵素と一緒にインキュベートした合成の放射性標識した二重鎖DNA基質における一本鎖切断/塩基除去修復(BER)(%n+1生成物は、ギャップが生じた二重鎖分子にはヌクレオチドが付加されたが、残りの一本鎖切断は修復されず、全長の生成物がもたらされていない、修復が不完全な中間体の割合を示す)を示す棒グラフである。示されている時点で修復反応を停止させ、n、n+1、および二重鎖反応生成物をゲル電気泳動およびオートラジオグラフィーによって定量化した。
【
図3-1】
図3Aは、in vitroにおけるDNA鎖交換反応アッセイについての概略図である。
図3Bおよび3Cは、野生型hRAD51タンパク質(
図3B)または改変体であるhRAD51K133R(
図3C)を使用したRAD51媒介性鎖交換反応に対する漸増用量の3E10(0〜35μM)の影響を示す棒グラフである。hRAD51K133R改変体は、ATPを加水分解しないので、鎖交換反応に関して野生型タンパク質よりもさらに活性である。3E10により、野生型RAD51による鎖交換反応とhRAD51K133R改変体による鎖交換反応のどちらも阻害される。免疫蛍光による画像により、対照緩衝液または10μMの3E10 scFvの存在下、2Gyで放射線照射した24時間後のU251神経膠腫細胞当たりのDNA二本鎖切断(γH2AX巣)が実証されている。
図3Dは、対照緩衝液(白抜きの棒)または10μMの3E10 scFv(黒塗りの棒)の存在下、2Gyで照射してから24時間後のU251神経膠腫細胞当たりのDNA二本鎖切断(γH2AX巣)の平均数を示す棒グラフである。エラーバーは、標準誤差を示す。
【
図3-2】
図3Aは、in vitroにおけるDNA鎖交換反応アッセイについての概略図である。
図3Bおよび3Cは、野生型hRAD51タンパク質(
図3B)または改変体であるhRAD51K133R(
図3C)を使用したRAD51媒介性鎖交換反応に対する漸増用量の3E10(0〜35μM)の影響を示す棒グラフである。hRAD51K133R改変体は、ATPを加水分解しないので、鎖交換反応に関して野生型タンパク質よりもさらに活性である。3E10により、野生型RAD51による鎖交換反応とhRAD51K133R改変体による鎖交換反応のどちらも阻害される。免疫蛍光による画像により、対照緩衝液または10μMの3E10 scFvの存在下、2Gyで放射線照射した24時間後のU251神経膠腫細胞当たりのDNA二本鎖切断(γH2AX巣)が実証されている。
図3Dは、対照緩衝液(白抜きの棒)または10μMの3E10 scFv(黒塗りの棒)の存在下、2Gyで照射してから24時間後のU251神経膠腫細胞当たりのDNA二本鎖切断(γH2AX巣)の平均数を示す棒グラフである。エラーバーは、標準誤差を示す。
【
図4-1】
図4A〜4Bは、対照緩衝液(白抜きの棒)または10μMの3E10 scFv(黒塗りの棒)を用いて処理したBRCA2非欠損(proficient)ヒト卵巣癌細胞(
図4A)またはBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4B)の、処理後1〜2週間に測定されたコロニー形成によるクローン原性生存(対照と比較した生存の割合)を示す棒グラフである。
図4Cは、3E10 scFv(0〜2μM)を用いて処理したBRCA2欠損(PEO1)ヒト卵巣癌細胞およびBRCA2非欠損(PEO4)ヒト卵巣癌細胞の%細胞死を示すグラフである。処理の3日後に、細胞生存に対する3E10 scFvの影響を、代謝的に活性な細胞の尺度としてATPレベルが報告されるCellTiterGlo(登録商標)発光によって評価した。エラーバーは、6回の測定の平均値の標準誤差を示す。
図4Dは、対照緩衝液または3E10 scFvを用いて処理したBRCA2欠損CAPAN1/neo細胞(ヒト膵癌細胞)のクローン原性生存(コロニー形成によって測定された、対照と比較した生存の割合)を示すグラフである。
図4Eは、0μM、2.5μM、5μM、または10μMの完全な3E10抗体を用いて処理したBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(破線)またはBRCA2非欠損ヒト卵巣癌細胞(実線)の細胞死(%)を示すグラフである。
図4Fおよび4Gは、対照緩衝液(棒1)、10μMの3E10(棒2)、3nMのドキソルビシン(Dox)(棒3)、または10μMの3E10+3nMのドキソルビシン(棒4)を用いて処理したBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4G)またはBRCA2非欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4F)の細胞死(%)を示す棒グラフである。
【
図4-2】
図4A〜4Bは、対照緩衝液(白抜きの棒)または10μMの3E10 scFv(黒塗りの棒)を用いて処理したBRCA2非欠損(proficient)ヒト卵巣癌細胞(
図4A)またはBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4B)の、処理後1〜2週間に測定されたコロニー形成によるクローン原性生存(対照と比較した生存の割合)を示す棒グラフである。
図4Cは、3E10 scFv(0〜2μM)を用いて処理したBRCA2欠損(PEO1)ヒト卵巣癌細胞およびBRCA2非欠損(PEO4)ヒト卵巣癌細胞の%細胞死を示すグラフである。処理の3日後に、細胞生存に対する3E10 scFvの影響を、代謝的に活性な細胞の尺度としてATPレベルが報告されるCellTiterGlo(登録商標)発光によって評価した。エラーバーは、6回の測定の平均値の標準誤差を示す。
図4Dは、対照緩衝液または3E10 scFvを用いて処理したBRCA2欠損CAPAN1/neo細胞(ヒト膵癌細胞)のクローン原性生存(コロニー形成によって測定された、対照と比較した生存の割合)を示すグラフである。
図4Eは、0μM、2.5μM、5μM、または10μMの完全な3E10抗体を用いて処理したBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(破線)またはBRCA2非欠損ヒト卵巣癌細胞(実線)の細胞死(%)を示すグラフである。
図4Fおよび4Gは、対照緩衝液(棒1)、10μMの3E10(棒2)、3nMのドキソルビシン(Dox)(棒3)、または10μMの3E10+3nMのドキソルビシン(棒4)を用いて処理したBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4G)またはBRCA2非欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4F)の細胞死(%)を示す棒グラフである。
【
図4-3】
図4A〜4Bは、対照緩衝液(白抜きの棒)または10μMの3E10 scFv(黒塗りの棒)を用いて処理したBRCA2非欠損(proficient)ヒト卵巣癌細胞(
図4A)またはBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4B)の、処理後1〜2週間に測定されたコロニー形成によるクローン原性生存(対照と比較した生存の割合)を示す棒グラフである。
図4Cは、3E10 scFv(0〜2μM)を用いて処理したBRCA2欠損(PEO1)ヒト卵巣癌細胞およびBRCA2非欠損(PEO4)ヒト卵巣癌細胞の%細胞死を示すグラフである。処理の3日後に、細胞生存に対する3E10 scFvの影響を、代謝的に活性な細胞の尺度としてATPレベルが報告されるCellTiterGlo(登録商標)発光によって評価した。エラーバーは、6回の測定の平均値の標準誤差を示す。
図4Dは、対照緩衝液または3E10 scFvを用いて処理したBRCA2欠損CAPAN1/neo細胞(ヒト膵癌細胞)のクローン原性生存(コロニー形成によって測定された、対照と比較した生存の割合)を示すグラフである。
図4Eは、0μM、2.5μM、5μM、または10μMの完全な3E10抗体を用いて処理したBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(破線)またはBRCA2非欠損ヒト卵巣癌細胞(実線)の細胞死(%)を示すグラフである。
図4Fおよび4Gは、対照緩衝液(棒1)、10μMの3E10(棒2)、3nMのドキソルビシン(Dox)(棒3)、または10μMの3E10+3nMのドキソルビシン(棒4)を用いて処理したBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4G)またはBRCA2非欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4F)の細胞死(%)を示す棒グラフである。
【
図4-4】
図4A〜4Bは、対照緩衝液(白抜きの棒)または10μMの3E10 scFv(黒塗りの棒)を用いて処理したBRCA2非欠損(proficient)ヒト卵巣癌細胞(
図4A)またはBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4B)の、処理後1〜2週間に測定されたコロニー形成によるクローン原性生存(対照と比較した生存の割合)を示す棒グラフである。
図4Cは、3E10 scFv(0〜2μM)を用いて処理したBRCA2欠損(PEO1)ヒト卵巣癌細胞およびBRCA2非欠損(PEO4)ヒト卵巣癌細胞の%細胞死を示すグラフである。処理の3日後に、細胞生存に対する3E10 scFvの影響を、代謝的に活性な細胞の尺度としてATPレベルが報告されるCellTiterGlo(登録商標)発光によって評価した。エラーバーは、6回の測定の平均値の標準誤差を示す。
図4Dは、対照緩衝液または3E10 scFvを用いて処理したBRCA2欠損CAPAN1/neo細胞(ヒト膵癌細胞)のクローン原性生存(コロニー形成によって測定された、対照と比較した生存の割合)を示すグラフである。
図4Eは、0μM、2.5μM、5μM、または10μMの完全な3E10抗体を用いて処理したBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(破線)またはBRCA2非欠損ヒト卵巣癌細胞(実線)の細胞死(%)を示すグラフである。
図4Fおよび4Gは、対照緩衝液(棒1)、10μMの3E10(棒2)、3nMのドキソルビシン(Dox)(棒3)、または10μMの3E10+3nMのドキソルビシン(棒4)を用いて処理したBRCA2欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4G)またはBRCA2非欠損ヒト卵巣癌細胞(
図4F)の細胞死(%)を示す棒グラフである。
【
図5】
図5は、対照緩衝液(棒1)、3E10抗体単独で(PBS 0.5mL中0.8mg、10μM)(棒2)、ドキソルビシン(Dox)単独で(80μg/kg)(棒3)、または3E10とドキソルビシンの両方(棒4)を腹腔内注射することによって処置した、SCIDマウスにおいて皮下注射によって生成したU87神経膠腫瘍の腫瘍体積(%増大)を示す棒グラフである。各処置群はマウス4匹で構成された。処置の影響を、注射の3日後に腫瘍の成長を測定することによって評価した。
【
図6A】
図6Aは、U87細胞を移植した26日後(腫瘍はおよそ100mm
3の平均サイズに成長していた)、および24時間後に再度、対照PBS緩衝液(黒塗りのひし形および三角形)または3E10(PBS中1mg)(白抜きのひし形および三角形)を腹腔内注射し、次いで、2回目の注射の2時間後に0Gy(ひし形)または8Gy(三角形)で照射したヒト神経膠腫異種移植マウスの腫瘍体積(mm
3)を時間(日数)の関数として示すグラフである。
【
図6B】
図6Bは、各群における無進行生存のカプラン・マイヤープロットを示す。無進行生存は、ベースラインのサイズと比較してサイズが3倍以上増大していない腫瘍を伴う生存と定義される。ベースラインのサイズは、抗体処置する1日前の腫瘍サイズと定義され、これは、
図6Aでは25日目、
図6Bでは0日目と示される。腫瘍三倍化時間(腫瘍の体積がベースラインの3倍に増大するために必要な時間)は、8Gyで処置した腫瘍では9.5±0.5日間であり、それと比較して、8Gy+3E10で処置した腫瘍では13.7±1.8日であった(p=0.04)。しかし、3E10単独では、対照緩衝液単独と比較して、U87腫瘍に対する影響はなく、腫瘍三倍化時間は対照腫瘍では6.8±0.7日であったのに対し、3E10単独で処置した腫瘍では6.5±0.3日であった(p=0.67)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
I.定義
「抗体」という用語は、標的抗原に選択的に結合する天然抗体または合成抗体を指す。この用語は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を包含する。「抗体」という用語には、インタクトな免疫グロブリン分子に加えて、標的抗原に選択的に結合する、それらの免疫グロブリン分子の断片またはポリマーおよび免疫グロブリン分子のヒトまたはヒト化バージョンも包含される。
【0022】
「細胞浸透性抗DNA抗体」という用語は、生きている哺乳動物の細胞の核内に輸送され、DNA(例えば、一本鎖DNAおよび/または二本鎖DNA)に特異的に結合する抗体を指す。好ましい実施形態では、抗体は、担体または結合体による補助を伴わずに細胞の核内に輸送される。他の実施形態では、抗体を細胞浸透性ペプチドなどの細胞浸透性部分と結合体化する。
【0023】
「特異的に結合する」という用語は、抗体がその同族抗原(例えばDNA)には結合するが、他の抗原には有意に結合しないことを指す。抗体は、抗原に、約10
5mol
−1(例えば、10
6mol
−1、10
7mol
−1、10
8mol
−1、10
9mol
−1、10
10mol
−1、10
11mol
−1、および10
12mol
−1またはそれ以上)を超える親和定数(Ka)で、その第2の分子を伴って「特異的に結合する」ことが好ましい。
【0024】
「モノクローナル抗体」または「MAb」という用語は、実質的に均一な抗体の集団、すなわち、集団内の個々の抗体が、抗体分子の小さなサブセットに存在し得る、可能性のある自然に起こる変異以外は同一である集団から得られた抗体を指す。
【0025】
「DNA修復」という用語は、細胞がDNA分子の損傷を同定し、補正するプロセスの集合を指す。一本鎖欠陥は、塩基除去修復(BER)、ヌクレオチド除去修復(NER)、またはミスマッチ修復(MMR)によって修復される。二本鎖切断は、非相同末端結合(NHEJ)、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、または相同組換えによって修復される。DNA損傷の後、細胞周期チェックポイントが活性化され、これにより細胞周期が休止し、細胞に、分裂を続ける前に損傷を修復する時間が与えられる。チェックポイントメディエータータンパク質としては、BRCA1、MDC1、53BP1、p53、ATM、ATR、CHK1、CHK2、およびp21が挙げられる。
【0026】
「DNA修復が損なわれている」という用語は、変異した細胞または遺伝子発現の変化を伴う細胞が、DNA修復を行うことができない、または1つまたは複数のDNA修復経路の活性が低下している、またはそのDNAの損傷を修復するために野生型細胞と比較してより時間がかかる状態を指す。
【0027】
「化学感受性」という用語は、抗癌剤の効果に対する癌細胞の相対的な感受性を指す。癌細胞の化学感受性が高いほど、その癌細胞を死滅させるために必要な抗癌剤は少なくなる。
【0028】
「放射線感受性」という用語は、電離放射線の有害作用に対する細胞の相対的な感受性を指す。細胞の放射線感受性が高いほど、その細胞を死滅させるために必要な放射線は少なくなる。一般に、細胞の放射線感受性は細胞分裂の速度に正比例し、DNA修復に関する細胞の能力に反比例することが見いだされている。
【0029】
「放射線抵抗性」という用語は、臨床的に適切な線量の放射線に曝露されても死滅しない細胞を指す。
【0030】
「新生細胞」という用語は、異常な細胞増殖(「新形成」)を受けている細胞を指す。新生細胞の成長は、その周りの正常組織の成長を超え、それと調和しない。成長は、一般には、刺激の休止後でさえも同じく過剰に持続し、一般には、腫瘍の形成が引き起こされる。
【0031】
「腫瘍」または「新生物」という用語は、新生細胞を含有する、異常な組織の塊を指す。新生物および腫瘍は良性、前悪性、または悪性であり得る。
【0032】
「癌」または「悪性新生物」という用語は制御されていない成長、近接する組織への浸潤、および多くの場合、身体の他の場所への転移を示す細胞を指す。
【0033】
「抗新生物」という用語は、癌の成長、浸潤、および/または転移を阻害または予防することができる薬物または生物製剤などの組成物を指す。
【0034】
「抗癌部分」という用語は、抗体の抗癌性を増強するために、開示されている抗DNA抗体と組み合わせることができるペプチド、タンパク質、核酸、または小分子などの任意の薬剤を指す。この用語は、抗新生物薬、癌細胞内の他の治療標的に結合し、それを阻害する抗体、および癌細胞を指向性ターゲティングするための癌細胞に対する親和性を有する物質を包含する。
【0035】
「ウイルスにより形質転換された細胞」という用語は、ウイルスに感染した細胞またはそのゲノム内にウイルスDNAまたはRNAが組み入れられた細胞を指す。ウイルスは、急性的に形質転換する発癌性ウイルス、またはゆっくりと形質転換する発癌性ウイルスであってよい。急性的に形質転換するウイルスでは、ウイルス粒子は、ウイルスの癌遺伝子(v−onc)と称される活性が過剰な(overactive)癌遺伝子をコードする遺伝子を保有し、感染細胞は、v−oncが発現するとすぐに形質転換される。対照的に、ゆっくりと形質転換するウイルスでは、ウイルスのゲノムは宿主ゲノム内の癌原遺伝子の近くに挿入される。例示的なオンコウイルスとしては、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(HHV−8)、メルケル細胞ポリオーマウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびヒトサイトメガロウイルス(CMV)が挙げられる。
【0036】
ウイルス感染細胞とは、ウイルスに曝露されているまたはウイルスに感染したまたはウイルスの遺伝子材料、RNAもしくはDNAを保有する細胞を指す。ウイルスは、発癌性ウイルスまたは溶解性ウイルスまたは潜伏ウイルスであってよく、癌、免疫不全、肝炎、脳炎、肺臓炎、呼吸器疾患、または他の疾患状態を引き起こす可能性がある。レトロウイルス、特にHIVは、宿主DNAへの組込みのために塩基除去修復(BER)経路に部分的に依拠することが以前に示されている。DNA修復を阻害する3E10の能力により、3E10および他の抗DNA抗体によって、ウイルスによって引き起こされた疾患を、詳細には、DNA修復を妨害することによって、およびそれにより、ウイルスの生活環の一部であるDNAまたはRNAの代謝ならびに細胞のウイルス感染の一部を遮断することによって緩和することができる機構がもたらされる。実施例により、3E10によりBER経路が阻害されることが実証されており、そのようなレトロウイルスの感染性を抑制することにおける有効性が裏付けられる。
【0037】
「個体」、「宿主」、「被験体」、および「患者」という用語は、互換的に使用され、投与または処置の標的である任意の個体を指す。被験体は脊椎動物、例えば、哺乳動物であってよい。したがって、被験体はヒト患者または獣医学上の患者であってよい。
【0038】
「治療的に有効な」という用語は、使用される組成物の量が、疾患または障害の1つまたは複数の原因または症状を緩和するために十分な分量であることを意味する。そのような緩和には、低下または変化のみが必要であり、排除は必ずしも必要ではない。癌を処置するための治療有効量の組成物は、腫瘍の退縮を引き起こすまたは腫瘍を放射線または化学療法に対して感作させるために十分な量であることが好ましい。
【0039】
「薬学的に許容される」という用語は、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではない材料、すなわち、いかなる望ましくない生物学的効果も引き起こすことなく、または材料が含有される医薬組成物の他の構成成分のいずれとも有害に相互作用することなく、被験体に投与することができる材料を指す。担体は、当業者には周知の通り、活性成分のいかなる分解も最小限になるように、また、被験体におけるいかなる有害な副作用も最小限になるように当然選択される。
【0040】
「処置」という用語は、疾患、病的状態、または障害を治癒、緩和、安定化、または予防するための、患者の医学的管理を指す。この用語は、積極的治療、すなわち、疾患、病的状態、または障害を改善することを特に対象とする処置を包含し、また、原因治療、すなわち、関連する疾患、病的状態、または障害の原因を除去することを対象とする処置も包含する。さらに、この用語は、待期療法、すなわち、疾患、病的状態、または障害を治癒するよりも症状を軽減するために設計された処置;予防的治療、すなわち、関連する疾患、病的状態、または障害の発生を最小限にすること、または部分的もしくは完全に阻害することを対象とする処置;および支持的治療、すなわち、関連する疾患、病的状態、または障害を改善することを対象とする別の特定の療法を補助するために用いられる処置を包含する。
【0041】
「阻害する」という用語は、活性、応答、状態、疾患、または他の生物学的パラメータが減少することを意味する。これは、これだけに限定されないが、活性、応答、状態、または疾患の完全な消失を含んでよい。これは、例えば、活性、応答、状態、または疾患がネイティブなレベルまたは対照レベルと比較して10%低下することも含んでよい。したがって、低下は、ネイティブなレベルまたは対照レベルと比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはその間の任意の量の低下であってよい。
【0042】
「融合タンパク質」とは、2種以上のポリペプチドを、一方のポリペプチドのアミノ末端ともう一方のポリペプチドのカルボキシル末端との間に形成されるペプチド結合を通じてつなぐことによって形成されるポリペプチドを指す。融合タンパク質は、構成要素であるポリペプチドを化学的にカップリングすることによって形成することができるか、または、単一の連続した融合タンパク質をコードする核酸配列から単一のポリペプチドとして発現させることができる。単鎖の融合タンパク質は、単一の連続したポリペプチドの主鎖を有する融合タンパク質である。融合タンパク質は、2つの遺伝子をインフレームでつないで単一の核酸配列にし、次いで、適切な宿主細胞において、融合タンパク質が産生される条件下で核酸を発現させる、分子生物学における従来の技法を用いて調製することができる。
【0043】
II.組成物
A.抗DNA抗体
標的とされる細胞の、化学療法および/または放射線に対する感受性を増強することにおいて使用するための細胞浸透性抗DNA抗体が開示されている。全身性エリテマトーデス(SLE)の患者の血清中に一本鎖または二本鎖のデオキシリボ核酸(DNA)に対する自己抗体がしばしば同定され、これは多くの場合、疾患の病因に関係づけられる。したがって、いくつかの実施形態では、抗DNA抗体はSLEの患者に由来するものであってよい、またはSLEの患者から単離することができる。好ましい実施形態では、抗DNA抗体は、モノクローナル抗体、またはそれらの断片または改変体である。DNAに対して反応性の循環自己抗体(抗DNA抗体)が存在することは、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者における目印となる実験上の知見である。SLEにおける抗DNA抗体の正確な役割は不明であるが、この抗体は、SLEの病態生理において積極的な役割を果たすことが示唆される。1990年代の初めに、マウスループス抗DNA抗体である3E10が、SLEに対する実験的なワクチン療法において試験された。これらの試みは、SLE患者における抗DNA抗体に特異的に結合する抗イディオタイプ抗体を開発することを目的とするものであった。しかし、思いがけなく、3E10は、いかなる観察される細胞毒性も引き起こすことなく生細胞および核に浸透することが見いだされた(Weisbart RHら、J Immunol. 1990年、144巻(7号):2653〜2658頁;Zack DJら、J Immunol. 1996年、157巻(5号):2082〜2088頁)。その後、SLEのワクチン療法における3E10に関する研究は、3E10を、治療分子を細胞および核内に輸送するための分子送達ビヒクルとして開発することを焦点とした試みに取って代わられた。他の抗体も細胞に浸透することが報告されている。
【0044】
3E10抗体およびその単鎖可変性断片(3E10 scFv)は、細胞および核内に浸透し、化学的な結合体化または組換え融合のいずれかによって抗体に付着させた治療用タンパク質カーゴを輸送することができることが証明されている。3E10または3E10 scFvによって細胞に送達されるタンパク質カーゴとしては、カタラーゼ、p53、およびHsp70が挙げられる(Weisbart RHら、J Immunol. 2000年、164巻:6020〜6026頁;Hansen JEら、Cancer Res. 2007年2月15日;67巻(4号):1769〜74頁;Hansen JEら、Brain Res. 2006年5月9日;1088巻(1号):187〜96頁)。3E10 scFvにより、in vivoにおけるHsp70のニューロンへの送達が有効に媒介され、その結果、ラット脳卒中モデルにおいて大脳梗塞の体積が減少し、神経学的な機能が改善された(Zhan Xら、Stroke. 2010年、41巻(3号):538〜43頁)。
【0045】
現在、3E10および3E10 scFvにより、いかなる治療用タンパク質とも結合体化することなく、癌細胞の放射線感受性および化学感受性が増強されること、および、この効果はDNA修復が欠損した細胞において強化されることが発見されている。さらに、3E10および3E10 scFvは、放射線または化学療法の不在下であっても、DNA修復が欠損した癌細胞に対して選択的に致死的である。食品医薬品局(Food and Drug Administration)(FDA)により、モノクローナル抗体をヒトの療法に発展させる経路が確立され、3E10は、SLEに対する実験的なワクチン療法における3E10の有効性を試験するために設計された第I相ヒト臨床試験における使用に関してすでにFDAによって認可されている(Spertini Fら、J Rheumatol. 1999年、26巻(12号):2602〜8頁)。したがって、これらの種類の抗体を、DNA修復が欠損した癌に対するターゲティング療法のために、ならびに癌に対する新規のターゲティング療法においてDNA修復が非欠損の癌ならびにDNA修復が欠損した癌における他の癌処置モダリティを強化するために使用することができる。
【0046】
他の細胞浸透性抗体として、SLE患者に天然に存在するもの、および抗体ライブラリーをスクリーニングすることまたは公知の細胞浸透性抗体を誘導体化することによって得られるものの両方が公知である。いくつかの実施形態では、抗DNA抗体を、細胞内への侵入および核への輸送を容易にするために、細胞浸透性ペプチドなどの細胞浸透性部分と結合体化する。細胞浸透性ペプチドの例としては、これらだけに限定されないが、ポリアルギニン(例えば、R
9)、アンテナペディア配列、TAT、HIV−Tat、ペネトラチン、Antp−3A(Antp変異体)、Buforin II、トランスポータン、MAP(モデル両親媒性ペプチド)、K−FGF、Ku70、プリオン、pVEC、Pep−1、SynB1、Pep−7、HN−1、BGSC(ビス−グアニジニウム−スペルミジン−コレステロール、およびBGTC(ビス−グアニジニウム−トレン−コレステロール)が挙げられる。他の実施形態では、TransMabs(商標)技術(InNexus Biotech.、Inc.、Vancouver、BC)を用いて抗体を修飾することができる。
【0047】
好ましい実施形態では、抗DNA抗体は、担体または結合体による補助を伴わずに細胞の核内に輸送される。例えば、in vivoにおいて哺乳動物の細胞の核に細胞毒性効果を伴わずに輸送されるモノクローナル抗体3E10およびその活性断片は、Richard Weisbartの米国特許第4,812,397号および同第7,189,396号に開示されており、そこには3E10抗体および3E10抗体の作製および修飾方法が記載されている。簡単に述べると、抗体は、抗DNA抗体の血清レベルが上昇した宿主(例えば、MRL/1prマウス)由来の脾臓細胞を、公知の技法に従って骨髄腫細胞と融合することによって、または、脾臓細胞を、適切な形質転換ベクターを用いて形質転換して、細胞を不死化することによって調製することができる。細胞を選択培地において培養し、スクリーニングしてDNAに結合する抗体を選択することができる。
【0048】
使用することができる抗体としては、任意のクラスの免疫グロブリン全体(すなわち、インタクトな抗体)、その断片、および少なくとも抗体の抗原結合可変ドメインを含有する合成タンパク質が挙げられる。可変ドメインは、抗体の間で配列が異なり、特定の抗体のそれぞれの、その特定の抗原に対する結合および特異性に使用されている。しかし、通常、変動性は抗体の可変ドメインを通して一様に分布しているのではない。軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインの両方にある相補性決定領域(CDR)または超可変領域と称される3つのセグメントに集中することが一般的である。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と称される。ネイティブな重鎖および軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、4つのFR領域を含み、これは主としてベータ−シート立体配置をとっており、3つのCDRによって接続されており、CDRはベータ−シート構造を接続し、いくつかの場合にはベータ−シート構造の一部を形成するループを形成している。各鎖のCDRは、FR領域の極めて近傍にまとめて保持されており、他の鎖に由来するCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。したがって、抗体は、少なくとも、細胞に浸透し、DNAの結合を維持し、かつ/またはDNA修復を妨害するために必要なCDRの構成成分を含有する。3E10の可変領域は、3つの性質の全てを有する。
【0049】
生物活性を有する抗体の断片も開示されている。他の配列に付着しているかどうかにかかわらず、断片の活性が、修飾されていない抗体または抗体断片と比較して有意に変更されない、または損なわれないのであれば、断片は、特定の領域または特定のアミノ酸残基に挿入、欠失、置換、または他の選択された修飾を含む。
【0050】
抗原性タンパク質に特異的な単鎖抗体の作製に技法を適応させることもできる。単鎖抗体を作製するための方法は当業者に周知である。単鎖抗体は、重鎖および軽鎖の可変ドメインを、短いペプチドリンカーを用いて融合し、それにより、単一分子上の抗原結合部位を再構成することによって創出することができる。一方の可変ドメインのC末端が他方の可変ドメインのN末端と15〜25アミノ酸ペプチドまたはリンカーで係留された単鎖抗体可変性断片(scFv)が、抗原の結合または結合の特異性を有意に撹乱することなく開発されてきた。リンカーは、重鎖および軽鎖がそれらの適切なコンフォメーション方向で結合することが可能になるように選択される。
【0051】
抗DNA抗体を修飾して、それらの治療可能性を改善することができる。例えば、いくつかの実施形態では、細胞浸透性抗DNA抗体を、癌細胞の核内の第2の治療標的に特異的な別の抗体と結合体化する。例えば、細胞浸透性抗DNA抗体は、3E10 scFvおよび第2の治療標的に特異的に結合するモノクローナル抗体の単鎖可変性断片を含有する融合タンパク質であってよい。他の実施形態では、細胞浸透性抗DNA抗体は、3E10由来の第1の重鎖および第1の軽鎖ならびに第2の治療標的に特異的に結合するモノクローナル抗体由来の第2の重鎖および第2の軽鎖を有する二重特異性抗体(bispecific antibody)である。
【0052】
二価の単鎖可変性断片(di−scFv)は、2つのscFvを連結することによって作り出すことができる。これは、2つのVH領域および2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を作製することによって行うことができ、これにより、タンデムなscFvがもたらされる。ScFvは、2つの可変領域が一緒に折りたたまれるには短いリンカーペプチド(約5アミノ酸)を用いて設計することができ、これにより、scFvは二量体を形成することになる。この種類のものは、二特異性抗体(diabody)として公知である。二特異性抗体は、対応するscFvの40分の1に至るまで低い解離定数を有する、つまり、それらの標的に対してさらに高い親和性を有することが示されている。さらに短いリンカー(1アミノ酸または2アミノ酸)により、三量体(三特異性抗体(triabodyまたはtribody))の形成が導かれる。四特異性抗体(tetrabody)も作製されている。これらは、それらの標的に対して二特異性抗体よりもさらに高い親和性を有する。
【0053】
抗体の治療的機能は、抗体またはその断片を治療剤とカップリングすることによって増強することができる。そのような抗体または断片と治療剤のカップリングは、免疫結合体を作出することによって、または融合タンパク質を作出することによって、または、抗体もしくは断片をsiRNAなどの核酸もしくは抗体または抗体断片および治療剤を含む小分子と連結することによって達成することができる。
【0054】
組換え融合タンパク質は、融合遺伝子を遺伝子操作することによって創出されるタンパク質である。これは、一般には、第1のタンパク質をコードするcDNA配列から終止コドンを除去し、次いで、第2のタンパク質のcDNA配列をライゲーションまたはオーバーラップ伸長PCRによってインフレームで付け加えることを伴う。次いで、このDNA配列を、細胞に単一のタンパク質として発現させる。このタンパク質を作り出して、元のタンパク質の両方、またはいずれかの一部のみの完全な配列を含めることができる。2つの実体がタンパク質であれば、多くの場合、タンパク質がそれぞれ独立に折りたたまれ、予測通り挙動する可能性を高めるリンカー(または「スペーサー」)ペプチドを付加することもできる。
【0055】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野で周知である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源から導入された1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、多くの場合、「移入」残基と称され、これは、一般には、「移入」可変ドメインから取得される。抗体ヒト化技法は、一般に、抗体分子の1つまたは複数のポリペプチド鎖をコードするDNA配列を操作するために組換えDNA技術を用いることを伴う。
【0056】
いくつかの実施形態では、細胞浸透性抗体を修飾して、その半減期を変化させる。いくつかの実施形態では、抗体が循環内または処置部位により長い期間存在するように、抗体の半減期を増大させることが望ましい。例えば、癌、例えば、DNA修復が損なわれている癌細胞を処置するために抗DNA抗体を単独で使用している場合、循環内または処置される場所における抗体の力価が長期間維持されることが望ましい。他の実施形態では、潜在的な副作用を減少させるために、抗DNA抗体の半減期を減少させる。例えば、抗体を放射線治療または化学療法と併せて使用している場合、抗体は、放射線または抗新生物薬を用いた処置の間は循環内に高用量で存在することが好ましいが、そうでなければ、循環から直ちに除去する。3E10 scFvなどの抗体断片は、完全なサイズの抗体よりも半減期が短いことが予測される。半減期を変化させる他の方法は公知であり、記載されている方法において用いることができる。例えば、抗体を、例えば、Xtend(商標)抗体半減期延長技術(Xencor、Monrovia、CA)を使用して、半減期を延長するFc改変体を用いて作り出すことができる。
【0057】
B.癌およびウイルスにより形質転換された細胞
抗体を使用して、制御されていない成長、浸潤、または転移を受けている細胞を処置することができる。DNA修復が損なわれている癌細胞は細胞浸透性抗DNA抗体の特によい標的である。いくつかの実施形態では、細胞浸透性抗DNA抗体は、DNA修復が損なわれている細胞に対して致死的である。好ましい実施形態では、細胞は、DNA修復、DNA合成、または相同組換えに関与する遺伝子の発現に欠陥を有する。例示的な遺伝子としては、XRCC1、ADPRT(PARP−1)、ADPRTL2、(PARP−2)、POLYMERASE BETA、CTPS、MLH1、MSH2、FANCD2、PMS2、p53、p21、PTEN、RPA、RPA1、RPA2、RPA3、XPD、ERCC1、XPF、MMS19、RAD51、RAD51B、RAD51C、RAD51D、DMC1、XRCCR、XRCC3、BRCA1、BRCA2、PALB2、RAD52、RAD54、RAD50、MRE11、NB51、WRN、BLM、KU70、KU80、ATM、ATR CHK1、CHK2、FANCA、FANCB、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、RAD1、およびRAD9が挙げられる。いくつかの実施形態では、欠陥のある遺伝子は、癌抑制遺伝子である。好ましい実施形態では、細胞は、BRCA1またはBRCA2に1つまたは複数の変異を有する。BRCA1変異およびBRCA2変異などの遺伝子変異は、標準のPCR、ハイブリダイゼーション、または配列決定技法を用いて同定することができる。
【0058】
したがって、いくつかの実施形態では、抗DNA抗体を使用して、DNA修復の欠損した家族性の症候群から生じる癌(例えば、乳癌、卵巣癌、および膵癌)を処置することができる。これらの実施形態では、抗DNA抗体は、放射線治療または化学療法を伴わずに有効であり得る。例えば、抗DNA抗体を使用して、BRCA1、BRCA2、PALB2、OR RAD51B、RAD51C、RAD51Dまたは関連する遺伝子における変異に関連づけられる癌を処置することができる。抗DNA抗体を使用して、DNAミスマッチ修復に関連する遺伝子、例えば、MSH2、MLH1、PMS2、および関連する遺伝子などにおける変異に関連づけられる結腸癌、子宮内膜腫瘍、または脳腫瘍を処置することもできる。抗DNA抗体を使用して、BRCA1、MLH1、OR RAD51B、RAD51C、OR RAD51DなどのDNA修復遺伝子がサイレンシングされた癌を処置することもできる。これらの好ましい実施形態では、DNA修復を阻害する抗DNA抗体の能力は、これらの癌の固有の修復欠損と相まって、細胞死を誘導するために十分であり得る。
【0059】
したがって、いくつかの実施形態では、抗DNA抗体を使用して、ウイルスにより形質転換された細胞、例えば、オンコウイルスに感染した細胞などを処置することができる。ウイルスによる形質転換により、細胞に、高飽和密度、足場非依存性成長、接触阻止の喪失、有向成長(orientated growth)の喪失、不死化、および細胞の細胞骨格の破壊などの表現型の変化が課される可能性がある。細胞形質転換のためには、ウイルスのゲノムの少なくとも一部が細胞内に残ることが必要である。これは、癌遺伝子などのいくつものウイルス遺伝子からの連続的な発現を伴う可能性がある。これらの遺伝子は、細胞の観察される表現型の変化の原因となる細胞のシグナル伝達経路を妨害する可能性がある。いくつかの場合には、ウイルスのゲノムは、宿主ゲノム内の癌原遺伝子の近くに挿入される。最終結果は、ウイルスに好都合である細胞分裂の増大を示す形質転換された細胞である。いくつかの実施形態では、ウイルスによる形質転換、ウイルス感染、および/または代謝は、DNA修復機構に依存する。これらの実施形態では、開示されている抗DNA抗体を使用してDNA修復を阻害することにより、細胞におけるウイルスによる形質転換、ウイルス感染および/または代謝も阻害される。
【0060】
いくつかの実施形態では、ウイルスによる形質転換、ウイルス感染、および/または代謝は、ウイルスの生活環の一部としての、ウイルスにコードされるRNAまたはDNAの代謝に依存し、3E10または他の抗DNA抗体による結合および/または阻害の対象となる中間体が産生される。これらの実施形態では、開示されている抗DNA抗体を用いて処置することにより、細胞におけるウイルスによる形質転換、ウイルス感染および/または代謝も阻害される。
【0061】
レンチウイルス(例えば、HIVなど)は、感染および組込みのために宿主のBER活性に依存することが以前に見いだされている(Yoderら、PLoS One、2011年3月6巻(3号)e17862頁)。さらに、毛細血管拡張性運動失調変異(ataxia−telangiectesia−mutated)(ATM)DNA損傷応答がHIV複製には重大であると思われる(Lauら、Nat Cell Biol、2005年、7巻(5号):493〜500頁)。いくつかの実施形態では、レトロウイルス(レンチウイルス、HIVを含む)の感染および組込みは、宿主DNA修復機構に依存する。これらの実施形態では、開示されている抗DNA抗体を用いて処置することにより、ウイルス感染/組込みも抑制され、ウイルスの生活環における再感染が抑制される。
【0062】
いくつかの実施形態では、レンチウイルス(HIV)の複製は、DNA修復に依存する。これらの実施形態では、開示されている抗DNA抗体を用いて処置することにより、ウイルスの複製も抑制され、ウイルスの生活環における再感染が抑制される。したがって、抗DNA抗体を使用して、オンコウイルスなどのウイルスに感染した細胞を処置することができる。いくつかの実施形態では、抗体により、ウイルスによる形質転換、複製、代謝、またはそれらの組合せが阻害される。抗DNA抗体の影響を受ける可能性がある例示的なオンコウイルスとしては、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(HHV−8)、メルケル細胞ポリオーマウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびヒトサイトメガロウイルス(CMV)が挙げられる。抗DNA抗体を使用して、潜伏ウイルスを処置することもできる。いくつかの実施形態では、感染細胞がHSV−1などのウイルスに対するDNA損傷応答を確立することができないことが潜伏の確立に寄与する。したがって、これらのウイルス感染細胞は、DNA修復が損なわれており、抗DNA抗体を用いた処置に対して感受性である。例示的な潜伏ウイルスとしては、CMV、EBV、単純ヘルペスウイルス(1型および2型)、および水痘帯状疱疹ウイルスが挙げられる。
【0063】
抗DNA抗体を使用して、癌、免疫不全、肝炎、脳炎、肺臓炎、呼吸器疾患、または他の疾患状態を生じさせるウイルスに起因する活動性ウイルス感染症を、抗体の、DNAに結合する能力およびウイルスの生活環の一部であるDNA修復またはRNA代謝を妨害する能力によって処置することもできる。
【0064】
生活環または生じた感染症の症状が抗体の投与の影響を受ける可能性がある代表的なウイルスとしては、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(HHV−8)、メルケル細胞ポリオーマウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびヒトサイトメガロウイルス(CMV)が挙げられる。
【0065】
抗体の投与の影響を受ける可能性がある追加的なウイルスとしては、パルボウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、および他のDNAウイルスが挙げられる:
【0066】
【表1】
抗体の投与の影響を受ける可能性があるRNAウイルスとしては、以下が挙げられる:
【0068】
【表2-2】
レトロウイルスも影響を受ける可能性がある:
・ アルファレトロウイルス属;基準種:トリ白血病ウイルス;他のものとしてはラウス肉腫ウイルスが挙げられる
・ ベータレトロウイルス属;基準種:マウス乳腺癌ウイルス
・ ガンマレトロウイルス属;基準種:マウス白血病ウイルス;他のものとしてはネコ白血病ウイルスが挙げられる
・ デルタレトロウイルス属;基準種:ウシ白血病ウイルス;他のものとしては発癌性ヒトTリンパ球向性ウイルスが挙げられる
・ イプシロンレトロウイルス属;基準種:ウォールアイ皮膚肉腫ウイルス
・ レンチウイルス属;基準種:ヒト免疫不全ウイルス1型;他のものとしてはサル免疫不全ウイルス、ネコ免疫不全ウイルスが挙げられる
・ スプーマウイルス属;基準種:サル泡沫状ウイルス
・ ヘパドナウイルス科ファミリー−例えばB型肝炎ウイルス
抗体の投与の影響を受ける可能性がある他のウイルス性疾患としては、コロラドダニ熱(コルチウイルス、RNAウイルスによって引き起こされる)、西ナイル熱(主に中東およびアフリカにおいて起こる、フラビウイルスによって引き起こされる脳炎)、黄熱病、狂犬病(ラブドウイルス科ファミリーの向神経性ウイルスのいくつもの異なる株によって引き起こされる)、ウイルス性肝炎、胃腸炎(ウイルス性)−ノーウォークウイルス、ノーウォーク様ウイルス、ロタウイルス、カリシウイルス、およびアストロウイルスによって引き起こされる急性ウイルス性胃腸炎、灰白髄炎、抗原性が頻繁に変動する可能性があるオルトミクソウイルスによって引き起こされるインフルエンザ(流感)、麻疹(measles)(麻疹(rubeola))、パラミクソウイルス科、流行性耳下腺炎、ウイルス性肺炎を含めた呼吸器症候群および集合的に急性呼吸器ウイルスと称される種々のウイルスによって引き起こされるクループを含めた急性呼吸器症候群、ならびに、呼吸器合胞体ウイルス(RSV、低年齢の小児における呼吸器感染症の最も危険な原因)によって引き起こされる呼吸器疾患が挙げられる。
【0069】
いくつかの実施形態では、抗DNA抗体を放射線治療、化学療法、またはそれらの組合せと併用して、癌腫、神経膠腫、肉腫、またはリンパ腫を含めた任意の癌を処置することができる。これらの実施形態では、抗DNA抗体により、細胞を、放射線治療または化学療法のDNA損傷効果に対して感作させることができる。抗体を使用して処置することができる癌の代表的であるが非限定的な一覧は、血液およびリンパ系の癌(白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、孤立性形質細胞腫、多発性骨髄腫を含む)、泌尿生殖器系の癌(前立腺癌、膀胱癌、腎癌、尿道癌、陰茎癌、睾丸癌を含む)、神経系の癌(髄膜腫(mengioma)、神経膠腫、神経膠芽腫、上衣腫を含む)、頭頸部の癌(口腔、鼻腔、鼻咽頭腔、口腔咽頭腔(oropharyngeal cavity)、喉頭、および副鼻腔の扁平上皮癌を含む)、肺癌(小細胞肺癌および非小細胞肺癌を含む)、婦人科の癌(子宮頸癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、卵巣癌および卵管癌を含む)、胃腸癌(胃癌、小腸癌、結腸直腸癌、肝癌、肝胆道癌、および膵癌を含む)、皮膚癌(黒色腫、扁平上皮癌、および基底細胞癌腫を含む)、乳癌(腺管癌および小葉癌を含む)、および小児癌(神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、ウィルムス腫瘍、髄芽腫を含む)を含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、癌は、放射線治療または化学療法に対していくらかの抵抗性を示す新生物または腫瘍である。標準の方法を用いた放射線治療に対して抵抗性である癌としては、これらだけに限定されないが、肉腫、腎細胞癌、黒色腫、リンパ腫、白血病、癌腫、芽細胞腫、および胚細胞性腫瘍が挙げられる。
【0071】
C.放射線治療
開示されている細胞浸透性抗DNA抗体は、放射線療法と併用することができる。放射線療法(Radiation therapy)(別名放射線治療(radiotherapy))とは、悪性細胞を制御するための癌処置の一部として電離放射線を医学的に使用することである。放射線治療には、三叉神経痛、重篤な甲状腺眼症(thyroid eye disease)、翼状片、色素性絨毛結節性滑膜炎の処置、ケロイド瘢痕の成長の予防、および異所性骨化の予防など、非悪性状態においてもいくつかの適用がある。いくつかの実施形態では、抗DNA抗体を使用して非悪性状態に対する放射線感受性を増大させる。
【0072】
放射線療法は、分裂している細胞、例えば、癌細胞のDNAに損傷を与えることによって働く。このDNA損傷は、光子または荷電粒子の2種類のエネルギーのうちの1つによって引き起こされる。この損傷は、直接的または間接的なものである。水がイオン化した結果として、間接的なイオン化が起こり、これによりフリーラジカル、特にヒドロキシルラジカルが形成され、次いでこれがDNAに損傷を与える。例えば、光子療法(photon therapy)によって引き起こされる放射線効果の大部分はフリーラジカルを通じたものである。光子放射線治療の主要な限定のうちの1つは、固形腫瘍の細胞では酸素が欠損するようになり、低酸素環境における腫瘍細胞の放射線損傷に対する抵抗性が正常な酸素環境における抵抗性の2〜3倍になることである。
【0073】
癌細胞DNAに対する直接的な損傷は、プロトン、ホウ素イオン、炭素イオンまたはネオンイオンなどの高LET(線エネルギー付与)荷電粒子によって起こる。これらの粒子は主に、通常二本鎖DNA切断を引き起こす直接のエネルギー付与を介して作用するので、この損傷は腫瘍の酸素供給とは無関係である。プロトンおよび他の荷電粒子は質量が比較的大きいので、組織における外側への散乱は少ない;ビームは大きく広がらず、腫瘍形状に集束したままとどまり、周囲の組織には低線量の副作用しか送達しない。光子放射線療法において用いられる放射線の量はグレイ(Gy)で測定され、処置されている癌の種類および病期に応じて変動する。治癒的な場合には、固形上皮腫瘍に対する典型的な線量は、60〜80Gyにわたり、一方リンパ腫は20〜40Gyを用いて処置する。手術後の(アジュバント)線量は、一般には、1.8〜2Gyに分けておよそ45〜60Gyである(乳癌、頭部癌、および頸部癌に対して)。線量を選択する際には、患者が化学療法を受けているかどうか、患者の共存症、外科手術前、またはその後に放射線療法が施行されているかどうか、および外科手術の成功の程度を含めた多くの他の因子が放射線腫瘍専門医によって考慮される。
【0074】
放射線に対する癌の応答は、その放射線感受性によって表される。放射線感受性が高い癌細胞はそれほど高くない線量の放射線によって急速に死滅する。これらとしては、白血病、大部分のリンパ腫および胚細胞性腫瘍が挙げられる。大多数の上皮癌は、放射線感受性が中程度のみであり、根治を実現するためには著しく高い線量の放射線(60〜70Gy)が必要である。一部の種類の癌は特に放射線抵抗性である、すなわち、根治をもたらすためには、臨床上の実施において安全である可能性がある線量よりもさらに高い線量が必要である。腎細胞癌および黒色腫は、一般に、放射線抵抗性であると考えられている。
【0075】
放射線治療に対する腫瘍の応答は、そのサイズにも関連する。複雑な理由で、非常に大きな腫瘍は、より小さな腫瘍または顕微鏡レベルの疾患ほど放射線に応答しない。この影響を克服するために種々の戦略が用いられている。最も一般的な技法は、放射線治療前に外科的切除を行うことである。これは、乳癌の処置において最も一般的に見られ、広範な局所的切除または乳房切除の後にアジュバント放射線治療が続く。別の方法は、ラジカル放射線治療の前にネオアジュバント化学療法を用いて腫瘍を縮小することである。第3の技法は、放射線治療の過程中に特定の薬物を与えることによって癌の放射線感受性を増強することである。開示されている細胞浸透性抗DNA抗体は、この第3の機能を果たす。これらの実施形態では、抗DNA抗体により、放射線治療に対する細胞の感受性が、例えば、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%増大する。さらに、細胞浸透性抗DNA抗体は、1種または複数種の追加的な放射線増感剤と組み合わせることができる。公知の放射線増感剤の例としては、シスプラチン、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル、ペントキシフィリン、ビノレルビン、PARP阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、およびプロテアソーム阻害剤が挙げられる。
【0076】
D.化学療法薬
多数の化学療法薬、特に抗新生物薬が抗体と組み合わせるために利用可能である。大多数の化学療法薬は、アルキル化剤、代謝拮抗薬、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体、および他の抗腫瘍剤に分けることができる。
【0077】
好ましい実施形態では、抗新生物薬はDNAに損傷を与える、またはDNA修復を妨げる。なぜなら、これらの活性が最も効果的に抗DNA抗体と協同するからである。これらの実施形態では、抗体により、化学療法に対する細胞の感受性が、例えば、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%増大する。DNAに損傷を与えるまたはDNA修復を阻害する抗新生物薬の非限定的な例としては、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、イホスファミド、ロムスチン、メクロレタミン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、プロカルバジン、テモゾロミド、およびバルルビシンが挙げられる。いくつかの実施形態では、抗新生物薬はテモゾロミドであり、これは、神経膠芽腫に対して一般に使用されるDNA損傷性アルキル化剤である。いくつかの実施形態では、抗新生物薬はPARP阻害剤であり、これにより、DNA損傷の塩基除去修復のステップが阻害される。いくつかの実施形態では、抗新生物薬はヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であり、これにより、DNA修復が転写レベルで抑制され、クロマチン構造が撹乱される。いくつかの実施形態では、抗新生物薬はプロテアソーム阻害剤であり、これにより、細胞におけるユビキチン代謝が破壊されることによってDNA修復が抑制される。ユビキチンはDNA修復を調節するシグナル伝達分子である。いくつかの実施形態では、抗新生物薬はキナーゼ阻害剤であり、これにより、DNA損傷応答シグナル伝達経路が変化することによってDNA修復が抑制される。
【0078】
他の実施形態では、抗新生物薬は、癌細胞における異なる活性をターゲティングすることによって抗DNA抗体を補完する。これらの実施形態では、抗新生物薬はDNA修復を阻害もしないし、DNAに損傷も与えない。
【0079】
細胞浸透性抗DNA抗体と組み合わせることができる抗新生物薬の例としては、これらだけに限定されないが、アルキル化剤(例えば、テモゾロミド、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、ダカルバジン、ロムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、クロラムブシルおよびイホスファミドなど)、代謝拮抗薬(例えば、フルオロウラシル、ゲムシタビン、メトトレキセート、シトシンアラビノシド、フルダラビン、およびフロクスウリジンなど)、一部の抗有糸分裂薬、およびビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、およびビンデシンなど)、アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン、ダウノルビシン、バルルビシン、イダルビシン、およびエピルビシン、ならびにアクチノマイシンDなどのアクチノマイシンを含む)、細胞毒性抗生物質(マイトマイシン、プリカマイシン、およびブレオマイシンを含む)、ならびにトポイソメラーゼ阻害剤(イリノテカンおよびトポテカンなどのカンプトテシンならびにアムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、およびテニポシドなどのエピポドフィロトキシンの誘導体を含む)が挙げられる。
【0080】
E.医薬組成物
細胞浸透性抗DNA抗体は、薬学的に許容される担体と組み合わせて治療的に使用することができる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤中の細胞浸透性抗DNA抗体またはその断片を含有する単位投与量であり、抗体は、癌または感染細胞におけるDNA修復を阻害するために有効な量で存在する。好ましい実施形態では、抗体は、約200mg/m
2〜約1000mg/m
2、より好ましくは、約200mg/m
2、250mg/m
2、300mg/m
2、350mg/m
2、400mg/m
2、450mg/m
2、500mg/m
2、600mg/m
2、700mg/m
2、800mg/m
2、900mg/m
2、または1000mg/m
2の量で存在する。いくつかの実施形態では、単位投与量は、静脈内注射するための単位剤形である。いくつかの実施形態では、単位投与量は、腫瘍内投与するための単位剤形である。
【0081】
材料は、溶液、エマルション、または懸濁液中に存在していてよい(例えば、微小粒子、リポソーム、または細胞に組み入れられている)。一般には、製剤には、製剤を等張性にするために、適量の薬学的に許容される塩が使用される。薬学的に許容される担体の例としては、これらだけに限定されないが、食塩水、リンゲル液およびブドウ糖溶液が挙げられる。溶液のpHは、約5〜約8であることが好ましく、約7〜約7.5であることがより好ましい。医薬組成物は、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝液、保存剤、および表面活性剤を含んでよい。別の担体としては、持続的放出調製物、例えば、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどが挙げられ、マトリックスは、成形粒子、例えば、薄膜、リポソームまたは微小粒子の形態である。例えば、投与される組成物の投与経路および濃度に応じて特定の担体がより好ましいことが当業者には明らかであろう。医薬組成物は、抗菌剤、抗炎症剤、および麻酔薬などの1種または複数種の活性成分も含んでよい。
【0082】
非経口投与用の調製物としては、滅菌された水性または非水性の溶液、懸濁液、およびエマルションが挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルブドウ糖(Ringer’s dextrose)、ブドウ糖および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、または不揮発性油が挙げられる。保存剤および他の添加物、例えば、抗菌薬、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性ガスなども存在してよい。
【0083】
水性の環境への抗体の溶解を補助するために、界面活性剤を湿潤剤として添加することができる。界面活性剤は、陰イオン性洗剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ジオクチルソジウムスルホスクシネートおよびジオクチルソジウムスルホネートなどを含んでよい。陽イオン洗剤を使用することができ、これらとしては、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムが挙げられる。界面活性剤として製剤に含めることができる潜在的な非イオン性洗剤の一覧は、ラウロマクロゴール400、ポリオキシル40ステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50および60、グリセロールモノステアレート、ポリソルベート20、40、60、65および80、スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースである。これらの界面活性剤は、タンパク質または誘導体の製剤中に、単独で、または異なる比率の混合物として存在してよい。ペプチドの取込みを増強する可能性がある添加物は、例えば、脂肪酸であるオレイン酸、リノール酸およびリノレン酸である。
【0084】
III.方法
A.治療的投与
被験体における癌または感染症を、被験体に治療有効量の細胞浸透性抗DNA抗体を投与することによって処置するための方法が提供される。被験体における細胞の放射線感受性または化学感受性を、被験体に細胞浸透性抗DNA抗体を含有する医薬組成物を投与することによって増大させる方法も提供される。いくつかの実施形態では、該方法は、まず、癌または腫瘍などの新生物、またはウイルスなどの病原体の感染症と診断された被験体を選択するステップを伴う。
【0085】
医薬組成物は、局所的処置または全身的処置のいずれが望まれるかに応じて、および処置される領域に応じて、いくつものやり方で投与することができる。例えば、組成物は、静脈内に、筋肉内に、髄腔内に、腹腔内に、皮下に投与することができる。組成物は、直接腫瘍または組織内に、例えば、定位的に投与することができる。いくつかの実施形態では、組成物を脳または肝臓内に、注射によって、または外科的に埋め込んだシャントによって投与する。
【0086】
必要とされる正確な組成物の量は、被験体間で、被験体の種、年齢、体重および全身状態、処置されている障害の重症度、および組成物の投与形態に応じて変動する。したがって、あらゆる組成物について正確な量を特定することは不可能である。しかし、適量は、当業者が、本明細書における教示を考慮して、常套的な実験のみを用いて決定することができる。例えば、組成物を投与するための有効な投与量およびスケジュールを経験的に決定することができ、そのような決定を行うことは、当技術分野の技術の範囲内である。組成物を投与するための投与量の範囲は、標的細胞におけるDNA修復を損なわせるため、および/または標的細胞を放射線治療および/または化学療法に対して感作させるために十分なほど大きいものである。投与量は、望ましくない交差反応、アナフィラキシー反応などの有害な副作用が引き起こされるほど大きくすべきではない。一般に、投与量は、患者の年齢、状態、および性別、投与経路、レジメンに他の薬物が含まれるかどうか、ならびに処置される癌の種類、病期、および場所によって変動する。投与量は、任意の禁忌(counter−indication)の事象において個々の医師が調整することができる。投与量は変動してよく、1つまたは複数の投与用量で、毎日、1日または数日にわたって投与することができる。所定のクラスの医薬製品についての適切な投与量に関する手引きは文献に見いだすことができる。単独で使用される抗体の典型的な1日の投与量は、上記の因子に応じて、1日当たり体重1kg当たり約1μgから100mgまで、またはそれ以上にわたってよい。好ましい実施形態では、抗体は、約200mg/m
2〜約1000mg/m
2、より好ましくは、約200〜900mg/m
2、300〜800mg/m
2、400〜700mg/m
2、500〜600mg/m
2の量で存在する。いくつかの実施形態では、静脈内注射するための単位剤形中に単位投与量が存在する。いくつかの実施形態では、経口投与用の単位剤形中に単位投与量が存在する。いくつかの実施形態では、腫瘍内投与するための単位剤形中に単位投与量が存在する。
【0087】
抗DNA抗体により、癌の放射線感受性または化学感受性が増大する。有効用量の化学療法および/または放射線療法は、ある特定の癌に対して毒性である可能性がある。いくつかの実施形態では、抗DNA抗体により、癌を処置するために必要な抗新生物薬物または放射線レベルの必要有効用量が減少し、それにより、有効用量の毒性が低下する。例えば、最も一般的に使用されるドキソルビシンの投与量は、21〜28日ごとに40〜60mg/m
2IV、または21日に1回、60〜75mg/m
2IVである。患者のビリルビンレベルが1.2mg/dLから3mg/dLの間である場合、用量を50%低下させるべきである。患者のビリルビンレベルが3.1mg/dLから5.0mg/dLの間である場合、用量を75%低下させるべきである。多くの場合に心臓の支持療法に対して無反応性であるうっ血性心不全に至る重大な不可逆的心筋毒性については、ドキソルビシンの総投与量が450mg/m
2に近づいたときに発生する可能性がある。抗DNA抗体と併用する場合、ドキソルビシンの投与量を減少させて、有効性を失うことなく心筋毒性を減少させることができる。
【0088】
他の実施形態では、開示されている抗DNA抗体を通常の用量の薬物または放射線と一緒に使用して、有効性を増大させることができる。例えば、抗DNA抗体を使用して、薬物抵抗性または放射線抵抗性である癌に対する薬物または放射線療法を強化することができる。標準の方法を用いた放射線治療に対して抵抗性である癌としては、肉腫、リンパ腫、白血病、癌腫、芽細胞腫、および胚細胞性腫瘍が挙げられる。
【0089】
B.スクリーニングアッセイ
抗DNA抗体は、癌細胞におけるDNA修復を阻害し、放射線感受性および/または化学感受性を増大させることが示されているので、試料中の抗DNA抗体を検出する方法も提供される。例えば、試料は、SLEの被験体、またはSLEの疑いがある被験体由来の、血液、血清、または血漿などの抗体を含有する体液であってよい。試料は、生検材料などの組織試料または細胞試料であってよい。
【0090】
いくつかの実施形態では、該方法を用いて、SLEの被験体の診断または予後をモニターすることができる。例えば、細胞浸透性抗DNA抗体を検出することにより、SLEが再発しそうになっている患者を早期検出することができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、該方法を用いて、化学療法または放射線治療に対する被験体の感受性を予測することができる。これらの実施形態では、試料中の細胞浸透性抗DNA抗体のレベルは、化学療法または放射線治療に対する感受性のレベルに対応する可能性がある。好ましい実施形態では、化学療法は、DNA修復を阻害するまたはDNA損傷を引き起こすものである。
【0092】
該方法は、細胞を被験体由来の試料と接触させるステップと、細胞に対する試料の効果をモニタリングするステップとを含む。細胞は、通常は放射線抵抗性または化学療法抵抗性であるが、抗DNA抗体を用いた処理後には放射線感受性かつ/または化学感受性になることが示されている癌細胞株などの細胞株であることが好ましい。いくつかの実施形態では、細胞に照射し、該方法は、細胞の放射線感受性に対する試料の効果を評価するステップを伴う。他の実施形態では、細胞を抗新生物薬と接触させ、該方法は、化学感受性に対する試料の効果を評価するステップを伴う。さらに他の実施形態では、該方法は、細胞死に対する試料の直接の効果をモニタリングするステップを伴う。これらの実施形態の全てにおいて、放射線感受性、化学感受性、または細胞死が増大することにより、その試料が抗DNA抗体を含有することの指標となる。
【0093】
他の実施形態では、該方法は、抗DNA抗体を検出するために設計されたELISAまたはフローサイトメトリーなどの免疫測定を伴う。好ましい実施形態では、該方法は、細胞への浸透を検出するために細胞に基づく。
【0094】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによりさらに理解されよう。
【実施例】
【0095】
(実施例1)
in vitroにおいて、細胞浸透性抗DNA抗体(3E10)により細胞の放射線感受性が増強される
材料および方法
細胞株:MCF−7、HeLa、U251、およびU87細胞株をAmerican Type Culture Collection(ATCC)から入手した。PEO1およびPEO1 C4−2細胞を入手した(Sakai Wら、Cancer Res 69巻:6381頁(2009年))。10%ウシ胎児血清(FBS)を追加補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Mediatech(登録商標))中、37℃、5%CO
2で細胞を成長させ、維持した。
【0096】
3E10および3E10 scFvの作製および精製:3E10を、Weisbart RHら、J Immunol 144巻:2653頁(1990年)に記載されている通り、ハイブリドーマの上清から精製した。3E10 scFvをPichia pastorisにおいて発現させ、Hansen JEら、Brain Res 1088巻:187頁(2006年)に記載されている通り上清から精製した。タンパク質の濃度をBradfordアッセイによって決定した。
【0097】
in vitro細胞生存アッセイ:クローン原性アッセイおよびヨウ化プロピジウムに基づくアッセイをHansen JEら、Cancer Res 67巻:1769頁(2007年);Stachelek GCら、Cancer Res 70巻:409頁(2010年))に記載の通り実施した。
【0098】
細胞への照射:6ウェルプレートまたは12ウェルプレートで成長させた細胞に、X−RAD320 Biological Irradiator(Precision X−Ray)を製造者の説明書に従って使用して、X線を指定の線量で照射した。
【0099】
表1は、3E10 scFvにより、MCF−7細胞およびHeLa細胞がIRに対して感作されることが実証されているデータを示す。MCF−7細胞およびHeLa細胞に、対照緩衝液または3E10 scFvを含有する培地の存在下で照射し、クローン原性生存をコロニー形成アッセイによって決定した。各処理について、照射していない対照細胞と比較した生存の割合±平均値の標準誤差が示されている。3E10 scFvの用量は、MCF−7細胞に対しては0.25μMであり、HeLa細胞に対しては1.0μMであった。IR線量は、MCF−7細胞に対しては4Gyであり、HeLa細胞に対しては6Gyであった。
【0100】
結果
SLEは、宿主DNAに対して反応性である自己抗体(抗核抗体;ANA)の異常な産生を特徴とする自己免疫疾患である。これらの抗体のまれなサブセットは細胞に浸透することができるが、ほとんど全てが細胞毒性であり、臨床使用には不適切である(Alarcon−Segovia、D. Lupus 10巻:315頁(2001年))。しかし、SLEのマウスモデルから単離された、まれな1つの細胞浸透性抗DNA抗体、3E10は、培養物中の細胞に対する毒性またはin vivoにおけるマウスに対する毒性が見いだされておらず、SLEを処置するためのワクチンへの3E10の潜在的使用について評価する第I相ヒト臨床試験において安全であることさえ示されている(Spertini Fら、J Rheumatol 26巻:2602頁(1999年);Weisbart RHら、J Immunol 144巻:2653頁(1990年);Zack DJら、J Immunol 157巻:2082頁(1996年))。3E10は、ワクチンとしてはさらに追求されなかったが、その代わりに、分子送達ビヒクルとして調査された(Hansen JEら、Brain Res 1088巻:187頁(2006年);Hansen JEら、J Biol Chem 282巻:20790頁(2007年))。
【0101】
毒性プロファイルが良性であることに加えて、3E10はさらに、その細胞浸透の機構によって他の細胞浸透性ANAとは区別される。他の全てとは異なり、3E10による細胞への浸透は、そのFcドメインまたは定常ドメインに依存するのではなく、ヒト細胞上に遍在する受動拡散型ヌクレオシド輸送体によって媒介される機構において、3E10単鎖可変性断片(3E10 scFv)が単独で細胞に浸透し、核内に局在化することができる(Hansen JEら、J Biol Chem 282巻:20790頁(2007年);Lisi Sら Clin Exp Med 11巻:1頁(2011年))。
【0102】
完全な3E10抗体および3E10 scFvはどちらも、in vitroにおいて、およびin vivoにおいて、p53およびHsp70などのカーゴタンパク質を細胞内に送達することができることが証明されている(Hansen JEら、Brain Res 1088巻:187頁(2006年);Hansen JEら、Cancer Res 67巻:1769頁(2007年);Zhan Xら、Stroke 41巻:538頁(2010年))。3E10を、公知の放射線感作効果を有する連結した分子を癌細胞内に輸送して、放射線治療に対する腫瘍の応答を増強するために使用することが意図された。しかし、最初の実験において、3E10単独で細胞の放射線感受性が増強されることが発見された。これは表1および
図1Bに示されている。表1は、3E10 scFvにより、MCF−7細胞およびHeLa細胞がIRに対して感作されることが実証されているデータを示す。対照緩衝液または3E10 scFvを含有する培地の存在下で、MCF−7細胞およびHeLa細胞に照射し、クローン原性生存をコロニー形成アッセイによって決定した。各処理について、照射していない対照細胞と比較した生存の割合±平均値の標準誤差が示されている。3E10 scFvの用量は、MCF−7細胞に対しては0.25μMであり、HeLa細胞に対しては1.0μMであった。IR線量は、MCF−7細胞に対しては4Gyであり、HeLa細胞に対しては6Gyであった。
【0103】
図1Bは、電離放射線(IR)を用いて処理したU251ヒト神経膠腫細胞の生存に対する3E10 scFvの影響を測定するクローン原性生存アッセイを示す。U251細胞を、3E10 scFvまたは対照緩衝液を含有する成長培地と一緒に1時間インキュベートし、次いで細胞に、0Gyまたは4GyのIRを照射し、コロニー形成によってクローン原性について評価した。前の試験と一致して、3E10 scFvは、単独では、照射していないU251細胞に対して毒性ではなかった。しかし、3E10 scFvの存在下で照射したU251細胞は、IRに対する感受性がより高いことが見いだされた。3E10 scFvにより、0.25μMの低さの用量で、MCF−7ヒト乳癌細胞およびHeLaヒト子宮頸癌細胞の放射線感受性も増大した(表1)。細胞浸透性抗DNA抗体による放射線感作については以前に記載されていない。
【0104】
(実施例2)
in vitroにおいて、細胞浸透性抗DNA抗体(3E10)によりDNA損傷化学療法が強化される
材料および方法
放射線は、DNAを標的とするので、DNA損傷化学療法に対する癌細胞の応答に対する3E10の影響を試験した。詳細には、癌療法において一般に使用される2種の薬剤であるドキソルビシンとパクリタキセルに対する細胞の感受性に対する3E10の影響を比較した。ドキソルビシンは、DNA内にインターカレートし、鎖の切断を誘導するアントラサイクリン系抗生物質であり(Tewey KMら、Science 226巻:466頁(1984年))、一方、パクリタキセルは微小管機能を妨害するが(Jordan MAら、Proc Natl Acad Sci U S A 90巻:9552頁(1993年))、DNAには直接損傷を与えない。
【0105】
3E10 scFvにより、細胞がドキソルビシンに対しては感作されるが、パクリタキセルに対しては感作されないことが予測された。U87ヒト神経膠腫細胞を、対照緩衝液または10μMの3E10 scFvの存在下で漸増用量のドキソルビシン(0〜250nM)またはパクリタキセル(0〜25nM)で処理し、次いで、処理した1週間後にパーセント細胞死滅をヨウ化プロピジウム蛍光によって決定した。
【0106】
結果
予測通り、3E10 scFvにより、ドキソルビシンに対する細胞の感受性は有意に増強されたが、パクリタキセルに対する細胞の感受性は有意に増強されなかった(
図1Cおよび1D)。3E10 scFvにより、癌細胞をIRおよびドキソルビシンの両方に対して感作させることができるが、パクリタキセルに対しては感作させることができないことは、抗体がDNA損傷療法によって細胞の死滅を選択的に強化することを示している。
【0107】
(実施例3)
細胞浸透性抗DNA抗体(3E10)により、DNA修復が阻害される
3E10 scFvにより、細胞がDNA損傷剤に対して感作されることを確立すると、この効果の根底にある機構を調査した。IRおよびドキソルビシンのどちらによってもDNA鎖の切断が誘導され、したがって、3E10 scFvがDNA修復、特に鎖の切断修復に対する効果を有する可能性があることが仮定された。第1のステップとして、3E10のDNA結合特性を検査した。一本鎖DNA、平滑末端二重鎖DNA、異常発生に起因する内部の泡状構造(internal bubble)を有する二重鎖DNA、外に広がった一本鎖末端を有する二重鎖DNA、5’一本鎖テイルを有する二重鎖DNA、および3’テイルを有する二重鎖DNAを含めたいくつかの異なるDNA基質(
図2A)に対する3E10の結合親和性を、Xu Xら、EMBO J 28巻:568頁(2009年)に記載されている通り調製した放射性標識したDNA基質を、漸増濃度の3E10(0〜1μM)と一緒にインキュベートし、その後、電気泳動移動度シフト分析を行うことによって決定した。
【0108】
材料および方法
DNA結合試験:放射性標識したDNA基質(一本鎖DNA、平滑末端二重鎖DNA、異常発生に起因する内部の泡状構造を有する二重鎖DNA、外に広がった一本鎖末端を有する二重鎖DNA、5’一本鎖テイルを有する二重鎖DNA、および3’テイルを有する二重鎖DNA)を、Xu Xら、EMBO J 28巻:3005頁(2009年)に記載されている通り調製した。各基質を3E10(0〜10μM)と一緒に、4℃で30分インキュベートし、その後、Xu Xら、EMBO J 28巻:3005頁(2009年)に記載されている通り電気泳動移動度シフト分析を行った。ImageJ;National Institutes of Healthを使用して、結合したオリゴヌクレオチドのパーセントを3E10の濃度に対してプロットすることによってKdを算出した。
【0109】
DNA修復アッセイ:一本鎖切断/塩基除去修復(BER)アッセイおよびRAD51媒介性鎖交換反応アッセイを、それぞれ、Stachelek GCら、Cancer Res 70巻:409頁(2010年);およびDray Eら、Proc Natl Acad Sci U S A 108巻:3560頁(2011年)に記載されている通り実施した。
【0110】
顕微鏡検査:免疫組織学的検査およびγH2AX免疫蛍光法を以前に記載されている通り実施した(Hansen JEら、J Biol Chem 282巻:20790頁(2007年);Stachelek GCら、Cancer Res 70巻:409頁(2010年))。
【0111】
結果
結合曲線において、二重鎖基質および泡状基質と比較して、一本鎖基質、外に広がったアーム基質、および5’/3’テイル基質で左側へのシフトが観察され、これにより、3E10が、遊離の一本鎖テイルを有する基質とより大きな親和性で結合することが示唆される(
図2C〜2H)。結果を組み合わせ、プロットして、3E10の、遊離の一本鎖テイルを有する基質または遊離の一本鎖テイルを有さない基質との結合を直接比較した。概して、3E10は、遊離の一本鎖テイルを有する基質には0.2μMのK
dで結合し、遊離の一本鎖テイルを有さない基質には0.4μMのK
dで結合した(
図2B)。これらの結果により、3E10は、細胞に浸透し、核に局在化すると、一本鎖テイルを有する二重鎖DNAからなるDNA修復または複製の中間体に優先的に結合する可能性があることが示唆される。
【0112】
次に、特異的なDNA修復経路に対する3E10の影響を検査した。これはin vitro一本鎖切断/塩基除去修復(BER)アッセイ(Stachelek GCら、Cancer Res 70巻:409頁(2010年))から開始した。BERでは、損傷を受けた塩基がグリコシラーゼによって切り取られ、その後、ホスホジエステル骨格がエンドヌクレアーゼによって切断され、一本鎖切断を伴う基質(生成物n)がもたらされる。DNAポリメラーゼβのdRPリアーゼ活性によりdRP基が除去され、そのポリメラーゼ活性により、欠けているヌクレオチドが挿入され、正しい塩基対合が回復する(生成物n+1)。この後、残りの鎖の切断がリガーゼによってライゲーションされ、ホスホジエステル骨格の完全性が回復し、それにより、n+1生成物が二重鎖コンフォメーションの全長生成物に変換される。したがって、BERの効率は、n種およびn+1種のレベルを、全基質および生成物DNAの百分率と比較して定量化しながら時間をわたって追跡することによって決定される。BERに対する3E10の影響を測定するために、放射性標識したDNA基質(ウラシルDNAグリコシラーゼ、APエンドヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼβ、およびリガーゼと一緒にインキュベートした)におけるU:Gミスマッチの修復を、対照緩衝液、対照抗チューブリン抗体、または3E10の存在下で試験した。3E10により、n+1種の最終的なライゲーション生成物への変換が緩衝液対照と比較して有意に遅延し、これにより、3E10により一本鎖切断修復経路のライゲーションステップが損なわれることが示唆される(
図2I)。抗チューブリン抗体には、対照緩衝液と比較して、BERに対する効果がなかった。
【0113】
DNA修復に対する3E10の影響をさらに探るために、IR誘導性DNA二本鎖切断(DSB)および複製フォークの失速に伴うDSBを含めたDSBを修復するための重要な経路である相同性依存性修復(HDR)に対する3E10の効果を試験した(Arnaudeau Cら、J Mol Biol 307巻:1235頁(2001年);Li Xら、Cell Res 18巻:99頁(2008年))。HDRは、一本鎖DNAに結合して、鎖の侵入を媒介する核フィラメントを形成するRAD51リコンビナーゼに依存する(Sung Pら、Science 265巻:1241頁(1994年);Sung Pら、J Biol Chem 278巻:42729頁(2003年);Sung Pら、Cell 82巻:453頁(1995年))。3E10は遊離の一本鎖テイルに優先的に結合するので、この抗体により、RAD51に媒介される鎖の侵入および交換が損なわれる可能性があると仮定された。この仮説を、in vitro鎖交換反応アッセイ(Dray Eら、Proc Natl Acad Sci U S A 108巻:3560頁(2011年))において試験し、その概略図が
図3Aに示されている。精製ヒトRAD51(hRAD51)を、標識していない150bpの一本鎖DNA基質と一緒に5分間インキュベートして、鎖の侵入が可能なhRAD51−一本鎖DNA核タンパク質を形成させた。次に、3E10(0〜35μM)または対照抗His
6IgG抗体を反応物に加え、5分間インキュベートしておいた。次に、放射性標識した鎖を1つ有する平滑末端二重鎖コンフォメーションの40bpのDNA基質を加え、hRAD51−一本鎖DNA核タンパク質フィラメントと一緒に、抗体の存在下または不在下で30分間インキュベートした(概略図が
図3Aに示されている)。次いで、鎖交換反応の程度を電気泳動によって可視化し、定量化した。3E10では鎖交換反応が用量依存的に阻害されたが(
図3B)、対照抗His
6IgG抗体には鎖交換反応に対する影響はなかった。3E10により、ATP加水分解に欠陥があり、したがって野生型RAD51よりもさらに強力な鎖交換反応のメディエーターであるRAD51の改変体hRAD51K133Rによって媒介される鎖交換反応を抑制することもできた(Chi Pら、DNA Repair(Amst)5巻:381頁(2006年))(
図3C)。これらのデータにより、3E10により、RAD51媒介性鎖交換反応が抑制されることによってHDRが阻害されることが実証されている。
【0114】
in vitroにおいて3E10によりHDRが阻害されることが見いだされたので、3E10を用いて処理した細胞ではDNA損傷療法によって誘導されるDNA DSBの修復が遅延すると仮定された。この仮説を試験するために、U251神経膠腫細胞を、対照緩衝液または3E10 scFv(10μM)で処理し、2GyのIRを照射した。24時間後に、細胞当たりに存続しているDNA DSBの数を、リン酸化されたヒストン構成成分であるγH2AXの巣(foci)を免疫蛍光法によって可視化することによって定量化した。3E10 scFvの存在下で照射した細胞では、24時間の時点で細胞当たり平均10.5±1のγH2AX巣が示され、それと比較して、対照緩衝液中で照射した細胞では6.8±1であった(p<0.01)。これらのデータにより、3E10 scFvを用いて処理した細胞ではDNA DSBの消散が遅延することが実証されており、これは、3E10によってDNA修復が阻害されることが実証されているin vitroでの結果と一致する。
【0115】
(実施例4)
細胞浸透性抗DNA抗体(3E10)は、DNA修復が欠損した癌細胞に対して合成致死性である
材料および方法
BRCA2変異によってHDRに欠損を有する癌細胞(Moynahan MEら、Mol Cell 7巻:263頁(2001年))は、一本鎖切断修復の阻害によって非常に死滅しやすい(Bryant HEら、Nature 434巻:913頁(2005年);Feng Zら、Proc Natl Acad Sci U S A 108巻:686頁(2011年);Kaelin, Jr. WGら、Nat Rev Cancer 5巻:689頁(2005年))。そのような阻害は、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ1(PARP−1)またはDNAポリメラーゼβの阻害剤を用いて処理することによって達成することができ、これは、合成致死性と称される現象である(Stachelek GCら、Cancer Res 70巻:409頁(2010年);Bryant HEら、Nature 434巻:913頁(2005年);Kaelin, Jr. WGら、Nat Rev Cancer 5巻:689頁(2005年);Farmer Hら、Nature 434巻:917頁(2005年))。さらに、BRCA2欠損細胞は、BRCA2欠損癌細胞においてRAD52をノックダウンすることによる合成致死効果によって示されている通り、HDRのさらなる阻害に対する感受性が高いことが示されている(Feng Zら、Proc Natl Acad Sci U S A 108巻:686頁(2011年))。3E10により、一本鎖切断修復およびHDRがどちらも阻害されるという観察に基づいて、3E10はBRCA2欠損癌細胞に対して合成致死性であると仮定された。この仮説を試験するために、BRCA2欠損(PEO1)ヒト卵巣癌細胞およびBRCA2非欠損(PEO1 C4−2)ヒト卵巣癌細胞の対応した対に対する3E10 scFvまたは完全な3E10抗体を用いた処理の影響を評価した(Sakai Wら、Cancer Res 69巻:6381頁(2009年))。BRCA2非欠損PEO4ヒト卵巣癌細胞およびBRCA2欠損CAPAN1/neoヒト膵癌細胞に対する3E10 scFvの影響についても試験した。
【0116】
結果
3E10 scFvでの処理により、BRCA2欠損PEO1細胞のクローン原性生存が低下した(p=0.03)が、BRCA2非欠損PEO1 C4−2細胞の生存には不利な影響はなかった(
図4A〜4B)。同様に、細胞生存能力アッセイにおいて、3E10 scFvはBRCA2欠損PEO1細胞に対しては毒性であったが、BRCA2非欠損PEO4細胞に対しては毒性ではなかった(
図4C)。同様に、3E10 scFvは単独でBRCA2欠損ヒト膵癌細胞(CAPAN1/neo)に対して毒性であった(
図4D)。完全な3E10抗体は、BRCA2欠損PEO1細胞に対して同様に選択的に、用量依存的に毒性であった(
図4E)。これらのデータにより、DNA修復が欠損した癌細胞に対する細胞浸透性抗DNA抗体の合成致死効果についての最初の証拠がもたらされ、DNA修復の欠損を伴う悪性疾患に対するターゲティング癌療法としての3E10の潜在的な有用性が実証されている。重要なことに、BRCA2欠損癌細胞に対する3E10の合成致死効果は、DNA鎖の切断の修復に対する3E10の影響が示されている上記の機構的実験と一致する。
【0117】
さらに、低酸素状態の癌細胞は、相同性=指向性修復能(capacity)が低下していることが示されており(Bindraら、Mol. Cell. Biol. 24巻(19号):8504〜8518頁(2004年))、したがって、3E10および同様の抗体は、低酸素の状態である癌細胞に対して合成致死性であることが予測される。
【0118】
(実施例5)
細胞浸透性抗DNA抗体である3E10により、DNA修復欠損癌細胞がDNA損傷療法に対して極めて大きくかつ選択的に感作される
材料および方法
3E10が、DNA損傷剤とカップリングした場合にBRCA2欠損癌細胞に対するさらに大きな影響を有するかどうかを決定するために、BRCA2欠損PEO1卵巣癌細胞およびBRCA2非欠損PEO1 C4−2卵巣癌細胞を、対照緩衝液、10μMの3E10、3nMのドキソルビシン、または10μMの3E10+3nMのドキソルビシンで処理した。次いで、処理の3日後に、パーセント細胞死をヨウ化プロピジウム蛍光によって評価した。細胞に対するドキソルビシン単独での効果を最小限にするために低用量のドキソルビシン(3nM)を選択し、処理のおよそ7日後に明らかであるBRCA2欠損細胞に対する3E10単独による合成致死性の交絡効果を最小限にするために、処理の3日後にパーセント細胞死を測定することに決定した。
【0119】
結果
予測通り、低用量のドキソルビシンは、単独ではBRCA2非欠損細胞またはBRCA2欠損細胞に対して有意に毒性ではなかった。3E10をドキソルビシンに添加することによるBRCA2非欠損細胞に対する影響は最小であった。しかし、3E10とドキソルビシンの組合せは、BRCA2欠損細胞に対しては高度に細胞毒性であった(65%±7の細胞死、p<0.001)(
図4F〜4G)。
【0120】
(実施例6)
in vivoにおいて、3E10によりDNA損傷化学療法が強化される
次に、DNA損傷療法への腫瘍細胞の感受性に対する3E10の影響がマウス腫瘍モデルにおいてin vivoで保存されるかどうかを決定した。
【0121】
材料および方法
完全な3E10抗体は可変性断片と比較して循環中での半減期が長いことが予測されるので、in vivo試験のためにこれを使用した。SCIDマウスにおいて、皮下注射によってU87神経膠腫瘍を生成した。腫瘍が形成され、安定した成長相になったら、マウスに、対照緩衝液、3E10抗体単独(PBS 0.5mL中0.8mg、10μM)、ドキソルビシン単独(80μg/kg)、または3E10とドキソルビシンの両方の腹腔内注射によって処置した。各処置群はマウス4匹で構成された。次いで、処置の影響を、注射の3日後に腫瘍の成長を測定することによって評価した。この腫瘍測定の時点の選択は、ドキソルビシンへの癌細胞の感受性に対する抗体の影響を処置の3日後に検出することができることが実証されたin vitro試験に基づいた。対照群において急速に達成された、腫瘍が400mm
3の体積に到達した際の動物の屠殺に関する所定の制度上の要件のために、3日後の追加的な腫瘍測定値を得ることはできなかった。
【0122】
結果
対照緩衝液で処置したマウスにおける腫瘍は、体積が54%±23増大した。3E10またはドキソルビシン単独での処置では、腫瘍の成長に有意な影響はなく、腫瘍体積はそれぞれ48%±13および61%±10増大した。対照的に、3E10とドキソルビシンの組合せで処置したマウスでは、腫瘍の成長が有意に低下し、腫瘍のサイズの増大は、9%±7のみであった(p=0.004、pは、ドキソルビシン+3E10で処置したマウスとドキソルビシン単独で処置したマウスとで絶対的な腫瘍体積を比較することによって算出した)。これらのデータにより、in vivoにおいて、3E10により腫瘍がドキソルビシンに対して感作されることが実証されている(
図5)。
【0123】
(実施例7)
in vivoにおいて、細胞浸透性抗DNA抗体(3E10)によりヒト神経膠腫異種移植片が電離放射線に対して感作される
材料および方法
ヒト神経膠腫異種移植片を、ヌードマウスの側腹部にU87細胞を皮下注射することによって生成した。処置群は、対照(n=8);抗体(n=8)、8Gy(電離放射線)(n=8)、および8Gy+抗体(n=7;1匹の動物が麻酔で失われた)であった。移植の25日後に、マウスの腫瘍はおよそ100mm
3の平均サイズに成長した。26日目に、マウスを、対照緩衝液(PBS;「対照」群および「8Gy」群)または3E10(PBS中1mg;「抗体」群および「8Gy+抗体」群)の腹腔内注射で処置した。次いで、24時間後に、各群に同じ試薬の第2の注射を受けさせた。2回目の注射の2時間後に、「8Gy」群および「8Gy+抗体」群の腫瘍に8Gyで照射した。次いで、各群の腫瘍体積を追跡し、腫瘍体積が1000mm
3に到達したらマウスを屠殺した。腫瘍の移植後の日数に対する腫瘍の成長の測定値が
図6Aに示されている。
【0124】
結果
3E10単独(白抜きのひし形)では、対照緩衝液単独(黒塗りのひし形)と比較して腫瘍の成長に対して有意な影響はなかった。しかし、3E10と8Gyの組合せ(白抜きの三角形)により、8Gy単独(黒塗りの三角形)よりも大きな程度で腫瘍の成長が抑制された。
【0125】
図6Bには、各群における無進行生存(progression−free survival)のカプラン・マイヤープロットが示されている。無進行生存は、ベースラインのサイズと比較してサイズが3倍以上増大していない腫瘍を伴う生存と定義される。ベースラインのサイズは、抗体処置する1日前の腫瘍サイズと定義され、これは、パネルAでは25日目、パネルBでは0日目と示される。腫瘍三倍化時間(腫瘍の体積がベースラインの3倍に増大するために必要な時間)は、8Gyで処置した腫瘍では9.5±0.5日間であり、それと比較して、8Gy+3E10で処置した腫瘍では13.7±1.8日であった(p=0.04)。しかし、3E10単独では、対照緩衝液単独と比較して、U87腫瘍に対する影響はなく、腫瘍三倍化時間は対照腫瘍では6.8±0.7日であったのに対し、3E10単独で処置した腫瘍では6.5±0.3日であった(p=0.67)。これらのデータにより、in vivoにおいて、3E10によりヒト神経膠腫異種移植片が電離放射線に対して感作されることが実証されている。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。